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「脱・中国レアアース」はどこまで可能か…住友鉱山・双日が東南アジアへ照準
●この記事のポイント
中国が2026年1月に対日輸出管理を強化するなか、住友金属鉱山はフィリピン産原料でレアアースを2割増産、双日は豪州ライナス社と重希土類の日本向け供給を拡大。真のボトルネックである「精錬工程」の中国依存(世界シェア91.7%)をいかに解消するか、東南アジアを軸とした日本の新資源戦略を検証する。
2026年1月6日、中国商務部は軍民両用(デュアルユース)品目の対日輸出管理強化を即日施行した。レアアースを含む戦略物資が実質的な輸出審査の厳格化対象となり、日本の製造業は改めて「中国依存」という構造的リスクと向き合うことを余儀なくされた。
野村総合研究所および大和総研の産業連関分析によれば、中国からのレアアース輸入が3カ月停止した場合の経済損失は約6,600億円、1年間の完全停止では2.6兆円に上ると試算されている。自動車の納期遅延、家電・電子機器の在庫逼迫、そして2010年の尖閣危機時に実際に起きた数倍規模の価格高騰——その悪夢の再来が現実の政策リスクとして浮上したのである。
こうした危機感を背景に、日本企業の行動は加速している。2026年5月には、住友金属鉱山がフィリピン産原料を活用して燃料電池向けレアアースを約2割増産する計画が明らかになった。双日もオーストラリア最大手のライナス・レアアースと連携し、ベトナムやマレーシアを含む豪州内外での新鉱山開発の共同検討を2026年3月に発表している。「豪州一本軸」から「東南アジアへの分散」へ——日本のレアアース調達戦略は、新たな局面を迎えている。
●目次
なぜ今、東南アジアなのか
これまで日本の「脱中国」戦略の主軸は豪州だった。双日とJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が2011年から共同出資するライナス社は、豪州マウント・ウェルド鉱山で採掘し、マレーシアで精製する「中国を経由しないサプライチェーン」として機能してきた。しかし、単一拠点への集中はそれ自体が新たなリスクとなり得る。今回の東南アジアシフトには、3つの構造的な背景がある。
① 地政学的な「フレンドショアリング」の論理
経済安全保障の文脈で注目される「フレンドショアリング(友好国・同盟国間でのサプライチェーン構築)」の観点から、ASEAN諸国は日本にとって地政学リスクが相対的に低い。親日的な政治環境を持つベトナムやフィリピンは、2010年代以降、レアアース調達の候補地として繰り返し検討されてきたが、技術・資金不足から開発が進んでいなかった「未開のフロンティア」でもある。
② 重希土類への切り込みが急務に
今回の動きが過去の「採掘だけの調達」と大きく異なるのは、EV用モーターに不可欠なジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重希土類(重レアアース)の確保に踏み込んでいる点だ。双日は2025年10月に豪州由来の重希土類の日本向け輸入を初めて開始し、2026年のサマリウムを皮切りに品目拡大を続ける方針だ。ライナスとの長期供給契約も更新され、今後はライナス生産量の最大75%が日本向けに供給される取り決めとなっている。
③ 中国による輸出管理の「多層化」が拍車をかけた
中国の輸出規制は単発のものではない。2023年8月のガリウム・ゲルマニウム、2024年9月のアンチモン、2025年4月のサマリウム・ジスプロシウム等7元素への規制強化と、段階的かつ体系的に管理が強化されてきた。さらに2025年10月には「中国由来の技術や素材を使って中国外で製造した製品」にまで規制を及ぼす「域外適用」が公告された(その後、米中首脳協議を経て2026年11月まで暫定停止)。この動きは、「採掘を中国外に移すだけでは不十分」という現実を突きつけている。
問題の本質は「精錬」にある
ここで改めて確認すべき構造的事実がある。IEA(国際エネルギー機関)の2024年データによれば、中国はレアアースの世界精錬量の91.7%を占める。米地質調査所(USGS)によると、採掘段階でも中国のシェアは約69%だが、真のボトルネックは精錬工程にある。
鉛筆1本が製品になるには「木材の加工」が必要なように、レアアースは採掘した鉱石から不純物を取り除き、酸化物・金属・合金へと変換する精製工程を経て初めて産業利用が可能になる。その「加工する工場」のほぼすべてが中国に集中しているのが現状だ。
「採掘地を中国から移しても、精錬を中国に委託していては意味がない」——これが今次の東南アジア戦略が乗り越えようとしている本質的な課題である。今回の住友金属鉱山・双日の動きが評価される点は、採掘だけでなく、マレーシアやフィリピン等での精錬工程を含むサプライチェーンの「川上から川中」にわたる一貫体制の構築を目指していることだ。
「精製の脱中国化こそが、日本のレアアース安全保障の核心です。採掘地の多様化は必要条件ですが、それだけでは十分条件を満たしません。豪州やASEANに精製能力を分散させることで初めて、中国が蛇口を閉めても産業が止まらない体制が完成します」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)
「脱中国60%」の現実と、残された2つの壁
日本はこの問題に対して、以前から継続的な取り組みを重ねてきた。2010年の尖閣問題当時、中国依存度は約90%に達していたが、調達先の多様化や代替技術の開発を経て、現在は約60%程度まで低下している(野村総合研究所推計)。この軌跡は評価に値するが、現在進行形の輸出規制の圧力を前に、60%という数字はまだ脆弱だ。
壁① コストの現実
東南アジアや豪州でのレアアース精製は、中国産に比べてコスト競争力で劣る。中国が数十年にわたる国家主導の産業集積と環境コストを度外視した価格設定で世界市場を席巻してきたことを考えれば、当然のことでもある。現在は経済安全保障推進法に基づく政府補助金が競争力の穴を埋めているが、長期的には補助なしで自立できる産業構造を構築できるか否かが問われる。
壁② 重希土類の偏在という地質的制約
EVモーターの耐熱性を向上させるジスプロシウムや、磁力を高めるテルビウムといった重希土類は、中国南部(江西省)やミャンマー国境周辺に偏在するイオン吸着型鉱床から主に採掘される。軽希土類(ネオジムなど)の代替ルートは着実に整備されつつあるが、重希土類については依然として「中国依存ほぼ100%」という品目が残る。
双日が進めるライナスとの連携は、この重希土類の調達多様化に正面から取り組むものとして意義深い。ライナス社はマレーシアの精錬施設でコマーシャルスケールの重希土類分離精製を2025年中旬から開始しており、これは中国以外では世界初の事例である。
商社と政府が打つべき次の一手
民間商社の役割は、かつての「資源の買い付け(トレード)」から、現地でのESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した開発・操業を主導する「事業投資型」へと完全にシフトしつつある。双日がライナスとJOGMEC共同出資の枠組みで資本参加してきた軌跡は、まさにその好例だ。
政府側では、JOGMECによるリスクマネーの提供と外交的バックアップが不可欠だ。さらに、2026年2月には探査船「ちきゅう」が南鳥島沖の水深約5,700mの海底からレアアース泥の引き上げに世界初めて成功し、商業採掘に向けたロードマップが加速している(商業化目標は2030年頃)。海底資源が実用化されれば、日本は長期的な供給自律性を大幅に高めることができる。
もう一つの「脱中国」軸として見逃せないのが、代替技術の開発だ。国内外の自動車・電機メーカーが進める「レアアースフリーモーター」の技術開発は、需要サイドからの依存低下を促す補完的戦略として極めて重要である。調達多様化(サプライ側)と技術革新(ディマンド側)の両輪を同時に進めることが、最も合理的なリスクヘッジとなる。
「クリーンな供給網」という新たな競争優位
東南アジアを軸とした今回の動きは、単なる「中国リスクからの逃避」ではない。より長い時間軸で見れば、ESG基準に準拠したクリーンなサプライチェーンを確立することは、EV・半導体・防衛産業において欧米市場から要求されるサプライチェーンの透明性・環境適合性への対応でもある。
欧米では、中国産レアアースを回避した「グリーン・サプライチェーン」に対するプレミアム評価が高まりつつある。環境負荷の低い精錬プロセスと産地のトレーサビリティを確立した日本発の供給体制は、価格競争力ではなく品質・信頼性での差別化を可能にする武器となり得る。
中国依存度60%からの脱却は一夜にして達成されるものではない。しかし住友金属鉱山の増産、双日とライナスの重希土類への踏み込み、南鳥島の深海探査——これらの動きが積み重なることで、日本のレアアース安全保障の地図は確実に塗り替えられつつある。問われているのは、目先の価格よりも「供給が止まったとき何が失われるか」を問い続ける、長期的な戦略眼だ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)
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就業者7人に1人が65歳以上…急増する高齢労働者と、水面下に沈む「隠れ労災」
●この記事のポイント
65歳以上の就業者が930万人と過去最多のなか、60歳以上が労働災害死傷者の約3割を占める。にもかかわらず「加齢のせい」「持病があるから」という誤解や、非正規雇用者の申請忌避により隠れ労災が多発。労災認定に年齢は無関係で、既往症があっても業務起因の悪化は補償対象となる。申請の4ステップと企業側の安全配慮義務違反リスクも解説。
総務省の労働力調査によると、2024年の65歳以上の就業者数は930万人と過去最多を更新し、21年連続で増加が続いている。就業者全体に占める割合は13.7%と過去最高で、いまや職場の7人に1人は65歳以上だ。65〜69歳に絞れば就業率は53.6%に達し、この年齢層では2人に1人以上が現役として働いている計算になる。
一方で、この高齢就業者の増加に比例するように、労働災害(労災)の件数も高止まりしている。厚生労働省が公表した2023年の労働災害発生状況によると、休業4日以上の死傷者数は13万5371人と3年連続で増加。そのうち60歳以上が占める割合は29.3%に上る。雇用者全体に占める60歳以上の割合(18.7%)と比べても、被災の比率が明らかに高いことがわかる。
発生率を1000人当たりで見ると、その差はさらに鮮明だ。労働政策研究・研修機構(JILPT)の分析では、60歳以上の死傷年千人率は男性3.91、女性4.16。30代男性(約2.0)と比べて約2倍、30代女性(約1.0)と比べると約4倍という水準である。事故の種類別では、女性の「転倒による骨折等」の千人率が60歳以上(2.41)は20代(0.16)の約15倍という衝撃的な数字も出ている。
それにもかかわらず、現場では「老化のせいだから仕方ない」「持病があるから労災にはならない」と思い込み、申請すらしない”隠れ労災”が相当数発生していると専門家は指摘する。この認識の歪みこそが、高齢労働者が本来受けるべき補償を受けられない最大の障壁になっている。
●目次
- なぜ高齢者は労災申請を諦めてしまうのか——3つの「誤解の構造」
- 年齢は一切問われない——労災認定の2つの原則
- 現場でケガをしたら——絶対に抑えるべき「4つの即応ステップ」
- 経営者・人事担当者が知るべきリスク——「労災隠し」は犯罪行為
- 「生涯現役時代」に必要なのは、正しい知識という安全網
なぜ高齢者は労災申請を諦めてしまうのか——3つの「誤解の構造」
誤解①「加齢のせい」という自己責任論
階段でつまずいた、重い荷物を持ち上げたら腰を痛めた——こうした場面で「足腰が弱くなったせい」「自分の不注意」と片付けてしまう高齢者は少なくない。しかし労災認定の本質は「どこで起きたか」「何をしていたときに起きたか」であって、「なぜ起きやすかったか」の体質論は問わない。
社会保険労務士の松田美里氏はこう語る。「高齢だから転倒しやすい、というのは素因ではありますが、それは加害の側の問題ではなく、だからこそ職場が環境を整備すべきという話です。業務中に起きた事故であれば、年齢は関係なく業務起因性の判断をします」
誤解②「持病・既往症があるから無理」という諦め
腰痛持ち、高血圧、変形性膝関節症——ある程度の年齢になれば既往症のひとつやふたつは珍しくない。だが「持病があるから労災にはなれない」というのは明確な誤解だ。もともとの症状が業務によって「著しく悪化(増悪)」した場合も、労災の対象になる。これを「相当因果関係」と呼ぶ。
「既往症があること自体は、労災認定の否定要件にはなりません。問題は、業務がその症状を悪化させるほどの負荷をかけたかどうかです。そこは医師の意見書と就労状況の記録が重要な判断材料になります」(松田氏)
誤解③「非正規だから」「雇い止めが怖い」という心理的抑圧
65歳以上の就業者のうち、役員を除く雇用者の大半は非正規形態だ。「迷惑をかけたくない」「申請したらクビになるかもしれない」という心理は、特に立場の弱い高齢の非正規労働者に根強い。
しかし事実として、パートやアルバイトを含む「労働者」はすべて労災保険の対象であり、雇用形態は問わない。さらに重要なのは、労災申請を理由とした解雇は労働基準法第19条で禁じられているという点だ。この法的保護について、多くの高齢労働者が認識していないのが現状である。
年齢は一切問われない——労災認定の2つの原則
労働者災害補償保険法における労災認定は、以下の2原則に基づく。
1.業務遂行性:使用者の支配・管理下にある状態で発生した災害か。就業中や待機中なども含まれる。
2.業務起因性:業務とケガ・病気の間に相当因果関係があるか。
この2つの条件を満たせば、年齢・雇用形態・国籍・在職期間を問わず、原則として労災と認定される。労働基準監督署が審査するのは「業務が原因かどうか」であり、「何歳だったか」ではない。
「高齢を理由に認定を断ったり、申請を諦めさせようとしたりする行為は、そもそも法的に正当な根拠がありません。申請後に労基署が本当に年齢を問題にするケースは、私の経験上ほとんどありません。問題は申請にたどり着けないことにあります」(同)
現場でケガをしたら——絶対に抑えるべき「4つの即応ステップ」
万が一の事態に備え、行動の手順を確認しておこう。
ステップ1:すぐに報告し、状況を記録する(発生直後)
どんな軽傷でも、その場で上司や同僚に口頭報告する。目撃者がいれば氏名を控え、スマートフォンで現場の写真を撮っておく。「いつ・どこで・どんな作業中に・どう負傷したか」を簡潔にメモするだけで、後の申請プロセスが大きく変わる。
ステップ2:受診時に「仕事中のケガです」と明告する
病院の受診窓口で必ず「業務上の怪我です」と伝える。ここで重要なのは健康保険証を使わないことだ。労災指定病院であれば窓口での自己負担はゼロ。指定外の病院でも一時立替払いの後、全額が返還される仕組みになっている。
なお、誤って健康保険を使ってしまった場合も、後から労災へ切り替える手続きが可能なケースがある。気づいた段階で病院または加入中の健康保険組合に相談するとよい。
ステップ3:医師に業務と負傷の因果関係を正確に伝える
持病がある場合は特に、「この業務によってこのような動作をした結果、以前からあった症状が急激に悪化した」という経緯を診察時に丁寧に説明する。この情報が医師の「意見書」に反映されるかどうかが、労基署の判断を左右する重要な分岐点になる。
ステップ4:労働基準監督署に申請書を提出する
会社が手続きを拒否・放置している場合でも、労働者本人が直接、所轄の労働基準監督署に申請することができる。申請書類(休業補償給付なら様式第8号など)は厚生労働省ウェブサイトからダウンロード可能で、窓口でも入手できる。
会社が「事業主証明」を拒んでいる場合も、その旨を労基署に申し出れば受理される。「会社が協力してくれないから申請できない」は誤解であり、あきらめる必要はない。
経営者・人事担当者が知るべきリスク——「労災隠し」は犯罪行為
企業の管理職や経営者にとっても、この問題は対岸の火事ではない。
まず明確にしておくべきは、労災を隠蔽すること自体が犯罪行為だという事実だ。労働者死傷病報告書の不提出や虚偽記載は労働安全衛生法違反(同法第100条・第120条)に該当し、書類送検・罰金刑の対象になる。実際に過去には、派遣先・派遣元の担当者が連名で書類送検された事例もある。
加えて、高齢労働者が被災した際に問われるのが安全配慮義務(労働契約法第5条)だ。高齢者特有の身体的特性——視力・筋力・反応速度の低下、熱中症への脆弱性——を考慮した職場環境の整備を怠り、その結果として労働災害が発生した場合、会社は民事上の損害賠償責任を負う可能性がある。具体的には、段差の解消・手すりの設置・適切な休憩の確保・熱中症対策といった物的・人的整備が求められる。
「高齢労働者が増えるほど、企業のリスク管理において安全配慮義務の比重は高まります。コストとして捉えるのではなく、戦力として活躍してもらうための投資として考えるべき視点が今後ますます重要になります」(同)
なお、厚生労働省が策定した「第14次労働災害防止計画(2023〜2027年度)」では、高年齢労働者の死傷者数を2022年比で5%以上減少させることを目標に掲げている。企業として、この流れに積極的に対応していくことが、採用競争力の観点からも合理的な判断といえる。
「生涯現役時代」に必要なのは、正しい知識という安全網
高齢就業者930万人時代の日本において、労働災害は「若い人の問題」ではなくなっている。60歳以上の労働者が全死傷者の約3割を占めるという現実は、社会全体で認識されるべきデータだ。
しかし、それ以上に深刻なのは、本来受けられるはずの補償を「年を取ったせい」「持病があるから」「会社に申し訳ない」という思い込みで手放してしまっている高齢者が潜在的に多く存在することかもしれない。
労災保険は、業務によって生じたすべての労働者の傷病を、年齢や雇用形態を問わず補償する仕組みとして設計されている。「働くすべての人に等しく機能する制度」であることを、労働者側も企業側も改めて認識しておく必要がある。
生涯現役を支える社会インフラの柱のひとつは、正しい知識を持つことから始まる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松田美里/社会保険労務士)