1200件の検査を一人で…AI医療機器×地方医療の最前線

●この記事のポイント
・AI医療機器は専門医不足の地方医療でニーズが高まっている。画像診断AIの進化により医療技術の均てん化が期待される一方、保険収載や診断責任が課題。
・和歌山県の竹村医院では、医師一人が年間1200件の胃カメラ検査を行うなかで、誤診防止のためAI内視鏡を導入。AIを医師の「補助線」として活用し、見落としリスク軽減に役立てている。
・地方医療におけるAI医療機器の導入は、医師不足や経営難の中で誤診を減らし、医療を持続させるための選択。将来的には問診から診療ナビゲーションまでAIが担うことで、医師不足解消に貢献する可能性もある。

 AIによる画像診断技術が進化するなかで、医療の現場ではその社会実装が徐々に進んでいる。特に、専門医の不足や高齢化が深刻な地方医療の現場では、AI医療機器が静かに必要とされ始めている。

 今回は、AI医療機器協議会の金井宏樹氏と、AI内視鏡を導入した和歌山県・田辺市にある竹村医院の高原伸明医師に話を聞いた。技術と現場の距離感を浮かび上がらせる。

●目次

AI医療機器は、今どこまで来ているのか

 AI医療機器というと、最先端の大病院が導入する高度な技術というイメージを持つ人も多いかもしれない。だが、実際には日本全国での活用が始まりつつある。AI医療機器協議会(2019年設立、加盟社数は当初3社から現在は38社に拡大)で理事を務める金井氏は、医療現場でのAI活用の進展を次のように説明する。

「画像診断におけるAIの活用は、まず放射線分野から始まりました。X線やCT、MRIは静止画で構成され、AIとの相性が良い。続いて、医師の手技(カメラや器具を扱う際の技術)の影響を受けやすい内視鏡や手術支援といった動画ベースの分野でも導入が進んできています」

 たとえば金井氏の所属するAIメディカルサービスが開発したのは、内視鏡画像診断用ソフトウェア「gastroAI model-G2」。これはAIを利用して画像上で早期胃がんの診断補助を行う内視鏡診断支援ソフトウェアで、内視鏡検査中に、医師の診断のダブルチェックをリアルタイムで行うことができる。一般的に、内視鏡による胃がんの発見率は医師の経験や技術力によって大きく左右されるとされる。AIによるダブルチェックを導入することで、熟練医師が少ない地域においても検査水準の底上げが期待できる。

「医療技術の“均てん化”(全国どこでも、誰でも標準的な専門医療を受けられるように、医療技術や医療資源の格差を是正を図ること)という考え方があります。上位の医師の診断をデータ化することで、経験の浅い医師でも精度を底上げできる。AI医療機器は、そのためのツールでもあります」

それでも現場に届かない「導入の壁」

 社会実装が進んでいるとはいえ、現場での導入はまだ限定的だ。当初は薬事承認が下りないということもあったが、そこはクリアできつつある。しかし、保険収載(公的医療保険として認められ、診療報酬で点数がつくこと)がまだであるため、導入には病院側の自費負担が求められる。

「導入が進んでいるのは一部の医療機関に限られていて、医療機器が本当の意味で全国に普及するには、保険加算に関する働きかけが必要です。それが見込めるのは、早くても2030年ごろではないかとみています」(金井氏)

 加えて、診断における責任の所在や規制との兼ね合いから、現状ではAIは「診断支援」に留まり、最終的な判断は医師が行う必要がある。効率的に活用するためのファーストリード(AIが最初に医療画像をスクリーニングし、異常の可能性がある画像を選別する役割を担うこと)も制度上は難しい。

「特に自治体での導入は予算を取るのに時間がかかるため、2年は必要だと思います」(同上)

地方で使われている理由は「誤診を防ぐ」ため

 こうした状況のなかで、AI内視鏡の導入に踏み切ったのが、和歌山県田辺市にある竹村医院の高原伸明医師だ。年間約1200件の胃カメラ検査を1人で担う高原医師は、導入の理由をこう語る。

「専門医が少ないこの地域では、二重読影や指導体制を整えることは現実的に不可能です。私自身も69歳になり、体力の低下は避けられません。万一のことがあってはいけないと、見落としを防ぐためにAIの力を借りようと考えました」

 AIが示す疑わしい箇所に対して、人間がもう一度丁寧に観察を行う──高原医師が導入した使い方は、まさにAIを“補助線”として活用するモデルだ。現時点ではAIだけに任せるのは困難だが、医師がAIの指摘に応じて観察することで、見逃しリスクを減らすことができる。

「進行がん・早期がんを1例ずつ見つけられています。すべてAIのおかげとは言いませんが、少なくとも“見逃さずに済んだ”という安心感はあります」

 竹村医院がある田辺市では、専門医はごくわずか。南に下るほど医師は激減し、「ガイドライン通りに診療すれば、診療自体が成立しない」状況だという。地方の病院は経営が厳しく、若手医師はどんどん都市部へ出て行ってしまう。親の代から続く医療機関であっても、子どもを医師として育て上げたにもかかわらず、後継者にはならない——、そんな話も珍しくないという。

 医師不足の現実に直面する地方の医療現場。高原医師は、自らが引退すれば「後がいない」状況になると語る。医師会も含めて、開業医と勤務医の意識差があるため、制度改革への動きも鈍いという。

AIは地方医療を救うのか

 実際のところ、どのような医療現場ならAIの価値が見いだせるだろうか。率直に高原医師に尋ねたところ、「見落としを防ぎたいという医師には向いているが、研修医のようなレベルでは使いこなせないだろう」とAIの可能性を肯定しつつも、活用は限定的だという見方をした。現状のAIは画像診断での支援が主だが、将来的には問診や一次診断、さらには診療ナビゲーションまで担えるようになることを期待している。

「たとえば問診支援AIがもっと発展して、一次問診をAIが行い、訓練を受けた看護師が診察をして、医師の指示を仰ぐことができるようになれば、医師の数が足りなくてもカバーする体制が作れるかもしれませんね」

 地方医療におけるAI医療機器の導入は、単なるテクノロジーの進化ではない。限られた人材・資源の中で「誤診を減らし、医療を持続させる」ための、必要に迫られた選択なのだ。

(寄稿=相馬留美/ジャーナリスト)

データセンター集積地を公募=脱炭素実現へ新施策―政府

 政府は26日、脱炭素社会の実現に向けた施策を検討する「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」を首相官邸で開き、データセンターなどの集積を進める「GX戦略地域」を新たに選定する方針を示した。自治体や企業を対象に同日から提案を募集し、年内にも公募を開始する。

 GX戦略地域は、「データセンター集積型」に加え、コンビナート跡地を活用して脱炭素分野の新事業を創出する「コンビナート再生型」、脱炭素電源を活用した産業団地を整備する「脱炭素電源活用型」の3種類。

 選定に当たっての要件も公表し、データセンター集積型の場合、東京圏や大阪圏といった既存の集積地から離れており、脱炭素電源を中心に電力インフラを拡張できることなどを求めた。 

 会議では、2026年度予算の概算要求案として、脱炭素分野への投資促進に向け、経済産業省や環境省などが総額約1.2兆円を求める方針も示された。議長を務める石破茂首相は、「GX投資のうねりを日本各地に広げ、さらに世界からのGX投資を呼び込む」と強調した。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/26-16:00)

紙パックの先へ―食の未来を支えるテトラパック、その知られざる挑戦

 あなたが最後に牛乳パックを手にしたとき、その背後にどれだけの技術や社会課題解決の努力が詰まっているか、考えたことがあるだろうか。

“社会に価値を還元する”という原点から──食の未来と循環型社会を支える存在へ 

 学校給食で親しまれた三角パック──その象徴的な存在として知られるテトラパックだが、今から70年以上前にスウェーデンで創業して以来、世界160か国以上で食品加工から包装、流通までを支える「食の社会インフラ企業」へと進化している。 

 脱炭素、食品ロス削減、食の安全保障。これら地球規模の課題に、私たちの知らぬ間に着実に取り組んできたのが、テトラパックだ。

「一般には私たちは紙パックの会社として知られていますが、私たちの事業はそれだけにとどまりません。食品が安全に、効率的に消費者に届くまでの全工程を設計し、支えることが私たちの真の役割です。創業者ルーベン・ラウジングの時代から、私たちは“社会にコスト以上の価値を還元する”ことを理念としてきました。それは、再生可能な紙資源を活用し、人々がどこでも安全に食品にアクセスできるようにすること。いまもその理念を守り、進化させています」

日本市場に挑む、グローバル経営者の視点

 昨年10月、新たに日本と韓国市場の代表取締役社長に就任したニルス・ホウゴー氏は、デンマークを皮切りに、北欧、中東、スイスなど多様な地域で食品における様々な課題解決に挑んできたグローバルリーダーだ。

 日本市場については「非常に成熟した市場であり、品質、精密さ、効率性といった点で世界でも学ぶべき存在。私たちが目指す“食品の安全性と入手しやすさ”の実現に向け、多くのヒントがある」と語る。

 今年、生誕130年を迎えた創業者ルーベン・ラウジングの理念を受け継ぎ、日本でも「社会的価値をもたらす食の仕組み」を築こうとしている。

食の“裏側”に潜む環境負荷と経済価値 

 食の安全保障は、農業や小売だけで語られるものではない。実は、食品システム全体の温室効果ガス排出の約18%、経済的付加価値の最大40%が、加工・包装・貯蔵・輸送・流通といった“隠れた中間層”に集中している。

「興味深いことに、食品システムの環境負荷や経済価値の多くは、実は農場と店舗までの間にある工程に集中しています。この見えにくい部分こそ、私たちが責任を持って取り組むべき領域だと考えています」(ホウゴー氏)

 つまり、私たちが気づかぬ間に、食品を「長持ちさせるために加工する」「安全に届ける」「無駄なく流通させる」過程こそが、環境負荷と経済価値の両面でカギを握っているのだ。

「食品が食卓に届くまでには、普段は意識されにくい多くの工程があります。加工・包装・流通といったプロセスが、食品の安全性や品質を支えているのです。私たちは、この“裏側”を支える存在でありたいと考えています」(同)

 紙パックの製造にとどまらず、食品を加工、充填、包装し、安全な状態で世界中に届ける──それこそが、テトラパックの使命だ。

 だからこそ、同社は日本市場においても包装資材の提供にとどまらず、食品システム全体の効率化と持続可能性の実現に取り組んでいる。

ロングライフ牛乳が切り拓く、持続可能な流通の未来

 その一つの挑戦が、ロングライフ牛乳だ。日本市場では、「牛乳=冷蔵保存」という認識が強く根付いており、常温保存可能なロングライフ牛乳は、長らく消費者にとってなじみの薄い存在だった。

「日本では牛乳は冷蔵するものという認識が強く根付いています。しかし、UHT(超高温殺菌)と無菌充填、紙・ポリエチレン・アルミ箔で構成された6層構造の紙容器によって、光や酸素から内容物を守り、6~12カ月の常温保存が可能なのです。消費者の認知拡大には、まだ時間がかかるかもしれません」(同)

 だが、ホウゴー氏は、日本市場の“意外な事実”にも言及する。

「実は、日本でロングライフ牛乳はすでに流通しているのですが、消費者の認識に配慮して、冷蔵売り場で販売されているケースが多いのです。消費者は常温保存可能であることに気づいていないかもしれませんが、流通面ではすでに効率化が進んでいるのです」(同)

 実際、長期で常温保存可能なロングライフ牛乳が物流や販売の効率化、さらには食品ロス削減に大きく貢献している。冷蔵インフラの維持にかかるエネルギー負荷も小さく、特に地方や農村部など物流の効率化が課題となる地域では、ロングライフ牛乳が持つ常温保存性が、社会インフラの一部としても重要な役割を果たす。

「私たちは、安全性と品質を担保しながら、消費者にとって便利で持続可能な製品を届けたい。ロングライフ牛乳は、将来の持続可能な食品流通を支える重要な選択肢の一つだと考えています」(同)

 こうした視点でテトラパックは、日本でも食の流通課題に挑戦していく。日本市場は、品質や精密さ、効率性において世界でもトップクラスの成熟した市場だ。

「2024年問題」への新たなアプローチ

 一方で、食品加工や包装、流通といった“目に見えにくい”プロセスに対する社会的な理解や、長期常温保存を可能にする技術への受容は、まだ十分に広がっていない。

「日本は非常に品質基準が高い市場です。しかし同時に、冷蔵保存へのこだわりなど、文化的な側面から新しい流通モデルの導入には課題もあります。それでも私たちは、日本から多くを学び、日本の社会課題解決にも貢献できると信じています」(同)

 特に、2024年4月から施行されたトラックドライバーの労働時間規制、いわゆる「2024年問題」は、日本の物流業界に深刻な影響を与えている。ドライバー不足と相まって、冷蔵輸送に依存した従来の食品流通モデルは限界を迎えつつある。

「チルド製品は製造から配達まで時間的制約が厳しく、ドライバーにも負担をかけています。常温流通なら製造期間にも余裕ができ、船便や鉄道など輸送手段の選択肢も広がります。また、チルド製品がクレートでの輸送を必要とするのに対し、常温製品はパレット輸送が可能で、大幅な効率化が図れるのです」(同)

 こうした物流効率化は、環境負荷の削減にも直結する。冷蔵車両の運行減少によるエネルギー消費削減、輸送回数の削減によるCO2排出量削減など、従来の「ドライバーを増やす」「輸送効率を上げる」といった発想とは異なる、2024年問題への新しいアプローチといえる。

 テトラパックが提案するのは、物流業界だけでなく食品・飲料業界も含めた構造的な解決策だ。単なる製品提供にとどまらず、企業・自治体・NGO団体などと共創し、労働力不足やサステナビリティなどの社会課題を同時に解決する道筋を描いている。

万博で示す、循環型社会の実例

 こうした挑戦を社会に伝える場として、テトラパックが参加しているのが、現在開催中の大阪・関西万博だ。デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧5カ国が共同で出展する「北欧パビリオン」に、テトラパックはプラチナスポンサーとして参画している。

「万博は、私たちの取り組みを具体的な形で示す貴重な機会です。私たちは北欧の企業とともに、グリーントランジション、ライフスタイルとウェルビーイング、モビリティとコネクティビティといった社会の重要なテーマに向き合い、新しい価値を発信しています。そして日本でも多様なパートナーと連携し、強靭な食品システムの構築や資源循環を通じた持続可能な社会づくりに向けた取り組みを発信しています」(同)

 北欧パビリオン内で提供されているボトルドウォーターは、使用済みのアルミ付き紙パックの古紙を使用した再生段ボールに梱包されたうえで出荷・輸送されている。また、会場内で回収された使用済みの紙パックについては、大阪・関西万博の協賛者であるリサイクル事業者によって再資源化され、大阪・関西万博の会場内でトイレットペーパーとして使用される。このように、日本国内で進めてきた紙資源のリサイクルの実例を、実際の社会インフラとして可視化している。

 たとえば、私たちがリサイクルに出した紙パックがトイレットペーパーや段ボールに生まれ変わり、また社会で役立っていく──そんな小さな循環の積み重ねも、未来の社会を支える「共創」のひとつなのだ。

 食品や容器の“裏側”で、こうした企業やパートナーたちが静かに動いていたことに気づいたとき、社会課題の解決は決して遠い話ではなく、私たちの日々の暮らしとつながっていることを実感するだろう。

2050年ネットゼロに向けて──容器におけるライフサイクル全体で描く循環の未来 

 日本市場では、包装資材メーカーというイメージが強いテトラパック。だからこそ、食の安全保障や循環型社会づくりといった“大きな視点”を示すことで、同社の本質的な役割を社会に問いかけているのだ。

 こうした循環型社会への取り組みは、リサイクルだけではない。テトラパックの紙容器は、約70%が原紙で、再生可能資源である木から作られている。原紙は持続可能な森林管理を認証するFSC®(森林管理協議会)認証を取得しており、適切に管理された森林やそのほかの管理された供給源からの木材を原料として使用している。

 さらに、キャップやラミネートなどには、植物由来のプラスチック(サトウキビ由来のポリエチレン)が採用可能で、化石燃料由来の資源への依存を低減。これらの素材はサプライヤーと協働しながら、カーボンフットプリント削減も実現してきた。

 近年では、紙ベースのバリア素材の開発も進み、将来的には「完全に再生可能資源で構成された紙容器」の実現を目指している。

 包装そのものだけでなく、使用後のリサイクルや再生可能素材の活用も含めて「循環の仕組み」を製品の一部と考えているのだ。

「私たちは、グローバル全体で2050年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量ネットゼロを目標に掲げています。目標達成に向けた取り組みの一つとして、年間約1億ユーロ(約160億円)の研究開発投資の多くを、紙容器の素材構造の簡素化、再生可能資源使用率の向上、リサイクルの改善などに注いでいます。素材開発だけでなく、リサイクルインフラ支援や再生プロセスの改善まで、容器のライフサイクル全体で環境負荷を下げる努力が求められているのです」(同)

日本で60年、これからの共創に向けて

 こうしたグローバルな挑戦を重ねてきたテトラパックだが、日本市場ではすでに60年以上の長い歴史がある。

「日本市場では、私たちの紙パック製品はすでに多くの方にご利用いただいています。しかし、食品加工や流通、リサイクルといった“見えにくい領域”における貢献は、まだ十分に知られていないと感じています」(同)

 これからのテトラパックが目指すのは、包装資材メーカーとしてだけではなく、「食の安全性」「環境配慮」「社会インフラ」という視点から、食品システム全体を支える存在となることだ。

「私たちは、1962年に日本で創業を開始して以来、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進してきました。これからも、日本の食品・飲料業界が抱える社会課題の解決に向け、食品・飲料メーカー様、自治体、NGO団体など、さまざまなパートナーと共創したいと考えています。未来の世代のために、持続可能な食の仕組みを築いていくこと。それが私たちの使命です」(同)

 社会課題に挑むことは、特別なことではなく、企業として果たすべき当然の責任なのだ。テトラパックは、その当たり前を迷うことなく実践している。外資系企業でありながら、長きにわたって日本の食品産業を支えてきた同社。だが今回のインタビューで明らかになったのは、実は「包装容器の会社」という認識を大きく超えた存在だということだ。

 驚くべきは、社会課題解決への取り組みが、経営戦略や企業アピールの一環ではなく、創業者の理念を受け継ぎ、今もなお変わらぬ企業DNAとして息づいていることだろう。多くの企業が持続可能性を「新たな取り組み」として掲げる中、テトラパックにとってそれは当然すぎる日常なのだ。

 食の裏側で続く静かな挑戦は、やがて私たちの食卓に、安全と持続可能性という確かな未来を届けるだろう。

 次にコンビニで飲料のパックを手に取ったとき、少し立ち止まって考えてみてほしい。その小さなパックに込められた技術と、2024年問題や環境課題への挑戦を。私たちの何気ない選択が、実は未来の食卓を支える力になっているかもしれない。

(取材・文=昼間たかし/ルポライター、著作家)

※本稿はPR記事です。

折り畳んで「しまえる」布製の浴槽「バストープ」ヒットの秘密…シャワー派なら浴槽掃除が不要

●この記事のポイント
・LIXIL、折り畳んで「しまえる」布製の浴槽を備えた浴室空間「bathtope」がヒット
・従来のプラスチック型の浴槽と比べて約26%の節水を実現、脱炭素など環境負荷低減
・強度を備えたPET繊維と、防水性があるウレタンフィルムとの複層を素材として用い、約900gの軽い浴槽を実現

 LIXIL(リクシル)が昨年11月に発売した、折り畳んで「しまえる」布製の浴槽を備えた浴室空間「bathtope(バストープ)」がヒットしている。「夏場はシャワーだけ」という人は、取り外して「しまって」おけば、浴室を広く使えて浴槽の掃除が不要。浴槽の重さは900グラムで四隅をフックにかけるだけで設置でき、お湯に「つかりたい」ときだけ浴槽を取り付けるという使い方が可能。しかも、1600mmサイズの広い浴槽を実現でき、マンションなどで採用の多い従来の1216サイズのユニットバスと比較して、足を伸ばしてゆったりと入浴できる。200人で入浴テストを実施済であり、ハンモック形状なので首や肩回りを柔らかく受け止めてくれるのに加え、柔らかい繊維と防水フィルムの二重構造を持つ一枚の布「fabric bath」から作られており、柔らかく肌触りの良い生地が頭や背中を優しく包み込んでくれる。従来のプラスチック型の浴槽と比べて約26%の節水を実現できるため、脱炭素など環境負荷低減にもつながる。発売直後に見積件数は目標の5倍にも上ったとのことだが、浴槽付きでもなく、シャワールームでもない、新たなジャンルを切り開いた「バストープ」は、どのように生まれたのか。ヒット商品誕生のカギについて、LIXILへの取材をもとに追ってみたい。

●目次

従来のユニットバスはリサイクルが困難

「お風呂はもっと、自由でいい。」をコンセプトとして誕生した「バストープ」。たたんで収納できるリムーバブルな浴槽を備えた浴室空間という点が独創的だが、これまで存在しなかったタイプのユニットバスを開発・発売するに至った背景について、リクシルは次のようにいう。

「日本の入浴文化の未来を常に考えています。そのなかで日本の住宅に普及したユニットバスの今後の変化を深く考えています。従来のユニットバスはリサイクルが難しく、湯貯めや保温の際に多くの二酸化炭素(CO2)も発生します。今後シャワー浴が主流になったら、環境にも配慮しつつ、ユニットバスをどのように変化させればいいのだろうと考えました。また日本人にとって、疲れているときにお湯に浸かり、身体を癒すという習慣は切り離せないもの。近年の多様化するライフスタイルと、日本の入浴文化を両立できる空間を提供できないかと考え、取り外しできる浴槽というアイディアをストックしていました。タイミングよく社内のビジネスアイディアコンテストが始まり、応募し最優秀賞を獲得したことから、実用化に向けたプロジェクトが始まりました」

 商品の特徴などは前述のとおりだが、リクシルによれば購入者は以下のようなメリットが得られるという。

・シャワー浴と浴槽浴を自在に切り替え
・身体を包み込む、新感覚の柔らかい浴槽
・コンパクトな空間でも、足を伸ばして入浴可能
・浴室に隣接する洗面室も広々活用
・環境にも配慮、26%の節水を実現

包まれるような新しい感覚の入浴感を実現

 開発に際しては、やはり浴槽の布に関する部分に難しさがあったという。

「開発においては、手軽に取り外しができる重量と、布の強度のバランスを取ることに難しさがありました。取り外しを想定すると、女性でも手軽に扱えて、簡単に設置できる重さの浴槽であることが必要です。それと同時に、安定して人の体と体重、そしてお湯を支えることのできる布強度も重要となります。最終的には強度を備えたPET繊維と、防水性がありサラサラと肌ざわりの良いウレタンフィルムとの複層を素材として用い、約900gの軽い浴槽を実現しました。

 またハンモック構造の浴槽は、お湯を入れるとお湯の重量でテンションがかかり安定します。首や肩周りを柔らかく受け止めてくれるのも、この構造ならではです。さらに、ユーザーにご満足いただける入浴感を確立するため、社内外を合わせ延べ約200人の方に入浴していただき、テストを重ねました。これらの試行錯誤を経て、包まれるような新しい感覚の入浴感を実現しました」

賃貸マンションや民泊、戸建新築など多様な先から注文

 販売は好調とのことだが、どのような属性の購入者が多いのか。

「当初は、マンションのリノベーション市場をメインとし、都心部に住む単身者や共働きの夫婦、少人数世帯などをターゲットにしていましたが、実際は世代を問わず、賃貸マンションや民泊、戸建新築など多様な先から注文が入っています。(今後の拡販計画について)詳細はお伝えできませんが、既成概念を壊す、浴室を開放する、入浴時間を大切に感じてもらうなどをアイディアの軸に、今後も市場の反応を見ながら、新たな商品企画に取り組んでいきます。市場に一石を投じる中でさまざまな反応が得られているので、その情報も貴重な財産として次の計画に繋げていけたらと考えています」

 8月には、新たなグレードとして、隣接する空間とバススペースをシームレスにつなぐ細いフレームの引き違い戸を搭載した最上位グレード(Gタイプ)を市場投入した。デザイン性や個性のある商品の魅力が認められてのアップデートとなる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

値上げ時代の新しい贅沢。「ひと匙プレミアム」な調味料

日本の食生活のトレンドを知り、これからを考える、電通「食生活ラボ」(以下、食ラボ)。本連載は、食ラボおよび他の調査データなどを踏まえて、食のキザシをひもといていきます。

今回取り上げるのは、少量で料理の満足度を底上げする「プレミアム調味料」。昨今、食卓で静かに存在感を増しています。私も食材自体に絶対的なこだわりがない一方で、味付けに使うバターやしょうゆはこだわりの製法のものや、高級素材が使用されたものを選んでいます。

自宅で非日常を味わえる「ちょっといいひと匙」は、値上げ時代の新しい贅沢になりつつある。そんな志向性について着目しました。

「塩、しょうゆ、みそなどの調味料」にお金をかけたい生活者は50.7%!

食品価格が値上がりしている中でも、“これまで以上”あるいは“これまでと同じくらい”お金をかけたい対象として、「調味料=味の決め手」になるアイテムを挙げる人が、前年より5.2ポイント増えました。

食生活ラボ
出典:電通「食生活に関する生活者調査2024」

その象徴が、少量で料理全体の満足度を底上げする「プレミアム調味料」です。コロナ禍によって自宅で料理をする時間が増え、生活者がさまざまな調味料に目が向くようになったことで、調味料市場は広がりを見せました。

価格は高めですが、各メーカー・ブランドが独自に開発した、合わせ調味料、ドレッシングなどが続々登場しています。たとえば、樽熟成しょうゆ、トリュフオイル、オリエンタルスパイスブレンドなど、それを加えるだけで、レストラン級の深いコクや国際色豊かなフレーバーを自宅で手軽に楽しめます。いつもの料理を“格上げ”してくれることが「プレミアム調味料」の価値といえます。

2025年のFOODEX JAPAN(国際食品・飲料展)でも、「プレミアム調味料」がトレンドキーワードとなりました。味だけでなく、瓶やボトルのデザイン自体が“映える”ことも相まって、SNSには“推し調味料”の投稿が相次いでいます。

安い食材でも調味料次第でおいしくなる

節約と満足度の間で揺れる生活者心理を裏づけるデータもあります。料理写真共有アプリを開発・運営するスナップディッシュの調査によると、節約を意識した料理をする中で、妥協できない点として、62.3%の人が“おいしさ“を、57.1%の人が” “栄養バランス“を挙げています。多くの人が、節約をしながらも食事の質は落としたくないと考えていることが分かりました。

食生活調査
出典:料理写真共有アプリ「スナップディッシュ」調べ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000140.000007310.html

さらに、調査では、85.3%の人が、「安い食材でも調味料次第でおいしくなる」と回答。つまり、主役食材を質素にしても、調味料という影の主役にはお金と意識を配分する──。これが物価高時代の新しい考え方である「ひと匙プレミアム」です。

食生活調査
出典:料理写真共有アプリ「スナップディッシュ」調べ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000140.000007310.html

たとえば、鶏肉をいつものようにしょうゆと酒で味付けてから揚げにするのではなく、スパイスを混ぜてエスニック風にする。ポテトサラダに使うマヨネーズを、「燻製(くんせい)」されたマヨネーズにする。調味料を一つ変えるだけで、いつもの食卓に「非日常感」も加えられる楽しい体験になる。そのために多少の投資はいとわないというのが、生活者の気持ちなのでしょう。

ひと匙加えるだけで変わるパフォーマンス

なぜ「ひと匙プレミアム」が生活者の心をつかむのか。背景を探ると、まず、「プチ贅沢」とされていた日常の特別感が、さらに細分化されている現状が挙げられます。高額な娯楽や大型消費は抑えつつも、自分の手の届く範囲で満足のいく「贅沢」を感じたい。調味料は、「食」の楽しみを広げることからも、他の娯楽よりも財布のひもを緩めているのではないでしょうか。

また、「調味料を加えるだけ」「ひとふりするだけ」など、いつもの調理工程を大きく変更せず、すぐに「味が決まる=結果が出る」という点も、今の「パフォーマンス時代」におけるタイパ、プロパ(※)のニーズと相性が良く、大きなポイントになっていると思われます。「手間はかけたくないけれど、味だけは妥協したくない」という思いをワンステップでかなえてくれるのが、「プレミアム調味料」なのです。

企業やブランドがこの潮流に応えるには“ひと匙のストーリー”を語れるパッケージや売り場設計が欠かせません。生産地や職人のこだわり、相性のいい食材やレシピを可視化し、単なる「高価な調味料」ではなく「体験への投資」として価値を伝えることが重要です。

「ひと匙プレミアム」は物価高の中でも、「贅沢」「時短」「体験価値」を同時に満たす、拡大余地の大きい考え方です。物価高でも“あえて”贅沢をするひと匙が、生活者の幸福度を跳ね上げる──まさに今の食トレンドといえるでしょう。

※タイパ:タイムパフォーマンス(時間対効果)、プロパ:プロセスパフォーマンス(過程対効果)
 
【食生活に関する生活者調査2024 調査概要】
・目   的:日本の食生活における生活者の意識や実態、満足度、トレンドなどを把握
・対象エリア:全国
・対象者条件:15~79歳
・サンプル数:1300
・調 査 手 法 :インターネット調査
・調 査 期 間 :2024年8月23日~8月26日 
・調 査 機 関 :株式会社電通マクロミルインサイト


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「令和の米騒動」の中で聞く、日本の食料システムと消費の意識 ―サステナビリティとプライシング①―

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「令和の米騒動」をきっかけに、近年注目を集める農産物の価格高騰や供給不安を含めた、生産から消費までをつなぐ食料システムの課題。国によって状況は異なるものの、「食料の物価高が生活を逼迫している」という現象は日本に限った話ではありません。

グローバル調査会社Toluna社が2025年6月に実施した13カ国の消費意識調査(Economic Sentiment Tracker)と同条件で比較できるよう、電通では同時期に日本版の調査(調査会社Toluna社)を実施(調査概要はこちら)。今回は、記事の前半で他国との比較、後半で日本のみで聴取した食に関する最新の消費意識をご紹介します。

<目次>
物価高は日本にとどまらない

米の価格高騰は一時的ではなく、食料システムの変革が必要

企業が農業支援をする、生産者とつながることへの期待

物価高は日本にとどまらない

6月中旬時点のウェブアンケート意識調査では「今後3カ月の経済の見通し」について、日本は50%が「悪化する」と回答し、「改善する」と回答した割合は1割未満でした。その他、「悪化する」という見通しが過半数だった国は、イギリス・フランス・アメリカ・カナダ・シンガポール・オーストラリア・タイでした。反対に「改善する」見通しが過半数だったのはインドのみでした。

今後3カ月の経済の見通し
2025年6月実施(日本のみ電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」、その他の国はToluna実施「Economic Sentiment Tracker」より。調査概要は記事の末尾を参照)

また、「もし3カ月以内に自己裁量での消費を増やすとしたらその条件は何か」も聴取したところ、多くの国で理由の1位に挙げられたのは「物価高がおさまったら」でした。物価高は日本だけの問題ではないことが改めて感じられます。

今後3カ月で支出を増やす条件
2025年6月実施(日本のみ電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」、その他の国はToluna実施「Economic Sentiment Tracker」より。調査概要は記事の末尾を参照)

グラフは割愛しますが、「先月と比べたお金を使う意識の変化」を聴取した設問では、14カ国すべてで「買い物の習慣は変えていない」は2割台までにとどまり、多くの人に「買い物習慣が変わってきた」と感じられている様子です。

特に国による違いが大きかったのが「より安価なブランド・代替品に切り替えている」と「不要不急の支出を削減している」の項目です。2つの項目を並べてみると、「より安価なブランド・代替品に切り替える」の割合が14カ国平均に比べて特に高いのはタイ・シンガポール・インド・フィリピンで、「不要不急の支出を削減している」の割合が特に高いのは、日本とオーストラリアでした。

先月と比べたお金を使う意識の変化
2025年6月実施(日本のみ電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」、その他の国はToluna実施「Economic Sentiment Tracker」より。調査概要は記事の末尾を参照)

グラフは割愛しますが、「先月と比べた支出の増減」を聴取した設問で「支出が増加した」と答えた人(各国平均で41.0%)に対して、どのジャンルの支出が増えたかを聞くと、すべての国で1位は「食料品」でした。日本でも、「先月より支出が増加した」と答えた92人のうち、増えたジャンルは「食料品」(72.8%)が他に比べて突出して高く、1位でした。次いで、「外食・テイクアウト」(25.0%)となりました。

全体を通じて日本の消費マインドは「経済の見通しはさらに悪化すると考えており、物価高と感じる間は不要不急の支出の削減を意識しているが、安価な代替品に切り替える行動は多くはない。日々の生活に必要な月々の食費が増加したと感じる」状況と言えそうです。次の章からは、食に特化して日本オリジナルのデータを見ていきます。

米の価格高騰は一時的ではなく、食料システムの変革が必要

ここからは日本オリジナルの調査結果を見ていきます。「米の価格高騰・品薄は一時的ですぐにおさまるだろう」という意見には「そう思わない」の回答割合が72.4%で、「農産物の生産から消費まで、日本の食料システムの変革が必要だ」という意見には82.4%が「そう思う」と回答しました。一次的ではない、抜本的な変革の必要性を多くの人が感じているといえます。

米の価格
2025年6月電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」より日本全国N=250

食品を買うときや外食するときに「日常的にある+たまにある」行動を聴取した設問で、92.0%があてはまると回答したのは「値引き・セール品を選ぶ」です。それ以外にも「できるだけポイントが多くつく商品を選ぶ」78.4%、「もっとも価格が安いものを選ぶ」78.0%と、コスト意識は強く持っている様子です。

しかし「品薄や高価格で、国際情勢の影響を感じる」80.0%、「食品ロスを意識して選ぶ」76.4%、「産地が明記された食材・料理を選ぶ」73.2%など、価格コンシャスなだけではなく、産地を含めて食を取り巻く環境が見えることに、関心を持つ人の多さも確認できます。

食品を買うときや外出するときにあてはまるもの
2025年6月電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」より日本全国N=250

企業が農業支援をする、生産者とつながることへの期待

下記のグラフそれぞれの設問への反応を見ても「日々の暮らしを(経済的に)守る」(青枠)ことと、「日本の食料システムの変革に貢献したい」(赤枠)という2つの思いが高い割合になっています。長期的には危機意識をもって国内農業を支援すべきだという思いと、短期的には経済不安で価格優先したいという思いの両方が意識の中に存在している様子です。

日本の食料システム課題
2025年6月電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」より日本全国N=250

その中で「国内農業の課題解決に取り組む企業には、好感が持てる」はトップスコアで、85.2%がそう思うと答えています。購入するだけではない、新しい仕組みや変革の担い手として、企業が関わることへの期待値は高いと言えそうです。

有機農法でも国産飼料・肥料を使う場合でも、生産時のコストアップがブランド化されるなど収益につながらなければ、生産者としては変革に踏み切れません。調査結果からは、日本の低価格意識の高さをふまえると、「環境負荷低減」などを訴求しても簡単に選ばれるわけではないことも見えてきました。

日常的に買う価格の1.5倍高くても、買いたいと思う食品
2025年6月電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」より日本全国N=250

サステナビリティにお金を払いたい意識はあっても、実際の行動は伴わないことについては、国内外のさまざまな消費者行動研究や実証実験でも指摘されています。「日常的に買う価格の1.5倍高くても、買いたいと思う食品」では、環境負荷低減・生物多様性配慮が高価格でも受け入れられる割合は4割弱でした(緑枠)。

しかし、「生産者が手間ひまかけて、丁寧に品質管理されたもの」は58.0%、「日本の食や地域を支える生産者の応援になるもの」は54.8%と、過半数が1.5倍高くても買いたいと回答しています(赤枠)。もちろん「毎日1.5倍の価格帯を選ぶ」ことは物理的に難しいでしょうが、ただ「物価高で同じものが高くなった」のではなく、「理由があって高くなっている」という食品の背景は受け入れやすくなっている様子です。

次回は、食に特化せず「サステナビリティに配慮された商品のプライシング」について、マーケティングの観点から、経済学の知見をふまえビジネスに応用・実施できるヒントを紹介します。

【調査概要】
電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」
対象エリア:日本全国(人口構成にあわせて割付)
対象者条件:18〜79歳(性別回答選択肢「男性」「女性」「その他・答えたくない」)
サンプル数:250人
調査手法:インターネット調査
調査時期:2025年6月
調査実施会社:Toluna
 
Toluna「Economic Sentiment Tracker」
対象エリア:13カ国(アメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、インド、シンガポール、タイ、フィリピン、オーストラリア)
対象者条件:18~79歳(性別回答選択肢「男性」「女性」「その他・答えたくない」)
サンプル数:3500人(アメリカ500人、その他の国250人ずつ)
調査手法:インターネット調査
調査期間:2025年6月
調査実施会社:Toluna
 
 
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通信技術領域のゲームチェンジャー?光電融合技術の可能性と課題…世界の半導体企業の開発競争が激化

●この記事のポイント
・世界の半導体関連企業の間で光電融合技術をめぐる開発競争が加速
・データセンターの消費電力が5分の1~10分の1くらいになる可能性
・実用化・普及の時期は2030年というところが1つのターゲット

 世界の半導体関連企業の間で光電融合技術をめぐる開発競争が加速しつつある。AIの普及でデータセンター需要の急速な拡大に伴う消費電力不足の問題が顕在化し、かつ、より高速な通信速度が求められるなか、光電融合技術は通信技術領域のゲームチェンジャーになるとみられている。米エヌビディアや米ブロードコムなど世界の半導体大手が開発を進めており、米マイクロソフトはクラウドサービス・Azureで導入する意向を表明するなど事業者の動きが活発化している。どのような技術なのか。また、NTTグループがすでに高い技術を持っているとされ、半導体製造装置・半導体関連部品の市場では日本メーカーは高いシェアを持っているが、光電融合の領域で日本勢は高いプレゼンスを発揮することができるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

なぜ今、光電融合技術が注目されるように

 光電融合技術とは何か。東京科学大学 工学院 教授の西山伸彦氏はいう。

「半導体とは、電流を流す導体と電流を流さない絶縁体の両方の性質を持ち、電流が流れるようにしたり、流れないようにしたりと制御できる材料です。その性質を利用して回路を構成したものが、一般的にCPUやGPUなど(以降、合わせてxPUと書きます)の電子回路と呼ばれるものですが、近年ニュースなどでは、この回路の総称として半導体と伝えていることが多いようです。この電子回路の回路に加えて光も使いましょうというのが光電融合技術です」

 なぜ光電融合が技術的に可能になったのか。

「現在、電子回路を製造する材料として主流なのはシリコン半導体でして、一方でインターネットやDVD、ブルーレイには光が使われており、その光は化合物半導体を使って出力しています。化合物半導体は、シリコンではなく2種類の原子を混ぜ合わせて半導体の性質を持つようにしたものでした。1980年代後半から1990年代頃、光を通すだけならばシリコンでもできるということが提案されて、同一の半導体を使ったままで電気も光も流すことができるシリコンフォトニクスと呼ばれる技術が成熟してきて、電子回路の隣に光の回路を配置できるようになってきました。これが光電融合ですが、考え方自体は昔からあったということになります」

 では、なぜ今、光電融合技術が注目されるようになってきているのか。

「電子回路が非常に速い信号処理を行うことを迫られているということが大きいです。電線や電子回路内部のトランジスタ間をつなぐ電気配線は、距離が長くなるほど電気的な損失が増えていくという性質を持っています。一方で光で配線をすると、距離が長くなっても損失量が一定なので、距離が長い場合は光のほうがエネルギー損失量が少なくで済みます。現在のようにxPUに非常に速い情報処理速度を求められるようになると、電子回路だけだと短い距離でもより多くの損失が発生することになります。以前は電気信号を電線だけで離れた場所に送っていましたが、現在では建物の外に出ると光ファイバーで通信するのが一般的です。そして将来的にAIなどの普及で、より速い通信速度が必要になってくると、極論を言うと、xPUなどの電子回路のすぐ隣から光で送信したほうが、よりエネルギー損失が小さくなります。

 光電融合技術を使うシリコンフォトニクスは2000年代ぐらいから徐々に普及し、何百~何千kmの比較的長距離の通信で使われていましたが、光電融合技術が一気に注目され始めたのはここ数年ぐらいの話です」(西山氏)

消費電力を抑制

 光電融合の優れた特徴としては、他にどのような点があるのか。

「光電融合と同じぐらいの処理速度を電子回路だけで実現しようとすると、電気回線1本あたりの速度が遅いので回線をたくさん並べる必要があります。光の場合は回線1本あたりの速度が速いので、多くの配線を必要とせず、小型化につながり、消費電力の抑制にもつながります。同じ土俵では比較できないので単純にはいえませんが、データセンターの情報処理にかかる消費電力としては、光電融合を使うと、使わない場合に比べて5分の1~10分の1くらいになるといわれています」

 実用化・普及はいつ頃になるのか。

「来年にもすぐ実用化が進むというペースではなく、数年はかかるのではないでしょうか。実際に販売していく際には、導入する企業側は『本当に信頼性は大丈夫なのか』『信頼性をどのように保証するのか』『品質は何年保証されるのか』といった点を検証する必要があり、またコストの問題もあるので、実用化までは数年はかかるのではないでしょうか。関連事業者は急いで開発を進めているので想定以上に早く実用化される可能性はありますが、2030年というところが1つのターゲットになってくるとみられています」

 気になるのは、光電融合の領域で日本企業がどれだけのプレゼンスを保つことができるのかという点だ。

「半導体関連の部品や製造装置の市場では日本メーカーは高いシェアを持っており、エヌビディアなどの製品にも日本メーカーの部品・部材が多く採用されており、その意味では日本のプレゼンスは非常に高いのは事実です。ただ、日本は最終製品としてのxPUは弱く、そこが大きな課題です。納入業者的な位置づけで終わってしまわないためにも、xPU周辺の高い技術をまとめて提供できるという形態を目指して、我々も今、企業と連携して取り組みを進めているところです」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=西山伸彦/東京科学大学 工学院 教授)

GMO子会社、博物館案内のAI対話型ロボを公開=実証実験を未来館で実施

 GMOインターネットグループ子会社のGMO AI&ロボティクス商事(東京)は25日、日本科学未来館(東京都江東区)と、人工知能(AI)対話型ロボットを使った展示案内の実証実験を始め、報道陣に公開した。来場者の問い掛けに応じて展示物の前まで案内したり、位置情報を基に「これは何」など曖昧な問い掛けにも的確に返答したりできる。31日まで実施する。

 5階常設展示の一部が対象。日本語や英語など4カ国語に対応し、来場者の問い掛けに自然な音声対話で応える。ロボットを動かすアプリケーションに実装した業務のうち約8割をAIが自動生成しており、導入に掛かる時間を大幅に削減したという。実証を通じて想定外の質問への対応など課題を洗い出し、別の美術館や商業施設などへの展開を目指す。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/25-17:24)

広がる・深まるジャパンブランドの世界

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ジャパンブランド調査は2011年にスタートし、訪日観光や地方創生、食分野、日本産品、コンテンツ、価値観、ライフスタイル、社会潮流など、ジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握する、電通独自のナレッジ基盤事業です。

調査開始から15周年という節目を迎える2025年は、本調査史上最大規模となる定量調査を実施しました。調査は、20の国・地域(調査概要)、20を超える産業分野、10を超えるテーマを網羅し、これまで以上に多角的かつ実践的なインサイトの獲得が可能です。

先が読めず、予測困難な状況が常態化した現代において、本調査が未来に向けて歩みを進めるためのヒントや、認知バイアスにとらわれないための相対化視点を継続的に提供し、微力ながら持続可能な社会づくりに貢献できることを願っています。 

<目次>
国際観光における日本の競争力
訪日体験と消費傾向
地方創生における観光の論点
持続可能な未来に向けて

 

国際観光における日本の競争力

世界の海外旅行経験者から、観光目的で再び訪れたい国として日本が最も多く挙げられ、その割合は半数を超えました。2位の韓国や3位の米国とは大きな差をつけており、日本が他国と比較して突出した人気を誇っていることが見てとれます。(図表01)

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さらに国・地域別で見ると、20の調査対象のうち、13の国・地域で日本が再訪希望先として首位を獲得しており、その差は市場ごとに異なるものの、いずれも2位以下を大きく引き離す結果となりました。これは、アジアパシフィックにおいて、日本が広範囲にわたり有力な旅行先候補として定着していることを示しています。(図表02)

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外国人観光客の増加が続く中、観光目的による再訪意向も年々着実に上昇しています。たしかに、歴史的な円安が訪日旅行のハードルを下げ、裾野を広げた面は否定できません。しかし、本研究の結果からは、香港と台湾を除き、円安が訪日の主な動機となっているわけではないことが明らかになりました。

多くの旅行者にとって日本を訪れる理由は、為替の有利さ以上に、体験価値や文化的魅力といった本質的な要素に根ざしていると考えられます。このような傾向は、日本への観光が一過性のブームではなく、大きな魅力として持続的に受け入れられていることを裏付けるものと見ています。

訪日体験の満足度が蓄積されることで、自然と再訪意向が高まっていると考えられる一方で、国内の人手不足が顕在化している中、今後の課題は「訪日観光の満足度をいかに保つか」にあります。(図表03) 

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また、日本とその他の海外旅行先を比較した際、旅行者が求める基本的な要素には大きな差は見られませんでした。多くの人が「自然景観」「食文化」「伝統文化」などを旅の主目的とする一方で、「安全性・安心感」「癒し・リラックス」「異国情緒」「清潔感」といった環境面の充実も重視されているようです。

これは、全般的にコト消費への関心が高まっていることを示すと同時に、観光体験が単なる観光資源の消費にとどまらず、心身の回復や非日常性の享受といった多面的な価値を求める行動であること、そして、旅の本質を見失ってはならないことを示唆しています。(図表04)

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国・地域別に見ると、期待値の傾向には若干の差異が見られます。オーストラリアの旅行者は「独自の食文化」や「癒し・リラックス」に強く引かれ、イギリスでは「独自の伝統文化」や「清潔感」への期待が高く評価されました。一方で、アメリカでは特定項目に対する著しい偏りはない様子がうかがえます。(図表05)

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8兆円規模にまで成長を遂げたインバウンド市場は、すでに国内アパレル産業と肩を並べ、自動車輸出額の約半分(※1)に匹敵する外需けん引力を持ちます。インバウンドが持つ意味合いを観光という枠組みだけでは決して捉えきれません。世界を見渡すと、訪問者数や外貨獲得額の上位国はほぼすべてが強固なソフトパワーを基盤とし、国境や言語といった物理的制約を超えて生活者を引きつける本源的な魅力を有しています。

観光依存に対する懸念や不安の声が時折聞かれますが、日本におけるインバウンド消費のGDPへの寄与は、2024年時点で約1%にとどまっており、G7諸国やOECD加盟国と比較しても依然として低水準にあります。オーバーツーリズムへの対応は必要ですが、過度な観光依存を危惧する議論とは切り離し、現実的な産業波及力や経済貢献のポテンシャルを踏まえた上で、冷静に論点を整理し、理解促進を図る必要があります。

われわれが注目している再訪意向はインバウンドの定量的評価指標としての機能にとどまらず、「再び訪れたい」という人間の根源的欲求をシンプルかつ明瞭に可視化する感度の高い指標として位置づけられます。そして、再訪の気持ちを喚起する「国際観光における持続的競争力」の強さは観光資源のみならず、日本食文化への関心や日本製品に対する信頼感といった、より広範囲にわたる文化的・社会的要素によって支えられていることが本研究で改めて確認できました。

※1 出典:財務省「貿易統計」(2024)

 

 

訪日体験と消費傾向


訪日旅行において関心が高い体験としては、日本文化の象徴ともいえる「和食」や「自然景勝地」、さらには「四季の体験」や「繁華街の街歩き」、「伝統文化の体験」などが挙げられます。なかでも「コンビニでの買い物」は一見日常的な行為ながら高い関心を集めており、特にアジア圏での支持の高さが目立ちます。

これらの結果から、訪日体験の魅力は非日常性に限らず、磨かれた日本の日常文化もしくは生活インフラそのものにも強い訴求力があることがうかがえます。当然ながら、体験に対する志向は文化圏ごとに異なる傾向も見られ、インバウンドマーケットの拡大および近隣地域からのリピーターの増加に伴い、今後の事業拡張や商品・サービス開発、マーケティング施策立案においてはターゲット地域別の対応を考慮する必要があります。(図表06)

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ここから訪日体験をさらに細分化してみます。

自然体験の中では「桜の花見」が群を抜いて人気であり、日本観光を象徴する体験として確固たる地位を築いています。他にも「温泉入浴」や「自然散策」「紅葉狩り」など、日本の自然資源の多様性と魅力が幅広く認知されていることが分かります。(図表07)

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文化体験においては、「季節ごとの伝統行事」や「茶道」「祭りの見物」といった日本特有の行事や精神文化への関心が高い傾向にあります。海外生活者にとってシンボリックな日本として比較的理解しやすく、かつ非日常的な価値を感じやすい領域が上位を占めました。(図表08)

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さらに、「日本らしさ」の象徴に関する問いでは、「寿司」や「桜」「富士山」が代表的な存在として挙げられました。これらのイメージは、日本への訪問動機や訪問先の選定、来日時期の選好など、旅全体の設計に影響を与えていると考えられます。ただし、こうした象徴も一様ではなく、例えばベトナムでは「茶道」「うどん」「自動車」、フランスでは「柔道」「盆栽」「醤油」といった要素が日本らしさとして挙げられます。市場ごとに異なる文化的受容のあり方は、訪日観光にとどまらず、日本発の製品やサービスの海外輸出においても重要な示唆を与えています。(図表09)

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世代間での違いも注目されます。Z世代では「マンガ・アニメ」への関心が、「富士山」や「寿司」を上回る場面も見受けられました。また、訪日経験が増すにつれて、「紅葉」「温泉」「祭り」など、日本文化に対する感度が高まる一方で、「桜」に対する関心は相対的に減少傾向を示しています。このことは、体験の深化と興味関心の進化が連動していることを示唆します。(図表10)

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商業施設における購買意向については、コンビニが比較的高い選択率を示し、「寿司」や「アイスクリーム」「おにぎり・スイーツ」など、外国人に馴染みのある日本の軽食文化が注目されています。ドラッグストアでは「スキンケア」や「メイクアップ」、「ボディケア・サプリメント」といった商品カテゴリに関心が集まりました。また、選択率と個数選択といった指標から、アジア市場での消費意欲が顕著であり、消費行動の活発さとポテンシャルがうかがえます。(図表11、12)

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お土産の購入意向については、「和菓子」や「工芸品」など、伝統と現代の融合を感じさせるアイテムが人気を集めています。国・地域によっては、「日本ブランドの衣料品」「お茶(日本茶、抹茶)」「化粧品」などに対する嗜好(しこう)の違いも明確に表れており、商品訴求においては国別のマーケティング戦略という基礎中の基礎が求められます。(図表13)

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地方創生における観光の論点

一方で、マタイ効果(※2)が働き、「強さゆえの集中」という構造的な課題がもたらされています。地方部の認知度格差、訪問時期の偏在、日本らしさに対する理解の偏り、商業施設の認知・訪問意向の地域間格差など、複数の側面からこの課題の多面性が明らかになりました。

※2 累積的優位性。優れた人物や組織への好意的な評価が、さらなる成功につながりやすくなる現象。

訪日旅行者における都道府県単位の認知度や訪問経験、今後の訪問意向を総合的に見ると、「東京都」が他を圧倒して高く、次いで北海道、大阪府、京都府といった広く知られた観光地が続いています。特筆すべきは、過去10年にわたってこの上位層に大きな変動が見られない点であり、都道府県レベルでのブランド力が、ある程度固定化されている現状が示唆されます。(図表14)

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より詳細に都市単位で分析すると、札幌市、大阪市、京都市の3都市が突出した認知度を有しており、他の政令指定都市や中核市とは一線を画しています。その他の都市でも一定の認知はあるものの、訪問経験においては上位とは明確な差が開いており、同一グループにおいては大差が見られません。単なる認知だけでは訪問には直結しない一方で、そもそも認知されていなければ訪問の選択肢にすら入らないという、認知と行動の間にあるジレンマが浮き彫りになっています。(図表15)

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いわゆる「ゴールデンルート」とされる大都市(東京・名古屋・大阪・京都)以外の地方部を単独で訪問した旅行者の割合は、依然として低水準にとどまっています。また、その割合には国・地域間で顕著なばらつきが見られます。

一方で、地方を訪問した旅行者の満足度は非常に高く、9割を超える人が再訪を希望するなど、体験価値の高さが際立っています。これは、地方観光のポテンシャルが依然として高いことを示す好例と言えるでしょう。(図表16)

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地方観光の象徴的資源である温泉地については、国・地域ごとの認知度に大きな差が存在します。

特に英語圏や欧米文化圏においては、提示された温泉地のいずれも認知していない回答者の割合が高く、カナダでは約75%が該当しました。オーストラリアやスペインでも、半数前後が知らないという結果となっており、情報の浸透に課題があると推察されます。(図表17)

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地方部を実際に訪問した旅行者からは、通信環境やWi-Fiの整備状況、多言語対応の不足、アクセスの利便性といった課題が多方面から挙げられました。加えて、国や地域によって感じる課題の内容には明確な違いがあります。(図表18)

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地方を訪れる総量(外国人延べ宿泊者数ベース)には限り(全体の約3割)と偏り(東アジアが約5割を占める※3)がある中で、地方観光の商機を広げるには戦略的な市場選択が必要です。文化的受容力や訪日成熟度を相対比較した上で、中長期的に育成すべき市場と短期的に地域経済へ寄与する市場を的確に見極め、着地消費の拡大に向けた施策を含め、能動的にビジョンを策定・実行する胆力と行動力が求められます。

※3 出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2024)

 

持続可能な未来に向けて

本研究では、経済的価値と社会的価値の両立を目指し、持続可能な未来に向けた価値創造は集合知によってこそ実現できると考えています。今年度は「オーバーツーリズム」「リユースバリュー」「ウェルビーイング」という三つの重要な要素を軸に、海外生活者のインサイトを多面的に可視化しました。

これらはいずれも短兵急に結論の出せる単純なテーマではありません。レポート作成における制約がある中、調査主体として生活者データに焦点をあてた知見の一部を紹介し、社会生活の基盤を共に支えるさまざまな業界や立場のみなさまの思考や行動のヒントとしてお役に立てればと願っています。

検討要素1:オーバーツーリズム

観光需要の集中を回避し、持続可能な訪日観光を実現するためには、旅行時期および訪問地域の分散が欠かせません。しかし現状では、訪日希望時期が「桜の季節」に大きく偏っており、その理由として多くの旅行者が「その季節ならではの景色を楽しみたい」と回答しています。これは日本の四季がもつ象徴的な魅力の高さを物語っていますが、同時にオーバーツーリズムの課題にもつながっています。(図表19)

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一方で、桜シーズンに次ぐ訪日時期については、国・地域によって関心が分散する傾向がみられます。特に訪日経験が豊富な層、いわゆる“日本ファン層”にとっては、「紅葉シーズン」が次なる需要の核となる可能性があります。また、アメリカ市場においては「夏休みシーズン」の訪日意向が相対的に高く、中国市場とは異なる需要パターンが見て取れます。(図表20)

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こうした訪日観光における需要集中(局所集中・時期集中)は日本固有の問題ではなく、世界的な観光先進国の共通課題としていまだ解決の途上にあるというのが一般的な認識です。(図表21)

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需要の平準化を考えるにあたって、筆者は虫・魚・鳥の3つの目が不可欠と考えます。

  • 「虫の目」による観察整理:生活者の深層心理の解読、既存アセットの棚卸し、課題の抽出といった現状認識の精緻化。
  • 「魚の目」による相互理解:他国や先進事例の研究、地域住民とのすり合わせを重ねた未来像の協創。
  • 「鳥の目」による指南支援:課題の早期発見と建設的解決策を支える行政のモニタリングおよび戦略的政策立案。

さらに、経済的合理性の追求だけでは限界があることを認識し、社会学や心理学的アプローチとの掛け算もさまざまな局面において求められることになるでしょう。
 

検討要素2:リユースバリュー

サーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点から、中古品の再利用は重要な要素の一つです。本調査では、日本の中古品に対する関心が全体として非常に高く、国・地域を問わず注目されていることが分かりました。

特に、日本製品の「使用状態の良さ」や「高い耐久性」は生活者に強く評価されており、こうした特徴が日本独自の信頼性や価値観に裏打ちされた商品競争力につながっています。このような評価は、循環型産業の創出拡大や、模倣困難な差別化戦略の基盤ともなり得ます。(図表22)

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日本の中古品市場には、元来日本製品が持つ高品質や耐久性といった商品価値が強く反映されています。新品に比べて手頃な価格で信頼性の高い日本製品を入手できる点は、世界的に注目される大きな利点です。さらに、東南アジア諸国を中心に、着物・骨董品・伝統工芸品といった文化財的価値や、原宿系・ストリート系などの独自のファッションスタイル、ヴィンテージ衣料品のファッション性、さらにはアニメ・漫画・ゲーム関連グッズといったポップカルチャーに至るまで、日本ならではの文化的要素が中古品への関心を高める契機となっています。

このように中古品のリユースバリューを考えるとき、商品価値が市場の幹を成すことは論をまちません。しかし、中長期的に顧客基盤を拡張していくためには、商品価値に加えて次のような広がりを戦略的に捉えることが不可欠です。

  • 体験価値:日本文化を融合したユーザー体験の提供、コラボレーションやアップサイクルを通じた新たな意味づけの創出。
  • 社会的価値:サステナビリティの視点による価値転換や、循環経済に関する教育・啓発活動を通じた社会的共感の獲得。

ここには、「環境配慮に基づく再利用」という守りの戦略と、「ブランド価値や事業価値を一段高めるための文化的・市場的展開」という攻めの戦略の両面があります。両者を組み合わせることで、日本発の中古品市場は単なる「モノの取引の場」を超え、「文化・社会・経済を結ぶ持続的なエコシステム」へと進化していくと考えられます。

検討要素3:ウェルビーイング

日常生活において重視されている価値観としては、「ワークライフバランスの確保」「希望する生活水準の維持」「快適かつストレスの少ない住環境」といった生活の質を重視する姿勢が顕著に見られました。

これらの項目は、特にZ世代において高く評価される傾向にあり、若年層の価値観に変化が生じていることがうかがえます。(図表23)

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また、社会的関心のあるテーマとしては、「生成AIの利活用」「再生可能エネルギー」「ヘルステック」「メンタルヘルス」など、テクノロジーや健康、持続可能性に関する話題が上位に挙げられました。なかでもZ世代の女性は「メンタルヘルス」への関心が特に高く、世代や性別によって関心領域に違いがある点も注目に値します。(図表24)

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地政学的変動やテクノロジーの指数関数的進化といった急激な環境変化に揺さぶられる世界情勢が、生活者の意識構造に色濃く影響を与えていることが本調査の随所に現れています。日常的な情報獲得ツールとしての生成AIの活用はすでに不可逆的な潮流となり、ウェルビーイングを構成する諸要素の中でも、特にキャリア意識、経済的安定性、生活環境の質、そして精神的充足が重視されている傾向が明らかとなったのです。

往々にして予測が当たらない中、ブラジルの蝶の羽ばたきがジャパンブランドの未来にどのような波紋を広げるのか、その手かがりとなるものを生活者のインサイトを起点に継続的に探索していきます。

データビジュアライゼーション・チャート・ビジュアル:リ シュンシ

電通公式データ・ナレッジ:ジャパンブランド調査ハブページ
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WEB電通報特別コンテンツ:ジャパンブランドウイークリーチャートjbchart


【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社電通 ジャパンブランドプロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp

【電通ジャパンブランド調査 実施目的】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。2022年、調査設計・分析アプローチおよびアウトプットを抜本的再構築し、専門性を高める全社横断プロジェクト活動へと進化。2025年、一般向けナレッジポートフォリオを新たに企画・構築し、生活者インサイトに立脚した社会的価値の創出を目指す。
ジャパンブランド調査では、訪日観光や地方創生、食分野、日本産品、コンテンツ、価値観、ライフスタイル、社会潮流などジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握。変わりゆく生活者の気持ちとジャパンブランドの課題・可能性を可視化し、複雑化が進む企業活動に寄与するとともに、日本社会における異文化理解の促進にも貢献する。
 
【電通ジャパンブランド調査2025 調査概要】
・対象エリア:20カ国・地域※1(アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、サウジアラビア、インド、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、中国本土、香港、台湾、韓国)
・対象者条件:20~59歳の男女(中間所得層以上)※2
・サンプル数:12,400(内訳:アメリカ・中国本土 各1,600、インド1,200、韓国・台湾・イギリス 各800、その他の国・地域 各400)※3
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2025年5月20日~6月22日
・調査機関:株式会社電通(調査主体)、株式会社ビデオリサーチ(実施協力)
 
【注記・免責事項】
※1:中国本土の対象エリアは上海・蘇州・北京・天津・広州・深セン・成都・重慶、インドの対象エリアはデリー・ムンバイ・ベンガルール、オーストラリアはシドニー都市圏、東南アジアは主にメトロポリタンエリアに限定。 
※2:中間所得層の定義:OECD統計などによる各国平均所得額、および社会階層区分(SEC)をもとに各国ごとに条件を設定。
※3:各国・地域とも性年代別に均等割付で標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施。
※4:本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
※5:本調査レポートおよびウェブサイトからの情報発信における対象国・地域の名称表記は、従来からの日本政府の見解、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものです。
※6:本調査の図表作成において、分析対象となる国・地域名は一部例外を除き、国際基準ISOカントリーコード(ISO 3166-1 alpha-2)を使用しています。
アメリカ/US、カナダ/CA、オーストラリア/AU、イギリス/UK、ドイツ/DE、フランス/FR、イタリア/IT、スペイン/ES、サウジアラビア/SA、インド/IN、インドネシア/ID、シンガポール/SG、マレーシア/MY、フィリピン/PH、タイ/TH、ベトナム/VN、中国本土/CN、香港/HK、台湾/TW、韓国/KR
※7:本調査における国・地域の名称表記は、統計上または分析上の便宜を目的としており、いかなる政治的立場や見解を示すものではありません。
※8:本調査で使用した地図(世界地図および日本地図)は分析内容やページのレイアウトに合わせて一部加工・トリミングを行っており、必ずしも国境線および国土範囲を正確に反映したものとは限りません。

 

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トライアル「福岡のシリコンバレー」の全貌…最先端のDX・AI研究、メーカー同士が販売戦略を検証

●この記事のポイント
・トライアルHD、福岡県宮若市で研究・研修拠点「リモートワークタウンムスブ宮若」を運営
・研究開発拠点、店舗内のデジタルサイネージに表示する販売促進コンテンツの制作拠点、研修・宿泊施設など複数の施設が集積
・卸売企業、メーカーなど数十社が、競合関係という垣根を超えて販売促進や商品開発に関して議論

「福岡のシリコンバレー」と呼ばれる場所がある。3月にスーパー・西友を買収すると発表して注目され、全国的な知名度が一気に上昇したディスカウントストア・トライアルホールディングス(HD)が、福岡県宮若市に構える研究・研修拠点「リモートワークタウンムスブ宮若」だ。研究開発拠点、店舗内のデジタルサイネージに表示する販売促進コンテンツの制作拠点、研修・宿泊施設など複数の施設が集積。DX・AI研究・開発のほか、取引先である卸売企業、メーカーなど取引先をときには数十社、数百人単位で集め、数日間にわたり合宿形式で研修を行っている。講義のほか、トライアルは自社で蓄積した購買データなどを開示し、それをもとに競合関係という垣根を超えてメーカー同士が販売促進や商品開発に関する議論を重ねている。トライアルHDがこのような拠点を運営する目的は何か。また、具体的にどのようなことが行われているのか。同社に取材した。

●目次

“分散型社会”のハブとなる「リモートワークタウン」

 九州を地盤として成長してきたトライアルHDは、大規模な「メガセンター」から小規模な「TRIAL GO」まで計約350店舗(西友の店舗は含まない)を全国に展開。2025年6月期の連結売上高は8038億円、営業利益は211億円と大手小売企業の一角を占める。店舗をはじめ事業全般で先進的なDX活用に取り組んでいるのが特徴。全国の店舗にはタブレット端末搭載型の「レジカート」を2万台以上導入し、AIカメラで顧客データを収集。会員IDから得られるデータを精緻に分析して販促や商品開発に活用している。

 ムスブ宮若には「MUSUBU AI」「TRIAL IoT Lab」「MEDIA BASE」などが設置されているが、どのような目的・背景で立ち上げられたプロジェクトなのか。トライアルHDは次のように説明する。

「『ムスブ宮若プロジェクト』は、新しい生活様式や働き方の実現を目的に、“分散型社会”のハブとなる「リモートワークタウン」の構築を目指して2020年に始動しました。当初はAI開発拠点を首都圏に設ける計画でしたが、新型コロナウイルスの影響により社会の価値観や働き方に大きな変化が生まれたことをきっかけに、『本部機能を分散させる』というニューノーマルの考え方に基づき、地方拠点として宮若市でAI関連施設を構築することにしました。福岡市と北九州市の中間に位置する宮若市は、アクセスの良さと豊かな自然環境を兼ね備えており、当社にとって非常に利便性の高い立地です。また、宮若市とは以前から研修センターの用地取得などを通じて関係性が築かれていたことも、プロジェクト推進の背景にあります。

 拠点となる3施設は、いずれも廃校となった校舎をリノベーションして整備されたもので、それぞれ以下のような役割を担っています。

・MUSUBU AI
 関連企業と連携しながらDX戦略やAI研究を進めるとともに、PDP(パーソナル・ダイナミック・プライシング)をはじめとするリテールテックの実証実験や、データを活用した1to1マーケティングの実現を通じたDX人材の育成とエコシステムの形成に取り組んでいます。

・TRIAL IoT Lab
 スマートショッピングカートやリテールAIカメラ、デジタルサイネージなどの開発を担うIoT開発拠点であり、AIデバイス・IoT機器の高度化を図る研究施設として機能しています。

・MEDIA BASE
 ショッパーマーケティングの実現に向け、店頭用デジタルサイネージやSNS向けのコンテンツ制作・情報発信を行うメディア拠点として活用されています」

リテールの未来を共創する共創型の実証実験拠点

 ムスブ宮若では、具体的にどのような取り組みを実施しているのか。

「ムスブ宮若は、当社の研究・開発拠点という位置づけであると同時に、複数のパートナー企業とともにリテールの未来を共創する共創型の実証実験拠点としても機能しており、メーカーや卸売企業など、現在約50社が1カ月に1回『MUSUBU AI』にて共にDX戦略やAI研究、リテールテックの開発・実証実験を進めています。

 この共同実証の場では、当社が保有する顧客購買データを活用し、棚割の最適化やショッパーマーケティング、カテゴリーマネジメントに関する検証が行われています。そこで得られた技術やアイデアは、当社が展開する最先端スマートストア『スーパーセンタートライアル 宮田店』などで即時に検証・改善される仕組みが整っており、データによって導き出された好事例は実店舗へと反映されています。

 ムスブ宮若は、個社の利益にとどまらず、日本の流通全体を変革するための共創フィールドとして、多くの企業とともに新たな価値創出に取り組んでおります」

 同プロジェクトでは、どのような成果が出ているのか。また、トライアルHDの小売事業にどのように活用されているのか。

「企業の垣根を越えた実証実験と学び合いを通じて、具体的な成果が生まれています。なかでも、メーカーや卸売企業が月に一度宮若に集まり、データを活用した商品開発や販売戦略を検証する実証活動は、プロジェクトの中核的な取り組みとなっています。具体的な成果についてはそれぞれメーカー・卸様の内容となりますので、弊社からは回答できかねますが、当社の小売事業においても『データに基づく売場づくり』など、さまざまな形で活用されています。『ムスブ宮若プロジェクト』は、新しい小売の在り方を実践する共創の場として、今後も進化を続けてまいります」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)