ネコラボはじめました。 ─猫×テクノロジー×アイデアの研究所

近年、猫と人間の関係は大きくアップデートされ、新たな時代が到来しています。

本連載「ネコラボ通信」は、電通のクリエイティブR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」内に発足した猫専門イノベーションチーム「Neko Lab Tokyo」(以下、ネコラボ)のメンバーが持ち回りで登場。テクノロジーとアイデアを掛け合わせた、猫にまつわる最新プロジェクトやユニークな研究開発をお届けしていきます。

<目次>

ようこそ猫沼へ

「ニャー・ノーマル」がやってきた?

好奇心は、猫を救う

猫は、1匹ずつちがう。猫好きもね

次回、「猫とお花の関係」を考える

 

ようこそ猫沼へ

「猫と仲良くなるコツは、やさしく見つめて、ゆっくりまばたきをすること」

ある本にそう書いてあったのを思い出して、繁殖猫としてのつとめを終えてやってきたばかりの猫に、半信半疑で試してみます。警戒モード全開だったその子が、ほんの少し目を細めてまばたきを返してくれた瞬間、私はたぶん、完全にやられてしまったのです。

鳥山石燕「今昔百鬼拾遺」より妖怪「毛羽毛現」(左)と「マジョ」さん(右)
鳥山石燕「今昔百鬼拾遺」より妖怪「毛羽毛現」(左)と「マジョ」さん(右)

以降いっしょに暮らしているのが、妖怪「毛羽毛現(けうけげん)」にそっくりな、ペルシャ猫のマジョさんです。申し遅れました。マジョさんの同居人で、ネコラボのリーダーを務めているアートディレクター/クリエイティブ・ディレクターの宮下良介と申します。

広告の世界で長らく「人の気持ち」について考えてきた私ですが、猫に関しては素人同然です。おやつの気配を察知する驚異的な能力を持ちながら、ソファから鈍くさく落っこちる。毎朝6時に飼い主の目覚めを強要する一方で、まるで哲学者のように窓辺で物思いにふける。めずらしく甘えてきたと思えば、すぐに飽きてぷいっとどこかへ行ってしまう。なんとも愉快だけど、つくづく、よくわからない存在。

……この「猫という謎」にちゃんと向き合ってみたい。そんな思いで、なかば勢いだけで所属する「Dentsu Lab Tokyo」の猫好きに声をかけ立ち上げたのがネコラボです。ラボとは言ってもアカデミックな機関ではなく、「テクノロジー」や「アイデア」を武器に、ちょっとユニークな視点で猫を見つめ、研究やものづくりを行うチームです。

「ニャー・ノーマル」がやってきた? 

およそ1万年前、人間と猫のつき合いが始まります。日本人と猫との出会いは弥生時代にさかのぼり、平安時代に貴族のペットとして飼われた猫は、江戸時代には庶民の暮らしに溶け込みました。そして平成の終わりごろ、日本では3度目と言われる「猫ブーム」が訪れます。

2014年、猫の飼育数が犬をはじめて上回り(※)、2016年には「猫」の検索数が犬の約3倍に達します。メディアには猫コンテンツがあふれ、その経済効果から「ネコノミクス」なんて言葉も生まれました。

※一般社団法人ペットフード協会調べ
 

さらに2020年代に入って、猫を取り巻く環境にこれまでになかった変化が次々と現れはじめます。

  • 改正動物愛護法により虐待厳罰化・繁殖制限・マイクロチップ義務化が進む
  • 「保護猫を迎える」という選択肢が広く認知されるように
  • スマート首輪やAIトイレなど、猫のウエルネステックが進化
  • 「フレッシュ&ヒューマングレード」など、高品質なキャットフードの登場
  • トリミングやインテリア雑貨など「猫だけ」に特化したサービスや商品の拡大
  • 「猫は小さな犬ではない」国際認識の広がりとともに、猫専門医療が普及
  • 高齢猫の腎疾患研究が進み、日本発の新薬が臨床試験フェーズに移行…などなど

 ネコラボ

2010年代後半が、SNSを中心に猫の「かわいさ」や「コンテンツ力」に注目が集まった時代だったとすれば、2020年代は、より科学的な視点で猫の個性や健康に寄り添うケアが重視されるようになった時代と言えるでしょう。いわば「猫版・新しい日常」の到来です。

こうした変化の先には、まだ見ぬ可能性があふれているはず。私たちネコラボにとっても、猫と人間の「当たり前」を見つめ直す絶好のタイミングなのです。

好奇心は、猫を救う

ネコラボはイギリスのことわざ「Curiosity Killed the Cat. 好奇心は、猫を殺す。」から着想した「Curiosity Saves the Cat. 好奇心は、猫を救う。」というスローガンを掲げています。本来は「好奇心もほどほどに」という戒めの言葉ですが、私たちはむしろ、好奇心こそが猫との距離を縮める原動力だと考えています。

日常でふと浮かぶ「これって猫的にどうなんだろう?」という疑問や発見を、私たちなりのアイデアやテクノロジーで形にしてみたいのです。まだ実績はないけれど、始まったばかりのラボだからこそ自由に発想できるはず……。そこで今回は(あくまで私の超個人的な)妄想たっぷりの“R&D”をご紹介することにします。

ネコラボ

《妄想R&Dその1》世界の「猫犬境界線」を探ってみる

日本では猫が犬の飼育数を上回りましたが、世界はどうでしょう。フランスでは長年猫優勢、中国は2021年に猫が犬を逆転、アメリカは2010年代に再び犬がリードしています。そこで、各国の猫犬比をランキング化して猫派・犬派で色分けした世界地図を作ってみる。さらにはGDPや幸せ指数を重ね合わせてみたら――もしかして、猫が多い国に、意外な共通点が見えてくるかもしれません。

《妄想R&Dその2》令和の「猫の目時計」

古くから中国に伝わる、猫の目で時刻を推定する「猫時計」という概念を、現代のテクノロジーで発展させる試みです。球体の透明デバイスに、磁力で自在に形を変える「磁性流体」を封じ込め、猫の瞳孔に見立てます。この瞳孔は、GPSで取得したその土地の太陽の動きと連動。さらに環境音センサーを組み合わせることで、光や音に反応しながら刻々と表情を変える、まるで生き物のようなアート時計の誕生です。

《妄想R&Dその3》史上初?!「まぐろ臭」ディフューザー

じつは猫は「におい」に超敏感。精油などの「いい香り」が命とりになることも。そこで逆転の発想です。人間には魚臭いけど、猫はゴロゴロ喉をならして喜ぶ香りをディフューザーにしてサンプリング。受け取った人間が思わず顔をしかめたらしめたもの。「人間に心地よい香りは猫にとって危険かもしれない。だから気をつけよう」という「猫を救う」メッセージになってくれたら最高です。

猫は、1匹ずつちがう。猫好きもね

最後に、そんな妄想に本気で取り組んでいるネコラボメンバーたちから、一言ずつコメントをもらいました。一見バラバラに見えるチームですが、その好奇心の多様性こそが最大のクリエイティビティです。

  • 「“かわいい”だけじゃない、命と向き合うということ。看病からペットロスまでの経験を生かしたい」秋澤瑞穂(コピーライター/CMプランナー)
  • 「2週に1度は動物園・水族館に行かないと落ち着かないんです。※上野・葛西・多摩の年間パス持ってます」上杉剛弘(獣医師/コンサルタント)
  • 「猫のおかげで兄弟なかよくできた。奮闘中の育児に、猫が与える影響に関心があります」大瀧篤(クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト)
  • 「保護猫を迎えてから、“ゆかいな生物多様性”をモットーに活動しています」澤井有香(コンサルタント)
  • 「猫大好きだけど猫の毛アレルギー。そのもどかしい愛を原動力に」関陽子(コピーライター/クリエイティブ・ディレクター)
  • 「うちの猫が時折見せる、人間っぽい行動の謎に迫りたい!」高瀬未央(アートディレクター)
  • 「necomimiという製品企画に関わったことがあり、猫に恩返しがしたいです」なかのかな(クリエイティブ・テクノロジスト/リサーチャー)
  • 「猫が遊ぶだけで、健康状態を測定できるおもちゃを作りたい」中村恵(コミュニケ―ション・プランナー)
  • 「感動的ですらある猫の身体感覚を、自分自身に宿らせたい!」中山桃歌(クリエイティブ・テクノロジスト)
  • 「最大6匹のヒマラヤンに埋もれて育った、根っからの猫派です」根岸桃子(アートディレクター)
  • 「猫の幸せのためには、まず猫の気持ちを知るところから」若園祐作(クリエイティブ・テクノロジスト)
  • 「ふみふみで発電する照明をつくりたい」宮下良介

ネコラボ

次回、「猫とお花の関係」を考える

ネコラボ通信は、本日8月8日「世界猫の日」からスタート。第2回は、妄想ではなく実際に行われた実験です。「猫NGのお花判定アプリ開発」をテーマに、なかのさんと若園さんの奮闘をご紹介します。どうぞ引き続きおつき合いください!

イラストレーション:根岸桃子(Neko Lab Tokyo)
お問い合わせ:neko-lab-tokyo@dentsu.co.jp 
 

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「作業員の確保難で大型プラントの定期修理ができない」…三菱ケミカルG、自社開発システムを業界他社にも展開する理由

●この記事のポイント
・石油化学会社などの大型プラント、人手不足などで定期修理が困難になる可能性
・三菱ケミカルG、工程の「可視化」を実現するシステムを開発して、定期修理の効率を大幅に改善
・三菱ケミカルG、化学業界の競合他社に対し、このプラットフォームの導入・利用を呼び掛けている

 石油化学会社などの大型プラントは数年ごとに稼働を全面的に停止して、定期修理を行う必要がある。化学最大手の三菱ケミカルグループ(G)は一部の大型プラントについて2年に一度、約2カ月をかけて多い日には一日に4000人近くの作業員を動員して定期修理を行っているが、建設業界の全国的な人手不足や時間外労働規制などの影響で作業員の確保が難しくなりつつあり、「定期修理ができなくなるかもしれない」(三菱ケミカルG)という課題を抱いていた。そこで同社は工程の「可視化」などを実現するシステムを開発して、定期修理の効率を大幅に改善。トータルでの作業への動員数の10%以上の削減や定期修理期間の短縮を達成したが、同社は化学業界の競合他社に対し、このプラットフォームの導入・利用を呼び掛けるという異例の動きをみせている。その背景について三菱ケミカルGに取材した。

●目次

定期修理をめぐる厳しい現状

 まず、定期修理をめぐる厳しい現状について、三菱ケミカルGは次のように説明する。

「国内の製造事業者の大型プラントは、かつての高度経済成長期のようにスクラップ・アンド・ビルドでどんどん設備を大きくしていくという環境ではなくなり、国内需要が減少していくなかで既存のプラントをいかに効率的に使っていくかという課題に、石化業界全体が共通して直面しています。50年以上稼働しているようなプラントが増加し、経年劣化が進みやすい環境にあるなかで、定期修理としてやらなければならない検査、補修、設備の更新、部分更新などが増加して、工事量が増えています。加えて時間外労働規制で作業員が働ける時間自体も限られ、少ない人数で限られた時間のなかで定期修理をやらなければいけない。これはどの石化企業も同じく抱える課題です。

 業界団体の石油化学工業協会もこれを問題視して、2019年にエチレンオーナーの意見・状況を集約し、有識者による定期修理研究会を立ち上げ、定期修理のあり方の検討に着手しました。そこで、各社が同じ時期に定期修理を実施すると全国から作業員を集めるのが大変なので、重なりをできるだけ少なくして協力会社の奪い合いが生じないような環境を整えましょうという提言がなされました。個社間で調整してしまうと独占禁止法に抵触する恐れがあるため、公正取引委員会にも問題がないことを確認し、2023年から石化協が調整するスキームが始まっています。

 弊社は2024年度の茨城・鹿島コンビナートの定期修理で、石化協から『他社と定期修理の期間が重なっているので、工期を調整することは可能ですか。』との問題提起があり、通例より、工期自体を9日間短縮すること等の対応で、他社との重複影響を縮小できました」

システムを開発・導入して工事計画を精緻化し動員数を削減

 工期を短縮化できた要因の一つが、同社が日立ソリューションズと共同開発した、定期修理を効率化するためのシステムの導入だった。

「ピーク時の工事物量を精査したり、一人ひとりの作業員の効率を上げることによって、同じ工事をやるにも少ない人数で仕上げましょうという工事計画精緻化の取り組みを行ってきたことで、動員する作業員の延べ人数を、前回の2020年の定期修理と比較して10%以上削減することができました。弊社は茨城・鹿島のほかに、岡山の水島コンビナートにも大型プラントを持っており、岡山で植えた種を茨城で大きくして、それをまた岡山に返すというサイクル(あるいは逆のサイクル)が、お互いの情報交換のなかで生まれてきました。さらに全社の若手スタッフを集めて、他の事業所とも共有しながら施策を検討し、全社施策として展開することで、25年度から同じ仕組み・システムを用いて各事業所工場の定期修理を回すという段階に入ってきています。

 工事進捗を可視化することで、作業員の待ち時間を少なくし、現場作業に注力できる時間を長くする工夫を行ったりしています。例えば、従来は日々の工事は弊社の運転管理部門及び設備管理部門の担当者が現場の安全措置状況と前日の工事日報の内容を照合して、紙に印刷された着工許可証にハンコを押すことで協力会社作業員の工事着工を許可していました。定期修理時はプラントによっては数百件の工事着工を一つひとつ確認するため、着工までに朝1時間の待ち時間が発生することも珍しくありませんでした。この着工許可証にRIFDを貼り付け、安全確認に必要な情報を連携させ、多数の工事の着工可否を瞬時に仕分けできる受付システムを構築したことで朝の着工待ち時間が大幅に削減されました。

 もっとも動員数の減少につながったのが、日立ソリューションズと共同で開発した工程管理ツールの導入です。計画段階で安全措置にかかる期間、複数の協力会社に実施いただく各種工事の期間を可視化し、精緻に見直すことが工程短縮に大きく寄与しました。このツールは工事実行段階での効率化にも役立ちました。従来は協力会社の方々が作成した当日の工事進捗と翌日の予定工事が記載された工事日報を使用して、毎日夕刻に運転管理部門及び設備管理部門の担当者と協力会社の3者で調整会議を実施していました。工事の作業単位での進捗をシステムに入力、管理することで、工事日報の作成、詳細な調整会議を実施しなくても工事進捗をリアルタイムで把握することが可能となりました。その情報は協力会社間でも共有され、作業終了が次工程を担当する協力会社の担当者へメール送信されることで無駄なアイドルタイムが削減され作業員の稼働率の向上につながりました。

 このほか、作業員の方々のヘルメットにビーコンデバイスをつけて、プラントの入り口に受信機を設置し、どの作業員が今、どこでどういった作業に従事しているのか、もしくは事務所に戻って待機しているのかを把握できるようにもしました。

 こうした取り組みによって、無駄な時間を大幅に削減することで、弊社も協力会社様も助かっています。もちろん工期の圧縮やコスト削減といった効果もありますが、何よりも定期修理は人集めに本当に苦労しますし、『もうこのままだと、定期修理ができなくなってしまう』という危機感を抱いていたので、少ない人数で定期修理をできるような素地ができつつあるという点が大きいです」

定期修理をめぐる課題は業界共通

 前述のとおり、三菱ケミカルグループは自社で導入しているこのプラットフォームを、石化業界の競合他社にも展開していこうとしている。その理由はなんなのか。

「大前提としては、定期修理をめぐる課題は業界共通のものであり、一社だけで解決できるものではないという点があります。業界全体で取り組めば、協力会社の方々も同じツールを使用することで手間が省け、業界全体で効率化が進むと考えられます。また、より使い勝手の良いシステムになっていくのではないかと思います。どのようなプラットフォームをつくるのかという検討業務の負荷は軽くはないですし、各社それぞれ進んでいる領域などを持ち寄って協力して開発していったほうが、業界全体にとってプラスの効果が大きいと考えています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「猫と花とAIと」

近年、猫と人間の関係は大きくアップデートされ、新たな時代が到来しています。

本連載「ネコラボ通信」は、電通のクリエイティブR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」内に発足した猫専門イノベーションチーム「Neko Lab Tokyo」(以下、ネコラボ)のメンバーが持ち回りで登場。テクノロジーとアイデアを掛け合わせた、猫にまつわる最新プロジェクトやユニークな研究開発をお届けしていきます。

2回目は、猫と生活する上での「とある困りごと」を、テクノロジーで解決する方法はないか、リサーチャーのなかのかなと、クリエイティブテクノロジストの若園祐作が試行錯誤している事例をご紹介します。

<目次>

猫を飼いはじめてチューリップを飾れなくなった

「この花はどう?」と気軽に聞けるAIがいたら

猫も花も好きな人のためのアプリを試作してみた

提案型AIが猫との暮らしをアップデートする未来

 

猫を飼いはじめてチューリップを飾れなくなった

ネコラボ
なかの:8月8日の世界猫の日にスタートしたネコラボですが、その前日の8月7日ってなんの日か知ってますか?

若園:8と7……花の日ですか?

なかの:正解です!花の日と猫の日、記念日としてはおとなり同士なんですが、わたしは猫が家に来てからお花や植物を飾れなくなってしまったんです。

若園:もともと花や植物を飾らないのでよくわからないのですが、猫がイタズラするからですか?

なかの:それもありますが、中毒になる植物が結構あるらしいんです。猫を飼うのは初めてだったので、家に来ることが決まってから、飼育や生態についての入門書を買ってきて何冊か読みました。

necomimi(※1)を企画していたときにも猫について調べてはいたのですが、一緒に暮らすぞ!ということになってみると、資料の読み方も変わりますね。以前は気にしていなかった「命に関わるNG項目」に、「ユリ科の植物」が書かれているのが目に飛び込んできて、すごくショックを受けました。 

※1 necomimi=頭に装着することで、脳波を測定し、「猫耳」の動きで装着者の集中・リラックス状態を表現するデバイス。Bio Search(旧ニューロスカイ)から2世代目が発売中です。https://dentsulab.tokyo/works/necomimi


若園:ああ、確かに植物のNGは多いですよね。ユリ科は花瓶の水も危険と書いてあるウェブサイトも見たことがあります。 

なかの:そうなんです。来てみると、おてんばで好奇心の強いタイプの猫だったので、倒しでもしたらと心配になってお花を買うことをいったんやめました。ユリ科ということはヒヤシンスもチューリップも……。花を飾るのは毎年の春先の楽しみだったので、家の中で過ごすことが多かったパンデミック中は特に寂しい気持ちになりました。その穴を猫が埋めてくれたとも言えますけども。若園さんの家の猫さんはやんちゃなタイプですか?

若園:はい、とても。今一緒に住んでいる猫は2歳なのですが、成長するごとにどんどんやんちゃになっています。人間の気を引くために物を落としたり、歯がかゆいからなのか、さまざまなものをかんでみたり。

わが家では花を飾る習慣はなかったのですが、猫を飼いはじめてからよりいっそう、花や植物はうちとは関係ないものだと思ってしまっていました。猫のいる生活と花を飾る生活を両立するためには、気持ちの面でも情報面でもハードルが高かったんですよね。

「この花はどう?」と気軽に聞けるAIがいたら

ネコラボ
なかの:生花店で猫がいる家に飾っても大丈夫かどうか聞こうと思っても、その店員さんが猫を飼っていないとわからない場合もありますしね。家に植物がないことに、がまんができなくなって探した結果、ECサイトで「犬猫がいても安心」カテゴリを設けている翠堂明(みどりどうめい)さんというお店を見つけて、勇気を出して実店舗の方に観葉植物を買いに行きました。

店主の吉川靖さんにご相談したところ「すべての猫に絶対ではないですが、コレとコレは大丈夫だと言われていますね」とおすすめしていただいた中から鉢植えを購入して、家が少し明るくなりました。最近ではサブスクリプションサービスで猫に安全なブーケを届けてくれるECサイトも出てきています。

若園:それはとてもラッキーでしたね!そのような情報やおすすめを実際のお店で得られて、納得して購入できる体験は本当に貴重だと思います。多くの方は、信頼できる情報にたどり着けなかったり、信頼できる情報なのか判断できなかったりしそうです。

例えば、アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)のウェブサイトでは猫にとって有毒・無毒な植物のリストが掲載されていることを先日なかのさんに教わりましたが、それをパッと活用できる方は限られそうですよね(※2)。

※2 アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)による猫にとって有毒・無毒な植物のリスト  https://www.aspca.org/pet-care/animal-poison-control/cats-plant-list


なかの:そうですね。ASPCAのリストは信頼できる参照先としてさまざまなメディアでも取り上げられていますが、英語なのと、リストの数が膨大なのとで、その場で調べるのは難しいなと感じました。お店に詳しい方がいなくても、猫と花に詳しいAIチャットボットがあって「これどう?」って聞けたらいいのに!と思ったので、AIに詳しい若園さんに相談したわけです。

猫も花も好きな人のためのアプリを試作してみた

若園:相談を受けた当初は、世の中の生成AIチャットボットをそのまま使えばいいのでは?とも思ったのですが、「信頼できる情報」という観点で、やはりなんらかの試作をしてみようということになりました。

生成AIは誤った助言をすることもあるので、信頼できるソースを絞り込んで間違える確率をできるだけ下げたり、それでも誤りをゼロにはできないので、利用者の方に「最後は自分で判断する」ことをうながしたり、仕組みや体験でAIの弱みを補完するようにしました。それと、誤りをゼロにできない生成AIをそもそも使わないタイプのアプリも試作しましたね。

なかの:植物名の札の文字をスキャンしてASPCAのリストに照らし合わせて判定するタイプと、AIチャットボットに写真を送って植物名を推定してASPCAのリストに照らし合わせるタイプの2種類ですね(※3)。これは試さないと!ということで、再び翠堂明さんに伺って、両タイプの試作アプリを使ってみたんです。

若園:おお、実地検証ですね!どうでしたか?

なかの:宝探しみたいで楽しかったです。店主の吉川さんも「こういうアプリがあったら便利そう」と言ってくださって、AIチャットボットに写真を送る際の弱点である「見た目が似ている植物の誤認」については「プロが見れば見分けられるので、植物名検索と組み合わせて使うと良いのでは」とアドバイスもいただきました。プロの目からの情報もAIにフィードバックして見分け方などを学習させていけるといいですね。

※3 本プロダクトは試作品であり、ASPCAとの提携を行って開発しているものではありません。
 
ネコラボ

若園:たとえ植物のプロが猫のプロでなかったとしても、AIを活用することで大きな苦労なくそこを補完できるなら、お店にとっても猫飼いにとってもハッピーですよね。猫を飼うご家庭が増加傾向であることを考えると、この層を顧客として取りこぼさないことは今後大切になるのではないでしょうか。全国の悩める猫&花好きのために、いっしょに開発してくれるお花屋さんお待ちしています!

なかの:そうですね、ECサイトに「犬猫がいても安心」カテゴリを設けたのは、問い合わせが多かったからだそうです。特に猫を飼っている方からの相談が多かったそうで。

若園:やっぱり猫は植物にじゃれたり、高いところに飛び乗ったりしますもんね。

なかの:犬を連れてお買い物に来る方もいらっしゃるそうなんですが、犬は植物に関心を示さないことが多いみたいです。細かい葉っぱが特徴のエバーフレッシュなんかは空調で揺れるから特にじゃれやすいらしくて。でも、猫も学習するのか大きくなると飽きることもあるとか(笑)。

ネコラボ

 

 

提案型AIが猫との暮らしをアップデートする未来
 
 

ネコラボ
なかの:NGな植物についても解決策がないかなと考えていて、春になったらチューリップを飾りたい!と思ったときに、似たような花を提案してくれる仕組みがあったらいいなと思うんです。季節感も考慮して、これがいいかもっていう提案があるとうれしいですね。

若園:そうですね。お店と連携して、売れ筋の花をもとにしたレコメンドもできるといいですよね。データさえあれば実際にできそうです。お店の方の研修やECサイトでも使えそうですね。

なかの:猫用の食品でも同じようなおすすめが欲しいです。例えば、猫に有害なレーズンの代わりに大丈夫とされているブルーベリーを提案してくれる仕組みがあったら安心です。将来的には、店に入ると自動的に飼っている猫の存在を感知して、危険な食品を避けるようにおすすめしてくれる仕組みが実現するかもしれませんね。

若園:それは面白いですね。例えば服についた猫の毛はカメラ画像でも検出できそうです。「家に猫がいるんだから、ミントの精油はやめといたら?」と提案してくるおせっかいな買い物カートとか。

なかの:インテリアショップだったら、猫の遊んでいる動画を解析して、倒されにくいスタンドライトを提案するなんてこともできそうですね。

若園:いろんな業界で使えそうですね。今回はまだまだ「試してみた」の段階ですが、テクノロジーを上手に使って、猫と暮らしやすい未来を作っていけるといいですね。

イラストレーション:根岸桃子(Neko Lab Tokyo)
お問い合わせ:neko-lab-tokyo@dentsu.co.jp 
  
取材協力
吉川 靖

吉川 靖(「翠堂明 -みどりどうめい- 店主」)
東京都文京区出身。一つ一つの植物がまるで主役かのように輝く、“一目ぼれ”の植木鉢を追い求めるプランツデザイナー。2024年1月、渋谷区神宮前に観葉植物と鉢の専門店「翠堂明 -みどりどうめい-」をオープン。感性を刺激する空間で、日常に癒やしと楽しみを生み出すグリーンの風景を提案。


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グローバルワーク、タイ出店で東南ア参入=海外売上高、30年までに4倍増―営業本部長インタビュー

 カジュアル衣料ブランド「グローバルワーク」は7月、タイ・バンコクに1号店をオープンし、東南アジア市場に参入した。海外売り上げを2030年までに現在の約4倍の100億円とする目標の実現につなげる。運営を手掛けるアダストリア(東京都渋谷区)の太田訓グローバルワーク営業本部長は8月上旬の時事通信のインタビューで、タイ現地のビジネス環境について「特別なやりづらさは感じない」と好感。進出の背景や今後の展望を語った。発言要旨は以下の通り。

◇日本語人材採用

 ―東南アジアの中でもタイを進出先に選んだ理由は。
 可処分所得の高い中間層の拡大や若年層を中心としたファッションに対する支出意欲の高さ、保守的な国も多い東南アジアの中でも多様なスタイルを受け入れる土壌があることなどを考慮した。23年に現地に出店したアダストリアの別ブランド「ニコアンド」を通じて顧客ニーズの理解が進み、現地デベロッパーとのつながりができていたことも後押しとなった。

―かねて台湾や香港に進出済みだが、言語、法律・規制の運用、人材といった面でタイのビジネスのしやすさは。

 現地法人や店舗の主要スタッフに日本語が話せる人材を採用したため、あまりやりづらいとは感じていない。どの国・地域にも文化の違いはあり、タイだけ特別に気になる点はない。法律や規制のやりづらさも当社ではそれほど感じなかった。

 店舗にはアパレル業界の経験者を数人配置したため、スタッフとのコミュニケーションで大きく困ることもなかった。ただ、ブランドのコンセプトや大切にしている価値を伝えるといったやりとりは当然必要となった。

―日本市場の先行きをどうみるか。

 物価高の影響で、アパレル購入の見極め・厳選が進むとみている。人口減少で販売員確保にも影響が出るだろう。市場自体が縮小する中、シェア獲得が重要になると考えている。

 ―活況のインバウンド(訪日客)市場に対する受け止めは。

 ニーズが高まっておりチャンスと捉えている。ニコアンドの事例では都内の旗艦店を目にした訪日客が帰国後に現地店舗を訪れたり、商業施設のデベロッパーが出店を打診したりする相乗効果が出ている。

◇気候や文化に対応

―タイ出店後の現地の客の反応は。

 品質の良さに加え、仕事でも休日でも着られる点が好評だ。こうしたオン・オフ両方に対応したブランドが現地に不足していることは事前の聞き取り調査で把握していた。

―商品ラインアップは日本の店舗とどう違うか。

 各地の気候や文化に対応する必要があると考えている。タイと日本の気候差が大きくなる10月以降への準備を進めており、ニコアンドの経験から、現地で不要な冬物の除外や不要と思われたが実はニーズのある商品の確保に取り組む。

 海外事業の戦略立案を担う多国籍人材のチームを本社に設置し、現地ニーズの把握や文化の違いを見極めた商品開発も実施している。市場規模やわれわれの強みが生かせるかどうかを考慮して商品化するかどうかを決める。

―今後の進出計画は。

 直近では7月末にフランチャイズ形式でマレーシアに出店した。市場理解を進め、将来的な直営店出店を検討する。ニコアンドが進出済みのフィリピンも視野にあるほか、巨大市場である中国も見据えている。(時事)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/07-15:00)

政府、なぜ「データセンター+再生エネ発電所」セット輸出を推進?日本企業の新ビジネスモデル確立

●この記事のポイント
・政府、日本企業によるデータセンターと再生可能エネルギー発電所を組み合わせたビジネスモデルの輸出を支援
・省エネデータセンターを日本企業のビジネスモデルとして確立し、海外マーケットでも一定のシェアを獲得
・今年度は欧州マーケットの調査を実施

 AIの普及により世界的にデータセンター需要が増大するなか、政府は日本企業によるデータセンターと再生可能エネルギー発電所を組み合わせたビジネスモデルの輸出を支援する。NTTデータグループはデータセンター市場で世界シェア3位とされ、総合商社をはじめ太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー事業に注力する日本企業は少なくなく、両分野において日本企業の海外進出が促進される可能性がある。具体的なスキームやロードマップについて、政策を推進する総務省に取材した。

●目次

デジタル海外展開総合戦略2030

 今回の施策を推進するに至った背景について、総務省 国際戦略局は次のように説明する。

「総務省は6月に『デジタル海外展開総合戦略2030』を策定・公表しました。その中で我が国の国際競争力の強化と経済安全保障の確保に向けて、自律性の確保が必要な領域と、将来において不可欠性の獲得が期待できる領域を重点分野として定めております。その重点分野の一つとしてデータセンターが含まれており、2030年頃までにオール光ネットワークとのパッケージ展開や海外市場の獲得を目標に定めまして、海外展開を進めていくこととしています。

 具体的に実行する政策の一つとして、海外において新たなデータセンターのモデル実証に対する支援に取り組んでいくこととしており、オール光ネットワークや再生可能エネルギーをはじめとした発電システムと連携した新しいデータセンター事業モデルを海外に展開していくことを考えております。今年度はデータセンターと再エネを組み合わせた新たなモデルの実現に向けて、まずは欧州市場等の基礎調査を始める予定です」

 総務省は前出のデジタル海外展開総合戦略2030のなかで、2030年までに世界のデータセンター市場における日本企業のシェアを20%以上にすることを目標として掲げている。今回の施策の意義は何か。

「大量の電力を消費するデータセンターと再エネ発電をセット販売のような形で実現し、課題解決につなげつつ、データセンターと再エネ発電の市場を取りに行くビジネスモデルの強化にもつながればいいと考えております。現在、総務省では経済産業省とも連携しながら、ワット・ビット連携というものを進めておりまして、送電容量の空きや再エネのポテンシャルがあるところにデータセンターを設置することで、データセンターの分散立地を進めていこうという取り組みです。こうした取り組みとも連携しながら、オール光ネットワークや再エネとの組み合わせによる新たな省エネデータセンターの事業モデルを日本企業のビジネスモデルとして確立し、海外展開に繋げていければ、海外マーケットにおいて一定のシェアが取れるのではないかと考えております」(総務省)

政府として事業展開先の政府に対して働きかけ

 総務省と事業者はどのような役割分担で進めていくのか。

「総務省は安全性・信頼性を確保したデジタルインフラの海外展開支援事業を行っています。この事業は、事業者への補助金交付といった形ではなく、総務省の調査の委託という形になります。再エネ発電とデータセンターを組み合わせた事業モデルの可能性について、今年度は初期調査として、欧州地域において規制やニーズの調査、ビジネスモデルの検討等を実施すべく、現在、委託先の事業者の選定に向けて公告を行っているところです。

 また、将来的に事業者が現地でビジネスを展開することになれば、案件の受注や円滑な事業展開に向けて、相手国政府や関係機関に対して働きかけを行ったり、現地の企業や政府とのネットワーキング構築の支援を行ったりといったサポートを行っていきます」(総務省)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

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左からギネスワールドレコーズジャパン丸山拓郎氏、同社代表・石川佳織氏、電通 内山修一氏
左からギネスワールドレコーズジャパン丸山拓郎氏、同社代表・石川佳織氏、電通 内山修一氏

2025年で70周年を迎えた「ギネス世界記録™」。実は、企業のPR施策としても広く活用されています。

そこで今回は、ギネスワールドレコーズジャパンで法人のコンサルティングを担当する丸山拓郎氏と、ギネス世界記録の企業活用を支援する電通の内山修一氏にインタビュー。

ギネス世界記録を企業が活用するメリットや、過去の事例について語っていただきました。

<目次>
ギネス世界記録の認定は、PRにおいて強力な“ファクト”になる

「なぜその記録に挑戦するのか」のストーリー設計から電通が伴走

限られたスケジュールの中でエビデンスを集める「実績系」のギネス世界記録

徹底した事前準備が成功の秘訣!「チャレンジ系」のギネス世界記録

ギネスワールドレコーズジャパン代表に聞く!
 そもそもギネス世界記録ってどんなもの?


ギネス世界記録の認定は、PRにおいて強力な“ファクト”になる

電通 内山修一氏
電通 内山修一氏

──エンタメ性の高いコンテンツとして広く知られているギネス世界記録ですが、「ギネス世界記録の企業活用」とは具体的にどのようなものなのでしょうか?

内山:活用方法は大きく三つあると考えています。一つは、商品やブランドのプロモーションでの活用です。「世界一」「ギネス世界記録認定」という客観的根拠のあるわかりやすい表現を、“ファクト”として使用することができます。

二つ目が、いわゆる周年事業への活用です。企業がこれまで積み上げてきた歴史や実績の証明やメッセージを伝える手段として、ギネス世界記録にチャレンジする企業が昨今増えてきています。

そして三つ目が、海外市場に展開する際のコミュニケーションフックとしての活用です。これは、ギネス世界記録が世界でも非常に認知度の高いコンテンツだからこそできることです。

丸山:ギネス世界記録は今年で70周年を迎え、世界的に見て約9割の認知度があるブランドとなっています。書籍やテレビで触れていただくことも多いと思いますが、近年はSNSにも力を入れています。リーチ数は80億を超え、かなりのパワーコンテンツになっているんです。

国内はもちろん、世界中で認知されているギネス世界記録を活用することに、企業側もメリットを感じていただいているのかなと思います。

──企業が「世界一」を取得することで、どのような効果が得られるのでしょうか。

内山:一つはPR効果です。昨今、景品表示法が厳格に適用される風潮が高まっており、“最上級表現”が使いにくくなっています。その中でギネス世界記録に認定されたものは、堂々と「世界一」を示すことができます。

ギネス世界記録のライセンスは、テレビ、オンライン、新聞、商品パッケージなど、メディアごとに細かく切り分けて設定されています。プランニングや予算によりますが、最大で全メディアで活用可能です。

二つ目が、購買に対する効果です。例えば、食品メーカーの営業担当者が流通にアプローチする際、「ギネス世界記録に認定された商品です」と強力なファクトをわかりやすく伝えられることは、大きな強みになります。それがPOPなどの店頭施策を充実させ、購買にもつながると考えています。

三つ目は、クライアントの従業員といったインナーメンバーのモチベーションアップです。大きな企業ほど生活者やエンドユーザーのリアクションが見えづらかったり、日々の業務がどのような結果につながっているのかわかりづらいこともあると思います。その中でギネス世界記録の認定は、目に見える形で一つの評価となります。インナーメンバーにもポジティブな効果が与えられるところは、ギネス世界記録ならではの強みです。

「なぜその記録に挑戦するのか」のストーリー設計から電通が伴走

ギネスワールドレコーズジャパン 丸山拓郎氏
ギネスワールドレコーズジャパン 丸山拓郎氏

──ギネス世界記録を活用する企業は、どのような課題を抱えて相談されるのでしょうか?

内山:「商品やブランドのプロモーションをしたいが、強力なファクトが見つからない」と悩んでいるクライアントが多いですね。相談を受けたら、私たちはまずその商品やブランドの強みをヒアリングします。

その上で、約7万タイトルあるギネス世界記録の中からベストなタイトルをいくつか提案したり、合致するタイトルがまだない場合は、ギネスワールドレコーズ社に新規の記録開設が可能か打診します。そしてそのタイトルを活用してどのようなコミュニケーション展開ができるのかを考え、プランニングしていきます。

また最近は、周年事業でギネス世界記録を活用したいという相談も増えています。周年事業はメッセージやコンセプト、将来への展望を外に発信する機会ですが、どうしても企業本位になってしまいがちです。しかしそこに「ギネス世界記録への挑戦」と一つ旗を立てることで、社員からお客さままで、ステークホルダー皆が同じ方向を向けるようになります。

企業がお客さまを巻き込んでギネス世界記録に挑戦するケースも多いのですが、「ギネス世界記録に一緒にチャレンジしましょう」と呼びかけることで、エンタメ性が生まれて、前向きに取り組んでもらえるんです。

そして企業が伝えたいメッセージやコンセプトを、ギネス世界記録のチャレンジにうまく掛け合わせることで、お客さまにも自然な形で伝えることができます。

丸山:私も企画の部分から内山さんと連携して、いくつものプロジェクトに関わっていますが、内山さんはいつも「なぜその世界一にチャレンジするのか?」という裏付けを大切にされています。記録ありきではなく、全体のストーリー設計を考えているので、クライアントも納得感を持って取り組んでくださっているように思いますね。

内山:私たちの最終的なゴールは、世界一に認定されることではなく、ギネス世界記録を活用して企業の課題を解決することです。そのため、新たなタイトルで挑戦するときにも、商品やブランドの強みや特徴を重視しつつ、「どういうメッセージを打ち出していきたいのか」「メディアにはどう取り上げられたいのか」と、PRのヘッドラインに向けて逆算しながら考えるようにしています。

限られたスケジュールの中でエビデンスを集める「実績系」のギネス世界記録 

電通 内山氏
──実際に内山さんが関わったプロジェクトについて教えてください。

内山:まずは「実績系」のギネス世界記録の事例について二つ紹介します。

一つ目が、ニチレイフーズの「本格炒め炒飯®」です。本件は「瞬間的ではなく、継続した購買につながるようなプロモーションがしたい」というご相談からスタートしました。その中で「炒飯の売上金額でギネス世界記録が取得できないか」いう話になり、結果的にそのアプローチで進めることに。最終的に、世界で一番売れている冷凍炒飯として「最大の冷凍炒飯ブランド」というタイトルを開発し、認定されました。

ニチレイフーズ

丸山:補足すると、ギネス世界記録は、何でもタイトル化できるというわけではなく、「世界的に見て標準化できるか」が重要なポイントになります。例えば、「その企業だけしか挑戦できないタイトル」は記録にはなりません。

グローバルで同じルールのもと、同じように調査をしてナンバーワンであるかどうかが判定できるものに限られます。当社には70年の蓄積があるので、「標準化できるタイトルか否か」は比較的、明確に判断することが可能です。

内山:本件はニチレイフーズの営業チームから「流通との交渉がしやすい」と非常に評価をいただき、2年目以降もライセンス取得を継続していただくことができました。商品の売り上げ伸長を実現するなど、販促におけるギネス世界記録の効果がよくわかる事例となっています。

また、ギネス世界記録認定を祝して、メディア向けにPRイベントを開催したり、認定証を工場に掲出したり、アウター・インナー両方のコミュニケーションで最大限に活用されたようです。

テーブルマーク

内山:二つ目はテーブルマークの冷凍麺の事例です。テーブルマークはもともとギネス世界記録を取得されていましたが、周年事業のタイミングでより幅広く展開していきたいと、当社にご相談いただきました。

冷凍麺は競合が非常に多いカテゴリーで、価格競争も厳しいので、他の商品との差別化はどのメーカーも苦心されているところです。その中でテーブルマークは、冷凍麺世界売り上げナンバーワンとして「最大の冷凍麺ブランド」に認定され、テレビCMやパッケージにライセンスを活用いただいた結果、こちらも売り上げ伸長に貢献しています。引き続き、ライセンス使用を継続していただいていることから、一定の効果を感じていただけたのではないかと思っています。

丸山:ニチレイフーズやテーブルマークのように、売上額などすでに存在するファクトをもとにした「実績系」と呼ばれるギネス世界記録では、世界一の要件を満たすエビデンス(証拠物)を提出いただきます。具体的には、国際市場調査会社による調査のエビデンスにもとづいて認定の審査を行っています。

内山:私がプロモーションを設計する際は、「認定にはどんなエビデンスが必要か」「調査にかかる時間はどのくらいか」なども考慮しています。というのも、周年事業など、クライアントのプロモーションスケジュールが決まっていることもあるからです。

スケジュールに間に合うように調査を進め、必要な要件を満たし、ギネス世界記録の認定までもっていく。ここはかなりテクニカルなところではないかと思います。これを企業のマーケティング部や宣伝部の方が、日ごろの業務と並行しながらギネス世界記録の認定に向けて作業をするのは、かなり大変です。その点、私たちのチームはどこよりも確実性とスピード感をもってサポートできる自信があります!

丸山:それこそ、「世界で一番」のサポートかもしれませんね(笑)。

徹底した事前準備が成功の秘訣!「チャレンジ系」のギネス世界記録

ギネスワールドレコーズジャパン 丸山氏
──「実績系」以外にはどのようなギネス世界記録があるのでしょうか。

内山:「チャレンジ系」と呼ばれる事例を二つ紹介します。一つ目はP&Gのプロジェクト。これは二種類の食器洗い洗剤「JOY」が発売されたタイミングで、「販促施策として世界記録認定にチャレンジをしたい」という相談から始まったものです。

JOY画像 
内山:2商品のダブル認定にチャレンジすべく、それぞれの商品の長所に沿ってタイトルを設計しました。泡もちの良さが特徴の「ジョイPRO洗浄 まとめ洗い用」は、「3分間で洗ったお皿の最多数」、泡切れの良さが特徴の「ジョイPRO洗浄 すぐ洗い用」は、「3分間ですすいでタオルドライしたお皿の最多数」というものです。

後者のタイトル設計は特に苦労しました。というのも、日本はお皿を洗った後に水ですすぎますが、世界には洗い流さずにタオルドライする文化もあるんです。丸山さんとも相談しながら、ギネス世界記録の記録対象となりえる適切なタイトルを見つけ出すために試行錯誤しました。

この二つの記録チャレンジには、ジョイの広告に起用されているみちょぱさんと杉浦太陽さんに行っていただきました。本番での成功率を上げるために、私たち電通チームで徹底して準備をしました。チャレンジを実施するハウススタジオを借りて、お皿やスポンジを置く場所、お湯の温度など、どうすればギネスワールドレコーズ社が定める目標数値に近づけるかいろいろ試したのですが、これが本当に大変でしたね(笑)。

徹底した準備と、タレントさんの素晴らしいポテンシャルのおかげでチャレンジは成功。無事、ダブル認定となりました。各商品の強み自体がギネス世界記録のタイトルになっているので、流通にもお客さまにも訴求しやすいと、クライアントからも評価をいただきました。

ローソン画像 
内山:二つ目が、ローソンの「からあげクン」とサントリーの「こだわり酒場」のコラボ企画。コラボ商品としてからあげクンのレモンペッパー味が販売され、梅沢富美男さんを起用したPRイベントを実施したいというご相談がありました。

結果としてイベントで実施したのが、梅沢さんに「1分間で箸を使って移動したレモンの個数」のギネス世界記録にチャレンジしてもらう企画です。シンプルではありますが、からあげクンとレモンサワーを「つなぐ」という意味を込め、ビジュアル的にもわかりやすいものを実施しました。

こちらも電通チームで入念に準備し、梅沢さんにも本番前に練習していただいたおかげで、無事にギネス世界記録を達成。梅沢さんもとても喜んでくださり、ご自身のSNSなどで取り上げていただくなど、PR発表会以外の場でもPRにつながったと捉えています。

丸山:ギネス世界記録のカテゴリーには、箸で何かを移動させるという記録のカテゴリーがあります。お箸はアジア圏の方々が使うもので、世界的にも「チョップスティック」という言葉も浸透しているので、標準化しやすい点でも良い企画だと思いました。

また、こうしたチャレンジ系のギネス世界記録では、チャレンジ本番で3回までの挑戦が認められています。しかし、本番には公式認定員が立ち会うので、普段より緊張してうまくいかないことも多々あるんです。そのため、事前の練習や準備はとても大切。内山さんは特に「準備をすること」に、ものすごく信念をもって取り組んでおられる印象があります。

内山:もちろん、失敗覚悟で世界一にチャレンジをするケースも多々あると思います。ですが、私たちのチームが手掛けるような企業のPRプロモーションは、成功ありきでプランニングしているので、失敗が許されないところがありますから。個人的には、準備段階で成功率は95%くらい決まるのではないかと思っているので、いつも徹底的に準備し、できる限りのことをし尽くしてから、本番を迎えるようにしています。私が制作に関わったギネス世界記録の案件は、今のところ認定率が100%なんですよ! 

また最近、「サッポロ クラシック」誕生40周年の施策もお手伝いしました。この施策では、生活者、飲料店、量販店、インナーメンバーなどすべての北海道の方と一緒に40周年を盛り上げようという趣旨で、「サッポロ クラシック」を乾杯でつなぐ「乾杯の最大のオンラインビデオチェーン」の世界一にチャレンジしました。

これまでは電通だけで完結するケースが多かったのですが、本件は電通北海道との協業プロジェクトです。今後も、電通グループで連携しながら、全国各地のさまざまな企業のギネス世界記録の活用をサポートしていけたらと思っています。

──最後に、読者へメッセージをお願いします。

内山:大企業・中小企業関係なく、日本中のどの企業にもきっと何かの「世界一」の可能性があると私は思っています。商品やブランドのPRや周年事業など、どんな目的でも良いので、ギネス世界記録に挑戦してみたい、興味・関心がある企業の皆さまは、ぜひお気軽にご相談ください!

お問い合わせ先:
電通第5マーケティング局:5mk_gwr@group.dentsu.co.jp


石川代表

ギネスワールドレコーズジャパン代表に聞く!
そもそもギネス世界記録ってどんなもの?

【ギネスワールドレコーズジャパン 代表 石川 佳織】
ギネス世界記録の始まりは、1950年代初期のこと。当時ギネス醸造所のCEOが友人らと狩りに行ったときに「ヨーロッパで最も速く飛ぶ鳥は何だろう?」と議論になりましたが、答えがでませんでした。そこでいろんな「世界一」を調べて集めた本があったら面白いのではないかと、1955年に「ギネス世界記録」(当時の呼称は「ギネスブック」)が作られました。
 
当初は「この本をパブに置いたらお客さんたちが議論をして、ビールが売れるのではないか」という考えもあったようです。その後、ギネス醸造所から独立し、さまざまな世界一を収集、登録する形になりました。現在も毎年「ギネス世界記録」は出版され、特に欧米などではクリスマスプレゼントの定番になっています。

私たちが掲げるブランドフィロソフィーは、「世界を、よりおもしろく、楽しく、ポジティブな場所にする」。驚きや発見、挑戦者の思いや情熱が詰まった世界記録を広く発信することで、人々がさまざまなことに興味を持ったりアクションを起こしたりするきっかけになればと思っています。今後も、原点である書籍も大切にしつつ、SNSなどにも力を入れて情報を発信していきます。

また70周年を迎えた2025年は「Be Part of It - 挑戦した人は、知っている」というメッセージも打ち出しました。世界一は、読むのも見るのも楽しい。けれど、挑戦してこそ知る景色があります。世界一にたどり着くまでに見える景色、達成した瞬間の景色、記録保持者としての景色……。これらは挑戦者にしかわからないものです。皆さんにもぜひ、自身が好きなことや今のお仕事の中から「どんな世界一にチャレンジできるだろう?」と、好奇心を持って考えてみてもらえたらうれしいです。

ギネス世界記録の企業活用セミナー開催
 
●実施日時 :2025年9月9日(火)15:30~17:00
●登壇者  :丸山拓郎氏(ギネスワールドレコーズジャパン)
        内山修一(電通第5マーケティング局 CXコンサルティング3部 コンサルタント)
●実施方式 :会場リアル参加 or ウェブ参加(Teamsでの実施を予定/URLは後日ご案内します)
●実施会場 :電通関西オフィス
      (大阪市北区中之島3-2-4 中之島フェスティバルタワー・ウエスト17階)
●会場定員 :約30名(お申し込み多数の場合はウェブ参加へのご変更をお願いする場合があります)
●参加費  :無料
●申込先  :下記URLよりお申し込みください。
       https://forms.office.com/r/Fj01cixKVU
●申込締切 :2025年8月29日(金)17:00
●《問い合わせ》 :電通 第6マーケティング局プロジェクト開発部
          6mk_prokai@group.dentsu.co.jp
          担当:下川・一山・中村
 

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“ヒット作の深読み”が、ビジネスの突破口をひらく!?

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記録的な興行収入をたたき出したアニメ映画や、放送するたびSNSのトレンドに上がる人気ドラマ。それらがなぜヒットしたのか、深く考えてみたことはありますか?FUKAYOMIは、映画・ドラマ・アニメなどのヒット作品を読み解き、私たちの価値観変化や未来の欲望を予測する電通の独自メソッド。単なる作品批評にとどまらない鋭い視点は、ビジネスの突破口をひらく大きなヒントになるかもしれません。
書籍『未来の消費者は何を欲望するのか~ヒット作品を読み解いて分かった6つの価値観変化』も発売されたこのメソッドについて、DENTSU DESIRE DESIGN(電通デザイアデザイン)FUKAYOMIチームの佐藤と石川にインタビューしました。
※この記事はDo! Solutionsに掲載された記事を編集・転載したものです。
<目次>
ヒット作から、価値観変化と未来の欲望をあぶりだす
国際的ヒット映画「怪物」に見る、多層的な視点への欲望
作品からのさまざまな発見を、ビジネスのヒントに
“FUKAYOMI”すれば、ビジョン策定やコンテンツ制作の幅が広がる
FUKAYOMIを入り口にすれば、難しそうな未来予想もハードルが低くなる
FUKAYOMIのメソッドと実績がこれ一冊に!『未来の消費者は何を欲望するのか~ヒット作品を読み解いて分かった6つの価値観変化』発売
 

ヒット作から、価値観変化と未来の欲望をあぶりだす

──まずはFUKAYOMIについて教えてください。お二人は電通報でも何度か取り上げているDENTSU DESIRE DESIGN(以降「DDD」)のメンバーですよね。FUKAYOMIは、DDDの分科会といったイメージでしょうか?

佐藤:そうですね。DDDは“欲望”を基点とした生活者調査やマーケティング支援を行う電通のプロジェクトで、いくつかの分科会が存在するのですが、その一つが未来の欲望の予測に挑戦するFUKAYOMIチームです。“未来の欲望”は今まだ可視化されていない潜在的なものなので、それを予測するにはかなり奥深くまでインサイトを掘らないといけません。どういう方法論があるだろうかと考えた時に、「映像作品コンテンツ」に着目をしたことがFUKAYOMIの始まりです。

──なぜ映像作品だったのでしょうか?

佐藤:一つは僕が大学時代に自主映画を制作していて映画が大好きだったこともありますが、実は社会人になってから趣味でシナリオ学校に通ったことが大きく影響しています。映画やドラマのシナリオはとても戦略的に作られていて、決められた時間枠の中に制作者の考えや見る側の心の動きが緻密に計算されて盛り込まれています。シナリオを学びながら、ヒットした作品をひもとくことで今の社会が共感する欲望や価値観を抽出できるのでは、と直感したんです。それで実際にいくつかの作品を分析しながら、半年かけてFUKAYOMIのメソッドを体系化していきました。

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──そのFUKAYOMIメソッド、具体的に教えていただけますか?

佐藤:「価値観変化の流れ」を読み解く独自のフレームワークを用い、ヒット作品の中でどういった「欲望の生成」「欲望の解消」「価値観の更新」が行われているか、そしてそこからどんな「新しい欲望」が生まれ得るかを抽出・分析します。プランナー個人の視点から読み解くことに加え、ソーシャルリスニングなどの分析も踏まえてチームでディスカッションを重ね、共感性の高い結果を導き出していることがポイントです。

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国際的ヒット映画「怪物」に見る、多層的な視点への欲望

──具体的な分析事例を、何か一つご紹介いただけますか?

石川:例えば、書籍でも分析しましたが第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞したヒット映画「怪物」。 これは、息子の異変に気づいたシングルマザーの母親が担任教師の体罰を疑うことからストーリーが始まるのですが、途中で視点が担任に変わり、そして息子とその友達へと移っていく中で、同じ出来事に対して多層的な真実が浮かび上がる、という展開になっています。

──劇中では断定されない「怪物とは何なのか」という結論を巡り、国内外でさまざまな考察が巻き起こりましたよね。

石川:はい。この映画は、情報があふれる現代社会において「真実に近づきたい」という私たちの欲望をかき立て、さらに「自分の見ているものはどこまで真実かわからない」「もし違う視点から見たら、まったく異なる意味を持つのではないか?」という価値観の変化をあらわにした象徴的な作品だったと思います。さらにそれを踏まえると、この先の未来では「一つの真実を求める」よりも「俯瞰(ふかん)的に複数の視点を持ちたい」というマルチソースへの欲望が強まることが予測できます。こうした欲望は「怪物」だけでなく、途中で視点が逆転する展開は最近の多くのヒット作品から読み取ることができるんです。

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──たしかに最近、複数の視点から真実を立体的に描く作品が増えていますね。「マルチソースを求める」という新たな欲望も納得感があります。ちなみにFUKAYOMIでは、これまで何作品ほど分析してきたのですか?

佐藤:150作品ほどです。年代別に欲望の変化を捉えてみたり、複数の作品から読み取れる傾向を分類したりと、いろいろなアプローチを行っています。さらに、DDDが年に2回行っている「心が動く消費調査」の定量分析も重ね合わせ、一部の主観だけにとどまらない裏付けも取っているので、納得感の高い分析結果になっているのだと思います。

作品からのさまざまな発見を、ビジネスのヒントに

──FUKAYOMI流の読み解き方がわかったところで気になるのは、「それがビジネスにどう応用できるのか」という点です。

佐藤:分析結果の生かし方は幅広くあると思います。例えば「価値観の更新」に注目して、「そういう価値観の変化があるなら、当社のこんな技術が使えるな」と新商品やサービス開発に生かすことができますし、価値観変化に合わせて既存商品の訴求方法を刷新することもできます。先ほどもお話ししたように150作品ものヒット作を分析してきたので、クライアントのターゲットや課題感に合わせて適した価値観や欲望の情報をお伝えできると思います。

──なるほど。新しいマーケティングの切り口を探している人には、ダイレクトなヒントが得られそうですね。

石川:それで言うと、劇場版「名探偵コナン」シリーズの分析はマーケティング応用への気づきが多かったです。劇場版「名探偵コナン」は90年代から続く超ロングシリーズにもかかわらず、毎年興行収入を拡大している驚異のヒット作品です。そのシリーズを第1作からまとめて分析してみたんです。

詳細は割愛しますが、特に近年の大きな勝因は「推し活」文脈をうまく捉えた点にあることが分かりました。毎回フィーチャーする登場人物を変え、その人を中心とした登場人物の関係性を描く。あたかもその公式が二次創作をしているような感じで、毎年4月の映画公開時期にはまるでコミケが盛り上がるようにお祭り状態になるんです。

佐藤:するとそのフィーチャーされた登場人物を入り口に、毎年新しいファンが流入する。この巧みな戦略で、この数年は興行収入100億を超えている大成功コンテンツになっています。ポイントは、これまで大多数の人の推し活の対象にはなりづらいとされていた脇役キャラクターに光を当てたこと。プロダクト全体を見て終わるのではなく、一つ一つの要素に着目していくと必ずそれを偏愛している人たちがいる。その“偏愛”や“推し”という価値観を突破口にファンを広げていく手法は、そのまま他のマーケティングにも応用できますよね。

実はロングセラーお菓子の「たべっ子どうぶつ」も似たような手法を取っています。パッケージに描かれた動物たちをカプセルトイにして売り出したことから火がついて、体験型イベントやアパレル、ゲーム化、そして映画化にまで広がり、製品自体の売り上げも毎年2桁増を達成。今や大ヒットコンテンツに。英語を学ぶためのビスケットが推し活の対象になるなんて、最初は誰も考えなかったんじゃないでしょうか。

──FUKAYOMIからマーケティングへの接続、新たな視点が得られておもしろいですね!

佐藤:僕をはじめFUKAYOMIのメンバーは全員戦略プランナーなので、作品から得た知見をどうビジネスに応用させるかということは常々考えています。DDDはマーケティング支援の実績が豊富ですから、FUKAYOMIの活動も単なる作品批評とは大きく異なり、ビジネスへの有効なヒントとなるのがユニークなところであり強みですね。

“FUKAYOMI”すれば、ビジョン策定やコンテンツ制作の幅が広がる

──FUKAYOMIのビジネス応用という視点から、他にも可能性はありますか?

佐藤:より大きなところで言えば、ビジョンやパーパスの策定に役立てることもできると考えています。というのも、未来に向けて企業が生活者に何を提供できるかというビジョンを決めるときに、「未来の人たちがどういうことを欲望するのか」を前提に置かないと的を射ないものになりかねないからです。

それから、個人的に協業していきたいと思うのは、メディア関係の方々や販促企画を行っている方々です。これまではコンテンツやタレントなどの知名度や人気度を生かしたタイアップ企画が販促の主流でしたが、FUKAYOMIによって視聴者側の価値観や欲望の視点を深掘りしていくことで、より細やかで最適化されたコンテンツとのマッチングや企画立案につながっていくと思います。

──生活者のインサイトを細やかにつかむことで、企業・コンテンツ・顧客との新しい関係性が生まれるかもしれませんね。

石川:世の中にはいろんな消費者調査データがありますが、それらの多くは顕在化された声を数字にしているので、生活者も気づいていないような心の奥まで知ることは難しいとされています。潜在的なニーズを捉えるためにFUKAYOMIを使っていただき、それを刺激にいろんなビジネスや関係づくりに生かしていただけたらと思います。

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FUKAYOMIを入り口にすれば、難しそうな未来予想もハードルが低くなる

──ここまでのお話をお聞きして、FUKAYOMIによる分析結果はもちろんのこと、FUKAYOMIというメソッドそのものを身につけることがビジネスパーソンの大きな力になるように感じました。

佐藤:ありがとうございます。僕もそれがとても重要だなと思っていて、映画をたくさん見て、その裏にある共感ポイントや心を動かされた要因は何だろうってことをひもといていくと、だんだん人間の欲望や気持ちというものが見えてくるようになるんです。そうすると、自分の中でいろんな発想や切り口を持つことができて、ビジネスのいろんなシーンで今までよりたくさんの意見が言えるようになる。そのためのトレーニングとして、FUKAYOMIメソッドは一つの有効なフレームワーク。われわれが深読みしたものをクライアントに提供するだけでなく、個人個人でぜひ実践していただけたら理想的です。

──例えばそうした研修プログラムをソリューションとして提供することも、可能なのでしょうか?

佐藤:FUKAYOMIのサービスは、クライアントからのご要望があれば、個別の課題に合わせて柔軟に対応する方式を採用しています。例えば物語のシナリオ構造と、それによる人間の心の動きを知ることは、企画書を書く時にそのまま役立ったりもします。また、ストーリーテリングのスキルアップにもつながるので、プロジェクトで価値観変化を検討し、未来の欲望を予想するステップに取り込んだり、研修などのメニューとしてプログラム化することも可能です。 

人の欲望を探るとか、未来を予想するとか言われるとなんだか難しいことのように思われがちですが、FUKAYOMIの考え方は、消費者の価値観の変化の潮流から、未来の欲望を予測するというとてもシンプルなものです。ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

FUKAYOMIのメソッドと実績が一冊に!「未来の消費者は何を欲望するのか~ヒット作品を読み解いて分かった6つの価値観変化」発売

──FUKAYOMIメソッドが2025年7月26日に書籍化されましたね。

佐藤:はい。発足以来5年間にわたる活動の集大成として、代表的なヒット30作品の分析から導き出した「6つの価値観変化」と、そこから予想される「3つの未来欲望」を1冊にまとめた書籍です。自社のビジネスに今までの延長線とは違う風を吹かせたいという方にはきっとヒントがあると思うので、多くの方に読んでいただけたらうれしいです。そしてもっと詳しく知りたいという方は、ぜひ直接お話しする機会を設けさせていただければと思います。

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──これを読んだ後は、もはや何も考えずにコンテンツを見ることはできなくなるかもしれませんね。

石川:確かにそう言われると、私もFUKAYOMIチームに加わってから、普段プライベートで映画を見るときも「これって観客の価値観にどんな変化をもたらすのかな」と考えるようになりました。でもそのおかげで、FUKAYOMI以外の業務でも、価値観変化や時代背景を踏まえた長期的な視点を持てるようになったと思います。

とはいえこの書籍に関しては、ビジネスに限らず映像コンテンツが好きな人なら誰でも楽しめる内容。ぜひ、ライトな気持ちで読んでみてほしいです。

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■“欲望”基点のマーケティング支援サービス DENTSU DESIRE DESIGN
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今、注目の不動産SaaS・7選は?物件管理・契約手続き・入居者対応・営業支援などを効率化

●この記事のポイント
・不動産業界においても、SaaSの導入が加速
・物件管理や契約手続き、入居者対応、営業支援、リーシングなど、多岐にわたる業務を効率化
・データ一元管理、ペーパーレス化、自動化、遠隔対応などのメリット

 クラウド会計の「freee」や請求管理の「マネーフォワードクラウド」など、SaaS(Software as a Service)は今や多くの業種で導入が進み、業務の効率化や生産性向上に欠かせない存在となった。実は、アナログな印象が強い不動産業界においても、SaaSの導入が加速している。物件管理や契約手続き、入居者対応、営業支援、リーシングなど、多岐にわたる業務を抱える不動産業界こそ、SaaSの恩恵を受ける場面は多い。本記事では、不動産業務向けに提供されている代表的なSaaSをピックアップし、その特徴を紹介する。

●目次

不動産業務とSaaSの親和性

 不動産業界には「紙と電話」の文化が根強く残っていたが、近年はコロナ禍を契機にデジタル化が一気に加速。非対面での内見や契約、遠隔地の物件管理など、従来のやり方では対応しきれない場面が増えたことで、SaaSへの関心が高まっている。不動産業界におけるSaaSの主なメリットは以下の通りだ。

・データ一元管理:情報共有を強化し、属人化を解消 
・ペーパーレス化:電子署名で書類業務を効率化 
・自動化:入居者対応や契約手続きの負担を軽減 
・遠隔対応:複数拠点やテレワークをスムーズに運用

 こうした利点を生かし、業務効率化や顧客体験の向上を実現するSaaSが続々登場している。ここからは、日本市場で実績を重ねる代表的なサービスを紹介しよう。

注目の不動産SaaS:7つの有力ツール

1.  いえらぶCLOUD
 不動産仲介・管理会社向けの総合システム。物件登録から反響管理、契約書作成、入居者対応、退去精算まで一括管理。30以上のポータルサイトとの自動連携や、CloudSign(クラウドサイン)を活用した電子契約が強みだ。中小から大手まで5,000社以上に導入され、業務の効率化を支援している。
公式サイト)https://ielove-cloud.jp/

2.  @property(@プロパティ)
賃貸管理をデータで最適化。家賃収入や空室率、物件パフォーマンスを可視化し、投資家や管理会社向けに収支予測やポートフォリオ管理を提供。資産価値の最大化をサポートする。
公式サイト)https://propertydbk.com/service/

3.  パレット管理
賃貸管理会社向けテナント管理システム。クラウドベースでテナントやオーナーとのコミュニケーションを効率化し、ペーパーレス化を推進。契約や問い合わせ対応をスムーズにする。
公式サイト)https://www.management.palette.co.jp/

4.  ANDPAD(アンドパッド)
建設現場のデジタル化を推進。クラウドでの書類管理やグループチャット、進捗管理で施工効率を向上。建築・不動産開発の現場課題を解決するツールとして広く採用されている。
公式サイト)https://andpad.co.jp/

5.  Qosmos(コスモス)
建物・設備のメンテナンス業務を効率化。過去の工事データを蓄積・整理し、保守管理の最適化を支援。メンテナンス業務の省力化に貢献する。
公式サイト)https://lp.qosmos.biz/

6.  SPIDERPLUS(スパイダープラス)
建築現場向けアプリ。図面や写真のデジタル管理、帳票生成をサポート。リアルタイムの情報共有で、現場の生産性を高める。
公式サイト)https://spider-plus.com/

7.  リノべる。
物件探し、デザイン、施工、資金計画を一括提供するリノベーションプラットフォーム。デジタルツールでリノベーションのプロセスを簡素化し、顧客ニーズに応える。
公式サイト)https://www.renoveru.jp/

導入の鍵は「業務の見直し」と「連携」

 SaaS導入は「万能薬」ではない。社内フローの整理やデジタルスキルの底上げ、部門間の連携体制など、業務そのものの見直しが必要なケースもある。また、複数のSaaSを導入する場合はデータの連携や統一ルールの設定が重要だ。

 一方で、クラウドサービスが普及する中で、各SaaSベンダーも「連携可能なエコシステム」としての進化を進めている。API連携、カスタマイズ性、サポート体制などを見極め、自社にフィットするツールを選ぶことが求められる。

不動産SaaSで未来の働き方へ

 多忙かつ煩雑な不動産業務を、少人数で効率よく回すために――。SaaSは単なるITツールではなく、働き方を根本から変える「仕組みのアップデート」だ。今後は、契約からテナント対応、オーナーとのコミュニケーションまで、顧客体験(CX)を高めるエコシステムがさらに進化するだろう。業務現場の課題を理解し、改革意識を持って導入を進めることが成功の鍵だ。日本の不動産業界は、クラウド化の波に乗って新たなステージへ進んでいる。

(文=齋藤めぐみ/有限会社リーゼント、ライター)

ハノイで和牛イベント=ベトナム顧客に知識や技術を提供―サクラフーズ

【ハノイ時事】香港を拠点に和牛の卸売業を手掛けるサクラフーズは16日、ベトナムのハノイで和牛の知識を深めるイベントを開催した。日本人シェフが和牛の各部位を使用した調理方法を紹介し、鮮度や品質を保つための保管方法などを解説した。

 サクラフーズはハノイに支店を構え、熊本産ブランド肉「和王(WAOH)」をベトナム国内のレストランに販売している。今回のイベントには、同社と取引のある企業10社25人が参加した。

 イベントを主催したサクラフーズの薗田昌己社長は、「ベトナムでは和牛の人気が高まっているが、和牛と言えばステーキのイメージが強く、レストランが仕入れる部位には偏りがある」と説明。「イベントを通じて、より多くの部位やそれぞれの部位に適した料理への知識を深めてもらいたい」と語った。

 ハノイ市内の日本食レストランのシェフ、ダオ・バン・ロアートさんは「肉をゆでてサラダにする調理方法は新しい発見であり、多くのことを学ぶことができた」と感想を述べた。すしレストランのシェフであるファム・ミン・クアンさんは「ベトナムの一般人にとって和牛は高価であり、多くの人に広めることは難しいが、和牛のさまざまな部位を使用すれば手頃な価格で提供できるかもしれない」と期待した。

 サクラフーズは今後もベトナム顧客に向けて、和牛の知識や調理方法などを伝えるイベントを定期的に開催する。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/07/21-14:33)

人を育てられない現場を変える…人手不足時代の“技術継承”を救うマニュアル革命

●この記事のポイント
・人口減少が進む日本にあって、企業が生き残るためには、属人的なノウハウを誰もが教えられる「再現性のある仕組み」に変えることが不可欠。多くの地方企業では、OJTに頼った教育が中心で、熟練者の技術やノウハウが言語化されておらず、新人が育ちにくい状況にある。これが離職率の高さや、教える側の疲弊にもつながっている。特に多国籍化が進む現場では、この問題がより深刻化している。
・スタディストは、「人が減っても事業が回る社会」の実現を目指している。同社が提供する「Teachme Biz」は、動画や画像を使ってマニュアルを簡単に作成・共有できるツール。これを利用することで、属人化していたノウハウを「形式知」として可視化し、新人が短期間で業務を習得できるようになる。

 人口減少、採用難、技術継承の断絶──。地方企業が直面する人手不足の裏には、「仕組みがない」ことによる悪循環がある。長く続いてきた属人化されたオペレーションは、今や新しい担い手を遠ざけ、世代交代をも阻んでいる。

 現場の熟練の技術をテクノロジーの力で継承することはできるのか。現場のマニュアル化の実態を、スタディスト代表取締役の鈴木悟史氏に聞いた。持続可能な地方の技術継承のヒントを探る。

目次

昭和のプロセスが残る現場──地方企業の構造的課題

「地方ではどの業種でも、『人が足りない』どころではなく、もはや“人材の奪い合い”です。それに伴い、給与水準が上昇し、収益性が悪化。業績に直接打撃を与えています」

 スタディスト代表取締役の鈴木悟史氏は、現場で目にする課題をそう語る。

 同社は、業務マニュアルの作成・共有ツール「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)」を提供するスタートアップだ。人手が不足する現場において、無駄のない合理的な業務オペレーションを実現するためのサービスである。これまで主に都市部で使われてきたが、近年は地方での導入も急速に進んでいる。

 とりわけ引き合いが多いのは、昭和時代に設計された非効率なプロセスや、属人的な手順が色濃く残る現場だ。変化に向けた第一歩すら見えないまま、OJT(On-the-Job Training/実地訓練)に頼った教育が常態化している。マニュアル自体は存在していても形骸化し、業務が手書きのノートで共有されているケースも珍しくない。

 たとえば、食品製造の工場は外国人労働者が多く集まる代表的な現場のひとつだ。かつては技能実習生の受け入れによって特定の国の出身者が多かったが、現在は国籍もばらばらな“多国籍軍”の様相を呈している。

属人化と「仕組みの空白」が生む負の連鎖

 地方の現場では、マニュアルの整備が進まず、属人的な業務のやり方が続いている。新人への教育も、ベテランの経験や勘に頼ったOJTが中心だ。技術や手順を言語化できないまま、「見て覚えろ」と伝えるしかない状況が続く。その結果、外国人や未経験者には十分に伝わらず、教える側も疲弊してしまう。

 店舗や工場では、教育に人手が割かれ、通常業務との両立が難しくなる。店長が育成にかかりきりになることで、他の従業員がフォローを受けられず、不満が高まるケースも多い。

 属人化された環境では、新人の教育に時間がかかり、結果として離職が相次ぎ、教える側まで離脱してしまうケースもある。こうした“負のループ”が、地方の現場に深刻な構造的課題として広がっている。

「制服の着方や手の洗い方から教えなければならない。でも、教える人の手が足りない。やり方がわからないまま教えられ、教える側も疲れて辞めていく。こうした現場には、“仕組みの空白”が広がっています」と、鈴木氏は語る。

 製造現場だけではない。たとえば鈴木氏は、地方の飲食店で貼られた「担々麺やめます」の張り紙に、危機感を抱いたという。

「地方に行くと、『今日は人が足りないので、担々麺やめます』といった張り紙を見かけることがあります。人手不足のため、注文数を制限せざるを得ないのだと思います。さらに、インバウンド需要の高い地域では、より条件のよい仕事に人が流れてしまい、店舗が立ち行かなくなりつつあります」

 外国人労働者や短期のスポット労働者を頼るとしても、教える人の手が空かなければ何もできない。「人手不足」と一言で語られがちだが、その本質は「雇っても業務を引き継げる人がいない」ことにある。

 経営者が採用に動いても、外国人材やパートタイム人材の受け入れには教育コストがかかる。現場は疲弊し、教える側も含めて人が辞めていく。この悪循環が繰り返されている。特に属人化が進んだ職場では、新人の教育に手がかかり、定着せずに辞めていく。教育に割ける余力も限られ、教える側も疲れ果てていく。

キーパーソンは「声の大きな人」

 新人が辞めるだけでなく、教える立場のベテランまで離脱すれば、現場に蓄積されてきたノウハウの喪失は避けられない。とはいえ、テクノロジーの導入は決して簡単ではないと、鈴木氏は指摘する。

「社長がいくら積極的でも、現場のスタッフが実際に使わなければ意味がありません。システムを導入しても、現場の人たちがその意義を感じなければ、なかなか根づかないんです」

 スタディストでは、こうした現場の反応の壁を超えるため、実際に現地へ赴き、作業風景を撮影。動画からマニュアルを生成し、その場で見せることで、納得感を得てもらう工夫をしている。

「実際にその場でやって見せると、『これなら自分にもできそうだ』と感じてもらえます。現場の“声の大きな人”を納得させることができれば、組織は一気に動き出すんです」

 こうした現場に寄り添った支援があってはじめて、テクノロジーの力が真に活きてくる。

 たとえば、ある部品メーカーでは、新人の5割が1年以内に離職していた。熟練技術者が新人に技術を教えるのに1年を要し、習得も難しいうえに定着しない状況が続いていた。そこで同社は、「Teachme Biz」を活用して業務をすべて可視化し、マニュアルとして形式知化することを決断した。

 ただし、シニア層の技術者にとっては、マニュアルを一つひとつテキストで入力する作業は非常に負担が大きい。そこで「Teachme Biz」を使い、日常の作業を動画と音声で記録。その内容をシステムに取り込み、実行ボタンを押すだけで、動画マニュアルが自動で生成される仕組みを導入した。

 動画には文字起こしが付き、さらに自動翻訳機能により、外国人労働者でも母国語でマニュアルを確認できる。「Teachme Biz」の導入で、1年かけていた工程がおよそ1カ月で習得可能になった。従業員の定着率も50%から90%へと大きく改善したという。

「頭の中にしかなかった非構造的な手順を可視化できることが、何よりの強みです。こうして蓄積されたノウハウは、将来的にはチャットボットからも検索できるようになり、教育コストはさらに下がっていきます」

脱・属人化は避けられない流れに

「『Teachme Biz』はあくまで手段であり、私たちが目指すのは“人が減っても事業が回る社会”です」

 鈴木氏が掲げるのは、人口が4割減ってもGDPが上がる日本の実現だ。本当に付加価値を生む業務を見極め、マルチスキル化と再現性のある仕組みによって業務を効率化するためには、個人の熱意ではなく“仕組みそのもの”が不可欠だという。

「自動翻訳や読み上げ機能、AIによる支援など、どんどん機能は増えていますが、それは“どんな課題をどう解くか”を一つひとつ考えてきた結果です。テクノロジーは、利用者の課題に寄り添って進化しているのです」と鈴木氏は語る。

 最近、鈴木氏が地方でよく耳にするのは、「スキルアップに応じて給与を払いたいが、その原資がない」という経営者の悩みだ。人件費の上昇、採用競争の激化、そしてノウハウの流出。多くの企業が今、初めて“仕組みの必要性”に本格的に向き合い始めている。

 こうした中で、「Teachme Biz」のようなツールを導入する企業も着実に増えている。さらにスタディストは今年、BPO事業者(Business Process Outsourcing/業務プロセスを専門的に外部委託する事業者)をM&A(合併・買収)し、マニュアル整備にとどまらない“業務の合理化支援”にも乗り出した。

 重要なのは、「テクノロジーを導入すること」そのものではない。人口減少が進むなかで、再現性のある仕組みをどう構築し、いかに業務を回していくかという発想を、企業が本気で受け止められるかが問われている。

 現場に埋もれている知識を形式知として残す。人に頼らずに、誰もが教えられる仕組みを持つ。それは今、あらゆる企業にとって“生き残るための前提条件”になりつつある。

(寄稿=相馬留美/ジャーナリスト)