AIで完結させない“余白”が生む体験価値。マキアージュの生成AI×プロモーション実践例

生成AI

広告やマーケティングの分野では、生成AIの活用に向けた動きが加速しています。電通グループでも、生成AI×プロモーションを通じて、ユーザー体験の価値を高める取り組みを積極的に展開しています。

本記事で取り上げるのは、資生堂「マキアージュ」ブランド誕生20周年のリブランディング施策として展開された「おしゃべりメイク診断」。企画・開発・体験設計を担った電通の尾上永晃氏、村上晋太郎氏、D2C IDの高橋大輔氏に、プロジェクトの経緯や生成AIの設計、イベントの手応え、そして生成AI×プロモーションの可能性について聞きました。

【「おしゃべりメイク診断」とは】
資生堂「マキアージュ」20周年を記念して開発された、生成AIによる対話型メイク診断コンテンツ。チャット形式の会話を通じて、その日の気分や好みに合ったメイクとマキアージュ商品を提案する。2025年2月には、東京・表参道でリアルイベント「CHOTTO‑SHITA PARTY(チョットシタパーティ)」を開催。「おしゃべりメイク診断」を活用したヘアメイクアップアーティストによるメイク体験、プリクラやフォトブースでの撮影、パーティ体験など、新たな可能性を引き出されたいつもと“ちょっとちがう自分”に出会う楽しさを実感できるだけでなく、その気持ちをみんなでシェアし互いに肯定し高めあう体験を提供した。
https://www.maquillage-chat.com

 

Z世代との新たな関係構築を目指した、マキアージュ20周年リブランディング

──今回のプロジェクトの背景について教えてください。

尾上:資生堂さんの「マキアージュ」は、言わずと知れた人気のトータルメイクアップブランドで、今回のプロジェクトはその20周年を機に立ち上がったリブランディング施策です。長年トップを走ってきたブランドですが、ユーザー層の年齢が上がってきたことや、韓国コスメの台頭や新興ブランドの登場もあいまって、Z世代を中心とした若年層との接点に課題がありました。

一般的にZ世代の傾向として「自分に自信が持てない」「失敗したくない」という心理があると言われています。情報過多な環境や炎上リスクへの恐れから、変わることやチャレンジすることにハードルを感じている方も少なくありません。そういった若い世代に対して、マキアージュというブランドがどう背中を押せるかがリブランディングのオリエンでした。

──初期段階では、どのような議論があったのでしょうか?

尾上:資生堂クリエイティブのチームと電通チームが一体となってワンテーブルで調査・議論を重ねました。その中で見えてきたのは、Z世代は「自分だけ目立ちたい」といった個の欲求よりも、互いを肯定し合う関係性を大事にしているという点です。

「界隈」と形容されるような共同体の中で、自分の存在が認められることに価値を感じている。メイクという行為についても、仲間同士で「それ似合ってるね」と声をかけ合い、肯定感を高めていく文化があるという意見も出ていました。

これまでの化粧品広告は、「あなたはもっと輝ける」「あなたはもっと自信を持てる」といった“個”を前提にした語りが多かったですが、今回のリブランディングでは「関係性」を中心に据え、「みんなで高め合おう」という方向にシフトしています。

尾上氏

──ブランドの語り口も変わったということでしょうか?

尾上:そうですね。ブランド側が「あなたはもっといける」と言っても、相手には響かないことが多い。むしろ“うるさい”と感じられてしまうかもしれない。「みんながいる」「一人じゃない」と語りかける方が、今の価値観には合っている。その輪の中にマキアージュというブランドが自然に存在している、そのようなあり方を目指しました。

──その考えを具体的にどうプロモーションに落とし込んでいったのでしょうか?

尾上:共感を得るためには、ブランドが言葉だけで背中を押すのではなく、行動で示すことが重要です。友だちや参加者と一緒に楽しみながら、ブランドのメッセージを体感できる。そのようなリアルな場を作る手段として、ポップアップイベントを提案しました。ただ、当然ながらイベントに参加できる人数には限りがあります。より多くの人にブランド体験を届けるためのウェブコンテンツが必要だと考えました。

高橋:コンテンツの中身について議論を重ねる中で、「診断結果が想像を超える体験になると面白いよね」といった話が出てきて、AIを活用する案が浮上したんですよね。

尾上:はい。世の中にはイエベ/ブルベ診断のように、自分に似合うメイクを提案するAIは既にあります。ただ、私たちが目指したのは「その先」でした。あらかじめ自分の手に届く範囲を決めてしまいがちな世代に対して、「もっといけるかもしれない」「新しい自分を試してみよう」と背中を押してあげたい。すなわち、ユーザーの想像を超えるような提案を届けることが、ブランド体験の価値の一つになると考えました。

まるでプロに背中を押されるようなリアルな体験を、AI診断で再現

──実際に「おしゃべりメイク診断」はどのように企画・開発していったのでしょうか?

村上:先ほど高橋さんが述べたように、「生成AIで思いがけないメイク提案を実現したい」というところからスタートし、すぐにプロトタイプ開発に取り掛かりました。実は最初に作った試作は、心理テスト風のAIチャットだったんです。たとえば「都会に向かう道と森に向かう道、どちらを選びますか?」といった質問を重ねて診断結果を出す形式でした。

でもこれがクライアントにも、社内のメンバーにも大不評でして(笑)。「やらされている感が強い」「雑誌の心理テストと変わらない」というフィードバックをもらいました。そこから細かく試作を繰り返し「AIとの会話そのものを楽しめるチャットアプリ」という方向に舵を切りました。

村上氏

──診断で用いられる会話の設計にはどのような工夫をしましたか?

村上:ヘアメイクアップアーティストさんへのヒアリングを行ったのが大きなヒントになりました。「どんなメイクがしたいですか?」といった直接的な質問よりも、「最近ハマっているものは?」「休日はどんな風に過ごしていますか?」といった雑談的なやりとりから、相手の雰囲気を掴んで提案しているという話を聞いて、これはAIにも応用できそうだと。

試しに、好きな食べ物や音楽について対話を重ねてみると、そこからメイクの提案に自然とつながっていく。その“脱線しているようで徐々に核心に迫る”感じが、まさに生成AIの強みで面白いと思いました。

──会話形式となると、キャラクターの設計も重要になりそうですが、そこにはどんな工夫を凝らしたのでしょうか?

村上:はい。どんな個性を持ったAIにするかも重要な要素でした。今回はターゲット層の当事者であるメンバーたちの意見を軸に5つの個性をつくりました。褒め上手な執事、占い師の女子高生、包容力のあるバーテンダー、歯に衣着せぬ人生の先輩、ノリのいい絶賛MC……といった個性豊かなキャラです。

キャラがかぶらないように相関図にプロットし、「この性格が足りないね」と調整しながら設計していきました。個性のプロンプト設計は、コピーライティング的なセンスが求められる領域で、人間味や体温感を出すためのチューニング方法はかなり試行錯誤しました。キャラクター案や会話パターンなどは一度社内で設計した上でクライアントに提案し、フィードバックを受けながらブラッシュアップしていきました。使用するコスメの色味も、マキアージュに実際に存在するアイテムに合わせて細かくチューニングしています。

おしゃべりメイク診断

──AIの制御や調整面で苦労したことはありましたか?

村上:想像していたよりも苦労は少なかったです。タイミング的に生成AIの性能がかなり向上していた時期だったので、たとえば「使える色はこれだけにして」と指示すれば、かなり正確に守ってくれる。とはいえ、生成AIツールの性質上、同じような提案を繰り返しがちになるので、そこは乱数やバリエーションを意識的に加えるなど、微調整が必要でした。

高橋:指示を詰め込みすぎると、精度が落ちることもありましたよね。

村上:そうなんです。条件が多すぎると、AIが忘れてしまうこともあるので、裏側で定期的に思い出させるリマインダーのようなプログラムを入れています。こうした細かなチューニングは、生成AIを有効活用する上で欠かせない工夫だと思います。

高橋:村上さんに企画から実装まで一貫して担当してもらえたことは、かなり心強かったです。通常の案件だとAIの開発・実装は制作会社にお願いすることも多いのですが、開発・検証のプロセスをチーム内で完結できたことで、プロジェクトのスピードが格段に上がりました。

高橋氏

──「ブランドらしさ」はどのように表現していったのでしょうか?

村上:最新のLPなどを研究しながら、ユニークなユーザー体験とブランドのトーンを両立するUI/UXを丁寧に設計しました。また、会話内容についても、ネガティブな表現を避ける、ブランドのタグラインと一致した表現にするなど、細かい部分まで配慮しています。

高橋:今回のリブランディングでは、ロゴやカラーリングなども刷新されていました。その中で「どこまでなら、“マキアージュらしさ”が保てるのか?」というラインを探りながら進めていきましたよね。キャラのイラストに関しても悩みましたが、結果的にブランドの親しみやすさを補強するような存在になったと感じています。

村上:そうですね。今回は特に、AIに愛着を持ってもらうことを意識しました。最近はAIというと、どうしても冷たい印象や警戒感を持たれることもあります。だからこそ、「このAI、ちょっと好きかも」と思ってもらえるようなコミュニケーションやキャラクターデザインを目指しました。

──イベント設計の工夫についても教えてください。

尾上:イベントで重要だったのは、体験の最後に「気分が上がって出ていける」こと。そして、体験のあちこちに“シェアしたくなるポイント”がちりばめられていることでした。そこはZ世代当事者のメンバーたちの「こういう要素があると楽しい」といった声を積極的に取り入れてコンテンツを構成しています。

高橋:体験要素がそろってきた段階で、改めて「このイベントで何を持ち帰ってもらうのか?」という全体設計を振り返る場面もありました。メイク体験・プリクラ・フォトブースなど、イベントとしての“密度”をしっかり持たせながら、全体のコンセプトと齟齬のない構成に落とし込んでいます。

──メイク体験は即興性が高く、オペレーションが難しそうですね。

高橋:そうですね。ヘアメイクアップアーティストの方々は日替わりのシフト体制でしたが、中心となる方にはAIの設計段階からご協力いただき、フィジビリティも含めて綿密に確認していただきながら、全体の流れを設計しました。日々コミュニケーションを取りながらブラッシュアップしていく形式で、オペレーションは丁寧に整えていったつもりです。

また、診断結果はユーザーのスマホで確認できるように設計し、シェアしやすいように工夫しました。AIの“腕前”を感じてもらい、それがさらに拡散されていく。その循環がうまく回ったのは、体験とテクノロジーをしっかりつないだからこそだと感じています。

おしゃべりメイク診断
イベント当日の様子

“技術だけじゃない”体験設計が導いた高い満足度

──イベント当日の反応はいかがでしたか?

高橋:アンケートやSNS上のコメントを見ても、「AIが楽しかった」という声が多く寄せられていました。実際のメイク体験に至るまでの導入として、AI診断という変わったステップを踏む構成が印象に残っていたようです。診断自体が楽しく、会場全体のコンテンツとのつながりも自然だったと思います。

──ヘアメイクアップアーティストの方々の反応はいかがでしたか?

高橋:メイクさんたち自身もすごく楽しんでくれました。イベント自体をお祭りのように盛り上げてくださって、空気感が素晴らしかったです。AIの診断結果からインスピレーションを受けてメイクをするという、新しいプロセスを面白がってくれていたのが印象的でした。

──ウェブコンテンツとしての反響はいかがでしたか?

高橋:ウェブコンテンツは、イベントと並走する体験として用意していたものですが、公開初月から一定数の利用がありました。何かが当たるキャンペーンでもなく、IPやタレントさんの力に大きく頼っているわけでもない。それでもこれだけ継続的に利用されているのは、診断コンテンツそのものに価値があるからだと感じています。

──クライアントの反応についてはいかがでしたか?

高橋:マキアージュとして、ここまでコンテンツを押し出したイベントは初めてだったようで、かなり新鮮だったのではないかと思います。AIの導入も初めてで、そこへのチャレンジも含め、全体としてとてもポジティブに受け止めていただきました。印象的だったのは、クライアント側の方々もとても楽しんでくださっていたことですね。プライベートで再訪いただくケースもありました。

高橋氏

村上:個人的にすごくいいなと思ったのが、イベントの最後に登場する「褒め部隊」というスタッフたちが、お客さまのことを全力で褒めてくれる仕組みがあったことです。それがすごく褒め上手で。生成AIをフル活用した診断から始まり、プロのメイク体験を経て、最後は人間がしっかりと肯定してくれる。体験全体を通じて、来場者の自己肯定感を高める流れが作れていたと思います。

高橋:「褒め部隊」は、その場の空気を温かく包み込んでくれる存在でしたね。

村上:技術だけに振り切るのではなく、人の温度感がちゃんと伝わる構成になっていた。それが最終的に、来場者の満足度につながっていたと感じています。

高橋:こうしたイベントは、ともすると技術ドリブンになりがちですが、今回はブランド体験を重視した構成にしています。AIというテクノロジーを生かしながらも、人のぬくもりや手触りを失わなかったことが、この企画の大きな成果だったと思います。

村上氏

AIで完結させない。余白と人の“汗感”が体験価値を高める

──今回のプロジェクトを振り返って、生成AI×プロモーションを成功させる上で大事だと感じたポイントは何でしょうか?

高橋:前回の記事でも少し触れましたが、「AIを使っていること」自体を前面に出す時代は、もう終わりつつあると感じています。技術の面白さを打ち出すのではなく、人が思わず体験したくなる仕掛けや、自然な導線をどう作るかがより大事になる。その意味でも、今回は「個性的なキャラと会話する楽しさ」を起点に体験を設計したことが良かったと思います。

村上:実際、今回の施策では「AI」という言葉をタイトルに入れていません。「おしゃべりメイク診断」という名称にしたのは、あくまで体験が主役であるべきだと考えたからです。

尾上:メイク診断にありがちな、画像で完成形を見せるのではなく、テキストベースで提案して、その続きを人間が仕上げる。この“余白”があることで、AIというよりも体験そのものが印象に残るようになったのかなと思います。

村上:広告って、これまで「一つの憧れ」を提示するものでしたが、生成AIは、あらゆる個性に合わせた提案ができるんですよね。極端にいえば、全員を肯定できる。これはマキアージュが目指したブランド像ともマッチしていて、大きな気づきになりました。

尾上:その人が何を望んでいるのかを会話の中から掘り起こし、本人も気づいていなかった「なりたい自分」を見つけるプロセス。それがAIを通して自然に引き出せるようになったのは大きいですね。

高橋:軽く話しかけているうちに、自分の好みや理想のメイク像が言語化されていく。診断を通じて「自己認識」や「自分の中の欲望」に気づいていくという点も、プロモーション体験として面白かったと思います。

村上:人間とAIの役割分担について考えると、AIは集合知として機能しますが、「誰がやったか」「どこでやったか」といった文脈を作る力は人間にしかない。たとえばプロのヘアメイクアップアーティストに施術してもらったという体験の価値。それはAIだけでは作れない部分だと思います。

尾上:AIで完結させるのではなく、人間の試行錯誤のプロセスやがんばった痕跡など、“汗感”を組み合わせることがプロモーションを成功させるポイントの一つといえるかもしれない。

尾上氏

──他に生成AIを活用したプロモーション事例で印象的なものはありますか?

尾上:味の素(株)さんと一緒に取り組んだ、うま味マッチングサービス「ウマッチ」というプロジェクトがあります。うま味調味料「味の素®」をいろんな食材にかけてみようというキャンペーンで、「うま味のマッチング診断」をAIで行うという内容です。

味の素®って、卵かけご飯やカレー、みそ汁など、どんな料理にも合う調味料なんですよね。「何にでも合うなら、“出会い”をテーマにしたAIによる提案型にしたほうが面白いんじゃないか」という発想から、マッチングアプリのようなUI /UXで食材とのマッチングを楽しんでいただくことを目指しました。

ウマッチ

村上:今回は人ではなく“食材”に個性を与えるという試みにチャレンジしています。「おしゃべりメイク診断」では5つの個性を設計しましたが、「ウマッチ」では生成AIの力を使って食材100種に対して個性を形成し、それぞれのキャラと対話しながら運命の組み合わせを見つけ出す体験設計にしています。

また、ウェブコンテンツなので、ユーザーの負担を減らすためにフリーワード入力だけでなく、AIが自動生成した会話の選択肢を選ぶこともできるようにしています。

そして、今回も生成AIだけに頼るのではなく、人の“汗感”を組み合わせています。AIで100種の食材を集めることもできるのですが、実際にいろんな料理に味の素®をかけてみる“食べ比べ会”を開いて、人力でも食材を集めました。その“人間のセンサー”で得た発見を、AIの生成力で対話型コンテンツに落とし込んだ。そこもポイントですね。

ウマッチ

尾上:これはプロモーションとは別の視点になるのですが、「おしゃべりメイク診断」や「ウマッチ」の取り組みを通じて、生成AIの活用が“ブランドらしさ”の形成にも役立つのではないかと考えています。たとえば、診断の中で出てくる言葉に「これはちょっとブランドイメージと違うかも」といったフィードバックがあると、そのプロセスを通じて逆に「ブランドらしさとは何か」が浮き彫りになってくるんです。

マキアージュや味の素®のように、ブランド自身が言葉で語る機会が少ない場合、生成AIで擬人化したブランドとの対話が、ブランドの言語表現として機能する。これからは、生成AIを使ってブランドを磨いたり、ブランド理解を深めたりすることもできるんじゃないかと思いました。

高橋:とても面白い視点ですね。生成AIはその技術的な新しさに目が向きがちですが、本質的には体験設計の一要素です。今回のプロジェクトはそのバランスを意識的に設計できた好例だったと思いますし、今後もブランドやユーザーにとって意味のある“使いどころ”を見極めながら、さらに新しい活用方法にもチャレンジしていきたいですね。

https://x.com/dentsuho

推し活に新たな選択肢を。自分だけの物語をつくるMeSEUMとは?

MeSEUM

富士フイルムビジネスイノベーション(以下、富士フイルムBI)と電通が共同で立ち上げた「MeSEUM(ミージアム)」は、ファンが“推し”の画像を自由に選び、自分だけの写真集やグッズをつくれる新しいコンテンツ体験プラットフォーム。(リリースはこちら

高品質のプリント技術やAI画像認識、オンデマンド制作など、富士フイルムグループの強みを生かしたこのプロジェクトは、単なる“グッズ販売”を超えて、ファンとコンテンツホルダー双方にとっての新たな関係を生み出す可能性を秘めています。

プロジェクトの背景や今後の展望について、MeSEUM(ミージアム)を統括する事業開発プロデューサーのアーロン・ズー氏が解説します。

MeSEUM
 

推し活ファンの“好き”をカタチにする、革新的なプラットフォーム

ライブやイベントに行ったあの日の余韻。スマホに残った写真や推しの表情を、“自分だけの記録”として手元に残しておきたい。そんな思いを抱いたこと、ありませんか?

MeSEUMは、ファンが“推し”のアーティストやキャラクターの画像を選び、自分好みに編集して、写真集やアートパネルといったオリジナルグッズをつくれるサービスです。操作はシンプルで、オンライン上で数ステップだけで完結。富士フイルムBIのプロダクションプリンター「Revoria Press PC1120」を使用することで、仕上がりは商業印刷レベルの高品質を担保しています。

MeSEUM
「MeSEUM」サービスサイト

このサービスの特徴は、ファンにとっての特別なパーソナライズ体験を提供することはもちろん、コンテンツホルダー側にとっても在庫リスクや初期投資を抑えられるという点にあります。そして、推し活の熱量をそのままプロダクトに変換する、新しいファンエンゲージメントのカタチといえるかもしれません。

私は「推しとの関係をアップデートする」ことが、MeSEUM事業の根幹にあると考えています。ライブやイベントで高揚した瞬間やかけがえのない体験を、そのままカタチに残したい。あるいは現地に行けなかった人も、自分なりの方法でその世界に触れたい。そうしたファンの思いを受け止める、温度感のあるサービスになると良いと思いました。MeSEUMは、そうしたニーズに応えるための一つの提案です。

MeSEUM
「MeSEUM」サービス提供スキーム

埋もれた価値を届ける。ファンとコンテンツホルダー双方の課題に向き合う

MeSEUM事業に込められた思いや、推し活をアップデートする可能性について深掘りすべく、富士フイルムBIの取締役 執行役員でグラフィックコミュニケーション事業を統括する木田裕士氏に話をお聞きしました。

アーロン:まず、MeSEUM事業立ち上げの背景についてお伺いしたいです。御社にどのような課題意識があり、また、コンテンツホルダーやファンの皆さんが抱える課題については、どのように捉えていらっしゃったのでしょうか?

木田:富士フイルムのコア技術である「写真」と「プリント」を起点に、まったく新しいコンテンツビジネスを創出していくこと。それが、当社の事業の一つであるグラフィックコミュニケーション事業の成長にもつながるという考えから、MeSEUM事業を立ち上げました。

現状、多くのコンテンツホルダーが膨大な画像や映像資産を保有しながら、それらを十分にマネタイズできていないという課題を抱えています。一方で推し活を楽しんでいるファンの方々に目を向けると、一般的に流通しているコンテンツではなく「自分にとって意味のあるもの」、つまりパーソナライズされた価値を求めていることが分かってきました。

この両者のニーズをきちんとつなぎ、コンテンツホルダーにとっても、ファンにとっても喜ばれる仕組みをつくること。それが私たちの大きなテーマでした。そして、この新しい推し活のあり方は、エンターテインメントに限らず、アートや文学、スポーツなど幅広い分野に共通するものです。そうした意味で、社会的な意義も非常に大きいプロジェクトと捉えています。

木田裕士氏
木田裕士氏

アーロン:そのような課題やニーズを踏まえ、MeSEUMでは具体的にどのような仕組みで価値提供を実現しようとしているのかを教えてください。

木田:まず、コンテンツホルダーが保有している膨大な画像・映像データをデジタルアセットとして整理・管理できるよう、DAM(デジタルアセットマネジメント)化します。そして、ファンはそれらの中から「自分が本当に欲しい」と思えるカットを選び、世界に一つだけのオリジナルアイテムをつくれる。そのような“推し活プラットフォーム”を提供します。

つまり、ファンが心を動かされた瞬間をカタチにし、それが応援の表現方法にもなる。一方でコンテンツホルダー側にとっては、これまで埋もれていたコンテンツを資産化し、管理・収益化の両面で価値を引き出せるようになります。

そのプラットフォームの土台には、私たちが長年培ってきたデジタル技術と、高品質な写真・プリントの技術を生かしています。関わる全ての人にとってポジティブな体験となることを目指し、事業化を進めてきました。

“世界に一つだけのアイテム”を支える技術・ノウハウ

アーロン:MeSEUMの仕組みを実現する上で、御社が事業を通じて培ってきたノウハウや技術が大きな鍵になっていると感じています。具体的には、どういった部分に強みがあるとお考えですか?

木田:当社の知見が生かされている領域は、主に4つあります。

まず1つ目は、高品質なプリントオンデマンド技術です。商業レベルのプリント品質を、版を使わず必要な分だけ刷れる点が最大の特徴です。MeSEUMで展開する“世界に一つだけのアイテム”を成り立たせる上で、この技術が大きなベースになっています。さらに、クリアトナーやマイクロフォントといったセキュリティプリント技術を用いることで、コンテンツの偽造や転売の抑止も実現しています。

2つ目が、AIによる画像認識技術です。大量の写真データから、たとえば特定のキャラクターやアーティストの画像だけを自動で抽出したり、不鮮明な画像を省いて良質なものだけを選別することが可能です。ファンが閲覧する際にも、AIがより良い一枚を提案してくれるような設計になっています。

3つ目は、素材展開のノウハウです。紙以外にも、布や陶器、アクリルなどさまざまな素材へのプリント実績があり、こうした技術が、ファンが求める多様なアイテム展開に生かされています。

そして4つ目が、コンテンツの制作から流通までを効率化するDX支援の知見です。AIや業務システムと連携することで、コンテンツオーナーの作業負荷を軽減し、より手軽で柔軟な運用をサポートできる点が、私たちの大きな特長だと考えています。

アーロン・ズー氏
アーロン・ズー氏

アーロン:MeSEUMで活用している「Revoria Press PC1120」の特徴について、もう少し詳しく教えていただけますか?

木田:Revoria Press PC1120は、世界で初めて6色トナー方式を採用した高品質なデジタルプリンターです。一般的なCMYK(4色)では再現が難しいRGB領域の色味にも対応しており、特にキャラクター写真やアート写真のような繊細な色表現が求められるコンテンツにおいて、高い再現性を誇ります。

また、インク印刷よりも多様な素材への対応が可能なため、ファンが望む多様なアイテム展開にも柔軟に応えることができます。先ほど申し上げたセキュリティ印刷の機能とあわせて、ファン体験の質を支える要の技術になっています。

アーロン:富士フイルムグループでは、「ランダムプリント」や「プリントデイズ」、「推し文字プリント」など、すでに推し活に関連したサービスも展開されていますよね。そういった経験やノウハウは、今回の事業にも生かされているのでしょうか。

木田:はい、そこはまさに強みの一つです。MeSEUM事業は富士フイルムBI単体で推進していきますが、すでにグループ内で推し活関連サービスを展開している他部門とも連携し、今後さらに質や精度を高めていく予定です。また、推し活ファンは日本国内だけでなく、海外にも多く存在するので、グローバル展開も視野に入れた連携を進めていきたいと考えています。

ちなみに、私自身は推し活に詳しいほうではないのですが、MeSEUM事業に携わるDX事業部のリーダーがかなりの“ガチ勢”でして(笑)。今回の企画を話したときに一番強く反応してくれたのが彼でした。推し活に対する熱量や本当に欲しいものを理解しているメンバーが中核にいるというのは、サービスをつくる上でも大きな力になっていると感じています。

地球上の笑顔の回数を増やしていく

アーロン:富士フイルムグループは「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」というパーパスを掲げていますよね。その実現に向けて、MeSEUM事業がどのように貢献できるとお考えですか?

木田:富士フイルムのグループパーパスは、多様な人・知恵・技術を掛け合わせ、独創的な発想でイノベーションを生み出し、世界に笑顔を届けていくというものです。私たち富士フイルムBIも、その志を共有しながら、全ての活動において「オープン、フェア、クリア」の精神で取り組んでいます。

当然ながら、MeSEUMもその延長線上にある事業です。『「好き」をもっと好きに。』というコンセプトが示しているように、ファンが抱いている“好き”という感情に対して、より深く、自由に、豊かに応えていく。それによって、一人一人の笑顔を生み出していくことが、この事業の核心にあります。

アーロン:とても共感します。ちなみに御社はサステナブル社会の実現に向けた環境負荷低減の取り組みにも注力していますが、そこにMeSEUMが果たす役割について教えてください。

アーロン・ズー氏

木田:環境への配慮は、私たちが重視しているテーマの一つです。たとえばMeSEUMで活用しているデジタルプリント技術は、従来のオフセット印刷とは異なり、刷版といった中間材料が不要です。廃液も出ず、必要な分だけを印刷するオンデマンド方式なので、在庫ロスも発生しません。

さらに、グリーン電力を活用している点や、環境配慮型の用紙を選定できる仕組みも備えています。これにより、制作物には「GreenPowerマーク」を付けて提供することができ、コンテンツホルダー、ユーザーの双方に環境貢献の可視化がしやすくなっています。

「セレクトコンテンツ」から生まれる、推し活ファンとコンテンツの新しい関係性

アーロン:今後、AIによる画像認識の高度化やファンデータの活用も視野に入れています。MeSEUMはこれからどのように進化していくのか、現段階の構想を教えてください。

木田:現在は人物写真の認識を中心にAIを活用していますが、今後はシーンやイラストの自動抽出にも領域を広げていきたいと考えています。また、ファンの行動データやフィードバックを蓄積・分析することで、よりパーソナライズされた提案が可能になります。

たとえば、あるファンにとって思い出深いシーンをAIが把握し、それに近い画像やデザインを提案するといったように、一人一人の“好き”に寄り添えるサービスを目指しています。MeSEUMは、ファンの感情に応えるだけでなく、常に新しい体験を提供できるプラットフォームとして進化していきたいと考えています。

アーロン:これからMeSEUMに参画されるコンテンツホルダーの皆さんと、どのような未来を一緒に描いていきたいとお考えですか?

木田:一言で言うなら、コンテンツを「当たり前にマネタイズできる世界」を一緒に実現したいということです。コンテンツホルダーが保有する素材の中には、ファンにとってかけがえのない一枚が数多く埋もれているはずです。それらを適切に管理・活用し、価値あるカタチで届けることで、ファンとの関係性を深める場を提供できると考えています。

その延長として、収益の一部をファンへの還元に生かすような新たなスキームも、今後検討していきたいですね。そして最終的には、これまでのような一律で販売する写真集のスタイルだけではなく、ファン自身が「このカットが欲しい」と選んでつくる「セレクトコンテンツ」が当たり前になる文化を根付かせていきたいです。

アーロン:まさに、今の時代のファン心理に合った提案ですね。また、タレントやアーティストも人間らしいビハインドストーリーの部分も含めて共感される時代になってきています。MeSEUMでは、その人の背景にある物語や新たな一面も伝えたいという思いがあり、公式YouTubeチャンネルでは撮影風景やオフショットの公開にも取り組んでいます。

木田:その視点はとても重要だと感じています。完成されたカットだけでなく、ちょっとしたオフの表情や裏側のストーリーが伝わることで、そのコンテンツに新たな魅力が加わる可能性があります。そういった、ファンが求める“隠れた価値”を引き出して届けていくことで、コンテンツのブランディングにも寄与できると考えています。もちろん簡単なことではないですが、そういった新しいチャレンジの積み重ねが価値につながるのではないでしょうか。

木田裕士氏

アーロン:では最後に、推し活を楽しむファンの皆さんに向けてメッセージをお願いします。

木田:ファンの皆さんには、これまで通り推しを応援する手段の一つとして、MeSEUMを自由に楽しんでいただきたいと考えています。ただ、これまでと違うのは「自分で選び、自分だけの推し活アイテムをつくれる」という点です。コンサートやイベントを通じて自分が心を動かされた瞬間を自分なりのカタチで残す。あるいは、自分が抱いている推しのイメージを、写真やグッズというカタチで表現する。そういった体験を通じて、“好き”という感情がもっと深まっていくのではないかと思います。

推しがいることは、日々の活力にもつながります。私たちは、ファンの皆さんがその尊い営みを最大限に楽しめるよう、技術とサービスの両面から支援していきます。そして、MeSEUMを通じて、皆さんの暮らしに彩りと笑顔を届けていきたいです。

アーロン:ありがとうございます。私たちもMeSEUMの価値を最大化させるためにさまざまなチャレンジに取り組んでいきたいと思います。

木田:当社はコンシューマービジネスの経験が決して豊富ではありません。だからこそ、この領域に知見のある電通との連携に期待しています。市場分析力や事業開発のノウハウ、そして多様なコンテンツホルダーとのつながりは、MeSEUMにとって非常に心強い資産です。両社の強みを組み合わせることで、より多くの人の心を動かすサービスに育てていきたいですね。

アーロン:この事業を通して実現したいのは、“好き”という感情にもっと自由と選択肢を与えることです。ファンにとっては、思い入れのある瞬間を自分の手で選び、カタチにできる体験を。コンテンツホルダーにとっては、過去の資産を新たなカタチで届けられる可能性を。そして私たちにとっては、技術とクリエイティビティのかけ算で、感情が動く瞬間を支えていくという挑戦を。

MeSEUMが生み出す体験が、人とコンテンツの新しい関係をつくり、その一つ一つの積み重ねが、社会に少しずつ“彩り”と“笑顔”を増やしていく。そんな未来を信じて、これからも一歩ずつ歩みを進めていきたいと思います。

「MeSEUM」サービスサイトはこちら

【事業に関する問い合わせ先】
株式会社電通 BXクリエイティブ・センター
アーロン・ズー(Aaron Z. Zhu)
Contact:https://dentsu-bxcr.com/contact

https://x.com/dentsuho

メタが数十兆円を投資する「ASI」の可能性とリスク…AIが主体的に判断・行動する

●この記事のポイント
・米メタ、ASI(人工超知能)の開発に向けて開発用インフラを構築するため、データセンターに数千億ドル(数十兆円)を投資すると表明
・ASIは人間と同じような感覚を持って問題を解決していき、自律性と主体性を持って行動
・ASIが実用化されると、社会的な分断が進むというリスクも想定される

 米メタCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は7月14日までに、「スーパーインテリジェンス(超知能)」、すなわち「ASI(人工超知能)」の開発に向けて開発用インフラを構築するため、データセンターに数千億ドル(数十兆円)を投資すると表明した。「プロメテウス」というAI向けスパコンクラスタ(複数の高性能サーバなどを結んだ高速計算ネットワーク網)を2026年に稼働させる予定だという。ASIはOpenAIも開発を進めているとされ、同社CEOのサム・アルトマン氏は数年以内に実現すると発言しており、日本のソフトバンクグループも実現を目指すと宣言。同社会長兼社長の孫正義氏は「ソフトバンクグループはASIを実現するために存在している」「ASIが実現し、人間の叡智を1万倍も超えるようなものができれば、がんや脳梗塞、交通事故、災害、パンデミックなどの絶望から人類を救えるかもしれない」などと発言し、注力している。このASIとは何なのか。また、ASIが普及すれば、どのようなことが実現できるようになるのか。そしてリスクはないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

ASIは、ある種の標語みたいなもの

 ASIは、AIとは何が違うのか。AI開発者で東京大学生産技術研究所特任教授の三宅陽一郎氏はいう。

「ASIとは何か突飛なものではなくて、『AIが人間の知識を吸収して発達していくと、自然とそのうちに人間の知能を超えていく』という意味合いで、人工知能の自然な発展の途上に見えてきたもので、現タイミングでは、次なる人工知能のビッグゴールとしてある種の標語のようなものになりつつあります。これまで言語AIや生成AIなど個別のAIが出てきました。これらは『インテリジェント・アプリケーション』(IA, Intelligent Application)と呼ばれるもので、人間が使用する限りにおいて役立つものです。そして2025年からは「エージェント」というかたちで、様々な機能が統合されようとしています。エージェントの特徴は主体性と自律性です。つまり人間の命令を待つことなく24時間、自らの目的に沿って動作します。エージェントは人間と同じように視覚・聴覚・触覚を持ち、これをマルチモーダルといいますが、人間と同じような感覚を持って問題を解決していきます。

 このようなエージェントが自律性と主体性を持って行動するということは、人間から命令されなくても行動を実行したり、情報を自分で取りに行ったりします。こういったエージェントの中でも最も高性能で、最も賢い存在は『ASI』と呼ばれ、高度な情報処理能力に加えて、積極的に世界を変えていく力を持つと予想されます。また、さらに自らが集めた情報、行った経験から自己進化を行う能力もあるとされます。

 ですので、ASIという言葉に学術的に厳密な定義があるわけではなく、かつての『シンギュラリティ』のように、技術的な説明はある程度はあるにせよ、未来への道標として設定された言葉です。

 個々の機能に特化したAIの性能は、すでに人間の性能を超えていますので、一部の企業などが『必然的に人間を超えたAIができますよね』ということを標榜している面があります。少し前にAGI(人工汎用知能)という言葉が出てきましたが、AGI(Artificial General Intelligence)は『人間を超える』という意味合いでは使われておらず、『さまざまな問題を一つの仕組みで解決する知的存在』といったようなニュアンスなので、ASIとは異なります」

ASIのリスク

 ASIが実用化されれば、どのような領域に使われる可能性が考えられるのか。

「人間が意思決定してきたような部分、例えば会社の経営や、個人の意思決定、クリエイションが必要な場などにASIが介入する、というようなことが想定されます。これまでは人間がAIに相談してきましたが、人間が何かを決めるところに自らAIが入ってくるようになります。人間が直面する課題をAIが解決したり、例えば年間スケジュールを策定するといった作業では人間の情報処理能力が重要ですが、AIが策定までしてしまうということが考えられます。つまり人間や組織の未来がかかった意思決定という領域に、決して無視できない影響力を持つ意見を言う存在としてAIが介入してくるのです。大袈裟に言えば、ASIの出現によって、人類の歴史にAIが直接介入する時代に入る、ということになります。AI新生、と言うべきかもしれません」

 ASIが自ら判断して行動するということには、人間にとってリスクはないのか。

「もちろんリスクはあるでしょう。すでにAIが普及して、『情報はもうなんでもAIに聞けばわかる』『AIの出してきた情報が間違っていても、正さない』という状況が広がりつつあります。『AIのせいで間違った』としてAIに責任転嫁する傾向が強まれば、そのようにAIに頼って判断・行動する層と、自分で情報を確かめたり思考したりしてAIを道具として使う層は二極化して、社会分断が進むというリスクはあるかもしれません。

 またASIといえども間違いを犯します。人間も間違いを犯しますが、AIは人間には想像もつかない形で間違いをすることがあるのです。そのような欠点の振れ幅があることに、人間は予防をしておかなければなりません。AIがもうそれ以外に選択肢はない、と言ってきたときに、それでも人間だけが見つけ出せる出口があることをあきらめない覚悟が必要です。

 手塚治虫『火の鳥 未来篇』(1967~1968年)ではASI『ハレルヤ』『ダニューバー』が衰退した人類を管理していますが、お互い攻撃して人類を滅ぼしてしまいます。『ハレルヤ』『ダニューバー』はおそらくは既に学習量の上限に達して過学習になっているか、パラメータが崩壊していると思われますが、AIを盲信してきた人類には既にメンテナンスする力も社会構造を変えることも自分で決定する力も失われています。横山光輝『バビル2世』(1971~1973年)ではバベルの塔がASIであり、主人公にアドバイスをしたりミッションを与えます。『装甲騎兵ボトムズ』(1983年)では人類の歴史を裏で操っていたのはASIだった、ということが最終回近くで明らかになります。アイザック・アシモフ『ファウンデーション』シリーズでは超高度AIの助けをかりて人類の歴史の軌道を修正しようとします。このようにASIは、これまでたくさん物語の中でも描かれてきましたが、いよいよ現実のものとして実現に向けた開発が始まろうとしているということです。

 AIを使っていく上で留意すべきなのは、AIは不確定性を含むこと、取得できていない情報を多く含む問題に関しては苦手だという点です。そうした領域にもどんどんAIが入ってきていますが、たとえば国際情勢は必ずしも明文化されたことばかりではないので、モデルを構築することが容易ではありません。そういうなかで何かを判断するというのはAIにとっては苦手な部分です。AIは古い情報を使おうが、根拠の薄い情報を使おうが、それなりの答えを出してしまいます。情報の古さや信頼度を考慮して意思決定をする機能がAIには本来ありますが、こと最近の大規模言語モデルに関しては、その能力が欠如しているように見受けられます。

 それでも、インターネットの世界だけではなくて実世界の領域でもAIを使おうとする動きが強まっており、そこにAIを導入するという巨大な市場が存在するため、一部の企業が資金を集めるためにキャッチフレーズとしてASIという言葉を使っているという側面があるように感じます」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=三宅陽一郎/AI開発者、東京大学生産技術研究所特任教授)

里海づくり、気候変動に対応=地域向け手引改定へ―環境省

 環境省は、藻場や干潟の保全など、沿岸海域の生物多様性を高める「里海」づくりに関する手引を改定する。手引は、里海づくりを進める自治体や漁業関係者、NPOなど向けのもので、現行版は2011年に策定された。改定では、各地の参考となるような事例を盛り込む。海の環境に悪影響を及ぼす気候変動を踏まえた活動内容も紹介し、地域の取り組みを支援する。25年度内に公表する予定だ。

 環境省の調査によると、里海づくりの活動は10年度調査で122件だったが、22年度調査は343件へ拡大。そんな中、気候変動による海水温の上昇で藻場が枯れる「磯焼け」が各地で進むなど、海洋環境は急激に悪化している。保全活動の担い手や資金の不足も課題となっており、環境省は対策を充実させる必要があるとみている。

 現行の手引は、里海づくりの考え方といった基本的な事項の説明が中心となっている。新たな手引では、地域の特性に応じた国内外の取り組み事例を紹介。これから活動を進める地域にとって、生態系保全の目標設定や対策の検討に役立つよう、実践的な内容とする。気候変動による海洋環境の変化を踏まえた活動の考え方も整理する。

 里海を巡っては、環境省の有識者検討会が今年3月、脱炭素や観光振興といった複数の施策を組み合わせて進めることで地方創生につなげる「令和の里海づくり」を戦略的に推進すべきだと提言した。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/04-15:43)

事務部門だけで4千人の日本生命、膨大な事務処理業務をAI活用で効率化…究極は事務の自動化

●この記事のポイント
・日本生命、膨大な数に上る事務処理業務をAIを活用して効率化
・システム化できない「少量多品種事務」への対応
・保険業務の効率化、顧客体験価値向上、新規ビジネスにAIを活用

 生命保険業界トップの日本生命保険が、全社的なAI導入・活用に取り組んでいる。同社は国内グループ全体で約1500万名以上の顧客を抱え、数千万件に上る契約を保有しているため、事務処理件数は膨大な数に上る。その事務処理業務をAIを活用して効率化しようと取り組んでいるのだ。「究極的には保険業務の自動化を目指したい」とする同社の取り組みを追った。

●目次

少量多品種業務をAIで解決

 日本生命は事務処理の領域に、どのように生成AIを導入・活用しているのか。同社DX戦略企画部部長の加藤氏は次のように説明する。

「昨年に弊社が買収を発表した米国や豪州などで事業を展開する保険会社レゾリューションライフは、他社から保険契約を引き取って手続きをするという事業を手掛けている関係上、業務効率化のためにAIを積極的に活用しており、そのノウハウをうまく活用できないか、というのがスタートでした。弊社は個人向けの保険を保有契約ベースで約3400万件持っており、毎年、新たな契約が約300万~400万件発生し、死亡保険金や入院給付金、年金などのお支払い件数は年間約1000万件、住所変更や解約などの保全手続きは年間約480万件、発生しています。

 それだけの大量の事務処理が発生しているので、当然ながら多くはシステム化しているのですが、『少量多品種事務』と呼ばれる、“めったに起きないけれど、たまに起こる”事務作業はシステム化ができません。お客様からのお申し出や営業現場の職員からの照会に対応しているのが事務部隊で、多くが大阪の拠点におりまして、本店本部で事務に関わっている職員が約4000人もおります。この部門における少量多品種業務のシステム化できない領域に、レゾリューションライフのプロダクトを活用できないかなと取り組んでいます。

 お客様のお申し出に答える際には、複雑な計算が必要なことも多く、そうした業務にAIを活用したいと考え、レゾリューションライフの方に来ていただいて、ハッカソンのような集中的な検討会を実施しました。

 そこでレゾリューションライフのAIに特定分野の保険契約に関するマニュアルなどを読み込ませた上で、検索機能などを使ってみたところ、RAG (情報を検索して回答を返す技術)の精度が9割以上という非常に高い結果が出たんです。このときはレゾリューションライフの環境を使ったわけですが、今後は弊社でそうした環境を構築していきたいと検討を進めている段階です。個人保険、銀行窓販、企業保険は全く異なるインフラを使っていますが、それらの領域にまたがって共通して使えるインフラを構築していきたいと考えています。9月末には本番環境が整備される予定でして、約款や執務基準票、マニュアルをそこに読み込ませて使えるようにしていくところです」

会社全体としての風土醸成が重要

 将来的には、業務の自動化を目指していきたいという。

「AIエージェントと呼んでいいのかは分かりませんが、例えば『給付金に得意なツール』といったものを業務ごとにつくっていき、オーケストレーションというかたちで、個別のツールを束ねて全部自動処理できるようにするというのが究極的な目標ですが、そこまでには、まだだいぶ距離があり、まずは全部読み込んで検索できるようにするというところから実現したいと考えています。

 今、弊社としては、保険業務の効率化、お客様に新たな付加価値を届けるという意味での顧客体験価値向上、そして新規ビジネスにAIを活用していかなければならないと考えています。一つ目の保険業務の効率化に関しては、コールセンター業務の効率化も大きな目玉です。弊社には個人保険、銀行窓販、団体保険、401kと複数のコールセンターがあり、1カ所で確立させた仕組みを他のコールセンターにも適用できるので、効果が大きい。ですので、現在はさまざまなPoC(概念実証)をしたり、外部のベンダーさんにも相談させていただいているところです。

 効率化の面では、営業現場からの社内照会窓口もあげられます。営業部長から照会を受ける拠点長サポートデスクで昨年PoCを実施したところ、一定の効果が確認できたので、9月末から実装しようと計画しています。一番の大玉は営業職員の活動の高度化でして、結果的にそれが顧客体験価値向上につながるので、さらに高みを目指してやっていきたいと考えています。

 新規ビジネスの領域でいいますと、米スタンフォード大学における疾病予測AIに関する研究に弊社の研究員を2人派遣しており、26年3月末で期間が終了するので、そこでの成果をもとにビジネス化するといったことにもチャレンジしていきます。

 こうした取り組みを進めていくには、会社全体としての風土醸成が重要であり、リテラシー向上のために役員向けのAI勉強会を月1回くらいのペースでやりたいと考えています。そして従業員向けとしては、今年度の下期くらいからモードを変えて『全員AIを活用するのが当然』、というくらいの温度感でやっていければと考えております」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

日本生命、営業部門でAI活用…顧客との関係の深さを可視化、顧客満足度向上

●この記事のポイント
・日本生命、全社的なAI導入・活用に取り組み
・顧客とのコミュニケーションにLINE WORKSや公式LINEを積極的に活用し、顧客との関係の深さを可視化
・生命保険の加入を考えていそうなお客様を営業職員端末に表示

 生命保険業界トップの日本生命保険が、全社的なAI導入・活用に取り組んでいる。営業現場では2023年にNFC技術活用のワンタッチコミュニケーションツール「MEET」を導入したことをきっかけに、顧客とのコミュニケーションにLINE WORKSや公式LINE を積極的に活用し、顧客との関係の深さを可視化。データに基づく営業活動を進めることで、顧客満足度の向上につなげているという。具体的にどのような取り組みを進め、どのような効果を出しているのか。日本生命への取材をもとに追ってみたい。

●目次

営業職員とお客様の距離感が近づく

 日本生命が営業部門におけるAI活用に本格的に取り組むに至った背景について、同社DX戦略企画部部長の加藤氏は次のように説明する。

「弊社は全国に支社が約100支社、営業拠点が約1500拠点あり、約5万人の営業職員がおります。お客様の数は国内グループ全体で約1500万名ほどに上り、単純計算で営業職員一人当たり200人以上のお客様を抱えていることになります。もちろん契約情報などは会社として管理していますが、個々の営業職員が普段お客様と接するなかで知った情報や、営業職員がどのような活動しているのかというのは、本人や上司など現場でしか把握されていませんでした。そうした部分の知識・情報が会社としてストックされてないという課題がありました。

 そこにコロナ禍があり、データを活用していかなければならない状況となったことが一つの契機となりました。例えば、従来はお客様から情報いただくときにはアンケートシートのような紙に記入していただいていましたが、時間もかかるし、営業職員が紙でストックしておく必要がありました。そこで2023年にMEETというNFCツールを導入して、そこにお客様がスマホをかざせば営業職員とつながるLINE WORKSや弊社の公式LINEに登録できるようにしました。公式LINEを通じて各種キャンペーンのご案内などを流せるようになり、営業職員にとっても便利で、お客様にも負荷をかけないとかたちになりました。

 MEETで得たお客様の情報は会社としてストックするようにしてます。LINE WORKSにご登録いただいているお客様が約740万人で、弊社の公式LINEアカウントは約400万人、メールで営業職員とつながっているお客様も200~300万人ほどいらっしゃいます。このうち重複分もありますが、1000万人以上のお客様とこうしたデジタルツールを介してつながっているメリットは大きく、たとえば生命保険や結婚式場、結婚指輪などを検索しているお客様など、LINEヤフー様が保持するお客様の行動データをもとに生命保険の加入を考えていそうなお客様に興味を持っていただきやすいアンケートを配信し、その回答結果を連携された職員が保険商品をご案内するということが可能になっております。

 これによって、営業職員とお客様の距離感が近づくという効果が出ています。お客様の世帯の方々の保険加入状況やご年齢などさまざまな情報に加えて、営業職員が面会している頻度や、営業職員が弊社の営業用スマートフォンN-phoneを使ってお客様といつ、どれくらい通話したのかといった情報などもシステム上でストックされており、お客様と営業職員の関係の深さを可視化することが可能となっています。営業職員はシステムを見れば、『このお客様はそろそろ自動車保険の満期を迎えるから保険を提案してみよう』と動けますし、関係の深さごとにお客様を抽出することもできるので、まだ接点が薄いステータスのお客様を抽出してリスト化し、『今週は距離があるお客様との距離を詰める1週間にしよう』といった行動も可能になってきます。営業職員が個別のお客様へのアクションを考える際には、お客様ごとに『こういう活動をすればよいのではないか』といった行動のレコメンドを複数、受けられる機能もあります」

顧客満足度の向上が最重要

 営業現場でのAI導入によって、どのような効果が出ているのか。

「今まで見えていなかったものが見えてきた、という部分が非常に大きいと思います。これまでは『営業成績は上がっているけど、理由がいまいちよく分からない』ということもありましたが、その理由がある程度、可視化されるようになりました。弊社が定期的に行っているお客様満足度調査の結果も上昇しています。将来につながるという意味でも、お客様の満足度が上がっているという点が重要だと考えております」

 営業部門では、これ以外でもAIの活用が進んでいるという。

「職員の教育という面では、個々の職員の知識の習熟度みたいなこともデータ化しており、Nラーニングという教育版CDP(データ基盤)を作って、一人ひとりに対して『今、あなたにおすすめの教材はこれですよ』といったレコメンドを行うことで、個別の最適化学習を進めようとしています。そのCDPに会社が職員に提供する教材をすべて入れておけば、職員はそこで提示された自分に最適な教材にアクセスすることができます。

 また、お客様に許諾を得た上でお客様との面談の際の会話を録音して、要約やToDoリストが自動で出てくるような取組の検証も進めています。これまでは営業職員がお客様との面談の内容を口頭で上司に報告したりしていたものが、システム上で一瞬で共有できるようになり、『では次はこういうアクションをとろう』といった検討がしやすくなるといった効果が期待されます。

 このほか、損害保険の自動車保険は基本的に1年更新なので、そのタイミングで他社から弊社に契約を切り替えてもらえる可能性があるのですが、お客様からご提供を受けた他社の保険証券を読み取って『お客様にこういう切り返しの提案をしてみてはどうか』とAIが提案してくれるような仕組みの構築にも挑戦したいと考えております」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

4割が団体旅行希望=ベトナムで訪日旅行調査―日本政府観光局

【ハノイ時事】日本政府観光局ハノイ事務所が実施した訪日旅行に関するアンケート調査結果によると、希望する旅行形態として最も多かったのは団体旅行(パッケージツアー)で、39%が選んだ。飛行機予約サイトなどを利用した個人手配の旅行も36%を占め、旅行形態の変化の可能性が見えた。

 アンケートは4月にハノイで開催された国際旅行博「ベトナム・インターナショナル・トラベル・マート(VITM)」の来場者300人を対象に実施した。このうち、101人は少なくとも1回は日本を訪れたことがあった。

 希望する旅行先(複数選択可)では、「ゴールデンルート」に含まれる関東が1位、関西が4位だった一方、2位に九州、3位に北海道が食い込んだ。ハノイ事務所は、直行便などの影響があるとみている。

 日本でやってみたいことを複数選択可で聞いたところ、「お花見」(242人)が他を引き離してトップ。「日本独自の食を楽しむ」(127人)、「祭りに参加」(111人)、「自然、景観を楽しむ」(107人)が続いた。旅行に関する情報は、フェイスブックなどSNSで得るケースが多かった。

 訪日経験者のうち、50.5%が団体旅行を利用。旅行先(複数回答可)は関西が1位、関東が2位で、沖縄、中国地方が続いた。

 ハノイ事務所はアンケート結果を参考に、自治体や旅行会社と連携を取りつつ、閑散期を含めた旅行時期の分散化や、地方誘客の推進に取り組む方針。四季折々の旬の食べ物や美しい自然風景など、日本ならではの付加価値が高い旅行を提供することで、ベトナム人観光客を引き付けたい考えだ。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/07/16-17:22)

Luupの電動三輪車、高齢者が利用時の事故リスクは?同社に聞いた…「免許返納後の足として期待」

●この記事のポイント
・Luupは小型の電動三輪車「Unimo」を発表
・「社会課題の解決に資するマイクロモビリティは、高齢者も含めてさらに幅広い方々が使えるものでなければなりません」と説明
・「幅広い世代が取り扱える走行時・静止時の安定性」「身体的負担が少なく移動可能」が特徴

 電動キックボード・電動アシスト自転車シェアリング事業を運営するLuupは5日、小型の電動三輪車「Unimo」を発表した。Luupは「LUUPの車両は、20~50代まで多くの方々に使っていただいておりますが、社会課題の解決に資するマイクロモビリティは、高齢者も含めてさらに幅広い方々が使えるものでなければなりません」「(特定小型原付は)免許返納後の足や幅広い方々の短距離移動手段として、交通空白を埋める役割を担うことが期待されます」としており、60代以上の高齢者の利用も想定したものとみられる。Luupは、公共交通網の衰退が進む地方で住民の移動手段として利用する実証実験が進み、また、7月には鉄道網が弱い沖縄県で観光客の移動ニーズを満たすために提供が開始されるなど、社会的課題を解決する手段として注目されている。一方、16歳以上であれば免許が不要で乗車可能な電動キックボード(特定小型原動機付自転車)の事故の急増が問題視されており、サービス運営事業者は対策を迫られている。Unimoの利用に伴う事故発生リスクへの対応、そして今後のサービス提供開始に向けたロードマップについて、Luupに取材した。

●目次

交通空白を埋める役割を担う

 21都道府県、合計62市区町村で展開されているLuupは、ポート数は1万4500カ所以上、アプリダウンロード数は450万以上。基本料金50円(税込)に1分あたり15~20円の時間料金で利用できる(一部地域を除く)。月額980円のサブスクプラン(ライド料金として30分ごとに200円)や、3時間・12時間乗り放題プランもある。専用アプリをダウンロードして氏名、クレジットカード情報、運転免許証などの登録、交通ルールテストへの合格などが必要で、アプリで近くにあるポートを探して二輪車に乗り、目的地のポートで返却するというシンプルな流れ。電動キックボードと電動アシスト自転車の2タイプがあり、今年秋以降には電動シートボードの導入も予定されている。

 そのLuupの新たなラインナップとして小型の電動三輪車・Unimoが加わる。Unimoを開発・発売するに至った背景について、Luupは次のように説明する。

「Luupは、創業当初から、年齢や性別等の違いにかかわらず、できるだけ多くの方々が利用できるユニバーサルな車両こそが、マイクロモビリティが公共交通サービスとして普及し、社会課題の解決に貢献するために必要だと考えてまいりました。2018年の創業以来、開発の機会を模索しておりましたが、技術パートナーである株式会社アイシン様、デザインパートナーである株式会社GKダイナミックス様との出会いを経て、実現に至りました」

 機能としては、どのような特徴を持つのか。

「Unimoは、運転技術を問わずあらゆる方にご利用いただけることを目指した三輪・小型のユニバーサルカーです。『特定小型原動機付自転車』に区分され、地方部はもちろん高齢者の地域の足の問題が見過ごされがちな都市部においても、免許返納後の足や幅広い方々の移動手段として、交通空白を埋める役割を担うことが期待されます。

 主な特徴は以下の通りです。詳細はプレスリリースをご覧ください。

(1)幅広い世代が取り扱える走行時・静止時の安定性
 三輪・座席付きにすることで、高い安定性を実現しました。

(2)身体的負担が少なく移動可能
 株式会社アイシンが開発した、『リーンアシスト制御』を搭載しています。車速とハンドル角等の情報に基づき、車体の傾斜角を制御することで、二輪車並の幅の狭い車両においても高い走行安定性を実現できる技術です。走行状況のデータをリアルタイムにキャッチし、それに応じて制御・アシストを行うことで、車両の姿勢を安定させます。そうすることで、年齢を問わず、安心して運転することが可能です。

(3)若者から高齢者まで分け隔てなく乗りたいと思っていただけるユニバーサルなデザイン
 年齢・性別・体格などにかかわらず乗りたいと感じていただけるように、ユニバーサルカーを体現するスタイリッシュなデザインを目指しました。

(4)アプリと連動し、利用者に合わせて最高速度や走行補助機能をパーソナライズ可能
 ソフトウェアアプリと連動しているため、常にアップデートさせ、利用者に合わせて乗り心地や安全制御機能などをパーソナライズすることができます」(Luup)

日本の社会課題を解決する

 8月5日の会見でLuupの岡井大輝CEOは「現在の主な利用者は20代から50代」「創業時から、若者から高齢者まで、すべての人の移動課題を解決することを目指してきました」と語っていることもあり、Unimo投入は60代以上の高齢者ユーザー獲得のための施策だという見方もある。

「Luupとしては、『ユーザー獲得の施策』というようなマーケティングや事業拡大のための製品やプロジェクトではなく、幅広い世代の方の移動に関する課題や交通空白という日本の社会課題を解決するためにUnimoを開発いたしました。また、前提として、あくまで今回発表させていただいたのはコンセプトモデルであり、今すぐサービスに導入するものではございません」(Luup)

 会見ではシニア男性が登壇して実際にUnimoに乗る様子も披露されたが、気になるのは、その安全性だ。

「ご高齢の方の運転においては、若年層とは異なる傾向やリスクがあるのは当然だと考えているため、今後実証実験や想定利用者の方々の試乗会等を通じて、安全性や利便性等に関するデータを収集し、交通ルール啓発やサポート体制のあり方についても検討を重ね、安全・快適に利用いただけるサービスにしていきたいと考えております」(Luup)

 現時点でUnimoの導入台数の目標や料金プランなどは未定。まずは試乗会などを通じて多くの人にUnimoを体験してもらう機会を設けていく考えだという。

「2026年度中を目途に複数地域で実証実験を行い、シェアリングサービスへの本格導入を目指します。将来的にはできるだけ多くの、移動課題を抱える地域に届けていきたいと考えております」(Luup)

 マーケティング支援会社のプロデューサーはいう。

「Luupとしては現段階では、高齢層にも利用拡大していく可能性を模索し始めたというかたちであり、企業としてより広いユーザ層にリーチしていこうと考えるのは当然です。今後の実証実験などを通じて、実際にUnimoを提供できるかどうかを探っていくのでしょうが、電動キックボードの事故件数は増えているので、かなり慎重に進めていくことになるでしょう。今後Luupがどこまで地方にまで提供エリアを広げていくのかは分からないが、特に地方では電車・バス路線数の削減などで高齢者が移動の足を確保しにくくなっており、移動の選択肢が増えるというのは社会的にメリットがあるといえるでしょう」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

日本でAI・ロボット人材が326万人も不足する理由…まったく文化が異なる両分野の融合への取り組み

●この記事のポイント
・経済産業省は、2040年に日本でAIやロボットの活用を担う人材が326万人も不足するとの推計
・ロボット研究とAI研究の世界は、驚くほど文化が違う
・日本企業は自社のテクノロジーやパテントを自社のなかで抱えて、オープンにしないという文化が根強いことも課題

 開発基盤モデル「Cosmos」やロボット向け開発環境「Isaac」を運用する米エヌビディア、ロボット工学向けAIモデル「Gemini Robotics」を運用する米Google(グーグル)などが先行しているとされるフィジカルAI(物理AI)をめぐる開発競争が激化している。そうしたなか、経済産業省は5月、2040年に日本でAIやロボットの活用を担う人材が326万人も不足するとの推計を発表した。同年に必要となるAI・ロボット人材は498万人。AI・ロボット人材の不足問題は以前から指摘されていたが、このまま人材の育成が進まなければ、日本のAI・ロボット産業は世界に大きく遅れることになる。背景には何があるのか。そして、人材不足解消には、どのような取り組みが必要なのか。一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)理事長で早稲田大学 理工学術院 教授の尾形哲也氏に聞いた。

●目次

2つのまったく文化の違う領域をつなげる可能性

 AIRoAは昨年12月、AIとロボット技術の融合によるロボットデータエコシステム構築を目指す目的で設立された。AIロボットの開発促進のための取り組みとして、基盤モデル開発に必要なデータの収集・保管・管理・公開、基盤モデル・個別モデルの開発・運用・公開などを推進する。トヨタ自動車や三菱電機、NECなど28社の企業が参画する。

 AI・ロボット人材の不足の要因について、尾形氏はいう。

「ロボット研究とAI研究の世界は、実は驚くほど文化が違います。日本には日本ロボット学会と人工知能学会がありますが、両方に所属している研究者の数は少ないです。もちろんAIはロボットに必要な技術の一つですが、どちらかというと画像認識や言語認識などに限られています。例えば、AIの技術はデータ確率・統計がベースです。その結果として、「時間」に対する捉え方は、機械系、電気系の技術と比較して緩い印象があります。一方、ロボットの世界は物理方程式(=微分方程式)がベースになっています。実世界での制御のために時間にものすごく厳しく、ミリセカンド、マイクロセカンドの単位でロボットをコントロールする、という考え方です。

 もともと大学の学部構成としても、ロボットは機械工学科、AIは情報学科と分かれているのが基本で、両分野を勉強したことがある人は多くはないです。音声対話の会話システムを開発するのと、二足歩行のロボットを開発するのとでは、アプローチの仕方が異なるのですが、AIロボットの基盤モデルをつくることは、この2つのまったく文化の違う領域をつなげる必要があります」

オープンにできるところはオープンに

 そうしたロボット研究とAI研究の垣根も、少しずつ解消される兆しが見え始めているという。

「特に20~30代の研究者は、ロボットとAIの融合の重要性を理解しています。たとえば画像専門の研究者が画像の学会に行っても、自然言語の研究者が自然言語の学会に行っても、音声認識の研究者が音声認識の学会に行っても、ワークショップのトピックスに「フィジカルAI」があるという現象が現在、起きています。彼らはその方向性は十分に認識しつつ論文を読んでいるので、本来の研究分野は違うけれども、論文を通じてお互いに名前は知っているという状況も生まれています。

 国立情報学研究所は言語モデルの研究、産業技術総合研究所は画像、音響の研究などの強みがあります。私は両方に所属していることもあり、これから両方の若手研究者をつなげることに興味があります。AIRoAでは、バックグラウンドが違う研究者同士でチームを組み、フィジカルAIの分野でコンペを行っていますが、そういう場所をもっとつくっていく必要があります」

 AIロボット開発の進展に関して、人材以外の面でも課題があるという。

「日本企業、特に機械系のメーカーは基本的に自社のテクノロジーを自社のなかで抱えて、オープンにしないという文化が根強いです。機械系は特許になりやすいためですが、一方でAIは全部オープンにするという文化によって短期間で発展してきたという経緯を持ちます。ソフトを全部GitHubでインターネット上で公開するという文化は、日本のトラディショナルな企業からすると適応が難しいのかもしれません。

 文化をいきなりは変えられないと思いますが、オープンにできるところはオープンにして、企業やアカデミアがシェアできるところは共同開発して、自社の強みは自社に残すという文化をつくれるのか、これが大きなポイントになってくると思います。AIRoAは会員企業に『出してもいいデータは出してください』と言っているわけですが、これはかなり挑戦的な取り組みです。本気でデータ活用と共有を通じた分野の発展を考え貢献いただける企業に参加いただいていると思っています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=尾形哲也/AIロボット協会理事長)

ベトナムでスマート農業経営モデル確立へ実証事業=ニイヌマ

【ハノイ時事】発光ダイオード(LED)照明器具の製造などを手掛けるニイヌマ(宮城県石巻市)は4日、ベトナムで同社が実施する「遠隔支援により高収益農業経営を普及展開するスマート農業経営モデル確立の実証事業」が、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」に採択されたと発表した。

 同事業は、ニイヌマがベトナムで農作物・果物の栽培や販売事業を展開する現地法人ニイヌマ・トモファームと共同で、9月1日~2026年8月31日の期間に実施する予定。事業費は約7500万円となる見通し。

 具体的には、北部ジエンビエン省(予定)の農地でフルーツトマトを栽培する過程で、遠隔農業ソリューションによってデータ化したニイヌマの栽培技術やノウハウを生かして生産者支援を行う。また、事業化に向けたスマート農業ソリューションの導入先を調査、発掘し、同事業における現地農家の収益について検証することで、事業モデルの確立を進めていく。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/08-19:50)