Roblox上で広がる、IP活用の可能性 「IP Game Jam Powered by dentsu and GeekOut 」を開催

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IP活用の視点から、没入型ソーシャルプラットフォーム「Roblox」の可能性を探るイベント「IP Game Jam Powered by dentsu and GeekOut」が、2025年7月17日(木)、18日(金)に電通ホールにて開催された。

電通グループと、Robloxにおけるコンテンツの企画・開発・パブリッシングなどを行うGeekOutによって開催されたもので、GeekOutが運営するGeekOut StudioからRobloxのトップゲームクリエイター28人が来日・参加した。17日(木)はクリエイターたちが、限られた時間内にゲームを企画・開発する「Game Jam」形式でIPをテーマにしたゲームを制作し、18日(金)は開発したゲームプロトタイプを、来場した日本のIPホルダー企業に向けて発表した。また、ゲームプロトタイプの発表前に、IPホルダー企業に向けてRobloxの概要や活用方法などを紹介するセッションも実施された。

18日(金)のイベント内容は以下の通り。

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GeekOut代表の田中創一朗氏

最初のセッションでファシリテーターとして登壇したのは、GeekOut代表の田中創一朗氏。田中氏はまず、本セッションの目的は、IPホルダー企業がRobloxをコミュニティの構築と育成をクリエイターと共に行う場所として活用できる視点を提供することであると説明。Robloxの特徴や注目度の高さ、ユーザー属性などの概要を紹介したうえで、Roblox内のゲーム「Grow a Garden」が同時接続数2160万人(25年6月末時点)を超え、世界で最も遊ばれているゲームのひとつになったといえることや、Roblox内のコンテンツはすべてUGC(User Generated Content=ユーザーが生成するコンテンツ)であることなどを語った。

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Roblox Japan Developer Relations 本部長の辻潤一郎氏

続いてRoblox Japan Developer Relations 本部長の辻潤一郎氏が登壇し、Robloxの人気を支えるクリエイターについて紹介。「Robloxでは、短時間で簡単に誰でもコンテンツを作れるゲームエンジンを提供しており、ゲーム開発を“民主化”した。これがUGCコンテンツを生み出すクリエイターが増える理由になっていると思う」とRobloxならではの魅力を語った。

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Robloxゲームを題材に動画制作を行うYouTuber・MeEnyu氏

次に、カナダ出身のRobloxゲームを題材に動画制作を行うYouTuber・MeEnyu氏が登壇。MeEnyu氏は2021年からRobloxのゲーム実況動画を配信し始め、現在のYouTubeチャンネルの登録者数は330万人以上(25年7月時点)。動画視聴回数はのべ7億回を超えるインフルエンサーとして活躍している。動画とゲームそれぞれのアクセスデータを交えながら「Robloxのクリエイターが作るコンテンツを、動画クリエイターが広めることで相乗効果が生まれる。ゲームのコミュニティを拡大するには、Robloxのクリエイターと動画クリエイターとのシナジーが大切だと思っている」と語り、UGCエコシステムにおける動画クリエイターの役割を強調した。

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セガ トランスメディア事業部 ブランドマーケティング部 ブランドディレクター 向大地氏

最後に登壇したのは、セガ トランスメディア事業部 ブランドマーケティング部 ブランドディレクター向大地氏。セガとGeekOutは現在、Roblox内で「龍が如く※」公認のゲームを共同で開発している。またセガは、Robloxが提供する新プラットフォームで「龍が如く」のライセンス提供も開始した。向氏は「クリエイターの意思やRobloxの文化を最大限に尊重しながらコンテンツを展開し、新しいファンコミュニティを生み出すきっかけにしたい」と語った。

※龍が如く:日本に拠点を置く「龍が如くスタジオ」が作り出す、ドラマチックアドベンチャーゲームシリーズ。https://ryu-ga-gotoku.com/


セッション終了後は、GeekOut Studio所属のクリエイターたちによる、ゲームプロトタイプ発表が行われた。今回は電通のオリジナルIP「豆しば※」を活用し、制限時間8時間で、3つのチームに分かれてゲームを開発。発表に対し、辻氏と、豆しばの生みの親である電通 第1CRプランニング局の金 錫源(キム・ソクウォン)氏が講評を行った。

※豆しば:電通が開発したオリジナルキャラクター。「ねぇ、知ってる?」というセリフから始まり、シュールな豆知識を披露する。

 

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一つ目のチームの発表の様子

一つ目のチームは、豆しばが披露する「豆知識」の内容をもとにしたミニゲームを制作。Robloxでのプレーは多くのユーザーが友達と一緒に5~10分のプレーを繰り返すという特徴がある。そのカルチャーを意識した5~10分の短時間で遊べる点もポイントとなっている。金氏は「豆しばをよく理解して丁寧に作ってくれたことが伝わった。自分もプレーしたくなったし、このゲームが海外でも豆しばの認知拡大につながる気がした」とコメント。辻氏は「IPの魅力を生かしながら、Robloxコミュニティに受け入れられる構造になっている。特にミニゲーム形式は初めてのユーザーにも入りやすく、豆しばの世界観を知ってもらう入り口として秀逸」とコメントした。

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二つ目のチームの発表の様子

二つ目のチームは、日本の高校を舞台に豆しばが描かれたカードでバトルが楽しめるゲームを制作。カードに書かれた豆知識によって強さが異なり、カードバトルで「生徒会長に戦いを挑む」ことが目的となっている。金氏は「“ねぇ、知ってる?”の豆知識をカードバトルに生かす発想が新鮮で、遊びながら自然と学べる構造になっている。IPのエッセンスをよく理解してくれている」とコメント。辻氏は「カードバトルはRobloxでは珍しく、日本のカルチャーが背景にある点も面白い。親子でも楽しめるゲーム設計で、IPを深く理解して構成されている」とコメントした。

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最後のチームの発表の様子

最後のチームは、さまざまな豆しばを探しながらゲーム内で写真撮影ができるゲームを制作。撮影すると豆しばが「豆知識」を披露し、撮った写真はゲーム内のアルバムに保存することができる。キム氏は「かわいらしい世界観が完成していて、見たことがない豆しばもいたが、どんな種類の豆しばが出てくるか楽しみになる。市販ゲーム並みのクオリティを感じた」とコメント。辻氏は「小さな子どもから大人まで楽しめるファインド型ゲームで、視覚表現のクオリティも高い。豆しばの魅力を最大限に引き出している」と評価した。

3チームの発表後、田中氏は「8時間で制作したとは思えないクオリティのゲームを体感してもらえたと思う」とコメント。精度の高いコンテンツを短時間で作れるというRobloxならではの開発力と柔軟性に加え、IPの本質を理解しつつ、世界観やキャラクターの潜在的な可能性を創造的に引き出してくれるプラットフォームであることを、IPホルダー企業に強く印象づけた。

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左から)GeekOut代表の田中氏、電通グループの池田心平氏

イベントでは、新サービスとして「Global Fan Community Growth Solution」の提供を開始したことも紹介された。本サービスはRoblox社より発表された新たなIPライセンス管理プラットフォームの発表に伴い提供するもので、IPが適切な形で活用され、IPの持つ可能性を最大化することを目的としている。

本件を担当する、電通グループ グローバルビジネス開発オフィス シニアマネージャーの池田心平氏は「UGCプラットフォームには大きな可能性を感じていただいている一方で、IPホルダーの皆さまからは、活用にあたっての課題や懸念も多く寄せられている。IPホルダーの皆さまのご判断を尊重しながら、ニーズのある具体的なユースケースを起点に段階的にスタートし、ともにファンコミュニティと向き合う新しい形を模索していきたい」と語った。(詳しくはこちら) 

グローバルのデイリーアクティブユーザー数が1億1180万人(2025年7月時点)を超えるRoblox。このプラットフォーム活用による、IPの新たな可能性が見えたイベントとなった。


開催概要
名称:IP Game Jam Powered by dentsu and GeekOut
開催日時:2025年7月17日(木)、18日(金)
会場:電通ホール

Z世代の施策認知を押し上げた、NTTドコモのショートドラマ活用事例

テレビを持たず、広告をスキップすることが当たり前のZ世代。その世代にいかにして企業やブランドのメッセージを届け、好意的な関係を築いていくのか。この難題に対し、急速に市場を拡大する「ショートドラマ」が新たな解を示しています。

NTTドコモのショートドラマを活用した成功事例は、Z世代向け施策効果とブランドリフトの好事例として、今後のコンテンツマーケティングの一つの指標となるでしょう。

2025年1月16日に、株式会社セプテーニとGOKKO(ごっこ倶楽部)による共催ウェビナーが開催されました。 本稿では、そこで語られたNTTドコモのTikTokショートドラマ事例について、Septeni Japanの大口泰冴と、GOKKOの村田一馬が、Z世代向けマーケティング戦略の観点から解説します。

ショート動画#3_図版01
※再生回数はNTTドコモ自社アカウントでのオーガニック視聴(広告誘導なし)
※Z世代の施策認知率は2024年7月時点のドコモ独自市場調査データに基づく。
<目次>
Z世代の心をつかむショートドラマ市場のポテンシャル

課題は「無関心」。NTTドコモの戦略的決断

NTTドコモの事例が示す、これからのブランドコミュニケーション

コンテンツ資産を最大化するフルファネル戦略とは

 Z世代の心をつかむショートドラマ市場のポテンシャル

ショートドラマとは、TikTokなどのプラットフォームで展開される、ユーザーとのインタラクティブ性を特徴とした短尺ドラマコンテンツです。

2025年はすでに企業PRのショートドラマが70本以上投稿されており、企業アカウントから投稿されるショートドラマを含めたらゆうに100本を超える数となっています。この成長の背景には、Z世代の「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する価値観と、SNSにおけるエンターテインメント消費の常態化があります。

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Z総研の調査では、Z世代の85.9%がショートドラマ広告にポジティブな印象を、83.7%がショートドラマで商材やサービスを認知した経験があると回答しています。これはショートドラマ広告が「邪魔なもの」ではなく「楽しめるコンテンツ」として受容されている可能性を示しており、同世代のマーケティングにおいて極めて重要な示唆を与えています。

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引用元:Z総研
※構成比(%)は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。

課題は「無関心」。NTTドコモの戦略的決断

巨大通信キャリアであるNTTドコモが直面していたのは、「嫌悪」ではなく「無関心」という、成熟したブランドならではの課題感でした。 通信インフラとして日常生活の中に溶け込みすぎた結果、特に若年層からブランドとして意識されづらい状態にありました。この課題に対し、同社はZ世代との新たな情緒的接点を創出するため、TikTokショートドラマという手法を選択しました。

パートナーに選ばれたのは、制作した動画の累計再生数約50億回(2025年2月時点)、公式SNSの総フォロワー数460万人など、国内No.1の実績を持つショートドラマクリエイター集団「ごっこ倶楽部」です。

戦略の核は、商品を直接的に見せるのではなく、「等身大の青春」というテーマのドラマを通じて、「青春のそばにあるドコモ」というブランドイメージを感性に訴えて醸成することでした。企画においては、 ドコモのコーポレートカラーである「赤」を登場人物の制服に採用するなど、間接的にドコモと認識させるコンテンツ作りを行いました。

この戦略は、目覚ましい成果を上げました。

ショート動画#3_図版04
  • フォロワー数:半年で1.8万人から30万人へと約16倍に増加
  • 再生回数:平均再生回数は約270万回(2025年7月時点/183本の平均)※
  • ブランドリフト効果:最重要KPIであったZ世代の施策認知率は、Web広告実施時の21%前後から最大49%※に到達。約30ポイント以上の向上という劇的なブランドリフトを達成。
    (※いずれも2024年7月ドコモ独自市場調査データに基づく)

これらの数値は、ショートドラマが単なる話題作りではなく、企業のブランディング課題を解決する有効なソリューションであることを証明しています。「コンテンツへの好意」が「ブランドへの好意」へと転換する、理想的なエンゲージメントサイクルを生み出すことができました。

NTTドコモの事例が示す、これからのブランドコミュニケーション

本事例の成功要因は、単に流行のフォーマットに乗ったから、というだけではありません。その背景には、これからのブランドコミュニケーションの鍵となる3つの重要な視点が隠されています。

1. 「割り込む広告」から「溶け込むコンテンツ」へ

Z世代は、自分の時間を邪魔されることを特に避けようとします。NTTドコモの施策は、そんなZ世代の特性に合ったショートドラマという手法を用いて、オーガニックリーチで自然に広がっていく若者向けのアカウントを育成する目的で実践した例です。

ユーザーが主役であるプラットフォームの文脈を尊重し、彼らが求めるエンターテインメントを提供することで、通信インフラとして日常生活の中に溶け込みすぎてブランドとして意識されていないという課題の解決につながりました。

2. 「伝える」から「感じてもらう」への転換

スペックや機能性を「伝える」のではなく、ドラマという物語を通じてブランドの世界観や価値を「感じてもらう」。この情緒的なアプローチこそが、Z世代の共感を呼び、心を動かします。企業が伝えたいメッセージと、ユーザーが見たいコンテンツの間に友好的な接点を見いだすことが、エンゲージメントの鍵となります。

■運命のクラス替え(パート1)※画像をクリックすると実際の動画が見られます
ショート動画#3_サムネ画像01
■運命のクラス替え(パート2)※画像をクリックすると実際の動画が見られます
ショート動画#3_サムネ画像02

コンテンツ資産を最大化するフルファネル戦略とは

ショート動画#3_図版05

セプテーニと GOKKOの共同プロジェクトにおいては、現在アッパーファネル(認知)で終わらないショートドラマの活用も進んでいます。

オーガニックでバズを生んだ高品質なドラマ素材は、ミドル・ボトムファネル(興味関心・獲得)向けの広告クリエイティブとして二次利用できる「コンテンツ資産」となります。 

ウェビナーでは、実際にショートドラマ素材を広告配信に用いた結果、CPIや課金CPA(顧客獲得単価※)が改善した事例も紹介しました。 これは、コンテンツマーケティングのROIを最大化する上で極めて重要な視点です。

※顧客獲得単価:顧客一人を獲得するためにかかったマーケティング費用のこと
 
ショート動画#3_図版06

Z世代へのアプローチに悩むマーケターにとって、NTTドコモの事例はショートドラマが単なるトレンドではなく、ブランド課題を解決する手段になり得ることを示しています。今後のマーケティング活動において、その重要性はさらに増していくでしょう。

セプテーニおよび電通グループ各社では、縦型ショートドラマの制作とマーケティング活用をサポートしているので、興味のある方はぜひ、お気軽にご相談ください。

【ショートドラマの活用にご興味がある方はこちら】
Email:sss@septeni.co.jp 担当:大口
 

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電通、新サービス「SPORTS CLUSTER MARKETING」の提供を開始

電通は、スポーツの可能性を拡張する新サービス「SPORTS CLUSTER MARKETING」の提供を開始した。独自のクラスター分析によってスポーツファンの意識・価値観や行動特性を多面的に捉え、マーケティング活動におけるスポーツコンテンツのさらなる効果的な活用を支援する。

「SPORTS CLUSTER MARKETING」

同サービスは、同社が提唱する次世代マーケティングモデル「Marketing For Growth」をスポーツビジネス領域にも展開する取り組みの第1弾。競技軸/意識軸の2つの視点から独自データに基づいてスポーツファンのクラスター分析を行い、クラスターごとにスポーツファンの特性やインサイトを深掘りすることで、スポーツ協賛の検討や協賛企業によるマーケティング活動の支援などに活用していく。

開発に当たっては、セキュアなデータクリーンルーム(DCR)を活用し、通信キャリア企業が保有する行動データと独自の大規模アスキング調査データ(6万人規模)を掛け合わせて分析を行い、クラスターごとにスポーツファンの意識・行動までを捉えた実用的なデータを蓄積した。

また、オンオフ統合マーケティング基盤「STADIA360」と連携することで、ファンクラスターごとのテレビ視聴傾向を合わせて分析、プランニングすることが可能になり、スポーツ協賛とテレビ広告出稿の相乗効果を高め、IDデータ分析による多角的な広告効果の検証も行えるようになった。

さらに、クラスターのIDデータを、データホルダーやデジタルプラットフォーマー各社と連携させることにより、特性に応じたデジタル広告配信やAIを活用したクリエイティブメッセージの開発も可能になったため、より精度の高いスポーツコミュニケーションが実現できる。

●競技軸クラスター
10のスポーツ競技のファンを対象に、年齢や性別などの属性情報に加え、使用アプリや購買カテゴリーなどの行動データを比較することで、協賛する競技の選定やコミュニケーション設計に活用できる。

〈クラスター〉

競技軸クラスター〈クラスター〉
〈プロファイルシート例〉
競技軸クラスター〈プロファイルシート例〉


●意識軸クラスター
競技ごとのファン分析に加えて、スポーツファンの意識をベースとしたクラスター分析も行い、例えば、日本代表を応援したい層やスポーツ観戦に一体感を求める層などに対するアプローチの設計に活用できる。

〈クラスター〉

意識軸クラスター〈クラスター〉オーバービュー
意識軸クラスター〈クラスター〉
〈プロファイルシート例〉
意識軸クラスター〈プロファイルシート例〉


◼️本件に関するリリースはこちら

23時間で住宅一棟を完成…3Dプリンターが変える「家」、住宅ローンもなくなる?

●この記事のポイント
・セレンディクスが開発した3Dプリンター住宅は、24時間で施工可能、価格も従来の1/10を目指す革新的技術。
・災害復興やウクライナ支援に加え、防衛や公共建築など幅広い分野に応用が進み、社会的意義も拡大。
・「住宅ローンからの解放」を掲げ、300万円で100平米住宅を提供する未来を描き、世界市場10億棟を狙う。

 住宅ローンに縛られない未来を実現できるのか。わずか24時間で建つ3Dプリンター住宅を開発したセレンディクスは、低価格で高性能な住まいを世界に広げようとしている。日本発の挑戦は、災害復興やウクライナ支援、防衛分野にまで広がり、「住宅産業の再発明」を加速させている。

●目次

住宅の常識を覆す「24時間施工」

「23時間12分で、住宅一棟を完成させました」
 セレンディクス株式会社COOの飯田國大氏は、2022年に日本初となる3Dプリンター住宅を発表した際をこう振り返る。場所は愛知県小牧市の工場。従来なら数か月を要する住宅建築が、わずか1日で終わった瞬間だった。

 その後、同社は限定6棟の住宅販売(50平米・550万円)、さらには世界初となる「3Dプリンター駅舎」の建設にも成功。最終電車が出た後、翌朝までに完成させてほしいという依頼に対し、実際は2時間半で仕上げてしまった。

 住宅の建設に要する時間を圧倒的に短縮し、価格も従来の10分の1を目指す──これがセレンディクスのビジョンだ。

 セレンディクスが掲げる戦略の根底には、「住宅ローン問題」への強い問題意識がある。

 日本人が住宅ローンを完済する平均年齢は73歳。約4割の人が生涯マイホームを持てず、持てたとしても老後まで返済に追われる。さらに、退職金は30年前の約3000万円から1500万円へ半減。

「一度しかない人生を、住宅ローンに縛られるのはおかしい。自由を阻害している最大の要因が家だと考えています」と飯田氏は語る。

 同社が掲げる究極の目標は「100平米の住宅を300万円で提供すること」。現状はまだ道半ばだが、レベル100をゴールとすると、すでに「レベル19」まで到達しているという。

世界の3Dプリンター住宅との違い

 世界でも3Dプリンター住宅の試みは進んでいるが、その多くは「壁部分のみを出力し、屋根や内装は従来通り人の手で仕上げる」方式だ。施工期間は半年、コスト削減も3割程度にとどまる。

 対してセレンディクスは、屋根まで含めた「一体成形」に挑戦。24時間以内の施工と価格の大幅な圧縮を実現している。さらに、コンクリートに断熱性能を組み込み、耐震性能も日本基準をクリア。世界最高水準の住宅性能を目指す。

 セレンディクスの住宅は、平時だけでなく災害時にも力を発揮する。

 2023年1月の石川県珠洲市の地震では、住宅価格が急騰するなか、いち早く現地に乗り込み、50平米・550万円で住宅を提供。価格高騰を抑える効果をもたらした。

 この経験がウクライナ支援にもつながる。戦争で200万棟以上の住宅が破壊された同国に対し、セレンディクスはデジタルデータを無償提供することを表明。2025年春までに70平米の建物を建設する計画を進めている。

「震災直後や戦争下での復興住宅は、従来の建設会社にとって難しい領域。だからこそスタートアップの我々が挑む意味があるのです」

広がる市場──BtoB・公共・防衛

 3Dプリンター住宅と聞くと「個人の小さな平屋」というイメージが強いかもしれない。しかし、実際にはBtoBや公共建築、防衛分野まで広がっている。

 店舗やレストラン、駅舎、万博会場の施設に加え、防衛省との協力で防爆シェルターの開発も進む。壁を二重・三重構造にできる3Dプリンター建築は、防衛分野との親和性も高い。

 さらに、セレンディクスは施工自体は担わず、デジタルデータを世界に提供するモデルを採用。すでに5か国で同一データによる建築実証を成功させており、水平分業による住宅産業の再編を進めている。

「もし300万円で家をつくれるなら、世界で10億棟は売れるだろう」。ある日経記者の言葉をきっかけに、セレンディクスはグローバル展開を加速させた。

 日本国内ではJR西日本との資本業務提携をはじめ、大手印刷会社、自動車メーカーとも連携。海外ではタイ最大手の財閥とも協力し、材料開発や供給体制を整えている。問い合わせは1万件を超え、うち3000棟以上が具体的な購入希望だ。

3Dプリンター住宅がもたらす「自由」

 セレンディクスが描く未来は、単なる低価格住宅の提供にとどまらない。住宅ローンがなくなったら、人は何を選択するのかーー。仕事、家族、挑戦──人生の自由を取り戻すことが、同社の最大のミッションだ。

 現在、国内外で実証棟はわずか十数棟にすぎない。しかし、建設キャパはすでに年間500棟規模に拡大。BtoC・BtoB・ガバメント・防衛・グローバルの五つの柱で事業を進めるなか、同社は「住宅産業の完全ロボット化」という壮大な目標に挑み続けている。

「私たちのファーストミッションは、30年の住宅ローンをゼロにすることです。家が自由になれば、人の人生はもっと自由になる」

 飯田氏の言葉には、3Dプリンターというテクノロジーを超えた「住宅の再発明」への情熱が宿っていた。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

築15年以内、平均5千万円、リノベ済み中古マンションが好調…市場拡大の背景

●この記事のポイント
・新築価格高騰と供給減を背景に、築15年以内のリノベ再販物件が割安感と品質で人気を集めている。
・大京穴吹不動産は「R1基準」に基づく施工とアフターサービスで安心感を提供し、販売を伸ばしている。
・中古住宅の買い取り再販市場は今後も拡大見通しで、消費者にとって住まいの選択肢が広がりつつある。

 新築マンションの供給が減少し、価格が高騰する中、中古住宅市場の存在感が増している。特に「築15年以内」の比較的築浅の物件を買い取り、リノベーションを施したうえで再販するビジネスが堅調に伸びている。

 オリックスグループの大京穴吹不動産は、この分野で販売実績を積み上げる企業のひとつだ。同社に、再販物件の特徴や市場の現況、そして今後の見通しを聞いた。

●目次

新築の供給減が追い風に

 不動産市場を俯瞰すると、新築マンションの供給量は首都圏を中心に年々減少している。一方で、販売価格は上昇傾向が続き、2024年には過去最高水準を更新した。土地取得コストや建築資材費、人件費の上昇が主因だ。

 こうした環境下で「新築マンションは価格的に手が届かない」という声が増えている。その受け皿として注目されるのが「リノベーション済み中古マンション」だ。

 大京穴吹不動産もこの流れを背景に、築15年以内の物件を中心とした買い取り再販事業を拡大している。大京穴吹不動産によると、同社が手掛けるリノベーション物件は「新築に比べて割安感がありながらも、品質やデザイン面で新築に近い水準を提供できる点が評価されている」という。

「R1基準」に基づいた安心のリノベーション

 大京穴吹不動産では、リノベーションにあたり「リノベーション協議会」が定める「R1統一基準」を採用。これは給排水管や電気配線といった重要インフラ13項目を含め、一定の品質を担保するための統一基準だ。

 プランニングでは、築年数に応じた「標準工事範囲」を設け、専任スタッフが生活動線や使い勝手を考慮したデザインを計画。施工面では、大京の新築分譲マンションで培ったノウハウを活かし、独自の施工マニュアルを工事店と共有して徹底する。

 さらに、工事後は入念な検査を実施。不具合があれば修繕や交換を行い、チェックリストを社内で厳格に運用している。表面的な内装の美しさだけでなく、「見えない部分の安心感」を重視する点が強みだ。

マーケットインで企画、アフターサービスまで一貫体制

 同社の特徴は、プランニングから販売、アフターサービスまでの一貫体制にある。

 ・プランニング
 新築分譲や管理に携わった経験豊富なスタッフがリノベーションの企画に参画。さらに仕入れ段階で営業担当者が得た顧客ニーズを反映することで、「マーケットイン」の発想を取り入れている。

 ・施工
 独自マニュアルとR1基準に基づいた検査体制で、設備・仕様の品質を担保する。

 ・アフターサービス
 引き渡し後に故障や不具合があればコールセンターで対応。保証制度も整えており、入居後の安心をサポートしている。

 ・販売
 全国の流通店舗を通じて営業スタッフが説明を行う。仲介を介さない直接販売のため、買主にとっては仲介手数料が不要というメリットも大きい。

 この「ワンストップ体制」が、大京穴吹不動産の買い取り再販事業を支えている。

平均価格は5000万円前後、高額帯も拡大

 同社が手掛ける物件の販売価格帯は地域によって異なる。全国平均は約5000万円。首都圏では6000万円弱、名阪エリアでは4150万円、その他都市では2800万円程度だ。

 近年は1億円を超える高価格帯の物件も増えているという。背景には都心部を中心とした不動産価格の高騰がある。築浅かつ好立地の中古物件は希少性が高く、富裕層や投資家層からの需要も強い。

割安感と品質で選ばれるリノベマンション

 東京カンテイの調査によると、2024年時点で、中古マンションの坪単価は新築の57%程度とされる。価格上昇傾向にあるとはいえ、新築に比べれば依然として割安だ。

 大京穴吹不動産は次のように分析する。

「リノベーションマンションは、新築を検討している層にとって現実的な選択肢になっています。築浅の物件をリノベーションすることで、新築に近い住み心地を確保しつつ、価格的な魅力を打ち出せるのが大きな強みです」

 実際、築30年以上の古いマンションよりも、築15年以内の比較的状態の良い物件に改修を施したほうが、購入者にとって心理的ハードルは低い。これが販売増加の大きな要因といえる。

市場は今後も拡大見通し

 矢野経済研究所の調査によると、中古住宅の買い取り再販市場は2023年に約4.2万戸、2030年には5万戸に拡大すると予測されている。大京穴吹不動産も「今後も伸長する市場」と見ており、供給体制の強化に力を入れている。

 政府も中古住宅の流通活性化を推進しており、税制優遇や住宅ローン減税の対象拡大なども追い風だ。従来「新築偏重」と言われてきた日本の住宅市場において、今後は中古の比率がさらに高まる可能性がある。

 最後に、リノベーション再販物件を選ぶ際のポイントについても聞いた。

 1.ライフスタイルとの適合性
 内装デザインや間取りが自身や家族の生活に合っているかを確認する。

 2.リノベーション範囲
 水回りの交換や配管の更新など、どこまで工事が行われたかをチェック。目に見える部分だけでなく、インフラ部分の改修有無も重要だ。

 3.保証・アフターサービス
 施工部分に保証が付いているか、入居後のサポート体制が整っているかを確認する。
表面的な「きれいさ」だけに惑わされず、長期的に安心して暮らせるかどうかを重視すべきだという。

 新築マンションの価格高騰と供給減少が続く中、築浅中古のリノベーション再販物件は「新築に近い品質を割安で手にできる住まい」として人気を集めている。

 大京穴吹不動産は、グループの新築事業で培ったノウハウを活かし、プランニングからアフターサービスまで一貫体制を構築することで、安心感と信頼を提供している。

 市場は今後も拡大が見込まれており、消費者にとっても選択肢が広がる時代が到来している。中古住宅の価値をどう見極め、どのように活用するか――それがこれからの住宅購入の大きなテーマとなりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

──須賀GO、メディアビジネスの未来を、どう見ていますか?

dentsu Japan(国内電通グループ)は、重点領域を切り開く事例創出を担う役職として、グロースオフィサー(GO)を設置しており、2025年度には、各領域から7人が選出されています。本連載では、電通が掲げる「真の Integrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)」を体現するGOたちの、未来に向けての視点と思考に迫ります。

今回登場するのは、メディアビジネスイノベーションを担当する須賀久彌GO。30年近くにわたって、主にテレビ周辺の仕事を通してメディアビジネスに関わってきたその目に、メディアビジネスの現在地と未来はどう映っているのか。激変するメディア環境にどう対応しようとしているのか。

須賀久彌(すが ひさや)
須賀久彌(すが ひさや) dentsu Japanグロースオフィサー。電通入社後、システム開発室配属。 その後、メディア・コンテンツ企画局、テレビ局ネットワーク1部(現ラジオテレビ局テレビビジネス1部)、メディア・コンテンツ計画局を経て、2006年にプレゼントキャスト(現 TVer)の設立に携わり同社に出向。2008年6月に同社代表取締役社長に就任し、gorin.jpやNHK「らじる★らじる」、TVerの立ち上げに関わる。2018年に電通ラジオテレビ局に帰任後、 2019年にラテBP局長に就任。2020年7月からTVerに取締役として出向。2025年1月より現職

 

変化に対応しながら、メディアビジネスを革新する

──最初に、グロースオフィサーとしての現在の仕事の内容について教えてください。

須賀:グロースオフィサーとして、メディアビジネスイノベーションを担当しています。この担当は、今年1月に新しく設置されたもので、果たして何をすることが正しいのか、私自身も手探りではありますが、メディア環境が大きく変わりつつある中で、変化に対応しながらメディアビジネスをどう革新していくかが問われていると思っています。

メディアビジネスと一口に言っても、新聞、テレビといった既存のマスメディアもあれば、伸長が著しいインターネットもあり、最近で言えば、コミュニティやファンダムみたいなものもメディアと呼べるかもしれないぐらい多様ですし、関わる組織や企業も多岐にわたります。電通には、テレビやラジオを担当する部署もあれば、新聞や雑誌を担当する部署もあります。インターネットなどデジタル領域に強い電通デジタルのようなグループ会社もありますし、今年サービス開始から15周年を迎えるradikoや、同じく10周年を迎えるTVer、OOH(屋外)広告を扱うLIVE BOARDなど、電通が出資している会社もあります。そういった部署や会社に対してはビジネスを活性化していくための支援を、放送局などのメディアに対しては今後の広告を中心としたメディアビジネスの進化を見据えた提言を行っていくことが自分の仕事だと考えています。

──メディアと向き合い、メディアビジネスを進化させていくうえで、特に重視していることは何ですか。

須賀:「変化に対して形を変えていけるかどうか」がとても重要だと思っています。既存のメディアは、同じことをちゃんと続けることが信頼につながる面もあって、ある意味では「変化しないことに価値がある」という考え方もありました。しかし、昨今のメディア環境の急速な変化を踏まえれば、メディアも、メディアと向き合う私たちも、変化をおそれず、むしろ変化を強みにしていくことが必要だと考えています。

電通時代の私は、テレビビジネスの新しい試みに数多く関わってきました。いくつか例を挙げれば、IPGという電子番組表サービスを扱う会社の立ち上げ、BSデジタルの立ち上げ時のデータ放送を使ったビジネス、TVerをはじめとする動画配信サービスの立ち上げなどです。いずれも今では当たり前のサービスや機能になっていますが、当時は一つ一つが手探りの試みで、成功が約束されているわけではありませんでした。

グロースオフィサーの任に就いてメディアビジネスイノベーションを担当する現在も、基本的な考え方は変わっていません。変化に対応しながら新しい試みを仕掛けていくことが重要だと考えています。一つ一つの試みは小さくても、一つ一つの変化は小さくても、それが積み重なって、メディアビジネスの進化につながっていくと信じています。

須賀久彌GO

 

メディアの細分化で、「マス」という概念が揺らいできた

──メディアビジネスの観点から、ここ数十年のメディアの変化をどうとらえていますか。

須賀:まず、インターネットのインパクトはやはり大きいと思います。ソフトバンクと電通とでサイバー・コミュニケーションズ(2022年1月 にCARTA HOLDINGSに吸収合併され解散)という会社をつくって日本で初めてインターネット広告を始めたのは、私が電通に入社した1996年でした。それから30年近くたちますが、今ではインターネットが存在しない社会というのはちょっと考えられないですよね。

最近の大きな変化でいうと、動画でしょうか。個人が簡単に動画を作成して投稿できる環境が整い、若い世代を中心に動画によるコミュニケーションが当たり前になっています。広告においても、YouTubeやTVerなどの動画広告がテレビ広告などとセットでプランニングされる時代になっています。

──今後、メディア環境はどのように変化していくと思いますか。

須賀:メディアは今よりもさらに細分化していくのではないでしょいうか。コミュニティなどが新しくメディア的な存在になり、メディアが多様化していくという意味でもそうですし、既存のメディアの中でも細分化が進んでいくのではないかと考えています。

例えば、新聞の場合、どの記事を読むかは個人の好みとしても、これまでは読者が紙面を通じて同じ記事群に接していました。しかし、紙面ではなく、アプリやウェブで見る場合には、読者が記事を自由に取捨選択したり、読者に合わせて記事が表示されたりする仕組みにシフトしています。そうなると、ある人に届く記事と、別の人に届く記事が全く違ってくるということが起こります。それはテレビでも同様で、昔は放送局が放映する番組の中から選択して見ていたのが、今はテレビ画面上でTVerが配信するテレビ番組を見ることもありますし、YouTubeを見る人もいれば、Netflix (ネットフリックス)の番組を見る人もいるという状態になっています。テレビ画面から得ている情報が人によってそれぞれ違っているわけです。

それが意味することは、新聞やテレビに広告を出稿すれば多くの人に届くという、これまでの広告出稿の常識とは違う世界になっているということです。つまり、これまでマスメディアが前提としていた「マス」という概念が揺らいできている。広告主からすれば、届けたい情報が生活者に簡単には届かない、あるいは生活者に届く経路が複雑になる、ということになります。マーケティングは昔に比べて難しくなっていると思いますね。

さらに、生成AIの登場により、文章や画像、動画など、個人が容易に情報の発信者になることができるようになってきています。そうなってくると、今後、玉石混交ではあるものの、情報の量が今の千倍、1万倍、100万倍になるような世界がやってくるかもしれません。

──そうなったとき、メディアに対する生活者の意識や行動はどう変わっていくと思いますか。

須賀:AIやレコメンドといったものが進化していき、ユーザーにとっては、欲しい情報を取るために何らかのサービスにアクセスするというより、普通に生活していると情報が自動的に入ってくるような世界になっていくのではないでしょうか。

ユーザーは、便利なものを見つけたら、高い所から低い所に水が流れていくように、みんながそれに流れていくだろうと私は考えています。生活者からすると、特に意識を変えようと思っているわけではありません。昨日まで使っていた10個のサービスがあったとして、11個目のサービスを知ったときに、そちらの方が便利だと思ったら、今までの10個の中から二つ減らして9個に変わるといったことが当たり前に起こるのだと思います。わざわざ選ぶとか、いつも探しているとかではなく、何かをきっかけに知り、そちらの方が便利だと思ったらスイッチしていくということが繰り返されるのではないでしょうか。次々と新しいサービスが生まれてくる環境になった以上、メディアやプラットフォームは、ユーザーに選ばれるものになれるよう常に進化し続ける必要があると思います。

また、メディアの細分化・多様化が進むと、情報の信頼性についても考えざるをえなくなるでしょう。みんなが議論の前提となる情報を共有していることは、民主主義の基盤の一つです。昔であれば、マスメディアと言われるものにみんなが同じように接することで情報を共有していました。しかし、メディアが細分化されていくにつれて、各人がそれぞれの情報空間の中に住んでいるような状態になり、自分が住んでいる情報空間とは異なる情報空間があることさえ知らないといったことが起こりえます。もし異なる情報空間があることを知ったとしても、「あんなのは非常識だよね」と即座に否定するかもしれません。いわゆる「分断」です。

既存のメディアはそこに対して問題意識を持っていますし、異なる意見があれば両論をきちんと提示すべきだと考えています。それは、メディアの信頼性にもつながります。広告主から見れば、信頼性の低いメディアへの出稿は商品やブランドにとってリスクになりますから、既存のマスメディアやプラットフォーマーに対して、信頼性に関わる提言を行っていくことも広告会社の仕事だと考えています。アテンションエコノミーやレコメンドが全盛の中、信頼性をどう担保するかはとても難しい課題です。総務省や行政の検討会などを見ていても、識者の方たちが喧々諤々(けんけんがくがく)に議論しているテーマでもあります。私はメディア論の専門家ではありませんが、メディアビジネスに関わる者として、それを追いかけるのも自分の仕事と考えています。

須賀久彌GO

混沌とした時代だからこそ、仕掛けることに意味がある

──メディアビジネスにおいて、dentsu Japan の強みをどう考えていますか。

須賀:生活者のことをよく知っている、ということが最大の強みだと思います。その基盤となるメディア接触データや生活者意識調査データが、dentsu Japanには豊富に蓄積されています。それらの分析に基づいて、「人がどういうときに動くのか」「何によって態度変容するのか」といったことついて、常にいちばん詳しい存在だと思いますし、今後もそうありたいと思っています。

dentsu Japanは、生活者のことを知るすべをたくさん持っていますし、メディアとの強いリレーションも持っています。加えて、dentsu Japanにはアイデア豊かな人財がたくさんいます。一方で、グループの外に目を向ければ、例えば既存のメディアの人たちと一緒に何かを立ち上げるようなこともありうるし、外資のプラットフォームと組むこともあるかもしれません。そう考えると、これからはグループ内外問わず、「協業」がカギになってくるかもしれませんね。

──最後に、今後のグロースオフィサーとしての使命や役割についてどのように考えていますか。

須賀:まず、長くテレビの仕事に関わってきたので、これからもテレビの新たな可能性を追求していくお手伝いをしたいという気持ちがあります。これまでのテレビの常識を疑って、変えるべきところは変えて、新しい試みを仕掛けて、その結果として「こんなに良くなったね」というような状態をつくれたならと思っています。

また、メディアが進化していくときに、広告も共に進化しなければならないという思いもあります。かつて広告が世の中で大きな話題になったり、文化として捉えられたりした時代がありました。それに比べると、今は広告が忌避されるものになりつつあるように感じる瞬間があります。広告がよりよいユーザー体験になるよう、もう一度設計し直す必要があるのかもしれません。

今後もメディア環境は変わっていくでしょう。どう変わっていくかは、ある意味、予測不能です。生成AIを見ても、この2年くらいでみんなに認知されて、今では何の抵抗感もなく生成AIに質問したり、画像や動画の制作に使いこなしたりしています。30年前にインターネットが普及したときとは違うスピード感で社会に浸透しています。

ただ、たとえ変化のスピードが速くても、過去の知見が全く役に立たないというわけではありません。例えばdentsu Japan が持っているノウハウや調査データの蓄積など、未来を考えるうえで活用に値するものはたくさんあるはずです。だから、何か新しいことを仕掛けようというとき、すぐに助走をつけられると思っています。

時代が混沌(こんとん)としているということは、新しいものをつくるチャンスがあるということでもあります。個人的には、とてもポジティブに捉えていますし、メディアビジネスイノベーションという仕事の可能性にとてもワクワクしています。

須賀久彌GO

30年近くにわたり、テレビというメディアと向き合って仕事をしてきた須賀GOは、意外にも理系出身とのこと。入社後の初配属はシステム開発室だった。が、だからこそ、冷静と情熱のあいだで試行錯誤しながら、TVerなど新しい試みの成功に貢献することができたのではないだろうか。変化をおそれずに仕掛けていく姿勢は、グロースオフィサーとなった今も変わらない。
 

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Rokt×楽天×メルカリ なぜ今、“デジタル”リテールメディアなのか

去る7月25日(金)、国内外でEC領域をけん引する3社が一堂に会し、ECプラットフォームを軸に広告価値と顧客体験を両立させるデジタルリテールメディアの未来をテーマに各社の知見と事例を共有するカンファレンス「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」が開催されました。

記事では、同カンファレンスに参加した楽天グループ・秦俊輔氏、メルカリ・赤星大偉氏、Rokt・三島健氏をパネラーに、電通デジタル・千葉健司氏をモデレーターに迎え、デジタルリテールメディアの現在地と可能性についてディスカッションを行いました。

Rokt×楽天×メルカリ なぜ今、“デジタル”リテールメディアなのか

パネラー:
秦俊輔 楽天グループ マーケットプレイス事業 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー
赤星大偉 メルカリ Head of Ads Business
三島 健 Rokt Head of Japan, Vice President

モデレーター:
千葉健司 電通デジタル コマース&プロモーション部門 部門長

 

デジタルの強みを生かしたリテールメディア

千葉:今、私たちは開演を2時間後に控えた「Digital Retail Media Conference 2025」の会場にいるわけですが、「リテールメディア」の前に「デジタル」とあるのが象徴的だなと感じています。いわゆる一般的なリテールメディアに対して、デジタルの視点からのアプローチに焦点を当てる意図がそこにはあると理解していますが、いかがでしょう。
 
秦:「リテールメディア」という言葉を日本でもよく聞くようになりましたが、メーカーやブランドの担当者の方と話をしていると、店舗内に設置されたサイネージのような、いわゆるオフラインのイメージを皆さん強く持っているようです。

これがアメリカだと、リテールメディアのイメージは日本とはまた違ってきます。市場においてAmazonをはじめとするECプラットフォーム、つまりオンラインの売り上げが大きいことから、リテールメディアのイメージもオンラインが優勢になっています。

「デジタル」と明示した今回のカンファレンスでは、オフラインではないデジタルリテールメディアが存在すること、そしてオンラインならではの価値があることを、来場者に知ってほしいと考えています。

秦俊輔(はた しゅんすけ)
秦俊輔(はた しゅんすけ) 楽天グループ マーケットプレイス事業 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー。2009年楽天グループに入社。広告事業配属後、広告代理店担当の営業を担当し2017年には電通との合弁会社である楽天データマーケティングの立ち上げに携わる。2019年ヤフーに入社。PayPay販促ソリューション、東京2020の企画・販売に携わる。また、ヤフー×指名手配捜査支援プロジェクトで広告電通賞 入賞。 2021年再び楽天グループに戻り、「楽天市場」とメーカーとの協業でビジネス拡大を図る部署(AIO)の立ち上げおよび、コンサル部門の責任者を務める

三島:オフラインとオンラインでは、買い物行動、つまりユーザージャーニーがまるで違います。店舗だと棚の前に行って考えたり、店内をぐるっと回っていろいろなカテゴリーの商品を見たり……といった形になりますが、オンラインではまずカテゴリーで探して、そこから商品を深掘りに行って、もろもろの比較をして、これにしよう……というようにショッピングファネルが深くなっていきます。

そうなると、オフラインとオンラインでリテールメディアの役割も変わってきます。オフラインの典型的な例として店舗内のデジタルサイネージを考えると、その役割はブランドマーケティングにやや近いと思います。ファネルやジャーニーの早期のところからのアプローチになります。

一方、オンラインではお客さまが何を探しているのか、ショッピングファネルのどこにいるのかがわかるので、お客さまに示せるもの、示せるタイミング、その精度がまるで違ってきます。
 
オフラインは基本的には「知ってもらう・見てもらう」という認知ファネルであるのに対し、オンラインはダイレクトに「商品を買ってください・触れてください」というアプローチになるので、購入への影響も大きいのがデジタルリテールメディアの特徴ではないでしょうか。
 
秦:オンライン/オフラインを問わず、リテールメディアの価値の一つに「ユーザーの買い物のモードを捉えてコミュニケーションできる」ことがあります。加えて、オンラインのメリットは、その成果をトラッキングしてデータを蓄積できることです。その意味でも、今回のようにデジタルに特化したリテールメディアの特徴などについて発信していく意義はあるかと思っています。
 
千葉:デジタルリテールメディアには、いわゆるオフラインのリテールメディアとはまた違った特徴と役割、メリットがあることがよくわかりました。

続いて、皆さんのリテールメディアへの取り組みについて伺いたいと思います。メルカリは今年から「メルカリAds」(※)を始めましたね。

※メルカリが提供する広告配信サービス。クリック課金型広告で、メルカリ内の検索結果画面に検索キーワードなどに合わせた広告を掲載することが可能。

 

赤星:一定のユーザー規模を持つサービスの事業主なら、広告事業は考えると思います。私たちメルカリ中でも、その選択肢はずっとありました。ただ、どういう広告事業がメルカリに合うのか、B to Cではなく、C to Cという独特なマーケットプレイスの上で展開される広告事業とはどういう形のものなのか、ずっと模索していました。ようやく、おそらくこの形かなというのが見え始めて、大々的にプレスリリースすることになりました。グローバルでみても、似たようなことをこの規模でやっているプラットフォームはないでしょう。とてもユニークなものになっていると思います。

 赤星大偉(あかほし だいい)
赤星大偉(あかほし だいい) メルカリ Head of Ads Business。デジタル広告領域に15年在籍、広告メディア会社(ヤフー・Meta・ByteDance・SmartNews)で、ソフトウエアエンジニア、データサイエンティスト、広告主営業、事業責任者を経験。2023年より現職。メルカリの広告事業立ち上げに従事

千葉:メルカリ社内では、これをリテールメディアと捉えているのですか。
 
赤星:当初、社内ではリテールメディアについて、さほどクリアなイメージを持っていなかったと思います。ただ、GMV(※)の成長とともに、社として第2、第3の売り上げの柱をどう作っていくのかは重要な課題であり、その候補の一つにメルカリAdsがありました。昨今リテールメディアがトレンドになる中、多くの広告主や広告会社に興味を持っていただけています。

※「Gross Merchandise Value」の略で、日本語では「流通取引総額」と訳される。ECサイトやプラットフォームビジネスにおいて、商品やサービスの総売上高を示す指標として用いられる。


 


販促とブランドマーケティングの融合を目指して

千葉:クライアントは広告予算と販促予算を持っているわけですが、リテールメディアに対しては販促予算から当てられるケースが多いかと思います。一方で、最近は徐々に広告予算から当てる動きも広がってきているように思います。メルカリAdsの場合、どちらの予算を想定しているのでしょうか。
 
赤星:メルカリは広告事業をスタートしたばかりということもあって、広告予算をまずは想定するところからスタートした方がいいかなと思っています。ただ、ECプラットフォームが伸長してきて、広告費と売り上げのコンバージョンがちゃんと分析できるようになってくると、もはや広告費と販促費を厳密に分ける必要はないのかもしれません。現在、日本のEC化率は10%ぐらいですが、これが上がっていくと、さらにこの境目がなくなっていくのではないでしょうか。
 
千葉:楽天では、広告予算と販促予算についてどう考えていますか。
 
秦:楽天市場は「買い場である」というイメージが色濃くあるので、私たちが普段メーカーや大手企業とやり取りする予算というのは、いわゆる営業予算が大半を占めます。すなわち、EC営業予算という形です。

一方で、今後はブランド予算や宣伝予算に対しても、楽天市場および楽天グループのメディアの活用価値をしっかり作っていくことで応えられるようにしたいと思っています。販促とブランドマーケティングがどんどん融合されていくようになっていくと、私たちのようなプレーヤーの価値はどんどん上がっていくのではないでしょうか。

三島: 宣伝を「認知」、販促を「比較」「購買」のようにファネルの視点で考えたとき、クライアントがどのファネルに属していたとしても成果にコミットすることは可能と考えています。そうした観点から、広告費なのか販促費なのかという問題は、さほど意識してなくてもよいのではないかと思っています。

千葉:ユーザーの買い物モードを捉えられるという価値を最大限に生かして、販促とブランドマーケティングの融合を目指すべきだということですね。

千葉健司(ちば けんじ) 
千葉健司(ちば けんじ) 電通デジタル コマース&プロモーション部門 部門長。大学院を卒業後、教育機関に特化した代理店を経て、DAサーチ&リンク(現:電通ダイレクト)にてデジタル広告のコンサルタントを経験。その後、電通へ出向して年間100件以上の提案/競合コンペに参加。2019年より電通デジタルに籍を移してコマース領域に従事。2025年から部門長としてECモール活用やリテールメディア、デジタル販促を含めた販促全般を統括

千葉:自分たちのビジネスをさらに成長させるために、あるいは生活者により豊かな体験を提供するために、ここが突破できればというポイントはありますか。
 
秦:楽天市場は、コンバージョンを目的とした取り組みでは、一定の成功を収めてきたという自負があります。

マーケティング予算やブランド予算を想定した取り組みも徐々に増えてきてはいますが、まだまだ案件数でいうと限定的です。ここの領域での取り組みを増やすことができると、顧客に対してもより良い購買体験を提供できると思いますし、私たちのビジネスも拡大していくので、まさに突破したい領域です。

楽天市場を活用するときに、「指名買いでしか使わない」という方は、わずか5%に過ぎません。「とりあえず行ってみる」というモーメントであり、認知から理解・検討・購買のファネルが一気通貫で行われている状態です。だからこそ、ブランディングのアプローチが楽天市場では有効だと考えています。多くのメーカーが「アッパーファネルのことも楽天市場と一緒にやっていこう」ということになると、面白くなってくると思っています。
 
赤星:私たちデジタルの世界にいる人間からすると、データドリブンマーケティングは当たり前で体に染み付いています。メルカリは二次流通が主な市場ではありますが、ファーストパーティデータをたくさん持っています。

一方で、データをフル活用した意思決定やマーケティングにまだまだ躊躇(ちゅうちょ)するメーカーや広告主、事業主も少なくないようです。ですから、まずは私たちとクライアントの間にあるマーケティングに対する認識のギャップを埋めていく必要があるのかなと感じています。
 
三島:オンラインはマーケティングのスピードが速いですよね。そして、わかりやすい。そうなると意思決定のプロセスもどんどん速くなってきます。

秦:赤星さんがお話しされたことはすごくヒントがあって、私たちも目指したいのは、統合マーケティングプラットフォームとしてのポジショニングなんですね。マーケティングの最初のステージである商品開発の部分においても、私たちが持っているファーストパーティデータは間違いなく価値があるはずです。

ターゲットに関するデータをベースにメーカーと一緒に商品開発を行い、楽天市場でテストマーケティングを行い、どういったユーザーに刺さったか/刺さらなかったか、その理由は何だろう……と深掘りする。それに基づいて商品をブラッシュアップし、販売戦略を立てて、売っていく……というように、マーケティング全般を捉えながら、私たちはメーカーに伴走できると思っています。それは課題というよりも、むしろ機会と考えています。
 
千葉:特に楽天の場合、それがワンストップで全て提供できるのは強みですね。

電通グループとの連携で広がる可能性

千葉:Roktは独自のサービス提供で成功されていますが、課題はあるのでしょうか。
  
三島:課題はいろいろありますが、大きくは二つあります。一つは、Rokt はEC事業者に対して広告事業を始めるためのソリューションを提供しているわけですが、それをどう簡単に実装するのかということです。

もう一つは、EC事業者に対して「リテールメディアはユーザージャーニーにおける新しいチャネルですよ」「広告事業を行うことでユーザーを獲得できますよ」と説得することの難しさです。

どちらも簡単ではありません。自社で広告事業をやったことのないEC事業者は物販が収益の主戦場になっているので、広告事業については考えてもいないケースも少なくないのです。そうなると、先方のどの部署や組織の方と話をすれば良いのかが、最初の壁になります。

三島健(みしま けん)
三島健(みしま けん) Rokt Head of Japan。Expedia、HRSにて代表取締役を務め、大手日本企業のオンライン事業におけるデジタルトランスフォーメーションの戦略策定&推進に携わるなどテクノロジー業界で豊富な経験を持つ。その後、Googleの広告営業にてリテール市場向けプロダクト開発の推進を行い、2023年よりRoktへ。以降、Rokt日本代表としてEC事業者の収益増を可能とするソリューション導入に向けた支援を進めている

秦:誰と話すかというのは、確かに重要ですね。
 
千葉:マーケティング全体を管轄しているCMO(Chief Marketing Officer)のような立場の人と話すのが良いのかもしれません。

秦:それこそメルカリの広告事業の導入は、赤星さんがいなかったら進まなかったのではないですか? 赤星さんのように広告収益の旗を掲げた人がいたからこそ、前に進んだのではないですか?
 
赤星:この業界はGMV至上主義的なところがあるので、「広告事業を始めましょう」と言っても、「それでGMVが上がるの?」という話になりがちです。そこにおそらく大きなミスマッチがあるのだと思います。

Roktが提供しうる価値を考えると、最終的にはその会社のCFO(Chief Financial Officer)と話をすべきなのではないでしょうか。GMVがどうこうという話ではなく、PL(損益計算書)の話をした方がいいように思います。
 
秦:まったく新しい領域だから、先方のキーマンを探すのが大変ですよね。
 
千葉:そうしたところに電通グループの存在価値があるのかなと思っています。なぜなら、「翻訳して、きちんと相手に伝えることができる」のが電通グループの一つの強みだと思っていますし、対応できる組織と人財を持っていますから。

三島:Rokt の立場からすると、まさにそこに期待しています。Roktはプロダクトを持ってはいますが、お客さまとのコミュニケーションにおいて言語化がきちんとできていないところに課題があると感じていましたから。

お客さまと話をするとき、マーケティングのチームにアプローチするのが良いのか、ファイナンスの組織にアプローチするのが良いのか、電通グループの知見を生かしてステークホルダーの観点から解きほぐしていただけると大変助かります。
 
赤星:メルカリとしては、広告出稿の領域だけでなく、データ利活用の領域でも電通グループと一緒に取り組んでいきたいなと思っています。メルカリが持つデータを使って、メーカーの商品開発に生かしたり、プライシングに生かしたりできれば、マーケティングだけでなく、社会全体が良い方向にいくのではないかと考えています。
 
秦:私たちECプラットフォームの強みが販促領域にあるのに対して、電通グループの強みはアッパーファネルの領域にあると認識していますので、その部分で連携できたらと思っています。

具体的には、私たちが持つデータをどう活用して、どうPDCAを回していくべきか、といった部分で電通グループの知見を参考にできると、クオリティの高いアウトプットが可能になると信じています。

また、AIの活用も注目しているテーマです。電通グループのAIは広告やマーケティング領域に特化した形での開発が進んでいるので、私たちが持っているデータとうまく連携すれば、お客さまやメーカーに対してより良い体験を提供できるのではないかと期待しています。

千葉:皆さんから電通グループとの連携への可能性と期待の声をいただき、大変ありがたく思っています。

ディスカッションを通して、デジタルリテールメディアの現在地と可能性を感じることができました。また一方で、克服すべき課題もあることを認識しました。デジタルリテールメディアという新しい領域で、今後皆さんと連携できるのが楽しみですし、電通グループとしても皆さんの期待に応えられるような存在でありたいと思っています。

本日はありがとうございました。

「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」の会場にて
「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」の会場にて

 

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Rokt×楽天×メルカリ なぜ今、“デジタル”リテールメディアなのか

去る7月25日(金)、国内外でEC領域をけん引する3社が一堂に会し、ECプラットフォームを軸に広告価値と顧客体験を両立させるデジタルリテールメディアの未来をテーマに各社の知見と事例を共有するカンファレンス「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」が開催されました。

記事では、同カンファレンスに参加した楽天グループ・秦俊輔氏、メルカリ・赤星大偉氏、Rokt・三島健氏をパネラーに、電通デジタル・千葉健司氏をモデレーターに迎え、デジタルリテールメディアの現在地と可能性についてディスカッションを行いました。

Rokt×楽天×メルカリ なぜ今、“デジタル”リテールメディアなのか

パネラー:
秦俊輔 楽天グループ マーケットプレイス事業 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー
赤星大偉 メルカリ Head of Ads Business
三島 健 Rokt Head of Japan, Vice President

モデレーター:
千葉健司 電通デジタル コマース&プロモーション部門 部門長

 

デジタルの強みを生かしたリテールメディア

千葉:今、私たちは開演を2時間後に控えた「Digital Retail Media Conference 2025」の会場にいるわけですが、「リテールメディア」の前に「デジタル」とあるのが象徴的だなと感じています。いわゆる一般的なリテールメディアに対して、デジタルの視点からのアプローチに焦点を当てる意図がそこにはあると理解していますが、いかがでしょう。
 
秦:「リテールメディア」という言葉を日本でもよく聞くようになりましたが、メーカーやブランドの担当者の方と話をしていると、店舗内に設置されたサイネージのような、いわゆるオフラインのイメージを皆さん強く持っているようです。

これがアメリカだと、リテールメディアのイメージは日本とはまた違ってきます。市場においてAmazonをはじめとするECプラットフォーム、つまりオンラインの売り上げが大きいことから、リテールメディアのイメージもオンラインが優勢になっています。

「デジタル」と明示した今回のカンファレンスでは、オフラインではないデジタルリテールメディアが存在すること、そしてオンラインならではの価値があることを、来場者に知ってほしいと考えています。

秦俊輔(はた しゅんすけ)
秦俊輔(はた しゅんすけ) 楽天グループ マーケットプレイス事業 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー。2009年楽天グループに入社。広告事業配属後、広告代理店担当の営業を担当し2017年には電通との合弁会社である楽天データマーケティングの立ち上げに携わる。2019年ヤフーに入社。PayPay販促ソリューション、東京2020の企画・販売に携わる。また、ヤフー×指名手配捜査支援プロジェクトで広告電通賞 入賞。 2021年再び楽天グループに戻り、「楽天市場」とメーカーとの協業でビジネス拡大を図る部署(AIO)の立ち上げおよび、コンサル部門の責任者を務める

三島:オフラインとオンラインでは、買い物行動、つまりユーザージャーニーがまるで違います。店舗だと棚の前に行って考えたり、店内をぐるっと回っていろいろなカテゴリーの商品を見たり……といった形になりますが、オンラインではまずカテゴリーで探して、そこから商品を深掘りに行って、もろもろの比較をして、これにしよう……というようにショッピングファネルが深くなっていきます。

そうなると、オフラインとオンラインでリテールメディアの役割も変わってきます。オフラインの典型的な例として店舗内のデジタルサイネージを考えると、その役割はブランドマーケティングにやや近いと思います。ファネルやジャーニーの早期のところからのアプローチになります。

一方、オンラインではお客さまが何を探しているのか、ショッピングファネルのどこにいるのかがわかるので、お客さまに示せるもの、示せるタイミング、その精度がまるで違ってきます。
 
オフラインは基本的には「知ってもらう・見てもらう」という認知ファネルであるのに対し、オンラインはダイレクトに「商品を買ってください・触れてください」というアプローチになるので、購入への影響も大きいのがデジタルリテールメディアの特徴ではないでしょうか。
 
秦:オンライン/オフラインを問わず、リテールメディアの価値の一つに「ユーザーの買い物のモードを捉えてコミュニケーションできる」ことがあります。加えて、オンラインのメリットは、その成果をトラッキングしてデータを蓄積できることです。その意味でも、今回のようにデジタルに特化したリテールメディアの特徴などについて発信していく意義はあるかと思っています。
 
千葉:デジタルリテールメディアには、いわゆるオフラインのリテールメディアとはまた違った特徴と役割、メリットがあることがよくわかりました。

続いて、皆さんのリテールメディアへの取り組みについて伺いたいと思います。メルカリは今年から「メルカリAds」(※)を始めましたね。

※メルカリが提供する広告配信サービス。クリック課金型広告で、メルカリ内の検索結果画面に検索キーワードなどに合わせた広告を掲載することが可能。

 

赤星:一定のユーザー規模を持つサービスの事業主なら、広告事業は考えると思います。私たちメルカリ中でも、その選択肢はずっとありました。ただ、どういう広告事業がメルカリに合うのか、B to Cではなく、C to Cという独特なマーケットプレイスの上で展開される広告事業とはどういう形のものなのか、ずっと模索していました。ようやく、おそらくこの形かなというのが見え始めて、大々的にプレスリリースすることになりました。グローバルでみても、似たようなことをこの規模でやっているプラットフォームはないでしょう。とてもユニークなものになっていると思います。

 赤星大偉(あかほし だいい)
赤星大偉(あかほし だいい) メルカリ Head of Ads Business。デジタル広告領域に15年在籍、広告メディア会社(ヤフー・Meta・ByteDance・SmartNews)で、ソフトウエアエンジニア、データサイエンティスト、広告主営業、事業責任者を経験。2023年より現職。メルカリの広告事業立ち上げに従事

千葉:メルカリ社内では、これをリテールメディアと捉えているのですか。
 
赤星:当初、社内ではリテールメディアについて、さほどクリアなイメージを持っていなかったと思います。ただ、GMV(※)の成長とともに、社として第2、第3の売り上げの柱をどう作っていくのかは重要な課題であり、その候補の一つにメルカリAdsがありました。昨今リテールメディアがトレンドになる中、多くの広告主や広告会社に興味を持っていただけています。

※「Gross Merchandise Value」の略で、日本語では「流通取引総額」と訳される。ECサイトやプラットフォームビジネスにおいて、商品やサービスの総売上高を示す指標として用いられる。


 


販促とブランドマーケティングの融合を目指して

千葉:クライアントは広告予算と販促予算を持っているわけですが、リテールメディアに対しては販促予算から当てられるケースが多いかと思います。一方で、最近は徐々に広告予算から当てる動きも広がってきているように思います。メルカリAdsの場合、どちらの予算を想定しているのでしょうか。
 
赤星:メルカリは広告事業をスタートしたばかりということもあって、広告予算をまずは想定するところからスタートした方がいいかなと思っています。ただ、ECプラットフォームが伸長してきて、広告費と売り上げのコンバージョンがちゃんと分析できるようになってくると、もはや広告費と販促費を厳密に分ける必要はないのかもしれません。現在、日本のEC化率は10%ぐらいですが、これが上がっていくと、さらにこの境目がなくなっていくのではないでしょうか。
 
千葉:楽天では、広告予算と販促予算についてどう考えていますか。
 
秦:楽天市場は「買い場である」というイメージが色濃くあるので、私たちが普段メーカーや大手企業とやり取りする予算というのは、いわゆる営業予算が大半を占めます。すなわち、EC営業予算という形です。

一方で、今後はブランド予算や宣伝予算に対しても、楽天市場および楽天グループのメディアの活用価値をしっかり作っていくことで応えられるようにしたいと思っています。販促とブランドマーケティングがどんどん融合されていくようになっていくと、私たちのようなプレーヤーの価値はどんどん上がっていくのではないでしょうか。

三島: 宣伝を「認知」、販促を「比較」「購買」のようにファネルの視点で考えたとき、クライアントがどのファネルに属していたとしても成果にコミットすることは可能と考えています。そうした観点から、広告費なのか販促費なのかという問題は、さほど意識してなくてもよいのではないかと思っています。

千葉:ユーザーの買い物モードを捉えられるという価値を最大限に生かして、販促とブランドマーケティングの融合を目指すべきだということですね。

千葉健司(ちば けんじ) 
千葉健司(ちば けんじ) 電通デジタル コマース&プロモーション部門 部門長。大学院を卒業後、教育機関に特化した代理店を経て、DAサーチ&リンク(現:電通ダイレクト)にてデジタル広告のコンサルタントを経験。その後、電通へ出向して年間100件以上の提案/競合コンペに参加。2019年より電通デジタルに籍を移してコマース領域に従事。2025年から部門長としてECモール活用やリテールメディア、デジタル販促を含めた販促全般を統括

千葉:自分たちのビジネスをさらに成長させるために、あるいは生活者により豊かな体験を提供するために、ここが突破できればというポイントはありますか。
 
秦:楽天市場は、コンバージョンを目的とした取り組みでは、一定の成功を収めてきたという自負があります。

マーケティング予算やブランド予算を想定した取り組みも徐々に増えてきてはいますが、まだまだ案件数でいうと限定的です。ここの領域での取り組みを増やすことができると、顧客に対してもより良い購買体験を提供できると思いますし、私たちのビジネスも拡大していくので、まさに突破したい領域です。

楽天市場を活用するときに、「指名買いでしか使わない」という方は、わずか5%に過ぎません。「とりあえず行ってみる」というモーメントであり、認知から理解・検討・購買のファネルが一気通貫で行われている状態です。だからこそ、ブランディングのアプローチが楽天市場では有効だと考えています。多くのメーカーが「アッパーファネルのことも楽天市場と一緒にやっていこう」ということになると、面白くなってくると思っています。
 
赤星:私たちデジタルの世界にいる人間からすると、データドリブンマーケティングは当たり前で体に染み付いています。メルカリは二次流通が主な市場ではありますが、ファーストパーティデータをたくさん持っています。

一方で、データをフル活用した意思決定やマーケティングにまだまだ躊躇(ちゅうちょ)するメーカーや広告主、事業主も少なくないようです。ですから、まずは私たちとクライアントの間にあるマーケティングに対する認識のギャップを埋めていく必要があるのかなと感じています。
 
三島:オンラインはマーケティングのスピードが速いですよね。そして、わかりやすい。そうなると意思決定のプロセスもどんどん速くなってきます。

秦:赤星さんがお話しされたことはすごくヒントがあって、私たちも目指したいのは、統合マーケティングプラットフォームとしてのポジショニングなんですね。マーケティングの最初のステージである商品開発の部分においても、私たちが持っているファーストパーティデータは間違いなく価値があるはずです。

ターゲットに関するデータをベースにメーカーと一緒に商品開発を行い、楽天市場でテストマーケティングを行い、どういったユーザーに刺さったか/刺さらなかったか、その理由は何だろう……と深掘りする。それに基づいて商品をブラッシュアップし、販売戦略を立てて、売っていく……というように、マーケティング全般を捉えながら、私たちはメーカーに伴走できると思っています。それは課題というよりも、むしろ機会と考えています。
 
千葉:特に楽天の場合、それがワンストップで全て提供できるのは強みですね。

電通グループとの連携で広がる可能性

千葉:Roktは独自のサービス提供で成功されていますが、課題はあるのでしょうか。
  
三島:課題はいろいろありますが、大きくは二つあります。一つは、Rokt はEC事業者に対して広告事業を始めるためのソリューションを提供しているわけですが、それをどう簡単に実装するのかということです。

もう一つは、EC事業者に対して「リテールメディアはユーザージャーニーにおける新しいチャネルですよ」「広告事業を行うことでユーザーを獲得できますよ」と説得することの難しさです。

どちらも簡単ではありません。自社で広告事業をやったことのないEC事業者は物販が収益の主戦場になっているので、広告事業については考えてもいないケースも少なくないのです。そうなると、先方のどの部署や組織の方と話をすれば良いのかが、最初の壁になります。

三島健(みしま けん)
三島健(みしま けん) Rokt Head of Japan。Expedia、HRSにて代表取締役を務め、大手日本企業のオンライン事業におけるデジタルトランスフォーメーションの戦略策定&推進に携わるなどテクノロジー業界で豊富な経験を持つ。その後、Googleの広告営業にてリテール市場向けプロダクト開発の推進を行い、2023年よりRoktへ。以降、Rokt日本代表としてEC事業者の収益増を可能とするソリューション導入に向けた支援を進めている

秦:誰と話すかというのは、確かに重要ですね。
 
千葉:マーケティング全体を管轄しているCMO(Chief Marketing Officer)のような立場の人と話すのが良いのかもしれません。

秦:それこそメルカリの広告事業の導入は、赤星さんがいなかったら進まなかったのではないですか? 赤星さんのように広告収益の旗を掲げた人がいたからこそ、前に進んだのではないですか?
 
赤星:この業界はGMV至上主義的なところがあるので、「広告事業を始めましょう」と言っても、「それでGMVが上がるの?」という話になりがちです。そこにおそらく大きなミスマッチがあるのだと思います。

Roktが提供しうる価値を考えると、最終的にはその会社のCFO(Chief Financial Officer)と話をすべきなのではないでしょうか。GMVがどうこうという話ではなく、PL(損益計算書)の話をした方がいいように思います。
 
秦:まったく新しい領域だから、先方のキーマンを探すのが大変ですよね。
 
千葉:そうしたところに電通グループの存在価値があるのかなと思っています。なぜなら、「翻訳して、きちんと相手に伝えることができる」のが電通グループの一つの強みだと思っていますし、対応できる組織と人財を持っていますから。

三島:Rokt の立場からすると、まさにそこに期待しています。Roktはプロダクトを持ってはいますが、お客さまとのコミュニケーションにおいて言語化がきちんとできていないところに課題があると感じていましたから。

お客さまと話をするとき、マーケティングのチームにアプローチするのが良いのか、ファイナンスの組織にアプローチするのが良いのか、電通グループの知見を生かしてステークホルダーの観点から解きほぐしていただけると大変助かります。
 
赤星:メルカリとしては、広告出稿の領域だけでなく、データ利活用の領域でも電通グループと一緒に取り組んでいきたいなと思っています。メルカリが持つデータを使って、メーカーの商品開発に生かしたり、プライシングに生かしたりできれば、マーケティングだけでなく、社会全体が良い方向にいくのではないかと考えています。
 
秦:私たちECプラットフォームの強みが販促領域にあるのに対して、電通グループの強みはアッパーファネルの領域にあると認識していますので、その部分で連携できたらと思っています。

具体的には、私たちが持つデータをどう活用して、どうPDCAを回していくべきか、といった部分で電通グループの知見を参考にできると、クオリティの高いアウトプットが可能になると信じています。

また、AIの活用も注目しているテーマです。電通グループのAIは広告やマーケティング領域に特化した形での開発が進んでいるので、私たちが持っているデータとうまく連携すれば、お客さまやメーカーに対してより良い体験を提供できるのではないかと期待しています。

千葉:皆さんから電通グループとの連携への可能性と期待の声をいただき、大変ありがたく思っています。

ディスカッションを通して、デジタルリテールメディアの現在地と可能性を感じることができました。また一方で、克服すべき課題もあることを認識しました。デジタルリテールメディアという新しい領域で、今後皆さんと連携できるのが楽しみですし、電通グループとしても皆さんの期待に応えられるような存在でありたいと思っています。

本日はありがとうございました。

「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」の会場にて
「Rokt・楽天・メルカリ共催:Digital Retail Media Conference 2025」の会場にて

 

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どうすればねこのかわいさを拡張できるのか?-ねことの暮らしの小さな実験-

招き猫

近年、猫と人間の関係は大きくアップデートされ、新たな時代が到来しています。

本連載「ネコラボ通信」は、電通のクリエイティブR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」内に発足した猫専門イノベーションチーム「Neko Lab Tokyo」(以下、ネコラボ)のメンバーが持ち回りで登場。テクノロジーとアイデアを掛け合わせた、猫にまつわる最新プロジェクトやユニークな研究開発をお届けしていきます。

今回は「来(9)る福(29)」の語呂合わせにちなみ、9月29日の「招き猫の日」にあわせて公開する第3回です。

クリエイティブ・テクノロジストの中山桃歌が、愛猫 ASHBABY との日々から得たささやかな気づきをもとに行った実験から生まれた、いくつかの小さなプロトタイプをご紹介します。

<目次>

「猫招き」の手招きポーズは何が由来?

プロトタイプ1:ねこのさわりごこちの良さをどうやったら伝えられる?

プロトタイプ2:ねこ専用のフィルターでもっとねこのかわいさを広げてみたい

プロトタイプ3:ねこの動きのかわいさを他のものにも乗り移らせられる?

 

「猫招き」の手招きポーズは何が由来?

招き猫が生まれた理由には諸説ありますが、その手を挙げたポーズがは、ねこの「毛づくろい」に由来するという説があります。もしそうだとすれば、本来は自分を整える日常的なしぐさが、人間の目には「手招き=福を呼ぶ」仕草として読み替えられた、ということになります。

つまり、ねこの自然なしぐさが人間社会で「縁起」や「可愛さ」の象徴に拡張されたわけです。これはまさに 「ねこのかわいさの拡張」 と言えるでしょう。

そこで今回のテーマは──「どうすればねこのかわいさをさらに拡張できるのか」

このテーマに沿って、3つのプロトタイプをつくってみました。

プロトタイプ1:ねこのさわりごこちの良さをどうやったら伝えられる?

1つめは、「ねこのさわりごこち」の再現です。

ねこって本当にさわりごこちがいいですよね。ふわふわとも違う、サラサラとも違う。でもその感覚は、とても主観的なものです。どうやったら伝わるだろう?と考えました。

そこで着目したのが、電子工作でよく使われる「ピエゾ素子」。衝撃や振動を検知できるこの部品に、直接素材を当てて振動を拾えば、さわりごこちの音を収集できるのではないかと考えました。

ピエゾ素子を、さわりごこちの音を拾える聴診器のような形にデザインし、実際にこのデバイスでねこを撫でてみると、環境音を避けながら毛並みがこすれる「ふぁさふぁさ」という音だけをきれいに録音することができました。


たまに、耳で弾く音も可愛いのですが、とにかくふぁさふぁさしていることが伝わると嬉しいです。

最近ではiPhoneのアクセシビリティ機能に「ミュージックの触覚」というものもあり、音楽に触覚を組み合わせる試みも始まっています。将来的には、ASHBABYのさわりごこちを、スマートフォンの触覚フィードバックを通じてそのまま皆さんに届けられるかもしれません。

Dentsu Lab Tokyoで行っているR&Dプロジェクト「FANTOUCHIE」では、入力された言葉に応じて触感を生成し、振動スピーカーを通じてフィードバックするプロトタイプを開発しています。

この取得したASHBABYのさわりごこちの音を活用すれば、将来的には「ねこのさわりごこち」だけでなく、たとえば絶滅したサーベルタイガーのさわりごこちを想像して再現する、といった試みもできるかもしれません。

プロトタイプ2:ねこ専用のフィルターでもっとねこのかわいさを広げてみたい

TikTokのエフェクトハウスでは、ねこの顔を認識して、ねこ専用のフィルターを作ることができます。プロトタイピングでねこのかわいさをもっと広げることができないか、さまざまなフィルターを作ってみました。

自身で制作したGIFアニメーションを、ねこの顔認識から固有の位置に出現するようにすることで、


お目めを漫画にしてみたり


頭に花を生やしてみたり


耳を伸ばしてみたり


練習でつくった3Dモデルのうんちをのせてみたり……

フィルターがつくだけで、たくさん記録に残したり、みんなに共有したくなるものだなと感じたりしました。

プロトタイプ3:ねこの動きのかわいさを他のものにも乗り移らせられる?


ねこって、毎日見てても飽きないくらい動きがしなやか。そして結構日々同じ動きをしている気もするのに、いつもかわいい。もっとこの動きを日々の暮らしの中の身近なものに入れられないかと思い、実験してみました。例えば、我が家のねこ ASHBABYは、私が帰宅すると必ず迎えに来てくれます。

ではその「迎えに来る」という行動を、家にある別のものに乗り移らせるとしたら何がいいだろう?

考えた結果、ねことサイズ感の近いティッシュボックスに決定。中にラジコンを仕込み、遠隔操作で動かしてみました。

 
 

動きはまだ人間が操作しているためねこの動きには遠く及ばないのですが、それでもなんとなく……迎えにくるティッシュボックスはかわいい。

さらに調べると、ハンガリーの3Dアニメーションスタジオ DIGIC Pictures が、ねこの動きをモーションキャプチャしてアニメーション制作を行った事例が紹介されています(DIGIC Cat Reel)。こうした技術を取り入れれば、もっとリアルな「ねこらしい動き」をティッシュボックスに乗り移らせることもできそうです。

他にも、一緒に遊んでくれたりするのだろうかということで、動くティッシュボックスとねこを遭遇させてもみました。

 
こちらはねこの動き?をローディングできたとは言えないですが、それでもねこの力なのか、いつものティッシュよりも愛着は持って接することができそうです。

もともとこの実験は「ねこのかわいさの拡張」がテーマでしたが、やってみるうちに別の可能性も見えてきました。

室内飼いのねこはどうしても刺激が少なく、運動不足になりがちです。もう一匹迎え入れるという選択肢もありますが、ねこは単独行動を好む動物ですし、相性の問題もあって簡単ではありません。もし日用品がねこの遊び相手になる未来があると、ねこの幸福度もアップするかもしれませんね。

たとえばCat Royaleというアートプロジェクトがあります。これは、ロボットアームがねこに遊びを提供し、その幸福度をモニタリングしながら最適なインタラクションを模索したというものです。結果として、少なくとも過度なストレスは与えない可能性があると示唆されています。

今回紹介した実験は、どれも暮らしの中で生まれたちいさな遊びの延長にすぎません。

けれどもねことテクノロジーが結びつくことで、今までになかったねこの能力のすごさを改めて感じるとともに、新しい体験を生み出すことができるのではないかなと感じています。これからもASHBABYと一緒にちいさな実験を続けていきたいと思います。


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CO2を出さず、燃料輸入も不要…日本発“夢の無限クリーンエネルギー”商用化へ

●この記事のポイント
・Helical Fusionは、日本独自の「ヘリカル型」核融合炉で商用化を目指し、エネルギー安全保障に新たな選択肢を提示している。
・世界がトカマク型やレーザー型に挑むなか、ヘリカル型は安定性・保守性に優れ、実用発電に直結する方式として注目される。
・核融合が社会実装されれば、脱炭素とエネルギー自立を同時に実現し、日本発技術が世界のエネルギー地図を塗り替える可能性がある。

「太陽のエネルギーを地上で再現する」――核融合発電は人類が長年追い求めてきた夢のエネルギー源だ。CO2を排出せず、燃料は海水から採取可能で、廃棄物の管理期間も原子力発電に比べて格段に短い。もし実用化されれば、地球規模のエネルギー問題を一変させるポテンシャルを持っている。

 その核融合に「ヘリカル型」という方式で挑むのが、株式会社Helical Fusionだ。同社は社名に「ヘリカル」を冠し、研究者とビジネス人材が結集して2021年に設立。日本が誇る国立研究機関「核融合科学研究所」の20年以上にわたる研究成果を引き継ぎ、商用化にまい進している。

 同社に、核融合の基本から、なぜ同社が「ヘリカル型」にこだわるのか、その理由と展望を伺った。

●目次

核融合とは ーー「地上に太陽をつくる」

 まず、核融合の基本から整理しておこう。現在、我々が使っているエネルギーの多くは「太陽由来」だ。太陽光発電はもちろん、風力や水力も大気や水の循環を動かす太陽エネルギーの間接利用である。石炭や石油といった化石燃料も、太古の太陽エネルギーが生物に蓄積されてできたものだ。

 核融合は、その「元」である太陽そのものを地上に再現する発電方式だ。水素の同位体である重水素や三重水素を1億度以上に加熱し、プラズマ状態にすると原子核が融合してエネルギーを放出する。このとき生じる高エネルギーの中性子を壁(ブランケット)にぶつけ、熱に変換し、タービンを回して発電する仕組みである。

 広報担当の吉村奈保氏は次のように説明する。

「核融合は暴走するリスクがなく、燃料は海水から取れます。放射性廃棄物も数十年から百年ほど管理すれば再利用可能で、原子力発電のように1万年単位で残ることはありません。持続可能なベースロード電源として世界を根本から変える可能性があります」

世界の主流「トカマク型」と「レーザー型」の壁

 現在、世界で主流とされるのは「トカマク型」だ。ドーナツ型の装置で磁場を作り、プラズマを閉じ込める方式で、多くの国際共同プロジェクトが進んでいる。しかしトカマクには大きな課題がある。

「最大の問題は、プラズマが突然消える“ディスラプション”と呼ばれる現象です。原因が完全には解明されておらず、発電炉そのものを壊しかねないリスクを抱えています。つまり、安定した商用運転に至るまでには、まだ科学的に乗り越えられていない壁があります」

 一方、レーザー方式は小さな燃料ペレットに高出力レーザーを照射して核融合を起こす。実験室レベルで「投入したエネルギー以上を出した」と話題になったが、吉村氏は冷静に語る。

「システム全体で見れば効率はまだ0.01程度。さらに規模を大きくすれば、どれだけエネルギーを出せるかという“スケーリングモデル”も確立されていません。商用化までは長い道のりが残っています」

「ヘリカル型」こそ持続可能な選択肢

 こうしたなかでHelical Fusionが選んだのが「ヘリカル型(ステラレーター)」だ。岐阜県の核融合科学研究所、その前身にあたる京都大学や名古屋大学を含めると約70年研究が重ねられてきた方式で、世界最大級の実験装置「LHD(Large Helical Device)」で実証が積み重ねられてきた。

「ヘリカル型は、他方式が抱える致命的な欠陥を持ちません。特に大きいのは“安定性”です。磁場をねじれたコイルで作ることで、プラズマを自然に閉じ込められる。トカマク型のようにプラズマ自体に流す電流を制御し続けなくても、いったん起動すれば安定して燃焼を維持できます」

 吉村氏によれば、商用化のためには3つの条件を満たす必要がある。

 1.定常運転 ― 365日24時間、安定して電気を出し続けられること
 2.正味発電 ― 入力した以上の電力を外部に供給できること
 3.保守性 ― 短期間のメンテナンスで高い稼働率を維持できること

「ヘリカル型は、この三要件を唯一、すべて満たせる方式だと考えています。特に保守性については、他の方式は必ずしもメンテナンスまで見通せているものばかりではないなか、私たちは“実用発電”を見据え、最初からこの視点を重視しています」

日本にとっての意義 ― エネルギー安全保障の切り札

 核融合の実用化は、単なる技術革新にとどまらない。日本にとっては国家戦略に直結する。

「日本はエネルギー資源の8割以上を輸入に頼っています。核融合が実用化すれば、他国から燃料を輸入せずとも高効率なエネルギーを確保できるので、エネルギー自給率を一気に引き上げられる。ひいてはエネルギーを輸出する立場に転換できる可能性もある。これは国家の安全保障にとって極めて重要な意味を持ちます」

 再生可能エネルギーも注目されているが、天候や立地に依存するため安定的なベースロード電源にはなりにくい。核融合こそが、持続可能で安定した電源の切り札となる。

 核融合研究は長らく「科学」の領域にあった。どうすれば核融合反応が起きる条件をつくって保持できるのか、その基本的な仕組みを解き明かす段階である。しかし吉村氏は「ヘリカル型はすでに科学的な段階を超え、工学フェーズに入っている」と強調する。

「プラズマを1億度以上に加熱し、安定して維持することはすでに実証済みです。残る課題は、いかに効率よく発電に結びつけるか、そして商用炉として経済性を持たせるか。この段階は“サイエンス”ではなく“エンジニアリング”です。日本のものづくりの強みが生きる領域に、ようやく核融合が到達しました」

Helical Fusionの挑戦

 Helical Fusionは、核融合科学研究所の研究者たちとビジネス人材が中心となり、「「国によって実用化直前まで進められた研究を引き継いで、社会に還元する」という強い使命感から誕生した。

「豆電球1つを点ける実験にとどまらず、商用化して人類の歴史の転換点をつくる」。私たちはそのために会社を立ち上げました。ゴールは明確で、“人の役に立つ電源”をつくること。その実現に向けて、情熱を持って挑んでいます」

 夢のエネルギーを現実のものとするために世界が多様な方式で核融合の商用化を目指すなか、Helical Fusionは日本独自の研究成果を起点に、「実用発電」という明確なゴールへと挑戦を続けている。日本発の技術が、地球規模のエネルギー構造を変える日も遠くないかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)