ツジツマシアワセに取り組む6社と語った!食と健康のシアワセな関係

左から電通 北島陽介氏、ニチレイフーズ 齋藤猛氏、ハウス食品 吉川由利子氏、J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏、味の素 小山仁見氏、キッコーマン 中島みどり氏、エブリー 栗原晃氏
左から電通 北島陽介氏、ニチレイフーズ 齋藤猛氏、ハウス食品 吉川由利子氏、J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏、味の素 小山仁見氏、キッコーマン 中島みどり氏、エブリー 栗原晃氏

食べたいものを好きなだけ食べることは、人を幸せにしてくれます。たとえ、1回の食事で食べ過ぎたり、栄養バランスが偏ってしまってもOK!その前後の食事でゆる~くツジツマをあわせていけば、健康的な食生活が実践できるのです。

そんな新しいコンセプトのもと、国内の主要食品メーカーを中心に、多くの企業が合同で推進するプロジェクト「ツジツマシアワセ」。

趣旨に賛同し、新たに参画する企業も続々と増えている中、今回はPROJECT TOP PARTNERの6社による座談会を開催。プロジェクトの事務局を務める電通の北島陽介氏も交え、これまでの取り組みと今後の展望を語り合います。

参画企業紹介(五十音順):味の素エブリーキッコーマンJ-オイルミルズニチレイフーズハウス食品

<目次>
1社だけでなく「複数の企業」で生活者に寄り添いたい

「レシピ」の提案方法を中心に、各社が新たなアプローチを実践!

食に関わる全ての領域とつながり、人々の生活に根づく活動を!

1社だけでなく「複数の企業」で生活者に寄り添いたい

ニチレイフーズ 齋藤猛氏、ハウス食品 吉川由利子氏、エブリー 栗原晃氏
ニチレイフーズ 齋藤猛氏、ハウス食品 吉川由利子氏、エブリー 栗原晃氏

北島(電通):本日は私から「ツジツマシアワセ」参画企業の皆さんにいろいろお話を伺えればと思います。

最初に、各社が「ツジツマシアワセ」プロジェクトに参画した経緯を伺います。皆さん、幹事会社の味の素さんのお声がけで参画されたと思うのですが、「楽しくおいしく食べながら、無理なく栄養バランスを整えていく」というプロジェクトのコンセプトを聞いてどう思われましたか?

ハウス食品 吉川由利子氏

吉川(ハウス食品):いかに楽しみながら健康づくりをしていくかは今、社会全体の課題になっています。ここに集った各社でもさまざまな取り組みを推進していると思いますが、1社だけの取り組みではどうしてもアプローチ方法に限りがあります。そういう意味で、各社と連携することは本当に心強いですし、これまでにない社会的影響力を生みだせそうだと期待が募りました。

J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏

髙倉(J-オイルミルズ):当社は植物油の機能性表示食品に注力していますが、「商品の機能性をアピールするだけでよいのか?」「楽しく生きるというWell-beingの観点でも、何か施策が打てないか?」などと模索しているところでした。「ツジツマをあわせながら楽しく食べよう」という提案を複数の企業が協力して推進していけば、より生活者の心を捉えたメッセージを発信できると感じました。

エブリー 栗原晃氏

栗原(エブリー):私たちも、レシピ動画メディア「デリッシュキッチン」の運営を通じて、「おいしく食べて健康になりたい」という社会的ニーズの高まりを感じています。しかし、情報発信の難しさも感じています。健康や栄養に関するトピックは、堅苦しく、ハードルが高い印象を与えたり、押し付けがましいと受け取られる可能性もあると思います。その点、「毎食の栄養バランスを考えましょう」ではなく、「無理をしなくていいんだよ」という発信の仕方は、とても現代的で、生活者にも受け入れていただきやすいものだと思いました。

北島(電通):各社それぞれに課題があり、その解決の糸口が「ツジツマシアワセ」にあると考えられたのですね。今の時代にマッチした考え方だからこそ多くの生活者に声を届けることができるし、各社の連携によりさらに大きな影響力が期待できます。

キッコーマン 中島みどり氏

中島(キッコーマン):日々忙しい暮らしの中で、毎食、栄養バランスを完璧に整えていくことは相当に難しいと思います。日本の食に携わる各社が力を合わせて、(健康な食生活を)実践するハードルをできるだけ下げるのは、生活者に寄り添った発想で、すてきだと思いました。

北島(電通):「ツジツマシアワセ」でもう一つ重要なのは、単にゆるく考えるだけではなく、確固たる科学的な根拠があることですよね。食事の栄養バランスや品質を評価する新たな仕組み「JANPS(Japan Nutrient Profiling System)」という栄養プロファイリングシステムを開発し、栄養バランスのツジツマあわせをする際の指標も定めています。

ニチレイフーズ 齋藤猛氏

齋藤(ニチレイフーズ):この取り組みは、幹事会社の味の素さんが、日本で初めて独自の栄養プロファイリングシステムを導入した会社であることもポイントです。今後、こういった「業界共通の指標」は、国内の栄養課題を解決するために必要となるはずなので、当社も勉強させていただきたいと思っています。

北島(電通):味の素さんは幹事会社としてプロジェクトを牽引されてきましたが、各社が連携する意義や、現在の感触をお聞かせください。

味の素 小山仁見氏

小山(味の素):皆さんと一緒に、足し算ではなく掛け算のようなかたちで活動を広げていくことが、本取り組みの“社会ゴト化”への第一歩だと考えています。生活者の方々は、当然ですが特定メーカーの商品だけを食べて生活しているわけではなく、さまざまな企業の商品やレシピを活用しています。そのため、皆さんと協力しながら、生活者のWell-beingを高める接点を増やしてしていければと考えています。ツジツマシアワセマーク

「レシピ」の提案方法を中心に、各社が新たなアプローチを実践!

キッコーマン 中島みどり氏、J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏、味の素 小山仁見氏
キッコーマン 中島みどり氏、J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏、味の素 小山仁見氏

北島(電通):実際に各社でどのような取り組みをされているのか、伺えますでしょうか。

中島(キッコーマン):当社では、生活者との接点となる「商品」と「レシピ」を軸に、新しい試みを始めています。例えば、サイト内に掲載しているレシピに、毎日の食事で不足しがちな栄養素を補えるように工夫した「サプリ副菜」というカテゴリーを加えました。併せて、栄養に特化した記事も充実させたり、レシピアプリに献立の摂取カロリーや栄養バランスがグラフで確認できる機能を加えたりなどの工夫をしています。

髙倉(J-オイルミルズ):当社も同じく、「商品」と「レシピ」を中心に、生活者とコミュニケーションをしています。「ツジツマシアワセ」への参画は新たな切り口でメニュー提案ができるチャンスと捉えています。今後、参画企業の皆さまとコラボレーションしてメニューの開発をするなど、新しい展開ができるとうれしいですね。

北島(電通):各社の多様な食材を使って、健康でおいしいメニューをたくさん開発していただければ、「ツジツマシアワセ」のバリエーションも増えますね。レシピ開発・提案という視点で、エブリーさんにもご意見をいただければと思います。

栗原(エブリー):プロジェクトに参画する以前から、「生活者が知りたい情報を分かりやすくまとめて発信し、食と健康を考える場を作りたい」という思いが常にありました。そこで、プロジェクト参画と同じタイミングで、「デリッシュキッチン」から紹介しているレシピすべてに、主要な栄養成分を無料で表示するようにしました。これにより、カロリー、炭水化物、脂質、タンパク質、糖質、塩分といった情報が誰でも手軽に閲覧できるようになりました。健康的な食生活を送るきっかけを提供し続けていきたいと考えています。

北島(電通):エブリーさんは、「ツジツマシアワセ」のサイト設計にも関わっていらっしゃいますよね。

栗原(エブリー):はい。「デリッシュキッチン」のレシピメディア運営ノウハウを活かし、サイトの企画、開発、デザイン、運用までを全面的にサポートさせていただいております。ユーザー体験を考慮したUIUX設計のほか、レシピの表記の揺れを整えるお手伝いをしています。茄子なのか、ナスなのか。スパゲッティなのか、パスタなのか。各社の表記を統一して、レシピを探しやすくしました。

北島(電通):ハウス食品さんとニチレイフーズさんは参画されたばかりですが、どのような活動をしていきたいなどの抱負はありますか?

吉川(ハウス食品):これまでも当社は、生活者のさまざまなニーズに応えるべく多様なライフスタイルに合わせた商品を開発してきました。また、シーズンごとのレシピなど情報発信も積極的に行ってきました。今後は、「JANPS」を活用して、自社開発した商品や提案したレシピの健康価値を可視化できればと考えています。

齋藤(ニチレイフーズ):当社は、冷凍食品が主軸です。冷凍食品は簡便性がある一方で、健康的な食品というイメージを持たれにくい。おいしく手軽に栄養バランスを整える手段の一つとして冷凍食品を選んでいただけるように、まずは、ツジツマあわせの基本となる4つの栄養/食材にフォーカスしたレシピを開発したり、健康や栄養バランスをテーマにした情報発信を積極的にしていきたいと考えています。

北島(電通):プロジェクトを牽引する味の素さんとしては、どのような活動に注力することを考えていますか。

小山(味の素):当社としては引き続き、皆さんに使っていただいているJANPSの整備を続けていきます。そのほか、TikTokなどオウンドメディアを活用したプロモーションにも注力したいと考えています。メインターゲットである主婦層だけでなく、さらに多様な層にアプローチできるようなコンテンツの開発ができれば、本プロジェクトに共感してくれる層に厚みができるかなと。まずは当社が実践し、その結果を参画企業にフィードバック、そこから各社が新しい活動に広げていく。そんなことが実現できたら最高ですね。


食に関わる全ての領域とつながり、人々の生活に根づく活動を!

参画企業による定例セッションの様子。
参画企業による定例セッションの様子。

北島(電通):最後にこのプロジェクトを通して描ける未来についてお伺いしたいと思います。皆さん、どのようなアイデアをお持ちですか?

齋藤(ニチレイフーズ):長期的には「自炊しない人」や「健康課題を意識していない人」にもアプローチしていきたいと考えています。「ツジツマシアワセ」の考え方は、間違いなく万人に受け入れられると思うんです。だから、自炊だけに限定してしまうのは、もったいない。今後、「内食・中食・外食のトータルでツジツマをあわせていこう」という活動に成長できるとうれしいです。

北島(電通):それはすてきなアイデアですね!僕も、「ツジツマシアワセ」は、食に関わるすべての領域に広がる可能性を秘めていると思います。

栗原(エブリー):食に関わる領域は本当に広いですからね。当社の「デリッシュキッチン」でも、食品メーカーのほか、食品販売小売店や、省庁など、さまざまな方と取り組みを行っています。ですから、一緒に活動を推進していける領域は、まだまだあるはずです。今後、プロジェクトを拡大させるために、われわれがどう立ち回れるのかも意識して活動していきたいですね。

中島(キッコーマン):まずは、小規模でも良いので、何か一つ成功事例を作れればと考えています。当社も産官学で連携して食環境を整える取り組みをするほか、食育活動の一環で「栄養バランス」をテーマにしたコンテンツを開発しています。こういった活動を、「ツジツマシアワセ」に連携できると良いですよね。

北島(電通):まず、成功事例を作ることはとても大事だと思います。プロジェクトの起爆剤にもなりますし。

髙倉(J-オイルミルズ):例えば、流通や販売店などを巻き込んで、「ツジツマシアワセ」の売り場を作るという取り組みも考えられます。「ツジツマシアワセ」のロゴマークを使って売り場をレイアウトして……。結果的にプロジェクトの認知度が上がっていくとうれしいですね。

吉川(ハウス食品):最終的に、誰もが食と健康を自分で考えて、選択し、幸せを感じながら食を楽しむ――そんな社会になっているのが理想ですよね。健康や栄養を考えるのは難しいことでもないし、特別なことでもありません。食を通して、笑顔が広がっていくことを願っています。

北島(電通):皆さんから、すてきなご意見をたくさんいただきました。プロジェクトの事務局としても、各社が協力し合って、「ツジツマシアワセ」を盛り上げてくださることを願っています。最後に、味の素さんから、今後の抱負をお聞かせいただけますか。

小山(味の素):このプロジェクトが、生活者の皆さん一人一人の生活の中に落とし込まれていくと良いですよね。バランスの良いおいしい食事を楽しむことが、Well-beingにもつながっていくはずです。

また、今は情報があふれている時代です。ときには誤った情報が一気に拡散されてしまうこともあります。われわれのような食に関わる企業は、生活者に食を通じてより良い生活を実現してほしいと願っています。そのため、これからはたくさんの企業が協力して正しいメッセージを発信していけるといいなと考えています。

生活者に正しい情報をしっかりと伝え、多くの人に楽しくおいしく食べ続けられる人生を送っていただくことを目指して、これからも活動を続けていきます。

集合写真

※味の素
本プロジェクトの幹事会社である味の素。パーパスは、「アミノサイエンスで、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」。独自の栄養プロファイリングシステムANPS(食品の栄養面での品質を科学的な根拠に基づいて値化する指標)を導入するなど、食品の栄養価値指標の標準化にも力を入れている。

※エブリー
ミッションに「前向きなきっかけを、ひとりひとりの日常にとどける。」を掲げ、月間利用者数5600万人以上を誇るレシピ動画メディア「デリッシュキッチン」を運営するエブリー。「誰でも簡単においしく作れること」をコンセプトに開発された55000本以上のレシピは、すべて管理栄養士など食のプロが監修している。

※キッコーマン
しょうゆ、和風調味料、みりん、料理酒などを展開する「キッコーマン」をはじめ、「デルモンテ」「マンジョウ」「マンズワイン」などのブランドをもつキッコーマン。「おいしい記憶をつくりたい。」をスローガンに、「食にまつわる体験を通じて、人々のこころもからだもすこやかになってゆく」ことを願い、「食と健康」の取り組みを続けている。

※J-オイルミルズ
企業ビジョン「Joy for Life -食で未来によろこびを-」を実現する手段として、「おいしさ×健康×低負荷」を推進。「AJINOMOTOブランド」の家庭用油脂や、国内シェア約40%を誇る業務用油脂のほか、スターチ、マーガリンの製造・販売を行う。植物油を使ったレシピ開発にも積極的に取り組む。

※ニチレイフーズ
「人々のくらしを見つめ、食を通じて、健康で豊かな社会の実現に貢献します」というミッションと、「おいしさと健康を、わかちあえる世界へ FoodJoy Equity」というブランドステートメントを掲げる、冷凍食品のフロンティアカンパニー。冷凍食品、レトルト食品、ウエルネス食品を中心に事業を展開。

※ハウス食品
カレーやシチューなどの調味料・調理品のほか、デザート、スナック、ラーメンを中心にさまざまな商品の製造加工・販売を手掛けるハウス食品。「食を通じて、家庭の幸せに役立つ」を企業理念に掲げ、「食べることは、栄養をとるだけではないし、ココロまで豊かになること」だと定義している。

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コメ価格高騰に歯止めかける可能性も…AIでコメ農家の肥料コストを半減

●この記事のポイント
・静岡県でAIを活用した肥料削減の実証実験が開始。衛星画像解析で圃場ごとに肥料投入量を最適化し、農家の負担軽減を目指す。
・実験では肥料使用量を半減。コスト削減だけでなく、稲の生育均一化や労働負担軽減にも効果が期待されている。
・肥料削減による生産コスト低下は、米価格の安定化や環境負荷低減にもつながる可能性があり、今後のスマート農業普及のモデルとなる。

 米の価格高騰が続く中、静岡県で始まった新たな挑戦。AIが衛星画像を解析し、圃場ごとに肥料の投入量を最適化することで、農家の肥料コストを大幅に削減する実証実験が進められている。コスト削減は、将来的に米価格の安定や家計への負担軽減にもつながる可能性があり、スマート農業の新たなモデルとして注目を集めている。

●目次

 静岡県の志太榛原農林事務所が中心となり、AIシステムを活用してコメ農家の肥料コストを削減する実証実験が始まった。取り組みの背景には、2022年の肥料価格の急激な高騰がある。ロシアのウクライナ侵攻や円安の影響で、農家の経営を直撃したのだ。

「当時、農林事務所でも『肥料高騰対策を考えなければならない』という機運が一気に高まりました」と語るのは、静岡県志太榛原農林事務所 生産振興課 主査の井鍋大祐氏だ。現場の農家からも「このままではやっていけない」という声が相次ぎ、なんらかの新しい解決策が求められていた。

 そんななかで浮上したのが「緑肥」の活用だ。レンゲやヘアリーベッチといった植物を栽培し、刈り取らずに土へすき込むことで、肥料として活かす方法である。ある農業法人から「緑肥を取り入れてみたい」という相談があり、同事務所が提案したのはレンゲを取り入れ養蜂業者との連携も組み込んだ仕組みだった。

「レンゲは花を咲かせるので、養蜂業者にとっても蜜源になります。稲作農家と養蜂業者が協力すれば、双方にメリットがあると考えました」(井鍋氏)

 こうした取り組みは「耕蜂連携」という名称のもと着実に成果をあげたが、一方で「圃場によってレンゲの育ち具合にばらつきがある」という課題も浮き彫りになった。次の稲作にもその差が影響し、収量や品質に不安定さを残したのだ。

AIと可変施肥田植機の導入

 そこで新たに導入されたのが、AIシステム「ザルビオ」と可変施肥田植機だ。ザルビオは衛星画像をAIで解析し、圃場の生育状況を5段階に分類することができる。

「例えばレンゲがよく育っているところは緑色、育ちが悪いところは赤色というように、色分けして表示されます。そのデータをUSBで田植機に取り込むと、圃場内での肥料の投入量を調整してくれるんです」(井鍋氏)

 結果、通常300キロ必要だった肥料を150キロにまで削減することに成功した。実に50%の削減だ。農家にとって肥料費は大きな負担だけに、この成果は非常に大きい。

 ただし、現状ではAIがすべてを自動化してくれるわけではない。最終的な肥料の投入量は人間が設定する必要がある。

「完全にAIに任せる段階にはまだ至っていません。農家の経験や勘を組み合わせながら使うことで、より精度の高い施肥が実現できると考えています」(井鍋氏)

 つまりAIは“万能の代替手段”ではなく、“人の判断を支える道具”として機能するのだ。

農家の反応と広がる期待

 実際に導入した農家の反応は前向きだ。肥料コストが半減したことで負担が軽くなり、さらに稲の生育も均一化してきているという。ある農家は実証実験を機に可変施肥田植機を購入し、ザルビオの本格導入も決めた。

「実際に試してみて成果を実感できたからこそ、自費で導入するという選択につながったのだと思います。農家の方にとっても“投資する価値がある技術”として映ったのでしょう」(井鍋氏)

 現状は一つの農家・75アールの規模での実証にとどまっているが、今後成果が確実に示されれば、大規模農家を中心に普及していく可能性は高い。

 農家にとっての最大の利点はコスト削減だが、それは消費者にも無関係ではない。

「今でこそ米価の高騰が話題になっていますが、米価が長年下落傾向にあるなかで、農家の多くが赤字経営に陥っています。生産コストを下げることができれば、消費者にとっても価格が安定する可能性が出てきます。さらに環境負荷の低減という点でも意義があります」(井鍋氏)

 化学肥料の多くは輸入に依存し、製造過程でも環境負荷が大きい。削減が進めば、農業の持続可能性を高めることにもつながる。

デジタル技術が変える農業の現場

 ザルビオは肥料コスト削減だけでなく、稲の生育ステージを予測する機能も持つ。穂が出る時期や収穫期をAIが提示することで、農薬散布や収穫作業の計画が立てやすくなる。

「大規模農家は圃場が分散していることが多いため、作業の順番をどう組むかが重要になります。AIを上手に使えば“刈り遅れ”を防ぐこともできるのです」(井鍋氏)

 高齢農家にとっても、スマホで操作できる簡便さは大きな利点だ。難解なシステムではなく、直感的に使えることが普及の鍵となる。

 この取り組みは、行政がトップダウンで推し進めたわけではない。最初は一農家の声から始まり、養蜂業者との連携、農家同士の意見交換を経て、徐々に広がっていった。

「農家と養蜂業者双方がメリットを得られる仕組みを作ることで、自然と面積も拡大してきました。今では32ヘクタール規模に広がっています」(井鍋氏)

 現場の声を丁寧に拾い、試行錯誤を重ねながら広がる“ボトムアップ型”の取り組みは、農業政策においても一つの理想的な形といえるだろう。

農業の未来をどう描くか

 井鍋氏は「レンゲの生育状況を見ながらAIと可変施肥を組み合わせる取り組みは、全国的にも前例が少ない」と話す。もし成果が明確に示されれば、全国の自治体や農家が注目する可能性は高い。

「レンゲが自生して翌年も生えてくる生態を活かせば、さらにコスト削減が見込めます。今回の実験は新しい農業の可能性を示す第一歩だと思います」(井鍋氏)

 農業の高齢化や大規模化が進むなかで、AIやデジタル技術の導入は避けられない流れとなっている。肥料コスト削減だけでなく、労働負担軽減、収量安定、環境配慮――その効果は多方面に及ぶ。

 一方で、AIにすべてを委ねるのではなく、人の経験や勘を組み合わせながら使いこなすことが求められる。そこにこそ「持続可能な農業」のヒントがあるのかもしれない。

 今回の実証実験は、静岡県の一部で始まった小さな挑戦にすぎない。しかし、その成果が全国へと波及すれば、日本の米作りの姿を大きく変える可能性を秘めている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

映画レビュー「ザ・フー キッズ・アー・オールライト」

圧倒的なライヴ・パフォーマンスで、ロック界を席巻した4人組。その黄金期を記録した伝説のドキュメンタリーが、最高音質で甦る。

投稿 映画レビュー「ザ・フー キッズ・アー・オールライト」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

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日本の印刷市場、ようやく“脱グラビア”か…旭化成、低環境負荷の印刷技術を開発

●この記事のポイント
・日本の包装印刷市場は長年グラビア一強だったが、環境負荷の低い水性フレキソ印刷が注目され、普及が模索されている。
・旭化成は真水現像や廃液リサイクル技術を活用し、印刷版と専用装置をセットで提供することで品質と環境対応を両立させている。
・2030年に向け溶剤現像版を廃止する方針のもと、水性フレキソ印刷の普及を進め、日本の印刷業界の構造転換を狙う挑戦が始まっている。

 日本の食品・日用品の包装印刷市場は長年「グラビア印刷」が主流だった。しかし、欧米で急速に普及する「フレキソ印刷」の波は、ついに日本にも押し寄せつつある。中でも、環境負荷を大幅に抑えられる「水性フレキソ印刷」が注目を集めている。旭化成は、真水で現像可能な樹脂版や廃液リサイクル技術など独自の開発力で、グラビア一強の日本市場に挑む。品質維持と環境対応を両立させるその挑戦は、印刷業界の未来を変える可能性を秘めている。

●目次

グラビア一強の日本市場に迫る「水性革命」

 食品や日用品の包装に欠かせないパッケージ印刷。日本では長らく「グラビア印刷」が主流を占めてきたが、欧米ではすでにフレキソ印刷が半数以上を占める。さらにいま、世界的に注目を集めているのが「水性フレキソ印刷」だ。

 旭化成の感光材事業部長・加藤 昭博氏はこう指摘する。

「アメリカやヨーロッパではフレキソ印刷が主流になりつつありますが、多くはまだ溶剤インクです。日本はグラビアからいきなり水性フレキソに挑もうとしており、技術的な難易度は高いですが、その分環境面で大きな意味があります」

 旭化成は「マテリアル・住宅・ヘルスケア」の3領域を柱にする総合化学メーカー。その中で感光材事業部は、光で固める特殊樹脂を用いた印刷版を提供している。段ボールやラベル、食品包装フィルムなど生活に密着した用途が中心だ。

 1973年に事業化し、現在は世界70カ国以上に製品とサービスを展開。印刷版だけでなく、製版装置や技術サポートを含む「システム」として提供するのが特徴である。

「単に版を売るのではなく、お客様が安定した印刷品質を得られるよう、装置や技術サービスを含めてサポートしています」と加藤氏は強調する。

真水とリサイクル――旭化成独自の技術

 水性フレキソ印刷の普及に向けて、旭化成が打ち出す差別化の柱は2つだ。

 第一に真水現像。従来は洗剤や溶剤を用いて現像する必要があったが、旭化成は水道水だけで現像できる樹脂板を開発した。

 第二に廃液リサイクル。製版工程で出る廃液を90%再利用できる「AWP-LOOPTM」という装置を開発した。

「真水で現像できるという点は他社にない大きな特徴です。また廃液を再利用できることで、環境負荷を大幅に抑えることができます」と加藤氏。

 一方で、技術的には難題もあった。水で現像できるなら水性インクに弱いのではないかという懸念だ。

「水で現像できる樹脂板は、水性インクを使えば溶けてしまうと考えるのが自然です」と加藤氏は振り返る。

「そこで我々が培ってきた感光材の技術を活かしました。光で固めることで性質が変化し、水性インクに耐える版を実現できたのです」

 さらに、版だけでなく専用装置を含めて開発したことも重要だった。印刷会社がスムーズに導入できるよう、樹脂板と装置の「セット設計」で品質と効率を両立させている。

 実際の成果も出始めている。大手ブランド企業と共同で行った実証では、油性グラビアから水性フレキソに切り替え、ほぼ同等の品質で市場投入が実現したという。

「印刷の品質については、ほぼグラビアと同等まできています。ただし課題はインフラです。水性インキを使える印刷機がまだ少なく、大量生産の受注に対応できるかがネックになります」と加藤氏は語る。

普及を阻む壁――インフラとコスト

 水性フレキソの普及には大きく2つの壁がある。

 1.印刷機インフラの不足
 フレキソ印刷機が国内にはまだ少なく、生産能力の点で制約がある。

 2.コスト競争力の確保
 前後工程がグラビア用に整備されているため、印刷だけを変えてもコストで劣る場合がある。

「サステナブルな要求は確実に増えていますが、一方でブランドオーナーはコスト面も非常に重視しています。そのバランスをどう取るかが最大の課題です」と加藤氏は率直に語る。

 旭化成は課題克服に向けて、印刷機メーカーや海外企業と積極的に連携している。

 ・英国Hamillroad社の「Bellissima DMS」(高精細スクリーン技術)
 ・ESKO社の「Equinox」(ECG印刷に適したスクリーン技術)

 これらを組み合わせ、品質とコストの両立を図る。さらに、国内外でデモセンターを立ち上げ、実際の印刷品質を体験してもらう営業活動も進めている。

「実際にお客様に見ていただき、『これならグラビアから切り替えられる』と納得してもらうことが重要です」と加藤氏は言う。

2030年「溶剤ゼロ(Solvent ZERO)の実現」へ

 旭化成は2030年に向けて、溶剤現像版(AFPTM)の展開を徐々に縮小し、水現像版(AWPTM及びAPRTM)に注力する事業方針(「Solvent ZERO」)を打ち出している。

「2030年以降は溶剤現像版はつくらない、という覚悟を持って水現像版の普及に取り組んでいます」と加藤氏。

 環境規制が強まるなか、先手を打って事業構造を転換する狙いだ。

 印刷業界は環境規制だけでなく、人手不足という課題にも直面している。過酷な現場環境では人材が集まりにくく、持続的な生産が難しくなる。

「日本の印刷市場はグラビア中心で品質は高いですが、その現場環境は過酷です。10年、20年先を見れば、水性を中心に印刷方式が切り替わっていくのは間違いないでしょう」と加藤氏は展望を語る。

 旭化成の挑戦から見えてくるのは、「環境対応をいかに競争力に変えるか」という視点である。

 ・真水現像や廃液リサイクルといった独自技術
 ・製品だけでなく装置・サービスを含めたシステム提案
 ・2030年以降は溶剤現像版を作らないという事業の構造転換

 これらは単なる技術革新ではなく、産業の構造転換を伴う挑戦だ。

 水性フレキソ印刷は、日本の印刷市場に新たなスタンダードをもたらす可能性を秘めている。そしてその動きは、環境とビジネスの両立を模索するあらゆる企業にとって学びとなるはずだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「好き」を力にすると、どんなことができる?~カレー研究家・一条もんこ先生と、スパイス部の挑戦

「好きを力に仕事をする」をテーマに、社員の個人的な関心や情熱を起点に活動する、電通第2マーケティング局(以降、第2MK局)のプロジェクト「BUKATSU」。今回は、カレーやスパイス料理に興味を持つメンバーが集まった「スパイス部」の部長・沼田実伽子氏に話を聞きます。

いまでは社内外を巻き込む活動へと広がりを見せているスパイス部。同部と一緒にお仕事をされている縁深い存在が、カレー研究家の一条もんこ氏です。沼田氏と一条氏の対談を通して、「好き」を突き詰めることが、どのように仕事や人生を動かしていくのかを深掘りします。

一条もんこ



 

カレーとスパイスに魅せられて

──まずは、一条先生のお仕事を教えてください。

一条:私は「カレー研究家」と「スパイス料理研究家」、2つの肩書きで活動しています。月40回ほど料理教室を開いていて、これまでに累計1000人を超える生徒さんが学ばれました。他に、レトルトカレーや飲食店の商品開発をしたり、食品メーカーの公式レシピを考案したり、地域の町おこしやイベントにも携わっています。横須賀や出身地・新潟のカレー大使も務め、とにかくカレー漬けの日々です(笑)。

──スパイス料理研究家になった経緯は?

一条:私は田舎育ちで、ほぼ自給自足のような環境だったこともあり、小さいころから料理をするのが好きでした。中でもカレーは、同じレシピでも作る人によって味がまったく違う。その奥深さに魅了され、学生のころには「カレーを仕事にしたい」と思うようになりました。

独立するまで、フレンチやイタリアン、インドカレー店、大手カレーチェーンなどなどいろいろな飲食店で修業をして、10年以上経験を積みました。その中で「人に教えるのが好き」という自分の特性にも気づき、料理教室の先生という道に強く引かれていきました。

特に憧れていたのが、フレンチとイタリアンを中心に、さまざまなジャンルの料理を教えている、料理研究家の川上文代先生です。「料理を教える立場なら、あらゆるジャンルの料理を知っていなければならない」という、学びに対する貪欲な姿勢を持ち、「決めたことは絶対にやる」という信念や自分を信じる強い気持ちのある先生で、私が思い描く理想の姿を体現されていました。実際に先生のもとで調理アシスタントとして多くのことを学ばせてもらい、大変貴重な経験になっています。そして、2020年、ようやく自分のスタジオ「Spice Life」を構えて、スパイス専門の料理教室を本格的にスタートさせました。

沼田:一条先生の料理教室は本当に大人気で、現在、約300人の生徒さんがアクティブに学ばれているんですよね。もう年末の予約まで埋まってしまうほどです。

一条:教室は少人数制で、生徒さんとの距離がとても近いんです。ただ料理を学ぶだけではなく、スパイス料理を食べながらコミュニケーションを楽しむ場にもなっています。下積み時代からずっと思い描いていた仕事なので、水を得た魚のようにアウトプットできるこの環境が、本当に楽しくて。これまでたくさんインプットを重ねてきたので、今は教えることが何よりの喜びです。

一条もんこ

──沼田さんの普段のお仕事とスパイスとの出合いについて教えてください。

沼田:私はマーケティング・コンサルタントとして、メディア領域を中心に、大手通信キャリアやグローバル企業などのキャンペーンの立案や、実施後の効果検証などをするのが主な業務です。

私には10歳年上の姉がいるのですが、姉のパートナーは、私が小学生のころから面倒を見てくれてお兄ちゃんのような存在でした。彼が私をスパイスの世界に誘ってくれたのです。彼はエスニック料理好きで、インド料理店やタイ料理店によく連れて行ってくれました。家では食べたことのない刺激的なスパイス料理にたくさん出合い、どんどんスパイスの魅力にハマっていきました。

──飲食店や食品メーカーなど、スパイス関係の仕事に就こうと思わなかったのですか?

沼田:当時は「好きなこと」と「仕事にすること」は別だと思っていましたし、スパイス以外にもいろんな分野に興味があったので、幅広く知見を広げていきたいと考えていました。だからこそ、今の仕事を選んだのだと思います。

──現在は、BUKATSUのスパイス部の部長を務めていますが、スパイス部を立ち上げた経緯を教えてください。

沼田:私は電通の第2MK局に所属していて、当局には局員が自己紹介や趣味・特技などを書く「プロフィールシート」があります。その中の「好きな食べ物」の欄に、「カレー」と書く人がすごく多くて。それを見た先輩が「みんなでカレーランチに行こうよ」と声をかけてくれたんです。

いざ集まって話してみたら、みなさんカレー愛がすごくて、話がとても盛り上がりました。しかも、みなさんカレーだけでなくスパイス全般が好きなことが分かったんです。これだけスパイスに熱量を持った人がたくさんいるなら、一緒に活動すれば、スパイスの新たな楽しみ方を見つけたり、スパイスの魅力を多くの人に伝えたりできるかもしれない。そう考えて、2024年にスパイス部を立ち上げました。現在は十数人のメンバーで活動しています。

沼田実伽子


 

ファンから“共創する仲間”へ。「好き」を軸に信頼関係を築く

──スパイス部を立ち上げた後、一条先生とはどのように出会ったのですか?

沼田:実は、一条先生との出会いはスパイス部よりもずっと前なんです。2020年に先生がカレーの料理教室を始めるという投稿をSNSで拝見して。すごく行きたかったんですが、すでに募集が締め切りになっていました。でも諦めきれずにダイレクトメッセージを送ってみると、運良くキャンセルが出たタイミングでご連絡をいただいて。それが最初のご縁でした。

──そのときは、お仕事ではなくプライベートでの参加だったんですね。

沼田:そうです。まだスパイス部もないですし、一人のファンとしてレッスンを受けに行きました。

一条:(沼田)実伽子ちゃんが来てくれたのは、たしか料理教室を始めて2カ月後くらいのタイミングだったと思います。最初に立ち上げたとき、ありがたいことに数百人単位で応募が来て、すぐに募集を締め切ったんです。それでもわざわざ連絡をくれたことがすごくうれしかったんですよ。空きが出たら絶対に来てほしいと思っていたのを覚えています。

──現在は一緒にお仕事をされているんですよね。どういう流れでお仕事につながっていったのでしょうか?

沼田:頻繁にレッスンに通うようになり、あるときから先生のイベントのお手伝いもするようになりました。徐々に関係性が深まっていく中で、2024年に私がスパイス部を立ち上げる話をした時に、「何か力になれることがあれば手伝うよ」と言っていただいたんです。

一条:私は基本的に全部一人でやるタイプで、イベントも仕込みから当日の運営まで自分で完結させることが普通でした。でも実伽子ちゃんは空気感が合うというか、自然と頼れる存在だったんですよね。初めてお手伝いしてもらったのが、吉祥寺のカレーフェスティバル。そのときにアシスタントをお願いしてみたら、想像以上にがんばってくれて。

一条もんこ
一条氏が出店した、吉祥寺のカレーフェスティバルでの一コマ。

──頼ってみて、手応えを感じました?

一条:めちゃくちゃ感じました。むしろ、自分が変わるきっかけにもなったんです。今までは人にお願いするのが苦手だったんですけど、やってみたらこんなに楽しいんだって思えた。かつて私が川上文代先生のアシスタントとして学んでいたころの、あの“キラキラした自分”を、今の彼女に重ねているところもあるかもしれません。娘のような、妹のような、そんな存在です。

──沼田さんは、お手伝いを電通社員としてではなくプライベートでやっていたんですよね?

沼田:そうです。私も一条先生をお姉さんのように思っているので、「お姉ちゃんが困っているなら助けたい」という気持ちと、カレー業界を一緒に盛り上げたいという思いでお手伝いしていました。引き続きレッスンに通いながら、カレーのイベントをお手伝いするという日々が何年か続いて。そんな中でスパイス部が創設されました。

スパイス部の立ち上げ時に社内でオンラインイベントをやることになり、そこで初めて先生にご協力いただいたのです。オフィスと料理教室をオンラインでつなげて、バターチキンカレーとチーズナンの作り方を教えていただく社内向け料理教室を実施しました。

スパイスで社会課題解決!?広がるスパイス部の活動

──現在、スパイス部は先生とどういった取り組みを進めているのでしょうか?

沼田:まだ種まき段階のプロジェクトが多いのですが、その中でも一番大きいのが「日本シーフードカレー協会」の立ち上げ準備です。

──日本シーフードカレー協会……ですか?

沼田:はい。ホフディランの小宮山雄飛さんという、カレー好きで有名なアーティストの方がいらっしゃって、その方から「カレーで食の社会課題を解決できるんじゃないか」というお話をいただいたのがきっかけです。というのも、ここ20年ほどで日本の魚介類の消費量が激減し、その影響で漁獲しても消費されずに廃棄されてしまう魚が増えているんです。これはフードロスの観点からも大きな課題だと感じています。

そこで、みんなが大好きなカレーと魚介を組み合わせて「シーフードカレー」という形で再注目してもらうことで、魚の消費促進にもつなげられるんじゃないかと。情報発信やイベントなどを通じて、そうした流れをつくろうとしています。

一条:もともと小宮山さんとは、カレー業界で長くご一緒してきた仲です。その彼と会話する中で、シーフードカレーってなかなか主役になれない存在だけど、実はとても可能性がある。その価値をもっと広めたいという話になり、私たちカレー業界の人間だけで伝えるのではなく、ちゃんと形にして協会として発信しようと考えました。そして、「この動きを広げていけるのは実伽子ちゃんしかいない」と思い、彼女に事務局長をお願いしました。

──具体的にはどんな活動を?

一条:たとえば、先日は巨大なサザエを丸ごと使ったシーフードカレーを作って、YouTubeで配信しました。

画像をクリックすると動画がご覧いただけます

一条もんこ
一条:エンタメ要素も強いのですが、「こういう食材もカレーになるんだよ」という可能性を感じてもらえるきっかけになると思って。今後は自治体やご当地食材とコラボして、新しいシーフードカレーの形を提案していけたらと考えています。

──スパイス部として、企業との仕事は他にもありますか?

沼田:進行中の案件はありますが、まだ世に出ていないものが多いです。たとえば、食品メーカーから「近年では、レトルトカレー市場がルゥ市場を抜いたという背景もあり、若年層を中心に自宅でカレーを作る人が減少しているという課題にどう向き合えばいいか」といったご相談をいただくことがあります。そういった課題に対して、「どんな価値観や表現が今の若者に響くのか?」という視点で提案をしています。

それ以外にも、社内のほかのチームや営業担当から「スパイス部の知見を借りたい」と相談されることもあります。そうした横の連携も活用しながら、スパイス部の活動の幅を徐々に広げています。

沼田実伽子


 

好きだから、「疲れた」じゃなくて「やりきった」に変わる

──今回のテーマでもある「好きを力に仕事をする」という考え方について、どのように感じていますか?

沼田:私はもともと、仕事を通して新しい世界を知ることにやりがいを感じていたんです。電通では幅広いジャンルの案件に関わる機会が多くて、それまではまったく接点がなかった分野を知ることができる面白さがあります。

その一方で、自分が好きな「スパイス」というテーマに向き合うようになってから、いままでとは異なるエネルギーの使い方をしていることに気がつきました。無理難題にもチャレンジできるし、好きなことを仕事にすることって、こんなにも原動力になるんだなと実感しています。

それから、私にとっては当たり前だった知識が、他の人にとっては新鮮に感じることもあるのだと知りました。たとえばカルダモンというスパイスの話をしたときに、「どうやって使うの?」「どんな効能があるの?」といろいろ質問されて、私が持っている知識って、人の役に立つものなんだなって。そうやって自分の「好き」が価値になるというのも、大きな気づきでした。

BUKATSU
上から時計回りに、カレーリーフ、シナモン、メース、チリペッパー、クローブ、カルダモン。中央はスターアニス。

──スパイス部の他のメンバーの取り組みを見ていて、好きを力に仕事をすることの魅力をあらためて感じることはありますか?

沼田:スパイス部にはインドに駐在していたメンバーもいれば、スパイスの効能をダイエットに取り入れている人もいます。みんなアプローチが違っていてすごく面白いですし、年齢や性別も多様で、新入社員から部長まで役職も関係なくいろんな意見が飛び交う。それぞれの得意な分野や視点があるので、「若年層のカレー離れ」をテーマにブレストしたときも、いろんな角度からアイデアが出て、すごく刺激的でした。

しかも、普段の会議だと売上目標やKPIなどの数値を念頭に議論しますが、スパイス部の打ち合わせでは「いかに楽しくこの会議を終えるか」をゴールにしています。だからこそ、より自由に、フラットに話ができる。「スパイスをどうやったら好きになってもらえるか?」ということを、純粋に考えられる場になっています。

──先生は、好きを力に仕事をすることの意義をどう考えていますか?

一条:私は昔から“カレーで生きていく”と決めていました。でも最初は、めちゃくちゃ反対されましたよ。「カレー専門の料理研究家で生活できるわけない」と、誰にも賛同してもらえませんでした。でも、前例がないなら自分で作ればいいと思って、とにかく修業を重ねて、どんな料理の質問にも答えられるようにいろんなジャンルを学んで、下積みを重ねました。好きなことを仕事にするために腹をくくって、覚悟を持って進んできた感じです。

ありがたいことに、4年くらいほとんど休まず働いていたこともありますが、それがつらいと思ったことは一度もありません。仕込みも洗い物も、全部楽しい。「今日は仕事だから嫌だな」っていう感覚が一切ないんです。これはすべて好きからはじまったからこそできたことだと思います。

沼田:分かります。普通だったら「疲れたな」って思うようなことでも、「がんばったな」に変わるんですよね。

一条:そう。身体的には疲れても、精神的には全然疲れない。むしろ、やりきったっていう爽快感がある。好きっていうのはパワーなんです。やらされていることじゃなくて、自分の意志でやっていることだから、全部がプラスに働く。好きというか、もはや愛ですよね(笑)。

一条もんこ


 

スパイス料理をもっと身近な存在に。そしてスパイスで世界を幸せに♡

──スパイス部としての活動を続けていく中で、社内外からの反応はいかがですか?
 
沼田:最近は「スパイス部、楽しそうだね!」って声をよくかけてもらいます。BUKATUの中でも活動頻度が高く、部員数も一番多いので、注目される機会が増えてきたのかなと感じています。だからこそ、今後はもっと社内外に輪を広げて、「好きを力に仕事をする」を象徴するような存在になれたらうれしいです。

──先生が今後チャレンジしたいことを教えてください。

一条:今は“自分の城”(常設の料理教室)を持てたことで、大きな目標の一つは達成した気持ちもあるのですが……。最近、家電量販店とコラボしてレトルトカレーを販売したら、想像以上に反響がありました。カレーって、実は異業種とのコラボレーションにすごく可能性があります。

たとえば、音楽イベントとのコラボや、ライブグッズとしてのカレーの監修、プロレスラーのカレーを開発したこともあります。私は裏方として監修するのが得意なので、名前が出なくても“おいしいカレーを仕込む影武者”のように、世の中のカレーを全部おいしくしていきたいなと思っています(笑)。

沼田:私が楽しみにしているのは、今後スパイス料理がもっと当たり前の存在になっていくことです。最近だと、ビリヤニがコンビニで売られるようになっていたり、専門レシピ本が続々と出ていたりして、「え、こんなに身近になってきたんだ!」って驚く瞬間があります。先日、あるイベントをお手伝いさせていただいたのですが、某有名店のビリヤニが何と5時間待ちになっていて、徐々にメジャー料理になりつつあるのだと実感しました。

一条:実は10年くらい前、私もビリヤニ専門店で働いていたことがあったんですけど、そのころはまったく浸透していなくて、残念ながらお店も1年半で閉店してしまって。でもいまではコンビニに並ぶようになって、やっと時代が追いついてきたなという感覚があります。

コロナ禍でおうち時間が増えたこともあって、一時期スパイスへの関心がグッと高まりましたよね。今は、料理以外に時間を使う人が増えたことから、スパイス市場はやや停滞していますが、コロナ禍を経てスパイスに対する苦手意識は着実に減り、日常的な存在になっています。だから、ビリヤニブームのように、スパイス料理が市民権を得ていく事例は今後も増えていくと思います。

沼田:楽しみですね。スパイス部としてもその変化の兆しを捉え、一条先生のお力も借りながら、スパイスの魅力をもっと社会に広めていきたいです。

一条もんこ

sns

増加の一途をたどる独居高齢者…法律、福祉、医療、葬祭の専門家が連携して支援

●この記事のポイント
・トリニティ・テクノロジーが展開する「おひさぽ」は、高齢者の生活・終末期・死後までを一気通貫で支援する新サービス。
・身元保証や死後事務など、家族に頼れない不安を解消し、株式会社ならではの持続可能な仕組みを構築。
・法律、福祉、医療、葬祭の専門家が連携し、「一人でも安心して生き、安心して旅立てる社会」を目指す。

 日本は世界でも類を見ない超高齢社会に突入している。2025年には団塊世代がすべて75歳以上となり、医療・介護・生活支援の需要はますます増える。その中で顕在化しているのが「頼れる家族が身近にいない」という課題だ。

 独居高齢者は増加の一途をたどり、病院や施設入所の際に必要とされる身元保証人や、認知症発症後の財産管理、亡くなった後の葬儀・手続きなどを担う存在が不在となるケースが少なくない。「もしもの時に誰が助けてくれるのか」という不安は、財産や健康だけでなく「日常生活そのもの」を覆い、本人の尊厳や安心感を脅かしている。

 こうした現実に正面から向き合い、新しいセーフティネットを提供しているのが、トリニティ・テクノロジー株式会社のおひさぽ事業本部だ。本部長の高橋泰浩氏に、同社が展開する「おひさぽ(おひとりさまサポート)」の取り組みと意義を聞いた。

●目次

「おひさぽ」とは何か

 サービス名は「おひとりさまサポート」の略だが、必ずしも“完全に一人暮らし”の人だけが対象ではない。高橋氏はこう説明する。

「実際にご契約いただいている方の半数は、将来的におひとり様になる可能性がある方や、ご家族がいても頼れない事情を抱える方です。私たちは“頼れるご家族が近くにいない方”に向けたサービスとして訴求しています」

 おひさぽの大きな特徴は、人生のステージごとに必要となるサポートを網羅的に提供している点だ。

 元気な時期:見守りサービス、緊急連絡体制、電力使用量を活用した生活モニタリング
 入院・介護期:身元保証、事務手続き代行、財産管理、任意後見契約の履行
 終末期:尊厳死宣言書作成支援、医療方針の明確化
 死後:葬儀や火葬、納骨、死後事務の代行、遺言書作成支援、預託金の信託保全

 つまり「元気なうちから亡くなった後まで」を一気通貫でカバーする仕組みを構築している。

立ち上げの背景にあった「家族信託」の限界

 トリニティ・テクノロジーの前身は司法書士法人。もともと「家族信託」に力を入れ、認知症による資産凍結を防ぐサービスを展開していた。

 しかし、その対象は「頼れる家族がいる人」に限られていた。現場で相談を受けるうちに「そもそも頼れる家族がいない人」の声が大きくなっていった。

「資産を守る仕組みは整えても、本人の生活や終末期、死後のことまでは守れない。家族の代わりを担う存在が必要だと痛感しました。私たちのミッションは“超高齢社会の課題を解決し、ずっと安心の世界をつくること”。おひさぽはまさにその理念を具現化したものです」

 依頼が最も多いのは「身元保証」。病院や施設に入る際に保証人を求められるが、近くに家族がいない人は困窮する。次いで多いのは「死後事務」。

 高橋氏は強調する。

「突然の事故や病気は誰にでも起こり得ます。『もし明日、自分に何かあったら』と考えると、漠然とした不安を抱える方は多い。おひさぽはその不安を現実的に解消する仕組みです」

他社との差別化――株式会社だからこそできる安心

 高齢者向け支援事業は、非営利団体や小規模事業者が担うケースが多い。しかし、おひさぽは「株式会社」として展開している。

「お客様の人生を10年、20年、30年と支えるには、体力のある企業でなければならない。私たちは上場を目指し、資金力やガバナンスを強化しながら事業を継続できる体制を整えています。信託会社と連携して預託金を分別管理しているのも、長期的な安心を提供するためです」

 さらに、法律専門家だけでなく、ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカー、葬祭業の専門家など多様な職種をチームに迎え、顧客一人に対して“ワンチーム”で伴走する体制を築いている。

超高齢社会における「学び」

 おひさぽの事例は、ビジネスパーソンにとっても多くの示唆を含んでいる。

社会課題は断片的に解決しても足りない
 資産管理、介護、葬儀などは一見別の問題に見えるが、実際の利用者からすると一連のライフイベントの連続だ。部分的なサービスでは「安心」は提供できない。

“ずっと安心”を約束するには持続可能な事業体制が不可欠
 非営利団体的な発想では長期的な信頼を担保しにくい。株式会社としての経営基盤が、むしろ社会課題解決の前提条件になる。

専門分野の垣根を超えた連携が鍵
 法律、福祉、医療、葬祭。従来縦割りだった領域を横断してチームを組むことが、利用者に寄り添う最適解を生む。

 高橋氏は最後にこう語った。

「おひさぽは、単なる生活支援サービスではありません。誰もが迎える“老い”と“死”に寄り添い、家族の代わりとして一生を支える存在でありたい。私たちはこれを日本の新しいインフラにしていきたいと考えています」

 超高齢社会の進行は止められない。しかし、その不安を和らげ、安心して生き抜く道をつくることは可能だ。おひさぽの挑戦は、「一人でも安心して生き、安心して旅立てる社会」を実現するための実践的モデルケースといえる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

【体験レポ】ICレコーダーはついにセキュリティの課題を超えた——完全オフラインで使えるiFLYTEK最新ボイスレコーダーを使ってみた

 いまや会議や取材の現場で欠かせない文字起こし。しかし多くの文字起こしサービスはクラウド経由で音声を処理するため、「重要な社内会議の音声をアップロードしても大丈夫か?」というセキュリティ上の不安が常につきまといます。

 実際、音声データをクラウド上にアップすることを禁止している企業も少なくありません。いまだ、数時間かけて手動で議事録を作成している、というビジネスパーソンは多いはずです。

 そうした課題を根本から解消するのが、iFLYTEKのAIライティングレコーダー「VOITER SR302Pro」。

 完全オフライン環境で音声のリアルタイム文字起こしが実現されています。

ICレコーダーの革命児「VOITER SR302Pro」とは

完全オフラインでセキュリティ面の不安なし

 従来、文字起こしを行うデバイスは音声認識サーバーを活用することが一般的。オンラインに音声データをアップし、文字に起こします。

 しかし、セキュリティの観点から社内データをオンラインにアップすることを制限している企業も。

 VOITER SR302Proは、デバイス内にAI音声認識エンジンを搭載。リアルタイムで文字起こしされたデータはUSBケーブルによってPCに転送可能です。完全オフラインでの使用ができるため、情報漏洩(ろうえい)の不安がありません。

 機密性の高い会議の議事録など、セキュリティ面での配慮が必要な場合にも安心して利用できます。

集音能力と雑音除去技術は随一

 VOITER SR302Proは、4つの無指向性マイクと指向性マイク2つを搭載しており、360度集音や最大5メートルの発話距離に対応しています。

 講演会など、レコーダーから距離がある音声を拾おうとすると、どうしてもノイズを拾ってしまうものです。そこでVOITER SR302Proは、音声認識の国際コンテスト「CHiME」で2016~2020年に世界No.1を獲得した雑音除去技術を搭載。文字起こしの弊害となるノイズを自動的に判断し、除去します。

 雑音が多い環境でも、音声データそのものをクリアにし、聞き取りにくさを軽減してくれます。

5言語に対応

 日本語だけでなく、英語、中国語、韓国語、ロシア語の5言語に対応しているのも特徴です。中国語は、広東語にも対応しています。

 最初に言語選択を行った上で録音をスタートしますが、すべて録音が終了したあとにも「再文字起こし」機能を使えば文字起こし言語の変更が可能です。

月額料金なしで利用可能

 本体価格は39,600円(税込)と、一般的なボイスレコーダーに比べてやや高額な印象です。

 しかし、完全オフラインでの利用になるため、月額料金は一切発生しないのもVOITER SR302Proの大きな特徴です。

セキュアで直感的。革命的な操作体験

 VOITER SR302Proは、画面のタップやスワイプでの直感的な操作も特徴のひとつ。実際に手にとって操作することで、オフラインの安全性や操作のシンプルさをより実感できます。

 本体右側面の電源を入れると、すぐに起動。

 インターネットに接続する必要がないため、即座に録音が必要な場合は、この状態から赤い録音ボタンを押すだけで録音が可能です。

 録音のモードは
●自動モード
●会議モード
●講演モード
●インタビューモード
 この4つ。複数人の音声データを取りたい場合は会議モード、発話者と距離がある場合は講演モード、狭い範囲で少人数でのインタビューなどの際はインタビューモードと、シチュエーションに適したモードを選択します。

 モード選択後、録音ボタンを押すか画面をタップするだけで録音がスタートします。

 録音が始まると、リアルタイムで文字起こしが始まります。

 録音中に重要なポイントが出た場合は、画面上のフラグをタップするか、本体左側面の音量ボタンを押すことで、文字起こしの中にタグを入れることが可能です。

 録音したファイルは、重要部分であるタグを確認したり、再文字起こしをしたりすることができます。

 再文字起こしのタイミングで、文字起こしする言語があらためて選択できるため、英語の会議を日本語設定のまま録音をスタートさせてしまっても、改めて英語での文字起こしができます。

 PCへのデータ抽出も、ケーブルでつなぐだけで簡単に行えます。

 本体に付属のType-Cケーブルにつないだのち、本体画面から文字起こしデータの抽出か、音声データの抽出かを選択します。

 データ形式は文字起こしデータが Word形式、音声データがwav形式。テキストデータはPCで編集可能です。

 録音のスタートから、デバイス内での文字起こし、PCへのデータ抽出まですべて、インターネット接続不要のオフラインで行えます。

あらゆるシーンで可能性が広がる


 その機能性の高さから、VOITER SR302Proの活用シーンはビジネスからプライベートまでさまざま。

 完全オフラインで使用できるデバイスのため、インターネット接続が難しい場所での利用はもちろん、とくにVOITER SR302Proの真価が発揮されるのは、セキュリティ対策が重要になる場面。まだ公になっていない機密情報が含まれる社内会議や、個人情報の保護が重要な面接などの録音、議事録作成に最適です。

 セキュリティポリシーが厳格な企業などでも安心して使用できるため、これまで手動で数時間かかっていた文字起こしの時間を大幅に削減できます。

 また、ノイズを自動排除し声をきれいに拾ってくれるため、雑音の多い場所での取材やインタビュー、講演会などでの録音にも適しています。

 多言語対応やリアルタイムの文字起こし機能があることで、プライベートでの活用シーンも多く、言語学習の録音や、耳が遠い方とのコミュニケーションを筆談的に行うことも可能です。

 これまで、セキュリティ問題の回避と業務効率化の両立が難しかった音声データの文字起こし。VOITER SR302Proは多くのビジネスパーソンが抱える課題を、AIを活用した完全オフラインでの文字起こしで解決しています。

 セキュリティを守りながら効率化を実現するVOITER SR302Proは、ICレコーダーの常識を塗り替える存在といえるかもしれません。

※本稿はPR記事です。

いまテレビにCM出稿する意義とは? 3人のメディアプランナーが改めて考えてみた

「発注からオンエアまで時間がかかる」「効果測定が限定的」といった課題を抱えていたテレビCM。現在は、これらの課題を克服し、テレビメディアへの出稿をアップデートするサービスが増加しています。

本連載では、高度化するテレビメディアについて、新たに登場しているサービスや、そのサービスを利用した広告主の事例を紹介。広告主のKPIや課題を踏まえて、どのようにテレビCMを活用していけばよいかをお伝えします。

初回は、最前線で広告主と向き合う電通の3人のメディアプランナー、窪谷航氏、山崎博史氏、吉岡俊祐氏が、「いまテレビにCM出稿する意義」について改めて考えます。聞き手は、電通ラジオテレビビジネスプロデュース局で、テレビ出稿や効果計測サービスの開発・PRに携わる秋野里奈氏です。

テレビCM


 

テレビにCM出稿する広告主の数は、4年間、ほぼ変わっていない

秋野:みなさんは、電通のマーケティング局に所属し、メディアプランナーとして、日々さまざまな広告主と向き合っています。主にどのような案件を担当しているのか、教えてください。

窪谷:私は、家電・飲料・IT系などのナショナルクライアントを中心に、パートナーシップ型でメディア戦略の立案から効果検証の考え方、具体的な分析業務までを担務しています。加えて、最近はAIを活用したメディアプランニングの高度化や効率化にも取り組んでいます。

山崎:ECサイトや流通小売り、ダイレクト型保険など、日々の売り上げや申し込みが可視化しやすい企業を多く担当しています。多岐にわたる広告の効果をいかに正しく計測し、広告をいかにクライアントの売り上げにつなげていくかを考えています。

吉岡:私は、アプリやゲーム、食品、イベント施設、エネルギー関連企業など、担当している業種は多種多様です。長期目線で生活者とどのように広告コミュニケーションを図っていくかを考えることが多いです。

秋野:ありがとうございます。昨今、さまざまなSNSやOTT(※)が登場して、広告を出稿する媒体の選択肢が増えてきました。そのような背景がある中で、他の媒体と比べたときのテレビの特長や、テレビにCM出稿する意義についてどのように考えていますか?

※OTT:Over The Top。インターネットを利用することで、マルチデバイスでエンドユーザーにコンテンツを提供するサービス。動画配信サービスやCTVにも対応しているサービスも該当する。


吉岡:デジタルメディアが急激に伸びたために、テレビは、「広告が生活者に届きにくいメディア」だと思われることがありますが、世の中を俯瞰(ふかん)して見ると、テレビの影響力はまだまだ大きいと思います。

窪谷:テレビCMのリーチの面を見ても、テレビの強さはキープできていると思います。下のグラフは、テレビ出稿量の上位500社のM1層(男性20~34歳)へのリーチを約2年間にわたり調べたものです。

テレビCM

窪谷:横軸は、テレビのGRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)で、縦軸がM1層へのリーチ度合いを示しています。M1層はテレビCMが届きにくいといわれていますが、グラフを見ると、リーチ率はそこまで下がっていません。その理由として、「テレビを全く見ない人」はほとんどおらず、 SNSなど見る媒体が増えたことで「テレビは特定番組だけをみる層」が増えているのではと推察されます。つまり、この層が見そうな番組にCMを流すことができれば、テレビのリーチを最大限に得ることができるわけです。

山崎:テレビのリーチは他メディアと比較しても未だ高いですが、以前よりもより一層「打ち方」が重要になってきていますよね。

吉岡俊祐

吉岡:たとえば、大きなイベント番組などにCMを打つと、急激にリーチが伸びるケースもありますし。ターゲット層がどのようなコンテンツに興味を持っているのか、より考えていく必要があるでしょうね。

秋野:なるほど。若者のテレビ離れが指摘されていますが、テレビメディアはプランニング次第で、若年層のリーチも維持できるわけですね。

窪谷:はい。そういった実情もあり、多くの企業がいまもテレビにCM出稿しているのでしょう。ビデオリサーチ社の調査結果を見ると、2021年からの4年間で、テレビに出稿した広告主の数はほぼ変わっていません。出稿量を調整するケースもありますが、テレビCMの価値を感じていらっしゃる広告主は多いと思います。

特に近年はデジタルマーケティングを得意とする企業が、積極的にテレビに出稿しているのも興味深いところです。デジタルとテレビの役割の違いを意識して、メディアを使いこなしている企業が多い印象を受けますね。

テレビCM


 

テレビCMの出稿を考えたい三つのケース

秋野:みなさんは普段、さまざまな広告主のメディアプランニングに携わっているわけですが、テレビCMを考えてみたいケースには、どのようなものがありますか?

ケース①:ターゲットが全人口の10%以上いる場合

窪谷:主に三つあります。一つ目は、商品・サービスのターゲットが、全人口の10%以上いるケースです。というのも、テレビCMはコストパフォーマンスが良いからです。世の中全体に対して広告を投下した場合、テレビCMのCPM(Cost Per Mille:千人当たり到達単価)は200円から300円程度です。一方、完全視聴系のデジタル媒体は、ものによりますがCPMは1500円から3500円ほどかかることが多い。デジタルメディアはピンポイントにターゲットを狙って広告をリーチできますが、広く広告を届ける目的だと、テレビの方が10倍ほど到達効率が良いのです。

吉岡:テレビの到達効率が10倍ということは、テレビで届く対象の中で10%がターゲットだった場合、テレビはデジタルと同等の価値ということでもあると思うので、多くのケースでテレビを使ってみる価値があるといえますよね。

窪谷:潜在的なターゲットを取り込むという意味でもテレビCMは有効です。テレビには、「視聴の同時性」という側面があり、幅広い年代が一緒に同じ番組を見ているケースもあります。このことについて、「ターゲット以外へ無駄に広告を打っているだけでは?」という意見もありますが、マーケットは流動的で、商品を購入する人がずっと同じということは考えにくい。ターゲットとする10%の人だけでなく、今後購入するかもしれない90%の潜在層にも広告を打つことができます。

窪谷航

吉岡:同感です。商品の中には潜在層があらかじめつかめないものもありますからね。

秋野:興味深い考察ですね。テレビメディアの特性として、商品やカテゴリに対しての関心が低い層への到達についてはこれまでも語られてきましたが、これはあくまでも広告投下時点での興味関心を基準とした捉え方ですよね。それを「将来的にターゲットになり得る顧客層」と時間軸を広げて捉え直すと、テレビCM活用の幅がさらに広がりそうです。

ケース②:長期で成長を望む場合

山崎:テレビCMを考えてみるべきケースの二つ目は、長期目線で広告効果を出していきたい場合です。特に3年以上を見据えて、商品・サービスの成長(事業成長)を望む場合は有効だと考えます。

例をお話しします。下表は、テレビや、YouTubeなどの動画広告といった、トップファネル(認知)に訴えるメディアと、リスティングやバナーなど、ボトムファネル(購買)に訴えるメディアの予算の比率を変えると、1年後、3年後、5年後に、売り上げがどのように成長するのかをある事例を基に試算したものです。

横軸のパーセンテージが大きくなるほど、トップファネルに訴えるメディアの予算配分が増えるわけです。1年目の売り上げ成長率は、ボトムファネルへの配分を一定担保した方が高まります。つまり、1年目の売り上げを最大化するだけならボトムファネルを狙って予算を掛けるのは正しい戦略となりえます。

しかし、年数が増えるに従って、トップファネルへの配分を増やした方が成長率が高くなる傾向があります。下表は、各年の、成長率が最大化するトップファネルの予算配分も示しています(青で表示)。これを見ると3年以上先の成長を見据えた場合は、トップファネルに割く割合が大きい方が、高い成長率になることが分かります。

テレビCM
※ある事例におけるデータを活用し、モデルを作成して算出

 窪谷:業界によって数値は差があるでしょうが、肌感的にはしっくりきますね。

吉岡:もちろん、すべての業種や企業が、これらのケースに当てはまるわけではありません。ですが、長期的な成長を考える場合、テレビは大変有効だと思います。

山崎:もちろん短期的な売り上げが必要な場合もあります。ですから、トップとボトム、両方のファネルを考えながら、足元の売り上げも作っていく。そして将来的にも売り上げを上げることを目標に、さまざまな広告効果測定サービスを活用しながら、PDCAを回していくことが大事だと考えます。

窪谷:デジタルマーケティングで顕在層に対して効率的に広告を届けることは各カテゴリで多くの企業が行っているので、そこで差をつけるのは結構難しい場合もありますよね。そういった意味でもトップファネルで、消費者のマインドシェアを高めるのが中長期的な成長につながる有効な対策のひとつになり得るのだと、話を聞いていて改めて感じました。

秋野:中長期の成長率はどうしても読みづらい部分があります。そのため、みなさんのようなメディアプランナーが、広告効果測定ツールを活用しながら、広告主の事業成長に伴走していくことが大事ですね。

山崎博史

ケース③:短期間で広く認知を広めたい場合

吉岡:三つ目のケースは私からお話しします。テレビCMは、短期的なキャンペーンにも効果を発揮します。電通の保有するメディアシミュレーションツールを用いると、2.5億円かけると一週間でデジタルは40%にリーチするのに対して、テレビは70%を超えます。

山崎:期間限定の商品やサービスの認知の他、ブランドイメージの刷新を行うために新しいキャンペーンをローンチする際など、素早く多くの人に伝えたい場合にもテレビCMは効果を発揮します。

秋野:つまり、テレビは、瞬発的に世の中の大きな波をつくることに向いている媒体なんですね。

窪谷:そうです。得意領域が違う、ということですね。デジタルメディアは個人の好みで視聴されるケースが多いですが、テレビには、「共視聴」という特長がありますから。

吉岡:共視聴という視点はマーケティングにおいて重要ですよね。家族の中でテレビCMが話題になることもありますし、1人で視聴するよりもより記憶に残る可能性を持っています。

秋野:なるほど。「ターゲットが全人口の10%以上いる」「長期の成長を望む」「短期間で認知を広める」ケースは、テレビへのCM出稿を検討してみてよさそうですね。

秋野里奈


 

広告効果を分析して、テレビとデジタルを効果的に組み合わせる

秋野:ここからは、テレビCMの効果について考えてみたいと思います。「テレビCMは効果が見えにくい」という声がありますが、この点についてはどのように考えていますか?

吉岡:技術が進歩して、いまはさまざまな分析ができるようになっています。例えば、テレビCMを見て、商品サイトに来訪した、商品を購入した、来店したといったことが把握できる状況が整いつつあります。

また、商品の認知や利用意向といった心理指標での分析、実際に購入したといった行動データの取得も可能になってきています。実際にテレビCMが効率的な購買行動につながっているケースが多数あるので、前述したデジタルマーケティングを得意とする企業もテレビを使い続けているのでしょう。

秋野:テレビCMの効果について、具体的にどのような分析をしていますか?

吉岡:私たちが大事にしている指標の一つは、「純増新規購入者数(テレビCMを打ったことで増えた商品の購入者数)」です。つまり、テレビCMを打たなかったら、売り上げがどれだけ低かったのかを推定することです。

電通と電通デジタルは、複数のデータクリーンルーム環境での分析・運用を一元管理するシステム基盤「TOBIRAS(トビラス)」を2022年に開発しました。TOBIRASを活用することで、テレビと、さまざまなデジタル媒体を全く同じ手法で分析できます。さらに、どの放送局、どのエリアに出稿するのが効率的だったのか、詳しい分析までできますから、次へのアクションにつなげることもできます。

窪谷:他にも電通には、テレビ実視聴データを用いた統合マーケティング基盤「STADIA360(スタジア サンロクマル)」があります。

「STADIA360」は、ユーザーから事前にデータ利用の同意許諾を得たテレビ実視聴データと、さまざまなデータホルダーが保有するデータ群(アンケート・ウェブサイト・デジタル広告接触・アプリ計測・エンタメ・位置情報・購買・顧客の1stPartyデータなど)を連携して、大規模IDデータ分析による多角的なコネクテッドTV上の広告の効果検証が可能です。

STADIA360

山崎:例えば、テレビ実視聴データと、アプリをダウンロードした人のスマホのIDを連携させて、テレビCMを見た人とそうでない人の結果を比較するといったことができます。そうすることで、テレビCMを打ったことでどれくらいアプリがダウンロードされたか、純増効果がはっきり見えるわけです。

吉岡:他にも、いろいろなことが分析できますよね。例えば、バナー広告における顧客の獲得効率は、テレビ出稿期間と非出稿期間で大きく変わることがある。ということは、バナー広告の反応率を引き上げているのは、テレビCMの可能性があります。そういったことを「STADIA360」で分析できるわけです。

窪谷:テレビCMを見て、サイト検索する人もいれば、商品認知はしたけど何も行動を起こさない人もいる。そうかと思えば、CMを見て、ダイレクトに来店や購買につながるケースもある。テレビの効果はマルチなんですよね。そういったことも明らかにできると思います。

山崎:広告主側に立つと、商品やサービスを認知してもらうこと、検索行動をしてもらうこと、購買してもらうこと、どの指標を重視するのか、広告を打つ目的はさまざまです。目的に応じてKPIを設定し、PDCAを回していくことが大事です。

秋野:検索やサイト来訪といった特定の指標だけを重視すると、広告効果の一つの側面しか見えない。ですから、何のためのテレビCM施策なのかを見極めて、広告効果を多面的にとらえる必要があるわけですね。メディアマーケティング全体の効果検証で気を付ける点はありますか?

吉岡:思ったような広告効果が得られないと、各媒体の改善を検討するのではなく、その媒体での広告を止めてしまうケースが見られます。

山崎:冒頭少しお話があったように、テレビCMは効果が出ないと即断されるケースがある。そうではなく、他のメディアとどう組み合わせていけば、相乗効果が出るのかを考えていく必要があります。

吉岡:そうですね。テレビとデジタル、どちらのメディアが効率的に効果を出したかという議論や、効率の良かった媒体だけを活用していく議論になりがちですが、テレビとデジタルを組み合わせた場合の分析もできるので、ていねいにベストケースを探し続けることが必要ですね。

秋野:今回、みなさんにお話を伺って、テレビCMを出稿する意義を改めて考えることができました。次回からは、テレビCMの出稿サービスや効果測定サービスがどのように進化しているのか、実際に活用した広告主の事例も交えて、テレビCMの有効な使い方をお伝えしていきます。

テレビCM

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電通×ヘラルボニー クリエイティブの力で障害のある人たちの「可能性」に光を当てる

「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」が、6月16日から20日までフランス・カンヌで開催されました。世界最大規模のクリエイティビティの祭典は参加者たちの目にどう映ったのか。それぞれの視点でカンヌの「今」をひもときます。

カンヌライオンズのロゴ

第2回は、現地で開催された電通のセミナーをリポートします。登壇したのは、電通のクリエイティブディレクター・長谷川輝波(きなみ)氏とHERALBONY(ヘラルボニー)の共同代表・松田崇弥(たかや)氏。電通とヘラルボニーは、障害に対する世の中の見方をどのように変えようとしているのか。そのカギとなるクリエイティブの力とは。

電通カンヌセミナー

 

障害に対する世の中の見方を、クリエイティブの力で変える

「『障害のある人って、本当に“かわいそう”なんでしょうか? 私たちは、クリエイティブの力でその見方を変えたいんです』」

セミナーの冒頭、電通のクリエイティブディレクター・長谷川輝波氏が紹介したその印象的な言葉は、2019年にヘラルボニーの共同代表である双子の兄弟・松田崇弥氏、文登(ふみと)氏と初めて対面したとき、彼らから投げかけられたものだった。その瞬間、長谷川氏の中で何かが変わったという。

「彼らは私に、一つのアートが描かれたアイテムを贈ってくれました。それは、知的障害のあるアーティストが描いた素晴らしいアートで、彼らが立ち上げたばかりの“ヘラルボニー”というブランドのものでした。その出会いは、私の『障害』に対する見方、そして『クリエイティブ』に対する考え方、さらには(障害のある)いとこの存在(への向き合い方)にまで、変化をもたらしました」

長谷川氏とヘラルボニーは、2021年から取り組みを開始し、昨年、電通とヘラルボニーは「Future Creative Partnership(未来のクリエイティブ・パートナーシップ)」という連携をスタートさせた。活動を通して、障害に対する世の中の見方を変えることに挑んでいる。

日本には知的障害のある一方で、力強く、深く心を打つアート作品を制作している人がいる。しかしその作品の多くは、ほとんど無償に近い形で寄付と引き換えに提供されている。クオリティの高い作品であるにもかかわらず、それで生計を立てることは難しいのが現実である。

そんな状況に対して、ヘラルボニーは前例のない挑戦を続けている。契約する知的障害のあるアーティストの作品には、繰り返し表現されるパターンや模様が多く見られる。この特徴を生かし、ブランドとして、ドレスやショールなどのファッションアイテム、ライフスタイル製品を展開。さらに、そのデザインはホテルのインテリアや航空会社のアメニティ、他企業とのコラボレーションにも広がっている。

ヘラルボニーのこの取り組みは世界中で話題となり、大きな注目を集めた。「社会と生活のあらゆる空間の中に入り込んでいくことができるビジネス」として、6年間でブランドは大きく成長。ヘラルボニーの取り組みによってアーティストの収入は、15.6倍も増え、生活を支えることができる水準となった。

プレゼンターとして登壇する電通・長谷川輝波氏
プレゼンターとして登壇する電通・長谷川輝波氏

“HOPE CREATIVITY(希望の創造性)”

長谷川氏は、ヘラルボニーとの活動を通して、大切なことに気づいたという。

「これまで、“障害”とクリエイティブの関わりといえば、『課題を解決すること』や『困難を乗り越えること』が中心でした。もちろん、それも大切なことです。でも私は、クリエイティブにはそれ以上の可能性があると信じています。クリエイティブの力で、障害のある人の『可能性』や『希望』に光を当てること。それが、私たちが目指すかたちです」

その実例として、電通の代表的な取り組みを紹介した。

●「鳥肌が立つ、確定申告がある。

ヘラルボニーと契約するアーティストの両親から「息子のアートの収入が増えて、確定申告が必要になったんです」との報告を受けたのをきっかけに、「鳥肌が立つ、確定申告がある。」というタイトルのキャンペーンを展開。左側に確定申告書類、右側にアーティストの家族の心温まるストーリーを配置したポスターを制作、国税庁へとつながる東京メトロ千代田線・霞ケ関駅A13出口付近をはじめとする東京メトロ駅構内3カ所に掲出した。

●「鏡を使わないメークレッスン

化粧品を通じて美容を発信するポーラとソーシャルエンターテインメント・プログラムを提供するダイアローグ・ジャパン・ソサエティ、電通が共創した視覚に障害のある人のためのプログラム。参加者は、手の感覚をたよりに肌をケアし、色をのせ、自分らしさをメークで表現していく。障害の有無のボーダーを超えて、日常の中に、美しさと自信、そして喜びを届ける取り組みで、「クリエイティブが人生を豊かにする」一例である。

●「Visiongram(ビジョングラム)」

視覚に障害のある人が「世界をどう見ているか」を可視化するプロジェクト。検査データをもとに、人によって異なる「見え方」をパーソナライズしたフィルターを開発、他の人が「視覚障害のある人の見え方」を体験できるようにすると同時に、当事者自身が「自分にはこう見えている」と周囲に伝える手助けにもなっている。本人でさえ説明が難しく、親でさえ想像できなかった「見え方の世界」を共有することで、共感が生まれ、本当の意味でインクルーシブな社会の実現へとつながっていく。「クリエイティブが人と人をつなぐ」一例である。

これらの実例は、長谷川氏が“HOPE CREATIVITY(希望の創造性)”と呼ぶ新しいアプローチを象徴している。それは、障害のある人たちの「可能性」や「希望」、そして「喜び」に光を当てるクリエイティブである。

障害のある人が心から尊重される世界をつくる

続いて登壇したヘラルボニーの共同代表の松田崇弥氏は、ヘラルボニーの存在意義について、次のように語った。

「ヘラルボニーは、日本を拠点とするアートライセンシング企業です。私たちは、知的障害のあるアーティストたちの持つ圧倒的な創造性を、さまざまなコミュニケーションの形へと展開しています」

「ヘラルボニーは『慈善活動』ではありません。持続可能なビジネスです。私たちは、(障害のある人が)『支援される側』としてしか見られない社会の仕組みを変えたいと考えています」

松田氏がヘラルボニーを創設したきっかけは、知的障害のある兄の存在だという。

「彼は、笑います。悲しむこともあります。怒ることもあるし、ちゃんと感情があります。それなのに——彼のことを“かわいそう”だと言う人が多かったのです」

「私の使命——それは、障害のある人が心から尊重される世界をつくることです」

「私たちは、彼らの唯一無二のアートを、バッグや靴下、シャツなど、さまざまな製品へと展開しています。私たちは、日本各地にショップやギャラリーを展開しています。そして一番大事なのは、純粋に『美しい』『かっこいい』と思えることなんです」

プレゼンターとして登壇したヘラルボニーの共同代表の松田崇弥氏
プレゼンターとして登壇したヘラルボニーの共同代表の松田崇弥氏

ヘラルボニーは、多くの企業と多数のプロジェクトを実施してきた。2000点以上のアート作品のデータコレクションをパートナー企業に仲介することで、ライセンス料はアーティストに還元される。

「私たちのビジネスの中心にいるのは、アーティストです。彼らのクリエイティビティは、表現を通じて社会に貢献し、きちんと収入を得ることにつながっています」

「あるアーティストは『黒い丸』だけをひたすら描き続けています。あるアーティストは『迷路』という概念を、ひたすら無限に描き続けています」

「あるアーティストはすべての色を『同じ量』だけ使うことにこだわります。あるアーティストは女性の姿だけを繰り返し描き続けています」

「知的障害は、『その人にしか描けない表現』の筆になり得る。つまり、個性あふれる創造性を生み出す手段になるのです」

ヘラルボニーが最初に契約を結んだアーティスト・小林覚(さとる)氏によるライブパフォーマンス
ヘラルボニーが最初に契約を結んだアーティスト・小林覚(さとる)氏によるライブパフォーマンス。文字や言葉、数字を一つの流れの中に融合させるユニークなスタイルが特徴

ヘラルボニーの活動は、社会に対しても大きなインパクトを与えている。この10年で収入が300倍になったアーティストもいる。最初は「こんなの、ただの落書きだよ」と言っていた両親も、今では「うちの子を誇りに思います」と喜んでいるという。

昨年、ヘラルボニーは国際的なアートアワード「HERALBONY Art Prize(ヘラルボニー・アートプライズ)」を立ち上げた。この賞には、多様なバックグラウンドを持つアートの専門家たちが審査員として集まっている。今年は2650件もの作品応募が65の国・地域から寄せられた。

こうした取り組みが評価され、昨年、ヘラルボニーは「LVMHイノベーション・アワード」を受賞した。これは、日本のスタートアップとして初の快挙である。

電通とヘラルボニーは、Future Creative Partnersとして、HOPE CREATIVITYの力を通じて、多様な未来を創り出すチャレンジを今後も続けていく。「障害」というテーマを中心に据え、日本国内外のさまざまなパートナーと連携しながら創造性を通じた新しい可能性をひらいていく。

最後に松田氏は、ヘラルボニーというブランド名の由来について、こう語った。

「ヘラルボニー——このブランド名は、兄が由来なんです。知的障害のある彼は、ノートにひたすらヘラルボニーと書き続けていました。『この言葉に、どんな意味があるの?』と兄に尋ねると、彼はこう答えました——『わかんない!』」

「そんな兄が生み出した言葉は、世界中の検索でヒットする言葉に変わっています。知的障害のある兄と一緒に育つ中で、私はよくからかわれたり、バカにされたりしました。でも、兄・翔太という存在がいてくれたおかげで、私たち双子は誰のことも見下さない人間に育つことができました」

「今日はヘラルボニーの本当の創業者、私の兄・翔太がここに来てくれています!」

会場から湧き上がる拍手に包まれて登壇した松田翔太氏は、ヘラルボニーのアイデンティティを象徴するメッセージを叫んで、セミナーを締めくくった。

「HERALBONY, BEYOND LABELS !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

会場から湧き上がる拍手に包まれて登壇した松田翔太氏

 

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