丸美屋「麻婆豆腐の素」が圧倒的に売れる理由…発売50年、シェアは驚異の5割

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 食品メーカーや飲料メーカーを取材しながら「日本の食生活」を調べると、「高度成長期に定着した飲食は強い」と感じることが多い。

「外食」では、ハンバーグやステーキ、カレーなどがそうだ。和食の人気も高いが、いずれも時代とともに味・中身が進化しており、こうした定番メニューを駆逐するほどの新ジャンルはほとんど出てこない。

 自宅での食事をさす「内食」はどうだろう。コメ離れの一方でパンや麺類を食べる機会が増えており、小売店ではさまざまな商品が並ぶが、やはり定番が強い一面がある。簡単・便利なレトルトや、パック入り味付けの食品も多種多様だ。

 今回はそのなかで、内食でつくる「麻婆豆腐」(ソース)に注目してみた。家庭向けに浸透させたメーカーの商品が発売50周年になると聞いたからだ。

 現在でも売れゆきは堅調という。どんな取り組みで消費者と向き合っているのか。トップブランドを取材しながら考えた。

半世紀の間、味の基本は変えていない

「丸美屋の『麻婆豆腐の素』は、1971年に発売されました。現在も麻婆豆腐市場では約50%を占めています。発売50周年を記念した商品『黄金の麻婆豆腐の素』『黒麻婆豆腐の素』も、2022年3月31日までの期間限定で販売中です」

 新井信吾さん(丸美屋食品工業 マーケティング部 中華即席チーム係長)は、こう話す。

 ひき肉などの具材が入っており、基本的に豆腐を用意すれば簡単な調理で仕上がる「麻婆ソース」市場は、たとえば「Cook Do」(味の素)や「理研ビタミン」「新宿中村屋」といった競合がある。そのなかでも半数のシェアを持つのは、不易流行(時代とともに変えること・変えないこと)を意識した施策が見逃せない。

「発売以来、商品の基本はほぼ変えていません。過去にうまみとコクを高め、ひき肉を増量したことはありますが、消費者が求める味の世界観を維持してきました」(同)

 たとえば味付けへのこだわりは、大きく次の3点に分けられる。

(1)「鶏がらスープの旨みとこだわりの醤(ジャン)」

(2)しょうがとニンニクの風味を効かせた、ねぎ入りのトロミ粉で「食欲をそそる香り」

(3)厳選したでん粉を使用した「絶妙なトロミ」

 そして、「2回分入り」も発売時から変わらない。

 昨年の“巣ごもり特需”の反動で今年は対前年割れだが、2019年比では104%だという。

簡便だが「ちょい足し」をする消費者が多い

「中華料理店とは違う家庭の味」という「麻婆豆腐の素」のつくり方は、次の通りだ。

市販の豆腐を細かく切る。同封のトロミ粉を水で溶く(トロミ粉液)。

→フライパンに麻婆豆腐の素(1回分)、水180ml、豆腐を入れて火をつけ、軽く混ぜながら煮立ちさせる。

→いったん火を止め、トロミ粉液をかき混ぜてから入れて全体を混ぜ合わせる。

→再度火をつけ、中火で全体を混ぜ合わせながら煮込み、トロミがついたら火を止める。

 今回、筆者も久しぶりにつくったが、簡単だった。「何かを足す」消費者も多いようだ。

「別に用意したひき肉を足したり、ねぎや春雨を足したり、ご家庭によってそれぞれ味が違うと思います。片栗粉を用意しなくてすむのも消費者からは好評です」(同)

 50年の歳月では、消費者もどんどん代替わりしたはずだ。

「多くの人は、子どもの時にご家庭で食べる味が最初です。子どもが幼い頃は『甘口』で、小学校高学年ぐらいから『中辛』に移るケースが多いようですね。大人になってからも『あの麻婆豆腐の味』と思い出していただく方も多い。調理が簡単なので、1人暮らしをする男性にも支持されています」(同)

 ここまで浸透したのは、日本人になじみ深い豆腐を使う、簡単にできる、多くの人に受ける味、という要素が大きいのだろう。好みによってはラーメンにかけるなど汎用性も高い。

発売当時は「知らない味」に苦戦

 丸美屋食品は、ふりかけで有名だ。なかでも「のりたま」は長年トップブランドで同社の大黒柱。昨年で発売60周年を迎えた同商品に次ぐ柱として、「麻婆豆腐の素」が開発された。

「麻婆豆腐の素の前年に『とり釜めしの素』が発売されてヒット。その勢いに乗って開発されました。世の中もレトルトカレーやインスタントラーメンが浸透した時代でした」(同)

 市販のレトルトカレーは「ボンカレー」(大塚食品、1968年発売)が最初で、即席麺は「チキンラーメン」(日清食品、1958年)によって広まり、1960年代後半には現在もロングセラーの袋麺ブランドが誕生していった。そんな時代の1971年に発売したが……。

「発売当初『麻婆豆腐の素』は苦戦しました。主な理由は、当時なじみのない料理だったこと。麻婆豆腐はまだ一部の高級中華料理店でしか取り扱っておらず、町中華のメニューにない時代で、大半の人には未知の味だったのです」(広報宣伝室課長・青木勇人さん)

 当時の開発スタッフが首都圏の団地を1戸ずつ訪問して無料サンプルを手渡すローラー作戦や、小売店への地道な営業活動を行った。転機は2年後の「オイルショック」だった。

 原油価格の高騰からさまざまな噂が流れ、「日用品が買えなくなる」とパニック状態になった消費者が小売店に殺到した。トイレットペーパーや洗剤の買い占めが有名だが、その影響で食品在庫もさばけ、麻婆豆腐の素も売れた。これが全国各地の人が味を知る一因となった。日本の麻婆豆腐は家庭から浸透し、「身近になったのは1980年頃から」だという。

時代に合わせて「甘口」「辛口」「大辛」を投入

 味の基本設計は変わらないが、時代とともに消費者の好みは変わっていく。

「近年では2017年頃から『マー活』と呼ぶブームが起き、麻(マー)のしびれるような辛さを楽しむ消費者が増えました。当社でも花椒を効かせた本格的な味わいの『贅を味わう 麻婆豆腐の素』が売れています」(新井さん)

 同社の味のバリエーションを時系列的に紹介すると、発売時は現在も一番人気の「麻婆豆腐の素(中辛)」のみで、1970年代に「甘口」(1978年)、「辛口」(1979年)を発売。ここから34年ぶりに「大辛」(2013年)を追加投入している。2019年には「鶏しお味」も発売されたが、まだ一般にはなじみが薄いようだ。筆者の仕事関係者に麻婆豆腐の感想を聞いた際、多くの人から「鶏しお味があるのですか」と驚かれた。

 また、派生商品として「麻婆茄子の素」(あっさりみそ味/こってりみそ味)「麻婆白菜の素」「麻婆キャベツの素」「麻婆もやしの素」を展開している。以前はふりかけチームでマーケティングを担当した新井さんは、中華即席チームに異動すると、自分で一通りつくってみた。

「実は、麻婆味は何にでも合い、食材に合わせてそれぞれ味を変えています。もちろん好みは人それぞれですが、個人的には茄子と麻婆は相性がいいな、と感じました」

消費者の「めんどくさい」にメーカーはどう向き合うか

 少し引いた視点で考えると、近年の消費者心理のキーワードには「めんどくさい」もある。

 たとえば、即席麺では袋麺よりもカップ麺を好み、即席カレーではルーよりもレトルトを好む。1人暮らしが最多世帯となるなど家族形態が変わり、家族と同居していても食事時間や味の好みが異なるという側面もあるが、それだけではないだろう。

 カレールーでは、別の取材で「調理時に野菜を切って煮込むのではなく、市販の野菜ジュースで味付けする消費者も増えた」という話も聞いた。「時短」「効率性」重視だが、「面倒を減らす」行為でもある。こうした時代性に、メーカーはどう向き合っているのか。

「たとえば、当社には『セット米飯』と呼ぶカテゴリーがあり、売れゆきは好調です。ごはん+具材入りソースで、中身を米飯の上にのせてレンジでチンするだけで出来上がります」

 18種類あり、「麻婆丼」は「ビビンバ」「とり釜めし」に次ぐ売れゆきだという。「消費者にとってレンジは調理器具」と聞いたのは10年ほど前だろうか。今や当たり前となった。

なぜ日本の消費者は、何かをかけたがるのか

 ふりかけや麻婆豆腐の素など、白いごはんに何かをかける食文化を浸透させてきた同社に、あえて哲学的な質問もしてみた。なぜ日本の消費者は、何かをかけたがるのだろうか――。

「食生活の多様性もあると思います。その昔、白いごはんが“銀シャリ”と呼ばれて高級品だった時代は、何かをかけるという人は少なかったですが、今はカレーライスやカツ丼、当社の商品でいえば、ふりかけやお茶漬けなども一般的です。お子さんも白いごはんよりも何かをかけたものを好み、学校の米飯給食でも白飯だけを出すことが減っています」

 簡単・便利の延長で、皿の数が少なくてすむという意識もあるようだ。食器洗いが面倒なだけでなく、水やお湯を使う量が減るので環境にもやさしいといえる。

1人世帯向けへの訴求をどう考えるか

 麻婆豆腐の素の今後の課題は何だろうか。

「さらに消費者意識と向き合うことだと思います。将来的には、1人世帯がより増えると予想されます。そうした小口の需要にどう訴求するか。麻婆豆腐への愛着は世代を問わずに強いので、今から51年目に向けて、着手していきたいですね」

 実は、一番売れるのは1月。「おせち料理が終わった時期」だというのも興味深い。

 冒頭で記した「高度成長期に定着した飲食」も、歴史にあぐらをかくと淘汰される時代だ。志の高いメーカーの開発現場には、「新商品は発売時から改良対象」という認識もある。移り気な消費者とどう向き合うか、今後の取り組みも注視したい。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、

離婚の理由は“母乳”?驚愕した離婚裁判の一部始終…不倫夫の“想像を絶する”身勝手な主張

 平成生まれは知らないだろうが、昭和の時代に女性が赤ちゃんにあげる母乳について「赤ちゃんのもので、パパのものではない」といった内容の歌謡曲が大ヒットとなった。小学生は無邪気だから、外で大声を張り上げて競い合う光景があちこちで見られるほどのブームとなった。

 それが半世紀を経た令和の時代に、神聖な法廷で論じられることになるとは――。

 ある日、筆者は出向いた場所の近くにあった地方裁判所に、軽い気持ちで入った。その日に開廷される裁判を調べるには、入り口付近にある機械を操作して法廷の場所を確認する。開廷時間、訴えの案件名、原告などが横一列に表記されている。閲覧しているうちに、離婚に関する裁判が目に留まった。

 離婚で夫婦間の話し合いがうまくいかない場合は、弁護士に依頼して協議離婚をしたり、家庭裁判所の調停で解決を求めることが多い。調停が不和に終わった場合、裁判になるのが一般的だが、いきなり裁判を起こすこともある。夫婦間で裁判になる場合は、すでに感情の亀裂は決定的だと考えるのが普通だ。

 筆者が傍聴した法廷内はこぢんまりとして、裁判長ひとりと1段下に書記官がひとりいた。原告は妻、訴えられているのは夫とその愛人で、3人は同じ会社に勤務していた。驚いたことに夫には妻と結婚する前から婚外子がひとりいた。結婚する直前に夫は妻にそのことを告白。衝撃を受けた妻は家族に相談した。当たり前だが、妻の両親は激怒し、娘に別れるように迫った。しかし、娘の説得に根負けし、結婚を認めることになった。

 夫はそれまで認知もせず、養育費も払っていなかったため、両親は弁護士に相談を持ちかけ、結局、婚外子を認知することになり、社会人になるまで養育費を支払うことになったものの、妻の猛反対で夫からの面会の申し出は認められないことにしたという。

 大波乱で幕を開けた結婚だったが、夫婦は共に有名企業の支店勤務だったため、妻は結婚を機に退社した。夫は妻に優しく、妻は永遠の愛を疑わない日々が1年ほど続いた。両親もそんな二人をみて、安心をするようになった。

夫の不倫で体調を崩した妻

 結婚直後、夫の職場に愛人が転職してきた。世間の妻が夫の浮気を疑うきっかけは、「帰りが遅くなった」「何か隠し事をしている」などと、夫の変化に気づくことだが、この夫は違った。夫は妻に愛人と関係ができたことを告白した。「黙っていることが心苦しい」というのが理由だ。愛人も愛人で、職場の他の男性たちとの関係を彼に打ち明け、夫はそれを妻に話した。

 浮気を知った妻は激怒したり、悲しみにくれたりすることが普通だが、この妻は嘆き悲しみながらも「もっと妻として努力する。愛人とは別れてほしい」と夫に言い、家事に育児にこれまで以上に打ち込んだ。しかし、夫は愛人との関係をやめなかった。

 やがて、妻は食事もとれなくなるほど体調が悪化した。両親は娘の体調と子供の育児を心配して、実家に呼び寄せた。

 あろうことか夫は妻との共同名義の家に、愛人を呼び寄せた。そのことを知った妻は、うつ病を発症するほどになった。悲しみに暮れる娘を見かねた両親が、弁護士に相談して、慰謝料請求の裁判を起こしたのだった。

 裁判では、夫が初めて愛人と肉体関係を持った日や、愛人との毎月の回数まで暴かれていく。証言台の妻は、立つのもやっとという状態だったが、親族の目の前で別居までの間に夫との肉体関係の回数も聞かれる。夫はそんな妻に「お前は愛人と違って肉体関係を持っても気持ち良くない」と吐いて捨てるように言い放ったという。妻は消え入りそうな声で「子供も生まれたばかりで、夫は絶対に戻ってくると信じていた」と泣き崩れた。妻の小刻みに震える後ろ姿は見ていられないほどだった。

 妻の必死の訴えに、一度は愛人との別れを決めた夫だったが、愛人に別れを告げに行ったその日のうちに再び関係を結び、そこからズルズルと関係を続けた。夫は、妻が深く傷ついていることに気がつかなかったと言い、愛人も「悪いとは思ったが、彼が『大丈夫』と言ったので、いいんだと思った」と証言した。

 夫は給料から婚外子と妻に生活費を振り込み、住宅ローンの支払いもあり、手元には小遣い程度しか残らないと訴え、愛人は社内で「誰とでも寝る女」と評判になりだしたために退職し、今は新しい企業に勤め、彼を養っていることを主張した。

「僕に断りもなかったことが、それが今でも許せない」

 妻は、ものすごく真面目で恋愛経験も少なかったのではないか。よく離婚を切り出されると、「自分に悪いところが」「自分が変われば」と思う人は少なくない。妻はそんな性格なことに加え、子供には父親が必要だと考え、耐えたのだろう。そんな妻の心の傷にも思いを馳せることもなく、さらに愛人まで手に入れたのだから、夫は「俺ってモテ男かも」と大いなる勘違いをしたのかもしれない。

 浮気に走った理由も自己中心だ。妻が新婚当時、同僚たちと会社帰りに語学レッスンに通っていたことをあげつらった。夫は妻が浮気をしていると決めつけていたのだ。

 そして、夫が法廷で語った離婚理由が驚愕するものだった。

「出産後の母体を気遣って、『ミルクと併用していい』と言ったのに、妻は母乳にこだわった。体調を崩した妻に医師が母乳との併用を勧めて、妻は併用をスタートさせた。僕に断りもなかったことが、それが今でも許せない」

 今でもこんなことを言ってのける男がいるのだ。完全なモラハラではないか。夫は、妻が赤ちゃんに母乳かミルクのどちらを飲ませるのかを決める権利は自分にあると主張しているのだ。しかも、夫は育児をほとんどせず、別居後は子供に会いたいとの申し出もない。

 判決はもう少し先になるようだが、考えようによっては“歴史的な判決”となるかもしれない。

 ちなみに、愛人が関係を持った男たちのことを法廷で実名告白したことで、男たちの実名が裁判記録に残されることとなった。恐らく本人たちは、まったくそのことを知らないだろう。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

※プライバシー保護のため、登場人物の設定を一部変更しています。

●鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュ協会を設立。最近では離婚相談も多い。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などでも活躍。

「マーガリンは健康に悪い」は昔の話? トランス脂肪酸の量はバターのほうが多い?

 味わいはあまり変わらない印象のバターマーガリン。料理をつくる際、少々割高なバターの代わりにマーガリンを使う人も多いだろう。

 そんなマーガリンだが、「マーガリンはバターよりトランス脂肪酸が多く含まれているため健康に悪い」といったイメージがあるのも事実。しかし「最近のマーガリンは改良されている」「むしろマーガリンはバターよりトランス脂肪酸が少なくなっている」といった声も聞こえてくる。

 実際のところ、マーガリンはバターより体に悪影響を及ぼすのか。今回は株式会社Luce(ルーチェ)の代表取締役で管理栄養士の望月理恵子氏に話を聞いた。

2010年頃までのマーガリンにトランス脂肪酸が多かったのは事実

 そもそもトランス脂肪酸とは、どういったものなのだろうか。

「トランス脂肪酸とはマーガリンの調理過程で発生する、脂質を構成している成分である脂肪酸の一種のことです。これは、悪玉コレステロール値を上げ、善玉コレステロール値を減らす働きがあるといわれています。

 日本人の多くはもともとトランス脂肪酸の摂取が少ない傾向にあるため、そこまで気にする必要はないのですが、多量に摂取してしまうと、血管が狭くなったり血栓ができたりと、いわゆる動脈硬化の引き金にもなるともいわれています。それが原因で狭心症、心筋梗塞といった病気、冠動脈性心疾患や、糖尿病のリスクを高める場合もあるため、トランス脂肪酸を多量に摂取しないよう注意が必要なのです。

 2002年に開催された『食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合』の報告書で、トランス脂肪酸が冠動脈性心疾患のリスクを高める確実な証拠があるということが語られ、その後もトランス脂肪酸にはメタボリックシンドロームや糖尿病など、さまざまな疾患のリスクを高めることが立て続けに発表されたことがありました。

 そして、2010年頃までに製造されていたマーガリンのなかには、実際15〜20%という、かなりの高数値でトランス脂肪酸を含んでいるものがあったのも事実です。そういった時代があったため“マーガリン=体に悪い食品”という印象がついたといっても過言ではないでしょう」(望月氏)

トランス脂肪酸がかつての15分の1以下…だが栄養面でバターに敵わず?

 2010年頃まではトランス脂肪酸を多く含んでいたというマーガリンだが、望月氏曰く、その認識はすでに過去のものだという。

「驚かれるかもしれませんが、現在販売されているマーガリンのほとんどは、企業努力によってトランス脂肪酸の含有量が1%前後まで低減されているんです。むしろ、バターのトランス脂肪酸含有量は平均で3.3%なので、今やバターのほうがマーガリンよりトランス脂肪酸の含有量が多いものがあるというわけです」(望月氏)

 現在の改良されたマーガリンには、トランス脂肪酸の代わりにパーム油やヤシ油、飽和脂肪酸が使われているとのことだ。

「パーム油とは主にポテトチップスやパンなどの加工食品に含まれている、アブラヤシという木の実から得られる植物油のことで、ヤシ油とはいわゆるココナッツオイルのことです。そして飽和脂肪酸とは牛脂などに多く含まれているもの。いずれもマイナス面が報告されているトランス脂肪酸に比べれば、過剰摂取しない限り問題はない成分といえますね」(望月氏)

 では、現在のマーガリンは栄養面や健康面でバターに匹敵し、むしろより健康的だといえるということなのだろうか。

「そう簡単にいえるものではないのです。このトランス脂肪酸の数値に限っていえば、確かにバター以下のマーガリンが大半になっています。しかし、そもそも牛乳と食塩でつくられるバターと、植物性油脂や動物性油脂からつくられるマーガリンでは栄養面がまったく異なります。ですから、そもそもバターとマーガリンは、コーヒーと紅茶を比較するというぐらい、成分がかけ離れているのです」(望月氏)

バターとマーガリン、それぞれのメリットとデメリット

 バターとマーガリンの味や栄養・健康面には、それぞれどんなメリットとデメリットがあるのかも聞いておこう。

「バターは基本的には牛乳と食塩のみでつくられているので、風味やコクはマーガリンより上といっていいでしょう。またビタミンAを多く含んでいるので、肌や粘膜を健康に保ち、細菌に対する抵抗力を高めてくれます。ですが一方で、その値段の高さ、酸化のしやすさ、マーガリンよりもコレステロール値が高いなどのデメリットも存在します。

 一方のマーガリンは、あっさりとした風味や冷やしてもカチカチに固まらない利便性、そして改良によってトランス脂肪酸の低さはバターより優れているもといえますね。けれど主として液体の植物性油脂を使っており、そのまま冷やしても硬化しないため、乳化剤などを使用しているのです。この乳化剤が一概に健康被害につながるわけではありませんが、なかにはアレルギー被害を呼んでしまうものもあるため、注意は必要でしょう」(望月氏)

 近年のマーガリンは、健康被害につながるとの指摘もあるトランス脂肪酸が激減するという進化を遂げていた。だが、だからといってバターよりマーガリンが優れているということでもないようだ。料理の場面やお財布事情で賢く使い分けるといいだろう。

(文・取材=A4studio)

コア視聴率重視の日本テレビが『笑点』を終わらせない本当の理由とは?

「コアターゲット」「コア視聴率」……。それまで聞き慣れなかった名称が一気に広まったのは、今年6月、ダウンタウン・松本人志がツイッターで言及したことがきっかけだった。

 同月12日に放送された『キングオブコントの会』(TBS系)の世帯視聴率を報じるネットニュースに対し、2日後の14日にツイッターで「ネットニュースっていつまで“世帯”視聴率を記事にするんやろう?その指標あんま関係ないねんけど。。。」と異論を唱えたのだ。

 その約5時間後、松本は「補足」として、再び「コア視聴率が良かったんです。コア視聴率はスポンサー的にも局的にも世帯視聴率より今や重要な指標なんです。そのコア視聴率が3時間横並びでトップやったんです」と投稿した。

『キングオブコントの会』は世帯視聴率でいえば6.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だったが、個人視聴率は4.1%だった。

“コア偏重”で時代劇は永久追放?

 ただ一口に“コア視聴率”といっても、その層の範囲や呼称は各局によって違う。フジテレビは男女13~49歳を「キー特性」と呼んでいるし、TBSは男女4~49歳を「新ファミリーコア」と定義し、視聴者の若返りを図っている。30年以上続いていた『噂の!東京マガジン』を4月からBS-TBSに移行させたのは、その象徴的な事件だろう。

 また、男女13~59歳を「ファミリー層」と呼んで重点ターゲットにしているテレビ朝日も、46年続いた『パネルクイズ アタック25』を9月末で終わらせている。

 この概念をいち早く取り入れ、主流にしたのは日本テレビだが、同局では男女13~49歳を「コアターゲット」と呼んでおり、その偏重は強まっている。たとえば、2022年に30周年を迎える旅番組『ぶらり途中下車の旅』。

 以前まで同番組のリポーターとして出演していたのは、なぎら健壱(69歳)、太川陽介(62歳)、さらに金子昇(47歳)といった男性の旅人が多かった。また、女性の旅人としては、もっぱら元フジテレビアナウンサーの小島奈津子が出ていたが、今年8月14日には峯岸みなみ、10月30日には神田沙也加、11月13日には高橋ユウと、若い女性の登場回が多くなっており、視聴者の入れ替えを図っているように見える。

「すでにそれぞれシリーズは終了していますが、『水戸黄門』(TBS系)や『暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)といった、ゴールデンの定番だった時代劇も今や風前の灯火。各局がこぞって生放送でオンエアしている長時間にわたる大型音楽番組でも、演歌歌手の出演はごくわずかです。厚生労働省の施設等機関である国立社会保障・人口問題研究所の推計では、3年後の2024年には初めて50歳以上の人口が5割を超えるというスーパー高齢社会の到来が予測されていますが、その巨大マーケットを地上波はみすみす捨てていることになります」(テレビ局関係者)

意外にコア視聴率も高い『笑点』

 そんな変化を余儀なくされるテレビ業界にあって、ほぼ無風状態と言っても過言ではないのが『笑点』(日本テレビ系)だ。1966年5月15日にスタートし、今年で55周年を迎えた、日曜夕方の大長寿番組だ。日常にも溶け込んでいる「座布団1枚!」というフレーズはこの番組が発祥で、もちろん「大喜利」の元祖的番組でもある。

 今や、いかに早く本編に入り、視聴者を食いつかせるかに知恵と工夫を凝らすテレビ業界にあって、オープニングのテーマ曲が長々とかかり、着物を着た出演者が順々に登場し、座布団に正座し、うやうやしくあいさつをするというフォーマットは、この番組を置いて他にはない。ユーチューブで育っている若者の視聴率を心配してしまうが、それは杞憂だという。

「たとえば11月7日放送の視聴率は世帯13.3%で、個人7.6%。そしてコアは3.4%と、予想以上の数字を残しているのです。しかも、このコア視聴率は続く『真相報道 バンキシャ!』の3.8%と遜色ない(世帯13.1%、個人7.8%)。他の週も3~4%は確実に獲得しています。他局では『アタック25』や『東京マガジン』などの長寿番組が撤退する中で、これは稀有な例と言えます。

 ちなみに10月24日は世帯13.1%、個人8.5%。M3(50歳以上男性)層が13.7%と圧倒的なパイを占めるものの、M1(20~34歳男性)は3.1%、M2(35~49歳)も4.7%と、壊滅的な数字ではない。さらにF1(20~34歳女性)は2.6%ですが、F2(35~49歳女性)は5.7%と高視聴率なのです。なお、F3(50歳以上女性)は 13.0%となっています。ちなみに、コア層をがっちりつかんでいる『スクール革命!』の同月24日も、F2=6.1%でした(世帯6.7%、個人3.8%)」(同)

時代に取り残されながら100年続く番組に?

『笑点』は5代目司会者として活躍した桂歌丸が2016年に勇退し、6代目に春風亭昇太が就任した。それに伴い、林家三平が10年ぶりの新メンバーとして加わったが、それ以外の面々は不変だ。それなのに、いったいなぜここまで幅広い層に受け入れられているのだろうか?

「まずは、幼少期に祖父や祖母と一緒に見ていたという、連綿とした歴史が強い。成長していくにつれて番組から離れていくが、ある年齢になると、その良さにもう一度気づくという、遺伝子レベルで刷り込まれているプログラムと言えます。さらに、幼い子どもにもわかりやすい。色分けされた着物を着て、キャラが際立った噺家たちが珍妙な回答をし、座布団をあげたり取られたり……。

 そして、昭和、平成、令和と時代が変わっても、ほとんど何の手も加えてこなかった番組が、かえって新鮮に映るのでしょう。無形文化財的なレア感というか、その特異性が逆に人を惹きつけるわけです。歌丸の勇退後、史上最年少司会として昇太が抜擢された理由は、番組が100年続くことを目論んだからとも言われていますが、それもまったくの絵空事とは言えないかもしれません。時代に取り残されたレトロ感は、時を経るにつれて、ますます輝きを増していくはずです」(同)

 もちろん、今に至るにはさまざまな試練や試行錯誤があったという。古参のファンには知られた話だが、初代司会の立川談志がブラックな答えを歓迎することに反発した当時のメンバーが全員降板したり、当初は座布団に座ったままのオープニングだったものの、事前に打ち合わせした感が強く動きがないということで、4代目司会の五代目・三遊亭円楽のときから音楽に乗って登場するようになった、など。また、時事ネタや流行語をお題に取り入れるなど、常に新鮮に映るための工夫もしてきたことだろう。

 いずれにしても、コアターゲットを追い求める日テレの“最後の良心”とも言える『笑点』は、次の50年も見据えている。

(文=編集部)

難しい割り算も瞬時に回答!? 霜降り明星・粗品が「パチンコ算」を提唱

 絶対音感を持ち、自身の音楽レーベルを設立。お笑い芸人だけでなく多方面で活躍する霜降り明星の粗品は、大のギャンブル好きでも有名である。

 自身の公式YouTubeチャンネル「粗品Official Channel」では、「スタインウェイでミリオンゴッドのGOD揃い音弾いてみた」や「借りた金でパチンコ負けた時の歌」といった演奏動画のほか、「お前絶対パチンコ屋で働いてた事あるやろ」「海物語でリーチが来た時のおばあちゃん」「メダル貸出ボタンを、リール止める流れで腹立ちながら押す人間」など、パチンコ・パチスロ好きならば思わずクスリと笑う「あるある」ネタも投稿。

 どれも数秒の短尺ながらも高視聴回数で、この中でも、とりわけ視聴されているのが「パチンコ算~リンゴの割り算編~」と題した動画だ。

「簡単な文章問題です」とのひと言で始まる当動画では、粗品が「リンゴが1500個ありました」「これを4人で均等に分けるとして、一人あたり何個リンゴを貰えるでしょう?」といった問いを出題。その後、単純に「1500÷4」の式を示し、この計算には「数秒かかるでしょ?」とカメラ目線で続けた。

【注目記事】
老舗パチンコメーカーから異例のパチスロ機が登場! BIG300枚が1G連する「新しいノーマルタイプ」を創造
パチンコは「神撃荒神スペック」、パチスロは「小当りRUSH」再現機が好調! 11月8日導入新台データ速報

 その理由として「15が4で割り切れない」ことを挙げ、実際にホワイトボードを使って筆算で計算。数回繰り返す4で割る作業に「時間がかかる」とし、粗品は、そんな時に活用できるのが「パチンコ算なんですよ」と説明した。

 まずは問題を変換し、1500個のリンゴを1500円、その1500円を持って「4円パチンコに行きました」と粗品。「パチンコは500円ずつ貸玉のボタンを押す」と前置きの後、これに限っては1500円分を全て玉に変えると「何発出たでしょう?」とし、すぐさま「375発でしょ」と答えた。

 粗品曰く、これが「パチンコ算」だそうで、パチンコに置き換えると「考えなくても出るでしょ」と断言。何故なら、パチンコをしない人でも「1000を4で割ると250」というのが「常識的にある」と同じように、パチンカーには「500÷4=125」という貸玉数も覚えているからだそうだ。

 このパチンカー特有の常識を応用し、次は「23500個のリンゴを4人で分ける」といった問題も瞬時に回答。ただ、これには「落とし穴がある」そうで、パチンカーにとっては「これが答えではない」「その時点で帰る奴は居ない」「絶対に打つんです」とし、結局、どちらも答えは「0」になるとのオチまで付けた。

 パチンコにドハマりした人間だからこそ染み付いた感覚。このパチンコ算は、意外と活用できるのではなかろうか。

JRA ジャパンC(G1)はハズれても大丈夫!? 35分後の京阪杯(G3)で「一発逆転」目指せるとっておきの“大穴”

 28日、東京競馬場でジャパンC(G1)が行われる。

 日本ダービー、有馬記念と並ぶJRAの一大レースだけあって、多くのファンが馬券を購入すると思われる。

 仮に、馬券が的中すれば少し贅沢をしてみようか、など様々な皮算用が頭をよぎるのが競馬の魅力。その一方で、もしハズれてしまっても「最終レース」で取り戻そうとするのが競馬ファンの性でもある。

 しかし、今年のジャパンCは東京12R。つまり、ジャパンCそのものが最終レースなのだ。

 これでは「最後の一発逆転」のチャンスがない……。と、思ってしまうが、我らの日本中央競馬会様はしっかりとジャパンCの負けを挽回させる「機会」を与えてくれる。それがジャパンCの35分後に発走となる、阪神12Rの京阪杯(G3)だ。

 例年京都競馬場で行われるレースだが、京都競馬場が改修工事中であるため今年も阪神開催となる。それはさておき、京阪杯は例年「荒れる」レースとして知られている。

 後のG1馬ダノンスマッシュが快勝した3年前は、2着・3着に2桁人気の馬が食い込んで3連単54万円の波乱に。さらに4年前の17年は9番人気→6番人気→14番人気で決まって、3連単167万円の帯封決着となっている。昨年は3番人気と1番人気と上位2頭は堅かったが、3着に12番人気のジョーアラビカが入って3連系の配当が跳ねている。

 そんなこんなで伏兵馬のマークが欠かせないレースだが、今年ぜひ推奨しておきたい馬がラヴィングアンサー(牡7歳、栗東・石坂公一厩舎)だ。

 27日14時現在で単勝人気がブービーの「大穴」だが、実績はメンバー上位。重賞勝ちこそないが、リステッド・オープン特別を合わせて3勝している。阪神1200mの実績も十分で、昨年同舞台で行われたタンザナイトS(OP)で追い込み勝ちしている。

 追い込み一辺倒の脚質であるため、今の阪神芝コースは合っていると考えられる。現在の阪神の芝は、8週開催最終週のAコースを使用。連続開催による芝への傷みが内の馬場を中心に見られるため、外の馬場が伸びる傾向にある。それゆえ追い込みが決まりやすい馬場であるため、ラヴィングアンサーにとって願ってもない馬場と言える。

 前走のスプリンターズS(G1)で大敗しているため、状態面などが懸念されるが、その心配は杞憂に終わりそうだ。24日の最終追い切りで栗東坂路の自己ベストタイムをマークしており、7歳ながら今が絶頂期と言えそうだ。

 また、今回初めてブリンカーを着用する予定だ。ブリンカー装着によってレースへの集中力が増すようならば、オープン3勝を上げた自慢の末脚に更に磨きがかかるはず。

 今回の逃げ馬候補は何頭かいるが、鞍上は積極果敢な若手騎手が目立つ。先行争いが激化すれば、なおよし。岩田望来騎手とラヴィングアンサー、そして石坂厩舎のJRA初重賞制覇に期待したい。

(文=坂井豊吉)

<著者プロフィール>
全ての公営ギャンブルを嗜むも競馬が1番好きな編集部所属ライター。競馬好きが転じて学生時代は郊外の乗馬クラブでアルバイト経験も。しかし、乗馬技術は一向に上がらず、お客さんの方が乗れてることもしばしば……

パチスロの進化を改めて感じた出来事!?【濱マモルののほほんコラムVol.124~小役カウンター~】

「そんなに長いこと使ってるの?」。アタシの勝ち勝ちくんを見た先輩ライターが仰天した。

 仕事柄、小役カウンターは必需品だ。メーカーさんのショールームで新台を試打する際などは、各種小役をポチポチしておおまかな出現率及びその出現率に設定差がないかをチェック。時にはゲーム数をカウントするために使用することもあり、基本的には常備している。

 まぁガチプロの人々と比べれば頻度は少ないだろうが、それでもガイドワークス製・勝ち勝ちくんで言えば、カウントのたびに光るLEDランプが切れるほどには使う。見た目も新品と並べたら、かなりボロボロだ。

 別に、この1台に愛着があるわけではない。電池も切れれば交換すれば解決するし、まぁ壊れていないから使っているだけだが、人によっては電池が切れるたびに新調するライターもいるそうだし、そもそも無くさずに持ち続けていること自体がすごいと言われることもある。つーか、小役カウンターが貴重で下皿に置いたままだと盗まれた時代じゃあるまいし、こちらからすればむしろ、そんなに無くしますかねぇってな話である。

 壊れていないから使う。これは、なにも小役カウンターに限ったことではない。たとえば車。人によっては車検のたびに乗り換える人もいる一方、アタシは乗り潰すタイプで、先代は10年、先々代は13年乗り続けた。昨年購入した新たな車も当然、壊れるまで乗り続けるつもりだ。

 洋服も同じで、汚れやシミが目立たなければ着続けるクチ。部屋着に至っては、多少破れていても着心地が悪くなければ戦力外にはしないし、現に、この原稿を書いてる際に履いているスウェットも10年選手だ。

 逆を言えば、モノを捨てられないタイプでもあるように思える。家には音楽CDや文庫本が散乱。これに加えて部屋にはバンドTシャツなどが溢れ返っているのだが、そろそろ、それを整理するように言われており、ほとほと困り果てているのが現状である。

 早いもので、息子は来年で中学生になる。生意気にも「中学生になったら部屋が欲しい」と主張しやがるもんだから、無理やりにでもひと部屋を空けなければならない。となると、必然的に件の物品たちをどうにかしなければならないわけで、仕方なしに片付けるフリをしたところ、あらビックリ、かつての小役カウンター・パチパチくんが出てきたのである。

 他誌は知らないが、当時の必勝ガイドは入隊時にパチパチくんが支給された。おそらく、これは初代が壊れた末の2代目。思わぬ邂逅に今度、取材時にはコイツを持っていこうかなぁなどとノスタルジーに浸ったが、よくよく考えると現在のパチスロは、このボタン数では各種小役を採取しきれないものがほとんど。アタシのスロ力と文章力はいつまで経っても変わらない反面、パチスロや小役カウンターは進化したもんですね。

(文=濱マモル)

JRAジャパンC(G1)武豊も認める粒揃い!? 海外勢最有力ブルームは2005年に伝説となった「あの馬」と共通点も

 今週日曜日に行われるジャパンC(G1)は、かつて海外馬の活躍が目立ったものの、近年は海外馬の不参加や、出走したとしても“参加賞”を持ち帰るのがやっとというのが定番となって久しい。

 だが、今年のラインナップは少し様子が違うようだ。

 特にアイルランドのA.オブライエン厩舎所属でキーファーズ共同保有のブルームとジャパンの2頭は、これまで欧州のトップレベルの舞台で勝ち負けしてきており、実績を見るとここ数年の海外馬よりも格上といえる。

 ただ、海外勢がジャパンCの参加に消極的になっている理由の一つとされているのが、日本の高速馬場だ。関係者からは馬場の違いによって、日本と欧州の競馬は「もはや別の競技のようだ」とさえ言われ、海外勢は輸送などわざわざ馬に負担をかけてまで日本馬有利の土俵でのレースに出ようとはならなかった事が原因とも言われている。

 しかし、そんな中でも今年は欧州のトップクラスでバリバリやっている実力馬が参戦することとなり、ジャパンに騎乗する武豊騎手は自身のブログにて「今年の(海外馬)3頭はなかなかの粒揃いだと思います。いつものように『どうせ日本馬だけの戦い』と軽視するのは危ないですよ」と、ジャパンCでも通用するのではとの見解を示している。

 そんな海外勢の中でも、現状で実力最上位と見られているのが、R.ムーア騎手が騎乗するブルームだ。過去にジャパンCで好走した馬とのいくつかの共通点がある。

 ジャパンCで海外馬が最後に勝利したのは、2005年に当時の世界レコードを叩き出し、日本中に衝撃を与えたアルカセットだ。本馬は5歳でサンクルー大賞を制し、勢いに乗って参戦したジャパンCで先述の勝利を挙げている。そして今回のブルームも同様に5歳でサンクルー大賞を勝利してG1初制覇。その後1戦を挟んで、同年のフォワ賞2着というも同じというオマケつきだ。

 もうひとつ、ジャパンCで海外馬が最後に馬券に絡んだのが、ブルームの父オーストラリアの母であるウィジャボード。血統的背景からも日本競馬の適性に期待が持てるというわけだ。

 さらに、前走のBCターフ(G1)では2着と好走しており、日本調教馬のラヴズオンリーユーが同日に同じ芝コースでBCフィリー&メアターフを制した。日本馬に近い馬場適性を持っている可能性は十分に考えられる。

 これだけの実績や過去のジャパンC好走馬との共通点もあり、さらに馬場も問題ないとなれば、ブルームが迎え撃つコントレイルら日本勢をアッと言わせる一発があっても何ら不思議でない。

(文=椎名佳祐)

<著者プロフィール>
 ディープインパクトの菊花賞を現地観戦し競馬にのめり込む。馬券はアドマイヤジャパン単勝勝負で直線は卒倒した。平日は地方、週末は中央競馬と競馬漬けの日々を送る。

JRA【ジャパンC(G1)予想】ダービー馬シャフリヤールはバッサリ切り! コントレイルとの間に割って入る「人気の盲点」を発見!

 今回は秋の天皇賞と並ぶ古馬G1の大一番、ジャパンC(G1)を予想していきたい。

 先週のマイルCS(G1)は掲示板に載った馬のうち、2着シュネルマイスターだけを切ってしまったという痛恨の結果……。本馬は相当に実力のある馬のようだ。その実力は再評価したいが、NHKマイルC馬は近年古馬になって頭打ちになる馬も少なくない。来年どうなるかも注目だ。

 では予想に戻ろう。

例によって、過去10年馬券に絡んだ30頭の前走データが以下になる。
天皇賞・秋 17頭
秋華賞 4頭
京都大賞典 3頭
凱旋門賞 2頭
菊花賞、エリザベス女王杯、アルゼンチン共和国杯、神戸新聞杯 各1頭
となっている。

 天皇賞・秋、JC、有馬記念(G1)と続くいわゆる「古馬王道ローテーション」に乗っている馬が圧倒的に多い。意外なのは秋華賞からの3歳牝馬の活躍か。近3年は必ず馬券に絡んでいる。もっとも、そこにはアーモンドアイとデアリングタクトという2頭の3冠牝馬が含まれている。ついでに言えば、過去10年であと2回のうち、1回はやはり3冠牝馬のジェンティルドンナである。

続いて人気別のデータが以下だ。
1番人気 4-1-2-3
2番人気 1-2-3-4
3番人気 2-1-1-6
4~6番人気 3-4-2-21
7~9番人気 0-2-0-28
10番人気以下 0-0-2-72
となっている。1番人気はそれなりに期待できる数字だが、2番人気が今ひとつ。3番人気以下6番人気くらいまでが狙い目としてひとつの目安になりそうだ。日本最高賞金を誇る格式の高いG1だけに極端な人気薄は期待できないようだ。

 ちなみにこのレースの独自性でもあるが、外国馬の扱いがある。2019年は出走ゼロという異例の事態となったが、それ以外の年は出走している。もっとも過去10年で馬券に絡んだ馬は1頭もいない。一昔前と違い、格の高いG1を勝っているような一線級の馬が参戦していないのが要因だろう。

 今年に関して言うならブルームはサンクルー大賞(仏G1)を勝っており、これは近年最後に外国馬として勝利したアルカセットとの共通点となる。ジャパンも近走はもうひとつだが、インターナショナルS(英G1)を勝っている。グランドグローリーはこの2頭から1枚落ちるがG1勝ち馬ではある。

 これらを踏まえて「◎」は2番コントレイルとする。

 前走は王道の天皇賞・秋で、グランアレグリアこそ交わしたが差し届かずの2着。ジャパンCは天皇賞馬の好走例が多いレースではあるが、一方で凡走した馬がここで激走するレースでもある。

 陣営はメイチの仕上げをアピールしつつ、テンションが上がってしまうことを懸念しており、それがレースでどう転ぶか……という必勝・確勝にはほど遠いコメントを出している。

 正直に言うと、データがどうとか陣営のコメントがどうとかはもう度外視している。レースレベルがどうだったかはともかく、まぎれもなく3冠馬だ。そして、3冠達成で引退してしまったセントライト以外のすべての3冠馬が古馬G1を勝っている事実がある。

 古馬になって思うように走れず、大敗を繰り返したミスターシービーですら、3冠の後に天皇賞・秋を勝っているのだ。本当なら負けても負けても泥臭く走ってほしいのだが、ここで引退と決まっている以上、3冠馬という栄誉を負けて汚すのは許されまい。史上最弱の3冠馬と後年言われないためにも、有終の美を飾ってほしいし、勝たねばならない。

 そんな感情論込みの「◎」である。冷静に捉えるなら「△」評価でもおかしくはないのだ。

 続いて「○」だが、3番ブルームを指名する。

 前走は米ブリーダーズCターフ(G1)で僅差の2着。このブリーダーズCをどう見るかで評価が変わってくるだろうが、距離こそ違えどコースはラヴズオンリユーが勝ったブリーダーズCメア&フィリーターフ(G1)と同じ。であれば、日本の馬場と近い条件だったことが考えられる。

 ロンシャンでも好走しているなど、ヨーロッパの馬場適性はもちろんあるだろうが、前々走の凱旋門賞で大敗しているように、あまり重い馬場には向いていない可能性がある。陣営も当初から予定されていた出走とコメントしているように、ブリーダーズCからの転戦は織り込み済みの調整をしているはずだ。

「▲」には7番オーソリティを推したい。

 前走は半年の休み明けとなったアルゼンチン共和国杯(G2)。トップハンデながら1番人気に推され、先行抜け出しの横綱相撲で完勝している。

 過去10年でこのローテーションを使って馬券に絡んだのは、わずか1頭。16年3着のシュヴァルグランだが、オーソリティと同じく、この時点ではG1勝ちのない重賞勝ち馬に過ぎなかったが、アルゼンチン共和国杯を勝って臨んだ本番は3着に食い込んだ。

 シュヴァルグランとオーソリティの違いに、G1での好走歴の有無がある。シュヴァルグランは天皇賞・春(G1)で3着の実績を持っての臨戦だったが、オーソリティは天皇賞・春、有馬記念とG1を2走して、いずれも2ケタ着順の大敗。陣営もその点は意識しているが、一方で「左回りの東京なら割って入る隙も」と色気を見せている。

 実際、3勝している重賞はいずれも東京コースでのもの。距離は違うがダイヤモンドS(G3)でも2着するなど、東京の長距離戦では実績十分。実力が反映されやすい東京2400mではあるが、一発に期待できる1頭だ。

「△」については5番キセキ、14番ユーバーレーベン、18番ジャパンの3頭だ。

 キセキは前走・京都大賞典(G2)で3着。叩き2走目ということで上積みが見込めるのと、2走駆けするタイプなのが魅力。

 すでに7歳と急上昇は見込めないだろうが、6歳馬と8歳馬が過去10年で馬券になったケースがゼロなのに対して、7歳馬は2回だけ3着に入った実績が残っている。近走の安定した成績を加味して、勝ち負けはないまでも3着ならあり得るということで指名した。

 ユーバーレーベンは前走・秋華賞(G1)をオークス(G1)からの直行で挑んだものの、見せ場なく13着と大敗。とは言え、秋華賞組は好成績を残しており、まがりなりにもオークス馬である。やはり勝ち負けまであるとは思わないが、3着までなら十分にあり得ると考える。

 ジャパンはブルームと同じく前走はブリーダーズCターフで、0.6秒差の4着。近3走はいずれもアメリカでの出走となっているが、いずれも2400m戦。アイルランドでG3を勝ったあとにアメリカへ渡っての初戦でタイム差なしの2着に入るなど、こちらも軽い馬場への適性はあると見る。鞍上がコースを知り尽くしたレジェンド武豊騎手というのも推せる要素だ。

 2強と言われる今回のもう1頭、シャフリヤールについては迷うところではあるものの、来たらごめんなさい、のつもりでここは切りとしたい。

 ローテーション自体は前例のあるものだが、その前例を残したのが17年のダービー馬レイデオロ。シャフリヤールと同じローテーションで臨み、2着とダービー馬の意地は見せた。レイデオロとシャフリヤールの違いと言えば、前走神戸新聞杯(G2)での成績だ。

 レイデオロは勝ってジャパンCに臨み好走を果たしたが、シャフリヤールは4着。道悪という不利に加えて休み明け初戦。好条件での一戦ではなかったが、直線途中で脚が止まっての敗戦はやはり素直に評価しにくい。先週のシュネルマイスターのように、データ的には切るだけの要素があっての切り判断だ。

 ただ、鉄砲よりむしろ2走目に良績がある馬であり、そう言った意味ではここは狙い目とも言え、天皇賞・秋を快勝したエフフォーリアをこのコースで破った実績もある。勝ち負けしてもおかしいとは思わないが、負けるときはすんなり馬券圏外と見ている。

 それほどの人気にはならなそうだが、アリストテレスも切り。こちらは前走・京都大賞典で2着と実力の一端を垣間見せたが、東京コースは1回しか走っておらず、しかも適距離ではなかったとも見えるが6着と掲示板も外している。

 阪神コースなら京都大賞典の勢いに乗って、とも評価できるが、東京コースとの相性を考えるとパフォーマンスを十全に発揮できる気がしない。

 ということで、今回は2番、3番、5番、7番、14番、18番の6頭をピックアップ。馬券は2番コントレイルを軸に1頭流しの3連複10点とする。

 コントレイルを軸に据えて大丈夫か、という一抹の不安もなくはないが、3冠馬最後の意地をここで見せて有終の美を飾ってくれることを信じて、心中したいと思う。

(文=トーラス神田)

<著者プロフィール>
オグリ引退の有馬記念をリアルタイムで見ている30年来の競馬好き。ウマ娘キャラがドンピシャの世代。競馬にロマンを求め、良血馬にとことん目がない。おかげで過去散々な目に遭っている。そのくせ馬券は完全データ派。座右の銘は「トリガミでも勝ちは勝ち」。

 

モーツァルト&ベートーヴェン、極貧だったという“常識”の嘘…実は富裕層?

「晩年のモーツァルトは、浪費癖がある妻に悩まされ、極貧のなかで苦しみながら名作オペラ『魔笛』を作曲した」

「ベートーヴェンは弟たちの経済的援助をしなくてはならず、質素な生活のなかで至高の交響曲を書き上げた」

 これらは、小中学校で音楽の授業を熱心に聞いていたり、クラシック音楽に興味がある方であれば、必ず聞かれたことがある有名な話です。

 しかしながら、最初に結論を申しますと、2つとも嘘の話です。とはいえ、まったく間違いというわけではありません。

 確かに、晩年のモーツァルトは以前ほど収入がなくなっていたにもかかわらず、妻のコンスタンツェは夏になると夫をウィーンに残して近郊の温泉保養地に滞在し贅沢三昧。そこにはモーツァルトの弟子も同行しており、2人の関係も怪しいと噂されていました。そこでモーツァルトはウィーンから手紙を出し、「人前での変な行動には気をつけるように」と忠告していますが、妻は「お金が足りないから送ってほしい」と、何食わぬ顔で手紙を送ってくる具合でした。

 モーツァルトは、それまでは王侯貴族のためにだけ作曲していればよかったのに、民衆のための娯楽オペラの依頼を受けるほど、お金に苦労していたという話が伝わっています。

 ところが、妻コンスタンツェが温泉保養地に通っていたのは持病の脚の治療のため、医者に勧められたからです。同行していた弟子も、脚が不自由な奥様のために、腕を取って補助していたところを、偶然通りがかったモーツァルトの友人に見られただけかもしれません。

 そもそもモーツァルトは、当時ヨーロッパ最大の王室のひとつであるハプスブルク家の宮廷作曲家として、かなりの高給取りでしたし、ウィーン以外でも、たとえばチェコ・プラハなどではスーパースター作曲家だったので、少しくらい贅沢をしても、まったく生活に困ることはなかったはずです。そうでなければ、妻を高級保養地に滞在させることなど不可能です。何より、お金のために民衆の娯楽オペラを作曲したようにイメージされている『魔笛』も、今では“モーツァルトの最高傑作”ともいわれています。

ベートーヴェン、実は大富豪だった

 彼を苦しめたのは、妻の浪費でも、仕事依頼が減ったからでもなく、彼自身の問題でした。実は、彼はギャンブルに夢中だったといわれています。モーツァルトが通っていた高級カジノは現在も営業を続けており、一攫千金を狙うギャンブラーたちがどんどん吸い込まれていきますが、モーツァルトは一攫千金どころか、ギャンブルが最悪に下手だったのです。

 すぐに感情が表に出てしまう芸術家は、顔色ひとつ変えずポーカーフェイスが基本中の基本とされるギャンブルには向いていないと思います。モーツァルトは、ギャンブルでお金を使い果たして一文無しになって自宅に帰り、寒い部屋に入って初めて、暖房のための薪やパンも買うお金がないことに気づき、前日にお金を借りたばかりのパトロンに、「今日もお金を貸してほしい」と手紙を出すありさまでした。

 こういうモーツァルトの一面を考えると僕は、モーツァルトと同じく早世の大天才である詩人の石川啄木を思い出します。

 彼は本当にお金がなかったのですが、「ふるさとの山に向ひて、言ふことなし、ふるさとの山はありがたきかな」といった素朴な詩を書きながら、同じふるさとの岩手出身でアイヌ語の研究者としても有名な金田一京助にたびたびお金の無心をして、受け取ったお金を持ってそのまま遊郭行き、遊興三昧をしていたのです。金田一京助のご子息で言語学者の金田一春彦さんの話では、もともと貧乏な生活を送っていた金田一家は、石川啄木にお金を貸すことで、ますます苦労をしていたそうです。

 話は戻りますが、「ベートーヴェンは、辛酸をなめるような生活のなかでも、不屈の精神で数々の名作を作曲した作曲家である」と、皆さんも学生時代に音楽教師から言われたことがあるでしょうか。実際にベートーヴェンは、弟たちに対する援助や、後見人になった甥カールの素行のために、それなりに苦労したことは事実です。そのうえ、一生涯独身を貫いたベートーヴェンは、その孤独からなのか、甥に対する愛情は過度な教育熱心さとなって現れました。その結果、カールは精神的に不安定になり、非行に走るだけでなく、何度も自殺未遂を起こしてしまうのです。

 裁判を起こしてまで、実母からカールの親権を奪ったベートーヴェンですが、以前に本連載記事『貧困イメージの強いベートーヴェン、実は莫大な遺産を残していた』でも書いたとおり、質素な生涯と思いきや、実はしっかり資産を貯め込んでいました。亡くなった際の遺産は、なんとオーストリアの高額遺産額ランキング上位5%に入るくらい巨額でした。

人気作曲家の遺族には莫大な印税

 他方、『春の祭典』を作曲して大スターになったストラヴィンスキーの場合は、アメリカに移住した当初は、本当にお金に困ったようです。

 ストラヴィンスキーは、ロシアで育ち、フランスで名声を築き上げた20世紀を代表する作曲家です。ナチス台頭の影響もあり第二次世界大戦開戦直後の1939年、米ハーバード大学の依頼によって、音楽に関する講義を6回行ったのち、そのままアメリカに移住にしてしまいます。

 アメリカでも、これまでに作曲した曲の著作権で悠々と生活できると思いきや、思いがけない大きな壁にぶつかってしまいます。当時のアメリカでは、ストラヴィンスキーは亡命ロシア人として扱われて著作権を受け取れなかったのです。そこで、これまでにヨーロッパで作曲したヒット曲を少し変えて新曲として出版したり、ストラヴィンスキーの七転八倒が始まるわけです。

「レストランでは、現金で支払わずに、必ず小切手に署名をして切る。僕の署名が入った小切手ということでレストランは大切に所有するので、銀行に持っていって換金されることはないからね」と、ストラヴィンスキーが冗談か本気なのか語ったというエピソードは、今もなお、アメリカの音楽家の中に残っています。

 そんな苦労をしたストラヴィンスキーですが、残された遺族は状況がまったく違います。今もなお大人気のストラヴィンスキー作品の著作権が切れるのは2041年。それまでは印税がどんどん入ってくるため、たとえば超高級レストランに行っても、涼しい顔でクレジットカードの一回払いで支払ってしまうに違いありません。

(文=篠崎靖男/指揮者)

●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。エガミ・アートオフィス所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/