「値下げ路線に転換?」と話題のセブン-イレブンに実際の価格戦略を聞いてみた

●この記事のポイント
・フィルム包材を用いた割安な惣菜シリーズ「パックデリ」を投入。フタが付いたプラスチック容器を使用するより30~50円ほど価格を低く抑えている。
・価格訴求力・環境配慮・商品バリエーションの拡充という複数の目的を兼ね備えたシリーズ
・量目・価格・満足感の全体設計を通じて、「実質的なお得感」を高める商品づくり

 セブン-イレブンが値下げ路線を強めていると注目されている。5月にはフィルム包材を用いた割安な価格帯の惣菜シリーズ「パックデリ」を投入。フタが付いたプラスチック容器を使用するより30~50円ほど価格を低く抑えている。「カップデリ」シリーズなどのフタが付いたプラスチック容器の総菜類の一部をフィルム包材に置き換えたという見方も出ているが、セブンは「置き換えではない」と否定する。ローソンも4月、総菜類の一部商品を11~21円値下げして具材を約2割増量すると発表し、ファミリーマートも話題の「涙目シール」で消費期限の迫った総菜類を値下げして販売する取り組みを入れるなど、これまで値上げが進行していたコンビニエンスストア業界では一転して「値下げ競争」ともいえる状況が生まれつつある。そうしたなかでセブン-イレブンは、なぜこのような方法をとったのか。狙いや背景、そして今後さらに「値下げ」を深掘りしていくのかについて、同社に取材した。

●目次

ローソンは値下げと増量を同時に実施

 セブンは5月からフィルム包材を使用した総菜類として「パックデリ」シリーズを本格的に展開。現在、「セブンプレミアム 風味を楽しむ紅生姜天」(税込267.84円)、「セブンプレミアム 食感を楽しむ玉ねぎ天」(267.84円)、「丸かじりチキボン」(321.84円)、「アンチョビガーリックポテト」(278.64円)、「枝豆 沖縄の塩シママース使用」(213.84円)などを販売しており、前述のとおりフタが付いたプラスチック容器を使用する商品と比較して価格を抑えている。

 セブンは昨年頃から徐々に値下げ路線を示し始めていた。昨年7月、従来からある「味付海苔 炭火焼熟成紅しゃけ」(税込189円)の販売を継続する一方、「手巻おにぎり しゃけ」(138.24円/現在は149.04円)を発売。税抜価格は128円で120円台に抑えた。このほか、「手巻おにぎり ツナマヨネーズ」を138.24円(現在は149.04円)で発売したが、従来151.20円で販売していた同名商品からの切り替えとなるため、事実上の値下げを行った。9月には、手頃な価格の「うれしい値!」商品を200アイテム以上に拡充。牛乳やポテトサラダなどPB「セブンプレミアム」の一部商品も「うれしい値!」商品として扱いを始めた。もっとも、今年1月には「うれしい値!」の対象商品も含めて一部商品を平均で約10%値上げしており、試行錯誤を続けている様子がうかがえる。

 値下げの動きは競合他社もみせている。ローソンは4月、「たまごサンド」を21円値下げして279円に、「ハムたまごBOX」を11円値下げして354円にした。加えて、具材の「たまごサラダ」の使用量を従来品と比較して約2割増やした。さらに品質も改良。「たまごサラダ」の酸味をやわらげ、たまごの風味をより感じられるものに変更し、口当たりがソフトになるようにパン生地の配合も見直した。5月にはパン生地を大きくした「大きなサンドイッチ」を発売。具材も増量し、従来の類似品と比較して約100g重量が大きく、1gあたりの価格も下げた。さらにローソンストア100も、おにぎり類の約4割に当たる商品を最大10%値下げするとも発表した。

「国内のセブン事業は、売上は横ばいが続いており悪くはないものの、前年度(2025年2月期)は既存店の客数が前年同月比マイナスとなった月が4カ月、売上高が同様の月は5カ月となった点は本部としては見逃せない動きでしょう。また、全店の平均日販の伸び率をみてみると、ローソンが前期比3.2%増、ファミマが0.7%増で、セブンが0.1%増にとどまっている点も気がかりでしょう。実質賃金の低下で消費者の懐が厳しくなるなか、特に首都圏では低価格がウリの小型スーパー『まいばすけっと』が出店攻勢をかけて増えているという動きもあり、コンビニはこれまで以上に『顧客に足を運んでもらう』ための努力が求められていますが、逆にいうと顧客が来てくれさえすれば一定の売上は維持できるものです。

 今回のセブンの新シリーズ投入も、“最近、セブンの総菜って安くなったよね”と顧客に認知してもらい来店のきっかけを増やすのが目的だと考えられます。顧客側に食べる際に食器を用意しなければならないという手間が増えるものの、量も含めて中身が変わらないまま価格が安くなるのは純粋に嬉しいことでしょうから、非常に良い取り組みだと感じます」

「手に取りやすく、日常的にご利用いただける価格帯の惣菜」を提供し続ける

「パックデリ」シリーズ投入の背景について、セブンは次のように説明する。

「まず、前提としてご説明させていただきます。今回の取り組みは『フタ付きのプラスチック容器の商品をフィルム包材に置き換える』ものではなく、既存のカップ型容器を用いた商品(いわゆる「カップデリ」シリーズ)を継続販売しつつ、新たにフィルム包材を用いたより手ごろな惣菜シリーズ『パックデリ』を展開するものです。この新シリーズ導入の背景には、昨今の原材料や包装資材価格の高騰もございます。そうしたなかでも、お客様にとって『手に取りやすく、日常的にご利用いただける価格帯の惣菜』を提供し続けるための一つの選択肢として、よりシンプルな包装形態の商品を拡大することといたしました。

 フィルム包材の採用により、フィルムの状態で工場に納品され、工場でパック型に成型するため物流効率に優れております。また、カップタイプと比較してプラスチック使用量の削減にもつながる点は、環境負荷軽減の観点からも意義があると考えております。今回の『パックデリ』は、価格訴求力・環境配慮・商品バリエーションの拡充という複数の目的を兼ね備えたシリーズであり、既存の『カップデリ』とあわせて、より幅広いお客様ニーズに応えてまいりたいと考えております」

「パックデリ」の拡充の主な目的は「値下げ」なのか。

「『価格の抑制』は一つの目的ではありますが、あくまでお客様にとっての手に取りやすさ(=値ごろ感)を維持することが主眼です。同時に、環境負荷の軽減や、この包材だからこそできる商品設計の工夫といった複数の視点を持って検討・導入しており、単なる値下げ戦略ではございません」(セブン)

「実質的なお得感」を高める商品づくり

 フタ付きのプラスチック容器と比較し、どれくらいの価格低下効果があるのか。

「容器の資材コストとしては、カップタイプとの比較で約2割のコスト削減につながっております。包材の見直しだけでなく、調理工程や商品設計の工夫も含めた総合的な取り組みの結果、シリーズ全体としては30~50円程度、価格を抑えて提供することが可能となっております」(セブン)

 では、競合他社が容量据え置きのままでの値下げや、容量増加による事実上の値下げなどの動きを強めるなか、セブンは事実上の値下げを進めていく方針なのか。

「当社では、5月13日より『お値段そのまま!人気商品増量祭』を開催しております。こちらは、対象となる人気商品について価格は据え置いたまま内容量を増量することで、お客様に実質的な値下げ実感と満足感を提供する期間限定のキャンペーンです。日々のご利用の中で、少しでも『お得さ』を実感いただけるよう、価格以外の価値で還元する取り組みとなっております。

 このような販売促進企画に加え、当社では日頃よりお客様の日々の食卓を支える存在であり続けることを目指し、価格だけに依存しない、総合的な価値提供を重視しております。量目・価格・満足感の全体設計を通じて、『実質的なお得感』を高める商品づくりに努めており、容量増加や仕様変更などによる価値の見直しも、今後の商品特性やお客様のニーズを踏まえて柔軟に検討してまいります」(セブン)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

もしOpenAIがグーグルからクロームを買収すると私たちのウェブ体験が激変?

●この記事のポイント
・米OpenAIが米グーグルのウェブブラウザ「Chrome」事業の買収を検討していることが判明し、その成り行きが注目されている
・インターネットの入り口としてのクロームが、OpenAIの戦略上、価値が高い
・もし仮に実現すれば、OpenAIはChatGPTを標準の検索エンジンのような位置づけにする可能性

 米OpenAIが米グーグルのウェブブラウザ「Chrome(クローム)」事業の買収を検討していることが判明し、その成り行きが注目されている。昨年8月に米連邦地裁がグーグルが反トラスト法に違反しているとの一審判決を出し、先月(4月)から再び裁判の審理が行われており、司法省はグーグルに対してクローム事業の売却を要求している。その審理のなかで出廷したOpenAIの幹部が、クローム事業の買収に興味を持っていること、そして過去にグーグルに対して検索技術に関する協業を持ち掛けたが合意に至らなかったことを明かした。OpenAIがクローム事業の取得を狙っている理由は何なのか。また、もし仮にOpenAIがクローム事業を取得した場合、どのように技術開発・ビジネスに活用していく可能性があると考えられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

圧倒的に大きな規模のチャネルを手に入れられる

 世界のウェブブラウザ市場におけるクロームのシェアは6割を超えており、司法省は独占状態にあるためグーグルはクローム事業を売却すべきだと主張している。一方、グーグルは、クロームは自社の他のサービス・ハードウェアと密接に結びついているため、分離すると消費者の利便性が損なわれると主張し、反対している。

 生成AIモデル・ChatGPTの開発元であるOpenAIが、クローム事業の買収に興味を持っている理由は何なのか。エッジAIプラットフォーム「Actcast(アクトキャスト)」を提供するIdein株式会社の中村晃一CEOはいう。

「ChatGPTは基本的にはブラウザベースで使うものなので、まず圧倒的に大きな規模のチャネルを手に入れられるという点があげられます。生成AIの普及で従来のウェブ体験が再定義されるという言説が最近、盛り上がっていますが、どういうことかというと、ウェブサービスの画面みたいなものがなくなって、基本的にはユーザは直接AIエージェントに問い合わせて、AIエージェントからサービスの機能やデータを持つMCPサーバーにダイレクトにアクセスするかたちになるという見方です。もし仮にOpenAIがクロームを取得すると、これが現実的に広がり、ブラウザをメインとする従来のウェブ体験そのものが刷新される可能性はあるかもしれません。ですので、インターネットの入り口としてのクロームが、OpenAIの戦略上、価値が高いのでしょう」

 では、仮にOpenAIがクロームを取得した場合、どのような活用・取り組みを進めると予想されるか。

「まず、クロームに標準搭載されているグーグルの検索エンジンをChatGPT独自の技術に入れ替えるといったことを進め、将来的にはクロームでのすべての検索についてChatGPTを通過させるようにするでしょう。要するにChatGPTを標準の検索エンジンのような位置づけにするということです。ブラウザというのは日々、膨大な量の情報を扱っており、そのデータにOpenAIはアクセスしたいでしょうから、例えばブラウザにAIアシスタントみたいなものを標準搭載して、ユーザがブラウザで見ている内容をサマリー・解説して返すとか、すぐにグラフを作成して表示させるといった、新しいユーザ体験をつくるかもしれません。こうしたサイクルによって、OpenAIとしてはChatGPTのユーザが増えますし、大量のデータも手に入れられる。そういう仕掛けを狙っているのかなと思います」(中村氏)

ユーザ体験が良くなるのかどうかは分からない

 インターネットの世界、もしくはユーザにとって想定されるデメリットはあるのか。

「従来の検索エンジン、ブラウザよりも、よりパーソナルデータにアクセスして、より高度な処理をするというかたちになっていくので、そこに対する懸念は高まるかもしれません。そのほか、今ほとんどのネットユーザがグーグルのブラウザに親しんでいるわけで、そこにChatGPTの検索エンジンがポンと入ってきたときに、ユーザ体験が良くなるのかどうかは、誰にも分かりませんし、損なわれる可能性はあるかもしれません」(中村氏)

 AI検索をめぐっては、その普及によって従来のネット検索におけるSEO対策が、あまり意味をなさなくなってくるのではないかという議論も出始めている。

「その傾向は出てくると思います。理由の一つは、AIエージェントは一瞬の間に裏で数十回の検索をかけているので、相対的に人間がやる検索よりもAIエージェントが行う検索のほうがボリュームが大きくなります。あとは、それだけAIエージェントというものが一般生活者によって使われるのかという話になりますが、あくまで私の実感としては、私自身や弊社の社員は、現在でもすでに、何か迷ったらとりあえず生成AIに聞いてみるという行動スタイルになっており、そういう行動習慣が広まると、その分だけブラウザ検索を利用する時間は減ることになります。現時点ではSEO対策の意味がないというところまでは減ってはいませんが、止められない流れではあると思います。そうなってくると、ユーザがAI検索を行った際に裏側でいかにMCPサーバーに価値のある情報を提供できるのか、といったかたちで、ウェブサービス側の戦い方が大きく変化してくる可能性はあるでしょう」(中村氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中村晃一/Idein代表取締役CEO)

備蓄米、20万トン放出開始=申請から3日で小売業者に―「官製値下げ」へ急ピッチ

 随意契約による備蓄米の放出が29日始まった。生活用品大手アイリスオーヤマ(仙台市)のグループ会社の亘理精米工場(宮城県亘理町)に同日午前、12トンがトラックで運び込まれた。申請受け付け初日の26日に同社が1万トンの売り渡しを申し込んでから、わずか3日。競争入札を通じたこれまでの放出に比べ、格段に早く小売業者の手元に届いた。農林水産省は29日、大手小売業者61社による計約22万トンの申し込みが確定したと発表した。

 アイリスの精米工場では、田中伸生管理本部長らが備蓄米の到着を待ち受けた。田中氏は「最初に店頭に並べたいという気持ちで取り組んできて、きょうにこぎ着けた。1回目は限られた量だが、第2弾、第3弾と入荷次第早く店頭に並べたい」と話した。

 備蓄米の品質検査を経て、精米と袋詰めに着手。パッケージには「政府備蓄米」のシールが貼られた。29日午後1時に開始した自社の通販サイトの予約販売は、45分程度で受け付け終了となった。店頭では6月2日に5キロ当たり2160円で販売を始める予定だ。

 楽天グループは今月29日、随意契約で購入した備蓄米を、直営サイトなどを通じて5キロ2138円で販売を開始。一部のサイトでは開始直後に売り切れとなった。LINEヤフーも同社が運営する「ヤフーショッピング」内の特設サイトで販売を開始したが、すぐに完売した。価格は5キロ1998円。

 政府が3~4月に入札を実施した備蓄米は集荷業者や卸売業者を経由するため、店頭に並ぶまで時間がかかっている。3月に落札された備蓄米21万2132トンのうち、4月下旬時点でスーパーなど小売店に届いたのは約7%にとどまっていた。

 備蓄米の購入を契約した大手小売業者の一部も6月初旬の販売を目指しており、コメの「官製値下げ」に向けた作業が急ピッチで進んでいる。ただ、自前の精米設備を持っていない小売業者は、卸売業者などに委託せざるを得ない。ある小売り大手は「調整に時間がかかる」と明かした。

 一方、随意契約を結べなかった企業も出た。農水省が公表した申し込み確定の事業者リストに、ファミリーマート、セブン―イレブン・ジャパン、ローソンのコンビニ大手3社の名前はなかった。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/05/29-21:23)

アパレルチェーン化するファミマ、「コンビニエンスウェア」大ヒットの秘密…ミリ単位でこだわり

●この記事のポイント
・ファミマの「コンビニエンスウェア」、売上高130億円規模に成長
・有名デザイナーを起用しており、ファッション性・機能性の高い点が特徴
・デザイン、品質にこだわった日常使いできる商品を開発することで、『コンビニで衣料品を買う文化』をつくる

 コンビニエンスストア・ファミリーマートのアパレル商品「コンビニエンスウェア」が快進撃を続けている。これまでコンビニで販売されていた衣料品は「急に必要になったときに、とりあえず間に合わせるためのもの」という性格が強かったが、ファミマのコンビニエンスウェアは有名デザイナーを起用しており、ファッション性・機能性の高い点が特徴だ。2021年の全国販売から今年で5年目を迎えるが、今年度(25年度)はコンビニエンスウェアの売上高200億円を目指すほどに成長。もはやファミマはアパレルチェーンといっても過言ではない存在になりつつあるが、同社がアパレル品に注力し始めた背景・理由は何か。また、商品企画・開発において独自の取り組みなどは行っているのか。ファミマに取材した。

●目次

「コンビニで衣料品を買う文化」をつくる

 色彩感が溢れたコンビニエンスウェアのコーナーは通常、ファミマに入店するとすぐに目につく棚に設置されており、Tシャツやジャケット、ポロシャツ、インナー、パンツ、ソックス、トートバッグ、キャップ、ハンカチなど、アパレルのカテゴリーは一通り揃っている。少し前にはファミマのロゴである緑の青の線がデザインされた「ラインソックス」が話題になったが、今治タオルハンカチやフォトTシャツをはじめデザイン性に優れた商品が多数そろっているのが特徴だ。コンビニエンスウェアはファミマにとっては重要なカテゴリーとなっており、25年2月期の売上高は約130億円に上る。

 そもそも、なぜファミマはコンビニ業界では珍しくアパレル品販売に注力するにいたったのか。同社はいう。

「今までコンビニの衣料品は『緊急需要』に対応した商品内容でしたが、デザイン、品質にこだわった日常使いできる商品を開発することで、『コンビニで衣料品を買う文化』を作ることができると考え、展開を始めました」

 25年2月期のコンビニエンスウェアの売上が前期の1.3倍になるなど大きく伸長している要因について、どのように分析しているのか。

「毎年130%で伸長し、24年度の売上は130億円を超えました。『いい素材・いい技術・いいデザイン』のコンセプトのもと、老若男女が日常使いできる商品を品質、デザインにこだわり、世界的デザイナーの落合宏理さんと共同開発している点が、お客さまに評価いただいていると感じます。さらに、ジップアップジャケットのアウターから、キャップ、サンダルまで、全身コーディネートができるほどラインアップも拡充しており、現在は約100種類ほど展開。コンビニエンスウェア立ち上げ以前は男性客がメインでしたが、現在では半分以上が女性客となっています。今までコンビニで衣料品を購入していなかった若い層にも購入いただけるようになりました。コラボ商品(グローバルブランド(ネットフリックス)、地域密着(カープ、琉球)など)は反響が大きいです。コンビニエンスウェアの新しいファンになっていただくきっかけにもなります」(同)

ラインの幅をミリ単位でこだわる

 各商品の品質には強いこだわりを持っているという。

「ラインソックスはシンプルなデザインで、ラインの幅をミリ単位でこだわっています。履き心地にもこだわっており、足底はパイル編み仕様でクッション性が高い点がポイントです。抗菌防臭加工も施しています。アウターTシャツはサステナブルなUSAコットン100%にこだわり、素材感、透け感、リブの幅、ステッチ、サイズ感、襟ぐり、肩の落ち方などをミリ単位で調整しています」(同)

 商品企画・開発・製造・セールスにおいて、ヒット商品を生むために何か独自の工夫やプロセスなどを導入しているのか。

「コンビニエンスウェアは入口近くでの設置を推奨しており、什器上の『トップボード』には、コンビニエンスウェアを着たモデルを展示し、イメージが付きやすいようにしている他、この春からはハンガーでの展示も実施し、質感が分かるようにしています。限られた売場スペースの中でどのように展開していくかが課題で、コンパクトに畳んで陳列することや、そのなかで商品の良さを伝えられるようパッケージも工夫しています。また、パッケージは、環境配慮素材を使っており、ジップ付きで、小物入れなどとして再利用してもらえるように使いやすいデザインにしています」(同)

 どの商品が売れ筋なのか。

「ソックス類、今治タオルハンカチ、アウターTシャツが人気です。ソックス売上累計は約2400万足(25年2月末時点)であり、アウターTシャツ(色違い、サイズ違い含めて)は年間約150万枚を販売しております」(同)

 今後のアパレル事業に関する事業展開・戦略をどう描いているのか。

「25年3月に発売した『ブラウェア』は1カ月で1万枚販売し好評です。今後も婦人インナーを強化していきます。『コンビニで衣料品を買う文化』が定着することを目標としており、洋服を買う場所として、『目的買い』となる商品を衣料品以外にも拡大させていき、多くのお客様にご来店いただきたいです。また、今後ますます増加が見込まれるインバウンド客もしっかり取り込んでいきたいです」(同)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

SNSネイティブの若者が求める「つながり」とは?

電通若者研究部(以下、電通ワカモン)は、Z世代の学生と「ツギクル」ワークショップを実施。「次に来る○○のかたち」というテーマで大学生のリポートをもとに仮説の構築をしています(「ツギクル」ワークショップの記事は、こちら)。

今回はいつもの連載記事とは形を変え、対談形式でお届けします。ゲストは、若者に人気のテキスト通話アプリ「Jiffcy」を開発した西村成城氏。電通ワカモンの結城拓也氏が、次に来る「若者のコミュニケーションのかたち」について伺いました。

お二人の話から、「身近な人との深いつながり」と、デジタル上で「相手が目の前にいる感じ」を、若者はコミュニケーションで求めていることが見えてきました。

電通若者研究部


 

つながりの「量」ではなく「質」を求める若者たち

電通若者研究部
出典:電通若者研究部オリジナル調査(2024年12月実施/全国の高校生~社会人20年目までの未婚男女2000人を対象に行ったウェブ調査)

結城:電通ワカモンで実施した最新の自主調査では、「友達とのつながり」に関する設問も聴取しました。その結果、「なんでも言い合える友達がほしい」「仲の良い友達とはずっとつながっている感がほしい」という回答が、社会人より高校生の方がかなり高いスコアになりました。若者ほど「つながりの質」を求めている傾向が明らかになっています。SNSのフォロー・フォロワー数の見える化によってつながりが定量的に測られてしまうことが当たり前の昨今において、身近な人とつながっている実感や、どれだけ深くつながれるかに価値を見いだしているのでは、と。西村さんは、今の若者のコミュニケーションをどのように捉えていらっしゃいますか?

西村:つながりの量が増えることに価値を見いだす人もいるとは思いますが、つながりの質の向上を求めている若者が多いというのは、私自身も感じていることです。そうしたときに、誰かとつながるツールは世にあふれているけれど、特定の相手とのつながりを深められるツールが足りていない現状があると感じています。

結城:たしかに。例えば、Instagramでは、特定のフォロワーだけに投稿を限定公開できる「親しい友達」機能があります。この機能は、安心して素の自分を投稿できる場を提供することが目的だったと思います。ところが、使っていくうちにユーザーは「親しい友達」が増えていき、もはや親しくない人にも公開するようになっていたりする。

このような状況を見て、電通ワカモンは、「若者は親しい人とだけ安心してつながれる別のアプリを探すという連鎖に陥っているのではないか」と考えました。親しい人とのつながりを深めるツールを探し求める中で、若者たちがたどり着いた一つの答えがJiffcyなのかなと思っています。改めてJiffcyの概要について教えていただけますか。

西村:Jiffcyは一言でいうと「声を出さずに通話できるアプリ」で、私たちは「テキスト通話アプリ」と呼んでいます。

Jiffcyには大きく二つの機能があります。一つは、電話を掛けるように相手を呼び出し、声ではなく、テキストで会話をする機能。もう一つは、送信ボタンはなく、トーク画面で打っている文字が1文字ずつリアルタイムに表示される機能です。

入力した文字が1文字ずつ表示されて、知らない人とトークできる類似アプリはありますが、電話を掛けるように呼び出す形をとっているのは、今のところJiffcyだけだと思います。

Jiffcy

結城:ユーザーは、主にどういった人たちですか?

西村:メインユーザーは中高生や大学生で、その多くは、親友同士や家族、パートナーとのコミュニケーション手段として利用いただいています。友達同士だと、クラスLINEなどもあったりすると思うのですが、Jiffcyはその中でも特に仲の良い3~4人で利用されています。

利用シーンとしては、電車内や夜間など、声を出しにくい状況下で電話の代わりにリアルタイムでチャットをするイメージです。わざわざ相手を呼び出し、リアルタイムでコミュニケーションするので、親しくないと間がもたずに気まずくなることがあります。ですから、とても近しい関係性のある人同士が利用しています。

結城:LINEやInstagramのアカウントを教え合うことは、誰かと知り合ったタイミングで関係性構築の第一歩として起こり得ることかと思います。それに対してJiffcyは、いつでも電話し合える仲だとお互いに思っていることが前提のうえで利用されているということですよね。

西村:そうですね。今世の中を見ると、かつての「世界のことはわからないから身内の絆を大切にしよう」という時代から、SNSなどを通じて世界中のことを知ることができるようになったからこそ、改めて「身近な人たちとのつながりを大事にしよう」というところに皆が回帰していると思うんです。

結城:なるほど。常にSNSに接続していることが当たり前な中で、不特定多数とのつながりは時に遮断し、うまく距離を取りたい。ただ、そのぶん、身近な人との関係性をもっと豊かにして安心したい。その一つの解が、Jiffcyなのだと感じました。

西村:今さら広い世界とのつながりを遮断することはできないと考えると、今後、より身内の絆を大事にしようという動きは強まっていくのではないでしょうか。テクノロジーの力で、物理的に離れていても、体験としては対面と同じような環境を作り出す。それにより、気遣いや遠慮のいらないコミュニケーションができる場所を用意することが、今私たちがやるべきことだと思っています。

西村成城


 

オンラインと対面で、コミュニケーションの仕方が変わる若者たち

結城:西村さんは、Jiffcyの開発当時から、現代の若者のコミュニケーションの在り方や課題感を意識されていたのでしょうか?

西村:実はJiffcyはマーケット調査などを経て開発したのではなく、自分がほしいもの起点で開発がスタートしました。なので正直、開発のタイミングで、ターゲットを若者に絞っていたわけではありません。

開発のきっかけを少しお話しすると、大学時代に起業し、卒業後もそのまま自分の会社を続けることにしたものの、3年間ほどサービス開発がうまくいかず、精神的に弱っていた時期がありました。さらにコロナ禍になり、仲の良い友人とも気軽に会えない環境になってしまって。当時一人暮らしをしていたのですが、落ち込んでいて、誰かに話を聞いてほしいけれど、急に電話をしたら迷惑かな……とか、いろいろ考えてしまい、電話をかけるのは精神的ハードルが高いと感じたんですね。

でも、テキストでコミュニケーションをしようとしても、返事が返ってくるのが6時間後とかで。「今、話せる?」と送った6時間後に「どうしたの?」という返事が来ても、「いや、ごめん、何でもない」となってしまって。そのときに、対面と同じように話せるけれど、精神的ハードルが低くて、相手に負担をかけないコミュニケーション手段はないだろうかと思ったことが、Jiffcyのアイデアにつながりました。

結城:コロナ禍のコミュニケーションでご自身が悩んだ経験が、着想のきっかけになったんですね。

西村:そうですね。Jiffcyのプロトタイプは、アプリを立ち上げたら友達全員に通知が飛んで、応答してくれる人がいたらその場でトークが開始できるというものでした。

ただそうすると、トークが全然成り立たなくて。そもそも通知に気付かなかったり、気気付いたとしても出てもらえない。その問題を解決するために試行錯誤する中で、電話で呼び出してテキストでのトークを開始する機能を実装したところ、ユーザーヒアリングで「声を出さずに電話をしているみたい」という声があり、Jiffcyのコンセプトが固まりました。

今思うと、最近の若い方たちは、空気を読む力に長(た)けていますよね。SNSを筆頭に、全方位に配慮したコミュニケーションが求められる中で、より相手に負担をかけない選択肢を求めていたのではないでしょうか。後付けですが、相手の状況に配慮しながらコミュニケーションが取れる点も、Jiffcyが若者から選ばれている理由の一つなのだと思っています。

結城:たしかに、特に学生時代にコロナ禍を経験した若者たちは、オンラインコミュニケーションで気を遣い合うことが当たり前で、得意でもありますよね。それゆえ、人の心に自分から踏み込むことができないし、する必要もないと思っている。相手と絶妙な距離感を保つことも、若者世代の特徴なのかなと感じています。

西村:おっしゃる通りで。学生と接していると、オンライン上のコミュニケーションでは予防線を張っているなと感じます。

たとえばLINE上で、今、皆が行っているコミュニケーションって、文章を作って送信する中で、いかに誤解を与えないようにするかというものなんですよね。文章の内容を試行錯誤したり、返信するタイミングによって、がっつき度合いを調整したり。SNSの投稿でも、親しい人だけに見せたいけれど、今まで見せていた人を突然省くと気まずくなるかな、といった読み合いがあったりすると思います。

でも対面で会うと、遠慮なく楽しそうにしゃべっているし、ふざけ合ったりしていますよね。私としては、「物理的な距離によってコミュニケーションが変わるのは変ではないか?」と思っていて。物理的な距離というたった一つの変数の存在によって、仲の良い度合いが変わったり、相手に誤解を与えるかもしれないと遠慮して遠回りなコミュニケーションをしてしまう状況をなくしたいんです。

結城:物理的な距離と、それによって生まれる心の距離を埋められるツールを今の若い世代は求めているということですよね。

結城拓也


 

オンラインでの濃いコミュニケーションに必要なのは「相手がそこにいる感」

結城:少し話は変わりますが、デジタルネイティブ世代である今の若者たちは、SNSのリスクなども無意識に身に付いていると考えています。実際にワカモンの調査データでも、「一度投稿したものをネット上から抹消することは難しいと思う」というスコアがとても高くなっていました。

電通若者研究部

結城:常に炎上やデジタルタトゥーのリスクを想定しながらコミュニケーションを取る若年世代の特徴は、サービス開発における一つのポイントにもなり得るのではないかと考えています。

西村:私もそう考えていて。オープン型のSNSは若者のリスク回避意識が真っ先に適用され、全体のユーザー数は長期的には減っていくのではないでしょうか。

一方で、写真共有アプリのBeRealなどのように、クローズドなことが保証された場所であれば、無加工や場所が特定できるような写真も投稿していますよね。つまり、クローズドな場所になればなるほどリスクの意識は薄れていって、テキスト・画像関係なく、素の自分を見せ合うような濃いコミュニケーションをするようになると思うんです。

ですから、セキュリティ上の安全性の確保は大前提として、いかにクローズドな場所だという立て付けを示せるかが、今後重要になってくると思っていますし、私たちが進みたい方向でもあります。

結城:なるほど。最新の調査データでも、「本音を言い合える相手がほしい」というスコアが高い一方で、「本音を人に話すことはリスクである」というスコアも高く、「友人と本音で付き合いたいが、リスクを考えると本音で話せない」という若者ならではの葛藤が浮かび上がってきました。

電通若者研究部

結城:濃いコミュニケーションができる、本音で言い合える場所って、若者が希求しているものである一方、実現できるツールが足りていないという側面もあるように思います。その点、Jiffcyでは今後どのように応えていくのか、展望をお伺いしたいです。

西村:私たちとしては、若者世代はオンラインでも「本物のコミュニケーション」を求めていると思っているんですね。じゃあ本物のコミュニケーションが何なのかというと、「いかに相手がそこにいる感を生み出せるか」だと私は考えています。

Jiffcyのコアな価値もそこにあると思っています。入力した文字が1文字ずつ表示される機能がまさにそうで。電話で呼び出して、同じトークルームにいても、文章を送信する形式だったら、「本当にいるのかな?」と不安になってしまうと思うんですよね。

結城:私も実際にJiffcyを利用してみたのですが、テキスト通話をしている間は、確実に相手がJiffcy上にいることが保証されている。確実にその人とつながっているという安心感がとても心地良いと感じました。

西村:街を歩いていて、知らない人と突然話し始めるようなコミュニケーションって、あまり一般的ではないですよね。どちらかというと求められているのは、知り合いとすれ違ったときに10分ぐらい話してしまう現象の実現かなと思っています。

結城:いわゆる学校で会って、「よっ!」ぐらいの感じですよね。廊下ですれ違って、「今から教室移動だわ~」というところから生まれるコミュニケーションって、対面でしかあり得ないもので。でも毎日の「よっ!」が、実は自分にとって大事なものだったりして。

会話はなくても、何回か顔を合わせるうちに何となく心の距離が少しずつ近づいていって、何かのタイミングで話したりする。そんな距離の詰め方をデジタル上で実現できると魅力的ですね。本日はありがとうございました。

電通若者研究部

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そうだ!家業があるじゃないか! ソーシャルイノベーション推進基盤となる、地域企業が持つ「社会関係資本」の厚み

beyondカンファレンス

「国生み神話」の淡路島で進む「裏万博」構想に地方創生2.0(※1)の兆しを感じる

NPO法人ETIC.が中心となり、各企業を巻き込んだコンソーシアム、and Beyond カンパニーが主催する「第4回Beyondカンファレンス」に参加した。初回の参加はできなかったものの、第2回では日本でも定着し始めた「コレクティブインパクト」の現状を知り、また第3回では地方創生を支える「関係人口」という言葉の実態に気づかされるなど、毎回発見の多いイベントだ。参加する企業、団体、そして学生を含む個人はいずれも自身のスキルやノウハウを背景に、社会課題解決、すなわちソーシャルイノベーションを目指す気概を持ち、それを実現・加速させるための知識共有や、共創の仲間づくりのためにこの場にリアルに集うのだ。今回迎えた第4回は兵庫県の淡路島で2日間にわたって開催され、延べ400人弱が参加した。

※1 地方都市2.0:人口減少や東京一極集中といった構造的な課題に対し、これまでの地方創生の成果と反省を踏まえた上で、地域が主導し持続的に発展する「自立・分散型社会」の実現を目指す政策ビジョン。地域資源や文化、自然を生かした付加価値の高い産業づくり、企業や人材の地方への分散、デジタル技術の活用、産官学金労言の連携を通じて、多様な幸せを実現することを目的としている。
 
beyondカンファレンス

以前も述べたが、このカンファレンスは登壇者の一方的な情報提供では終わらない。必ず各グループの現在の活動状況報告の後に、当該案件の未来についての投げかけが続き、その問いに対して会場が一体となって議論する場へと変わる。はじめは整然と並べられたイスや机も、壇上からの問いかけの途端にその隊形を崩し、各所で車座のグループが複数出現する。語られたアイデアはその実効性を各参加者の視点から測られ、また実現のための役割分担のネットワーキングへと移行する。中には自ら複数の役割を買って出る人もおり、あれよあれよという間に新たな顔ぶれで拡張プロジェクトが再始動するのだ。

参加者の言葉を引用すれば、企業に属さぬ個人の立場の方が、各所への忖度なく、よりシンプルでスピーディな結論を出せるとのことで、それがとても気持ちいいらしい。はてさて、人が集まれば要らぬ軋轢が発生するのは必定だが、ここではそんな曇り顔は一つも存在しないようだ。

beyondカンファレンス

beyondカンファレンス
メイン会場もセッション直後に小グループに分かれ、講演項目についての意見が交わされ、またその次のステップには何が必要かが議論された

昨今、企業や団体は社会の要請に応え、社会課題解決に一企業市民として取り組むべしという風潮がある。そしてどの企業もその任を果たそうとしているのは喜ばしい限りだ。しかし、企業の持つ実行力には定評があるものの、やはりそのスピード感、あるいは大企業ならではの諸事情というやつがけっこうな足かせになっていることは多いと、イベント参加者らは口をそろえて言う。しかしここに参加した個々人は、すでにその肩書を脱ぎ捨て、さらに企業の枠をはみ出しており、社会課題解決に向けたこの場の創発の楽しさが忘れられなくなっているようだ。

また今回のカンファレンスでは、現在開催中の大阪・関西万博会場に近い淡路島を舞台に、日本の魅力を異なるレイヤーで伝える「裏万博」構想が打ち出されている。人の流出が激しい淡路島にインターンで人を呼び、二拠点居住などを通じて島への定住化、地元企業への働き手としての参画を推進する淡路ラボが共催として参画、初日は淡路島で事業拡張を目指す12事業者を訪ねるフィールドワークが実施された。

「裏万博」構想では、表向きの華やかさよりも、地元ならではの視点とコミュニティの力で、地道だが確実に歩みを進める地域の事業体のリアルな姿を伝え、共感と学びの場としていきたいという。淡路島全体を舞台として、地元活性化の実践事例を知る機会をつくり、また同様の試みが各地域に持ち帰られ定着することを目指しているようだ。万博のような強力なコンテンツがダイナミックに人を呼び込む力を発揮する一方、各地域ならではの独自コンテンツで共感を紡ぎ、中長期のつながりを醸成していくという目論見が定着していけば、これまでとは異なるインバウンド活性化にも期待できるかもしれない。

フィールドワーク
フィールドワーク
フィールドダイアログ型のセッションでは、淡路島で新たな形でビジネス展開する12の事業所を訪問し、そのきっかけや苦労、これからの期待などを聞きつつ、その拡張のための作戦をグループで話し合った

地域特化の経営指針が社会変革をリードする

そんな中、今回特に注目したのが地域に根付く企業が仕掛ける地元経済活性化のための取り組みだ。それは表面的に思いばかりが語られる地域貢献ではなく、まさに地域行政、地元コミュニティと一丸となって繰り出される行動実績であり、これまでとは一線を画すものに思えた。

筆者は日常業務としてコーポレートコミュニケーション(企業広報)に携わることが多く、特にグローバルな潮流として根付いたソーシャルグッドな各所の取り組みについて企業に共有して回るなどしている立場だ。企業の社会的存在意義を広く社会に示すことがこれからの企業価値、すなわちソーシャルバリューを高めるための唯一の手段と考えて提案行脚しているのだが、今回見聞きした地元企業の「地域ファースト」の行動はそもそもの接点が広く、また深く掘り下げられたものもあり、とても具体的で新鮮に映った。

常日頃説いている利他的行動の重要性理解やソーシャルイノベーションへの取り組みがイメージではなく、手の届く範囲で進行しており、彼らはとっくのとうに経済的価値から社会的価値の創出へと舵を切っているように思えた。まさに地元密着の二人三脚、いや三人四脚といった複層的な共創が行われており、とても興味深いのだ。地域の企業同士が協力し合い、新たな価値を共創する動きが加速し、複数企業や団体、ひいては個人もそこに加わり、それぞれの強みや役割を掛け合わせるための「地域活性化の起点」となっている。

なぜ、日本全国、ひいてはグローバルにもビジネスを広げるいわゆる大企業よりも、これら地域密着企業がスピーディに動くことができ、また共創仲間にも恵まれるのだろうか。実際に地元でそれらの活動を推進する企業の事例を聞く「渦潮セッション」の一コマで語られたその理由について紹介していきたい。

セッション

「地域企業の共創、地域経営の進化」をテーマに始まった同セッションでは、編集者であり、同志社大学客員教授の中嶋愛氏の投げかけから始まった。「地方創生や災害復興など、地域が外部からの協働者を迎え入れるときによくあるのが『あやしくない?』という問題です。『あのNPOってどういう人たちなの?』とか『東京から来る大企業の人たちって本当は何が目的なの?』といった、お互いを知らないがゆえに生じる感情的な壁ですね」

強固な実行力を持つ大企業や、広範なネットワークを持つNPOは地域課題解決の協働者として期待されるものの、実際に顔を合わせてみると、地域住民からすればやはり少し距離を感じることが多いという。初対面の探り合いでは、相手が何物なのか、どこまで本気で取り組んでくれるのかを懐疑的に見てしまうという、まさにありがちなシチュエーションが存在するわけだ。

「そうだ!家業があるじゃないか!」

「この怪しい問題を回避する非常に有効なアプローチが、地域企業をまきこむこと」と中嶋氏は言う。地域企業の多くは地元で創業し、長年地域コミュニティと共に共生してきた「家業」である。

家業

そのトップは地元の名士であることも多い。地元の名士ということは、地域経済の発展に寄与しつつも、それは経済的貢献のみならず、まさに企業市民として根付いた、地域で頼りにされる拠り所的な存在。いわゆる「顔役」と呼ばれるやつだ。実際のところ、地元に根付いた家業は、その歴史から地元の「信頼」「規範」そして「ネットワーク」をすでに有しているのはご承知の通りだ。そして実はそれらは「社会関係資本」と呼ばれる、地域企業だからこそ持てる一つの財産と言える。

そもそも「社会関係資本」とは、人と人の関係性そのものを資本として捉える考え方だ。英語では「ソーシャルキャピタル」といい、米国の政治学者、ロバート・パットナム氏によって、「個人間のつながり、すなわち社会的ネットワーク、およびそこから生じる互酬性と信頼性の規範」とされている。互酬性の規範とは少し分かりづらいが、何かを与えられた側が何らかの返礼を行うなど、相互に利益がある状態のこと、巷で言うギブアンドテイク的なものに少し近いだろうか。

その互酬性は年月と回数を積み重ねてこそ厚い信頼に変わっていく。その意味で、初対面のNPOや大企業と新しくつくる関係性よりも、共創のスタンスにおいては安心感をもって併走できる地元の「家業」がアドバンテージを有しているというのは納得がいく。さまざまな場面で、地方の家業の存続危機について語られてきたものの、地方創生2.0を迎える現代では、まさにこの家業が地域復興の主役としての存在感を各所で示し始めているのだ。

ちなみに日本の100年企業はおよそ2万社強あり、その数はアメリカの3万に次いで世界2位だという(日本企業の90%以上が同族経営というデータもある。ちなみに創業200年以上の企業は日本に1300社強があり、世界全体の65%を占めるそうだ)。

地域創生に寄せる思いは怖いくらいに一致する

続いて、実際に家業を次の時代につなげるための取り組みについて、佐賀県で薬局等を営むミズの溝上泰興氏、千葉県の医薬品卸売業の岩渕薬品、岩渕琢磨氏がそれぞれ紹介した。どちらも創業100年を超え、これまで地域密着で事業を継続、また拡大してきた優良企業だ。いずれも次の100年に向けた危機感と目論見にはとても似通ったところがあり、両社が互いに「ここまで同じ気持ちで、また同じようなことをやっているなんて!」と感嘆し合う場面もあった。両社の現在進行形の取り組みの概略について、ここで少し触れておきたい。

【株式会社ミズ:溝上氏】

われわれのような薬屋は、病気が多ければ多いほど儲かるというのが利益の仕組み。花粉症の時期が来れば、インフルエンザが流行れば、それぞれの薬が売れる。でもそんな商売はこれからは続かないと考えている。本当に目指したいのは地域に病気が少ない、「薬が売れない街」が理想だ。

そんな思いの下、現業のみならずいろんな領域にチャレンジしてこそ新たな価値が生まれると信じて日々行動しているが、一つ共通しているのが「誰かと協力しながらやってきた」ということ。実際にやり始めた事業の中には、薬屋なのに保育園経営をしたり、漢方を小難しいものから日常のものにしたいと本気で取り組んでみたり。実はそれは企業としての戦略というよりも、いつも「これをやってみたいんです!」という人に出会い、会話し、響き合って始めたというのが本当のところ。そんな相談をしてもらえたり、またそれを支援できる関係性が自分たちの強みだと感じている。

ミズ
今現在の事業を継続するだけではなく、その先を考えたときに人材の発見と育成が極めて重要になると考え、他者との共創力を高めるためBeyondカンファレンスで共有される仕組みに次々と社内で取り込み実践しているという

健康長寿を説く先生方とも健康セミナーなどを共催することが多いが、そこでも口をそろえて言われるのが「健康の秘訣は新たなことへのチャレンジだ」ということ。だからこそ自社もそのチャレンジをしつつ、またチャレンジしようとする面々を同時に応援していく、これからはそんな「意志ある個人の挑戦を全力応援する企業」というポジションでありたいというのが目標。またそんなとき共創できる仲間を探す目的で、このカンファレンスには参加している。

最後に一つだけ伝えておきたいのは、社会に対して良いことをしているとボランティアと捉えられることが多いが、すべての活動はあるべき姿に向かうための事業投資と位置づけている。マネタイズも当然考える、捉える時間軸が長いだけだ。でないと、そういった事業は継続できないはず。でもこういう活動をしていると自然と同じ思いを持つ人につながっていく。すでに当社の本拠である佐賀を離れていた人でも、「いつかは佐賀で何かしたかった」という人が声を掛けてくれたりする。そういった地元つながりの関係性、すなわち社会関係資本はやはり重要だなと感じている。

【岩渕薬品株式会社:岩渕氏】

曾祖父が創業してから111年目、千葉県内で薬品の卸売をしている4代目。競合する県内企業はないため、どんな企業とも共創できるポジションにあるのは強み。自身は元々は他の製薬会社に勤務し、家業が100周年を迎える3年前に家業に参画したという経緯。

岩渕薬品もミズさんと同様、薬をなくしていきたいというのは基本指針。これまで薬の流通という重要な地域インフラを担ってきましたが、次の100年では病気というマイナスの状態から薬によって治癒というゼロの状態に戻す「治療」だけでなく、「予防・健康維持」というところで自分たちに何ができるのかを考えたいと思った。さらには自分たちを支えてきてくれた地域と共に、安心安全で住みやすいwell-beingなまちづくりに貢献し、みんなが健康に年齢を重ねていけるようにしたい。そのための社会課題解決にも取り組みたいと企業理念と照らし合わせながら目標設定している。

岩渕薬品
千葉大学との産学連携で「健康まちづくり共同研究部門」を設立、各所を巻き込むコレクティブインパクトを目指し活動を推進中

ありがたいことに地域で営んだ100年超の歳月が、地元の各所の経営者とのつながりも育んでくれた。何かあれば銀行や行政などからいろんな相談が舞い込んでくる。千葉大が産学連携にさらに力を入れるとなったときも、一番に情報をいただき、速やかに予防医学センターとの共同研究を始める合意ができたし、元気な千葉大関連ベンチャーの若者たちとも多様な協働をすることができた。こういった共創、コレクティブインパクト的な取り組みがスピーディに進むのもこれまで積み上げてきた「社会関係資本」がベースにあるからだと思う。

現在はまちづくりの視点から、障害者アートの支援や海ぶどうの陸上養殖事業も始めていて、今後はそこで障害者の方々にも働いていただこうと考えている。これらも一方的な支援ということではなく、やはりそのアートに自分たちが勇気をもらえるとか、新しい事業による障害者の雇用機会を共に考えていきましょうと発信するとすぐそれに反応してくれる県内企業さんがあったりなど、仲間がすぐそばにいるということでモチベーションをもらっている。自分たちが提供したことよりも、各所からもっと大きなリターンをもらっていると感じている。

事例紹介された両社はいずれも薬品関連企業であり、地元密着の薬屋さん的ポジションがコミュニティにおける存在感の強さに貢献したとも取れるが、もちろん淘汰された地元事業者も数多くあるはずだ。地元企業だからといって安易に生き残れるわけではなく、それは長きにわたり培われた「社会関係資本」の価値を十分に理解し、より深いリレーション構築と新たなネットワーキングを積極的に重ねて来たからこその成果と言えよう。

事例紹介後のディスカッションでは、参加者から「地元仙台の商店街ではまだまだ理容店が残っており、地域をまとめるのに大きな役割を果たしている。なぜなら、みなが髪を切っている間にいろいろな話題や相談を店主にするからで、自ずと店主が事情通となり、調整役ともなるから」との話もあった。これらを鑑みるにさまざまなステークホルダーと交わり、いかにそれぞれの事情を汲み取りつつ、物事を着地させるハブ的存在となれるかが果たす役割としては重要なのかもしれない。

続いて活動報告したのが、そんな地元のハブとなりうる存在を応援する「家業イノベーション・ラボ」の片山あゆ美氏だ。

親の七光り≒社会関係資本、そしてそれは希望の光である

片山氏の所属は中小企業をターゲットに法人保険事業を行うエヌエヌ生命保険だが、一方で「家業イノベーション・ラボ」というコミュニティの実行委員でもある。これは地域を牽引する家業の後継者を支援する目的でETIC.、農家の子せがれネットワークとともに立ち上げられた組織だという。また行政との協働として中小企業庁が開催している「アトツギ甲子園」と連携したり、各地域で地域や産業を盛り上げるキーパーソンたちとのコラボレーションなど、こちらも各レイヤーでのネットワーキングと共創がなされているようだ。

家業イノベーション・ラボ

「家業イノベーション・ラボは、『家業らしさであふれたら、日本はもっとおもしろくなる』を提唱しています。家業の皆さんが担うものは、地域の歴史・伝統・文化という地域の顔であり多様な魅力そのものです。どの地域に行っても全国チェーンのお菓子屋さん、雑貨屋さんがあるというのは便利な半面、やはり街の個性としては面白みがなく感じる。また国というレベルで見ても、地域が画一的であることのメリットがないのではないかと。ですから、家業は一見非効率に見えるかもしれないが、独自性や個性という地域の特性をつなげていく役割があると信じて活動しています」とのこと。

昨年7月には「家業後継者調査」を実施、片山氏が所属するファミリービジネスアドバイザー協会のイベントでも発表したという。そこでフィーチャーされたのが「親の七光りは価値になる!」ということ。「よく親の七光りというのはネガティブなニュアンスで使われますが、実は良い意味で希望の光でもあるんじゃないかと。七光りの正体が『社会関係資本』なのだと思うのです。そしてその社会関係資本という強みを持つ家業こそが、行政なり銀行なり、地域住民といったあらゆるステークホルダーとの関係性を最大限に生かし、長期的に腰を据えて地域を引っ張っていく役割を果たせるのだと感じています」と片山氏はまとめた。

親の七光り

家業と地域が共有する時間軸の違いが信用力を生み出す

各者の話を経て、モデレーター役の中嶋氏は社会関係資本の重要性を改めて指摘した。「最初に提示した『あやしくない?』という問題の本質は、『分からない』という不安です。それをその社会関係資本の力ですでに乗り越えているのが地域企業という存在です。今日お話しいただいた、それぞれの地域における2社の取り組みは、短期的に見れば経済合理性に合わないように見えるかもしれませんが、中長期的に見れば社会関係資本への投資になっています」

中嶋氏は溝上氏の「(自社と地域は)迷惑を掛け合う関係性」という言葉を引いて、次のように結んだ。「互酬性というお互いに利益を享受し合う関係はありますが、逆に迷惑を掛け合いながらも共に生きていくことを容認する関係性というのは信頼に基づいたより強固なものではないでしょうか。私はそれを『一蓮托生力』と名付けたいと思います」

beyondカンファレンス
左より、同志社大学客員教授の中嶋愛氏、岩渕薬品の岩渕琢磨氏、ミズの溝上泰興氏、エヌエヌ生命保険/家業イノベーション・ラボ実行委員の片山あゆ美氏

地方創生2.0の夜明けは近い

会を終えて感じたのは、「ソーシャルイノベーションが必須」と大仰に話しがちな自分と比較して、登壇者の面々の物静かで、しかしながら自身の行動実績への自負に満ちた語り口への憧憬だ。具体的な、あるいは定型のやり方がない社会課題解決への向き合いに対して、それぞれの立場でやれることを一つ一つ、しかししっかりとした足取りで積み重ねていく覚悟と愚直さ、そして自信。企業が社会的存在意義を発揮するために何をすべきなのか、何に取り組むべきなのかをよく聞かれるが、まずはその取り組みの先にどんな人たちの幸せがあるのかという「顔」を思い浮かべながら活動することが、そのプロセスにおいても、目標や成果においても、とても大切なのではないかと改めて胸に刻んだ。それは「家業」の方々にとっては地域社会であり、そしてそこにしっかり向き合うことで共生、共創する「仲間」が自然に集まってくる様子を垣間見ることができたし、今後はより鮮明化するだろう。そんな地方創生2.0の夜明けは近いはずだ。

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東京都・GovTech東京が本気で挑む「システム内製開発」「東京都公式アプリ」の全貌

●この記事のポイント
・GovTech東京、「東京都公式アプリ」を拡張させ、公共性の高いサービス事業者などとも連携できるようなアプリにしていく
・カギは「内製開発」。今年度は100名規模のデジタル人材の採用を予定し、東京都としてDX化を行う組織体制を強化する

●目次

「GovTech東京」がデジタル人材に呼びかける“行政DXの魅力”

「GovTech東京」は、東京都庁と都内62自治体を含めた東京全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める新たなプラットフォームとして2023年の9月に事業開始した、東京都出資の政策連携団体だ。小池百合子都知事のもとで副知事に就任していた元ヤフー(現LINEヤフー)社長の宮坂学氏が理事長を務めている。

 東京都は、これまでも都の行政の現場の仕事を効率化するためのアプリ開発など、さまざまな現場の問題解決に取り組んできた。当然ながら“行政で必要な機能や使いやすいインターフェイス”や“本当に必要な情報”などは、行政に携わる担当者にしか見えない部分が多い。そうした現場から見えるDXの可能性を、都自身が主体的に関わりITで問題解決を図ろうというわけだ。

 さらに、現在は社会的意義のある活動に参加した都民にポイントを付与する「東京都公式アプリ」を拡張させ、都に関連する書類申請や手続きはもちろん、区市町村や公共性の高いサービス事業者などとも連携できるようなアプリにしていく。そこで「ガブテックカンファレンス」を開催し、本気で挑む行政DXに興味を持つデジタル人材たちに呼びかけた。

 キーポイントは「内製開発」。GovTech東京は、今年度は100名規模のデジタル人材の採用を予定し、行政DXの基盤をつくり続けられる組織体制を整備する。

東京都庁はエンジニアリングの組織

 これまで行政に携わったことがなかった宮坂氏が副知事となった2019年、当初は参与として登庁したころ、都庁にはWi-Fiすら整備されておらず、オフィスは紙が積みあがっているなど昭和時代のような状況だったという。当時の写真を見せながら、都職員がより効率的に働く環境の整備や、東京都水道局アプリなどのデジタル行政サービスの提供を行ってきた。そうした中で宮坂氏が都庁各局とやり取りする中で感じたのは“東京都庁がエンジニアリングの組織”だということだ。

「東京都は世界に名だたるさまざまな都市と並ぶ魅力ある街だと評価されています。都市が都市として機能するために必要なインフラを構築し運用しているからです。そのためには実はエンジニアリングがとても大切なんです。水道局をはじめとする技術系の組織の職員構成は“事務職1に対して技術職2”です。世界的に魅力ある都市を形成するため、東京都はさまざまなエンジニアリング部門を内部に持ち、技術者重視の組織構造を作り上げてきたからこそ、世界一と称される優れた都市インフラがあります」(宮坂氏)

 外部委託のみに依存するのではなく、組織内の技術専門家集団による持続的なサービス品質の提供を担保していることが、東京の都市機能を支えているのだ。

都本来の“強みを失っていた”IT領域

 ところが「行政組織にエンジニアを抱えている強み」というノウハウは、デジタル技術導入においては十分に活用されていなかった。もちろん、ほとんどの行政のシステムにはITが導入されている。しかしそれらは長年にわたり、外部委託のみで行われていたという。

 システムの予算を確保し、仕様書を提示して、応札した事業者に発注し、完成したシステムを検収して納品されたものを運用する。いわば「調達一辺倒」のアプローチは、東京都が本来持っていた本質的な強みとは真逆の構造だ。システム開発を丸投げすることで行政のIT化を自ら行うノウハウが都庁の組織には蓄積されず、入札対象のシステムごとに担当ベンダーも流動的になる。さらに検収を受けて納品が完了すると、そこで応札したベンダーの責任は果たせるため、長期的なメンテナンスやシステムの発展についてはおろそかになりがちだ。その結果として、長期的に改善していくためのスケーラビリティの確保や保守性の高さに配慮し、優れたシステムを構築するよりも、現時点の要件を過不足なく満たすシステムを納品することが優先されやすくなる。

 時代に応じた柔軟なシステムの構築ができないことも大きな問題だった。GovTech東京・CTOの井原氏は「予算取り→委託→開発→納品の流れに、おおよそ3〜4年かかる状況だった」と話す。いうまでもなく現在のシステム開発においては「仮説検証の迅速な繰り返し」や「利用者の声に基づく継続的改善」は、システムの品質やエンドユーザーにとっての使いやすさを改善する上で必要不可欠な要素だ。しかし、それらを実現できない構造的問題があった。

内製化がもたらす多層的価値創造

 東京都がGovTech東京を設立したのは、こうした課題を克服するために、東京都自身が主体的にシステムの開発、改善に取り組める体制を整え、行政サービスを提供するプロフェッショナルの視線で、持続的な開発と改善を進める内製化、すなわち行政DXの専門家集団を形成するためということだ。

 取り組みはまだ始まったばかりだが、「現場」に精通した職員にITエンジニアが寄り添いながら、問題解決を進めてきたことで、都職員の中にも“行政DX”や“デジタル化”といったキーワードに対し、自分たちも行政イノベーションに参加できる、という当事者意識が生まれ始めているという。

 この意識改革に加え、行政の知識とデジタル技術を掛け合わせ、“本当に使える現場に即した”デジタルサービス開発と改良を重ねていくことが都民のニーズに真に応える質の高いデジタルサービスの提供につながっていく。

 行政サービスの分野は多岐に渡るがゆえに、外部からは見えにくい特有の課題や行政サービス間の連携ノウハウがある。それら有機的に結びつくサービスノウハウが、システムに反映される機会ともなるだろう。GovTech東京・エグゼクティブアドバイザーの及川氏は「東京都の内製化アプローチは、全てを自前で開発する極端なものではない。行政システムの広範さと複雑さを考慮し、“システムの頭脳”となる企画・設計、都民の顧客体験に直結するフロントエンド、システムの運用と保守を行うプロダクトマネジメント、システム運用の中で生まれるデータ活用などについて、重要性を勘案した上で戦略的に内製化を行う」とも話す。

 核となる要素を内製化することで、外部ベンダーと密に連携するハイブリッドモデルも推し進めることが可能だ。全てを外注に頼っていたころは、そもそも外部のベンダーと協業するためのカウンターパートさえなかったからだ。

戦略的実装:東京都公式アプリの内製開発

 この内製化アプローチの第一段階として、持続的に改良を重ねていくプロジェクトとして開発が始まっているのが「東京都公式アプリ」だ。このアプリは現状ではシンプルな「ポイントアプリ」であり、例えば都民がボランティアに参加すると、それに対してポイントが付与され、民間のポイントや、都の施設利用券との交換を可能にするといったものだが、これは始まりにすぎない。

 今年後半にはマイナンバーカードを用いた公的個人認証機能を導入し、将来的には、各種手続きの申請など、個人に紐づいた行政サービスを受けるための、一元化された入り口にしていくという。宮坂氏は「将来的には都内の区市町村の行政手続や、給付金の申請など、都民が受けるべき行政サービス全体への入り口となるようなアプリを目指す」と話す。

 もちろんゴールが近いわけではない。そもそも区市町村との連携にあたっては、それぞれの自治体との合意が必要だ。それらを一度に全て実装できるわけではないが、内製化を行うことで持続的な改良と発展、それに社会におけるデジタル技術の普及状況、技術トレンドなどに柔軟に対応しながら「100年間発展し続けるデジタルサービスにしていく」(宮坂氏)という。

都のDXの取組の先に描く行政サービスの未来

 東京都公式アプリを持続的に進化する都民との対話プラットフォームへと発展させるなかで、都政DXで培った成果を他自治体に何らかの形で提供できる体制も、宮坂氏のビジョンの中にはあるという。都政への提案機能、給付金申請・受領のオンライン化、区市町村の行政サービスとも連携した「ワンストップ申請サービス」などを実現するためのノウハウやメソッドをオープンにすることで、全国に広げていける可能性もあるだろう。

 たとえば子育て関連DXでは、国、東京都、区市町村、保育園といった各所との連携を図り、ワンストップで保育園の検索から見学予約、入園の申込みまでワンストップで行うことができるサービスを実現している。これらのノウハウは、どの地域でも活かせるはずだ。

 宮坂氏は「利用者にとって公共サービスの提供主体は一つ」という理念から、東京が開発したシステムやノウハウを「日本全体に展開すべき」と話す。システムの内製化が行える自治体は限られている。東京都が率先して行うDXの取組を、国全体へと波及させるには、そもそも“システムの著作権”を保有していなければならない。

 オープンソース化やシステムモジュールごとのライセンスを他自治体に容易に展開するには、東京都自身がシステムの全ての権利を保有しておく必要がある。その意味でも内製化が必要というわけだ。

デジタル人材を積極的に確保

 内製化成功の鍵を握るのは「人材」である。GovTech東京は今年度100名規模での採用を目標に、エンジニアだけでなくプロダクトマネージャーやデータ専門家など多様なデジタル人材の獲得を目指す。求める人材像は最先端技術追求よりも、公共貢献や社会的インパクトにやりがいを感じる人材だ。宮坂氏は行政の仕事について「やりがいは半端ない」と表現し、民間とは質的に異なる使命感に基づく価値創造の可能性を強調している。

「もし自分の持つスキルを100%活かして、最先端の技術開発を行いたいのであれば、民間に居場所を見つけるほうがいい。しかし社会に貢献し、確実に生活に変化をもたらすことができるという点で、行政DXにエンジニアが積極的に関わるやりがいは大きい」(宮坂氏)

 またシステム開発だけではなく、セキュリティ人材の確保も急ぐ。今年度、東京都は都庁全体のサイバー攻撃を監視する「セキュリティオペレーションセンター(SOC)」設置を計画しており、巧妙化、高度化するサイバー攻撃から都民の重要情報や、都民生活を支える重要インフラなどを防護する体制を整えるという。

「ニューヨークでは、さまざまな専門家が集まった数百人規模のSOCが組織されていた。こうした世界のベンチマークとなる事例を参考に、政策連携団体や区市町村とも協力した包括的セキュリティ体制の構築を進める」(宮坂氏)

失われた強みを取り戻す

 宮坂氏によると、ちょうど都庁を退職する世代の職員には「かつて汎用コンピュータで行政サービスを効率化するシステムのプログラムを書いていた」という人に出会うことが多いという。つまりかつてはシステムの内製を指向していたことになる。しかし職員主導のシステム開発から外部委託中心へと移行し、品質管理や継続的改善の視点が希薄化していた東京都の行政デジタル分野。東京都が内製化に舵を切ることは、この状況を根本から変革する戦略的転換点であり、成果が明確になるまでの時間は相応にあるだろう。

 しかしデジタル領域で失われていた“東京都の強み”を取り戻すことができれば、日本全体の公共サービス水準向上に貢献する潜在力を持っている。公共サービスの本質的価値向上と持続的進化を可能にする戦略的フレームワークとして、しばらくの間、GovTech東京の動向からは目が離せない。

(取材・文=本田雅一/ITジャーナリスト)

東京株、710円高=米関税差し止め命令を好感

 29日の東京株式市場で、日経平均株価は前日比710円58銭高の3万8432円98銭と大きく値上がりして終わった。トランプ米大統領が発動した関税の一部を米裁判所が差し止めたことで投資家のリスク選好姿勢が強まり、幅広い業種が上昇した。

 特に、為替の円安が追い風となった自動車株の上昇率が大きかった。米半導体大手エヌビディアの株価が時間外取引で上昇したことも関連株の買いを誘い、日経平均を押し上げた。 

 一方、東京外国為替市場の円相場は一時1ドル=146円台前半と、2週間ぶりの安値水準に急落した。米関税の差し止め命令を受けて景気減速懸念が後退し、安全資産とされる円が売られた。ただ、米政権が上訴したと伝わると下げ幅を縮めた。午後5時現在は145円26~26銭と前日比1円12銭の大幅な円安・ドル高。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/05/29-18:11)

“買う脱炭素”最前線。ーいまさら聞けない「カーボンクレジット」徹底解説

 昨今、カーボンニュートラルとともに耳にすることが多くなった、「カーボンクレジット」というフレーズ。現在、多くの国や企業がカーボンクレジットを通じたカーボンニュートラルに取り組む一方、「結局どういう仕組みなの?」「なぜ必要なの?」 と疑問を抱く人も多いはず。

 本記事では、カーボンクレジットの基本から、制度・市場の構造、実践プレイヤーによる現場での取り組みまで徹底解説します。

そもそも、カーボンクレジットって?

 カーボンクレジットとは、CO2の吸収・削減量を数値化し、排出権(クレジット)として販売・取引できる仕組みのこと。おもに企業間で行われる取引です。

 各企業、温室効果ガスに対する削減目標やカーボンニュートラルを目指しているものの、アクセンチュアの調査によると93%の企業が自社での達成は難しいというデータも出ています。目標達成に向けて、カーボンクレジットを活用し、排出量を相殺することを「カーボンオフセット」といいます。

 削減目標に対応するだけでなく、消費者や投資家に対する企業やブランドイメージ向上も、企業がカーボンクレジットを購入する理由になります。

 1クレジットは1t-CO2eという単位で取引されます。どの温室効果ガスであっても、CO2の値に換算されるのです。

 2016年に発効されたパリ協定においても、「2050年までに温室効果ガスの実質排出量をゼロにする」という目標実現に向けて、「排出削減の成果をクレジットとして取引可能にする」という、カーボンクレジットに関する国際ルールが定められています。

京都議定書との違いって?パリ協定が“世界を本気”にさせたワケ

 パリ協定にて、クレジットに関する条文が追加されたことも、カーボンクレジットに注目が集まり始めた要因の一つです。多くの人や企業がカーボンニュートラルをはじめとした環境に関わるトピックに注目するきっかけにもなっています。

 しかし、パリ協定以前にあった京都議定書との違いをしっかりと理解できている人は多くありません。

 パリ協定と京都議定書の違いは大きく3つあります。

  京都議定書で削減の対象ガスとされた、CO2やメタンガスなど6種類の温室効果ガスは、そのままカーボンクレジットでも対象ガスとされています。温室効果がCO2の約25倍といわれているメタンガスや、亜酸化窒素などはCO2に換算されて、クレジットが発行されます。

 ゆえに、メタンガスの発生源となる稲作に関わる水田クレジット、同じくメタンガスや亜酸化窒素の発生源となる牛の飼育に関わる酪農クレジットなどが創出されているのです。

カーボンクレジットクレジットの種類を知る!

コンプライアンスクレジット

 コンプライアンスクレジットとは、国連や国が運営し、認証しているクレジットのこと。ここで認証されているクレジットを購入することで、公的に「温室効果ガス削減に寄与している」と認められるため、CO2排出が法的に義務付けられた企業や団体が法令遵守のために利用することが多いクレジットです。

 カーボンクレジットを創出する国と購入する国の間でクレジットを売買し、国の削減目標の達成を目指す「JCM(二国間クレジット制度)」や、日本が認証している「J-クレジット」などがこれにあたります。

ボランタリークレジット

 ボランタリークレジットとは、民間団体が認証を行うクレジットのこと。ESG経営・ブランド価値向上などを目指し、自主的に温室効果ガスの削減やオフセットに取り組む企業が利用する傾向にあります。VCS(Verified Carbon Standard)やGS(Gold Standard)といった市場が代表的です。

 法的な拘束力がないため、ボランタリークレジットを購入しても、公的に「温室効果ガスを削減している・オフセットしている」と認められない場合がありますが、クレジットの創出がしやすいというメリットもあります。

 世界的に見て、発行量が多いのはこのボランタリークレジットです。

削減?吸収?カーボンクレジットの2大タイプを徹底解剖

 コンプライアンスクレジット、ボランタリークレジットともに多くのカーボンクレジットが創出されていますが、大きく「リダクション系」「リムーバル系」の2つのタイプがあります。

 以下で、それぞれのタイプについて解説します。

リダクション系クレジット

 リダクション系クレジットとは、本来排出されるはずだった温室効果ガスを削減、回避することで創出されたカーボンクレジットです。

 リダクション系クレジットの例として、以下のようなものがあります。

 水田に水が張られ、酸素が行き届かない状態だと嫌気性の微生物が活発になり、この微生物が有機物を分解することでメタンガスを発生させます。そこで、水田から1週間ほど水を抜いて中干しし、メタンガスの排出を抑制することで創出されるのが水田クレジットです。

 理論的にはメタンガス排出が約45%削減されます。

 酪農や畜産の分野では、牛や羊のゲップや堆肥からメタンガスが排出されます。ゲップが出にくい飼料を開発・改良して与えたり、堆肥の発酵方法を変更したりしてメタンガスを抑制することで創出されるのが酪農クレジットです。

リムーバル系クレジット

 リムーバル系クレジットとは、すでに大気中に存在している温室効果ガスを除去や吸収、隔離することで創出されるカーボンクレジットです。

 リムーバル系クレジットの例として、以下のようなものがあります。

図3 植林クレジットとバイオ炭クレジットについて

 植林クレジットは植物が光合成を行う仕組みを使って、空気中のCO2を吸収することで創出されるクレジットです。すでに空気中の温室効果ガスを取り除いているため、リムーバル系クレジットとされています。

 また、バイオ炭クレジットは、酸素が少ない状態で木や竹などのバイオマスを加熱して作られるバイオ炭を土壌に施すことで、CO2排出の原因となる炭素を土壌中に長期間固定、隔離することで創出されます。通常の炭を使ってしまうと、土壌中の微生物の活動によって分解され、空気中にCO2として放出されてしまうのです。

 現状、リムーバル系クレジットは、技術面などが要因となり、温室効果ガスの中でもCO2の吸収や除去を行うものが多くみられます。

カーボンクレジット、国ごとの傾向 国ごとに投資するカーボンクレジットの違い

 カーボンクレジットの種類はさまざまありますが、国によって普及しているクレジットには違いがあります。おもな国で、一般的に普及しているカーボンクレジットは以下です。

 各国、普及しているカーボンクレジットに違いがありますが、これには各国の事情が影響しています。

 日本の場合、高い技術力を活かしてCO2などを効率化する省エネルギー設備を作ることができたり、アメリカでは広大な土地を活かして太陽光パネルを広範囲に設置できたりと、国ごとの特徴などがカーボンクレジットにも反映されているのです。

 また、国として成長や復興させたい産業と関係している場合もあります。各国に普及するカーボンクレジットの違いは、各々が持つ課題や得意分野などが密接に関わっているのです。

世界の“クレジット熱”はここまで来た。企業別カーボンクレジット購入ランキング

 それでは、世界の企業はそれだけカーボンクレジットに投資しているのでしょうか?
2024年の購入ランキングを見てみましょう。

出典:https://trellis.net/article/carbon-markets-leaderboard-shell-microsoft/

 昭和シェル石油、Eni、PRIMAX COLOMBIAなど、エネルギー事業を行う企業が上位に名を連ねています。昭和シェル石油やヤマト運輸などは事業の特性上、温室効果ガスの排出量が非常に多いため、クレジット購入での補完を行っているのです。

 Microsoftは、カーボンクレジットの購入により、環境に配慮したブランドイメージの強化を図り、消費者や投資家からの支持を得ています。

 また、データセンターを中心に多大な電力消費があるものの、再生可能エネルギーなどは電力の安定性に懸念があるため、カーボンクレジット購入でオフセットしているという現状です。

カーボンクレジットの課題と、これからの可能性

 多くの国や企業がカーボンクレジットの創出や購入に前のめりな一方、クレジット市場には課題も残されています。

●クレジット市場における3つの課題

1: 購入者がどのクレジットを購入すべきか判断できない
 現在、クレジット市場に出回っているクレジットは種類も多く、それぞれ基準が異なっている場合もあります。明確な違いや使い分けの判断が難しい状態なのです。また、将来的な規制やルールがどう変化していくかも不明確なため、購入者のクレジット購入に対する判断ができないという側面もあります。

2: 新技術や自然由来のクレジットが不足している
 現行のクレジットは、排出削減量のデータベースの削減実績をもとに発行されているため、新技術や自然由来のクレジットの創出や供給が追いついていません。また、家庭や個人が省エネや再エネを行えるサービスが増えているものの、それらがクレジット創出につながっていないことも課題になっています。

3: 価格設定が不透明
 現状のカーボンクレジット取引は、2社間で直接交渉して売買する相対取引が多く行われています。カーボンクレジットの市場が小さく、取引量や価格を決めるマーケットプレイスとして十分に機能していない状態なのです。価格や取引量が不透明なため、将来の見通しが立てづらいことも、カーボンクレジットが一般化することの障壁になっています。

この課題にGreen Carbonはどうアプローチしていくのか?

 クレジット創出を行う事業者がまず目を向けるポイントは、「どれだけ安定した品質・供給量のクレジットを生み出せるか」という部分です。

 Green Carbonで取り組んでいる水田クレジットの場合、より多くの農家の方々の協力を得ながら品質も担保するため、衛星からの観測で中干しをモニタリング、アプリケーションを使ったデータ管理など、システム化に努めています。こうすることで、より多くの量のクレジットを、一定の品質で創出することができるのです。

 安定的な品質のクレジットの流通量が増えることは、クレジットの価格設定にも影響します。1トンあたりのクレジットの品質が標準化されることで、価格も設定しやすくなるためです。同時に、購入者は自信が購入するのに最適なクレジットを判断しやすくなります。

 価格が、 需要と供給の均衡点という、本来の機能として役割を果たせるようになるのです。

 カーボンクレジットは、温室効果ガス削減目標を達成するためのツールであるだけではなく、国や企業の課題、戦略を映す鏡です。技術の進歩やルールの変化によって、カーボンクレジットの価値や役割も変化していくことが予想されます。今後ますます、「価値ある安定したクレジット」の創出が重要になっていくでしょう。

※本稿はPR記事です

三菱UFJ銀行が「Sansan」導入で業務時間を年3万時間も削減できた理由…変わるメガバンク

●この記事のポイント
・三菱UFJ銀行が「Sansan」を活用し、営業担当者の業務時間を年間3万時間も削減
・有効商談につながるセミナーの参加者も5倍に増加
・SalesforceとSansanの連携で、最新情報に基づく提案の強化を推進

 三菱UFJ銀行が営業DXサービス「Sansan」を活用し、営業担当者の業務時間を年間3万時間も削減することに成功した。有効商談につながるセミナーの参加者も5倍に増加したという。Sansanは利用企業数が1万社に上り、法人向け名刺管理サービス市場では圧倒的なシェア1位であるが、日本を代表するメガバンクである三菱UFJ銀行だけに、営業支援システムを自前で開発したり、大手ベンダのサービスを導入してもおかしくはない。なぜ同行はSansanを導入したのか。そして、どのように活用することで高い成果を生んだのか。Sansan株式会社に取材した。

●目次

名刺情報や接点情報を一元管理する仕組みを構築

 三菱UFJ銀行は好業績に沸いている。三菱UFJフィナンシャル・グループの2025年3月期の連結純利益は前期比25%増の1兆8629億円と2期連続で最高益を更新。今年度(26年3月期)は同2兆円に達する見通しを示している。日銀の金融政策が正常化に向かい金利が上向く見通しとなっていることも、業績を上振れに向かわせる。

 Sansanは、名刺やメールといった接点から得られる情報を正確にデータ化して全社で共有するデータベースを構築できる営業DXサービス。あらかじめ搭載された100万件以上の企業情報や商談などの営業活動の情報を一元管理することで、ビジネス機会の創出や売上の拡大を図ることができるという。三菱UFJ銀行はそのSansanをどのように活用して、営業担当者の業務時間を年間3万時間削減することに成功できたのか。Sansan株式会社は次のように説明する。

「三菱UFJ銀行様では従来、顧客の連絡先を担当者が属人的にアナログ管理しており、情報検索に時間を要していたほか、モバイル端末からの閲覧もできず外出時や在宅勤務時に迅速な対応が難しい課題を抱えていました。Sansanの導入により、名刺情報や接点情報を企業の情報資産として一元管理する仕組みを構築したことで、顧客の連絡先の検索時間を削減し、外出時や在宅勤務時にも迅速に情報へアクセスできる環境を実現しました。その結果として、年間3万時間の業務時間削減を実現しています」

 有効商談につながるセミナー参加者が5倍増となった要因は何か。

「従来のデジタルマーケティング施策では、利用できる顧客データが限られていたことから、適切なターゲットに最適なタイミングでアプローチできず、商談の機会を逃してしまう課題を抱えていました。Sansanの導入により、銀行側が持つ顧客データと名刺情報・接点情報を統合し、企業名や役職、所属部門といった詳細情報を把握でき、より関心度の高いターゲットを的確に絞り込めるようになりました。また、Sansanでは人事異動情報をリアルタイムで反映できるため、最新の担当者への迅速なアプローチも可能となりました。結果、オンラインセミナーのメール配信ではURLのクリック率が大幅に向上し、有効商談につながる参加者を従来比 5 倍に増やすことができました」(Sansan)

Salesforceを導入し、Sansanとの連携を開始

 三菱UFJ銀行は4月からSalesforceを導入し、Sansanとの連携を開始したが、それによってどのような機能強化・サービス内容の拡充が実現するのか。

「従来、顧客データはSansanを含めて複数のシステムに分散しており、同一顧客でも新旧情報が社内に混在する状態でした。情報更新や収集が負担となり、提案準備に時間がかかるなど、全社でデータを効率的に活用できていませんでした。2025年4月よりSalesforceを導入し、Sansanとの連携を開始したことで、行内外の情報を一元化することで営業担当者が顧客をより深く理解し顧客に寄り添った提案をすることが可能になります。部門を横断した担当者間でのスムーズな情報共有や、データメンテナンスの効率化、最新情報に基づく提案の強化を進め、営業力と顧客体験の向上を目指していきます」

 大手銀行関係者はいう。

「従来、銀行は個人や法人の極めて機微な情報を扱うという特性から、情報管理が厳重に行われ、情報を行内から持ち出すことはもちろん、外から閲覧・アクセスするということが許されにくく、強い制限がかけられてきました。また、各支店では取引先ごとに担当者が明確に決められ、取引先の連絡先は担当者しか把握していないというのが一般的でした。ですが、どの銀行も従来型の融資業務が先細るなかで、個人などの資産を総合的に管理・運用するウェルス・マネジメント事業に力を入れるようになり、新規顧客の開拓やトータルサービスの提案のために取引先情報の共有と有効活用が不可欠となり、Sansanのような仕組みの活用が必要になってきています。

 これまで銀行はシステムの自前主義の姿勢が強かったですが、すでに普及している既存のサービスであれば低価格かつ短期間で導入が可能となるので、こうした動きは銀行業界でも広まっていくのではないでしょうか」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)