なぜ東京23区で狭小戸建て住宅が人気&増加?価格はマンションの半分でも床面積は広い、仕事と育児両立

●この記事のポイント
・東京23区で狭小戸建て住宅が人気
・価格は新築マンションの半分の水準、5000~6000万円ほどで、土地面積は30~50平方メートルほど
・共働き世帯においては、駅近で、好立地に住むことができるため、仕事と育児・家事の両立もしやすい

 不動産経済研究所の調査によれば、今年1~6月に首都圏で発売された新築マンションの平均価格は8958万円、前年同期比16.7%増という大幅な値上がりとなり、東京23区に限れば1億3064万円と1億円を超えるなど、住宅価格の高騰が続いている。そうしたなか、東京23区で狭小戸建て住宅が人気を集め、増加しつつある。価格は新築マンションの半分の水準、5000~6000万円ほどで、土地面積は30~50平方メートルほど、3階建てであることが多いのが特徴だ。土地面積は“狭小”ではあるものの、床面積ベースでは一般的な新築マンションと同程度とされ、居住空間としてはそれなりの広さが確保されていると評価されている。具体的にどのような特徴や利点があるのか。また、購入時の検討ポイントや注意点などは何か。住宅メーカーへの取材をもとに追ってみたい。

●目次

土地を効率よく活用することで、土地の分の費用を抑制

 まず、狭小戸建て住宅の特徴について、「コンパクト住宅」を年間5000棟超供給する大手住宅メーカー・オープンハウスグループは次のように説明する。

「狭小戸建てといわれることが多いのですが、弊社では『コンパクト住宅』という言い方をしております。ご購入いただいたお客様への配慮の意味合いも含めてです。コンパクト住宅は、土地は小さいかもしれませんが、住宅内の階段の設計を工夫したり、スペースパフォーマンス(スペパ)を意識した、3階建ての家づくりを行うことで、コンパクトながらも住みやすい住環境となっております。

 また、若い共働き世代に便利な職住近接な環境のため、都心で、駅に近く、好立地に、お客様の手の届く価格で住宅を提供すべく、企業努力を継続しております。例えば、弊社では土地を効率よくシミュレーションして分割し、地価が高い都心において、土地を効率よく活用することで、土地の分の費用を抑え、そこに自社グループで最適な建築を施すことで、中間マージンのない製販一体のビジネスモデルと、徹底したコストの追求(モデルルームをもたずにショールームで集約するなど)により、価格を抑えた住宅供給を可能にしております」

 床面積は平均的な新築マンションと比較すると、どのような広さなのか。

「オープンハウスグループの1都3県でのボリュームゾーンは、土地面積50平方メートル、延べ床面積80平方メートルの物件住宅です。マンションは価格高騰により小型化が進み、家族世帯でも60平方メートル台といった手狭な規模が多い中、相対的な広さやお手ごろ感で一戸建てを選ぶ人も増えています」

 価格帯はどうなっているのか。参考値として同社の2025年9月期第2四半期の平均契約単価は、約4900万円となっている。

メリットとデメリット

 狭小戸建て住宅を購入するメリットとしては、価格だけではないという。

「共働き世帯においては、駅近で、好立地に住むことができるため、仕事と育児・家事の両立もしやすく、タイムパフォーマンス(タイパ)が良いです。コンパクト住宅を購入した後、ライフスタイルや家族構成の変化が生じ売却を必要とする際も、好立地の物件であることから、次の買い手がつきやすいです。住宅価格が高騰するなか、都心に手の届く価格で住むことができます。マンション等と比較すると、月々の管理費の負担など、維持費を抑えやすく、人生の資金計画が立てやすいです。自分好みのオプションを検討することもできます。注文住宅・セミオーダー住宅の場合、非常に柔軟な間取り設計や、オプション追加まで可能です。特に単身でコンパクト住宅を購入されたお客様には、趣味部屋をつくることができる点も人気です。

 戸建ては周囲を気にせず、ペットを飼うことができます。コンパクト住宅でもスペパによる工夫を行うことで、居住環境を広く活用し、快適に過ごすことができます。戸建てであるため、お子様が遊ぶときなどに出る音などから階下とトラブルになるなどといった事態を防ぎやすく、ある程度、近隣を気にせず生活できます。

 夫婦ともに在宅勤務している場合は、3階建て住宅は、住居スペースの階が分かれるため、空間を縦にしっかり分けることができ、同時にオンラインミーティングを実施することなどが容易です。書斎をつくることも可能です。同じ価格帯のマンションと比較しても、戸建ては広いスペースを確保でき、耐震や断熱といった性能について、ご自身で決定することができます」

 一方、留意すべきデメリットもある。

「人によっては狭いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。荷物が多い方には、収納スペースが少ないと感じるかもしれません。年齢を重ねると、3階建ては階段の上り下りがつらく感じるかもしれません。防犯対策やプライバシーの管理について、ご自身で行う必要があり、太陽光パネルを設置することに適さない戸建てもあります」

設計の工夫を施すことで住環境を広く

 そして狭小戸建て住宅には、大きな社会的意義があると同社はいう。

「弊社は企業理念に『お客様のニーズを徹底的に追求し、価値ある不動産を届けます』と掲げ、 創業当初から『都心部で手の届く価格の住宅を提供する』ことを住宅事業のミッションとして取り組んできました。共働きの世帯が増加し、女性の社会進出がさけばれるなか、学童や保育園が発達している都心や駅近接の職住近接な好立地環境を望む声は年々高まります。

 地価が高い東京都をはじめとする都心においては、土地にかかる費用を抑えるため、限られた土地において、コンパクトに建物を建てることが、物件価格全体を下げることに大きなインパクトがあります。価格を抑えるための企業努力としては、主に以下3点がございます。

・製販一体
土地の仕入れから、設計、建築、そして販売まで、グループ内で一貫した製販一体型のビジネスモデルで中間マージンをカットし、効率化により最適なリソース配分を施し事業の回転率を高くし、スケールメリットを活かして原材料費を抑えることで低価格を実現しています。実際に販売に携わる営業部門からお客様のニーズを迅速にグループ内で共有し、市場の要求に迅速に対応する体制を整え、手の届く価格で良質な住宅を提供するために企業努力を続けています。

・住宅メーカーが手を出しにくいような変形地などの土地を安く仕入れる

・高い企画力による、土地の最適活用に適した区割り・設計
1つの土地を2つ以上に分割する棟数現場、旗竿地にも建物を建てることができる設計と施工やロジスティックの知見を有しています。コンパクト住宅内において、階段の設計、見通しのいいアイランドキッチン、上げ天井、デッドスペースの有効活用など、あらゆる設計の工夫を施すことで、住環境を広くし快適な住み心地を提供します。例えば階段の工夫などについては、木材に関しては円安要因もあってコスト高になっていく傾向にあるものの、間取りや構造上、強い窓配置などの工夫で使用する材積(製材品の体積)を見直すことや、国産材と外国材をうまく価格変動に応じで柔軟に組み合わせることでトータルコストを抑えています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「海と土壌に溶けるプラスチック」開発に成功…マイクロプラスチックやCO2を排出せず、脱・化石資源由来

●この記事のポイント
・理研などの国際共同研究チームは、海水中などで溶ける「超分子プラスチック」の開発に成功
・環境汚染や人体への悪影響が問題となっているマイクロプラスチックが生じない
・他のプラスチックは共存する中でも水平リサイクルが可能
・食品添加物や農業用途に広く用いられている安価な原料から製造

 理化学研究所(理研)などの国際共同研究チームは、海水中などで溶ける新たなプラスチック「超分子プラスチック」の開発に成功した。容易に原料にまで解離し、生化学的に代謝されるため、環境汚染や人体への悪影響が問題となっているマイクロプラスチックが生じない。世界で年間4億トン以上生産されるプラスチックは、リサイクルされているのは9%以下であり、残りは燃焼・廃棄されている。燃焼に伴い温室効果ガスが発生し、化石資源由来であるため回収・分類・分解・再利用などで多大なエネルギーを要する。一方、超分子プラスチックは食品添加物や農業用途に広く用いられている安価な生化学的な物質代謝を受ける2種類のイオン性モノマーを用い、モノマーによっては難燃性で温室効果ガスを出さず、遺伝毒性も持たない。土壌の上に置いておけば土壌に吸収される。成形加工性、耐熱性、高い力学特性など、従来のプラスチックに匹敵、あるいはそれらをしのぐ性能を備えているため、従来のプラスチックの代替材料として期待される。「夢の新素材」の特徴、想定される用途、そして実用化に向けた動きについて、理研 創発物性科学研究センター 創発ソフトマター機能研究グループ グループディレクターで東京大学卓越教授の相田卓三氏に話を聞いた。

●目次

世界ではプラスチックの使用に制約

 研究チームは、生化学的な物質代謝を受ける2種類のイオン性モノマーを室温の水中で混合した。水素結合で強化された静電相互作用(塩橋)により2種類の原料が互いに接着し、架橋構造体を形成すると同時に、この混合物は上相と下相に相分離を起こす。上相(水相)はモノマーの無機対イオンを取り込み(脱塩)、下相は塩橋によって生成した架橋構造体がつくる凝縮相である。この相分離により、架橋構造が安定化して、塩を外部から添加しない限り、架橋構造体から原料への解離ができなくなる。この凝縮相を分離して乾燥させると、無色透明で超高密度のガラス状超分子プラスチックがほぼ定量的に得られることを発見した。

 超分子プラスチックは、堅固でありながら、モノマーによっては加熱により容易に成型加工することができ、複雑な形もつくれ、既存のプラスチックと遜色がない物性が確認された。一方、塩水に入れると、原料モノマーにまで速やかに解離し、バクテリアなどによる生化学的な物質代謝が可能となるので、マイクロプラスチックを形成しない。原料モノマーの一つのヘキサメタリン酸ナトリウムは、食品添加物や農業用途に広く用いられているうえに安価。もう一つの原料モノマーである硫酸グアニジニウムの一部は天然由来のアミンから合成することができ、両原料モノマーに含まれているリンや窒素は肥料として重要だ。

 今回、超分子プラスチックの開発に取り組むに至った背景について、相田教授は次のように説明する。

「世界では『サステナビリティ(持続可能性)』が共通のキーワードになっており、温室効果ガス排出やマイクロプラスチックの問題から、欧州ではプラスチックの使用にさまざまな制約が出てきています。マイクロプラスチックはヒトの体内に蓄積されて、脳に達するとアルツハイマー型認知症の原因になるとも近年では指摘されています。世界では毎年、大量のプラスチックが製造され、一部が海洋に廃棄されており、欧州では規制の動きが強まる一方で新興国では安価なプラスチックへの需要が増加しており、今後も世界における製造量は大きく伸長していくと予想されています。

 こうした環境問題を未来の子どもたちに残してよいのか、ということが、科学者にとっても世界にとっても非常に大きな問題になっているわけです。そこで我々は新しいプラスチックの開発に取り組み、昨年11月に『サイエンス誌』に発表しました」

“鍵が開く”ようにして原料モノマーに戻す

 そもそもの発想の起点は何だったのか。

「プラスチックはモノマー同士の結合が半永久的で壊れないということになっていますが、もしこの結合を可逆的、リバーシブルにしたらどうなるのか。プラスチックは容易にモノマーに戻せるようになりますが、力学的に弱いプラスチックしか得られないでしょう。結合の可逆性に鍵をかけ、プラスチックに十分な強度を維持させながら、必要に応じて鍵を開け、モノマー分子に戻せるようにすれば、物質代謝がおこるようになり、問題が解決するはずだと考えました。モノマーが炭素を含まなければ、温室効果ガスである二酸化炭素を排出することもありません」(相田教授)

 リサイクルに伴うプラスチックの弱点も解決するという。

「従来のプラスチックは無限にリサイクルできるわけではありません。なぜかというと、リサイクルの工程で原料にまで戻しているわけではなく、粉々に砕いて溶かして成型しているためです。例えばリサイクルしてポリエチレンの白い容器をつくった場合、最初の強度は出ません。一方、超分子プラスチックは原料モノマーにまで戻す(水平リサイクル)ことが可能ですので、毎回100%新品のプラスチックをつくることができます」(相田教授)。

海外の企業から大きな反響

 どのような用途が想定されるのか。

「できればパッケージングなど、廃プラスチック問題の原因になっている部分に使えるように磨き込んでいきたいと思っています。廃プラスチック問題を少しでも軽減できれば本望です。世界の耕作地の3分の1は農業ができない土壌になっているのですが、肥料に使われているモノマーからできた超分子プラスチックは、農業用地の拡大に貢献できるかもしれません。いずれにせよ、従来とは全く違った価値観で考える必要があります。プラスチックが発明されてから約100年がたち、改良が重ねられ低コストで製造できるようになったことで、業界全体がコンサバティブになっており、マイクロプラスチックのような問題が発生しても“現状を変えたくない”という力が働きます。ですが、特に欧州などでは環境負荷低減に関する基準を守らなければ企業はビジネスを展開できないという状況になりつつあり、企業が本気で取り組む必要に迫られています。

 全く表面を加工せずに使うと、汗が垂れただけで溶けてしまうということが起こりえるかもしれませんが、今のプラスチックを100%、超分子プラスチックに置き換えるのは容易ではないと思います。塩水に触れない環境で利用されるプラスチックも多々あります。建築素材やインテリア、壁の中に入っているものなどですね。ラミネーションやコーティングをせずにそのまま使える用途も少なくないと考えています。現在はできるだけ種類を増やし、触り心地の改良などを含め、多様なニーズに応えられるように努力をしています」(相田教授)

 気になるのが、実用化に向けたロードマップだ。

「日本よりも海外の企業からの反響が大きく、大小80社ほどから問い合わせがありました。大手の海外ベンチャーキャピタルなども興味を示しています。我々自身が製造会社を作るというかたちではなく、製造技術を有する企業と提携してプロモーションするかたちを想定しています。実用化が始まるメドとしては、個人的には3年後くらいかなというイメージを描いています」(相田教授)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=相田卓三/東京大学卓越教授)

医療や農業、アフリカで=日本企業、TICADで商機を探る

 横浜市で22日まで開かれた第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に合わせたビジネスイベントで、日本企業各社は医療や農業など幅広い事業を展示した。日本ならではの技術やサービスでアフリカに進出しようと商機を探る各社の展示を、訪れたアフリカのビジネスパーソンが食い入るように見たり、説明に耳を傾けたりしていた。

 豊田通商は、トヨタ自動車のスポーツ用多目的車(SUV)「ランドクルーザー」を改造したワクチン保冷輸送車を展示。ワクチンは熱に弱く、遠隔地に届くまでに一定の温度を超えると使えなくなってしまうが、この車両は電源がなくても約16時間冷蔵庫が稼働できるという。ケニアから来た男性は、「輸送で日本企業と提携できないか機会を探している」と、担当者と真剣に意見交換した。

 富士フイルムは、バックパックで持ち運べるX線撮影装置を公開。アフリカでは都市部の病院でしか結核の検査ができず、地方で感染が拡大してしまうという問題がある。装置は約4キロと軽量で充電式となっており、地方での検査の普及を後押しすることが期待される。
 NECは、アフリカでのコメ栽培で、かんがい設備や栽培品種の変更といった気候変動への対策を導入した場合の投資効果を、人工知能(AI)の活用により分析した成果を披露した。

 主催した日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、イベントには約200社・団体が出展。商慣行や法制度の違いからアフリカビジネスは容易でないとの見方も多いが、担当者は「信頼できる連携先を見つけることが重要」と話していた。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/22-15:30)

渋谷パルコ、インバウンド比率4割達成の秘密…業績が過去最高、原点回帰と大改装が成功

●この記事のポイント
・大改装をへて2019年に新装オープンした渋谷PARCO、取扱高は過去最高を更新
・全取扱高に占めるインバウンド分の比率は4割に
・従来パルコが一番の強みにしていた価値に原点回帰し、そこに立脚した店作り

 大改装をへて2019年に新装オープンした渋谷PARCO(パルコ)が好調だ。25年2月期の取扱高は前期比22.5%増の439億円と過去最高を更新。注目すべきは高いインバウンド集客力だ。全取扱高に占めるインバウンド分の比率は4割に達するという。改装後6年をへて、いまだに渋谷パルコが国内・海外の客を引き寄せる秘密について、専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

本来のパルコの文化に戻った

 渋谷パルコの売上高が伸びている理由は何か。経営コンサルタントでムガマエ株式会社代表の岩崎剛幸氏は次のように分析する。

「従来パルコが一番の強みにしていた価値に原点回帰し、そこに立脚した店作りをきちんとやり始めたという点が大きいのではないでしょうか。パルコという商業施設は、もともと“ちょっと変わった、他ではあんまり見たことがないような、売れるかどうかもよくわからないようなモノでも、積極的に扱う”という特徴を持っていました。ですから百貨店とは少し違い、いわゆるファッションビルの先駆け的な存在として、最先端のファッションを提案したり、通常では大型の商業施設には入れないようなテナントを入れたりということで、個性を出していました。ですが、こうした“新しいものをどんどん生み出していく”という文化が徐々に薄れて、平均的な施設になり“以前はもっとチャレンジングだったのに”“最近は普通だよね”というイメージが広がっていたなか、渋谷パルコの大改装で原点に戻ったという印象を受けます。ですので、建物の建て替えが成功したというよりは、本来のパルコの文化に戻ったことが、成功につながっているということではないでしょうか」(岩崎氏)

 それは、具体的に店舗内のあらゆるところに表れているという。

「まず、地下のレストラン街ですが、『CHAOS KITCHEN(カオスキッチン)』というその名のとおり、あまり見たことがないようなお店ばかりで構成されており、本当に混沌としています(笑)。和食なのか中華なのかアジアなのかヨーロピアンなのかよくわからない、いろんなものが入り混じった飲食街となっています。1階は一般的な百貨店同様にラグジュアリー系ブランドのフロアですが、フロア名は『SHŌTENGAI-EDIT-TOKYO』。フロアコンセプトは「商店街」です。通常だとそのようなコンセプトであればラグジュアリーブランドは出店しないものですが、“今回の渋谷パルコのコンセプトであれば出てもいい”という判断で出店しているのでしょう。

 フロア構成の特徴としては、通常の百貨店は食品、婦人服、高級ブランド、紳士服、子供服、家具とジャンル別のフロア構成となりますが、渋谷パルコは2階はモード&アート、3階はアドバンスド・コンテンポラリーなどとテーマ別に分類されており、さまざまなジャンルの店舗をミックスしてお客に提案することで、逆に好まれるというか、“なんかよくわかんないけど、面白いね”というイメージを抱かせることに成功しています。このテーマ別のフロア構成が、パルコの面白さを表現しています。“ジャンルレス”“ジャンルミックス”で、バラエティに富む要素を組み合わせていくということにチャレンジしている点は、パルコらしいところだと思います」(岩崎氏)

各店の地道な努力

 では、インバウンドを多く惹きつけている要因は何か。

「もともとパルコはニッチなものを見つけて紹介をするというのが強みでしたが、今の渋谷パルコは“グローバル・ニッチ”を魅力の一つになっています。単なるニッチではなく、世界を視野に入れたニッチです。例えばラジコンカーのお店が入っていますが、ラジコンカーにはコアなファンが一定数おり、日本人であれば小学校の頃にラジコンカーで遊んでいた50~60代がターゲットになりますし、海外にも日本のラジコンカーのファンはおり、世界で見ると大きなマーケットなんです。『シルバニアファミリー』のショップもありますが、“シル活”という言葉があるように、シルバニアファミリーも国内のみならず海外でも人気が上昇しており、購入している客層の2割程度が13歳以上といわれています。大人が購入して写真を撮ってSNSにアップしたりして、人気がグローバルに広がっていきそうな雰囲気になっているんです」(岩崎氏)

 インバウンドの集客を意識した、入居するお店自身の努力も功を奏しているという。

「小さな領域を扱っている専門店は、世界に向けて売っていかないと存在できないという意識を持っており、各店が自発的にグーグルマップ上での口コミの評価を上げるような地道な努力をコツコツ重ねています。例えば地下1階の『Jikasei MENSHO』というラーメン店は、グーグルマップの口コミが3000件近くついて4.8という高い評価を得ています。コメントをみると、海外の人たちがすごく褒めています。

 このようにグーグルマップ上でたくさんの人たちにコメントをもらえるような情報発信も一生懸命に行い、それを見た海外の人たちが“評判が良さそうだ”“面白そうだ”ということで来るようになる。そういうお店が渋谷パルコにはたくさん入居しているので、もしかしたらインバウンドの方々は、そこがパルコかどうかは意識しておらず、面白そうな店があるから、そこを目的に来て、結果的に渋谷パルコ全体の外国人客の増加につながっているのかもしれません」(岩崎氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩崎剛幸/経営コンサルタント、ムガマエ株式会社代表取締役社長)

なぜ自動車開発でゲーム開発技術の活用が加速?ゲーム技術者から自動車技術者への転身は増えるのか?

●この記事のポイント
・自動車のSDV開発に、ゲーム開発の知見が取り入れられ始めている
・一見すると関係が薄いように思えるゲームと自動車の技術は、どのように融合しつつあるのか
・日本の自動車関連ソフトウェアの技術は、グーグルやアップルに負けていない

 次世代自動車の主要技術になるといわれるSDV(ソフトウェア定義車両)の開発に、ゲーム開発の知見が取り入れられ始めている。セガのヒットゲームタイトルの元メインプログラマーとして知られるエンジニア・近藤文仁氏は今、SDVの技術開発に携わっている。一見すると関係が薄いように思えるゲームと自動車の技術は、どのように融合しつつあるのか。また、自動車業界ではソフトウェア技術者の獲得競争が繰り広げられているが、ゲーム業界から自動車業界へ転身するエンジニアは増えていくのか。そして、日本のSDVの進化の展望と課題とは。近藤氏への取材を交えて行ってみたい。

●目次

ゲーム業界が培ってきたソフトウェア・デファインドの知見

 現在はCRI・ミドルウェアのモビリティ事業部副部長というポジションを務める近藤氏は今、自動車開発の世界で何に取り組んでいるのか。

「弊社モビリティ事業部のなかで私の役割は2つあり、1つが開発技術の統括役です。どのような技術を開発して、それをモビリティ業界のなかでどのように活用していくのかをマネジメントする役割です。弊社は音と映像の会社ですが、車にはウインカーや通報・警報装置のように音を出すシチュエーションがたくさんあり、そうした分野の技術提供をしています。映像に関してはメータークラスターの映像をどのように表示させれば、もっとスマートな表現ができるのかといった視点で、モビリティの進化に関する技術開発を行っています。

 もう一つの役割が、テクノロジーエバンジェリストです。私が携わってきたゲームクリエイターという職種は、ソフトウェアを通じてユーザーに感動体験を提供するという仕事で、今はそのゲーム開発の技術が自動車業界にどのような価値をもたらすのかを検証して広めていく役割を担っています。ゲームというソフトウェアの価値は、ゲーム機の発売後に提供されるコンテンツとして形づくられていくことが大半です。ハードウェアの機能をソフトウェアが制御し、リリース後も機能追加・性能向上を重ねる技術、いわゆる『ソフトウェア・デファインド』ですね。ソフトウェアで定義されるこの技術は、約30年前からゲーム業界では当たり前のもので、モビリティでも使えるはずなんです。そしてゲーム業界にはソフトウェアの力だけで勝ち抜いてきた人々の知見がある。元ゲームクリエイターとして、そういった知見をモビリティ業界に還元して社会貢献していこうとしています」

ソフトウェアの力でユーザーの快適さを生む技術が必要

 ゲーム開発の技術を、どのように自動車技術の発展に活用するのか。

「車やバイクのメータークラスターでは、すでにゲームのテクノロジーを転用したものが動いていますが、たとえば“サクサク動く”という部分にゲームの技術は非常に役立ちます。30年くらい前のコンピュータはシングルコアで100MHzぐらいで動いて、今の車載コンピュータよりも性能はうんと低かった。でも当時からゲームはサクサク動いていたんですね。今の大衆車に搭載されている半導体はエヌビディア製などに比べると、低価格な分、性能が低いですが、それでもユーザーに対する体験価値としては“サクサク動く”ことを基本にしており、実際の性能だけでは測れないユーザーの満足度を上げるという面で圧倒的な強さを持っています。

 ハードウェアの技術だけで車が競争していた時代を越え、一台あたりの機能や価格などさまざまな部分が踊り場に達した後に、やはりソフトウェアの力でユーザーの快適さを生む技術が必要となってきます。なのでゲーム業界の技術を活用していくというアプローチではなく、実は自動車業界側がゲーム業界側に寄ってきています。

 その理由は、自動車業界がサードパーティを取り込んだ上で、これまで完成車メーカーだけでは思いつかなかったようなコンテンツを供給してもらおうという動きが活発化してきているからです。自動運転技術が進展していくなかで、可処分時間が発生した時に、ユーザーにどのような価値を提供できるのかという話になってくるので、その時にエンタメ系のコンテンツを提供したいといった、従来の車の世界であり得なかった要素が発生してきます。車の走る・曲がる・止まるに関するソフトをゲーム業界が提供するのではなく、エンタメ系のソフトそのものを車で動かして、楽しさを追求していくようなところにゲーム業界が持つエンタメの技術を入れていきましょうという話なんです」

競争領域と協調領域を分けて考える

 今、自動車業界ではソフトウェア開発エンジニアへの需要が高まっているが、今後ゲーム業界のエンジニアが自動車業界に流れ込む動きが強まる可能性はあるのか。

「エンタメを志して『ゲームをつくるのが大好きです』という技術者たちが『車のメーターをつくりに行きませんか』と言われて、行くかといえば、行かないですよね。やはり、そこには異業種の壁というのはどうしてもあると思います。自動車業界側としては、ゲーム業界の技術を車でも使えれば、よりユーザー体験を向上できるのではないかという期待がありますが、ゲーム業界にいるエンタメ系の人たちは『何をつくっていくか』という目的を重要視するので、『手段を提供してください』と言われても行かないでしょう。

 もう一つ、ビジネスという側面で見たときに、圧倒的に足りないのは分母の数なんですね。世界にはスマートフォンが約40億台、家庭用ゲーム機が約2億台ある一方、ゲーム業界の人たちが実力発揮できるようなゲームが動く車は1400万台ぐらいだとみられており、ビジネスとしてなかなか成立しにくい。そういうところには、なかなかエンジニアは行きにくいでしょう」

 日本の自動車のソフトウェア領域は現状、アップルやグーグルなどのOS市場で高いシェアを持つ海外プラットフォーマーに縛られている面が大きいが、日本のSDVの競争力向上のためには、どういう動きが必要なのか。

「日本人はアップルやグーグルと聞くと『すごい』という感覚を抱きがちですが、自動車分野のソフトウェアに関していえば、日本のメーカーは自分たちが技術的に負けているという感覚は持っていないように感じますし、日本の自動車業界はこれまで蓄積してきたノウハウに自信を持つことが重要です。日本勢でしっかりやろうという動きになっているのは、デジタル赤字の問題解消のためにも日本全体にとって良いのではないでしょうか。

 日本は世界市場で自動車、そしてゲーム、アニメ、カラオケを含めたエンタメが強いので、そこが掛け合わさる領域なら勝つに決まっているんだという信念を持つべきですよね」

 では、日本のSDVの進化に向けた課題は何か。

「競争領域と協調領域を分けて考えるべきです。今でこそエンジン開発はメーカー各社にとって協調領域になりつつありますが、競争領域だった時代には各社ががっつりと自社内で技術を抱えて育てていこうとしていました。SDVという領域はあまりにも広すぎて、自動運転は競争領域かもしれませんが、サードパーティを巻き込んでやる部分は協調領域なんです。SDVの一部が競争領域だから自社で全部閉じて開発すべきという考えが、完成車メーカーの間でもまだ残っており、そうするとサードパーティが入ってきにくくなります。

 私も参加させていただいている、名古屋大学が立ち上げたSDV標準化を推進する『Open SDV Initiative』はHMI (ヒューマンマシンインターフェース) アプリケーションの部分は協調領域として定義書も全部公開してオープンにしています。自動車の業界団体『JASPAR』も協調領域はきちんとオープンにしようという活動をしており、競争領域と協調領域をきちんと分けて進めていくことが重要だと考えています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=近藤文仁/CRI・ミドルウェア)

ハイケム、燃料電池バスの導入支援=サラワク州企業と覚書―マレーシア

【クアラルンプール時事】化学品の輸出入と製造を手掛けるハイケム(東京都港区)は22日、マレーシア・サラワク州の大手バス運行会社ビアラマス・エクスプレスと燃料電池バスの導入、推進に向けて覚書を締結したと発表した。

 サラワク州には豊富な水力資源を活用した水力発電所が稼働しており、二酸化炭素を排出しないグリーン水素製造に大きな可能性がある。直近では水素燃料供給施設の試験運用や水素を燃料とする公共交通機関の導入などが積極的に進められているという。

 ハイケムは、ビアラマスの地域バスにグリーン水素製造や水素輸送の技術を提供し、環境に優しい交通手段として燃料電池バスの導入を支援する。「州の持続可能かつ脱炭素化を目指す交通システム実現に向けた重要な一歩になる」と説明した。

 ハイケムは5月、サラワク州政府系企業サラワク・ペトケムと協力覚書を締結。ハイケムが持つ合成ガスからエチレングリコールを製造する技術を活用し、州の石油化学工業団地プラントを開発・建設を計画している。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/22-15:30)

“物理モデル革命”で製薬プロセスを最適化=Auxilartが挑む製造DXと市場戦略

●この記事のポイント
・Auxilartは、物理モデルに基づくデジタルシミュレーションで医薬品の製造プロセス開発を効率化し、コスト・時間・人手の大幅削減を可能にしている。
・製薬・創薬・デジタルの知識を統合した強みを持ち、製薬会社には技術提供、CDMOとは協業という柔軟な市場戦略を展開している。
・この技術は医薬品供給不足の解消にも寄与し、創薬業界に大きな変革をもたらし得る。

 東京大学発のベンチャーとして誕生したAuxilart(オキシルアート)株式会社は、医薬品製造のプロセス開発を効率化するデジタルシミュレーション技術を武器に、創薬業界の課題に真正面から挑んでいる。コスト・時間・人手の負担が重くのしかかる製薬の現場に、彼らはどのような変革をもたらそうとしているのか。Chief Operating Officerの沖田慧祐氏に話を聞いた。

●目次

創薬の“最後の壁”を効率化

 Auxilartが手がけるのは、医薬品の製造プロセス開発の効率化だ。

「私たちの強みは、物理モデルに基づいたデジタルシミュレーション技術を用いて、コストと時間を大幅に削減できるところにあります。もともとの技術は、東京大学 杉山・Badr研究室で開発されたもので、そこから事業化しました」(沖田氏、以下同)

 製薬業界では、医薬品を上市するまでに多大なコストと時間がかかっていることはよく知られている。その中であまり知られていないのが、医薬品の製造プロセス開発の工程だ。製造プロセス開発とは、医薬品を安全かつ安定・大量につくる製造方法を設計・最適化する工程である。この製造プロセス開発では、これまで、物理的な実験を何千回と繰り返しながら製造プロセスを最適化しなければならない。1つの医薬品に3000回もの実験、100億円規模のコスト、6年近くの歳月がかかることも珍しくない。

「それに比べ、私たちは製造プロセスにおける重要なパラメーター(温度、撹拌速度、濃度など)をシミュレーション上で検証・最適化できます。ほんのわずかな調整でも、数千リットル規模の生産では大きな影響が出ますから、これは極めて重要です」

“分断”された知識を統合するチームの強み

 大手製薬会社やCDMO(医薬品製造受託機関)との違いは何か――。沖田氏によると、それは“知識の統合力”だと言う。

「製薬会社の内部は縦割り構造になっていて、製造・創薬・デジタル、それぞれの部門が別々に動いているケースが多いんです。製造プロセス開発をデジタルシミュレーションで行うためには、実はそれらすべての知識が必要になる。私たちはその統合的な知見を、大学での研究から10年かけて蓄積してきました」

 それゆえ、Auxilartには“スタートアップでありながら大手にない競争優位性がある”と自負する。

【市場戦略】製薬会社には“提供”、CDMOとは“協業”

 では、同様の技術を大手企業が後追いで導入してくる可能性はないのか。この問いに対し、沖田氏は明快に答える。

「私たちは製薬会社とCDMOで戦略を分けて考えています。製薬会社には私たちの技術を直接“提供”していきます。一方で、CDMOとは一緒に製薬会社向けのプロジェクトを進める“協業”の形を取ります」

 CDMOは製薬会社からの受託によって動く立場であるため、自ら積極的に新しい技術を導入するケースは少ない。Auxilartはこの構造を理解したうえで、柔軟に戦略を切り分けているという。

医薬品供給不足にも貢献できる技術

 近年、医薬品の供給不足が社会的課題として注目されている。この問題にも、Auxilartの技術は一定の貢献ができるとの考えを示す。

「そもそも製造キャパシティが足りていないのが根本的な問題なんです。そこに対して、製造プロセスの開発が短縮されれば、新薬の生産開始までのタイムラインを大きく縮められます。これは中長期的に見て、非常にインパクトのある改善につながるはずです」

 Auxilartの技術は、製薬業界に確かな革命を起こしている。

東大IPCから起業支援を受ける

 Auxilartは2024年度、東京大学協創プラットフォーム株式会社(東大IPC)のアカデミア共催起業支援プログラム「1stRound」の第10回支援先に採択された。

 東大IPCは2016年、東京大学の100%出資で設立された投資事業会社で、主に「投資」「起業支援」「DEEPTECH DIVE」の3つの事業を行っている。「1stRound」は国内最大規模のコンソーシアム型インキュベーションプログラムで、それに採択されれば、スタートアップ企業が投資家から初回の資金調達(1stRound)をスムーズに受けられるよう、東大IPCから活動資金、専門家によるサポート、オフィス、ラボ、クラウドサービスなど、各種のリソースが提供される。

 東大IPC・1stRound Director 長坂英樹氏は、Auxilartの持つ技術の社会的意義や将来性について、次のように分析する。

「Auxilartは、わずかな実験データから製薬プロセスを数理的に再現・最適化する独自技術により、膨大な時間とコストを要する新薬開発の在り方を根本から変えようとしています。従来のAIを超える高い汎用性と外挿性を備えたモデルは、製薬業界にとどまらず、化学・再生医療など幅広い分野への応用可能性を秘めています。すでに海外大手製薬企業との連携が進む中、今後はSaaS化を通じてスケール性も確保し、プロセス開発のインフラとしての地位を確立することが期待されます。人々の健康に直結する産業において、創薬のスピードと質を飛躍的に高めるAuxilartの挑戦は、医療の未来そのものを変える可能性を持っています」

(取材=UNICORN JOURNAL編集部)

企業情報
社名:株式会社Auxilart
設立:2023年
所在地:東京都文京区本郷
代表者:代表取締役 CEO キム・ジュンウ
事業内容:製薬プロセス開発におけるデジタルシミュレーションツールの提供
URL:https://auxilart.com

「アップルがAI開発で出遅れている」という誤解…そもそもグーグルやOpenAIとは“目指すゴール”が異なる

●この記事のポイント
・AI開発の領域においてアップルが出遅れているといわれている
・アップルはオンデバイス処理やプライベートクラウドAIを軸に、ユーザーのプライバシーを守りながら体験を設計
・ChatGPTやGeminiのような汎用クラウド型モデルとは異なるアプローチを採用

 今月に「GPT-5」「GPT-oss」を発表して話題を呼んでいるOpenAI、「Gemini」の新機能を相次ぎリリースするグーグル、日本企業の間でも急速に普及している「Microsoft Copilot」を手掛けるマイクロソフト、「Llama」などに巨額の投資をするメタなど、大手テック企業による競争が熾烈化するAI開発の領域において、アップルの存在感が薄いといわれている。昨年以降、iPhoneなどアップル製品で順次リリースされている生成AI「Apple Intelligence」への評判はさまざまで、AI機能を強化した音声アシスタント「Siri」のアップグレード版のローンチも遅れているとされる。今年に入って以降は、主要なAIエンジニアの退社が相次いでいるという報道や、SiriにOpenAIやアンソロピックの技術を活用することを検討しているという報道も出るなど、AI開発に苦戦しているという印象を与える情報が目立つようになっている。スマートフォン市場では世界を制したアップルは、実際のところAI開発に苦戦しているのか。また、苦戦しているとすれば原因は何なのか。専門家への取材を交えて追ってみたい。

●目次

「LLM公開競争」には参加していない

 毎年秋恒例のiPhone新商品の発売。ネット上では今年の新作「iPhone 17」の発売日をめぐってさまざまな情報が飛び交い期待が高まっているが、そんなアップルをめぐってここ数年、指摘されているのがAIモデル開発の遅れだ。実際のところ、特段に遅れている状況なのか。システムエンジニアでライターの伊藤朝輝氏はいう。

「OpenAIやグーグル、メタが大規模なLLMを次々とリリースしているのに対し、アップルは長らく独自モデルを外部に公開してきませんでした。そのため、外部からは『出遅れている』と見られがちです。ただ、実際には技術力の不足というより、戦略上の違いが大きいと考えられます。アップルは、他社のようにAPI経由やクラウド上でLLMを提供するのではなく、iPhoneやMacといった自社デバイス上で安全に動作させることを重視しています。Apple Intelligenceとして展開しているように、オンデバイス処理やプライベートクラウドAIを軸に、ユーザーのプライバシーを守りながら体験を設計しているのです。これは、ChatGPTやGeminiのような汎用クラウド型モデルとは明らかに異なるアプローチです。つまりアップルは、いわゆる『LLM公開競争』には参加しておらず、そもそも異なるゴールを設定しているという印象です」

 Siriの評判がイマイチといわれることもあるが、それほど使い勝手や性能はイマイチなのか。

「Siriが『使えない』と感じられてしまう背景には、複数の要因があると考えられます。まず、日本語対応においては語順や敬語、曖昧な表現への理解力が英語と比べてまだ十分とは言えません。たとえば『これ、あとで教えて』といった曖昧な命令に対して、意図通りの応答が得られないことが多いのです。

 Apple Intelligenceの登場により、Siriの日本語処理や文脈理解は改善されつつあります。しかし、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)と比べると、自然な対話や柔軟な応答という点でまだ差があります。そのため、こうしたLLMを使い慣れているユーザーにとっては、Siriの一問一答的なやり取りや、『Webで検索します』といった応答が物足りなく感じられるのは無理もありません。

 アップル製品自体の完成度が高いために、Siriの古さや限界が余計に際立って見えるという側面もあります。実際には、音声処理やプライバシー設計といった『見えにくい部分』での進化も続いていますが、『時代の期待値にまだ追いついていない』という印象は拭えない状況です」(伊藤氏)

「他社技術をアップル流の体験として溶け込ませる」手腕こそが、アップルの強み

 そもそも、アップルは自前で「LLM Siri」のようなLLMを開発する必要があるのか。SiriなどのAI機能に他社のLLMを採用したとしても、アップルの競争力には大きな影響はないのではないか。

「短期的には、ChatGPTのような外部LLMを活用することで、アップルは十分に競争力を維持できると考えられます。実際、現在のApple Intelligenceでは、文章生成や校正の場面でChatGPTをOSレベルからシームレスに呼び出せるようになっており、ユーザーは特に意識せずにその恩恵を受けられます。この『他社技術をアップル流の体験として溶け込ませる』手腕こそが、アップルの強みです。重要なのは『どのLLMを使うか』ではなく、『それをどう体験として提供するか』なのです。

 ただし、長期的にはアップル自身がLLMを設計・制御できる体制を持つことが不可欠だと思います。アップルはハードウェアとソフトウェアを一体で開発して高い完成度を実現してきた企業です。同じようにAI体験も、デバイスやOS、プライバシー設計と深く結びつく領域だからこそ、最終的には自社製のLLMが必要になるでしょう。今は過渡期であり、外部との協業を活かしながら独自路線を着実に進めている段階だといえます」(伊藤氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=伊藤朝輝/ライター、システムエンジニア)

BPaaSで顧客対応・カスタマーサービスの品質・効率向上…主要サービス4選と導入成功のポイント

●この記事のポイント
・カスタマーサービスの効率的な運用とコスト管理が課題、BPaaSの活用が注目
・問い合わせ対応、クレーム処理、チャットサポート、ヘルプデスク運営、顧客データ管理などをカバー
・主要な顧客対応向けBPaaSサービス4選

 現代の企業経営において、顧客満足度は競争力の要となっている。カスタマーサービスは顧客との重要な接点でありながら、効率的な運用とコスト管理が課題だ。こうした背景から注目されているのが「BPaaS(Business Process as a Service)」である。クラウド技術とアウトソーシングを融合し、AIや専門スタッフの支援を活用して、迅速かつ高品質な顧客対応を実現するサービスだ。本記事では、顧客対応業務向けBPaaSの概要とメリット、代表的なサービスを紹介する。

●目次

 BPaaSはクラウドベースで業務プロセスを提供し、SaaSとBPOを組み合わせたサービスモデルだ。顧客対応では問い合わせ対応、クレーム処理、チャットサポート、ヘルプデスク運営、顧客データ管理などをカバーする。さらには、AIチャットボットによる自動応答や専門スタッフによる複雑案件対応を組み合わせ、質と効率の両立を図る。

【主な特徴】
・クラウド運用によるスケーラビリティ:リアルタイムデータ管理とリモートワーク対応
・AIと自動化の活用:定型問い合わせの自動処理で人的対応を最適化
・専門家によるサポート:高品質な対応を保証しエスカレーションにも対応
・柔軟な料金体系:初期投資を抑えつつ業務量に応じた課金

 世界市場では2022年から2032年にかけて大幅な成長が見込まれ、国内企業でも導入が加速している。

主要な顧客対応向けBPaaSサービス4選

 ここからは、国内で普及している主要な顧客対応向けBPaaSサービスを紹介する。

1. Salesforce
セールスフォース・ドットコムが提供するクラウド型CRMプラットフォーム。営業、マーケティング、カスタマーサービスを一元管理し、AI(Einstein)を活用した自動化やデータ分析で業務効率化を実現する。マルチチャネル対応や高いカスタマイズ性で、中小企業からグローバル企業まで幅広く利用可能。

2. Zendesk
チケット管理、AIチャットボット、マルチチャネル(メール、チャット、電話、SNS)で顧客対応を効率化するサービス。Freddy AIによる自動応答や分析ダッシュボードにも対応。中小企業から大企業まで対応し、低コストで導入可能な点も人気。

3. ServiceNow
ITサービス管理(ITSM)や顧客対応を効率化し、AI駆動のワークフローで問い合わせの自動化やケース管理も支援。セルフサービスポータルや外部システム(CRM、ERP)との統合が特徴。マルチチャネル対応で顧客体験を向上させ、中堅・大企業向けのBPaaSとしてDXを推進する。

4. ビジュアルIVR
NTTコムが提供するクラウド型サービス。顧客はスマートフォンやPCでメニューをタップし、FAQやチャットボットで自己解決可能となる。データベース連携に強く、高速メール配信や顧客管理を効率化。顧客体験向上とコールセンター負荷軽減を実現させている。

導入成功のポイントと今後の展望

 導入時は自社業務との適合性確認、厳格なセキュリティチェック、充実したサポート体制の確認が不可欠となる。また、料金体系の透明性も重要な判断材料だ。今後は生成AIや自然言語処理の進化で自動化・パーソナライズの精度向上が加速すると考えられるため、労働力不足が深刻化する国内市場において、BPaaSは競争力維持のカギとなるだろう。さらには、法改正やテレワーク普及によるニーズ拡大も追い風だ。

 顧客対応業務向けBPaaSは、AIとクラウド技術、専門スタッフの知見を活用し、効率的かつ高品質なカスタマーサービスを実現する。多様なサービスを適切に選ぶことで、企業は顧客満足度向上とコスト削減を無理なく両立できるだろう。DX時代の顧客対応の未来を切り開く重要なツールとして、今後も顧客対応業務向けBPaaSの普及が期待される。

(文=齋藤めぐみ/有限会社リーゼント、ライター)

【一次産業×脱炭素で地球を救う #2】牛のふん尿が、カーボンクレジットに。酪農・畜産の脱炭素最前線

「牛が地球を温めている」──そんな話を聞いたら、驚く方も多いかもしれません。

 畜産や酪農は、自然と共にある産業というイメージとは裏腹に、実は世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約14.5%を占めています。主要因は、牛のげっぷやふん尿に含まれるメタンや亜酸化窒素です。

 本連載【一次産業×脱炭素で地球を救う】では、これまで環境配慮とは縁遠いとされてきた一次産業の現場が、脱炭素とどう向き合っているのかを追っていきます。第2回は、畜産・酪農業界で始まった“クレジット創出”という変革を紹介します。

なぜ畜産・酪農が温暖化の元凶と言われるのか

 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の温室効果ガス(GHG)の総排出量の約14.5%は畜産由来。とりわけ牛は大量の水や餌が必要なほか、ゲップやおならにメタンが多く含まれ、家畜別のメタン排出割合の7割超を占めています。畜産分野の中でも、特に牛から出る排出量は年間約47億トン(CO₂換算)に上ります。これは中国に次ぐ、国レベルの排出量となっています。さらに日本国内では、約1500万トン(CO₂換算)が排出されており、そのうちの8割を乳用牛と肉用牛が占めています。

 しかし、一般には温暖化は製造業などの第2次産業が主因との印象が強く、畜産・酪農分野が温暖化の一因であるという認識は広まっていません。一時的に牛のげっぷによるメタン排出が注目されたものの、家畜のふん尿によるメタンガスの排出については、畜産・酪農従事者の間でも十分に認識されていないのが実情です。

 GreenCarbon株式会社の事業企画本部 国内企画部 事業部長 土居海斗さんは「第1次産業も温暖化の一因であり、改善の余地があることを畜産酪農の分野での共通認識としなければいけない」と話します。また、対応策が不足しているため、改善に向けた取り組みが進みにくいことも大きな課題だといいます。

ふん尿が「価値」に変わるメカニズムとは

 こうした課題に対し、GreenCarbonが挑むのが「家畜のふん尿の強制発酵によるJ-クレジット創出」です。ふん尿から発生するメタンガスや一酸化二窒素を削減し、その削減分をクレジットとして活用しています。

 従来は、ふん尿を集積し、半年程度かけて発酵する「堆積発酵」が主流で、この間、温室効果ガスが継続的に発生します。一方、強制発酵では専用の発酵設備を導入し、数日で発酵を完了させることで、温室効果ガスの発生を抑制できるのです。さらに、「バイオガス発電」や「放牧」など、発酵手法の工夫による温室効果ガス削減も進められています。

 この手法は、温室効果ガスの削減に止まらず、従来の畜産・酪農業界の課題解決にも貢献します。

 たとえば、以下のような課題に対応できます。

  • ふん尿から発生する悪臭
  • 飼料コストの高騰
  • 人手不足による作業負荷の増大

などの課題に対して強制発酵の導入により屋外でのふん尿集積が不要となり、発酵期間の短縮によって臭気も軽減されます。また、発酵管理作業の工数削減により、労働負担の軽減にもつながります。

 さらに、近年高騰が続く飼料コストへの対策にもなります。酪農家にとって、飼料コストは約半分を占めており、その飼料コストは16年間で2倍以上に高騰しています。この対策としても、副収入となるクレジット収益の確保や、強制発酵の副産物としての敷料(牛の寝床となるもの)が自家生産できる利点があります。

ほぼ初期費用なし導入可能、Green Carbonの農家支援モデル

 導入効果が高い一方で、設備導入にかかる初期コストの大きさや、強制発酵によるクレジット創出の仕組みが広く知られていない点が普及の障壁となっています。

 こうした状況を踏まえ、GreenCarbonでは次のようなアプローチを進めています。
「強制発酵設備を導入して2年以内の農家さんには、我々の家畜のふん尿由来J-クレジットの創出プログラムへの参加をお声がけしています。これは、クレジット登録が設備導入から2年以内でなければならないためです」と土居さんは説明します。

 設備を導入したもののクレジットの申請のやり方が分からない方、クレジットのことを知らず設備を導入していた方など、登録が可能な方はGreen Carbonが申請をサポートしているとのこと。

 さらに導入検討中の農家の方々に対しては、初期費用を抑えた導入スキームと、クレジット創出支援をセットで提供しています。「ほぼ初期費用なしで設備導入ができる仕組みを整えており、経済的支援とクレジット収益の両面からサポートしています。さまざまなスキームを作っていますが、現在は特に多くの乳牛を飼育している農家での展開をスタートしていますので、ぜひ一緒にクレジット創出を進めたい」と土居さんは語ります。

雪印メグミルク・北海道銀行との連携で挑む、クレジット創出プロジェクト 

 こうした取り組みに加え、GreenCarbonは雪印メグミルク、北海道銀行と連携し、酪農家への支援プロジェクトを開始しました。これにより、設備導入・申請手続きから、クレジットの創出・販売まで一貫して支援しています。雪印メグミルクは8年間にわたりクレジットを継続購入することを決定しており北海道銀行を通じて農家や販売先の拡充も見込まれています。

「農家さんが懸念する申請の煩雑さや販路の確保といった点を、我々が担うことで解消したい」と土居さんは話します。企業にとっても、安定したクレジット供給源となり得ます。

 これまで、酪農由来のJ-クレジットは過去10年間で約149トンの発行に留まっていましたが、本プロジェクトでは北海道だけで8年間に約1万1500トンの創出を見込んでいます。背景には、酪農由来のクレジット需要の高まりと、GreenCarbon申請・販売を一括で行うことで、創出の大規模化が可能になったことがあります。

 土居さんは「今回のプロジェクトは、全国展開の足掛かりになると考えています。今後は各地域の農家や金融機関、設備事業者と連携し、取り組みを広げていきたい」と意気込みを話します。

クレジットがつなぐ、一次産業とサプライチェーンの脱炭素連携

 脱炭素の取り組みが広がるなか、土居さんは「温室効果ガス削減元の可視化とカーボンインセット」が鍵だと語ります。

 カーボンインセットとは、企業が自社のサプライチェーン上の温室効果ガス削減を排出量に反映したり、削減支援を行ったりする仕組みのこと。たとえば、乳業メーカーが自社のサプライチェーン上にある酪農家が創出したクレジットを購入したり、設備投資を支援したりするケースがあります。そのためには、企業や農家がどれだけ排出を削減しているかを「見える化」する仕組みが必要です。

 現在、多くの業界がこの可視化に課題を抱えており、GreenCarbonでは今後、可視化を支える枠組みづくりをすすめていく考えです。

「GreenCarbon単独では限界があります。だからこそ、関係企業との連携や、これまで培ってきたクレジット創出のノウハウ、農家との信頼関係を生かし、脱炭素社会の実現に貢献したい」と土居さんは話します。

 今回の家畜のふん尿由来J-クレジット創出プロジェクトや、雪印メグミルク・北海道銀行との連携は、第一次産業の脱炭素化において、GreenCarbonがリードカンパニーとなる第一歩になるのではないでしょうか。

 畜産や酪農は、地球温暖化の「原因」から「解決の担い手」へと歩みを進めています。その背後には、現場に根差し、課題と向き合いながら新たな仕組みを築こうとする人々の努力があります。

 環境課題の解決と業界の持続可能性の両立──その両輪をまわすことこそが、今、一次産業に求められています。

※本稿はPR記事です。