Rokt×楽天×メルカリ なぜ今、“デジタル”リテールメディアなのか

去る7月25日(金)、国内外でEC領域をけん引する3社が一堂に会し、ECプラットフォームを軸に広告価値と顧客体験を両立させるデジタルリテールメディアの未来をテーマに各社の知見と事例を共有するカンファレンス「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」が開催されました。

記事では、同カンファレンスに参加した楽天グループ・秦俊輔氏、メルカリ・赤星大偉氏、Rokt・三島健氏をパネラーに、電通デジタル・千葉健司氏をモデレーターに迎え、デジタルリテールメディアの現在地と可能性についてディスカッションを行いました。

Rokt×楽天×メルカリ なぜ今、“デジタル”リテールメディアなのか

パネラー:
秦俊輔 楽天グループ マーケットプレイス事業 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー
赤星大偉 メルカリ Head of Ads Business
三島 健 Rokt Head of Japan, Vice President

モデレーター:
千葉健司 電通デジタル コマース&プロモーション部門 部門長

 

デジタルの強みを生かしたリテールメディア

千葉:今、私たちは開演を2時間後に控えた「Digital Retail Media Conference 2025」の会場にいるわけですが、「リテールメディア」の前に「デジタル」とあるのが象徴的だなと感じています。いわゆる一般的なリテールメディアに対して、デジタルの視点からのアプローチに焦点を当てる意図がそこにはあると理解していますが、いかがでしょう。
 
秦:「リテールメディア」という言葉を日本でもよく聞くようになりましたが、メーカーやブランドの担当者の方と話をしていると、店舗内に設置されたサイネージのような、いわゆるオフラインのイメージを皆さん強く持っているようです。

これがアメリカだと、リテールメディアのイメージは日本とはまた違ってきます。市場においてAmazonをはじめとするECプラットフォーム、つまりオンラインの売り上げが大きいことから、リテールメディアのイメージもオンラインが優勢になっています。

「デジタル」と明示した今回のカンファレンスでは、オフラインではないデジタルリテールメディアが存在すること、そしてオンラインならではの価値があることを、来場者に知ってほしいと考えています。

秦俊輔(はた しゅんすけ)
秦俊輔(はた しゅんすけ) 楽天グループ マーケットプレイス事業 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー。2009年楽天グループに入社。広告事業配属後、広告代理店担当の営業を担当し2017年には電通との合弁会社である楽天データマーケティングの立ち上げに携わる。2019年ヤフーに入社。PayPay販促ソリューション、東京2020の企画・販売に携わる。また、ヤフー×指名手配捜査支援プロジェクトで広告電通賞 入賞。 2021年再び楽天グループに戻り、「楽天市場」とメーカーとの協業でビジネス拡大を図る部署(AIO)の立ち上げおよび、コンサル部門の責任者を務める

三島:オフラインとオンラインでは、買い物行動、つまりユーザージャーニーがまるで違います。店舗だと棚の前に行って考えたり、店内をぐるっと回っていろいろなカテゴリーの商品を見たり……といった形になりますが、オンラインではまずカテゴリーで探して、そこから商品を深掘りに行って、もろもろの比較をして、これにしよう……というようにショッピングファネルが深くなっていきます。

そうなると、オフラインとオンラインでリテールメディアの役割も変わってきます。オフラインの典型的な例として店舗内のデジタルサイネージを考えると、その役割はブランドマーケティングにやや近いと思います。ファネルやジャーニーの早期のところからのアプローチになります。

一方、オンラインではお客さまが何を探しているのか、ショッピングファネルのどこにいるのかがわかるので、お客さまに示せるもの、示せるタイミング、その精度がまるで違ってきます。
 
オフラインは基本的には「知ってもらう・見てもらう」という認知ファネルであるのに対し、オンラインはダイレクトに「商品を買ってください・触れてください」というアプローチになるので、購入への影響も大きいのがデジタルリテールメディアの特徴ではないでしょうか。
 
秦:オンライン/オフラインを問わず、リテールメディアの価値の一つに「ユーザーの買い物のモードを捉えてコミュニケーションできる」ことがあります。加えて、オンラインのメリットは、その成果をトラッキングしてデータを蓄積できることです。その意味でも、今回のようにデジタルに特化したリテールメディアの特徴などについて発信していく意義はあるかと思っています。
 
千葉:デジタルリテールメディアには、いわゆるオフラインのリテールメディアとはまた違った特徴と役割、メリットがあることがよくわかりました。

続いて、皆さんのリテールメディアへの取り組みについて伺いたいと思います。メルカリは今年から「メルカリAds」(※)を始めましたね。

※メルカリが提供する広告配信サービス。クリック課金型広告で、メルカリ内の検索結果画面に検索キーワードなどに合わせた広告を掲載することが可能。

 

赤星:一定のユーザー規模を持つサービスの事業主なら、広告事業は考えると思います。私たちメルカリ中でも、その選択肢はずっとありました。ただ、どういう広告事業がメルカリに合うのか、B to Cではなく、C to Cという独特なマーケットプレイスの上で展開される広告事業とはどういう形のものなのか、ずっと模索していました。ようやく、おそらくこの形かなというのが見え始めて、大々的にプレスリリースすることになりました。グローバルでみても、似たようなことをこの規模でやっているプラットフォームはないでしょう。とてもユニークなものになっていると思います。

 赤星大偉(あかほし だいい)
赤星大偉(あかほし だいい) メルカリ Head of Ads Business。デジタル広告領域に15年在籍、広告メディア会社(ヤフー・Meta・ByteDance・SmartNews)で、ソフトウエアエンジニア、データサイエンティスト、広告主営業、事業責任者を経験。2023年より現職。メルカリの広告事業立ち上げに従事

千葉:メルカリ社内では、これをリテールメディアと捉えているのですか。
 
赤星:当初、社内ではリテールメディアについて、さほどクリアなイメージを持っていなかったと思います。ただ、GMV(※)の成長とともに、社として第2、第3の売り上げの柱をどう作っていくのかは重要な課題であり、その候補の一つにメルカリAdsがありました。昨今リテールメディアがトレンドになる中、多くの広告主や広告会社に興味を持っていただけています。

※「Gross Merchandise Value」の略で、日本語では「流通取引総額」と訳される。ECサイトやプラットフォームビジネスにおいて、商品やサービスの総売上高を示す指標として用いられる。


 


販促とブランドマーケティングの融合を目指して

千葉:クライアントは広告予算と販促予算を持っているわけですが、リテールメディアに対しては販促予算から当てられるケースが多いかと思います。一方で、最近は徐々に広告予算から当てる動きも広がってきているように思います。メルカリAdsの場合、どちらの予算を想定しているのでしょうか。
 
赤星:メルカリは広告事業をスタートしたばかりということもあって、広告予算をまずは想定するところからスタートした方がいいかなと思っています。ただ、ECプラットフォームが伸長してきて、広告費と売り上げのコンバージョンがちゃんと分析できるようになってくると、もはや広告費と販促費を厳密に分ける必要はないのかもしれません。現在、日本のEC化率は10%ぐらいですが、これが上がっていくと、さらにこの境目がなくなっていくのではないでしょうか。
 
千葉:楽天では、広告予算と販促予算についてどう考えていますか。
 
秦:楽天市場は「買い場である」というイメージが色濃くあるので、私たちが普段メーカーや大手企業とやり取りする予算というのは、いわゆる営業予算が大半を占めます。すなわち、EC営業予算という形です。

一方で、今後はブランド予算や宣伝予算に対しても、楽天市場および楽天グループのメディアの活用価値をしっかり作っていくことで応えられるようにしたいと思っています。販促とブランドマーケティングがどんどん融合されていくようになっていくと、私たちのようなプレーヤーの価値はどんどん上がっていくのではないでしょうか。

三島: 宣伝を「認知」、販促を「比較」「購買」のようにファネルの視点で考えたとき、クライアントがどのファネルに属していたとしても成果にコミットすることは可能と考えています。そうした観点から、広告費なのか販促費なのかという問題は、さほど意識してなくてもよいのではないかと思っています。

千葉:ユーザーの買い物モードを捉えられるという価値を最大限に生かして、販促とブランドマーケティングの融合を目指すべきだということですね。

千葉健司(ちば けんじ) 
千葉健司(ちば けんじ) 電通デジタル コマース&プロモーション部門 部門長。大学院を卒業後、教育機関に特化した代理店を経て、DAサーチ&リンク(現:電通ダイレクト)にてデジタル広告のコンサルタントを経験。その後、電通へ出向して年間100件以上の提案/競合コンペに参加。2019年より電通デジタルに籍を移してコマース領域に従事。2025年から部門長としてECモール活用やリテールメディア、デジタル販促を含めた販促全般を統括

千葉:自分たちのビジネスをさらに成長させるために、あるいは生活者により豊かな体験を提供するために、ここが突破できればというポイントはありますか。
 
秦:楽天市場は、コンバージョンを目的とした取り組みでは、一定の成功を収めてきたという自負があります。

マーケティング予算やブランド予算を想定した取り組みも徐々に増えてきてはいますが、まだまだ案件数でいうと限定的です。ここの領域での取り組みを増やすことができると、顧客に対してもより良い購買体験を提供できると思いますし、私たちのビジネスも拡大していくので、まさに突破したい領域です。

楽天市場を活用するときに、「指名買いでしか使わない」という方は、わずか5%に過ぎません。「とりあえず行ってみる」というモーメントであり、認知から理解・検討・購買のファネルが一気通貫で行われている状態です。だからこそ、ブランディングのアプローチが楽天市場では有効だと考えています。多くのメーカーが「アッパーファネルのことも楽天市場と一緒にやっていこう」ということになると、面白くなってくると思っています。
 
赤星:私たちデジタルの世界にいる人間からすると、データドリブンマーケティングは当たり前で体に染み付いています。メルカリは二次流通が主な市場ではありますが、ファーストパーティデータをたくさん持っています。

一方で、データをフル活用した意思決定やマーケティングにまだまだ躊躇(ちゅうちょ)するメーカーや広告主、事業主も少なくないようです。ですから、まずは私たちとクライアントの間にあるマーケティングに対する認識のギャップを埋めていく必要があるのかなと感じています。
 
三島:オンラインはマーケティングのスピードが速いですよね。そして、わかりやすい。そうなると意思決定のプロセスもどんどん速くなってきます。

秦:赤星さんがお話しされたことはすごくヒントがあって、私たちも目指したいのは、統合マーケティングプラットフォームとしてのポジショニングなんですね。マーケティングの最初のステージである商品開発の部分においても、私たちが持っているファーストパーティデータは間違いなく価値があるはずです。

ターゲットに関するデータをベースにメーカーと一緒に商品開発を行い、楽天市場でテストマーケティングを行い、どういったユーザーに刺さったか/刺さらなかったか、その理由は何だろう……と深掘りする。それに基づいて商品をブラッシュアップし、販売戦略を立てて、売っていく……というように、マーケティング全般を捉えながら、私たちはメーカーに伴走できると思っています。それは課題というよりも、むしろ機会と考えています。
 
千葉:特に楽天の場合、それがワンストップで全て提供できるのは強みですね。

電通グループとの連携で広がる可能性

千葉:Roktは独自のサービス提供で成功されていますが、課題はあるのでしょうか。
  
三島:課題はいろいろありますが、大きくは二つあります。一つは、Rokt はEC事業者に対して広告事業を始めるためのソリューションを提供しているわけですが、それをどう簡単に実装するのかということです。

もう一つは、EC事業者に対して「リテールメディアはユーザージャーニーにおける新しいチャネルですよ」「広告事業を行うことでユーザーを獲得できますよ」と説得することの難しさです。

どちらも簡単ではありません。自社で広告事業をやったことのないEC事業者は物販が収益の主戦場になっているので、広告事業については考えてもいないケースも少なくないのです。そうなると、先方のどの部署や組織の方と話をすれば良いのかが、最初の壁になります。

三島健(みしま けん)
三島健(みしま けん) Rokt Head of Japan。Expedia、HRSにて代表取締役を務め、大手日本企業のオンライン事業におけるデジタルトランスフォーメーションの戦略策定&推進に携わるなどテクノロジー業界で豊富な経験を持つ。その後、Googleの広告営業にてリテール市場向けプロダクト開発の推進を行い、2023年よりRoktへ。以降、Rokt日本代表としてEC事業者の収益増を可能とするソリューション導入に向けた支援を進めている

秦:誰と話すかというのは、確かに重要ですね。
 
千葉:マーケティング全体を管轄しているCMO(Chief Marketing Officer)のような立場の人と話すのが良いのかもしれません。

秦:それこそメルカリの広告事業の導入は、赤星さんがいなかったら進まなかったのではないですか? 赤星さんのように広告収益の旗を掲げた人がいたからこそ、前に進んだのではないですか?
 
赤星:この業界はGMV至上主義的なところがあるので、「広告事業を始めましょう」と言っても、「それでGMVが上がるの?」という話になりがちです。そこにおそらく大きなミスマッチがあるのだと思います。

Roktが提供しうる価値を考えると、最終的にはその会社のCFO(Chief Financial Officer)と話をすべきなのではないでしょうか。GMVがどうこうという話ではなく、PL(損益計算書)の話をした方がいいように思います。
 
秦:まったく新しい領域だから、先方のキーマンを探すのが大変ですよね。
 
千葉:そうしたところに電通グループの存在価値があるのかなと思っています。なぜなら、「翻訳して、きちんと相手に伝えることができる」のが電通グループの一つの強みだと思っていますし、対応できる組織と人財を持っていますから。

三島:Rokt の立場からすると、まさにそこに期待しています。Roktはプロダクトを持ってはいますが、お客さまとのコミュニケーションにおいて言語化がきちんとできていないところに課題があると感じていましたから。

お客さまと話をするとき、マーケティングのチームにアプローチするのが良いのか、ファイナンスの組織にアプローチするのが良いのか、電通グループの知見を生かしてステークホルダーの観点から解きほぐしていただけると大変助かります。
 
赤星:メルカリとしては、広告出稿の領域だけでなく、データ利活用の領域でも電通グループと一緒に取り組んでいきたいなと思っています。メルカリが持つデータを使って、メーカーの商品開発に生かしたり、プライシングに生かしたりできれば、マーケティングだけでなく、社会全体が良い方向にいくのではないかと考えています。
 
秦:私たちECプラットフォームの強みが販促領域にあるのに対して、電通グループの強みはアッパーファネルの領域にあると認識していますので、その部分で連携できたらと思っています。

具体的には、私たちが持つデータをどう活用して、どうPDCAを回していくべきか、といった部分で電通グループの知見を参考にできると、クオリティの高いアウトプットが可能になると信じています。

また、AIの活用も注目しているテーマです。電通グループのAIは広告やマーケティング領域に特化した形での開発が進んでいるので、私たちが持っているデータとうまく連携すれば、お客さまやメーカーに対してより良い体験を提供できるのではないかと期待しています。

千葉:皆さんから電通グループとの連携への可能性と期待の声をいただき、大変ありがたく思っています。

ディスカッションを通して、デジタルリテールメディアの現在地と可能性を感じることができました。また一方で、克服すべき課題もあることを認識しました。デジタルリテールメディアという新しい領域で、今後皆さんと連携できるのが楽しみですし、電通グループとしても皆さんの期待に応えられるような存在でありたいと思っています。

本日はありがとうございました。

「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」の会場にて
「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」の会場にて

 

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Rokt×楽天×メルカリ なぜ今、“デジタル”リテールメディアなのか

去る7月25日(金)、国内外でEC領域をけん引する3社が一堂に会し、ECプラットフォームを軸に広告価値と顧客体験を両立させるデジタルリテールメディアの未来をテーマに各社の知見と事例を共有するカンファレンス「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」が開催されました。

記事では、同カンファレンスに参加した楽天グループ・秦俊輔氏、メルカリ・赤星大偉氏、Rokt・三島健氏をパネラーに、電通デジタル・千葉健司氏をモデレーターに迎え、デジタルリテールメディアの現在地と可能性についてディスカッションを行いました。

Rokt×楽天×メルカリ なぜ今、“デジタル”リテールメディアなのか

パネラー:
秦俊輔 楽天グループ マーケットプレイス事業 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー
赤星大偉 メルカリ Head of Ads Business
三島 健 Rokt Head of Japan, Vice President

モデレーター:
千葉健司 電通デジタル コマース&プロモーション部門 部門長

 

デジタルの強みを生かしたリテールメディア

千葉:今、私たちは開演を2時間後に控えた「Digital Retail Media Conference 2025」の会場にいるわけですが、「リテールメディア」の前に「デジタル」とあるのが象徴的だなと感じています。いわゆる一般的なリテールメディアに対して、デジタルの視点からのアプローチに焦点を当てる意図がそこにはあると理解していますが、いかがでしょう。
 
秦:「リテールメディア」という言葉を日本でもよく聞くようになりましたが、メーカーやブランドの担当者の方と話をしていると、店舗内に設置されたサイネージのような、いわゆるオフラインのイメージを皆さん強く持っているようです。

これがアメリカだと、リテールメディアのイメージは日本とはまた違ってきます。市場においてAmazonをはじめとするECプラットフォーム、つまりオンラインの売り上げが大きいことから、リテールメディアのイメージもオンラインが優勢になっています。

「デジタル」と明示した今回のカンファレンスでは、オフラインではないデジタルリテールメディアが存在すること、そしてオンラインならではの価値があることを、来場者に知ってほしいと考えています。

秦俊輔(はた しゅんすけ)
秦俊輔(はた しゅんすけ) 楽天グループ マーケットプレイス事業 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー。2009年楽天グループに入社。広告事業配属後、広告代理店担当の営業を担当し2017年には電通との合弁会社である楽天データマーケティングの立ち上げに携わる。2019年ヤフーに入社。PayPay販促ソリューション、東京2020の企画・販売に携わる。また、ヤフー×指名手配捜査支援プロジェクトで広告電通賞 入賞。 2021年再び楽天グループに戻り、「楽天市場」とメーカーとの協業でビジネス拡大を図る部署(AIO)の立ち上げおよび、コンサル部門の責任者を務める

三島:オフラインとオンラインでは、買い物行動、つまりユーザージャーニーがまるで違います。店舗だと棚の前に行って考えたり、店内をぐるっと回っていろいろなカテゴリーの商品を見たり……といった形になりますが、オンラインではまずカテゴリーで探して、そこから商品を深掘りに行って、もろもろの比較をして、これにしよう……というようにショッピングファネルが深くなっていきます。

そうなると、オフラインとオンラインでリテールメディアの役割も変わってきます。オフラインの典型的な例として店舗内のデジタルサイネージを考えると、その役割はブランドマーケティングにやや近いと思います。ファネルやジャーニーの早期のところからのアプローチになります。

一方、オンラインではお客さまが何を探しているのか、ショッピングファネルのどこにいるのかがわかるので、お客さまに示せるもの、示せるタイミング、その精度がまるで違ってきます。
 
オフラインは基本的には「知ってもらう・見てもらう」という認知ファネルであるのに対し、オンラインはダイレクトに「商品を買ってください・触れてください」というアプローチになるので、購入への影響も大きいのがデジタルリテールメディアの特徴ではないでしょうか。
 
秦:オンライン/オフラインを問わず、リテールメディアの価値の一つに「ユーザーの買い物のモードを捉えてコミュニケーションできる」ことがあります。加えて、オンラインのメリットは、その成果をトラッキングしてデータを蓄積できることです。その意味でも、今回のようにデジタルに特化したリテールメディアの特徴などについて発信していく意義はあるかと思っています。
 
千葉:デジタルリテールメディアには、いわゆるオフラインのリテールメディアとはまた違った特徴と役割、メリットがあることがよくわかりました。

続いて、皆さんのリテールメディアへの取り組みについて伺いたいと思います。メルカリは今年から「メルカリAds」(※)を始めましたね。

※メルカリが提供する広告配信サービス。クリック課金型広告で、メルカリ内の検索結果画面に検索キーワードなどに合わせた広告を掲載することが可能。

 

赤星:一定のユーザー規模を持つサービスの事業主なら、広告事業は考えると思います。私たちメルカリ中でも、その選択肢はずっとありました。ただ、どういう広告事業がメルカリに合うのか、B to Cではなく、C to Cという独特なマーケットプレイスの上で展開される広告事業とはどういう形のものなのか、ずっと模索していました。ようやく、おそらくこの形かなというのが見え始めて、大々的にプレスリリースすることになりました。グローバルでみても、似たようなことをこの規模でやっているプラットフォームはないでしょう。とてもユニークなものになっていると思います。

 赤星大偉(あかほし だいい)
赤星大偉(あかほし だいい) メルカリ Head of Ads Business。デジタル広告領域に15年在籍、広告メディア会社(ヤフー・Meta・ByteDance・SmartNews)で、ソフトウエアエンジニア、データサイエンティスト、広告主営業、事業責任者を経験。2023年より現職。メルカリの広告事業立ち上げに従事

千葉:メルカリ社内では、これをリテールメディアと捉えているのですか。
 
赤星:当初、社内ではリテールメディアについて、さほどクリアなイメージを持っていなかったと思います。ただ、GMV(※)の成長とともに、社として第2、第3の売り上げの柱をどう作っていくのかは重要な課題であり、その候補の一つにメルカリAdsがありました。昨今リテールメディアがトレンドになる中、多くの広告主や広告会社に興味を持っていただけています。

※「Gross Merchandise Value」の略で、日本語では「流通取引総額」と訳される。ECサイトやプラットフォームビジネスにおいて、商品やサービスの総売上高を示す指標として用いられる。


 


販促とブランドマーケティングの融合を目指して

千葉:クライアントは広告予算と販促予算を持っているわけですが、リテールメディアに対しては販促予算から当てられるケースが多いかと思います。一方で、最近は徐々に広告予算から当てる動きも広がってきているように思います。メルカリAdsの場合、どちらの予算を想定しているのでしょうか。
 
赤星:メルカリは広告事業をスタートしたばかりということもあって、広告予算をまずは想定するところからスタートした方がいいかなと思っています。ただ、ECプラットフォームが伸長してきて、広告費と売り上げのコンバージョンがちゃんと分析できるようになってくると、もはや広告費と販促費を厳密に分ける必要はないのかもしれません。現在、日本のEC化率は10%ぐらいですが、これが上がっていくと、さらにこの境目がなくなっていくのではないでしょうか。
 
千葉:楽天では、広告予算と販促予算についてどう考えていますか。
 
秦:楽天市場は「買い場である」というイメージが色濃くあるので、私たちが普段メーカーや大手企業とやり取りする予算というのは、いわゆる営業予算が大半を占めます。すなわち、EC営業予算という形です。

一方で、今後はブランド予算や宣伝予算に対しても、楽天市場および楽天グループのメディアの活用価値をしっかり作っていくことで応えられるようにしたいと思っています。販促とブランドマーケティングがどんどん融合されていくようになっていくと、私たちのようなプレーヤーの価値はどんどん上がっていくのではないでしょうか。

三島: 宣伝を「認知」、販促を「比較」「購買」のようにファネルの視点で考えたとき、クライアントがどのファネルに属していたとしても成果にコミットすることは可能と考えています。そうした観点から、広告費なのか販促費なのかという問題は、さほど意識してなくてもよいのではないかと思っています。

千葉:ユーザーの買い物モードを捉えられるという価値を最大限に生かして、販促とブランドマーケティングの融合を目指すべきだということですね。

千葉健司(ちば けんじ) 
千葉健司(ちば けんじ) 電通デジタル コマース&プロモーション部門 部門長。大学院を卒業後、教育機関に特化した代理店を経て、DAサーチ&リンク(現:電通ダイレクト)にてデジタル広告のコンサルタントを経験。その後、電通へ出向して年間100件以上の提案/競合コンペに参加。2019年より電通デジタルに籍を移してコマース領域に従事。2025年から部門長としてECモール活用やリテールメディア、デジタル販促を含めた販促全般を統括

千葉:自分たちのビジネスをさらに成長させるために、あるいは生活者により豊かな体験を提供するために、ここが突破できればというポイントはありますか。
 
秦:楽天市場は、コンバージョンを目的とした取り組みでは、一定の成功を収めてきたという自負があります。

マーケティング予算やブランド予算を想定した取り組みも徐々に増えてきてはいますが、まだまだ案件数でいうと限定的です。ここの領域での取り組みを増やすことができると、顧客に対してもより良い購買体験を提供できると思いますし、私たちのビジネスも拡大していくので、まさに突破したい領域です。

楽天市場を活用するときに、「指名買いでしか使わない」という方は、わずか5%に過ぎません。「とりあえず行ってみる」というモーメントであり、認知から理解・検討・購買のファネルが一気通貫で行われている状態です。だからこそ、ブランディングのアプローチが楽天市場では有効だと考えています。多くのメーカーが「アッパーファネルのことも楽天市場と一緒にやっていこう」ということになると、面白くなってくると思っています。
 
赤星:私たちデジタルの世界にいる人間からすると、データドリブンマーケティングは当たり前で体に染み付いています。メルカリは二次流通が主な市場ではありますが、ファーストパーティデータをたくさん持っています。

一方で、データをフル活用した意思決定やマーケティングにまだまだ躊躇(ちゅうちょ)するメーカーや広告主、事業主も少なくないようです。ですから、まずは私たちとクライアントの間にあるマーケティングに対する認識のギャップを埋めていく必要があるのかなと感じています。
 
三島:オンラインはマーケティングのスピードが速いですよね。そして、わかりやすい。そうなると意思決定のプロセスもどんどん速くなってきます。

秦:赤星さんがお話しされたことはすごくヒントがあって、私たちも目指したいのは、統合マーケティングプラットフォームとしてのポジショニングなんですね。マーケティングの最初のステージである商品開発の部分においても、私たちが持っているファーストパーティデータは間違いなく価値があるはずです。

ターゲットに関するデータをベースにメーカーと一緒に商品開発を行い、楽天市場でテストマーケティングを行い、どういったユーザーに刺さったか/刺さらなかったか、その理由は何だろう……と深掘りする。それに基づいて商品をブラッシュアップし、販売戦略を立てて、売っていく……というように、マーケティング全般を捉えながら、私たちはメーカーに伴走できると思っています。それは課題というよりも、むしろ機会と考えています。
 
千葉:特に楽天の場合、それがワンストップで全て提供できるのは強みですね。

電通グループとの連携で広がる可能性

千葉:Roktは独自のサービス提供で成功されていますが、課題はあるのでしょうか。
  
三島:課題はいろいろありますが、大きくは二つあります。一つは、Rokt はEC事業者に対して広告事業を始めるためのソリューションを提供しているわけですが、それをどう簡単に実装するのかということです。

もう一つは、EC事業者に対して「リテールメディアはユーザージャーニーにおける新しいチャネルですよ」「広告事業を行うことでユーザーを獲得できますよ」と説得することの難しさです。

どちらも簡単ではありません。自社で広告事業をやったことのないEC事業者は物販が収益の主戦場になっているので、広告事業については考えてもいないケースも少なくないのです。そうなると、先方のどの部署や組織の方と話をすれば良いのかが、最初の壁になります。

三島健(みしま けん)
三島健(みしま けん) Rokt Head of Japan。Expedia、HRSにて代表取締役を務め、大手日本企業のオンライン事業におけるデジタルトランスフォーメーションの戦略策定&推進に携わるなどテクノロジー業界で豊富な経験を持つ。その後、Googleの広告営業にてリテール市場向けプロダクト開発の推進を行い、2023年よりRoktへ。以降、Rokt日本代表としてEC事業者の収益増を可能とするソリューション導入に向けた支援を進めている

秦:誰と話すかというのは、確かに重要ですね。
 
千葉:マーケティング全体を管轄しているCMO(Chief Marketing Officer)のような立場の人と話すのが良いのかもしれません。

秦:それこそメルカリの広告事業の導入は、赤星さんがいなかったら進まなかったのではないですか? 赤星さんのように広告収益の旗を掲げた人がいたからこそ、前に進んだのではないですか?
 
赤星:この業界はGMV至上主義的なところがあるので、「広告事業を始めましょう」と言っても、「それでGMVが上がるの?」という話になりがちです。そこにおそらく大きなミスマッチがあるのだと思います。

Roktが提供しうる価値を考えると、最終的にはその会社のCFO(Chief Financial Officer)と話をすべきなのではないでしょうか。GMVがどうこうという話ではなく、PL(損益計算書)の話をした方がいいように思います。
 
秦:まったく新しい領域だから、先方のキーマンを探すのが大変ですよね。
 
千葉:そうしたところに電通グループの存在価値があるのかなと思っています。なぜなら、「翻訳して、きちんと相手に伝えることができる」のが電通グループの一つの強みだと思っていますし、対応できる組織と人財を持っていますから。

三島:Rokt の立場からすると、まさにそこに期待しています。Roktはプロダクトを持ってはいますが、お客さまとのコミュニケーションにおいて言語化がきちんとできていないところに課題があると感じていましたから。

お客さまと話をするとき、マーケティングのチームにアプローチするのが良いのか、ファイナンスの組織にアプローチするのが良いのか、電通グループの知見を生かしてステークホルダーの観点から解きほぐしていただけると大変助かります。
 
赤星:メルカリとしては、広告出稿の領域だけでなく、データ利活用の領域でも電通グループと一緒に取り組んでいきたいなと思っています。メルカリが持つデータを使って、メーカーの商品開発に生かしたり、プライシングに生かしたりできれば、マーケティングだけでなく、社会全体が良い方向にいくのではないかと考えています。
 
秦:私たちECプラットフォームの強みが販促領域にあるのに対して、電通グループの強みはアッパーファネルの領域にあると認識していますので、その部分で連携できたらと思っています。

具体的には、私たちが持つデータをどう活用して、どうPDCAを回していくべきか、といった部分で電通グループの知見を参考にできると、クオリティの高いアウトプットが可能になると信じています。

また、AIの活用も注目しているテーマです。電通グループのAIは広告やマーケティング領域に特化した形での開発が進んでいるので、私たちが持っているデータとうまく連携すれば、お客さまやメーカーに対してより良い体験を提供できるのではないかと期待しています。

千葉:皆さんから電通グループとの連携への可能性と期待の声をいただき、大変ありがたく思っています。

ディスカッションを通して、デジタルリテールメディアの現在地と可能性を感じることができました。また一方で、克服すべき課題もあることを認識しました。デジタルリテールメディアという新しい領域で、今後皆さんと連携できるのが楽しみですし、電通グループとしても皆さんの期待に応えられるような存在でありたいと思っています。

本日はありがとうございました。

「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」の会場にて
「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」の会場にて

 

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どうすればねこのかわいさを拡張できるのか?-ねことの暮らしの小さな実験-

招き猫

近年、猫と人間の関係は大きくアップデートされ、新たな時代が到来しています。

本連載「ネコラボ通信」は、電通のクリエイティブR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」内に発足した猫専門イノベーションチーム「Neko Lab Tokyo」(以下、ネコラボ)のメンバーが持ち回りで登場。テクノロジーとアイデアを掛け合わせた、猫にまつわる最新プロジェクトやユニークな研究開発をお届けしていきます。

今回は「来(9)る福(29)」の語呂合わせにちなみ、9月29日の「招き猫の日」にあわせて公開する第3回です。

クリエイティブ・テクノロジストの中山桃歌が、愛猫 ASHBABY との日々から得たささやかな気づきをもとに行った実験から生まれた、いくつかの小さなプロトタイプをご紹介します。

<目次>

「猫招き」の手招きポーズは何が由来?

プロトタイプ1:ねこのさわりごこちの良さをどうやったら伝えられる?

プロトタイプ2:ねこ専用のフィルターでもっとねこのかわいさを広げてみたい

プロトタイプ3:ねこの動きのかわいさを他のものにも乗り移らせられる?

 

「猫招き」の手招きポーズは何が由来?

招き猫が生まれた理由には諸説ありますが、その手を挙げたポーズがは、ねこの「毛づくろい」に由来するという説があります。もしそうだとすれば、本来は自分を整える日常的なしぐさが、人間の目には「手招き=福を呼ぶ」仕草として読み替えられた、ということになります。

つまり、ねこの自然なしぐさが人間社会で「縁起」や「可愛さ」の象徴に拡張されたわけです。これはまさに 「ねこのかわいさの拡張」 と言えるでしょう。

そこで今回のテーマは──「どうすればねこのかわいさをさらに拡張できるのか」

このテーマに沿って、3つのプロトタイプをつくってみました。

プロトタイプ1:ねこのさわりごこちの良さをどうやったら伝えられる?

1つめは、「ねこのさわりごこち」の再現です。

ねこって本当にさわりごこちがいいですよね。ふわふわとも違う、サラサラとも違う。でもその感覚は、とても主観的なものです。どうやったら伝わるだろう?と考えました。

そこで着目したのが、電子工作でよく使われる「ピエゾ素子」。衝撃や振動を検知できるこの部品に、直接素材を当てて振動を拾えば、さわりごこちの音を収集できるのではないかと考えました。

ピエゾ素子を、さわりごこちの音を拾える聴診器のような形にデザインし、実際にこのデバイスでねこを撫でてみると、環境音を避けながら毛並みがこすれる「ふぁさふぁさ」という音だけをきれいに録音することができました。


たまに、耳で弾く音も可愛いのですが、とにかくふぁさふぁさしていることが伝わると嬉しいです。

最近ではiPhoneのアクセシビリティ機能に「ミュージックの触覚」というものもあり、音楽に触覚を組み合わせる試みも始まっています。将来的には、ASHBABYのさわりごこちを、スマートフォンの触覚フィードバックを通じてそのまま皆さんに届けられるかもしれません。

Dentsu Lab Tokyoで行っているR&Dプロジェクト「FANTOUCHIE」では、入力された言葉に応じて触感を生成し、振動スピーカーを通じてフィードバックするプロトタイプを開発しています。

この取得したASHBABYのさわりごこちの音を活用すれば、将来的には「ねこのさわりごこち」だけでなく、たとえば絶滅したサーベルタイガーのさわりごこちを想像して再現する、といった試みもできるかもしれません。

プロトタイプ2:ねこ専用のフィルターでもっとねこのかわいさを広げてみたい

TikTokのエフェクトハウスでは、ねこの顔を認識して、ねこ専用のフィルターを作ることができます。プロトタイピングでねこのかわいさをもっと広げることができないか、さまざまなフィルターを作ってみました。

自身で制作したGIFアニメーションを、ねこの顔認識から固有の位置に出現するようにすることで、


お目めを漫画にしてみたり


頭に花を生やしてみたり


耳を伸ばしてみたり


練習でつくった3Dモデルのうんちをのせてみたり……

フィルターがつくだけで、たくさん記録に残したり、みんなに共有したくなるものだなと感じたりしました。

プロトタイプ3:ねこの動きのかわいさを他のものにも乗り移らせられる?


ねこって、毎日見てても飽きないくらい動きがしなやか。そして結構日々同じ動きをしている気もするのに、いつもかわいい。もっとこの動きを日々の暮らしの中の身近なものに入れられないかと思い、実験してみました。例えば、我が家のねこ ASHBABYは、私が帰宅すると必ず迎えに来てくれます。

ではその「迎えに来る」という行動を、家にある別のものに乗り移らせるとしたら何がいいだろう?

考えた結果、ねことサイズ感の近いティッシュボックスに決定。中にラジコンを仕込み、遠隔操作で動かしてみました。

 
 

動きはまだ人間が操作しているためねこの動きには遠く及ばないのですが、それでもなんとなく……迎えにくるティッシュボックスはかわいい。

さらに調べると、ハンガリーの3Dアニメーションスタジオ DIGIC Pictures が、ねこの動きをモーションキャプチャしてアニメーション制作を行った事例が紹介されています(DIGIC Cat Reel)。こうした技術を取り入れれば、もっとリアルな「ねこらしい動き」をティッシュボックスに乗り移らせることもできそうです。

他にも、一緒に遊んでくれたりするのだろうかということで、動くティッシュボックスとねこを遭遇させてもみました。

 
こちらはねこの動き?をローディングできたとは言えないですが、それでもねこの力なのか、いつものティッシュよりも愛着は持って接することができそうです。

もともとこの実験は「ねこのかわいさの拡張」がテーマでしたが、やってみるうちに別の可能性も見えてきました。

室内飼いのねこはどうしても刺激が少なく、運動不足になりがちです。もう一匹迎え入れるという選択肢もありますが、ねこは単独行動を好む動物ですし、相性の問題もあって簡単ではありません。もし日用品がねこの遊び相手になる未来があると、ねこの幸福度もアップするかもしれませんね。

たとえばCat Royaleというアートプロジェクトがあります。これは、ロボットアームがねこに遊びを提供し、その幸福度をモニタリングしながら最適なインタラクションを模索したというものです。結果として、少なくとも過度なストレスは与えない可能性があると示唆されています。

今回紹介した実験は、どれも暮らしの中で生まれたちいさな遊びの延長にすぎません。

けれどもねことテクノロジーが結びつくことで、今までになかったねこの能力のすごさを改めて感じるとともに、新しい体験を生み出すことができるのではないかなと感じています。これからもASHBABYと一緒にちいさな実験を続けていきたいと思います。


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CO2を出さず、燃料輸入も不要…日本発“夢の無限クリーンエネルギー”商用化へ

●この記事のポイント
・Helical Fusionは、日本独自の「ヘリカル型」核融合炉で商用化を目指し、エネルギー安全保障に新たな選択肢を提示している。
・世界がトカマク型やレーザー型に挑むなか、ヘリカル型は安定性・保守性に優れ、実用発電に直結する方式として注目される。
・核融合が社会実装されれば、脱炭素とエネルギー自立を同時に実現し、日本発技術が世界のエネルギー地図を塗り替える可能性がある。

「太陽のエネルギーを地上で再現する」――核融合発電は人類が長年追い求めてきた夢のエネルギー源だ。CO2を排出せず、燃料は海水から採取可能で、廃棄物の管理期間も原子力発電に比べて格段に短い。もし実用化されれば、地球規模のエネルギー問題を一変させるポテンシャルを持っている。

 その核融合に「ヘリカル型」という方式で挑むのが、株式会社Helical Fusionだ。同社は社名に「ヘリカル」を冠し、研究者とビジネス人材が結集して2021年に設立。日本が誇る国立研究機関「核融合科学研究所」の20年以上にわたる研究成果を引き継ぎ、商用化にまい進している。

 同社に、核融合の基本から、なぜ同社が「ヘリカル型」にこだわるのか、その理由と展望を伺った。

●目次

核融合とは ーー「地上に太陽をつくる」

 まず、核融合の基本から整理しておこう。現在、我々が使っているエネルギーの多くは「太陽由来」だ。太陽光発電はもちろん、風力や水力も大気や水の循環を動かす太陽エネルギーの間接利用である。石炭や石油といった化石燃料も、太古の太陽エネルギーが生物に蓄積されてできたものだ。

 核融合は、その「元」である太陽そのものを地上に再現する発電方式だ。水素の同位体である重水素や三重水素を1億度以上に加熱し、プラズマ状態にすると原子核が融合してエネルギーを放出する。このとき生じる高エネルギーの中性子を壁(ブランケット)にぶつけ、熱に変換し、タービンを回して発電する仕組みである。

 広報担当の吉村奈保氏は次のように説明する。

「核融合は暴走するリスクがなく、燃料は海水から取れます。放射性廃棄物も数十年から百年ほど管理すれば再利用可能で、原子力発電のように1万年単位で残ることはありません。持続可能なベースロード電源として世界を根本から変える可能性があります」

世界の主流「トカマク型」と「レーザー型」の壁

 現在、世界で主流とされるのは「トカマク型」だ。ドーナツ型の装置で磁場を作り、プラズマを閉じ込める方式で、多くの国際共同プロジェクトが進んでいる。しかしトカマクには大きな課題がある。

「最大の問題は、プラズマが突然消える“ディスラプション”と呼ばれる現象です。原因が完全には解明されておらず、発電炉そのものを壊しかねないリスクを抱えています。つまり、安定した商用運転に至るまでには、まだ科学的に乗り越えられていない壁があります」

 一方、レーザー方式は小さな燃料ペレットに高出力レーザーを照射して核融合を起こす。実験室レベルで「投入したエネルギー以上を出した」と話題になったが、吉村氏は冷静に語る。

「システム全体で見れば効率はまだ0.01程度。さらに規模を大きくすれば、どれだけエネルギーを出せるかという“スケーリングモデル”も確立されていません。商用化までは長い道のりが残っています」

「ヘリカル型」こそ持続可能な選択肢

 こうしたなかでHelical Fusionが選んだのが「ヘリカル型(ステラレーター)」だ。岐阜県の核融合科学研究所、その前身にあたる京都大学や名古屋大学を含めると約70年研究が重ねられてきた方式で、世界最大級の実験装置「LHD(Large Helical Device)」で実証が積み重ねられてきた。

「ヘリカル型は、他方式が抱える致命的な欠陥を持ちません。特に大きいのは“安定性”です。磁場をねじれたコイルで作ることで、プラズマを自然に閉じ込められる。トカマク型のようにプラズマ自体に流す電流を制御し続けなくても、いったん起動すれば安定して燃焼を維持できます」

 吉村氏によれば、商用化のためには3つの条件を満たす必要がある。

 1.定常運転 ― 365日24時間、安定して電気を出し続けられること
 2.正味発電 ― 入力した以上の電力を外部に供給できること
 3.保守性 ― 短期間のメンテナンスで高い稼働率を維持できること

「ヘリカル型は、この三要件を唯一、すべて満たせる方式だと考えています。特に保守性については、他の方式は必ずしもメンテナンスまで見通せているものばかりではないなか、私たちは“実用発電”を見据え、最初からこの視点を重視しています」

日本にとっての意義 ― エネルギー安全保障の切り札

 核融合の実用化は、単なる技術革新にとどまらない。日本にとっては国家戦略に直結する。

「日本はエネルギー資源の8割以上を輸入に頼っています。核融合が実用化すれば、他国から燃料を輸入せずとも高効率なエネルギーを確保できるので、エネルギー自給率を一気に引き上げられる。ひいてはエネルギーを輸出する立場に転換できる可能性もある。これは国家の安全保障にとって極めて重要な意味を持ちます」

 再生可能エネルギーも注目されているが、天候や立地に依存するため安定的なベースロード電源にはなりにくい。核融合こそが、持続可能で安定した電源の切り札となる。

 核融合研究は長らく「科学」の領域にあった。どうすれば核融合反応が起きる条件をつくって保持できるのか、その基本的な仕組みを解き明かす段階である。しかし吉村氏は「ヘリカル型はすでに科学的な段階を超え、工学フェーズに入っている」と強調する。

「プラズマを1億度以上に加熱し、安定して維持することはすでに実証済みです。残る課題は、いかに効率よく発電に結びつけるか、そして商用炉として経済性を持たせるか。この段階は“サイエンス”ではなく“エンジニアリング”です。日本のものづくりの強みが生きる領域に、ようやく核融合が到達しました」

Helical Fusionの挑戦

 Helical Fusionは、核融合科学研究所の研究者たちとビジネス人材が中心となり、「「国によって実用化直前まで進められた研究を引き継いで、社会に還元する」という強い使命感から誕生した。

「豆電球1つを点ける実験にとどまらず、商用化して人類の歴史の転換点をつくる」。私たちはそのために会社を立ち上げました。ゴールは明確で、“人の役に立つ電源”をつくること。その実現に向けて、情熱を持って挑んでいます」

 夢のエネルギーを現実のものとするために世界が多様な方式で核融合の商用化を目指すなか、Helical Fusionは日本独自の研究成果を起点に、「実用発電」という明確なゴールへと挑戦を続けている。日本発の技術が、地球規模のエネルギー構造を変える日も遠くないかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

新築よりリフォームが主役に?滋賀・湖南エリアで広がる不動産ビジネスの新潮流

●この記事のポイント
・滋賀・湖南エリアでは草津市を中心に不動産需要が拡大し、新築よりも中古・リフォームが注目されている。
・しげのぶ不動産は建設業から不動産に参入し、リフォームや買取再販事業を強化して事業を拡大。
・新築需要減少を見据え、高い生産性を武器に、中古物件の価値を高めるビジネスモデルで地域市場をリードする。

 滋賀県の県庁所在地は大津市だが、駅前にタワマンが建つなど近年では草津市の発展が著しい。駅の乗降客数は大津駅が3万人台であるのに対し、草津駅は5万人を超え、県内トップである。草津市を含む湖南エリアで不動産業を営むのが「滋賀・湖南エリアでは草津市を中心に不動産需要が拡大し、新築よりも中古・リフォームが注目されている。

 土地、戸建、マンションと様々な物件を手がけ、リフォーム事業も展開する。創業当初は建設業だったが、事業規模拡大の一環で不動産業にも参入したという。しげのぶ不動産の伊藤重信社長に事業内容と湖南エリアの不動産事情を聞いた。

●目次

草津駅周辺は大津より活気がある

 しげのぶ不動産は湖南市、甲賀市、草津市、栗東市の4市で事業を展開し、草津と湖南に拠点を構える。伊藤社長は建設業のサラリーマンとして18年間勤務した後、独立した。5期目までは建設業の専業だったが、厳しい市場環境を背景に不動産事業にも参入した。14期目にあたる現在では、利益のうち建設業と不動産業がちょうど半々を占めるという。湖南エリアに住む住民の特徴について伊藤社長は次のように話す。

「草津市、栗東市で物件を購入される方は大阪・京都に通勤する方が多い印象です。草津から京都までの所要時間は新快速で20分程度しかありません。一方、湖南市や甲賀市には工業団地があるため、地元に勤める人も多いです」(伊藤氏)

 大津駅周辺や琵琶湖寄りのナカマチ商店街など、大津の中心地では街の活気が薄れつつある。一方で草津駅では利便性が注目され、不動産開発が進んだ。2000年以降に「リーデンスタワー草津」や「ザ・草津タワー」など30階建て規模のタワーマンションが建設されている。筆者は両駅を訪れたことがあるが、草津は駅前に大型商業施設もあり、大津駅より活気がある。

戸建は100平米超えが当たり前

(さらに…)

ポケットエコーが在宅医療を変える?排泄も嚥下も“見える化”、看護の現場に改革

●この記事のポイント
・在宅医療や介護の現場で小型エコーの導入が進み、排泄や嚥下の可視化によりケアの質と効率が向上している。
・看護師も活用できる設計やAIアシスト機能が整い、医療DXの一環として教育カリキュラムにも組み込まれ始めた。
・介護施設や訪問看護で成果が見え始め、医療従事者の負担軽減と患者のQOL向上を両立する新しいツールとして注目される。

 超音波診断装置、いわゆる「エコー検査」は、以前は病院の検査室に設置された大型機器が主流だった。健診や産科診療で広く用いられ、医師が診断に活用する代表的な画像診断装置のひとつだ。

 しかし1990年代、戦場や災害現場でも使用できる小型エコーの開発が進む。湾岸戦争では米軍が野戦病院向けに持ち運び可能な装置を要請し、のちに富士フイルムグループの一員となったソノサイト社が世界初の携帯型エコーを実用化した。以降、ICUや救急のベッドサイド、在宅医療や災害現場でも使える「小型・携帯型エコー」の需要が拡大していった。

 富士フイルムは2012年にソノサイト社を買収し、大型装置に加えて、小型装置まで幅広いラインアップを拡充。臨床現場の多様なニーズに応える体制を構築してきた。

●目次

在宅医療・高齢化社会が求める新しいエコー

 こうした歴史を踏まえ、富士フイルムメディカルが2019年に発売したのが、ワイヤレス超音波画像診断装置「iViz air(アイビズ エアー)」である。

 開発の背景には、日本社会が直面する大きな課題がある。高齢化に伴い、医療は「入院中心」から「在宅中心」へとシフトしている。寝たきりや認知症の高齢者も増え、生活の質(QOL)を維持するには「食べる・出す・眠る」といった基本的な営みを支えるケアが欠かせない。

 なかでも重要とされるのが、排便・排尿・嚥下(飲み込み)機能の評価である。従来、これらは問診や観察で把握していたが、患者本人が正確に伝えられないケースも多く、医療従事者にとって大きな課題だった。

 富士フイルムメディカル 超音波事業部 マーケティンググループの仲素弘氏は次のように説明する。

「便や尿が溜まっているかどうかを“体の中を可視化”できれば、医師や看護師は根拠を持ってケアを選択できます。高齢者や認知症患者にとっても、生活の質を支える重要な要素になります」

看護師がエコーを使う時代へ

 

 これまで「エコーは医師が診断に使うもの」という認識が強かった。しかしポケットエコーの登場により、看護師がケアの一環としてエコーを使うという新しい流れが生まれた。

 看護師が患者の腹部にエコーを当て、膀胱や直腸の状態を確認する。便秘かどうか、尿が溜まっているかを可視化し、下剤投与や導尿といった処置が本当に必要かどうかを判断する。結果は医師や介護士と共有され、多職種でのチームケアに活用される。

 2024年7月には「ポイントオブケア看護エコー(照林社)」が発売され、その表紙には「看護師がエコーを使う時代がやってきた」と書かれている。また、2025年4月からは大学の看護学教育カリキュラムに、看護師が学ぶ基本技術の中の、第6のフィジカルアセスメントとして、超音波(エコー)診が追加され、「エコーで排便(直腸の便塊の貯留)や排尿(残尿測定)をエコー下で評価する」内容が正式に盛り込まれた。これは国内の医療教育においても画期的な一歩である。

 iViz airの特徴のひとつが、AI技術を用いたアシスト機能だ。

 例えば膀胱の尿量測定は、従来は複数のステップで計測点を設定する必要があったが、AIが自動で領域を認識し、簡単に数値を算出できる。直腸内の便についても、AIが画像を解析し「便がある」「空虚な直腸(便なし)」といった判定を支援する。

 仲氏はこう語る。

「特に初めてエコーを扱う看護師の方でも迷わず操作できるように設計しています。AIアシスト機能についても、“看護師の方に使っていただきやすいこと”を主眼に開発を進めました」

現場での導入事例 ― 介護施設・訪問看護で広がる

 発売から約半年後には国内で1000台を突破。特に在宅医療(訪問看護)や介護施設での評価が高い。大手介護事業者チャームケアコーポレーションでは、全国93施設全てに導入。膀胱内尿量や直腸内の便の有無を可視化することで、下剤の使用頻度が減り、介護時間の削減やスタッフの負担軽減につながった。入居者のQOL向上に加え、人手不足に悩む介護現場の経営改善にも寄与したという。

 訪問看護ステーションでも導入が進む。看護師が在宅患者を訪問し、エコーで体内を確認。結果を患者本人や家族に示しながらケア方針を共有できるため、納得感の高い医療につながっている。

 厚生労働省や日本看護協会も「看護DX」の一環として、デジタル技術の活用を推進している。

 ポケットエコーは、単なる診断機器にとどまらず、「業務プロセスを根本から変えるツール」として認識されつつある。

 さらに、介護ロボットや排泄支援・排泄予測テクノロジー導入に対する補助金制度にも対象機器として含まれ、導入拡大に拍車がかかっている。

 仲氏は今後の展望を次のように語る。

「将来的には、僻地医療やオンライン診療との連携も進むでしょう。医師が少ない地域で、看護師が訪問し、現場で撮像したエコー画像を医師に送信し、遠隔で診療をサポートする時代がすぐ目の前まで来ていると思います」

 日本は「人生100年時代」を迎え、健康寿命をいかに延ばすかが社会的課題となっている。最後まで自分の力で食べ、排泄し、生活を続けること。その実現を支えるのがケアであり、その可視化を担うのがポケットエコーだ。

 富士フイルムメディカルは今後も医師向けの高度な診断機器に加え、看護・介護領域に根差したツールを提供することで、「高齢化社会の解決策」を提示していく。

 仲氏は取材の最後にこう締めくくった。

「ポケットエコーは、単なる医療機器ではありません。患者さんの生活を守り、介護現場を支え、医療従事者の働き方も変えていく“社会インフラ”になり得ると考えています。」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「10分カット」が世界を席巻?QBハウス、国内好調も海外進出で100億円戦略

●この記事のポイント
・国内で成功したQBハウスが、7カ国展開を加速。2029年に海外売上100億円を目指し、新たな成長の柱を築く。
・北米では高価格帯で少数精鋭、アジアではドミナント展開と、各市場に合わせた柔軟な戦略を展開中。
・成功の鍵は人材育成と品質維持。日本発「10分カット」が現地化しながらグローバルブランドへ進化する。

「10分1400円」で知られるヘアカット専門店「QBハウス」。1996年の創業以来、日本国内での急拡大を経て、同社は2002年から海外市場に挑戦してきた。現在ではシンガポール、香港、台湾、アメリカに加え、カナダ、ベトナム、マレーシアへと展開し、計7カ国で事業を展開している。

 この海外展開の最前線を担うのが、キュービーネットホールディングス株式会社の取締役であり海外事業責任者の山本祐樹氏だ。今回の取材では、20年に及ぶ海外事業の歩み、各国市場での戦略、そして人財育成の裏側について話を聞いた。

●目次

20年続く海外展開の歴史

 QBハウスの海外事業は、2002年のシンガポール進出が最初の一歩だった。その後、香港、台湾、アメリカへと広がり、アジアと北米の双方で存在感を示すようになった。

 山本氏は当時をこう振り返る。

「シンガポール、続く香港進出時は、今でこそ類似競合が多数存在しますが、当初は我々がフロントランナーでした。市場に“短時間でお手軽な均一料金ヘアカット専門店”という新しい概念を持ち込み、最初に地盤を築けたことが大きかったと思います」

 香港では現在60店舗を超え、シェアトップを維持している。一方シンガポールでは類似競合も増え、店舗数では3位となるなど、市場環境は刻々と変化している。

コロナ禍を経て再加速した出店戦略

 コロナ禍では一時的に店舗閉鎖や出店停滞を余儀なくされた。しかし2023年、海外事業本部を新設。従来の“現地分散型”から、本部主導の戦略立案・横断的サポート体制へと大きく舵を切った。

 その成果として、2023年以降は新規国展開が相次ぐ。カナダ(トロント)、ベトナム(ホーチミン)、マレーシア(ジョホールバル)が加わり、7カ国体制となった。

「シンガポールに近いジョホールバルでは、既存リソースを活かしながら出店しました。今後はクアラルンプールや台湾の地方都市など、既存国での多都市多店舗化も視野に入れています」

 国内ではすでに2025年6月期末で585店舗を超えているものの、出店の余地はまだある。一方で人口減少や理美容師不足など、日本特有の課題も顕在化している。

 山本氏は、海外展開の意義をこう語る。

「一つはポートフォリオの分散。香港に依存している現状を改め、複数国での収益基盤を作る必要があります。もう一つは、日本市場が頭打ちになりつつある中で、海外を新たな成長の柱に育てるということです」

 同社は中期計画として、全社売上高を約355億円へ拡大し、そのうち2割を海外事業で担う方針を掲げている。

北米とアジア、市場の違い

 興味深いのは、北米とアジアでの戦略の違いだ。

 北米では1回のカット料金がアメリカで35ドル(約5000円前後)、カナダでも4000円を超える水準。通常のサロンがチップを含めれば1万円以上かかることを考えれば「リーズナブル」だが、日本の感覚とは大きく異なる。加えて、家賃や人財採用の難しさから、多店舗展開ではなく「一都市での高収益モデル」を志向している。

 一方、アジアでは香港やシンガポールで数十店舗を構え、台湾やベトナム、マレーシアでも拡大を狙う。「ドミナント展開」と呼ばれる地域集中型の出店戦略が有効で、日本に近いビジネスモデルが通用する。

 QBハウスの強みは「10分カット」というシンプルなモデルだが、海外では必ずしも“10分”にこだわらない。

 北米では髭のお手入れなど日本では提供しないサービスを追加し、施術時間もやや長め。台湾ではスタイリングを含めた形で展開し、現地価格水準に合わせて350台湾ドルで提供している。

「QB事業の軸足は変えずに、現地のニーズに応じたアレンジを加える。これが差別化につながっています」

人財確保と教育が最大の鍵

 山本氏が繰り返し強調したのは「人財の重要性」だ。

 アジアでは理容師・美容師の国家資格がない国も多く、異業種からの未経験採用も可能。その場合、6カ月間の研修を経てスタイリストデビューする。香港と台湾には自前の技術スクール「ロジスカット」があり、計画的な人財育成を行っている。

 北米では即戦力の経験者採用が中心だが、QB独自の施術スタイルを浸透させるため、日本人技術者を駐在させ、現地で直接トレーニングを行う。

「小売業とは違い、商品はなく、人財こそがサービス品質そのもの。誰を採用し、どう育てるかが成功の分かれ目です」

 現在、海外店舗はすべて直営で運営されている。初期にはフランチャイズの試みもあったが、サービス品質やブランド維持の観点から直営に一本化した。

「直営であれば本部の意思が伝わりやすく、軌道修正もスムーズです。ただ、将来的に国によっては合弁やフランチャイズも検討余地はあるでしょう」

今後の注力市場はアジア…日本品質を世界へ

 今後の成長の鍵はASEAN市場だ。ベトナムとマレーシアは1号店を出したばかりで、これからの本格展開に期待がかかる。両国ではイオンモール内に出店し、集客力を活かした認知拡大を狙う。

 同時に、香港やシンガポールといった成熟市場では、新業態や付加サービスの開発にも取り組み、既存顧客の満足度向上を図っている。

 日本人駐在者や現地の日本人利用者からは「日本と同じ品質で安心した」という声も多い。一方で「日本より価格が高い」と驚かれることもある。しかし顧客の大多数は現地の人々であり、彼らに納得されるサービス提供こそが持続的成長の条件だ。

「最初は“日本人に切ってもらいたい”というお客様もいましたが、今では現地スタッフがしっかり技術を身につけ、お客様に選ばれています。日本品質を現地化することが、信頼とブランド力につながるのです」

 QBハウスの海外展開は、単なる「日本式の輸出」ではなく、各国市場に合わせた柔軟なローカライズと、人財育成への徹底投資によって成り立っている。

 その姿勢は、海外進出を志す日本企業にとって大きな示唆を与える。

・現地ニーズに耳を傾け、サービスを柔軟に調整すること
・人財こそ最大の資産であり、教育体制が差別化の源泉であること
・直営で品質を守りながらも、市場に応じて新たなモデルを模索すること

「10分カット」というシンプルなビジネスモデルが、世界各地で異なる形に進化しながら広がっていく。その過程は、日本発ブランドがグローバルで生き残るための実践的なケーススタディといえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

映画レビュー「レッド・ツェッペリン:ビカミング」

4人はいかなる経緯で出会い、どのようにして世界の頂点に立ったのか。メンバーが自らの肉声で語る、ツェッペリン誕生と成功の物語。

投稿 映画レビュー「レッド・ツェッペリン:ビカミング」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

JAL、社員8割超が活用の生成AIが衝撃的…情報漏洩リスク回避目的で独自開発

●この記事のポイント
・JALは生成AIの情報漏洩リスクを懸念し、安全に使える独自プラットフォーム「JAL-AI」を開発。
・全社員の9割近くが利用するJAL-AIは、空港現場や整備部門など多様な業務に適応。
・現場密着の教育・アジャイル開発で定着を実現し、業務効率化だけでなく新たな発想も促進。

 日本航空(JAL)は、独自の生成AIプラットフォーム「JAL-AI」を開発し、グループ全社員の8割以上が利用するという驚異的な浸透度を誇っている。生成AIの導入は多くの企業で試みられているが、ここまで幅広く活用が進んでいる事例は稀だ。なぜJALは短期間でこれほどの定着を実現できたのか。背景を同社システムマネジメント部担当者に聞いた。

●目次

セキュリティ部門が主導したAI導入

 ChatGPTが注目を集め始めた2022年、同時に「情報漏洩リスク」への懸念も社内で高まった。
「社員が無防備に外部サービスを使えば、機密情報が漏洩する恐れがある。安全に使える環境を早急に整えることが社員を守る第一歩だと考えました」とJAL担当者は語る。

 この危機感を起点に、セキュリティ部門が主導して2023年8月に「JAL-AI」が全社員向けに稼働を開始した。セキュリティ部門が旗振り役を務めた点は、他社との大きな違いだ。

 導入の過程では失敗もあった。当初は他のベンダーとナレッジ検索システムを構築したが、精度やコストの問題で断念せざるを得なかった。

「そこから“何を目的にAIを使うのか”を改めて整理し、技術力の高いパートナーと組むことにしました」(同社担当者)

 2024年以降はアジャイル開発を取り入れ、「3カ月で成果が出なければ切り替える」というスピード感でプロジェクトを進めた。この柔軟さが成功につながった。

「JAL-AIキャラバン」で現場に浸透

 JALグループ社員の約4万人のうち、3万人は空港や機内といった現場で働く。AIを定着させるには、彼らの声を反映する必要があった。

「『JAL-AIキャラバン』と名付け、担当者が本社の各部門をはじめ国内外の支店や空港などを回って現場スタッフに対面で説明やハンズオンを行う活動を行いました。延べ1000人以上と対話し、実際に業務にどう役立つかを共に考えました」(同)

 単なる説明会ではなく“共創の場”としたことが、現場ニーズの掘り起こしに直結した。

 具体的な活用事例は多岐にわたる。

 ・空港スタッフ:便の遅延などのイレギュラーアナウンスを多言語で生成し、iPadから音声出力できる仕組みを導入。「新人スタッフでも標準的なアナウンスがすぐできるようになった」(担当者)。

 ・整備部門:安全最優先のため生成AIを業務にそのまま使用するのは禁止。その代わり、オンラインストレージ上の技術資料を高精度で検索する仕組みを導入。「必要な情報に瞬時にアクセスできるようになり、業務効率化につながっています」(同)

 業務特性に応じて「生成するAI」と「生成しないAI」を使い分ける姿勢が際立つ。

高い利用率を実現した教育施策

 JAL-AIの利用率は導入初期は2割程度だったが、現在は8割以上に達する。そこには教育施策が大きく寄与している。
「DX啓発プログラムという全社員向け教育に、AIのハンズオンを組み込みました。Zoomでのグループワーク形式で、現場とオフィスの社員が一緒にAIの使い方を考えるんです。座学ではなく“体験”が定着を後押ししました」と担当者は強調する。

 AI導入の初期目的は生産性向上だが、JALはそれ以上の成果を感じている。

「ROIを厳密に算出するのは難しい部分もありますが、AIと対話することで新しい発想や気づきが得られる。社員が『仕事の幅が広がった』と感じていることが大切だと考えています」(同)

 今後はAIエージェントの展開を見据える。

「労働力不足が深刻化する中で、AIを仲間として業務を担わせる仕組みを整えています。2025年秋までに20種類のエージェントを実装し、現場での実証も進めていきます」(同)

 すでに25年4月には、DX推進体制を再編し、グループ横断でDX推進を担う「JALデジタル」を発足させている。

 JALの取り組みから学べるポイントは多い。

 ・セキュリティ部門が主導し、安全性を担保した
 ・現場の声を徹底的に吸い上げ、ユースケースを最適化した
 ・体験型教育で社員自ら使い方を考えさせた
 ・ROIだけでなく創造性や発想の広がりを評価した
 ・アジャイル開発で進化に追随した

 これらは、生成AIを導入しても定着に苦しむ企業にとって大きなヒントとなるだろう。

「社員が安心してAIを使える環境をつくることが出発点でした」と担当者は言う。守りの発想から始まったJALの挑戦は、いまや社員の働き方を変える原動力となった。現場と共にAIを育ててきた同社の取り組みは、“AIネイティブ企業”への進化を目指す企業にとって格好のモデルケースといえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

ツジツマシアワセに取り組む6社と語った!食と健康のシアワセな関係

左から電通 北島陽介氏、ニチレイフーズ 齋藤猛氏、ハウス食品 吉川由利子氏、J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏、味の素 小山仁見氏、キッコーマン 中島みどり氏、エブリー 栗原晃氏
左から電通 北島陽介氏、ニチレイフーズ 齋藤猛氏、ハウス食品 吉川由利子氏、J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏、味の素 小山仁見氏、キッコーマン 中島みどり氏、エブリー 栗原晃氏

食べたいものを好きなだけ食べることは、人を幸せにしてくれます。たとえ、1回の食事で食べ過ぎたり、栄養バランスが偏ってしまってもOK!その前後の食事でゆる~くツジツマをあわせていけば、健康的な食生活が実践できるのです。

そんな新しいコンセプトのもと、国内の主要食品メーカーを中心に、多くの企業が合同で推進するプロジェクト「ツジツマシアワセ」。

趣旨に賛同し、新たに参画する企業も続々と増えている中、今回はPROJECT TOP PARTNERの6社による座談会を開催。プロジェクトの事務局を務める電通の北島陽介氏も交え、これまでの取り組みと今後の展望を語り合います。

参画企業紹介(五十音順):味の素エブリーキッコーマンJ-オイルミルズニチレイフーズハウス食品

<目次>
1社だけでなく「複数の企業」で生活者に寄り添いたい

「レシピ」の提案方法を中心に、各社が新たなアプローチを実践!

食に関わる全ての領域とつながり、人々の生活に根づく活動を!

1社だけでなく「複数の企業」で生活者に寄り添いたい

ニチレイフーズ 齋藤猛氏、ハウス食品 吉川由利子氏、エブリー 栗原晃氏
ニチレイフーズ 齋藤猛氏、ハウス食品 吉川由利子氏、エブリー 栗原晃氏

北島(電通):本日は私から「ツジツマシアワセ」参画企業の皆さんにいろいろお話を伺えればと思います。

最初に、各社が「ツジツマシアワセ」プロジェクトに参画した経緯を伺います。皆さん、幹事会社の味の素さんのお声がけで参画されたと思うのですが、「楽しくおいしく食べながら、無理なく栄養バランスを整えていく」というプロジェクトのコンセプトを聞いてどう思われましたか?

ハウス食品 吉川由利子氏

吉川(ハウス食品):いかに楽しみながら健康づくりをしていくかは今、社会全体の課題になっています。ここに集った各社でもさまざまな取り組みを推進していると思いますが、1社だけの取り組みではどうしてもアプローチ方法に限りがあります。そういう意味で、各社と連携することは本当に心強いですし、これまでにない社会的影響力を生みだせそうだと期待が募りました。

J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏

髙倉(J-オイルミルズ):当社は植物油の機能性表示食品に注力していますが、「商品の機能性をアピールするだけでよいのか?」「楽しく生きるというWell-beingの観点でも、何か施策が打てないか?」などと模索しているところでした。「ツジツマをあわせながら楽しく食べよう」という提案を複数の企業が協力して推進していけば、より生活者の心を捉えたメッセージを発信できると感じました。

エブリー 栗原晃氏

栗原(エブリー):私たちも、レシピ動画メディア「デリッシュキッチン」の運営を通じて、「おいしく食べて健康になりたい」という社会的ニーズの高まりを感じています。しかし、情報発信の難しさも感じています。健康や栄養に関するトピックは、堅苦しく、ハードルが高い印象を与えたり、押し付けがましいと受け取られる可能性もあると思います。その点、「毎食の栄養バランスを考えましょう」ではなく、「無理をしなくていいんだよ」という発信の仕方は、とても現代的で、生活者にも受け入れていただきやすいものだと思いました。

北島(電通):各社それぞれに課題があり、その解決の糸口が「ツジツマシアワセ」にあると考えられたのですね。今の時代にマッチした考え方だからこそ多くの生活者に声を届けることができるし、各社の連携によりさらに大きな影響力が期待できます。

キッコーマン 中島みどり氏

中島(キッコーマン):日々忙しい暮らしの中で、毎食、栄養バランスを完璧に整えていくことは相当に難しいと思います。日本の食に携わる各社が力を合わせて、(健康な食生活を)実践するハードルをできるだけ下げるのは、生活者に寄り添った発想で、すてきだと思いました。

北島(電通):「ツジツマシアワセ」でもう一つ重要なのは、単にゆるく考えるだけではなく、確固たる科学的な根拠があることですよね。食事の栄養バランスや品質を評価する新たな仕組み「JANPS(Japan Nutrient Profiling System)」という栄養プロファイリングシステムを開発し、栄養バランスのツジツマあわせをする際の指標も定めています。

ニチレイフーズ 齋藤猛氏

齋藤(ニチレイフーズ):この取り組みは、幹事会社の味の素さんが、日本で初めて独自の栄養プロファイリングシステムを導入した会社であることもポイントです。今後、こういった「業界共通の指標」は、国内の栄養課題を解決するために必要となるはずなので、当社も勉強させていただきたいと思っています。

北島(電通):味の素さんは幹事会社としてプロジェクトを牽引されてきましたが、各社が連携する意義や、現在の感触をお聞かせください。

味の素 小山仁見氏

小山(味の素):皆さんと一緒に、足し算ではなく掛け算のようなかたちで活動を広げていくことが、本取り組みの“社会ゴト化”への第一歩だと考えています。生活者の方々は、当然ですが特定メーカーの商品だけを食べて生活しているわけではなく、さまざまな企業の商品やレシピを活用しています。そのため、皆さんと協力しながら、生活者のWell-beingを高める接点を増やしてしていければと考えています。ツジツマシアワセマーク

「レシピ」の提案方法を中心に、各社が新たなアプローチを実践!

キッコーマン 中島みどり氏、J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏、味の素 小山仁見氏
キッコーマン 中島みどり氏、J-オイルミルズ 髙倉安佑子氏、味の素 小山仁見氏

北島(電通):実際に各社でどのような取り組みをされているのか、伺えますでしょうか。

中島(キッコーマン):当社では、生活者との接点となる「商品」と「レシピ」を軸に、新しい試みを始めています。例えば、サイト内に掲載しているレシピに、毎日の食事で不足しがちな栄養素を補えるように工夫した「サプリ副菜」というカテゴリーを加えました。併せて、栄養に特化した記事も充実させたり、レシピアプリに献立の摂取カロリーや栄養バランスがグラフで確認できる機能を加えたりなどの工夫をしています。

髙倉(J-オイルミルズ):当社も同じく、「商品」と「レシピ」を中心に、生活者とコミュニケーションをしています。「ツジツマシアワセ」への参画は新たな切り口でメニュー提案ができるチャンスと捉えています。今後、参画企業の皆さまとコラボレーションしてメニューの開発をするなど、新しい展開ができるとうれしいですね。

北島(電通):各社の多様な食材を使って、健康でおいしいメニューをたくさん開発していただければ、「ツジツマシアワセ」のバリエーションも増えますね。レシピ開発・提案という視点で、エブリーさんにもご意見をいただければと思います。

栗原(エブリー):プロジェクトに参画する以前から、「生活者が知りたい情報を分かりやすくまとめて発信し、食と健康を考える場を作りたい」という思いが常にありました。そこで、プロジェクト参画と同じタイミングで、「デリッシュキッチン」から紹介しているレシピすべてに、主要な栄養成分を無料で表示するようにしました。これにより、カロリー、炭水化物、脂質、タンパク質、糖質、塩分といった情報が誰でも手軽に閲覧できるようになりました。健康的な食生活を送るきっかけを提供し続けていきたいと考えています。

北島(電通):エブリーさんは、「ツジツマシアワセ」のサイト設計にも関わっていらっしゃいますよね。

栗原(エブリー):はい。「デリッシュキッチン」のレシピメディア運営ノウハウを活かし、サイトの企画、開発、デザイン、運用までを全面的にサポートさせていただいております。ユーザー体験を考慮したUIUX設計のほか、レシピの表記の揺れを整えるお手伝いをしています。茄子なのか、ナスなのか。スパゲッティなのか、パスタなのか。各社の表記を統一して、レシピを探しやすくしました。

北島(電通):ハウス食品さんとニチレイフーズさんは参画されたばかりですが、どのような活動をしていきたいなどの抱負はありますか?

吉川(ハウス食品):これまでも当社は、生活者のさまざまなニーズに応えるべく多様なライフスタイルに合わせた商品を開発してきました。また、シーズンごとのレシピなど情報発信も積極的に行ってきました。今後は、「JANPS」を活用して、自社開発した商品や提案したレシピの健康価値を可視化できればと考えています。

齋藤(ニチレイフーズ):当社は、冷凍食品が主軸です。冷凍食品は簡便性がある一方で、健康的な食品というイメージを持たれにくい。おいしく手軽に栄養バランスを整える手段の一つとして冷凍食品を選んでいただけるように、まずは、ツジツマあわせの基本となる4つの栄養/食材にフォーカスしたレシピを開発したり、健康や栄養バランスをテーマにした情報発信を積極的にしていきたいと考えています。

北島(電通):プロジェクトを牽引する味の素さんとしては、どのような活動に注力することを考えていますか。

小山(味の素):当社としては引き続き、皆さんに使っていただいているJANPSの整備を続けていきます。そのほか、TikTokなどオウンドメディアを活用したプロモーションにも注力したいと考えています。メインターゲットである主婦層だけでなく、さらに多様な層にアプローチできるようなコンテンツの開発ができれば、本プロジェクトに共感してくれる層に厚みができるかなと。まずは当社が実践し、その結果を参画企業にフィードバック、そこから各社が新しい活動に広げていく。そんなことが実現できたら最高ですね。


食に関わる全ての領域とつながり、人々の生活に根づく活動を!

参画企業による定例セッションの様子。
参画企業による定例セッションの様子。

北島(電通):最後にこのプロジェクトを通して描ける未来についてお伺いしたいと思います。皆さん、どのようなアイデアをお持ちですか?

齋藤(ニチレイフーズ):長期的には「自炊しない人」や「健康課題を意識していない人」にもアプローチしていきたいと考えています。「ツジツマシアワセ」の考え方は、間違いなく万人に受け入れられると思うんです。だから、自炊だけに限定してしまうのは、もったいない。今後、「内食・中食・外食のトータルでツジツマをあわせていこう」という活動に成長できるとうれしいです。

北島(電通):それはすてきなアイデアですね!僕も、「ツジツマシアワセ」は、食に関わるすべての領域に広がる可能性を秘めていると思います。

栗原(エブリー):食に関わる領域は本当に広いですからね。当社の「デリッシュキッチン」でも、食品メーカーのほか、食品販売小売店や、省庁など、さまざまな方と取り組みを行っています。ですから、一緒に活動を推進していける領域は、まだまだあるはずです。今後、プロジェクトを拡大させるために、われわれがどう立ち回れるのかも意識して活動していきたいですね。

中島(キッコーマン):まずは、小規模でも良いので、何か一つ成功事例を作れればと考えています。当社も産官学で連携して食環境を整える取り組みをするほか、食育活動の一環で「栄養バランス」をテーマにしたコンテンツを開発しています。こういった活動を、「ツジツマシアワセ」に連携できると良いですよね。

北島(電通):まず、成功事例を作ることはとても大事だと思います。プロジェクトの起爆剤にもなりますし。

髙倉(J-オイルミルズ):例えば、流通や販売店などを巻き込んで、「ツジツマシアワセ」の売り場を作るという取り組みも考えられます。「ツジツマシアワセ」のロゴマークを使って売り場をレイアウトして……。結果的にプロジェクトの認知度が上がっていくとうれしいですね。

吉川(ハウス食品):最終的に、誰もが食と健康を自分で考えて、選択し、幸せを感じながら食を楽しむ――そんな社会になっているのが理想ですよね。健康や栄養を考えるのは難しいことでもないし、特別なことでもありません。食を通して、笑顔が広がっていくことを願っています。

北島(電通):皆さんから、すてきなご意見をたくさんいただきました。プロジェクトの事務局としても、各社が協力し合って、「ツジツマシアワセ」を盛り上げてくださることを願っています。最後に、味の素さんから、今後の抱負をお聞かせいただけますか。

小山(味の素):このプロジェクトが、生活者の皆さん一人一人の生活の中に落とし込まれていくと良いですよね。バランスの良いおいしい食事を楽しむことが、Well-beingにもつながっていくはずです。

また、今は情報があふれている時代です。ときには誤った情報が一気に拡散されてしまうこともあります。われわれのような食に関わる企業は、生活者に食を通じてより良い生活を実現してほしいと願っています。そのため、これからはたくさんの企業が協力して正しいメッセージを発信していけるといいなと考えています。

生活者に正しい情報をしっかりと伝え、多くの人に楽しくおいしく食べ続けられる人生を送っていただくことを目指して、これからも活動を続けていきます。

集合写真

※味の素
本プロジェクトの幹事会社である味の素。パーパスは、「アミノサイエンスで、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」。独自の栄養プロファイリングシステムANPS(食品の栄養面での品質を科学的な根拠に基づいて値化する指標)を導入するなど、食品の栄養価値指標の標準化にも力を入れている。

※エブリー
ミッションに「前向きなきっかけを、ひとりひとりの日常にとどける。」を掲げ、月間利用者数5600万人以上を誇るレシピ動画メディア「デリッシュキッチン」を運営するエブリー。「誰でも簡単においしく作れること」をコンセプトに開発された55000本以上のレシピは、すべて管理栄養士など食のプロが監修している。

※キッコーマン
しょうゆ、和風調味料、みりん、料理酒などを展開する「キッコーマン」をはじめ、「デルモンテ」「マンジョウ」「マンズワイン」などのブランドをもつキッコーマン。「おいしい記憶をつくりたい。」をスローガンに、「食にまつわる体験を通じて、人々のこころもからだもすこやかになってゆく」ことを願い、「食と健康」の取り組みを続けている。

※J-オイルミルズ
企業ビジョン「Joy for Life -食で未来によろこびを-」を実現する手段として、「おいしさ×健康×低負荷」を推進。「AJINOMOTOブランド」の家庭用油脂や、国内シェア約40%を誇る業務用油脂のほか、スターチ、マーガリンの製造・販売を行う。植物油を使ったレシピ開発にも積極的に取り組む。

※ニチレイフーズ
「人々のくらしを見つめ、食を通じて、健康で豊かな社会の実現に貢献します」というミッションと、「おいしさと健康を、わかちあえる世界へ FoodJoy Equity」というブランドステートメントを掲げる、冷凍食品のフロンティアカンパニー。冷凍食品、レトルト食品、ウエルネス食品を中心に事業を展開。

※ハウス食品
カレーやシチューなどの調味料・調理品のほか、デザート、スナック、ラーメンを中心にさまざまな商品の製造加工・販売を手掛けるハウス食品。「食を通じて、家庭の幸せに役立つ」を企業理念に掲げ、「食べることは、栄養をとるだけではないし、ココロまで豊かになること」だと定義している。

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