海外特許が安く早く取得できる…世界の弁理士をつなぐ日本発プラットフォーム

●この記事のポイント
・アイピコは世界の弁理士をつなぐプラットフォームを開発し、企業の海外特許出願を低コストかつ迅速に支援している。
・複雑な海外送金や請求処理を一本化し、中小弁理士事務所にも国際案件の機会を提供、業界構造の変革を目指す。
・谷水氏は知財を「鎧」と位置づけ、スタートアップが海外進出する際の防御と攻めの武器になると強調する。

 日本発のスタートアップ、株式会社アイピコは、世界中の弁理士をつなぐプラットフォームを開発し、企業の国際的な特許・商標出願を円滑に進める仕組みを提供している。代表取締役の谷水浩一氏は、弁理士としての経験を土台に「知財のグローバル化」という大きな課題に挑んでいる。

「海外に特許を出願する際、これまでは国内の弁理士事務所を経由し、現地の弁理士に依頼するのが一般的でした。そこには高額な仲介料や時間的ロスが発生します。私たちはその“間”をなくし、直接やりとりできる環境を整えることで、コストは3割程度削減でき、手続きもスピーディーになるのです」と谷水氏は語る。

 本記事では、谷水氏がこの事業を立ち上げた背景、プラットフォームがもたらすメリット、知財ビジネスの世界的な変化、そしてスタートアップが国際競争で生き抜くために必要な戦略について掘り下げていく。

●目次

弁理士としての「後ろめたさ」から生まれた発想

 谷水氏がアイピコを立ち上げたのは約5年前。きっかけは、自身の弁理士業務で感じた違和感だった。

「海外出願の案件を社員に任せたところ、彼は単に海外の弁理士に丸投げするだけで、自らの付加価値を出していなかったんです。それでもクライアントは手続きが進むから満足する。すると、うちの事務所が間に入る意味はあるのだろうか、と考えるようになりました」

 さらに、手続きの代行料として数十万円を受け取ることに後ろめたさを感じる場面もあったという。

「もちろん、寄り添ってサポートすべき案件もあります。ただ、単なる“中継ぎ”で高額な報酬をいただくのは健全ではない。だったら直接やり取りできる仕組みを作ればいい――そう思ったのです」

 こうして誕生したのが、世界中の弁理士を集めたプラットフォームである。

 アイピコの仕組みは、単なるマッチングにとどまらない。特に企業にとっての大きな利点は、煩雑な海外送金の一元化だ。

 通常、アメリカ・中国・欧州など複数の事務所から請求書が届き、それぞれに送金手続きを行う必要がある。だがアイピコを利用すれば、企業は国内のアイピコに1回だけ支払えばよく、同社がまとめて海外事務所へ振り込む。

「Amazonで複数の商品をカートに入れて一括決済するイメージです。請求書も一本化され、経理部門の負担は劇的に下がります」

 さらに弁理士にとっても、海外ネットワークに容易にアクセスできる点は大きい。これまで小規模事務所は海外手続きを敬遠し、大手事務所に丸投げしていた。アイピコはそうした構造を変え、中小規模の事務所にも国際案件を手掛けるチャンスを与える。

「大手事務所だけが海外案件を独占し、高額な手数料で利益を上げる構造がありました。私たちはその“経済の仕組み”を変え、自由競争を促したいのです」

技術と人の「ハイブリッド」で築くネットワーク

 アイピコは出願管理ツールや期限管理システムを市場価格の半額程度で提供し、利用者を囲い込む工夫もしている。将来的にはAI翻訳や自動会議システムを導入し、さらに利便性を高める構想もある。

 しかし谷水氏が強調するのは、「人と人とのつながり」だ。

「弁理士業務は法律と技術の専門性が絡む領域です。AIや自動化が進んでも、相手が信頼できる人間であることが重要なんです。だから将来的には紹介動画やマッチングイベントも開催し、顔が見えるネットワークを築きたい」

 デジタルとリアルの両面から「信頼」を構築する発想が、アイピコのユニークな点だ。

 世界の知財市場は拡大を続けている。日本の出願件数は横ばいだが、東南アジアやインド、中東では急成長が見られる。企業の海外展開に伴い、知財戦略の重要性は高まっている。

 一方で、AIは弁理士業務にどう影響するのか。

「事務作業はすでにRPAで効率化されています。生成AIについては、確実性が求められる分野だけに慎重な姿勢が必要ですが、将来的には意見書や補正書の作成にも活用されるでしょう。弁理士の仕事は大きく変わるはずです」

 つまり、AIと人間の役割分担が進むことで、弁理士はより高度な判断や戦略に集中できるようになる。

知財は「鎧」になる――スタートアップへの提言

 最後に、スタートアップや中小企業が国際競争で負けないために必要なことを尋ねると、谷水氏は「特許出願を“鎧”と捉えるべき」と語った。

「海外に出願せず進出するのは、丸腰で戦場に行くようなものです。たとえそれが“紙の鎧”であっても、出願しているだけで大企業は手を出しにくくなる。知財は攻めの武器であると同時に、防御の鎧でもあるのです」

 この「鎧」をどう身にまとい、どこで戦うか。そこにアイピコのプラットフォームは強力な後押しをしてくれる。

 アイピコの挑戦は、単に特許出願の効率化にとどまらない。

 ・中小の弁理士事務所に国際案件を開くことで、業界構造を変革する
 ・海外送金や請求書処理を集約し、企業の負担を大幅に軽減する
 ・人と人をつなぐ仕組みで、信頼を基盤としたグローバルネットワークを構築する

 知財は、企業が世界で戦うための「見えない武器」である。スタートアップがグローバル市場に挑むとき、アイピコのような存在が新しい選択肢となるだろう。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

米国で寿司ロボット需要が爆発的急伸…米飯加工ロボットメーカーの海外展開が加速

●この記事のポイント
・米国で“寿司”や“おむすび”などを製造する米飯加工ロボットの販売が伸びている
・米飯加工ロボットメーカー大手、鈴茂器工の2025年3月期ののり巻きロボットの年間販売台数は19年3月期のおよそ2.5倍に急伸
・米飯加工ロボットの販売を通じてお客様の効率的な店舗オペレーションを支援すること にとどまらず、さまざまな事業課題の解決策を提案し事業の拡大を目指す

 米国のスーパーでは寿司の販売が日常的になりつつあり、寿司をはじめとする日本的米飯食を提供する現地資本の飲食店も増加を続けている。そうした流れのなかで鈴茂器工の米飯加工ロボットの販売が伸びている。同社の2025年3月期におけるのり巻きロボットの年間販売台数は、北米市場において19年3月期のおよそ2.5倍に急伸。28年3月期には北米市場の売上高を25年3月期の2.4倍、約53億円と見込んでいる。

 さらに米国では現地事業者にとどまらず、日系の大手回転寿司チェーンの出店が加速、寿司業態以外の日系外食チェーンも米国市場へ新規進出するなど、日本的米飯食の市場拡大に伴い米飯加工ロボットの需要も右肩上がりが予想されている。鈴茂器工の谷口徹社長に、米国市場の動向と北米事業を中心に海外事業拡大に向けた戦略について聞いた。

●目次

 

トップシェアを続ける米飯加工ロボットメーカーのソリューション提案

――国内市場における御社の米飯加工ロボットは長きにわたりトップシェアを続けていますが、その要因は何でしょうか。

谷口 当社が国内市場において米飯加工ロボットのトップシェアを維持もしくは拡大を続けている主な要因は、「製品力」「サービス・サポート力」そして「提案力」にあると考えています。

 まず「製品力」ですが、米飯加工ロボットには、「省人・省力化」「省費化」「省技術化」「衛生的」という4つの価値があると考えています。

 米飯商品を作る人の作業の一部を減らす、もしくは無くすのが「省人・省力化」です。「省費化」とは、一定量を正確に成型もしくは盛付けることで無駄な米飯コスト(費用)を抑制すること、「省技術化」は、寿司職人を介さず早く美味しく均質に寿司を作ることや、人手で素早くごはんをふっくら美味しく盛付けるという人手による技術を省くことができます。人手の作業を削減するので「衛生的」であるのは言うまでもありません。

 次に「サービス・サポート力」ですが、当社は国内事業において24時間365日のサポート体制を敷いています。お客様の現場で起こる食品生産の不具合やオペレーション上の課題にタイムリーに対処することで安心感を提供し、他社製品からのテイクオーバーや継続的な当社製品の入れ替えを実現してきました。

 最後に「提案力」です。当社は製品販売にとどまらず、お客様の現場のオペレーショ ン改善、商品開発、売り場・売り方など、いかに店舗の売上を高めるか、効率的に運営するかなどお客様の事業課題を解決するという観点で様々な提案を行っております。

――どのような提案を行っているのですか。

谷口  申し上げましたとおり、単に製品を販売するだけでなく、お客様のビジネス全体をサポートする総合的なソリューション提案を心がけております。

 例えば、寿司ロボットの導入後も、より美味しい米飯商品を効率的に作るための最適なオペレーションや、新しい米飯メニューや効果的なメニュー構成についても提案しています。さらにスーパーマーケットのお客様向けには、商品の魅せ方や陳列方法まで踏み込んだアドバイスを行っています。最近では自社の米飯加工ロボットに加えて、自社で開発したオーダーシステムや店舗オペレーションの見える化や効率化に資する自社システムなどの提案活動も強化しており、お客様の売上向上とコスト抑制に貢献することを目指しています。

米国市場の動向と高関税政策の影響は

――北米市場では、のり巻きロボットの年間販売高が過去5年で2.5倍に増えましたが、 トランプ政権による対日関税率の引き上げによる影響について、どのような見通しを立てていますか。

谷口 北米市場における関税の影響は、中期的な視点でみれば限定的と考えています。

 関税比率の引き上げにより米飯商品のみならず、様々なモノが値上がりすることで消費の減退や景気の停滞が起こり、お客様の設備投資は抑制されますが、一定の期間を経れば再び投資需要は高まってくるとみています。

 米国市場について詳しくご説明しますと、米国では1980年代後半から90年代に第1次寿司ブームが起こりました。この時は寿司を扱う外食店舗が増え、カリフォルニアロールが生まれるなど一定の消費者層の間で寿司が非日常食として人気化しました。ただ、この時はまだ大量かつ均質に美味しく寿司を作るまでには至らず、人手で十分賄えるため機械化すなわち寿司ロボットの需要は大きくありませんでした。

 私は数年前から本格的な寿司ブームが始まったと実感していますが、今回の流れは米国において寿司が一定の日常食になりつつあり消費者が増えていること、そして寿司を提供する事業者が効率的かつ均質に美味しく寿司を作り、提供することを追求するようになり、そのための機械化が進んでいます。

 現在は寿司を提供する外食事業者が拡大していることはもちろんですが、日本とは桁違いの店舗数を有する大手スーパーマーケットチェーンでも相応の量の寿司が提供され始めていることから、消費者の増加が実感できます。さらに、例えばロサンゼルスでは、労働者の最低賃金は1時間17ドル(約2500円)を超えていますし、2030年までには一部の業種で30ドルまで引き上げることが義務付けられます。こうした流れを踏まえると、寿司の生産における機械化は限りなく必然になってくると考えています。

 従って、一時的な消費や景気の減退があっても、中期的には当社の北米事業は、さらに拡大していくと確信しています。

――米国の関税対策として、御社は「米国子会社への在庫積み上げ」と「4月から6月まで集中的な製品出荷」を発表していますが、この対応をとった背景は何でしょうか。

谷口 当社は当初4月に発動すると言われていた関税対策として、発動される前に在庫を 積み上げて、一定期間はお客様へ関税による値上げ前の価格で当社製品を提供できるようにと考え、3月までに相応の在庫を確保しました。

 一部のお客様にはそうした対応をご評価いただき前倒しの購入に繋がりました。しかし関税率や発効時期が二転三転したことに加えて、消費や景気の不透明さから設備投資を抑制もしくは当面の様子見をするお客様が多くみられたことから「4月から6月までの集中的な製品出荷」には想定していたほど繋がりませんでした。

 ただ関税率も決まり、現状は消費や景気の大きな混乱もみられないことから、徐々にお客様の設備投資行動も回復してきています。

――積み上げた関税前の在庫が切れて以降は、値上げに切り替える方針ですか。

谷口 お客様には申し訳ありませんが、関税後の製品については当社も価格を引き上げる ことになります。ただ製品の値上げではなく関税分を引き上げるので、販売明細にはそれをきちんと明記してお客様との取引の透明性を確保していきます。

海外市場における日系の食材卸売会社との協業

――22年3月期から25年3月期までの中期経営計画「Growth2025」の振り返りで、海外事業では「潜在需要に対する戦略的な取り組みが不十分」と課題を指摘していますが、どういったことを意味しているのですか。

谷口 これまでの海外事業における当社の販売活動は、厨房機器商社などの販売店やお客 様からのダイレクトな問い合わせに対して応える受動的な販売活動が主でした。それでも日本食の普及拡大に加えて、競合他社が1、2社と少なく国内におけるトップメーカーとしてのブランド力で事業は拡大を続けることができました。

 しかしながら世界という広大な事業フィールドでは当社が把握している以上に潜在的な市場はあり、その潜在的な需要を効率的に取り込むためには、当社が能動的にお客様や販売店にアプローチすることに加えて、新たな販売チャネル網を構築することが重要であると考えています。そうした考えに基づき日系の食材卸会社とより密接な協業を図っていきます。日系の食材卸会社は、日常的に日本食の外食事業者やスーパーマーケット事業者と繋がっていますから。

――どんな取り組みを考えていますか。

谷口 海外の主要市場における能動的かつ効率的な販売促進活動に向けた変革として、国 や都市の市場特性に合わせた多角的な営業戦略を推進します。

 例えば、米国やヨーロッパの 100~1000 店舗規模で展開する外食チェーンやスーパーマーケット等に対しては、日本と同様に当社主体の提案型営業を強化します。単なる製品の紹介ではなく、オペレーションの効率化や売上向上に直結するソリューションを提供することで、顧客の潜在的なニーズを引き出します。

 一方で、店舗数の少ない中小事業者に対しては、販売店や日系の食材卸売会社との連携が鍵になると考えています。例えば米国の日系食材卸売会社は全米の主要都市に拠点を持ち、スーパーマーケットや外食産業への強い販売チャネルを有していますので、当社に代わって積極的な当社製品の販売活動を行っていただくための勉強会や展示会協力、販売インセンティブの仕組み等を強化していきます。こうした取り組みにより全米へ効率的に当社製品を広げることが可能になると考えています。

中期経営計画「Next2028」

――中期経営計画「Next2028」では、28年3月期のROE12%達成を掲げています。ROE は20年3月期の2.8%から25年3月期には9.6%まで上昇しています。ROE12%の目標に対して、どのように取り組んでいきますか。

谷口 当社は米飯加工機械メーカーというニッチな事業領域に加えて、グローバル市場で 年率平均約12%の成長を実現する企業であり、そうした経営および事業リスクを踏まえた保守的な財務運営が重要であると考えています。前中期経営計画「Growth2025」では、来年春に稼働を開始する大型の生産工場への投資、効率的な経営や事業運営をするためのシステム投資、そして新事業領域も含む様々な開発投資など新たな成長軌道の実現に向けた様々な投資を実行してきました。そうした投資コスト先行の中でROEが改善されたのは、コスト増を上回る利益成長が実現できたからです。中期経営計画「Next2028」でも保守的な財務経営を基本とするのは変わりませんが、これまでに実行した成長投資の効果による超過利益を実現しながらROE12%を達成していきます。

――中期経営計画「Next2028」の基本方針で「真のグローバル企業体制の構築」「付加価値 創造型企業への進化」を掲げています。一般論としては分かりますが、実施する施策を示していただけますか。

谷口 まず「真のグローバル企業体制の構築」についてですが、一言でいうと全社挙げてグローバル事業拡大に取り組むということです。これまでの当社の海外事業は日本食文化がグローバルに普及・浸透していく中で自然に事業が拡大してきましたので、海外事業部門のみが受動的に活動するだけで良かったのです。

 しかし世界の市場は私たちが想像する以上に大きくて深い。世界のニーズを捉えた製品開発を国内発で行うこと、日本とは桁違いの潜在的な機械需要に応える生産体制やサプライチェーン体制を日本発で構築すること、国内営業部門と海外営業部門が一体となって日系およびローカル資本の様々な業態のお客様の開拓を行うこと、そして日本では確立されている機械販売後のアフターサービス体制をグローバルで展開することなど、これらを全社挙げて取り組んでいきます。

 次に「付加価値創造型企業への進化」ですが、当社はマシナリーセールスからソリューションプロバイダーへ転換することを意図しています。当社はこれまで「省人化」「省技術化」「省費化」「衛生」機械の提供を通じてお客様の課題解決に貢献してきましたが、お客様が抱える事業上の課題は多岐にわたります。例えば外食事業者の店舗運営では人手不足、労働賃金の上昇、資材の高騰等を背景に厨房やホールのオペレーションの効率化や見える化、新業態の開発、海外進出など様々な取り組みを行っています。

 当社は米飯加工ロボット以外にも、POSやオーダーシステム、衛生資材などの自社製品を有しています。また最近はAIを活用した配席システムやレジシステム、オーダーシステムと米飯加工ロボットを連動させた自動おむすび生産ラインなどの開発にも取り組んでいます。こうした自社のソリューション製品群に加えて、当社は長 年の事業活動で培ったノウハウや業者ネットワーク、さらにはグローバルな食に関する市場情報等も有しています。こうした当社の事業リソースを活かして多面的なお 客様の課題を解決するソリューション企業に進化し、お客様の「ファーストコールカンパニー」を目指します。

――次世代経営者を含む人材の育成も重要な経営 課題だと思いますが、人材育成への考えをお聞かせください。

谷口 社長としての私の一番大きなミッションは、当社をサステナブルなグローバル成長 企業として経営基盤を強化・再構築することです。そしてその基盤を支えていくのは人です。私は当社の社会的な存在価値を理解し、当社の未来を描き、時代に合わせて当社を進化させていく、次世代、次々世代のグローバル経営者、人材を育てていきます。そのための育成投資を積極的に実行していくとともに、社員との対話を増やし深めていきます。

――前の中期経営計画「Growth2025」の期間で株価は約3倍になりました。一方、足元の株価は大きく低迷しています。今回の中期経営計画における御社の株価 対策についてお聞かせください。

谷口 当社の株価は3月に2605円の上場来高値を付けた後、5月の前期通期決算発表、2026年3月期第1四半期の決算発表を踏まえて、上場来高値から大きく値下がりしています。株価低迷の主たる要因は足元の業績悪化と慢性的に低い出来高、流動性にあると考えています。

 まず業績ですが、今期はさらなる事業成長に向けた大きな改革期、転換期であるため売上・利益成長を実現するには例年以上にチャレンジングな期だと思います。当社を取り巻く市場は引き続き拡大を続けており、中長期的な成長に疑いの余地はありません。今期の第1四半期業績は非常に厳しい結果になりましたが、引き続き業績計画の達成に向けて取り組んでいきます。

 次に出来高、流動性の改善の一つの施策として、当社は個人株主の皆様に「単なる投資家」ではなく「スズモファン」になっていただくことを目指しています。当社はB to B企業ではありますが、当社の製品であるロボットを通じて作られた寿司をはじめとする米飯食は、ほぼ全ての日本にいる消費者に提供されている身近な企業です。今年の株主総会では、終了後に会場に展示した機械を実際に操作していただく時間を設けました。こうした体験を通じて、当社の技術力や製品の魅力を直に感じていただくことが、エンゲージメントの向上につながると考えています。

 当社の個人株主には、「面白い会社を見つけた」と当社のファンになってくださり、 長期的に株式を保有してくださる方が多くいらっしゃいます。なかには「もっと世の中に鈴茂器工を知らしめて、認知を上げてください。応援しています」と、熱いエールを送ってくださる方も多く、今年の3月に上場来高値を付けましたが、当社の個人株主数は約3割増加したことからも「スズモファン」であることが伺えます。

 様々なメディアや IR 活動を通じてまだ当社を認知していない潜在的な株主を掘り起こすことに加えて、既存の株主の方々にも当社の事業内容や将来性について深く理解していただけるよう努めていきます。

(取材・文=小野貴史/経済ジャーナリスト)

「AIは女性の武器になる」WAIJが戦略発表会 村上信五アバターも登場

●この記事のポイント
・一般社団法人WAIJが女性のAIリスキリング支援に向けた戦略を発表。4本柱の施策で2030年までに100万人へ学びの機会提供を目指す。
・日本マイクロソフトやGUGAと連携し、AI学習プログラムやスキル認定バッジを展開。新プロジェクト「MIRAIα」への企業賛同も開始。
・戦略発表会では村上信五AIアバター「AIシンゴ」が登場し、女性3人のリスキリング事例を紹介。AI活用の可能性を参加者に示した。

 一般社団法人Women AI Initiative Japan(東京・渋谷、以下WAIJ)は9月18日、「Women AI Initiative Japan 戦略発表会」を開催し、女性のAIリスキリング推進に向けた新戦略と開始するプロジェクトを発表した。

 WAIJはこれまで任意団体として、女性がAI分野で活躍できる機会の創出と支援を目的に活動してきたが、今年5月に一般社団法人化した。

WAIJ戦略は「リスキリング&キャリア支援」など4つ

 本発表会ではまず、代表理事の國本知里氏があいさつに立ち、AIによる労働市場の変化が女性のキャリアに与える影響について発表し、リスキリングを通じた新たなキャリア形成の可能性について説明した。

 國本氏は、「国の統計や我々の独自調査の結果、AIに代替される可能性が高い職種に就く女性が非常に多いという現実があります。しかし、AIは女性から仕事を奪うものではありません。むしろ新たな可能性を開くツールです」と語り、「WAIJは、このAIという武器を女性たちが手にし、キャリアを軸とした自律的な人生を切り開くためのサポートをしていきます」と宣言。

 女性が自律的に自身のキャリアを選択できる社会をつくるため、WAIJは新たなミッション・ビジョンを刷新し、包括的な支援を行っていくという。

 女性は結婚退社や育休でキャリアが中断するケースが少なくない。在宅勤務の場合、育児や家事の合間にAIでコンテンツ作成や業務改善が可能になる。これまで週5日8時間労働だったキャリアから、週1~3の短期間でも高い品質の価値を出すこともできるだろう。

 女性支援のWAIJ戦略としては主に、「リスキリング&キャリア支援」「コミュニティ運営」「創業支援」「啓発活動」の4つだ。今後は個人レベルによって自分に合ったAIの学び方が求められるが、学んだだけで終わりではなく、それをどうキャリアアップにつなげていくのかが重要になる。WAIJはさまざまな企業と提携しながらキャリア支援として広げていく。コミュニティ運営については、さまざまなロールモデルを提示しながら、つながりを作れるようなカンファレンスを主催していく。

 今後のロードマップは、今年から提携企業や法人などの事務職のスキルキャリアアップできるような提携プログラムを展開していき、2030年には100万人に生成AIを学びキャリアを考える機会を提供していくのが目標だ。

女性のAIチャレンジ応援宣言「MIRAIα」とは

 その提携パートナーだが、プロジェクト第一弾として、日本マイクロソフトと生成AI活用普及協会(GUGA)が発表された。日本マイクロソフトとの協業を通じて、世界標準のCopilot活用の実践ノウハウへのアクセスと、GUGAとの連携によりAI学習プログラムの無償提供を通じて、キャリアアップに活用できるスキル認定バッジの付与などを行っていくという。

 そして、國本氏はこの日から開始するプロジェクトとして、「女性のAIチャレンジ応援宣言『MIRAIα(ミライア)』」に賛同する企業・団体の募集開始とその内容を説明した。

「多くの企業や団体に、女性がAIを学ぶことを推進してそれを宣言いただくという参加型のプロジェクトです。AIを学んでもどうキャリアにつながるのかわからない、という声が多くあり、それに対して企業から、AIを学ぶこと自体がこの社会を変えていき企業を変えていくことにつながる、という後押しが必要と考えています。こうした応援宣言をいただける参加企業をこれから増やしていきます。すでに10社の先行登録をいただいております」(國本氏)

 その先行登録には、サイバーエージェントやソフトバンク、日清食品HD、LINEヤフーなど大手10社が名を連ねている。

 國本氏は次に、この日からスタートした新サービスとして「わたしのAIライフスタイル診断」を紹介した。これは、11個の質問に答えるだけでライフスタイルや働き方、価値観に合ったAIの使い方がわかるという診断アプリだ。LINEアカウント登録すれば誰でも無料で診断を受けられる。なお、公開記念として期間限定で、SUPER EIGHT村上信五をモデルにしたバーチャルタレント「AIシンゴ」とコラボした特別バージョンを提供している(10月17日まで)。

 この特別版では、AIシンゴにユーザーが質問を投げかけると、対話形式で診断が始まる。村上信五の関西弁やユニークな語り口をAIが学習しているので、本人とチャットしているような遊び感覚で診断を楽しめる。

AIリスキリングに成功した女性3人とAIシンゴがトーク

 國本氏のプレゼンテーションの後にトークセッションが行われ、AIリスキリングで新たな選択肢を切り拓いた3人の女性が登壇した。サイバーエージェントでAI推進を担いキャリアアップを実現した上野千紘さん、AIでアプリを開発した平下ひかるさん、キャリア中断を経てリスキリングしAIコンサルタントとして復帰した秋元かおるさん。そして、AIシンゴもここで特別ゲストとして登場し、リアルタイムで会話するデモンストレーションを実施した。

 AIシンゴから3人は日常的にどんなふうにAIを活用しているのか質問があり、それぞれ異なる立場からの実践事例を披露した。

 上野さんはミーティングの後に議事録をまとめる作業やメンバーへのタスクの割り振り、ミーティング調整などでAIの力を借りているという。一から議事録を書いていたメンバーが文字起こしでかなり時間削減することができ、省力化に役立っているようだ。

 平下さんは趣味で続けているフランダンスについてAIを活用したアプリを作成。動画から静止画像を生成して、振り付け部分を簡単に確認することができるようにした。動画を何回も見直す必要がなくなったという。

 秋元さんは育ち盛りの子どものケンカに親はどう介在すべきか悩んでいたところ、AIに質問してみた。AIから「早口言葉やってみない?」みたいなゲームの提案があり、子どもたちの反応を見ながら実践していったそうだ。

 次に、3人からの質問にAIシンゴが答えた。

 上野さんが「AIから見て人間にしかできないことって何だと思いますか」と聞いたところ、AIシンゴの答えは「人間の最強スキルは、失敗しても笑いに変えて立ち直ることや。泣いたり笑ったり、へこんでもまた挑戦する。そのドタバタが人生の味や。AIは便利だけど、心で感じることはできない。せやから、人間はほんまに貴重で愛おしい存在だと思う」。

 平下さんは「AIにチャレンジしたくなる女性を増やすためにどんなことができると思いますか」と質問。これに対し、AIシンゴは「せやな、ほんなら僕から応援ソング作ったろ。作ってる間に次の質問いこか。数分で世界で一つだけの勇気ソングができるやで」と返し、即興で応援ソングを作曲した。

 トークセッションの終わりに、AIシンゴは「AIはとにかく怖がらんでもええんやで、ということが伝わるとええな。仕事や家庭など、忙しいみんなの手助けや可能性を広げる味方になれるんよ。今日来てくれたみなさん、ほんまありがとうな。兄さんも味方やさかい、一歩踏み出そう。こんなことやってみたいなと妄想するだけでもいいし、不安でも大丈夫」とポジティブなコメントを出した。

【WAIJレポート】AIで事務職減少、女性のキャリアは

 さて、AIの進化と普及により、女性の多くが従事する事務職は自動化の影響を受けやすいとされ、経済産業省の試算によると、2040年には214万人の余剰人材が生まれると予測されている。一方で、成長分野であるAIやロボティクスでは326万人の人材が不足するとされており、労働市場に大きなミスマッチが生じている。

 しかし、AIは女性にとっての新たな飛躍のチャンスでもある。AIやデジタル分野には、これまでにない職域や働き方が次々と登場しており、スキル習得を通じて個々の可能性を大きく広げることが可能だからだ。WAIJは、すべての女性が「変化に備える」だけでなく「変化を味方にして挑戦できる」環境を整えるべく、2023年に有志によって立ち上げられた団体だ。

 立ち上げから約2年半で21回のイベントを開催。今年3月にTokyo Innovation Base (TIB)で、AI時代における女性のキャリアと可能性を共に考える1Dayカンファレンス「Women’s AI Day」を開催したところ、400人以上が参加した。

【WAIJレポート】女性の生成AI利用進まない理由は

 9月には「女性AI人材白書2025」を発表。これは、全国の女性1,116名を対象に「女性のAI活用・学習に関する実態調査」を実施し、その結果をまとめたレポートだ。調査結果によると、年齢や職種を問わず、約半数の女性が生成AIを日常的に利用しておらず、生成AIについて知らない状況にあることが明らかになった。ほぼ毎日使用している女性は約3~5%にとどまる一方、「生成AIについて現在学習中」という学習意欲の高い層では、約2人に1人がAIを毎日利用しており、利用状況の格差の大きさが浮き彫りになった。

 AI利用が進まない要因として、多くの女性が生成AIにネガティブな印象を抱いていることが明らかになった。「AIに頼りすぎるのは危険」と回答した人は30.6%、「取り組みたいが自分には難しそう」と答えた人は41.0%にのぼった。

(取材・文=横山渉/フリージャーナリスト)

古後友梨さん

MEET YOUR ART 古後友梨

電通・宮川裕による連載「マーケティングの世界の住人が、アートの世界を覗いてみた。」

エイベックスのアート事業「MEET YOUR ART」の共同代表である古後友梨さんのお話を伺うために、シンボリックな拠点「WALL_alternative」を訪問した。僕がMEET YOUR ARTというものに初めて触れたのは、2022年の「MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ‘New Soil’」。参加ミュージシャンに誘ってもらい恵比寿の会場に足を運んだが、若い来場者であふれており、すごい熱気だった。その後フェスは会場を天王洲に移し、事業としてますます成長しているようだ。その核心は何か。いちビジネスパーソンとして、とても気になる……。
 

◆間口を広げる

MEET YOUR ART 古後友梨

MEET YOUR ARTは、2020年12月にYouTube番組を開設したところからスタートしているので、そこから5年が経ちました。ホップ・ステップ・ジャンプで言うと、今はホップからステップにさしかかったところかな、と思っています。

MEET YOUR ARTという事業には、メディア(YouTube番組)、毎年恒例のMEET YOUR ART FESTIVAL、ここ西麻布のWALL_alternativeをはじめとするスペースもあります。それだけでなく、今複数の事業者さんと連携してスペース開発、拠点づくりもやっていますし、アートイベントの広報事務局、企業とのアライアンス、アーティストとマッチングさせたイベントも定期的に実施しています。事業の幅がどんどん広がってきていて、常に走り続けているイメージです(笑)。

MEET YOUR ART 古後友梨

MEET YOUR ART FESTIVALは、アートから遠い人にとっても、初めてのゲートになるといいなと思っています。ある種のエンターテインメント体験として、アートってアリだな、と自分にとっての新たな体験価値として持ち帰ってもらいたい。アートを見に行く、購入する、それは素晴らしいことですが、その手前で、まずは間口を広げることに意義がある。このフェスは今年で4回目を迎えるのですが、昨年は5万人の来場がありました。毎年10月にやっているという認知は、アート業界に浸透してきている手応えもありますし、ファッションやカルチャーといった私たちがリーチしやすい隣接した業界の人たちからの評価の声もいただくようになりました。一緒にやりたいとのお問い合わせが増えたり、企業の方とお話ししていても、その中のどなたかが「フェスに行ったことある」と言ってくれるくらいに浸透してきました。そういう外からの反応が本当に増えてきていて、ステップにさしかかってきたんだなぁと実感しています。

◆経済社会とアーティストをつなぐ

MEET YOUR ART 古後友梨

私は学生時代から、アーティストの人たちはどうやったら経済社会と接点、マネタイズポイントを持てるのだろうという疑問を持っていました。映画や音楽などエンタメ業界の市場にはさまざまなプラットフォームがあるのに、アート領域のアーティストは、これといったプラットフォームに乗っていないのでは、という感覚。なので、アーティストの方々と社会をつなぐような「通訳者」、そういう人間になっていかなければならないという使命をずっと自分に課している感じがあり、エイベックスに入社しました。

MEET YOUR ART 古後友梨

音楽業界にはいつの時代もいろんなプラットフォームがありますが、そのプラットフォームにミュージシャンを乗せたからといって、当然ですがみんながみんな成功するわけではないですよね。言ってみれば、ロジックが立ちきらないところに投資しているわけです。そしてエンターテインメントというのは、なんだか分からないけどすごく感動する、といった人の心の動きを追求するもの。そのような状況において、エイベックスはソフトに投資していくことで結果を出す、経済社会の中でマネタイズしていくことをやっています。加えて、私たちの強みは、エンターテインメント業界で培っている精神性というか、エイベックスというコミュニティの精神性かもしれないのですが、いろいろな意味で「タレント(ミュージシャン、アーティスト)が一番」という姿勢です。たとえアカデミックな背景がなかったとしても、この2つの軸を持ちながらアートの領域でもアーティストとともに挑戦していって、新しいマネタイズポイントを模索していく。私としての挑戦も、ここにあります。

◆大きくコトを起こしていく

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経済社会の側に、アートに対する深い理解やリスペクトがないかぎり、なかなか自然とつながることはない、という構造的な問題があります。ではどうつなぐのか、というのがポイントで、経済社会に対しては、いかに「インプレッション(経済性など)を出せるか」ということが、やはり重要になります。2022年のフェスで3万人、昨年は5万人が来場し、そこから私たちの事業は大きく加速しました。今私たちは、国内のインプレッションを上げていくことと質へのこだわりには自信を持っていますので、そういったアプローチでつなぐということに貢献できると思っています。

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アートに対するリスペクトに加え、大きくコトを起こしていく、アート業界全体として経済波及効果を出していく必要もあると常に感じています。そのためには、この状況を俯瞰し、経済波及の観点から考えることのできるプレーヤーが必要です。ただ、現状ではそこを俯瞰できるプレーヤーもそれほど多くないのではと感じていて。そういった意味でもつないでいくということができたらもちろんよいですね。国内にもさまざまなアートフェアやアートイベントがあり、国際芸術祭や都市型のアートイベントの特に広げる役割の部分で連携させていただいています。これからも、私たちがアート業界のさまざまなプレーヤーに対してバリューを出せる状況があれば、ぜひ積極的に連携し、一緒に日本の文化芸術の魅力を世界に発信していきたいです。

また、私たちが事業として大きく成功を収めること、その姿をきちんと社会に示すことで、後に続くプレーヤー、経済社会とアーティストの狭間をすくい上げていくプレーヤーを見いだしていかなければいけないとも思っています。


◆磨いて馴染ませていく

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今、ここWALL_alternativeでは、大野修さんの作品を展示しています(2025年9月3日-9月29日)。展覧会タイトルは「Bug-Fi」。バグによる不測の事態も包容する、そんな作品性です。大野さんの作品ではないですが、私たちも新規事業を生み出すビジネスパーソンとして活動していく中では、予測できない事態の連続です。それがおもしろさでもあると思うんです。たとえばこの一年で伝統工芸や産業との濃密な出会いがありました。これまで主に現代アートに寄り添って事業をやってきたのですが、このような出会いは当初はまったく想像もしていませんでした。伝統工芸や産業にも、アート業界と似たような課題があるなと感じていて、見せ方や社会的な価値を再定義することで、新しい流通やプラットフォームの構築ができるのではないかと可能性を感じています。

今は、このような偶発、広がりは常にあり、常に向き合っています。ただ、それがMEET YOUR ARTの立ち上げの時にあったら、事業構造の軸がブレていたかもしれません。私たちの事業ビジョンとして、アートと社会の接点をいかにつくっていくか、収益化するための新しい構造をいかにつくっていくか、そんな使命を掲げ、チームみんなの共通認識として確立できているので、今やどんな想定外がきても大丈夫だと思っています(笑)。ここまで構築する過程では難しさもありますが、ビジョンをきちんと持ちながら歩み続けていると、自分たちにとって不本意な偶発というのはほんとになくなっていきます。私たちがやっていることをしっかり見ていただいた上で、心から応援してくださったり、一緒に何かしたいと思ってくださる。そんな出会いの日々です。

MEET YOUR ART 古後友梨

大野さんの作品は、いろいろな素材、コンクリートだったり、真鍮だったり、木だったりを組み合わせて、最後は磨いていくということをしています。大野さんが言っていたのですが、「今、日本社会には不測の要素が複数生じていて不安定だけれど、磨いていって馴染ませていくと、一つの形になっていくんじゃないかな」と。まさに私もそうだなと思っていて、いろんなことが飛び込んできますが、受け入れながら磨いていきたいなと思っています。

古後さんが「ステップにさしかかったところ」と言っていたのが印象的だった(こんなに成功しているというのに!まだホップを過ぎた程度?)。ジャンプって、どんな姿なんだろう。よい事業とは、きっと外部の人間さえもジャンプ姿を想像したくなるようなものなんだろうな、と。「マーケティングの世界の住人が、アートの世界を覗いてみた。」という切り口で連載を始めて良かった、しみじみそう思った。(宮川裕)

 MEET YOUR ART 古後友梨

画像制作:岩下 智


MEET YOUR ART FESTIVAL2025 開催概要
■日程:2025年10 月10日(金)- 13日(月・祝)
■場所:東京・天王洲運河一帯
■ URL:
(HP) https://avex.jp/meetyourart/festival/
(TICKET):http://bit.ly/3TFKSJD

愛車が広告媒体になる!CheerDriveの「マイカー広告」が注目される理由

左から電通佐々木瞭氏、チアドライブ保科昌孝氏、電通青木康太氏
左から電通佐々木瞭氏、チアドライブ保科昌孝氏、電通青木康太氏

まだあまり知られていない「次に来るイノベーター」を紹介する本連載。今回は、電通クリエイティブチームが事業成長に伴走する、急成長中のスタートアップ「CheerDrive(チアドライブ)」を取り上げます。

CheerDriveが提供するのは、生活者が自分のクルマで企業やブランドを広告する「マイカー広告」。

名前の通り、愛車に広告ステッカーを貼り付けて走行することで、好きな企業やブランドを応援(=チア)でき、走行距離に応じた収入が得られるというものです。現在、約10万人のユーザーが登録しており、累計100社以上が利用しています。

CheerDrive 
https://cheerdrive.jp/

チアドライブ

「生活者自身が広告媒体になる」という、新しい広告スタイルはいかにして誕生したのか?チアドライブ代表取締役の保科昌孝氏と、事業に伴走する電通の佐々木瞭氏と青木康太氏が語り合いました。

すでに10万人のドライバーが登録。一般的なOOHとは異なる拡散力とは?

チアドライブ保科昌孝社長。前職のドワンゴでは、ニコニコ生放送のプロデューサーとして「将棋電王戦」などを担当したのち、インターネットと通信制高校の制度を活用した「N高等学校」の立ち上げ・運営に携わった。
チアドライブ保科昌孝社長。前職のドワンゴでは、ニコニコ生放送のプロデューサーとして「将棋電王戦」などを担当したのち、インターネットと通信制高校の制度を活用した「N高等学校」の立ち上げ・運営に携わった。

──はじめに、CheerDriveのサービス概要を教えてください。

保科:クルマのリアウィンドウに広告ステッカーを貼って、企業や商品を一般ユーザーに宣伝してもらう「マイカー広告」というサービスです。登録ドライバーは、「広告を貼って走った走行距離」に応じて収入が得られます。このサービスを利用することで、いつものお出かけでガソリン代の約半額を浮かせることができる仕組みです。

──広告主は、どのような条件で出稿するのでしょうか?

保科:「1カ月につき、1台の走行で総費用1万円」というシンプルな料金体系です。月に最低30万円(30台)から、お申し込み後最短2週間で実施可能です。

チアドライブの仕組み
──一般ドライバーを対象に、マイカーに広告を掲出してもらうサービスは、これまでにないものですね。どのような実績を上げていますか?

保科:2025年8月時点で、登録ドライバー数は10万人を超えており、約2万3000台が稼働しています。通常のサービスに加えて、現在はサービスの普及に向けた事業検証のために、電通の協力を得てPoC(概念実証)も実施しています。通常のサービスとPoCを合わせて、これまで150社以上に広告を出稿していただいています。

PoCは2024年5月から実施し、 ここまでにJOYSOUND、タイミー、家庭教師のトライ、カーセブン、どうとんぼり神座(かむくら)、ACN EXPO EKIDENなどに参加していただきました。

左列上からJOYSOUND、家庭教師のトライ、ACN EXPO EKIDEN、右列上からタイミー、カーセブン、どうとんぼり神座。
左列上からJOYSOUND、家庭教師のトライ、ACN EXPO EKIDEN、右列上からタイミー、カーセブン、どうとんぼり神座。
キャンペーン一覧
https://cheerdrive.jp/campaigns


──10万人というのはすごい人数ですね。マイカー広告には、どのような広告効果がありますか? 

保科:昨年にキャンペーンを実施したJOYSOUNDの場合、都内500台・1カ月の走行でしたが、その後のアンケートで「広告を見たことがある」と答えた人は12%にも上りました(※)。

JOYSOUNDのキャンペーン施策内容は、電通第8マーケティング局が主導。ユーザーの声を車内から発信するような内容が話題をあつめた。
JOYSOUNDのキャンペーン施策内容は、電通第8マーケティング局が主導。ユーザーの声を車内から発信するような内容が話題をあつめた。

青木:これはOOHとしてもかなり大きい数字で、都内在住者のうち約120万人が見た計算になりますね。このJOYSOUNDの事例はテレビやYahoo!ニュースで取り上げられ、ニュース動画はTikTokで146万回、YouTubeで19万回再生されるなど、広く話題になりました。

保科:ニュースで注目していただけたのは、マイカーがあれば誰でも参加できるので、生活者が“自分ゴト化”しやすかったからだと思います。PoCを実施するなかで実現した広告キャンペーンが、新しい広告の仕組みとしてニュースで取り上げられるようになってから、CheerDriveへの応募者も大幅に増えました。

2025年に入ってからは、毎日100人ずつドライバーが増えている状況です。企業によっては、300台の広告掲出を募ったところ、定員の10倍にもなる約3000人の応募があったケースもありました。

佐々木:ちょうどこのキャンペーンのとき、世の中はガソリン代の高騰が世の中の大きな関心ごとになっていました。広告を貼るだけで、車移動にかかる費用が半減し、おでかけが気軽になるというシンプルなメッセージを提示したことで、ユーザーの共感が得られたのだと思います。

保科:アンケート調査では、参加していただいたドライバーの 満足度は98%にも上っていて、Cheer Driveが生活者に求められているサービスだということを証明する結果でもあると感じています。

──CheerDriveのサービスはOOHの一種と捉えることができます。広告効果という点で、ビルボードなどの一般的なOOHと異なる点はありますか?

佐々木:CheerDriveは、生活者自身が広告出稿の当事者になるからこそ、普通の広告施策にはないユニークなエンゲージメントが生まれているところが面白いと思っています。

ドライバーがまるで商品や企業のアンバサダーになったように、自分の同僚や友人、SNS上の仲間に向けて自発的にインフルエンスしていくという現象が起きています。

保科:おっしゃる通りで、「参加したドライバー自身の発信力」を借りて広告がその影響力を広げていくという、副次的な効果が大きいんです。なお、ドライバーへのアンケート調査によれば、マイカーに広告を出していると、広告について1カ月で8.7人に話しかけられるというデータが出ています。ご近所さんや友人、会社の同僚など、周りの人たちが気になって聞いてくるようです。

青木:ご近所さんなどは、駐車場などで毎日見ることもあるわけで、いわば広告としてのフリークエンシー(接触の頻度)が大変高いことになりますよね。

保科:広告を見た人とのコミュニケーションが生まれて、例えばスポーツチームの広告なら、「私もそのチームを応援しているんですよ」と話しかけられて盛り上がる。一般的な広告ではあり得ない、マイカー広告ならではの現象だと思います。

青木:また、広告を見た人が撮影して、SNSで拡散する現象も起きていますね。これはOOH全体の特性でもありますが、それが人にひもづいて、毎日移動するという点が新しい。広告を見たことを誰かと共有したくなる点でも効果の高い、本当に面白い媒体だと思います。

※調査概要:
マクロミルによるアンケート調査(2025年8月実施、東京都在住の20~60歳、人口構成比に基づく1万人対象)


自動車に貼られたテレビ番組ステッカーから得たヒントが、サービスの原点に

電通 佐々木瞭氏。コピーライターとして、経営者のそばで企業のミッションやビジョンの言語化、ステークホルダーコミュニケーションの支援等を行う。Cheer Driveがビジネスモデルを刷新するタイミングで保科社長に伴走し、企業リブランディングやコミュニケーション設計、PoC開発などを担当。
電通 佐々木瞭氏。コピーライターとしてのキャリアを生かし、経営者の傍らで企業のミッションやビジョンの言語化、ステークホルダーコミュニケーションの支援等を行う。Cheer Driveがビジネスモデルを刷新するタイミングで保科社長に伴走し、企業リブランディングやコミュニケーション設計、PoC開発などを実施。

──保科さんがマイカー広告のサービスを考えたきっかけは何だったのでしょうか?

保科:神奈川の大学に通っていたとき、街でリアウィンドウに「水曜どうでしょう」のステッカーを貼った車をよく見かけて、「これは一体なんなんだろう?」と気になっていたんです。後で、それが番組のタイトル名だったことを知りました。北海道テレビ放送のローカル番組だったのが、人気が出て関東でもブームになっていたんですよね。それがきっかけで実際に番組を見たところ、とても面白くてハマってしまいました。

青木:一見おどろおどろしい書体のステッカーですね!たしかによく見かけましたし、インパクトがありました。「これは一体なんだろう」という。

保科:あのステッカーを貼っていたのは、おそらく番組の熱烈なファンの方だと思います。思えば、これってすごい広告効果ですよね。そこで番組と利害関係のない第三者がステッカーを貼る訴求力の強さを体感しました。そのときに、車のリアウィンドウを広告媒体として使えないだろうかという構想が生まれたんです。

──マイカー広告の発想自体は、学生時代に浮かんでいたわけですね。

保科:そういうことになります。大学卒業後は、ドワンゴのニコニコ生放送の番組プロデューサーなどを経て、通信制高校であるN高の立ち上げに携わりました。そのN高の生徒たちは、起業意欲が旺盛で、高校生のうちから会社をつくる学生が多かったんです。その姿を見ているうちに、自分も起業したいという思いが強くなっていき、自分がやるとしたらやはりマイカー広告だろうと。

起業に当たっては、学生たちを見ていたので、何がボトルネックになるのか、ビジネスとして何が必要になるのか、あらゆる要素を徹底的に考え抜き、満を持して2020年にチアドライブを設立しました。 

佐々木:2020年、ちょうどコロナ禍に突入したタイミングですね。

保科:そうなんです。最重要だったアプリの実装能力の高いプログラマーも見つかり、自分なりに十分な準備期間を経て起業したのに、コロナ禍でもくろみが大きく変わってしまって。2021年4月にサービスをローンチしたのですが、まだまだ人流が少なくて広告を見てもらえず、大変苦労しましたね。何しろ実績がつくれないので、「企業から広告費をいただき、ドライバーに還元する」という、現在のCheerDriveのビジネスモデルが成立しませんでした。

──厳しい状況の中で、広告主とドライバーにどのようにアプローチしたのでしょうか?

保科:悩んだ結果、「ドライバーがお金を払い、広告主のステッカーを貼って応援する」というビジネスモデルに一時的に転換しました。例えば、ドライバーが数千円の参加費用を支払って、自分の大好きな野球チームのステッカーを貼る。そして、規定の距離を走行すると、その球団のグッズやチケットがもらえるといった形です。

このような「ファン支援型」のビジネスモデルに変えたところ、ファンの熱量が高いアニメや、Jリーグチームなど、多くの企業・団体が集まりました。そうした企業はSNSなどで、ファンに向けて積極的にCheerDriveの話を発信してくれたので、少しずつ認知が高まり、サービスに参加してくださるドライバーも増えていきました。

われわれとしては、「車に広告ステッカーを貼る」という、これまでにない文化をまずつくらなければいけなかったので、あの時期に「ファン支援型」を選んだのは、必要なことだったと思います。そこを支えてくださったドライバーの熱量にも感謝しています。

──とはいえ、ファンの熱量だけに頼るのはビジネスの持続可能性の面でも限界がありそうです。そこから企業がお金を払って出稿するという、いわば本来のビジネスモデルへ再転換したきっかけは何だったのでしょうか?

保科:2024年に前澤ファンド代表の前澤友作さんと出会ったことです。前澤さんが街中で広告ステッカーを貼っている車を見て、CheerDriveに興味を持ったらしく、当社に連絡してきてくださったのです。ごく普通に「問い合わせフォーム」から連絡いただいたので、「まさか、あの前澤さん!?」と驚きましたね(笑)。

──前澤さんからはどのようなお話がありましたか?

保科:最初にお会いした際に、「すごくシンプルなビジネスモデルで、世の中にありそうだが誰もやっていない。そこに可能性を感じた」とおっしゃってくださいました。そこで前澤さんに事業をプレゼンしたところ、出資してくださることになり、もともとやりたかった、「広告主から広告費をいただき、ドライバーに支払う」という今のビジネスモデルに戻しました。

CheerDriveのコアな価値は、人の移動を軽くすること。

電通 青木康太氏。技術職から始まり、キャリアの中でコピーライターや営業、デジタルメディアのプランニングなど幅広い職種を経験。2024年にチアドライブが事業規模を拡大するタイミングで参画し、プランナーとしてPoCの実施や、パートナーとなる各企業との調整役までを担う。
電通 青木康太氏。技術職から始まり、キャリアの中でコピーライターや営業、デジタルメディアのプランニングなど幅広い職種を経験。2024年にチアドライブが事業規模を拡大するタイミングで参画し、プランナーとしてPoCの実施や、パートナーとなる各企業との調整役までを担う。

──電通がチアドライブの事業に伴走することになった経緯は?

佐々木:CheerDriveは、前澤友作氏が設立した、社会課題の解決を目指す起業家に出資を行う「前澤ファンド」から出資を受けています。他の出資先スタートアップを電通が支援していたご縁で、私たちと保科さんを引き合わせていただいたんです。

企業の中身から見え方まで生まれ変わらせていくタイミングとあって、保科さんと一緒に、CheerDriveというブランドを一から考え直しました。

保科:まず、電通さんとご一緒できることになり、大変心強く、またうれしく感じました。企業や生活者がCheerDriveのサービスを利用するにあたり、どのような点を気にするのかといった、電通さんの持つユーザー視点やマーケティングの知見は、大いに参考になりました。それだけではなく、電通さんは多くの企業とのリレーションシップがあるので、出稿の交渉で力になっていただいています。PoCで大きな企業に参画していただけているのも電通さんの力が大きいです。

──ブランディングを一から考えたということですが、どういったことがありましたか。

保科:CheerDriveとは、社会に対してどんな新しい価値を約束するサービスなのか。その約束を、どんな人にどんな形で訴求するべきなのか。世の中の課題を解決する企業としての顔つきをつくりあげることを手伝っていただいています。

佐々木:このサービスがなぜ今、そして未来の世の中に必要不可欠なのか。保科さんとのディスカッションを続けていく中で、それをわれわれが咀嚼して吸収することが、このプロセスの大部分を占めています。

──ドライバーへの訴求という点では、「いつも通りクルマで⾛るだけで、ガソリン代の約半額にのぼる副収⼊が得られます」といった文言はすごく響くなと思いました。

保科:そういったメッセージも、佐々木さんたちに相談しながら一緒につくっています。

佐々木:ただし、CheerDriveのサービスの本質は、「ガソリン代を稼ぐための隙間アルバイト」ではありません。そのコアな価値は、人の「移動したい」気持ちを軽くしてあげることにあります。

今、ガソリン代が高騰していて、車移動のコストは増え続けています。ドライバーにとって、移動にかかる経済的な負担が減って助かるサービスだと思っていただけるといいなと。そして、その最善の手段が、マイカー広告です。

自分の好きな企業や団体、商品サービスを応援することで広告収入を得られるという、いわばWin-Winの関係によって持続可能なものになっているんです。私たちはこの仕組みを「ファンエンゲージメント広告」と呼んでいます。

──なるほど、チア+ドライブというサービス名にも、その思いが込められていますよね。

保科:サービスの根幹を伝えるという意味では、これも佐々木さんたちに考えていただいたCheerDriveのキーメッセージ、「拡めるチカラをクルマにのせて。」にも表れていますね。

ドライバー、つまり生活者自身が、自分の推している商品や企業を世の中に「拡める」アクションを自らやってくれる。それに対するお礼として広告費が支払われる。この形が私の考えていたCheerDriveというサービスの原点で、今ようやく、当初思い描いていたビジネスモデルが実現できてきたかなと思います。

──また、ドライバーたちがステッカーを貼って走ることが、単に広告として商品やサービスを「拡める」だけでなく、CheerDriveという広告モデルを「拡める」ことにもつながっているんですね。

佐々木:そうなんです。よくあるのが、広告主の社長さんが、街でCheerDrive広告を貼ったクルマを見て「これはなんだ」と興味を持ち、問い合わせてくださるというケースですね。やはり、社長が自分の目で見たということの説得力は大きいです。

──同様に、広告を貼ったクルマが街を走ることは、新たなドライバーを増やすことにもつながると。

佐々木:はい。先ほどお話にありましたが、マイカー広告のキャンペーンがニュースに取り上げられることが、結果的に、その仕組み自体を面白いと感じる人が増えていくことにつながるんです。

広告を見た人が、SNSやリアルで話題化してくれて、興味を持った人がドライバーとして「伝え手側」にどんどん回っていき、さらに見る人が増えて……という好循環が生まれています。PoCを実施したことで、CheerDriveのビジネスモデルが成長していく効果を検証できました。

青木:一つ、私が興味深いと感じたのが、広告主から「広告費を払って、自社の営業車にステッカーを貼りたい」という要望もあったことです。営業車に広告を貼ることで、お客さんとの会話が生まれるかもしれないし、従業員のエンゲージメントを高める手段にもなるという可能性を感じる事例でしたね。

チアドライブチアドライブ
企業リブランディングにあたっては、電通第8マーケティング局 笹川真氏、BXCC 岡田憲明氏、三島良太氏、CXCC 柳澤世良氏が加わり、CI(コーポレート・アイデンティティ)やウェブサイトなどを刷新
企業リブランディングにあたっては、電通第8マーケティング局 笹川真氏、BXCC 岡田憲明氏、三島良太氏、CXCC 柳澤世良氏が加わり、CI(コーポレート・アイデンティティ)やウェブサイトなどを刷新
──「クルマに貼る広告」というもの自体が前例のない取り組みで、クリエイティブ面でも模索中かと思いますが、マイカー広告ならではのユニークな取り組みはありますか?
保科:商品やサービスをただ宣伝するだけでなく、電通さんならではのアイデアもいただいています。例えば、ラーメンレストランのどうとんぼり神座の案件では、広告ステッカーを起点にした「#かむくらの走るクーポン!どうとんぼり神座PRドライブキャンペーン」も考えていただきました。
キャンペーン施策は、電通社内の神座クリエイティブチームが企画を開発。「走るクーポン」として、SNS上で目撃投稿が相次いだ。
キャンペーン施策は、電通社内の神座クリエイティブチームが企画を開発。「走るクーポン」として、SNS上で目撃投稿が相次いだ。
キャンペーン施策は、電通社内の神座クリエイティブチームが企画を開発。「走るクーポン」として、SNS上で目撃投稿が相次いだ。
キャンペーン施策は、電通社内の神座クリエイティブチームが企画を開発。「走るクーポン」として、SNS上で目撃投稿が相次いだ。

佐々木:ステッカー広告が「走るクーポン」になっているんです。どういうことかというと、広告ステッカーが貼られた車両を撮影し、キャンペーンのハッシュタグを添付してXに投稿していただくと、トッピング無料券がもらえるという内容でした。広告を見た人がちょっと幸せになれる企画が話題になりましたね。

青木:マイカー広告というビジネスはまだまだ始まったばかりなので、これからも案件ごとにいろんなアイデアが出てくると思っています。

「生活者が広告媒体になる」サービスのさらなる可能性

保科氏、佐々木氏、青木氏
──マイカー広告は、生活者に広告してもらうというこれまでにないサービスだけに、企業によってはトラブルのリスクを心配されるケースがあるかもしれません。この点についてはいかがですか?

保科:リスクについては、「ファン支援型」のサービスだった時期にほぼ解消されていました。リスクとは、例えば危険走行などドライバーの悪質な行為で広告主がブランド毀損を受けないか?といったことですが、そのような場合はドライバー個人に対してきちんと責任追及することを、加入時にドライバーにしっかり確認しています。また、車に貼る広告なので、安全運転にも十分に配慮して展開していきます。 

──先ほど、「起業前にあらゆることを考え抜いた」というお話がありました。気になるのは、ドライバーが広告を貼って一定の走行距離を走っていることを、広告主にどうやって保証するのかという点です。

保科:走行距離の虚偽報告がないよう、サービスの利用開始と終了時には、CheerDriveのアプリに実装されたカメラ機能で、車のオドメーターと、ステッカーが貼られた車の画像をドライバーに撮影して送ってもらっています。また、ステッカーは一度はがすと同じように貼れない仕様になっています。こういった点はアプリの仕様も含めて、ほぼ事前に検討した通りにできていますね。

佐々木:新しいサービスですが、保科さんが長年構想・準備してきただけあり、広告主側とドライバー側が安心して使えるように、隅々まで意識が行き届いているように感じます。
ステッカーは、シースルーフィルムで走行に支障がないこともその一つです。

現在のウェブサイトは、私も一緒につくらせていただきましたが、メインメニューに、サービスの快適な運用について伝える「COMFORTABLE」のページを設けているのが、信頼性を重視する会社の姿勢を表していると思います。

──たしかに、会社概要やミッション、サービスと並んでその項目が設けられているのは印象的です。最後に、CheerDriveの今後の展望について伺えますか?

青木:今回PoCを実施して感じたのは、このビジネスモデルの大きな可能性です。広告主にとっては、口コミが生じやすく認知されやすい、新しいOOHとしての可能性がありますし、広告媒体となるドライバーにとっては、ガソリン代を稼ぐ手段にも、ファンとして企業やブランドを応援する手段にもなる。

CheerDriveのような、生活者が広告媒体となるビジネスモデルは今後増えていくかもしれません。保科さんと私たちは今、生活者が広告クーポンを表示したリュックを背負って歩くという、マイカー広告に続く広告モデルを考えています。

これは、リュック型アフィリエイト広告で、詳細は今後発表しますが、広告を見た人が「アクション」を起こすとリュックを背負っている人に報酬が入るしくみです。CheerDriveの応用例のような感じですね。

保科:「生活者自身が広告媒体になる」という視点から、企業と生活者の新たなエンゲージメントがもっと生まれると思います。そして、CheerDriveによって企業や個人のいろんな課題を解決できると考えています。そのためにも、あらゆる業種の企業とコネクションを持ち、生活者課題にも詳しい電通グループと一緒に、新しい広告モデルを考えていきたいですね。

佐々木:私たち電通も、CheerDriveは、事業を通じて社会の課題を解決できるサービスだと信じています。CheerDriveのように、これまで世の中になかった新しい価値を提供するスタートアップが次々と生まれ、存在感や影響力を増してきている昨今。電通はクリエイティビティを駆使して、こうした新しい価値と可能性をユーザーの視点に立って翻訳し、広げていく支援を行っていきたいと思っています。

──CheerDriveは、マイカーという普段見慣れたものが広告媒体になったわけですが、イノベーションを起こす「未知の種」は、私たちの日常の中にあるのだなと感じました。本日はありがとうございました!

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AIでアナリストやコンサルは消えるのか?本質的価値が問われる時代に突入

●この記事のポイント
・米国で注目を集めるClaudeなどの生成AIは、金融アナリストやコンサル業務の多くを代替可能とされる。
・データ収集や分析はAIに任せ、人間は経営者理解や課題解決など本質的価値に集中する時代へ移行する。
・若手育成の仕組みや情報管理のリスク対応が課題となる一方、中小企業や地方にも新たなチャンスが広がる。

 近年、生成AIの進化は目覚ましく、特に米国ではAnthropic社の「Claude」が金融アナリストや経営コンサルタントの領域に浸透し始めている。「AIが人間の専門職を代替し始めた」との見方が一部で過激に報じられているが、果たしてその実態はどうなのか。金融・コンサルの世界に本当に“職業消失”は訪れるのか。ITジャーナリストの本田雅一氏に話を聞いた。

●目次

AIが得意とする領域は「ルールが明確な業務」

 まず本田氏は、AIの特性がどのように金融やコンサル業務にフィットするかを指摘する。

「金融の世界は、法律や規制といったルールが明確で、経済研究も積み上がっています。AIにとっては非常に扱いやすい領域です。従来、ジュニアアナリストが数日かけて作っていた投資レポートを、AIはわずか数分で仕上げることができます」

 AIが参入しているのは、情報収集やデータ処理、相関関係の分析など、人手に頼っていた労働集約的な業務だ。経営コンサルタントも、膨大なデータを集めて分厚い資料を作る作業はAIが代替可能になりつつある。

「つまり“補助的な業務”はAIに任せられるようになったわけです。これまで人間が担ってきた仕事の中で、最も時間を要していた業務領域が効率化される。これはアナリストやコンサルタントにとっても大きな意味を持ちます」

人間が担うべき「本質的な価値」

 では、AIがレポートや資料を瞬時に作れるようになったとき、人間の役割はどう変わるのか。本田氏は「職業そのものが消えるわけではない」と強調する。

「アナリストやコンサルタントが不要になるのではなく、求められる役割が変わるのです。AIは過去データを基にした論理的な分析は得意ですが、企業の背景や経営者の思惑、組織文化といった“文書化されていない情報”までは理解できません。そこにこそ人間の価値があります」

 実際、経営者にとってコンサルタントの存在価値は、単なる数字の分析以上に、課題の本質を見抜き、将来に向けての方向性を共に考える点にある。AIが作る提案書は“氷山の一角”にすぎず、暗黙知や経験値に基づく助言は人間でなければできないのだ。

「8割の仕事はAIに」――役割再定義のインパクト

 本田氏は「現状のアナリストやコンサルタントの業務の8割はAIで代替可能」と語る。一見すると衝撃的だが、それはむしろ人間に残る2割の業務の重要性を浮き彫りにする。

「AIに任せられるのは、資料作成や統計処理などの作業です。しかし人間にしかできないのは、そこから得られた示唆をどう活かすかを考え、クライアントに寄り添って意思決定を支援すること。結果として、職種が消えるのではなく、職務の焦点が“本質的価値の創出”へと移行するのです[隆松2] [隆松3] 」

 プログラマーの例を挙げればわかりやすい。コードを書くという行為自体はAIに任せられるが、システムの設計思想やユーザー体験をどう描くかは人間が担う部分だ。金融やコンサルも同じく、「発想力と人間理解」が中核になる時代へと移行していく。

 一方で懸念されるのが、若手の育成環境だ。従来、ジュニアアナリストやパラリーガルといった“下積み的業務”を通じて、専門職としての基礎を学ぶ仕組みがあった。しかし、その役割はAIが担ってしまう可能性が高い。

「これまで弁護士を志す人がパラリーガルとして経験を積んできたように、金融やコンサルにも若手が地道に学ぶプロセスがありました。ですが、そうした労働集約型の業務はAIに代替されていく。となれば、育成の仕組みを根本から再設計する必要があるでしょう」

 これは逆に言えば、若手がより早期に実践的な場に携われるチャンスでもある。単なるデータ処理に時間を費やすのではなく、AIを活用しながら上位業務に直接関わることで、成長のスピードは速まるかもしれない。

都市と地方、中小と大企業――格差はどう広がるか

 AI活用の度合いによって、企業間の競争力にも変化が生じる。大企業がリソースを投じてAIを全面的に導入すれば、効率性と分析力で一段と優位に立つことは間違いない。

 しかし本田氏は「格差が広がる一方で、逆転の可能性もある」と語る。

「従来は人材や資金が不足して挑戦できなかった中小企業や地方の事業者でも、AIを駆使すれば新しいビジネスを生み出せます。美容師が自らのサロンに最適化した予約システムをAIで開発し、パッケージ化して販売するといった事例も生まれ得る。AIは大企業の武器であると同時に、小規模事業者にとってのチャンスでもあるのです」

 ただし、無条件にAIを導入すればよいわけではない。企業にとって最大のリスクは、情報管理と利用ルールの不備だ。

「顧客情報や社外秘のデータをどう扱うか、どこまでAIに渡すのか。その理解が甘いと大きなリスクになります。AIを[F4] 提供する企業はセキュリティを考慮していますが、使う側のリテラシーが追いつかなければ意味がありません。全社員がAIの仕組みを理解する必要はなくても、最低限のガイドラインを設け、共通認識を持たせることが重要です」

 つまり、企業戦略としては「AI活用力」と「情報リスク管理力」の両立が求められる。

教育・社会の変化も不可避に

 AIが知識の伝達を担う時代、教育のあり方も変わらざるを得ないと本田氏は言う。

「知識そのものはAIが提供してくれる。重要なのは、それをどう使いこなし、新しい価値を生み出すかという方法論です。教育も、知識暗記から“価値創造のトレーニング”へとシフトしていくでしょう」

 同様に、企業においても「過去のやり方をなぞる」働き方は通用しなくなる。AIが当たり前に存在する社会で、人間がどのように独自の付加価値を出すかが問われる。

 総じてAIは、金融アナリストやコンサルタントを“消す”のではなく、“再定義する”。人間はAIに任せられる部分を切り離し、本質的な判断・発想・人間理解に集中することになる。

「AIを前提に仕事を設計し、どう使いこなすか。それが一人ひとりの競争力になります。AIと競うのではなく、AIと共に働く力こそ、これからのビジネスパーソンに必須のスキルです」

 AIは脅威であると同時に、大きな可能性を秘めた道具だ。変化の波を恐れるのではなく、自らの仕事を再定義し、AIと共創する姿勢が求められている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=本田雅一/ITジャーナリスト)

LINE AI、「会話だけじゃなく意外に高性能」…実際に試して判明、ChatGPTとの差異

●この記事のポイント
・LINE AIは日常会話だけでなく、議事録作成や提案書の下書きなどビジネス利用にも活用可能。
・ChatGPTやClaudeに比べ、日本語のニュアンス理解と導入の手軽さで強みを持ち、幅広い層に浸透する余地がある。
・国内9,600万人の利用基盤を背景に、生活インフラとしてのLINEに組み込まれたAIが新たな市場を切り開きつつある。

 ChatGPTやClaudeといった海外製の生成AIが注目を集めるなか、国内発の「LINE AI」が「意外と高性能」とSNSで話題になっている。本当に“意外”なのか。それとも海外勢に劣らぬ実力を秘めているのか。実際に検証し、さらに専門家の分析とともにビジネス活用の可能性や他AIとの違いを探った。

会話だけでなく「ちょうど良い日本語表現」に強み

 まずはシンプルな依頼から試してみた。

依頼:「会議の案内文をざっくり考えて」
LINE AIの回答:
 「明日の定例会議についてご案内です。10時から会議室Bで実施予定です。アジェンダは①進捗確認 ②新規案件共有 ③質疑応答 です。よろしくお願いします。」
ChatGPTの回答:
 「下記のとおり会議を開催いたします。日時:明日10時、場所:会議室B。議題:1.進捗報告 2.新規案件 3.質疑応答。何卒ご参加のほどお願い申し上げます。」

 ChatGPTの表現は正確だがやや堅苦しい。一方LINE AIは、日常の社内連絡に近い「ちょうど良いカジュアルさ」を出せていた。この自然さは、社内コミュニケーションや顧客対応など「言葉の温度感」が重要な場面で大きな価値を持つ。

 次に業務シーンを想定して試用した。

1. 議事録の要約
長文の会議メモをそのまま投入すると、LINE AIは「議題」「決定事項」「次回タスク」に分けて整理。ChatGPTの要約も精度は高いが、LINE AIの方が見出し付きで即座に共有できる形になっていた。

2. 営業メールのたたき台
「新製品を紹介する営業メールを考えて」と依頼すると、LINE AIは「件名案」「冒頭文」「クロージング」まで含めた2種類の例文を提示。営業担当者がゼロから書く負担を減らせる。

3. 企画アイデアの壁打ち
「SNSキャンペーンのアイデアを5つ」と指示すると、「フォロー&リポスト型」「ハッシュタグ投稿型」「限定スタンプ配布」など、日本市場に馴染みやすい施策が返ってきた。ChatGPTでは海外事例が混じる傾向があったが、LINE AIは国内の利用文脈に合った提案が多い。

4. 多言語対応
海外顧客向けの英文メールを依頼すると、自然で丁寧な英文を生成。その後「これをもう少しカジュアルに」と指示すると、柔らかい表現に調整してくれた。翻訳専用ツールよりも柔軟にトーンを変えられるのは魅力だ。

実際に導入した企業等の声

中小企業の営業担当者の声
「以前は毎回、提案書のアウトラインを考えるのに数時間かかっていました。今は商談前にLINE AIに“新規サービス提案の骨子を3つ”と投げるだけでたたき台が出てきます。準備時間が半分以下になりました」

スタートアップ経営者の声
「社員が10人しかいないので事務作業の負担が大きい。LINE AIで議事録や顧客向けの案内文を作成し、必要な部分だけ修正する運用に変えてから、バックオフィス業務が一気に効率化しました」

個人クリエイターの声
「SNS用のキャッチコピーやキャンペーン案をLINE AIに考えてもらうと、数分で5~6案出てきます。その中から1つを磨き上げるだけでよくなったので、アイデア出しのストレスが減りました」

 こうした声から見えてくるのは、「LINE AIは特別なスキルがなくてもすぐに使える」点が評価されていることだ。

 ITジャーナリストの小平貴裕氏は、他の生成AIとの違いと住み分けについて、以下のように分析する。

ChatGPT:知識量が豊富で調査や専門分析に強い。ただし日本語はやや定型的。
Claude:長文処理に優れるが、日本語最適化は途上。
LINE AI:知識の深掘りには弱いが、日本語のニュアンス理解とLINEという生活インフラへの統合が大きな差別化要因。

「つまり、『高度な情報探索』にはChatGPT、『長文処理』にはClaude、『日常業務やコミュニケーション補助』にはLINE AIという役割分担が見えてきます。現状ではこのような住み分けといえますが、今後の進展次第で、大きく勢力図は変わってくるでしょう」

 加えて、 LINEならではの強みとして次のように指摘。

圧倒的なユーザー基盤:国内9,600万人以上が利用。新しいアプリを導入する必要がない。
生活導線に統合:チャット画面からシームレスに利用できるため、「調べる」や「まとめる」が日常の流れに自然に入り込む。
心理的ハードルの低さ:普段から使い慣れているLINEだからこそ、情報を入力する抵抗感が少ない。

「特にリソースの限られた中小企業や個人事業主にとっては、導入コストが事実上ゼロである点が大きな魅力です。大企業では、すでに導入されているマイクロソフト系のAIや、Google系のソフトを活用する傾向がありますが、LINEであれば中小企業にとっても参入障壁が低く、一気に普及する可能性はあります」

プライバシーと信頼性の課題

 一方で、LINEはこれまで「個人情報管理」について何度も議論を呼んできた。だからこそ、AI利用においてはデータの扱いがどうなるかが注目される。ビジネス用途で本格的に普及するには、プライバシー保護の透明性をどこまで担保できるかが鍵になるだろう。

 LINE AIはChatGPTの完全な代替ではない。しかし「誰でも今すぐ、生活や仕事の延長で自然に使えるAI」としての存在感は確かだ。海外勢が「高度な分析ツール」として進化する一方、LINE AIは「最も身近なアシスタント」としての立ち位置を築けるかもしれない。

 AIが生活とビジネスに溶け込む未来。その扉を開くのは、意外にも日本発のLINE AIなのかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

日本企業が生成AIで出遅れる本当の理由…突破口は“仕組み化”と“遊び心”

●この記事のポイント
・日本企業は生成AI活用で米中に遅れ、投資不足や規制・リテラシーの低さが障壁となっている。
・成功企業は現場発の活用法を仕組み化し全社展開。小さな成功体験の積み重ねが鍵となる。
・生成AIは競争優位でなく生存条件。経営層が体験し、バリューチェーンの根幹に導入することが重要。

 生成AIの活用が世界的に広がるなか、日本企業は米中に比べて後れを取っていると言われる。なぜこの差は生まれるのか。そして、日本企業が生成AIを真に業績に結びつけるためには何が必要なのか。

 株式会社Exa Enterprise AIのexaBase生成AI事業開発部 部長・駒谷徹氏に、日本の現状と成功企業の共通点を聞いた。

●目次

日本と海外の差は「利用率」以上に「成果」の格差

 駒谷氏は「利用率そのものは上がってきているが、生産性の向上効果は米中に比べて段違いに小さいといわれている」と指摘する。

 背景には日本企業特有の事情がある。ITやAIへの投資が乏しく、AI導入を推進する専門部署が設けられていないケースも多い。IT部門が兼務的にAI導入を担う現状では、大規模な投資や業績直結のプロジェクトに踏み込めない。

 さらに、金融業界をはじめとする規制産業では「最新のツールが使えない」制約が強く、結果的に「レガシー化したシステム」を抱えることになる。米中がITを国の中核産業と位置づけ、経営の主導権をIT人材が握るのに対し、日本では「IT部門は花形ではない」状況が続いていることも構造的な違いだ。

リテラシーの低さは「許されてしまう環境」が原因

 日本企業のAIリテラシーが上がらない理由について、駒谷氏は「そもそもDXやAIへの投資をしなくても事業が継続できてしまう」点を挙げる。

 米国では人材の流動性が高いため、仕組み化を怠ると企業が立ち行かなくなる。一方、日本は属人的な働き方が温存されていても事業継続に大きな支障が出にくい。そのため構造的に危機感の希薄さが、非効率的な文化の温床となっているのだ。

 生成AI導入における障壁はこれだけではない。導入後に「業務の進め方を変えなければならない」ことへの抵抗が根強い。

「どうせ現場は使わないのでは」という懐疑や、実際に事務局側の労力が過大となり導入を挫折する例も多い。駒谷氏は「小さな成功体験を作り、それを全社展開する」ことの重要性を強調する。

成功する企業の共通点――ファミリーマートの事例に学ぶ

 うまく活用している企業として駒谷氏はファミリーマートや東京ガスなどを挙げる。

 特にファミリーマートでは、社員が自発的に生成AIの活用法を競うコンテストを実施。現場発の優れた活用法を全社に展開することで、社内浸透が一気に進んでいるという。

「AIの強みは“仕組み化”。ベテラン社員の知見をAIに落とし込み、誰でも同じように使える形にできる。日本型の“ボトムアップ展開”にAIは相性がいい」と駒谷氏は語る。

 では、活用の第一歩をどう踏み出せばよいのか。駒谷氏は「トップダウンが最も効果的」としつつも、現場主導の取り組みも有効だと話す。

 ある企業では、社長の思考プロセスをAIに学習させ、「社長の答えにどれだけ近いか」を当てるクイズを実施。半年後にはAIの利用率が10%から70%に跳ね上がったという。堅苦しくない「遊び心」が、社員の心理的ハードルを下げるのだ。

生成AIは「優位性」ではなく「前提条件」に

 生成AIが競争優位を生むのか、それとも効率化にとどまるのか。駒谷氏の答えは明快だ。

「AIネイティブな企業が既存産業を塗り替えるのは時間の問題。優位性を生むかどうかではなく、導入しなければ“勝負にすらならない”」

 今後は介護や小売の現場など、人手を前提にしていたビジネスモデルも特に大きな影響を受けると予測する。

 単なる業務効率化にとどまらず、新規事業やビジネスモデル変革につなげるにはどうすればいいのか。駒谷氏は「バリューチェーンの根幹にAIを組み込む」ことを挙げる。

 創薬やアパレル設計、営業戦略の立案など、企業の競争力を決める領域にAIを導入すれば、業績へのインパクトは桁違いになるという。

 生成AIを企業に根付かせるうえで経営層が果たす役割は大きい。駒谷氏は「経営者自身がまず触ってみること」を勧める。

 さらに米中の先進企業を訪問し、実際に自動運転やAIネイティブ企業の現場を目にすることも有効だという。「体験することで初めて危機感が生まれる」と駒谷氏は語る。

人間の役割は「遊びと熱狂」に

 AI時代における人間の役割について問うと、駒谷氏は「飛行機とパイロットの関係」に例える。AIが自動で動く部分が増える一方で、人間は「取り返しのつかない領域」を担い続ける。

 だが長期的には、人間は「遊びやスポーツ」といった領域で価値を発揮するようになるだろうと予測する。将棋ではAIが藤井聡太より強く、野球では大谷翔平より多くホームランを打てるロボットを作れるかもしれない。しかし人々が熱狂するのは「人間」である。そこにこそ人間の存在意義があるという。

 最後に駒谷氏は、Exa Enterprise AIとしての使命をこう語った。

「日本企業が安心して生成AIを使える環境を整え、最終的には自社でAIエージェントを作り出せるようにする。そのための基盤を提供することが我々の役割です」

 セキュリティ意識が高く、変化に慎重な日本企業だからこそ、「安全性と内製化」を両立できる仕組みが求められている。

 生成AIはもはや「選択肢」ではなく「前提条件」。その認識を持ち、まずは小さな一歩から踏み出すことが、日本企業にとって不可欠だ。

(文=Business Journal編集部、協力=駒谷徹/株式会社Exa Enterprise AI exaBase生成AI事業開発部部長)

農業の常識が変わる…クボタが仕掛ける「ソーラーシェアリング」の全貌

●この記事のポイント
・農業機械メーカーのクボタが、農業と発電を両立させる「営農型太陽光発電」に注力。再エネ供給だけでなく、耕作放棄地の活用や地域農業の活性化を目指している。
・この事業は、農家・地権者・クボタの三者が協力する新しい仕組み。農作業に配慮した設計で、農業生産を維持しながら安定した収益を生み出す。
・クボタは、この事業を「地域の資産」として育て、2030年までに50億円規模に拡大する計画。農業の持続可能性を高める挑戦として注目されている。

 農業機械メーカーとして世界的に知られるクボタが、いま注力しているのが「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」だ。農地に太陽光パネルを設置し、農業と発電を同時に行う仕組みである。再生可能エネルギーの供給に加え、農業の持続性や地域農業の活性化に寄与する新しい事業モデルとして注目を集めている。

 同社の取り組みについて、クボタ イノベーションセンター カーボンニュートラルビジネス企画室 室長の楠本敏晴氏に話を聞いた。

●目次

「農業振興」が第一目的

 楠本氏が強調するのは、営農型太陽光発電の主眼が「再エネの供給」ではなく「農業の振興」にある点だ。

「営農型太陽光発電は、農地を有効活用しながら再生可能エネルギーを生み出す仕組みですが、我々が最も重視しているのは地域農業の活性化です。農業を継続することが前提であり、それがなければ事業は成立しません」(楠本氏)

 クボタはこれまで培ってきた農業分野での知見や信頼を活かし、農地を舞台にした新しい価値創出に踏み出した格好だ。背景には、日本の農業人口の減少や耕作放棄地の増加といった社会課題がある。

スキームの特徴:三者の協働で成り立つ仕組み

 クボタのモデルは、農業法人・地権者・クボタの三者の協力によって成立する。

 1.地権者は農地の「二階部分」を貸し出す形で区分地上権を設定し、賃料を受け取る。
 2.農業法人は従来通り農業を継続。収穫物は自らの判断で販売できる。
 3.クボタは太陽光設備に投資し、得られた再エネを工場に供給。農業法人には「営農委託費」を支払い、収量減や作業負担増を補う。

 この仕組みにより、農業生産は維持されつつ、エネルギーの地産地消が実現する。

 発電設備は、農作業への影響を最小限に抑えるため細心の配慮が施されている。

・遮光率は30%に設定。農業が成立するバランスを重視している。
・パネルの高さは地上3m超を確保。標準的な大きさのトラクターやコンバインが走行可能だ。
・支柱間隔は5mで、上記(or標準的な大きさ)のトラクターやコンバインが1往復できる設計。またはパネルの高さは地上3m超、支柱間隔は5mを確保。標準的な大きさのトラクターやコンバインが走行し1往復できる。

 実際に導入した農家からは「最初は慣れが必要だが、問題なく作業できる」との声が寄せられている。

耕作放棄地の再生という価値

 クボタのプロジェクトの約半数は耕作放棄地で展開される予定だ。草に覆われ荒れていた土地が、営農型太陽光発電の導入によって再び農地として息を吹き返す。

「地域の方々からは『農地が再生されてうれしい』という声を多くいただきます。担い手不足で荒れ地となっていた土地に新しい価値を与えることができる点が大きな魅力です」(楠本氏)

 2024年7月に栃木県・茨城県で始動したプロジェクト[SN2] では、200カ所・総面積80haにわたる営農型太陽光発電所の建設が進む。

・設備容量:約20MW
・年間CO₂削減量:約10,400トン
・栽培作物:米・小麦・大豆など

 すでに40カ所が稼働しており、収穫された大麦や米は品質・等級ともに問題ない水準を確保している。遮光による生育の遅れは一部見られるものの、全体として収量もおおむね維持できているという。

 クボタは東京農工大学と共同で、最適な栽培方法を模索する研究を進めている。大学の圃場に設置した設備で、遮光率30%・50%など条件を変えて農作物を栽培し、環境データを収集中だ。

 こうした科学的検証に基づく取り組みは、営農型太陽光発電の信頼性を高めるうえで不可欠だ。

地域とともに育てる「資産」へ

 現時点ではクボタの自社投資によって展開されているが、将来的には地域金融機関や自治体、地元農家からの出資を組み合わせ、「地域の資産」として営農型太陽光発電を広げていく構想も描いている。

「単なる発電事業ではなく、地域に根差した持続可能な農業モデルにしていきたい。将来的には異業種の企業とも連携し、事業の幅を広げていく考えです」(楠本氏)

 2027年度以降は、パートナー企業との共同出資やノンリコース融資を組み合わせた事業展開を検討中だ。さらに、農業部分への直接的なコミットや海外展開の可能性も視野に入れている。

 楠本氏は「2030年に向けて50億円規模の事業に育てたい」と意欲を示す。営農型太陽光発電は、農業とエネルギーの双方を支える新たな成長領域として期待されている。

 クボタの営農型太陽光発電事業は、単なる再エネビジネスではなく、「農業振興」を軸に据えた挑戦だ。耕作放棄地の再生、地域農業の活性化、再生可能エネルギー供給という三つの価値を同時に生み出す仕組みは、日本が直面する課題の解決策となり得る。

 農業機械メーカーから“農業×エネルギー”の新たな担い手へ。クボタの挑戦は、持続可能な社会づくりに向けた大きな一歩となりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

森永乳業、牛ふん尿からメタンガスを回収…酪農の持続可能性を支える挑戦

●この記事のポイント
・森永乳業が牛ふん尿からメタンガスを回収し、発電や堆肥化、独自技術による浄化まで行う仕組みを導入。酪農経営の負担軽減を狙う。
・直接的な収益性よりも、ふん尿処理の課題解決や経営リスク低減を重視。規模拡大を進める酪農家の選択肢を広げる意義が大きい。
・サステナビリティ中長期計画2030の一環として推進。地域資源の循環利用を見据え、酪農の持続可能性を支える挑戦を続けている。

 食品大手・森永乳業が、酪農現場から排出される牛のふん尿を活用し、メタンガスを回収する取り組みを進めている。温室効果ガス削減という環境対応にとどまらず、酪農経営そのものの持続性を高めることを目的としたプロジェクトだ。同社 調達本部酪農部 酪農グループ マネージャーの内藤健憲氏に取材した。

●目次

酪農事業の裏側にある「ふん尿処理」の重い課題

 酪農経営の現場で避けて通れないのが「ふん尿処理」だ。日本では従来、堆肥化によって処理するのが一般的だが、課題は多い。

 ・牛ふんは水分が多く、発酵が進みにくい
 ・水分を減らすために大量のおがくずなどを混ぜる必要がある
 ・結果として運搬量や保管スペースが増大し、コストや労力が重くのしかかる

 さらに、処理の過程で発生するメタンはCO2の25倍もの温室効果を持ち、温室効果ガス排出源としても問題視されている。

 内藤氏は「酪農家にとって処理は経営的にも精神的にも大きな負担です。コスト削減にはつながりにくいのですが、処理がうまくいかなければ経営そのものが立ち行かなくなる」と語る。

「メタン回収型」処理システムの全体像

 森永乳業が導入したのは、牛ふん尿を密閉槽で嫌気発酵させてメタンを回収し、発電に活用する仕組みだ。さらに、発酵後に残る消化液については、固形分を堆肥として再利用し、液体部分を独自技術で浄化するまでが一連の流れとなっている。この浄化工程は酪農家にとって大きな負担となってきた糞尿処理の軽減に直結する点で大きな意義がある。以下にシステム全体の工程を整理する。牛舎から排出された糞尿は以下の流れで処理される。

 (1)受入設備:農場から集めたふん尿を投入
 (2)発酵槽:嫌気発酵によりメタンを発生させ、ガスを回収
 (3)敷料製造設備:固液分離し、固形分を好気発酵させて牛舎の敷料や堆肥に再利用
 (4)濃縮器:液体部分からさらに固形分を分離、堆肥資源を回収
 (5)MOラグーン(浄化槽):残った処理水を浄化し、放流可能な状態に

 ここで得られる電力は「カーボンニュートラル電力」と位置づけられ、再生可能エネルギーとして活用される。

経営判断の背景:「ただの更新では意味がない」

 もともと、この設備導入の背景には「農場の既存処理設備の更新時期」があった。従来型に作り替えることもできたが、森永乳業は「酪農業界の課題解決につながる新しい仕組みに挑戦しよう」と判断した。

 内藤氏は「財務的なインパクトを狙ったわけではありません。むしろ“業界全体の持続性に貢献できるか”を重視しました」と強調する。

 メタンガス回収による発電収益は限定的であり、大きな利益を生み出すモデルにはなっていない。だが内藤氏は「重要なのは収益ではなく、酪農経営の選択肢を広げること」だと指摘する。

 特に規模拡大を進める酪農家にとって、人手不足や堆肥を散布する圃場の確保の難しさから、ふん尿処理がボトルネックになることが多い。処理のめどが立たなければ牛舎の拡張も難しいが、この仕組みが導入されれば拡大の足かせが和らぐ。

「直接的なコスト削減効果は小さいですが、経営上のリスクを減らし、将来的な拡大を可能にする点で価値があります」(内藤氏)

独自性を支える「森永エンジニアリング」の技術

 本プロジェクトの特徴の一つが、グループ会社・森永エンジニアリングの技術を活用している点だ。同社はこれまで食品工場向けの排水処理設備を手掛けており、そのノウハウを酪農分野に応用した。

 特に「浄化工程」は独自性が高く、におい対策や処理水のクリーン化など、地域社会との共生にも直結する。

 森永乳業が描くのは、自社農場にとどまらない地域単位での資源循環だ。

 ・牛ふん尿 → エネルギーや肥料
 ・野菜残渣など農産廃棄物 → バイオガス資源に活用
 ・発電された電力 → 地域利用や災害時の非常電源

「酪農家だけでなく、地域全体で資源を循環させる仕組みをつくれれば、酪農の社会的役割も広がります」(内藤氏)

 森永乳業は「サステナビリティ中長期計画2030」のなかで「資源と環境」を重点テーマの一つとして掲げている。生乳調達においてGHG削減は避けて通れない課題であり、その一手としてメタン回収事業を位置づけている。

「一つの技術で大幅にGHGを減らすのは難しい。地域や経営規模によって適した方法は異なります。我々は“解決策の一つを提示する責任”があると考えています」(内藤氏)

投資かコストか——普及の条件

 環境対応が「コスト負担」になれば普及は進まない。内藤氏は「酪農家にとって財務的にもプラスになること」が条件だと語る。

「環境価値と経済性の両立がなければ、どんなに意義のある技術でも広がりません。今は一部実証段階ですが、酪農経営にメリットをもたらす形にしていくことが不可欠です」

 現時点では一部実証試験中であり、 海外進出は時期尚早とされるものの、将来的には地域単位でのエネルギー地産地消、災害時の電力供給など、多面的な発展が視野に入る。

「食品メーカーが環境エネルギーにどう関わるか。その模索の一つが今回の取り組みです。収益だけを目的にするのではなく、酪農の基盤を守ることこそ我々の役割だと思っています」(内藤氏)

 森永乳業のメタンガス回収事業は、単なるSDGs対応のアピールではない。直接の収益性は薄いものの、酪農家の負担を軽減し、持続可能な生乳調達を支える「見えない投資」である。

 食品メーカーが環境と経営をどう両立させるか。その答えの一つとして、このプロジェクトは今後の酪農・畜産業界の方向性を示唆している。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)