JRA「27万馬券」演出の背景に名物オーナーと主戦騎手の絆!? “泣いて馬謖を斬る”クラシック候補の降板劇でも話題騒然、「2年2カ月ぶり」激走に期待高まるラストシーズン

 先週末、札幌競馬場で開催された夏のスプリント重賞・キーンランドC(G3)。武豊騎手と3歳牝馬メイケイエールの参戦もあり、大きな盛り上がりを見せた。

 単勝オッズ一桁台の馬が4頭の混戦を制したのはレイハリア。今夏の重賞では3歳牝馬が大暴れ。アイビスサマーダッシュ(G3)オールアットワンス、札幌記念(G2)ソダシ、北九州記念(G3)ヨカヨカに続いて古馬相手に早くも4勝目。1番人気の支持を受けたメイケイエールが敗れても、層の厚さが際立つ結果となった。

 若い力が台頭する中、さすがG1馬と唸らせられる走りを披露したのは、9番人気で3着に好走したセイウンコウセイ(牡8、美浦・上原博之厩舎)だ。2着にも7番人気の伏兵エイティーンガールが入った3連単は大波乱。3番人気→7番人気→9番人気の払戻は26万7390円と高配当だった。

 4歳春に高松宮記念(G1)を制したセイウンコウセイもはや8歳である。年齢的なものもあるのか、馬券圏内に入ったのは2019年6月のCBC賞(G3)で3着に入ったのが最後。近走でも善戦は見せていたものの、近々引退して種牡馬入りという噂も出始めていた。

 G1馬とはいえ、馬券にならなかった期間は2年2カ月。58キロを背負った老兵の奮闘に驚きの声も続々。馬連は的中出来たが、セイウンコウセイの3着は買えなかったというファンも多かった。

 その一方、愛馬の激走を見守っていたのが、セイウンコウセイを所有する西山茂行オーナー。ニシノフラワー、セイウンスカイらの活躍でも知られる競馬界の“名物オーナー”は「勝算あり」の手応えを感じていたようだ。

「3着は嬉しいのか?悔しいのか?」

 自身のTwitterで“複雑な想い”を告白したのも、6年に渡って西山牧場の主軸を任された功労馬に、「まだまだやれる」という期待を持っていたからに他ならないだろう。

 暑さに弱いと陣営も認めるセイウンコウセイだが、8月の北海道は雨が多く、例年より涼しかったため、元気いっぱいだったとは『日刊スポーツ』コラム内でのコメント。レース前には好調な追い切りを見たファンから現地観戦を勧められ、これを目にした西山オーナーがコメントを返すというやりとりも……。重鎮ながら気さくに交流する人柄も、同オーナーがファンから支持される理由なのかもしれない。

 そしてもうひとつ、この激走に大きな貢献をした勝浦正樹騎手にも触れなくてはならない。西山オーナーと勝浦騎手は相思相愛の名コンビ。今回、セイウンコウセイに初騎乗だったことは少々意外だが、51キロの3歳牝馬相手に7キロも重い58キロで0秒1差の接戦へと持ち込む好騎乗だった。

「着差が着差ですから悔しい思いもあります」

 一見、人気薄の好走にも思えるこの結果も、もう少しうまく乗れていれば、1着も狙える状態と感じていた勝浦騎手の気持ちが伝わる。西山オーナーはブログ内で、「ここでわしが勝浦の乗り方について書くと、またそこだけ拡散されるので、触れない」と多くは語らなかったものの、オーナーなりの叱咤激励というところか。

 過去には、勝浦騎手が主戦を任されていたニシノデイジーの降板で話題騒然となったこともある。同馬は2歳重賞で好結果を残し、翌年のクラシック候補といわれた期待馬。春二冠で振るわなかったこともあり、秋のセントライト記念(G2)5着を機に菊花賞(G1)はC.ルメール騎手へと乗り替わりが発表された。

 この “泣いて馬謖を斬る”という一件もあったものの、その後の“両者の絆”に変わりはない。ときには“愛のムチ”も見せるオーナーからの期待に応え、結果を出した勝浦騎手もまた見事といえる。

 健在ぶりを見せつけたとはいえ、来年からセイウンコウセイの種牡馬入りは既定路線で、年内あと1~2戦を予定しているとのこと。

 ラストシーズンに有終の美を飾るに相応しい舞台は、やはりスプリンターズS(G1)だろうか。セイウンコウセイ×勝浦騎手のコンビが、秋の中山競馬場で再び見られることに期待したい。

(文=黒井零)

<著者プロフィール>
 1993年有馬記念トウカイテイオー奇跡の復活に感動し、競馬にハマってはや30年近く。主な活動はSNSでのデータ分析と競馬に関する情報の発信。専門はWIN5で2011年の初回から皆勤で攻略に挑んでいる。得意としているのは独自の予想理論で穴馬を狙い撃つスタイル。危険な人気馬探しに余念がない著者が目指すのはWIN5長者。

JRA「27万馬券」演出の背景に名物オーナーと主戦騎手の絆!? “泣いて馬謖を斬る”クラシック候補の降板劇でも話題騒然、「2年2カ月ぶり」激走に期待高まるラストシーズン

 先週末、札幌競馬場で開催された夏のスプリント重賞・キーンランドC(G3)。武豊騎手と3歳牝馬メイケイエールの参戦もあり、大きな盛り上がりを見せた。

 単勝オッズ一桁台の馬が4頭の混戦を制したのはレイハリア。今夏の重賞では3歳牝馬が大暴れ。アイビスサマーダッシュ(G3)オールアットワンス、札幌記念(G2)ソダシ、北九州記念(G3)ヨカヨカに続いて古馬相手に早くも4勝目。1番人気の支持を受けたメイケイエールが敗れても、層の厚さが際立つ結果となった。

 若い力が台頭する中、さすがG1馬と唸らせられる走りを披露したのは、9番人気で3着に好走したセイウンコウセイ(牡8、美浦・上原博之厩舎)だ。2着にも7番人気の伏兵エイティーンガールが入った3連単は大波乱。3番人気→7番人気→9番人気の払戻は26万7390円と高配当だった。

 4歳春に高松宮記念(G1)を制したセイウンコウセイもはや8歳である。年齢的なものもあるのか、馬券圏内に入ったのは2019年6月のCBC賞(G3)で3着に入ったのが最後。近走でも善戦は見せていたものの、近々引退して種牡馬入りという噂も出始めていた。

 G1馬とはいえ、馬券にならなかった期間は2年2カ月。58キロを背負った老兵の奮闘に驚きの声も続々。馬連は的中出来たが、セイウンコウセイの3着は買えなかったというファンも多かった。

 その一方、愛馬の激走を見守っていたのが、セイウンコウセイを所有する西山茂行オーナー。ニシノフラワー、セイウンスカイらの活躍でも知られる競馬界の“名物オーナー”は「勝算あり」の手応えを感じていたようだ。

「3着は嬉しいのか?悔しいのか?」

 自身のTwitterで“複雑な想い”を告白したのも、6年に渡って西山牧場の主軸を任された功労馬に、「まだまだやれる」という期待を持っていたからに他ならないだろう。

 暑さに弱いと陣営も認めるセイウンコウセイだが、8月の北海道は雨が多く、例年より涼しかったため、元気いっぱいだったとは『日刊スポーツ』コラム内でのコメント。レース前には好調な追い切りを見たファンから現地観戦を勧められ、これを目にした西山オーナーがコメントを返すというやりとりも……。重鎮ながら気さくに交流する人柄も、同オーナーがファンから支持される理由なのかもしれない。

 そしてもうひとつ、この激走に大きな貢献をした勝浦正樹騎手にも触れなくてはならない。西山オーナーと勝浦騎手は相思相愛の名コンビ。今回、セイウンコウセイに初騎乗だったことは少々意外だが、51キロの3歳牝馬相手に7キロも重い58キロで0秒1差の接戦へと持ち込む好騎乗だった。

「着差が着差ですから悔しい思いもあります」

 一見、人気薄の好走にも思えるこの結果も、もう少しうまく乗れていれば、1着も狙える状態と感じていた勝浦騎手の気持ちが伝わる。西山オーナーはブログ内で、「ここでわしが勝浦の乗り方について書くと、またそこだけ拡散されるので、触れない」と多くは語らなかったものの、オーナーなりの叱咤激励というところか。

 過去には、勝浦騎手が主戦を任されていたニシノデイジーの降板で話題騒然となったこともある。同馬は2歳重賞で好結果を残し、翌年のクラシック候補といわれた期待馬。春二冠で振るわなかったこともあり、秋のセントライト記念(G2)5着を機に菊花賞(G1)はC.ルメール騎手へと乗り替わりが発表された。

 この “泣いて馬謖を斬る”という一件もあったものの、その後の“両者の絆”に変わりはない。ときには“愛のムチ”も見せるオーナーからの期待に応え、結果を出した勝浦騎手もまた見事といえる。

 健在ぶりを見せつけたとはいえ、来年からセイウンコウセイの種牡馬入りは既定路線で、年内あと1~2戦を予定しているとのこと。

 ラストシーズンに有終の美を飾るに相応しい舞台は、やはりスプリンターズS(G1)だろうか。セイウンコウセイ×勝浦騎手のコンビが、秋の中山競馬場で再び見られることに期待したい。

(文=黒井零)

<著者プロフィール>
 1993年有馬記念トウカイテイオー奇跡の復活に感動し、競馬にハマってはや30年近く。主な活動はSNSでのデータ分析と競馬に関する情報の発信。専門はWIN5で2011年の初回から皆勤で攻略に挑んでいる。得意としているのは独自の予想理論で穴馬を狙い撃つスタイル。危険な人気馬探しに余念がない著者が目指すのはWIN5長者。

「ソフトバンクGの巨額利益はアップルとは全く性格が異なる」…連日の株価下落、隠れ中国リスクも

 中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)は6月30日、米ニューヨーク証券取引所に新規上場した。終値で計算した時価総額は670億ドル(7兆3700億円)を超えたが、当初想定された1000億ドル(11兆円)には届かなかった。

 滴滴出行のNY市場からの調達額は44億ドル(4840億円)。中国企業による米国での単独株式公開時の調達額としては2014年のアリババ集団の250億ドル(2兆7500億円)に次ぐ規模となった。滴滴の筆頭株主はソフトバンクグループ(SBG)傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)で2割を握る。

 SBGの孫正義会長兼社長は6月23日に開催した定時株主総会で、世界のIT各社へ相次ぎ出資している現在の経営姿勢を「情報革命の資本家である」と定義した。「21世紀で発明家に相当するのは(米アップル創業者の)スティーブ・ジョブスなどの起業家だ。ソフトバンクは人工知能(AI)を駆使した情報革命の資本家になる」と自らを展望した。

「投資先の約260社は、ほとんどがまだ利益を出していないが、リスクをとって大きな資本を提供しているという自負がある」と強調した。最近の孫氏には「事業家から投資家に変節した」との声がつきまとうが、「投資家と資本家は似て非なるものだ」「投資家が目指す正義はお金をつくること」としたうえで、「最も大切な物差しは未来を創ることだ」と語った。

 だが、逆風が吹き付ける。滴滴については、NY証券取引所に上場した直後の7月2日、中国サイバースペース管理局(CAC)が「国家安全法」とネット空間の統制を強化する「インターネット安全(サイバーセキュリティー)法」に基づき調査を開始した。「CACは、滴滴が上場する数週間前にIPOの延期を提案し、ネットワークの安全性を調査するよう求めていた。上場を強行したことで、手ひどいしっぺ返しを食らった」(在北京の大手商社の幹部)との見方が浮上している。

 CACは7月4日、違法な利用者情報収集を理由に滴滴のアプリ配信停止を命じた。さらに同月10日、サイバーセキュリティー審査弁法の改定案に「100万人超の個人情報を持つ企業が海外で上場する際には、必ず中国国家インターネット弁公室のセキュリティ審査を受けなければならない」との条文を新設した。

 7月16日には滴滴に対して立ち入り調査に乗り出した。国家インターネット情報弁公室、公安省、国家安全省、自然資源省、交通運輸省、国家税務総局、独占禁止法などを管轄する国家市場監督管理総局の合計7部門が共同で立ち入り調査を行った。国を挙げて、滴滴の摘発に踏み切ったのである。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(7月5日付)によると、「CACなど中国当局は、米上場に伴う情報開示の拡大により、滴滴が持つ膨大なデータが外国に流出する可能性を警戒していた」という。

 中国当局のネット企業への締め付けは、SBGの業績に影響を与えることになる。傘下のSVFを通じ、滴滴やトラック配車アプリを運営する満幇集団をはじめ、成長の期待が高い中国企業に巨額の投資をしてきたからだ。今後、SBGのファンドの投資先の上場の手段が限定され、資金を回収しにくくなる恐れが出てきた。

 2020年末時点で第1号ファンドの投資先のうち、中国を含むアジアは4割を占めている。SBGは今後、中国以外の投資を増やすなど、戦略の見直しを迫られることになる。

孫氏と株主の認識に大きな溝

 SBGの株価は連日、年初来安値を更新。7月28日には終値としては20年11月以来の7000円大台割れとなり、一時、6706円まで下げた。さすがに7月29日の終値は275円高の7020円と反発したが、株価の下降トレンドが見えてきた。

 株主総会の質疑では下落傾向が顕著な株価や株主還元に関する質問が相次いだ。SBG株は3月16日に1万695円の年初来高値をつけた。21年3月期の連結純利益は過去最高だったが、今期に入り投資先の企業の株価が冴えないことがSBGの株価にも影響している。過去最高の純利益を発表して以降、時価総額が10兆円も目減りした。

「短期と中・長期の株価対策、今後の業績見通しを教えてほしい」という質問が投資家から次々と投げかけられた。これに対し、孫氏は「(株価は)短期的には上がったり下がったりするが長期的な視点で見てほしい」と答えた。

 株主総会の終盤では、2019年末で社外取締役を退任したファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏について言及した。「事業家としては好きだけど投資家としては好きじゃないと言われたのが柳井正氏からだった」ことを明かした上で、「投資家としては好きじゃないというのは、柳井氏の本音かもしれない」と率直に認めた。

 最後に「60代で引き継ぐ」との考えを示していた後継者問題について、80歳を超えた今も投資家として現役バリバリのウォーレン・バフェット氏を例示しつつ、「69歳を過ぎても社長をやっているかもしれないし、会長として経営に関わるかもしれない。後継者選びは最重要な仕事の一つだ」と“生涯現役”と受け止められるような発言をし、注目された。

「豆腐屋のように1丁(1兆円)、2丁(2兆円)と数えられるようになる」というのが孫氏が創業当時に語った夢だが、この夢は“正夢”となった。それでも、「SBGの高収益はアップルに代表される米国の巨大IT企業とは全く性格を異にする」(証券会社アナリスト)という声もある。投資頼みで地に足がついた企業活動による利益ではないというシビアな見方も多い。SBGの高収益は「砂上の楼閣」と評するアナリストもいるが、投資先次第で業績に大きなブレが生じることは避けられない。

 シェアオフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーの巨額投資に失敗したことは記憶に新しい。SBGはウィーワーク株の売却に踏み切った。最近でも、英金融サービス企業のグリーンシル・キャピタルが経営破綻し、「SBGにどれだけ損失が出るのか」と懸念する声もある。

 SVF2号ファンドの投資社数が急増している。1号ファンドと比較すると1件当たりの投資金額は少なくなっている。ウィーワークの経営危機が取り沙汰された折には追加支援の決断を迫られたが、今後、投資した案件の業績が悪化しても救済融資はしないことを基本方針とした。それでもスタートアップ企業に対する投資では「経営破綻」の4文字がつきまとう。

 SBGはSVFを通じ、米株式市場に上場を目指す中国の新興企業に数多く出資している。IT大手のアリババ集団は大成功し、滴滴など4社が米国市場に上場し、SBGは巨額の上場益を手にした。しかし、“ポスト・コロナ”の市場環境は流動的だ。

4~6月期は4割減益

 SBGは8月10日、21年4~6月期連結決算(国際会計基準)を発表したが、最終利益は前年同期比39.4%減の7615億円だった。前年同期は米国携帯大手TモバイルUSの売却が4000億円以上、利益を押し上げた反動が出た。主力の投資ファンド事業も伸び悩んだ。SVFによる投資利益は2.9%減の2878億円だった。

 8月10日に記者会見した孫会長は、中国IT大手について「将来性に懸念は抱いていないが、今は受難の時。当面は用心深くいきたい」と説明した。中国企業への出資割合を、4月以降は全体の1割ほどに引き下げている。

 それでもSBG全体の保有資産に占める割合はアリババ集団が約4割に上るなど、依然として中国企業の比重は大きい。売上高は同15.6%増の1兆4791億円だった。法人向け携帯電話事業が伸び、LINEを子会社にしたことも寄与した。

 投資会社の性格を強めており、「SBGの業績は、今後も中国政府の動向に左右される展開が続く」と見る市場関係者が多い。これが株価の上値を重くしている。

(文=編集部)

JAL松崎さんに学ぶ!会社公認の社内外共創を実現する技

「辞めるか、染まるか、変えるか。」と題し、大企業の変革にまつわるテーマのイベントを通じて、新しい「大企業の可能性」を探る本連載。ONE JAPANに加盟する有志団体の所属企業の中から、大企業の変革に挑戦した事例をピックアップし、その当事者へインタビューする形式で、「大企業の可能性とそれを具体化する技」について考えていきます。

※大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN

 

今回インタビューしたのは、JAL(日本航空)で社内ベンチャーチーム「W-PIT」(Wakuwaku Platform Innovation Team)を設立し、異業種との共創にチャレンジする松崎志朗氏。

大企業で立ち上げた社内プロジェクトが会社から“公認”を勝ち取るための秘訣や、“Wakuwaku”を起点に仲間を増やすチームビルディングのコツを、電通若者研究部としてONE JAPANに加盟する吉田将英が話を聞きました。

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【W-PITとは】

W-PIT
 
Wakuwakuをキーコンセプトに、異業種共創によって新たな価値やビジネス創造に挑戦するJAL公認の社内ベンチャーチーム。クラフトビール会社のヤッホーブルーイングをはじめ、スープストックトーキョーやポケットマルシェ、コクヨなど異業種との共創ビジネスを次々に実現している。主なプロジェクトに、JMB(JALマイレージバンク)会員限定の日帰り旅「呑みにマイル」、サウナ好きのビジネスパーソンを応援する「サ旅」、コロナ禍における大学生と生産者の課題を同時に解決する「青空留学」など。
 

https://wpit-official.themedia.jp/

 

やさぐれていた新人時代。父からの言葉でJALを変えることを決意

吉田:W-PITはJAL公認の社内ベンチャーチームとして異業種共創を次々と実現し、4期目にして140名以上のメンバーを抱える組織に成長されています。今日はW-PIT発起人の松崎さんにいろいろと教えていただきたいのですが、その前にJALで何をされている方なのか、簡単に自己紹介をお願いできますか?

松崎:JALの松崎です。本名は志朗ですが、みんなからはニックネームの“しげる”で呼ばれています(笑)。1985年横浜生まれで、生後10カ月で父親の仕事の関係でニューヨークへ行き、そこで約6年間過ごしました。その後、日本に帰国するのですが、高校3年生の時に父親の駐在先であるヒューストンへ再び渡米し、帰国後は日本の大学へ進学しました。2009年に新卒でJALに入社し、成田空港にて旅客業務を経験し、その後IT企画部で約6年過ごし、現在は海外のパートナーと業務提携を推進する国際提携部に所属しています。

吉田:とすると、本職は国際提携部のお仕事で、もう一つの肩書きとしてW-PIT代表を務めているということですか?

松崎:そうです。W-PITのメンバーは全員、本業を持ちながらW-PITの活動を兼務しています。

吉田:すごいですね。普通に考えると本業に専念したほうが仕事量は少ないと思うのですが、どうしてわざわざ社内ベンチャーを立ち上げたのでしょうか?

松崎:当時、僕が所属していたIT企画部は必要な時だけ周囲から声がかかるような受け身の部署だったので、もっとイケてる部に変えたい!と思い、ITを軸に組織横断で変革を起こすための「ITイノベーションラボ」という社内プロジェクトを立ち上げたのです。そこに興味のある社員が有志で集い、ハッカソンのような取り組みを経て5つのチームが生まれました。その一つが、Wakuwakuを起点にイノベーションを起こすチームで、現在のW-PITになります。

吉田:なるほど、松崎さんって昔からアントレプレナー気質だったんですか? 

松崎:大学時代に塾経営のようなことをしていたので、何かを興すことは比較的好きなタイプだと思います。ただ、今振り返ると、大学卒業と同時に一種の燃え尽き症候群になっていたのかもしれません。入社2年目の2010年にJALが経営破綻した時、僕は自分が選んだ進路を後悔して、会社の文句ばかり言う毎日。転職活動も始めていました。

吉田:ポジティブオーラがほとばしっている今の松崎さんからは、ちょっと想像が付かないです。

松崎:完全にやさぐれていました。でも、そんな私の姿を見た父から、「志朗よ。お前は今の会社に入社する時のことを覚えていないのか?」と言われました。JALから内定通知を連絡があったのは、父と自宅の一室で飲んでいた時で、父に「最初に内定を出してくれた会社に行った方がいい。」と言われたタイミングで電話がかかってきたんです。父にとっても思い入れの強い出来事だったんでしょうね。

「まだ何も成し遂げていないのに転職とか言うな。去るなら功績を残してから去れ。それが最初に内定を出してくれた会社への恩返しだろ。」と言われて、ただ逃げているだけの自分に気がつきました。「よし、Wakuwakuすることを起点に会社を変えていこう!」と火がついた瞬間です。


組織でやりたいことを実現するための、「ポジショニングの目利き」

吉田:ここからは、一念発起した松崎さんが、JALという大企業の中でW-PITを社内公認プロジェクトに成長させるまでのエピソードをお聞きしたいと思います。W-PITはWakuwakuを起点にした異業種共創を掲げていますが、どのようにプロジェクト化を進めていったのでしょうか?

松崎:「Wakuwakuすること、やりましょうよ!」で話が通るとは思っていなかったので、外部のアセスメント調査によるJAL社員の傾向を整理したデータを用いました。当時のJAL社員の強みとして、率先して仕事に取り組むイニシアチブやバイタリティ、サービス業ならではの調整力や感受性などが挙げられる一方、前例にとらわれない創造力や変革指向、目標設定力、組織活用力は著しく低いという第三者評価が出ていました。新しい価値創造が求められるVUCAの時代に、これらの能力が弱い組織はまずいということで、そこを強化する取り組みとしてW-PITを提案しました。

吉田:なるほど。おそらく「Wakuwakuしたい」とか「これをやりたい」という個人的なWantもあったと思うのですが、それを経営課題と紐づけたところが大きなポイントですよね。

松崎:おっしゃるとおりです。自分がやりたいことをやるための大義を、会社が必要としている課題解決と接続して言語化する。つまり、組織の中で自分がやりたいことがハマるポジションを目利きし、そこに自らをポジショニングすることがとても重要です。

吉田:ポジショニングの目利き」という表現はすごくしっくりきました。どんなプロジェクトも立ち上げ前夜は、確かな結果も潤沢な資金も手元にありません。特に大企業に勤める30代前後の社員の場合、大半の人はまだ大きな結果で意思決定者を説得できる年次ではないですよね。その時に最初の壁を突破する方法として、「ポジショニングの目利き」は非常に参考になると思います。

「社長人生で一番嬉しい日」を勝ち取る

松崎:スタートラインに関しては、初期段階から役員を巻き込んでプロジェクトを進められたことも大きいと思っています。本当にラッキーだったのですが。

吉田:それは、どのような経緯で?

松崎:ITイノベーションラボの年度納めで、社長を含めた役員に向けてチームごとに発表を行う機会がありました。そこで僕は、役員は“普通の”プレゼンなんかもう見飽きているはずだと思って、インパクト勝負のかなり異質なプレゼンを披露したんです。他のチームも素晴らしいプレゼンをすると、当時の社長が「社長人生で今日が一番嬉しい日だ」と涙を浮かべて感動し、「君たちのプロジェクトに役員を付ける」と専務取締役(当時)をアサインしてくれました。

吉田:社長人生で一番嬉しい日を勝ち取ったのはすごいことですね。

松崎:今考えると“きちんとしていない”ひどいプレゼンだったのですが、とにかくがむしゃらに一生懸命やったのが良かったのかもしれません(笑)。同僚からは今でも「あの日のプレゼンは酷かったが、想いは伝わった」と言われます。

もう一つの転機は、2018年ごろからスタートした、「JAL OODA」(ジャル ウーダ)という全社的な人財・組織改革のムーブメントです。これは、OODAループをベースに、自律的に考えて行動する企業風土を生み出すためのもので、僕はW-PITがJAL OODAを体現する取り組みとして貢献できるのではないかと思いました。そこで当時の人財本部長(執行役員)に直談判し、W-PITを人財本部に紐づけて、JAL OODAを実践するチームとして活用してもらうようにしました。その結果、W-PITに会社公認の証である「兼務発令」ができるようになったのです。

吉田:ただの有志活動ではなく、人事から正式に発令された兼務としてより公明正大に活動できるようになったのですね。これも「ポジショニングの目利き」ですよね。

「“頭から”ではなく、“心から”つながる」チームビルディング術

吉田:W-PITは共創ビジネスを推進する部隊のみならず、運営・広報部門や財務部門なども整備されており、人材配置や評価管理のシステムも含めて、もはや一つの企業を経営されているようなものだと感じました。設立当初からこのような体制を構築していたのでしょうか?

松崎:答えは完全にNOです。W-PITで2017年に初開催したイベントが、ヤッホーブルーイングとの共同プロデュースでJAL社員向けに企画した「JAL祭」。「すべては社員のWakuwakuから」をコンセプトに、クラフトビールが好きな社員約500名が本社に集って盛大な宴を行いました。一見飲み会のようですが、そうではなくビジネス要素の詰まったセミナー兼チームビルディングイベントでした。

例えば、仕事仲間やクライアントと話をしている時に、お互いに出身地が一緒だと気づいた瞬間に盛り上がって謎の一体感が生まれることがあるじゃないですか。あのWakuwaku感がすごく大事だと思っていて。クラフトビール好き同士の共感が渦巻いているところに「会社を変えていこうぜ!」という想いを紐づけることで、W-PITの活動に熱量を込められると考えたのです。

吉田:大義名分を掲げたイベントや、「JALの未来を考える」のような真面目な集会ではなく、プライベートに近いWakuwakuにアプローチを仕掛けたのですね。僕も割と真面目なことから考えてしまう性格なので勉強になります。

松崎:心からの共感が生まれていない状態で大義を押し付けられても、鬱陶しいと僕は感じてしまいます(笑)。「“頭から”ではなく、“心から”つながる」ことが大切だと思います。

吉田:確かに、一人一人の根源的なモチベーションから生まれたチームは、“よそ行き”の大義で組織されたチームとは、エネルギーの熱源が違う気がします。

松崎:「同じ会社の人間=考え方が同じ」という思い込みは壊さないといけません。バックグラウンドも違うし、仕事に向き合う姿勢や濃度も十人十色です。多様性があることを大前提として理解した上で、同じベクトルに向かうための“共感ポイント”を見つけて、かき混ぜることが大事だと思います。

吉田:まさにダイバーシティ&インクルージョンですね。これだけ大所帯の組織になると、一人一人の熱量に濃淡があるし、特に兼務だと本業が忙しくてW-PITへのモチベーションが下がってしまうメンバーもいると思います。メンバーのモチベーションコントロールで工夫されていることはありますか?

松崎:ある程度は縦割りの組織構造で管理されているものの、僕はできる限り一人一人と対話をするように心がけています。例えば、毎朝「しげさんぽ」という取り組みをしています。これは、社内外のゲストや参加してくれたW-PITメンバーとチャットツールでつなぎ、各々が好きな場所を散歩しながら1時間オンライン対談をするというものです。

吉田:毎朝ですか。松崎さんが健康的な肌の色をされている理由が分かりました(笑)。

松崎:そうなんです(笑)。ウェルビーイングかつチームビルディングな取り組みだと自負しています。健康であり続けることもそうですが、僕自身が熱狂し続けることもメンバーのモチベーションを高める上で絶対に外せない要素です。先頭を走る人間が不健康で暗い顔をしていたら誰もついてこないですからね。

あと、W-PITには142名のチームビルディングを担う専門チームがあり、彼らが企画するオンライン合宿や、その他多くのイベントを通じてチームの結束を高める取り組みをしています。

松崎志朗さん

熱狂し続けるために、志を自分だけのものにしない

吉田:先ほど「熱狂し続ける」というお話がありましたが、きっと苦労されたことや辛いこともたくさん経験されてきたと思います。それでも心折れずに熱狂し続けることができるのには、何か秘訣があるのでしょうか?

松崎:僕はこう見えて(笑)、目の前のことに一喜一憂しやすいタイプです。それでも続けられるのは、僕が落ち込んだ時に必ず支えてくれる幹部メンバーがすぐそばにいるからです。僕一人でW-PITをここまで育てたとは1ミリも思っていません。

もう一つ、自分が何を成し遂げたいのかをブラさずに持ち続けることが大切だと思います。W-PITで目の前の案件を成功させることだけがミッションなのではなく、JALをVUCA時代に生き抜く企業に変革し、JALが変わることで他の企業の背中も押して、日本の底上げをしていきたいという思いが僕の中にはあります。これを掲げてしまったからには、目先の失敗や挫折で辞めるという選択肢はないですよね。

吉田:松崎さんはご自身の志を自分だけのものにしていないと感じました。大風呂敷を広げるのは怖いし、とても勇気がいることだと思うんです。志を誰にも言わずに自分の中に留めておけば、失敗して後ろ指を指されることだってありません。

松崎:もちろん失敗するのはめちゃくちゃ怖いし、相手がいることなので失敗しても良いというマインドでは取り組んでいません。でも、「失敗を恐れてチャレンジしないよりは、精一杯やって笑われたほうがいい」という覚悟がないと、何事もがむしゃらにチャレンジすることはできないのかなと思います。

情熱と冷静を行き来する「サウナ的思考」で最適解を導き出す

吉田:W-PITは今後、どのようなことにチャレンジしていくのでしょうか?

松崎:Wakuwakuを起点に共創を生み出す活動を確固たるビジネスプラットフォーム化し、もっと社外に広げていきたいと考えています。

それを事業化した一つの事例が、ポケットマルシェと共同で立ち上げた「Japan Vitalization Platform」です。これは、企業×漁師×未来世代である大学生による共創活動を通じて都市と地域をかき混ぜ、新しい人流・物流を生み出すことで日本の活性化を目指すコンソーシアム構想です。2025年までに、10,000名・100社が参画するプラットフォームにすることを目標に掲げています。

吉田:これまで交わることがなかった都市や地域、人をかき混ぜるという視点が、まさにW-PIT的でWakuwakuしますね。電通若者研究部もご協力できることがあれば一緒に盛り上げていきたいです。

松崎:ぜひぜひ!企業や地域の枠組みを超えていろいろな人たちとつながり、一緒に日本をバイタライズしていく仲間を増やしていきたいです。

他にも、サウナを通じた日本ビジネスシーンの活性化に貢献すべく、2019年4月に組閣された「JAPAN SAUNA-BU ALLIANCE」もW-PITの副代表(岡本)が運営しています。

これからもこういったさまざまな共創ビジネスを通じて、会社や社会を少しでも元気にする取り組みを推進していければと思っています!

吉田:松崎さんは情熱や行動力が突出している一方で、冷静に状況把握したり俯瞰で物事を判断する側面もお持ちですよね。「これやりたい!」を熱量で押し通すのではなく、JALの強みと弱みを整理して合意形成と取れるポイントを見つけたり、役員の気持ちを考えてプレゼンの手法を考えたり。情熱と冷静の両方に振りながら最適解を導き出す姿が、まさに「“熱”と“冷”を行き来して整えるサウナ的思考」だと思いました。

松崎:「サウナ的思考」、最高ですね!私もサウナー(サウナ愛好家)なので嬉しいです(笑)

吉田:大企業で社内プロジェクトを成長させるためのヒントをたくさんお聞きできて、とても勉強になりました。本日はありがとうございました!

JAL松崎志朗さん

【連載の過去記事はこちら】

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ニトリの島忠買収が“成功確実”な理由とは?鍵は「ブランド存続」と「ロマンの共有」

 みなさん、こんにちは。元グラフィックデザイナーのブランディング専門家・松下一功です。

 前回は「事業再構築補助金」で、この厳しい局面を乗り越えようとする多くの企業のために、申請用の事業計画書のブラッシュアップをする際のヒントをお伝えしました。

 今回は、コロナ禍を乗り越える策として活性化しているM&A(企業の合併・買収)についてお伝えしたいと思います。もし、現在M&Aを検討されている場合は、そのM&Aがアリかナシかを見極める判断材料にしてみてください。

M&Aが成功する2つのポイント

 ご存知の通り、日本経済の成長とM&Aは切っても切り離せない関係です。近年の事例ですぐに思い浮かぶのは、アサヒグループホールディングスの豪ビール大手(カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ)の買収、ソフトバンクのヤフー(Zホールディングス)子会社化といった大規模なものでしょう。

 また、ヤマダ電機による大塚家具の子会社化、コロワイドの大戸屋ホールディングス買収なども大きな注目を浴びました。今後の動向を見守っている人も多いと思います。

 それぞれがうまくいっているかどうかは外からはわかりませんが、M&Aを成功させるのに重要なポイントが2つあります。それは、「同じ理念を持つ」ことと「ソフト面にはメスを入れすぎない」ことです。

 基本的に、M&Aの主な目的は、事業拡大、新規事業への進出、ノウハウの取得です。救済目的の場合もありますが、いずれのケースでも「同じ理念を持つ」ことは外せません。数字的なデータや事業内容は、その次と言っても過言ではないでしょう。

 M&Aとは、例えるなら「結婚」です。いくら容姿がよくて、有名大学を卒業していて、大企業に勤めている相手だとしても、生活スタイル、趣味、金銭感覚といった他の部分がかみ合わなければ、長い人生を一緒に過ごそうとは思えませんよね。「スペックが一番!」という人もいるかもしれませんが、数年後に我慢の限界がきて離婚してしまうかもしれません。

 これを企業に置き換えてみましょう。業績など数字の部分のデータで利害が一致してM&Aをしたとします。しかし、同じ理念を持っておらず、一方は顧客ニーズを重視した物づくりをしていて、もう一方は斬新なアイデアを入れ込んだ商品開発に力を入れている。この場合、うまくいくとは思えませんよね。ただ、このミスマッチは単純に育んできたものや目標が違っているからであり、どちらが悪いというものではありません。

 では、大まかではありますが、「顧客の食生活を充実させる」という同じ理念を持っていたらどうでしょうか。前述のようにやり方が違ってもゴールは同じなので、共生できるはずです。むしろ、違う層をターゲットにして、シェア拡大を図れるのではないでしょうか。

 このときに大切なのが、「ソフト面にはメスを入れすぎない」ことです。それぞれが育んできたものや経営の仕方が違うので、かみ合わない部分があるのは当然です。それを無理やり融合させると、どこかに亀裂が走ることになりかねません。

 つまり、M&Aをするときは、「ソフト面をどのくらい残すのか」が重要だということです。社員の雇用を守り、ポジションは据え置き、というのはもちろん、その会社が育んできた文化や価値観に付随するものも踏襲するのが望ましいでしょう。

 M&Aは企業同士の結婚です。長く付き合っていくためには、お互いが納得したやり方で、共に手を取って前進すること。それを可能にする環境づくりが一番だと言えるでしょう。

ニトリの島忠買収は成功する可能性が高い

 前述した2つのポイントを踏まえた上で、私が個人的に成功する可能性が高いと思っている事例をご紹介しましょう。それは、ニトリホールディングスと島忠のM&Aです。

 ニトリと島忠は、ともに家具店が原点です。島忠は、職人気質を持ちながら商売の心得を身につけようと進化した会社です。家具インテリアとホームセンターを軸にして、「住まいのことならなんでもそろう総合センター」を目指してきました。一方のニトリは、「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」ことを掲げて、「安さ」にこだわって進化してきた会社です。傘下に入った島忠は柔軟に対応して、ニトリのロマンを共有することにしました。

 このM&Aで外せないのが、島忠がニトリのブランドとして存続するという点です。それぞれのやり方を残し、お互いの強みを活用しながら、同じロマンを実現しようというのです。島忠はニトリの子会社になりましたが、言ってみれば「優秀な自走ブランド」となったのです。

 また、それぞれの公式サイトでロマンを共有して、共に目標に向かって歩んでいくことを公表しています。ロマンから生み出したビジョンへのアプローチは違うでしょうが、このくらいお互いを尊重し合う方が“結婚生活”を長く続けることができるでしょう。

 次回は、私が惜しいと思ったM&Aの事例を改善案と共に紹介します。

(松下一功/ブランディング専門家、構成=安倍川モチ子/フリーライター)

団塊世代が一斉に後期高齢者に…親の家の相続“大混乱”時代、固定資産税等が毎年20万円?

 団塊の世代は通常、1947年から49年に生まれた第1次ベビーブームの世代といわれ、作家の堺屋太一が命名したといわれる。この世代は出生数で合計805万5000人にも及ぶ。ちなみに2017年から19年の出生数は合計で272万9000人であるから、そのボリュームの大きさがわかるというものだ。

 団塊世代の特徴はその数に物を言わせて、大学紛争に始まり、企業に就職すれば、ころりと体制側について猛然と働いて日本の高度成長を牽引、平成バブルを引き起こした世代だ。年金も潤沢に懐に収め、金融資産保有額も多く、引退後も国内外の旅行などで元気に動き回っている。現在でも団塊の世代は617万9000人が生存していて、シニア世代の代表的な存在となっている。

 2022年からこの団塊世代が75歳の後期高齢者に仲間入りし、24年末には全員が後期高齢者となる。どんなに元気でも人間には寿命がある。そしてこれからの問題として大きくクローズアップされてくるのが、団塊世代のおよそ4分の1が住んでいるといわれる首都圏1都3県での大量相続の発生である。

確実に請求される固定資産税や都市計画税

 親が亡くなり、相続税を計算するときは、緊張感が高まるものだ。親が実はいったいどのくらいの資産をもっていたかなどということは、高齢化が進み、親子の距離感が遠くなるにしたがって、子供がまったく把握できていないケースが多くなっている。いざ相続財産が確定して、親の家を引き継ぐことになった場合、親の家の価値というものがいったいどの程度のものなのかということを正確に把握している子は意外と少ない。

 あたりまえだ。不動産屋でもないかぎり、親の家がどの程度の市場価値があるのかなど考えたこともないはずだ。ましてや、30年前あるいは40年前に父親が買った戸建て住宅やマンションが今どの程度の価値を持っているかなど、知るはずもないというわけだ。実はこのことが今後、相続する団塊ジュニアの身に重くのしかかることになるのだ。

 税理士から家の評価額が3000万円と言われれば、そんなものかと思って相続するのだが、親が持っていた家を自分が持つようになってからが、大変に厄介な存在になることに、相続が完了した時点では、多くの相続人が気付いていない。

 相続税の額ばかりに目を奪われていた相続人が親の家を相続して、最初に驚くのが、相続したあとの翌年5月に、自宅あてに届く固定資産税評価額の通知書だ。相続をすれば当然であるが、相続人が家屋敷を引き継いでいるわけだから、土地および建物について固定資産税や都市計画税を支払う義務が出てくる。

 地方であれば、税額はそれほどの負担とはならないが、首都圏などの大都市圏郊外の戸建て住宅やマンションともなれば、固定資産税に都市計画税を加えた金額は馬鹿にならない。

 たとえば首都圏近郊のニュータウンなどで、土地が5、60坪程度、建物が30数坪の住宅であれば、小規模住宅用地の特例適用後でも固定資産税・都市計画税の負担は15万円程度になる。なお、この小規模住宅用地の特例とは、敷地面積が200平方メートル以下の住宅用の宅地については固定資産税が従来の6分の1、都市計画税が3分の1に軽減されるものだ。都区内のマンションでも意外と税金は高く、やはり15万円から20万円くらいの税負担が発生する。

 しばらく使わずに放っておくための費用として毎年15万円の負担はちょっときつい。戸建てであれば芝刈りや雑草取り、庭木の剪定なども必要になってくる。空き家にすると、敷地内にハクビシンやタヌキなど、いろいろな小動物が棲みつくこともある。こうした動物の駆除や、築年数によっては外壁の塗装や屋根の補修など、相続してしまったばかりに大変な費用を、住んでもいない空き家に関して負担することになる。

 マンションもうまく借り手がつけばよいが、空き部屋のままだと管理費や修繕積立金を毎月4万円も5万円も負担することになる。

 不動産を所有している限り、この固定資産税という税金は、相続人の都合はお構いなしに毎年「確実に」請求される。したがって、相続した家を放置しておくことは、自動的に、毎年この負担を担い続けることになるのだ。相続の際には、相続税額の減額について親身にアドバイスしていた税理士も、意外と固定資産税については無関心であったり、そもそもあまりよく知らなかったりする。

 団塊ジュニアの多くは、すでに自分でマンションなどをローンで買っているケースが大半だ。親の残した家に興味がないからといって放置もできない。彼らの親が残した家が首都圏であれば、迫りくる税金対策に活用も考えなくてはならないのが現実となってくる。

相続した家が下手をするととんでもない厄介ものに

 それでは、相続した親の家をどうやって活用していけばよいのだろうか。団塊世代の多くが持っているのは郊外戸建て住宅地、いわゆるニュータウンだ。丘陵地帯を切り開き、造成して宅地に整え、分譲していった土地である。

 相続した家のある住宅地が今でも転入希望者が多く、街として新陳代謝が活発であれば、それほど悩む必要はない。駅からバス便でも、賃貸需要がなくとも売却であれば、十分可能性がでてくる。駅バスとはいっても、若い家族が入れ替わりに転入してくるようなエリアであれば、一定の需要はある。

 だが残念ながら国内のニュータウンで、こうした「新陳代謝」がきちんと作用している住宅地は少数だ。団塊世代の買った家の多くが、1970年から80年代の分譲で、すでに30年から40年以上の時が経過し、住民は高齢化、タウン内の住宅は古く、かつては栄えた商業エリアもシャッター通りになってしまうと、借り手はもちろん、買い手もつかない状況となる。

 値段を下げればという人がいるが、そう簡単ではない。地元の小学校や中学校が統合などで廃校となってしまうと、学校まで徒歩30分などの条件ではファミリー層はすでにNGだ。 以前のように国民の多くが住宅困窮者であった時代であれば、価格に反応する需要層は見込めるのだが、これだけ住宅余剰の時代になってしまうと、無理して住宅を買い求める層を見込むことも難しい。条件を下げればというのは、あくまでも潤沢な需要が存在するときだけの理屈なのである。

 更地にして駐車場にすればよいとも考えがちだが、戸建て住宅地の場合、多くは個別の敷地内に自分の車を駐めているので、あまり需要が見込めない。さて困った、だ。こうした住宅地になれば、相続した家が下手をするととんでもない厄介ものになる危険性まで出てくる。

 団塊世代の親が一生懸命住宅ローンを返済しながら残してくれた住宅。ところが、団塊ジュニアたちにはすでに別の家がある。従来であれば、両親が残してくれた戸建て住宅は、「財産」として、のちに続く子供たちの住居になる、賃貸用の運用資産として一族の生活を豊かにする、いざという時には換金してまとまったお金を手にできる、など本来不動産が持っていたはずの大きなメリットを何も感じることができない世の中になってきているのだ。

相続放棄や市町村への寄付にも壁

 どうにもならない団塊世代の親の家、このことに世の中の人たちがようやく気が付き始めている。不動産価値に対する大きな考え方の変化、「不動産価値革命」と呼んでもいいような大きな考え方の変化が生じつつあるのだ。

 相続する不動産が、自分が利用する予定がなく、賃貸などの運用の可能性が低く、そして換金もままならない、それどころか毎年の固定資産税都市計画税の負担から永遠に逃れられない、ということになれば相続人の多くは、「そんなもん、いらないよ」ということになるだろう。ここでよく聞かれる話に、「不動産は使わないなら相続放棄をすればよい」「不動産は市町村に寄付しちゃいましょう」といったセリフだ。

 ところが世の中そううまくはできていない。相続放棄は相続人に相続する意思がまったくない場合、相続発生から3カ月以内に地域の家庭裁判所に申し出れば放棄することができる。だが相続を放棄する場合には、対象となるすべての相続財産に対して相続の放棄をしなければならない。都合の悪くなった不動産のみを相続の対象から外して、現金のみをちゃっかり相続するなどということはできないのだ。

 また市町村への寄付についても、ほとんどの場合は「受け取ってもらえない」と考えていたほうがよさそうだ。歴史的、文化的な価値がある、あるいは自治体の施設として活用の可能性があるなどといった場合を除き、通常の戸建て住宅では、自治体はまず受け取ってはくれない。市町村とて、相続人が「いらない」からと言って唯々諾々と寄付を受けていては、管理不動産ばかりが増えて税収が減るだけになってしまう。相続税もなるべく現金などの換金性の高いものから徴収しようとするのが常だ。

 ここで考えなくてはならないのが、相続予定の親の家が、今後どの程度の価値を持つものなのかについて十分な見通しを持つことだが、相続人のほとんどは、不動産について特に知見があるわけではない。相続を受けてから「こんなはずではなかった」と嘆いても始まらない。それが特に首都圏にある家の場合、相続人には大変な「負動産」が舞い込んでくるのだ。その可能性がもっとも大きいのが今、団塊世代を中心に所有している郊外戸建て住宅、築年数の経過した古びたマンションなのだ。親はいつか亡くなる。その後にふりかかる事象について今から考えておく必要がありそうだ。

(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

●牧野知弘(まきの・ともひろ)

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。

ミリしらプレイあり!ゲームバラエティ『芋ってんじゃねぇよTV』を配信【ゲーム実況】

 読者のみなさん、はろてん!(←私のあいさつです) ゲーム配信など、インターネットを中心に活動しているてんちゃんです。

 今年の夏もいろんなゲームが出ましたが、私はアイドル育成ゲーム『Idol Manager』とリズムゲーム『東方ダンマクカグラ』をかなりプレイしました。Idol ManagerはPC用のタイトルですが、比較的軽いゲームなのでノートPCでも遊べます。東方ダンマクカグラはスマホで短時間でプレイできるので、おすすめです!

 というように、遊びたいゲームや注目タイトルはいろいろあるけど、配信を見に来てくれる人たちとも一緒に盛り上がれる配信スタイルはないかと考えた結果、てんちゃん流の1つの企画が出ました。それが『芋ってんじゃねぇよTV』(芋てん)です!

「ゲームが好きな人も、あまり興味がない人も楽しめる」をコンセプトに、さまざまなゲームに関する情報を配信するスタイルの配信です。第1回を8月15日に配信しました。企画のラインナップはこんな感じです。

1.今週のログインボーナス

2.てんちゃんゲーム情報局

3.てんちゃんす!

4.ゲーム実況

5.てんちゃんのマリカー占い

 各コーナーの詳しい内容は配信アーカイブを見ていただくとして、ゲーム実況だけでなく、ゲームに興味を持つきっかけになるように考えて企画しました。アーカイブには各コーナーをすぐに見れるようにインデックスを付けたので、どれか1つでも見てほしいです!

芋ってんじゃねぇよTV(第1回)

 スマホゲーム感覚で楽しめるログインボーナスでは、私が自作した「診断メーカー」で実際に楽しめるようになってたりします!

 ゲーム情報局では、ゲーマーの私が気になっている注目タイトルや新製品などを独断と偏見でセレクトした情報を紹介するコーナーで、第1回では3つのトピックを取り上げました。配信でも話しましたが、9月10日に発売予定の『おすそわける メイド イン ワリオ』は発売日に買って、配信もガンガンやっていこうと思ってます! ほんと、ワリオシリーズが好きなんですよね。

「てんちゃんす!」は、リアルタイム視聴してくれている方の協力で展開が変わる企画。続くゲーム実況を見ながら、ツイッターにあーだこーだ返信をしていただくだけで参加できるようにしました。第1回なので、できるだけ返信しやすように『世界のアソビ大全51』というみんなが知っているゲームが満載のタイトルで実況しました。

 なんですが、私は花札や将棋などはまったく知らないんです! なので逆に開き直って、「ミリしら」状態で対戦するという形式にしました(笑)。知ってる人からするとめちゃくちゃな展開になるんですが、このほうがコメントしやすいかと思って(笑)。

 麻雀、将棋、花札、ビリヤードなど、みなさんからの温かいツッコミでプレイしすぎたぐらいです。特に花札は勝手解釈で進めたものの、高得点の役が出まくった私の勇姿をアーカイブを見てほしいですね。

 芋てんはこれから続けていこうと思っている配信の1つなので、この記事で知った方も一度見に来てください! 配信画面やロゴも自作です(笑)。配信は日曜日の21:00ぐらいからだけど、詳細は私のツイッターで告知します! それではまた芋てんでお会いしましょう!

(文=てんちゃん)

■てんちゃん

ゲーム配信やアイドルの裏側を中心にいろんな配信・動画投稿に挑戦してます。ファンの総称は「人類」、あいさつは「はろてん!」「おつてん!」です!

今回の配信アーカイブ

YouTube:てんちゃんねる!

Twitter:@o_te_n_

TikTok:tenchanokayu

自衛隊機撤収、アフガン置き去りの裏に日本大使館の無責任! 英仏や韓国は大使館が最後まで支援、日本は大使館員だけ先にトンズラ

 いったい、何のためにアフガンまで行ったのか。本日31日、岸信夫防衛相が、日本人とアフガン人の退避のために派遣していた自衛隊機の撤収を命じたからだ。  周知のとおり、日本政府は、タリバンによる政権掌握を受け、アフガニスタンに残っている民間日本人と日本大使館など日本関係機関...

超人気絶唱パチンコ「最もRUSHが近い」甘デジに変貌!! 

 第2のRUSH「覚醒HYPER」を搭載した出玉性能は時速「40,000発」超とも称され、終日「10万発」オーバーの出玉も記録。

 約81%×ALL1,500個という秀逸スペックの『Pフィーバー機動戦士ガンダムユニコーン』が絶好調なSANKYOは、10月4日に『Pフィーバーマクロスフロンティア4』の発売を控えている。

 当機は大当り確率319.7分の1の1種2種混合タイプで、初当りが7図柄揃い時は「SPECIAL FEVER」へ直行。その後は時短250回+残保留1個の「VICTORY TIME」へ突入する。この間はほぼ連チャン確定で、次回の大当りと合わせて約3,000個の出玉を得ることが可能だ。 

 ギャラクシーラッシュは時短1回+残保留1個or時短2回+残保留1個の2パターンで、連チャン期待度はそれぞれ約75.0%、約87.5%。平均して約81%で出玉のループに期待できる仕組みだ。

 このスペックを見る限り、当機の出玉性能は冒頭で述べた『Pフィーバー機動戦士ガンダムユニコーン』と同等、或いはそれ以上とも感じる。

 人気シリーズ最新作でもあるだけに業界関係者たちも期待を寄せるが、甘デジファンにとっては、こちらのタイトルも見逃せない。

 同社は先日、公式YouTubeチャンネル「SANKYOFEVERTV」にて、最新タイトル『Pフィーバー戦姫絶唱シンフォギア2 1/77VER.』のスペシャルムービーを公開した。

 その名の通り、昨年4月に登場した『Pフィーバー戦姫絶唱シンフォギア2』の甘デジバージョンである当機は、動画によると大当り確率は77分の1。RUSH突入率は約51%、継続率は約79%で、「最もRUSHが近い」スペックへと変貌したという。

 また、演出を一新した「最終決戦」も大きなポイントのひとつとのことで、動画では演出の一部を紹介。甘デジでしか体感できない、「究極の興奮」を実現しているそうだ。

 気になる導入は11月上旬予定で、同時に「1/230VER.」もデビューする模様。両バージョンの詳しいゲーム性を含めて、続報の発表を待ちたいところだ。

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JRA武豊「離脱濃厚」のメイケイエールはアストンマーチャンになれるのか。「こういう時は走るってユタカが」大逆転のスプリンターズS(G1)制覇へ問われる「厩舎力」と「代役騎手」

「『こういう時は走る』ってユタカが言ってました」

 2007年のスプリンターズS(G1)。“自分探しの旅”に出ていたお転婆娘が、ついに「ベスト」にたどり着いた瞬間だった。

 小倉2歳S(G3)、ファンタジーS(G3)、そしてフィリーズレビュー(G2)と3歳春までに1400m以下の重賞を3勝したアストンマーチャン。そのスピードは誰もが認める一方、1600mになると阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)こそ2着だったが、桜花賞(G1)ではスタートから引っ掛かる気性面の脆さを露呈してしまい7着と大きく崩れた。

 そんなアストンマーチャンが出直しの一戦となったのが、1200mの北九州記念(G3)だった。桜花賞では、稀代の名牝ウオッカとダイワスカーレットの間に入る2番人気に推されたほどの逸材。単勝1.8倍にファンが込めた思いは、当然スプリント界のニューヒロインの誕生だった。

 しかし、結果は6着と期待を大きく裏切る結果に……。

 そんな状況で挑むことになった本番のスプリンターズSだったが、主戦の武豊騎手が同年の高松宮記念(G1)を勝ったスズカフェニックスを選択するなど、アストンマーチャンは崖っぷちの状況だった。

 ただ石坂正調教師ら陣営は、アストンマーチャンの可能性をまったく諦めてはいなかった。1日1本の坂路調教を2本に増やすなど、調教を強化して迎えた当日の馬体重+10kgは明らかに成長分だった。

 そんな陣営の尽力に天も味方した。レース当日は激しい雨に見舞われて典型的な不良馬場。ピッチ走法のアストンマーチャンにとっては、まさに絶好の馬場コンディションになった。

 そして、武豊騎手の代役として抜擢した中舘英二騎手と言えば「逃げ」で鳴らす名手。陣営が腹を括るには十分なお膳立てだった。

「駄目でもいいから内を回ってこい――」

 石坂調教師の言葉を胸に、中舘騎手とアストンマーチャンは迷いなく飛び出した。これが初めての逃げとは思えないほどの圧倒的なダッシュ力で敢然とハナに立つと、指示通り内ラチ沿いの最短距離をいく競馬。最後は1番人気のサンアディユらに詰め寄られたが3/4馬身、しのぎ切った。

「馬が素晴らしい出来。物凄く落ち着いていたので『こういう時は走る』ってユタカが言ってました」

 まさに作戦勝ちとなったレース後の勝利騎手インタビューで、中舘騎手は元主戦の武豊騎手からお墨付きをもらえるほどの状態に仕上げた陣営の手腕を讃えている。コンディションや作戦に加え、陣営が逃げの名手に白羽の矢を立てた選択、そしてピッチ走法というアストンマーチャンの個性……すべてが噛み合って掴んだ栄光のゴールだった。

 あれから14年。今年の3歳牝馬にもお転婆娘がいる。課題の気性難を克服できず、先週のキーンランドC(G3)で1番人気を裏切ってしまったメイケイエールだ。

 メイケイエールもまたアストンマーチャンと同じように小倉2歳S、ファンタジーSを連勝。桜花賞トライアルこそチューリップ賞(G2)を選択したが、そこで重賞3勝目を飾っている点も同じだ。

 しかし、肝心の桜花賞では気性難を露呈して最下位……秋のスプリンターズSを目指し、出直しの一戦が先日のキーンランドCだった。

 ソダシが札幌記念(G2)を制し、アイビスサマーダッシュ(G3)をオールアットワンス、北九州記念(G3)をヨカヨカ、そして先週のキーンランドCをレイハリアが勝つなど、メイケイエールと同世代の3歳牝馬が大活躍している点も、ウオッカやダイワスカーレットがいたアストンマーチャンの世代を想起させるものがある。

 またメイケイエールの主戦が武豊騎手であること、そしてその武豊騎手が、おそらく凱旋門賞(仏G1)に騎乗するため、スプリンターズSに騎乗できないこともアストンマーチャンの軌跡と瓜二つといった印象だ。

 そうなってくると、メイケイエールが“アストンマーチャン2世”となれるかのカギを握っているのは「厩舎力」だろう。

 7冠馬ジェンティルドンナなど数々の名馬を手掛けて今年引退した石坂調教師だが、アストンマーチャンのスプリンターズSは厩舎にとって3つ目のJRA・G1と、いよいよトップステーブルの仲間入りをするかといった新進気鋭の頃だった。

 それに対してメイケイエールを手掛ける武英智調教師は、今年が4年目。G1勝利はなく、重賞初勝利もメイケイエールの小倉2歳Sという若手だ。経験不足は否めないが、それでも管理馬の底知れぬ力を強く信じている点は、当時の石坂調教師と重なる面がある。

 果たして、メイケイエールはアストンマーチャン2世になれるだろうか。人事を尽くして天命を待つではないが、まずは武英厩舎の総合力、そして凱旋門賞に騎乗するであろう主戦・武豊騎手の代役の選出が大きなポイントになりそうだ。

(文=銀シャリ松岡)

<著者プロフィール>
 天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。