インバウンド、観光地ではない地方の小さな“普通の街”を散策する1名~数名のツアーがじわり人気の理由

●この記事のポイント
・インバウンド観光客の間で地方の小さな町を散策する体験型ツアーが増加傾向にある
・リピーター客が多く、地元の職人や住民との交流を重視する少人数制ツアーが人気を集めている
・観光地分散化により、オーバーツーリズム解消と地方活性化の両立が期待されている

 今年1~6月の訪日外国人数(推計値)が2151万8100人(日本政府観光局発表)となり、過去最も速いペースで年間2000万人を超え、7月も前年同月比4.4%増の343万7000人と同月として過去最多となるなど、引き続きインバウンドの増加傾向が続いている。訪日外国人の観光の傾向としては、1回目の訪問時は、いわゆるゴールデンルートと呼ばれる東京・大阪・京都を回るかたちが一般的だが、来日2回目以上のリピーターともなると、寿司店で寿司づくりをしたり、日本の伝統芸能に一日入門したり、雪かきをしたりといった、さまざまな体験系ツアーを楽しむ人も増えている。また、観光地ではない地方の小さな街で、数時間から丸一日、地元の人々が親しむ場所や店舗をめぐる参加者1名~数名程度のツアーも、じわり人気が出てきているという。利用者はSNSなどで見つけて申し込みをするケースが多いようだが、どのようなツアーなのか。また、その魅力は何なのかを追ってみたい。

●目次

一般的なゴールデンルートにはあまり興味がない

 インバウンドの間で地方の小さな町を散策する旅行ツアーの利用が増加している背景は何か。旅行管理主任者および通訳ガイドとして佐野市観光協会とも連携しながら栃木県でインバウンド観光事業を展開しているローカルリビングツアー代表の竹田祐子氏は次のように説明する。

「絶対数としてはまだまだ少ないですが、徐々に興味がある方が増えています。一般的なゴールデンルートにはあまり興味がない方や、もう一度見ているから2回目の日本旅行で違う場所に行きたいとおっしゃる方、日本の文化に深い興味がある方が、地方の都市に来ていただく傾向にあります」

 こうした需要を受けて、地方自治体やツアーガイド会社も新たな取り組みを始めている。

「地方の自治体やツアーガイド会社が、地方の特色を活かしたツアーを提供し始めています。観光地ではない場所で体験をしていただく、地元の方と交流をしていただく体験を売りにしたツアーのプロモーションをかけている状況です」

地元の職人さんがオーガニックに育てた植物で藍染め体験

 具体的にどのようなツアーが人気を集めているのだろうか。

「非常に人気があるツアーは、ローカルな街での藍染め体験です。藍染めの蓼藍という植物を、現地で職人さんがオーガニックに育てていらっしゃって、そこですくもを作り、それで染めて、そのすすぎの過程を川で行うのです。夏などは、お客様に川に裸足で入っていただき、ご自分が染めたものをすすいでいただくいう体験が非常に好評です。たまに川遊びしている地元のお子さんもいて、やはり日本の自然の中で蛙を捕まえたり、小さい魚を見つけたりして、そういう光景も喜んでいただけます。お自分が着るTシャツやスカーフなどをデザインして染め、当日お持ち帰りになれます」

1人ひとりのお客様にカスタムメイドのツアーを作って提供

 これらのツアーは通常、丸一日かけて実施される。参加者の要望に応じて柔軟にプログラムを組んでいるという。

「少なくとも日帰りで、東京からのお客様にはなるべく地元に貢献したいので宿泊していただけるようにしていますが、例えば東京で1週間宿泊を取っている方などは、1日でも満足して貰える体験プログラムを用意しています。栃木県内までは大体1時間半、2時間で来れるので、朝10時ぐらいに駅でピックアップして、夕方6時ぐらいに駅にお送できます。

 食事についても地元の特色を活かした配慮をさせていただいております。なるべく旬の野菜などを使った地元のお店、地元のものが食べられる野菜中心のレストランなどで食事をとっていただいております。お客様の要望を聞いた上で、例えばお肉を食べないお客様や、グルテンがダメなお客様などのご要望に応じて、レストランを選定しています。そういうレストランに行ったら、ただ食べるだけではなくて、作っている方ともお話を少ししていただいて、『これはどういうものですよ』といったご説明や、『これはどこで採れたものです』ということをお伝えしています。お客様が『私これすごい好きだから、ぜひレシピを教えてください』といった感じで、色々と会話が生まれることもあります」

 参加者数は少人数制を基本としている。

「本当に少ないんです。以前は2名以上での受付でしたが、1名の方もたくさんいらっしゃって、1人で栃木に来たいという方をお断りするのは申し訳ないので、1人の方も受け入れています。平均2名で、多くて4名程度のご家族です。お友達やカップルの2名が1番多いですね。それぞれのお客様にカスタムメイドのツアーを作って提供しております」

 参加者の国籍は非常に多様だという。

「本当にいろんな国の方がいらっしゃいます。私はバックグラウンドがアメリカなので、アメリカのお客様が来てくださるかなと思っていましたが、初めの頃はヨーロッパやアジア圏の方ばかりでした。南米、アフリカの方もいらっしゃいますし、ブラジル、オーストラリアからも多くの方が参加されています。今、日本が注目されている観光地として、ネット上には多くの日本に関する情報が出ていて、すごく評判が良いので、それで行ってみたいという気持ちを持つ人が多いのだと思います」

1回来ると本当にファンになってくださる方が多い

 特筆すべきは、リピーター率の高さである。

「1回来ると本当にファンになってくださる方が多くて、リピーターの方もいらっしゃいます。シンガポールの方などはすぐ来れるので、アジア圏の方は割と来てくださるのですが、遠い方ですとドイツの方も1年の間に2回も来てくださって、『すごく気に入った』と言ってくれています。そういう方は、人に会いに来るんですね。『今度はボーイフレンドと一緒に行くから、紹介したい』といった感じで来てくださったりします。栃木のこの雰囲気、日本の何気ない日常がすごく楽しいということで、目的地に行く前にちょっと寄ってみる、予定表に入っていないところに寄って河川敷でピクニックしたりとか、そういうちょっとしたことがすごく思い出に残るようです」

 集客方法については、SNSとウェブサイトが中心となっている。

「インスタグラムと私のウェブサイトのお問い合わせにメールをくださったりしています。私の場合は栃木県佐野市の観光協会、観光推進課と一緒に活動している部分もありますので、そちらの案件をお手伝いさせていただくケースもあります。弊社のサイトは、地元の職人さんやアーティスト、自然、伝統文化などを交えて栃木県を紹介しているので、そういうものに共感してくださる方が問い合わせしてくださいますね」

 今後の展開について、竹田氏は地域間連携の可能性に言及する。

「私がご案内できる地域は限られているので、地方で同じようなことをしている、例えば近隣の群馬や福島、宮城といった、あまり観光客が来なくてこれから盛り上げていきたいような場所と連携して、ルートを広げたいと考えています。『これから2週間いるんだけど、他の場所にも連れて行って』といったお話もたまにありますので、東だけでなく西に行くとか南に行くとかでも、そういう方と繋がっていければと思います」

 最後に、今後の日本のインバウンド対応について竹田氏は次のように提言する。

「今は本当にオーバーツーリズムが問題になっているので、それを打開しないと互いに詰まってしまうと思います。例えば初めて日本に来られる方のなかには『絶対に京都へ行かなければならない』と思っている方もおられますが、混んでいる時に行ったら、もう2度と行きたくないと感じてしまいますよね。一方で、京都に住んでいる方も普通の生活が回らないような状態になっているので、それを打開する必要もあります。地方にはたくさん良いところがあるので協力して、インバウンドの受け入れ先を分散していかないと本当の日本の良さというのは分かってもらえないでしょう。日本が観光大国を目指すなら、これまで注目されなかった地域を紹介し、新しいユニークな旅の形を提案していくことが大切だと思います。

 地方には外国人の方が満足できるような宿泊施設が少ないという課題があります。私もいろいろと視察に伺うのですが、『必ず来てもらえるなら、改修するけれども』『対応できるスタッフがいない』といったお声をよくいただきます。 ただ、実際に改修したとしても外国人のお客様が必ず増えるとは限らず、その判断は非常に難しいのが現状です。 だからこそ、最終的には“人の力”で補っていくしかないと考えています。地元の250年続いている老舗の10代目の女将さんと親しくさせていただいているのですが、彼女の旅館は小さくてゴージャスな感じはないのですが、とにかく女将さんが明るくて、言葉が通じる・通じないの問題ではなく、すぐお友達になってしまうんです。建物や立地の条件以上に、その土地ならではの文化や、地元の人々の温かさといった魅力でカバーできる部分も、かなりあるのではないでしょうか」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

日印人材交流拡大「大歓迎」=インドITサービス大手

【ニューデリー時事】29日の日印首脳会談では、両国のIT分野を含む人材交流拡大を申し合わせる見通しだ。日本企業を担当する社員の教育に力を入れているインドIT最大手タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)の担当者は「大歓迎」と話し、まずは両国大学間での交換留学制度充実といった若者が日本に行く機会の増加を期待した。

 取材に応じたのは、TCSが西部プネに整備した日本企業向け開発拠点で社員育成プログラムの企画と運営を担うサガール・ボルガオンカール氏。同拠点内では日本語教育や日本の文化・商習慣の習得を目的とした社員向け研修施設「光アカデミー」を2015年から運営している。

 年間約50~70人が教育プログラムを受講。研修修了者は製造業や製薬など幅広い業種の日本企業へのサービス提供を担う。修了後、約4割が日本で働くという。

「(ITの)スキルも持つ人材に日本語能力が加われば理想的」とボルガオンカール氏。事業の中でインド人材に対する日本企業の期待を感じているといい、日本側の人材不足を受け派遣する社員数の拡大も見据えている。

インドの大卒者が海外での就職を希望する上位の国は英語の通じる欧米などで、日本はそれに次ぐ位置。日本語の習得が大きな壁となっているが、同氏は「インド人は(ビジネスの)いい機会と分かると年間数十万人でも日本語を勉強するようになる」と指摘。そのためにも若いうちに日本に赴く経験が必要と話した。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/26-16:00)

なぜ修繕費2億円も削減のマンション発売?大規模修繕工事の周期を延伸…三菱地所レジデンスの挑戦

●この記事のポイント
・三菱地所レジデンス、マンションの居住者が負担する修繕費を削減する取り組みを始めた
・新築時・修繕工事時において耐久性の高い材料を選定し、大規模修繕工事の周期を12年から18年まで延伸
・CO2を削減することにより、省エネに貢献できることもメリット

 三菱地所レジデンスは、マンションの大規模修繕工事の周期を延伸することで居住者が負担する修繕費を削減する取り組みを始めた。マンション設計・施工・管理を手掛ける長谷工コーポレーションからの技術提案を採用する。今年1~6月に首都圏で発売された新築マンションの平均価格は前年同期比16.7%増の8958万円、東京23区に限れば1億3064万円と1億円を超えるなど(不動産経済研究所の調査による)、住宅価格の高騰が続くなか、居住者が負担する修繕積立金も上昇傾向にある。建築資材や人件費の上昇による修繕工事費用の上昇が要因とされる。三菱地所レジデンスは新築時・修繕工事時において耐久性の高い材料を選定し、さらに適切な点検・補修を行うことで大規模修繕工事の周期を12年から18年まで延伸させるスキームを構築した。

 具体的には、どのような方法で修繕費の大幅な削減を実現するのか。また、このようなスキームは居住者にとってはメリットがあるが、販売事業者であるディベロッパーにとっては、従来の建築工法を見直す必要もあり、手間が増え、耐久性の高い材料の選定などでコストが上昇することも考えられるが、なぜ実施に踏み込むのか。同社への取材をもとに追ってみたい。

●目次

販売事業者側にもメリット

 今回のスキームにより、40年間の修繕積立金総額が4~9%程度軽減され、導入する「ザ・パークハウス 川越フロント」(埼玉県川越市)では9%程度、総額で約2.3億円(将来の物価等の市況を考慮していないシミュレーションに基づく)軽減される見込みだという。効果は費用面だけではない。大規模修繕工事が周期18年と長くなることで、40年間でCO2e(※1)は約225tの削減が可能となるという。
※1:CO2e
温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算し表記する単位

 今回、このようなスキームを構築・導入する理由について、三菱地所は次のように説明する。

「近年の物価上昇による工事費高騰を受け、三菱地所レジデンスでは居住者負担を軽減するため、工事費の大きな割合を占める外壁に足場を掛ける仮設工事を伴う大規模修繕工事の周期を40年間で3回から2回に減らす検討を行ってまいりました。近年、10年を超える高耐久材料が揃ってきたことから、当取り組みに至ったものです」

 修繕費が削減されれば、居住者やマンション管理組合にとってはメリットがあるが、三菱地所レジデンスにとっては、どのようなメリットがあるのか。

「三菱地所レジデンスにとっては、まず、ご購入後の入居者の皆様の修繕工事費負担を削減できることにより、お客様に物件をご評価いただけるのではないかと考えています。また、CO2を削減することにより、省エネに貢献できることもメリットだと考えています。大規模修繕工事を周期18年とすることにより、40年間で、CO2eは約225tの削減(スギの木でたとえると、約1万6千本が1年間に吸収する量に相当)が可能となります(One Click LCAによる算定)」(同)

 具体的にどのような方法によって、修繕費を削減するのか。

「新築時および大規模修繕工事時において、外壁に使用する外壁材に耐久性の高い材料を選定すると共に、適切な点検・補修を行うことで、大規模修繕工事の周期を12 年から18 年まで延伸させるスキームを構築し、長期修繕計画に反映しました」(同)

耐久性の高い材料を選定

 今回のスキームでは、耐久性の高い材料として、絶壁外壁材におけるタイル(剥離防止工法)、仕上塗材(高品質上塗り材)、シーリング材(高耐候性材)、屋上防水(シート防水)などを採用した。たとえば屋上防水としては、一般の屋上防水保証期間は約10年を目安とされているところ、15年保証のシート防水(最長20年)を採用。タイルでは接着耐久性に優れるQ-CAT認定有機系接着剤によるタイル張り工法を採用し、適切に施工記録を残すことで10年ごとの建築物の定期調査報告において、一部の引張接着試験のみで建物全面の打診検査が免除される。

 シーリング材としては、耐久性区分10030相当(シーリング材が100℃の高温下で30%の圧縮、および-10℃の低温下で30%の伸張に耐える)、建築用シーリング材の耐久性を表すJIS規格(JIS A 5758)において最高グレードの高耐久MS-2、期待耐用年数20年のシーリング材を採用。高耐久化を行っている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

害獣から梨を守る!LIVEカメラ監視員求む!

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「寝たいけど寝られない時間」を、自分や誰かのための価値ある時間に変える睡眠プロジェクト「ねれないス」が、寝られない時間を利用して梨を守る害獣監視員を募集している。

「ねれないス」とは、電通のクリエイティブ部門の有志メンバーが立ち上げた睡眠プロジェクトで、「寝るまでの時間を、ナイスにしよう」というコンセプトをもとに、寝られない時間を価値に変える活動をしている。寝られない時間をただ過ごすのではなく、社会貢献活動などの誰かのためになることや、資格取得などの自分のためになるコンテンツの提供を行っている。

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タヌキやハクビシンなどの動物に食べられて収穫できなくなった梨。

そのひとつとして行っているのが「害獣監視員」プロジェクト。神奈川県藤沢市を実証実験の場として、田畑を荒らすタヌキやネズミなどの害獣を監視し、農作物を守る取り組みだ。害獣が活動する夜中に、田畑に設置されたLIVEカメラを使って、不特定多数の寝られない人たちで監視。害獣を発見したらシステムに通報し田畑にアラームを鳴らし、害獣を追い払うという仕組み。まさに“監視員”の役割を、寝るまでの時間を使って誰でも簡単に布団の中からできるのだ。 

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梨農園に現れたアライグマ。監視員による通報&アラーム音のおかげで追い払うことに成功している。
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(左)畑に設置されたスピーカー。害獣を見つけた人が特定の電話番号に電話するとアラーム音が鳴る。(右)畑に設置した監視用のLIVEカメラ。YouTubeで配信中。

去年の9月にスタートし、3回目となる今回は藤沢市の梨農園の監視員を募集している。プロジェクトリーダーである電通の丸橋佳寿子氏は「監視員といっても、特別な登録は必要ありません。YouTubeで公開されているLIVE映像を見られる時だけ、ぼーっと見て監視。害獣が現れたら、特定の電話番号に通報してアラームを鳴らし、害獣を追い払うという仕組みなので誰でも気軽に参加できます。寝られない夜に、ぜひ一度気軽に見に来てください!」と、その手軽さの魅力を語る。

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藤沢市で梨農園を営む佐藤智宏氏

このプロジェクトに参加している藤沢市の梨農園を営む佐藤氏は「害獣の被害に困っている農家は多い。夜中にどこからどんな害獣が入ってくるのか把握できること、現れた瞬間にアラーム音で追い払えるのは助かる。今後、この取り組みがうまくいって他の農園にも広がっていってほしい」とコメントを寄せている。

LIVEカメラはこちらから(登録なし・無料)
https://www.youtube.com/watch?v=avV2CSU8xko

ねれないス公式X
https://x.com/nerenice0903

LIVE配信期間:現在配信中。梨の収穫が終わる9月末までを予定。

「ねれないス」は今後も、寝るまでの時間をうまく活用することで、睡眠が大切だとわかっていてもなかなか寝られない人のストレスを和らげ、「今日は少しだけ、いいことをしたな」という気持ちで1日を終えられるコンテンツ提供を目指している。

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「ねれないス」のその他のコンテンツ:
ユニーク資格案内
なかなか寝られない時間を自己研さんにあてるためのユニークな検定を紹介。「いぬ検定」や「世界遺産検定」など。ねれないス公式Xで展開中。

日立と電通のかけ算。toBもtoCもカバーする発想力と実装力とは?

左から日立製作所 赤司卓也氏、越智啓之氏、電通デジタル 高橋優太氏、電通岸本和也氏、越智一仁氏
左から日立製作所 赤司卓也氏、越智啓之氏、電通デジタル 高橋優太氏、電通岸本和也氏、越智一仁氏

日立製作所と電通、電通デジタルの3社による「AI for EVERY」は、生成AIを用いて生活者と企業、社会のより良い接点を構築し、さまざまな社会課題を解決しようというプロジェクトです。

フードロスを減らすために生まれた「今日の気まぐレシピ」は、その一つ。「社会課題」という大きなテーマを生成AIで解決するには、一つ先を行く「発想力」と「実装力」が必要です。

今回は、プロジェクトを主導する日立製作所(以下、日立)の越智啓之氏と赤司卓也氏、Dentsu Lab Tokyoの越智一仁氏、電通の岸本和也氏、電通デジタルの高橋優太氏による座談会をお届けします。

「今日の気まぐレシピ」の話を入り口にしつつ、お互いの発想力と実装力、さらには生成AIの真価に至るまで、日立と電通の化学反応でお話は多方面に膨らみました。

※同姓の越智氏が2人いるため、日立の越智氏は「越智(日)」、電通の越智氏は「越智(電)」と記載します。
 
<目次>
日立と電通のかけ算。技術起点+課題起点で生まれた「今日の気まぐレシピ」

「社会起点の日立」「人起点の電通」の、発想力・実装力が融合すると?

お互いに組むことで新たな視点が生まれ、「もう一歩先」の発想が出てくる

日立と電通のかけ算。技術起点+課題起点で生まれた「今日の気まぐレシピ」

電通 越智一仁氏
電通 越智一仁氏

越智(電):本日は「AI for EVERY」の参画メンバーである日立のお2人と、電通グループの3人で、「今日の気まぐレシピ」のことや、各社の生成AIへの向き合い方など、幅広くお話しできればと思います!

最初に簡単に自己紹介をすると、私はもともとコピーライティングやCM制作を経験してきましたが、現在はDentsu Lab Tokyoという組織で、デジタルやテクノロジーを使ったクリエイティブに携わっています。AI関連の取り組みが多いこともあり、今回「AI for EVERY」のプロジェクトに参画しました。

岸本:私も同じくDentsu Lab Tokyoに所属していて、テクノロジーを用いたコミュニケーション施策やツール開発に携わってきました。現在は生成AIや音/音楽を用いた取り組みが多く、サーベイからプランニング、プロトタイピング、たまに実装までを行っています。

高橋:私は電通デジタルで、普段は企業のDXやデジタルマーケティングを支援するコンサルティングを行っています。「今日の気まぐレシピ」では、岸本さんたちと一緒に企画提案を行いました。

越智(日):私は日立でマシンラーニングやデータサイエンスのコンサルティング、技術支援を主に行っています。「AI for EVERY」では、電通グループさんとの協業に関する取りまとめを担当しています。

赤司:同じく日立で、デジタルビジネスに関する部署のデザイン部門を率いています。もともとはゴリゴリのプロダクトデザイナーで、エレベーターや医療機器などのハードウェアのデザインをしていました。当社の事業の広がりに沿って、プロダクトからインタラクション、サービス、そしてエクスペリエンスと、領域を変えながらデザインの仕事をしています。

越智(電):ありがとうございます!本日は、座談会を通して、日立さんと電通グループそれぞれの「発想力」や「実装力」の違い、あるいは共通点を浮き彫りにしていければと思います。

まずは「AI for EVERY」の取り組みと、第一弾のソリューションである「今日の気まぐレシピ」について、どのような発想から生まれたのか、プロジェクトの立ち上がりから参加している電通デジタル高橋さんにお聞きしてよろしいでしょうか。

※今日の気まぐレシピ=
日立の在庫管理システムや需給予測・受発注システムを基に「売れ残りそうな食材」を高精度に予測し、電通クリエイターの知見を学習した生成AIがその食材に関連するユニークなレシピやクーポンを生成。電通デジタルが提供する「∞AI Ads」のノウハウを活用し、これらのレシピやクーポンを、販促素材として自動生成し、店舗のアプリや店頭サイネージなどで配信する。

 

高橋:もともと日立さんの「Lumadaアライアンスプログラム」に電通デジタルが参画し、DX領域において共創していたんです。その中で、日立さんは現場で働くフロントラインワーカーへの支援が得意であるとか、電通デジタルにはtoC領域の技術やマーケティングの知見があるといった、お互いの得意領域への理解が深まりました。

そんなお互いの強みを組み合わせると、toB領域もtoC領域も広くカバーしながらさまざまな社会課題にアプローチできるのではないかという発想から、生成AIサービスのプロジェクト「AI for EVERY」が生まれました。

そして「今日の気まぐレシピ」ですが、日立さんと電通グループの強みを組み合わせるという大前提のもと、両者にどういう接着点があるのか、技術と社会課題の両面からすり合わせていきました。その結果、日立さんで実績のある「需要予測」と、電通グループが得意とする「広告配信」や生成AIを用いたクリエイティブ、その技術や知見を掛け合わせると、社会課題である「フードロス」にアプローチできるのではないかというところから始まっています。

日立さんにフードロス解決のアイデアをお持ちした際に、「レシピ生成なんかもいいね」というコメントをいただいたり、電通の岸本さんたちに知恵をお借りした際にもレシピ生成のアイデアをいただいたりしました。それらを総合的に取り入れた結果、レシピ生成を行う「今日の気まぐレシピ」という形に昇華していきました。

越智(日):ちなみに日立の需要予測システムとは、その日にどういった製品や食材が売れていくか、どのぐらいの需要があるかを、これまでの実績データや、いろいろなパラメーターから予測するというものです。

越智(電):「日立さんの需要予測技術を使って、フードロスを減らす」という技術面でのアイデアが一つの出発点だったんですね。もう一方で社会課題の面からフードロスという題材を選んだとのことですが、これはどのような経緯で題材が思い浮かんだのでしょうか。

高橋:大きく二つあります。一つは、私や他のメンバーに、社会問題まわりのインプットが比較的多かったことです。電通デジタルでは、ソーシャルデータから社会課題を考察するといった試みを過去に行っており、広く社会課題に対する知見がたまっていたので、「この技術は、あの課題に当てられそう」といったなんとなく当たりがついていました。

もう一つは、電通グループならではの「生活者視点」です。例えば私は、前述の社会課題分析で「スーパーマーケット」がキーワードに上がったときには、営業の邪魔にならない程度にスーパーへ足を運んでみて、商品がどういった買われ方をしているのかを観察しました。そこで、買う、買わないの判断が値引き商品に左右されているという気づきがあったり、「一回かごに入れた商品は値引きしませんよ」という店側の値引きに関するやり取りを見かけたりしたことで、これは生活者の課題になり得ると思って掘り下げていきました。

電通デジタル 高橋優太氏
電通デジタル 高橋優太氏

岸本:あとは、国内外の広告産業やサービスデザインなどの事例から得られた示唆を踏まえて、企画をブラッシュアップしましたね。私自身も過去にフードロスで規格外野菜を扱う企画も立案してきたので、その延長線上で今回の技術は「もしかしたらハマるかも」と思って提案した次第です。

Dentsu Lab Tokyoでは、よくクライアントのR&D(研究開発)部門の方と一緒に課題解決に当たるんです。そうしたときは、まずクライアントの技術シーズを調べたり、それらに隣接する世の中の技術の使われ方や捉え方を下調べした後に、「技術起点」で発想することが多いです。

一方で高橋さんとも共通しますが、「課題起点」で考えることも多くあります。社会課題を解決するために、そもそも技術に頼らないやり方はあるか、論文やオープンソースのコードといった、どのような技術を組み合わせるとより効果的に課題解決できるのかを、技術起点と課題起点を行ったり来たりしながら考えています。

「社会起点の日立」「人起点の電通」の、発想力・実装力が融合すると?

日立製作所 赤司卓也氏
日立製作所 赤司卓也氏

越智(電):日立さんは、「今日の気まぐレシピ」というアイデアについてどう思われましたか?

赤司:生活者の心理って、実はものすごく“瞬間、瞬間”に表れるじゃないですか?「フードロスになりそうな食材を買うのは社会的にいいことだけど、この食材で何を作ろうかな?」といった、ユーザーが見せる一瞬の迷いに対し、「レシピ生成」によって後押しをしてあげられる。つまり「人の行動を変える最後の一押し」として、すごくよい発想だと思いました。

ちなみに私たちもかなり現場観察をして、生活者の行動を見るんです。社会課題を見つめるうえで一番分かりやすく考えやすい単位って「地域」だと思いますが、「その地域の中で、ある社会課題が、なぜ課題になっているのか?」を調査することが大事だと思っています。

日立で、地域という単位で地産地消に取り組んだケースを一つ紹介します。東京都国分寺市には、市内の農家が生産する野菜を「こくベジ」と名付け、PRするプロジェクトがあります。「こくベジ」には生産者もいて、かつ「こくベジ」を使って料理を提供するレストランもあり、農家からとれたての野菜を集荷し、飲食店に配達し、それぞれのお店で市民の皆さんが食べることができます。地産地消が一見うまく回りそうにみえますが、プロジェクトメンバーや農家さんにお話を重ねるうちに、生産者から消費の現場に届ける「移動の手段」が課題になっていることが分かりました。

もちろん「こくベジ」に関わる方々は頑張って野菜を運んでいるんですが、地域の地産地消を目指す上では、流通と市民参加を組み合わせること。つまり、“お店に野菜を運ぶ”というプロセスにも市民に参加してもらい、地域の文化や営みを醸成しながら「移動」の課題を解決してみようと、市民も参加して移動させる取り組みを行いました。何が具体的な課題になっているのかを見てから、解決方法を考えていくというケースになりました。

参考:つれてって、たべる。わたしの野菜:研究開発

 

越智(電):現場主義的というか、リアリティを大切にして本当の課題をリサーチしていく日立さんの姿勢に「なるほどな!」と思いました。電通も、もちろん現場を見ることを大切にしていて、いろいろとアイディエーションしているんです。だけど日立さんと電通グループでは文化も接している課題も違うため、発想や実装に違いがあるように思います。例えば日立さんのユニークな取り組みに「ビジョンデザイン」がありますが、これについて詳しく伺えますか?

赤司:日立は「社会イノベーション」というパーパスを掲げているので、社会課題を自分ゴトとして捉えたり、人と社会がどうやって幸せになるかを大事に考えたりするデザイナーやエンジニアが多い印象です。そんな中で、私は「ビジョンデザイン・プロジェクト」という活動を行っています。これは一言でいうと「未来を描くための日立のデザインの活動」です。

ビジョンデザインを立ち上げた15年前は、スマートシティ、スマートファクトリーなど、「スマート」という言葉が社会的にはやっていた時期でした。2016年に日本政府が公表し、当社の会長であった中西宏明が朝日地球会議2018のスピーチで述べた「Society 5.0(ソサエティ5.0)」という取り組みを日本政府が公表しました。その中で実現を目指すものとして提示された概念が、Super-smart society(スーパースマートソサエティ)、つまり超スマート社会です。

でも、そこで考えたのですが、「スマート」という言葉は、ビジネス上ではOptimization(最適化)やAutomation(自動化)、Efficiency(効率化)といった文脈で使われることが多いですよね。だけど本当はThoughtful(思慮に富んだ)やClever(賢い)といった意味もあります。

つまり、最適化、自動化、効率化の道が、本当に人間にとって幸せなのか?「社会イノベーション」に取り組むデザイナーとして、僕らはその問いで立ち止まる必要がありました。それで始めた活動が「ビジョンデザイン」なんです。

越智(電):Society 5.0が示す「スマート」は、必ずしも表層的な「スマート」を指していないのではないか?という仮説があったのですね。「そもそも新しい技術は、本質的に、人間のためになるのか?」という問いを出発点にされたと。

赤司:はい。もちろん、最適化、自動化、効率化によって、便利にはなるはずなんです。何かの作業を自動化すれば、今までやっていたことがなくなって、違うことに時間を使えるかもしれない。でも「本当に、それで幸せになるのか?」というのは、違う幸せの姿も探らないと分からないことだと思ったんです。

そこで「ビジョンデザイン」という活動を始めたわけですが、ただ「スマート」にするのではなく「スマートを超えるところを探そう」という「Beyond Smart(ビヨンドスマート)」という活動コンセプト名をつけました。デザインチームとして「技術が人にもたらすかもしれない課題のようなものを、日立の中から出していかねばならない」と思って、勝手に使命感に燃えていました(笑)。

越智(電):「ビジョンデザイン」では、「新しい技術が意図せずにもたらしてしまうかもしれない問題」にも目を向けていらっしゃいますね。

赤司:社会の中に、データ分析やそれに伴うトランスペアレンシー(情報の透明性)が入り込んでしまったときに、人は怖い思いをするかもしれないと思っています。例えば、病気になる確率が数字で表されるようになった場合。「あなたは30%の確率で病気になります」と言われると、そうなる前の社会と比べて、病気に対する距離感がぐっと縮まるんです。そのときに「数字を気にせずに生きていこう」と考えるのか。それとも30%にとことん向き合って10%にできるような暮らしに変えていこうとするのか。最終的には自分の「態度」の問題になるのですが、やはり変えないと生きづらくなるんじゃないかと。

この未来洞察は一つの例ですが、こういった例を他にもたくさんつくったんです。日立は将来、生活者、ひいては人の価値観がどのように変わっていくかという視点を持つ必要があると考えており、「きざし」と呼ぶ視点集を作っています。2010年にまとめたリサーチは「25のきざし」と名付けたのですが、これは2025年を想定して作ったものなので、今年「これは本当に起こった」「予想以上に進んでいる」といった答え合わせをしたいと思っています。やはり新型コロナウイルスの影響は大きく、「15年後の当たり前」になると予想したものが、コロナ禍で急激に「当たり前」になったものもあって、面白いんです。
 

※ビジョンデザインより
※ビジョンデザインより

越智(電):なるほど!日立さんと電通グループでは、発想法や実装法に違いがあると思っているのですが、お話を伺っていると、実は目指すところに共通点があるなと感じました。機能と感情という観点で、機能面では社会の最先端を追いかけていくような動きがありつつ、一方で人の感情に注目したときに、その機能にどんな価値があるかを考えている点が似ていますね。

高橋:私の中で日立さんは、社会システムやインフラに深く関与されている会社というイメージがありました。でもそれだけじゃなくて、「社会」という大きなものと、「一人一人の人」というミクロなものを両方見られるような体制があって、そこを行ったり来たりしながら最終的に世の中を変えるアプローチをしていらっしゃると思います。そこは電通グループも同じなんです。

「人と社会を行ったり来たりしながら課題を発見し、解決する」という共通点はありつつ、日立さんは実装力を生かして「社会」の側からアプローチするのに対し、電通グループは「人」の側から意識・行動を一つ一つ変えて、世の中に対して変化を促していると思います。最終的にどちらの側からアプローチするのかという点が、両者の違いかなと感じました。

ちなみに、先ほど「きざし」の話をされていましたが、電通グループにも同じように「電通未来曼荼羅」という中期未来予測ツールがあります。今後、社会が中長期的にどのように変化していくかを、まずファクトから想像し、生活者の生活がどう変わるかをまとめているもので、そこも日立さんとの共通点ですね。
 

越智(日):私もやはり、やりたいことというか、「こうあるべき」という世界観は似ていると思いますね。先ほど、toB領域もtoC領域も広くカバーしながらさまざまな社会課題にアプローチしたいという話が出てきましたが、受け手の側からするとBtoBとBtoCの区別ってないですよね。

UX(ユーザーエクスペリエンス)を考えるときに、BtoBとして価値を提供するプレーヤーと、BtoCとして提供するプレーヤーが一緒になって一つの体験価値を実現しているんだと思うんです。おそらく、日立と電通グループさんはそういう意味で良い組み合わせだと思います。

C(コンシューマー)の方が悩む最後の一押しのところは、電通さんのコミュニケーションの力で気持ちを動かす。そのバックグラウンドで「仕組み・仕掛けとしてはこうなっていなきゃいけない」という部分を日立が提供するという形かなと。

お互いに組むことで新たな視点が生まれ、「もう一歩先」の発想が出てくる 

電通 岸本和也氏
電通 岸本和也氏

越智(電):まさしくお二人がおっしゃる通り、より生活者寄りの接点を多く持ち、課題解決するのが電通で、その生活者の奥にある社会との接点を大きく持っているのが日立さんなのかなと思います。岸本さんはどう感じましたか?

岸本:電通では、メディアをはじめとした生活者とのさまざまな接点のことを「コンタクトポイント」と呼んでいますが、そのコンタクトポイントで生活者とどのようなコミュニケーションを取るかをあれこれ考えてうまく表現しようとするところが、まさに電通の仕事領域なんですね。

例えば、先ほど赤司さんが「30%の確率で病気になってしまうとき」という話をされていましたが、生活者とのコミュニケーションの施策や、プロダクトやサービスにそのまま「30%の確率で病気になります」と直接出してしまうと、やはり生活者は少し「ウッ」となるのではないか、という感覚は持っています。

そこで、例えば「そろそろ危ないよ」とキャラクターに言わせてみるとか、プロダクトが振動してアラートを出してくれるような仕組みにするようなことを考えるんです。われわれはよく「チャーミングな伝え方」「コミュニケーションデザイン」と言ったりするんですけども、「どうしたらより良く伝わるか」ということは、生活者の方と向き合う中で常に考えていますね。

高橋:企業のコミュニケーションにおける、戦略から成果物の細部までを磨き上げられるのが、電通グループの強みですよね。「今日の気まぐレシピ」一つとっても、単純にフードロスを解決することだけを考えると、何もレシピにせずとも、売れ残りそうな食材を値引きするだけでいいと思うんです。しかしそれだけをやってしまうと、値引きをしすぎて企業のビジネスが維持できなくなってしまうかもしれない。 

その点、「レシピ生成」というのは、生活者の方に値段以外の食材・商品の「価値」を提供する、つまり見せ方を変えるという、まさに電通らしいアプローチです。商品の価値を落とさずに、いかに買ってもらうかという。

越智(電):ちょっとした工夫ですよね。「売れ残っているから安いのです」と言われても、気持ちが動かないし。そうではなく、「これとこれを組み合わせると、こんなにおいしいものができます」というように、ポジティブに伝えていく点は、電通の考えるやり方、デザインかなと思います。

日立製作所 越智啓之氏
日立製作所 越智啓之氏

越智(日):今のお話を伺って思うことがあります。日立がtoBのお客さまと課題についてお話ししていると、「そのお客さまの課題の捉え方」に視点が限定されてしまい、その視点で想像しうる社会・未来を実現するにとどまることが多くなります。それを、もう一歩先へ、もっとスマートに、もっと新しい良いものにするためには、さらに一歩視点を広げる必要があります。

例えば、配車サービスの「Uber」。タクシー事業者ではない一般の方のリソース(車)を利用してサービスをするという発想自体が、すごく新しかったですよね。利用者と提供者をうまくマッチングするためのアプリケーションがあり、経路探索などいろいろな技術の組み合わせで実現しています。 

日立の関わったサービスではないのですが、例えばもしも、タクシー会社さんと日立だけで話をしていたら、そのような発想はなかなか生まれにくいかなと思います。利用者の「すぐに配車されて、安く目的地に着きたい」という課題と、提供者の「車も暇もあるからサポートできる」という発想を組み合わせていったことで生まれたサービスなんですね。

つまり、電通さんと組んで、課題というものをクライアントだけでなく世の中や生活者にまで広げて考えてみると、「よりスマートに」ということを実現できるのではないかと思いました。「AI for EVERY」は主にBtoBtoCを想定していますが、toC、つまりエンドユーザーの課題発見にも期待しています。

越智(電):Uberの話はよく分かります!電通サイドももっといろんな生活者課題を解決したいんですが、広告をベースにしているわれわれができる範囲は結構限られていて、そこまで本格的な実装や課題解決まで到達できないこともあります。平たく言うと、「表現」で終わってしまうことが結構あるんです。インフラとかは、とてもじゃないけど作れない。でも日立さんと組めば、その先の実装まで実現できるかもしれません。

広げるのが得意な電通と、実装力のある日立さん、お互いの良いところを生かして、いいバランスでBtoBtoCの課題解決を実現できるのではないかと思いました。

後編へ続きます。

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「未来コンセプト」とは?未来は、これからのビジネスツール!

「未来を考えるなんて、専門家やSF作家の仕事じゃないの?」
正直そう感じる方も少なくないかもしれません。忙しい毎日の中では、「10年後の世界」よりも「明日の締め切りや納品」に意識が向いてしまうのが当然です。けれど、社会や市場の変化が読めなくなっている今、むしろ私たち一人一人に問われているのは、「未来」を考える、構想力だと私は考えています。

ごあいさつが遅れました。電通グループ横断組織「未来事業創研」の山田 茜と申します。2025年6月、私たち未来事業創研にとって初の書籍「未来思考コンセプト―ポストSDGsのビジョンを描く」が発売になりました。そこで、書籍の発売を記念した特別連載をスタート。

本記事では、なぜ未来を描くことが大事なのかを説明した上で、「未来」が重要なビジネスツールになり得る理由  を解説します。

未来思考コンセプト―ポストSDGsのビジョンを描く
発行:クロスメディア・パブリッシング/編著者:電通未来事業創研
mirai01ポストSDGs時代を目前に、未来への期待よりも課題が語られやすい今だからこそ、「未来は予測するものではなく、つくるもの」という考えを大切にし、「つくりたい未来」を描くことの必要性をビジネスと未来の関係性を交えて実用的にまとめた一冊。

 

未来を描くことで、よりよい社会をつくっていく


 

2021年に設立した電通グループ横断組織「未来事業創研」は、今年で5年目に入り、これまで数多くのクライアント案件に関わってきました。年々引き合いが増えていることもあり、未来に対するニーズの高まりをひしひしと感じる日々です。

その中でも大きく3つのニーズがあることに気が付きました。 

  1. 未来について知りたい
  2. 未来を活用して新しいビジネスや事業を考えたい
  3. もっとビジョナリーに、未来をよくする取り組みをしたい

こうしたニーズにわかりやすく、面白く応えることで、多くの方に未来を考えることの大切さを感じていただき、よりよい社会やくらしに向けた変化を後押ししたい――。そう考えた私たちは、未来事業創研が提唱している「未来コンセプト」の書籍化に向けて、新たなプロジェクトを立ち上げました。

そして、こちらからいくつかの出版社にご相談し、お話する機会をいただく中で、ビジョンが一致したクロスメディア・パブリッシング社からの出版が決まりました。完成した書籍「未来思考コンセプト―ポストSDGsのビジョンを描く 」には、未来事業創研の開発したツールや、未来に関するナレッジ、未来を構想するコンテンツやフレームワークがぎゅっと詰まっています。ぜひお手に取っていただけますと幸いです。

そもそも「未来コンセプト」とは?

未来事業創研の提唱している「未来コンセプト」とは、「つくりたい未来像」を描き、その未来を実現するために必要な事業や活動をどのように進めていくかという指針を言語化したものです。

mirai02位置付けとしては、描いた未来に向けて、現在からどんな取り組みをしていけばよいかという方向性を示した太い矢印のようなものです。この矢印に沿う手段を選択し、進捗(しんちょく)を管理していくことで、一歩ずつ着実に「つくりたい未来像」の実現に近づいていきます。  

「未来コンセプト」をチームや社内外で共有することで、周囲を巻き込みやすくなり、迷ったときの判断軸にもなります。さらには、自分たちの存在意義が明確になり、組織のアイデンティティの創出にもつながっていきます。これまでの慣例や前例という壁に思い悩むビジネスパーソンにとっても、ブレークスルーの一助となるかもしれません。

未来は、絵空事でも占いでもありません。明日をつくるための、極めて実用的なビジネスツールになり得るものです。未来を描くことは、戦略設計にとどまりません。共感や行動を生む取り組みの起点にもなるからです。生活者だけでなく、従業員や取引先、社会全体を巻き込む原動力となる未来像を描けるか。採用やブランド選定の現場でも、「この企業はどんな未来を描いているか」が問われる時代になりました。未来像を語れる組織こそ、選ばれる組織になりつつあります。

書籍内では、「つくりたい未来像」の描き方やフレームワークを活用して「未来コンセプト」を導出する方法を紹介しています。

未来コンセプトを言語化する前に必要なこと

未来コンセプトを言語化する前に必要となるのが「つくりたい未来像」の価値を明確にすることです。そして、その価値が現在どのような状況なのか、価値は現状では存在しない全く新しいものなのか、別のもので代替されていないかを明らかにすることが求められます。加えて、自社が現時点でその価値の提供に何かしらかかわっているのかも、確認しておく必要があります。 

本書では、バックキャストで、ビジョンを実現するための具体的な商品・サービスの企画や事業アイデアを考える方法を説明しました。数多くのアイデアを出し、可能性を網羅した上でアイデアを評価するのですが、実際に取り組むものは評価結果も踏まえつつ、何かしらの視点を基に選定することになります。高い評価のアイデアであっても、自分たちが取り組むべきものとそうでないものが混在しますので、その中から「これだ!」というものを選定するための基準が未来コンセプトになります。自社の現在地を踏まえた未来コンセプトを定義することで、アイデアを絞り込むための基準になるだけでなく、ゴールにある未来の価値とそれぞれのアイデアをひもづけて、さらに魅力的なアイデアにすることも可能になります。 

未来をつくる力に必要なのは、専門知識だけではありません。重要なのは、「問いを立てる力」や「仮説を描く力」、つまり構想力です。

AIが日常に溶け込んだ今、「何を構想し、どう使うか」は人間の想像力にかかっています。生成AIやシミュレーション技術の進化によって、誰でも未来を“考える道具”は持てるようになりました。次に必要なのは、それを使って「どんな未来を見たいか」を描こうとする意志です。

誰にでもできる「未来を描く」メソッド
 

いつもと同じ環境で同じメンバーと現実からジャンプした新しい発想をしようとしても、なかなか難しいかもしれません。だからこそ未来事業創研の存在価値があるのです。みなさんのクリエイティビティを、私たちが底上げしたり、引っ張り出したりして、具体的な未来像に落とし込んでいく。まさにセッションによって、未来像を生み出していくのが特徴です。

つくりたい未来像を解像度高く描くためのツールや、未来や理想像を設定し、そこから逆算してビジネスを考えるメソッドも取りそろえています。

  • 未来の仮説探索を行う「未来曼荼羅」
  • 100のテーマを掛け合わせて未来社会を考える「未来ファインダー100」
  • 未来の生活者が何を望むか想像する「普遍的11欲求」
  • 未来の生活行動時間を予測する「Future Time Use」
  • 生成AIを活用して未来の生活者像を具体化する「未来人ジェネレーター」

未来は、思いがけずやってくるものでも予測するものでもなく、思い描くことで「つくる」もの。この連載を通して、未来は実用的なビジネスツールであることを実感していただけたらうれしく思います。

みなさまに「未来」を少しでも身近に感じていただけるように、そして「未来」を今のビジネス課題解決に役立てていただけるように、次回は未来を描くポイントを深掘りして解説します。どうぞお楽しみに。

問い合わせ先:未来事業創研(担当:吉田・山田)  
future@dentsu.co.jp


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1200件の検査を一人で…AI医療機器×地方医療の最前線

●この記事のポイント
・AI医療機器は専門医不足の地方医療でニーズが高まっている。画像診断AIの進化により医療技術の均てん化が期待される一方、保険収載や診断責任が課題。
・和歌山県の竹村医院では、医師一人が年間1200件の胃カメラ検査を行うなかで、誤診防止のためAI内視鏡を導入。AIを医師の「補助線」として活用し、見落としリスク軽減に役立てている。
・地方医療におけるAI医療機器の導入は、医師不足や経営難の中で誤診を減らし、医療を持続させるための選択。将来的には問診から診療ナビゲーションまでAIが担うことで、医師不足解消に貢献する可能性もある。

 AIによる画像診断技術が進化するなかで、医療の現場ではその社会実装が徐々に進んでいる。特に、専門医の不足や高齢化が深刻な地方医療の現場では、AI医療機器が静かに必要とされ始めている。

 今回は、AI医療機器協議会の金井宏樹氏と、AI内視鏡を導入した和歌山県・田辺市にある竹村医院の高原伸明医師に話を聞いた。技術と現場の距離感を浮かび上がらせる。

●目次

AI医療機器は、今どこまで来ているのか

 AI医療機器というと、最先端の大病院が導入する高度な技術というイメージを持つ人も多いかもしれない。だが、実際には日本全国での活用が始まりつつある。AI医療機器協議会(2019年設立、加盟社数は当初3社から現在は38社に拡大)で理事を務める金井氏は、医療現場でのAI活用の進展を次のように説明する。

「画像診断におけるAIの活用は、まず放射線分野から始まりました。X線やCT、MRIは静止画で構成され、AIとの相性が良い。続いて、医師の手技(カメラや器具を扱う際の技術)の影響を受けやすい内視鏡や手術支援といった動画ベースの分野でも導入が進んできています」

 たとえば金井氏の所属するAIメディカルサービスが開発したのは、内視鏡画像診断用ソフトウェア「gastroAI model-G2」。これはAIを利用して画像上で早期胃がんの診断補助を行う内視鏡診断支援ソフトウェアで、内視鏡検査中に、医師の診断のダブルチェックをリアルタイムで行うことができる。一般的に、内視鏡による胃がんの発見率は医師の経験や技術力によって大きく左右されるとされる。AIによるダブルチェックを導入することで、熟練医師が少ない地域においても検査水準の底上げが期待できる。

「医療技術の“均てん化”(全国どこでも、誰でも標準的な専門医療を受けられるように、医療技術や医療資源の格差を是正を図ること)という考え方があります。上位の医師の診断をデータ化することで、経験の浅い医師でも精度を底上げできる。AI医療機器は、そのためのツールでもあります」

それでも現場に届かない「導入の壁」

 社会実装が進んでいるとはいえ、現場での導入はまだ限定的だ。当初は薬事承認が下りないということもあったが、そこはクリアできつつある。しかし、保険収載(公的医療保険として認められ、診療報酬で点数がつくこと)がまだであるため、導入には病院側の自費負担が求められる。

「導入が進んでいるのは一部の医療機関に限られていて、医療機器が本当の意味で全国に普及するには、保険加算に関する働きかけが必要です。それが見込めるのは、早くても2030年ごろではないかとみています」(金井氏)

 加えて、診断における責任の所在や規制との兼ね合いから、現状ではAIは「診断支援」に留まり、最終的な判断は医師が行う必要がある。効率的に活用するためのファーストリード(AIが最初に医療画像をスクリーニングし、異常の可能性がある画像を選別する役割を担うこと)も制度上は難しい。

「特に自治体での導入は予算を取るのに時間がかかるため、2年は必要だと思います」(同上)

地方で使われている理由は「誤診を防ぐ」ため

 こうした状況のなかで、AI内視鏡の導入に踏み切ったのが、和歌山県田辺市にある竹村医院の高原伸明医師だ。年間約1200件の胃カメラ検査を1人で担う高原医師は、導入の理由をこう語る。

「専門医が少ないこの地域では、二重読影や指導体制を整えることは現実的に不可能です。私自身も69歳になり、体力の低下は避けられません。万一のことがあってはいけないと、見落としを防ぐためにAIの力を借りようと考えました」

 AIが示す疑わしい箇所に対して、人間がもう一度丁寧に観察を行う──高原医師が導入した使い方は、まさにAIを“補助線”として活用するモデルだ。現時点ではAIだけに任せるのは困難だが、医師がAIの指摘に応じて観察することで、見逃しリスクを減らすことができる。

「進行がん・早期がんを1例ずつ見つけられています。すべてAIのおかげとは言いませんが、少なくとも“見逃さずに済んだ”という安心感はあります」

 竹村医院がある田辺市では、専門医はごくわずか。南に下るほど医師は激減し、「ガイドライン通りに診療すれば、診療自体が成立しない」状況だという。地方の病院は経営が厳しく、若手医師はどんどん都市部へ出て行ってしまう。親の代から続く医療機関であっても、子どもを医師として育て上げたにもかかわらず、後継者にはならない——、そんな話も珍しくないという。

 医師不足の現実に直面する地方の医療現場。高原医師は、自らが引退すれば「後がいない」状況になると語る。医師会も含めて、開業医と勤務医の意識差があるため、制度改革への動きも鈍いという。

AIは地方医療を救うのか

 実際のところ、どのような医療現場ならAIの価値が見いだせるだろうか。率直に高原医師に尋ねたところ、「見落としを防ぎたいという医師には向いているが、研修医のようなレベルでは使いこなせないだろう」とAIの可能性を肯定しつつも、活用は限定的だという見方をした。現状のAIは画像診断での支援が主だが、将来的には問診や一次診断、さらには診療ナビゲーションまで担えるようになることを期待している。

「たとえば問診支援AIがもっと発展して、一次問診をAIが行い、訓練を受けた看護師が診察をして、医師の指示を仰ぐことができるようになれば、医師の数が足りなくてもカバーする体制が作れるかもしれませんね」

 地方医療におけるAI医療機器の導入は、単なるテクノロジーの進化ではない。限られた人材・資源の中で「誤診を減らし、医療を持続させる」ための、必要に迫られた選択なのだ。

(寄稿=相馬留美/ジャーナリスト)

データセンター集積地を公募=脱炭素実現へ新施策―政府

 政府は26日、脱炭素社会の実現に向けた施策を検討する「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」を首相官邸で開き、データセンターなどの集積を進める「GX戦略地域」を新たに選定する方針を示した。自治体や企業を対象に同日から提案を募集し、年内にも公募を開始する。

 GX戦略地域は、「データセンター集積型」に加え、コンビナート跡地を活用して脱炭素分野の新事業を創出する「コンビナート再生型」、脱炭素電源を活用した産業団地を整備する「脱炭素電源活用型」の3種類。

 選定に当たっての要件も公表し、データセンター集積型の場合、東京圏や大阪圏といった既存の集積地から離れており、脱炭素電源を中心に電力インフラを拡張できることなどを求めた。 

 会議では、2026年度予算の概算要求案として、脱炭素分野への投資促進に向け、経済産業省や環境省などが総額約1.2兆円を求める方針も示された。議長を務める石破茂首相は、「GX投資のうねりを日本各地に広げ、さらに世界からのGX投資を呼び込む」と強調した。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/26-16:00)

紙パックの先へ―食の未来を支えるテトラパック、その知られざる挑戦

 あなたが最後に牛乳パックを手にしたとき、その背後にどれだけの技術や社会課題解決の努力が詰まっているか、考えたことがあるだろうか。

“社会に価値を還元する”という原点から──食の未来と循環型社会を支える存在へ 

 学校給食で親しまれた三角パック──その象徴的な存在として知られるテトラパックだが、今から70年以上前にスウェーデンで創業して以来、世界160か国以上で食品加工から包装、流通までを支える「食の社会インフラ企業」へと進化している。 

 脱炭素、食品ロス削減、食の安全保障。これら地球規模の課題に、私たちの知らぬ間に着実に取り組んできたのが、テトラパックだ。

「一般には私たちは紙パックの会社として知られていますが、私たちの事業はそれだけにとどまりません。食品が安全に、効率的に消費者に届くまでの全工程を設計し、支えることが私たちの真の役割です。創業者ルーベン・ラウジングの時代から、私たちは“社会にコスト以上の価値を還元する”ことを理念としてきました。それは、再生可能な紙資源を活用し、人々がどこでも安全に食品にアクセスできるようにすること。いまもその理念を守り、進化させています」

日本市場に挑む、グローバル経営者の視点

 昨年10月、新たに日本と韓国市場の代表取締役社長に就任したニルス・ホウゴー氏は、デンマークを皮切りに、北欧、中東、スイスなど多様な地域で食品における様々な課題解決に挑んできたグローバルリーダーだ。

 日本市場については「非常に成熟した市場であり、品質、精密さ、効率性といった点で世界でも学ぶべき存在。私たちが目指す“食品の安全性と入手しやすさ”の実現に向け、多くのヒントがある」と語る。

 今年、生誕130年を迎えた創業者ルーベン・ラウジングの理念を受け継ぎ、日本でも「社会的価値をもたらす食の仕組み」を築こうとしている。

食の“裏側”に潜む環境負荷と経済価値 

 食の安全保障は、農業や小売だけで語られるものではない。実は、食品システム全体の温室効果ガス排出の約18%、経済的付加価値の最大40%が、加工・包装・貯蔵・輸送・流通といった“隠れた中間層”に集中している。

「興味深いことに、食品システムの環境負荷や経済価値の多くは、実は農場と店舗までの間にある工程に集中しています。この見えにくい部分こそ、私たちが責任を持って取り組むべき領域だと考えています」(ホウゴー氏)

 つまり、私たちが気づかぬ間に、食品を「長持ちさせるために加工する」「安全に届ける」「無駄なく流通させる」過程こそが、環境負荷と経済価値の両面でカギを握っているのだ。

「食品が食卓に届くまでには、普段は意識されにくい多くの工程があります。加工・包装・流通といったプロセスが、食品の安全性や品質を支えているのです。私たちは、この“裏側”を支える存在でありたいと考えています」(同)

 紙パックの製造にとどまらず、食品を加工、充填、包装し、安全な状態で世界中に届ける──それこそが、テトラパックの使命だ。

 だからこそ、同社は日本市場においても包装資材の提供にとどまらず、食品システム全体の効率化と持続可能性の実現に取り組んでいる。

ロングライフ牛乳が切り拓く、持続可能な流通の未来

 その一つの挑戦が、ロングライフ牛乳だ。日本市場では、「牛乳=冷蔵保存」という認識が強く根付いており、常温保存可能なロングライフ牛乳は、長らく消費者にとってなじみの薄い存在だった。

「日本では牛乳は冷蔵するものという認識が強く根付いています。しかし、UHT(超高温殺菌)と無菌充填、紙・ポリエチレン・アルミ箔で構成された6層構造の紙容器によって、光や酸素から内容物を守り、6~12カ月の常温保存が可能なのです。消費者の認知拡大には、まだ時間がかかるかもしれません」(同)

 だが、ホウゴー氏は、日本市場の“意外な事実”にも言及する。

「実は、日本でロングライフ牛乳はすでに流通しているのですが、消費者の認識に配慮して、冷蔵売り場で販売されているケースが多いのです。消費者は常温保存可能であることに気づいていないかもしれませんが、流通面ではすでに効率化が進んでいるのです」(同)

 実際、長期で常温保存可能なロングライフ牛乳が物流や販売の効率化、さらには食品ロス削減に大きく貢献している。冷蔵インフラの維持にかかるエネルギー負荷も小さく、特に地方や農村部など物流の効率化が課題となる地域では、ロングライフ牛乳が持つ常温保存性が、社会インフラの一部としても重要な役割を果たす。

「私たちは、安全性と品質を担保しながら、消費者にとって便利で持続可能な製品を届けたい。ロングライフ牛乳は、将来の持続可能な食品流通を支える重要な選択肢の一つだと考えています」(同)

 こうした視点でテトラパックは、日本でも食の流通課題に挑戦していく。日本市場は、品質や精密さ、効率性において世界でもトップクラスの成熟した市場だ。

「2024年問題」への新たなアプローチ

 一方で、食品加工や包装、流通といった“目に見えにくい”プロセスに対する社会的な理解や、長期常温保存を可能にする技術への受容は、まだ十分に広がっていない。

「日本は非常に品質基準が高い市場です。しかし同時に、冷蔵保存へのこだわりなど、文化的な側面から新しい流通モデルの導入には課題もあります。それでも私たちは、日本から多くを学び、日本の社会課題解決にも貢献できると信じています」(同)

 特に、2024年4月から施行されたトラックドライバーの労働時間規制、いわゆる「2024年問題」は、日本の物流業界に深刻な影響を与えている。ドライバー不足と相まって、冷蔵輸送に依存した従来の食品流通モデルは限界を迎えつつある。

「チルド製品は製造から配達まで時間的制約が厳しく、ドライバーにも負担をかけています。常温流通なら製造期間にも余裕ができ、船便や鉄道など輸送手段の選択肢も広がります。また、チルド製品がクレートでの輸送を必要とするのに対し、常温製品はパレット輸送が可能で、大幅な効率化が図れるのです」(同)

 こうした物流効率化は、環境負荷の削減にも直結する。冷蔵車両の運行減少によるエネルギー消費削減、輸送回数の削減によるCO2排出量削減など、従来の「ドライバーを増やす」「輸送効率を上げる」といった発想とは異なる、2024年問題への新しいアプローチといえる。

 テトラパックが提案するのは、物流業界だけでなく食品・飲料業界も含めた構造的な解決策だ。単なる製品提供にとどまらず、企業・自治体・NGO団体などと共創し、労働力不足やサステナビリティなどの社会課題を同時に解決する道筋を描いている。

万博で示す、循環型社会の実例

 こうした挑戦を社会に伝える場として、テトラパックが参加しているのが、現在開催中の大阪・関西万博だ。デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧5カ国が共同で出展する「北欧パビリオン」に、テトラパックはプラチナスポンサーとして参画している。

「万博は、私たちの取り組みを具体的な形で示す貴重な機会です。私たちは北欧の企業とともに、グリーントランジション、ライフスタイルとウェルビーイング、モビリティとコネクティビティといった社会の重要なテーマに向き合い、新しい価値を発信しています。そして日本でも多様なパートナーと連携し、強靭な食品システムの構築や資源循環を通じた持続可能な社会づくりに向けた取り組みを発信しています」(同)

 北欧パビリオン内で提供されているボトルドウォーターは、使用済みのアルミ付き紙パックの古紙を使用した再生段ボールに梱包されたうえで出荷・輸送されている。また、会場内で回収された使用済みの紙パックについては、大阪・関西万博の協賛者であるリサイクル事業者によって再資源化され、大阪・関西万博の会場内でトイレットペーパーとして使用される。このように、日本国内で進めてきた紙資源のリサイクルの実例を、実際の社会インフラとして可視化している。

 たとえば、私たちがリサイクルに出した紙パックがトイレットペーパーや段ボールに生まれ変わり、また社会で役立っていく──そんな小さな循環の積み重ねも、未来の社会を支える「共創」のひとつなのだ。

 食品や容器の“裏側”で、こうした企業やパートナーたちが静かに動いていたことに気づいたとき、社会課題の解決は決して遠い話ではなく、私たちの日々の暮らしとつながっていることを実感するだろう。

2050年ネットゼロに向けて──容器におけるライフサイクル全体で描く循環の未来 

 日本市場では、包装資材メーカーというイメージが強いテトラパック。だからこそ、食の安全保障や循環型社会づくりといった“大きな視点”を示すことで、同社の本質的な役割を社会に問いかけているのだ。

 こうした循環型社会への取り組みは、リサイクルだけではない。テトラパックの紙容器は、約70%が原紙で、再生可能資源である木から作られている。原紙は持続可能な森林管理を認証するFSC®(森林管理協議会)認証を取得しており、適切に管理された森林やそのほかの管理された供給源からの木材を原料として使用している。

 さらに、キャップやラミネートなどには、植物由来のプラスチック(サトウキビ由来のポリエチレン)が採用可能で、化石燃料由来の資源への依存を低減。これらの素材はサプライヤーと協働しながら、カーボンフットプリント削減も実現してきた。

 近年では、紙ベースのバリア素材の開発も進み、将来的には「完全に再生可能資源で構成された紙容器」の実現を目指している。

 包装そのものだけでなく、使用後のリサイクルや再生可能素材の活用も含めて「循環の仕組み」を製品の一部と考えているのだ。

「私たちは、グローバル全体で2050年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量ネットゼロを目標に掲げています。目標達成に向けた取り組みの一つとして、年間約1億ユーロ(約160億円)の研究開発投資の多くを、紙容器の素材構造の簡素化、再生可能資源使用率の向上、リサイクルの改善などに注いでいます。素材開発だけでなく、リサイクルインフラ支援や再生プロセスの改善まで、容器のライフサイクル全体で環境負荷を下げる努力が求められているのです」(同)

日本で60年、これからの共創に向けて

 こうしたグローバルな挑戦を重ねてきたテトラパックだが、日本市場ではすでに60年以上の長い歴史がある。

「日本市場では、私たちの紙パック製品はすでに多くの方にご利用いただいています。しかし、食品加工や流通、リサイクルといった“見えにくい領域”における貢献は、まだ十分に知られていないと感じています」(同)

 これからのテトラパックが目指すのは、包装資材メーカーとしてだけではなく、「食の安全性」「環境配慮」「社会インフラ」という視点から、食品システム全体を支える存在となることだ。

「私たちは、1962年に日本で創業を開始して以来、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進してきました。これからも、日本の食品・飲料業界が抱える社会課題の解決に向け、食品・飲料メーカー様、自治体、NGO団体など、さまざまなパートナーと共創したいと考えています。未来の世代のために、持続可能な食の仕組みを築いていくこと。それが私たちの使命です」(同)

 社会課題に挑むことは、特別なことではなく、企業として果たすべき当然の責任なのだ。テトラパックは、その当たり前を迷うことなく実践している。外資系企業でありながら、長きにわたって日本の食品産業を支えてきた同社。だが今回のインタビューで明らかになったのは、実は「包装容器の会社」という認識を大きく超えた存在だということだ。

 驚くべきは、社会課題解決への取り組みが、経営戦略や企業アピールの一環ではなく、創業者の理念を受け継ぎ、今もなお変わらぬ企業DNAとして息づいていることだろう。多くの企業が持続可能性を「新たな取り組み」として掲げる中、テトラパックにとってそれは当然すぎる日常なのだ。

 食の裏側で続く静かな挑戦は、やがて私たちの食卓に、安全と持続可能性という確かな未来を届けるだろう。

 次にコンビニで飲料のパックを手に取ったとき、少し立ち止まって考えてみてほしい。その小さなパックに込められた技術と、2024年問題や環境課題への挑戦を。私たちの何気ない選択が、実は未来の食卓を支える力になっているかもしれない。

(取材・文=昼間たかし/ルポライター、著作家)

※本稿はPR記事です。

折り畳んで「しまえる」布製の浴槽「バストープ」ヒットの秘密…シャワー派なら浴槽掃除が不要

●この記事のポイント
・LIXIL、折り畳んで「しまえる」布製の浴槽を備えた浴室空間「bathtope」がヒット
・従来のプラスチック型の浴槽と比べて約26%の節水を実現、脱炭素など環境負荷低減
・強度を備えたPET繊維と、防水性があるウレタンフィルムとの複層を素材として用い、約900gの軽い浴槽を実現

 LIXIL(リクシル)が昨年11月に発売した、折り畳んで「しまえる」布製の浴槽を備えた浴室空間「bathtope(バストープ)」がヒットしている。「夏場はシャワーだけ」という人は、取り外して「しまって」おけば、浴室を広く使えて浴槽の掃除が不要。浴槽の重さは900グラムで四隅をフックにかけるだけで設置でき、お湯に「つかりたい」ときだけ浴槽を取り付けるという使い方が可能。しかも、1600mmサイズの広い浴槽を実現でき、マンションなどで採用の多い従来の1216サイズのユニットバスと比較して、足を伸ばしてゆったりと入浴できる。200人で入浴テストを実施済であり、ハンモック形状なので首や肩回りを柔らかく受け止めてくれるのに加え、柔らかい繊維と防水フィルムの二重構造を持つ一枚の布「fabric bath」から作られており、柔らかく肌触りの良い生地が頭や背中を優しく包み込んでくれる。従来のプラスチック型の浴槽と比べて約26%の節水を実現できるため、脱炭素など環境負荷低減にもつながる。発売直後に見積件数は目標の5倍にも上ったとのことだが、浴槽付きでもなく、シャワールームでもない、新たなジャンルを切り開いた「バストープ」は、どのように生まれたのか。ヒット商品誕生のカギについて、LIXILへの取材をもとに追ってみたい。

●目次

従来のユニットバスはリサイクルが困難

「お風呂はもっと、自由でいい。」をコンセプトとして誕生した「バストープ」。たたんで収納できるリムーバブルな浴槽を備えた浴室空間という点が独創的だが、これまで存在しなかったタイプのユニットバスを開発・発売するに至った背景について、リクシルは次のようにいう。

「日本の入浴文化の未来を常に考えています。そのなかで日本の住宅に普及したユニットバスの今後の変化を深く考えています。従来のユニットバスはリサイクルが難しく、湯貯めや保温の際に多くの二酸化炭素(CO2)も発生します。今後シャワー浴が主流になったら、環境にも配慮しつつ、ユニットバスをどのように変化させればいいのだろうと考えました。また日本人にとって、疲れているときにお湯に浸かり、身体を癒すという習慣は切り離せないもの。近年の多様化するライフスタイルと、日本の入浴文化を両立できる空間を提供できないかと考え、取り外しできる浴槽というアイディアをストックしていました。タイミングよく社内のビジネスアイディアコンテストが始まり、応募し最優秀賞を獲得したことから、実用化に向けたプロジェクトが始まりました」

 商品の特徴などは前述のとおりだが、リクシルによれば購入者は以下のようなメリットが得られるという。

・シャワー浴と浴槽浴を自在に切り替え
・身体を包み込む、新感覚の柔らかい浴槽
・コンパクトな空間でも、足を伸ばして入浴可能
・浴室に隣接する洗面室も広々活用
・環境にも配慮、26%の節水を実現

包まれるような新しい感覚の入浴感を実現

 開発に際しては、やはり浴槽の布に関する部分に難しさがあったという。

「開発においては、手軽に取り外しができる重量と、布の強度のバランスを取ることに難しさがありました。取り外しを想定すると、女性でも手軽に扱えて、簡単に設置できる重さの浴槽であることが必要です。それと同時に、安定して人の体と体重、そしてお湯を支えることのできる布強度も重要となります。最終的には強度を備えたPET繊維と、防水性がありサラサラと肌ざわりの良いウレタンフィルムとの複層を素材として用い、約900gの軽い浴槽を実現しました。

 またハンモック構造の浴槽は、お湯を入れるとお湯の重量でテンションがかかり安定します。首や肩周りを柔らかく受け止めてくれるのも、この構造ならではです。さらに、ユーザーにご満足いただける入浴感を確立するため、社内外を合わせ延べ約200人の方に入浴していただき、テストを重ねました。これらの試行錯誤を経て、包まれるような新しい感覚の入浴感を実現しました」

賃貸マンションや民泊、戸建新築など多様な先から注文

 販売は好調とのことだが、どのような属性の購入者が多いのか。

「当初は、マンションのリノベーション市場をメインとし、都心部に住む単身者や共働きの夫婦、少人数世帯などをターゲットにしていましたが、実際は世代を問わず、賃貸マンションや民泊、戸建新築など多様な先から注文が入っています。(今後の拡販計画について)詳細はお伝えできませんが、既成概念を壊す、浴室を開放する、入浴時間を大切に感じてもらうなどをアイディアの軸に、今後も市場の反応を見ながら、新たな商品企画に取り組んでいきます。市場に一石を投じる中でさまざまな反応が得られているので、その情報も貴重な財産として次の計画に繋げていけたらと考えています」

 8月には、新たなグレードとして、隣接する空間とバススペースをシームレスにつなぐ細いフレームの引き違い戸を搭載した最上位グレード(Gタイプ)を市場投入した。デザイン性や個性のある商品の魅力が認められてのアップデートとなる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)