日本の印刷市場、ようやく“脱グラビア”か…旭化成、低環境負荷の印刷技術を開発

●この記事のポイント
・日本の包装印刷市場は長年グラビア一強だったが、環境負荷の低い水性フレキソ印刷が注目され、普及が模索されている。
・旭化成は真水現像や廃液リサイクル技術を活用し、印刷版と専用装置をセットで提供することで品質と環境対応を両立させている。
・2030年に向け溶剤現像版を廃止する方針のもと、水性フレキソ印刷の普及を進め、日本の印刷業界の構造転換を狙う挑戦が始まっている。

 日本の食品・日用品の包装印刷市場は長年「グラビア印刷」が主流だった。しかし、欧米で急速に普及する「フレキソ印刷」の波は、ついに日本にも押し寄せつつある。中でも、環境負荷を大幅に抑えられる「水性フレキソ印刷」が注目を集めている。旭化成は、真水で現像可能な樹脂版や廃液リサイクル技術など独自の開発力で、グラビア一強の日本市場に挑む。品質維持と環境対応を両立させるその挑戦は、印刷業界の未来を変える可能性を秘めている。

●目次

グラビア一強の日本市場に迫る「水性革命」

 食品や日用品の包装に欠かせないパッケージ印刷。日本では長らく「グラビア印刷」が主流を占めてきたが、欧米ではすでにフレキソ印刷が半数以上を占める。さらにいま、世界的に注目を集めているのが「水性フレキソ印刷」だ。

 旭化成の感光材事業部長・加藤 昭博氏はこう指摘する。

「アメリカやヨーロッパではフレキソ印刷が主流になりつつありますが、多くはまだ溶剤インクです。日本はグラビアからいきなり水性フレキソに挑もうとしており、技術的な難易度は高いですが、その分環境面で大きな意味があります」

 旭化成は「マテリアル・住宅・ヘルスケア」の3領域を柱にする総合化学メーカー。その中で感光材事業部は、光で固める特殊樹脂を用いた印刷版を提供している。段ボールやラベル、食品包装フィルムなど生活に密着した用途が中心だ。

 1973年に事業化し、現在は世界70カ国以上に製品とサービスを展開。印刷版だけでなく、製版装置や技術サポートを含む「システム」として提供するのが特徴である。

「単に版を売るのではなく、お客様が安定した印刷品質を得られるよう、装置や技術サービスを含めてサポートしています」と加藤氏は強調する。

真水とリサイクル――旭化成独自の技術

 水性フレキソ印刷の普及に向けて、旭化成が打ち出す差別化の柱は2つだ。

 第一に真水現像。従来は洗剤や溶剤を用いて現像する必要があったが、旭化成は水道水だけで現像できる樹脂板を開発した。

 第二に廃液リサイクル。製版工程で出る廃液を90%再利用できる「AWP-LOOPTM」という装置を開発した。

「真水で現像できるという点は他社にない大きな特徴です。また廃液を再利用できることで、環境負荷を大幅に抑えることができます」と加藤氏。

 一方で、技術的には難題もあった。水で現像できるなら水性インクに弱いのではないかという懸念だ。

「水で現像できる樹脂板は、水性インクを使えば溶けてしまうと考えるのが自然です」と加藤氏は振り返る。

「そこで我々が培ってきた感光材の技術を活かしました。光で固めることで性質が変化し、水性インクに耐える版を実現できたのです」

 さらに、版だけでなく専用装置を含めて開発したことも重要だった。印刷会社がスムーズに導入できるよう、樹脂板と装置の「セット設計」で品質と効率を両立させている。

 実際の成果も出始めている。大手ブランド企業と共同で行った実証では、油性グラビアから水性フレキソに切り替え、ほぼ同等の品質で市場投入が実現したという。

「印刷の品質については、ほぼグラビアと同等まできています。ただし課題はインフラです。水性インキを使える印刷機がまだ少なく、大量生産の受注に対応できるかがネックになります」と加藤氏は語る。

普及を阻む壁――インフラとコスト

 水性フレキソの普及には大きく2つの壁がある。

 1.印刷機インフラの不足
 フレキソ印刷機が国内にはまだ少なく、生産能力の点で制約がある。

 2.コスト競争力の確保
 前後工程がグラビア用に整備されているため、印刷だけを変えてもコストで劣る場合がある。

「サステナブルな要求は確実に増えていますが、一方でブランドオーナーはコスト面も非常に重視しています。そのバランスをどう取るかが最大の課題です」と加藤氏は率直に語る。

 旭化成は課題克服に向けて、印刷機メーカーや海外企業と積極的に連携している。

 ・英国Hamillroad社の「Bellissima DMS」(高精細スクリーン技術)
 ・ESKO社の「Equinox」(ECG印刷に適したスクリーン技術)

 これらを組み合わせ、品質とコストの両立を図る。さらに、国内外でデモセンターを立ち上げ、実際の印刷品質を体験してもらう営業活動も進めている。

「実際にお客様に見ていただき、『これならグラビアから切り替えられる』と納得してもらうことが重要です」と加藤氏は言う。

2030年「溶剤ゼロ(Solvent ZERO)の実現」へ

 旭化成は2030年に向けて、溶剤現像版(AFPTM)の展開を徐々に縮小し、水現像版(AWPTM及びAPRTM)に注力する事業方針(「Solvent ZERO」)を打ち出している。

「2030年以降は溶剤現像版はつくらない、という覚悟を持って水現像版の普及に取り組んでいます」と加藤氏。

 環境規制が強まるなか、先手を打って事業構造を転換する狙いだ。

 印刷業界は環境規制だけでなく、人手不足という課題にも直面している。過酷な現場環境では人材が集まりにくく、持続的な生産が難しくなる。

「日本の印刷市場はグラビア中心で品質は高いですが、その現場環境は過酷です。10年、20年先を見れば、水性を中心に印刷方式が切り替わっていくのは間違いないでしょう」と加藤氏は展望を語る。

 旭化成の挑戦から見えてくるのは、「環境対応をいかに競争力に変えるか」という視点である。

 ・真水現像や廃液リサイクルといった独自技術
 ・製品だけでなく装置・サービスを含めたシステム提案
 ・2030年以降は溶剤現像版を作らないという事業の構造転換

 これらは単なる技術革新ではなく、産業の構造転換を伴う挑戦だ。

 水性フレキソ印刷は、日本の印刷市場に新たなスタンダードをもたらす可能性を秘めている。そしてその動きは、環境とビジネスの両立を模索するあらゆる企業にとって学びとなるはずだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「好き」を力にすると、どんなことができる?~カレー研究家・一条もんこ先生と、スパイス部の挑戦

「好きを力に仕事をする」をテーマに、社員の個人的な関心や情熱を起点に活動する、電通第2マーケティング局(以降、第2MK局)のプロジェクト「BUKATSU」。今回は、カレーやスパイス料理に興味を持つメンバーが集まった「スパイス部」の部長・沼田実伽子氏に話を聞きます。

いまでは社内外を巻き込む活動へと広がりを見せているスパイス部。同部と一緒にお仕事をされている縁深い存在が、カレー研究家の一条もんこ氏です。沼田氏と一条氏の対談を通して、「好き」を突き詰めることが、どのように仕事や人生を動かしていくのかを深掘りします。

一条もんこ



 

カレーとスパイスに魅せられて

──まずは、一条先生のお仕事を教えてください。

一条:私は「カレー研究家」と「スパイス料理研究家」、2つの肩書きで活動しています。月40回ほど料理教室を開いていて、これまでに累計1000人を超える生徒さんが学ばれました。他に、レトルトカレーや飲食店の商品開発をしたり、食品メーカーの公式レシピを考案したり、地域の町おこしやイベントにも携わっています。横須賀や出身地・新潟のカレー大使も務め、とにかくカレー漬けの日々です(笑)。

──スパイス料理研究家になった経緯は?

一条:私は田舎育ちで、ほぼ自給自足のような環境だったこともあり、小さいころから料理をするのが好きでした。中でもカレーは、同じレシピでも作る人によって味がまったく違う。その奥深さに魅了され、学生のころには「カレーを仕事にしたい」と思うようになりました。

独立するまで、フレンチやイタリアン、インドカレー店、大手カレーチェーンなどなどいろいろな飲食店で修業をして、10年以上経験を積みました。その中で「人に教えるのが好き」という自分の特性にも気づき、料理教室の先生という道に強く引かれていきました。

特に憧れていたのが、フレンチとイタリアンを中心に、さまざまなジャンルの料理を教えている、料理研究家の川上文代先生です。「料理を教える立場なら、あらゆるジャンルの料理を知っていなければならない」という、学びに対する貪欲な姿勢を持ち、「決めたことは絶対にやる」という信念や自分を信じる強い気持ちのある先生で、私が思い描く理想の姿を体現されていました。実際に先生のもとで調理アシスタントとして多くのことを学ばせてもらい、大変貴重な経験になっています。そして、2020年、ようやく自分のスタジオ「Spice Life」を構えて、スパイス専門の料理教室を本格的にスタートさせました。

沼田:一条先生の料理教室は本当に大人気で、現在、約300人の生徒さんがアクティブに学ばれているんですよね。もう年末の予約まで埋まってしまうほどです。

一条:教室は少人数制で、生徒さんとの距離がとても近いんです。ただ料理を学ぶだけではなく、スパイス料理を食べながらコミュニケーションを楽しむ場にもなっています。下積み時代からずっと思い描いていた仕事なので、水を得た魚のようにアウトプットできるこの環境が、本当に楽しくて。これまでたくさんインプットを重ねてきたので、今は教えることが何よりの喜びです。

一条もんこ

──沼田さんの普段のお仕事とスパイスとの出合いについて教えてください。

沼田:私はマーケティング・コンサルタントとして、メディア領域を中心に、大手通信キャリアやグローバル企業などのキャンペーンの立案や、実施後の効果検証などをするのが主な業務です。

私には10歳年上の姉がいるのですが、姉のパートナーは、私が小学生のころから面倒を見てくれてお兄ちゃんのような存在でした。彼が私をスパイスの世界に誘ってくれたのです。彼はエスニック料理好きで、インド料理店やタイ料理店によく連れて行ってくれました。家では食べたことのない刺激的なスパイス料理にたくさん出合い、どんどんスパイスの魅力にハマっていきました。

──飲食店や食品メーカーなど、スパイス関係の仕事に就こうと思わなかったのですか?

沼田:当時は「好きなこと」と「仕事にすること」は別だと思っていましたし、スパイス以外にもいろんな分野に興味があったので、幅広く知見を広げていきたいと考えていました。だからこそ、今の仕事を選んだのだと思います。

──現在は、BUKATSUのスパイス部の部長を務めていますが、スパイス部を立ち上げた経緯を教えてください。

沼田:私は電通の第2MK局に所属していて、当局には局員が自己紹介や趣味・特技などを書く「プロフィールシート」があります。その中の「好きな食べ物」の欄に、「カレー」と書く人がすごく多くて。それを見た先輩が「みんなでカレーランチに行こうよ」と声をかけてくれたんです。

いざ集まって話してみたら、みなさんカレー愛がすごくて、話がとても盛り上がりました。しかも、みなさんカレーだけでなくスパイス全般が好きなことが分かったんです。これだけスパイスに熱量を持った人がたくさんいるなら、一緒に活動すれば、スパイスの新たな楽しみ方を見つけたり、スパイスの魅力を多くの人に伝えたりできるかもしれない。そう考えて、2024年にスパイス部を立ち上げました。現在は十数人のメンバーで活動しています。

沼田実伽子


 

ファンから“共創する仲間”へ。「好き」を軸に信頼関係を築く

──スパイス部を立ち上げた後、一条先生とはどのように出会ったのですか?

沼田:実は、一条先生との出会いはスパイス部よりもずっと前なんです。2020年に先生がカレーの料理教室を始めるという投稿をSNSで拝見して。すごく行きたかったんですが、すでに募集が締め切りになっていました。でも諦めきれずにダイレクトメッセージを送ってみると、運良くキャンセルが出たタイミングでご連絡をいただいて。それが最初のご縁でした。

──そのときは、お仕事ではなくプライベートでの参加だったんですね。

沼田:そうです。まだスパイス部もないですし、一人のファンとしてレッスンを受けに行きました。

一条:(沼田)実伽子ちゃんが来てくれたのは、たしか料理教室を始めて2カ月後くらいのタイミングだったと思います。最初に立ち上げたとき、ありがたいことに数百人単位で応募が来て、すぐに募集を締め切ったんです。それでもわざわざ連絡をくれたことがすごくうれしかったんですよ。空きが出たら絶対に来てほしいと思っていたのを覚えています。

──現在は一緒にお仕事をされているんですよね。どういう流れでお仕事につながっていったのでしょうか?

沼田:頻繁にレッスンに通うようになり、あるときから先生のイベントのお手伝いもするようになりました。徐々に関係性が深まっていく中で、2024年に私がスパイス部を立ち上げる話をした時に、「何か力になれることがあれば手伝うよ」と言っていただいたんです。

一条:私は基本的に全部一人でやるタイプで、イベントも仕込みから当日の運営まで自分で完結させることが普通でした。でも実伽子ちゃんは空気感が合うというか、自然と頼れる存在だったんですよね。初めてお手伝いしてもらったのが、吉祥寺のカレーフェスティバル。そのときにアシスタントをお願いしてみたら、想像以上にがんばってくれて。

一条もんこ
一条氏が出店した、吉祥寺のカレーフェスティバルでの一コマ。

──頼ってみて、手応えを感じました?

一条:めちゃくちゃ感じました。むしろ、自分が変わるきっかけにもなったんです。今までは人にお願いするのが苦手だったんですけど、やってみたらこんなに楽しいんだって思えた。かつて私が川上文代先生のアシスタントとして学んでいたころの、あの“キラキラした自分”を、今の彼女に重ねているところもあるかもしれません。娘のような、妹のような、そんな存在です。

──沼田さんは、お手伝いを電通社員としてではなくプライベートでやっていたんですよね?

沼田:そうです。私も一条先生をお姉さんのように思っているので、「お姉ちゃんが困っているなら助けたい」という気持ちと、カレー業界を一緒に盛り上げたいという思いでお手伝いしていました。引き続きレッスンに通いながら、カレーのイベントをお手伝いするという日々が何年か続いて。そんな中でスパイス部が創設されました。

スパイス部の立ち上げ時に社内でオンラインイベントをやることになり、そこで初めて先生にご協力いただいたのです。オフィスと料理教室をオンラインでつなげて、バターチキンカレーとチーズナンの作り方を教えていただく社内向け料理教室を実施しました。

スパイスで社会課題解決!?広がるスパイス部の活動

──現在、スパイス部は先生とどういった取り組みを進めているのでしょうか?

沼田:まだ種まき段階のプロジェクトが多いのですが、その中でも一番大きいのが「日本シーフードカレー協会」の立ち上げ準備です。

──日本シーフードカレー協会……ですか?

沼田:はい。ホフディランの小宮山雄飛さんという、カレー好きで有名なアーティストの方がいらっしゃって、その方から「カレーで食の社会課題を解決できるんじゃないか」というお話をいただいたのがきっかけです。というのも、ここ20年ほどで日本の魚介類の消費量が激減し、その影響で漁獲しても消費されずに廃棄されてしまう魚が増えているんです。これはフードロスの観点からも大きな課題だと感じています。

そこで、みんなが大好きなカレーと魚介を組み合わせて「シーフードカレー」という形で再注目してもらうことで、魚の消費促進にもつなげられるんじゃないかと。情報発信やイベントなどを通じて、そうした流れをつくろうとしています。

一条:もともと小宮山さんとは、カレー業界で長くご一緒してきた仲です。その彼と会話する中で、シーフードカレーってなかなか主役になれない存在だけど、実はとても可能性がある。その価値をもっと広めたいという話になり、私たちカレー業界の人間だけで伝えるのではなく、ちゃんと形にして協会として発信しようと考えました。そして、「この動きを広げていけるのは実伽子ちゃんしかいない」と思い、彼女に事務局長をお願いしました。

──具体的にはどんな活動を?

一条:たとえば、先日は巨大なサザエを丸ごと使ったシーフードカレーを作って、YouTubeで配信しました。

画像をクリックすると動画がご覧いただけます

一条もんこ
一条:エンタメ要素も強いのですが、「こういう食材もカレーになるんだよ」という可能性を感じてもらえるきっかけになると思って。今後は自治体やご当地食材とコラボして、新しいシーフードカレーの形を提案していけたらと考えています。

──スパイス部として、企業との仕事は他にもありますか?

沼田:進行中の案件はありますが、まだ世に出ていないものが多いです。たとえば、食品メーカーから「近年では、レトルトカレー市場がルゥ市場を抜いたという背景もあり、若年層を中心に自宅でカレーを作る人が減少しているという課題にどう向き合えばいいか」といったご相談をいただくことがあります。そういった課題に対して、「どんな価値観や表現が今の若者に響くのか?」という視点で提案をしています。

それ以外にも、社内のほかのチームや営業担当から「スパイス部の知見を借りたい」と相談されることもあります。そうした横の連携も活用しながら、スパイス部の活動の幅を徐々に広げています。

沼田実伽子


 

好きだから、「疲れた」じゃなくて「やりきった」に変わる

──今回のテーマでもある「好きを力に仕事をする」という考え方について、どのように感じていますか?

沼田:私はもともと、仕事を通して新しい世界を知ることにやりがいを感じていたんです。電通では幅広いジャンルの案件に関わる機会が多くて、それまではまったく接点がなかった分野を知ることができる面白さがあります。

その一方で、自分が好きな「スパイス」というテーマに向き合うようになってから、いままでとは異なるエネルギーの使い方をしていることに気がつきました。無理難題にもチャレンジできるし、好きなことを仕事にすることって、こんなにも原動力になるんだなと実感しています。

それから、私にとっては当たり前だった知識が、他の人にとっては新鮮に感じることもあるのだと知りました。たとえばカルダモンというスパイスの話をしたときに、「どうやって使うの?」「どんな効能があるの?」といろいろ質問されて、私が持っている知識って、人の役に立つものなんだなって。そうやって自分の「好き」が価値になるというのも、大きな気づきでした。

BUKATSU
上から時計回りに、カレーリーフ、シナモン、メース、チリペッパー、クローブ、カルダモン。中央はスターアニス。

──スパイス部の他のメンバーの取り組みを見ていて、好きを力に仕事をすることの魅力をあらためて感じることはありますか?

沼田:スパイス部にはインドに駐在していたメンバーもいれば、スパイスの効能をダイエットに取り入れている人もいます。みんなアプローチが違っていてすごく面白いですし、年齢や性別も多様で、新入社員から部長まで役職も関係なくいろんな意見が飛び交う。それぞれの得意な分野や視点があるので、「若年層のカレー離れ」をテーマにブレストしたときも、いろんな角度からアイデアが出て、すごく刺激的でした。

しかも、普段の会議だと売上目標やKPIなどの数値を念頭に議論しますが、スパイス部の打ち合わせでは「いかに楽しくこの会議を終えるか」をゴールにしています。だからこそ、より自由に、フラットに話ができる。「スパイスをどうやったら好きになってもらえるか?」ということを、純粋に考えられる場になっています。

──先生は、好きを力に仕事をすることの意義をどう考えていますか?

一条:私は昔から“カレーで生きていく”と決めていました。でも最初は、めちゃくちゃ反対されましたよ。「カレー専門の料理研究家で生活できるわけない」と、誰にも賛同してもらえませんでした。でも、前例がないなら自分で作ればいいと思って、とにかく修業を重ねて、どんな料理の質問にも答えられるようにいろんなジャンルを学んで、下積みを重ねました。好きなことを仕事にするために腹をくくって、覚悟を持って進んできた感じです。

ありがたいことに、4年くらいほとんど休まず働いていたこともありますが、それがつらいと思ったことは一度もありません。仕込みも洗い物も、全部楽しい。「今日は仕事だから嫌だな」っていう感覚が一切ないんです。これはすべて好きからはじまったからこそできたことだと思います。

沼田:分かります。普通だったら「疲れたな」って思うようなことでも、「がんばったな」に変わるんですよね。

一条:そう。身体的には疲れても、精神的には全然疲れない。むしろ、やりきったっていう爽快感がある。好きっていうのはパワーなんです。やらされていることじゃなくて、自分の意志でやっていることだから、全部がプラスに働く。好きというか、もはや愛ですよね(笑)。

一条もんこ


 

スパイス料理をもっと身近な存在に。そしてスパイスで世界を幸せに♡

──スパイス部としての活動を続けていく中で、社内外からの反応はいかがですか?
 
沼田:最近は「スパイス部、楽しそうだね!」って声をよくかけてもらいます。BUKATUの中でも活動頻度が高く、部員数も一番多いので、注目される機会が増えてきたのかなと感じています。だからこそ、今後はもっと社内外に輪を広げて、「好きを力に仕事をする」を象徴するような存在になれたらうれしいです。

──先生が今後チャレンジしたいことを教えてください。

一条:今は“自分の城”(常設の料理教室)を持てたことで、大きな目標の一つは達成した気持ちもあるのですが……。最近、家電量販店とコラボしてレトルトカレーを販売したら、想像以上に反響がありました。カレーって、実は異業種とのコラボレーションにすごく可能性があります。

たとえば、音楽イベントとのコラボや、ライブグッズとしてのカレーの監修、プロレスラーのカレーを開発したこともあります。私は裏方として監修するのが得意なので、名前が出なくても“おいしいカレーを仕込む影武者”のように、世の中のカレーを全部おいしくしていきたいなと思っています(笑)。

沼田:私が楽しみにしているのは、今後スパイス料理がもっと当たり前の存在になっていくことです。最近だと、ビリヤニがコンビニで売られるようになっていたり、専門レシピ本が続々と出ていたりして、「え、こんなに身近になってきたんだ!」って驚く瞬間があります。先日、あるイベントをお手伝いさせていただいたのですが、某有名店のビリヤニが何と5時間待ちになっていて、徐々にメジャー料理になりつつあるのだと実感しました。

一条:実は10年くらい前、私もビリヤニ専門店で働いていたことがあったんですけど、そのころはまったく浸透していなくて、残念ながらお店も1年半で閉店してしまって。でもいまではコンビニに並ぶようになって、やっと時代が追いついてきたなという感覚があります。

コロナ禍でおうち時間が増えたこともあって、一時期スパイスへの関心がグッと高まりましたよね。今は、料理以外に時間を使う人が増えたことから、スパイス市場はやや停滞していますが、コロナ禍を経てスパイスに対する苦手意識は着実に減り、日常的な存在になっています。だから、ビリヤニブームのように、スパイス料理が市民権を得ていく事例は今後も増えていくと思います。

沼田:楽しみですね。スパイス部としてもその変化の兆しを捉え、一条先生のお力も借りながら、スパイスの魅力をもっと社会に広めていきたいです。

一条もんこ

sns

増加の一途をたどる独居高齢者…法律、福祉、医療、葬祭の専門家が連携して支援

●この記事のポイント
・トリニティ・テクノロジーが展開する「おひさぽ」は、高齢者の生活・終末期・死後までを一気通貫で支援する新サービス。
・身元保証や死後事務など、家族に頼れない不安を解消し、株式会社ならではの持続可能な仕組みを構築。
・法律、福祉、医療、葬祭の専門家が連携し、「一人でも安心して生き、安心して旅立てる社会」を目指す。

 日本は世界でも類を見ない超高齢社会に突入している。2025年には団塊世代がすべて75歳以上となり、医療・介護・生活支援の需要はますます増える。その中で顕在化しているのが「頼れる家族が身近にいない」という課題だ。

 独居高齢者は増加の一途をたどり、病院や施設入所の際に必要とされる身元保証人や、認知症発症後の財産管理、亡くなった後の葬儀・手続きなどを担う存在が不在となるケースが少なくない。「もしもの時に誰が助けてくれるのか」という不安は、財産や健康だけでなく「日常生活そのもの」を覆い、本人の尊厳や安心感を脅かしている。

 こうした現実に正面から向き合い、新しいセーフティネットを提供しているのが、トリニティ・テクノロジー株式会社のおひさぽ事業本部だ。本部長の高橋泰浩氏に、同社が展開する「おひさぽ(おひとりさまサポート)」の取り組みと意義を聞いた。

●目次

「おひさぽ」とは何か

 サービス名は「おひとりさまサポート」の略だが、必ずしも“完全に一人暮らし”の人だけが対象ではない。高橋氏はこう説明する。

「実際にご契約いただいている方の半数は、将来的におひとり様になる可能性がある方や、ご家族がいても頼れない事情を抱える方です。私たちは“頼れるご家族が近くにいない方”に向けたサービスとして訴求しています」

 おひさぽの大きな特徴は、人生のステージごとに必要となるサポートを網羅的に提供している点だ。

 元気な時期:見守りサービス、緊急連絡体制、電力使用量を活用した生活モニタリング
 入院・介護期:身元保証、事務手続き代行、財産管理、任意後見契約の履行
 終末期:尊厳死宣言書作成支援、医療方針の明確化
 死後:葬儀や火葬、納骨、死後事務の代行、遺言書作成支援、預託金の信託保全

 つまり「元気なうちから亡くなった後まで」を一気通貫でカバーする仕組みを構築している。

立ち上げの背景にあった「家族信託」の限界

 トリニティ・テクノロジーの前身は司法書士法人。もともと「家族信託」に力を入れ、認知症による資産凍結を防ぐサービスを展開していた。

 しかし、その対象は「頼れる家族がいる人」に限られていた。現場で相談を受けるうちに「そもそも頼れる家族がいない人」の声が大きくなっていった。

「資産を守る仕組みは整えても、本人の生活や終末期、死後のことまでは守れない。家族の代わりを担う存在が必要だと痛感しました。私たちのミッションは“超高齢社会の課題を解決し、ずっと安心の世界をつくること”。おひさぽはまさにその理念を具現化したものです」

 依頼が最も多いのは「身元保証」。病院や施設に入る際に保証人を求められるが、近くに家族がいない人は困窮する。次いで多いのは「死後事務」。

 高橋氏は強調する。

「突然の事故や病気は誰にでも起こり得ます。『もし明日、自分に何かあったら』と考えると、漠然とした不安を抱える方は多い。おひさぽはその不安を現実的に解消する仕組みです」

他社との差別化――株式会社だからこそできる安心

 高齢者向け支援事業は、非営利団体や小規模事業者が担うケースが多い。しかし、おひさぽは「株式会社」として展開している。

「お客様の人生を10年、20年、30年と支えるには、体力のある企業でなければならない。私たちは上場を目指し、資金力やガバナンスを強化しながら事業を継続できる体制を整えています。信託会社と連携して預託金を分別管理しているのも、長期的な安心を提供するためです」

 さらに、法律専門家だけでなく、ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカー、葬祭業の専門家など多様な職種をチームに迎え、顧客一人に対して“ワンチーム”で伴走する体制を築いている。

超高齢社会における「学び」

 おひさぽの事例は、ビジネスパーソンにとっても多くの示唆を含んでいる。

社会課題は断片的に解決しても足りない
 資産管理、介護、葬儀などは一見別の問題に見えるが、実際の利用者からすると一連のライフイベントの連続だ。部分的なサービスでは「安心」は提供できない。

“ずっと安心”を約束するには持続可能な事業体制が不可欠
 非営利団体的な発想では長期的な信頼を担保しにくい。株式会社としての経営基盤が、むしろ社会課題解決の前提条件になる。

専門分野の垣根を超えた連携が鍵
 法律、福祉、医療、葬祭。従来縦割りだった領域を横断してチームを組むことが、利用者に寄り添う最適解を生む。

 高橋氏は最後にこう語った。

「おひさぽは、単なる生活支援サービスではありません。誰もが迎える“老い”と“死”に寄り添い、家族の代わりとして一生を支える存在でありたい。私たちはこれを日本の新しいインフラにしていきたいと考えています」

 超高齢社会の進行は止められない。しかし、その不安を和らげ、安心して生き抜く道をつくることは可能だ。おひさぽの挑戦は、「一人でも安心して生き、安心して旅立てる社会」を実現するための実践的モデルケースといえる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

【体験レポ】ICレコーダーはついにセキュリティの課題を超えた——完全オフラインで使えるiFLYTEK最新ボイスレコーダーを使ってみた

 いまや会議や取材の現場で欠かせない文字起こし。しかし多くの文字起こしサービスはクラウド経由で音声を処理するため、「重要な社内会議の音声をアップロードしても大丈夫か?」というセキュリティ上の不安が常につきまといます。

 実際、音声データをクラウド上にアップすることを禁止している企業も少なくありません。いまだ、数時間かけて手動で議事録を作成している、というビジネスパーソンは多いはずです。

 そうした課題を根本から解消するのが、iFLYTEKのAIライティングレコーダー「VOITER SR302Pro」。

 完全オフライン環境で音声のリアルタイム文字起こしが実現されています。

ICレコーダーの革命児「VOITER SR302Pro」とは

完全オフラインでセキュリティ面の不安なし

 従来、文字起こしを行うデバイスは音声認識サーバーを活用することが一般的。オンラインに音声データをアップし、文字に起こします。

 しかし、セキュリティの観点から社内データをオンラインにアップすることを制限している企業も。

 VOITER SR302Proは、デバイス内にAI音声認識エンジンを搭載。リアルタイムで文字起こしされたデータはUSBケーブルによってPCに転送可能です。完全オフラインでの使用ができるため、情報漏洩(ろうえい)の不安がありません。

 機密性の高い会議の議事録など、セキュリティ面での配慮が必要な場合にも安心して利用できます。

集音能力と雑音除去技術は随一

 VOITER SR302Proは、4つの無指向性マイクと指向性マイク2つを搭載しており、360度集音や最大5メートルの発話距離に対応しています。

 講演会など、レコーダーから距離がある音声を拾おうとすると、どうしてもノイズを拾ってしまうものです。そこでVOITER SR302Proは、音声認識の国際コンテスト「CHiME」で2016~2020年に世界No.1を獲得した雑音除去技術を搭載。文字起こしの弊害となるノイズを自動的に判断し、除去します。

 雑音が多い環境でも、音声データそのものをクリアにし、聞き取りにくさを軽減してくれます。

5言語に対応

 日本語だけでなく、英語、中国語、韓国語、ロシア語の5言語に対応しているのも特徴です。中国語は、広東語にも対応しています。

 最初に言語選択を行った上で録音をスタートしますが、すべて録音が終了したあとにも「再文字起こし」機能を使えば文字起こし言語の変更が可能です。

月額料金なしで利用可能

 本体価格は39,600円(税込)と、一般的なボイスレコーダーに比べてやや高額な印象です。

 しかし、完全オフラインでの利用になるため、月額料金は一切発生しないのもVOITER SR302Proの大きな特徴です。

セキュアで直感的。革命的な操作体験

 VOITER SR302Proは、画面のタップやスワイプでの直感的な操作も特徴のひとつ。実際に手にとって操作することで、オフラインの安全性や操作のシンプルさをより実感できます。

 本体右側面の電源を入れると、すぐに起動。

 インターネットに接続する必要がないため、即座に録音が必要な場合は、この状態から赤い録音ボタンを押すだけで録音が可能です。

 録音のモードは
●自動モード
●会議モード
●講演モード
●インタビューモード
 この4つ。複数人の音声データを取りたい場合は会議モード、発話者と距離がある場合は講演モード、狭い範囲で少人数でのインタビューなどの際はインタビューモードと、シチュエーションに適したモードを選択します。

 モード選択後、録音ボタンを押すか画面をタップするだけで録音がスタートします。

 録音が始まると、リアルタイムで文字起こしが始まります。

 録音中に重要なポイントが出た場合は、画面上のフラグをタップするか、本体左側面の音量ボタンを押すことで、文字起こしの中にタグを入れることが可能です。

 録音したファイルは、重要部分であるタグを確認したり、再文字起こしをしたりすることができます。

 再文字起こしのタイミングで、文字起こしする言語があらためて選択できるため、英語の会議を日本語設定のまま録音をスタートさせてしまっても、改めて英語での文字起こしができます。

 PCへのデータ抽出も、ケーブルでつなぐだけで簡単に行えます。

 本体に付属のType-Cケーブルにつないだのち、本体画面から文字起こしデータの抽出か、音声データの抽出かを選択します。

 データ形式は文字起こしデータが Word形式、音声データがwav形式。テキストデータはPCで編集可能です。

 録音のスタートから、デバイス内での文字起こし、PCへのデータ抽出まですべて、インターネット接続不要のオフラインで行えます。

あらゆるシーンで可能性が広がる


 その機能性の高さから、VOITER SR302Proの活用シーンはビジネスからプライベートまでさまざま。

 完全オフラインで使用できるデバイスのため、インターネット接続が難しい場所での利用はもちろん、とくにVOITER SR302Proの真価が発揮されるのは、セキュリティ対策が重要になる場面。まだ公になっていない機密情報が含まれる社内会議や、個人情報の保護が重要な面接などの録音、議事録作成に最適です。

 セキュリティポリシーが厳格な企業などでも安心して使用できるため、これまで手動で数時間かかっていた文字起こしの時間を大幅に削減できます。

 また、ノイズを自動排除し声をきれいに拾ってくれるため、雑音の多い場所での取材やインタビュー、講演会などでの録音にも適しています。

 多言語対応やリアルタイムの文字起こし機能があることで、プライベートでの活用シーンも多く、言語学習の録音や、耳が遠い方とのコミュニケーションを筆談的に行うことも可能です。

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※本稿はPR記事です。

いまテレビにCM出稿する意義とは? 3人のメディアプランナーが改めて考えてみた

「発注からオンエアまで時間がかかる」「効果測定が限定的」といった課題を抱えていたテレビCM。現在は、これらの課題を克服し、テレビメディアへの出稿をアップデートするサービスが増加しています。

本連載では、高度化するテレビメディアについて、新たに登場しているサービスや、そのサービスを利用した広告主の事例を紹介。広告主のKPIや課題を踏まえて、どのようにテレビCMを活用していけばよいかをお伝えします。

初回は、最前線で広告主と向き合う電通の3人のメディアプランナー、窪谷航氏、山崎博史氏、吉岡俊祐氏が、「いまテレビにCM出稿する意義」について改めて考えます。聞き手は、電通ラジオテレビビジネスプロデュース局で、テレビ出稿や効果計測サービスの開発・PRに携わる秋野里奈氏です。

テレビCM


 

テレビにCM出稿する広告主の数は、4年間、ほぼ変わっていない

秋野:みなさんは、電通のマーケティング局に所属し、メディアプランナーとして、日々さまざまな広告主と向き合っています。主にどのような案件を担当しているのか、教えてください。

窪谷:私は、家電・飲料・IT系などのナショナルクライアントを中心に、パートナーシップ型でメディア戦略の立案から効果検証の考え方、具体的な分析業務までを担務しています。加えて、最近はAIを活用したメディアプランニングの高度化や効率化にも取り組んでいます。

山崎:ECサイトや流通小売り、ダイレクト型保険など、日々の売り上げや申し込みが可視化しやすい企業を多く担当しています。多岐にわたる広告の効果をいかに正しく計測し、広告をいかにクライアントの売り上げにつなげていくかを考えています。

吉岡:私は、アプリやゲーム、食品、イベント施設、エネルギー関連企業など、担当している業種は多種多様です。長期目線で生活者とどのように広告コミュニケーションを図っていくかを考えることが多いです。

秋野:ありがとうございます。昨今、さまざまなSNSやOTT(※)が登場して、広告を出稿する媒体の選択肢が増えてきました。そのような背景がある中で、他の媒体と比べたときのテレビの特長や、テレビにCM出稿する意義についてどのように考えていますか?

※OTT:Over The Top。インターネットを利用することで、マルチデバイスでエンドユーザーにコンテンツを提供するサービス。動画配信サービスやCTVにも対応しているサービスも該当する。


吉岡:デジタルメディアが急激に伸びたために、テレビは、「広告が生活者に届きにくいメディア」だと思われることがありますが、世の中を俯瞰(ふかん)して見ると、テレビの影響力はまだまだ大きいと思います。

窪谷:テレビCMのリーチの面を見ても、テレビの強さはキープできていると思います。下のグラフは、テレビ出稿量の上位500社のM1層(男性20~34歳)へのリーチを約2年間にわたり調べたものです。

テレビCM

窪谷:横軸は、テレビのGRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)で、縦軸がM1層へのリーチ度合いを示しています。M1層はテレビCMが届きにくいといわれていますが、グラフを見ると、リーチ率はそこまで下がっていません。その理由として、「テレビを全く見ない人」はほとんどおらず、 SNSなど見る媒体が増えたことで「テレビは特定番組だけをみる層」が増えているのではと推察されます。つまり、この層が見そうな番組にCMを流すことができれば、テレビのリーチを最大限に得ることができるわけです。

山崎:テレビのリーチは他メディアと比較しても未だ高いですが、以前よりもより一層「打ち方」が重要になってきていますよね。

吉岡俊祐

吉岡:たとえば、大きなイベント番組などにCMを打つと、急激にリーチが伸びるケースもありますし。ターゲット層がどのようなコンテンツに興味を持っているのか、より考えていく必要があるでしょうね。

秋野:なるほど。若者のテレビ離れが指摘されていますが、テレビメディアはプランニング次第で、若年層のリーチも維持できるわけですね。

窪谷:はい。そういった実情もあり、多くの企業がいまもテレビにCM出稿しているのでしょう。ビデオリサーチ社の調査結果を見ると、2021年からの4年間で、テレビに出稿した広告主の数はほぼ変わっていません。出稿量を調整するケースもありますが、テレビCMの価値を感じていらっしゃる広告主は多いと思います。

特に近年はデジタルマーケティングを得意とする企業が、積極的にテレビに出稿しているのも興味深いところです。デジタルとテレビの役割の違いを意識して、メディアを使いこなしている企業が多い印象を受けますね。

テレビCM


 

テレビCMの出稿を考えたい三つのケース

秋野:みなさんは普段、さまざまな広告主のメディアプランニングに携わっているわけですが、テレビCMを考えてみたいケースには、どのようなものがありますか?

ケース①:ターゲットが全人口の10%以上いる場合

窪谷:主に三つあります。一つ目は、商品・サービスのターゲットが、全人口の10%以上いるケースです。というのも、テレビCMはコストパフォーマンスが良いからです。世の中全体に対して広告を投下した場合、テレビCMのCPM(Cost Per Mille:千人当たり到達単価)は200円から300円程度です。一方、完全視聴系のデジタル媒体は、ものによりますがCPMは1500円から3500円ほどかかることが多い。デジタルメディアはピンポイントにターゲットを狙って広告をリーチできますが、広く広告を届ける目的だと、テレビの方が10倍ほど到達効率が良いのです。

吉岡:テレビの到達効率が10倍ということは、テレビで届く対象の中で10%がターゲットだった場合、テレビはデジタルと同等の価値ということでもあると思うので、多くのケースでテレビを使ってみる価値があるといえますよね。

窪谷:潜在的なターゲットを取り込むという意味でもテレビCMは有効です。テレビには、「視聴の同時性」という側面があり、幅広い年代が一緒に同じ番組を見ているケースもあります。このことについて、「ターゲット以外へ無駄に広告を打っているだけでは?」という意見もありますが、マーケットは流動的で、商品を購入する人がずっと同じということは考えにくい。ターゲットとする10%の人だけでなく、今後購入するかもしれない90%の潜在層にも広告を打つことができます。

窪谷航

吉岡:同感です。商品の中には潜在層があらかじめつかめないものもありますからね。

秋野:興味深い考察ですね。テレビメディアの特性として、商品やカテゴリに対しての関心が低い層への到達についてはこれまでも語られてきましたが、これはあくまでも広告投下時点での興味関心を基準とした捉え方ですよね。それを「将来的にターゲットになり得る顧客層」と時間軸を広げて捉え直すと、テレビCM活用の幅がさらに広がりそうです。

ケース②:長期で成長を望む場合

山崎:テレビCMを考えてみるべきケースの二つ目は、長期目線で広告効果を出していきたい場合です。特に3年以上を見据えて、商品・サービスの成長(事業成長)を望む場合は有効だと考えます。

例をお話しします。下表は、テレビや、YouTubeなどの動画広告といった、トップファネル(認知)に訴えるメディアと、リスティングやバナーなど、ボトムファネル(購買)に訴えるメディアの予算の比率を変えると、1年後、3年後、5年後に、売り上げがどのように成長するのかをある事例を基に試算したものです。

横軸のパーセンテージが大きくなるほど、トップファネルに訴えるメディアの予算配分が増えるわけです。1年目の売り上げ成長率は、ボトムファネルへの配分を一定担保した方が高まります。つまり、1年目の売り上げを最大化するだけならボトムファネルを狙って予算を掛けるのは正しい戦略となりえます。

しかし、年数が増えるに従って、トップファネルへの配分を増やした方が成長率が高くなる傾向があります。下表は、各年の、成長率が最大化するトップファネルの予算配分も示しています(青で表示)。これを見ると3年以上先の成長を見据えた場合は、トップファネルに割く割合が大きい方が、高い成長率になることが分かります。

テレビCM
※ある事例におけるデータを活用し、モデルを作成して算出

 窪谷:業界によって数値は差があるでしょうが、肌感的にはしっくりきますね。

吉岡:もちろん、すべての業種や企業が、これらのケースに当てはまるわけではありません。ですが、長期的な成長を考える場合、テレビは大変有効だと思います。

山崎:もちろん短期的な売り上げが必要な場合もあります。ですから、トップとボトム、両方のファネルを考えながら、足元の売り上げも作っていく。そして将来的にも売り上げを上げることを目標に、さまざまな広告効果測定サービスを活用しながら、PDCAを回していくことが大事だと考えます。

窪谷:デジタルマーケティングで顕在層に対して効率的に広告を届けることは各カテゴリで多くの企業が行っているので、そこで差をつけるのは結構難しい場合もありますよね。そういった意味でもトップファネルで、消費者のマインドシェアを高めるのが中長期的な成長につながる有効な対策のひとつになり得るのだと、話を聞いていて改めて感じました。

秋野:中長期の成長率はどうしても読みづらい部分があります。そのため、みなさんのようなメディアプランナーが、広告効果測定ツールを活用しながら、広告主の事業成長に伴走していくことが大事ですね。

山崎博史

ケース③:短期間で広く認知を広めたい場合

吉岡:三つ目のケースは私からお話しします。テレビCMは、短期的なキャンペーンにも効果を発揮します。電通の保有するメディアシミュレーションツールを用いると、2.5億円かけると一週間でデジタルは40%にリーチするのに対して、テレビは70%を超えます。

山崎:期間限定の商品やサービスの認知の他、ブランドイメージの刷新を行うために新しいキャンペーンをローンチする際など、素早く多くの人に伝えたい場合にもテレビCMは効果を発揮します。

秋野:つまり、テレビは、瞬発的に世の中の大きな波をつくることに向いている媒体なんですね。

窪谷:そうです。得意領域が違う、ということですね。デジタルメディアは個人の好みで視聴されるケースが多いですが、テレビには、「共視聴」という特長がありますから。

吉岡:共視聴という視点はマーケティングにおいて重要ですよね。家族の中でテレビCMが話題になることもありますし、1人で視聴するよりもより記憶に残る可能性を持っています。

秋野:なるほど。「ターゲットが全人口の10%以上いる」「長期の成長を望む」「短期間で認知を広める」ケースは、テレビへのCM出稿を検討してみてよさそうですね。

秋野里奈


 

広告効果を分析して、テレビとデジタルを効果的に組み合わせる

秋野:ここからは、テレビCMの効果について考えてみたいと思います。「テレビCMは効果が見えにくい」という声がありますが、この点についてはどのように考えていますか?

吉岡:技術が進歩して、いまはさまざまな分析ができるようになっています。例えば、テレビCMを見て、商品サイトに来訪した、商品を購入した、来店したといったことが把握できる状況が整いつつあります。

また、商品の認知や利用意向といった心理指標での分析、実際に購入したといった行動データの取得も可能になってきています。実際にテレビCMが効率的な購買行動につながっているケースが多数あるので、前述したデジタルマーケティングを得意とする企業もテレビを使い続けているのでしょう。

秋野:テレビCMの効果について、具体的にどのような分析をしていますか?

吉岡:私たちが大事にしている指標の一つは、「純増新規購入者数(テレビCMを打ったことで増えた商品の購入者数)」です。つまり、テレビCMを打たなかったら、売り上げがどれだけ低かったのかを推定することです。

電通と電通デジタルは、複数のデータクリーンルーム環境での分析・運用を一元管理するシステム基盤「TOBIRAS(トビラス)」を2022年に開発しました。TOBIRASを活用することで、テレビと、さまざまなデジタル媒体を全く同じ手法で分析できます。さらに、どの放送局、どのエリアに出稿するのが効率的だったのか、詳しい分析までできますから、次へのアクションにつなげることもできます。

窪谷:他にも電通には、テレビ実視聴データを用いた統合マーケティング基盤「STADIA360(スタジア サンロクマル)」があります。

「STADIA360」は、ユーザーから事前にデータ利用の同意許諾を得たテレビ実視聴データと、さまざまなデータホルダーが保有するデータ群(アンケート・ウェブサイト・デジタル広告接触・アプリ計測・エンタメ・位置情報・購買・顧客の1stPartyデータなど)を連携して、大規模IDデータ分析による多角的なコネクテッドTV上の広告の効果検証が可能です。

STADIA360

山崎:例えば、テレビ実視聴データと、アプリをダウンロードした人のスマホのIDを連携させて、テレビCMを見た人とそうでない人の結果を比較するといったことができます。そうすることで、テレビCMを打ったことでどれくらいアプリがダウンロードされたか、純増効果がはっきり見えるわけです。

吉岡:他にも、いろいろなことが分析できますよね。例えば、バナー広告における顧客の獲得効率は、テレビ出稿期間と非出稿期間で大きく変わることがある。ということは、バナー広告の反応率を引き上げているのは、テレビCMの可能性があります。そういったことを「STADIA360」で分析できるわけです。

窪谷:テレビCMを見て、サイト検索する人もいれば、商品認知はしたけど何も行動を起こさない人もいる。そうかと思えば、CMを見て、ダイレクトに来店や購買につながるケースもある。テレビの効果はマルチなんですよね。そういったことも明らかにできると思います。

山崎:広告主側に立つと、商品やサービスを認知してもらうこと、検索行動をしてもらうこと、購買してもらうこと、どの指標を重視するのか、広告を打つ目的はさまざまです。目的に応じてKPIを設定し、PDCAを回していくことが大事です。

秋野:検索やサイト来訪といった特定の指標だけを重視すると、広告効果の一つの側面しか見えない。ですから、何のためのテレビCM施策なのかを見極めて、広告効果を多面的にとらえる必要があるわけですね。メディアマーケティング全体の効果検証で気を付ける点はありますか?

吉岡:思ったような広告効果が得られないと、各媒体の改善を検討するのではなく、その媒体での広告を止めてしまうケースが見られます。

山崎:冒頭少しお話があったように、テレビCMは効果が出ないと即断されるケースがある。そうではなく、他のメディアとどう組み合わせていけば、相乗効果が出るのかを考えていく必要があります。

吉岡:そうですね。テレビとデジタル、どちらのメディアが効率的に効果を出したかという議論や、効率の良かった媒体だけを活用していく議論になりがちですが、テレビとデジタルを組み合わせた場合の分析もできるので、ていねいにベストケースを探し続けることが必要ですね。

秋野:今回、みなさんにお話を伺って、テレビCMを出稿する意義を改めて考えることができました。次回からは、テレビCMの出稿サービスや効果測定サービスがどのように進化しているのか、実際に活用した広告主の事例も交えて、テレビCMの有効な使い方をお伝えしていきます。

テレビCM

sns

電通×ヘラルボニー クリエイティブの力で障害のある人たちの「可能性」に光を当てる

「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」が、6月16日から20日までフランス・カンヌで開催されました。世界最大規模のクリエイティビティの祭典は参加者たちの目にどう映ったのか。それぞれの視点でカンヌの「今」をひもときます。

カンヌライオンズのロゴ

第2回は、現地で開催された電通のセミナーをリポートします。登壇したのは、電通のクリエイティブディレクター・長谷川輝波(きなみ)氏とHERALBONY(ヘラルボニー)の共同代表・松田崇弥(たかや)氏。電通とヘラルボニーは、障害に対する世の中の見方をどのように変えようとしているのか。そのカギとなるクリエイティブの力とは。

電通カンヌセミナー

 

障害に対する世の中の見方を、クリエイティブの力で変える

「『障害のある人って、本当に“かわいそう”なんでしょうか? 私たちは、クリエイティブの力でその見方を変えたいんです』」

セミナーの冒頭、電通のクリエイティブディレクター・長谷川輝波氏が紹介したその印象的な言葉は、2019年にヘラルボニーの共同代表である双子の兄弟・松田崇弥氏、文登(ふみと)氏と初めて対面したとき、彼らから投げかけられたものだった。その瞬間、長谷川氏の中で何かが変わったという。

「彼らは私に、一つのアートが描かれたアイテムを贈ってくれました。それは、知的障害のあるアーティストが描いた素晴らしいアートで、彼らが立ち上げたばかりの“ヘラルボニー”というブランドのものでした。その出会いは、私の『障害』に対する見方、そして『クリエイティブ』に対する考え方、さらには(障害のある)いとこの存在(への向き合い方)にまで、変化をもたらしました」

長谷川氏とヘラルボニーは、2021年から取り組みを開始し、昨年、電通とヘラルボニーは「Future Creative Partnership(未来のクリエイティブ・パートナーシップ)」という連携をスタートさせた。活動を通して、障害に対する世の中の見方を変えることに挑んでいる。

日本には知的障害のある一方で、力強く、深く心を打つアート作品を制作している人がいる。しかしその作品の多くは、ほとんど無償に近い形で寄付と引き換えに提供されている。クオリティの高い作品であるにもかかわらず、それで生計を立てることは難しいのが現実である。

そんな状況に対して、ヘラルボニーは前例のない挑戦を続けている。契約する知的障害のあるアーティストの作品には、繰り返し表現されるパターンや模様が多く見られる。この特徴を生かし、ブランドとして、ドレスやショールなどのファッションアイテム、ライフスタイル製品を展開。さらに、そのデザインはホテルのインテリアや航空会社のアメニティ、他企業とのコラボレーションにも広がっている。

ヘラルボニーのこの取り組みは世界中で話題となり、大きな注目を集めた。「社会と生活のあらゆる空間の中に入り込んでいくことができるビジネス」として、6年間でブランドは大きく成長。ヘラルボニーの取り組みによってアーティストの収入は、15.6倍も増え、生活を支えることができる水準となった。

プレゼンターとして登壇する電通・長谷川輝波氏
プレゼンターとして登壇する電通・長谷川輝波氏

“HOPE CREATIVITY(希望の創造性)”

長谷川氏は、ヘラルボニーとの活動を通して、大切なことに気づいたという。

「これまで、“障害”とクリエイティブの関わりといえば、『課題を解決すること』や『困難を乗り越えること』が中心でした。もちろん、それも大切なことです。でも私は、クリエイティブにはそれ以上の可能性があると信じています。クリエイティブの力で、障害のある人の『可能性』や『希望』に光を当てること。それが、私たちが目指すかたちです」

その実例として、電通の代表的な取り組みを紹介した。

●「鳥肌が立つ、確定申告がある。

ヘラルボニーと契約するアーティストの両親から「息子のアートの収入が増えて、確定申告が必要になったんです」との報告を受けたのをきっかけに、「鳥肌が立つ、確定申告がある。」というタイトルのキャンペーンを展開。左側に確定申告書類、右側にアーティストの家族の心温まるストーリーを配置したポスターを制作、国税庁へとつながる東京メトロ千代田線・霞ケ関駅A13出口付近をはじめとする東京メトロ駅構内3カ所に掲出した。

●「鏡を使わないメークレッスン

化粧品を通じて美容を発信するポーラとソーシャルエンターテインメント・プログラムを提供するダイアローグ・ジャパン・ソサエティ、電通が共創した視覚に障害のある人のためのプログラム。参加者は、手の感覚をたよりに肌をケアし、色をのせ、自分らしさをメークで表現していく。障害の有無のボーダーを超えて、日常の中に、美しさと自信、そして喜びを届ける取り組みで、「クリエイティブが人生を豊かにする」一例である。

●「Visiongram(ビジョングラム)」

視覚に障害のある人が「世界をどう見ているか」を可視化するプロジェクト。検査データをもとに、人によって異なる「見え方」をパーソナライズしたフィルターを開発、他の人が「視覚障害のある人の見え方」を体験できるようにすると同時に、当事者自身が「自分にはこう見えている」と周囲に伝える手助けにもなっている。本人でさえ説明が難しく、親でさえ想像できなかった「見え方の世界」を共有することで、共感が生まれ、本当の意味でインクルーシブな社会の実現へとつながっていく。「クリエイティブが人と人をつなぐ」一例である。

これらの実例は、長谷川氏が“HOPE CREATIVITY(希望の創造性)”と呼ぶ新しいアプローチを象徴している。それは、障害のある人たちの「可能性」や「希望」、そして「喜び」に光を当てるクリエイティブである。

障害のある人が心から尊重される世界をつくる

続いて登壇したヘラルボニーの共同代表の松田崇弥氏は、ヘラルボニーの存在意義について、次のように語った。

「ヘラルボニーは、日本を拠点とするアートライセンシング企業です。私たちは、知的障害のあるアーティストたちの持つ圧倒的な創造性を、さまざまなコミュニケーションの形へと展開しています」

「ヘラルボニーは『慈善活動』ではありません。持続可能なビジネスです。私たちは、(障害のある人が)『支援される側』としてしか見られない社会の仕組みを変えたいと考えています」

松田氏がヘラルボニーを創設したきっかけは、知的障害のある兄の存在だという。

「彼は、笑います。悲しむこともあります。怒ることもあるし、ちゃんと感情があります。それなのに——彼のことを“かわいそう”だと言う人が多かったのです」

「私の使命——それは、障害のある人が心から尊重される世界をつくることです」

「私たちは、彼らの唯一無二のアートを、バッグや靴下、シャツなど、さまざまな製品へと展開しています。私たちは、日本各地にショップやギャラリーを展開しています。そして一番大事なのは、純粋に『美しい』『かっこいい』と思えることなんです」

プレゼンターとして登壇したヘラルボニーの共同代表の松田崇弥氏
プレゼンターとして登壇したヘラルボニーの共同代表の松田崇弥氏

ヘラルボニーは、多くの企業と多数のプロジェクトを実施してきた。2000点以上のアート作品のデータコレクションをパートナー企業に仲介することで、ライセンス料はアーティストに還元される。

「私たちのビジネスの中心にいるのは、アーティストです。彼らのクリエイティビティは、表現を通じて社会に貢献し、きちんと収入を得ることにつながっています」

「あるアーティストは『黒い丸』だけをひたすら描き続けています。あるアーティストは『迷路』という概念を、ひたすら無限に描き続けています」

「あるアーティストはすべての色を『同じ量』だけ使うことにこだわります。あるアーティストは女性の姿だけを繰り返し描き続けています」

「知的障害は、『その人にしか描けない表現』の筆になり得る。つまり、個性あふれる創造性を生み出す手段になるのです」

ヘラルボニーが最初に契約を結んだアーティスト・小林覚(さとる)氏によるライブパフォーマンス
ヘラルボニーが最初に契約を結んだアーティスト・小林覚(さとる)氏によるライブパフォーマンス。文字や言葉、数字を一つの流れの中に融合させるユニークなスタイルが特徴

ヘラルボニーの活動は、社会に対しても大きなインパクトを与えている。この10年で収入が300倍になったアーティストもいる。最初は「こんなの、ただの落書きだよ」と言っていた両親も、今では「うちの子を誇りに思います」と喜んでいるという。

昨年、ヘラルボニーは国際的なアートアワード「HERALBONY Art Prize(ヘラルボニー・アートプライズ)」を立ち上げた。この賞には、多様なバックグラウンドを持つアートの専門家たちが審査員として集まっている。今年は2650件もの作品応募が65の国・地域から寄せられた。

こうした取り組みが評価され、昨年、ヘラルボニーは「LVMHイノベーション・アワード」を受賞した。これは、日本のスタートアップとして初の快挙である。

電通とヘラルボニーは、Future Creative Partnersとして、HOPE CREATIVITYの力を通じて、多様な未来を創り出すチャレンジを今後も続けていく。「障害」というテーマを中心に据え、日本国内外のさまざまなパートナーと連携しながら創造性を通じた新しい可能性をひらいていく。

最後に松田氏は、ヘラルボニーというブランド名の由来について、こう語った。

「ヘラルボニー——このブランド名は、兄が由来なんです。知的障害のある彼は、ノートにひたすらヘラルボニーと書き続けていました。『この言葉に、どんな意味があるの?』と兄に尋ねると、彼はこう答えました——『わかんない!』」

「そんな兄が生み出した言葉は、世界中の検索でヒットする言葉に変わっています。知的障害のある兄と一緒に育つ中で、私はよくからかわれたり、バカにされたりしました。でも、兄・翔太という存在がいてくれたおかげで、私たち双子は誰のことも見下さない人間に育つことができました」

「今日はヘラルボニーの本当の創業者、私の兄・翔太がここに来てくれています!」

会場から湧き上がる拍手に包まれて登壇した松田翔太氏は、ヘラルボニーのアイデンティティを象徴するメッセージを叫んで、セミナーを締めくくった。

「HERALBONY, BEYOND LABELS !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

会場から湧き上がる拍手に包まれて登壇した松田翔太氏

 

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高齢者が進んで通いたくなるデイサービス…介護のイメージを変える「ラスベガス」

●この記事のポイント
・従来のデイサービスに男性が通わない課題に直面し、カジノ型デイサービス「ラスベガス」が誕生。娯楽を通じて介護の常識を覆した。
・利用者は麻雀やポーカーを楽しみながら、知らず知らずに体操や健康チェックも行う。遊びを介した仕組みが心身の改善につながっている。
・「介護は暗いもの」という固定観念を打破し、高齢者が自ら通いたくなる“楽しい選択肢”を提示。社会に新しい介護像を広げている。

 カジノをモチーフにしたユニークなデイサービス「ラスベガス」が実に画期的なサービスだ。麻雀やポーカーに夢中になる利用者の姿は、従来の介護施設のイメージを大きく覆す。楽しさを通じて心身の改善を促し、高齢者が自ら通いたくなる場所へと変えた「ラスベガス」。その誕生の背景と挑戦を追った。

●目次

「デイサービスに行くぐらいなら、死んだほうがマシだ」
 日本シニアライフ株式会社代表取締役・森薫氏は、かつて従来型のデイサービス施設を運営していたときに、利用を勧めた男性高齢者からこんな言葉を突きつけられた。

 当時のデイサービスは女性利用者が大多数を占め、男性の姿はほとんど見られなかった。ケアマネジャーが男性に勧めても「行きたくない」と断られる。説得に行っても「俺を晒し者にするのか」と怒鳴られる。現場スタッフからは「男はもう死んでるから来ないんだよ」と自嘲気味の声もあった。

 一方、女性であっても「子どもじみたレクリエーションは嫌だ」と参加をためらう人が少なくなかった。森氏はこうした現実に直面し、「介護の場にもっと楽しさや誇りを取り戻せないか」と模索し始める。

 転機は、アメリカ視察で目にしたカジノだった。そこに集まっていたのは高齢者たち。ポーカーやスロットに熱中し、笑顔で談笑する姿に、森氏は日本のデイサービスとの決定的な違いを見た。

「日本の介護施設では、誰かに勧められて仕方なく来る人が多い。でもカジノには、楽しさを求めて自らやって来る高齢者があふれていた。これだ!と思いました」

 それならば、カジノをモチーフにしたデイサービスを作ればいいーー。この発想から生まれたのが「ラスベガス事業部」である。

“介護施設らしくない”空間づくり

 2013年、東京・足立区に1号店が開設された。内装は白壁と蛍光灯の病院風ではなく、ラスベガスのカジノを再現。ブラックジャックやポーカー、麻雀、パチンコ、カラオケなど、多彩な娯楽が揃う。送迎車も「介護車両」ではなく黒塗りのミニバンに「LAS VEGAS」と金文字をあしらい、利用者に“誇らしさ”を感じてもらう演出を施した。

 もちろん、機能訓練や口腔ケア、入浴介助、食事提供、健康チェックといった基本サービスも提供。自治体の認可を正式に得ており、介護保険制度に基づく事業として位置付けられている。

「一般的な折り紙や切り絵も希望があればできます。しかし、メインはあくまでカジノ。利用者が“行きたい”と思える空間にしたかったんです」

「ラスベガス」には現在、月間約1300名が利用し、そのうち実に800名が麻雀を楽しむという。特に男性利用者の比率は7割と、従来型デイサービスの逆転現象が起きている。

「家では一言も話さない男性が、ラスベガスでは麻雀をしながら饒舌に語る。そんな姿を見て家族が驚くケースはよくあります」

 利用者の要介護度が改善する事例や、認知症の方が笑顔で会話を取り戻す場面も少なくない。家族からは「父が明るくなった」「母が再び社交的になった」と涙ながらに感謝されることもある。

 また、現役時代に社会的地位を築いた男性たちが、自らの仕事の誇りを語り合う場にもなっており、介護施設が「自己表現の場」として機能しているのも特徴だ。

健康づくりも“気づかないうちに”

 一見すると娯楽施設のようだが、健康づくりも巧妙に組み込まれている。利用者は来所時にバイタルチェックを受け、全員で10分間の体操を行う。BGMはレディー・ガガのポップス。体操に参加すると「ベガス紙幣」が配られ、それを使ってゲームに参加できる仕組みだ。

「1日を通して合計40分ほど体操するプログラムになっています。でも“リハビリ”と掲げると行きたくなくなる方が多い。だから“遊びのついでに”という形にしているんです」

 利用者は知らず知らずのうちに運動し、身体機能の維持向上にもつながっている。

 カジノを模したデイサービスは前例がなく、開設当初は地域から「怪しい施設を作るな」と警戒されることもあった。

「出店の際は必ず町内会や警察署に挨拶に行き、実態を説明します。無届けの賭博と誤解されないように、透明性を大事にしています」

 理解が進むにつれ、地域からは「こういう施設があってよかった」と歓迎されるようになった。

固定観念を打ち破る挑戦

 森氏が直面した最大の壁は「介護はこうあるべき」という固定観念だった。

「介護の常識にとらわれて、“デイサービスはリハビリやレクリエーションを提供する場所”という発想から抜け出せない人が多かった。しかし一番大事なのは利用者が笑顔でいられること。そのためなら常識を疑う必要があると思ったんです」

 結果として「ラスベガス」は利用者と家族に支持され、男性が集う稀有なデイサービスとして成長した。

 日本には約5万のデイサービスがあるといわれる。しかし、多くの人の頭に浮かぶイメージは似通っている。森氏は「介護にもっと選択肢を」と訴える。

「ラスベガスのようなエンタメ型があってもいいし、芸術型や学習型があってもいい。介護はもっと選択肢があっていいはずです」

 高齢化社会が進む中で、介護を“暗いもの”から“前向きな生活の選択肢”へと変えていく。その挑戦が「ラスベガス」の意義だ。

 今後の展開について森氏は慎重だ。

「全国展開するつもりはありません。縁のある地域で、必要とされる場所にだけ広げていきたい。高齢者住宅事業も含め、身の丈に合った形で続けていきます」

 華やかなカジノの裏にあるのは、利用者一人ひとりの“生きがい”を尊重する姿勢である。

 介護は誰にとっても避けられないテーマだ。森氏の挑戦は、「介護を楽しむ」という新しい視点を提示している。

「介護が必要になっても“ラスベガスに行ける”と前向きに思える社会になったらいい」

 そう語る森氏のビジョンは、現役世代にとっても、自分や家族の未来を考えるヒントになる。介護を“明るく捉える”という発想の転換が、これからの日本社会に求められているのではないだろうか。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

AIペンギンで政治家が不要になる?地域政党「再生の道」が仕掛ける政治DX

●この記事のポイント
・地域政党「再生の道」が党の意思決定をAIペンギンに委任すると発表し、政治とAIの新たな関わりに注目が集まっている。
・AIは利権や感情に左右されない判断が可能とされる一方、責任の所在や民主的正統性など課題も多く残る。
・SNSでは「クリーンで面白い」との期待と「責任放棄では」との懸念が交錯し、専門家も評価が割れている。

 石丸伸二氏が設立した地域政党「再生の道」が、日本の政治にユニークな挑戦を仕掛けた。党の意思決定を人工知能(AI)に委ねる方針を発表し、そのAIエージェントを「AIペンギン」と命名したのだ。一見ユーモラスだが、その裏にはAIによる政策判断という、民主主義の根幹を揺るがしかねない実験が隠されている。この斬新な試みはSNSで瞬く間に拡散され、賛否両論を巻き起こし、国内外から注目を集めている。

●目次

「AIペンギン」の正体:政治の意思決定をAIが担う、前例なき挑戦

「AIペンギン」は、党の政策立案や意思決定を補佐するAIエージェントだ。公式発表によれば、特定の条件下では最終的な意思決定も担うという。その役割は極めて本格的で、既存の政治家が行う膨大な情報収集と分析、政策立案をAIが代行する。

 このAIの技術的基盤は、専門家の間では大規模言語モデル(LLM)を応用した「政治判断に特化した生成AI」との見方が有力だ。ChatGPTやClaudeといった汎用的なAIが持つ、テキスト生成や情報整理能力に加え、政治分野に特化した膨大なデータセットで学習されていると推測される。

 具体的に、AIペンギンは以下のような業務プロセスを効率化すると考えられる。

・情報収集と分析:国会図書館の公開データ、各省庁の統計資料、国内外のニュース、SNSの世論データなど、人間では処理しきれない膨大な情報を瞬時に整理・分析する。
・政策のシミュレーション:過去の類似政策が社会にどのような影響を与えたかを、複数のシナリオでシミュレーションし、そのメリット・デメリットを客観的なデータに基づいて提示する。
・法案の条文チェック:新設される法律や条例の草案が、既存の法律と矛盾しないか、また意図しない抜け穴がないかを高速でチェックする。

 こうしたデータドリブンな意思決定は、感情や個人的な利害に左右されない、極めて効率的かつ合理的な判断を可能にする。

なぜ今、AIペンギンなのか? 既存政治への不信が背景に

 なぜ「再生の道」は、このような大胆な試みに踏み切ったのか。その背景には、日本の政治が長年抱える根深い課題がある。特定の利権や派閥に縛られた判断、感情や個人的な思惑に左右される意思決定、そして民意との乖離だ。

 AIペンギンは、こうした人間の欠点を補う存在として期待されている。膨大な客観的データを基に判断するため、利権やしがらみとは無縁の「データドリブンな政治」が実現する可能性がある。これにより、政策の精度が向上し、従来の政治の不透明さを払拭できるとの見方も出ている。

 では、AIペンギンは具体的にどのような政策に活用されるのだろうか。ITジャーナリストの小平貴裕氏は、地方自治体が直面する現実的な課題をAIがどう解決しうるか、2つの仮想的なシナリオを提示する。

シナリオ1:子育て支援策の最適化

 現在、多くの自治体では子育て世代への現金給付や補助金制度を設けている。しかし、その効果は地域によってまちまちだ。AIペンギンは、以下のようなデータを基に、より効果的な支援策を導き出すことができる。

・他自治体の成功事例:全国の子育て支援策のデータと、その後の出生率・転入率の相関を分析。
・地域のリアルな声:SNSや住民アンケートから、現行制度の不満点や潜在的なニーズを抽出。
・経済データ:地域の平均所得や物価、共働き世帯の比率などを考慮し、現金給付と現物支給のどちらが効果的かを分析。

「AIはこれらの複雑な要素を統合的に判断し、特定の地域に最適な“カスタマイズされた子育て支援策”を提示することができます。これは、人間が個別のデータを手作業で分析するのとは比較にならないほどの精度とスピードとなります」

シナリオ2:公共交通網の再編

 地方では、過疎化と高齢化によって公共交通機関の維持が困難になっている。AIペンギンは、膨大なデータを分析することで、非効率な路線を廃止するだけでなく、住民の移動を最適化する新たな交通モデルを提案することができる。

・交通データ:GPSデータや交通系ICカードの利用履歴から、住民の実際の移動パターンや需要を把握。
・人口動態データ:将来の高齢者人口増加、人口減少を踏まえ、長期的な需要変動を予測。
・経済効率:路線維持にかかるコストと、代替手段(例:オンデマンドバス、乗り合いタクシー)のコストを比較し、最も効率的な交通網を設計。

「これにより、AIは赤字路線を廃止するという単なるコスト削減策ではなく、住民の利便性を損なわず、かつ財政負担を減らすという、複数の目的を同時に満たす最適解を導き出すことができます。これは、政治家が経験や勘に頼って判断するのとは一線を画す、真のデータドリブンな課題解決といえます」

民主主義とAIの深いジレンマ

 他方、AIペンギンには、大きなメリットと同時に深刻なリスクが存在すると小平氏は指摘する。

リスク1:民主的正統性の欠如

「AIが意思決定を行う場合、最終的な責任の所在が曖昧になります。再生の党は、奥村光貴氏が代表に就任し、当面は同氏が補佐しつつ、段階的にAIペンギンに意思決定を担わせていくとしているが、有権者が直接選んだわけではないAIが、国民の生活に関わる判断を下すことの正当性は担保できるのかという懸念は付きまといます。政治の意思決定には、国民が選んだ代表者による議論や合意形成が不可欠だという、民主主義の根幹を揺るがす問題に直面します」

リスク2:ブラックボックス問題

「AIがなぜその判断を下したのか、人間が完全に理解できないブラックボックス化のリスクも看過できません。特に政治判断においては、その理由が国民に説明できないことは致命的です。たとえ正しい答えであっても、その根拠が不明瞭であれば、有権者の納得感を得ることはできません」

 さらに、AI特有の「ハルシネーション(虚偽情報の生成)」もリスクとなる。AIが誤った、あるいは意図的に偏った情報に基づいて政策を決定した場合、その影響は甚大だ。学習データに潜むバイアスが、差別的な政策や特定の層に不利な判断を招く危険性も指摘されている。

SNS上では賛否両論

 発表直後から、SNSでは多彩な声が飛び交った。

●肯定的な反応
「政治家よりクリーンかも。AIなら利権に左右されない」(Xユーザー・30代男性)
「面白い試み。若者に政治が身近になるかも」(Instagram投稿)
「議員同士の争いより、AIがデータに基づいて判断してくれる方が安心」(Facebookコメント)

●懸念・批判的な反応
「AIに政治を任せていいのか。責任は誰が取る?」(Xユーザー・40代女性)
「結局、人間が裏で操作するのでは?」(Reddit投稿)
「AIの判断基準がブラックボックス化していて不透明すぎる」(note記事コメント)

 専門家の評価も分かれている。ある政治学者は「話題性はあるが、政策の本質的責任をAIに委ねることは現実的ではない」と指摘。一方、あるAI研究者は「意思決定補助としての活用は可能だ。重要なのは透明性と人間による最終判断の確保」と述べる。

政治からビジネスへ:AIペンギンが示す未来の組織像

 AIペンギンの試みは、政治という枠を超え、企業の意思決定や組織運営に重要な示唆を与えている。これは、あらゆる業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の未来像を考える上で、格好のケーススタディとなる。

示唆1:データドリブン経営の究極形

 政治と同様、企業もデータに基づいた意思決定が不可欠になっている。AIペンギンは、人間の感情や直感を排除した経営判断の可能性を示唆している。市場データ、顧客の行動履歴、競合の動向などをAIが統合的に分析することで、より精度の高い事業戦略や商品開発が可能になる。

示唆2:透明性と信頼の構築

 AIによる意思決定プロセスを公開することは、企業におけるガバナンスやステークホルダーへの説明責任を果たす上で参考になる。AIの判断根拠を透明化することで、従業員や顧客からの信頼を獲得し、組織の健全性を高めることができる。

示唆3:人間とAIのハイブリッド型意思決定

 AIペンギンは、AIが単独で意思決定する限界を同時に示している。AIはあくまで「強力な判断材料」を提供する存在であり、最終的な責任と倫理的判断は人間が担うべきという教訓だ。これは、あらゆる業界のDXにおける共通の課題である。いかにAIを使いこなし、人間がより創造的で倫理的な判断に集中できるか。AIペンギンは、未来の働き方や組織のあり方を問いかけている。

今後の展望と結論:AIは「政治の主役」になれるか

 地域政党「再生の道」によるAIペンギンの活用は、政治とAIの関係をめぐる新たな実験だ。AIが単独で意思決定を行うモデルは前例がなく、リスクも大きい。しかし、政策立案や意思決定の補助として活用するならば、従来の政治にはないデータドリブンな判断や効率化が期待できる。

 重要なのは、AIによる判断の透明化と、責任の所在を明確にすることだ。政治は単なる正解探しではなく、納得感や合意形成のプロセスも含む。AIはあくまで強力なツールであり、それをどう使いこなすか、そして最終的な責任を誰が負うのかという問いに、私たちは向き合わなければならない。

 この前例なき挑戦が、日本の政治にどのような変化をもたらすのか。今後の動向から目が離せない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

海外特許が安く早く取得できる…世界の弁理士をつなぐ日本発プラットフォーム

●この記事のポイント
・アイピコは世界の弁理士をつなぐプラットフォームを開発し、企業の海外特許出願を低コストかつ迅速に支援している。
・複雑な海外送金や請求処理を一本化し、中小弁理士事務所にも国際案件の機会を提供、業界構造の変革を目指す。
・谷水氏は知財を「鎧」と位置づけ、スタートアップが海外進出する際の防御と攻めの武器になると強調する。

 日本発のスタートアップ、株式会社アイピコは、世界中の弁理士をつなぐプラットフォームを開発し、企業の国際的な特許・商標出願を円滑に進める仕組みを提供している。代表取締役の谷水浩一氏は、弁理士としての経験を土台に「知財のグローバル化」という大きな課題に挑んでいる。

「海外に特許を出願する際、これまでは国内の弁理士事務所を経由し、現地の弁理士に依頼するのが一般的でした。そこには高額な仲介料や時間的ロスが発生します。私たちはその“間”をなくし、直接やりとりできる環境を整えることで、コストは3割程度削減でき、手続きもスピーディーになるのです」と谷水氏は語る。

 本記事では、谷水氏がこの事業を立ち上げた背景、プラットフォームがもたらすメリット、知財ビジネスの世界的な変化、そしてスタートアップが国際競争で生き抜くために必要な戦略について掘り下げていく。

●目次

弁理士としての「後ろめたさ」から生まれた発想

 谷水氏がアイピコを立ち上げたのは約5年前。きっかけは、自身の弁理士業務で感じた違和感だった。

「海外出願の案件を社員に任せたところ、彼は単に海外の弁理士に丸投げするだけで、自らの付加価値を出していなかったんです。それでもクライアントは手続きが進むから満足する。すると、うちの事務所が間に入る意味はあるのだろうか、と考えるようになりました」

 さらに、手続きの代行料として数十万円を受け取ることに後ろめたさを感じる場面もあったという。

「もちろん、寄り添ってサポートすべき案件もあります。ただ、単なる“中継ぎ”で高額な報酬をいただくのは健全ではない。だったら直接やり取りできる仕組みを作ればいい――そう思ったのです」

 こうして誕生したのが、世界中の弁理士を集めたプラットフォームである。

 アイピコの仕組みは、単なるマッチングにとどまらない。特に企業にとっての大きな利点は、煩雑な海外送金の一元化だ。

 通常、アメリカ・中国・欧州など複数の事務所から請求書が届き、それぞれに送金手続きを行う必要がある。だがアイピコを利用すれば、企業は国内のアイピコに1回だけ支払えばよく、同社がまとめて海外事務所へ振り込む。

「Amazonで複数の商品をカートに入れて一括決済するイメージです。請求書も一本化され、経理部門の負担は劇的に下がります」

 さらに弁理士にとっても、海外ネットワークに容易にアクセスできる点は大きい。これまで小規模事務所は海外手続きを敬遠し、大手事務所に丸投げしていた。アイピコはそうした構造を変え、中小規模の事務所にも国際案件を手掛けるチャンスを与える。

「大手事務所だけが海外案件を独占し、高額な手数料で利益を上げる構造がありました。私たちはその“経済の仕組み”を変え、自由競争を促したいのです」

技術と人の「ハイブリッド」で築くネットワーク

 アイピコは出願管理ツールや期限管理システムを市場価格の半額程度で提供し、利用者を囲い込む工夫もしている。将来的にはAI翻訳や自動会議システムを導入し、さらに利便性を高める構想もある。

 しかし谷水氏が強調するのは、「人と人とのつながり」だ。

「弁理士業務は法律と技術の専門性が絡む領域です。AIや自動化が進んでも、相手が信頼できる人間であることが重要なんです。だから将来的には紹介動画やマッチングイベントも開催し、顔が見えるネットワークを築きたい」

 デジタルとリアルの両面から「信頼」を構築する発想が、アイピコのユニークな点だ。

 世界の知財市場は拡大を続けている。日本の出願件数は横ばいだが、東南アジアやインド、中東では急成長が見られる。企業の海外展開に伴い、知財戦略の重要性は高まっている。

 一方で、AIは弁理士業務にどう影響するのか。

「事務作業はすでにRPAで効率化されています。生成AIについては、確実性が求められる分野だけに慎重な姿勢が必要ですが、将来的には意見書や補正書の作成にも活用されるでしょう。弁理士の仕事は大きく変わるはずです」

 つまり、AIと人間の役割分担が進むことで、弁理士はより高度な判断や戦略に集中できるようになる。

知財は「鎧」になる――スタートアップへの提言

 最後に、スタートアップや中小企業が国際競争で負けないために必要なことを尋ねると、谷水氏は「特許出願を“鎧”と捉えるべき」と語った。

「海外に出願せず進出するのは、丸腰で戦場に行くようなものです。たとえそれが“紙の鎧”であっても、出願しているだけで大企業は手を出しにくくなる。知財は攻めの武器であると同時に、防御の鎧でもあるのです」

 この「鎧」をどう身にまとい、どこで戦うか。そこにアイピコのプラットフォームは強力な後押しをしてくれる。

 アイピコの挑戦は、単に特許出願の効率化にとどまらない。

 ・中小の弁理士事務所に国際案件を開くことで、業界構造を変革する
 ・海外送金や請求書処理を集約し、企業の負担を大幅に軽減する
 ・人と人をつなぐ仕組みで、信頼を基盤としたグローバルネットワークを構築する

 知財は、企業が世界で戦うための「見えない武器」である。スタートアップがグローバル市場に挑むとき、アイピコのような存在が新しい選択肢となるだろう。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

米国で寿司ロボット需要が爆発的急伸…米飯加工ロボットメーカーの海外展開が加速

●この記事のポイント
・米国で“寿司”や“おむすび”などを製造する米飯加工ロボットの販売が伸びている
・米飯加工ロボットメーカー大手、鈴茂器工の2025年3月期ののり巻きロボットの年間販売台数は19年3月期のおよそ2.5倍に急伸
・米飯加工ロボットの販売を通じてお客様の効率的な店舗オペレーションを支援すること にとどまらず、さまざまな事業課題の解決策を提案し事業の拡大を目指す

 米国のスーパーでは寿司の販売が日常的になりつつあり、寿司をはじめとする日本的米飯食を提供する現地資本の飲食店も増加を続けている。そうした流れのなかで鈴茂器工の米飯加工ロボットの販売が伸びている。同社の2025年3月期におけるのり巻きロボットの年間販売台数は、北米市場において19年3月期のおよそ2.5倍に急伸。28年3月期には北米市場の売上高を25年3月期の2.4倍、約53億円と見込んでいる。

 さらに米国では現地事業者にとどまらず、日系の大手回転寿司チェーンの出店が加速、寿司業態以外の日系外食チェーンも米国市場へ新規進出するなど、日本的米飯食の市場拡大に伴い米飯加工ロボットの需要も右肩上がりが予想されている。鈴茂器工の谷口徹社長に、米国市場の動向と北米事業を中心に海外事業拡大に向けた戦略について聞いた。

●目次

 

トップシェアを続ける米飯加工ロボットメーカーのソリューション提案

――国内市場における御社の米飯加工ロボットは長きにわたりトップシェアを続けていますが、その要因は何でしょうか。

谷口 当社が国内市場において米飯加工ロボットのトップシェアを維持もしくは拡大を続けている主な要因は、「製品力」「サービス・サポート力」そして「提案力」にあると考えています。

 まず「製品力」ですが、米飯加工ロボットには、「省人・省力化」「省費化」「省技術化」「衛生的」という4つの価値があると考えています。

 米飯商品を作る人の作業の一部を減らす、もしくは無くすのが「省人・省力化」です。「省費化」とは、一定量を正確に成型もしくは盛付けることで無駄な米飯コスト(費用)を抑制すること、「省技術化」は、寿司職人を介さず早く美味しく均質に寿司を作ることや、人手で素早くごはんをふっくら美味しく盛付けるという人手による技術を省くことができます。人手の作業を削減するので「衛生的」であるのは言うまでもありません。

 次に「サービス・サポート力」ですが、当社は国内事業において24時間365日のサポート体制を敷いています。お客様の現場で起こる食品生産の不具合やオペレーション上の課題にタイムリーに対処することで安心感を提供し、他社製品からのテイクオーバーや継続的な当社製品の入れ替えを実現してきました。

 最後に「提案力」です。当社は製品販売にとどまらず、お客様の現場のオペレーショ ン改善、商品開発、売り場・売り方など、いかに店舗の売上を高めるか、効率的に運営するかなどお客様の事業課題を解決するという観点で様々な提案を行っております。

――どのような提案を行っているのですか。

谷口  申し上げましたとおり、単に製品を販売するだけでなく、お客様のビジネス全体をサポートする総合的なソリューション提案を心がけております。

 例えば、寿司ロボットの導入後も、より美味しい米飯商品を効率的に作るための最適なオペレーションや、新しい米飯メニューや効果的なメニュー構成についても提案しています。さらにスーパーマーケットのお客様向けには、商品の魅せ方や陳列方法まで踏み込んだアドバイスを行っています。最近では自社の米飯加工ロボットに加えて、自社で開発したオーダーシステムや店舗オペレーションの見える化や効率化に資する自社システムなどの提案活動も強化しており、お客様の売上向上とコスト抑制に貢献することを目指しています。

米国市場の動向と高関税政策の影響は

――北米市場では、のり巻きロボットの年間販売高が過去5年で2.5倍に増えましたが、 トランプ政権による対日関税率の引き上げによる影響について、どのような見通しを立てていますか。

谷口 北米市場における関税の影響は、中期的な視点でみれば限定的と考えています。

 関税比率の引き上げにより米飯商品のみならず、様々なモノが値上がりすることで消費の減退や景気の停滞が起こり、お客様の設備投資は抑制されますが、一定の期間を経れば再び投資需要は高まってくるとみています。

 米国市場について詳しくご説明しますと、米国では1980年代後半から90年代に第1次寿司ブームが起こりました。この時は寿司を扱う外食店舗が増え、カリフォルニアロールが生まれるなど一定の消費者層の間で寿司が非日常食として人気化しました。ただ、この時はまだ大量かつ均質に美味しく寿司を作るまでには至らず、人手で十分賄えるため機械化すなわち寿司ロボットの需要は大きくありませんでした。

 私は数年前から本格的な寿司ブームが始まったと実感していますが、今回の流れは米国において寿司が一定の日常食になりつつあり消費者が増えていること、そして寿司を提供する事業者が効率的かつ均質に美味しく寿司を作り、提供することを追求するようになり、そのための機械化が進んでいます。

 現在は寿司を提供する外食事業者が拡大していることはもちろんですが、日本とは桁違いの店舗数を有する大手スーパーマーケットチェーンでも相応の量の寿司が提供され始めていることから、消費者の増加が実感できます。さらに、例えばロサンゼルスでは、労働者の最低賃金は1時間17ドル(約2500円)を超えていますし、2030年までには一部の業種で30ドルまで引き上げることが義務付けられます。こうした流れを踏まえると、寿司の生産における機械化は限りなく必然になってくると考えています。

 従って、一時的な消費や景気の減退があっても、中期的には当社の北米事業は、さらに拡大していくと確信しています。

――米国の関税対策として、御社は「米国子会社への在庫積み上げ」と「4月から6月まで集中的な製品出荷」を発表していますが、この対応をとった背景は何でしょうか。

谷口 当社は当初4月に発動すると言われていた関税対策として、発動される前に在庫を 積み上げて、一定期間はお客様へ関税による値上げ前の価格で当社製品を提供できるようにと考え、3月までに相応の在庫を確保しました。

 一部のお客様にはそうした対応をご評価いただき前倒しの購入に繋がりました。しかし関税率や発効時期が二転三転したことに加えて、消費や景気の不透明さから設備投資を抑制もしくは当面の様子見をするお客様が多くみられたことから「4月から6月までの集中的な製品出荷」には想定していたほど繋がりませんでした。

 ただ関税率も決まり、現状は消費や景気の大きな混乱もみられないことから、徐々にお客様の設備投資行動も回復してきています。

――積み上げた関税前の在庫が切れて以降は、値上げに切り替える方針ですか。

谷口 お客様には申し訳ありませんが、関税後の製品については当社も価格を引き上げる ことになります。ただ製品の値上げではなく関税分を引き上げるので、販売明細にはそれをきちんと明記してお客様との取引の透明性を確保していきます。

海外市場における日系の食材卸売会社との協業

――22年3月期から25年3月期までの中期経営計画「Growth2025」の振り返りで、海外事業では「潜在需要に対する戦略的な取り組みが不十分」と課題を指摘していますが、どういったことを意味しているのですか。

谷口 これまでの海外事業における当社の販売活動は、厨房機器商社などの販売店やお客 様からのダイレクトな問い合わせに対して応える受動的な販売活動が主でした。それでも日本食の普及拡大に加えて、競合他社が1、2社と少なく国内におけるトップメーカーとしてのブランド力で事業は拡大を続けることができました。

 しかしながら世界という広大な事業フィールドでは当社が把握している以上に潜在的な市場はあり、その潜在的な需要を効率的に取り込むためには、当社が能動的にお客様や販売店にアプローチすることに加えて、新たな販売チャネル網を構築することが重要であると考えています。そうした考えに基づき日系の食材卸会社とより密接な協業を図っていきます。日系の食材卸会社は、日常的に日本食の外食事業者やスーパーマーケット事業者と繋がっていますから。

――どんな取り組みを考えていますか。

谷口 海外の主要市場における能動的かつ効率的な販売促進活動に向けた変革として、国 や都市の市場特性に合わせた多角的な営業戦略を推進します。

 例えば、米国やヨーロッパの 100~1000 店舗規模で展開する外食チェーンやスーパーマーケット等に対しては、日本と同様に当社主体の提案型営業を強化します。単なる製品の紹介ではなく、オペレーションの効率化や売上向上に直結するソリューションを提供することで、顧客の潜在的なニーズを引き出します。

 一方で、店舗数の少ない中小事業者に対しては、販売店や日系の食材卸売会社との連携が鍵になると考えています。例えば米国の日系食材卸売会社は全米の主要都市に拠点を持ち、スーパーマーケットや外食産業への強い販売チャネルを有していますので、当社に代わって積極的な当社製品の販売活動を行っていただくための勉強会や展示会協力、販売インセンティブの仕組み等を強化していきます。こうした取り組みにより全米へ効率的に当社製品を広げることが可能になると考えています。

中期経営計画「Next2028」

――中期経営計画「Next2028」では、28年3月期のROE12%達成を掲げています。ROE は20年3月期の2.8%から25年3月期には9.6%まで上昇しています。ROE12%の目標に対して、どのように取り組んでいきますか。

谷口 当社は米飯加工機械メーカーというニッチな事業領域に加えて、グローバル市場で 年率平均約12%の成長を実現する企業であり、そうした経営および事業リスクを踏まえた保守的な財務運営が重要であると考えています。前中期経営計画「Growth2025」では、来年春に稼働を開始する大型の生産工場への投資、効率的な経営や事業運営をするためのシステム投資、そして新事業領域も含む様々な開発投資など新たな成長軌道の実現に向けた様々な投資を実行してきました。そうした投資コスト先行の中でROEが改善されたのは、コスト増を上回る利益成長が実現できたからです。中期経営計画「Next2028」でも保守的な財務経営を基本とするのは変わりませんが、これまでに実行した成長投資の効果による超過利益を実現しながらROE12%を達成していきます。

――中期経営計画「Next2028」の基本方針で「真のグローバル企業体制の構築」「付加価値 創造型企業への進化」を掲げています。一般論としては分かりますが、実施する施策を示していただけますか。

谷口 まず「真のグローバル企業体制の構築」についてですが、一言でいうと全社挙げてグローバル事業拡大に取り組むということです。これまでの当社の海外事業は日本食文化がグローバルに普及・浸透していく中で自然に事業が拡大してきましたので、海外事業部門のみが受動的に活動するだけで良かったのです。

 しかし世界の市場は私たちが想像する以上に大きくて深い。世界のニーズを捉えた製品開発を国内発で行うこと、日本とは桁違いの潜在的な機械需要に応える生産体制やサプライチェーン体制を日本発で構築すること、国内営業部門と海外営業部門が一体となって日系およびローカル資本の様々な業態のお客様の開拓を行うこと、そして日本では確立されている機械販売後のアフターサービス体制をグローバルで展開することなど、これらを全社挙げて取り組んでいきます。

 次に「付加価値創造型企業への進化」ですが、当社はマシナリーセールスからソリューションプロバイダーへ転換することを意図しています。当社はこれまで「省人化」「省技術化」「省費化」「衛生」機械の提供を通じてお客様の課題解決に貢献してきましたが、お客様が抱える事業上の課題は多岐にわたります。例えば外食事業者の店舗運営では人手不足、労働賃金の上昇、資材の高騰等を背景に厨房やホールのオペレーションの効率化や見える化、新業態の開発、海外進出など様々な取り組みを行っています。

 当社は米飯加工ロボット以外にも、POSやオーダーシステム、衛生資材などの自社製品を有しています。また最近はAIを活用した配席システムやレジシステム、オーダーシステムと米飯加工ロボットを連動させた自動おむすび生産ラインなどの開発にも取り組んでいます。こうした自社のソリューション製品群に加えて、当社は長 年の事業活動で培ったノウハウや業者ネットワーク、さらにはグローバルな食に関する市場情報等も有しています。こうした当社の事業リソースを活かして多面的なお 客様の課題を解決するソリューション企業に進化し、お客様の「ファーストコールカンパニー」を目指します。

――次世代経営者を含む人材の育成も重要な経営 課題だと思いますが、人材育成への考えをお聞かせください。

谷口 社長としての私の一番大きなミッションは、当社をサステナブルなグローバル成長 企業として経営基盤を強化・再構築することです。そしてその基盤を支えていくのは人です。私は当社の社会的な存在価値を理解し、当社の未来を描き、時代に合わせて当社を進化させていく、次世代、次々世代のグローバル経営者、人材を育てていきます。そのための育成投資を積極的に実行していくとともに、社員との対話を増やし深めていきます。

――前の中期経営計画「Growth2025」の期間で株価は約3倍になりました。一方、足元の株価は大きく低迷しています。今回の中期経営計画における御社の株価 対策についてお聞かせください。

谷口 当社の株価は3月に2605円の上場来高値を付けた後、5月の前期通期決算発表、2026年3月期第1四半期の決算発表を踏まえて、上場来高値から大きく値下がりしています。株価低迷の主たる要因は足元の業績悪化と慢性的に低い出来高、流動性にあると考えています。

 まず業績ですが、今期はさらなる事業成長に向けた大きな改革期、転換期であるため売上・利益成長を実現するには例年以上にチャレンジングな期だと思います。当社を取り巻く市場は引き続き拡大を続けており、中長期的な成長に疑いの余地はありません。今期の第1四半期業績は非常に厳しい結果になりましたが、引き続き業績計画の達成に向けて取り組んでいきます。

 次に出来高、流動性の改善の一つの施策として、当社は個人株主の皆様に「単なる投資家」ではなく「スズモファン」になっていただくことを目指しています。当社はB to B企業ではありますが、当社の製品であるロボットを通じて作られた寿司をはじめとする米飯食は、ほぼ全ての日本にいる消費者に提供されている身近な企業です。今年の株主総会では、終了後に会場に展示した機械を実際に操作していただく時間を設けました。こうした体験を通じて、当社の技術力や製品の魅力を直に感じていただくことが、エンゲージメントの向上につながると考えています。

 当社の個人株主には、「面白い会社を見つけた」と当社のファンになってくださり、 長期的に株式を保有してくださる方が多くいらっしゃいます。なかには「もっと世の中に鈴茂器工を知らしめて、認知を上げてください。応援しています」と、熱いエールを送ってくださる方も多く、今年の3月に上場来高値を付けましたが、当社の個人株主数は約3割増加したことからも「スズモファン」であることが伺えます。

 様々なメディアや IR 活動を通じてまだ当社を認知していない潜在的な株主を掘り起こすことに加えて、既存の株主の方々にも当社の事業内容や将来性について深く理解していただけるよう努めていきます。

(取材・文=小野貴史/経済ジャーナリスト)