人事・労務管理に革新をもたらすBPaaSとは?最新サービスと導入成功のポイント

●この記事のポイント
・人事・労務管理の分野でBPaaSの導入が拡大
・給与計算や勤怠管理といった定型的かつ法令遵守が求められる業務を迅速かつ正確に処理できる
・代表的な人事・労務管理向けBPaaSサービス5選

 企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速するなか、人事・労務管理の分野にも新たな業務効率化の波が押し寄せている。その中心にあるのが「BPaaS(Business Process as a Service)」だ。BPaaSは、従来のアウトソーシング(BPO)とSaaSを融合させたサービス形態で、業務プロセスの効率化とコスト削減を同時に実現するモデルとして注目を集めている。

 今回は、人事・労務管理に特化したBPaaSの概要から、その具体的なサービス例までを解説し、今後の展望を考察する。

●目次

 BPaaSは、業務プロセスをクラウド上で提供し、専門業者の人的リソースとクラウドベースのソフトウェアを組み合わせて業務の自動化・効率化を促進するサービスだ。人事・労務管理領域では、給与計算、勤怠管理、社会保険手続き、年末調整、人事評価など、正確性と法令遵守が強く求められる定型業務が多く存在する。

 これらは企業のコア業務とは異なり、多くの担当者にとって負担となりやすい。一方で、属人化や法改正対応の遅れはコンプライアンスリスクにもつながる。BPaaSは、こうした課題を解決しつつ、企業が戦略的な人材活用や事業成長に専念できる環境を整備する。

BPaaSの特徴と企業メリット

 BPaaSの導入にあたって押さえておきたい特徴は主に以下の3点だ。

・クラウド活用による業務一元管理
 クラウド上で業務プロセスとデータを一元管理し、リアルタイムの進捗確認や情報共有を実現。法改正や保険料率の変更にも即応可能な自動更新機能が強みとなる。

・専門家による高品質な代行サービス
 人事・労務の専門家が業務を代行することで、精度とコンプライアンスを担保。複雑な法規制や煩雑(はんざつ)な手続きも安心して任せられる。

・柔軟なコストモデルと運用スケーラビリティ
 サブスクリプション型や従量課金制のため、企業規模や業務量に合わせてコストを最適化。初期投資を抑えつつ拡張性の高い運用が可能だ。

導入メリットと注意点

 BPaaSを導入することで得られる最大のメリットは、業務効率の飛躍的な向上とコスト削減だ。クラウド技術を活用したシステムの自動化により、給与計算や勤怠管理といった定型的かつ法令遵守が求められる業務を迅速かつ正確に処理できるため、人的ミスの軽減や作業時間の短縮が可能となる。また、専門知識を持つプロフェッショナルが業務代行を行うため、コンプライアンスリスクの低減にもつながる。さらに、サービスをサブスクリプション型や従量課金制で利用できるため、初期投資を抑えつつ、企業規模や業務量に合わせた柔軟な運用が実現可能となる。

 一方で、いくつかの注意点も存在する。業務の重要な情報をクラウドに預けるため、情報漏洩や不正アクセスといったセキュリティリスクを十分に考慮しなければならない点だ。また、特定のベンダーに依存することで、将来的に他社サービスへの移行が難しくなるベンダーロックインのリスクも念頭に置く必要がある。さらに、BPaaSは標準化された業務プロセスに基づくため、自社の独自要件に対してはカスタマイズに制約がある場合が多い。そのため本格的に導入する前の業務適合性の確認が重要となる。

 これらのポイントを踏まえ、自社の業務内容や要件に最適なサービスを慎重に選択し、運用開始後も継続的な管理と改善を行うことが不可欠だ。

代表的な人事・労務管理向けBPaaSサービス5選

 ここからは、国内で実績のあるBPaaSサービスを紹介する。

1.Chatworkアシスタント
 ビジネスチャット「Chatwork」を活用し、勤怠管理や給与計算代行などバックオフィス業務全般をサポート。ITリテラシーの低い企業にも導入しやすいシンプル運用が強み。介護事業をはじめさまざまな業界での利用実績を誇る。

2.freee人事労務アウトソース
 クラウド型人事労務システムと専門スタッフの代行サービスを融合。給与計算や年末調整、入退社手続きなど幅広い業務をカバーし、中小企業やスタートアップの負担軽減に寄与。法改正対応やリアルタイム進捗管理も特徴。

3.HR BPaaS
 大規模企業向けに設計され、100万人超の給与計算をサポート可能。AIを活用したデータ分析機能や堅牢なBCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)体制を備え、複雑な給与体系や業界特有の要件にも対応。金融や外食業界での導入実績が豊富。

4.奉行クラウドBPaaS
 給与計算から採用支援まで幅広い人事労務業務をアウトソーシングできる。税理士・社労士など専門家の関与により業務品質を担保し、中堅から大企業まで幅広い層に支持されている。業務カスタマイズが柔軟にできる点も人気。

5.ジンジャーBPaaS
 クラウド型人事労務システム「ジンジャー」を基盤に、BPOパートナーと連携。人事評価運用支援や従業員問い合わせ代行も含め、多彩な機能を提供。スタートアップやIT企業での導入が進んでいる。

BPaaS導入成功のためのポイントと今後の展望

 BPaaSを効果的に導入し事業成功へ反映させるためには、いくつかの重要なポイントが存在する。まず、自社の業務フローや業界特有の要件に適合するサービスを選定することが不可欠であり、そのために導入事例やユーザーレビューの活用が有効となる。次に、情報セキュリティの観点から、ISO/IEC 27001認証の取得状況やデータ暗号化の有無など、堅牢なセキュリティ体制の確認が欠かせない。また、導入時における業務設計支援の充実度や、運用後のトラブル対応力を含むサポート体制の充実も成功の鍵となる。さらに、初期費用や月額料金、従量課金などコスト構造の詳細を把握し、自社の予算と整合させることも重要である。

 今後は、AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)技術の進化に伴い、自動化や高度なデータ分析機能がさらに強化されることが期待される。特に国内市場においては、少子高齢化や働き方改革の推進による人事労務管理の効率化ニーズが高まっており、BPaaSの役割と普及が一層拡大すると予想される。

(文=齋藤めぐみ/有限会社リーゼント、ライター)

【アジア風・猿島だより】インバウンドが生む新名所

◆初夏の頃、久しぶりに横須賀市(神奈川県)の猿島を散策した。日露戦争で活躍した戦艦「三笠」が保存されている三笠公園の隣の桟橋から船で約10分の沖合にある猿島は、東京湾で唯一の自然島であり無人島。要塞として幕末から第2次世界大戦まで東京湾を守り、今も砲台や弾薬庫、兵舎など往時の遺跡がある。

◆東京近接にして原生林などの自然と要塞跡が共存する希少なロケーションから、「仮面ライダー」や「西部警察」など多数のドラマや映画の撮影が行われている。れんが造りの兵舎にツタが絡まり、砲台に木の根が這う風景は、宮崎駿監督のアニメ作品「天空の城ラピュタ」のシーンを連想させると今や横須賀観光のハイライトになっている。

◆神奈川県公式観光サイト「観光かながわNow」によれば、SNSの投稿で猿島は三浦半島エリアでインバウンド観光客に際立って人気がある。「国内観光客(日本語)の投稿数3位に対して、インバウンド観光客(5言語合計)の投稿数は断トツ1位。中国語(簡体字)やベトナム語ではアニメの情報やシーンと合わせて投稿されている可能性が高いことが分かった」(※投稿量は全数ではなくサンプルより算出、同サイト)という。

◆約20年前に初めて猿島を探訪した時、同島行きのフェリーで中華系のカップルと乗り合わせたが、当時は今ほど日本人にも知名度がなく、SNSも普及していなかった。「(猿島を)よく知ってるね…」と思った記憶がある。

◆猿島に限らず、SNSで拡散され人気スポットとなった歩道橋(富士市、眼前に富士山)や江ノ島電鉄鎌倉高校前駅の踏切(鎌倉市、アニメ「スラムダンク」に登場)、JR高山線飛騨古川駅(飛騨市、アニメ「君の名は。」で主人公が訪れた)、伊予鉄道梅津寺駅ホーム(松山市、ドラマ「東京ラブストーリー」の最終回などの舞台)など、日本人より外国人観光客が敏感に反応し、新しい観光名所となった所が日本国内で数多く生まれている。

◆かつて韓国ドラマ「冬のソナタ」が日本で大ブームを巻き起こし、ロケ地巡りに日本の女性がソウルや春川に殺到したことがあったが、今の日本には当時のような集団的な熱さや、インバウンド客のように外国で新名所を発掘する旺盛なパワーは感じられない。この変化の理由は日本人の興味の範囲が広がり旅行文化が成熟したからなのか、それとも失われた30年と共に元気も失ってしまったからなのか…考察を続けたい。(宗)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/13-06:00)

「IVSは人生の加速装置」…Growth Teamのリーダーが語る、熱狂と進化の舞台裏

●この記事のポイント
①「IVS 2025」は過去最大となる1万3000人超の来場者を記録し、スタートアップ業界の熱気を示すイベントとなった。このイベントの成功を裏側で支えたキーパーソンの一人が、Growth Teamのリーダーである中村大睦氏である。
②中村氏は、IVSを「起業家と投資家のため」の場から、「スタートアップに関わるあらゆる人のためのマーケット」へと進化させ、「人生の加速装置」として機能するようイベントの設計を改革した。
③具体的には、来場者が目的の人物に効率的に出会えるよう、イベント会場の導線を再設計したり、展示会とは異なる「スタートアップマーケット」という新しい試みを導入したりした。

  2025年7月、京都で開催された日本最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS2025」は、来場者が過去最大の1万3000人を突破し、スタートアップエコシステムの“熱”を象徴する場となりました。

 だが、この“熱狂”の舞台裏を誰がどのように支えていたのか、知る人は少ない。IVSでGrowth Teamを率いた中村大睦(だいむ)氏は、そのキーパーソンの一人だ。

 医療学科で学んだものの、より広い世界への憧れからスタートアップの世界へと飛び込んだ異色の存在。人生そのものを「人生ゲームのよう」と捉える彼が語るIVSの裏側には、熱狂の理由と、その仕掛けのすべてが詰まっていた。

目次

「17歳で選んだ道と21歳で見る社会は違った」

 中村氏のキャリアは一風変わっている。大学では医療学科を専攻していたが、社会に出る頃には違う世界への関心が芽生えていたという。

「そもそも人生は『人生ゲーム』のようなもので、思いもよらない選択肢が突然、目の前に提示される。17歳で選んだ学科と21歳で見る社会の見え方は全く違うんです。医療職か、営業か、マーケティングか、エンジニアか、自分が何に向いているかもわからない。それなら決めつけすぎず、もっと広い世界を見てみようと思ったんです」

 中村氏が選んだのは、スタジオ運営からアプリ開発までを手掛けるヘルスケア企業だった。彼はここで8年間、現場業務からマーケティングまでを経験した。

「結局どれだけ楽しみ、そこに意味づけられるかが大切」という当時の価値観は、現在のIVS運営にも通じると中村氏は振り返る。

「少し手伝って」が、人生を変えた

 IVSとの出会いは、意外にも「頼まれごと」から始まった。2023年、ヘルスケア企業時代の先輩であり、Headline AsiaでIVSの運営を担う今井遵氏から「ちょっと手伝ってほしい」と声がかかる。転職を考えていたタイミングもあり、興味半分で手伝いはじめたのがすべての始まりだった。

「性格的に、気になったことを放っておけないんです。チケット販売の予測から、ウェブ制作サポート、プレスリリースまで、自分が力になれそうなことを全部手伝っていたら、いつの間にか“Growth”というポジションができていた(笑)」

 もともと「IVSなんて雲の上の存在」と感じていた中村氏にとって、「自分の力が必要とされる」こと自体が驚きだったという。運営チームの熱意に引っ張られ、気づけば受付の全責任も担うまでに。そこで得たのは、スキルだけでなく、価値観そのものの変化だった。

スタートアップ界の“お祭り”はこうして拡張した

 IVS2022 NAHA時の約2000人規模から、2023年のIVS2023 KYOTOでは1万人超へと来場者数を伸ばしたIVS。中村氏が関わり始めたこの3年間で、イベントは大きく様変わりした。

「起業家と投資家のための場から、スタートアップに関わるあらゆる人のための“マーケット”に変わったと感じています」

 IVS2023 KYOTOでは、招待制からオープン制へ移行したばかりで、参加者には戸惑いも見られた。「誰と会えばいいのか」「どう動けばいいのか」といった声が多かったという。IVS2024 KYOTOでは参加人数のさらなる増加に伴い、「会うべき人に会えない」「話すきっかけが難しい」という声も見られた。

 だが、そこからの学びを踏まえ、IVS2025では「テーマゾーン制」や「Central Park」といった導線を設計し直し、効率よく“会いたい人に会える”構造を整えた。

 その結果、IVSは「リード獲得」「採用」「資金調達」など、3日間でビジネスのあらゆる面で実利が得られる“加速装置”となった。

展示会じゃない、「スタートアップマーケット」の正体

 中村氏が特に印象に残っているのが、「スタートアップマーケット」という新たな試みだ。

 3日間で出展企業を入れ替え、投資家がリードするツアー形式で巡る――。単なる展示会に見せないための仕掛けが詰まっていた。

「最初はIVSの代表である島川がなにを言っているのか、わからなかった(笑)。でも、結果として“営業っぽくないのに深く話せる場”になっていて、メディアからも評価されました。島川のアイデアが光っていましたね。そして、それを実現したIVS Startup Market Teamもすごい。

 最先端のスタートアップが一堂に集い、『なぜ注目を集めているのか?』を投資家が語る。エンタメ性のあるコンセプトにより、IVSらしい『偶然出会い、自然と話すきっかけが生まれるスタートアップ市場』ができたんだと思います」

 SNSでは「いかがわしい」「いい意味で狂っている」との表現が話題になったが、それすらも「IVSらしさ」だと中村氏は笑う。

「“狂っている”って、つまり全員が全力でぶつかり合う熱狂のことだと思っていて、日本の他のカンファレンスではあまり見られない光景だと思いますよ。それだけ高い熱量でIVSに参加していただく皆さまに感謝です」

人生を変える“フィルタリング”の場に

 中村氏はIVSを「フィルタリングの場」とも語る。特に印象的だったのは、アンケートやSNSでIVS後に寄せられる声だ。

「参加者の中には、同年代や他社のレベルを見て自信を失う人もいます。『自分はまだまだ』と。私もそのひとりですが…でもそれって、遅かれ早かれ、どこかで必ず直面する壁なんですよね。たとえ青い炎に火がついたとしても、むしろIVSがその反骨心の“きっかけ”になるなら、それも価値です」

 一方で、事前にサイドイベントを企画して「これをやりたい」と言ってくれる参加者の声は、中村氏にとって最大のモチベーションだ。

「『このサイドイベントで盛り上がりましょう』と我々と同じ熱量でイベントを企画してくれる人がいる。同じ熱量かそれ以上でIVSに関わろうとしてくれる方々に支えてもらってますね」

陰キャでも、実行委員になれる

「自分は根っからの陰キャ。初対面の人に話しかけるのはとてつもないパワーがいる」と認識する中村氏だが、IVSという場が彼にとって「企画を通して、素敵な人と出会えるきっかけ」を提供してくれるという。

「普通の仕事だと関わることのない人たちと、年間を通してがっつり一緒に走れる。それだけで財産ですし、信頼や愛着が自然と生まれます」

 実行委員としてIVSに関わることのメリットは、「最先端の情報がリアルタイムで入る」ことだと中村氏は語る。どのような技術や市場に人材や資金が集まっているのか、有望な投資家や大きく成長が期待される企業との接点。こうした貴重な情報が“内側”にはゴロゴロ転がっているのだ。

「Growth」という名の意味

 中村氏は自身の役職に「Marketing」ではなく「Growth」と名付けた。その理由をこう語る。

 「これは個人的な言葉の解釈になりますが……、『マーケティング』はより成熟した市場に対して用いる言葉だと感じています。カンファレンスを『市場』として捉えた場合、IVSは、まったくPMF(Product Market Fit)していないプロダクトです。こうした未成熟な市場では、既存の手法より実験と学習を重視する『Growth』という言葉のほうが適していると考えています」

 実際、限られた予算の中でOKRを設定し、可能な限りデータドリブンな施策で事業成長を実現する戦略的な立ち位置にあることも、「Growth」と名付けた理由だという。

 チケット販売が、直前で急激に伸びる傾向があることから、それまでの施策や、SNS上での波の作り方にも注力した。

海外カンファレンスのように、参加者が事前にスケジュールを組んだ状態で参加できるよう、年間のタイムラインを見直したいと中村氏は展望を語る。

「目的を明確に持って来てください」

 最後に、これからのIVSに向けて中村氏はこうメッセージを送る。

「IVSは、なんとなく盛り上がっているから社会見学的に一度、参加しようという姿勢では、何も実利は得られません。でも、目的を持って参加すれば、間違いなく人生が変わる3日間になります。自分が何を得たいのか、そこを明確にして飛び込んでほしいです。IVSにはそれをサポートする環境があります」

 熱狂を仕掛ける側として、冷静に「加速装置」としての機能を捉える一方で、IVSを「人生ゲーム」と楽しんでいる中村氏。その二面性こそが、IVSを唯一無二のカンファレンスへと進化させている要因なのかもしれない。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

ジャパンブランドウイークリーチャート

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再び訪れたいという満足度指標

この10年間で、インバウンド(訪日観光)は市場規模・来訪者数ともに急拡大しました。来訪者の約7割は近隣地域からとなっており、リピート率の高い国・地域やアジアパシフィックエリアを中心に、再訪日観光の意向も高水準を維持しています。

なお、本チャートで紹介している再訪意向は、海外旅行経験者を対象とした訪問経験のある旅行先(国・地域)への再訪意向を複数選択・水平比較したものであり、訪日経験者に限定した日本への再訪意向ではありません。

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地方観光への期待

オーバーツーリズムの軽減と地方創生の実現を同時に満たす対策として、地方送客が代表的な手法として注目されています。難易度の高い地方分散を実現するためには、それぞれの地域にあった戦略と戦術の構築が求められており、特に地方観光における観光資源の再発見・再編集が重要と考えられます。そのためには、海外の消費者が求める可能性のある観光資源について、定期的かつ切口別の把握が必要です。

具体的には、属性軸において、リピーターとのエンゲージメントづくり、対日関心度・理解度の高い人の誘致戦略が不可欠です。また、体験軸においては、季節性を生かした自然景観、心身ともにリラックスできる環境、観光資源としてのローカル電車・バス、各地域の名湯、歴史を感じさせる街並み、地元でしか味わえない郷土料理、ガストロノミー体験などが挙げられます。これらの要素から読み取れるのは、物質的な豪華さよりも、その土地ならではの景観的・文化的な豊かさを五感を通じて提供できるかが重要であるという示唆です。


問い合わせ先:
ジャパンブランドプロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp
 
※注記・免責事項
1.本記事における対象国・地域の名称表記は日本国内の読者を想定対象とし、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものになります。
2.本調査における国・地域の名称表記は、統計上または分析上の便宜を目的としており、いかなる政治的立場や見解を示すものではありません。
3.本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
4.本調査で使用した地図(世界地図および日本地図)は分析内容やページのレイアウトに合わせて一部修正・加工・トリミングを行っており、必ずしも国境線および国土範囲を正確に反映したものとは限りません。
5.各国・地域とも性年代別に均等割付で標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施。

伊藤忠商事や日本郵船など産業界が「アンモニア燃料」の事業化にこぞって注力し始めた理由…CO2排出ゼロ

●この記事のポイント
・産業界でアンモニア燃料の事業化に向けた動きが活発化
・伊藤忠商事はアンモニア向けバンカリング船について、2028年の実用化を目指す
・年間3000万~5000万トンのアンモニアが2050年頃には流通するようになるという予測も

 産業界でアンモニア燃料の事業化に向けた動きが活発化している。日本郵船などは2024年8~11月、アンモニアを燃料とするタグボートの実証航海を実施。世界で初めてアンモニアを燃料として商用船を航海させた。伊藤忠商事は6月、造船会社のアンモニア向けバンカリング船(船舶に燃料を供給する専用船)建造の契約を締結。2028年の実用化を目指す。伊藤忠はアンモニア燃料のばら積み船を共同で開発しており、保有・運航も検討中だ。なぜアンモニア燃料に関する事業が産業界で活発化しているのか。また、将来的にアンモニア燃料に関する事業・ビジネスは、大きく成長すると予想されるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

化石燃料の代替としてのアンモニア燃料

 産業界でアンモニア燃料に関する事業の展開が活発化している理由は何か。広島大学大学院先進理工系科学研究科教授の市川貴之氏はいう。

「次世代の燃料として水素が注目されていますが、水素と同様にアンモニアも燃える際に二酸化炭素(CO2)が出ないので、石油をはじめとする化石燃料の代替としてアンモニアが使えるのではないか、将来的にも大きなシェアを取っていきそうだという予想のもとで、投資が活発化しています」

 実用化に向けた動きはどのような状況なのか。

「例えば石炭火力発電所では、すでに混焼はいつでもできるという状況であり、3割から5割程度は石炭の代わりにアンモニアを混ぜて燃やすことができる状況にあります。ガスタービンも混焼であれば、ある程度できるとみられています。課題はアンモニアの確保です。日本ではアンモニアは年間約100万トン流通していますが、これはもちろん燃料としてではなくて化学品として流通しています。また、現在流通しているアンモニアは全て天然ガスなどの化石燃料から作られているので、今あるアンモニアを使ってもCO2削減には寄与しません。ですので、再生可能エネルギー由来のグリーン水素、もしくはブルー水素が製造され、これを用いて作られるグリーンアンモニア、もしくはブルーアンモニアが広く流通する必要があります」

グリーンアンモニアの普及への課題

 グリーンアンモニアの普及には課題がある。

「製造コストが高いです。2027年の先物の入札では、グリーンアンモニアの価格は現在流通してるアンモニアの3~4倍くらいとなっています。企業のなかには価格が3倍でもCO2排出に対するペナルティを考慮すれば採算が取れると考えるところや、グリーンアンモニアを使うことによる宣伝効果を期待して多少高くても使うというところもあるかもしれません。ですので製造の動きが広がりつつあり、伊藤忠商事がインドネシアで製造するというニュースも出ていたり、別の企業が以前からサウジアラビアで太陽光パネルを敷き詰めて製造するというような話も出ています。土地が広くて日照がいいオーストラリアの西部地区でも水素を使ったアンモニアの製造の動きは続いています」

 グリーンアンモニアの製造コストは将来的に下がってくるのか。

「結局は水素の製造コストがそのまま効いてきます。現在、水素の製造コストは1リューベあたり100円以上と考えられていますが、グリーン水素の製造コストが目標を大きく超えて10円くらいで安定するようになれば、通常の化石燃料由来の水素と大きな差はなくなるとみられています。こうしたコストを決定する要素として、電気代は大きな要素でして、日本では再生可能エネルギーの発電コストは高くなってしまいますが、一つのポイントとしては余剰電力や卒フィットなどの電気代が1キロワット時1~2円くらいになるかどうかです。また、ほかの要素として、水素を製造するための電解装置の価格とその利用率が挙げられます。現時点では、流通量も多くはなく、将来的に量産体制に入って量産効果が効いてくれば価格が下がってくるという見通しはあります。また、設備利用率をどう向上させるか、については様々な工夫が必要となりそうです」

 アンモニア燃料が普及し始めるのは、いつ頃になりそうなのか。

「石油などの化石燃料の価格やカーボンプライシングがどう推移していくのかといった要因が複雑に絡み合うので、化石燃料の価格と比べて安くなるのがいつ頃なのかという予測は、非常に難しいです。ですが、2030年代の早い段階で、グリーンアンモニアと従来のアンモニアの価格の差はなくなってきて、将来的にはバランスしてくると予想しています」

 グリーンアンモニアの価格が下がるまでの間は、事業者は燃料としては従来のアンモニアを使うことになるのか。

「化石燃料由来のアンモニアの利用を増やしても、環境負荷低減やCO2削減の面では意味がないので、そういう動きは基本的には生まれないと思います。グリーンアンモニアが大量に、かつ徐々に安く手に入るようになって、事業化の動きが本格化するという流れでしょう」

アンモニアの製造工場が増える

 アンモニアが環境負荷低減につながるということに懐疑的な見方もある。例えば、アンモニアには窒素が入っているので、燃やすとNox(窒素酸化物)が増えるのではないかという見方だ。

「実際には石炭火力発電でアンモニアを30~50%ぐらい混ぜても、NOxは減る方向に行くという結果が出ています。一方、ガスタービンにはNOx除去する排煙脱硝設備がついておらず、アンモニアを混ぜた時にNOxが出ることが懸念されるため、ガスタービンの場合はNOxを除去する脱硝設備をつけなければならないという指摘があります。燃焼条件によってNOxが出るということになった時に、それをどう取り除くのか。アンモニアではなくて、その前段階で水素にクラッキングしておいて水素を入れるほうがいいのではないかという議論もあります。ですので、ガスタービンで使うには技術開発すべき要素が残っていますが、一方で石炭火力に関しては、すぐにでも入れられるというのが実際に石炭火力を運用している側の人たちの意見です」

 気になるのは、アンモニア燃料に関する事業・ビジネスは将来的に大きく成長するのかという点だ。

「一般的に石炭火力発電所の発電量は60万kWほどですが、それに対して3分の1の20万kW分、もしくは2分の1の30万kW分をアンモニアに置き換える場合に、どのくらいアンモニアが必要なのかという議論になると思います。そうなると、火力発電所1カ所で、日本の現在流通している量に相当する100万トンほどのアンモニアが必要になります。10カ所だと10倍の1000万トンという規模のアンモニアが必要になってきます。ですので、大規模なアンモニアの製造工場が海岸線を持っている県などにいくつもつくられて、年間3000万~5000万トンのアンモニアが2050年頃には流通するようになるという予測が広まっています。

 また、アンモニアと似た製造方法であるメタノールも、アンモニアと同じく年間100万トンほど流通しており、メタノールについても産業界はウォッチしています。アンモニアもメタノールも水素からつくるものであり、基本的には水素社会の実現という大きな枠組みで捉えるものです」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=市川貴之/広島大学大学院教授)

「感情汚染回避」と「人間回帰」。若者の新たな行動価値観を読み解く

電通若者研究部(以下、電通ワカモン)は、高校生、大学生、社会人1~3年目の若年層を中心に、2年ぶりとなる大規模調査を実施(調査概要はこちら)。その結果をもとに、若者の価値観をひもといた「若者まるわかりナレッジ2025」を作成しました。(お問い合わせはこちら)

本連載では、調査から得られたファインディングスを紹介します。

本音を言えない若者たち~「感情汚染」を避ける行動価値観~

誰かと話していて「相手の感情を傷つけてないかな」と不安になること、ありませんか?実は今、若者の間でそれが「日常」になっています。

今回、電通ワカモンが実施した大規模調査で明らかになった、最も象徴的なファインディングス。それは、「感情汚染を避けたい」という行動価値観が若者を中心に高まってきているということです。

人間関係の中で本音を語ることは、ときに他人を不快にさせたり、空気を乱したり、自分自身が疲れてしまうリスクを伴います。そのリスクを避けることを何よりも優先し、自分の本音を言わない、そして相手の本音に踏み込まないようにして、自分も他者の感情も疲弊させないようにする。

電通ワカモンは、このような考え方を、「感情汚染」を避ける行動価値観と定義しました。調査では、下記のような声が聞かれました。

電通若者研究部

喜びや不満の感情さえ、周囲に与える影響を想像しながら調整していく……。若者たちは今、「感情の出し方に慎重さを求められる時代」を生きているのです。

「全方位配慮」が、マナーの世の中

電通若者研究部

「『本音』を誰かに話すことは、相手が誰であってもリスクを伴うと感じる」。今回の調査で、実に76.8%の若者がこのように回答しました。ここでいう相手とは、職場の上司や先輩はもちろん、親しい友人や同僚も含まれています。若者にとって本音を話すことは、親密度にかかわらず「慎重に扱うべき行為」となっているのです。

なぜ、本音や感情を出すことがこれほどまでに気を遣う行為になっているのでしょうか?電通ワカモンによる若者へのヒアリング調査では、こんな声がありました。

電通若者研究部

めでたい話ですら、テンションを誤ることで誰かを不快にさせてしまうかもしれないという不安が先立つ時代。ポジティブな感情ですら出しどころが難しいのです。

つまり若者たちは、日常での何気ない感情を表す一言が、
「誰かのタブーに触れる」
「空気を乱す地雷になる」
「意図と異なるかたちで誤解される」
という感情の伝達リスクを強く意識しています。

それが特に顕著になるのは、SNSやLINEといった、「感情が可視化・拡散・再解釈される場」が常に日常にあるからだとわれわれは考えています。

今の若者たちが置かれているのは、「全方位に気を遣うことがマナー」とされる時代。そのような時代を生きる若者の思考を、電通ワカモンでは「全方位配慮思考」と表現しています。

本音を出したことで誰かを不快にさせてしまうかもしれない。あるいは、誰かの本音を受け取った自分が感情的に巻き込まれてしまうかもしれない。そうした感情(本音)の交差による疲労を回避し、心の負担を最小限に抑えたいという「感情汚染」を避ける志向が、いまや若者世代の基本的な行動価値観として根付きつつあるのです。

タイパよりも優先?「感情汚染」を避ける志向は仕事観やコンテンツ消費にも波及

「心がすり減るくらいなら、成果は二の次でいい」。今の若者たちの中には、そんなふうに働き方の価値基準を切り替えている人が少なくありません。

電通若者研究部

私たちの調査でも、「仕事での成果よりも、自分の心の安定を重視して働きたい」と答えた社会人1~3年目は75.0%。さらに、「職場で何かを成し遂げるよりも、面倒ごとなく“うまくやる”ことが大事」と答えた人も77.3%と多数にのぼりました。このように、キャリア形成に対しても「心をすり減らさない」という基準が第一に置かれるようになってきています。また、仕事選びの基準にもこの傾向は色濃く表れています。

電通若者研究部

たとえば、「キャリア形成には時間がかかるが、心の安定が保てる職場で働きたい」と答えた人は76.9%。これは、かつて若者の間で重視されてきた「タイパ(タイムパフォーマンス)」志向と真逆とも言える結果です。「早く成長したい」ではなく、「無理なく続けたい」。時間より心の燃費を大事にする感覚が、新しい時代の働き方を形づくっているのです。

この感情汚染を避ける価値観は、日常のコンテンツ消費にも広がっています。

電通若者研究部

「心に余裕がないときは長編の動画コンテンツを見るのが億劫に感じる」と答えた若年層は63.7%。「何も考えずに眺めているだけでよさそうな動画コンテンツが好きだ」とする回答も67.3%にのぼりました。できるだけ感情が汚染されない「何も考えなくていい」ものを選びたいという無意識の欲求が見え隠れしています。

このような感情汚染を避ける(できるだけ感情の負担を最小限にする)ことを重視する価値観は、仕事の姿勢、キャリア設計、日常のエンタメ選びに至るまで、現代の若年層のあらゆる行動価値観に浸透しつつあります。

人間回帰の兆し~本音でつながれる関係への憧れ~

これまで見てきたように、若者たちはコミュニケーションに対して慎重になっており、とてもリスクが高いものだと考えています。しかしその一方で、彼らの内面には「本音でつながれる人間関係」への強い渇望があることも見えてきました。

電通若者研究部

「なんでも言い合える友達が欲しい」「『本音』を言い合える相手が欲しい」といった声は大人たちよりもスコアの高い結果となりました。彼らは本音を我慢することに慣れていますが、それを望んでいるわけではありません。むしろ、自分をさらけ出せる相手をつくりにくくなっていることへの寂しさや、そうした関係を築ける未来への渇望を、静かに抱え続けているのです。

職場などのフォーマルな場面においてもその傾向は見られます。

電通若者研究部

関係性さえ築ければ、上司や先輩とももっと踏み込んだ会話がしたい。さらに、プライベートまで仲良くなれる関係を望んでいる若者も少なくありません。距離を保つことが前提になっているからこそ、本音を交わせる関係性には特別な価値が宿るのです。

このような「心からつながれる関係性」への憧れは、近年SNSなどでよく見られる「尊い」という表現にも表れています。たとえば、なんでも言い合える友人や、思い合っている恋人同士など、お互いに本音で関わり合っているような関係に対して、羨望や感動の意味を込めて「尊い」と表現されることが増えています。これは希少な本音でつながれる関係性への願望が、時代の共感語として表れたものだと捉えることができるでしょう。

電通ワカモンは、こうした傾向を「人間回帰の兆し」として捉えています。若者は人とのつながりに冷めているのではなく、むしろ本気で向き合いたいからこそ慎重なのです。誰とでもすぐ仲良くなりたいというような軽さではなく、「ちゃんと信頼し合える関係を築きたい」という静かな人間回帰の兆しが、若者の本音として浮かび上がったと言えます。

「若者まるわかりナレッジ2025」では、この記事で紹介した若者たちの「本音」にまつわる意識に加え、職場意識、つながり意識、恋愛意識、メディア意識、行動インサイトなど幅広いテーマでファインディングスをまとめています。本連載ではそのファインディングスをさまざまな角度からご紹介していきます。

【調査概要】
調査名:若者まるわかり調査
調査機関:電通マクロミルインサイト
調査時期:2024年12月
調査方法:インターネット調査
調査対象エリア:全国
調査対象・サンプル:高校生以上の未婚15~46歳男女 2000ss (以下セグメントごとに男女均等割付)
(内訳)高校生 400ss/大学生 400ss/社会人1~3年目 400ss/社会人4~10年目 500ss/社会人11~20年目 300ss
 
※上記サンプルの抽出にあたり、15~69歳の一般男女(高校生以上、未既婚・職業不問)を対象にスクリーニング調査を実施、その結果から人口構成比に基づいた10000ssを抽出し、別途分析に使用
 

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「余剰再エネ」に価値を。FIP移行が導く、“使いこなす”再エネ時代

2000年代以降、環境問題への関心の高まりを背景に、世界的に再生可能エネルギーの導入が加速しました。日本でも、2009年に太陽光発電の余剰電力買取制度が始まり、国全体で再生可能エネルギーを推進する仕組みが整えられました。

その流れをさらに加速させたのが、2012年に始まった固定価格買取制度(FIT)です。対象が太陽光に加えて、水力やバイオマスなどにも広がったことで、導入は一気に進みました。特に非住宅用の太陽光発電設備の認定件数は、2023年度12月時点で約70万件(容量にして約5,728万kW)に達しています。

一方で、第7次エネルギー基本計画で掲げる再生可能エネルギーの目標達成には、なお多くの課題が残されています。こうした中、政府が推進する新たな制度、FIP(Feed-in Premium)制度の活用が、今後の再生可能エネルギー拡大の鍵を握るテーマとして注目されています。

今回は、エネルギー業界で今、最も注目されるスタートアップの1つ、Tensor Energy株式会社の共同創業者兼代表である堀ナナ氏をお迎えしました。堀氏は、震災直後の計画停電で、環状7号線を境にその外側が真っ暗になる現象に衝撃を受け、日本のエネルギー課題を解決すべく、再生可能エネルギーの分野に転身したユニークな経歴の持ち主です。レジル株式会社 エネルギーマネジメント事業本部 事業開発グループ ジェネラルマネージャー 安藤圭祐氏と共に、FIP移行の現状と課題、そしてそれを支えるTensor Energyの取り組みを通じて、再生可能エネルギーの未来を語ります。

【図解】固定価格から市場連動へ。FIP制度の本質とは

FIT制度とは、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のこと。太陽光や風力などで発電した電力を、電力会社が一定期間・一定価格で買い取ることを国が保証する制度であり、これにより再生可能エネルギーの普及が強力に推進されてきました。
一方、FIP制度は2022年4月に導入された新たな制度です。卸電力市場の価格を基準に、プレミアム(供給促進交付金)を上乗せして売電を行う仕組みで、発電事業者が電力を系統に流すタイミングを市場の需給状況に合わせて調整することを促す目的があります。
日本ではFIT制度により大量の再生可能エネルギーが導入され、特に太陽光発電の普及が顕著でした。その結果、一部のエリアでは、太陽光発電所が出力抑制(※1)を受ける事態も生じています。

電力は「発電と消費が同時同量でなければいけない」という特性を持つため、エリアによっては出力の抑制が必要となるケースも出てきました。FIT制度ではいつ発電しても固定の単価で買い取られるため、発電事業者側に“地域の需給状況を見ながら調整する”動機が働きづらいという構造的課題がありました。
こうした課題を解決する手段として、FIP制度が導入されたのです。

卸電力市場は、電気が余ると価格が下がり、不足すると価格が上がる性質があります。FIP制度では、インセンティブをプレミアムの形にし、こうした価格変動を事業者の収入に反映させることで、発電事業者の自律的な運用を促します。たとえば、蓄電池を併設することで、電気が余っている時間帯に充電し、需要が高まる時間帯には放電するなど、柔軟な対応が可能となります。

※1 出力抑制:需給バランスが取れていない場合や、送電容量の許容を超える供給がある場合、一般送配電事業者の指示で発電事業者が発電量を一時的に抑制すること。

 

Tensor Energy堀氏とレジル安藤氏が語る、FIP転換の現状と課題

安藤:2012年のFIT開始から13年が経ち、買取期間の満了が迫る事業者も出てきています。堀さんの肌感では、買取期間満了前にFIP制度への移行(以下、FIP転)について考えている事業者の割合は増えていると感じますか?

:正直なところ、FIT制度の恩恵を受けている現状では、FIP転をするという考えに至っていない事業者がほとんどだと感じています。しかし私の予想では、今後、FIP転の需要が急速に高まるのではないかと考えています。

安藤:FIP転の選択肢をとる事業者にはどのような特徴が見られますか?

:基本的には、FIT制度下での収益が頭打ちになっている地域かどうかが関係しています。現在、FIP転をしている、または検討している事業者は九州に多いですね。

安藤:まさに、太陽光発電の導入量が多く、出力抑制が発生しやすい地域ですね。優先給電ルールでは、まず火力発電などの出力抑制が行われますが、それでも出力抑制が足りない場合、太陽光発電の出力抑制が行われます。これにより、FIT等の固定買取制度を利用している発電事業者は、想定通りの発電が行われず、当初計画していた収益が上がらない状態に陥ってしまいます。

:最近では、北海道や東北でもFIT制度下での出力抑制が深刻な問題になりつつあります。これらの地域は、太陽光パネルを設置できる場所が多く、一方で電力需要が少ないという共通の課題を抱えています。
地域によっては、出力抑制によって収益が2〜3割減少することもあります。このような地域では、FIP転は非常に大きなメリットをもたらします。なぜなら、これまで出力抑制でカットされていた部分の収益化が図れるようになるためです。

安藤:そうですね。FIP制度のもとで運用される太陽光発電所は優先給電ルール上、FIT制度の太陽光発電所よりも出力抑制が後回しになることから、FIP転を行うだけでも、出力抑制による損失を軽減できるほか、今後ルールが変更され出力抑制が増えるリスクにも備えられる可能性がありますね。

市場と向き合う覚悟。FITからFIPへ乗り換える壁

:政府としては、再生可能エネルギーの更なる普及を目指してFIP転を推進したいというのが本音だと思われますが、しかし現状では、FIP転にもいくつか大きな課題があります。

安藤:FIP転に際して、事業者にとっての主な課題はどのようなものでしょうか?

:FIP転において事業者が抱える課題は、主に2つあります。

1つ目は、バランシング業務(※2)のノウハウが乏しいこと。FIT制度では、発電設備の普及に重きが置かれていたため、電気の売値は固定されており、バランシング業務も一般送配電事業者や小売事業者が担っていました。いわば、発電事業者はバランシング業務の責任を免除されていたと言えます。
FIP制度では、再生可能エネルギーを、電源自立した発電所として運用させることを目的としています。そのため、発電事業者自身が計画値同時同量のルールに則り、バランシング業務を担わなければなりません。
太陽光発電事業者の立場におけるバランシング業務とは、太陽光の発電量を予測して、予測した結果を基に発電販売計画を作成し、OCCTO(電力広域的運営推進機関)に計画提出を行うことです。太陽光発電のFIP転では、蓄電池を併設するケースもありますので、その場合には発電量予測に加えて、FIPプレミアムが最大となるような予測モデルも加えて、いつのタイミングで充放電させるかという部分も計画値に考慮する必要があり、これまでバランシング業務やエネルギーマネジメントの経験がない事業者にとってハードルは非常に高いです。

もう1つは、ファイナンス(資金調達)の見通しが不透明になることです。
FIT制度は電気の売値が固定されているため、事業計画の見通しが立てやすく、資金調達もしやすいというメリットがありました。しかし、FIP転することでその前提が大きく変わってしまいます。FIP制度では、プレミアムが変動することで、大きな収入増が見込める一方で、それを予見する難易度の高さから、蓄電池への追加投資のために、金融機関からの資金調達のハードルが高くなることが、大きな課題となっています。

※2 バランシング業務:再生可能エネルギー発電事業者が、発電計画を策定し、実際の発電量を計画値と一致させる「計画値同時同量(発電計画と実際の発電量を一致させること)」を履行する義務のこと。

需給予測から計画提出まで。Tensor Energyのソリューション

安藤:FIPの課題に対して、Tensor Energyではどのようなソリューションでアプローチしていますか?

:1つ目が、事業計画作成の支援です。先ほど、FIP転により事業収益の前提が大きく変化してしまうという話をしましたが、そこに対して、FIP制度のもとで太陽光発電所に併設した蓄電池を活用しながら事業を展開していくシナリオ、シミュレーションを作成していきます。これらのシミュレーションは資金調達を検討している発電事業者にご活用いただいており、今後そういった事業に貸し付けを行う金融機関等にご活用いただくことを想定して開発しております。

もう1つは、運用のサポートです。蓄電池を併設することで、充電と放電をプレミアムに合わせてコントロールできるようになります。Tensor Energyでは、発電量や電力価格をAIにより予測し、それに基づいた充放電計画の策定ならびに、発電販売計画の自動生成・提出を行います。発電事業者が自ら実施することが難しいと感じる、バランシング業務の複雑さの解消にアプローチしています。

安藤:Tensor Energyの運用ソリューションの大きなメリットは発電所の「クセ」をリアルタイムで反映できる点にあります。 
とくに、レジルのように複数の発電所を保有している事業者の場合、発電所の特性を踏まえて発電実績値を基に予測モデルを最適化して予測結果を出してくれるため、バランシング業務に役立てることができます。

:おっしゃる通りです。発電所の立地や地形、さらには設置されている設備の「クセ」により、同じ天候条件でも発電量は異なります。Tensor Energyでは、そうした発電所ごとの固有の特性をAIに学習させ、過去データに基づいて高精度な発電量予測を行っています。
リアルタイム性という部分に寄与しているのは、予測の更新頻度です。Tensor Energyでは、最短30分おきに新しい気象データを取得して予測をアップデートしています。電気のスポット市場(※3)では、前日の午前10時に入札を行い、正午に発電計画を提出します。計画提出の直前まで予測を更新できるため、より正確な発電計画が立てられるのです。 

これは、リアルタイムに近い時間前市場(※4)においてより大きな特長を発揮できるソリューションだと考えていますが、時間前市場の取引量自体はまだまだ少ないのが現状です。今後の制度変更などにより時間前市場の更なる活性化が実現すれば、私たちのソリューションはさらに大きな価値を提供できると確信しています。

安藤:2025年5月には、アセットマネジメント機能β版もリリースしていますね。これは、財務の観点から発電所の実績を管理できる機能だと理解しています。

:そうですね。複数の発電所を保有している事業者が、どの発電所のパフォーマンスがよいのか、逆にパフォーマンスが低くテコ入れが必要な発電所はどこか、などを収益の観点から瞬時に分析できる機能です。リアルタイム性はもちろんですが、これまで発電所ごとに明細をダウンロードして全体データを作成していたところを、全データを自動的に取得して可視化・分析できる仕様で、財務管理の煩雑さからも解放されます。
予測と実績のタイムラグが減ること、月次損益などの確認や分析がやりやすくなることで、資金調達もしやすくなります。

※3 スポット市場:電力取引を使用日の前日に行う市場のこと。前日の午前10時に入札、正午に発電計画の提出を行う。
※4 時間前市場:当日の需給バランスをもとに調整や売買を行う市場のこと。最短で1時間前まで調整が可能。

再エネを、無駄にしない未来へ。FIP転が拓くその可能性

安藤:最後に、Tensor Energyのソリューションによってエネルギーの世界がどう変化していくか、未来の展望を教えてください。

:Tensor Energyのソリューションを通じて蓄電池の活用を広げることで、よりクリーンで持続可能な電力を必要な場所や時間に届けていくことが可能なのではないかと考えています。これが結果的に再生可能エネルギーの拡大につながればよいですね。
FIT制度の開始とともに大量に作られた太陽光発電所ですが、必ずしも適切に管理されている発電所ばかりではありません。国民の費用負担により作られた発電所を、Tensor Energyのソリューションで効率的に活用できる形を作り、更なる再生可能エネルギーの普及促進に寄与できればと思っています。 

安藤:レジルの小売事業とTensor Energyのソリューション、この双方を最大限に活用することで、より多くの場所へ再生可能エネルギーを届けられる、真に持続可能な仕組みを共に築き上げていければよいですね。

 FIP転は、単なる制度の切り替えではありません。これは、再生可能エネルギーが日本の主力電源として、いかにその役割を全うしていくか、その第一歩となる極めて重要な転換点なのです。

 クリーンな電力を、より多くの人へ、より安定的に、より持続可能な形で届ける——。Tensor Energyやレジルの取り組みから目が離せません。

※本稿はPR記事です

スクート、12月に那覇線就航=26年3月から羽田にも―シンガポール

【シンガポール時事】シンガポール航空の格安航空(LCC)子会社スクートは12日、12月15日からシンガポール-那覇線に新規就航すると発表した。月、水、日の各曜日に1往復する。2026年3月1日から新たに羽田線にも就航し、毎日1往復する。

 シンガポール-那覇線は、オーストラリア航空最大手カンタス航空の子会社でシンガポールを拠点とするLCCのジェットスター・アジアが唯一の直行便を運行していたが、7月末で事業を停止したため、廃線危機に陥っていた。

 那覇線以外にも、シンガポール発着でジェットスター・アジアのみが就航していた路線については、スクートが引き継ぎに関心を示していた。

 那覇線は、各曜日ともシンガポール発が深夜の午前2時15分で那覇着が午前8時20分。那覇発が午前9時20分でシンガポール着が午後1時45分。

 羽田線は、シンガポール発が午後5時半で羽田着が翌日午前1時。羽田発が午前2時15分でシンガポール着が午前8時半。スクートは、これまで東京方面は成田線のみだったが、新たに羽田線が就航することで、利便性が大きく向上することになる。

 スクートは、羽田、那覇両線の新規就航記念セールを8月16日まで実施する。運賃は片道1万5000円から(税込み、燃油サーチャージ不要)。

 スクートはこのほか、26年1月1日からタイのチェンライ線に新規就航することも発表した。

 また、8月以降、既存路線についても増便を予定している。台北経由の日本行き路線は、成田線を10月以降、段階的に週12便から14便に、新千歳線を12月以降、週4便から7便に増やす。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/12-20:51)

Figmaが“デザインツール”を超えた理由:製品開発のOSになるまでの全戦略

●この記事のポイント
・Figmaは、共同創業者ディラン・フィールド氏の「想像と現実のギャップをなくす」というビジョンのもと、ブラウザ上で共同編集可能なデザインツールとして誕生。孤立した作業環境を変革し、URL共有によるバイラル性で急速に普及した。
・現在はFigJamやDev Modeなどを揃え、アイデア創出からリリースまで製品開発全体をカバーする「OS」的存在へ進化。ユーザーの76%が複数製品を利用し、高いNRRとARR成長を実現。
・市場規模は330億ドルで、AI機能「Figma Make」などを通じて非エンジニア層にも拡大中。競争は激化する中、製品開発の民主化を牽引している。

「私たちの創業以来のビジョンは、『想像と現実のギャップをなくす』ことだ」

 Figmaの共同創業者兼CEOであるディラン・フィールド氏が語った言葉だ。かつてAdobeによる200億ドル(当時のレートで約2.8兆円)という巨額買収が発表されながらも、規制当局の反対で破談となり世界の注目を集めた同社が2025年7月1日、ついにニューヨーク証券取引所への上場を申請した。

 Figmaというサービスについては、少しでもデザイン制作のプロセスに関わったことがある方なら耳にしたことがあるだろう。オフライン環境で個々のデザイナーが巨大なファイルをメールでやり取りするという分断されたデザインの世界を、「ブラウザ上での共同編集」という概念を持ち込むことにより変革した企業だ。

 S-1資料で明かされたFigmaの直近12カ月の売上高は8.2億ドル。日本円にして1000億規模をゆうに超える巨大さでありながら、前年同期比46%増という驚異的な成長率を誇る。粗利率は91%で、既存顧客からの売上高の拡大率は134%という極めて高い収益率も維持している。

 本稿では、Figmaが単なるデザインツールに留まらず、なぜ製品開発に関わるユーザーとって不可欠な「OS」のような存在へと進化できたのか、その強さの秘密をコミュニティとプラットフォーム戦略から解き明かす。

目次

創業ストーリー: 孤独なデザイン作業からの解放

 Figmaの物語は2012年、ブラウン大学の学生だったディラン・フィールド氏とエヴァン・ウォレス氏の出会いから始まる。当時、デザインの世界は「分断」されていたと彼らはみる。

 デザイナーはもともと複数の専門的なツールを駆使して作業するのが当たり前だった。共同作業をしようにも、リアルタイムで同時編集できるようなツールはなく、ファイルの共有は「Draft_Final_V2_FINAL_v13」といった名前の付いた巨大なファイルをメールで送り合う、極めて非効率なものだった。

 Google Docsのようなブラウザ上での同時作業に慣れ親しんだ世代である二人は、この「孤独な作業」を根本から変えようと考えた。そこで彼らが着目したのが、ブラウザ上で高性能なグラフィックスを描画できる「WebGL」という技術だ。3年に及ぶ開発期間を経て、史上初のブラウザ上で共同編集が可能なデザインツール「Figma」を世に送り出した。

 当初の反応は芳しいものではなかった。多くのデザイナーは「透明性の向上がマイクロマネジメントや創造性の喪失につながる」と、他のメンバーが容易に作業に介入できるようになることに抵抗を示した「もしFigmaがデザインの未来なら、自分はキャリアを変える」とまで言う人もいたという。

 それでも、実際にFigmaを使い始めたデザイナーたちは、ブラウザ上で共同作業する楽しさと圧倒的な効率性に気づき始めた 。URL一つでデザインを共有できる手軽さは、チーム内のコラボレーションを促進し、Figmaは世界中の企業やコミュニティに急速に広がっていったのだ。

製品のライフサイクル全てをカバーする豊富なラインナップ

 Figmaの優れた点は、単に優れたデザインツールを提供したことだけに留まらない。彼らは製品開発のワークフロー全体、すなわちアイデア創出から、デザイン、ビルド、そして製品のリリースまでを一気通貫でサポートするプラットフォームまで進化したことにある。

 下記のように製品のライフサイクル全てを網羅するラインナップが揃っている。

Ideate & Align:「FigJam」と「Figma Slides」。製品開発の最も初期段階であるブレインストーミングやチーム内の合意形成を担う。Miroのような共同作業ツールと競合する領域だ。
Visualize:「Figma Design」と「Figma Draw」。Figmaの中核事業。具体的なデザインやプロトタイプ、アイコンなどを制作できる。
Build:「Dev Mode」。デザインをコードに変換することができ、デザイナーとエンジニアの垣根をなくし作業を効率化する。
Ship:「Figma Sites」と「Figma Buzz」。Figma Sitesはウェブサイト制作(WebflowやFramerと競合)、Figma Buzzはマーケティング用のデザイン素材(Canvaと競合)作成ができる。

 プラットフォームの真の価値は、個々の製品の機能性だけでなく、それらがシームレスに連携することにある。例えば、FigJamで作成した付箋はFigma Slidesのプレゼンテーションに流動的に変換されるなど、制作したコンテンツは製品間を自由に行き来できる。複数のツールを使い分ける際の摩擦がなくなり、Figmaが唯一の「信頼できる情報源」としての地位を確立する。この統合こそが、Figmaのプラットフォームとしての堀(Moat)の基盤をなしている。

 実際に顧客の76%は2つ以上の製品を使用しており、クロスセル戦略が成功していることがわかる。結果として、大口の既存顧客が生み出す売上高の拡大率を意味するNRR(Net Dollar Retention Rate)は132%と驚異的な水準にある。要するに、前年と比べてFigmaに支払う費用を3割も増やしているのだ。

共同編集のためのURL共有が生むバイラルな「PLG」

 Figmaのもう一つの強みは、そのプロダクト主導の成長(Product-Led Growth、 PLG)モデルと、それを支える熱狂的なユーザーコミュニティにある。Figmaの月間アクティブユーザー(MAU)は1300万人を超えるが、そのうち3分の2はデザイナー以外の職種(プロダクトマネージャー、開発者、マーケターなど)だ。

 デザイナーがFigmaを使い始めると、共同作業のために開発者やPMをファイルに招待し、自然と組織内で利用が広がっていく。このバイラルな性質こそが、Figmaの効率的な顧客獲得の原動力となっている。

 個人のデザイナーが無料の「Starter」プランを使い始め、やがてチームが「Professional」プランにアップグレードし、最終的には組織全体が「Enterprise」プランで標準化する理想的な流れができているわけだ。実際、新規のエンタープライズ顧客の約70%は、元々は小規模チーム向けのプロフェッショナルプランのユーザーだった。

 バイラル戦略の巧みさは、価格体系の変更にも表れている。2025年3月、従来の製品中心(Figma Designのシート、FigJamのシートを個別に購入)の料金設定から、ペルソナ中心(デザイナー向けの「Full」シート、エンジニア向けの「Dev」シート、PM向けの「Collab」シートなどを購入)へと移行した。

 それまで開発者やPMがFigmaを利用するには、過剰なフル機能のデザイナー向けシートを購入する必要があり、これが組織内でのシート数拡大の障壁となっていた。役割に特化した手頃な価格のプランを設けることで、企業は数十人規模の開発者やPMに有料アクセスを提供することへの抵抗が格段に下がった。結果として、既存アカウント内の有料シート数の劇的な増加につながった。

 このプラットフォーム戦略の強力さは、顧客単価の向上を示すARR(年間経常収益)のコホート分析を見れば一目瞭然である。一度Figmaを導入した顧客は、年々利用額を増やし続けている。

 例えば、2020年に顧客となった層のARRは、最初の年の4.7倍にまで成長している。組織内で利用するチームや人数が増えるだけでなく、より多機能な上位プランへのアップグレードや、新しいプロダクトの追加購入が進んでいることを示している。顧客の成功と共にFigmaの収益も成長する、理想的な関係が構築されているのだ。

市場規模と将来展望: AIが拓く「10億アプリ時代」の覇者となるか

 Figmaがターゲットとする市場は、ソフトウェアデザインに関わるグローバルな労働人口から算出して、現在330億ドルにのぼると見積もられている。市場調査会社のIDCは、生成AIの進化により、2028年までに世界で10億以上の新しいアプリケーションが生まれると予測しており、デジタル製品を構築するためのプラットフォームとしてのFigmaの重要性はますます高まりそうだ。

 月間アクティブユーザーの85%が米国外であるのに対し、収益に占める割合は53%に留まっている。まだまだグローバル全体、特にヨーロッパやアジア太平洋地域においてはマネタイズの伸びしろがありそうだ。大口顧客の比率にも成長の余地がある。

 今後の成長戦略の柱の一つがAIへの積極投資だ。プロンプトからプロトタイプを自動生成する「Figma Make」の投入はその第一歩であり、非エンジニアでも簡単にソフトウェアを生成できる世界を目指す。

 もちろん、競争環境は熾烈だ。AdobeはFigmaの買収に失敗したものの、独自のAI機能を強化し猛追している。Canvaのようなより簡易なツールや、特定の機能に特化したスタートアップも次々と登場している。AIがデザインや製品制作そのものをコモディティ化させる可能性もある。 

 今やデザイン領域にとどまらず、製品開発プロセス全体の民主化を目指すFigmaが今後どのような成長を遂げるのか。引き続き注目したい。

(文=干場健太郎)

朝まで“ひんやり”、“冷感”掛け布団「極涼プレミアムEX」ヒットの秘密…洗濯機で丸洗い可能

●この記事のポイント
・かけると“ひんやり”する“冷感”掛け布団「極涼プレミアムEX」がヒット
・吸湿・放湿・冷感の効果を搭載することで、暑い夜もムレにくく心地よい寝心地をキープ
・Q-MAX値0.55の接触冷感生地を表面に採用し、中綿には吸放湿性に優れた高機能素材を使用

 猛暑で寝苦しい日が続くなか、かけると“ひんやり”する“冷感”掛け布団「極涼プレミアムEX」がヒットしている。製造元の新陽トレーディングが独自に開発した超冷却グラフィックス「極涼 BEYOND COOL」を採用し、吸湿・放湿・冷感の効果を搭載することで、暑い夜もムレにくく心地よい寝心地をキープ。肌に触れた際の冷感を数値化した指標「Q-max」は、一般的に0.2W/平方cm以上で冷感を感じ、0.4W/平方cm以上で高冷感とされるところ、同商品は0.55という高い数値を実現。調温テクノロジーで体からの熱や湿気をスムーズに逃がしている。さらに、わずか約1.25kgの超軽量設計によりタオルケットのような軽さも実現。洗濯機で丸ごと洗える点も便利だ。かけると“ひんやり”するという使用感は、どのような技術によって実現されているのか。メーカーに取材した。

●目次

Q-MAX値0.55の接触冷感生地

 このような商品を開発するに至った背景・理由について、新陽トレーディングは次のように説明する。

「近年、夏の暑さが年々厳しくなる中、『寝室をもっと快適にしたい』『冷房に頼りすぎず、自然なひんやり感で快適に眠りたい』という声が多く寄せられていました。特に『寝返りのたびに布団の中がムレて不快』『肌に触れると熱がこもる』『体にペタッと張りついて寝苦しい』といった夏特有の寝具の悩みに着目し、寝室環境をより快適に整えることを目指し、本製品を開発いたしました。

 弊社の『極涼シリーズ』は累計35万枚を突破しており、シリーズ全体として多くのお客様に支持されてきました。そのなかでも、今作の『極涼プレミアムEX』は、冷感性能・吸放湿性・抗菌防臭・洗濯耐久性を大幅に強化した最上位モデルとして設計されています。さらに、生地の選定や縫製構造を工夫することで、寝返り時にも体にまとわりつかず、ペタッと張りつく不快感を軽減する構造に仕上げています」

 具体的にどのような特徴を持つ商品なのか。

「Q-MAX値0.55の接触冷感生地を表面に採用し、肌に触れた瞬間にひんやり感が得られます。中綿には吸放湿性に優れた高機能素材を使用し、寝汗をかいてもムレにくく快適です。裏地には通気性と速乾性を兼ね備えた天竺生地を採用しており、汗や湿気をスムーズに逃がします。また丸洗い可能で、毎日でも清潔に使える仕様。家庭用洗濯機対応&速乾性ありです。抗菌防臭加工を施しており、汗ばむ季節でも清潔さを保ちやすくなっております。軽量でありながらも、寝返りしてもズレにくいサイズ感と縫製設計となっております」

温度変化に応じて熱を吸収・放出

「ひんやりする」というのは、どのような技術によって実現されているのか。

「まずひんやり感は、表面に使用している接触冷感生地の『Q-MAX値(熱移動値)』によって得られます。Q-MAX値とは、肌が触れたときにどれだけ熱を生地に奪われるかを示す指標で、数値が高いほど冷たく感じます。本製品では、市販品でも上位に入るQ-MAX 0.45以上の高性能冷感生地を採用しており、一般的な接触冷感寝具(0.2~0.3程度)と比較しても、格段にひんやり感を感じていただける仕様となっております。

 生地で使われている接触冷感の生地は熱伝導率が高い素材を使っており、人の肌と布が触れたとき、肌の熱をどれだけ素早く生地側に逃がせるかが『冷たさ』を感じるカギになります。熱伝導性の高い繊維をベースに使うことで、人の肌から熱を素早く奪う=冷たく感じる性質があります。

 また表地の極涼オリジナルのプリント施し、温度変化に応じて熱を吸収・放出する性質を持ち、これにより、温度調節機能を持たせることで、常に一定の温度を保つようなり、特に暑い時期に効果を発揮します」

 販売ルートとしては、主にクラウドファンディングサイトにて先行販売を行っており、今後はAmazon、楽天、Yahoo!ショッピングなどオンラインモールでの一般販売も予定している。一般販売予定価格は2万円(税込)。

【製品仕様】
サイズ:150cmx210cm(シングルサイズのみ展開)
カラー:ネイビー
素材:表地:ナイロン90%、ポリウレタン10%(持続冷感加工)
中材:ポリエステル70%、レーヨン30 %
裏地:綿100%(抗菌加工)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)