市販薬ネット販売・コンビニ受け渡し解禁へ…改正薬機法が問う「利便性と安全」

●この記事のポイント
2025年成立の改正薬機法により、今年5月から市販薬のコンビニ受け取りや要指導医薬品のネット販売が解禁される。OTC市場はEC化率約7%と低水準で成長余地が大きい一方、若年層の市販薬オーバードーズ増加(10代患者の6割超)が課題となる。利便性拡大と安全管理の両立が制度の成否を左右する。

 2025年5月14日、日本の医療・医薬品流通の歴史に大きな転換点となる改正薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)が国会で可決・成立した。

 今回の改正は、風邪薬や鎮痛剤をコンビニで受け取り、これまで対面販売が必須だった要指導医薬品もネットで購入できる時代の幕開けを意味する。利便性の飛躍的向上という「光」の一方で、深刻化する若者のオーバードーズ(薬物過剰摂取)問題や、デジタル化する市場をいかに適正に管理するかという「影」の課題も浮き彫りになっている。

 データに基づき、今回の法改正が日本のセルフメディケーション市場、そして社会にどのようなインパクトを与えるのかを多角的に分析する。

●目次

改正薬機法の「4本柱」とコンシューマーへの影響

 2025年5月21日に公布された改正薬機法は、大きく分けて以下の4つの柱で構成されている。

 1.医薬品等の品質・安全性確保の強化
 2.医療用医薬品の安定供給体制の強化
 3.創薬環境の整備
 4.薬局機能の強化と医薬品の適正提供

 施行は2025年11月20日から段階的に始まり、消費者にとって最も関心が高い「コンビニ等での受け渡し」や「要指導医薬品のネット販売」は、2026年5月1日を目標に運用が開始される見込みだ。

コンビニ等での市販薬受け渡し解禁

 これまで市販薬(一般用医薬品)の販売は、薬剤師または登録販売者が常駐する店舗に限定されていた。改正後は、薬局がコンビニやガソリンスタンド、公共施設などを「受取場所」として委託することが可能になる。

 ビデオ通話等を通じた薬剤師のオンライン説明を条件に、消費者は最寄りの拠点で薬を受け取れるようになる。これは、夜間の急な発熱時や、薬局の少ない過疎地における「医薬品アクセス」を劇的に改善する一手となる。

要指導医薬品のネット販売解禁

 スイッチOTC(医療用から市販薬に転換されたばかりの薬)など、副作用のリスクから対面販売が義務付けられていた「要指導医薬品」が、オンライン服薬指導を経てネットで購入可能になる。

 ただし、緊急避妊薬(アフターピル)など、適正使用のために特に厳格な確認が必要な品目は「特定要指導医薬品」として引き続き対面販売が求められる方針だ。

「今回の法改正は、長年議論されてきた『アクセスの利便性』と『専門家によるチェック』の妥協点を、テクノロジー(ビデオ通話)によって解決しようとする試みです。特に要指導医薬品のネット解禁は、忙しい現役世代のセルフメディケーションを後押しするでしょう。しかし、画面越しにどこまで患者の表情や体調、既往歴を正確に把握できるかという、薬剤師のコミュニケーション能力の『質』がこれまで以上に問われることになります」(医療アナリスト・三好泰一氏)

拡大する市販薬EC市場…2030年に向けた成長の余白

 今回の規制緩和は、足踏みを続けてきた日本の医薬品EC市場にとって強力な起爆剤となる可能性がある。

富士経済の調査(2024年7月公表)によると、2023年の国内市販薬EC市場(小売ベース)は904億円。市販薬全体に占めるEC化率はわずか6.9%にとどまっている。2024年の市場規模は1,026億円に拡大したと推計されるが、他業界のEC化率と比較すれば依然として低い水準だ。

EC化率10%への道筋

 矢野経済研究所および富士経済の予測では、2030年に向けてEC化率は10%前後に達し、市場規模は1,257億円(2024年比22.5%増)にまで成長すると見込まれている。

 現在の売れ筋は「実店舗では買いにくい(発毛剤など)」「かさばる(ドリンク剤)」「リピート購入が多い(ビタミン剤)」といった商品だが、今後は利便性の向上に伴い、風邪薬や胃腸薬といった「常備薬」のECシフトが加速するとみられる。

「日本人は薬好き」という幻想と、セルフメディケーションの遅れ

 日本は世界でも有数の「薬剤費大国」だ。OECD(2023年)の統計によれば、日本の薬剤費は米国に次ぐ世界2位に位置する。しかし、その内訳は欧米とは大きく異なる。

 日本では「国民皆保険制度」により安価に医療機関を受診できるため、多くの国民が「病院で薬を処方してもらう(処方薬)」ことに依存している。一方、自ら判断して薬局で薬を買う「セルフメディケーション(市販薬)」の比率は、米国や英国、ドイツ等に比べて極めて低い。

 例えば、解熱鎮痛成分のイブプロフェンの1日最大投与量は、日本の市販薬では600mgだが、欧米では800〜1,200mgが標準的だ。

「日本人は薬好き」と言われるが、実態は「病院へ行って安く強い薬をもらうのが好き」なのであり、自己責任で市販薬を使いこなす文化においては、むしろ後進国と言わざるを得ない。今回の法改正は、この構造的な「処方薬依存」から「セルフメディケーション」へのシフトを促す狙いも含まれている。

深刻化するオーバードーズ…利便性の裏にある「影」

 規制緩和の議論と並行して、看過できない社会問題となっているのが若年層によるオーバードーズ(OD)だ。

 国立精神・神経医療研究センターの調査によれば、精神科で治療を受ける10代患者のうち、主たる使用薬物が「市販薬」である割合は、2014年の0%から2022年には65.2%へと急増している。大麻(12.3%)や覚醒剤(3.6%)を遥かに凌駕し、市販薬が「最も身近なドラッグ」と化している現状がある。

【強化される安全規制】

 今回の改正では、こうした背景を受け、安全規制も大幅に強化された。

・指定濫用防止医薬品への改称:咳止めや風邪薬など乱用リスクのある6成分(デキストロメトルファン、メチルエフェドリン等)を含む製品を「指定濫用防止医薬品」と呼び、販売時の情報提供を法律上の義務とした。

・若年者への販売制限:一定年齢未満の若者に対し、小容量1箱のみの販売に制限し、対面またはビデオ通話での確認を必須とした。

・零売(れいばい)の原則禁止:処方箋なしで医療用医薬品を小分け販売する「零売薬局」が、原則として禁止された。

「法的な販売制限は一定の抑止力になりますが、ネット販売が普及する中で『複数サイトでの買い回り』をどう防ぐかが課題です。オーバードーズの背景には、家庭内不和や孤独といった精神的な痛みがあります。薬局の窓口やオンライン服薬指導の場を、単なる『販売の場』ではなく、若者の異変に気づく『福祉の窓口(ゲートキーパー)』として機能させる体制構築が急務です」(同)

ステークホルダーへの影響と展望

・ドラッグストア・薬局
 調剤業務の一部外部委託が認められることで、薬剤師が「対人業務(服薬指導、健康相談)」に専念できる環境が整う。一方で、コンビニ等での受け渡しに対応するためのシステム投資や、質の高いオンライン服薬指導体制の構築が、生き残りの条件となるだろう。

・コンビニ・小売業
 薬局との提携により、新たな収益源を確保できる。ただし、店舗スタッフが薬の管理に関与する範囲や、遠隔対応デバイスの設置など、運用の細部については薬局側との緊密な連携が求められる。

・製薬メーカー
 要指導医薬品のネット解禁により、高機能なスイッチOTCの需要拡大が見込まれる。特に「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する層に向けたマーケティングが重要になる。

2030年に向けた「デジタルと人」の融合

 今回の改正薬機法は、単なる「規制緩和」ではない。それは、日本が長年抱えてきた「過度な受診・処方薬依存」から、自分の健康は自分で守る「自律的なセルフメディケーション」への移行を目指す社会実験でもある。

 市場規模1,200億円超という成長予測を達成しつつ、オーバードーズという負の側面を抑え込むためには、テクノロジーの活用と「人の介在」のバランスが鍵を握る。ネット販売やコンビニ受け渡しといった「デジタルな仕組み」の中に、薬剤師や登録販売者による「アナログな洞察」をいかに組み込むことができるか。

 2026年の完全施行に向け、法制度の実効性と、各事業者のコンプライアンス(法令遵守)意識が厳しく問われることになるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=三好泰一/医療アナリスト)

市販薬ネット販売・コンビニ受け渡し解禁へ…改正薬機法が問う「利便性と安全」

●この記事のポイント
2025年成立の改正薬機法により、今年5月から市販薬のコンビニ受け取りや要指導医薬品のネット販売が解禁される。OTC市場はEC化率約7%と低水準で成長余地が大きい一方、若年層の市販薬オーバードーズ増加(10代患者の6割超)が課題となる。利便性拡大と安全管理の両立が制度の成否を左右する。

 2025年5月14日、日本の医療・医薬品流通の歴史に大きな転換点となる改正薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)が国会で可決・成立した。

 今回の改正は、風邪薬や鎮痛剤をコンビニで受け取り、これまで対面販売が必須だった要指導医薬品もネットで購入できる時代の幕開けを意味する。利便性の飛躍的向上という「光」の一方で、深刻化する若者のオーバードーズ(薬物過剰摂取)問題や、デジタル化する市場をいかに適正に管理するかという「影」の課題も浮き彫りになっている。

 データに基づき、今回の法改正が日本のセルフメディケーション市場、そして社会にどのようなインパクトを与えるのかを多角的に分析する。

●目次

改正薬機法の「4本柱」とコンシューマーへの影響

 2025年5月21日に公布された改正薬機法は、大きく分けて以下の4つの柱で構成されている。

 1.医薬品等の品質・安全性確保の強化
 2.医療用医薬品の安定供給体制の強化
 3.創薬環境の整備
 4.薬局機能の強化と医薬品の適正提供

 施行は2025年11月20日から段階的に始まり、消費者にとって最も関心が高い「コンビニ等での受け渡し」や「要指導医薬品のネット販売」は、2026年5月1日を目標に運用が開始される見込みだ。

コンビニ等での市販薬受け渡し解禁

 これまで市販薬(一般用医薬品)の販売は、薬剤師または登録販売者が常駐する店舗に限定されていた。改正後は、薬局がコンビニやガソリンスタンド、公共施設などを「受取場所」として委託することが可能になる。

 ビデオ通話等を通じた薬剤師のオンライン説明を条件に、消費者は最寄りの拠点で薬を受け取れるようになる。これは、夜間の急な発熱時や、薬局の少ない過疎地における「医薬品アクセス」を劇的に改善する一手となる。

要指導医薬品のネット販売解禁

 スイッチOTC(医療用から市販薬に転換されたばかりの薬)など、副作用のリスクから対面販売が義務付けられていた「要指導医薬品」が、オンライン服薬指導を経てネットで購入可能になる。

 ただし、緊急避妊薬(アフターピル)など、適正使用のために特に厳格な確認が必要な品目は「特定要指導医薬品」として引き続き対面販売が求められる方針だ。

「今回の法改正は、長年議論されてきた『アクセスの利便性』と『専門家によるチェック』の妥協点を、テクノロジー(ビデオ通話)によって解決しようとする試みです。特に要指導医薬品のネット解禁は、忙しい現役世代のセルフメディケーションを後押しするでしょう。しかし、画面越しにどこまで患者の表情や体調、既往歴を正確に把握できるかという、薬剤師のコミュニケーション能力の『質』がこれまで以上に問われることになります」(医療アナリスト・三好泰一氏)

拡大する市販薬EC市場…2030年に向けた成長の余白

 今回の規制緩和は、足踏みを続けてきた日本の医薬品EC市場にとって強力な起爆剤となる可能性がある。

富士経済の調査(2024年7月公表)によると、2023年の国内市販薬EC市場(小売ベース)は904億円。市販薬全体に占めるEC化率はわずか6.9%にとどまっている。2024年の市場規模は1,026億円に拡大したと推計されるが、他業界のEC化率と比較すれば依然として低い水準だ。

EC化率10%への道筋

 矢野経済研究所および富士経済の予測では、2030年に向けてEC化率は10%前後に達し、市場規模は1,257億円(2024年比22.5%増)にまで成長すると見込まれている。

 現在の売れ筋は「実店舗では買いにくい(発毛剤など)」「かさばる(ドリンク剤)」「リピート購入が多い(ビタミン剤)」といった商品だが、今後は利便性の向上に伴い、風邪薬や胃腸薬といった「常備薬」のECシフトが加速するとみられる。

「日本人は薬好き」という幻想と、セルフメディケーションの遅れ

 日本は世界でも有数の「薬剤費大国」だ。OECD(2023年)の統計によれば、日本の薬剤費は米国に次ぐ世界2位に位置する。しかし、その内訳は欧米とは大きく異なる。

 日本では「国民皆保険制度」により安価に医療機関を受診できるため、多くの国民が「病院で薬を処方してもらう(処方薬)」ことに依存している。一方、自ら判断して薬局で薬を買う「セルフメディケーション(市販薬)」の比率は、米国や英国、ドイツ等に比べて極めて低い。

 例えば、解熱鎮痛成分のイブプロフェンの1日最大投与量は、日本の市販薬では600mgだが、欧米では800〜1,200mgが標準的だ。

「日本人は薬好き」と言われるが、実態は「病院へ行って安く強い薬をもらうのが好き」なのであり、自己責任で市販薬を使いこなす文化においては、むしろ後進国と言わざるを得ない。今回の法改正は、この構造的な「処方薬依存」から「セルフメディケーション」へのシフトを促す狙いも含まれている。

深刻化するオーバードーズ…利便性の裏にある「影」

 規制緩和の議論と並行して、看過できない社会問題となっているのが若年層によるオーバードーズ(OD)だ。

 国立精神・神経医療研究センターの調査によれば、精神科で治療を受ける10代患者のうち、主たる使用薬物が「市販薬」である割合は、2014年の0%から2022年には65.2%へと急増している。大麻(12.3%)や覚醒剤(3.6%)を遥かに凌駕し、市販薬が「最も身近なドラッグ」と化している現状がある。

【強化される安全規制】

 今回の改正では、こうした背景を受け、安全規制も大幅に強化された。

・指定濫用防止医薬品への改称:咳止めや風邪薬など乱用リスクのある6成分(デキストロメトルファン、メチルエフェドリン等)を含む製品を「指定濫用防止医薬品」と呼び、販売時の情報提供を法律上の義務とした。

・若年者への販売制限:一定年齢未満の若者に対し、小容量1箱のみの販売に制限し、対面またはビデオ通話での確認を必須とした。

・零売(れいばい)の原則禁止:処方箋なしで医療用医薬品を小分け販売する「零売薬局」が、原則として禁止された。

「法的な販売制限は一定の抑止力になりますが、ネット販売が普及する中で『複数サイトでの買い回り』をどう防ぐかが課題です。オーバードーズの背景には、家庭内不和や孤独といった精神的な痛みがあります。薬局の窓口やオンライン服薬指導の場を、単なる『販売の場』ではなく、若者の異変に気づく『福祉の窓口(ゲートキーパー)』として機能させる体制構築が急務です」(同)

ステークホルダーへの影響と展望

・ドラッグストア・薬局
 調剤業務の一部外部委託が認められることで、薬剤師が「対人業務(服薬指導、健康相談)」に専念できる環境が整う。一方で、コンビニ等での受け渡しに対応するためのシステム投資や、質の高いオンライン服薬指導体制の構築が、生き残りの条件となるだろう。

・コンビニ・小売業
 薬局との提携により、新たな収益源を確保できる。ただし、店舗スタッフが薬の管理に関与する範囲や、遠隔対応デバイスの設置など、運用の細部については薬局側との緊密な連携が求められる。

・製薬メーカー
 要指導医薬品のネット解禁により、高機能なスイッチOTCの需要拡大が見込まれる。特に「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する層に向けたマーケティングが重要になる。

2030年に向けた「デジタルと人」の融合

 今回の改正薬機法は、単なる「規制緩和」ではない。それは、日本が長年抱えてきた「過度な受診・処方薬依存」から、自分の健康は自分で守る「自律的なセルフメディケーション」への移行を目指す社会実験でもある。

 市場規模1,200億円超という成長予測を達成しつつ、オーバードーズという負の側面を抑え込むためには、テクノロジーの活用と「人の介在」のバランスが鍵を握る。ネット販売やコンビニ受け渡しといった「デジタルな仕組み」の中に、薬剤師や登録販売者による「アナログな洞察」をいかに組み込むことができるか。

 2026年の完全施行に向け、法制度の実効性と、各事業者のコンプライアンス(法令遵守)意識が厳しく問われることになるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=三好泰一/医療アナリスト)

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