京都が「ディープテックの聖地」になる…「行政×スタートアップ」の化学反応

●この記事のポイント
・国内最大規模の国際スタートアップカンファレンス「IVS」が、3年連続で京都において開催される。さまざまな都市で開催してきたIVSだが、京都はスタートアップ支援の体制が他自治体と異なると評価する。
・京都府でスタートアップ支援を担当する中原氏は、スタートアップを支援することが社会課題解決につながると実感すると語る。

 国内最大規模の国際スタートアップカンファレンス「IVS」が、今年も京都で開催されます。京都府が実行委員会メンバーとして深く関わるIVSは、単なる一大イベントにとどまらず、古都が描く未来のスタートアップエコシステム形成の起爆剤となっている。

 この度、IVSを京都で開催するにあたりスタートアップエコシステム拡大のための重要な役割を担う、京都府商工労働観光部産業振興課参事の中原真里氏にインタビューを実施。なぜ京都府が実行委員会という形でIVSを運営しているのか、学生や研究機関が集積する「ディープテック」という京都の強みをどう生かし、ベンチャーキャピタル(VC)やビジネス型人材を呼び込もうとしているのか、その戦略と熱い想いを深掘りした。行政がスタートアップ支援を通じて「社会を変える」という、その新しい発想の源流に迫る。

目次

なぜ京都府はスタートアップ支援に注力するのか

――――スタートアップやベンチャーに関心を持ったのはいつ頃からですか。

中原氏 実は、就職してから1年間だけ東京の大学院に来ていたことがあり、それは、どういうふうにしたら官民連携が進むのか研究するためでした。その大学院時代、大企業の方々がスタートアップと連携して新産業を起こす取り組みをしているとか、自分自身が起業しているという方にたくさんお会いして、新しい世界に触れました。

 行政の人間は、自分が何者であるかを多く語る立場ではありません。異動で誰がその役職に就いても、行政の連続性こそが大切だからです。しかし、起業家の方は個人として自分は何をしているのかを語るので、とても刺激をもらいました。また、そういうことに憧れもありますし、そういう方々のチャレンジにすごく共感することもあります。

 今の自分はそういうポジションにつけないにしても、起業家の方々を応援することで社会が変わるのではないかと感じています。

――行政がスタートアップ支援することで社会が変わるというのは、新しい発想ですね。

中原氏 入庁して福祉や市町村財政などの業務に携わってきましたが、これまでの枠組みの中では、自治体の経営努力で解決できることも限界に近づいてきていると感じるようになりました。社会のあり方が多様化して必要な社会サービスが増えていく一方で、人口減少等の社会構造の変化を背景に、行政だけでは最善な形が描けない、という分野も出てきているように感じています。。そんな中で、“社会に対して何かしたい”という強い思いのあるスタートアップの方々と連携することで社会課題解決の早道があるんじゃないかと考えるようになりました。

 今はスタートアップの方々を支援する先に社会課題解決につながるということを強く感じながら、IVSを支援させていただいています。

――2023年と24年にIVSに携わるに至ったきっかけを教えてください。

中原氏 出会いは2021年に遡ります。私が20年に商工労働観光部に着任して1年ほどスタートアップ支援をしていたときは、京都にスタートアップの数がまだ300~400社ほどでしたし、飛び抜けて成長しているようなところはまだないような状況でした。スタートアップの方々も経験豊富な方に話を聞きたいと言っていましたが、それこそ資金調達する際は、連続企業家や投資家みたいな方々が京都にはいなくて、どうしても首都圏に多いという課題感がありました。

 でも、京都のスタートアップにとって環境を良くするには、ネットワークを作ってあげないといけないというところで、お世話になっているアドバイザーの方たちからスタートアップや投資家のコミュニティがあるという話を聞き、IVSの方々をご紹介いただきました。そして、島川さんや現在の運営メンバーとお話させていただいたというのが始まりです。

 京都開催の話は出てきましたが、まだコロナ禍だったので、結局通常の形では開催できませんでした。IVSにずっと参画されている起業家や投資家の方々をIVS側で組んでいただき、オンラインで京都のスタートアップがいろいろ相談できる場を設けたのが2022年の3月でした。

――2023年の京都から招待制をやめて大規模開催になりましたね。

中原氏 はい、コロナ明けに世界的にもスタートアップの盛り上がりがみられる中で、IVS側も日本が他国に後れを取らないよう、国際標準の本格的な国際カンファレンスにしようという方針になっていました。また、すでに起業した人ばかりでなく、これから起業する層を増やしていこうということやグローバル企業とのネットワーク構築などもテーマとなり、招待制をやめることになりました。学生が多く海外での認知度が高いという都市ブランドのある京都であれば、そういう方々も呼び込みやすいということで開催地に選ばれました。

 京都で大規模に開催したいというオファーをいただき、国際カンファレンスという形なら京都としても力を入れて支援する意義があるということで合意しました。

 

観光だけでなく“スタートアップ都市”としての情報発信

――IVSを京都で開催して得られた成果や手応えについてお話しください。

中原氏 成果は3つほどあったと思います。1つは、京都とスタートアップという言葉が結びついて、大きく発信されたということです。スタートアップ支援の取り組みはしてきましたが、観光地としての圧倒的な世界的ブランディングの前では、京都をビジネスの地と認識いただくことは一筋縄ではいきません。京都でスタートアップという形で情報発信ができたのは非常に大きくて、行政だけではできなかったと思います。

 2つ目は、IVSが京都のスタートアップ関係者やビジネス界隈の方々が一堂に会する機会になり、一気に距離が近くなったことです。京都のスタートアップエコシステムで関わる方々はもちろん顔なじみだったり、事業会社の方々とも接点はあったのですが、一つの事業に一緒に取り組むことで、お互いの強みや今力を入れていること等があらためてわかる機会となりました。事業会社のスタートアップ連携の窓口になっている担当者とも対話をさせていただく機会が増え京都の産業界とスタートアップ関係者の関係性が強くなったと感じています。

 3つ目は、実際に京都のスタートアップ・エコシステムの可能性を直に感じていただけたことで、首都圏のVC(ベンチャーキャピタル)がブランチを4社ほど立てていただけたことです。IVSの求心力で府内外からたくさんのスタートアップや投資家の方々、さらには学生にもにお集まりいただけたからこそ、このような動きが生まれたのかなと思っています。

――カンファレンスもスタートアップ支援の1つですが、京都府としては今後、どのように支援していきますか。

中原氏 京都の強みは、やはりディープテックだと思います。大学や研究機関の集積を核に、そこから生まれた研究シーズから事業を生み出していくというものです。実際、この分野の企業が大きく成長してきていますし、全体に占める割合も高いというのが京都の特徴です。京都府としてはディープテックスタートアップの創出・成長環境のさらなる充実に向けて、これまで以上に力を入れていきたいです。

 それに関して今の課題は、大学やシーズはたくさんあっても、ビジネスサイドの方々が首都圏に集まっているといるので、事業化して成長させるところが弱いということです。例えば、こういうニーズを抱えている人がいるから、その方にはこのシーズが使えそうだということを見出して事業化するビジネス人材が足りていないわけです。そういう人材をうまく京都に呼び込むことがまず必要かなとも思っています。例えば、ベンチャークリエイト型のVCであるとかインキュベーターの知見を京都に呼び込むとか。そして、最終的には京都で生まれて京都に定着できるような環境を整えていければいいですね。

 ただ、海外から見れば日本市場はそれほど大きくないし、新しいものを取り入れるのに慎重な国民性もある。ビジネス環境として日本で事業化を進めるメリットを感じてもらえないのではないかと思ったりもしますが、京都ぐらいの規模だからこそ特区制度などを使った規制緩和や、社会受容性向上のための住民理解の促進なども含め、どうすれば新たな技術やサービスがいち早く導入できるのかを考えたりもします。この分野なら京都は世界でどこよりも社会実装が早くできそうだというモデルが1つでも出せればいいですね。そうすれば、さらに世界からも注目される都市になれるので、今年から検討を始めて、向こう何年間でこのモデルを出していく構想を持っています。

――スタートアップを盛り上げるために、国内で他自治体との連携はありますか。

中原氏 2020年から国は、「世界と伍するスタートアップ拠点都市」を全国で数か所選定し、集中的に支援して育てていくとしています。京都は大阪・兵庫とともに「京阪神」として選ばれています。それまでも情報連携はありましたが、選定されてからはもう1つの主体として京阪神でスタートアップ支援には取り組んでいます。ディープテック系の成長環境を整えていくということも大阪や兵庫と合意して進めています。大学のコンソーシアムも今は関西圏で構築して、関西のシーズとしてどういうふうに事業化するかを考え実践しています。

 特にグローバルプロモーションについては関西一丸で取り組みましょうっていうのがあります。京都から海外に打って出られる段階にあるスタートアップは、600社の中でも限られていますが、それが京阪神で集まれば、それなりのボリュームになります。そうすると海外の投資家の関心を惹きつけやすくなると考えています。

京都独自のスタートアップエコシステム

 中原氏の言葉からは、京都府が「IVS」を単なるイベントとしてではなく、京都の産業構造そのものを変革し、未来を創造するための戦略的な一手として捉えていることが明確に伝わってくる。大学や研究機関が持つシーズを核とした「ディープテック」という圧倒的な強みを軸に、IVSが呼び込んだVCや、今後さらに呼び込もうとしているビジネス人材が融合することで、京都は「知」と「事業化」が高速で循環する、独自のスタートアップエコシステムを築こうとしている。

「完成された街」ではなく、常に変化し、関わる一人ひとりの手によって未来がつくられるように、行政が旗振り役となりながらも、多様なプレイヤーを巻き込み、有機的に成長するエコシステムを目指している。

「起業家の方々を応援することで社会が変わる」という中原氏の信念は、まさに行政が果たすべき新たな役割を示唆しているのではないか。IVSを起爆剤とし、京都が「ディープテックの聖地」として世界にその存在感を示す日は、そう遠くないかもしれない。古都が放つ、新たなイノベーションの光に期待が高まる。

(文=横山渉/ジャーナリスト)

KDDI、AIに関するセキュリティ情報サイトが画期的だと話題…LLM活用の分類技術を導入

●この記事のポイント
・KDDIとKDDI総合研究所が、AIセキュリティに関する情報を一元化して発信する「AIセキュリティポータル」を開設
・専門家から一般ユーザーまで幅広い層をターゲットに、最適化した情報提供を実施
・AIが社会や人に与える影響まで踏み込んだ独自の「AIセキュリティマップ」を提供

 企業や個人によるAI活用が急速に広がる中、セキュリティリスクへの対応が喫緊の課題となっている。特に汎用的な生成AIツールの一般ユーザーへの普及により、セキュリティ上の脆弱性が従来の専門家向け対策だけでは対応しきれない新たな局面を迎えている。こうした状況を受け、KDDIとKDDI総合研究所は3月26日、AIセキュリティに関する情報を一元化して発信するポータルサイト「AIセキュリティポータル」を開設した。

 このプラットフォームで画期的なのが、LLMを利用した新しい分類技術を開発・導入している点だ。この技術により、これまで整理されていなかった最新のAIのセキュリティの情報を整理・分類することが可能になり、新しく出た文献もデータベースに随時蓄積されることで、同サイトの利用者は最新情報に簡単にアクセスできるようになる。

 さらに、これまでAIのセキュリティとの関係性が体系的に整理されていなかった、プライバシー侵害や著作権などの権利侵害といった、AIが攻撃・悪用された結果によりAIが社会や人にもたらすネガティブな影響を「外部作用的側面」と定義して、その要因の調査研究を実施。この結果をもとに、AIのセキュリティ情報の関連性を整理したAIのセキュリティマップを作成した。そこで今回はKDDI総合研究所に、同サイトをオープンした背景・目的、そしてサイトの具体的な内容について取材した。

●目次

基礎研究の蓄積を活かした包括的な情報基盤の構築

 KDDI総合研究所の披田野氏は「長年蓄積してきたAIセキュリティの基礎研究の知見を活かし、AIの安全な利活用を支援する窓口となるサイトを目指している」と説明する。研究開始当初は機械学習モデルの活用が企業の一部に限られていたが、近年のAI普及により状況は一変した。「ChatGPTに代表される生成AIの登場で、誰もがAIを利用できる時代となり、セキュリティリスクへの対応も従来とは異なるアプローチが必要になっています」と披田野氏は危機感を示す。

 この背景から、同サイトは専門家から一般ユーザーまで幅広い層をターゲットに、最適な情報提供を行う方針を採用。「従来のAIセキュリティ情報の発信は専門家向けに特化したものが多く、実際にAIを利用する一般ユーザーには届きにくい状況でした。しかし、セキュリティ対策の実効性を高めるには、一般ユーザーの理解と行動変容が不可欠です」(披田野氏)

独自の「AIセキュリティマップ」で社会的影響まで可視化

 同サイトの最大の特徴は、AIセキュリティマップと呼ばれる独自の体系化された情報提供にある。既存の取り組みがAIシステムへの攻撃などシステム的な観点に留まっているのに対し、AIが人や社会に与える影響まで踏み込んで整理している点が画期的だ。

 例えば、自動運転システムへの攻撃による事故リスクや、フェイクニュース生成といったAIの悪用事例も含めた包括的な情報を提供することにより、企業がAIを導入する際のリスク評価指標や、個人がAIサービスを利用する際の具体的な注意点まで、実践的な情報を分かりやすく解説している。

「既存のセキュリティマップは、システムへの攻撃手法や対策技術といった技術的な側面に焦点を当てていました。しかしAIの場合、そのリスクは経済的損失やプライバシー侵害、さらには社会的混乱にまで及ぶ可能性があります。こうした社会的影響を含めて体系化することで、より実効性の高い対策立案が可能になります」と披田野氏は説明する。

最新技術を活用した文献データベースの提供

 同サイトでは、AIセキュリティに関する論文を独自に分類した文献データベースも提供している。大規模言語モデル(LLM)を活用した最新の分類技術により研究トレンドを可視化し、膨大な文献の中から必要な情報を効率的に抽出できる仕組みを実装した。

「AIセキュリティの分野は日進月歩で、新たな攻撃手法や対策技術が次々と報告されています。最新の研究動向を把握することは、効果的な対策を講じる上で極めて重要です」とKDDI総合研究所の披田野氏。研究者からは「トレンドが分かりやすい」との評価を得ており、すでに多くの専門家が活用しているという。

産学官連携で目指すAIセキュリティの未来

「AIセキュリティポータル」の構築事業は、セキュリティ技術の研究者のみならず、政策研究を専門とするメンバーも参画するチームが、政府のAI戦略の方向性に沿う形で、AIセキュリティの社会的基盤確立を目指すプロジェクトとして推進。技術的知見だけでなく、政策や規制の観点も含めた総合的なアプローチを採用している。

 今後5年間の計画では、シンポジウムやワークショップの開催を予定している。「座学だけでなく、実践的な演習を通じてAIセキュリティへの理解を深めていただく機会を提供していきたい」と披田野氏は展望を語る。さらに、AI関連の認定団体との連携も視野に入れており、AIセキュリティ教育の基盤としての役割も果たしていく考えだ。

「当面の目標は、企業や個人がAIを安全に活用するための情報ハブとなること。そして最終的には『AIセキュリティといえばここ』と言われるような情報基盤となることを目指しています」と披田野氏は意気込みを示す。

 海外ではすでにAIセキュリティに関する様々な取り組みが始まっているが、日本語での包括的な情報源は限られている。AI活用が社会に浸透する中、その安全な利用を支える重要なインフラとして、同サイトの役割は今後ますます重要になりそうだ。

(文=秋葉けんた/ITライター)

防衛産業、なぜ一転して「儲かる産業」に変貌?三菱重工・川崎重工・IHIの利益が急伸

●この記事のポイント
・「儲からない産業」といわれ、一時は撤退する企業が相次いでいた防衛産業が、ここ数年で「儲かる産業」に変貌
・防衛装備庁が発注先企業の利益額の算定方式を変え、最大15%まで付与するかたちに変更
・防衛産業で特に成長性が高まっている領域はドローン・宇宙・AI

 これまで「儲からない産業」といわれ、一時は撤退する企業が相次いでいた防衛産業だが、ここ数年で「儲かる産業」に変貌しているという。防衛省から直接受注する「プライム企業」と呼ばれる防衛大手3社は防衛関連事業単独での業績を公表していないが、三菱重工業の2024年度の航空・防衛・宇宙セグメントの事業利益は前期比272億円増の999億円、川崎重工業の航空宇宙システムセグメントは同558億円で前期の赤字から黒字転換、IHIの航空・宇宙・防衛は同1227億円で前期の赤字から黒字転換。三菱重工業と防衛省の契約金額は年間1兆円以上とみられており、IHIの航空・宇宙・防衛事業の営業利益率は22.1%に上る。24~25年にかけて三菱重工の株価が5倍になるなど、防衛関連事業の利益率改善が防衛関連企業の株価を押し上げているとの見方もあるが、背景には何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

防衛装備庁が利益額の算定方式を変更

 政府は23~27年度の「防衛力整備計画」で事業費について前計画の2倍超に増額したことを受けて、防衛関連各社の売上は上昇傾向にある。機動戦闘車、水上艦艇、潜水艦、水中・艦載機器、戦闘機、地対空誘導弾システム、空対艦誘導弾などを手掛ける三菱重工業は「抜本的な防衛力強化という防衛省の方針のもと、需要増や採算性の改善が期待できる」としている。IHIは航空・宇宙・防衛事業の30年度の売上収益を、23年度の約2倍にあたる8000億円に引き上げ、営業利益率を15%程度にするという目標を掲げている。

 ここ数年、防衛関連事業が一転して適切な水準の利益を出せるようになった要因は何か。松井証券のシニアマーケットアナリスト・窪田朋一郎氏はいう。

「これまで防衛省が企業に発注する金額は原価計算方式が採用されており、標準利益率が一律で8%と設定されていましたが、部品や原材料が値上がりすると利益が食い潰されてしまうという状況が生まれ、企業側の低利益につながっていました。これが大きく見直されたのがウクライナ戦争が起こった22年で、このような状況だと防衛産業が成長せず、国の防衛力を高めることができないということで、防衛装備庁が利益額の算定方式を変え、最大15%まで付与するかたちにしました。利益率にメリハリをつけて、企業がコスト削減や品質向上に取り組んだ場合にはインセンティブを与えるようにもしました」

 事業として採算が合わない状況が続いたこともあり、一時期は防衛関連事業から撤退する動きが広まった。たとえば、19年にはコマツが軽装甲機動車から、20年にはダイセルがパイロットの緊急脱出装置から、21年には住友重機械工業が陸上自衛隊向け機関銃からの撤退を表明した。

「利益が出ないと企業に撤退されて装備品を製造できなくなり、国内で防衛産業が育たないということになります。政府の政策が防衛産業をきちんと育てようという方向に変更され、岸田政権が防衛費の増額を決めて予算措置を取ったことも大きいでしょう」(窪田氏)

国、スタートアップや中小企業の参入も推進

 防衛産業のなかでも特に成長性が高まっている領域はあるのか。

「ウクライナ戦争でも多用されたドローンは、戦闘機の代わりとして非常に有効なのではないかといわれています。戦闘機に比べて低コストで大量に調達できるという点がメリットだと評価されるようになり、イスラエル・イラン紛争でも多く使われました。宇宙・サイバー分野も有望でして、国の25年度当初予算でも宇宙関連として約5400億円が計上されています。衛星を使って世界の状況把握能力を高めていこう動きがあります。AIも非常に重要視されており、ドローンで撮影した画像の解析やサイバー防衛でもAIの活用がカギとなってきます」(窪田氏)

 では、国内の防衛産業は中長期的にみて成長していくと考えられるのか。

「国はスタートアップや中小企業の参入も進めていこうという動きになっていまして、自衛隊とベンチャー企業のニーズをマッチングさせるために展示会を開催するといった取り組みも推進し、そういう方向性に政策が動いていることは確かです。やはり今後、国が防衛予算をどこまで拡張するのかがポイントになってきます。国はNATOの要請を受けて2027年度に防衛費を対GDP比で2%まで増やすことを決定しており、防衛省とそれ以外の省庁あわせて年間11兆円程度に増える見込みです。一方で、今後も無尽蔵で防衛費を増やしていけるかといえば、財政上の制約もあり、難しいのが実情です。以前であれば国債発行で賄うという方法がとられましたが、金利の上昇により難しくなりました。増税も国民から理解を得られるのかという問題があります」(窪田氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=窪田朋一郎/松井証券シニアマーケットアナリスト)

利上げ再開、予断許さず=トランプ関税、世界経済に打撃―物価高続くリスクも・日銀

 日銀は昨年3月に大規模な金融緩和に終止符を打ち、同7月、今年1月に追加利上げに踏み切るなど正常化を進めてきた。ただ、トランプ米政権による高関税政策が世界経済に打撃を与える可能性は否定できず、さらなる利上げのタイミングは予断を許さない状況だ。国内では食料品を中心に価格高騰が鮮明となっており、物価高が長引くリスクもある。日銀の政策運営が一段と難しさを増すことも考えられる。

 「(日銀の)見通しが実現していくか、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していく」。植田和男日銀総裁は3日の内外情勢調査会の講演で、トランプ氏の関税政策の影響を慎重に見極めていく考えを示した。

 米国の高関税を受け、製造業を中心に国内の輸出企業などには収益悪化の恐れがある。こうした企業で冬のボーナスや来年の春闘の賃上げが伸び悩めば、日銀が目指す賃金と物価がともに上昇する「好循環」のシナリオが行き詰まりかねない。

 一方、物価は日銀が目標とする2%を上回って推移している。4月の消費者物価指数(除く生鮮食品)は、コメなど食料品の値上がりもあり、前年同月比3.5%上昇と5カ月連続で3%台の伸びを記録した。値上げが相次ぎ消費者マインドは悪化している。

 植田総裁は「わが国経済は下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に緩やかに上昇していくメカニズムも途切れることはない」と述べ、利上げ路線は維持する考えを強調した。ただ、「トランプ関税」により成長率が鈍化する中、物価高が進行すれば、利上げに踏み切るのはより難しい判断となる。ある日銀幹部は「物価高だけに飛びついて政策変更はできない」と指摘している。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/06/03-18:56)

すべての病気を予防したい…AIが“見えない体の変化”を捉える、次世代ヘルスケア

●この記事のポイント
・株式会社Taomicsは、網羅的な生体情報(オミックス情報)を用いた人間の健康状態・疾患シミュレーション AI モデルの研究、開発及び販売を目的としたベンチャー企業
・オミックス情報を含む健康ビッグデータを収集し解析するプラットフォームを構築し、様々な病気を先行して発見し制御する先制医療の社会実装を目指している

 山梨大学が2020年から始めた大学発ベンチャー認定制度の第5号企業に認定され、早1年。株式会社Taomicsでは、オミックスと呼ばれる網羅的な生体分子情報と独自のAIを組み合わせることで、人間の健康状態や疾患の進行をデジタル空間上でシミュレーションするプラットフォームの開発に取り組んでいる。

 早期の実用化及びマネタイズに向けた意気込みを、同社創業者で代表取締役の大岡忠生・山梨大学医学部社会医学講座 准教授に聞いた。

目次

「全ての病気を予防したい」勇気を持って選んだ研究者の道

――まずは先生のご経歴をお聞かせください。先生は医師免許をお持ちですが、臨床の医師ではなく予防医療の研究者を志したのはいつ頃でしょうか。

大岡 私は2015年に山梨大学の医学部を卒業し、2017年に大学病院で初期臨床研修を終えています。このとき、ほとんどの同期は臨床医として後期研修に臨む中、私は予防医療の研究室に入局して研究者の道に進むことを決めました。私は医学生のときから、ほとんどの病気は予防すれば治るのに、なぜ予防医療に身を捧げる医師が少ないのかと疑問を持っていました。病院での研修を始めてもその疑問は消えるどころか強くなっていき、研修を終えたときに、日本の予防医療・母子保健研究の大家である山梨大学医学部社会医学講座の山縣然太朗教授のもとを訪れ、「すべての病気を予防できるシステムが作りたいです」と言って同講座に入局し、気づくと予防医療の研究者を志していました。

――Taomicsで開発中のモデルはAIを活用しています。医師であったにもかかわらず、AIの知見はいつ獲得されたのでしょうか。

大岡 研究者の道を選んだ2017年当時は、ディープラーニングが脚光を浴び始めていて、今後予防医学の研究に携わるうえで、統計学や機械学習などのビッグデータを扱う知識や経験が重要になってくるであろうことは容易に予想がつきました。そこで、どうせ学ぶならしっかりしたところで考え、日本の統計研究の中核である統計数理研究所に通い始め、多くの先生方にご指導を頂きながら統計や疫学の学びを深めていきました。同研究所では疾患予測AIについての公募研究のチームリーダーを2年間務め、そこでの研究を基に糖尿病の予測AIモデルの研究で博士号を取得したのが2019年です。

――そのあとハーバード大学にも行かれていますね。

大岡 たまたま同僚が紹介してくれた記事に、ハーバード大学医学部で当時准教授(現在は教授)をされていた長谷川耕平先生の寄稿がありました。そこには、AI・機械学習と疫学、そしてオミックス情報を融合させることで疾患の病態の背景にあるメカニズムを解明していくSystems Epidemiologyの概念について紹介されており、「自分はここで学ぶしかない」と直感しました。すぐに長谷川先生に直接連絡し、オンラインでの面談を申し込みんだところ許諾頂き、長谷川先生には自分が今までやってきたこと、研究への興味、自分の想いや熱意を全て伝えました。すると、ボスであるDr. Carlos Camargo Jrに僕のことを紹介頂き、幸いにもぜひ研究室に来てほしいという話になりました。そうして、晴れてハーバード大学医学部・マサチューセッツ総合病院のリサーチフェローとして赴任することになりました。

 ここで、遠隔での研究連携も含めると約3年間、オミックス情報とAI・疫学を組み合わせることでアレルギー疾患の病態を解明する研究に従事しました。これが、私とオミックスとの出会いでした。いままでの研究では、主に健康診断や医療カルテのデータから疾患や状態を予測するAIを開発していましたが、あまり高い精度が出ず、通常の医療過程で得られる情報のみでは疾患の個人差まで表現することはできないというジレンマがありました。ハーバードの研究室では、オミックス情報を活用することで、一人ひとりのheterogeneity(いわゆる個人差)まで考慮した疾患の予防法を同定する研究をしており、これは人間の健康状態を精緻に表現するに当たってオミックス情報が必須であることを示していました。この状況を踏まえ、これからAIが発展していく時代で、オミックス情報が確実に今後の医療の中心になっていくと確信しました。

 ハーバードの研究室で過ごした約3年間で、オミックスとAIに関連した論文(共著を含む)を60本ほど出版しました。オミックスの中には、遺伝子、タンパク質、代謝物、腸内細菌など様々なレイヤーのデータがあるのですが、留学中にほぼ全ての種類のデータを扱い、多種多様な情報を統合して解析・解釈する技術を身につけました。ハーバードではアレルギー・呼吸器疾患を中心に研究を行ってきましたが、オミックスの研究自体はあらゆる病気に応用が可能であり、特に生活習慣病の進行はオミックス情報でかなり正確に表現することができるといわれています。

 しかし、生活習慣病の進行を正確に表現するには、疾患を発症していない大勢の健康な人達からもオミックス情報を取得しなくてはなりません。その点で日本は、詳細な健康診断や人間ドックをほぼすべての成人に対して毎年行っている世界で唯一の国であり、健常者からオミックス情報を経時的に取得できるシステムは、世界において日本の保健医療の仕組みの上でしか作れないだろうと考えました。

 そこで、オミックス情報を用いて生活習慣病の進行を正確に表現し、全ての生活習慣病を制御できるようにするための研究を行う予算を取得するために、留学中に政府のプロジェクトに対して何件も申請をしていました。運よく、2023年中に3件の大型プロジェクトの予算を通すことができたので、2023年で留学は終了とし2024年からこれらのプロジェクトを始動するため日本に帰ることを決意しました。ハーバードの研究チームリーダーからは、給与を出すのでスタッフとして残ってくれないかと言われましたが、日本でしかできない研究を行うために帰国しなければいけないとお伝えし、2024年初めに日本に帰国しました。

 日本に帰国した後は自身の研究室を開き、さっそく研究に着手しました。具体的には、糖尿病予備軍の健常者を215人集め、3カ月ごとにオミックス検査と詳細な代謝検査を行うとともに、後述のTaohealthアプリを通して毎日の詳細な生活行動や活動量を網羅的に収集しました。これらの網羅的なデータに対してAIで統合解析を行うことで、どのオミックス情報が人間の代謝状態を表現するのか、さらにどのような生活行動がオミックス情報や代謝状態を変化させるのかについて特定し、コンピュータ上で代謝状態を精緻にシミュレーションできるモデルの開発を現在も進めています。

大学発ベンチャーの枠組みで起業

――会社を設立しようと思ったきっかけは?

大岡 ハーバードにいたときから、日本の保健医療の仕組みを使って世界最大の経時的なオミックス・IoTデータベースを作れば、次世代の医療情報基盤を日本が総取りすることができるだろうと考えていました。しかし、そのデータベースを作り上げ、世界中の医療や健康を促進するサービスを提供できるようにするには、アカデミアだけではなくビジネスの世界に向き合い、継続的にお金を生むエコシステムを構築しなければいけません。それを実現するためには、私が今まで行ってきた研究を大規模に発展させて社会実装する「ビジネスの舞台」がなくてはならない。そう考え、帰国後すぐに株式会社Taomicsの立ち上げを行いました。

――とんとん拍子で山梨大学発ベンチャーの第5例目に認定され、先日はG-STARTUP(将来的に日本を代表する企業へ成長することが期待されるスタートアップ)の10社にも選出されました。

大岡 正直、私一人だったらここまでうまくはいかなかったと思います。ハーバードに赴任している際に、連続起業家である高頭博志との運命的な出会いがあったからこそ、Taomicsはここまでの勢いを持つことができました。高頭は、自身が立ち上げた広告アドテク企業であるMomentum社をKDDIに売却し、米国シアトルで新たな事業を立ち上げていたところでした。同じくシアトルには、私の古くからの友人であるMicrosoft本社のHealth FuturesチームのPrincipal Researcherである臼山直人氏がおり、たまたま彼が仕事の関係で高頭に出会い、私のことを高頭に紹介してくれたことが出会いのはじまりでした。そして、なんと私たち3人は、横浜にあった小さな塾に一緒に通っていた小学生からの同級生でした。小学生ぶりに偶然3人がアメリカで再会する形となり、なんだか運命や使命のようなものを感じましたね。そうして高頭に私が考えているビジョンを話したところ大変共感してもらい、そのままぜひ一緒に事業を立ち上げようという話になり、帰国後一緒にTaomicsを立ち上げました。

 彼は現在も米国にいながら、弊社のファウンダーとしての役割も担ってくれています。特に事業運営や資金調達面、ビジネスモデルに関して、全く経験のない私にもしびれを切らさずいつも適切なステップを示してくれて、事業を拡大させていくうえで本当に頼りにさせてもらっています。これまでもそうですし、これからも彼の力がTaomicsには欠かせないものになると考えています。

――現在はまだ御社の健康管理システムは開発途上段階にあり、正式な製品の供給は始まっていません。実際に供給を開始できる段階になったら、どのような形での展開を想定されていますか。

大岡 米国から帰国する前の2023年から、内閣府が所管するAMEDのプロジェクトの代表者として、Taohealthというアプリケーションの開発を進めて来ました。これは既存のヘルスケアアプリとはちょっと違って、医学研究に組み込むことのできるレベルでユーザーの多種多様な健康情報を蓄積し、ユーザーは自ら蓄積した情報をAIに読み込まることで個別の健康を最適化する提案を受けることができます。これからオミックス情報を導入して、アプリ上に個人の健康状態のコピーを作り上げて制御可能にすることが最大の目標で、現在はアプリに組み込むオミックス検査キットも並行して開発しています。

 正式な製品の供給化は来年以降になると思いますが、その後の展開は2通り考えています。1つは健康な人たちへの供給で、個人が自らの健康情報を容易に蓄積でき、そのデータとAIを使うことで自身の健康が勝手に最適化・最大化されるプラットフォームとしての展開を考えています。これを実現するために、現在の身体の情報を正確に再現するオミックス検査(開発中)と、日常のあらゆる健康関連情報が医療レベルで集積されるTaohealthアプリの開発を進めています。アプリ上に自身の健康情報が自動的に蓄積され、AIコーチが蓄積された全ての健康データを考慮して、自分に最適かつ実践しやすい健康提案をタイムリーにしてくれる。そんな新しい健康管理の形を、誰もが活用できる未来を目指して開発を進めています。

 そして、もう一つの展開は、医療現場での治療のバイオマーカーとしての活用です。これまでの医療は、病気という概念を土台に行われてきました。しかし、元々病気という概念は人間が名付けたものであり、なんらかの検査値や症状が出ている一点の人間の健康状態にすぎません。そうではなく、人間の「健康状態の移ろい」自体をオミックスで再現して、そもそも症状が出ない形に身体を最適化していく。この人間の健康状態の変化を表現する手段が今まではなかったのですが、私たちが開発しているオミックス検査とAIモデルを組み合わせることで、現在の健康状態を正確に定義することで投薬や治療を個別最適化できる可能性があります。

 ただ実際のところ、健康な人たちも病気の人たちもやるべきことは変わらず、「個人の健康状態を再現し、最適化されるように制御する」ということが全てです。そして、この最適化をする方法というのは医療だけではありません。食品やサプリ、保険や製薬など、健康に関わるあらゆる領域において、個人の健康に対する影響は最適化されるべきです。私たちのプラットフォームを用いることで、医療エビデンスに基づいて自身に最適な食品・サプリ・薬品・保険などを選べる仕組みを用意し、実社会でその活用例を提示していくことが今後のビジネス展開において重要だと考えています。

――いまでも、企業や自治体が実施している健康診断で判定がでて、ああしなさい、こうしなさいと言ってくれますが、それとは次元の違うことをお考えだということですね。

大岡 そのとおりです。現状の健康診断は、単一の検査値をもとに一律のアドバイスをする「画一的な評価」にとどまっています。しかし、人間の健康状態はもっと複雑で、日々変化するものであり、本来であれば個人ごとに最適化された評価と提案が必要です。私たちTaomicsは、その課題に正面から挑みます。オミックス検査とIoTデバイス、AIを組み合わせることで、これまで見えなかった“体質の個人差”や“微細な代謝の変化”までを可視化し、個別化医療・予防医療の基盤を作りあげます。そしてこれを実現できるのは、まさに日本だけなのです。なぜなら、国民の誰もが毎年健康診断を受けられる国は基本的に世界で日本しかありません。これが約50年前から続いているわけで、日本人は毎年健診を受けることが当たり前だと思っています。この希少な保健医療システムと健康診断を受け入れる国民性を活用し、オミックス検査やTaohealthアプリを既存の健康診断に付け加える形を作ることで、日本は“世界一の先制医療(先に病気を制する医療)プラットフォーム”を提供する国家となり、真に人々の健康寿命を延ばすことができると考えています。

今後の展望と海外展開

――直近で社会実装していく具体的なイメージはありますか。

大岡 私たちは現在、地元の自治体・山梨大学医学部・複数の大手企業と連携し、オミックス情報を活用した介護・医療費の最適化に関する実証実験を進めています。具体的には、自治体の住民を対象に経時的なオミックス検査、さらにIoTデバイスやTaohealthアプリを導入することで、対象住民のあらゆる健康データを網羅的に蓄積・統合します。これによって、対象住民全員の健康・代謝状態をデジタル空間上で再現する「デジタルツインモデル」をクラウド上に構築します。

 このモデルによって、地域の住民の健康・代謝状態が、日常の中でどのように変化しているかという“基盤となるヘルスケアデータ”を構築することができます。さらに追加でいくつかの別の住民グループを作って、異なる健康介入(運動、栄養、入浴など)を行い、その前後でオミックス情報を取得し比較することにより、各介入の効果が身体にどう反映されるのかを客観的に可視化します。

 最終的には、得られたデータを自治体が保有する介護・医療費のデータベースと突合させることで、それぞれの介入がどれだけ健康状態を改善し、医療・介護費の削減に貢献したのかを、医療経済学の研究者とともに定量的に明らかにしていきます。このモデルにより、個人の将来の健康状態の変化と、それに伴う介護・医療費の変化を高精度に予測し、発症前にどのような個別介入をすれば医療・介護コストが抑えられるか提案することができます。今後はこのアプローチを、企業の健康経営、保険システムの設計、さらには自治体のまちづくり政策にも応用し、個と社会の両方で健康を制御最適化していく時代をつくっていきたいと考えています。

――海外展開はお考えですか。

大岡 もちろん考えており、Taomicsのサービスが全世界の医療の基盤になることを目指しています。ただ、私たちが輸出したいのは単なる検査キットやアプリといった“製品”ではなく、”健康管理エコシステム”そのものです。日本は、全成人が毎年健康診断を受け、かつ医療制度とデータインフラが整っているという、世界に類を見ない環境を持っています。ここにオミックス、AI、IoTを融合させることで、予防から治療、そして介護に至るまで、すべてを“個別最適化”できるモデルが日本でこそ成立します。

 このモデルを確立し、標準化した上で、各国の医療体制や文化に応じてローカライズすることで、世界中の人々にも「自分の体の未来を自分でデザインできる」健康社会を提供できると考えています。Taomicsがこれらの取り組みを通して世界最大のオミックス・IoTデータベースを作り上げることで全く新しい医療のパラダイムを提供し、「すべての病気を予防できる社会」、そして「誰もが一生健康で幸せに過ごせる未来」を実現していきたいと考えています。

――ありがとうございました。

(取材=UNICORN JOURNAL編集部、文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

日本発の認証技術「RC-Auth」、インド金融市場のセキュリティを革新か

 インドのKadamba Intrac Private Limited(以下、Kadambaグループ)傘下のDMCバンクにおいて2025年6月1日、日本の株式会社PAY ROUTEが開発した一般ユーザー向けの認証システム「RC-Auth(ROUTECODE)」の運用を開始した。

 現在主流となっているワンタイムパスワード(OTP)だけでは解決できない、インドのファイナンス市場におけるセキュリティ課題に、日本発の認証技術が革新的な変化をもたらす。

一般ユーザー向け認証の開始でインドのセキュリティ課題にアプローチ

 2025年6月1日、KadambaグループのオンラインバンクであるDMCバンクにて、株式会社PAY ROUTEの双方向認証技術、RC-Auth(ROUTECODE)の導入・運用が開始された。

 RC-Authはこれまで、DMCバンクを含むKadambaグループ従業員向けの人材管理ソフトウェアやコンテンツ管理システムのサービスログイン時における認証として、すでに導入されていた。今回の導入は、一般ユーザーのブラウザ版DMCバンクでのログイン時と送金時(設定金額以上の送金)の認証を対象としている。

 DMCバンクのバンクシステムにRC-Authの認証システムを搭載することで、インドのファイナンス市場におけるセキュリティ課題の解決を図る。


 RC-Authとは、秘密鍵・公開鍵を利用した双方向認証技術の名称。RC-AuthのSDK(Software Development Kit:ソフトウェア開発キット)を利用して、アプリに安心・安全な決済や認証機能を追加することが可能になる。

OTP認証に代わる認証技術として注目

 インドでは、オンラインバンクでの送金時などに、ワンタイムパスワード(OTP)での認証が必須になっている。しかし、なおもハッキングやフィッシング詐欺などが横行し、より安全な認証手段の必要性が高まっていた。

 今回の協業は、インドのファイナンス市場でセキュリティが大きな課題となるなか、KadambaグループのオーナーであるAnantkumar Hegde氏(以下、クマール氏)が、PAY ROUTEのIDやパスワードを使わないRC-Authに強く関心を示したことに端を発している。

 クマール氏は、RC-Authについて「クレジットカード情報を含む個人情報が盗まれるリスクを回避しながら、従来よりもセキュリティの高いログインや決済を実現できることが強み。また、OTPのような二段階認証の必要がないため、非常にシームレスでユーザーも利用がしやすそうだ! 今後、安全性を一緒に立証することができれば、インド国内でスタンダードになりうる認証だと感じる」と評価している。彼の言葉からは、RC-Authがインド金融市場のセキュリティ基準を塗り替えるかもしれない、という期待感が伝わってくる。

PAY ROUTE、今後の展望

 PAY ROUTEでは、6月から、ISO27001の取得およびNPCI(National Payments Corporation of India:インド国立決済公社)からの認証取得に向けて動き出している。

 さらに、Kadambaグループが提供するEコマースのサービスログインの認証においても、RC-Authの導入を予定していく予定だ。

 今回の、一般ユーザー向けサービスでのRC-Auth導入・運用開始は、インドのファイナンスセキュリティ全体の向上につながる第一歩といえる。

 今後はより、セキュリティ分野における日本とインドの技術連携を加速させるとともに、RC-Authと決済システムを組み合わせた決済サービス「ROUTE PAY」の展開も視野に入れ、消費者が安心してオンラインサービスを利用できる社会の実現を目指すという。

※本稿はPR記事です

大東建託、「生成型AI課長」を導入…実践的な商談スキルを学習、生産性向上

●この記事のポイント
・大東建託は営業担当者の教育と支援を行うロールプレイング・システム「生成型AI課長」を導入
・顧客の特徴に合わせた実践的な応対スキルを学べる
・営業担当者の発言に対する顧客の感情変化を可視化することで、営業スキルの客観的な把握と改善を促す

 不動産大手の大東建託は4月、営業担当者の教育と支援を行うロールプレイング・システムの第2弾となる「生成型AI課長」を導入した。「AI課長」構想は2023年に検討が開始され、24年6月より本格的な開発に着手し、10月に第一弾となる「台本型AI課長」が全国展開。そして今回、営業現場の実態に即した「生成型AI課長」が導入された。顧客の特徴に合わせた実践的な応対スキルを学べるもので、従来の「台本型」から進化し、発言内容・音声のAI解析によって営業職の対応力を多角的に評価・指導するシステムだ。働き方改革で時間に限りがあるなかで、AIを活用して省力化しながらもお客様対応の質を向上させ、生産性の向上を目指している。今回は同社に、効果や背後にある課題、そして今後のAI活用について詳しく話を聞いた。

●目次

台本型から生成型AIにアップグレードし、AIが顧客役と評価者役を代替

――大東建託の営業支援ロールプレイング・システム「生成型AI課長」はどんなシステムでしょうか。

DX推進部・芦野直樹次長 昨年10月に「台本型AI課長」をリリースしており、ロールプレイングの第2弾です。シナリオベースで弊社営業担当に対して会話スキルを磨く形ではなく、今回は営業担当がお客様と会話をしていく中で、担当者の発言や音声をAIが評価して返答、そのやり取りを通じて「お客様がどう感じたのか」「こういうアプローチをしたほうがいいのではないか」というアドバイスを「生成型AI課長」からもらう仕組みになっています。

 AI が生成したお客様との対話で、営業担当の発言がお客様の気持ちに寄り添えているか、必要な情報をヒアリングできているかなど、営業に必要な要素をそれぞれ定量化した評価でフィードバックし、営業担当の対応スキルを磨く仕組みになっています。

――このシステムを導入するに至った背景・目的は何でしょうか。

デジタル営業推進部・村上勝彦部長 もともと営業活動の中で現場ではお客様の気持ちに沿った会話の訓練の一つとしてロールプレイングがあるのですが、従来は上司がお客様役をして、「この点は良かった。この点は改善すべきだ」とフィードバックしています。その部分をAIに担わせる仕組みです。

 通常であればロールプレイングは3、4人が集まらないとできませんが、日常の限られた時間の中で集まるのは大変なので、生成AIにお客様役と評価者役を演じさせることで、1人でも時間と場所を問わずにロールプレイングができます。

 営業担当の発言を受けて、AIがお客様の感情変化に沿って返答してくれます。指導者が、営業担当に教えたいお客様の属性や考え方のテンプレートをあらかじめ設定しておくことで、AIが設定通りに演じてくれるので、担当者はそれに沿ってお客様とのやり取りを練習できます。感情解析は「警戒心・興味・信頼」という3つの軸で定量化し、感情の動きで返答を返すことに加え感情が営業担当の発言によってどう動いたか、動いた理由は何なのかを可視化してくれる仕組みになっています

人材教育と効率化の両立を目指す

――「生成型AI課長」導入によって期待される効果は何でしょうか。

村上部長 営業時間を確保できるという効果を見込んでいます。支店に集まることで生まれる移動時間のロスがなくなり、本人や上司がその時間を他に使えるようになると期待しています。また、指導のレベルの均一化が図れます。ロープレ(ロールプレイング)は、評価者によって指導や表現の仕方が変わってしまうことが多々あります。

 根底では同じことを言っているにもかかわらず、伝え方が違うと受け取る側が迷ってしまうことがあります。しかし「生成型AI課長」をベースに置けば、あらかじめ指導のポイントをAIに学ばせているので、そのルールに沿った指導がされます。また、評価がデータとして蓄積されていくので、上司は後からロープレの実施内容を詳細に確認して、さらに細かな指導も可能になります。他の訓練事例もデータとして残っているので、適切な話法のナレッジシェアにも活かせます。

――節約できた時間を社員はどのように有効活用するのでしょうか。

村上部長 商談をするために資料を準備したりお客様と面談したりと、日常的にしなければいけないことがたくさんありますが、今は働き方改革で弊社も使える時間が減っています。事前準備もしっかりしてお客様が望んでいるものを提供していこうと思うと、極力そこにしっかり時間を使って準備をして向かわなければいけません。

 そのため、営業に求められる一般的なお客様とのコミュニケーションスキルの訓練は生成AIの力を借りて効率的に実施し、時間が節約できたのであれば、実際のお客様への提供価値の向上につながればと思っています。もちろん上司から部下への指導機会を減らすということではありません。

段階的に機能実装、課題解決とAI活用の拡大へ

――現場からのフィードバックは、どのように行っていますか。

村上部長 ローンチ前にPoC(概念実証)を2カ月実施してきたのですが、全国で19支店を選抜して直接、私が伺って支店長に説明をしました。実際に使ってみると、地域によってお客様の性格的な特徴も都心部と地方とはかなり違ってくるのもあり、そこに寄せていく作業を一緒にやりながら理解を求めてきました。

 現場の方からは「今まで1つの言い方でしか対応できなかったものが、いろいろ繰り返して練習したことで、他の人の話法も目にする機会があって話す幅が広がった結果、お客様と円滑に会話ができるようになった」という嬉しい声は聞いています。

 やはり使っていただいて本当に効果があるかは、お客様の反応が良くなったということでしか測れないので、効果を感じるまで使っていただくためには、いろいろ工夫が必要だろうと感じています。

――顧客の満足度を上げていくためのサイクルは。

村上部長 お客様の満足度を上げるためには、営業担当者が各段階でお客様にとって有益な存在になるような適切な接し方が重要になってくると思います。そのため、生成AIには実際のお客様の応対をよりリアルに再現させることに拘っています。

 営業担当の発言に対するAIの返答は、感情評価に基づいて生成されます。感情評価の結果とその理由が可視化されるので、そこにおかしな判定があればAIにチューニングを加えて、応対の精度を向上させています。

 そのチューニングに力を注いだ結果、現在では概ね適切に反応するところまで来たので、全国展開に踏み切りました。日常の練習をしていく中で、担当者がフィードバックをくれる仕組みもあります。それを検証してAIの判断基準に足りないものがあれば追加していき、辞書として参照させるべきものが必要であればそれを用意していくということを繰り返していくことで、精度はさらに高まっていくと考えています。

――「生成型AI課長」の開発プロセスと工夫・苦労した点は。

芦野次長 全支店一斉に公開するのではなく、まずは一部の支店で利用してもらいそのフィードバックから、改善開発を実施し全支店に展開するという段取りで進めてきました。今後は表情の解析・評価を導入する予定になっています。

 苦労した点は、表情や感情解析です。解析で定量化するのも難しいですが、生成型AIそのものの反応や処理の速度が遅く、その改善がシステム的な課題の1つです。言葉の解析と表情の解析を同時に行わなければならず、レイテンシー発生の原因になっています。言葉と表情の解析処理を効率的に分散化するなど、速度改善を図っていきたいと考えています。

――このほかに貴社として取り組んでいるAIやITの活用について教えてください。

芦野次長 今回の営業職種が使っているAI課長は社内で評判が良く、工事職種や設計職種からも同じようなものが開発できないかという声が上がっています。また、ChatGPTを活用したAIチャットボットを開発し、さまざまな業務で利用しています。例えば災害対応や、営業職種の業務的な問い合せなどに利用しています。その他、当社グループではAIを取り入れた数多くの業務変革を推進しています。

(文=Takuya Nagata/作家、社会開発家、テクノロジー・エキスパート)

大東建託、「生成型AI課長」を導入…実践的な商談スキルを学習、生産性向上

●この記事のポイント
・大東建託は営業担当者の教育と支援を行うロールプレイング・システム「生成型AI課長」を導入
・顧客の特徴に合わせた実践的な応対スキルを学べる
・営業担当者の発言に対する顧客の感情変化を可視化することで、営業スキルの客観的な把握と改善を促す

 不動産大手の大東建託は4月、営業担当者の教育と支援を行うロールプレイング・システムの第2弾となる「生成型AI課長」を導入した。「AI課長」構想は2023年に検討が開始され、24年6月より本格的な開発に着手し、10月に第一弾となる「台本型AI課長」が全国展開。そして今回、営業現場の実態に即した「生成型AI課長」が導入された。顧客の特徴に合わせた実践的な応対スキルを学べるもので、従来の「台本型」から進化し、発言内容・音声のAI解析によって営業職の対応力を多角的に評価・指導するシステムだ。働き方改革で時間に限りがあるなかで、AIを活用して省力化しながらもお客様対応の質を向上させ、生産性の向上を目指している。今回は同社に、効果や背後にある課題、そして今後のAI活用について詳しく話を聞いた。

●目次

台本型から生成型AIにアップグレードし、AIが顧客役と評価者役を代替

――大東建託の営業支援ロールプレイング・システム「生成型AI課長」はどんなシステムでしょうか。

DX推進部・芦野直樹次長 昨年10月に「台本型AI課長」をリリースしており、ロールプレイングの第2弾です。シナリオベースで弊社営業担当に対して会話スキルを磨く形ではなく、今回は営業担当がお客様と会話をしていく中で、担当者の発言や音声をAIが評価して返答、そのやり取りを通じて「お客様がどう感じたのか」「こういうアプローチをしたほうがいいのではないか」というアドバイスを「生成型AI課長」からもらう仕組みになっています。

 AI が生成したお客様との対話で、営業担当の発言がお客様の気持ちに寄り添えているか、必要な情報をヒアリングできているかなど、営業に必要な要素をそれぞれ定量化した評価でフィードバックし、営業担当の対応スキルを磨く仕組みになっています。

――このシステムを導入するに至った背景・目的は何でしょうか。

デジタル営業推進部・村上勝彦部長 もともと営業活動の中で現場ではお客様の気持ちに沿った会話の訓練の一つとしてロールプレイングがあるのですが、従来は上司がお客様役をして、「この点は良かった。この点は改善すべきだ」とフィードバックしています。その部分をAIに担わせる仕組みです。

 通常であればロールプレイングは3、4人が集まらないとできませんが、日常の限られた時間の中で集まるのは大変なので、生成AIにお客様役と評価者役を演じさせることで、1人でも時間と場所を問わずにロールプレイングができます。

 営業担当の発言を受けて、AIがお客様の感情変化に沿って返答してくれます。指導者が、営業担当に教えたいお客様の属性や考え方のテンプレートをあらかじめ設定しておくことで、AIが設定通りに演じてくれるので、担当者はそれに沿ってお客様とのやり取りを練習できます。感情解析は「警戒心・興味・信頼」という3つの軸で定量化し、感情の動きで返答を返すことに加え感情が営業担当の発言によってどう動いたか、動いた理由は何なのかを可視化してくれる仕組みになっています

人材教育と効率化の両立を目指す

――「生成型AI課長」導入によって期待される効果は何でしょうか。

村上部長 営業時間を確保できるという効果を見込んでいます。支店に集まることで生まれる移動時間のロスがなくなり、本人や上司がその時間を他に使えるようになると期待しています。また、指導のレベルの均一化が図れます。ロープレ(ロールプレイング)は、評価者によって指導や表現の仕方が変わってしまうことが多々あります。

 根底では同じことを言っているにもかかわらず、伝え方が違うと受け取る側が迷ってしまうことがあります。しかし「生成型AI課長」をベースに置けば、あらかじめ指導のポイントをAIに学ばせているので、そのルールに沿った指導がされます。また、評価がデータとして蓄積されていくので、上司は後からロープレの実施内容を詳細に確認して、さらに細かな指導も可能になります。他の訓練事例もデータとして残っているので、適切な話法のナレッジシェアにも活かせます。

――節約できた時間を社員はどのように有効活用するのでしょうか。

村上部長 商談をするために資料を準備したりお客様と面談したりと、日常的にしなければいけないことがたくさんありますが、今は働き方改革で弊社も使える時間が減っています。事前準備もしっかりしてお客様が望んでいるものを提供していこうと思うと、極力そこにしっかり時間を使って準備をして向かわなければいけません。

 そのため、営業に求められる一般的なお客様とのコミュニケーションスキルの訓練は生成AIの力を借りて効率的に実施し、時間が節約できたのであれば、実際のお客様への提供価値の向上につながればと思っています。もちろん上司から部下への指導機会を減らすということではありません。

段階的に機能実装、課題解決とAI活用の拡大へ

――現場からのフィードバックは、どのように行っていますか。

村上部長 ローンチ前にPoC(概念実証)を2カ月実施してきたのですが、全国で19支店を選抜して直接、私が伺って支店長に説明をしました。実際に使ってみると、地域によってお客様の性格的な特徴も都心部と地方とはかなり違ってくるのもあり、そこに寄せていく作業を一緒にやりながら理解を求めてきました。

 現場の方からは「今まで1つの言い方でしか対応できなかったものが、いろいろ繰り返して練習したことで、他の人の話法も目にする機会があって話す幅が広がった結果、お客様と円滑に会話ができるようになった」という嬉しい声は聞いています。

 やはり使っていただいて本当に効果があるかは、お客様の反応が良くなったということでしか測れないので、効果を感じるまで使っていただくためには、いろいろ工夫が必要だろうと感じています。

――顧客の満足度を上げていくためのサイクルは。

村上部長 お客様の満足度を上げるためには、営業担当者が各段階でお客様にとって有益な存在になるような適切な接し方が重要になってくると思います。そのため、生成AIには実際のお客様の応対をよりリアルに再現させることに拘っています。

 営業担当の発言に対するAIの返答は、感情評価に基づいて生成されます。感情評価の結果とその理由が可視化されるので、そこにおかしな判定があればAIにチューニングを加えて、応対の精度を向上させています。

 そのチューニングに力を注いだ結果、現在では概ね適切に反応するところまで来たので、全国展開に踏み切りました。日常の練習をしていく中で、担当者がフィードバックをくれる仕組みもあります。それを検証してAIの判断基準に足りないものがあれば追加していき、辞書として参照させるべきものが必要であればそれを用意していくということを繰り返していくことで、精度はさらに高まっていくと考えています。

――「生成型AI課長」の開発プロセスと工夫・苦労した点は。

芦野次長 全支店一斉に公開するのではなく、まずは一部の支店で利用してもらいそのフィードバックから、改善開発を実施し全支店に展開するという段取りで進めてきました。今後は表情の解析・評価を導入する予定になっています。

 苦労した点は、表情や感情解析です。解析で定量化するのも難しいですが、生成型AIそのものの反応や処理の速度が遅く、その改善がシステム的な課題の1つです。言葉の解析と表情の解析を同時に行わなければならず、レイテンシー発生の原因になっています。言葉と表情の解析処理を効率的に分散化するなど、速度改善を図っていきたいと考えています。

――このほかに貴社として取り組んでいるAIやITの活用について教えてください。

芦野次長 今回の営業職種が使っているAI課長は社内で評判が良く、工事職種や設計職種からも同じようなものが開発できないかという声が上がっています。また、ChatGPTを活用したAIチャットボットを開発し、さまざまな業務で利用しています。例えば災害対応や、営業職種の業務的な問い合せなどに利用しています。その他、当社グループではAIを取り入れた数多くの業務変革を推進しています。

(文=Takuya Nagata/作家、社会開発家、テクノロジー・エキスパート)

生成AIで子どもの空想をビジュアル化!? 「AI LOVE YOU展」で子どもたちの無限の空想力を引き出してみた

AIは人間の仕事を奪ってしまう“悪い”ものなのか、未来を見せてくれる“良い”ものなのか…。近年活用の場が増えるAIをどう捉えたら良いのか、モヤモヤしている人もいるのではないでしょうか?

電通では、そうしたAIの可能性を新たなカタチで模索する試みとして、AIのプロデュース事業を手掛けるウィットコレクティブ合同会社とともに生成AIで子どもの空想をビジュアル化し、子どもの空想力を育む展示イベント「AI LOVE YOU展」を開催しました。(4月18日~20日六本木「WHEREVER」にて)

本記事では、同展で展示ステートメントやパネル文言を担当した電通第1CRプランニング局の下穂菜美が、展示会の様子とともに、展示に向けたスタッフの想いやその裏側、今後の展開等をメンバーの声と併せてお伝えします。

AI LOVE YOU展#1_キービジュアル

AIって何者なんだろう?を、誰もが分かるカタチで示してみたかった

 今回の展示の開催のきっかけは、以前からお仕事をご一緒していたウィットコレクティブの久高一洋さんから、生成AIをテーマに一緒に何かやりませんか?とお話をいただいたことでした。

私は生成AI に興味はあったものの、少しとっつきにくい イメージがありました。SNSを中心に賛否両論が起きている印象もあり、「AIって人間にとって何者なんだろう?」と考えることもありました。

そこで、プロジェクトをはじめる前に、ウィットコレクティブのAIプロデュース事業の方々から生成AIについてできること・できないことを勉強する時間をいただきました。

勉強をしていく中で、一番興味深いと思った話が「生成AIは人間の考えたことをカタチにすることが得意」という点です。人間のこうしたい!という想像がたとえどんなものであっても、言葉で生成AIに伝えることで、その言葉を通じて写真、イラスト、歌、小説などを作ることができます。言葉という意味では、和歌などいつの時代に考えたものでも、生成AIはさまざまなカタチにすることができます。

そのうえで、人間の中で最も想像力が高い人=子どもたちではないかと考えました。AIをうまく使えば、彼らの空想を広げる手助けができるのではないかと思い 、想像力豊かな子どもたちを主役にし、その空想を生成AIでビジュアル化する展示企画が生まれました。

私自身、子どもの想像力に対して生成AIがどんなカタチを表現してくれるのか興味がありました。家族向けのAI展示も今まで見たことがなかったため、誰にとっても分かりやすく、良い意味でAIらしくない展示を表現できるのではないかとワクワクしました。

子どもの“空想の余白”は年々減っている!?

展示内容を詰めていく中チーム内で一つ議題となったのが、「子どもの想像力を生成 AIで拡張することは、果たして良いことなのだろうか?」という疑問です。その確証を得るために、子どもの空想について研究されている三重大学教育学部の富田昌平教授にお話をお聞きすることにしました。

富田教授によると、空想は人にとって安らぎをもたらし、深く没入することで新たな創造性を育むものですが、現代のデジタル環境では、情報や答えがすぐに手に入るため、昔に比べてじっくり空想を巡らせる余地が減りつつあるそうです。そんな中、生成AIは、言葉や絵、音楽などさまざまな形で、子どもの空想世界を広げる可能性を秘めていて、空想と創造の循環を生み出し、柔軟で心強いツールになり得る、とお話をいただきました。

今回の展示を通じて「生成AIが子どもの空想力を支援する存在になりうる」こと、また、生成AIが子どもたちの多様な個性や空想力を受けとめることで、 子どもたち自身が自分の「好きな部分」の発見や、自分自身をもっと好きになれる可能性があると考え、展覧会タイトルは「AI LOVE YOU展」に決めました。

子どもの空想を広げた3つのコンテンツ

1「キミの空想、AIがカタチにしてみた」
3人の子どもたちに協力してもらい、「なりたい!やりたい!」空想をもとに、その世界に入り込んだようなビジュアル作品を生成AIで作り、展示しました。

空想のビジュアル作品は1人につき7〜8点。生成AIと彼らの空想を掛け合わせていくうえで特に意識したのは、子どもたちにできあがった作品を一度見てもらい、もっとこうしたい!を聞いたところです。「一度作って終わり」ではなく、作品を通じて子どもたちの空想をより拡張することを目指しました。

AI LOVE YOU展#1_写真01
3人の子どもの“空想”作品。一度できあがったものがブラッシュアップされた様子も合わせて展示された。

作品はウィットコレクティブのcreAItive conductor※清水勝太 さんチームと協力して行いました。

※creAItive conductor
複数の生成AIプラットフォームを横断してプロデュースするウィットコレクティブ独自の肩書き
 
AI LOVE YOU展#1_清水氏ソロカット
生成AI作品を手掛けた清水さん。

清水さん:
生成AIクリエイティブで特に意識したのは、子どもたちの想像力をさらにワクワクする方向へ広げることです。ヒアリングの情報やお子さんの写真を手がかりに、1人につき1500枚ほど生成しています。私自身にも子どもがいるので、一目見たときに彼らが「すごい!」と感動できるようなインパクトのあるビジュアル作りを心がけました。 

2「空想AI写真館」
会場にきてくれた子どもたちにも空想をビジュアル化する体験をしてもらおうと考え、フォトスポット形式の「空想AI写真館」を実施しました。その場で子どもが思い描いた空想を入力すると、 生成AIが画像化。生成された世界を背景にプロジェクターの前で写真を撮ることができます。

AI LOVE YOU展#1_写真02
空想AI写真館の様子。

ウィットコレクティブの久高一洋さんを中心に、生成フローやプロジェクター周りを運営してもらいました。

AI LOVE YOU展#1_久高氏ソロカット
空想AI写真館を中心となって運営した久高さん。

久高さん:
当初はワークショップ的に PC 上で生成体験をしてもらう案も出ていました。けれど、 子どもたちに、空想すること自体にワクワクしてもらいたい、より没入できる体験にしたいとの考えから、プロジェクターで投影し、空想の世界に入り込んだような写真が撮れるフォトスポットを提案しました。

実際に設置をしてみると、太陽光が差し込んでくる限られたスペースで没入空間を作るのが結構大変で(笑)。プロジェクターを変えながら何度も検証し、無事空間を作れたのですが、イベントで子ども達が歓喜する風景を見て、この方法にして正解だったと思いました。

3「生成AIのQ&Aコーナー」
「生成AIってなにがすごいの?」「生成AIを使うときに気をつけることは?」など、生成AIに関する素朴な疑問に答えるQ&A形式のコーナーをパネル形式で展示しました。こちらの内容は会場パンフレットにも掲載し、ご自宅でも子どもたちと一緒に学んでもらえるようにしました。

ご協力いただいた富田教授による「子どもの空想力と生成AIの可能性」についてのコメントも併せて展示しました。

AI LOVE YOU展#1_写真03
生成AIのQ&Aコーナーと富田教授のパネル写真。

さらに来場のお土産として、2030年の子どもが2025年のあなたに向けた「未来の子どもからのお手紙」を配布しました。手紙の内容は生成AIに考えてもらいました。運動が得意な子ども、歌が好きな子ども、恥ずかしがり屋な子どもなど 10パターンほど作り、ランダムで手に取ることができるようにしました。

展示会場の中央には、協力してもらった3人以外の子どもたちから事前に募集した空想を別途画像化し、その写真を貼り付けたモニュメントも設置しました。

AI LOVE YOU展#1_写真03
(写真上から)「未来の子どもからの手紙」「みんなの空想のおうちモニュメント」。

生成AIを使った実験的展示で伝えたかった2つのこと

AI LOVE YOU展#1_下氏ソロカット
展示ステートメント、パネル文言担当・下。

展示のステートメントとパネル文言を制作するにあたって、「生成AIが子どもの空想を手助けするパートナーになり得ること」「子ども大人問わず空想が大切であること」が読後感として伝わることを意識しました。

また、保護者と子どもが一緒に読みたくなるパネル文言を目指し、小学校6年生以下の子どもでも読めるようなやさしい文章や漢字選定を行いました。(生成AIにも、パネル文言を入力して、漢字選定を協力してもらいました!)  

AI LOVE YOU展#1_写真04
会場に飾られたキービジュアル。

会場の雰囲気と展示作品のトーン調整は、電通のアートディレクターの松下仁美さんに依頼しました。 

AI LOVE YOU展#1_松下氏ソロカット
アートディレクターを務めた松下さん。

松下さん: 
サメや海の中などいろんなモチーフがあったので、生々しくならずかわいいトーンの仕上がりを目指しました。展示会自体の印象を統一したかったので、生成AIを使ってパステル調で表現した画像を作り、その画像をターゲットにトーンを統一しました。

生成AIは過去のデータから学習するため、どうしても無意識に固定観念や偏ったイメージを含んでしまいます。子どもたち自身の言葉や感じている気持ちを丁寧に聞き取り、しっかりとビジュアルに反映させることを一番大切にしました。

生成AIが「子どもの感性を制限する存在」ではなく、「自由な想像をさらに広げる心強い味方」として役立ってくれたのではないかと思っています。

AI LOVE YOU展#1_写真05
AI LOVE YOU展#1_写真06
会場の様子

AIと子どもが関わり合うことによる、明るい未来への可能性

展示の来場者数は想定の2倍以上の結果となりました。ウェブメディアを中心に複数の媒体から取材もいただき、展示の様子が紹介されました。都内のイベント情報を発信しているインフルエンサーにも「AI LOVE YOU展」をおすすめイベントとして取り上げていただきました。

来場者は想定していた家族層が中心でした。「子どもの空想がカタチになると面白い」「生成AIは子どもたちの未来を明るくする存在かもしれない」「できたものが、思ってたのと違うところもきれいでたのしい!」など、大人から子どもまで前向きな言葉を多くいただきました。

子どもの自由な空想は10歳以上になるとなかなか難しいとの声もあり、子どもの写真と空想をセットにして作品に残せること自体が、家族にとってポジティブな体験だということも分かりました。

「AI LOVE YOU展」を通じたこれらの発見や意義は、電通が提唱している「"人間の知(=Intelligence)"と"AIの知"の掛け合わせによって、顧客企業や社会の成長に貢献していく」という独自のAI戦略「AI For Growth」にも通じるものです。

「AI LOVE YOU展」チームでは、本展示をきっかけに、引き続きプロジェクトを広げていくべく他イベントへの出展や子どもの空想を作品として残すサービスを画策中です。「一緒にやりたい!やれそう!」という方は、ぜひお声がけください。

AI LOVE YOU展#1_集合カット
【「AI LOVE YOU展」プロジェクトチーム】
電通:
下穂菜美(第1CRプランニング局)・佐藤佳文(第3CRプランニング局)・松下 仁美(第3CRプランニング局)・重政 直人(第2CRプランニング局)・清水崇弘(第3CRプランニング局)・北野歩実(第3CRプランニング局)
 
ウィットコレクティブ: 
久高一洋・清水勝太・高野斐依・江田一然・見黒広太
 
ウィットコレクティブ合同会社とは

「ココロが動く、世界が動き出す。」を掲げ、エンタテインメントの新たな価値をプロデュース。広告・映画・イベント等の知見をもとに、最適なチームでコンセプト設計から制作・展開までを一貫して手がけています。AIプロデュース事業では、映像のプロであり生成AIの知見が豊富な"CreAItive Conductor"が最先端技術を横断的に活用し、アウトプットを設計。生成AIによる映像・ビジュアル表現の可能性を広げ、新たなエンタメ体験を提供します。また、生成AIを駆使し広告動画やIP開発を提供するAI動画プロデュースサービス「DO/AI」も展開中。 ウェブサイト URL:https://wit-collective.jp/

X

クラウド王者・AWSのシェア低下の理由…猛追するマイクロソフト・Azureが逆転?

●この記事のポイント
・世界クラウド市場1位のAWS、シェアが低下し30%を割り込んだ
・ChatGPTの技術やCopilotを持つマイクロソフトのAzureのシェアが拡大
・市場シェアの変化が生じている理由は何なのか、マイクロソフトがAWSを逆転する可能性はあるのか

 世界のクラウドサービス市場で不動のシェアトップに君臨してきた米Amazon Web Services(アマゾン ウェブ サービス:AWS)だが、昨年頃からじわじわとシェアが低下し始め、米調査会社シナジー・リサーチ・グループの調査・発表によれば、今年1~3月のシェアが30%を割り込んだという。一方でシェアを拡大させているのが、「Microsoft Azure」を展開するマイクロソフトだ。OpenAIのChatGPTの技術を導入し、また独自のAIアシスタント「Microsoft 365 Copilot」を提供しているマイクロソフトが、クラウドサービスにも生成AIを積極的に導入する動きをみせていることが要因ともいわれている。こうした市場シェアの変化が生じている理由は何なのか。また、マイクロソフトがAWSを逆転する可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

Azureのシェアが増えている背景

 世界のクラウド市場では、1位のAWS、2位のマイクロソフト、3位の「Google Cloud」を展開するグーグルが3強となっており、ここ数年は各社の市場シェアはそれぞれ概ね30%台、20%台、10%台で推移してきた。下位2社の追い上げは勢いづいており、グーグルは今月、クラウドサービスを運営するデータセンター内の機器で使用するとみられるAI向け半導体・TPU(Tensor Processing Unit)の第7世代「Ironwood」を発表。性能向上に加えて大幅な電力効率の向上がなされ、24年に発表された第6世代TPU「Trillium 」と比較して2倍の消費電力あたりのパフォーマンスを発揮するとして注目された。

 AWSのシェア低下の理由は何なのか。クラウドエンジニアのI氏はいう。

「現場で働いているエンジニア目線でいうと、クラウド業界の先駆者的なポジションにAWSがいて、今までずっと市場をリードしてきたこともあり、AWSを扱えるエンジニアの数が多く、現在でも増え続けています。そしてAWSエンジニアも比較や勉強のために他のクラウドサービスを調べたり使ってみたりするので、そうなると必然的に2番手のAzureが使われやすくなります。AWSとAzureの大きな違いは、バックグラウンドとして多くの企業がマイクロソフトの製品をすでに導入しているという点です。つまりAzureは企業の既存システムとの相性が良いのに加え、既存のマイクロソフト関連の契約があるとAzureのライセンス料を比較的低価格に抑えることができるという点が、徐々にAzureのシェアが増えている背景としてはあるのかなと思います」

 AWSとAzureの違いは、どのような部分にあるのか。

「マイクロソフトの製品を使ってシステムを構築している企業の場合、アクティブディレクトリやユーザー作成などの面でAzureとの連携がしやすいというのは、Azureの一つのメリットです。一方、AWSを使う上での最大のメリットは、やはりナレッジが非常に豊富にあるという点です。これまでクラウド業界をリードしてきたがゆえにAWSエンジニアの数も世界で多いので、あらゆる検証済の技術が存在しており、新しく何かをやろうとした際にハードルが低いです。とはいえ、現状ではAWSでできることの大半はAzureでもできるので、技術的にものすごく大きな差というのは、あまりない気がします」(I氏)

Azure一強という状況は生まれにくい?

 生成AI関連の技術・サービスの差が市場シェアの変化に影響を及ぼしている可能性はあるのか。

「AzureだとChatGPTやCopilot、マイクロソフト製品と容易に連携させて業務効率化を図るといったことも、やりやすいですし、新規でクラウドを導入しようとなった際に『これから積極的にAIを活用していきたいから、やっぱりAzureを選んだほうがいいよね』と期待感が先行するかたちでAzureが選ばれやすくなるという面はあるかもしれません」(I氏)

 では、近いうちにAzureとAWSのシェアが逆転する可能性はあるのか。

「Azureを使えるエンジニアも増えてきているので、じわじわとAzureの利用は拡大していくとは思いますが、AWSのエンジニアが多い企業ではAWSが選ばれやすいでしょうし、Azureがものすごい機能をリリースするなど、よほどインパクトが大きい出来事がない限りは、すぐに逆転するということは考えにくいです。Azureに明確な強みというのが出てこなければ、なかなかAzure一強という状況は生まれにくいのかなと感じます。

 エンジニア目線でいうと、やはりAWSは非常に操作性に優れていて使いやすく、UI的な部分でのバグが少ないというのは強みです。エンジニア目線でいうと、やはりAWSは非常に操作性に優れていて使いやすく、UI的な部分でのバグが少ないというのは強みなので、クラウドのエンジニアを目指すならとりあえずAWSの道に行くという人が今も大多数です。AWSが優れているのは操作性だけでなく、ナレッジが豊富にあるためクラウドエンジニアを目指す人が成長しやすいというメリットもあります。

 大企業ですと、社内システムで業務効率化するために社外秘のデータをインターネット通信しない環境で検索して、情報をすぐに引っ張ってこれるようにしたりと、AIを使って業務効率化を図るということに着手しているところも増えていますが、多くの中小企業はまだそこまで進んでいないと思います。これから多くの企業でAIの活用が本格化してくれば、クラウド市場も変わってくるかもしれません」(I氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)