親の口座からお金が下ろせない?”その時”に備える3つの財産管理制度

●この記事のポイント
・高齢者の財産管理は、本人の判断能力が衰えると家族でも難しくなります 。元気なうちから「家族信託」「任意後見契約」「財産管理等委任契約」の3つの制度を理解し、準備しておくことが重要です。
・それぞれの制度にはメリットとデメリットがあります 。不動産の売却や事業承継には家族信託、将来の安心を重視するなら任意後見契約、日常の管理には財産管理等委任契約が向いています。
・どの制度を選ぶにしても、最も重要なのは「誰に任せるか」という信頼できる人選びです 。費用や手間、制度の組み合わせも考慮し、家族で話し合って準備を進めることが将来のトラブルを防ぎます 。

「父の介護費用を支払うために銀行へ行ったら、口座からお金を下ろせなかった」「母が施設に入ることになったが、不動産を売却できずに困っている」ーー。

 高齢化が進む日本で、こうした声は珍しくなくなってきました。元気なうちは何の問題もなかった日常の手続きが、本人の判断能力が衰えると突然「ストップ」してしまうのです。銀行や不動産取引、医療・介護の契約などは、すべて“本人の意思確認”が前提。もし意思表示が難しくなれば、家族であっても自由に代行することはできません。

 だからこそ、あらかじめ「お金の管理をどうするか」を考え、備えておくことが重要になります。

 では具体的に、どんな制度があり、どのように使い分ければいいのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏に話を伺いました。

目次

3つの制度の特徴を整理する

 黒田氏によれば、高齢期に備える制度として代表的なのが「家族信託」「任意後見契約」「財産管理等委任契約」の3つです。

1. 家族信託(民事信託)
 家族など信頼できる人に財産を託し、本人(受益者)のために管理・処分してもらう仕組みです。
・メリット:不動産売却や事業承継など、柔軟な財産管理が可能。本人が認知症になっても受託者がスムーズに動ける。
・デメリット:契約書作成に専門家の関与が必要なケースが一般的で費用がかかる。信頼できる家族がいなければ利用できない。

2. 任意後見契約
 将来の判断能力低下に備え、生活や財産管理を任せる契約。家庭裁判所の監督が入ります。
・メリット:裁判所の関与があるため安心感が高い。不正利用のリスクが低い。
・デメリット:本人の判断能力が十分な間は発動しない。監督人の報酬などコストがかかる。

3. 財産管理等委任契約
 まだ元気なうちから、日常的な財産管理を信頼できる人に任せる契約です。
・メリット:銀行手続きや支払いを早い段階からサポートしてもらえる。柔軟で導入が手軽。
・デメリット:本人が判断能力を失うと効力がなくなる。その後は後見制度に移行する必要がある。

どの制度を選ぶべきか?

「結局、どれを選べばいいのか?」というのが読者の一番の疑問でしょう。

 黒田氏は「制度ごとに向き不向きがあり、本人や家族の状況によって選び方は異なります」と話します。

・不動産の売却や事業承継など、柔軟な対応が必要なら → 家族信託
・将来の認知症リスクに備え、裁判所の監督下で安心感を重視するなら → 任意後見契約
・まだ元気だが、銀行や支払いを任せたい段階なら → 財産管理等委任契約

 つまり「今すぐサポートが欲しいのか」「将来の安心を重視するのか」「特殊な財産をどう扱うのか」といった視点で選び分けるのがポイントです。

注意すべき3つの落とし穴

 制度を使えば安心、というわけではありません。黒田氏は次の点に注意を促します。

(1)信頼できる人を選ぶことが最重要
「誰に任せるか」がすべてのカギです。例えば任意後見契約で子どもを後見人に指定していても、「子どもに多額の借金がある」など裁判所が不適格と判断すれば認められないケースもあります。
(2)費用や手間は制度ごとに異なる
 専門家報酬や監督人報酬など、契約コストは制度によって違います。長期的な負担を考えて選ぶ必要があります。
(3)組み合わせて使うのが有効な場合もある
 例えば「元気なうちは財産管理等委任契約」「判断能力低下後は任意後見契約」という連携パターンもあります。

制度より大切なのは「誰に任せるか」

 最終的に黒田氏が強調するのは「制度そのものよりも、信頼できる担い手をどう確保するか」です。家族の誰に託すのか、あるいは専門家に頼むのか。本人が元気なうちから話し合い、準備しておくことが欠かせません。

 高齢社会の日本において、お金の管理は避けて通れないテーマです。制度を理解し、自分や家族に合った形を考えることは、将来のトラブルを防ぐ最も確実な方法といえるでしょう。

おわりに──“今はまだ早い”は本当か?

「まだ元気だから必要ない」と思う方も多いでしょう。しかし実際に必要になるときは、本人の判断能力が落ちてから──つまり“もう遅い”段階であることが少なくありません。

 家族で話題にするのは気が重いかもしれませんが、制度を知り、少し調べてみるだけでも第一歩になります。

 お金の管理を「未来の自分ごと」として考えてみる。そこから、安心できる老後の準備が始まります。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー)

もうすぐ「時限爆弾」が爆発する恐れも…“老いるマンション”の深刻な真実

●この記事のポイント
・日本の都市部で増え続ける「管理不全マンション」問題に、スタートアップのRing-ndxが挑む。老朽化による住民の合意形成の難しさが最大の課題だ。
・同社は、DXを活用し、管理組合の一部を取得するリースモデルを導入。孤独死や生活の困りごとまで見守ることで、住民の意思決定を支援する。
・誰も本格的に手を付けてこなかった巨大市場に挑むRing-ndx。社会課題を解決しつつビジネスを両立させることで、都市全体の持続可能性を守ろうとしている。

 日本の都市部には、いま大きな“時限爆弾”が潜んでいる。マンションの高齢化と管理不全だ。新築当時は駅近という好立地で人気を誇ったマンションも、数十年が経過すれば住民の高齢化が進み、建て替えや修繕の合意形成は困難になる。結果として「管理不全マンション」が増加し、地域全体の資産価値や治安にも悪影響を与えている。

 この社会課題に真正面から取り組むのが、マンション管理のDXを掲げるスタートアップ、Ring-ndx株式会社である。代表取締役の蔭山貴弘氏は、全国の管理会社や管理組合の悩みに日々向き合ってきた専門家だ。

●目次

管理不全マンションがもたらす社会リスク

 蔭山氏は「いま日本の都市部で最も深刻なリスクは、駅近に残された古いマンションの管理不全です」と語る。

 空室が増加した結果、非住宅用途への転用が進み、地域の居住環境に影響を及ぼすケースも報告されている。

 こうした「老いるマンション」の後始末を公費で行うケースも出始めているとの報道もある。蔭山氏は「このまま放置すれば社会全体の負担することになる」と警鐘を鳴らす。

DXで挑む「合意形成」という最大の壁

 マンション管理のDXというと、アプリやシステムの導入をイメージしがちだが、Ring-ndxが注目するのはもっと根源的な課題――住民合意の形成である。DXの本質は、意思形成の透明化とプロセスの簡素化にある。

「不動産業界はDXが最も遅れている分野の一つです。その理由は、最終的な意思決定者が“住民”であり、彼らの合意を得なければ何も進まないからです。特に高齢化した住民に新しい仕組みを理解してもらうのは容易ではありません」(蔭山氏)

 そこでRing-ndxは「管理組合の一部を取得し、リースモデルを導入することで、住民の意思形成を支援する」というアプローチを取る。単にシステムを提供するのではなく、管理組合の一部を購入して共同所有者となり、運営主体としてリースモデルを導入する。住民は賃借人として住み続けながら、運営はプロに任せることができる。

 さらに、LINEを活用して居住者と日常的に接点を持ち、孤独死や生活上の困りごとを即座に把握できる体制も整えた。蔭山氏は「共用部分だけでなく“居住空間の内側”まで見守ることが、最終的な目標」と語る。

「クレームは美しいダイヤモンド」──シンクタンク型の発想

 Ring-ndxのビジョンはユニークだ。蔭山氏は「クレームは美しいダイヤモンド」と表現する。

「住民からのクレームは、ただの不満ではなく“潜在的なニーズの集合体”です。クレームを集めて解決し、その情報をシンクタンクのように分析・提供することで、新しいサービスを生み出せる」

 同社には12万人規模の専門家・経験者ネットワークが存在し、マンション役員経験者や建築・法務のプロフェッショナルが参加している。案件ごとに最適な専門家をマッチングし、労働集約型の旧来モデルに依存せずに効率的なソリューションを提供するのが特徴だ。

巨大市場に挑むスタートアップ

 日本のマンション関連市場は約30兆円で、そのうち「管理不全兆候のある市場」は4兆円規模との試算もある。Ring-ndxはまさにこの“誰も本格的に手を付けてこなかった領域”に挑む。

 もちろん課題は多い。蔭山氏は、多摩地域で取り組んだ「マンション再生プロジェクト」を例に挙げる。

 住民の意思形成が纏まらずに頓挫し、「住民合意の難しさと市場価値への影響を痛感した」と語る。それでも諦めないのは、「放置すれば、住民の安全が守られないだけでなく、地域全体の安全・安心にも影響する」からだ。

 大手不動産各社や行政とも連携し、少しずつ解決策を探る日々である。

スタートアップにとっての「社会課題」というチャンス

 蔭山氏は、社会課題に挑むスタートアップの経営者に向けてこう語る。

「社会課題は巨大市場ですが、簡単にはお金になりません。その分、参入障壁は高い。だからこそスタートアップが挑む余地があると思います。

 我々が行政や大手企業に応援されているのも、誰もやっていない領域だからです。信用はなくても、挑戦していること自体が評価される」

 スタートアップに必要なのは「まずは実績を積み重ねること」。

 Ring-ndx自身も、大田区のイノベーションプログラムで表彰されるなど実績を重ね、徐々に存在感を高めている。

「老いるマンション」問題の先にある未来

 人口減少と高齢化は避けられない。マンション管理市場の課題は今後さらに拡大していく。Ring-ndxは、その渦中で「社会課題解決とビジネスの両立」を模索する。

 蔭山氏は最後にこう締めくくった。

「難しい問題だからこそ、誰かが取り組まなければならない。私たちは、仲間としてマンションの中に入り込み、DXを使いながら住民と一緒に課題を解決していきたいと思っています」

“老いるマンション”の再生は、単なる建物管理にとどまらない。都市の安全、住民の安心、そして日本社会全体の持続性に直結する挑戦だ。Ring-ndxの試みは、社会課題をビジネスとして成立させることの難しさと可能性を示している。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

寝ながら疲れが取れる?ワークマン「メディヒール」、相場の5分の1の価格の秘密

●この記事のポイント
・ワークマンが、疲労回復を促すリカバリーウェア「メディヒール」を発売。遠赤外線効果を持つ鉱石を生地に練り込み、他社の5分の1以下の価格を実現した。
・「メディヒール」は一般医療機器として登録されており、日中の作業用から夜間の疲労回復用へと用途を拡大。ルームウェアとして1900円から提供。
・ワークマンの知名度と大量生産体制が低価格の鍵。他社が広告宣伝費や生産コストを抑えられないなかで、ワークマンは市場の定着を目指す。

 ワークマンは今年の秋冬ものを紹介する「WORKMAN EXPO 2025秋冬」でリカバリーウエア「メディヒール」を紹介した。メディヒールは人体が発する遠赤外線を輻射し、血行を促進することで疲労回復を促すという。2021年から作業着向けにメディヒール商品を販売しているが、一般向けは今年9月1日から。ルームウエアの長袖シャツは1900円、ロングパンツは1900円とワークマンらしい安い価格帯を実現した。他社が提供するリカバリーウエアは数千円から1万円台が相場だ。ワークマンはなぜ相場より安い価格で提供できるのか。商品開発担当の半田俊也氏に取材し、メディヒールの効果と戦略を聞いた。

●目次

8種類の鉱石で遠赤外線を輻射

 9月1日に発売したメディヒール商品は部屋着を想定したルームウエアが中心だ。長袖シャツやロングパンツはいずれも1900円で、男女別に投入する。499円のソックスや2900円のマグネックレス、1900円の膝サポーターなども揃える。また、布団やベッドを想定した敷パッドやブランケットも揃え、価格は1900円に設定した。一般向け商品の発売に至った経緯について半田氏は次のように話す。

「2021年以降投入している作業着用のメディヒールは日中の行動中を想定したものであり、安静時や夜用の商品として一般向けの商品化に至りました。安静時の疲労回復を狙ったリカバリーウエアで、”一般医療機器”として登録されております」(半田氏)

 メディヒールは疲労回復や血行促進、筋肉のハリ・コリの緩和、筋肉の疲れ低減と4つの効能を謳っている。どのような原理で回復を促進するのか。

「メディヒールは人体が発する遠赤外線を輻射する性質があり、遠赤外線により血行促進や疲労回復を促す仕組みです。セラミックスを中心とした8種類の鉱石が生地の糸に練りこんであり、鉱石が遠赤外線を輻射します。通常の生地は遠赤外線を透過してしまうため、メディヒールのような効果を得られません」(同)

「輻射」とは、熱が赤外線などの電磁波を通じて伝わることだ。8鉱石を含むメディヒール用の糸は市場に出回っているもので、他社のリカバリーウエアも同じものを使っている。だが、ワークマンには服の動きやすさや着心地を追求するノウハウがあり、そうした面は他社製品に対する強みだと半田氏は主張する。

200万枚を生産し、安さを実現

 遠赤外線効果や疲労回復など、メディヒールと同じ効能を謳う「リカバリーウエア」は7000円から1万円以上が相場だ。上下セットで2万円を超える場合もある。対するメディヒールは上下セットで3800円と5分の1以下の価格帯だ。大手の優位性を活かせるため、低価格を実現できるという。

「大手小売店の中で大々的にリカバリーウエアを発売するのは弊社が初です。他社は比較的小規模な業者が多く、認知度や信頼性を獲得するために多額の広告宣伝費をかけなければなりません。弊社は『ワークマン』のネームバリューがあるので、1着に対する広告費は抑えることができます。また、今シーズンでメディヒール商品は200万枚を生産しており、大量生産によって低コスト化を実現しました」(同)

 筆者の主観だが、リカバリーウエアを調べてみると他社のブランドは初耳のところが多い。こうした小規模業者は多額の宣伝費をかけつつも、リスクを負えないためワークマンのように数十万着ごとの生産は難しいはずだ。1着当たりの生産コストや宣伝費は大手と比較して多額になり、結果的に高価格になってしまうと考えられる。ワークマンには、年1000万着単位の生産を10年以上にわたって委託してきた生産業者もあり、製品の低価格化を実現してきた。

 トークセッションでは「百獣の王」の武井壮氏も登壇。一日に6回も体温を測定する自身のエピソードを交えながら、疲労回復の重要性を訴えた。こうした芸能人を活用できる事もワークマンの強みと言える。

来年は春夏向けの展開も

 7月末時点でワークマンは1000店舗超を展開している。最も多いのは一般向けの「WORKMAN Plus」で649店舗。「ワークマン」は283店舗で、「#ワークマン女子」は70店舗を展開する。かつてはプロ向けの作業着店が主体だったが一般向けにシフトした。今回のメディヒールは全業態店で販売する方針だ。

「これまでの作業着向けメディヒールは年間60万枚の売れ行きでした。今回の一般向けは200万枚生産しており、そのうちの190万枚が販売目標です。今期の商品は秋冬ものですが、売れ行き次第では来年の春夏もメディヒールを200万枚ほど販売したいと考えております。メディヒールは表面温度を上げる効果があるものの、脇の下や舌下の温度までは上昇しないため、夏用の商品展開も可能です」(同)

「リカバリーウェア」のGoogleトレンドを見ると、2023年から上昇し始め、今年は昨年を上回る注目度になっている。著名なブランドではチャンピオンが投入したが、ユニクロは進出していない。量販店で先手を打ったのはワークマンだ。リカバリーウエアというジャンルが消費者の間で定着するのか。そのカギを握っているのはメディヒールといえよう。

(文=山口伸/ライター)

映画レビュー「こんな事があった」

原発事故は終わっていない。「追悼のざわめき」(88)の鬼才・松井良彦監督が、原発ニッポンの欺瞞を、地元被災者の視点で描く。

投稿 映画レビュー「こんな事があった」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

親の葬儀、後悔する人は3人に1人…「事前準備」が心のゆとりと満足度を3倍に

 親の葬儀を「生前から準備すること」に抵抗を感じる人は少なくない。死を前提とした話し合いは、タブー視されがちであり、気持ちの上でも「早すぎる」と後回しにしてしまうのが実情だ。

 しかし、事前の準備があるか否かで、葬儀に対する満足度や心のゆとりに大きな差が生まれていることが、燦ホールディングス株式会社の調査で浮き彫りになった。

 同社は、親を看取った経験がある40歳以上の男女300人を対象に、葬儀に関する意識調査を実施。その結果、親の逝去前に「葬儀の準備をしていなかった」と答えた人は71.7%にのぼった。多くの遺族が、十分な時間を取れぬまま葬儀に臨んでいる実態がある。

準備の有無が生む「時間的余裕」と「心の区切り」の差

 調査では、葬儀準備の期間が「十分に取れた」と回答した割合に大きな開きがあった。

「1年以上前から準備していた」人の72.2%が余裕を持てたと答えたのに対し、「準備をしていなかった」人で同様に答えたのはわずか5.6%。時間的余裕の有無が如実に現れている。

Q1.親御さんのご逝去前、どのくらい前から葬儀について準備していましたか? n=300

Q2.親御さんの葬儀準備期間は、十分に取れたと思いますか?n=300

Q3.葬儀の準備が十分にできなかったと感じた理由として当てはまるものをお選びください。n=124

 さらに注目すべきは、葬儀を通じて「心の区切りをつけられた」と回答した割合だ。準備をしていた層では3割超が「整理できた」と感じているのに対し、準備をしていなかった層では2割台にとどまった。葬儀の雰囲気や演出に故人との絆を込められたかという点でも、準備層の満足度は約3倍に達している。

Q4.葬儀を通じて、親御さんとの別れに気持ちの整理をつけられましたか?n=300

Q5.親御さんとの絆や思い出を、葬儀の雰囲気や演出に十分に込められたと感じますか?n=300

後悔の多くは「話し合い不足」と「最後の時間」

 一方で、3人に1人(32.3%)が葬儀に対して何らかの後悔を抱いていることも明らかになった。

「もっと生前に話し合っておけばよかった」(26.0%)、「故人と最後にゆっくり面会できればよかった」(25.3%)が代表的な声である。突然の別れに直面し、十分に希望を確認できないまま葬儀を終える無念さが浮かび上がる。

Q6.親御さんの葬儀に対して、後悔していることはありますか? n=300

Q7.親御さんの葬儀の際に、「もっとこうしてあげたかった」「今思えば心残りだった」と感じたことは何ですか?n=300

Q8.親御さんの葬儀での故人との面会環境について、どのように感じましたか? n=300

 また、故人への感謝を「棺に納めるもの」に込める傾向も強い。愛用品を入れた人は56.3%に上り、思い出の写真や手紙を入れたかったという声も少なくない。葬儀は形式的な儀式ではなく、最後に感謝を伝える大切な機会であることを改めて示している。

Q9.親の葬儀について棺に何を入れてあげましたか。 n=300

Q10.親の葬儀について棺に入れられなかったが、入れたかったものはありますか。 n=300

事前準備は「タブー」ではなく「ゆとり」

 今回の調査は、事前準備の有無が単なる手続きの効率化だけでなく、遺族の精神的な満足度に直結することを示している。死を語ることを避けがちな日本社会において、事前準備はむしろ心のゆとりを生み出す重要な役割を果たしているようだ。

 親子で生前に話し合いを重ねておくことが、慌ただしさを和らげ、最後の時間をより豊かにする。後悔の少ないお別れのために、あえて“早め”の準備を始めることが求められている。

会社概要

燦ホールディングス株式会社
1932年創業。東証プライム市場上場の葬祭業界大手。公益社や家族葬のファミーユなどを傘下に、全国規模で葬祭事業・ライフエンディングサポートを展開。資本金25億6,815万円、連結従業員数1,153名(2025年3月末現在)を擁し、持株会社事業や不動産事業も展開。主要取引銀行には三井住友銀行や三菱UFJ銀行など大手金融機関が名を連ね、業界のリーディングカンパニーとして存在感を発揮。人生100年時代における「最後の時間が愛と敬意に包まれる社会」の実現を掲げ、葬儀の事前準備や啓蒙活動を通じ、持続的な成長と社会的価値の両立を目指す。

※本稿はPR記事です

東京・京都に集中、東北は閑散…数字でみるインバウンド格差

●この記事のポイント
・2025年の訪日外国人は6月時点で2000万人を突破し、年間4000万人も視野に入る一方、インバウンドの恩恵は地域によって大きく偏っている。
・東京・大阪・京都などの主要都市に外国人宿泊者の6割以上が集中する一方、島根や福井、高知、東北地方の多くの県では年間数万人規模にとどまり、地域間格差は拡大傾向にある。
・インバウンド増加を単なる数字で追うのではなく、地域の魅力を理解し、共感する観光客を受け入れる戦略こそが、東北観光の未来を左右する。

 日本のインバウンドは、今年6月過去最速で2000万人を突破し、年間4000万人達成も視野に入ってきた。政府は2030年に訪日客6000万人という目標を掲げ、さらなるインバウンドの増加をめざそうとしている。しかし、インバウンドは東京、大阪、京都などに集中し、京都などでは訪日客が溢れ「オーバーツーリズム」が問題化している。しかし、その一方で地方分散化は進んでいないのが実情だ。

 立教大学観光学部の東 徹教授は、「訪問者数、延べ宿泊者数いずれをみても、インバウンドの地域間格差は大きい」と指摘する。

●目次

地域格差の大きいインバウンド

「観光庁の統計から昨年1年間のインバウンドの実態をみると、訪問者数の地域格差は大きく、東京、千葉、大阪、京都が年間1000万人を超えているのとは対照的に、島根、福井、高知、徳島、鳥取は10万人を下回っている。東北地方も訪問者数が少ない地域で、最も多い宮城でも43万人、少ない秋田で11万人と全体として訪日客が少ない地域といえる。

 外国人延べ宿泊者数(人泊)でみても、東京、大阪、京都の三地域で60.3%、三大都市圏では69.1%であり、地方部は30.9%にとどまる。コロナ禍前より格差が広がっている」と指摘する。さらに「外国人延べ宿泊者数を構成比でみると、東北で最も多い青森で9%、少ない福島では3%にすぎない。もっとも、50%を超えるのは東京と京都だけで、20%を超えるのは8都府県、10%を超えるのは半数にも満たないのが実態」(東教授)

 問題はインバウンドだけではない。東教授は「昨年1年間の東北の延べ宿泊者数をコロナ禍前と比べてみると、秋田を除いて外国人が増加しているものの、全体としてみれば6県とも減少している。日本人客が減少しているということだ」と指摘する。

 ビジネスホテルの客室稼働率でみると、東北6県でいずれも全国を下回っており、福島が47位、山形が43位、シティホテルでも福島46位、秋田45位、青森41位という低水準だ。リモートワークが普及した結果、出張機会そのものが減り、宿泊需要の減少につながっているようだ。

東北に必要なのは「通好みの観光地」をめざす戦略

 インバウンドの地域格差は大きく、東北はインバウンドの恩恵をあまり受けていないようだ。では、東北はどうすればインバウンドを取り込めるのか。

 東教授は「初めて日本を訪れる旅行者は、東京、京都、大阪をはじめ、主要都市や有名観光地を回る。東北を訪れるのは日本に複数回訪れているリピーター層だろう」と分析する。事実、東北の宿泊者は、東京とは異なる構成になっているという。

「東京に宿泊する外国人の国別構成をみると、1位の中国でも18%、次いで米国、欧州、韓国、台湾と続き、バラエティーに富んでいる。東北は6県とも台湾人客の構成比が大きいのが特徴で、最も多い岩手で58%、少ない青森でも34%を占める。これがヒントになるのでは」と東教授は指摘する。

「京都も金沢も有名観光地はもう行った。次はまだ行ったことのない地方へ」という動機をもった客層が狙い目になるということか。

「円安の影響で『なんでも安いコスパのいい国』として日本を見ている訪日客が増えているように感じられる。そういう客層ではなく、『まだ見ぬ日本を感じたい』という客層をターゲットとして、いわば『通好み』の観光地になるという戦略をとるのも一策だろう。湯治場の雰囲気を残す温泉や大都市にはない素朴な生活のニオイを感じられる地域もまだある。いたずらに数を追わず、過ごした時間が思い出に残る印象深い出来事になるような経験価値の高い観光をめざすべき」(東教授)

温泉観光地を存続させるために

 東北に限ったことではないが、宿泊業の将来を考えるうえで、人手不足と事業承継問題は深刻な問題になっている。「秋田では、延べ宿泊者の36.2%、岩手では25.2%が旅館に泊まっている。全国でみると旅館に泊まるのは12.7%なので宿泊需要の受け皿として旅館は重要な役割をもっている。ところが……」と教授は言う。

「個人経営・家族従業の旅館も多く、経営者の高齢化も進んでいる。身内に後継者がいない宿は廃業の危機にある。事業承継問題を解決しなければ、温泉地自体の衰退につながりかねない。秋田では、廃業する温泉旅館を組合が買い取った例もある。岩手では地域愛に燃える個人起業家が廃業した温泉宿を買い取ってリノベーションを進めている例もある。そうした人たちが何とかつないでいるのが実情。今のうちに、地域として事業承継・人材育成の仕組みづくりを真剣に考える必要がある」(東教授)

 確かに、事業承継や人材育成の問題を解決しなければ、10年後には中小規模の旅館が減り、温泉情緒もまた失われてしまうのかもしれない。

東北が進むべき道

 日本の観光は史上最高水準に達しようとするインバウンドの増加に沸いているように見える。しかし、全国あまねくその恩恵を受けられるわけではない。反対に京都のようにオーバーツーリズムによって地域社会が不利益を被り住民が不快感や不安・不満をあらわにしている地域もある。

 最後に東教授は、「訪れる人が地域をリスペクトするからこそ、受け入れる人がウェルカムと言ってくれる。そういう関係性が失われつつある。それこそがオーバーツーリズムという問題の質的な側面だ。いたずらに数を追うのではなく、地域の良さを理解し、共感してくれる旅人にこそ大切な地域の恵みや持ち味を分かち合いたい―そういう思いをもって観光地域づくりに取り組んでほしい」と語る。

「どんな観光客に来てもらいたいのか」「どんな形で地域の良さを味わってもらうのか」、教授のいう「通好みの観光地」をめざすためには、ターゲットとなる観光客のニーズを理解し、地域を深堀りして魅力化する取り組みが不可欠だろう。そうした戦略こそが東北観光の未来を左右する。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=東徹/立教大学観光学部教授)

東京・京都に集中、東北は閑散…数字でみるインバウンド格差

●この記事のポイント
・2025年の訪日外国人は6月時点で2000万人を突破し、年間4000万人も視野に入る一方、インバウンドの恩恵は地域によって大きく偏っている。
・東京・大阪・京都などの主要都市に外国人宿泊者の6割以上が集中する一方、島根や福井、高知、東北地方の多くの県では年間数万人規模にとどまり、地域間格差は拡大傾向にある。
・インバウンド増加を単なる数字で追うのではなく、地域の魅力を理解し、共感する観光客を受け入れる戦略こそが、東北観光の未来を左右する。

 日本のインバウンドは、今年6月過去最速で2000万人を突破し、年間4000万人達成も視野に入ってきた。政府は2030年に訪日客6000万人という目標を掲げ、さらなるインバウンドの増加をめざそうとしている。しかし、インバウンドは東京、大阪、京都などに集中し、京都などでは訪日客が溢れ「オーバーツーリズム」が問題化している。しかし、その一方で地方分散化は進んでいないのが実情だ。

 立教大学観光学部の東 徹教授は、「訪問者数、延べ宿泊者数いずれをみても、インバウンドの地域間格差は大きい」と指摘する。

●目次

地域格差の大きいインバウンド

「観光庁の統計から昨年1年間のインバウンドの実態をみると、訪問者数の地域格差は大きく、東京、千葉、大阪、京都が年間1000万人を超えているのとは対照的に、島根、福井、高知、徳島、鳥取は10万人を下回っている。東北地方も訪問者数が少ない地域で、最も多い宮城でも43万人、少ない秋田で11万人と全体として訪日客が少ない地域といえる。

 外国人延べ宿泊者数(人泊)でみても、東京、大阪、京都の三地域で60.3%、三大都市圏では69.1%であり、地方部は30.9%にとどまる。コロナ禍前より格差が広がっている」と指摘する。さらに「外国人延べ宿泊者数を構成比でみると、東北で最も多い青森で9%、少ない福島では3%にすぎない。もっとも、50%を超えるのは東京と京都だけで、20%を超えるのは8都府県、10%を超えるのは半数にも満たないのが実態」(東教授)

 問題はインバウンドだけではない。東教授は「昨年1年間の東北の延べ宿泊者数をコロナ禍前と比べてみると、秋田を除いて外国人が増加しているものの、全体としてみれば6県とも減少している。日本人客が減少しているということだ」と指摘する。

 ビジネスホテルの客室稼働率でみると、東北6県でいずれも全国を下回っており、福島が47位、山形が43位、シティホテルでも福島46位、秋田45位、青森41位という低水準だ。リモートワークが普及した結果、出張機会そのものが減り、宿泊需要の減少につながっているようだ。

東北に必要なのは「通好みの観光地」をめざす戦略

 インバウンドの地域格差は大きく、東北はインバウンドの恩恵をあまり受けていないようだ。では、東北はどうすればインバウンドを取り込めるのか。

 東教授は「初めて日本を訪れる旅行者は、東京、京都、大阪をはじめ、主要都市や有名観光地を回る。東北を訪れるのは日本に複数回訪れているリピーター層だろう」と分析する。事実、東北の宿泊者は、東京とは異なる構成になっているという。

「東京に宿泊する外国人の国別構成をみると、1位の中国でも18%、次いで米国、欧州、韓国、台湾と続き、バラエティーに富んでいる。東北は6県とも台湾人客の構成比が大きいのが特徴で、最も多い岩手で58%、少ない青森でも34%を占める。これがヒントになるのでは」と東教授は指摘する。

「京都も金沢も有名観光地はもう行った。次はまだ行ったことのない地方へ」という動機をもった客層が狙い目になるということか。

「円安の影響で『なんでも安いコスパのいい国』として日本を見ている訪日客が増えているように感じられる。そういう客層ではなく、『まだ見ぬ日本を感じたい』という客層をターゲットとして、いわば『通好み』の観光地になるという戦略をとるのも一策だろう。湯治場の雰囲気を残す温泉や大都市にはない素朴な生活のニオイを感じられる地域もまだある。いたずらに数を追わず、過ごした時間が思い出に残る印象深い出来事になるような経験価値の高い観光をめざすべき」(東教授)

温泉観光地を存続させるために

 東北に限ったことではないが、宿泊業の将来を考えるうえで、人手不足と事業承継問題は深刻な問題になっている。「秋田では、延べ宿泊者の36.2%、岩手では25.2%が旅館に泊まっている。全国でみると旅館に泊まるのは12.7%なので宿泊需要の受け皿として旅館は重要な役割をもっている。ところが……」と教授は言う。

「個人経営・家族従業の旅館も多く、経営者の高齢化も進んでいる。身内に後継者がいない宿は廃業の危機にある。事業承継問題を解決しなければ、温泉地自体の衰退につながりかねない。秋田では、廃業する温泉旅館を組合が買い取った例もある。岩手では地域愛に燃える個人起業家が廃業した温泉宿を買い取ってリノベーションを進めている例もある。そうした人たちが何とかつないでいるのが実情。今のうちに、地域として事業承継・人材育成の仕組みづくりを真剣に考える必要がある」(東教授)

 確かに、事業承継や人材育成の問題を解決しなければ、10年後には中小規模の旅館が減り、温泉情緒もまた失われてしまうのかもしれない。

東北が進むべき道

 日本の観光は史上最高水準に達しようとするインバウンドの増加に沸いているように見える。しかし、全国あまねくその恩恵を受けられるわけではない。反対に京都のようにオーバーツーリズムによって地域社会が不利益を被り住民が不快感や不安・不満をあらわにしている地域もある。

 最後に東教授は、「訪れる人が地域をリスペクトするからこそ、受け入れる人がウェルカムと言ってくれる。そういう関係性が失われつつある。それこそがオーバーツーリズムという問題の質的な側面だ。いたずらに数を追うのではなく、地域の良さを理解し、共感してくれる旅人にこそ大切な地域の恵みや持ち味を分かち合いたい―そういう思いをもって観光地域づくりに取り組んでほしい」と語る。

「どんな観光客に来てもらいたいのか」「どんな形で地域の良さを味わってもらうのか」、教授のいう「通好みの観光地」をめざすためには、ターゲットとなる観光客のニーズを理解し、地域を深堀りして魅力化する取り組みが不可欠だろう。そうした戦略こそが東北観光の未来を左右する。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=東徹/立教大学観光学部教授)

病院事務の「3兆円削減」を狙うAI革命…富士通が描く医療DXの未来

●この記事のポイント
・日本の医療現場は、人手不足や赤字経営、過重労働といった課題に直面している中、富士通はAIエージェントを活用した病院向けDXシステムを発表した。
・複数のAIを統合・制御するオーケストレーターAIエージェントを提供。まずは受付や会計、問い合わせ対応など非正規スタッフが担う業務を代替し、将来的には医師や看護師の業務支援にも拡大予定
・AI活用により事務作業の年間3兆円削減が期待され、オンライン診療や在宅治療、薬剤配送など医療提供体制の変革にもつながると見込まれている。

 富士通は、AIエージェントを医療現場に本格導入する新たな取り組みを開始した。人手不足や経営難に直面する日本の医療機関において、AIによる業務効率化と持続可能性の確保が急務となる中、同社は「複数のAIを統合的に制御する仕組み」を提供することで解決策を提示する。今回の取材では、導入の背景や狙い、今後の展望について富士通に聞いた。

●目次

医療現場を覆う「持続可能性の危機」

 日本の医療現場は今、深刻な課題に直面している。高齢化による患者増、人材不足、過重労働。さらに、多くの病院が赤字経営に陥っており、地域医療の持続性さえ危ぶまれる状況だ。

 厚生労働省の統計によれば、全国の病院の約6割が赤字経営とされる。特に医療従事者を疲弊させているのが膨大な事務作業だ。診療報酬請求や受付・会計、各種書類対応に費やす時間は膨大で、医療の質にも影響している。

 こうした課題の解決策として期待されるのがAIだ。ある試算では、AIによって事務作業を効率化すれば年間3兆円規模の削減が可能とされる。そんな中、富士通が発表した「医療機関向けAIシステム」は大きな注目を集めている。

富士通が挑む「医療DX」

 BUSINESS JOURNAL編集部が取材したところ、富士通がこのシステムを開発・リリースした背景には、三つの理由があるという。

 まず、医療の持続可能性への貢献だ。同社は「日本の医療は赤字経営、人手不足、過重労働といった持続可能性の危機に直面しています。AIエージェントによる業務効率化と人件費の最適化で、経営を支え、安定的な医療提供体制を実現したい」と語る。

 次に、AIエージェントエコシステムの構築だ。国内外のパートナー企業のアプリケーションを呼び込み、富士通が医療分野のAI活用をリードする狙いである。

 そして、事業化の加速。2025年内の商用展開に向け、発表のタイミングでパートナーを募り、事業拡大を加速させるという。

「オーケストレーター」としてのAI

 同システムの特徴は、単なるAI導入にとどまらず、「複数のAIを統合・制御する」点にある。

 富士通は「個々のAIをバラバラに導入すると現場が混乱し、かえって非効率になる恐れがあります。そこで、複数のAIを横断的に統合・制御する『オーケストレーターAIエージェント』を提供します」と説明する。

 医療の現場では予約、会計、カルテ入力など多様な業務が並行して進む。AIが点在するだけでは連携が取れず、むしろ業務が複雑化しかねない。そこで富士通は、医療業務を深く理解したオーケストレーション機能を備えた基盤を提供し、現場全体を調和させようとしている。

 このシステムは、NVIDIAの最新技術を取り入れた多層構造で構築されている。

GPUサーバ:エフサステクノロジーズ製のNVIDIA GPU搭載サーバ
ミドルウェア:「NVIDIA NIM マイクロサービス」「NVIDIA Blueprints」など
AI基盤:大規模言語モデル(LLM)や大規模マルチモーダルモデル(LMM)
データ構造化技術:医療データを安全に整理・活用
AIエージェント技術:複数のエージェントが協働する仕組み
オーケストレーション:富士通独自の制御技術
アプリケーション:外部ベンダーによる業務特化型アプリ

 富士通は「電子カルテ事業で培った業務知識と、NVIDIAの技術支援を組み合わせることで、事業スピードを一気に高められる」と自信を見せる。

海外事例との比較

 世界ではすでに同様の動きが始まっている。富士通は「米国では電子カルテ首位のEpic社が、NVIDIAやMicrosoftと連携し、電子カルテの付加価値としてAIを統合する基盤を構築しています」と言及する。

 ただし、日本国内ではオーケストレーターAIエージェントを前面に打ち出す取り組みは珍しく、富士通は先行事例となる。

 導入範囲について富士通はこう説明する。

「初期段階では、受付・外来における非正規スタッフが担う問い合わせ対応や予約、会計受付、支払い、帰宅時のフォローアップなどを代替します。将来的には、医師・看護師・検査技師の業務支援にも展開を考えています」

 現場で標準化しやすい業務から着手し、徐々に高度な領域へと広げていくロードマップだ。

 もちろん、課題もある。AIの正確性や責任の所在、患者情報のセキュリティなどは現場にとって切実な懸念だ。

 富士通は「電子カルテで培ったノウハウを活かし、安全性と情報の正確性を担保する設計を行っています」と強調する。業務を横断的に統制するオーケストレーション機能によって、二重入力や業務の混乱を防ぐ仕組みを整えている点は重要だ。

「3兆円削減」は実現するか

 AI導入による事務作業の3兆円削減という数字はインパクトが大きい。しかし、全国の病院が導入し、現場に定着するには時間もコストもかかる。富士通は「2025年から実際の医療機関で実証を開始し、その効果を測定したうえでビジネスプランを策定します」と述べ、まずは効果を可視化して導入のハードルを下げる戦略だ。

 富士通は今後の展望について「医療提供体制は病院内中心から、データとAIを基盤にオンライン診療や在宅治療へとシフトしていく」と予測する。その先には、分散型臨床試験(DCT)や薬剤配送、家庭内で完結する治療といった新しい医療のかたちが広がるだろう。

 富士通の取り組みは、新サービス発表にとどまらず、日本の医療システム全体の変革を視野に入れている。電子カルテの実績とNVIDIAの技術を背景に、同社は「持続可能な医療」を実現するためのDXモデルを打ち出した。

「AIによる効率化で、医療機関が本来の役割である『医療の提供』に集中できる社会を目指します」と富士通は語る。

 3兆円削減という数字は、単なる夢物語ではなく、現実に向けた挑戦となりつつある。日本の医療の未来は、すでにAIによって形づくられ始めている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

病院事務の「3兆円削減」を狙うAI革命…富士通が描く医療DXの未来

●この記事のポイント
・日本の医療現場は、人手不足や赤字経営、過重労働といった課題に直面している中、富士通はAIエージェントを活用した病院向けDXシステムを発表した。
・複数のAIを統合・制御するオーケストレーターAIエージェントを提供。まずは受付や会計、問い合わせ対応など非正規スタッフが担う業務を代替し、将来的には医師や看護師の業務支援にも拡大予定
・AI活用により事務作業の年間3兆円削減が期待され、オンライン診療や在宅治療、薬剤配送など医療提供体制の変革にもつながると見込まれている。

 富士通は、AIエージェントを医療現場に本格導入する新たな取り組みを開始した。人手不足や経営難に直面する日本の医療機関において、AIによる業務効率化と持続可能性の確保が急務となる中、同社は「複数のAIを統合的に制御する仕組み」を提供することで解決策を提示する。今回の取材では、導入の背景や狙い、今後の展望について富士通に聞いた。

●目次

医療現場を覆う「持続可能性の危機」

 日本の医療現場は今、深刻な課題に直面している。高齢化による患者増、人材不足、過重労働。さらに、多くの病院が赤字経営に陥っており、地域医療の持続性さえ危ぶまれる状況だ。

 厚生労働省の統計によれば、全国の病院の約6割が赤字経営とされる。特に医療従事者を疲弊させているのが膨大な事務作業だ。診療報酬請求や受付・会計、各種書類対応に費やす時間は膨大で、医療の質にも影響している。

 こうした課題の解決策として期待されるのがAIだ。ある試算では、AIによって事務作業を効率化すれば年間3兆円規模の削減が可能とされる。そんな中、富士通が発表した「医療機関向けAIシステム」は大きな注目を集めている。

富士通が挑む「医療DX」

 BUSINESS JOURNAL編集部が取材したところ、富士通がこのシステムを開発・リリースした背景には、三つの理由があるという。

 まず、医療の持続可能性への貢献だ。同社は「日本の医療は赤字経営、人手不足、過重労働といった持続可能性の危機に直面しています。AIエージェントによる業務効率化と人件費の最適化で、経営を支え、安定的な医療提供体制を実現したい」と語る。

 次に、AIエージェントエコシステムの構築だ。国内外のパートナー企業のアプリケーションを呼び込み、富士通が医療分野のAI活用をリードする狙いである。

 そして、事業化の加速。2025年内の商用展開に向け、発表のタイミングでパートナーを募り、事業拡大を加速させるという。

「オーケストレーター」としてのAI

 同システムの特徴は、単なるAI導入にとどまらず、「複数のAIを統合・制御する」点にある。

 富士通は「個々のAIをバラバラに導入すると現場が混乱し、かえって非効率になる恐れがあります。そこで、複数のAIを横断的に統合・制御する『オーケストレーターAIエージェント』を提供します」と説明する。

 医療の現場では予約、会計、カルテ入力など多様な業務が並行して進む。AIが点在するだけでは連携が取れず、むしろ業務が複雑化しかねない。そこで富士通は、医療業務を深く理解したオーケストレーション機能を備えた基盤を提供し、現場全体を調和させようとしている。

 このシステムは、NVIDIAの最新技術を取り入れた多層構造で構築されている。

GPUサーバ:エフサステクノロジーズ製のNVIDIA GPU搭載サーバ
ミドルウェア:「NVIDIA NIM マイクロサービス」「NVIDIA Blueprints」など
AI基盤:大規模言語モデル(LLM)や大規模マルチモーダルモデル(LMM)
データ構造化技術:医療データを安全に整理・活用
AIエージェント技術:複数のエージェントが協働する仕組み
オーケストレーション:富士通独自の制御技術
アプリケーション:外部ベンダーによる業務特化型アプリ

 富士通は「電子カルテ事業で培った業務知識と、NVIDIAの技術支援を組み合わせることで、事業スピードを一気に高められる」と自信を見せる。

海外事例との比較

 世界ではすでに同様の動きが始まっている。富士通は「米国では電子カルテ首位のEpic社が、NVIDIAやMicrosoftと連携し、電子カルテの付加価値としてAIを統合する基盤を構築しています」と言及する。

 ただし、日本国内ではオーケストレーターAIエージェントを前面に打ち出す取り組みは珍しく、富士通は先行事例となる。

 導入範囲について富士通はこう説明する。

「初期段階では、受付・外来における非正規スタッフが担う問い合わせ対応や予約、会計受付、支払い、帰宅時のフォローアップなどを代替します。将来的には、医師・看護師・検査技師の業務支援にも展開を考えています」

 現場で標準化しやすい業務から着手し、徐々に高度な領域へと広げていくロードマップだ。

 もちろん、課題もある。AIの正確性や責任の所在、患者情報のセキュリティなどは現場にとって切実な懸念だ。

 富士通は「電子カルテで培ったノウハウを活かし、安全性と情報の正確性を担保する設計を行っています」と強調する。業務を横断的に統制するオーケストレーション機能によって、二重入力や業務の混乱を防ぐ仕組みを整えている点は重要だ。

「3兆円削減」は実現するか

 AI導入による事務作業の3兆円削減という数字はインパクトが大きい。しかし、全国の病院が導入し、現場に定着するには時間もコストもかかる。富士通は「2025年から実際の医療機関で実証を開始し、その効果を測定したうえでビジネスプランを策定します」と述べ、まずは効果を可視化して導入のハードルを下げる戦略だ。

 富士通は今後の展望について「医療提供体制は病院内中心から、データとAIを基盤にオンライン診療や在宅治療へとシフトしていく」と予測する。その先には、分散型臨床試験(DCT)や薬剤配送、家庭内で完結する治療といった新しい医療のかたちが広がるだろう。

 富士通の取り組みは、新サービス発表にとどまらず、日本の医療システム全体の変革を視野に入れている。電子カルテの実績とNVIDIAの技術を背景に、同社は「持続可能な医療」を実現するためのDXモデルを打ち出した。

「AIによる効率化で、医療機関が本来の役割である『医療の提供』に集中できる社会を目指します」と富士通は語る。

 3兆円削減という数字は、単なる夢物語ではなく、現実に向けた挑戦となりつつある。日本の医療の未来は、すでにAIによって形づくられ始めている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「農業とエネルギーの二重収益モデル」…福島・二本松発、営農型太陽光発電の挑戦

●この記事のポイント
・福島県二本松市で営農型太陽光発電を展開する二本松営農ソーラーとSunshineは、発電と農業を別法人化し、収益とリスクを分離する独自スキームで挑戦している。
・発電収入に加え、日射抑制による作物品質向上や支柱の兼用によるコスト削減など三重のメリットを実現。地域住民への「見せる農業」で信頼を築き、若者雇用や地方創生にも貢献している。
・一方、制度の硬直性や設備調達の中国依存など課題も多いが、食料とエネルギーを同時に確保できる営農型太陽光は、日本の脱炭素と農業再生の切り札となる可能性を秘めている。

 福島県二本松市。東京ドーム1.2個分に相当する土地に設置されたソーラーパネルが、静かに電力を生み出している。その下ではシャインマスカットが実り、若い農業従事者たちが汗を流す。営農型太陽光発電──通称「ソーラーシェアリング」の現場である。

 この取り組みを主導するのが、二本松営農ソーラー株式会社と株式会社Sunshineを率いる近藤恵氏だ。発電事業と農業法人を二段構えで運営し、エネルギーと農業を同時に成り立たせる挑戦は、再生可能エネルギーの導入だけでなく、日本の農業の持続性を考える上でも大きな示唆を与えている。

●目次

震災を契機に芽生えた「地方からエネルギーを生み出す」発想

 近藤氏がこの事業に踏み切った背景には、2011年の東日本大震災がある。震災以前は有機農業に取り組んでいたが、経営難で廃業。その経験から「農村は自給自足を誇りにしてきたが、実際にはエネルギーを生み出していない」という現実に気づかされたという。

「震災でエネルギー供給の脆弱さを痛感しました。地方こそエネルギーを生み出す主体になれるのではないか。中央集権的な大規模発電から、分散型のエネルギーへ──まるで大型コンピューターからスマホへの転換のように、エネルギーの形態も変わるはずだと思ったのです」(近藤氏)

 この思いが、ソーラーシェアリングという形に結実した。2021年9月、二本松に完成した発電所は一般家庭600世帯分に相当する電力を生み出す規模を誇る。

 事業スキームはユニークだ。発電を担う二本松営農ソーラーと、農業を担う株式会社Sunshineを別法人として分離している。背景には金融機関の要請がある。

 農地に太陽光を設置するには「営農の継続」が条件だが、農業は赤字リスクが高い。営農の収益と発電の返済リスクを切り分けるため、発電事業から営農法人に「営農支援金」を支払い、農業を維持する仕組みとした。

「金融機関にとって返済の安定性は最重要です。発電と営農を一体化すると農業赤字がリスクになる。だから法人を分け、営農支援金で農業を成り立たせる形にしました」(近藤氏)

 この構造は「農地活用型のエネルギー事業」が成り立つ上での重要な知見となる。

ソーラーシェアリングがもたらす「三重のメリット」

 営農型太陽光の強みは、単なる二重収益モデルにとどまらない。近藤氏が語るメリットは「一挙三得」だ。

(1)電力収入:固定価格買取制度(FIT)による安定収益。

(2)作物への効果:夏場の強烈な日差しをパネルの影が和らげ、シャインマスカットなどの品質向上につながる。

(3)農業コスト削減:パネルの支柱をブドウ棚に兼用し、設置コストを4分の1に圧縮。

「太陽光の影はデメリットと思われがちですが、猛暑の時代にはむしろ作物にとってプラスに働くケースがある。柱も“邪魔”ではなく活用次第で農業資材になるのです」(近藤氏)

 再エネと農業を両立させるだけでなく、互いを補完する仕組みに転化している点が革新的だ。

地域の信頼を得る鍵は「見せる農業」

 営農型太陽光を進めるうえで欠かせないのが、地域との関係構築だ。大規模太陽光発電(メガソーラー)が景観や環境破壊で反発を受ける中、近藤氏が心がけるのは「論より証拠」だという。

「農村では、周りは黙って見ています。だからこそ“見せられる農業”をすることが大事。説得よりも、収穫された作物を見てもらうのが一番の説得力になります」(近藤氏)

 実際、地元の若者2人を雇用し、農業を支える姿は地域の共感を集めている。「応援したい」という声も増えており、地方創生の観点からも一定の成果をあげている。

日本の農業・エネルギー問題への解答

 近藤氏は営農型太陽光を「打ち出の小槌ではない」としつつも、農業とエネルギーの双方に解決策を提示できると語る。

(1)兼業農家の新しい形:土日に農業を営む兼業農家でも、太陽光収入で安定経営が可能となる。中山間地など従来の大規模農業が難しい地域でも農地維持につながる。

(2)食料とエネルギーの同時確保:農地の5%にソーラーシェアリングを導入すれば、日本のエネルギーの3分の1を賄えるという試算もある。

(3)担い手不足の緩和:収入源が増えることで新規就農者の参入障壁を下げ、農家人口の減少スピードを緩やかにできる。

「大規模農業と兼業農業、それぞれの強みを活かしながら、ソーラーシェアリングがその中間を埋める存在になると思います」(近藤氏)

 一方で課題も多い。制度面では、2013年に導入された農地法上の特例以降、大きなルール改正が進んでいない。農地での発電は「下で農業を80%維持」という数値基準に縛られ、柔軟性を欠いている。

 また、設備調達の面では中国依存が避けられない。パネル、パワーコンディショナー、支柱の多くが中国製で、日本製はコスト面で太刀打ちできない。

「発明は得意でも普及が苦手なのが日本。中国は多少粗くても安価に量産する。普及を進める局面では日本が後れを取ってしまう」(近藤氏)

 規制改革と産業政策の双方が問われている。

米・牧草地へ広がる可能性と行政の役割

 今後の注力分野は「水田」と「牧草地」だ。水田は農地面積に占める割合が大きく、ソーラーシェアリングの潜在力は計り知れない。ただし景観や地域合意のハードルも高い。

「地域ぐるみで進めなければ反発は避けられません。行政が地域調整に踏み込むことが不可欠です」(近藤氏)

 国は脱炭素を掲げ、自治体はメガソーラー規制を強める。この矛盾をどう解くかが今後の大きな政治課題となる。

 二本松営農ソーラーの発電所は、二本松市の約5%に相当する電力を賄う。加えて若者雇用、地元業者への発注、環境教育など副次的効果も生んでいる。

「もしパネルや支柱を地元で生産できれば、地域経済への波及効果はさらに大きくなる。本当はそこまで含めて“地方からエネルギーを生み出す”仕組みを作りたい」(近藤氏)

 営農型太陽光はまだ黎明期にある。だが、脱炭素と地方創生を両立させる可能性を秘めた実験場として、福島・二本松の挑戦は全国に波及しつつある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

二本松営農ソーラーを主題にした映画が公開中
『陽なたのファーマーズ ーフクシマと希望ー』