首都圏の新築マンション、ついに年内、値下がりの兆候?売り出し価格と成約価格の差が拡大

●この記事のポイント
・新築マンションの発売から成約までの期間が徐々に長くなり、100日を超えた
・一部ではリセールバリューが購入時より低下するエリアも出始め
・専門家は「年内の秋頃から冬頃にかけて、値下がりが始まる可能性がある」と指摘

 値上がりを続けてきた首都圏のマンションに異変が起きている。新築マンションの発売から成約までの期間が徐々に長くなり、一つの目安となる100日を超えた。加えて、一部ではリセールバリューが購入時より低下するエリアも出始めているという。専門家は「年内の秋頃から冬頃にかけて、値下がりが始まる可能性がある」と指摘する。住宅販売市場に起きている変化について追ってみたい。

●目次

発売から成約までの期間が長くなりつつある理由

 発売から成約までの期間が長くなりつつある理由について、住宅ジャーナリストの山下和之氏はいう。

「価格が高くなりすぎているなど、買う側にとっていろいろ問題が生じているということではないでしょうか。価格が高くなれば、多額のローンが必要になり、ローンの手当てに時間がかかる、場合によってはローンが下りない。例えば5000万円のローンを組む予定だったのが、それでは足りなくなって6000万円組まないと買えなくなり、銀行は『あなたの年収では6000万円は組めません』と判断するケースなどです。そうなると購入検討者は自己資金を増やす必要があり、親に頼み込んだり他の銀行に貸してくれるよう交渉したりと時間がかかる。場合によっては、購入をやめたり、価格を下げて物件を再検討したり、エリアを変えるといったことが必要になってきます。たとえば、築20年の中古マンションを買おうと思っていたけど、価格が上がって買えないので、築30年、40年の物件まで選択肢を広げてみるという人もいるでしょう。

 東日本不動産流通機構が公表している築年別の成約価格をみると、築5年未満の築浅マンションのほうが、新築マンションより高いという例も出ています。なぜかといえば、新築マンションの供給が少なくなって、エリアによっては新築マンションが出てこないので、新築の相場よりも高い価格で取引されるような現象が起きているのです。ですが築10年を超えると段階的に下がってきて、築30年以上になると首都圏でも2000万円ぐらいにまで下がり、築浅マンションの3分の1くらいの価格で買えるようになります。買う側は、こうしたことを検討する時間が必要になってきており、成約までの時間が長くなってきています。

 2000~22年にかけては、販売から成約までの平均期間が70~80日くらいで、ミニバブルといえる状況で住宅価格が急速に上がり、多くの人が『早く買っておかないといけない』と買い急ぐ傾向が強くなりました。ですが23~24年に入ると高くなりすぎて『もう手が届かない』ということで購入が難しくなってきています。この状況はおそらく今年も続くでしょう。

 都心の2~3億円する超高層マンションは外国人も含めた超富裕層が現金で買うので、相変わらず発売後すぐに売れます。一方で、一般の人々が買うような5000~6000万円レベルの物件は、年内に価格はほぼ天井を打って横ばいから多少下がる傾向も出てくると思いますが、それでもまだ高いので、発売から成約までの日数は長くかかると考えられます」

リセールバリューが下がっているエリアも

 首都圏でも一部でリセールバリューが下がっているエリアが出てきてる。

「東京カンテイのデータでは、首都圏にある駅のうち10年前に分譲されたマンションのリセールバリューが下がっているのは9駅。山手線の内側は概ね1.5倍以上、都心5区だと2倍くらいになっています。下がっているのは本川越駅(西武新宿線)や東浦和駅(JR武蔵野線)などで、理由としては、分譲時に駅名につられて割高な価格が付けられていた可能性が考えられます。浦和は、さいたま市の中でも文教エリアとして住宅価格の相場は高いですが、東浦和駅は住所としては浦和区ではなく、駅名に『浦和』という地名が入っているため、浦和区の相場に基づいて、本来の実力以上の値付けがされていたのかもしれません。

 同じく埼玉県でいえば、例えば大宮駅周辺は人気エリアで価格が高いものの、一駅離れればぐんと安くなるのですが、なかには“大宮価格”で売り出されている物件があるかもしれません。ですので住宅を購入する際には、そうした値付けに騙されないように注意したほうがよいでしょう」(山下氏)

首都圏の住宅価格の下落が始まる可能性

 発売から成約までの期間の長期化や一部エリアでのリセールバリューの低下は、首都圏の住宅価格の下落が始まる兆候と捉えることはできるのか。

「年内、秋頃から冬頃にかけて値下がりが始まる可能性があると考えています。首都圏のマンションは駅から徒歩5分圏内であることが資産価値を維持するための条件ですが、徒歩5分圏内ではなかなか確保しづらくなっています。徒歩10分圏内まで選択肢を広げる人が増えていますが、戸建ては別として、マンションであれば徒歩5分圏内にこだわることをお勧めしています。

 東日本不動産流通機構が公表しているデータによれば、過去1年間、新規登録価格、つまり売り出し価格は右肩上がりが続いている一方、成約金額はほぼ横ばいで、その差が徐々に開いており、成約価格が新規登録価格を1割ほど下回っているケースが増えています。要するに、それだけ値引き交渉が行われ、売主や販売業者が値下げを受け入れているということなんです。販売業者は売り出しから成約までの日数が長くなってきていることもあり、かつ『こんな高い価格では買えません』という人が増えているので、年内には成約価格もそろそろ頭打ちになって、下がっていくと思われます。

 数年前まで新築マンションは『買った瞬間に2割下がる』というのが常識でしたが、ここ数年は急速に価格が上がって、それが通用しなくなっており、今は局地バブルといえる状況です。それがそろそろ今年から来年にかけて終わる、通常の状態に戻り始める可能性があります。ですので、これから買う人は『いつまでも上がる』と思って買わないでください。東京23区で駅から徒歩5分以内のタワーマンションや大手不動産会社が手掛ける大規模マンションは別として、そうでないごく普通の小規模物件や大手不動産業者以外が手掛けるマンションは下がっていくかもしれません。

 また、建築費が上がっているので、これまでと同じ価格レベルを維持したまま、70平米を65平米にしたり、設備のスペックを落としたり、天井の高さを2.5mから2.45mに低くしたりと、わかりにくいところで、こっそり物件のレベルを下げるということが、すでに行われ始めています。先日見学にいった200戸クラスのマンションでも、キッチンのディスポーザーがありませんでした。こういったかたちで、売り出し価格を維持したまま、実質的には物件の価値が下がるということが広がるかもしれません」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=山下和之/住宅ジャーナリスト)

訪日客、7月として過去最多に=343万人、学校休暇で増加―日本政府観光局

 日本政府観光局が20日発表した7月の訪日外国人数(推計値)は、前年同月比4.4%増の343万7000人となった。同月として過去最多だった2024年の329万2602人を大きく上回った。

 学校の休暇に合わせた来日が増え、中国や台湾、米国、フランスを中心とした訪日客が全体を押し上げた。一方、日本で地震が発生するとの情報がSNSで拡散された香港や韓国からの旅行客は2ケタ減となった。

 国・地域別で最も多かったのは中国で、25.5%増の97万4500人。次いで韓国が10.4%減の67万8600人、台湾が5.7%増の60万4200人、米国が10.3%増の27万7100人と続いた。

 このうち台湾は、航空便の新規就航や増便の効果もあり、訪日客数が単月としての過去最多を更新した。また、米国やフランス、インドネシアなどは7月として過去最多だった。一方で、香港は台風による航空便の欠航も影響し、36.9%の大幅減だった。

 また、7月に海外に出国した日本人数(推計値)は前年同月比14.9%増の120万5500人となった。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/20-18:17)

ジャパンブランドウイークリーチャート

image

(2025年8月20日更新)

日本食材のイメージ

海外生活者が日本食材に抱くイメージは、「おいしい」「新鮮」「高品質」といった要素が強く、総じて非常にポジティブです。これは食材そのものの品質に加え、「日本で生産された」という産地としての付加価値も評価されていると考えられます。一方、国・地域による認識の差も大きく、輸出先ごとに精緻なマーケティング戦略が求められます。

他国食材との差別化要素として、「うま味」はしばしば重視されます。1908年、昆布だしからその主成分であるグルタミン酸が発見され、これがうま味の正体とされました。その後、「UMAMI」という日本語が英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語などでも一般名詞化し、世界に広まりました。

しかし、うま味は甘味・酸味・塩味・苦味のように、万人に直感的に理解される味覚とは限りません。ジャパンブランド調査では、香港ではうま味の理解度が突出して高い一方、韓国や英語圏では必ずしも浸透していないことが明らかになりました。これは、「和食=うま味」という国内の常識が、海外では必ずしもそのまま通用しないことを示しています。

ソフトパワーの比較

生活者視点で一国の魅力度を、「居住意向」「就労意向」「留学意向」「旅行意向」「ビジネスパートナーとしての協業意向」の5軸で評価すると、地域ごとの差異は少なくありません。比較対象国と比べ、日本が優位に立てるかという問いに対しては、感覚と実際のデータがしばしば異なる結果を示しています。

来訪者数が最も多い東アジアからの評価では、全体的にシンガポールが優勢です。特に就労意向においては、シンガポールが日本を大きく上回りました。背景には、給与水準や購買力の高さ、低い所得税率、高付加価値産業の集積、言語や多文化の受容度、そしてキャリア形成の可能性など、経済・社会制度・生活環境が複合的に影響していると考えられます。


(2025年8月13日更新)

再び訪れたいという満足度指標

この10年間で、インバウンド(訪日観光)は市場規模・来訪者数ともに急拡大しました。来訪者の約7割は近隣地域からとなっており、リピート率の高い国・地域やアジアパシフィックエリアを中心に、再訪日観光の意向も高水準を維持しています。

なお、本チャートで紹介している再訪意向は、海外旅行経験者を対象とした訪問経験のある旅行先(国・地域)への再訪意向を複数選択・水平比較したものであり、訪日経験者に限定した日本への再訪意向ではありません。

image

地方観光への期待

オーバーツーリズムの軽減と地方創生の実現を同時に満たす対策として、地方送客が代表的な手法として注目されています。難易度の高い地方分散を実現するためには、それぞれの地域にあった戦略と戦術の構築が求められており、特に地方観光における観光資源の再発見・再編集が重要と考えられます。そのためには、海外の消費者が求める可能性のある観光資源について、定期的かつ切口別の把握が必要です。

具体的には、属性軸において、リピーターとのエンゲージメントづくり、対日関心度・理解度の高い人の誘致戦略が不可欠です。また、体験軸においては、季節性を生かした自然景観、心身ともにリラックスできる環境、観光資源としてのローカル電車・バス、各地域の名湯、歴史を感じさせる街並み、地元でしか味わえない郷土料理、ガストロノミー体験などが挙げられます。これらの要素から読み取れるのは、物質的な豪華さよりも、その土地ならではの景観的・文化的な豊かさを五感を通じて提供できるかが重要であるという示唆です。


問い合わせ先:
ジャパンブランドプロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp
 
※注記・免責事項
1.本記事における対象国・地域の名称表記は日本国内の読者を想定対象とし、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものになります。
2.本調査における国・地域の名称表記は、統計上または分析上の便宜を目的としており、いかなる政治的立場や見解を示すものではありません。
3.本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
4.本調査で使用した地図(世界地図および日本地図)は分析内容やページのレイアウトに合わせて一部修正・加工・トリミングを行っており、必ずしも国境線および国土範囲を正確に反映したものとは限りません。
5.各国・地域とも性年代別に均等割付で標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施。
6. 本調査の図表作成において、分析対象となる国・地域名は一部例外を除き、国際基準ISOカントリーコード(ISO 3166-1 alpha-2)を使用しています。
アメリカ/US、カナダ/CA、オーストラリア/AU、イギリス/UK、ドイツ/DE、フランス/FR、イタリア/IT、スペイン/ES、サウジアラビア/SA、アラブ首長国連邦/UAE、インド/IN、インドネシア/ID、シンガポール/SG、マレーシア/MY、フィリピン/PH、タイ/TH、ベトナム/VN、中国本土/CN、香港/HK、台湾/TW、韓国/KR

なぜ市場急拡大の縦型ショートドラマにドコモも参入?「ドラマはスキマ時間の3分で見る」が主流に

●この記事のポイント
・スマートフォンでの視聴を前提として制作される縦長型のショートドラマが急増
・「BUMP」「FANY:D」「POPCORN」など専用の配信アプリもダウンロード数・再生数が伸長
・撮影にかかるスタッフ数や期間も大幅に短くなり、同じコストで多くの作品を生み出せる

 一般的なテレビのスクリーン形状に合わせた横長型のテレビドラマと異なり、スマートフォンでの視聴を前提として制作される縦長型のショートドラマが急増している。従来のテレビドラマの多くは一話あたりの長さが30分~1時間程度だが、縦型ショートドラマは数分程度なので、ちょっとしたスキマ時間に視聴できるのも特徴。「BUMP」「FANY:D(ファニーディー)」「POPCORN」など縦型ショートドラマ専用の配信アプリもダウンロード数・再生数を伸ばしている。同じく「縦型」の漫画専用アプリと同様に、初めの数話を無料で視聴できるようにして、途中回から有料になるというものが多い。縦型ショートドラマの世界市場は、2029年には556億ドル(8兆円超)の規模にまで成長するとの予測も出ている(市場調査会社YH Researchより)。なぜ新規参入が相次ぎ市場が拡大しているのか。また、収益化という面ではどのようなビジネスモデルとなっているのか。運営企業への取材をもとに追ってみたい。

●目次

なぜNTTドコモがショートドラマ?

 自社制作のドラマが日本航空(JAL)の国内線・国際線の機内エンターテインメントにも採用されている「BUMP」は今年4月、ローンチから2年強で総ダウンロード数200万を突破。運営会社のemoleは2018年の設立。今年2月にローンチした「POPCORN」を運営するGOKKOは22年の創業で、縦型のスクリーンに合わせたセットをいくつも並べた自前の収録スタジオを持ち、企画から制作・配信までを全て自社で行っている。

 スタートアップであるこの2社と“生い立ち”が異なるのが、「FANY:D」を運営するNTTドコモ・スタジオ&ライブだ。自社・他社向けの映像コンテンツ制作事業や音楽IP事業を手掛ける同社は、大手通信会社・NTTドコモと大手芸能プロダクション・吉本興業のグループ企業が共同出資して23年に事業を開始。24年12月にスタートアップのMintoと共同で「FANY:D(ファニーディー)」をローンチした。

 携帯電話事業を手掛けるNTTドコモが、なぜ映像コンテンツ関連事業を手掛ける企業を設立したのか。NTTドコモ・スタジオ&ライブは次のようにいう。

「これまでNTTドコモと吉本興業が『FANYチャンネル』の共同運営など一緒に取り組みを行ってきたなかで、吉本興業の持つ映像コンテンツや制作ノウハウと、ドコモの持つ映像配信サービス『Lemino』をはじめとしたプラットフォームや顧客基盤を掛け合わせて、エンターテイメントビジネスをさらに拡大することを目的とし当社を設立しました。さまざまなパートナーやクリエイターとともに、世界基準のコンテンツを生み出していきたいと考えています」

 同社の強みは「吉本興業のコンテンツ、制作能力とNTTドコモのビジネスネットワーク力を合わせ、市場にマッチングしたコンテンツを素早く制作配信できるところ」だというが、そもそも、なぜショートドラマの制作・配信に力を入れているのか。その背景や狙いが気になるところだ。

「スマホのコンテンツ消費が増えているなかで、スマホのスクリーンと消費行動にあったコンテンツは、何かと考える中で、『映画・テレビ→YouTubeなどの長尺動画→TikTokなどの短尺動画』という若年層の需要の遷移に着目し、ショートドラマに行きつきました。今は中国の市場が強く、日本でシェアも持っている会社がいないところにドコモグループとして参入し、業界全体で市場を大きくしていきたいと考えます」

同じコストで多くの作品を生み出す

 ショートドラマの市場・需要の成長は現在、どのような状況なのか。

「中国とアメリカが先行し、日本では今、様々なプレイヤーが勃興し、急成長している市場です。日本だけでなくグローバルで勃興し、次の映像エンタメ市場の主役となると考えております」

 従来の民放放送局のテレビドラマは、テレビ局が企画し、スポンサー企業から集める資金で大勢のキャスト・スタッフを起用して撮影し、地上波やネットで流すという形態が主流だが、縦型ショートドラマは、テレビドラマとどのような点が異なるのか。

「ショートドラマは隙間時間のエンターテイメントですので、展開が1時間ものドラマよりも速い点が最大の違う点です。また、撮影にかかるスタッフ数や期間も大幅に短くなっています。その分、同じコストで多くの作品を生み出すことができます」

 では、収益モデルは、どのようになっているのか。

「1話ごとの課金になっています。いかに次のエピソードに課金していただけるかが勝負どころです」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「信頼できる情報源はない」と感じる若者。これからのメディアはどうあるべきか?

電通若者研究部(以下、電通ワカモン)は高校生、大学生、社会人1~3年目の若年層を中心に2年ぶりとなる大規模調査を実施(調査概要はこちら)。その調査結果をもとに若者のメディアとの関わりをひもといた「若者まるわかりナレッジ2025(メディア篇)」を作成しました。(お問い合わせはこちら)

本記事では、調査から得られたファインディングスを紹介しながら、若者のメディアとの関わりについて見ていきます。

SNSは、「ほぼ世論」

インターネットの普及により、メディア環境は大きく変化しています。新聞・雑誌・ラジオ・テレビといった「4マス」への接触率はインターネットを下回り、「マスメディア」という言葉自体の再定義が求められる時代に突入しました。

特に若者にとっては自由に使える時間は意外と限られています。バイトやインターン、部活動、課題、そして友人との時間など、多くのことに忙殺されており、「テレビを見るための時間を作る」という考えそのものが選択肢から外れている若者が多くなっています。

若者は倍速視聴、切り抜き動画、さらにAIによる要約やレコメンドなどを駆使して、自分に必要な情報だけを効率よく取捨選択しています。このような「自分軸」で情報を選ぶ姿勢が、すでに当たり前の感覚となっているのです。

また、若者にとってSNSを「世論そのもの」と捉える感覚が急速に強まっています。高校生の実に6割以上が「だいたいの世論はSNSを見ればわかる」と回答。ニュースがSNSで炎上し、それをテレビが取り上げる光景を幼少期から見てきた世代にとって、「SNSで話題になること=世間で話題になること」という構図は、ごく自然な感覚なのです。

電通若者研究部
出典については、記事末尾の「調査概要1」を参照ください

情報収集時も、参考にするのはSNSでの反応や友人との会話が主であり、情報選択の基準は「自分ゴト化できるかどうか」に集約されています。

電通若者研究部
出典については、記事末尾の「調査概要1」を参照ください

信頼できる情報源はない

一方で、若者にとって信頼できる情報源がほとんど存在しない現状も見逃せません。「参考にしている」と回答されたSNSも、「信頼できる情報源」としての評価は10%前後と低く、さらに約4人に1人が「信頼できる情報源は一つもない」と回答しています。これは若者が、特定の情報源を無条件に信じるという前提を持たず、自らの情報リテラシーを鍛えながら複数の情報源を比較し、自分なりの「納得解」を追求していることを意味します。

電通若者研究部
出典については、記事末尾の「調査概要1」を参照ください

また、マスメディアへの不信感は年々強まっています。特に若者はリスクや表現に敏感で、テレビなどの過剰な演出や不快な表現に強く反応します。実際に大学生へのヒアリングでも、「テレビのコメンテーターが時代遅れな発言をしていると嫌な気持ちになる」「若者のことが分からないまま発信していて置いて行かれる気がする」といった声があがっており、「情報が自分に向けられていない」と感じた瞬間に視聴意欲も共感も途絶えてしまうと推察できます。

電通若者研究部
出典については、記事末尾の「調査概要1」「調査概要2」を参照ください

さらに、不祥事報道や偏った伝え方が続くことで、メディア全体への信頼も揺らいでいます。今、若者が重視しているのは「何を伝えるか」よりも「その情報にどう向き合っているか」というメディア側のスタンスです。発信内容だけでなく、その背景にあるスタンスや誠実な対応姿勢が信頼や共感を左右する決定的な要素となっています。

結局大切なのは、媒体そのものよりもコンテンツの面白さ

信頼できるメディアがない状況の中、メディアの種類に関係なく「コンテンツそのものが面白いかどうか」を重視する傾向が強まっています。つまり、媒体の力ではなく、コンテンツそのものの魅力が視聴や購読の決め手になっているのです。

電通若者研究部
出典については、記事末尾の「調査概要1」を参照ください

一方、若者は「時間を無駄にしたくない」という意識も非常に強いため、「せっかく見たのに面白くなかった」という状況はタイムパフォーマンス(タイパ)的に最悪です。そのため、本編を見る前にSNSの切り抜きや要約動画を使って事前に“面白さの保証”を求めることが日常化しています。

実際、「テレビ番組をテレビでは見ないが、SNSの切り抜きではよく見る」と回答した若者は61.8%と高く、短尺で興味を引く入り口設計が今後のコンテンツ開発において欠かせないポイントになっていくでしょう。

電通若者研究部
出典については、記事末尾の「調査概要1」を参照ください

SNSでバズったネタがテレビに取り上げられたり、テレビ発のコンテンツがSNSで拡散されたりと、メディアの行き来が当たり前に起きています。もはや「どちらが主か従か」という発想ではなく、テレビとSNSはお互いを高め合う“相互補完”の関係になっていくべきだと考えます。

これからのテレビの価値とは?

テレビ離れが進み、メディアへの信頼感も低下してきている昨今において、これからテレビが担っていくべき役割や価値はなにか?電通ワカモンは、今後テレビの2つの価値がますます重要になっていくと考えます。

①上の世代との「共通言語」へ
実はいま、多くの若者が「テレビは世の中への影響力が大きい」と感じていることが明らかになっています。興味深いことに、自分自身がテレビを見ているかどうかにかかわらず、こうした印象を抱いているのです。

なぜ、若者は「テレビを見ていないのに影響力がある」と感じるのか?その理由を聞いてみると、特に多かったのが「上の世代が見ているから」という声でした。「自分は見ないけれど、親や上司などの世代はよくテレビを見ている」「高齢化が進む中で、インターネットよりテレビに触れている人が多い」といったコメントが多く挙げられています。

つまり、若者は自分自身がテレビを見ていなくても、多くの人がテレビに触れているという事実を冷静に把握しており、それを通じてテレビの持つ社会的影響力を客観的に認識しているということです。

さらに、「テレビが親や上司との価値観のギャップを埋める役割を果たすと思うか?」という質問に対しては、実に7割以上が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答しました。これは、テレビが世代を超えて共有できる「共通言語」として、新たな役割を果たす可能性を示していると考えます。

電通若者研究部
出典については、記事末尾の「調査概要3」を参照ください

②機運醸成から「機運定着」へ
テレビはこれまで「機運をつくる(機運醸成)」メディアとして、大きな役割を果たしてきました。国民規模で同時に情報を届けるという強力なリーチ力を生かし、社会的なムードや価値観を広めていく「機運醸成」の場として機能してきたのです。

しかし、インターネットが普及し、テレビ離れが進んだことで、若者にとって「SNS=世論」という認識が広がりました。その結果、社会的な機運を醸成するメディアは、テレビだけではなくSNSや個別コンテンツを含めて極めて多様化しています。

このような状況の中で、これからのテレビが果たすべき役割とは一体なにか?それは、「機運を定着させること」だと、私たち電通ワカモンは考えています。

実際に、大学生の約9割が「テレビで繰り返し取り上げられることで、知らなかった価値観や考え方が『常識』になることがある」と感じており、さらに6割以上が「SNSで生まれた価値観でも、テレビで取り上げられなければ定着せず消えてしまうこともある」と答えています。例えば「LGBTQ」「メンズメイク」「男性の日傘」なども、テレビで取り上げられたことによって、自分にとっての当たり前が変化したと感じるという声が数多く見られました。

つまり、SNSで点在する形で生まれたムーブメントを、テレビがまとめて社会全体に「定着」させる。この役割こそが、今後テレビが担うべき新たな価値であると考えます。

電通若者研究部
出典については、記事末尾の「調査概要3」を参照ください

以上が調査から得られたファインディングスです。若者に情報を伝える際のメディア選定や、コンテンツ企画などにぜひお役立てください。

【調査概要1】
調査名:若者まるわかり調査
調査機関:電通マクロミルインサイト
調査時期:2024年12月
調査方法:インターネット調査
調査対象エリア:全国
調査対象・サンプル:高校生以上の未婚15~46歳男女 2000ss (以下セグメントごとに男女均等割付)
(内訳)高校生 400ss/大学生 400ss/社会人1~3年目 400ss/社会人4~10年目 500ss/社会人11~20年目 300ss
※上記サンプルの抽出にあたり、15~69歳の一般男女(高校生以上、未既婚・職業不問)を対象にスクリーニング調査を実施、その結果から人口構成比に基づいた10000ssを抽出し、別途分析に使用

【調査概要2】
調査名:サークルアップ調査
調査機関:電通若者研究部(ワカモン)
調査時期:2025年5月
調査方法:インターネット調査
調査対象エリア:全国
調査対象・サンプル:大学生 200ss

【調査概要3】
調査名:サークルアップ調査
調査機関:電通若者研究部(ワカモン)
調査時期:2025年7月
調査方法:インターネット調査
調査対象エリア:全国
調査対象・サンプル:大学生 500ss


X(Twitter)

BIMって何? 建設DXで世界へ挑む日本発スタートアップの戦い方

ワンストラクション

設計から施工、運用まで──建設業界のすべてを3Dデータで統合し、建設業のあり方を再定義するBIM(Building Information Modeling)。世界では大手ソフトウェア企業の覇権争いが始まっている。

いま、その激流の中で、国際標準化を武器に業界のアップデートに挑戦する日本発のスタートアップ、ONESTRUCTION株式会社(以下、ワンストラクション)が注目を集めている。建設業界の構造課題と正面から向き合い、建設DXを「経営のアジェンダ」へと押し上げる、その戦略とは?

「建設業のあらゆるデータをオープンにする」という志を掲げる若き起業家ワンストラクションCEO・西岡大穂氏に、電通の笹川真が話を聞いた。

BIMとは何か? “建設のデータ化”が業界にもたらす衝撃

ワンストラクション 西岡大穂CEO
ワンストラクション 西岡大穂CEO

笹川:恥ずかしながら、1年半前に西岡さんとお会いするまで「BIM(ビム)」という言葉、聞いたこともありませんでした。

西岡:無理もないと思います。実際、建設業界の中でも、BIMをちゃんと理解して使いこなしている人は、まだごく一部です。

正式名称は「Building Information Modeling」。建築に関わるあらゆる情報──設計、工程、コスト、運用などを、3Dモデルを中心としながら一元管理する仕組みです。

笹川:それってつまり……建設業における「データベース」みたいな存在?

西岡:まさにそうです。他の業界において当たり前なデータベース化が、建設業ではなかなか進んできませんでした。しかし近年、BIMを切り口に、一気に進み始めています。

笹川:BIMを切り口にした、建設のデータベース化ですか。例えば、どんなツールをみなさん使っているんですか?

西岡:たとえば、デザイン領域ではPhotoshopやIllustrator、業務系ではSalesforceのような「基盤となるツール」がありますよね。アメリカのAutodeskやドイツのNemetschekといった世界的テック企業が、BIM領域の中心的なプレイヤーとして、覇権争いを繰り広げています。

笹川:いま建設業界が抱えている構造的な課題──たとえば「人手不足」や「資材高騰」──に対しても、BIMは効くんですよね?

BIM

西岡:はい。まず人手不足について。特にベテラン職人が一気に引退していて、“知の空洞化”が起きています。若手に引き継ぎたくても、そのノウハウが形式知化されていない。そこでBIMを使えば、ベテランの知見を“データ”として残すことができるんです。

笹川:すごくイメージ湧きます。あとは資材価格の話──ここ数年、建設コストって本当に上がってますよね。

西岡:そうなんです。かといって、工事予算を増やすのは簡単じゃない。そこでBIMを使えば、設計の段階から緻密にシミュレーションできるので、資材の無駄をかなり減らせるんです。ロスが減る=利益を圧迫しない、という構造がつくれる。

笹川:なるほど。設計→積算→施工という全体の流れのなかで、データが“つながっている”ことが鍵なんですね。

西岡:そのとおりです。BIMの本質的な価値は、「建設のすべてを共通データベース化すること」と、「2次元と3次元モデルの視覚化」を、同時管理するという点にあります。従来の2D図面だけだと、設計者の意図が伝わらなかったり、設計ミスがあった時に、「ここ違うじゃん」みたいな現場の手戻りが多発していた。でもBIMを使えば、モデルを作る過程でミスにも気づけるし、BIMを見せるだけで一発で伝わる。コミュニケーションの質がまるで違うんです。

点在するデータ

笹川:僕も家をリノベしたとき、2D図面を見ても全然理解できなかったです(笑)。完成してようやく「こうなるのか」って。

西岡:ですよね(笑)。職人さん同士の現場コミュニケーションも、3Dモデルなら誤解が格段に減りますし、工期の短縮にもつながる。実際、国土交通省の試算でも、BIMを導入すると最大10%の工期短縮が見込めるというデータも出ています。

笹川:それ、めちゃくちゃ大きいですね。1年の工事が11カ月で終わるってことですよね。

西岡:そうなんです。しかも、それだけじゃなくて、“人手不足”という構造課題にも直結します。BIMが現場の判断・連携・積算を支えることで、1人あたりの生産性が上がる。だから「建設のデータベース化」の意義は、非常に大きいと考えています。

笹川:72兆円産業と言われる建設業において、そんなに本質的なインフラになるのか……というか、すでになってるんですね。

西岡:とはいえ、まだ日本での導入率は十分とは言えません。特に中小企業や地方では、BIMが何なのかも知られておらず、「とりあえず3Dモデルをつくっておけ」というケースが多い。でも、だからこそ、今やる価値があります。構造を変えられるタイミングは、いつでもあるわけじゃないので。

なぜBIMなのか?──農業少年が建設DXに目覚めるまで

電通 笹川真
電通 笹川真

笹川:“建設の未来を形づくるデータベース”──BIMってそういう存在なんですね。次は、西岡さんがこの世界に飛び込んだ、その原点を教えてください。最初から建築業界にいたわけじゃないですよね?

西岡:まったくです(笑)。僕、出身は京都で地元の農業高校で、当時は芝生の研究をしてたんですよ。屋上緑化とか法面(のりめん)緑化とか。まさか自分が建設業のど真ん中でソフトウェア作ることになるとは、高校時代は想像もしてませんでした。

笹川:芝生!? そこからBIMにどうつながるんですか?

西岡:実はその芝生研究に、たまたまスーパーゼネコンの方が興味を持ってくださって、研究費を支援してもらったんです。その縁で、東日本大震災の被災地──宮城のスーパー堤防の緑化プロジェクトにも関わらせていただきました。高校生なのに、被災地での緑化活動と維持管理の省力化を検証するという、ものすごい現場経験をさせてもらいました。

笹川:とんでもないキャリアのスタートですね……。高校生でスーパーゼネコンの支援でスーパー堤防って。

西岡:その時に、建設という産業の大きさと難しさ、でも同時に“本当に必要とされているリアルさ”を感じたんです。でも正直、当時は研究者志望で、大学でも農業の研究を続けようと思ってました。

笹川:そんな西岡さんを起業に引き込んだのって、何か転機があったんですか?

西岡:高校で聴いた、ユーグレナの出雲充さんの講演です。「技術は、社会に実装されてこそ意味がある」って言葉に打たれて、「自分は研究者じゃなくて、技術を社会に届ける側になりたい」と思うようになったんです。

笹川:それで鳥取大学の農学部へ?

西岡:はい。そして大学在学中に、ETIC.(エティック)というNPOの「MAKERS UNIVERSITY」という起業支援プログラムに参加したことで、志が一気に高まりました。全国から集まる学生起業家たちと出会って、当時はWeb3やAIで起業を目指す人が多かったなかで、「自分はレガシー産業で勝負したい」と確信しました。

笹川:農業や建設のような一次・二次産業にテックを入れるという発想が、そこで生まれたと。

西岡:そうですね。ただ、当時の僕は何もできなかった。農機具のシェアリングサービスなど、いくつか事業案は考えたけど、プロダクトもチームもできてなくて、完全に挫折しました。そこで、まずはちゃんと就職しようと。リクルートに内定をもらって、「社会人としての基礎とスキルを磨こう」と考えました。でも卒業前に、人生を変える出会いがあったんです。大学院にいた先輩で、今のCTOである宮内芳維と出会ったことで、建設業に強い興味を抱いていくようになりました。

笹川:ここでBIMが登場するわけですね!

西岡:そうなんです。調べれば調べるほど、農業と建設ってめちゃくちゃ共通点がある。人手不足、技術の属人化、非効率な現場、ITの浸透の遅れ──構造的な課題がそっくりだった。紆余曲折はあったのですが「BIMで構造そのものを変えることができるかもしれない」と思った瞬間、進むべき道が見えました。リクルートの入社前に、会社を立ち上げることを決めたんですが、それがワンストラクションです。

笹川:副業で建設業を変えようって、スケールおかしいですよ(笑)。

西岡:自分の中では副業も本業もなかったです。当然めちゃくちゃ忙しかったんですが、リクルートで得たスキルと仲間は、起業家としての僕にとってかけがえのない財産です。プロダクトの開発から、デザイン、グロースまで全部やらせてもらったので。

笹川:“芝生からBIM”というキャリアの流れに無駄がない……。原点がちゃんと現在につながっているんですね。

世界とどう戦うのか? OpenAECと“標準化”をめぐるリアル

西岡CEO
笹川: ここまで伺って、BIMが“建設業の共通言語”になり得ることはよくわかりました。ただ、ワンストラクションが実際にどうそれをビジネスにしているのか、その“戦い方”を詳しく知りたいです。

西岡:最初は、2D図面しか使っていなかった建設会社さんに、BIMの3Dデータを代行して作成・納品する受託業務から始めました。現場に入り込みながら、「この業界でBIMはどう使われているのか?」「何がボトルネックになっているのか?」を、とにかく学びたかったんです。

笹川:リサーチというより“業界潜入”ですね。

西岡:一番大きかったのは、「BIMを導入しているけれど、社内でバラバラに使われている」という現実でした。設計はRevit(※Autodesk社のBIMソフト)とExcel、積算は国産の積算ツール、施工管理は別の国産ソフト、みたいな。また、建築、土木、設備の業種による分断も大きく、結果的に、情報が分断されて、連携に手間がかかっているんです。

笹川:なるほど……BIMは導入したけれど、“データがつながっていない”という落とし穴ですね。

西岡:そこで僕たちは、異なるソフト同士の“翻訳ハブ”になるようなプロダクトを作ろうと考えました。それが、自社開発の「OpenAEC(オープン・エーイーシー)」です。「AEC=Architecture, Engineering, Construction」。つまり、設計・エンジニアリング・施工という、建設業のすべてを横断的につなぐための基盤です。

OpenAECOpenAEC 
そして、その“翻訳”を可能にするカギが、国際標準のフォーマット「IFC(Industry Foundation Classes)」なんです。この規格を活用すれば、異なるBIMソフトの間でデータ連携が可能になります。

OpenAEC
ONESTRUCTIONの提供するBIMソフトウエア「OpenAEC」。国際的な規格に沿って開発されており、現在54カ国で導入されている。ONESTRUCTIONはこのプロダクトで国際的なアワードである「openBIM Awards 2024」のファイナリストに日本企業で初めて選出された。

笹川:そのIFCの策定団体が、「buildingSMART International(bSI)」ですよね?スタートアップでそこに参画するって、かなり異例では?

西岡:たしかに。日本からは、僕らが唯一のスタートアップです。でも、ルールが決まる場所にいなければ、プロダクトを世界で戦わせることはできない。だから、ただ入るだけでなく、ワーキンググループにも積極的に関わっています。

笹川:つまり「標準化は戦い」だと。

西岡:まさに。言わずもがなですが、BIMに限らずソフトウェアの潮流は標準化です。世界で共通ルールを統一することで、国と国をまたいだ協調や協業が可能になる。

その時、標準化の中心になっているのはヨーロッパです。プロダクトの力でアプローチするアメリカに対して、共通規格をつくり規格に守られた経済圏をつくるのがヨーロッパ。だからワンストラクションはヨーロッパの標準化団体にコミットしています。

笹川:標準化にコミットすることで、どんな恩恵がありますか。

西岡:実際のところ、標準化へのコミット自体は、短期的に収益を生みません。しかし、ヨーロッパの企業では、国際標準を握ることは企業にとって必要不可欠なんです。ルールを制するものが、業界を制するわけですから。そして、我々が標準化にコミットするからこそ、OpenAECが世界54カ国で使われるようになったり、「openBIM Awards」のテクノロジー部門でファイナリストに選出されたり、「インフラDX大賞」でスタートアップ奨励賞をいただいたり、という結果につながっていると思っています。

笹川:なるほど。そして、あのAutodeskとの業務提携ですよね。これはインパクトが大きかった。

西岡:夢でしたね。僕らが正式代理店として製品を販売できるだけでなく、連携パートナーとしてAutodeskさんのエコシステムの一部に組み込まれた。そのことで、業界からの信頼度が大きく変わりました。

Autodeskとの業務提携

笹川:「OpenAEC」のような国産のBIMソフトウェアをワンストラクションがつくる意義は、どんなところにありますか。

西岡:ひとつは、IT貿易赤字と言われる昨今、日本産ソフトウェアがちゃんと世界に売れる。外貨を獲得するということです。ワンストラクションがここでしっかり勝負する。もうひとつの意義は、標準化や規格づくりに参画することで得られた知見を、日本の建設業界へフィードバックすることですね。 

笹川:お聞きしていて思うのは、ワンストラクションがやりたいのは、“僕らのソフトを使え”ではないんですよね。

西岡:はい、そこはすごく大事にしています。建築の人、土木の人、設備の人──それぞれが慣れたソフトを使い続けられる状態が理想だと思っています。ただし“データ”だけは共通化しないと業務の最適化はできませんよね。だからこそ、僕らが“つなぎ役”になりたい。

笹川:すごく日本的というか「和をもって連携とす」みたいな思想を感じます(笑)。

西岡:海外のような、自社製品による“囲い込み”ではなく、現場は自由に動きつつ、全体としてはデータでつながる。その形が日本の建設業界には合っている気がします。世界の標準化をそういった方向性に向けていきたいです。

小手先のデジタルツール導入ではなく、経営戦略にBIMを位置づける

笹川:BIMは守備範囲の広い技術ですが、おそらく最初は、いきなり全社で導入して、全社で使い始めるという形ではなく、部門ごと、プロジェクトごとにPoC的に試してみるケースが多くなるんですよね?

西岡:実務的にはそうですね。ただ、会社への導入をサポートする際によくお伝えしているのですが、BIMを「経営戦略」の一つとして位置づけ、全社で導入する方が大きな成果が得られることは間違いないです。データは、他のあらゆるデータとかけ合わせることで初めて価値を発揮するので。

つまり、図面の3D化で終わるのではなくて、例えば見積もりデータのBIMへのひもづけで積算(コストの見積もり)が自動化される。このように複数のメリットが約束される「データの連携」を経営レベルで意思決定しない手はないと思います。

笹川:BIMの導入で現場の仕事のやり方が変わると、会社の描くビジョン、そこで働く人のバリューにも変化が生まれますよね。これこそが本当のDXであるという。

西岡:まさにDXというものは、小手先のITツール導入じゃないということですよね。どうせやるなら、経営アジェンダにBIMを入れてほしいんです。ただ、僕らが持っているのは技術と現場感です。でも、DXは技術だけでは進まない。そういう全社レベルの提案といった部分では、電通との協業に期待しています。

笹川:BIMを経営アジェンダに押し上げるには、経営層と同じテーブルで話せる場が不可欠ということですよね。パーパス策定やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)など、企業の根本的な課題や目標設定を経営者とともにお話しさせていただく仕事が電通にはあります。ワンストラクションがBIMの“共通言語”をつくり、電通はその言語を“経営の言葉”に翻訳して社内に広げていく。そんなパートナーシップを一緒に形にしていけるといいですよね。

西岡:建設業が本当に変わるには、経営者、現場、そして社会全体に“同時に伝わる構造”が必要だと思っています。

笹川:建設業のDX、つまりBIMは、経営アジェンダであり、業界のアジェンダでもある──それを実感できた時間でした。本日はありがとうございました。

西岡氏と笹川氏

Twitter

インバウンド増加の一方で増える外国人労働者、社会的問題も顕在化…「外国人なしで日本は成り立たない」は本当か?

●この記事のポイント
・増加しているのは「高度人材」よりも「単純労働者」
・インドネシアからの受け入れ数が増加の背景
・先進国のなかで日本は外国人労働者の受け入れハードルが最も低い

 今年1~6月の訪日外国人数(推計値)が2151万8100人(日本政府観光局発表)となり、過去最も速いペースで年間2000万人を超えるなど、引き続きインバウンドの増加傾向が続いている。日本を訪問する外国人として増えているのは旅行客だけではない。日本の在留資格を得て就労する外国人の数は年々、増加傾向にある。専門性の高い「技術・人文知識・国際業務(技人国)」に就く、いわゆる技人国ビザを得る外国人が増える一方で、その何倍もの数の肉体労働者が受け入れられている。国籍別ではインドネシア人などの増加が目立つ。日本での就労経験を通じて日本に好意を持つ外国人が増えれば、将来的にはさらなるインバウンドの増加につながると考えられるが、現在、外国人労働者を取り巻く状況はどうなっているのか。また、現場では何が課題となっているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

「高度人材」増加の実態

 
 法務省入管庁の在留外国人統計によると、技術・人文知識・国際業務といった高度人材向けの在留資格取得者は確実に増加している。ジャーナリストの出井康博氏はいう。

「2021年末が約27万人でしたが、2024年末には約42万人と、15万人程度増加しています。コ増加傾向にあるには事実だが、より注目すべきは実習生など肉体労働者の急増ぶりです」

 外国人労働者受け入れの背景には、企業にとって安価な労働力を確保できるメリットと、消費者が安い価格でサービスを受けられるメリットがある。しかし、その一方でデメリットも生じている。

「技能実習生や特定技能といった在留資格で就労する外国人労働者は、やはり低賃金で働いています。日本人の働き手がいないと言われますが、実際には働く能力のある人はいるはずです。賃金を上げれば日本人も働くはずですが、賃金が安いためやりたがらない介護などの分野で今、外国人に頼っている状況です。このまま外国人頼みが進めば、今後も賃金の上昇は抑えられてしまいます」

 さらに問題となるのは、外国人なしでは成り立たない業種の拡大だ。

「日本人がやらない仕事で、どんどん外国人頼みの仕事が増えていく。外国人なしでは成り立たない仕事が増えていくわけですが、それが良いことなのかどうかは、もう一つの議論としてあると思います」

「ポスト・ベトナム」としてのインドネシア注目

 外国人労働者の供給源は、送り出し国の経済発展に伴って変遷している。2000年代は中国が中心だったが、中国の経済成長により日本への出稼ぎ労働者は減少。2010年代に入るとベトナムが主要な送り出し国となったが、最近はその状況にも変化が見られる。

「ベトナム人で日本に働きに来たいという人も減り始めています。ベトナムに進出している外資系の工場などで働けば日本円で10万円程度稼げるようになったため、わざわざ日本に来て働くメリットが減りました。

 こうした状況から、インドネシア、ネパール、ミャンマーといった国々が“ポスト・ベトナム”として注目されています。これらの国々はベトナムよりもさらに賃金水準が低く、他に出稼ぎに行く選択肢も限られています。

 世界的に人材獲得競争が起きていると言われますが、スキルを必要としない『単純労働』に就く人材に関していえば競争など起きてはいません。日本は受け入れのハードルが非常に低く、送り出し業者に支払う手数料のための借金さえ厭わなければ誰でも入国できてしまう。ただし、わざわざ借金までして日本に行くのは母国で仕事の見つからない人たちです。当然、人材の質は保証できない」

制度改革の限界

 現行の技能実習制度は2027年から「育成就労制度」に名称変更される予定だが、出井氏は実質的な変化は少ないと見る。

「技能実習に対するさまざまな批判を受けて政府が制度を変更しようとしていますが、名前が変わる程度で、大して中身は変わりません。そして特定技能制度は、技能実習生を日本に引き止めるための資格です。もともと技能実習は最長5年で帰国する制度でしたが、海外の賃金が上がる中で外国人労働者を確保できなくなることを懸念し、日本で定住・永住し、無期限に働けるようになりました。特定技能『2号』を取得すれば母国から配偶者や子どもも呼び寄せられるため、事実上の移民政策となっています。

 しかし、この政策変更について十分な国民的議論が行われていないのが現状です。移民が増えることのメリット・デメリットについて、デメリットの部分が十分に検証されていません。そのため漠然とした不安が国民の中に広がっています」

今後の課題と社会的リスク

 出井氏は、今回の参議院選挙の結果を踏まえ、外国人労働者問題に対する社会的関心の高まりに注目している。

「“外国人問題”が選挙の争点になるなど以前では考えられなかった。今後も世の中の関心が高まっていくと思います。今回の選挙結果を見ても、国民の不安が強まっているのは明らかです。欧米諸国でも外国人労働者・移民の問題は国を二分する問題になっています。そこを解決しないと、日本でも大きな社会問題となりかねません」

 出井氏は、経済界の安価な労働力へのニーズだけでなく、日本社会全体にとっての影響を総合的に検討する必要性を強調する。

「一度立ち止まって、デメリットのところをよく考える必要があります。本当にこのまま外国人労働者をどんどん増やしていくことが、日本に暮らす我々にとって良いことなのかを検討すべきです。今、少なくとも先進国でこれほど簡単に外国人労働者・移民を受け入れている国はありません。逆に欧米では制限しようという動きになっている中で、日本だけが2周、3周遅れでどんどん入れていこうとしていますが、今一度立ち止まって考えるべきではないでしょうか」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=出井康博/ジャーナリスト)

IT武装スーパー「トライアルGO」、まいばすけっととの激突が始まる

●この記事のポイント
・トライアルGOが首都圏展開で小型スーパー業界の勢力図を塗り替える可能性がある。
・同店の特徴は、従来のスーパーとは異なるバックヤードレス方式でコストを大幅削減できることにある。
・まいばすけっととの競合が激化し、中小スーパーの淘汰が加速

 トライアルホールディングスが今秋から首都圏で展開する予定の小型スマートストア「トライアルGO」が注目を集めている。同社は2025年7月1日に西友の全株式を取得し、その物流網と製造拠点を活用して一気に関東圏を攻略する方針だ。小型店舗市場で先行するイオン系列の「まいばすけっと」との競争が激化するとみられるが、流通アナリストの中井彰人氏に両社の戦略について詳しく話を聞いた。

●目次

「ITで武装した」異色のディスカウントストア

「トライアルは基本的にITに非常に関心のあるオーナーが作った会社で、IT装備によって差別化しようという発想があります」と中井氏は説明する。

 同社のルーツは創業時から続くIT活用の取り組みにある。「もともと一般的なトライアルでも、カードを提示すれば、カート自体に決済機能が付いていて、バーコードを読ませるとその時点でどんどん集計されていき、出るときに清算しますという仕組みを導入していました」

 これは「セルフレジのカート版みたいなもの」で、顧客が店内を回りながら商品をスキャンし、最後に一瞬で決済を完了できる。「今ではイオンの一部店舗でも似た仕組みが導入されているが、大手ではない地方企業だった時からそういうことをずっと研究して実証実験してきている」という。

 中井氏は、トライアルを「ITでガチガチに武装して勝負する特殊なスーパー」と評価し、「今やイオンかトライアルかというぐらいIT分野で進んでいる国内では素晴らしい企業」だと述べた。

顔認証決済で「何もしないで店を出られる」

 トライアルGOの最大の特徴は無人決済システムだ。「顔認証で登録をすると、全部袋に入れてそのまま持って出ても決済がそのまま済んでしまう。何もしないで店を出られるという仕組み」を実現している。

 これはアマゾンゴーの日本版のようなもので、小型店舗ながら従来のコンビニ等とは一線を画すサービスを提供する。

「普通のスーパーだとバックヤードが店の3分の1ぐらいを占めるが、トライアルGOはコンビニの跡地にも出店できる。バックヤードをほとんど使わないからこそ、都内の高い賃料の場所でも効率的な経営が可能」だと中井氏は分析する。

バックヤードがない革新的なビジネスモデル

 日本のスーパーマーケット業界の構造的問題について、中井氏は興味深い指摘をする。

「日本では魚を生で食べる文化があり、昔から鮮度にうるさい客が多い。そのため『いま切りました。いまパック詰めしました』と見せないと客が離れてしまう国だったので、各店舗で加工作業を行うようになった」

 この結果、「欧米のスーパーは集中センターで加工したものを各店舗に配送するが、日本ではそれをやらなかった。店を増やせば増やすほど効率が良くなるはずのチェーンストアで、規模の利益が働かない」という非効率な構造が生まれた。

「どこのスーパーも全部バックヤードで作業をしているので、ものすごく労働分配率が高い。ドラッグストアなど生ものを扱わない小売業と比べて10%ぐらい人件費率が高い」

 この構造的問題により、「人件費が上がった瞬間に一発で収益が悪化する。大手も含めて基本的にスーパーマーケット業界は今、青息吐息の状況」だという。

まいばすけっととの本格競合が始まる

 こうした業界環境の中、まいばすけっとが成功している理由について、中井氏は次のように説明する。

「まいばすけっとはイオンの集中センターから全部配送している。バックヤードを使わないノウハウをイオンがちょっとずつ強めていき、最近になってそれを実験してみた」

 最初は「団地の中など、他に店がないような場所で実験していた。要はうるさい客も文句の言いようがない状況です。交通の足がない人が『生ものがあって嬉しい』と言ってくれる場所を選んで作ってきた」

 実験の結果、「遠くに行かなくてもいいという人は結構受け入れてくれるし、高齢化してきたので、そこまでうるさく言わなくなったということがわかった。鮮度云々よりも今は近いことの便利さが上回る」時代になったわけだ。

 トライアルGOとまいばすけっとの競合について、中井氏は「めちゃめちゃある」と断言する。「基本的に目指しているものは全く一緒で、コンビニのサイズのお店をコンビニの距離感でたくさん密集して出す戦略」だからだ。

 ただし、トライアルGOの優位性として「無人店に近い効率的な運営により、まいばすけっとよりも処理能力が非常に高い可能性がある。もし本当に実現できれば、まいばすけっとよりも効率の良い儲かるスーパーになる」と予測している。

 今後の展開について中井氏は、「西友の既存店を使ったサテライト方式で最初はスタートダッシュをかけ、最終的には独立したセンターを作ると思う。この時期、地方企業にとって都会を取るためにはこの手しかなかった」と分析。「何年かはトライアルが相当首都圏を席巻する可能性がある」と予想している。

 小型店舗市場の競争激化により、従来の中小スーパーの淘汰が加速することは避けられない。IT技術を駆使した新しいビジネスモデルが流通業界の勢力図を大きく変える転換点を迎えている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト)

「ドンキ」親会社、最高益=訪日客消費伸び―25年6月期

 ディスカウント店「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが18日発表した2025年6月期連結決算は、純利益が前期比2.0%増の905億円となり過去最高を更新した。訪日客消費が旺盛で免税品の売り上げが拡大したほか、プライベートブランド(PB)商品の売れ行きも好調だった。

 26年6月期の通期業績も増収増益を予想。純利益は同社として初めて1000億円を突破する見通しだ。

 9月26日付で社長に就任する森屋秀樹専務は東京都内で記者会見し、「(現状の倍以上の)営業利益3000億円を稼ぎ出す企業に成長させる」と述べた。 

 2035年6月期までの長期経営計画も併せて発表した。店舗戦略では250店の新規出店を目指す。食品を中心に扱う新ブランド店も26年中にオープンする予定で、今後10年間で200~300店舗を展開する。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/18-19:43)

サントリーHDが国内初のグリーン水素“総合企業”になる必然的理由…製造から販売まで、地産地消モデル構築

●この記事のポイント
・サントリーHDは、グリーン水素の製造から輸送・販売までを手掛ける事業を2027年に開始
・県内の再エネ電力と、『天然水の森』で涵養した地下水から、『サントリーグリーン水素』として製造
・グリーン水素の地産地消モデルを構築することにビジネスチャンス

 大手飲料メーカー・サントリーホールディングス(HD)は、グリーン水素の製造から輸送・販売までを一気通貫で手掛ける事業を2027年に開始する。全工程を手掛けるのは国内企業としては初となる見通し。グリーン水素とは、再生可能エネルギー由来の電力による水の電気分解でつくる水素で、製造工程において二酸化炭素(CO2)を排出しないため、脱炭素につながる。サントリーHDは現在、政府のグリーンイノベーション基金事業として、山梨県の自社工場・蒸溜所に隣接する土地で民間企業10社によるグリーン水素製造設備「やまなしモデルP2Gシステム」を建設中であり、ここでグリーン水素を製造する。グリーン水素は、25年秋から工場の燃料や熱殺菌用の蒸気製造に利用する予定。加えて、外部事業者への輸送・販売も行う予定だという。なぜ飲料メーカーであるサントリーHDは、まだ市場が拡大しているとはいえないグリーン水素に注力するのか。また、どのようなロードマップを描いているのか。同社に取材した。

●目次

山梨県には水素の“材料”が豊富に揃っている

 企業にとって脱炭素への取り組みはまったなしの状況だ。東証プライム上場企業は2027年3月期から、有価証券報告書でサステナビリティ情報を開示する必要があり、GHG(温室効果ガス)排出量の開示などが求められる。そうしたなか、サントリーHDが、グリーン水素事業に注力する理由は何か。同社は次のように説明する。

「コーポレートメッセージ『水と生きる SUNTORY』を掲げるサントリーグループとして、『水から生まれ、水に還る』水素の製造から物流・販売までバリューチェーン全体を担います。グリーン水素ならではの価値の創造と訴求によって、世の中への普及を図り、水素社会の実現に向けて貢献したいと考えました。当社としてP2G(Power to Gas、余剰電力を気体燃料に変換して利用・貯蔵する手法)のプロジェクトに関わる中で、得られた水素事業のノウハウや、P2Gの施設自体の活用を考えるようになりました。

 当社での水素の利用想定量に対しP2Gは水素製造の余力があり、加えて山梨県には水素の“材料”(未利用の再エネと水資源)が豊富に揃っています。また、水素は沿岸部に供給拠点が多く、内陸部にはないという点において今回のP2Gのモデルは独自性があり、国の水素基本戦略はじめ、2050年に向けて水素への需要が確実に高まることが想定される中、グリーン水素の地産地消モデルを構築することにビジネスチャンスがあると考えました。加えて、山梨県の隣、大規模消費地である東京都も水素活用に積極的であり、補助金をもとに外販していく構想です」

高効率で水素を生成できる「PEM型」を採用

 グリーン水素の製造は、具体的にどのような技術によって実現するのか。

「一般的には、再生可能エネルギーを活用して水を電気分解することで製造されます(再エネ由来で新たな化石燃料を使わないため、製造工程でもCO2が発生しない)。今回、山梨県はじめ技術開発参画企業10社で取り組むP2Gシステムにおいては、主に県内の再エネ電力と、『天然水の森』で涵養した地下水から、『サントリーグリーン水素』として製造します。液体水ではなく膜に浸透した水分子を分解することで、高効率で水素を生成できる『PEM型』を採用します」

 グリーン水素の販売先としては、どのような顧客を想定しているのか。

「これから検討していきますが、山梨県内産業での地産地消や、小口需要家等これまで水素の利用対象となっていなかった産業や個人等の観点で新たな需要を開拓していきたいと考えています。水素活用に積極的な東京都への供給も検討中です」

 事業の立ちあげ、継続にあたっては、どのような点が課題・カギになってくるのか。

「柔軟なサプライチェーンの構築や、販売にあたりいかに価値を感じていただけるかという需要喚起を課題として考えています。安全確保も大前提となるので、関連法規・届出を遵守のうえ体制・設備含めて今後の事業化において議論していきます」

 販売初年度の売上、販売量などの計画については次のように説明する。

「今回ビジョンとして発表しましたが、今年の秋にまずはP2Gを無事稼働させ、実際の水素製造量を長期的に評価の上、販売開始時の市場価格動向なども見ながら供給していきます。そのため、2027年時点での具体的な売り上げや供給量を現段階で答えるのは、時期尚早と考えています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)