迷走する日本のスタートアップ、お金も支援もあるのになぜ?その本質的課題とは

●この記事のポイント
・スタートアップが市民権を得る一方で、凡庸化や閉鎖的「界隈化」も進行。挑戦者精神の再確認が必要だと伊藤信雄氏は語る。
・スモールIPO難や資金過多の副作用を経て、M&Aやソリッドベンチャーなど多様な成長モデルが台頭。
・AI時代にビジネス構造が変化するなか、「まずは稼ぐ」「良いネットワークを持つ」など原点回帰の重要性を強調する。

 かつて一部の“異端児”の領域だったスタートアップが、いまや行政も大企業も支援する「社会の表舞台の存在」になった。

 だが、その一方で「キラキラ化」「スタートアップ村(の閉鎖性)」といった批判的な視線もある。テンキューブ株式会社代表で、資金調達面などで多くの起業家を支援してきた伊藤信雄氏は、「スタートアップが当たり前になったからこそ、改めて“挑戦者精神”をアップデートする必要がある」と語る。

●目次

「市民権を得た」スタートアップの光と影

「10年前は、スタートアップといえば“端っこの人たちの世界”だった。でもいまは大企業も行政も巻き込み、日が当たる存在になった。これは本当にポジティブなことです」

 伊藤氏はこう語る。

 日本のスタートアップ・エコシステムはこの10年で大きく変貌した。起業家、投資家、行政、支援者が連携し、社会的な認知も飛躍的に高まった。その一方で、「スタートアップと名乗れば誰でもそう見なされる」といった側面も見逃せない。

「本来少数の“挑戦者”だった人たちが、いつの間にか“当たり前の存在”になっている。その分、挑戦の泥臭さや、歯を食いしばって地道な作業を続ける面が見落とされるようにも感じます」

「界隈化」するエコシステムの危うさ

 伊藤氏は、「スタートアップ界隈」という言葉に象徴される“閉じた空気”にも警鐘を鳴らす。

「エコシステムは本来、起業家を支えるための“応援団”の集まりのはずなんです。投資家も支援者も行政も、同じ方向を向いていた。でも顔ぶれが固定化して、外から見えにくくなっていないか。仲間内で盛り上がっているだけでは、仲間の“外”にいるスタートアップを社会につなぐ役割を失ってしまう危険があります」

 かつては“アウトサイダー”として始まったスタートアップが、いつの間にか“内輪の世界”になっていないか。

「外の人が入ってこられない」「自分たちだけで回っている」と見られるようになれば、エコシステムは社会的信頼を失いかねない――。その危機感が、伊藤氏の根底にある。

「一人でもやり抜く」人間の底力

 伊藤氏の言葉の背景には、支援してきた数多くの起業家の姿がある。

「スタッフが全員辞めて社長一人になっても、数年後に数十億円の売上を出すような人を複数、見てきました。あの“人間の底力”こそスタートアップの本質です。他人の評価やSNSの空気ではなく、“やり抜く力”にこそ価値がある。それを揶揄したり“ブラック”の一言で片付ける風潮があるなら、それこそが危ういと思います」

 スタートアップとは、表面的な華やかさではなく「逆境の中で挑戦を続ける意思」に宿るものだ。その原点を、スタートアップが定着した今の時代だからこそ、思い出すべきだと伊藤氏は強調する。

スモールIPO難の時代に変わる「出口戦略」

 近年、東京証券取引所がスモールIPOに対する基準を厳格化したことで、「上場ゴール」と呼ばれる動きが難しくなっている。

「以前は『とりあえずIPOを目指す』しかなかった。でも今は“上場したあと、どう成長するか”まで問われている。結果、起業家も投資家も、より真剣に事業の持続性を考えるようになりました」

 IPO一択から、M&Aやセカンダリーマーケットの活用へ――。「売却=敗北・撤退」ではなく、「次の挑戦への合理的な選択肢」として評価されつつある。伊藤氏はこれを「健全な多様化」と捉えている。

 一方で、コロナ以降の金融緩和やスタートアップ支援政策により、資金調達環境は好転した。

 しかし、それが「副作用」も生んでいないかと伊藤氏は指摘する。

「シード段階から投資家も資金量も層が厚くなり、詰めの甘いまま多額のエクイティをまず狙いにいってしまうようなケースも散見される。本来は希薄化やデットとの併用を意識すべきなのに、ダウンラウンド(株価の低下)で苦しむ企業も少なくない。“調達して、赤字を掘っての成長ありき”ではなく、“しっかり事業を作りながら資本政策をどう組んでいくか”が問われるフェーズに来ています」

「ソリッドベンチャー」の台頭とポジティブな変化

 そんななかで注目されるのが、“非・急成長型”のスタートアップ――いわゆる「ソリッドベンチャー」だ。堅実なキャッシュフローを重視し、自己資金や融資を活用して成長する企業群である。

「これは非常にポジティブな流れです。昔からある中小企業とやっていることは、外見上は変わらないけれど、“自分たちは社会を変える”という意思を持って挑むのがスタートアップ。ユニコーンだけが正義じゃない。成長カーブは多少ゆるくとも、強い企業をつくる行き方が、見直されてきていると思います」

スタートアップと中小企業の境界を越えて

 では、「スタートアップ」と「中小企業」の違いとは何か。伊藤氏は、「切り離す必要はない」と断言する。

「飯を食えて、社員が雇えて、税金を納めてるなら立派な経営ですよ。どちらが偉いとかじゃない。ただ、スタートアップには“社会の認識と人の行動様式を根本から変えていく力”がある。そこを本気で目指し行動しているか。そこが最大の価値」

 儲けることは共通の使命。だが“世の中を変えること”にコミットするか否か――。その一点に、スタートアップの本質があるという。

 今後のエコシステムに求められるのは、閉鎖的な“界隈”を超えて、社会全体のインフラとなることだ。

「東京の真ん中でキラキラしたイベントをやっても、独特のノリに外の人が入れなければ意味がない。誰でも参加できて、“自分も挑戦してみたい”と思えるコミュニティに変わること。それが、次の10年の成長に必要だと思います」

ユニコーンだけが成功ではない

 伊藤氏は、ユニコーン志向以外にも多様な成功パターンがあると強調する。

「国内でドミナントな地位を築く。海外市場に直行する。あるいは、キャッシュフローを重視して堅実に育つ――。これからは、そのどれもが“正しいスタートアップの姿”になるはずです」

 米国ではすでにExitの8割がM&Aによるもの。日本でも同様の構造変化が進みつつあり、それが主流になるだろうと見ている。

「IPOありきの思考を変えないと、また“オルツ事件”のような歪みを生むだけです」と、伊藤氏は冷静に語る。

生成AIがスタートアップの定義を変える

 そして、生成AIの急速な進化は「スタートアップの形そのもの」を変えると伊藤氏はみる。

「生成AIを使うことがデフォルトになる、いや既にそれが前提。圧倒的なスピードとレベルの機能進化により小規模なSaaSなどは無力化されかねない。従来型の大量の資金と人を投入しながらARRを伸ばすやり方だけでは通じなくなりつつある。AI前提のビジネス構築力が問われます」

 最後に、これから起業する人へのアドバイスを尋ねた。

「とにかく“1円でもいいから、まず売上を立てる”こと。イベント登壇や受賞も素晴らしいことだけれど、まずは自分の足で顧客に会い、物を売る。解は顧客との向き合いからしか生まれないから。その経験がすべての基礎になる。そして、良いネットワークに早くつながること。自分の顧客や、その顧客を直接知る人にアクセスできる環境を持つだけで、事業の成長は10倍早くなります」

 最後に、エコシステム全体への提言として、伊藤氏はこう結んだ。

「行政は“お金を出すだけ”ではなく、AI時代に即した柔軟な政策を。投資家やわれわれ支援者はIPO一辺倒ではなく、M&Aやグローバル展開など多様な成長やExitを一層支え、そのために自らも高い次元で汗をかくこと。そして起業家は、“本丸の成長”を常に問い直すことに尽きます。

 スタートアップは特別な存在ではない。しかし“社会を変える挑戦”であることを忘れてはいけない。市民権を得た今こそ、10年前には手探りだった挑戦のレベルを何段もアップデートできるか、試されていると思います」

 伊藤信雄氏のこの言葉は、次の時代を担う起業家たちにとっての道標だ。キラキラではなく、地に足のついた挑戦――それこそが、日本のスタートアップが次の10年に向けて再び進化するための原動力になる。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

「モームリ」弁護士法違反疑惑で家宅捜索、社長は過去に疑惑否定…50億円市場に波紋

●この記事のポイント
・警視庁が退職代行「モームリ」運営会社アルバトロスを家宅捜索。非弁行為や弁護士紹介料授受の疑いを捜査している。
・同社の谷本社長は以前のBUSINESS JOURNALの取材で「交渉や報酬提携は一切行っていない」と説明し、合法性を主張していた。
・急拡大する退職代行市場で、法的な線引きと業界の透明性確保が今後の焦点となっている。

警視庁が家宅捜索、捜査の焦点は「非弁行為」と「弁護士紹介料」

 退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロス(東京都新宿区)に対し、警視庁が弁護士法違反(非弁行為)や弁護士法第27条に抵触する「非弁提携」の疑いで家宅捜索を実施したと報じられている。

 複数の報道によると、同社が退職希望者を弁護士に紹介し、その見返りとして報酬を受け取っていた疑いもあるという。警視庁は、退職代行業務の実態とともに、こうした斡旋・報酬の流れが法に抵触していないかを慎重に調べている模様だ。

 同社が展開する「モームリ」は、退職の意思を企業に直接伝えづらい人に代わって通知を代行するサービス。SNSを中心に広まり、2022年3月の事業開始からわずか2年あまりで退職実施件数が1万5000件を突破するなど、退職代行市場を代表する存在となっていた。

 今回の捜査で焦点となっている「非弁行為」については、BUSINESS JOURNALが今年3月6日にすでに取材記事を掲載している(『弁護士「モームリは非弁行為で違法では」→社長が反論し話題…退職代行への誤解』)。

 当時、SNS上で一部の弁護士が「モームリのサービス内容は弁護士法に抵触するのではないか」と指摘したのに対し、同社代表の谷本慎二氏が「当社は交渉は行っていない」と反論。そのやり取りが話題を呼んだ。

 谷本氏はBUSINESS JOURNAL編集部の取材に対し、次のように説明している。

「弊社はあくまで退職の意思を企業に伝えるだけで、条件交渉は一切行っていません。もし交渉が必要になりそうな案件があれば、弁護士を紹介しています。その際も当社が紹介料を受け取ることはなく、純粋な紹介です」

 つまり、今回の疑惑である非弁行為および非弁提携のいずれも否定しているのだ。

 また同社は、労働組合法に適合した「労働環境改善組合」と提携し、組合員が団体交渉権を持って退職を伝える仕組みを採用していると説明している。谷本氏は「弁護士監修のもとで運営しており、非弁行為には当たらない」と繰り返し強調していた。

「非弁行為」と「非弁提携」――2つの法的リスク

 弁護士法第72条では、弁護士資格のない者が他人のために法律事務を行うこと(非弁行為)を禁じている。また、同法第27条では、弁護士と非弁業者が提携して利益を分け合うこと(非弁提携)を禁止している。

 今回の家宅捜索では、これら2つの観点が同時に捜査対象になっているとみられる。

 特に、退職代行の過程で「弁護士への紹介が有償で行われていたかどうか」は、捜査の大きな焦点のひとつとみられる。斡旋報酬を受け取っていた場合、弁護士法違反に該当する可能性があるためだ。

 一方で、業界関係者の間では「退職代行から弁護士への紹介自体は、利用者保護の観点から一定の合理性がある」という見方もあり、合法・違法の線引きが改めて問われている。

退職代行市場の急拡大とルール整備の遅れ

 退職代行市場は、働き方の多様化とSNSの普及を背景に急拡大してきた。民間調査によると、2025年時点で市場規模は50億円前後に達すると見込まれており、弁護士法人、労働組合、一般事業会社など多様な形態が乱立している。

 しかしその一方で、利用者と企業の間でトラブルになるケースも報告されており、法的リスクの所在が曖昧なまま成長してきた側面もある。今回のモームリへの捜査は、こうした市場全体に対し「適法運営の線引きをどこに置くか」を問い直す契機となりそうだ。

 現時点では、アルバトロス社や谷本社長が法的な処分を受けたわけではなく、警視庁の捜査も「疑い」の段階にとどまっている。

 今後、同社の業務内容や弁護士との関係性、報酬の授受の有無がどのように立証されるかが焦点になる見通しだ。

 退職代行サービスは、働く人の心理的・時間的負担を軽減する一方で、法規制の空白地帯にも足を踏み入れている。今回の捜査が、利用者保護と業界の健全化をどのように両立させる方向に進むのか、注目が集まっている。

 以下、3月6日付当サイト記事『弁護士「モームリは非弁行為で違法では」→社長が反論し話題…退職代行への誤解』を再掲する。

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 利用者が急増している退職代行サービス「モームリ」について、ある弁護士が非弁行為に該当するため弁護士法違反に該当するのではないかとX(旧Twitter)上にポスト。これに対しモームリ運営会社アルバトロスの谷本慎二社長がX上で「説明しましょうか?」と反応し反論。SNSという公開の場で、弁護士から次々に出される質問に回答して“ラリー”が展開されている件が話題を呼んでいる。弁護士等でない者が法律的な問題について、本人を代理して相手方と交渉することは非弁行為に該当するが、谷本社長は「そもそも弊社は企業側と交渉はしないので、非弁行為には該当しない」と説明する。谷本社長に詳細を聞いた。

 労働者本人がなんらかの理由で所属会社に直接、退職の意思を告知することを避けたい場合に、それを代行してくれる退職代行サービス。そんなサービスを社会的にポピュラーな存在にまで押し上げたといえるのがモームリだ。昨年8月の時点で、2022年3月の事業開始からわずか2年4カ月で相談件数2万8000件、退職代行実施件数1万5000件を突破。利用によって蓄積された膨大なデータの公開に積極的なのもユニークな点で、昨年8月には利用者1万5934人分について、退職代行利用の経緯・退職理由、性別・年代別利用者数、職種別利用者数、勤続年数別利用者数、退職金制度の有無、複数回退職代行を利用された企業などを公開。今年2月には、最も多く利用された企業40社を発表(1位:人材派遣会社、2位:コンビニチェーン、3位:人材派遣会社)して話題を呼んだ。

「非弁行為に該当するか否かという話ではないんです」
 そんな同社のサービス内容について、ある弁護士が非弁行為に該当しているのではないかと指摘し、議論を呼んでいる。

 モームリの利用イメージはこうだ。退職の意思を持つ利用者は退職代行業者と打ち合わせを行い、業者が利用者の所属会社に退職の意思を連絡。退職届の提出や会社からの貸与品の返却、オフィスに残っている私物の返却など必要な手続きは郵送で行い、退職が確定する。利用者本人が会社と直接やりとりすることなく退職に至る。サービス内容については弁護士の監修を受けており、労働組合法適合の資格証明を受けた「労働環境改善組合」と提携しており、労働組合の組合員が団体交渉権を持って企業と交渉を行うため、企業側は原則これを拒否することはできないという。料金は正社員・契約社員・派遣社員・個人事業主は2万2000円(税込)、パート・アルバイトは1万2000円。退職できなかった場合は全額返金される。

 今回、前述の弁護士は、モームリが実質的に退職交渉まで行っているのではないかと懸念され、労働者と会社間の紛争が避けられない局面となった以降に話し合い・交渉を継続すると弁護士法72条違反になる可能性が高いとして、サービス内容が法律に抵触しているのではないかと指摘している。X上では弁護士から繰り返し出される質問に対して、一つひとつ谷本社長が回答するというかたちで、やりとりが続いていたが、谷本社長はBusiness Journalの取材に対し、次のように説明する。

「先方の弁護士の方が、当社のサービス内容をあまり把握されておられないのかなということはありまして、弊社のサービスでは、会社側との交渉に該当する事例の場合は対応していません。当社にご依頼が来た時点で『退職の確定』に重きを置き、当社はあくまで会社に利用者の退職の意思をお伝えするというかたちにとどまっております。それによって、正社員であれば法律に則って2週間後に退職が確定するという流れです。契約社員などの有期雇用の場合は、やむを得ない理由をお伝えして、退職が確定するというかたちになります。

 たとえば会社側から『今から退職日まで2週間、ずっと出勤しないのか』と聞かれれば、『本人は“どうしても出勤できない”と言っています』『御社としても2週間出勤してもらうメリットはないかと思います』と伝えて、それで終わりです。ほとんどが即日、もしくは最終出勤日に退職が決まるという流れで、当社が行うのは、それだけです。基本的には退職をするという事実を伝えて、確定するという流れなので、非弁行為に該当するか否かという話ではないんです。

 例えば賃貸住宅のオーナーが不動産管理会社に依頼して、家賃を滞納している入居者に督促の連絡をさせるケースで考えてみると、不動産管理会社が単に『家賃を支払い忘れてますよ』と入居者に伝えるだけなら、非弁行為にはならないと思いますし、『不動産管理会社は非弁行為をやっているから、なくそう』という声はあがっていません。

 よく勘違いされるのですが、未払い給与や残業代の請求などの退職以外の内容のご依頼が来た場合は、弁護士や労働基準監督署にご相談してはいかがでしょうかとお伝えしています。また、最近では、退職を伝えた企業と交渉にまで発展することは、ほとんどありません。企業側も『あ、そうですか』という感じで終わることが多いです。利用者の方から相談をいただいた段階で、交渉が必要になりそうな案件であれば、弁護士を紹介するようにしています」

(文=Business Journal編集部)

教員の長時間労働をどう変える?元文科大臣・盛山正仁氏と考える部活動改革と「スクウる。」の役割

 かつては子どもたちの憧れの職業とされた教員。しかし今、その現場は深刻な人手不足に直面しています。その背景には、通常の業務に加え、保護者対応の増加など教員の負担が大きくなっている実態があります。

 この負担の一端を担ってしまっているのが部活動。2023年度からスタートした「部活動改革」は、休日の部活動を地域に移行するなど、教員の負担を軽減するための取り組みです。

 しかし、教員を悩ませる部活動の負担は、残業や休日返上での部活動対応だけではありません。

 今回は、元文部科学大臣であり教育現場の課題に向き合ってきた盛山正仁氏、部活動の集金管理を透明化する管理システム「スクウる。」を開発した株式会社PAY ROUTE取締役副社長の清水友大氏に、部活動をめぐる教員の実情や改革の方向性、そして「スクウる。」が果たし得る役割について語っていただきました。

教員が抱える負担は長い拘束時間にとどまらない

——2023年度、部活動改革がスタートしていますが、この改革が進められるに至った教員にかかる負担にはどのようなものがあるのでしょうか?

盛山:部活動に伴う教員の負担は多岐にわたります。

 まず大きな負担は、拘束時間の長さです。

 生徒の指導や採点にとどまらず、レポートの作成や保護者の対応などで、そもそも教員の拘束時間は長時間に及ぶことがあります。それに加えて、放課後や土日の部活動が、拘束時間を長くしてしまう大きな要因になっているのです。

 これまで部活動は、「生徒を指導したい」と考える教員の方々の善意に支えられて成立していたといっても過言ではありません。

 こうした教員の長時間労働は、昨今の教員不足の原因にもなっています。人気のない職業になりつつある、ということですね。

 また、心理的な負担も大きいです。

 部活動中の事故が起こらないよう、安全確保にも細心の注意を払わねばなりませんし、必ずしも自分が経験のある分野の部活動の顧問になれるとは限りません。これは、部活動の種類が多く、教員の人数に限りがあるためです。

清水:これまで、「スクウる。」のニーズ調査などのために、何度か高校に伺っているのですが、盛山先生がおっしゃっている状況はよく耳にします。

 やったことがない分野の部活動を担当することになった場合、一からルールや様式を覚えることになります。しかし、これを「拘束時間」としていないケースもあるようです。

 生徒のためとはいえ、教員が学校というものに使う時間が非常に長いということを実感しますね。

——実際に部活動で生徒たちに指導する、時間を使うこと以外に、部活動における教員の負担はあるのでしょうか?

盛山:保護者とのやりとりが負担になる場合もあるでしょうね。また、部活動に関わる金銭の管理を顧問がしている場合は、それも大きな負担になり得ます。

 高校生などの場合は生徒が会計係などを行うケースも多いと思いますが、小中学生の場合は、遠征にかかる費用などについて顧問が会計管理をしているということも多いのではと感じています。

部活動改革の推進で課題となる部分とは

——盛山先生が文部科学大臣時代にも、そのような部活動に関わる課題は多く見られたのでしょうか?

盛山:そうですね。実際に国会などでも、部活動に関わる教員の状況を改善すべきだという質問や意見をいただいたこともあります。

 そのような声が多く上がっていたため、文部科学省では2024年8月にアサヒグループホールディングス代表取締役会長の小路明善さんを代表者に迎え、「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」を発足しました。これは、部活動の地域移行に関する課題の整理や支援策の検討などを行う会議です。

 部活動改革には「休日の部活動の段階的な地域移行」などの方策が掲げられています。しかし、この方策ひとつとっても、課題が多々存在します。

 部活動を地域にアウトソーシングするにしても、誰が指導できるのか、場所の確保はどうするのか、などです。公立学校の場合は、アウトソーシングにかかる費用をどこから捻出するのかという部分も今後議論になっていくでしょう。

清水:兵庫県の神戸市では、中学校の部活動を廃止して地域の方々と活動する「地域クラブ活動」に移行するという話を耳にしました。

盛山:たしかに、神戸市では2026年に中学校の部活動終了という方向で話が動いていますね。しかし、まだ費用の問題など懸念されている部分は残されています。

「スクウる。」は部活動のルールづくりに寄与できるか

——このように、多くの場で議論にあがるほど、部活動における教員の負担が課題視されていますが、PAY ROUTEが決済に関して部活動という部分に着目したのも、こういった課題に触れる機会があったためなのでしょうか?

清水:もちろん、我々がROUTE PAYという独自の決済システムを持っていたことから、新たな分野に課題やチャンスがないかと考えた結果ではあるのですが、最初は部活動ではなく、入学金や受験料の決済に活用できないかと考えていました。

 困りごとをリサーチするうち、実は、学校は入学金や受験料の振り込みに関してはあまり課題を持っておらず、部活動の集金に頭を悩ませているということがわかったのです。

 部活動の活動費は、その集金方法が顧問によって違い、学校側が把握できていないのが現状だそうです。しかし、部活動の集金で不正があった場合、学校の責任になりますし、何らかの対処をしないわけにはいきません。

 会計管理において、学校が部活動に抱える課題に触れたことが、「スクウる。」の開発に至ったきっかけです。

盛山:教員による立て替えも少なくないと耳にします。遠征や大会の際の生徒の昼食代や飲み物代などを立て替えている、というケースですね。その後の請求先が学校なのか、家庭なのかなどが曖昧なまま立て替えてしまい、請求を出しづらくなるという心理的なストレスもあるのではないかと思います。

 部活動の集金に関するルールが、しっかりと定められていないことによって起こっている課題ですね。どう集金するのがよいのか、立て替えはしてもよいのかという部分に関して迷いが生じないよう、ルールづくりが必要な領域だと感じます。

清水:そうですね。「スクウる。」を導入していただくことで、そういったルールづくりにも寄与していけるのではないかと思っています。

 システムを導入することで、学校側が仕様に沿ってルールを決定、周知することで、顧問の方々の負担も軽減されるのではないでしょうか。

 一方で、「スクウる。」は柔軟なカスタマイズも可能なので、決済に関しても部費として捻出するのか、後援会からの寄付金で賄うのか、などもシステムに入れ込めます。部活動改革によって教員ではない方が顧問に入る場合でも、システム上でルール決めを行うことができると考えています。

民間ソリューションが行政で活用されるためのステップとは

——「スクウる。」をはじめとする、PAY ROUTEの認証技術「ROUTE CODE」を利用した決済システムは、IDパスワードを必要としない、という部分が大きな特徴だと感じます。こういった決済システムが行政の場において活用される可能性はあるのでしょうか?

盛山:行政は業務システムの仕組みを3つに分ける「三層分離」という仕組みを利用しています。マイナンバーなどの情報管理に関わる部分や、地方自治体同士の情報共有や職員向けサービスなどに関わる部分に関してはかなり厳格にセキュリティ管理がなされています。

 その2つ以外の、インターネットを利用して行う業務に関わる部分に関しては、民間の決済システムが活用される余地があるのではないかと思います。

 ただ、行政にはなかなか開示できない情報があることもたしかです。そこにどう入り込めるかは、行政側が活用や導入のメリットを感じるかどうかが重要です。

 たとえば、市民の利便性というメリットに着目した結果、以前は不可能だった税金のコンビニ決済なども現在は可能になっていますよね。

清水:たしかに、我々のROUTE CODEを利用した認証技術は、強固なセキュリティが強みではあるものの、それを行政側がどこまでメリットと捉えてくれるか、という部分は課題ですね。

 やはり活用や導入にメリットを感じてもらうポイントは、ユーザー数だと感じます。

 今後、中学校や高校の部活動への「スクウる。」の導入が進みユーザー数が増えることで、ユーザー数の壁を超えていくとともに、多くのユーザーが利用しても不正利用などが起こらないことを実際に示していければと思っています。

 この取り組みが、行政の方々からも、ROUTE CODEの活用や導入にメリットを感じていただけることにつながるのではないでしょうか。

盛山:PAY ROUTEさんのような民間企業のほうから、自身のシステムを使った仕組みを行政が行っていることに合わせて提案する、という動きもよいのではないでしょうか。

 そうすることで、行政側から「もっとこうしないと使えない」「こう変えてほしい」という話が引き出せるのではないかと思います。

清水:その提案のためにも、実績づくりは大切ですね。

 現状「スクウる。」の仕組みは、私立高校や愛知県の東海市芸術劇場で導入、活用されています。こうしたところで、不正利用がなく、顧問の方々の負担がどれだけ減ったかなどを可視化し、公立中学校や高校など数が多い部分に拡大していければよいですね。

 この動きは、「スクウる。」に限らず、ROUTE CODEを活用した決済システムの導入や活用を拡大する上でも重要な動きだと考えています。

盛山:部活動をはじめ、まだまだ多くの部分に課題は残っています。部活動改革なども、主たる問題を解決するために、さまざまな障壁が存在しているのですよね。

清水:今後、そういった部分にテクノロジーなどの力を介することで解決したり、スピード感を持たせたりすることは可能かもしれませんね。

 部活動改革や教員の負担軽減は、一足飛びに解決できる課題ではありません。

 しかし、「スクウる。」のような仕組みが現場の小さな困りごとを解消していくことで、教員が本来の教育活動に専念できる環境に近づいていくはずです。

 行政と民間がケースに応じて手を取り合い、学校現場に寄り添った改革を進めていくことで、持続可能な教育環境が実現していくはずです。

※本稿はPR記事です。

モバイル決済は、中小店舗キャッシュレス化の“壁”を崩せるか

「電通キャッシュレス・プロジェクト」は、2024年12月に第7回「生活者のキャッシュレス意識調査」を実施しました。今回のテーマは、モバイル決済の利用実態解明です。

「日本のキャッシュレス決済に、構造変化が表れつつあるのではないだろうか」

そうした仮説をベースに、前回はキャッシュレス利用者の最新の動向について解説しました。
今回は、キャッシュレス決済を導入する中小事業者の動向に焦点を当て、

・キャッシュレス決済受付店舗での、キャッシュレス利用は進んでいるのか
・キャッシュレス決済受付店舗の、モバイル決済への関心度はどうなのか

といった問いへの調査結果をひもときます。

カードが推進してきた日本のキャッシュレスが迎える大きな転換点が、店舗側にどのような影響を与えているのか。第1回に続き、電通の吉富才了が今の日本のキャッシュレス決済を俯瞰(ふかん)してみたいと思います。

<目次>

中小店舗におけるキャッシュレス化の“春”はまだ遠い

導入した決済手段割合は、「モバイルQR決済」が約8割に達し、カード決済に肉薄

キャッシュレス導入店増加の鍵はモバイルQR決済

Apple Pay、Google Payなど、モバイル非接触決済の導入率増加にも注目

キャッシュレス売上比率はわずか「36.2%」の厳しい現実

キャッシュレスが、金融サービスの高度化を推進する

中小店舗におけるキャッシュレス化の“春”はまだ遠い

2024年12月の第7回調査を基に、中小事業者(マーチャント)のキャッシュレス決済対応状況について見ていきます。

キャッシュレスインサイトNo.2_中小キャッシュレス化_図版1
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 マーチャント編 2024年12月」【SA サンプル数=1000】

まず、中小事業者による最新のキャッシュレス決済導入状況はどうなっているのでしょうか。

2024年1月以降にキャッシュレスを導入したマーチャントは、わずか2.6%でした。中小事業者のキャッシュレス導入は少しずつしか進んでいません。これを加えたキャッシュレス決済導入率は58.9%。2024年に入り、伸びに鈍化が見られます。

物価の上昇によって仕入れコストが膨らむ一方、販売価格に転嫁できず、キャッシュフローも厳しい。決済手数料を支払っての導入は考えられない。そんな声が聞こえてきそうです。キャッシュレス決済の未導入率41.1%の壁を打ち砕くには相当強力なパワーが必要です。その推進役に、モバイル決済がなる可能性があります。

導入した決済手段割合は、「モバイルQR決済」が約8割に達し、カード決済に肉薄

キャッシュレスインサイトNo.2_中小キャッシュレス化_図版2
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 マーチャント編 2024年12月」【SA サンプル数=589】

キャッシュレス導入店では、どんな決済手段を導入しているのでしょう。当初の「キャッシュレス受付」といえば、カードによる受付が基本でした。その状況が大きく変わりつつあります。

今回の調査では、カードが80.5%でトップだったものの、モバイルQR決済も79.6%と僅差の2位につけました。その差はわずか0.9ポイント。モバイルQR決済が本格的にスタートしてから5年あまりでカードに追いつき、追い抜くほどの勢いで普及しています。

2000年代に投入された、「交通系(Suica、PASMOなど)」、「流通系(WAON、nanacoなど)」をはじめとする電子マネーは、約20年経ってようやく50%弱(47.7%)に達しました。決済受付端末の違いが、新興勢力であるモバイルQR決済との差になっているようです。電子マネーはカードと同様に、ハイスペックな決済端末が必要で、導入コストと手数料が高い傾向にあります。一方のモバイルQR決済は、QRコードつきのシールやPOPがあれば受付が可能なことから、初期導入コストがかからず、手数料も安いのが魅力なのです。

本調査でも、キャッシュレス導入店のうち、カードは受け付けていないがモバイルQR決済は受け付けている、という中小店舗は18.5%います。

キャッシュレス導入店増加の鍵はモバイルQR決済

キャッシュレスインサイトNo.2_中小キャッシュレス化_図版3
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 マーチャント編 2024年12月」【SA サンプル数=100】

キャッシュレス決済の導入が進んでいるのはどの業種なのでしょうか。

今回の調査では、最も普及しているのはコンビニで「100%」という結果でした。多くの生活者が気軽に立ち寄るコンビニでは、より利便性を高めるために、キャッシュレス決済手段の選択肢を多くそろえています。

次にキャッシュレス導入が進んでいる業種は衣類販売(73.7%)で、グラフ表示はしていませんが、その内モバイルQR決済の導入率は74.8%でした。僅差の3位がバー・酒専門店(72.7%)となり、モバイルQR決済の導入率は71.3%です。比較的客単価の高いこれらの業種でも、モバイルQR決済の導入が進んでいる様子がうかがえます。

4位はファストフードです。導入比率は66.7%とそれほど高くはありませんが、決済手段別に見ると、モバイルQR決済の導入率は100%でした。

全体としてのキャッシュレス導入率は低いけれど、その多くがモバイルQR決済という業種もあります。生鮮食品や酒類販売、喫茶店です。この状況は商店街の青果店や鮮魚店、酒店や喫茶店の決済シーンをイメージすると分かりやすいかもしれません。

生鮮食品のキャッシュレス導入率は22.9%しかありませんが、そのうちの導入決済手段としては、87.5%がモバイルQR決済です。酒類販売では、36.7%がキャッシュレス対応で、そのうち94.1%がモバイルQR決済。喫茶店のキャッシュレス導入率は42.9%ですが、そのうちの95.8%がモバイルQR決済を導入しています。

キャッシュレス導入率の低い業種にも、確実にモバイルQR決済が採用されていることから、中小事業者の41.1%を占めるキャッシュレス未導入店攻略を牽引するのは、まちがいなくモバイルQR決済といえるでしょう。

Apple Pay、Google Payなど、モバイル非接触決済の導入率増加にも注目

キャッシュレスインサイトNo.2_中小キャッシュレス化_図版4
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 マーチャント編 2024年12月」【SA サンプル数=1000】

直近3カ月でモバイル決済の利用が増えたかという質問に対し、キャッシュレス導入店舗の36.5% が「増えた」と答えました。内訳は「とても増えた」が5.1%、「ある程度増えている」が31.4%でした。

モバイル決済をモバイルQR決済(PayPay、d払いなど)とモバイル非接触決済(Apple Pay、Google Payなど)にわけると、モバイルQR決済は35.2%が増えたと回答、モバイル非接触決済も28.9%が増えたと回答しました。これは消費者のモバイル決済利用増加状況と連動する状態だと考えられます。中小店舗においても、モバイルQR決済に加えて、モバイル非接触決済が増えています。

モバイル非接触決済は今後さらに増加する可能性が高まりそうです。それを後押しするのが、2024年5月に開始された「iPhoneのタッチ決済」というサービス。中小店舗の保有するスマートフォンが、そのまま非接触決済端末として使えるようになるもので、高価な非接触決済対応端末を導入しなくてもよくなります。この機能は、Android 端末でも対応済み。ちなみに、中小店舗経営者のスマートフォン保有率は93%。内訳はAndroid端末が49.2%、iPhoneが43.8%という結果でした。

保有するスマートフォンを非接触決済端末に利用するかどうかを聞いたところ、「ぜひ使いたい」(5.8%)と、「どちらかというと使いたい」(19.3%)を合わせた回答は、25.1% に上りました。

これはキャッシュレスの未導入店を含めての回答で、4軒に1軒がモバイル非接触決済導入にポジティブな姿勢を示しています。ただし、導入に至らない主な要因となっているのが、手数料問題です。実際に、今回の調査でもキャッシュレス未導入店の57.2%が、手数料が高いと回答しています。

キャッシュレス売上比率はわずか「36.2%」の厳しい現実

キャッシュレスインサイトNo.2_中小キャッシュレス化_図版5
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 マーチャント編 2024年12月」【SA サンプル数=589】

キャッシュレス導入店の総売上に占める直近のキャッシュレス売上比率を聞きました。2024年12月の調査では、全業種平均が36.2%、2021年12月からは9.5ポイント増えています。しかし、依然として現金比率が63.8%と高い結果となりました。

キャッシュレス売上比率が平均より高かったのは、コンビニ(47.3%)と衣類販売(41.4%)でした。この傾向は2021年から変わっていません。

なお、キャッシュレス売上比率が50%を超える中小店舗の比率は24.1% で、キャッシュレス導入店の4軒に1軒は現金よりもキャッシュレスが進んでいます。100%キャッシュレスという中小店舗もわずかですが、1.4%ありました。

キャッシュレスインサイトNo.2_中小キャッシュレス化_図版6
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 マーチャント編 2024年12月」【SA サンプル数=589】

キャッシュレス導入店に導入効果を聞いたところ、トップは、「つり銭を用意する手間が減った」(26.7%)でした。さらに「レジ作業の時間を短縮できた」(17.5%)、「スタッフのつり銭ミスが減った」(15.3%)と続きます。これらはいずれも業務改善効果です。売上に占めるキャッシュレス比率が高いほど、その効果は高い傾向です。

キャッシュレスにはマーケティング効果もあります。「客層が広がった」と回答した中小事業者は14.9%いました。「外国人観光客を取り込めた」(5.3%)や「顧客データや売上データを管理できるようになった」(5.3%)という声もあります。「キャッシュレスによって売上が伸びた」(8.8%)という回答もありました。キャッシュレスを推進するためには、キャッシュレスの効果を根気よく中小事業者にPRしていくことが重要です。成果を上げている中小店舗の声には説得力があります。

キャッシュレスが、金融サービスの高度化を推進する

カードからモバイルへ、キャッシュレス決済手段が移行している―。今回の調査結果からはそういった構造変化がうかがえました。

生活者の利用頻度が最も高いキャッシュレス決済手段はモバイル決済(42.8%)となり、カード(33.0%)に大きな差をつけました。この結果は、モバイル決済がキャッシュレス決済手段の主役になったことを表しています。

そしてカードからモバイルへ決済ツールが変わったことによって、金融サービスへこれまで以上にアクセスしやすくなったことが分かりました(詳しくは第1回を参照)。

モバイル決済は、物理的な財布の代わりに、デジタル化された財布をそのまま決済に使うことと同じです。容量に制限がある物理的な財布とちがい、デジタルウォレットではこれまで財布に入らなかった投資や保険などの金融サービスと連携させることもできます。

しかも多くの場合、モバイル決済を使えば、ポイントがもらえます。決済で獲得したポイントを即座に確認し、そのポイントを投資や保険にまわすこともできます。投資で増えた資金を商品購入に使うこともでき、決済と金融サービスが一体となって資金が循環することになります。

日本のキャッシュレスは、単なる決済の域を超えて、金融サービスの高度な進化を促進しているといえます。モバイル決済にはさまざまなコンテンツを連携させ融合するパワーがあり、それによって消費者の日常生活におけるDXが進んでいきます。

中小店舗ではモバイルQR決済によって、ようやくデジタル化がはじまったのかもしれません。キャッシュレス導入比率は58.9%。まだ4割がキャッシュレス未導入ですが、導入店舗ではモバイルQR決済受付(79.6%)がカード受付(80.5%)に肉薄してきています(図02)。

中小店舗のキャッシュレス推進における壁はモバイル決済によって崩されていく可能性があります。今後も「電通キャッシュレス・プロジェクト」では日本のキャッシュレスの状況について調査を進め、その動向を注視していきたいと思います。

【調査概要】
第7回「生活者のキャッシュレス意識調査」
・目   的:生活者の決済手段の変化の把握
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:20~69歳男女
・サンプル数:1000 ※
・調 査 手 法 :インターネット調査
・調 査 期 間 :2024年12月1日~12月3日
・調 査 機 関 :楽天インサイト株式会社
※ 1000人に対し、性年代構成比を人口構成比(R2国勢調査)にあわせてウエイトバック集計を実施。「%」および「n」はウエイトバック後のスコア、サンプル数を掲載。

 

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映画『鬼滅の刃』900億円大ヒットは偶然ではない…背後にソニーGの緻密な戦略

●この記事のポイント
・『鬼滅の刃』が全世界で948億円を突破し、東宝とソニーGの連携による“日本発グローバルヒット”モデルが確立。
・ソニーG傘下アニプレックスが映画・ゲーム・音楽を一貫展開し、多チャンネル戦略で世界市場を席巻。
・ソニーGは映像・音響技術とクロスオーバー戦略を軸に、半導体売却後の新たな成長領域としてエンタメ事業を強化へ。

 ソニーグループ(ソニーG)と東宝が手を組んだ映画『鬼滅の刃』は、2025年に公開された映画の中で世界トップ5にランクインし、全世界興行収入は948億円に達する大ヒットを記録した。この成功は偶然の産物ではなく、ソニーGのアニプレックスを中心とした戦略的なメディア展開と、東宝の映画配給における長年の経験が生み出した奇跡的なシナジーによるものだ。

『鬼滅の刃』の背後には、ソニーGが進めるマルチメディア戦略や、映画、ゲーム、音楽を一体化させたクロスオーバービジネスモデルが存在する。本稿では、その成功の背景に迫り、今後の展開についても深掘りしていく。

●目次

ソニーGと東宝の強力な連携と戦略

 ソニーGと東宝は、それぞれ異なる強みを持ちながらも、その協力によって業界に革命をもたらした。ソニーGは、アニメや映画、ゲーム、音楽など複数のメディアをまたいだ事業展開を得意とし、特にアニプレックスというアニメ制作・配信の巨頭を所有している。アニプレックスは、過去に『鬼滅の刃』のアニメ版を制作した実績があり、その後、映画化に向けた戦略を推進した。

 一方、東宝は映画制作と配給の老舗企業であり、国内外での映画ヒット作を数多く生み出してきた。『鬼滅の刃』の劇場版もその一つで、映画業界における強力なネットワークとプロモーション力が、この作品の成功に貢献した。ソニーGと東宝の連携は、単に映画を制作するだけでなく、ゲームや音楽といった異なるメディアで展開することで、総合的なビジネスモデルを形成している。

『鬼滅の刃』とアニプレックスの役割

『鬼滅の刃』は、ただのアニメ映画にとどまらず、ソニーGが推進する多メディア戦略の象徴となる作品だ。アニプレックスが手掛けたこの映画は、ソニーGの映画事業の一環として、アニメの制作から映画公開、さらにその後のゲーム展開までを一貫して推進してきた。

 アニプレックスは、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の子会社であり、アニメ制作だけでなく、音楽や映画、さらにはゲームの開発に至るまで幅広く展開している。そのため、アニプレックスは『鬼滅の刃』において、アニメ放送から映画化、さらにはゲームの発売に至るまで、一貫したメディアミックス戦略を実施。これにより、映画公開前後のメディア展開を最大化し、ファンを獲得することに成功した。

 アニメから映画、ゲーム、音楽、グッズに至るまで、ソニーGは多チャンネル展開を行い、映画『鬼滅の刃』の世界的な成功に大きく貢献した。

ソニーGの多チャンネル戦略とグローバル展開

 ソニーGの戦略は、単一のメディアに依存することなく、映画、ゲーム、音楽など複数のメディアをつなげるクロスオーバービジネスモデルにある。この戦略の中心に位置するのは、ソニーGが所有するアニプレックスや、ゲーム分野での大手プレイヤーであるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)だ。

『鬼滅の刃』は、その映画化に留まらず、PS5向けゲームとしてもリリースされ、ゲームの売上が映画の成功をさらに後押しした。映画のストーリーやキャラクターをゲームに反映させることで、ファンは映画の世界観を新たな体験として楽しむことができ、逆にゲームの売上が映画の認知度を高めるという、まさに相乗効果が生まれた。

 また、ソニーGは、映画やゲームだけでなく音楽にも注力しており、『鬼滅の刃』の映画音楽や関連楽曲も大ヒット。これにより、映画の世界観が音楽とともに広がり、ファンの間でさらに浸透した。

 これらの戦略を通じて、ソニーGは日本国内だけでなく、アジア、北米、さらにはヨーロッパなど、世界中で『鬼滅の刃』のブランド力を高め、グローバルな展開を加速させている。

 戦略コンサルタントの高野輝氏はソニーの多チャンネル戦略とグローバル展開について、以下のように分析する。

「ソニーグループの多チャンネル戦略とグローバル展開は、主にそのエンタテインメント事業とエレクトロニクス事業の両面で重要視されています。多チャンネル戦略については、エンタテインメント分野で特に顕著です。

 音楽、映画、ゲーム、アニメといった多様なコンテンツを、パッケージ販売、デジタル配信(ストリーミング、ダウンロード)、放送など、様々なチャネルを通じて世界中の消費者に届ける戦略です。

 音楽では、海外のSMEと連携し、新しいリリース情報やプロモーション素材を共有することで、アーティストの海外展開(イベント出演やプロモーション施策)を確保しています。

 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (SPE) やゲーム事業 (SIE)は、映画やゲームでも、プラットフォームや地域ごとに最適な販売・配信戦略を構築し、多角的な収益源の確保を目指しています。

 また、全社横断プロジェクトでデータやシステムの一元化を進め、最新のDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI技術を活用して、オペレーションの標準化や効率化を図り、多様なチャネルでの展開を支えています。

 一方、グローバル展開については、ソニーの長年の成長の鍵であり続けています。

 エレクトロニクス製品からエンタテインメントコンテンツまで、創業期から積極的に国際市場へ進出し、そこで得た成功体験を事業戦略に活かしてきました。特にアメリカ企業との合弁会社設立などを通じて、海外市場への参入や多角化をいち早く進め、グローバル化に対応してきました。

 さらに、各地域の市場特性を理解し、現地のパートナーを選定し、適切なマーケティング戦略と販売チャネルを構築することで、事業の海外進出と持続的な成長を促進しています。

 ライブエンターテイメントやスポーツ分野においても、トラッキング技術などのソニーの技術力を米国フットボールリーグ(NFL)や北米アイスホッケーリーグ(NHL)などで活用するなど、グローバルに展開しています。

 これらの戦略により、ソニーグループは世界規模で多様な製品やサービスを提供し、各地域のニーズに応じた事業展開を図っています」

技術協力とプロダクト開発

『鬼滅の刃』の成功は、技術面でも革新的な要素が含まれている。ソニーGは、映画制作においても最先端の映像技術や音響技術を駆使しており、特に映像美やCG技術において高い評価を得ている。『鬼滅の刃』では、アニメのクオリティを維持しつつ、映画という大スクリーンで表現される迫力ある映像がファンを魅了した。

 また、ソニーGは、映画制作だけでなくゲーム開発においてもその技術力を発揮しており、PS5向けのゲームは高品質なグラフィックとインタラクティブな体験を提供することで、映画の魅力をさらに深めている。このように、ソニーGの技術力は映画、ゲーム、音楽といった異なるメディアで融合し、ファンに新たな体験を提供している。

 ソニーGは、映画制作においても次のステップを見据えた戦略を描いており、その中で新たなプロジェクトやテクノロジーの導入が期待されている。特に、現在は主力事業であるCMOSセンサーやスマホ向けカメラ、半導体事業の売却を検討しているとの観測が強い。これにより、ソニーGはよりメディア事業に集中し、次世代の映画制作やゲーム、音楽などの分野でさらなる成長を目指すと予測されている。

 映画事業においても、アニプレックスや東宝との連携を通じて、新たなコンテンツの開発が進められ、さらに大規模なメディア展開が期待される。映画、ゲーム、音楽の融合によるクロスオーバー戦略は、今後も重要な成長の軸となるだろう。

 ソニーGと東宝の戦略的な連携は、映画業界における新たな成功モデルを築いた。『鬼滅の刃』に見られるように、映画、ゲーム、音楽を一貫して展開するクロスオーバービジネスモデルは、今後のメディア展開において欠かせない要素となるだろう。技術協力やグローバル展開を駆使した戦略は、ソニーGが次に挑戦するべき課題とともに、新たな市場を切り開く原動力となり続けるに違いない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

Slack、いよいよTeamsの牙城を崩す?あらゆるAIを統合、マイクロソフトと真逆の戦略

●この記事のポイント
・SlackがChatGPTやClaudeなど主要AIを統合し、チャット上で検索・要約・タスク実行まで可能に。AI時代の業務基盤へ進化。
・Microsoft Teamsに対抗し、「開かれたAI連携」で柔軟性と拡張性を武器にシェア拡大を狙う。
・Slackは“人とAIが協働する職場”の中心を目指し、「会話から仕事を動かす」新しい働き方を提案している。

 2025年10月、Slackが発表した新機能群は、単なるアップデートではない。ChatGPT、Claude、Google Agentspace、Dropboxなど、主要AIやクラウドツールをSlack内で直接利用できるようにするという、“統合プラットフォーム”構想だ。

 これまで「チームチャット」としてのSlackは、プロジェクト管理や情報共有のハブに留まっていた。しかし今回の拡張では、チャットの文脈からそのままAI検索を行い、タスク生成、要約、資料作成、さらにはローコード/ノーコード開発まで実行可能となる。

 Slack上で「会話が仕事を動かす」──。その理想を、AIと連携した形で現実のものとしたのだ。

●目次

Slackが目指す「仕事のOS」

 この動きの背景には、「ワークプレイスOS」としての覇権争いがある。Slackを傘下に持つセールスフォースは、CRM(顧客管理)と業務アプリを統合し、Slackを“職場の神経中枢”に据える戦略を描く。

 社内のあらゆるデータ、アプリ、AIがSlack経由でつながり、社員が自然言語で命令できる環境を整えようとしている。

 たとえば、「昨日の営業会議の議事録をまとめて」「次回の提案書ドラフトを作って」と入力するだけで、SlackがAIエージェントと連携し、セールスフォースのCRMやDropboxの資料、ChatGPTの自然言語生成を呼び出して処理してくれる。もはや「チャットツール」というより、“企業OS”としての存在感を帯びつつある。

 とはいえ、Slackの前には強力なライバルが立ちはだかる。それが「Microsoft Teams」だ。TeamsはMicrosoft 365に標準搭載され、メール(Outlook)やOfficeツール(Word、Excel、PowerPoint)と自然に連携する。導入企業数ではSlackを大きく上回り、グローバル市場では“事実上の標準”といわれる。

「確かにTeams は大きなシェアを握っていますが、Slackに勝ち目はないのかといえば、実はそうとも言い切れません。Slackの強みは、『柔軟性と拡張性』にあります。Teamsがマイクロソフト製品中心に“閉じたエコシステム”を築く一方で、Slackはグーグル、OpenAI、アンソロピックなど“外のAI勢力”と積極的に連携。プラットフォームを開放し、『どんなAIも、どんなツールも、Slackに持ち込める』構造を作っている点が大きいといえます。

 特に注目は、『Slack AI』と呼ばれる自社開発モデルと、ChatGPTなど他社AIを組み合わせるハイブリッド運用です。Slack上での議論内容をAIが自動要約し、アクションを抽出してくれるため、プロジェクト進行が圧倒的にスムーズになります」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

マイクロソフト vs. セールスフォース、AI戦争の新戦場

 今回の発表の中でとりわけ驚きを呼んだのは、ローコード/ノーコード開発機能の実装だ。

「Slack上での会話から直接、ワークフローや自動化スクリプトを生成できるようになったのは画期的です。たとえばエンジニアがSlack上で『毎朝10時にサーバーログを自動取得してレポートして』と入力すると、AIがコードを生成し、ZapierやGitHub Copilotと連携して自動化するのです。これは開発者専用ツールだった領域を、非エンジニアにも解放する革命的な進化です」

 SlackはAIと人間の間の“翻訳者”となり、誰もがソフトウェアを動かせる時代を切り開こうとしている。

 SlackとTeamsの戦いは、実はマイクロソフトとセールスフォースという巨大企業のAI戦略の代理戦争でもある。

 マイクロソフトは「Copilot」を全面に押し出し、Office製品やTeams内にAIを組み込む“閉じたAI統合”を進める。セールスフォースは「Einstein Copilot」とSlackを連携させ、CRMデータとAIを結びつける“開かれたAI連携”を推進する。

 前者は「自社製品の中でAIを完結させる」モデル、後者は「外部AIを自在に呼び出す」モデル。どちらが企業ユーザーに受け入れられるかが、次の数年で明確になるだろう。

 SlackのAI統合が評価され始めた背景には、企業が「1社にロックインされないAI環境」を求め始めたことがある。Copilot一強ではなく、ChatGPTやClaude、Geminiなど複数AIを使い分けるのが現実的という流れが生まれているのだ。

Slackの「成長再加速」は起こるか?

 Slackは2021年にセールスフォースに約2.8兆円で買収された。当初は統合の混乱もあり、Teamsとの競争で後れを取っていたが、AI統合を軸に成長が再加速しつつある。

 市場調査会社IDCによれば、2024年時点でビジネスチャット市場におけるSlackのシェアは約22%、Teamsが38%。ただし「ユーザーあたりの利用時間」「プロジェクト単位でのアクティブ率」ではSlackが上回るという。特にスタートアップやクリエイティブ系企業では、Slackの軽快さと拡張性が高く評価されている。

 今回の機能拡張で、Slackは単なる“チャットアプリ”から、“AIネイティブな業務基盤”へと進化する。今後3年以内に市場シェアでTeamsに並ぶ可能性も現実味を帯びてきた。

 生成AIの進化によって、ビジネスチャットは「人と人をつなぐツール」から「人とAIをつなぐハブ」へと変わりつつある。Slackの戦略はまさにその転換を先取りしている。

 Teamsが“企業の統制と標準化”を象徴する存在であるのに対し、Slackは“現場の創造性と柔軟性”を支える存在。AIの民主化が進む中で、後者の価値が再び脚光を浴びる可能性がある。

 Slackの公式ブログではこう語られている。

「これからの職場では、AIエージェントも同僚の一人になる。Slackはその会話の場を提供する」

 AIと共に働く時代、Slackは「会話から仕事を動かす」プラットフォームの最前線に立とうとしている。Slackの進化は、単にビジネスチャットの覇権争いにとどまらない。それは「AIと人間が同じ職場で働く」という、次世代のワークスタイルの原型を提示しているのだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

グーグル vs OpenAI、“AI映像の主導権争い”激化…Veo 3.1で勢力図は変わる?

●この記事のポイント
・グーグルが動画生成AI「Veo 3.1」を正式発表。自然な音声・効果音生成、画像→動画変換の精度を飛躍的に強化。
・OpenAI「Sora2」との直接対決が本格化。映像生成を“AIプラットフォーム戦略の中核”に据える動き。
・動画生成AIは、広告・教育・SNS・企業研修など多分野を再編し始めている。

Veo 3.1──「映像を会話で作る」時代の幕開け

 グーグルが10月に発表した「Veo 3.1」は、同社の動画生成AIの最新モデルであり、生成AI群「Gemini」シリーズの一部として統合的に提供される。

 これまでのテキストからの動画生成に加え、「音声・効果音・カメラワーク・人物対話」までを自動生成できるようになった。

 特徴的なポイントは以下の通り。

 ・自然な会話生成:登場人物同士のセリフや声の抑揚を、物語文脈に合わせて自動生成。
 ・リアルな音響表現:風・水・環境音などを自動的に生成し、映像とシンクロ。
 ・画像→動画変換の精度向上:静止画から奥行きを解析し、3〜10秒の自然な動画を作成。
 ・物理シミュレーションの進化:光や流体、衣服の揺れなど、現実の動きを再現。

「Veo 3.1は、単なる『動画を生成するAI』ではなく、会話で映像を編集する“共同制作者”として設計されています。ユーザーが『カメラをもう少し引いて』『このシーンに雨を降らせて』と話しかけると、Geminiがプロンプトを理解し、Veoが即座に反映。生成AIが『映像制作のインターフェース』そのものになりつつあるといえます」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

Sora2との決定的な違い──リアリズムか、操作性か

 OpenAIの「Sora2」は、2025年春の発表以来、映像生成分野で圧倒的な存在感を示してきた。Soraが得意とするのは「物理法則の忠実な再現」である。

 時間軸・カメラ位置・物体挙動の整合性が極めて高く、実写と見まがう映像を生成できる。映画制作者やクリエイター層が特に注目している理由だ。

「Veoは、『使いやすさと連携性』を武器としています。Gemini経由でグーグルの他サービス(Drive、YouTube、Pixelなど)と直結しており、スクリプト作成から動画生成・公開までの一貫したワークフローを実現。Soraが『完成度の高い映像』を生む“映画監督タイプ”だとすれば、Veoは『対話で演出を磨く編集者タイプ』といえます」(同)

 両社の方向性は明確に異なる。以下に要点を比べてみる。

【Veo 3.1】
 生成重視点 会話性・編集性
 主な用途 広告・SNS・教育動画
 連携範囲 Gemini, YouTube, Drive
 出力 会話+音+映像の統合
 戦略 AIスタジオ化

【OpenAI Sora2】
 生成重視点 物理的リアリズム
 主な用途 映画・アート・プロ映像制作
 連携範囲 ChatGPT, DALL·E, Voice Engine
 出力 高精度な映像のみ
 戦略 AI脚本家化

 Soraが「映像そのものの品質」を磨くのに対し、Veoは「映像生成プロセスの民主化」を進めている。

背景にある“AI映像プラットフォーム競争”

 この両者の競争は、単なる技術対決ではない。本質は「AIが支配する新たな動画エコシステム」の主導権争いだ。

「グーグルにとってVeoは、YouTubeとの連携強化という戦略的意味を持ちます。YouTubeはすでに毎月25億人が利用する世界最大の動画プラットフォームであり、Veoによって生成された動画を、ワンクリックでShortsや広告素材として配信できるようになります。これにより、『AIがつくり、AIが最適化し、AIが配信する』循環が完成するわけです。

 一方のOpenAIは、ChatGPTを軸とした『AI制作スタジオ構想』を進めています。Sora2は、ChatGPTで書いた脚本やナレーションをそのまま映像化し、DALL·Eで作った素材を組み込むといった、創作の一体化を目指しています。OpenAIが描くのは、“文章生成の延長線上にある映像表現”です」(同)

 どちらの陣営も、映像を「新しい知的言語」として再定義しようとしているといえる。

市場の潮流──“生成映像”がビジネス現場を変える

 AIによる動画生成市場は、急速に拡大している。米Allied Market Researchによると、2024年時点で約17億ドルだった市場規模は、2030年には120億ドル超に達すると予測されている。

 牽引するのは以下の分野だ。

 広告・マーケティング:AIが短時間でブランド動画を量産。特に中小企業が恩恵を受ける。
 教育・研修:教材や社内研修動画を自動生成し、社員教育を効率化。
 Eコマース:商品画像から自動で360度動画を生成し、購買体験を強化。
 メディア・ニュース:テキスト記事を動画ニュース化。SNSでの拡散力を高める。

 すでにAdobe、Runway、Pika、Synthesiaなどがこの領域に参入しており、AI映像生成は「生成AIの第2波」と位置づけられている。経営者にとっての最大の学びは、「動画制作は専門家の領域ではなくなる」という現実だ。マーケティング、採用、社内広報──すべてがAIによる動画生成で自動化・高速化しつつある。動画が“社内言語”になる時代が、目前に迫っている。

AI動画生成が生む新しい創造の形

 AIが映像を作り出すことは、人間の創造を奪うのではなく、「創造の余白を拡張する」行為だ。

 実際、VeoやSoraを使ったクリエイターたちは、従来の映像制作とは異なるプロセスを歩み始めている。

 ・構想段階からAIと会話しながら企画を練る
 ・撮影せずにプロトタイプ映像を作る
 ・音声AIと組み合わせて多言語展開
 ・AIアバターによるグローバル配信

 これらはすでに、スタートアップのプロモーションや投資家向けピッチ動画で活用され始めている。Veo 3.1の「自然対話+即時生成」機能は、こうした新しい制作スタイルを後押しする。

 ただし、映像生成の民主化にはリスクも伴う。ディープフェイク、著作権侵害、虚偽広告など、AI動画特有の課題が急増している。

 グーグルはVeoで「AI生成ラベル」や「メタデータ署名」の義務化を検討しており、OpenAIもSora2で同様の透明性フレームを導入している。これらの動きは、AI映像の“信頼インフラ”構築競争でもある。誰が最初に「安心して使える動画生成AI」を社会実装できるかが、次の焦点だ。

 Veo 3.1とSora2の対決は、単なる技術競争ではなく「映像を誰が語るのか」を問う文化的な戦いでもある。グーグルは「誰もが動画で表現できる時代」をつくろうとしている。OpenAIは「人間とAIが共に物語を紡ぐ時代」を描いている。どちらの未来を選ぶかは、私たち次第だ。

 確かなのは、これからの企業にとって“動画はテキストの次の言語”になるということ。そして、AIがその翻訳者になるのだ。 
 
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「もっと関わりたいのに踏み出せない」若者。すれ違う職場コミュニケーションの今

電通若者研究部(以下、電通ワカモン)は高校生、大学生、社会人1~3年目の若年層を中心に、2年ぶりとなる大規模調査を実施(調査概要はこちら)。その結果をもとに、若者の価値観をひもといた「若者まるわかりナレッジ2025」を作成しました。(お問い合わせはこちら

連載初回の記事では、若者のあいだで広がる「感情汚染を避ける」行動価値観、そしてその裏にある「本音でつながりたい=人間回帰」の志向をひもときました。しかし、この本音でつながりたい志向がもっとも実現しにくい場所が、世代を超えた職場の人間関係ではないでしょうか。

「ハラスメントにならないか不安で、後輩に何を話していいか分からない」
「先輩は仕事も家庭も忙しいだろうから、失敗したり迷惑をかけたりすると嫌われそう」

ベテランの先輩も若手の後輩もそれぞれが配慮を重ねるあまり、本音を言い出せず、距離だけが広がってしまう。

しかし、電通ワカモンが調査した結果を見てみると、それぞれの気持ちは、ただすれ違っていただけでした。先輩も後輩もお互いに「本当はもっと踏み込みたい」と思っている人が多いことが見えてきました。今回は、調査から生まれたナレッジ「すれ違う先輩と後輩の本音」の一部を紹介しながら、職場でのコミュニケーションをアップデートするヒントをお届けします。

電通若者研究部


 

もっと教えてほしい後輩たち~遠慮と不安のすれ違い~

「後輩への指導をどのようにしたらいいか分からない」
「ハラスメントにならないか不安」

職場で若手と接するとき、そんな気持ちを抱いたことがある方も多いのではないでしょうか。ハラスメントに気を付けることは、人との関係値を築く前提としてとても重要なことです。実際、「ハラスメントになるのが怖いので、できるだけ指導しないようにしている」と答える先輩層は45.9%と半数近くに上りました。これは、相手のためを思っても、「もし地雷を踏んでしまったら……」という不安が先立ってしまう、現代の職場ならではの空気感を表しているのかもしれません。

しかし、その一方で後輩たちは、本当に指導されることを嫌がっているのでしょうか?電通ワカモンの調査では、「ハラスメントを避けるあまり必要な指導をしてもらえていないと感じる」後輩が42.4%に上ることが分かりました。

電通若者研究部

さらに、「人生の先輩としての教養や学びをもっと教えてほしい」と回答した人は68.8%。これは単なる仕事のノウハウを教えてほしいというよりも、「自分の知らない世界をもっと先輩から知りたい」「先輩たちの経験を学んで人として成長したい」という意思の表れです。

電通若者研究部

プライベートな話題も同様です。「結婚の話なんて、今の若者は嫌がるのでは?」と感じている先輩も多いかもしれませんが、調査によれば「恋愛や結婚、子育てに関する知見・学びであればもっと教えてほしい」と答えた若手は65.3%もいます。つまり、単なる雑談ではなく「学びの文脈」があれば、そういった話題も受け入れたいと感じている後輩が一定数いるということです。

電通若者研究部

では、なぜこんなにも両者の意識はすれ違ってしまっているのでしょうか。その背景にあるのは、先輩たちの「過剰なハラスメント意識」と後輩たちの「感情汚染を避ける(頼って相手の感情に迷惑をかけたくない)意識」です。

後輩側のデータを見ると、「優しい先輩や上司には負担をかけたくないので頼りにくい」と感じている人が58.8%にも上ります。頼りたいけれど、迷惑をかけてしまったら、と思うと踏み込めない。先輩・上司側も「触れない方が安全」と感じてしまえば、自然と距離が開いてしまいます。そんな遠慮と不安のすれ違いが、職場のあちこちで静かに生まれているのかもしれません。

電通若者研究部


 

飲み会そのものが嫌なわけじゃない。大事なのは関係値

「最近の若者は、飲み会に誘っても来ない」
「そもそも誘うのも気を遣う」

そう感じている先輩は多いのではないでしょうか。しかし電通ワカモンの調査ではその印象とは異なる後輩たちの本音も見えてきました。

たとえば、「仲の良い先輩や上司であれば食事や飲み会にもっと行きたい」と答えた後輩は64.8%。これはつまり、飲み会そのものを避けているわけではなく、“誰と行くか”を重視しているということです。気を許せる人との場であれば、むしろ積極的に関わりたいという気持ちがあるのです。しかし、そこに一歩踏み出せないのは、やはりすれ違いの構造があるからだと捉えます。

電通若者研究部

後輩側の70.6%が「仕事や家庭で忙しいと思うので、自分からは食事や飲み会に誘いにくい」と答えており、さらに60.5%は「食事や飲み会に誘ってくれても、それは社交辞令だと思う」と回答しています。つまり、「(関係を深めたい先輩や上司であれば)本当は行きたいけれど、素直に誘えない/誘いを受け取れない」若者も多いということです。

電通若者研究部

一方で、先輩に目を向けてみると、58.9%が「後輩から食事や飲み会に誘ってもらえたらうれしい」と感じており、それに加えて71.0%が、「(後輩は)職場の食事や飲み会は本当は行きたくないのではないかと思う」と考えていることも分かりました。つまり距離を縮めたいけれど、嫌がられるのではないかという思い込みと葛藤の壁が先輩側には存在しているのです。

電通若者研究部

後輩は遠慮して声をかけられず、先輩も「最近の若者は誘われるのを嫌がるかも」と思ってしまっている、このお互いを思いやるがゆえの遠慮が、結果として距離をつくっているのです。

職場の人との食事や飲み会はただの懇親イベントではなく、信頼構築の機会にもなりえます。しかし、今の若手は同じ職場だからといって誰とでもその関係を築きたいとは思っていない。「この人となら」「もっと話を聞かせてほしい」と思えたときに、はじめて一歩を踏み出そうとしています。

全員が全員、職場の人との食事や飲み会が嫌いなわけじゃない。ただ、行きたいと思える関係値がまだ築けていないだけなのです。

失敗すること・頼ることへの極度な不安。関係値を築くには

「いつも優しい先輩にこそ、これ以上負担をかけたくなくて頼りづらい」
「もっと親密になりたいけど、忙しい先輩を食事や飲み会に誘うのは申し訳ない」

こういった若者の声の背景には、「感情を持ち出すことで相手の気持ちを汚してしまうのではないか」という感情汚染への恐れがあると、電通ワカモンでは考えています。(感情汚染の詳細についてはこちらの記事をご覧ください)

誰かに迷惑をかけてしまう・フォローをしてもらうことを極度に避けたがるのは、若者たちが「失敗したら切り捨てられるかもしれない」と感じているからです。

実際、「失敗したら失望される/切り捨てられるのではないかと感じる」という後輩の回答は64.0%。これは、「失敗してもフォローしてくれる」「何度でも学ばせてくれる」といった安心感が職場に十分根付いていない現状を示しています。

電通若者研究部

こうした状況を前に、私たちはどう若者と関わっていけばいいのでしょうか。結論からいえば、「頼っても大丈夫だ」と若手が実感できる関係値を、日々の中で少しずつ地ならししていくことが大切です。たとえば先輩や上司に対しての後輩の気持ちについて、下記の調査結果があります。

電通若者研究部

これらのデータから見えてくるのは、「信頼できる先輩や上司となら、きちんと関係を築きたい」という姿勢を持っているということ。つまり、信頼を積み重ねたその先にこそ、踏み込んだ会話や相談への安心が生まれるのです。

関係値は、いきなり築けるものではありません。日常の雑談やちょっとした会話、一緒に過ごした小さな経験こそが、信頼の土台をつくります。たとえば、

  • 「あの資料、いい仕上がりだったね」と、一言伝える
  • 「一緒に飲み物買いに行かない?」と、軽く誘ってみる
  • 打ち合わせ前に「あの映画見た?」と、話を振ってみる

こうしたささいな行為の積み重ねが、「この人には頼っていいのかもしれない」という感覚をつくっていきます。

初回の記事でも触れたように、若者たちは「人間回帰=本音でつながれる関係性」を求めています。ただしそれは、“安心できる土壌”があってこそ実現されるものです。だからこそ、先輩ができるのは、いきなり踏み込んでいくようなことではなく、「頼っても大丈夫」「失敗しても大丈夫」と思える関係性を、日常の中で丁寧に育んでいくことなのではないでしょうか。

もちろん、「ハラスメントになってしまったらどうしよう」「どこまで関わっていいのか分からない」と、慎重になってしまう先輩たちの気持ちもあるでしょう。ですが、だからといってすべてを避けてしまうのではなく、「学びになる話なら聞いてもらえるかもしれない」「頼り方が分からないだけかもしれない」と、少しだけ視点を変えてみることが大切かもしれません。

とはいえ、頼りやすい関係性を上手に構築できないのは、先輩・上司だけの責任ではありません。電通ワカモンの調査では、63.9%の先輩層が「悩みや不安があったら気にせずもっと頼ってほしいと思う」と答えています。つまり、後輩が遠慮して声をかけられないことを、むしろ寂しく感じている先輩も少なくないのです。後輩たちは失敗や迷惑を過度に恐れすぎず、「負担になるかもしれないけれど不安を聞いてほしい」「仕事以外のことも相談したい悩みがある」と思ったときには、一歩踏み出してみてほしいと思います。

もったいないのは、お互いが「言わなくても分かるだろう」「気を遣わせたら悪い」と遠慮しすぎた結果、せっかくの信頼構築のチャンスを失ってしまうことです。小さな声かけ、小さな頼り、小さな受け止め、その積み重ねが、世代を超えて本音でつながるきっかけになると、電通ワカモンは考えています。

本記事で紹介したデータ以外にも、「すれ違う先輩と後輩の本音」では多数のデータとナレッジをまとめています。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。(※お問い合わせはこちら

【調査概要】
調査名:若者まるわかり調査
調査機関:電通マクロミルインサイト
調査時期:2024年12月
調査方法:インターネット調査
調査対象エリア:全国
調査対象・サンプル:高校生以上の未婚15~46歳男女 2000ss (以下セグメントごとに男女均等割付)
(内訳)高校生 400ss/大学生 400ss/社会人1~3年目 400ss/社会人4~10年目 500ss/社会人11~20年目 300ss
 
※上記サンプルの抽出にあたり、15~69歳の一般男女(高校生以上、未既婚・職業不問)を対象にスクリーニング調査を実施、その結果から人口構成比に基づいた10000ssを抽出し、別途分析に使用


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大阪万博閉幕、夢洲はどうなる?F1サーキットやテーマパーク案も…大屋根リングは?

●この記事のポイント
・大阪・関西万博閉幕後の夢洲跡地をめぐり、「大屋根リング」の保存や再開発、IRとの一体運営などを軸に多様な構想が浮上している。
・F1サーキットや大型エンタメ施設の設置など、富裕層インバウンドを狙う都市開発案が検討される一方、財政負担や治安・景観への懸念も根強い。
・跡地活用の方向性は「観光リゾート型」か「知的産業都市型」かで分岐しており、行政・経済界・市民が問われるのは“誰のための開発か”という長期的ビジョンだ。

 2025年10月13日、半年にわたって開催された大阪・関西万博が閉幕した。総来場者数は目標の2800万人を上回る勢いで推移し、「人類の未来社会」を掲げた万博はひとまず成功裏に幕を下ろした。しかし、今、注目が集まっているのは“その後”の夢洲(ゆめしま)だ。

 跡地をどう活用し、大阪・関西の経済をどう再活性化させるのか。これからの議論は、万博本番以上に難しい。

●目次

「大屋根リング」をどうする? レガシーか、リセットか

 万博の象徴ともいえるのが、全長約2kmに及ぶ「大屋根リング」だ。建設コストは数百億円規模。これを「大阪の新ランドマーク」として恒久的に残すべきか、撤去して次の民間開発に委ねるべきかをめぐって、議論が分かれている。

 維持派は、パリ万博の「エッフェル塔」や、愛知万博跡地の「モリコロパーク」のように、“一目でわかる象徴”を残すことが都市ブランド形成の要だと主張する。一方で、反対派は「維持費の負担が莫大」「IRとの景観整合性が取れない」と懸念を示す。

 大阪市関係者は、「全面撤去か一部活用かを年内に方向づけたい」としており、大屋根リングの扱いは、跡地開発全体の“哲学”を映す鏡となる。

F1サーキット、テーマパーク…次世代エンタメ都市構想

 跡地開発をめぐって浮上している構想は多岐にわたる。

 その一つが、F1グランプリの常設サーキット設置案だ。夢洲の地形は海沿いで広大な平地が続き、観客席やピットを備えるレーストラックの建設に適しているとされる。大阪湾岸の夜景を背景にした「大阪ナイトレース」が実現すれば、世界的な注目を集める可能性は高い。

 もう一つは、大型テーマパークやエンタメ複合施設構想だ。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)との相乗効果を狙い、ライブ会場、アートミュージアム、カジノ・リゾートと連動した「西日本最大のエンタメゾーン」を目指すという構想もある。

 これらはいずれも、「IR(統合型リゾート)」との一体運営を前提にしている点が特徴だ。

 万博跡地に隣接する形で建設が進むのが、大阪IR(統合型リゾート)だ。カジノを含むこの大型複合施設は、シンガポールの「マリーナベイ・サンズ」やマカオの「ギャラクシー・リゾート」と並ぶ、アジアの高級観光拠点を目指す。

 跡地活用を考えるうえで不可欠なのは、このIRとの「シナジー設計」である。IRの集客力を観光・MICE(国際会議)・エンタメ・スポーツなど周辺施設と結びつけ、「富裕層インバウンドの長期滞在を促すリゾートクラスター」として機能させられるかが、成功の分かれ目となる。

 大阪観光局の担当者はこう語る。

「アジアの富裕層は“ワンストップで楽しめる都市”を求めている。ショッピング、アート、自然、カジノ、スポーツ、いずれも徒歩圏内にあるような夢洲を目指すべきだ」

とはいえ、課題も多い。

 カジノへの反対運動はいまだ根強く、自治体内でも「公費負担の増大」「治安悪化」「ギャンブル依存」などを懸念する声は少なくない。さらに、交通インフラ――特に夢洲と大阪中心部を結ぶアクセスの強化が急務であり、公共投資と民間資金の最適バランスが問われる。

過去の「跡地再開発」から学ぶ――成功と失敗の分岐点

 大阪万博跡地の未来を考えるうえで、過去の大型イベント跡地は多くの示唆を与える。

「1970年の大阪万博跡地(吹田市)は『万博記念公園』として再整備され、太陽の塔や記念館が観光資源として生き続けている。一方で、2010年の上海万博跡地は一部が産業展示場や美術館として再利用されているが、一時的なイベント施設が恒久的経済価値を生むには困難が伴うことも明らかにした。

 成功事例に共通するのは、『イベントの理念を空間に再翻訳する試み』があったことだ。今回の大阪・関西万博が掲げたテーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』。この理念をどう形に落とし込むか――例えば次世代モビリティ実証拠点、AI・GXスタートアップ拠点、海上都市実験区といった方向性も有力だ」(大阪で不動産開発に携わる大手デベロッパー幹部)

経済波及効果と政治的思惑――「ポスト万博」の現実

 跡地の再開発は、単なる都市計画ではない。そこには政治・産業・自治体の思惑が複雑に絡む。万博開催を主導した大阪府・市、経済界、IR事業者(オリックス、MGMリゾーツ)など、関係主体が多岐にわたるため、誰が主導権を握るかが焦点だ。

 仮に一体運営が進めば、MGMリゾーツが中心となってIR+エンタメ複合型都市構想を描く可能性もあるが、一方で大阪府は「産業・研究機能」を強化する方向を模索。大学・研究機関誘致、スタートアップ支援拠点の整備など、知的産業都市としての展開を主張している。

 つまり、夢洲の未来は「観光リゾート都市」か「知の実験都市」かという二重の選択を迫られている。

ロードマップと課題――公募・選定・整備の現実的スケジュール

 2026年にも跡地の民間事業者公募が始まり、同年中に開発コンセプトを決定。2030年前後の一部エリア供用開始を目指すというのが現在の見通しだ。ただし、万博後のインフラ整備費用の見積もりが膨らめば、民間参入の足かせとなる。

 また、IRの開業時期が2029年にずれ込む可能性があるため、両プロジェクトのスケジュール調整が最大の焦点となる。この点について、関西経済連合会の幹部は次のように語る。

「万博、IR、跡地開発をそれぞれ別々に進めるのではなく、関西全体の成長戦略の文脈で再設計する必要がある。いま問われているのは“誰のための開発か”ということだ」

 大阪万博の跡地は、単なる土地の問題ではない。「大阪という都市をどうデザインするか」という問いそのものだ。

 レガシーとして過去を残すのか、新たな街として未来を描くのか。

 ・エンタメとIRで世界の富裕層を呼び込む「大阪版ラスベガス」
 ・AI・GXを実証する産業実験都市「日本のシリコン湾」
 ・市民の憩いと文化発信の拠点「大阪版セントラルパーク」

 どの道を選ぶにしても、問われるのは長期的な都市哲学と、地域住民を巻き込む覚悟だ。いま、夢洲は“白紙のキャンバス”に戻った。次にどんな色を塗るのか――その筆を握るのは、行政でも企業でもなく、私たち自身かもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

レガシーシステムからの脱却を加速させる「AIエージェント」 韓国No.1 UI/UXツール「WebSquare AI」が描く、日本の開発現場の未来

●この記事のポイント
・日本ではUI/UXツール市場が未成熟な一方、韓国では開発の最初にツール選定から始まる。この認識ギャップに着目し、韓国No.1企業が日本参入を決断。
・「WebSquare AI」は生成AI機能で既存システムの画面を自動変換。設計書がなくても、スクショだけでモダナイゼーションが可能に。
・従来開発と比較して1.5倍の生産性向上、大規模案件では50%以上のコスト削減効果。デスクトップからモバイルまで一括管理できる点も強み。
・日本法人は地方銀行を中心に攻略。すでに2社が導入段階、年内確定見込み。中長期で金融機関5〜10件の実績確保を目指す。

明確なUI/UX専用ツール市場が形成されていない日本

「日本には、UI/UXツールというマーケット自体が存在していませんでした」

こう語るのは、2025年1月に設立された株式会社インスウェーブジャパンで営業を統括する日本法人の営業本部 本部長 田 敏吾(ジョン・ミンオ)氏だ。韓国では、システム開発を始める際に「どのUI/UXツールを選ぶか」から検討が始まるのが当たり前だが、日本では全く異なる状況だという。

同社は韓国で20年以上の歴史を持ち、UI/UX開発プラットフォーム市場でシェア1位を誇る企業だ。800社以上、3000件以上のプロジェクト実績を持ち、韓国の大手金融機関をはじめ、製造業、流通業まで幅広い業界で採用されている。

日本市場参入の背景には、明確な実績がある。韓国の大手銀行が日本で展開する金融機関のシステムに導入され、その実績をもとに国内の地方銀行にも採用が広がった。この成功体験が、日本法人設立の決定打となった。

70年代の成功が、今の足かせに

日本と韓国のIT化の歴史には、決定的な違いがある。田 敏吾氏は語る。

「日本は70年代、80年代の高度成長期に、世界で最も早く最新技術を導入しました。ただ、それが長く延命している状況です」

一方、韓国では90年代以降の経済成長期にIT技術を積極的に導入した結果、レガシーシステムの負債を抱えずに済んだ。韓国の大手銀行は10年以上前から「オープン化プロジェクト」を開始し、現在ではレガシーシステムがほぼ存在しない状態だという。

日本の金融機関が抱える課題は深刻だ。少子高齢化による店舗削減、オフラインからオンラインへのシフト、そして膨大なレガシーシステムの刷新——これらすべてを「より安く、より早く、より最新の技術で」実現しなければならない。

生成AIが実現する「1.5倍の生産性」

インスウェーブが提供する「WebSquare AI」の最大の特徴は、生成AI機能だ。

特に注目すべきは「AIスケッチ」機能。既存システムの画面をスクリーンショットするだけで、生成AIが自動分析し、WebSquare向けの画面に自動生成する。設計書が失われ、開発者がすでに引退したシステムでも、この機能を使えばモダナイゼーション(近代化)が可能になる。

「従来の開発手法と比較して、AI機能をフル活用することで約1.5倍の開発生産性が期待できます」(田氏)

加えて、チャットボット形式のヘルプ機能も搭載。「こういう画面を作りたい」と質問すれば、ソースコードまで自動補完してくれる。初心者のエンジニアでも、一定レベルの画面作成が可能になるという。

ここで重要なのは「商用製品だからこその保証」だ。オープンソースのチャットGPTなどでもコード生成は可能だが、誰も保証してくれない。商用製品であるWebSquare AIは、生成されたコードの品質を担保している点で決定的に異なる。

デスクトップからモバイルまで、一括管理

開発生産性の向上は、AIだけではない。

WebSquare AIで開発したアプリケーションは、デスクトップPC、スマートフォン、タブレットなど、あらゆるデバイスに一括展開できる。従来は個別に管理が必要だった各デバイス向けアプリを、統合管理できる仕組みを持つ。

「企業内で運営するアプリケーションのデバイスの種類が多ければ多いほど、開発生産性と管理効率は向上します」と田氏は強調する。

大規模なエンタープライズ案件では、50%以上のコスト削減効果が期待できるという。ただし、小規模案件では費用対効果を感じにくい可能性もあるため、同社は現在、戦略的な価格設定で日本市場への浸透を図っている。

日本市場での勝算——地方銀行を中心に攻める

「今年の目標は、まず日本での実績を作ること」と田氏は語る。

すでに2社が導入段階に入っており、1社はPOC(概念実証)を終えてほぼ導入確定、もう1社はトレーニング中で年内導入が見込まれている。中長期的には、地方銀行を中心に5〜10件の金融実績を確保する計画だ。

金融以外では、製造業と保険業界に可能性を見出している。特に大手保険会社には、いまだCOBOLなどのレガシーシステムが残っており、生成AIを活用したモダナイゼーションのニーズが高いと分析する。

サポート体制も万全だ。日本国内にオフィスを構え、CS(カスタマーサポート)から技術サポートまで、すべて日本語で対応。「クリティカルな問題以外は、日本国内で完結して解決できる体制を整えています」(田氏)

韓国企業が語る、日本市場の特殊性

田氏は前職でも韓国系企業の製品を日本で10年間販売してきた経験を持つ。その経験から、日本市場の特殊性をこう語る。

「日本のマーケットは、ローカライゼーションの完成度によって、どんなに良い製品でも売れないことがあります」

同社は製品の日本語化だけでなく、ドキュメント、サポート、パートナー体制まで、すべてを日本仕様に整えた。現在、プロパー社員4名、韓国本社からの出張サポート4名、パートナー企業の専任エンジニア5名体制で運営しており、今後1年で10名までプロパー社員を増やす計画だ。

AIの進化に合わせた、スピード経営

「AIの成長スピードは非常に早い。ビジネス展開のスピードもそれに合わせなければなりません」(田氏)

同社は来年にも、新たなツール「AIパス」のリリースを予定している。これは、プロジェクト全体を一括管理できるツールで、6000本を超える画面を持つエンタープライズシステムでも、効率的に管理できる仕組みだ。プロジェクトマネージャーの負担も大幅に軽減される見込みだという。

日本のIT業界は、高度成長期に導入したシステムを延命し続けた結果、いま大きな転換点を迎えている。韓国で20年の実績を持つWebSquare AIは、その課題解決の有力な選択肢となるだろう。

レガシーシステムからの脱却は、もはや「やるべきこと」ではなく「やらなければ生き残れないこと」だ。AI時代の開発現場は、確実に変わり始めている。

■株式会社インスウェーブジャパンについて
韓国でUI/UX開発プラットフォーム市場シェアNo.1を誇る株式会社インスウェーブの日本法人として2025年1月に設立。親会社は2002年創業、20年以上の歴史を持ち、800社以上、3,000件以上のプロジェクト実績を有する。韓国の大手銀行をはじめ、製造業、流通業まで幅広い業界で採用されている。主力製品「WebSquare AI」は、生成AI機能を搭載したUI/UX開発プラットフォームで、レガシーシステムのモダナイゼーションを効率化。日本では地方銀行を中心に展開し、すでに複数の金融機関での導入実績を持つ。
・本社所在地:東京都港区三田1-4-28 三田国際ビル2階
・代表者:代表取締役社長 金 星空(キム・ソンゴン)
・サービスサイト:https://www.inswave.jp

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

※本稿はPR記事です。