折り畳んで「しまえる」布製の浴槽「バストープ」ヒットの秘密…シャワー派なら浴槽掃除が不要

●この記事のポイント
・LIXIL、折り畳んで「しまえる」布製の浴槽を備えた浴室空間「bathtope」がヒット
・従来のプラスチック型の浴槽と比べて約26%の節水を実現、脱炭素など環境負荷低減
・強度を備えたPET繊維と、防水性があるウレタンフィルムとの複層を素材として用い、約900gの軽い浴槽を実現

 LIXIL(リクシル)が昨年11月に発売した、折り畳んで「しまえる」布製の浴槽を備えた浴室空間「bathtope(バストープ)」がヒットしている。「夏場はシャワーだけ」という人は、取り外して「しまって」おけば、浴室を広く使えて浴槽の掃除が不要。浴槽の重さは900グラムで四隅をフックにかけるだけで設置でき、お湯に「つかりたい」ときだけ浴槽を取り付けるという使い方が可能。しかも、1600mmサイズの広い浴槽を実現でき、マンションなどで採用の多い従来の1216サイズのユニットバスと比較して、足を伸ばしてゆったりと入浴できる。200人で入浴テストを実施済であり、ハンモック形状なので首や肩回りを柔らかく受け止めてくれるのに加え、柔らかい繊維と防水フィルムの二重構造を持つ一枚の布「fabric bath」から作られており、柔らかく肌触りの良い生地が頭や背中を優しく包み込んでくれる。従来のプラスチック型の浴槽と比べて約26%の節水を実現できるため、脱炭素など環境負荷低減にもつながる。発売直後に見積件数は目標の5倍にも上ったとのことだが、浴槽付きでもなく、シャワールームでもない、新たなジャンルを切り開いた「バストープ」は、どのように生まれたのか。ヒット商品誕生のカギについて、LIXILへの取材をもとに追ってみたい。

●目次

従来のユニットバスはリサイクルが困難

「お風呂はもっと、自由でいい。」をコンセプトとして誕生した「バストープ」。たたんで収納できるリムーバブルな浴槽を備えた浴室空間という点が独創的だが、これまで存在しなかったタイプのユニットバスを開発・発売するに至った背景について、リクシルは次のようにいう。

「日本の入浴文化の未来を常に考えています。そのなかで日本の住宅に普及したユニットバスの今後の変化を深く考えています。従来のユニットバスはリサイクルが難しく、湯貯めや保温の際に多くの二酸化炭素(CO2)も発生します。今後シャワー浴が主流になったら、環境にも配慮しつつ、ユニットバスをどのように変化させればいいのだろうと考えました。また日本人にとって、疲れているときにお湯に浸かり、身体を癒すという習慣は切り離せないもの。近年の多様化するライフスタイルと、日本の入浴文化を両立できる空間を提供できないかと考え、取り外しできる浴槽というアイディアをストックしていました。タイミングよく社内のビジネスアイディアコンテストが始まり、応募し最優秀賞を獲得したことから、実用化に向けたプロジェクトが始まりました」

 商品の特徴などは前述のとおりだが、リクシルによれば購入者は以下のようなメリットが得られるという。

・シャワー浴と浴槽浴を自在に切り替え
・身体を包み込む、新感覚の柔らかい浴槽
・コンパクトな空間でも、足を伸ばして入浴可能
・浴室に隣接する洗面室も広々活用
・環境にも配慮、26%の節水を実現

包まれるような新しい感覚の入浴感を実現

 開発に際しては、やはり浴槽の布に関する部分に難しさがあったという。

「開発においては、手軽に取り外しができる重量と、布の強度のバランスを取ることに難しさがありました。取り外しを想定すると、女性でも手軽に扱えて、簡単に設置できる重さの浴槽であることが必要です。それと同時に、安定して人の体と体重、そしてお湯を支えることのできる布強度も重要となります。最終的には強度を備えたPET繊維と、防水性がありサラサラと肌ざわりの良いウレタンフィルムとの複層を素材として用い、約900gの軽い浴槽を実現しました。

 またハンモック構造の浴槽は、お湯を入れるとお湯の重量でテンションがかかり安定します。首や肩周りを柔らかく受け止めてくれるのも、この構造ならではです。さらに、ユーザーにご満足いただける入浴感を確立するため、社内外を合わせ延べ約200人の方に入浴していただき、テストを重ねました。これらの試行錯誤を経て、包まれるような新しい感覚の入浴感を実現しました」

賃貸マンションや民泊、戸建新築など多様な先から注文

 販売は好調とのことだが、どのような属性の購入者が多いのか。

「当初は、マンションのリノベーション市場をメインとし、都心部に住む単身者や共働きの夫婦、少人数世帯などをターゲットにしていましたが、実際は世代を問わず、賃貸マンションや民泊、戸建新築など多様な先から注文が入っています。(今後の拡販計画について)詳細はお伝えできませんが、既成概念を壊す、浴室を開放する、入浴時間を大切に感じてもらうなどをアイディアの軸に、今後も市場の反応を見ながら、新たな商品企画に取り組んでいきます。市場に一石を投じる中でさまざまな反応が得られているので、その情報も貴重な財産として次の計画に繋げていけたらと考えています」

 8月には、新たなグレードとして、隣接する空間とバススペースをシームレスにつなぐ細いフレームの引き違い戸を搭載した最上位グレード(Gタイプ)を市場投入した。デザイン性や個性のある商品の魅力が認められてのアップデートとなる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「令和の米騒動」の中で聞く、日本の食料システムと消費の意識 ―サステナビリティとプライシング①―

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「令和の米騒動」をきっかけに、近年注目を集める農産物の価格高騰や供給不安を含めた、生産から消費までをつなぐ食料システムの課題。国によって状況は異なるものの、「食料の物価高が生活を逼迫している」という現象は日本に限った話ではありません。

グローバル調査会社Toluna社が2025年6月に実施した13カ国の消費意識調査(Economic Sentiment Tracker)と同条件で比較できるよう、電通では同時期に日本版の調査(調査会社Toluna社)を実施(調査概要はこちら)。今回は、記事の前半で他国との比較、後半で日本のみで聴取した食に関する最新の消費意識をご紹介します。

<目次>
物価高は日本にとどまらない

米の価格高騰は一時的ではなく、食料システムの変革が必要

企業が農業支援をする、生産者とつながることへの期待

物価高は日本にとどまらない

6月中旬時点のウェブアンケート意識調査では「今後3カ月の経済の見通し」について、日本は50%が「悪化する」と回答し、「改善する」と回答した割合は1割未満でした。その他、「悪化する」という見通しが過半数だった国は、イギリス・フランス・アメリカ・カナダ・シンガポール・オーストラリア・タイでした。反対に「改善する」見通しが過半数だったのはインドのみでした。

今後3カ月の経済の見通し
2025年6月実施(日本のみ電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」、その他の国はToluna実施「Economic Sentiment Tracker」より。調査概要は記事の末尾を参照)

また、「もし3カ月以内に自己裁量での消費を増やすとしたらその条件は何か」も聴取したところ、多くの国で理由の1位に挙げられたのは「物価高がおさまったら」でした。物価高は日本だけの問題ではないことが改めて感じられます。

今後3カ月で支出を増やす条件
2025年6月実施(日本のみ電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」、その他の国はToluna実施「Economic Sentiment Tracker」より。調査概要は記事の末尾を参照)

グラフは割愛しますが、「先月と比べたお金を使う意識の変化」を聴取した設問では、14カ国すべてで「買い物の習慣は変えていない」は2割台までにとどまり、多くの人に「買い物習慣が変わってきた」と感じられている様子です。

特に国による違いが大きかったのが「より安価なブランド・代替品に切り替えている」と「不要不急の支出を削減している」の項目です。2つの項目を並べてみると、「より安価なブランド・代替品に切り替える」の割合が14カ国平均に比べて特に高いのはタイ・シンガポール・インド・フィリピンで、「不要不急の支出を削減している」の割合が特に高いのは、日本とオーストラリアでした。

先月と比べたお金を使う意識の変化
2025年6月実施(日本のみ電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」、その他の国はToluna実施「Economic Sentiment Tracker」より。調査概要は記事の末尾を参照)

グラフは割愛しますが、「先月と比べた支出の増減」を聴取した設問で「支出が増加した」と答えた人(各国平均で41.0%)に対して、どのジャンルの支出が増えたかを聞くと、すべての国で1位は「食料品」でした。日本でも、「先月より支出が増加した」と答えた92人のうち、増えたジャンルは「食料品」(72.8%)が他に比べて突出して高く、1位でした。次いで、「外食・テイクアウト」(25.0%)となりました。

全体を通じて日本の消費マインドは「経済の見通しはさらに悪化すると考えており、物価高と感じる間は不要不急の支出の削減を意識しているが、安価な代替品に切り替える行動は多くはない。日々の生活に必要な月々の食費が増加したと感じる」状況と言えそうです。次の章からは、食に特化して日本オリジナルのデータを見ていきます。

米の価格高騰は一時的ではなく、食料システムの変革が必要

ここからは日本オリジナルの調査結果を見ていきます。「米の価格高騰・品薄は一時的ですぐにおさまるだろう」という意見には「そう思わない」の回答割合が72.4%で、「農産物の生産から消費まで、日本の食料システムの変革が必要だ」という意見には82.4%が「そう思う」と回答しました。一次的ではない、抜本的な変革の必要性を多くの人が感じているといえます。

米の価格
2025年6月電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」より日本全国N=250

食品を買うときや外食するときに「日常的にある+たまにある」行動を聴取した設問で、92.0%があてはまると回答したのは「値引き・セール品を選ぶ」です。それ以外にも「できるだけポイントが多くつく商品を選ぶ」78.4%、「もっとも価格が安いものを選ぶ」78.0%と、コスト意識は強く持っている様子です。

しかし「品薄や高価格で、国際情勢の影響を感じる」80.0%、「食品ロスを意識して選ぶ」76.4%、「産地が明記された食材・料理を選ぶ」73.2%など、価格コンシャスなだけではなく、産地を含めて食を取り巻く環境が見えることに、関心を持つ人の多さも確認できます。

食品を買うときや外出するときにあてはまるもの
2025年6月電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」より日本全国N=250

企業が農業支援をする、生産者とつながることへの期待

下記のグラフそれぞれの設問への反応を見ても「日々の暮らしを(経済的に)守る」(青枠)ことと、「日本の食料システムの変革に貢献したい」(赤枠)という2つの思いが高い割合になっています。長期的には危機意識をもって国内農業を支援すべきだという思いと、短期的には経済不安で価格優先したいという思いの両方が意識の中に存在している様子です。

日本の食料システム課題
2025年6月電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」より日本全国N=250

その中で「国内農業の課題解決に取り組む企業には、好感が持てる」はトップスコアで、85.2%がそう思うと答えています。購入するだけではない、新しい仕組みや変革の担い手として、企業が関わることへの期待値は高いと言えそうです。

有機農法でも国産飼料・肥料を使う場合でも、生産時のコストアップがブランド化されるなど収益につながらなければ、生産者としては変革に踏み切れません。調査結果からは、日本の低価格意識の高さをふまえると、「環境負荷低減」などを訴求しても簡単に選ばれるわけではないことも見えてきました。

日常的に買う価格の1.5倍高くても、買いたいと思う食品
2025年6月電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」より日本全国N=250

サステナビリティにお金を払いたい意識はあっても、実際の行動は伴わないことについては、国内外のさまざまな消費者行動研究や実証実験でも指摘されています。「日常的に買う価格の1.5倍高くても、買いたいと思う食品」では、環境負荷低減・生物多様性配慮が高価格でも受け入れられる割合は4割弱でした(緑枠)。

しかし、「生産者が手間ひまかけて、丁寧に品質管理されたもの」は58.0%、「日本の食や地域を支える生産者の応援になるもの」は54.8%と、過半数が1.5倍高くても買いたいと回答しています(赤枠)。もちろん「毎日1.5倍の価格帯を選ぶ」ことは物理的に難しいでしょうが、ただ「物価高で同じものが高くなった」のではなく、「理由があって高くなっている」という食品の背景は受け入れやすくなっている様子です。

次回は、食に特化せず「サステナビリティに配慮された商品のプライシング」について、マーケティングの観点から、経済学の知見をふまえビジネスに応用・実施できるヒントを紹介します。

【調査概要】
電通「経済意識と食のサステナビリティ調査」
対象エリア:日本全国(人口構成にあわせて割付)
対象者条件:18〜79歳(性別回答選択肢「男性」「女性」「その他・答えたくない」)
サンプル数:250人
調査手法:インターネット調査
調査時期:2025年6月
調査実施会社:Toluna
 
Toluna「Economic Sentiment Tracker」
対象エリア:13カ国(アメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、インド、シンガポール、タイ、フィリピン、オーストラリア)
対象者条件:18~79歳(性別回答選択肢「男性」「女性」「その他・答えたくない」)
サンプル数:3500人(アメリカ500人、その他の国250人ずつ)
調査手法:インターネット調査
調査期間:2025年6月
調査実施会社:Toluna
 
 
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値上げ時代の新しい贅沢。「ひと匙プレミアム」な調味料

日本の食生活のトレンドを知り、これからを考える、電通「食生活ラボ」(以下、食ラボ)。本連載は、食ラボおよび他の調査データなどを踏まえて、食のキザシをひもといていきます。

今回取り上げるのは、少量で料理の満足度を底上げする「プレミアム調味料」。昨今、食卓で静かに存在感を増しています。私も食材自体に絶対的なこだわりがない一方で、味付けに使うバターやしょうゆはこだわりの製法のものや、高級素材が使用されたものを選んでいます。

自宅で非日常を味わえる「ちょっといいひと匙」は、値上げ時代の新しい贅沢になりつつある。そんな志向性について着目しました。

「塩、しょうゆ、みそなどの調味料」にお金をかけたい生活者は50.7%!

食品価格が値上がりしている中でも、“これまで以上”あるいは“これまでと同じくらい”お金をかけたい対象として、「調味料=味の決め手」になるアイテムを挙げる人が、前年より5.2ポイント増えました。

食生活ラボ
出典:電通「食生活に関する生活者調査2024」

その象徴が、少量で料理全体の満足度を底上げする「プレミアム調味料」です。コロナ禍によって自宅で料理をする時間が増え、生活者がさまざまな調味料に目が向くようになったことで、調味料市場は広がりを見せました。

価格は高めですが、各メーカー・ブランドが独自に開発した、合わせ調味料、ドレッシングなどが続々登場しています。たとえば、樽熟成しょうゆ、トリュフオイル、オリエンタルスパイスブレンドなど、それを加えるだけで、レストラン級の深いコクや国際色豊かなフレーバーを自宅で手軽に楽しめます。いつもの料理を“格上げ”してくれることが「プレミアム調味料」の価値といえます。

2025年のFOODEX JAPAN(国際食品・飲料展)でも、「プレミアム調味料」がトレンドキーワードとなりました。味だけでなく、瓶やボトルのデザイン自体が“映える”ことも相まって、SNSには“推し調味料”の投稿が相次いでいます。

安い食材でも調味料次第でおいしくなる

節約と満足度の間で揺れる生活者心理を裏づけるデータもあります。料理写真共有アプリを開発・運営するスナップディッシュの調査によると、節約を意識した料理をする中で、妥協できない点として、62.3%の人が“おいしさ“を、57.1%の人が” “栄養バランス“を挙げています。多くの人が、節約をしながらも食事の質は落としたくないと考えていることが分かりました。

食生活調査
出典:料理写真共有アプリ「スナップディッシュ」調べ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000140.000007310.html

さらに、調査では、85.3%の人が、「安い食材でも調味料次第でおいしくなる」と回答。つまり、主役食材を質素にしても、調味料という影の主役にはお金と意識を配分する──。これが物価高時代の新しい考え方である「ひと匙プレミアム」です。

食生活調査
出典:料理写真共有アプリ「スナップディッシュ」調べ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000140.000007310.html

たとえば、鶏肉をいつものようにしょうゆと酒で味付けてから揚げにするのではなく、スパイスを混ぜてエスニック風にする。ポテトサラダに使うマヨネーズを、「燻製(くんせい)」されたマヨネーズにする。調味料を一つ変えるだけで、いつもの食卓に「非日常感」も加えられる楽しい体験になる。そのために多少の投資はいとわないというのが、生活者の気持ちなのでしょう。

ひと匙加えるだけで変わるパフォーマンス

なぜ「ひと匙プレミアム」が生活者の心をつかむのか。背景を探ると、まず、「プチ贅沢」とされていた日常の特別感が、さらに細分化されている現状が挙げられます。高額な娯楽や大型消費は抑えつつも、自分の手の届く範囲で満足のいく「贅沢」を感じたい。調味料は、「食」の楽しみを広げることからも、他の娯楽よりも財布のひもを緩めているのではないでしょうか。

また、「調味料を加えるだけ」「ひとふりするだけ」など、いつもの調理工程を大きく変更せず、すぐに「味が決まる=結果が出る」という点も、今の「パフォーマンス時代」におけるタイパ、プロパ(※)のニーズと相性が良く、大きなポイントになっていると思われます。「手間はかけたくないけれど、味だけは妥協したくない」という思いをワンステップでかなえてくれるのが、「プレミアム調味料」なのです。

企業やブランドがこの潮流に応えるには“ひと匙のストーリー”を語れるパッケージや売り場設計が欠かせません。生産地や職人のこだわり、相性のいい食材やレシピを可視化し、単なる「高価な調味料」ではなく「体験への投資」として価値を伝えることが重要です。

「ひと匙プレミアム」は物価高の中でも、「贅沢」「時短」「体験価値」を同時に満たす、拡大余地の大きい考え方です。物価高でも“あえて”贅沢をするひと匙が、生活者の幸福度を跳ね上げる──まさに今の食トレンドといえるでしょう。

※タイパ:タイムパフォーマンス(時間対効果)、プロパ:プロセスパフォーマンス(過程対効果)
 
【食生活に関する生活者調査2024 調査概要】
・目   的:日本の食生活における生活者の意識や実態、満足度、トレンドなどを把握
・対象エリア:全国
・対象者条件:15~79歳
・サンプル数:1300
・調 査 手 法 :インターネット調査
・調 査 期 間 :2024年8月23日~8月26日 
・調 査 機 関 :株式会社電通マクロミルインサイト


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通信技術領域のゲームチェンジャー?光電融合技術の可能性と課題…世界の半導体企業の開発競争が激化

●この記事のポイント
・世界の半導体関連企業の間で光電融合技術をめぐる開発競争が加速
・データセンターの消費電力が5分の1~10分の1くらいになる可能性
・実用化・普及の時期は2030年というところが1つのターゲット

 世界の半導体関連企業の間で光電融合技術をめぐる開発競争が加速しつつある。AIの普及でデータセンター需要の急速な拡大に伴う消費電力不足の問題が顕在化し、かつ、より高速な通信速度が求められるなか、光電融合技術は通信技術領域のゲームチェンジャーになるとみられている。米エヌビディアや米ブロードコムなど世界の半導体大手が開発を進めており、米マイクロソフトはクラウドサービス・Azureで導入する意向を表明するなど事業者の動きが活発化している。どのような技術なのか。また、NTTグループがすでに高い技術を持っているとされ、半導体製造装置・半導体関連部品の市場では日本メーカーは高いシェアを持っているが、光電融合の領域で日本勢は高いプレゼンスを発揮することができるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

なぜ今、光電融合技術が注目されるように

 光電融合技術とは何か。東京科学大学 工学院 教授の西山伸彦氏はいう。

「半導体とは、電流を流す導体と電流を流さない絶縁体の両方の性質を持ち、電流が流れるようにしたり、流れないようにしたりと制御できる材料です。その性質を利用して回路を構成したものが、一般的にCPUやGPUなど(以降、合わせてxPUと書きます)の電子回路と呼ばれるものですが、近年ニュースなどでは、この回路の総称として半導体と伝えていることが多いようです。この電子回路の回路に加えて光も使いましょうというのが光電融合技術です」

 なぜ光電融合が技術的に可能になったのか。

「現在、電子回路を製造する材料として主流なのはシリコン半導体でして、一方でインターネットやDVD、ブルーレイには光が使われており、その光は化合物半導体を使って出力しています。化合物半導体は、シリコンではなく2種類の原子を混ぜ合わせて半導体の性質を持つようにしたものでした。1980年代後半から1990年代頃、光を通すだけならばシリコンでもできるということが提案されて、同一の半導体を使ったままで電気も光も流すことができるシリコンフォトニクスと呼ばれる技術が成熟してきて、電子回路の隣に光の回路を配置できるようになってきました。これが光電融合ですが、考え方自体は昔からあったということになります」

 では、なぜ今、光電融合技術が注目されるようになってきているのか。

「電子回路が非常に速い信号処理を行うことを迫られているということが大きいです。電線や電子回路内部のトランジスタ間をつなぐ電気配線は、距離が長くなるほど電気的な損失が増えていくという性質を持っています。一方で光で配線をすると、距離が長くなっても損失量が一定なので、距離が長い場合は光のほうがエネルギー損失量が少なくで済みます。現在のようにxPUに非常に速い情報処理速度を求められるようになると、電子回路だけだと短い距離でもより多くの損失が発生することになります。以前は電気信号を電線だけで離れた場所に送っていましたが、現在では建物の外に出ると光ファイバーで通信するのが一般的です。そして将来的にAIなどの普及で、より速い通信速度が必要になってくると、極論を言うと、xPUなどの電子回路のすぐ隣から光で送信したほうが、よりエネルギー損失が小さくなります。

 光電融合技術を使うシリコンフォトニクスは2000年代ぐらいから徐々に普及し、何百~何千kmの比較的長距離の通信で使われていましたが、光電融合技術が一気に注目され始めたのはここ数年ぐらいの話です」(西山氏)

消費電力を抑制

 光電融合の優れた特徴としては、他にどのような点があるのか。

「光電融合と同じぐらいの処理速度を電子回路だけで実現しようとすると、電気回線1本あたりの速度が遅いので回線をたくさん並べる必要があります。光の場合は回線1本あたりの速度が速いので、多くの配線を必要とせず、小型化につながり、消費電力の抑制にもつながります。同じ土俵では比較できないので単純にはいえませんが、データセンターの情報処理にかかる消費電力としては、光電融合を使うと、使わない場合に比べて5分の1~10分の1くらいになるといわれています」

 実用化・普及はいつ頃になるのか。

「来年にもすぐ実用化が進むというペースではなく、数年はかかるのではないでしょうか。実際に販売していく際には、導入する企業側は『本当に信頼性は大丈夫なのか』『信頼性をどのように保証するのか』『品質は何年保証されるのか』といった点を検証する必要があり、またコストの問題もあるので、実用化までは数年はかかるのではないでしょうか。関連事業者は急いで開発を進めているので想定以上に早く実用化される可能性はありますが、2030年というところが1つのターゲットになってくるとみられています」

 気になるのは、光電融合の領域で日本企業がどれだけのプレゼンスを保つことができるのかという点だ。

「半導体関連の部品や製造装置の市場では日本メーカーは高いシェアを持っており、エヌビディアなどの製品にも日本メーカーの部品・部材が多く採用されており、その意味では日本のプレゼンスは非常に高いのは事実です。ただ、日本は最終製品としてのxPUは弱く、そこが大きな課題です。納入業者的な位置づけで終わってしまわないためにも、xPU周辺の高い技術をまとめて提供できるという形態を目指して、我々も今、企業と連携して取り組みを進めているところです」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=西山伸彦/東京科学大学 工学院 教授)

GMO子会社、博物館案内のAI対話型ロボを公開=実証実験を未来館で実施

 GMOインターネットグループ子会社のGMO AI&ロボティクス商事(東京)は25日、日本科学未来館(東京都江東区)と、人工知能(AI)対話型ロボットを使った展示案内の実証実験を始め、報道陣に公開した。来場者の問い掛けに応じて展示物の前まで案内したり、位置情報を基に「これは何」など曖昧な問い掛けにも的確に返答したりできる。31日まで実施する。

 5階常設展示の一部が対象。日本語や英語など4カ国語に対応し、来場者の問い掛けに自然な音声対話で応える。ロボットを動かすアプリケーションに実装した業務のうち約8割をAIが自動生成しており、導入に掛かる時間を大幅に削減したという。実証を通じて想定外の質問への対応など課題を洗い出し、別の美術館や商業施設などへの展開を目指す。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/25-17:24)

広がる・深まるジャパンブランドの世界

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ジャパンブランド調査は2011年にスタートし、訪日観光や地方創生、食分野、日本産品、コンテンツ、価値観、ライフスタイル、社会潮流など、ジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握する、電通独自のナレッジ基盤事業です。

調査開始から15周年という節目を迎える2025年は、本調査史上最大規模となる定量調査を実施しました。調査は、20の国・地域(調査概要)、20を超える産業分野、10を超えるテーマを網羅し、これまで以上に多角的かつ実践的なインサイトの獲得が可能です。

先が読めず、予測困難な状況が常態化した現代において、本調査が未来に向けて歩みを進めるためのヒントや、認知バイアスにとらわれないための相対化視点を継続的に提供し、微力ながら持続可能な社会づくりに貢献できることを願っています。 

<目次>
国際観光における日本の競争力
訪日体験と消費傾向
地方創生における観光の論点
持続可能な未来に向けて

 

国際観光における日本の競争力

世界の海外旅行経験者から、観光目的で再び訪れたい国として日本が最も多く挙げられ、その割合は半数を超えました。2位の韓国や3位の米国とは大きな差をつけており、日本が他国と比較して突出した人気を誇っていることが見てとれます。(図表01)

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さらに国・地域別で見ると、20の調査対象のうち、13の国・地域で日本が再訪希望先として首位を獲得しており、その差は市場ごとに異なるものの、いずれも2位以下を大きく引き離す結果となりました。これは、アジアパシフィックにおいて、日本が広範囲にわたり有力な旅行先候補として定着していることを示しています。(図表02)

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外国人観光客の増加が続く中、観光目的による再訪意向も年々着実に上昇しています。たしかに、歴史的な円安が訪日旅行のハードルを下げ、裾野を広げた面は否定できません。しかし、本研究の結果からは、香港と台湾を除き、円安が訪日の主な動機となっているわけではないことが明らかになりました。

多くの旅行者にとって日本を訪れる理由は、為替の有利さ以上に、体験価値や文化的魅力といった本質的な要素に根ざしていると考えられます。このような傾向は、日本への観光が一過性のブームではなく、大きな魅力として持続的に受け入れられていることを裏付けるものと見ています。

訪日体験の満足度が蓄積されることで、自然と再訪意向が高まっていると考えられる一方で、国内の人手不足が顕在化している中、今後の課題は「訪日観光の満足度をいかに保つか」にあります。(図表03) 

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また、日本とその他の海外旅行先を比較した際、旅行者が求める基本的な要素には大きな差は見られませんでした。多くの人が「自然景観」「食文化」「伝統文化」などを旅の主目的とする一方で、「安全性・安心感」「癒し・リラックス」「異国情緒」「清潔感」といった環境面の充実も重視されているようです。

これは、全般的にコト消費への関心が高まっていることを示すと同時に、観光体験が単なる観光資源の消費にとどまらず、心身の回復や非日常性の享受といった多面的な価値を求める行動であること、そして、旅の本質を見失ってはならないことを示唆しています。(図表04)

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国・地域別に見ると、期待値の傾向には若干の差異が見られます。オーストラリアの旅行者は「独自の食文化」や「癒し・リラックス」に強く引かれ、イギリスでは「独自の伝統文化」や「清潔感」への期待が高く評価されました。一方で、アメリカでは特定項目に対する著しい偏りはない様子がうかがえます。(図表05)

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8兆円規模にまで成長を遂げたインバウンド市場は、すでに国内アパレル産業と肩を並べ、自動車輸出額の約半分(※1)に匹敵する外需けん引力を持ちます。インバウンドが持つ意味合いを観光という枠組みだけでは決して捉えきれません。世界を見渡すと、訪問者数や外貨獲得額の上位国はほぼすべてが強固なソフトパワーを基盤とし、国境や言語といった物理的制約を超えて生活者を引きつける本源的な魅力を有しています。

観光依存に対する懸念や不安の声が時折聞かれますが、日本におけるインバウンド消費のGDPへの寄与は、2024年時点で約1%にとどまっており、G7諸国やOECD加盟国と比較しても依然として低水準にあります。オーバーツーリズムへの対応は必要ですが、過度な観光依存を危惧する議論とは切り離し、現実的な産業波及力や経済貢献のポテンシャルを踏まえた上で、冷静に論点を整理し、理解促進を図る必要があります。

われわれが注目している再訪意向はインバウンドの定量的評価指標としての機能にとどまらず、「再び訪れたい」という人間の根源的欲求をシンプルかつ明瞭に可視化する感度の高い指標として位置づけられます。そして、再訪の気持ちを喚起する「国際観光における持続的競争力」の強さは観光資源のみならず、日本食文化への関心や日本製品に対する信頼感といった、より広範囲にわたる文化的・社会的要素によって支えられていることが本研究で改めて確認できました。

※1 出典:財務省「貿易統計」(2024)

 

 

訪日体験と消費傾向


訪日旅行において関心が高い体験としては、日本文化の象徴ともいえる「和食」や「自然景勝地」、さらには「四季の体験」や「繁華街の街歩き」、「伝統文化の体験」などが挙げられます。なかでも「コンビニでの買い物」は一見日常的な行為ながら高い関心を集めており、特にアジア圏での支持の高さが目立ちます。

これらの結果から、訪日体験の魅力は非日常性に限らず、磨かれた日本の日常文化もしくは生活インフラそのものにも強い訴求力があることがうかがえます。当然ながら、体験に対する志向は文化圏ごとに異なる傾向も見られ、インバウンドマーケットの拡大および近隣地域からのリピーターの増加に伴い、今後の事業拡張や商品・サービス開発、マーケティング施策立案においてはターゲット地域別の対応を考慮する必要があります。(図表06)

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ここから訪日体験をさらに細分化してみます。

自然体験の中では「桜の花見」が群を抜いて人気であり、日本観光を象徴する体験として確固たる地位を築いています。他にも「温泉入浴」や「自然散策」「紅葉狩り」など、日本の自然資源の多様性と魅力が幅広く認知されていることが分かります。(図表07)

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文化体験においては、「季節ごとの伝統行事」や「茶道」「祭りの見物」といった日本特有の行事や精神文化への関心が高い傾向にあります。海外生活者にとってシンボリックな日本として比較的理解しやすく、かつ非日常的な価値を感じやすい領域が上位を占めました。(図表08)

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さらに、「日本らしさ」の象徴に関する問いでは、「寿司」や「桜」「富士山」が代表的な存在として挙げられました。これらのイメージは、日本への訪問動機や訪問先の選定、来日時期の選好など、旅全体の設計に影響を与えていると考えられます。ただし、こうした象徴も一様ではなく、例えばベトナムでは「茶道」「うどん」「自動車」、フランスでは「柔道」「盆栽」「醤油」といった要素が日本らしさとして挙げられます。市場ごとに異なる文化的受容のあり方は、訪日観光にとどまらず、日本発の製品やサービスの海外輸出においても重要な示唆を与えています。(図表09)

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世代間での違いも注目されます。Z世代では「マンガ・アニメ」への関心が、「富士山」や「寿司」を上回る場面も見受けられました。また、訪日経験が増すにつれて、「紅葉」「温泉」「祭り」など、日本文化に対する感度が高まる一方で、「桜」に対する関心は相対的に減少傾向を示しています。このことは、体験の深化と興味関心の進化が連動していることを示唆します。(図表10)

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商業施設における購買意向については、コンビニが比較的高い選択率を示し、「寿司」や「アイスクリーム」「おにぎり・スイーツ」など、外国人に馴染みのある日本の軽食文化が注目されています。ドラッグストアでは「スキンケア」や「メイクアップ」、「ボディケア・サプリメント」といった商品カテゴリに関心が集まりました。また、選択率と個数選択といった指標から、アジア市場での消費意欲が顕著であり、消費行動の活発さとポテンシャルがうかがえます。(図表11、12)

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お土産の購入意向については、「和菓子」や「工芸品」など、伝統と現代の融合を感じさせるアイテムが人気を集めています。国・地域によっては、「日本ブランドの衣料品」「お茶(日本茶、抹茶)」「化粧品」などに対する嗜好(しこう)の違いも明確に表れており、商品訴求においては国別のマーケティング戦略という基礎中の基礎が求められます。(図表13)

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地方創生における観光の論点

一方で、マタイ効果(※2)が働き、「強さゆえの集中」という構造的な課題がもたらされています。地方部の認知度格差、訪問時期の偏在、日本らしさに対する理解の偏り、商業施設の認知・訪問意向の地域間格差など、複数の側面からこの課題の多面性が明らかになりました。

※2 累積的優位性。優れた人物や組織への好意的な評価が、さらなる成功につながりやすくなる現象。

訪日旅行者における都道府県単位の認知度や訪問経験、今後の訪問意向を総合的に見ると、「東京都」が他を圧倒して高く、次いで北海道、大阪府、京都府といった広く知られた観光地が続いています。特筆すべきは、過去10年にわたってこの上位層に大きな変動が見られない点であり、都道府県レベルでのブランド力が、ある程度固定化されている現状が示唆されます。(図表14)

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より詳細に都市単位で分析すると、札幌市、大阪市、京都市の3都市が突出した認知度を有しており、他の政令指定都市や中核市とは一線を画しています。その他の都市でも一定の認知はあるものの、訪問経験においては上位とは明確な差が開いており、同一グループにおいては大差が見られません。単なる認知だけでは訪問には直結しない一方で、そもそも認知されていなければ訪問の選択肢にすら入らないという、認知と行動の間にあるジレンマが浮き彫りになっています。(図表15)

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いわゆる「ゴールデンルート」とされる大都市(東京・名古屋・大阪・京都)以外の地方部を単独で訪問した旅行者の割合は、依然として低水準にとどまっています。また、その割合には国・地域間で顕著なばらつきが見られます。

一方で、地方を訪問した旅行者の満足度は非常に高く、9割を超える人が再訪を希望するなど、体験価値の高さが際立っています。これは、地方観光のポテンシャルが依然として高いことを示す好例と言えるでしょう。(図表16)

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地方観光の象徴的資源である温泉地については、国・地域ごとの認知度に大きな差が存在します。

特に英語圏や欧米文化圏においては、提示された温泉地のいずれも認知していない回答者の割合が高く、カナダでは約75%が該当しました。オーストラリアやスペインでも、半数前後が知らないという結果となっており、情報の浸透に課題があると推察されます。(図表17)

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地方部を実際に訪問した旅行者からは、通信環境やWi-Fiの整備状況、多言語対応の不足、アクセスの利便性といった課題が多方面から挙げられました。加えて、国や地域によって感じる課題の内容には明確な違いがあります。(図表18)

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地方を訪れる総量(外国人延べ宿泊者数ベース)には限り(全体の約3割)と偏り(東アジアが約5割を占める※3)がある中で、地方観光の商機を広げるには戦略的な市場選択が必要です。文化的受容力や訪日成熟度を相対比較した上で、中長期的に育成すべき市場と短期的に地域経済へ寄与する市場を的確に見極め、着地消費の拡大に向けた施策を含め、能動的にビジョンを策定・実行する胆力と行動力が求められます。

※3 出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2024)

 

持続可能な未来に向けて

本研究では、経済的価値と社会的価値の両立を目指し、持続可能な未来に向けた価値創造は集合知によってこそ実現できると考えています。今年度は「オーバーツーリズム」「リユースバリュー」「ウェルビーイング」という三つの重要な要素を軸に、海外生活者のインサイトを多面的に可視化しました。

これらはいずれも短兵急に結論の出せる単純なテーマではありません。レポート作成における制約がある中、調査主体として生活者データに焦点をあてた知見の一部を紹介し、社会生活の基盤を共に支えるさまざまな業界や立場のみなさまの思考や行動のヒントとしてお役に立てればと願っています。

検討要素1:オーバーツーリズム

観光需要の集中を回避し、持続可能な訪日観光を実現するためには、旅行時期および訪問地域の分散が欠かせません。しかし現状では、訪日希望時期が「桜の季節」に大きく偏っており、その理由として多くの旅行者が「その季節ならではの景色を楽しみたい」と回答しています。これは日本の四季がもつ象徴的な魅力の高さを物語っていますが、同時にオーバーツーリズムの課題にもつながっています。(図表19)

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一方で、桜シーズンに次ぐ訪日時期については、国・地域によって関心が分散する傾向がみられます。特に訪日経験が豊富な層、いわゆる“日本ファン層”にとっては、「紅葉シーズン」が次なる需要の核となる可能性があります。また、アメリカ市場においては「夏休みシーズン」の訪日意向が相対的に高く、中国市場とは異なる需要パターンが見て取れます。(図表20)

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こうした訪日観光における需要集中(局所集中・時期集中)は日本固有の問題ではなく、世界的な観光先進国の共通課題としていまだ解決の途上にあるというのが一般的な認識です。(図表21)

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需要の平準化を考えるにあたって、筆者は虫・魚・鳥の3つの目が不可欠と考えます。

  • 「虫の目」による観察整理:生活者の深層心理の解読、既存アセットの棚卸し、課題の抽出といった現状認識の精緻化。
  • 「魚の目」による相互理解:他国や先進事例の研究、地域住民とのすり合わせを重ねた未来像の協創。
  • 「鳥の目」による指南支援:課題の早期発見と建設的解決策を支える行政のモニタリングおよび戦略的政策立案。

さらに、経済的合理性の追求だけでは限界があることを認識し、社会学や心理学的アプローチとの掛け算もさまざまな局面において求められることになるでしょう。
 

検討要素2:リユースバリュー

サーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点から、中古品の再利用は重要な要素の一つです。本調査では、日本の中古品に対する関心が全体として非常に高く、国・地域を問わず注目されていることが分かりました。

特に、日本製品の「使用状態の良さ」や「高い耐久性」は生活者に強く評価されており、こうした特徴が日本独自の信頼性や価値観に裏打ちされた商品競争力につながっています。このような評価は、循環型産業の創出拡大や、模倣困難な差別化戦略の基盤ともなり得ます。(図表22)

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日本の中古品市場には、元来日本製品が持つ高品質や耐久性といった商品価値が強く反映されています。新品に比べて手頃な価格で信頼性の高い日本製品を入手できる点は、世界的に注目される大きな利点です。さらに、東南アジア諸国を中心に、着物・骨董品・伝統工芸品といった文化財的価値や、原宿系・ストリート系などの独自のファッションスタイル、ヴィンテージ衣料品のファッション性、さらにはアニメ・漫画・ゲーム関連グッズといったポップカルチャーに至るまで、日本ならではの文化的要素が中古品への関心を高める契機となっています。

このように中古品のリユースバリューを考えるとき、商品価値が市場の幹を成すことは論をまちません。しかし、中長期的に顧客基盤を拡張していくためには、商品価値に加えて次のような広がりを戦略的に捉えることが不可欠です。

  • 体験価値:日本文化を融合したユーザー体験の提供、コラボレーションやアップサイクルを通じた新たな意味づけの創出。
  • 社会的価値:サステナビリティの視点による価値転換や、循環経済に関する教育・啓発活動を通じた社会的共感の獲得。

ここには、「環境配慮に基づく再利用」という守りの戦略と、「ブランド価値や事業価値を一段高めるための文化的・市場的展開」という攻めの戦略の両面があります。両者を組み合わせることで、日本発の中古品市場は単なる「モノの取引の場」を超え、「文化・社会・経済を結ぶ持続的なエコシステム」へと進化していくと考えられます。

検討要素3:ウェルビーイング

日常生活において重視されている価値観としては、「ワークライフバランスの確保」「希望する生活水準の維持」「快適かつストレスの少ない住環境」といった生活の質を重視する姿勢が顕著に見られました。

これらの項目は、特にZ世代において高く評価される傾向にあり、若年層の価値観に変化が生じていることがうかがえます。(図表23)

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また、社会的関心のあるテーマとしては、「生成AIの利活用」「再生可能エネルギー」「ヘルステック」「メンタルヘルス」など、テクノロジーや健康、持続可能性に関する話題が上位に挙げられました。なかでもZ世代の女性は「メンタルヘルス」への関心が特に高く、世代や性別によって関心領域に違いがある点も注目に値します。(図表24)

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地政学的変動やテクノロジーの指数関数的進化といった急激な環境変化に揺さぶられる世界情勢が、生活者の意識構造に色濃く影響を与えていることが本調査の随所に現れています。日常的な情報獲得ツールとしての生成AIの活用はすでに不可逆的な潮流となり、ウェルビーイングを構成する諸要素の中でも、特にキャリア意識、経済的安定性、生活環境の質、そして精神的充足が重視されている傾向が明らかとなったのです。

往々にして予測が当たらない中、ブラジルの蝶の羽ばたきがジャパンブランドの未来にどのような波紋を広げるのか、その手かがりとなるものを生活者のインサイトを起点に継続的に探索していきます。

データビジュアライゼーション・チャート・ビジュアル:リ シュンシ

電通公式データ・ナレッジ:ジャパンブランド調査ハブページ
hub
WEB電通報特別コンテンツ:ジャパンブランドウイークリーチャートjbchart


【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社電通 ジャパンブランドプロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp

【電通ジャパンブランド調査 実施目的】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。2022年、調査設計・分析アプローチおよびアウトプットを抜本的再構築し、専門性を高める全社横断プロジェクト活動へと進化。2025年、一般向けナレッジポートフォリオを新たに企画・構築し、生活者インサイトに立脚した社会的価値の創出を目指す。
ジャパンブランド調査では、訪日観光や地方創生、食分野、日本産品、コンテンツ、価値観、ライフスタイル、社会潮流などジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握。変わりゆく生活者の気持ちとジャパンブランドの課題・可能性を可視化し、複雑化が進む企業活動に寄与するとともに、日本社会における異文化理解の促進にも貢献する。
 
【電通ジャパンブランド調査2025 調査概要】
・対象エリア:20カ国・地域※1(アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、サウジアラビア、インド、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、中国本土、香港、台湾、韓国)
・対象者条件:20~59歳の男女(中間所得層以上)※2
・サンプル数:12,400(内訳:アメリカ・中国本土 各1,600、インド1,200、韓国・台湾・イギリス 各800、その他の国・地域 各400)※3
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2025年5月20日~6月22日
・調査機関:株式会社電通(調査主体)、株式会社ビデオリサーチ(実施協力)
 
【注記・免責事項】
※1:中国本土の対象エリアは上海・蘇州・北京・天津・広州・深セン・成都・重慶、インドの対象エリアはデリー・ムンバイ・ベンガルール、オーストラリアはシドニー都市圏、東南アジアは主にメトロポリタンエリアに限定。 
※2:中間所得層の定義:OECD統計などによる各国平均所得額、および社会階層区分(SEC)をもとに各国ごとに条件を設定。
※3:各国・地域とも性年代別に均等割付で標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施。
※4:本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
※5:本調査レポートおよびウェブサイトからの情報発信における対象国・地域の名称表記は、従来からの日本政府の見解、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものです。
※6:本調査の図表作成において、分析対象となる国・地域名は一部例外を除き、国際基準ISOカントリーコード(ISO 3166-1 alpha-2)を使用しています。
アメリカ/US、カナダ/CA、オーストラリア/AU、イギリス/UK、ドイツ/DE、フランス/FR、イタリア/IT、スペイン/ES、サウジアラビア/SA、インド/IN、インドネシア/ID、シンガポール/SG、マレーシア/MY、フィリピン/PH、タイ/TH、ベトナム/VN、中国本土/CN、香港/HK、台湾/TW、韓国/KR
※7:本調査における国・地域の名称表記は、統計上または分析上の便宜を目的としており、いかなる政治的立場や見解を示すものではありません。
※8:本調査で使用した地図(世界地図および日本地図)は分析内容やページのレイアウトに合わせて一部加工・トリミングを行っており、必ずしも国境線および国土範囲を正確に反映したものとは限りません。

 

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トライアル「福岡のシリコンバレー」の全貌…最先端のDX・AI研究、メーカー同士が販売戦略を検証

●この記事のポイント
・トライアルHD、福岡県宮若市で研究・研修拠点「リモートワークタウンムスブ宮若」を運営
・研究開発拠点、店舗内のデジタルサイネージに表示する販売促進コンテンツの制作拠点、研修・宿泊施設など複数の施設が集積
・卸売企業、メーカーなど数十社が、競合関係という垣根を超えて販売促進や商品開発に関して議論

「福岡のシリコンバレー」と呼ばれる場所がある。3月にスーパー・西友を買収すると発表して注目され、全国的な知名度が一気に上昇したディスカウントストア・トライアルホールディングス(HD)が、福岡県宮若市に構える研究・研修拠点「リモートワークタウンムスブ宮若」だ。研究開発拠点、店舗内のデジタルサイネージに表示する販売促進コンテンツの制作拠点、研修・宿泊施設など複数の施設が集積。DX・AI研究・開発のほか、取引先である卸売企業、メーカーなど取引先をときには数十社、数百人単位で集め、数日間にわたり合宿形式で研修を行っている。講義のほか、トライアルは自社で蓄積した購買データなどを開示し、それをもとに競合関係という垣根を超えてメーカー同士が販売促進や商品開発に関する議論を重ねている。トライアルHDがこのような拠点を運営する目的は何か。また、具体的にどのようなことが行われているのか。同社に取材した。

●目次

“分散型社会”のハブとなる「リモートワークタウン」

 九州を地盤として成長してきたトライアルHDは、大規模な「メガセンター」から小規模な「TRIAL GO」まで計約350店舗(西友の店舗は含まない)を全国に展開。2025年6月期の連結売上高は8038億円、営業利益は211億円と大手小売企業の一角を占める。店舗をはじめ事業全般で先進的なDX活用に取り組んでいるのが特徴。全国の店舗にはタブレット端末搭載型の「レジカート」を2万台以上導入し、AIカメラで顧客データを収集。会員IDから得られるデータを精緻に分析して販促や商品開発に活用している。

 ムスブ宮若には「MUSUBU AI」「TRIAL IoT Lab」「MEDIA BASE」などが設置されているが、どのような目的・背景で立ち上げられたプロジェクトなのか。トライアルHDは次のように説明する。

「『ムスブ宮若プロジェクト』は、新しい生活様式や働き方の実現を目的に、“分散型社会”のハブとなる「リモートワークタウン」の構築を目指して2020年に始動しました。当初はAI開発拠点を首都圏に設ける計画でしたが、新型コロナウイルスの影響により社会の価値観や働き方に大きな変化が生まれたことをきっかけに、『本部機能を分散させる』というニューノーマルの考え方に基づき、地方拠点として宮若市でAI関連施設を構築することにしました。福岡市と北九州市の中間に位置する宮若市は、アクセスの良さと豊かな自然環境を兼ね備えており、当社にとって非常に利便性の高い立地です。また、宮若市とは以前から研修センターの用地取得などを通じて関係性が築かれていたことも、プロジェクト推進の背景にあります。

 拠点となる3施設は、いずれも廃校となった校舎をリノベーションして整備されたもので、それぞれ以下のような役割を担っています。

・MUSUBU AI
 関連企業と連携しながらDX戦略やAI研究を進めるとともに、PDP(パーソナル・ダイナミック・プライシング)をはじめとするリテールテックの実証実験や、データを活用した1to1マーケティングの実現を通じたDX人材の育成とエコシステムの形成に取り組んでいます。

・TRIAL IoT Lab
 スマートショッピングカートやリテールAIカメラ、デジタルサイネージなどの開発を担うIoT開発拠点であり、AIデバイス・IoT機器の高度化を図る研究施設として機能しています。

・MEDIA BASE
 ショッパーマーケティングの実現に向け、店頭用デジタルサイネージやSNS向けのコンテンツ制作・情報発信を行うメディア拠点として活用されています」

リテールの未来を共創する共創型の実証実験拠点

 ムスブ宮若では、具体的にどのような取り組みを実施しているのか。

「ムスブ宮若は、当社の研究・開発拠点という位置づけであると同時に、複数のパートナー企業とともにリテールの未来を共創する共創型の実証実験拠点としても機能しており、メーカーや卸売企業など、現在約50社が1カ月に1回『MUSUBU AI』にて共にDX戦略やAI研究、リテールテックの開発・実証実験を進めています。

 この共同実証の場では、当社が保有する顧客購買データを活用し、棚割の最適化やショッパーマーケティング、カテゴリーマネジメントに関する検証が行われています。そこで得られた技術やアイデアは、当社が展開する最先端スマートストア『スーパーセンタートライアル 宮田店』などで即時に検証・改善される仕組みが整っており、データによって導き出された好事例は実店舗へと反映されています。

 ムスブ宮若は、個社の利益にとどまらず、日本の流通全体を変革するための共創フィールドとして、多くの企業とともに新たな価値創出に取り組んでおります」

 同プロジェクトでは、どのような成果が出ているのか。また、トライアルHDの小売事業にどのように活用されているのか。

「企業の垣根を越えた実証実験と学び合いを通じて、具体的な成果が生まれています。なかでも、メーカーや卸売企業が月に一度宮若に集まり、データを活用した商品開発や販売戦略を検証する実証活動は、プロジェクトの中核的な取り組みとなっています。具体的な成果についてはそれぞれメーカー・卸様の内容となりますので、弊社からは回答できかねますが、当社の小売事業においても『データに基づく売場づくり』など、さまざまな形で活用されています。『ムスブ宮若プロジェクト』は、新しい小売の在り方を実践する共創の場として、今後も進化を続けてまいります」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

──小島GO、ビジネスプロデュースを、どう進化させますか?

dentsu Japan(国内電通グループ)は、重点領域を切り開く事例創出を担う役職として、グロースオフィサー(GO)を設置しており、2025年度には、各領域から7人が選出されています。本連載では、電通が掲げる「真の Integrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)」を体現するGOたちの、未来に向けての視点と思考に迫ります。

今回登場するのは、ビジネスプロデュース領域を担当する小島理GO。長年にわたりクライアントと向き合ってきた経験を生かして、dentsu Japanのフロント機能の支援・強化に取り組んでいます。小島GOが思い描く次世代のフロント像とは。

小島理(こじま おさむ)
小島理(こじま ただし) dentsu Japanグロースオフィサー。電通入社後、雑誌局(現 出版BP局)を経て、2001年に営業局に異動。以来、数多くの業種・企業の担当として、統合キャンペーン立案、広告制作やメディア、イベントプロデュースからソーシャルメディアプロモーションまで、多岐にわたる現場でのプランニングおよびプロデュース業務をリード。18年のビジネスプロデュース局MD(マネージング・ディレクター)就任以降、6年間で異なる2つのビジネスプロデュース局のMDを経験。24年より現職

 

dentsuJapan横断の目線でフロント機能を捉え直す

──最初に、グロースオフィサーとしての現在の仕事の内容について教えてください。

小島:2024年にdentsu Japanのグロースオフィサーに就任して以来、ビジネスプロデュース領域を担当しています。

ビジネスプロデュースとは、その名の通り、ビジネスをプロデュースすること。その役割を担うのは、電通の場合でいえば、20を超えるビジネスプロデュース局であり、社のフロントとしてクライアントと向き合うビジネスプロデューサーたちです。

自分の仕事は、グループ各社のフロント機能をdentsu Japan全体として捉え直し、クライアント目線、現場目線、経営目線で最適化していくこと、進化させていくことだと考えています。

現在、仕事の内容は大きく三つあります。

一つ目は 、ビジネスプロデュース戦略室によるフロント部門の支援と強化です。組織横断的な立ち位置からの現場各局へのナレッジやソリューションの提供、マーケティングメソッドの進化への対応、経営戦略的な見地から新たなクライアントへのアプローチも行なっています。

二つ目は、クライアントポートフォリオの進化です。電通のクライアントは多岐にわたりますが、接点を持たない業界や企業も存在します。ところがグループ全体でみると、電通とは接点がなくても、電通総研のクライアントであったり、電通デジタルが仕事をいただいているケースなどが多様にあるのです。これらをグループを横断した視点で捉え直し、クライアントとの関係を進化させていきたいと考えています。

三つ目は、dentsuJapan全体のフロント部門の連携強化です。重要なのは、垂直的な連携ではなく、グループ各社がそれぞれの強みを生かしてフラットに連携することです。なぜなら、おのおのが多様な得意領域を持つグループ各社がフロントとなり、電通が後方支援を担った方が、クライアントへの提供価値が高まり、広がる場合もあるからです。

──グループ目線でフロント機能の最適化を考えるとき、垂直的な構造からの脱却が不可欠ということですね。

小島:その通りです。実は、私自身、電通に所属していたときにはそのことがあまり分かっていなかったんです。クライアントに向き合うことに集中するあまり、ともすればグループ全体でクライアントと向き合うという視点が欠けていました。グループを横断し俯瞰(ふかん)的に捉えられるようになったのは、この2年くらいのことです。

そうした自分の経験からしても、事業現場で日々邁進(まいしん)しているメンバーの意識は簡単には変わらないものです。経営側がいかに概念で説明しても、それだけでは現場はついてこないでしょう。ここで大切になるのは、たとえ小さくても実際の仕事の中で成功事例を積み重ねることだと考えています。それによって、現場は理解し、納得し、意識も変わっていくのだと思います。

小島GO

ソトモノであることの強みを生かす

──電通のビジネスプロデューサーをはじめ、dentsu Japanのフロントは、クライアントから見てどのような存在であるべきと考えていますか。

小島:常に言っているのは、「ソトモノ(外者)であることの強みを生かそう」ということです。

クライアントと一体となって、その一部になることが良いビジネスプロデューサー やフロントだと考える人もいるかもしれません。それは決して間違いではないのですが、社外の人間だからこそ、クライアントの思考や行動を客観的に見ることができますし、時にはクライアントさえ気づいていない課題を顕在化させることもできるのです。クライアントにとっても、長い目で見れば、そうした存在は貴重なのではないでしょうか。

──ビジネスプロデューサーをはじめとするフロントに求められるスキルとは。

小島:少し古くさく感じるかもしれませんが、ヒューマンスキル(対人関係能力)だと考えています。具体的には、人の心を動かすための三つのスキルを重視しています。

一つ目は、「意味を見いだす」ことです。

クライアントが抱える課題は、すべて異なります。しかも、その課題は常に新しいもので、誰も解いたことがないし、誰も答えを知らない。正解はないのです。だからこそ、既存の枠組みの中で答えを探すのではなく、そもそもなぜその課題が重要なのか、その意味を問い直すことが重要になってきます。課題の本質を見極める能力が求められているのです。

クライアントは私たちにオリエンをする段階で、大抵は答えの仮説を持っているものです。それに対して、私たちかすべきことは「なぜ、このようなオリエンなのか?」「クライアントが気づいていない別の仮説はないだろうか?」と常に問い続けることです。問い続け、意味を見いだせるかどうかで、私たちの真価が決まるのです。

二つ目は、「つなげる」ことです。

プロデューサーの重要な仕事の一つは、プロジェクトごとにクリエイターやマーケティングプランナーなど、人を集めてチームをつくることです。これまでのチーミングは、ともすれば「コレクト(集める)」という感覚が強かったのではないでしょうか。でも、これからは「コネクト(つなげる)」という視点が重要になってきます。人を集めるだけでなく、つなげることで、新たな意味や価値を生み出すことができるからです。

「コネクティングドット」という言い方がありますが、単にドット(点)の集まりではなく、ドットをつないで絵をかくようにチームをつくる、といったスキルが重要になってきているのです。

三つ目は、「バックキャスト(未来起点)」です。最初に目標とする未来像を定めて、そこからさかのぼって、現在やるべきことを考える、という仕事の仕方です。

現在を起点にフォーキャストで仕事をすると、どうしても確認事項や点検事項が膨大になりがちで、途中でゴールを見失ってしまうことさえあります。一方で、最初にクライアントと一緒に「ありたき未来」を決めて、そこからバックキャストで仕事をすると、制約なく自由な発想で仕事ができ、チームも自分もチャレンジングに動けるようになります。

物事を常に現在地から見て、どうしようかと考えるのではなく、たとえ届かなくても「理想はこれだよね」というところをまずはクライアントと共有して、「そのためにできることを考えましょう」という仕事の仕方ができることは、とても重要です。

小島GO

上に立つのではなく、前に立つ

──この10年間における社会やビジネスの変化をどう捉えていますか。

小島:いちばん感じているのはクライアントの変化です。人が設計・定義する「人手至上主義」からデータ駆動型の「データ至上主義」へとパラダイムシフトが進んでいます。

一昔前ならば、広告会社が生活者調査を通して発見した消費者インサイトをクライアントに価値提供していましたが、デジタルテクノロジーの進化によって、クライアントは多種多様で膨大なデータの保有者となりました。

加えて、今やジョブ型雇用のような形でマーケティング人材の流動性も高くなっています。外資系企業、プラットフォーマー、メガスタートアップなどをバックグラウンドとした転職マーケットが活性化しています。その結果、マーケティング部門に専門職を置くクライアントも増え、マーケティングスキルとビジネスナレッジが飛躍的に向上しています。

一方で、メディアの影響力も大きく変化しました。ソーシャルメディアの隆盛で、マスメディア全盛時代とはモノの売れ方が変わってきました。広告に接触すれば、そのうちの何割かの人が商品を買う時代から、買うことよりも体験することに重きを置く時代になりつつあります。

規模の大きいクライアントにとっては、新しい顧客が増えにくい時代になっています。いわゆるD2C(Direct to Consumer)ブランドと言われるような、新しい業態が顧客を増やしているケースなどを見ても、マーケティングが大きく変わってきているなと感じます。

――マーケティングのあり方が劇的に変化する中で、dentsu Japanとして、今後どこにチャンスがあると考えていますか。

小島:外資系クライアントでは、“End-to-End”という言葉がよく使われます。マーケティングが何から始まり、何で終わるか、という意味合いですが、それはクライアントによって違います。スマホから店頭だったり、商品から人の手だったりと。しかし、何で終わるかについては、広い意味では生活者や消費者、つまりクライアントにとっての「顧客」というのが一般的です。

では、何から始まるか? それについてこの10年くらいずっと考えている中で、結局は「顧客から始まり、顧客に終わる」という一連のループが正しいというか、望まれているマーケティングなのかなと考えています。

なぜかといえば、私たちは顧客を知ったつもりでいるけれど、実はまだまだ知らないことがたくさんあって、それを知ることができればマーケティングの視野を拡張できると考えているからです。

例えば、クライアントが自ら収集したデータからは、現在の顧客やファンのことは分かりますが、その外側にいる「未顧客」のことはなかなか知りようがありません。そうしたとき、パートナー企業あるいは第三者が持つデータに目を向けることで、未来の顧客を知るヒントを得ることができるかもしれません。

この例のように、クライアントが気づいていないことを、私たちが見抜いて、価値ある提案をできれば、そこにdentsu Japanのチャンスがあると考えています。

――そうした価値ある提案をするためにも、次世代の人材を育成することが大切かと思います。フロント部門の人材育成については、どのように考えていますか。

小島:電通をはじめ、dentsu Japanでは多様なプログラムで育成に取り組んでいますが、私はマネジメントというよりも、変化に対して抵抗感やおびえがある人がいるとしたら、その背中を押してあげることで育成に貢献したいと考えています。

――「背中を押してあげる」とは、具体的にどのようなことをするのですか。

小島:概念でいろいろな話をするよりも、実際に仕事の中で一緒に何かを乗り越えることによって、その人の変化に対する抵抗感やおびえを取り除いてあげることができるなら、それが背中を押すことだと思っています。その意味では、マネジメントというよりは、リーダーシップに近いのかもしれません。

グロースオフィサーという立場で私が現場に降りていって「一緒にやろう」と言っても、現場はやりづらさを感じることもあるでしょう。たとえそうであっても、マネジメントとリーダーシップのバランスの妙の中で一緒に仕事をすることで、相手に安心感を与えられたなら、その人がハードルを一つ跳び越えるきっかけになれたなら、いいなと思っています。

結局は、上に立つか、前に立つかの違いなのだと思います。私の思いとしては、上に立つのではなく、前に立ちたい。そんな仕事の仕方ができたら、すてきだと思っています。

――最後に、今後のグロースオフィサーとしての使命や役割についてどのように考えていますか。

小島:dentsu Japanのグロースオフィサーは、AIやコンテンツ、リスクマネジメントなど、それぞれ専門スキルを持って、社の機能として立っています。その中で私が担当するビジネスプロデュースは、果たして専門スキルなのかと自問自答することがあります。

でも、これが専門スキルと呼ばれるものだとしたら、実践を通じた形式知みたいなものを、未来に残す努力はしたいと思っています。

テクニック論やスキルの先進性はもちろん大切ですが、最後は電通をはじめとするグループ各社の歴史が育んだ哲学というか、かつて私が電通の先輩に憧れたように 、DNA的なものの現代的な新解釈が大切なのかなと考えています。

小島GO

自身が電通のビジネスプロデュースの現場にいた当時は、グループ全体を俯瞰(ふかん)した目線を持つのがなかなか難しかったと語った小島GO。だがその経験は、現場の気持ちに寄り添いながら、新たな視点への気づきを与える現在の取り組みに生かされている。「コレクト(集める)」から「コネクト(つなげる)」へというチーミングのスキル一つを取っても、そこに目指すべき次世代のフロント像を感じとることができた。
 

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未届けの有料老人ホームが減らない根深い理由…不足する特養の数、待機老人や低所得層の受け皿に

●記事タイトル
・厚労省、未届けの有料老人ホームが584件あると発表、有料老人ホームに占める割合は3.3%
・特別養護老人ホームへの入居を待つ人は全国で約25万人
・未届けの有料老人ホーム、第三者の監視の目が入らないという問題も

 厚生労働省は7月、未届けの有料老人ホームが584件(2024年6月末時点)あると発表した。有料老人ホームに占める割合は3.3%であり、前年より20件減っているが横ばいといえる推移だ。特別養護老人ホームへの入居を待つ人は全国で約27万人もおり(22年4月時点)、また経済的な理由で特養に入れない人もいる。未届けの有料老人ホームが、そうした人々の受け皿になっている可能性がある。なぜ未届けの老人ホームは減らないのか。また、どのような対策が必要なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

未届けの有料老人ホームに入居するリスク

 未届けの有料老人ホームとは、高齢者向け施設としては、どのような位置づけとなるのか。星槎道都大学准教授の大島康雄氏はいう。

「老人福祉法では、有料老人ホームの設置・運営には届け出が必要となっています。高齢者の方々にお食事を提供するような施設や、ある程度介護度が高い方のケアをする施設の場合は、ご高齢の方のなかには足腰が悪い方もいるので、配慮をする設備が必要ということで、届け出が必要となってきます。届け出は法律で定められていることですので、未届けの施設は法律上認められていない施設ということになり、老人福祉法には罰則規定もあるます」

 なぜ未届けの有料老人ホームが存在するのか。

「法律で定められた設備基準を満たすためには、投資、つまりお金がかかるので、それを回避するために届け出をせずに運営をしている老人ホームが少なからず存在する結果となっています。立派な施設を建てて行政から指摘を受けたりしないように運営したほうが、経営者としても従業員としても安心なのは間違いありませんが、物価高騰もありますし、そうした初期投資をできるだけの資金的な体力がないと、未届けのまま運営することになります。ですので、未届けの老人ホームを運営している法人は、資本力が低くて比較的小規模なケースが多いでしょう。そもそも、どのような施設や手続きが必要なのかという知識がなかったり、資本力がなかったり、基準を満たす数の職員を確保できないということが背景にあると思います。

 利用者としては、きちんと届け出をしている施設に入居するほうがよいですが、おそらく未届けの施設でも通常時には何か大きなトラブルが頻繁に起こるというような状況ではないと思います。ですが、災害が起きた際などは、施設の運営・管理能力が低いと問題が生じる懸念があります。その点が正規の老人ホームとの大きな違いといえるでしょう」

 そのほかにも、未届けの有料老人ホームに入居するリスクはあるという。

「第三者の監視の目が入らないという恐ろしさもあります。届け出をしている施設は定期的に行政による運営指導を受けているため、常日頃から行政の目を意識した運営を行っています。未届けの施設の場合は、それがないというのは、大きな差だと思います。

行政と事業者のコミュニケーションが重要

 では、なぜ未届けの有料老人ホームは減らないのか。

「先ほどもお話ししたとおり、未届けの有料老人ホームは基本的には行政による指導の対象にならず、結構難しい位置づけなんです。さまざまな事業者や人の利害も関係してきます。不動産事業者は空室が多い状況になると困るので、空き物件を借りてくれるという法人があれば、非常にありがたく、未届けの有料老人ホームを運営する法人は商売がしやすいという土壌が、まずあります。一方、生活保護を受ける方は老人ホームに入りにくいという現状があるので、そうした方や身寄りのない方が、保証人がいなくても受け入れてくれる未届けの老人ホームに入るというかたちで、ニーズがマッチングしやすいことも背景にあると思います。

 もしかしたら、『未届けのホームだから好きに生活できる』『自分の面倒を見てくれる人に出会った』という考え方をする方も、なかにはいらっしゃるかもしれません。ですが、たとえば何か信念や思いがあって未届けのホームを運営している事業者があったとしても、結局は未届けですから、設備の基準や人員の基準、事務能力も含めてしっかりしていない可能性が考えられます。そして、何かトラブルがあった時に誰かが助けてくれたり、間に入ってくれるということが期待しにくいです」

 特別養護老人ホームの数が足りてないという問題も、未届けの有料老人ホームが減らない要因としてはあるのか。

「特養に入居するのは基本的には要介護3以上の方ですので、要介護1~2の方は入れないという問題はあると感じます。また、保証人になってくれる身寄りがいない方も入りにくいでしょう。成年後見制度を使うにしても、この制度の利用者は判断能力がない方に限定されており、要介護度が重くて認知症はない方が施設に入りたいという場合には、受けてくれるところが限定されてしまいます。こうした状況から、未届けの施設のお世話にならざるを得ない人が生まれる面もあるでしょう」

 何か有効な対策はないのか。

「今後、日本では高齢者が増えると推計されており、特養などが増えればよいですが、設備やコスト面の課題、さらには介護職員が集まらないという状況があるので、未届けの老人ホームは今後も増えてくると予想されます。それを抑制するためには、届け出の基準を低くするということも、一つの選択肢として考えるべきかもしれません。例えば、天井にスプリンクラーがない未届けのホームがあったとして、火災が起きた時に危険であることは確かですが、今後さらに未届けの施設が増えていく可能性がるという問題を前にしたときに、悠長なことを言っている場合ではないという現実もあります。『すぐにスプリンクラーをつけて届け出をしてください』というよりも、行政と事業者が相談しながら運営がしやすいようなかたちに持っていくという考えも必要かもしれません。現実的に未届けの施設が受け皿となって救われている高齢者の方々が存在するわけですから、高齢者を支えていくためにも、行政と事業者がコミュニケーションを取れるような関係性を築いていくことが重要だと思います」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=大島康雄/星槎道都大学准教授)

ヤマト運輸、マンション住戸までロボット配送=物流効率化へ実証実験

 ヤマト運輸は22日、大規模マンション内で自動配送ロボットによる荷物配達の実証実験を開始した。多様な受け取りニーズに対応しつつ、人手不足が深刻な物流現場を効率化し、再配達を減らすのが狙い。ロボットの動作や住民の満足度を見極めた上で、2026年中の導入を目指す。

 実験は12月までの間、千葉県浦安市と東京都品川区のマンションで実施。事前に許可を得た居住者を対象に、マンションに到着した同社の宅配便をロボットが各住戸まで運ぶ。利用者はメールを通じ、受け取り日時や、ロボットとの「対面」か、玄関前への「置き配」のいずれかを選ぶ。

 ロボットは韓国の企業「WATT(ワット)」が開発。最大35戸の荷物を格納する宅配ボックスを拠点に、対面用のロボット1台、置き配用のロボット1台が各住戸との間を行き来する。インターホンを鳴らしたり、扉を解錠したりしながら、エレベーターも使って移動する。

 荷物配達でのロボット活用について、ヤマト運輸の久保田亮宅急便部長は「時間的、物理的な制約をなくし、(顧客が)受け取りたいタイミングで受け取れることが一番良い形だ」と述べた。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/22-15:30)