「新入社員にAIを使わせてもいい?」→専門家の答えが意外すぎた – AIを使って考えるための全技術

仕事でAIを使うことが当たり前になった今、上司たちの悩みはむしろ増えています。「新入社員にAIを使わせてもいいのか?」「AIに頼りすぎて思考力が育たないのでは?」「どこまで任せていいのか判断できない」……。一方で、AIを使いこなす若手の方が、生産性が高いのも事実です。 では、AI時代の新入社員はどう育てればいいのでしょうか。そこで、AIを使った思考術をまとめ、全680ページ、2700円のいわゆる“鈍器本”ながら話題となっている書籍『AIを使って考えるための全技術』著者の石井力重さんと、監修者の加藤昌治さんに、「若手社員のAI活用の是非」についてお聞きしました。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

どうしたら破壊的イノベーションを起こせるか? – 増補改訂版 起業の科学

スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。

一流リーダーが絶対に使わない言葉・ワースト1 – 戦略のデザイン

「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。

リーダーが「部下からの信頼を一発で失う」行動・ワースト1 – 3000件の職場の悩みを解決したプロが教える リーダーのふるまい大全

優秀なマネージャーは、「少しだけ演技」する。あえて「演じること」を選べば、「部下に信頼される」「会社に評価される」「自分も疲れない」職場になる。そんなリーダーの実践的なふるまい方をまとめたのが、『3000件の職場の悩みを解決したプロが教える リーダーのふるまい大全』(本田淳也著)である。本稿では、同書の内容を一部抜粋して紹介する。

人生がうまくいかない人の特徴・ワースト1 – 人生アップデート大全

やりたいことはとくにない。毎日ただ仕事・家事をしているだけであっという間に1日、1週間、1カ月が過ぎている。「私の人生、このままでいいのか?」――そんなふうにふと、人生を立ち止まりたくなった人におすすめの1冊があります。書籍『人生アップデート大全――停滞した自分を変える66の習慣』(池田貴将著)は、「世間から見た成功」ではなく「自分にとっての成功」を軸に、1度きりの人生を心から満足のいくものにするための1冊です。本書の発売を記念して、本書より一部抜粋・再編集して紹介します。

バーガーキング、2度撤退から既存店46カ月連続増収…業界の常識を壊しながら成長

●この記事のポイント
バーガーキングが2019年の体制刷新後、既存店売上高46カ月連続増収・2025年度売上575億円(前年比53%増)を達成した背景を分析。2度の日本撤退の真因、マクドナルドの動きを逆用するPRドリブン型マーケティング、平均3年未満の投資回収モデルによるFC拡大戦略、外国籍人材3分の1という多様な組織論まで、逆転劇の全貌を構造的に解説する。

 ハンバーガー業界に、異変が起きている。かつて「マクドナルドの牙城を崩せず撤退したブランド」として記憶されていたバーガーキングが、2019年の体制刷新以降、既存店売上高の連続増収を続けている。全店売上高は61カ月連続、既存店でも24カ月以上の増収が続き、2025年通期の売上高は前年比53%増の575億円に達した。店舗数も2019年5月の77店舗から2025年10月には308店舗へと約4倍に拡大し、ハンバーガーチェーンの業界ランキングでは4位に浮上している。

 なぜ、かつての「敗者」がここまで変わったのか。その答えは、プロダクトの品質が変わったからではない。「戦略の設計思想」が根本から変わったからだ。

●目次

2度の敗退が示す「戦略の不整合」という本質

 バーガーキングの日本進出の歴史は、失敗の連続だった。1993年に西武商事が米バーガーキング社とフランチャイズ契約を結び日本初上陸を果たしたが、本国との経営方針の対立から関係は悪化し、1996年にJT(日本たばこ産業)へ運営が移管。その後もマクドナルドが展開した「平日ハンバーガー65円」の価格攻勢の前に客足は遠のき、2001年3月に全店舗を閉鎖し、日本から完全撤退した。

 2006年にはロッテとリヴァンプの共同出資で再上陸を果たすが、こちらも事業は伸び悩み、2010年にはロッテリア(韓国法人)に負債ごと100円で買収されるという屈辱的な結末を迎えた。

 この2度の失敗の根底には、共通する構造的な問題があった。ひとつは「本国主導の商品・価格設計」だ。巨大なワッパーを軸とした米国流の「高価格・大容量」モデルをそのまま持ち込んだが、日本の消費者は価格の手頃さや食べやすさを重視する傾向が強く、ニッチなファン層の支持にとどまった。もうひとつは「スケールの欠如」だ。マクドナルドが2,000店舗超の全国網を持つなか、バーガーキングは規模の経済が働かず、原材料調達や物流のコストが利益を圧迫し続けた。

「失敗は商品の問題ではなく、誰に・どう届けるか、そして持続可能な規模をいかに構築するかという戦略設計の問題でした」(外食産業コンサルタント・杉田誠氏)

「王者の影」を逆手に取るマーケティングへの大転換

 2019年、香港系投資ファンドのアフィニティ・エクイティ・パートナーズのもとで新体制が発足し、キリンビール出身の野村一裕氏がマーケティングディレクターとして入社。現在は代表取締役社長を務めるこの人物が、ブランド戦略の根本的な刷新を主導した。

 当時の社内状況について野村氏は「自社の強みが何かも定まっておらず、ブランドのルールも曖昧だった」と振り返る(日経クロストレンドより)。そこから逆算して設計されたのが、「直火焼きの100%ビーフ」という揺るぎない製品差別化と、それを「BOLD&BULLISH(大胆で強気)」なコミュニケーションで伝えるブランド戦略だ。

 特筆すべきは、業界最大手マクドナルドとの向き合い方の巧みさである。真っ向勝負を避けながらも、競合の動きを緻密に観察し、世間の「ハンバーガー関心度」が高まるタイミングに独自のキャンペーンを重ねる「波乗り戦略」を採用した。2020年に秋葉原の隣接するマクドナルドが閉店した際には「22年間たくさんのハッピーをありがとう」と記したポスターを掲出。文面の縦読みには「私たちの勝チ」というメッセージが隠されており、SNSで瞬く間に拡散した。渋谷センター街店では、対面のマクドナルド客席から見た場合にのみ正対して読める屋外広告を設置し、推計3億円相当の広告効果を生んだとされる。

 2024年には、顧客から空き物件情報を募集し、契約成立時に紹介者へ10万円を贈呈するキャンペーン「バーガーキングを増やそう」を実施。「お金配り」への批判リスクを承知で踏み切ったこの施策は炎上することなく、12件以上の物件成約という実績とともに大きな話題を集めた。

「バーガーキングの手法は、限られた予算で最大の認知拡大を狙うPRドリブン型マーケティングの好例です。競合他社をあからさまに貶めることなく、ユーモアで”共感の連鎖”を生むアプローチは、日本市場においても十分機能することを証明しています」(同)

「日常使い」と「ご褒美消費」を架橋する価格・商品設計

 ブランド戦略と並行して整備されたのが、顧客の購買行動を段階的に設計するカスタマージャーニーの仕組みだ。

 かつての「高い・食べにくい」というイメージを払拭するため、同社は「オールデイキング」と呼ぶEDLP(Everyday Low Price)型セットメニューを導入した。時間帯や曜日を問わず550〜650円程度の一定価格で利用できるこのセットは、価格に敏感なライト層をファストフードの日常利用圏に引き込む役割を担う。

 一方、アプリを活用した個別クーポン戦略では、購買履歴をもとに限定バーガーや高単価のワッパー類へのステップアップを促す。安売りで終わらせず、「本格バーガーを食べるならバーガーキング」という指名買いへとつなげるワンオンワンマーケティングの設計が、客単価と来店頻度の双方を向上させた。

「3年未満の投資回収」がFC展開を加速させる

 成長エンジンのもうひとつの柱がフランチャイズ(FC)戦略だ。2026年には年間99店舗の出店を計画しており、2028年末までに600店舗体制を目指す。現在FC店舗は50店舗程度だが、将来的には全体の約半分をFCで担う計画だ。

 最大の訴求ポイントは、投資回収期間の短さにある。同社によれば、バーガーキングの店舗投資は平均3年未満で回収できるケースが多いという(食品産業新聞社、2026年3月報道)。2025年の平均月商は約1,700万円と公表されており、外食FC業界の平均的な回収期間が5〜7年とされることを踏まえると、異例の効率性といえる。

 2026年4月には既存飲食FCからの「乗り換えプラン」も発表し、設備投資の最大半額(最大4,000万円)をバーガーキング側が負担するという積極策も打ち出した。好立地での駅前出店ではドラッグストアとの競合が激化しているという課題も存在するが、郊外ロードサイド型でのドライブスルー展開(2028年以降を想定)も視野に入れており、出店の多様化を図っている。

「本部99%が転職者、現場3分の1が外国籍」という多様な組織の強さ

 持続的成長を支えるのは、ブランドや商品だけではない。組織の人材構造にも、バーガーキングの独自性がある。

 2025年時点で、本部組織の99%は転職者で構成されており、全国1万人超のスタッフのうち約3分の1を外国籍の人材が占める(ITmedia Business Online、2025年5月報道)。慢性的な人手不足が続く外食産業において、外国籍スタッフの積極採用と、日本語教育支援などの長期的なキャリア投資は、定着率とモチベーションの向上につながっているとみられる。

 野村社長は自身の転職経験や挫折を踏まえ、異なるバックグラウンドを持つ人材が自律的に動ける組織づくりを重視してきたという。目先の離職を過度に恐れず、働く意欲と成長機会を提供することへのコミットメントが、「感謝の連鎖」として現場の生産性に還元されつつある。

「人手不足時代の外食産業において、外国籍人材への長期投資は、単なる”補完”ではなく競争優位の源泉になりうる。バーガーキングの事例は、組織多様性とビジネス成果の好循環を示す実践例として注目に値します」(同)

「2番手の正しい戦い方」が示す、普遍的な経営の教訓

 2025年には、運営会社の株式売却においてゴールドマン・サックスが優先交渉権を取得し、700億円規模の買収が報じられた。これは投資ファンドが日本事業の価値を高めて売却するというモデルの成功例であるとともに、バーガーキングという事業体への市場からの正当な評価でもある。

 2度の撤退という過去を持つバーガーキングが示したのは、プロダクト自体の優劣よりも、「誰に・何を・どう届けるか」という戦略の整合性と、それを実行できる組織を構築することの重要性だ。マーケティング・FC展開モデル・人材戦略の3つの歯車が噛み合ったとき、強大な先行者が存在する市場においても独自のポジションを確立できることを、バーガーキングの事例は示している。

 後発ブランドや2番手企業が「正しく戦う」とはどういうことか——その答えのひとつが、このバーガーの中に詰まっている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

JALとispace、弱点を補完し合う提携…月面輸送ビジネスが問う「本業の限界」

●この記事のポイント
JALグループは2026年5月、宇宙スタートアップ・ispaceと連携し、航空会社として世界初の月面輸送サービス「ARGO PROJECT」を開始。2028年のミッション3で地球の文化・記録を月面へ届ける。航空本業の構造リスク分散、ispaceの営業力補完、2034年に248億ドル規模が見込まれる宇宙物流市場の先行者確保——三つの思惑が重なった戦略提携の実像を読み解く。

 5月27日、日本航空(JAL)グループは航空会社として「世界初」となる月面輸送サービス「ARGO PROJECT」の販売を開始した。グループの商社・JALUXと宇宙スタートアップ・ispaceが締結したペイロード輸送サービス契約に基づき、2028年のispace「ミッション3」で地球上の物品を月面へ届ける——。一見ロマンに満ちたこの取り組みの裏側には、航空産業を取り巻く構造的変化と、宇宙経済圏をめぐる現実的な先行者競争が折り重なっている。

●目次

「世界初」の称号が意味するもの

 JALUXとispaceは、ispaceが2028年に予定している月面着陸「ミッション3」におけるペイロード輸送サービス契約を締結。日本航空とJALUXは5月27日より一般企業や自治体向けに輸送枠の販売を開始した。

 プロジェクトの正式名称は「The ARGO Trans-Lunar Heritage Project」。かつて存在した大帆船の星座「アルゴ座」をモチーフに、「次世代へ受け継ぐ方舟(Ark Relaying for Generations Onward)」という概念を体現したもので、地球の文化を月面で未来へ継承することを掲げる。

 JALUXは専用月面輸送ボックス「Möbius Ark(メビウスの方舟)」の開発と搭載品募集を担い、JALは全国の地域や企業と連携して搭載品を集め、ispaceがランダー「ULTRA」で月面へ輸送する。ボックスのサイズは約20cm×20cm×10cmだ。気候変動や自然災害のリスクを見据え、地域の特産品・文化財・企業の記録などを「地球の影響を受けない月面」に保護・継承するタイムカプセル型のコンセプトである。

 2025年11月、ispaceとJALグループ3社(JAL、JALUX、JALエンジニアリング)は月面輸送および運航分野での協業検討を目的とした覚書を締結しており、今回の契約はその具体的な事業展開の第一歩となる。

JAL側の論理…航空一本足からの脱却

 この提携を理解する上で、まずJALグループの経営環境を押さえておく必要がある。

 JALグループの「ローリングプラン2025」では、2025年度のEBIT2,000億円達成を目指すとともに、「2026年度以降の中長期的な成長の方向性」として、既存領域での事業構造改革の深化と社会課題起点での新領域への展開を明示している。2028年度にはEBIT2,300億円達成を目標に掲げ、新事業の創出を成長戦略の柱に位置づけている。

 この背景には構造的な問題意識がある。脱炭素対応としての持続可能な航空燃料(SAF)の調達・コスト増、円安・原油価格の変動による燃油費リスク、地政学的緊張に伴う特定路線の運休・迂回リスク——航空本業は外部環境に極めて脆弱な事業モデルだ。旅客需要自体はコロナ禍後に回復したとはいえ、「移動の提供」だけに依存する構造からの脱却が中長期的な経営課題となっている。

 宇宙物流ビジネスへの参入は、そのような文脈で読む必要がある。航空輸送で培ってきた「危険物管理」「国際的な通関・規制調整」「重量・積載計画の精緻な管理」「整備・品質保証体制」といったノウハウは、宇宙輸送のオペレーションと構造的に親和性が高い。元大手航空会社収益管理部長で航空経営コンサルタントの中村哲也氏はこう話す。

「航空輸送のオペレーション管理は宇宙輸送のそれと多くの共通点を持ちます。重量の一グラム単位の管理、温度・振動への対策、多国間の規制調整——これらは航空物流が長年かけて確立してきた能力であり、宇宙輸送に転用可能な資産です。地上と異なり宇宙では『やり直し』が許されない点でも、航空の安全文化は極めて重要な素養です」

 加えて見逃せないのがブランディングの側面だ。「航空会社として世界初の月面輸送サービス」という称号は、若い世代の優秀な人材を惹きつけ、社員のモチベーション向上にも直結する。脱炭素、デジタル化、宇宙——先端技術と向き合う企業イメージを対外的に発信することの価値は、採用市場における競争優位として決して小さくない。

ispace側の論理…「大企業の信用力」で営業力を補完

 一方のispaceにとって、JALグループとの提携が持つ意味は何か。

 ispaceはミッション1(2023年)で月周回軌道への投入に成功したものの着陸直前に失敗。ミッション2(2025年1月打上げ)でも6月6日の着陸において着陸船の計器データが受信不能となり、高度計の測定遅れによって十分に減速できないまま月面に衝突したとみられ、2回連続で着陸成功に至らなかった。袴田武史CEOは「チャレンジが終わるわけではなく、失敗から得た学びを次につなげることが我々の責任」と語った。

 ミッション3は、経済産業省のSBIR制度による120億円の補助金なども活用し、日本主導で進められるミッションで、ランダーには日米の開発知見を統合した新モデル「ULTRA」が使用される予定だ。打上げは2028年を予定している。

 2回の着陸失敗は、技術的な課題という以上に、顧客開拓における「信頼の壁」を生み出す可能性がある。自治体や大企業の予算担当者が、実績のない宇宙ベンチャーに数千万から数億円規模のペイロード料金を支払うには、相応の「信用補完」が必要だ。そこで登場するのがJALグループである。

 1951年に創業し、70年以上の航空輸送の歴史を持つJALは、全国の自治体・地域企業との深いネットワークと、圧倒的なブランド信頼を有する。JALのセールス網がispaceのペイロード枠を「代理販売」する形は、スタートアップが単独では到達できない顧客層への効率的なアクセスを可能にする。中村氏は、このアライアンスの本質をこう指摘する。

「宇宙スタートアップが大企業と組む最大のメリットは技術や資金よりも『営業上の信用』です。今回の構造は、ispaceが技術とビジョンを提供し、JALが顧客との信頼関係を持ち込む理想的な補完関係といえます。自治体の担当者にとっても、JALブランドが前面に立つことで意思決定のハードルが大幅に下がる」

「月面タイムカプセル」は本当に買われるか

 ビジネスとして成立するかどうかを冷静に検証する視点も欠かせない。

 約20×20×10センチという限られたスペースに、企業や自治体が相応の対価を払う動機はあるのか。ここでポイントとなるのは、「物を月面に届ける」こと自体ではなく、「月面に届けた」という事実が持つPR価値と記念価値だ。

 自治体にとっては地域の特産品や文化財を宇宙の彼方に送り出したことのプレスリリース、ふるさと納税の返礼品への活用、シティプロモーションへの展開など、複合的な広報効果が期待できる。企業にとっては創業100周年記念、製品開発の歴史資料の保存、社員向けのインナーブランディング施策など、「コーポレートストーリーの一部」として位置づけることができる。

 月到達後には、月面に設置されたボックスの撮影が予定されており、JALUXのマーケティング戦略として月面到達後の写真撮影やPR展開が計画されている。撮影された映像・画像は高い拡散力を持ち、単なる「思い出作り」を超えたメディア価値を持ちうる。

 もっとも、このビジネスが中長期的に収益の柱になるためには、「タイムカプセル型」の感性的需要だけでなく、より実用的なペイロード需要——科学実験機器、センサー、素材サンプルなど——を取り込んでいく必要がある。今回の「ARGO PROJECT」は、その意味でJALが宇宙物流に参入する「最初の一歩」として捉えるのが正確だろう。

宇宙物流市場の規模と先行者利益

 より大きな視野で見れば、今回の動きは2030年代以降に本格化する「シスルナ(地球−月間)経済圏」を巡る先行者競争でもある。

 市場調査会社Stratistics MRCによると、世界の宇宙物流市場は2026年に約90億ドル規模となり、CAGR13.5%で成長して2034年までに248億ドルに達すると見込まれている。別の調査では、商業月面および深宇宙貨物ミッションの拡大、宇宙物流・サプライチェーン管理サービスへの需要増などを背景に、宇宙貨物輸送市場は2030年に91億2,000万ドルに達する見通しだ。

 この市場において、今後の競合は既存の宅配・海運大手ではなく、複数の宇宙スタートアップ(SpaceX、Astrobotic、Intuitive Machinesなど)になるとみられている。しかしこれらはいずれも技術開発に特化したプレーヤーであり、「物流のオペレーション」を熟知した企業ではない。

 JALグループが宇宙輸送の「取次・販売・品質管理」のレイヤーを担うことで、物流のプロとして差別化できる余地は十分ある。宇宙ビジネスへの参入障壁が下がっていくにつれ、技術よりもオペレーション能力と顧客基盤が競争優位の源泉になるという見方は、航空産業の歴史が示す通りだ。

課題:ispaceの着陸成功が大前提

 当然ながら、このビジネスの最大のリスクはispaceのミッション3が成功するかどうかだ。

 ミッション1・2の経験から着陸技術の課題は明確化されており、新型ランダー「ULTRA」にはそれらの知見が反映されている。とはいえ、民間企業による月面着陸はNASAのアポロ計画から半世紀が経過した現在でも、技術的に容易ではない。2028年の打上げまで2年以上あるが、この間の開発進捗と資金調達の動向は継続的に注視が必要だ。

 また、ペイロードの販売が軌道に乗るかどうかは、自治体・企業の予算サイクルや意思決定プロセスとも絡む。宇宙関連の支出は「前例のない予算項目」となるため、担当者レベルでの説明責任が求められ、意思決定に時間を要するケースも多い。

展望:「月面物流の仕組みを作る」先行者

「ARGO PROJECT」を出発点として、JALグループが本当に目指しているのは何か。

 それは単発のペイロード販売ではなく、「地球—月間の物流スキーム」の標準設計を先んじて構築することだと考えられる。輸送規格の標準化、保険・通関・規制の枠組み整備、ペイロード調達・管理のオペレーションノウハウ——これらは一度確立されれば、後発参入者が容易に追い越せない参入障壁となる。

 70年以上かけて積み上げてきた航空輸送のケイパビリティを宇宙に転用するJALの挑戦は、荒唐無稽なロマン話でも、短期的な利益狙いでもない。不確実性が高く失敗リスクも現実にある長期戦だが、だからこそ先行者が取り組む意義がある。ispaceとの提携が実を結び、2028年に「メビウスの方舟」が月面に到達したとき、そこには新しい物流インフラの最初のページが記されることになる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、中村哲也/元大手航空会社収益管理部長・航空経営コンサルタント)

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