──小島GO、ビジネスプロデュースを、どう進化させますか?

dentsu Japan(国内電通グループ)は、重点領域を切り開く事例創出を担う役職として、グロースオフィサー(GO)を設置しており、2025年度には、各領域から7人が選出されています。本連載では、電通が掲げる「真の Integrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)」を体現するGOたちの、未来に向けての視点と思考に迫ります。

今回登場するのは、ビジネスプロデュース領域を担当する小島理GO。長年にわたりクライアントと向き合ってきた経験を生かして、dentsu Japanのフロント機能の支援・強化に取り組んでいます。小島GOが思い描く次世代のフロント像とは。

小島理(こじま おさむ)
小島理(こじま ただし) dentsu Japanグロースオフィサー。電通入社後、雑誌局(現 出版BP局)を経て、2001年に営業局に異動。以来、数多くの業種・企業の担当として、統合キャンペーン立案、広告制作やメディア、イベントプロデュースからソーシャルメディアプロモーションまで、多岐にわたる現場でのプランニングおよびプロデュース業務をリード。18年のビジネスプロデュース局MD(マネージング・ディレクター)就任以降、6年間で異なる2つのビジネスプロデュース局のMDを経験。24年より現職

 

dentsuJapan横断の目線でフロント機能を捉え直す

──最初に、グロースオフィサーとしての現在の仕事の内容について教えてください。

小島:2024年にdentsu Japanのグロースオフィサーに就任して以来、ビジネスプロデュース領域を担当しています。

ビジネスプロデュースとは、その名の通り、ビジネスをプロデュースすること。その役割を担うのは、電通の場合でいえば、20を超えるビジネスプロデュース局であり、社のフロントとしてクライアントと向き合うビジネスプロデューサーたちです。

自分の仕事は、グループ各社のフロント機能をdentsu Japan全体として捉え直し、クライアント目線、現場目線、経営目線で最適化していくこと、進化させていくことだと考えています。

現在、仕事の内容は大きく三つあります。

一つ目は 、ビジネスプロデュース戦略室によるフロント部門の支援と強化です。組織横断的な立ち位置からの現場各局へのナレッジやソリューションの提供、マーケティングメソッドの進化への対応、経営戦略的な見地から新たなクライアントへのアプローチも行なっています。

二つ目は、クライアントポートフォリオの進化です。電通のクライアントは多岐にわたりますが、接点を持たない業界や企業も存在します。ところがグループ全体でみると、電通とは接点がなくても、電通総研のクライアントであったり、電通デジタルが仕事をいただいているケースなどが多様にあるのです。これらをグループを横断した視点で捉え直し、クライアントとの関係を進化させていきたいと考えています。

三つ目は、dentsuJapan全体のフロント部門の連携強化です。重要なのは、垂直的な連携ではなく、グループ各社がそれぞれの強みを生かしてフラットに連携することです。なぜなら、おのおのが多様な得意領域を持つグループ各社がフロントとなり、電通が後方支援を担った方が、クライアントへの提供価値が高まり、広がる場合もあるからです。

──グループ目線でフロント機能の最適化を考えるとき、垂直的な構造からの脱却が不可欠ということですね。

小島:その通りです。実は、私自身、電通に所属していたときにはそのことがあまり分かっていなかったんです。クライアントに向き合うことに集中するあまり、ともすればグループ全体でクライアントと向き合うという視点が欠けていました。グループを横断し俯瞰(ふかん)的に捉えられるようになったのは、この2年くらいのことです。

そうした自分の経験からしても、事業現場で日々邁進(まいしん)しているメンバーの意識は簡単には変わらないものです。経営側がいかに概念で説明しても、それだけでは現場はついてこないでしょう。ここで大切になるのは、たとえ小さくても実際の仕事の中で成功事例を積み重ねることだと考えています。それによって、現場は理解し、納得し、意識も変わっていくのだと思います。

小島GO

ソトモノであることの強みを生かす

──電通のビジネスプロデューサーをはじめ、dentsu Japanのフロントは、クライアントから見てどのような存在であるべきと考えていますか。

小島:常に言っているのは、「ソトモノ(外者)であることの強みを生かそう」ということです。

クライアントと一体となって、その一部になることが良いビジネスプロデューサー やフロントだと考える人もいるかもしれません。それは決して間違いではないのですが、社外の人間だからこそ、クライアントの思考や行動を客観的に見ることができますし、時にはクライアントさえ気づいていない課題を顕在化させることもできるのです。クライアントにとっても、長い目で見れば、そうした存在は貴重なのではないでしょうか。

──ビジネスプロデューサーをはじめとするフロントに求められるスキルとは。

小島:少し古くさく感じるかもしれませんが、ヒューマンスキル(対人関係能力)だと考えています。具体的には、人の心を動かすための三つのスキルを重視しています。

一つ目は、「意味を見いだす」ことです。

クライアントが抱える課題は、すべて異なります。しかも、その課題は常に新しいもので、誰も解いたことがないし、誰も答えを知らない。正解はないのです。だからこそ、既存の枠組みの中で答えを探すのではなく、そもそもなぜその課題が重要なのか、その意味を問い直すことが重要になってきます。課題の本質を見極める能力が求められているのです。

クライアントは私たちにオリエンをする段階で、大抵は答えの仮説を持っているものです。それに対して、私たちかすべきことは「なぜ、このようなオリエンなのか?」「クライアントが気づいていない別の仮説はないだろうか?」と常に問い続けることです。問い続け、意味を見いだせるかどうかで、私たちの真価が決まるのです。

二つ目は、「つなげる」ことです。

プロデューサーの重要な仕事の一つは、プロジェクトごとにクリエイターやマーケティングプランナーなど、人を集めてチームをつくることです。これまでのチーミングは、ともすれば「コレクト(集める)」という感覚が強かったのではないでしょうか。でも、これからは「コネクト(つなげる)」という視点が重要になってきます。人を集めるだけでなく、つなげることで、新たな意味や価値を生み出すことができるからです。

「コネクティングドット」という言い方がありますが、単にドット(点)の集まりではなく、ドットをつないで絵をかくようにチームをつくる、といったスキルが重要になってきているのです。

三つ目は、「バックキャスト(未来起点)」です。最初に目標とする未来像を定めて、そこからさかのぼって、現在やるべきことを考える、という仕事の仕方です。

現在を起点にフォーキャストで仕事をすると、どうしても確認事項や点検事項が膨大になりがちで、途中でゴールを見失ってしまうことさえあります。一方で、最初にクライアントと一緒に「ありたき未来」を決めて、そこからバックキャストで仕事をすると、制約なく自由な発想で仕事ができ、チームも自分もチャレンジングに動けるようになります。

物事を常に現在地から見て、どうしようかと考えるのではなく、たとえ届かなくても「理想はこれだよね」というところをまずはクライアントと共有して、「そのためにできることを考えましょう」という仕事の仕方ができることは、とても重要です。

小島GO

上に立つのではなく、前に立つ

──この10年間における社会やビジネスの変化をどう捉えていますか。

小島:いちばん感じているのはクライアントの変化です。人が設計・定義する「人手至上主義」からデータ駆動型の「データ至上主義」へとパラダイムシフトが進んでいます。

一昔前ならば、広告会社が生活者調査を通して発見した消費者インサイトをクライアントに価値提供していましたが、デジタルテクノロジーの進化によって、クライアントは多種多様で膨大なデータの保有者となりました。

加えて、今やジョブ型雇用のような形でマーケティング人材の流動性も高くなっています。外資系企業、プラットフォーマー、メガスタートアップなどをバックグラウンドとした転職マーケットが活性化しています。その結果、マーケティング部門に専門職を置くクライアントも増え、マーケティングスキルとビジネスナレッジが飛躍的に向上しています。

一方で、メディアの影響力も大きく変化しました。ソーシャルメディアの隆盛で、マスメディア全盛時代とはモノの売れ方が変わってきました。広告に接触すれば、そのうちの何割かの人が商品を買う時代から、買うことよりも体験することに重きを置く時代になりつつあります。

規模の大きいクライアントにとっては、新しい顧客が増えにくい時代になっています。いわゆるD2C(Direct to Consumer)ブランドと言われるような、新しい業態が顧客を増やしているケースなどを見ても、マーケティングが大きく変わってきているなと感じます。

――マーケティングのあり方が劇的に変化する中で、dentsu Japanとして、今後どこにチャンスがあると考えていますか。

小島:外資系クライアントでは、“End-to-End”という言葉がよく使われます。マーケティングが何から始まり、何で終わるか、という意味合いですが、それはクライアントによって違います。スマホから店頭だったり、商品から人の手だったりと。しかし、何で終わるかについては、広い意味では生活者や消費者、つまりクライアントにとっての「顧客」というのが一般的です。

では、何から始まるか? それについてこの10年くらいずっと考えている中で、結局は「顧客から始まり、顧客に終わる」という一連のループが正しいというか、望まれているマーケティングなのかなと考えています。

なぜかといえば、私たちは顧客を知ったつもりでいるけれど、実はまだまだ知らないことがたくさんあって、それを知ることができればマーケティングの視野を拡張できると考えているからです。

例えば、クライアントが自ら収集したデータからは、現在の顧客やファンのことは分かりますが、その外側にいる「未顧客」のことはなかなか知りようがありません。そうしたとき、パートナー企業あるいは第三者が持つデータに目を向けることで、未来の顧客を知るヒントを得ることができるかもしれません。

この例のように、クライアントが気づいていないことを、私たちが見抜いて、価値ある提案をできれば、そこにdentsu Japanのチャンスがあると考えています。

――そうした価値ある提案をするためにも、次世代の人材を育成することが大切かと思います。フロント部門の人材育成については、どのように考えていますか。

小島:電通をはじめ、dentsu Japanでは多様なプログラムで育成に取り組んでいますが、私はマネジメントというよりも、変化に対して抵抗感やおびえがある人がいるとしたら、その背中を押してあげることで育成に貢献したいと考えています。

――「背中を押してあげる」とは、具体的にどのようなことをするのですか。

小島:概念でいろいろな話をするよりも、実際に仕事の中で一緒に何かを乗り越えることによって、その人の変化に対する抵抗感やおびえを取り除いてあげることができるなら、それが背中を押すことだと思っています。その意味では、マネジメントというよりは、リーダーシップに近いのかもしれません。

グロースオフィサーという立場で私が現場に降りていって「一緒にやろう」と言っても、現場はやりづらさを感じることもあるでしょう。たとえそうであっても、マネジメントとリーダーシップのバランスの妙の中で一緒に仕事をすることで、相手に安心感を与えられたなら、その人がハードルを一つ跳び越えるきっかけになれたなら、いいなと思っています。

結局は、上に立つか、前に立つかの違いなのだと思います。私の思いとしては、上に立つのではなく、前に立ちたい。そんな仕事の仕方ができたら、すてきだと思っています。

――最後に、今後のグロースオフィサーとしての使命や役割についてどのように考えていますか。

小島:dentsu Japanのグロースオフィサーは、AIやコンテンツ、リスクマネジメントなど、それぞれ専門スキルを持って、社の機能として立っています。その中で私が担当するビジネスプロデュースは、果たして専門スキルなのかと自問自答することがあります。

でも、これが専門スキルと呼ばれるものだとしたら、実践を通じた形式知みたいなものを、未来に残す努力はしたいと思っています。

テクニック論やスキルの先進性はもちろん大切ですが、最後は電通をはじめとするグループ各社の歴史が育んだ哲学というか、かつて私が電通の先輩に憧れたように 、DNA的なものの現代的な新解釈が大切なのかなと考えています。

小島GO

自身が電通のビジネスプロデュースの現場にいた当時は、グループ全体を俯瞰(ふかん)した目線を持つのがなかなか難しかったと語った小島GO。だがその経験は、現場の気持ちに寄り添いながら、新たな視点への気づきを与える現在の取り組みに生かされている。「コレクト(集める)」から「コネクト(つなげる)」へというチーミングのスキル一つを取っても、そこに目指すべき次世代のフロント像を感じとることができた。
 

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未届けの有料老人ホームが減らない根深い理由…不足する特養の数、待機老人や低所得層の受け皿に

●記事タイトル
・厚労省、未届けの有料老人ホームが584件あると発表、有料老人ホームに占める割合は3.3%
・特別養護老人ホームへの入居を待つ人は全国で約25万人
・未届けの有料老人ホーム、第三者の監視の目が入らないという問題も

 厚生労働省は7月、未届けの有料老人ホームが584件(2024年6月末時点)あると発表した。有料老人ホームに占める割合は3.3%であり、前年より20件減っているが横ばいといえる推移だ。特別養護老人ホームへの入居を待つ人は全国で約27万人もおり(22年4月時点)、また経済的な理由で特養に入れない人もいる。未届けの有料老人ホームが、そうした人々の受け皿になっている可能性がある。なぜ未届けの老人ホームは減らないのか。また、どのような対策が必要なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

未届けの有料老人ホームに入居するリスク

 未届けの有料老人ホームとは、高齢者向け施設としては、どのような位置づけとなるのか。星槎道都大学准教授の大島康雄氏はいう。

「老人福祉法では、有料老人ホームの設置・運営には届け出が必要となっています。高齢者の方々にお食事を提供するような施設や、ある程度介護度が高い方のケアをする施設の場合は、ご高齢の方のなかには足腰が悪い方もいるので、配慮をする設備が必要ということで、届け出が必要となってきます。届け出は法律で定められていることですので、未届けの施設は法律上認められていない施設ということになり、老人福祉法には罰則規定もあるます」

 なぜ未届けの有料老人ホームが存在するのか。

「法律で定められた設備基準を満たすためには、投資、つまりお金がかかるので、それを回避するために届け出をせずに運営をしている老人ホームが少なからず存在する結果となっています。立派な施設を建てて行政から指摘を受けたりしないように運営したほうが、経営者としても従業員としても安心なのは間違いありませんが、物価高騰もありますし、そうした初期投資をできるだけの資金的な体力がないと、未届けのまま運営することになります。ですので、未届けの老人ホームを運営している法人は、資本力が低くて比較的小規模なケースが多いでしょう。そもそも、どのような施設や手続きが必要なのかという知識がなかったり、資本力がなかったり、基準を満たす数の職員を確保できないということが背景にあると思います。

 利用者としては、きちんと届け出をしている施設に入居するほうがよいですが、おそらく未届けの施設でも通常時には何か大きなトラブルが頻繁に起こるというような状況ではないと思います。ですが、災害が起きた際などは、施設の運営・管理能力が低いと問題が生じる懸念があります。その点が正規の老人ホームとの大きな違いといえるでしょう」

 そのほかにも、未届けの有料老人ホームに入居するリスクはあるという。

「第三者の監視の目が入らないという恐ろしさもあります。届け出をしている施設は定期的に行政による運営指導を受けているため、常日頃から行政の目を意識した運営を行っています。未届けの施設の場合は、それがないというのは、大きな差だと思います。

行政と事業者のコミュニケーションが重要

 では、なぜ未届けの有料老人ホームは減らないのか。

「先ほどもお話ししたとおり、未届けの有料老人ホームは基本的には行政による指導の対象にならず、結構難しい位置づけなんです。さまざまな事業者や人の利害も関係してきます。不動産事業者は空室が多い状況になると困るので、空き物件を借りてくれるという法人があれば、非常にありがたく、未届けの有料老人ホームを運営する法人は商売がしやすいという土壌が、まずあります。一方、生活保護を受ける方は老人ホームに入りにくいという現状があるので、そうした方や身寄りのない方が、保証人がいなくても受け入れてくれる未届けの老人ホームに入るというかたちで、ニーズがマッチングしやすいことも背景にあると思います。

 もしかしたら、『未届けのホームだから好きに生活できる』『自分の面倒を見てくれる人に出会った』という考え方をする方も、なかにはいらっしゃるかもしれません。ですが、たとえば何か信念や思いがあって未届けのホームを運営している事業者があったとしても、結局は未届けですから、設備の基準や人員の基準、事務能力も含めてしっかりしていない可能性が考えられます。そして、何かトラブルがあった時に誰かが助けてくれたり、間に入ってくれるということが期待しにくいです」

 特別養護老人ホームの数が足りてないという問題も、未届けの有料老人ホームが減らない要因としてはあるのか。

「特養に入居するのは基本的には要介護3以上の方ですので、要介護1~2の方は入れないという問題はあると感じます。また、保証人になってくれる身寄りがいない方も入りにくいでしょう。成年後見制度を使うにしても、この制度の利用者は判断能力がない方に限定されており、要介護度が重くて認知症はない方が施設に入りたいという場合には、受けてくれるところが限定されてしまいます。こうした状況から、未届けの施設のお世話にならざるを得ない人が生まれる面もあるでしょう」

 何か有効な対策はないのか。

「今後、日本では高齢者が増えると推計されており、特養などが増えればよいですが、設備やコスト面の課題、さらには介護職員が集まらないという状況があるので、未届けの老人ホームは今後も増えてくると予想されます。それを抑制するためには、届け出の基準を低くするということも、一つの選択肢として考えるべきかもしれません。例えば、天井にスプリンクラーがない未届けのホームがあったとして、火災が起きた時に危険であることは確かですが、今後さらに未届けの施設が増えていく可能性がるという問題を前にしたときに、悠長なことを言っている場合ではないという現実もあります。『すぐにスプリンクラーをつけて届け出をしてください』というよりも、行政と事業者が相談しながら運営がしやすいようなかたちに持っていくという考えも必要かもしれません。現実的に未届けの施設が受け皿となって救われている高齢者の方々が存在するわけですから、高齢者を支えていくためにも、行政と事業者がコミュニケーションを取れるような関係性を築いていくことが重要だと思います」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=大島康雄/星槎道都大学准教授)

ヤマト運輸、マンション住戸までロボット配送=物流効率化へ実証実験

 ヤマト運輸は22日、大規模マンション内で自動配送ロボットによる荷物配達の実証実験を開始した。多様な受け取りニーズに対応しつつ、人手不足が深刻な物流現場を効率化し、再配達を減らすのが狙い。ロボットの動作や住民の満足度を見極めた上で、2026年中の導入を目指す。

 実験は12月までの間、千葉県浦安市と東京都品川区のマンションで実施。事前に許可を得た居住者を対象に、マンションに到着した同社の宅配便をロボットが各住戸まで運ぶ。利用者はメールを通じ、受け取り日時や、ロボットとの「対面」か、玄関前への「置き配」のいずれかを選ぶ。

 ロボットは韓国の企業「WATT(ワット)」が開発。最大35戸の荷物を格納する宅配ボックスを拠点に、対面用のロボット1台、置き配用のロボット1台が各住戸との間を行き来する。インターホンを鳴らしたり、扉を解錠したりしながら、エレベーターも使って移動する。

 荷物配達でのロボット活用について、ヤマト運輸の久保田亮宅急便部長は「時間的、物理的な制約をなくし、(顧客が)受け取りたいタイミングで受け取れることが一番良い形だ」と述べた。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/22-15:30)

なぜ東京23区で狭小戸建て住宅が人気&増加?価格はマンションの半分でも床面積は広い、仕事と育児両立

●この記事のポイント
・東京23区で狭小戸建て住宅が人気
・価格は新築マンションの半分の水準、5000~6000万円ほどで、土地面積は30~50平方メートルほど
・共働き世帯においては、駅近で、好立地に住むことができるため、仕事と育児・家事の両立もしやすい

 不動産経済研究所の調査によれば、今年1~6月に首都圏で発売された新築マンションの平均価格は8958万円、前年同期比16.7%増という大幅な値上がりとなり、東京23区に限れば1億3064万円と1億円を超えるなど、住宅価格の高騰が続いている。そうしたなか、東京23区で狭小戸建て住宅が人気を集め、増加しつつある。価格は新築マンションの半分の水準、5000~6000万円ほどで、土地面積は30~50平方メートルほど、3階建てであることが多いのが特徴だ。土地面積は“狭小”ではあるものの、床面積ベースでは一般的な新築マンションと同程度とされ、居住空間としてはそれなりの広さが確保されていると評価されている。具体的にどのような特徴や利点があるのか。また、購入時の検討ポイントや注意点などは何か。住宅メーカーへの取材をもとに追ってみたい。

●目次

土地を効率よく活用することで、土地の分の費用を抑制

 まず、狭小戸建て住宅の特徴について、「コンパクト住宅」を年間5000棟超供給する大手住宅メーカー・オープンハウスグループは次のように説明する。

「狭小戸建てといわれることが多いのですが、弊社では『コンパクト住宅』という言い方をしております。ご購入いただいたお客様への配慮の意味合いも含めてです。コンパクト住宅は、土地は小さいかもしれませんが、住宅内の階段の設計を工夫したり、スペースパフォーマンス(スペパ)を意識した、3階建ての家づくりを行うことで、コンパクトながらも住みやすい住環境となっております。

 また、若い共働き世代に便利な職住近接な環境のため、都心で、駅に近く、好立地に、お客様の手の届く価格で住宅を提供すべく、企業努力を継続しております。例えば、弊社では土地を効率よくシミュレーションして分割し、地価が高い都心において、土地を効率よく活用することで、土地の分の費用を抑え、そこに自社グループで最適な建築を施すことで、中間マージンのない製販一体のビジネスモデルと、徹底したコストの追求(モデルルームをもたずにショールームで集約するなど)により、価格を抑えた住宅供給を可能にしております」

 床面積は平均的な新築マンションと比較すると、どのような広さなのか。

「オープンハウスグループの1都3県でのボリュームゾーンは、土地面積50平方メートル、延べ床面積80平方メートルの物件住宅です。マンションは価格高騰により小型化が進み、家族世帯でも60平方メートル台といった手狭な規模が多い中、相対的な広さやお手ごろ感で一戸建てを選ぶ人も増えています」

 価格帯はどうなっているのか。参考値として同社の2025年9月期第2四半期の平均契約単価は、約4900万円となっている。

メリットとデメリット

 狭小戸建て住宅を購入するメリットとしては、価格だけではないという。

「共働き世帯においては、駅近で、好立地に住むことができるため、仕事と育児・家事の両立もしやすく、タイムパフォーマンス(タイパ)が良いです。コンパクト住宅を購入した後、ライフスタイルや家族構成の変化が生じ売却を必要とする際も、好立地の物件であることから、次の買い手がつきやすいです。住宅価格が高騰するなか、都心に手の届く価格で住むことができます。マンション等と比較すると、月々の管理費の負担など、維持費を抑えやすく、人生の資金計画が立てやすいです。自分好みのオプションを検討することもできます。注文住宅・セミオーダー住宅の場合、非常に柔軟な間取り設計や、オプション追加まで可能です。特に単身でコンパクト住宅を購入されたお客様には、趣味部屋をつくることができる点も人気です。

 戸建ては周囲を気にせず、ペットを飼うことができます。コンパクト住宅でもスペパによる工夫を行うことで、居住環境を広く活用し、快適に過ごすことができます。戸建てであるため、お子様が遊ぶときなどに出る音などから階下とトラブルになるなどといった事態を防ぎやすく、ある程度、近隣を気にせず生活できます。

 夫婦ともに在宅勤務している場合は、3階建て住宅は、住居スペースの階が分かれるため、空間を縦にしっかり分けることができ、同時にオンラインミーティングを実施することなどが容易です。書斎をつくることも可能です。同じ価格帯のマンションと比較しても、戸建ては広いスペースを確保でき、耐震や断熱といった性能について、ご自身で決定することができます」

 一方、留意すべきデメリットもある。

「人によっては狭いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。荷物が多い方には、収納スペースが少ないと感じるかもしれません。年齢を重ねると、3階建ては階段の上り下りがつらく感じるかもしれません。防犯対策やプライバシーの管理について、ご自身で行う必要があり、太陽光パネルを設置することに適さない戸建てもあります」

設計の工夫を施すことで住環境を広く

 そして狭小戸建て住宅には、大きな社会的意義があると同社はいう。

「弊社は企業理念に『お客様のニーズを徹底的に追求し、価値ある不動産を届けます』と掲げ、 創業当初から『都心部で手の届く価格の住宅を提供する』ことを住宅事業のミッションとして取り組んできました。共働きの世帯が増加し、女性の社会進出がさけばれるなか、学童や保育園が発達している都心や駅近接の職住近接な好立地環境を望む声は年々高まります。

 地価が高い東京都をはじめとする都心においては、土地にかかる費用を抑えるため、限られた土地において、コンパクトに建物を建てることが、物件価格全体を下げることに大きなインパクトがあります。価格を抑えるための企業努力としては、主に以下3点がございます。

・製販一体
土地の仕入れから、設計、建築、そして販売まで、グループ内で一貫した製販一体型のビジネスモデルで中間マージンをカットし、効率化により最適なリソース配分を施し事業の回転率を高くし、スケールメリットを活かして原材料費を抑えることで低価格を実現しています。実際に販売に携わる営業部門からお客様のニーズを迅速にグループ内で共有し、市場の要求に迅速に対応する体制を整え、手の届く価格で良質な住宅を提供するために企業努力を続けています。

・住宅メーカーが手を出しにくいような変形地などの土地を安く仕入れる

・高い企画力による、土地の最適活用に適した区割り・設計
1つの土地を2つ以上に分割する棟数現場、旗竿地にも建物を建てることができる設計と施工やロジスティックの知見を有しています。コンパクト住宅内において、階段の設計、見通しのいいアイランドキッチン、上げ天井、デッドスペースの有効活用など、あらゆる設計の工夫を施すことで、住環境を広くし快適な住み心地を提供します。例えば階段の工夫などについては、木材に関しては円安要因もあってコスト高になっていく傾向にあるものの、間取りや構造上、強い窓配置などの工夫で使用する材積(製材品の体積)を見直すことや、国産材と外国材をうまく価格変動に応じで柔軟に組み合わせることでトータルコストを抑えています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「海と土壌に溶けるプラスチック」開発に成功…マイクロプラスチックやCO2を排出せず、脱・化石資源由来

●この記事のポイント
・理研などの国際共同研究チームは、海水中などで溶ける「超分子プラスチック」の開発に成功
・環境汚染や人体への悪影響が問題となっているマイクロプラスチックが生じない
・他のプラスチックは共存する中でも水平リサイクルが可能
・食品添加物や農業用途に広く用いられている安価な原料から製造

 理化学研究所(理研)などの国際共同研究チームは、海水中などで溶ける新たなプラスチック「超分子プラスチック」の開発に成功した。容易に原料にまで解離し、生化学的に代謝されるため、環境汚染や人体への悪影響が問題となっているマイクロプラスチックが生じない。世界で年間4億トン以上生産されるプラスチックは、リサイクルされているのは9%以下であり、残りは燃焼・廃棄されている。燃焼に伴い温室効果ガスが発生し、化石資源由来であるため回収・分類・分解・再利用などで多大なエネルギーを要する。一方、超分子プラスチックは食品添加物や農業用途に広く用いられている安価な生化学的な物質代謝を受ける2種類のイオン性モノマーを用い、モノマーによっては難燃性で温室効果ガスを出さず、遺伝毒性も持たない。土壌の上に置いておけば土壌に吸収される。成形加工性、耐熱性、高い力学特性など、従来のプラスチックに匹敵、あるいはそれらをしのぐ性能を備えているため、従来のプラスチックの代替材料として期待される。「夢の新素材」の特徴、想定される用途、そして実用化に向けた動きについて、理研 創発物性科学研究センター 創発ソフトマター機能研究グループ グループディレクターで東京大学卓越教授の相田卓三氏に話を聞いた。

●目次

世界ではプラスチックの使用に制約

 研究チームは、生化学的な物質代謝を受ける2種類のイオン性モノマーを室温の水中で混合した。水素結合で強化された静電相互作用(塩橋)により2種類の原料が互いに接着し、架橋構造体を形成すると同時に、この混合物は上相と下相に相分離を起こす。上相(水相)はモノマーの無機対イオンを取り込み(脱塩)、下相は塩橋によって生成した架橋構造体がつくる凝縮相である。この相分離により、架橋構造が安定化して、塩を外部から添加しない限り、架橋構造体から原料への解離ができなくなる。この凝縮相を分離して乾燥させると、無色透明で超高密度のガラス状超分子プラスチックがほぼ定量的に得られることを発見した。

 超分子プラスチックは、堅固でありながら、モノマーによっては加熱により容易に成型加工することができ、複雑な形もつくれ、既存のプラスチックと遜色がない物性が確認された。一方、塩水に入れると、原料モノマーにまで速やかに解離し、バクテリアなどによる生化学的な物質代謝が可能となるので、マイクロプラスチックを形成しない。原料モノマーの一つのヘキサメタリン酸ナトリウムは、食品添加物や農業用途に広く用いられているうえに安価。もう一つの原料モノマーである硫酸グアニジニウムの一部は天然由来のアミンから合成することができ、両原料モノマーに含まれているリンや窒素は肥料として重要だ。

 今回、超分子プラスチックの開発に取り組むに至った背景について、相田教授は次のように説明する。

「世界では『サステナビリティ(持続可能性)』が共通のキーワードになっており、温室効果ガス排出やマイクロプラスチックの問題から、欧州ではプラスチックの使用にさまざまな制約が出てきています。マイクロプラスチックはヒトの体内に蓄積されて、脳に達するとアルツハイマー型認知症の原因になるとも近年では指摘されています。世界では毎年、大量のプラスチックが製造され、一部が海洋に廃棄されており、欧州では規制の動きが強まる一方で新興国では安価なプラスチックへの需要が増加しており、今後も世界における製造量は大きく伸長していくと予想されています。

 こうした環境問題を未来の子どもたちに残してよいのか、ということが、科学者にとっても世界にとっても非常に大きな問題になっているわけです。そこで我々は新しいプラスチックの開発に取り組み、昨年11月に『サイエンス誌』に発表しました」

“鍵が開く”ようにして原料モノマーに戻す

 そもそもの発想の起点は何だったのか。

「プラスチックはモノマー同士の結合が半永久的で壊れないということになっていますが、もしこの結合を可逆的、リバーシブルにしたらどうなるのか。プラスチックは容易にモノマーに戻せるようになりますが、力学的に弱いプラスチックしか得られないでしょう。結合の可逆性に鍵をかけ、プラスチックに十分な強度を維持させながら、必要に応じて鍵を開け、モノマー分子に戻せるようにすれば、物質代謝がおこるようになり、問題が解決するはずだと考えました。モノマーが炭素を含まなければ、温室効果ガスである二酸化炭素を排出することもありません」(相田教授)

 リサイクルに伴うプラスチックの弱点も解決するという。

「従来のプラスチックは無限にリサイクルできるわけではありません。なぜかというと、リサイクルの工程で原料にまで戻しているわけではなく、粉々に砕いて溶かして成型しているためです。例えばリサイクルしてポリエチレンの白い容器をつくった場合、最初の強度は出ません。一方、超分子プラスチックは原料モノマーにまで戻す(水平リサイクル)ことが可能ですので、毎回100%新品のプラスチックをつくることができます」(相田教授)。

海外の企業から大きな反響

 どのような用途が想定されるのか。

「できればパッケージングなど、廃プラスチック問題の原因になっている部分に使えるように磨き込んでいきたいと思っています。廃プラスチック問題を少しでも軽減できれば本望です。世界の耕作地の3分の1は農業ができない土壌になっているのですが、肥料に使われているモノマーからできた超分子プラスチックは、農業用地の拡大に貢献できるかもしれません。いずれにせよ、従来とは全く違った価値観で考える必要があります。プラスチックが発明されてから約100年がたち、改良が重ねられ低コストで製造できるようになったことで、業界全体がコンサバティブになっており、マイクロプラスチックのような問題が発生しても“現状を変えたくない”という力が働きます。ですが、特に欧州などでは環境負荷低減に関する基準を守らなければ企業はビジネスを展開できないという状況になりつつあり、企業が本気で取り組む必要に迫られています。

 全く表面を加工せずに使うと、汗が垂れただけで溶けてしまうということが起こりえるかもしれませんが、今のプラスチックを100%、超分子プラスチックに置き換えるのは容易ではないと思います。塩水に触れない環境で利用されるプラスチックも多々あります。建築素材やインテリア、壁の中に入っているものなどですね。ラミネーションやコーティングをせずにそのまま使える用途も少なくないと考えています。現在はできるだけ種類を増やし、触り心地の改良などを含め、多様なニーズに応えられるように努力をしています」(相田教授)

 気になるのが、実用化に向けたロードマップだ。

「日本よりも海外の企業からの反響が大きく、大小80社ほどから問い合わせがありました。大手の海外ベンチャーキャピタルなども興味を示しています。我々自身が製造会社を作るというかたちではなく、製造技術を有する企業と提携してプロモーションするかたちを想定しています。実用化が始まるメドとしては、個人的には3年後くらいかなというイメージを描いています」(相田教授)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=相田卓三/東京大学卓越教授)

医療や農業、アフリカで=日本企業、TICADで商機を探る

 横浜市で22日まで開かれた第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に合わせたビジネスイベントで、日本企業各社は医療や農業など幅広い事業を展示した。日本ならではの技術やサービスでアフリカに進出しようと商機を探る各社の展示を、訪れたアフリカのビジネスパーソンが食い入るように見たり、説明に耳を傾けたりしていた。

 豊田通商は、トヨタ自動車のスポーツ用多目的車(SUV)「ランドクルーザー」を改造したワクチン保冷輸送車を展示。ワクチンは熱に弱く、遠隔地に届くまでに一定の温度を超えると使えなくなってしまうが、この車両は電源がなくても約16時間冷蔵庫が稼働できるという。ケニアから来た男性は、「輸送で日本企業と提携できないか機会を探している」と、担当者と真剣に意見交換した。

 富士フイルムは、バックパックで持ち運べるX線撮影装置を公開。アフリカでは都市部の病院でしか結核の検査ができず、地方で感染が拡大してしまうという問題がある。装置は約4キロと軽量で充電式となっており、地方での検査の普及を後押しすることが期待される。
 NECは、アフリカでのコメ栽培で、かんがい設備や栽培品種の変更といった気候変動への対策を導入した場合の投資効果を、人工知能(AI)の活用により分析した成果を披露した。

 主催した日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、イベントには約200社・団体が出展。商慣行や法制度の違いからアフリカビジネスは容易でないとの見方も多いが、担当者は「信頼できる連携先を見つけることが重要」と話していた。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/22-15:30)

渋谷パルコ、インバウンド比率4割達成の秘密…業績が過去最高、原点回帰と大改装が成功

●この記事のポイント
・大改装をへて2019年に新装オープンした渋谷PARCO、取扱高は過去最高を更新
・全取扱高に占めるインバウンド分の比率は4割に
・従来パルコが一番の強みにしていた価値に原点回帰し、そこに立脚した店作り

 大改装をへて2019年に新装オープンした渋谷PARCO(パルコ)が好調だ。25年2月期の取扱高は前期比22.5%増の439億円と過去最高を更新。注目すべきは高いインバウンド集客力だ。全取扱高に占めるインバウンド分の比率は4割に達するという。改装後6年をへて、いまだに渋谷パルコが国内・海外の客を引き寄せる秘密について、専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

本来のパルコの文化に戻った

 渋谷パルコの売上高が伸びている理由は何か。経営コンサルタントでムガマエ株式会社代表の岩崎剛幸氏は次のように分析する。

「従来パルコが一番の強みにしていた価値に原点回帰し、そこに立脚した店作りをきちんとやり始めたという点が大きいのではないでしょうか。パルコという商業施設は、もともと“ちょっと変わった、他ではあんまり見たことがないような、売れるかどうかもよくわからないようなモノでも、積極的に扱う”という特徴を持っていました。ですから百貨店とは少し違い、いわゆるファッションビルの先駆け的な存在として、最先端のファッションを提案したり、通常では大型の商業施設には入れないようなテナントを入れたりということで、個性を出していました。ですが、こうした“新しいものをどんどん生み出していく”という文化が徐々に薄れて、平均的な施設になり“以前はもっとチャレンジングだったのに”“最近は普通だよね”というイメージが広がっていたなか、渋谷パルコの大改装で原点に戻ったという印象を受けます。ですので、建物の建て替えが成功したというよりは、本来のパルコの文化に戻ったことが、成功につながっているということではないでしょうか」(岩崎氏)

 それは、具体的に店舗内のあらゆるところに表れているという。

「まず、地下のレストラン街ですが、『CHAOS KITCHEN(カオスキッチン)』というその名のとおり、あまり見たことがないようなお店ばかりで構成されており、本当に混沌としています(笑)。和食なのか中華なのかアジアなのかヨーロピアンなのかよくわからない、いろんなものが入り混じった飲食街となっています。1階は一般的な百貨店同様にラグジュアリー系ブランドのフロアですが、フロア名は『SHŌTENGAI-EDIT-TOKYO』。フロアコンセプトは「商店街」です。通常だとそのようなコンセプトであればラグジュアリーブランドは出店しないものですが、“今回の渋谷パルコのコンセプトであれば出てもいい”という判断で出店しているのでしょう。

 フロア構成の特徴としては、通常の百貨店は食品、婦人服、高級ブランド、紳士服、子供服、家具とジャンル別のフロア構成となりますが、渋谷パルコは2階はモード&アート、3階はアドバンスド・コンテンポラリーなどとテーマ別に分類されており、さまざまなジャンルの店舗をミックスしてお客に提案することで、逆に好まれるというか、“なんかよくわかんないけど、面白いね”というイメージを抱かせることに成功しています。このテーマ別のフロア構成が、パルコの面白さを表現しています。“ジャンルレス”“ジャンルミックス”で、バラエティに富む要素を組み合わせていくということにチャレンジしている点は、パルコらしいところだと思います」(岩崎氏)

各店の地道な努力

 では、インバウンドを多く惹きつけている要因は何か。

「もともとパルコはニッチなものを見つけて紹介をするというのが強みでしたが、今の渋谷パルコは“グローバル・ニッチ”を魅力の一つになっています。単なるニッチではなく、世界を視野に入れたニッチです。例えばラジコンカーのお店が入っていますが、ラジコンカーにはコアなファンが一定数おり、日本人であれば小学校の頃にラジコンカーで遊んでいた50~60代がターゲットになりますし、海外にも日本のラジコンカーのファンはおり、世界で見ると大きなマーケットなんです。『シルバニアファミリー』のショップもありますが、“シル活”という言葉があるように、シルバニアファミリーも国内のみならず海外でも人気が上昇しており、購入している客層の2割程度が13歳以上といわれています。大人が購入して写真を撮ってSNSにアップしたりして、人気がグローバルに広がっていきそうな雰囲気になっているんです」(岩崎氏)

 インバウンドの集客を意識した、入居するお店自身の努力も功を奏しているという。

「小さな領域を扱っている専門店は、世界に向けて売っていかないと存在できないという意識を持っており、各店が自発的にグーグルマップ上での口コミの評価を上げるような地道な努力をコツコツ重ねています。例えば地下1階の『Jikasei MENSHO』というラーメン店は、グーグルマップの口コミが3000件近くついて4.8という高い評価を得ています。コメントをみると、海外の人たちがすごく褒めています。

 このようにグーグルマップ上でたくさんの人たちにコメントをもらえるような情報発信も一生懸命に行い、それを見た海外の人たちが“評判が良さそうだ”“面白そうだ”ということで来るようになる。そういうお店が渋谷パルコにはたくさん入居しているので、もしかしたらインバウンドの方々は、そこがパルコかどうかは意識しておらず、面白そうな店があるから、そこを目的に来て、結果的に渋谷パルコ全体の外国人客の増加につながっているのかもしれません」(岩崎氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩崎剛幸/経営コンサルタント、ムガマエ株式会社代表取締役社長)

なぜ自動車開発でゲーム開発技術の活用が加速?ゲーム技術者から自動車技術者への転身は増えるのか?

●この記事のポイント
・自動車のSDV開発に、ゲーム開発の知見が取り入れられ始めている
・一見すると関係が薄いように思えるゲームと自動車の技術は、どのように融合しつつあるのか
・日本の自動車関連ソフトウェアの技術は、グーグルやアップルに負けていない

 次世代自動車の主要技術になるといわれるSDV(ソフトウェア定義車両)の開発に、ゲーム開発の知見が取り入れられ始めている。セガのヒットゲームタイトルの元メインプログラマーとして知られるエンジニア・近藤文仁氏は今、SDVの技術開発に携わっている。一見すると関係が薄いように思えるゲームと自動車の技術は、どのように融合しつつあるのか。また、自動車業界ではソフトウェア技術者の獲得競争が繰り広げられているが、ゲーム業界から自動車業界へ転身するエンジニアは増えていくのか。そして、日本のSDVの進化の展望と課題とは。近藤氏への取材を交えて行ってみたい。

●目次

ゲーム業界が培ってきたソフトウェア・デファインドの知見

 現在はCRI・ミドルウェアのモビリティ事業部副部長というポジションを務める近藤氏は今、自動車開発の世界で何に取り組んでいるのか。

「弊社モビリティ事業部のなかで私の役割は2つあり、1つが開発技術の統括役です。どのような技術を開発して、それをモビリティ業界のなかでどのように活用していくのかをマネジメントする役割です。弊社は音と映像の会社ですが、車にはウインカーや通報・警報装置のように音を出すシチュエーションがたくさんあり、そうした分野の技術提供をしています。映像に関してはメータークラスターの映像をどのように表示させれば、もっとスマートな表現ができるのかといった視点で、モビリティの進化に関する技術開発を行っています。

 もう一つの役割が、テクノロジーエバンジェリストです。私が携わってきたゲームクリエイターという職種は、ソフトウェアを通じてユーザーに感動体験を提供するという仕事で、今はそのゲーム開発の技術が自動車業界にどのような価値をもたらすのかを検証して広めていく役割を担っています。ゲームというソフトウェアの価値は、ゲーム機の発売後に提供されるコンテンツとして形づくられていくことが大半です。ハードウェアの機能をソフトウェアが制御し、リリース後も機能追加・性能向上を重ねる技術、いわゆる『ソフトウェア・デファインド』ですね。ソフトウェアで定義されるこの技術は、約30年前からゲーム業界では当たり前のもので、モビリティでも使えるはずなんです。そしてゲーム業界にはソフトウェアの力だけで勝ち抜いてきた人々の知見がある。元ゲームクリエイターとして、そういった知見をモビリティ業界に還元して社会貢献していこうとしています」

ソフトウェアの力でユーザーの快適さを生む技術が必要

 ゲーム開発の技術を、どのように自動車技術の発展に活用するのか。

「車やバイクのメータークラスターでは、すでにゲームのテクノロジーを転用したものが動いていますが、たとえば“サクサク動く”という部分にゲームの技術は非常に役立ちます。30年くらい前のコンピュータはシングルコアで100MHzぐらいで動いて、今の車載コンピュータよりも性能はうんと低かった。でも当時からゲームはサクサク動いていたんですね。今の大衆車に搭載されている半導体はエヌビディア製などに比べると、低価格な分、性能が低いですが、それでもユーザーに対する体験価値としては“サクサク動く”ことを基本にしており、実際の性能だけでは測れないユーザーの満足度を上げるという面で圧倒的な強さを持っています。

 ハードウェアの技術だけで車が競争していた時代を越え、一台あたりの機能や価格などさまざまな部分が踊り場に達した後に、やはりソフトウェアの力でユーザーの快適さを生む技術が必要となってきます。なのでゲーム業界の技術を活用していくというアプローチではなく、実は自動車業界側がゲーム業界側に寄ってきています。

 その理由は、自動車業界がサードパーティを取り込んだ上で、これまで完成車メーカーだけでは思いつかなかったようなコンテンツを供給してもらおうという動きが活発化してきているからです。自動運転技術が進展していくなかで、可処分時間が発生した時に、ユーザーにどのような価値を提供できるのかという話になってくるので、その時にエンタメ系のコンテンツを提供したいといった、従来の車の世界であり得なかった要素が発生してきます。車の走る・曲がる・止まるに関するソフトをゲーム業界が提供するのではなく、エンタメ系のソフトそのものを車で動かして、楽しさを追求していくようなところにゲーム業界が持つエンタメの技術を入れていきましょうという話なんです」

競争領域と協調領域を分けて考える

 今、自動車業界ではソフトウェア開発エンジニアへの需要が高まっているが、今後ゲーム業界のエンジニアが自動車業界に流れ込む動きが強まる可能性はあるのか。

「エンタメを志して『ゲームをつくるのが大好きです』という技術者たちが『車のメーターをつくりに行きませんか』と言われて、行くかといえば、行かないですよね。やはり、そこには異業種の壁というのはどうしてもあると思います。自動車業界側としては、ゲーム業界の技術を車でも使えれば、よりユーザー体験を向上できるのではないかという期待がありますが、ゲーム業界にいるエンタメ系の人たちは『何をつくっていくか』という目的を重要視するので、『手段を提供してください』と言われても行かないでしょう。

 もう一つ、ビジネスという側面で見たときに、圧倒的に足りないのは分母の数なんですね。世界にはスマートフォンが約40億台、家庭用ゲーム機が約2億台ある一方、ゲーム業界の人たちが実力発揮できるようなゲームが動く車は1400万台ぐらいだとみられており、ビジネスとしてなかなか成立しにくい。そういうところには、なかなかエンジニアは行きにくいでしょう」

 日本の自動車のソフトウェア領域は現状、アップルやグーグルなどのOS市場で高いシェアを持つ海外プラットフォーマーに縛られている面が大きいが、日本のSDVの競争力向上のためには、どういう動きが必要なのか。

「日本人はアップルやグーグルと聞くと『すごい』という感覚を抱きがちですが、自動車分野のソフトウェアに関していえば、日本のメーカーは自分たちが技術的に負けているという感覚は持っていないように感じますし、日本の自動車業界はこれまで蓄積してきたノウハウに自信を持つことが重要です。日本勢でしっかりやろうという動きになっているのは、デジタル赤字の問題解消のためにも日本全体にとって良いのではないでしょうか。

 日本は世界市場で自動車、そしてゲーム、アニメ、カラオケを含めたエンタメが強いので、そこが掛け合わさる領域なら勝つに決まっているんだという信念を持つべきですよね」

 では、日本のSDVの進化に向けた課題は何か。

「競争領域と協調領域を分けて考えるべきです。今でこそエンジン開発はメーカー各社にとって協調領域になりつつありますが、競争領域だった時代には各社ががっつりと自社内で技術を抱えて育てていこうとしていました。SDVという領域はあまりにも広すぎて、自動運転は競争領域かもしれませんが、サードパーティを巻き込んでやる部分は協調領域なんです。SDVの一部が競争領域だから自社で全部閉じて開発すべきという考えが、完成車メーカーの間でもまだ残っており、そうするとサードパーティが入ってきにくくなります。

 私も参加させていただいている、名古屋大学が立ち上げたSDV標準化を推進する『Open SDV Initiative』はHMI (ヒューマンマシンインターフェース) アプリケーションの部分は協調領域として定義書も全部公開してオープンにしています。自動車の業界団体『JASPAR』も協調領域はきちんとオープンにしようという活動をしており、競争領域と協調領域をきちんと分けて進めていくことが重要だと考えています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=近藤文仁/CRI・ミドルウェア)

ハイケム、燃料電池バスの導入支援=サラワク州企業と覚書―マレーシア

【クアラルンプール時事】化学品の輸出入と製造を手掛けるハイケム(東京都港区)は22日、マレーシア・サラワク州の大手バス運行会社ビアラマス・エクスプレスと燃料電池バスの導入、推進に向けて覚書を締結したと発表した。

 サラワク州には豊富な水力資源を活用した水力発電所が稼働しており、二酸化炭素を排出しないグリーン水素製造に大きな可能性がある。直近では水素燃料供給施設の試験運用や水素を燃料とする公共交通機関の導入などが積極的に進められているという。

 ハイケムは、ビアラマスの地域バスにグリーン水素製造や水素輸送の技術を提供し、環境に優しい交通手段として燃料電池バスの導入を支援する。「州の持続可能かつ脱炭素化を目指す交通システム実現に向けた重要な一歩になる」と説明した。

 ハイケムは5月、サラワク州政府系企業サラワク・ペトケムと協力覚書を締結。ハイケムが持つ合成ガスからエチレングリコールを製造する技術を活用し、州の石油化学工業団地プラントを開発・建設を計画している。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/22-15:30)

“物理モデル革命”で製薬プロセスを最適化=Auxilartが挑む製造DXと市場戦略

●この記事のポイント
・Auxilartは、物理モデルに基づくデジタルシミュレーションで医薬品の製造プロセス開発を効率化し、コスト・時間・人手の大幅削減を可能にしている。
・製薬・創薬・デジタルの知識を統合した強みを持ち、製薬会社には技術提供、CDMOとは協業という柔軟な市場戦略を展開している。
・この技術は医薬品供給不足の解消にも寄与し、創薬業界に大きな変革をもたらし得る。

 東京大学発のベンチャーとして誕生したAuxilart(オキシルアート)株式会社は、医薬品製造のプロセス開発を効率化するデジタルシミュレーション技術を武器に、創薬業界の課題に真正面から挑んでいる。コスト・時間・人手の負担が重くのしかかる製薬の現場に、彼らはどのような変革をもたらそうとしているのか。Chief Operating Officerの沖田慧祐氏に話を聞いた。

●目次

創薬の“最後の壁”を効率化

 Auxilartが手がけるのは、医薬品の製造プロセス開発の効率化だ。

「私たちの強みは、物理モデルに基づいたデジタルシミュレーション技術を用いて、コストと時間を大幅に削減できるところにあります。もともとの技術は、東京大学 杉山・Badr研究室で開発されたもので、そこから事業化しました」(沖田氏、以下同)

 製薬業界では、医薬品を上市するまでに多大なコストと時間がかかっていることはよく知られている。その中であまり知られていないのが、医薬品の製造プロセス開発の工程だ。製造プロセス開発とは、医薬品を安全かつ安定・大量につくる製造方法を設計・最適化する工程である。この製造プロセス開発では、これまで、物理的な実験を何千回と繰り返しながら製造プロセスを最適化しなければならない。1つの医薬品に3000回もの実験、100億円規模のコスト、6年近くの歳月がかかることも珍しくない。

「それに比べ、私たちは製造プロセスにおける重要なパラメーター(温度、撹拌速度、濃度など)をシミュレーション上で検証・最適化できます。ほんのわずかな調整でも、数千リットル規模の生産では大きな影響が出ますから、これは極めて重要です」

“分断”された知識を統合するチームの強み

 大手製薬会社やCDMO(医薬品製造受託機関)との違いは何か――。沖田氏によると、それは“知識の統合力”だと言う。

「製薬会社の内部は縦割り構造になっていて、製造・創薬・デジタル、それぞれの部門が別々に動いているケースが多いんです。製造プロセス開発をデジタルシミュレーションで行うためには、実はそれらすべての知識が必要になる。私たちはその統合的な知見を、大学での研究から10年かけて蓄積してきました」

 それゆえ、Auxilartには“スタートアップでありながら大手にない競争優位性がある”と自負する。

【市場戦略】製薬会社には“提供”、CDMOとは“協業”

 では、同様の技術を大手企業が後追いで導入してくる可能性はないのか。この問いに対し、沖田氏は明快に答える。

「私たちは製薬会社とCDMOで戦略を分けて考えています。製薬会社には私たちの技術を直接“提供”していきます。一方で、CDMOとは一緒に製薬会社向けのプロジェクトを進める“協業”の形を取ります」

 CDMOは製薬会社からの受託によって動く立場であるため、自ら積極的に新しい技術を導入するケースは少ない。Auxilartはこの構造を理解したうえで、柔軟に戦略を切り分けているという。

医薬品供給不足にも貢献できる技術

 近年、医薬品の供給不足が社会的課題として注目されている。この問題にも、Auxilartの技術は一定の貢献ができるとの考えを示す。

「そもそも製造キャパシティが足りていないのが根本的な問題なんです。そこに対して、製造プロセスの開発が短縮されれば、新薬の生産開始までのタイムラインを大きく縮められます。これは中長期的に見て、非常にインパクトのある改善につながるはずです」

 Auxilartの技術は、製薬業界に確かな革命を起こしている。

東大IPCから起業支援を受ける

 Auxilartは2024年度、東京大学協創プラットフォーム株式会社(東大IPC)のアカデミア共催起業支援プログラム「1stRound」の第10回支援先に採択された。

 東大IPCは2016年、東京大学の100%出資で設立された投資事業会社で、主に「投資」「起業支援」「DEEPTECH DIVE」の3つの事業を行っている。「1stRound」は国内最大規模のコンソーシアム型インキュベーションプログラムで、それに採択されれば、スタートアップ企業が投資家から初回の資金調達(1stRound)をスムーズに受けられるよう、東大IPCから活動資金、専門家によるサポート、オフィス、ラボ、クラウドサービスなど、各種のリソースが提供される。

 東大IPC・1stRound Director 長坂英樹氏は、Auxilartの持つ技術の社会的意義や将来性について、次のように分析する。

「Auxilartは、わずかな実験データから製薬プロセスを数理的に再現・最適化する独自技術により、膨大な時間とコストを要する新薬開発の在り方を根本から変えようとしています。従来のAIを超える高い汎用性と外挿性を備えたモデルは、製薬業界にとどまらず、化学・再生医療など幅広い分野への応用可能性を秘めています。すでに海外大手製薬企業との連携が進む中、今後はSaaS化を通じてスケール性も確保し、プロセス開発のインフラとしての地位を確立することが期待されます。人々の健康に直結する産業において、創薬のスピードと質を飛躍的に高めるAuxilartの挑戦は、医療の未来そのものを変える可能性を持っています」

(取材=UNICORN JOURNAL編集部)

企業情報
社名:株式会社Auxilart
設立:2023年
所在地:東京都文京区本郷
代表者:代表取締役 CEO キム・ジュンウ
事業内容:製薬プロセス開発におけるデジタルシミュレーションツールの提供
URL:https://auxilart.com