電通幹事映画「宝島」 東京プレミアイベントに主演の妻夫木聡さんらが集結 9月19日より全国公開

アメリカ統治下の沖縄の史実を背景に、若者たちの葛藤と友情を圧倒的な熱量と壮大なスケールで描く映画「宝島」。9月19日(金)の全国公開に先立ち、東京プレミアイベントが9月9日(火)、東京・六本木で開催された。

「宝島」東京プレミアイベント

豪華絢爛(けんらん)なレッドカーペットが敷かれた会場には、主演の妻夫木聡さんをはじめ、広瀬すずさん、窪田正孝さん、永山瑛太さんらキャスト陣と大友啓史監督の14人が集結した。

会場に集まったファンと報道陣を前に、本作で激動の時代を生き抜く主人公グスク役を演じた妻夫木さんは、「『宝島』は、命をつないでいく物語。思いというものはどんどんつながっていきます。熱い思いをかけて作ったので、一人一人に、そしてより多くの方に届けられるといいなと思っています。そして、『映画の力』というものを感じてほしい。皆さん、9月19日の公開を楽しみにしていてください!」と呼びかけた。

会場に集まったファンと交流する妻夫木聡さん(中央)と永山瑛太さん(右)
会場に集まったファンと交流する妻夫木聡さん(右から2人目)と永山瑛太さん(右)

グスクの幼なじみのヤマコ役を演じた広瀬さんは、「沖縄という場所に愛情と情熱をもって向き合い、貴重な刺激のある時間を過ごさせていただきました。スクリーンを通して一人でも多くの方に伝わってほしいと思います」と笑顔を見せた。

会場に集まったファンと交流する広瀬すずさん
会場に集まったファンと交流する広瀬すずさん
報道陣の取材を受ける(右から)中村蒼さん、瀧内公美さん、栄莉弥さん
報道陣の取材を受ける(右から)中村蒼さん、瀧内公美さん、栄莉弥さん

構想6年、2度の撮影延期を乗り越えて本作を完成に導いた大友監督は、「いろいろな困難がありました…それでも絶対に届けないといけない作品だとキャスト・スタッフ一人一人が感じながら作りました。力のある、そして腰の強い、みなさんに胸を張って届けられる作品になったと思います!」と力強く語った。

レッドカーペットイベントの後、TOHOシネマズ六本木ヒルズ・劇場内に会場を移して、場内を埋め尽くす500人ほどの観衆を前に舞台あいさつが行われた。キャスト陣や監督が製作の舞台裏や本作に懸ける思いをそれぞれの言葉で熱く語ると、会場からは惜しみない拍手が湧き上がり、「宝島愛」に包まれた一夜限りの盛大なプレミアイベントは幕を閉じた。

映画「宝島」はキャスト、監督のたぎる思いを乗せ、9月19日(金)より全国公開を迎える。

映画「宝島」ポスター


■作品情報
・作品タイトル:「宝島」
・出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太、塚本晋也、中村蒼、瀧内公美、栄莉弥、尚玄、ピエール瀧、木幡竜、奥野瑛太、村田秀亮、デリック・ドーバー
・監督:大友啓史
・原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫)
・公開日:9月19日(金)より全国公開
・配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
・コピーライト:©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会

■ストーリー    
ある夜、一人の英雄が消えた。
アメリカ統治下の沖縄で、自由を求め駆け抜けた若者たちの友情と葛藤を描く感動超大作。
英雄はなぜ消えたのか?幼なじみ3人が20年後にたどり着いた真実とは――。
沖縄がアメリカの統治下におかれていた時代。米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちがいた。いつか「でっかい戦果」を上げることを夢見る幼なじみのグスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)の3人。そして、彼らの英雄的存在であり、リーダーとしてみんなを引っ張っていたのが、一番年上のオン(永山瑛太)だった。全てを懸けて臨んだある襲撃の夜、オンは“予定外の戦果”を手に入れ、突然消息を絶つ……。残された3人は、「オンが目指した本物の英雄」を心に秘め、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、オンの影を追いながらそれぞれの道を歩み始める。しかし、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境では何も思い通りにならない現実に、やり場のない怒りを募らせ、ある事件をきっかけに抑えていた感情が爆発する。
やがて、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出す――。
消えた英雄が手にした“予定外の戦果”とは何だったのか?そして、20年の歳月を経て明かされる衝撃の真実とは――。

■公式サイト&SNS
・オフィシャルサイト:https://www.takarajima-movie.jp 
・オフィシャルX:https://x.com/takarajimamovie 
・オフィシャルInstagram:https://www.instagram.com/takarajimamovie/(ハッシュタグ:#映画宝島 / #映画宝島全国キャラバン 開催中!)

 

超高齢社会、「老い」は課題ではなく資源…価値観の転換が変える日本の未来

●この記事のポイント
・日本の高齢化を「危機」ではなく「可能性」と捉え、若者と高齢者が対等に関わる仕組みづくりが進んでいる。
・シニアは支えられる存在ではなく知恵や経験を持つ「社会資源」であり、世代間の交流が自己肯定感と行動変容を生む。
・価値観の転換こそが最大のイノベーションであり、高齢社会をポジティブにデザインする視点が日本の未来を変える。

 日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えている。高齢者人口は総人口の約3割に達し、労働人口の減少や社会保障費の増大が課題として語られる一方で、高齢者が社会的「負担」として捉えられる風潮は根強い。

 しかし、その見方を根本から覆そうと挑んでいる起業家がいる。株式会社AgeWellJapan代表の赤木円香氏だ。同社は「Age-Well=よりよく年を重ねる」という価値観を掲げ、世代を超えた協働を軸に、多様な取り組みを展開している。

 本稿では赤木氏への取材をもとに、同社の事業内容、世代間の断絶を超える仕組みづくり、そして「高齢化を可能性に変える」挑戦について紹介したい。

●目次

「100歳まで生きたい」人は2割しかいない

 AgeWellJapanが掲げる社会課題の出発点は、日本社会に蔓延する「老いへの不安感」だ。調査によると「100歳まで生きたい」と思う人は、わずか21%。多くの人が、老いを「不安」「孤独」「自己肯定感の低下」と結びつけてしまっている。

「心がポジティブになることで行動変容が起きる。その仕組みを社会に実装したいと考えています」
赤木氏はこう語る。

 同社は2020年に創業し、現在はBtoC・BtoB・R&Dの三本柱で事業を展開している。

・BtoC事業では「モットメイト」「モットバ!」などのサービスを展開。若者とシニアをマッチングし、伴走する「Age-Well Designer」と呼ばれる若者が、シニアと互いに学び合いながら、人生の新たな挑戦や発見を後押しし、意欲を引き出す伴走を行う。

・BtoB事業では企業や自治体と連携し、シニアコミュニティや新規事業開発を支援。

・R&D事業では会話内容を録音・解析し、シニアがどのようにポジティブに変化していくかを可視化する研究を行っている。

 特筆すべきは、こうしたコミュニケーションの変化をデータ化する技術に関して、ビジネス特許も取得している点だ。

シニアは「負担」ではなく「社会資源」

 高齢化が進む日本社会では、シニアを「支えられる側」として描くイメージが根強い。しかし赤木氏は、その構造自体を問い直す。

「シニアは本来、知識や経験の宝庫であり、社会資源です。それを活かさずに『負担』とみなすのは大きな誤解です」

 背景にあるのは「エイジズム(年齢差別)」だ。年齢を理由に「もう働けない」「派手な服は似合わない」と決めつける社会的偏見は、シニア自身の行動意欲を削ぐ。

 その是正に必要なのが「多世代交流」である。心理学的にも、異なる世代の対話が偏見を和らげ、互いを理解するきっかけとなることが知られている。

世代間の誤解と断絶を超えて

 同社の取り組みの現場では、世代を超えたユニークな交流が生まれている。

・若者がシニアに恋愛相談をする

・シニアが若者のマッチングアプリのプロフィールを一緒に考える

・料理や生活の知恵を伝授する

・就職やキャリアに悩む学生に、シニアが自身の経験を踏まえて助言する

 こうした関係は「支援する側・される側」ではなく「相棒関係」に近い。赤木氏は「縦の関係ではなく横並びで人生をデザインする」ことを強調する。

 あるシニア会員は「若者が私を年齢ではなく、一個人として見てくれる」と語った。結果として、若者側のシニアに対するイメージも変わっていく。

小さな気づきが自己肯定感を育む

 赤木氏は、自身がシニアから受けたエピソードを紹介する。

 炊飯器が壊れて困っていたとき、会員のシニアが即座に鍋での炊き方を教えてくれた。
また、急にポチ袋が必要になった際に、ポチ袋を手作りして持たせてくれた。

 一見ささやかな知恵だが、若者から感謝されることでシニアの自己肯定感は高まり、「誰かの役に立っている」と感じられる。すると、挑戦意欲や新しい活動につながる。

 実際に「早くお迎えが来ないかしら」と語っていたシニアが、伴走する若者との交流を通じて「人生まだまだこれからだ」と意識を変え、十数年ぶりにピアノに挑戦した例もある。

 ある会員は赤木氏にこう伝えた。
「目も耳も衰えてきたけれど、感性だけは衰えることを知らない」

 いくつになっても、新しい出会いや体験にときめき、ワクワクする気持ちは失われない。この言葉は、赤木氏が掲げる「Age-Well」という価値観を象徴している。

高齢化は「危機」ではなく「可能性」

 AgeWellJapanの活動は、単にシニアの孤独を和らげるだけではない。消費や経済活動にも波及効果をもたらす。

 二俣川のコミュニティスペースでは、会員の平均月間消費額が1万2000円増加。エイジウェルフェスティバルでは、同規模イベントの約6倍の売上を記録した。

「不安を煽って商品を売るのではなく、ポジティブな未来に投資してもらう。前向きな価値観が消費を生み、経済を回すんです」

 シニアが「まだ社会の一員でありたい」と思える環境を整えることは、個人の幸福だけでなく経済全体の活性化にもつながるのだ。

価値観こそがイノベーション

 赤木氏は語る。
「テクノロジーだけがイノベーションではありません。行動変容をもたらす価値観の転換こそがイノベーションです」

 同社は「Age-Well Designer」という新しい職業を提唱し、介護や看護の枠に収まらない世代共創型の役割を社会に広げている。将来的には、制度設計や文化変容にも影響を与える存在となることを目指している。

 SNSの普及により「孤立」は減っているが、信頼できる関係を持てずに「孤独感」を抱える人は多い。赤木氏は「孤独感を減らすには、信頼関係を築き、自己肯定感を高めることが必要」と語る。

 同社が提供するのは、単なる交流の場ではなく「自分は理解されている」という感覚を得られる仕組みだ。

 企業や自治体も、Age-Wellの仕組みを応用できる。シニアが持つ知恵や経験を組織の資産として活かし、多世代で価値を共創することは、イノベーション創出にもつながる。

「大手企業や自治体、大学を巻き込みながら、世代共創のエコシステムを広げていきたい」と、赤木氏は展望を語る。

 日本はこれからさらに高齢化が進む。しかし、AgeWellJapanが提示する未来像は、「高齢化=危機」ではなく「高齢化=可能性」だ。

 世代間の断絶を乗り越え、シニアが再び社会に参画し、若者と共に価値を生み出す。そこには、新しい幸福感と経済循環の芽がある。

「Age-Well」という言葉が日本社会に浸透したとき、世界は日本を「超高齢社会のロールモデル」として見るだろう。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

課題だらけの産業に新たな選択肢を。スタートアップはレガシー産業を救えるか

●この記事のポイント
・waypoint venture partnersは「街づくり」「産業成長」「個人のエンパワーメント」を軸に、レガシー産業へ挑むスタートアップに投資している。
・インフラや製造業には課題が山積する一方、DX導入の価値が認識されづらく、スタートアップ参入が難しい現実がある。
・Lenovoのサブスク型ハードウェア支援はスタートアップや中小企業の負担を軽減し、新たな選択肢を生み出す後押しをしている。

 VCが投資する分野といえば、ITやディープテックなど先端技術を駆使した分野が真っ先に思い浮かぶかもしれません。

 しかし、waypoint venture partners 株式会社が注目するのは、建設や製造といったレガシー産業や、インフラ産業などの既存領域です。

 こうした領域に挑むスタートアップを、ハードウェア支援はどのように後押しできるのでしょうか?

 今回は、waypoint venture partners 株式会社 代表取締役の平田拓己氏と、Lenovo Japanの中田竜太郎氏が、インフラやレガシー産業におけるスタートアップ支援の新たな可能性を、VCとハードウェア企業、双方の視点から語ります。

●目次

変わりゆく世の中と既存産業に新たな選択肢を

——waypoint venture partnersがどんなスタートアップ、企業に投資しているのか教えてください。

平田:waypoint venture partnersでは基本的にシード、プレシードステージを中心に投資をしている2023年に創業したVCです。

 投資テーマはおもに、
・新しい街づくり
・産業の持続的成長
・個人のエンパワーメント
 この3つを掲げています。

「新しい街づくり」は、人口が増えていくことを想定してつくられた、現在は老朽化が進むインフラを、実際には人口が減少していくなかでどう最適化していくのがよいのか?という部分を投資テーマにしたものです。

 対象としては、電気やガス、水道だけではなく、医療や行政サービス、モビリティなども、広い意味でのインフラとして捉えています。

 2つ目の「産業の持続的成長」のテーマも、背景にあるのは高齢化や人口減少です。担い手が減っていく一方、カーボンニュートラルなどの新たなトレンドはどんどん登場します。

 このような状況のなか、とくにDX化がままならない、建設や不動産、製造、物流のようなレガシー産業を中心に何か新しいことができないか、新しいチャンスが生まれるのではないか、という観点で注目しています。

 3つ目の「個人のエンパワーメント」は、教育や金融など、BtoCサービス(消費者向けサービス)のなかでも個人が生活していく上で最低限必要になる分野の選択肢をどう増やせるか、という部分を見ています。

 かなり広い投資テーマを持ったVCではあるものの、共通しているのは、「世の中に対して新しい選択肢を生み出すことで、多くの中から人が最適なもの、自分に合ったものを選べるっていう状態をつくる」という考え方ですね。

——シードステージに投資することが多い、とのことですが、インフラやレガシー産業とスタートアップのつながりをあまりイメージできない方も多いように思います。インフラやレガシー産業に参入するスタートアップはどのような事業を行うことが多いのでしょうか?

平田:「直接参入型」と「間接支援型」の2つがあります。

 直接参入型は、自分たちが製造業や建設業を行うというものです。商流や製造工程をゼロから立ち上げるイメージですね。

 waypoint venture partnersの投資先にも自動車を製造している企業があるのですが、スタートアップだけあってつくるものがこれまでの自動車とまったく違います。

 一方、間接支援型は、インフラやレガシー産業の企業を支援するツールやサービスを提供するものです。SaaS開発やロボティクスをイメージしてもらうのがわかりやすいですね。

 元々、そういった業界にいた方が課題感を持って創業する、デジタル側の方が業界の課題を見つけて参入する、どちらのパターンもあります。後者の場合、業界構造を知るために一度インフラやレガシー産業に入り込んでみた、という面白いケースを耳にしたこともあります。

インフラ・レガシー産業にスタートアップやデジタルが参入しづらい理由

——産業における課題というお話がありましたが、インフラやレガシー産業ではどのような課題が存在しているのでしょうか?

平田:むしろ課題しか残っていない、という見方もできますね。

 経理周りのデジタル化など、他業界ではすでに解消されたような課題も数多く残っています。請求書が紙ベースだったり、あらゆる連絡にいまだにFAXが使用されていたり、ということも多いです。業務連絡も、Slackなどのツールではなく個人コミュニケーションで使用されるLINEを使っているという話をよく聞きます。

 このように多くの課題が置き去りになってしまう理由は、目の前の煩雑さや課題を解決することが、売り上げの増大やコストの大幅削減などの大きなインパクトにつながらないためでしょうね。 

 たとえば、建設業に従事する一人親方や現場の職人の方々からすると、バックオフィス業務がデジタル化されていなくても、最低限自分たちのやり取りができていれば受注はできるし売り上げも立つのです。

 現場の方々からすると、あくまで施工や製造など現場での仕事が主体なので、新しい技術や知識を学ぶことが、目の前の仕事にまったくつながりません。

中田:それが、インフラやレガシー産業にスタートアップが入り込みづらい要因にもなっていますよね。

平田:そうですね。一見、スタートアップからすれば「チャンスだらけ」の業界に見えるのですが、いわゆる間接支援型などのスタートアップが考えうるSaaSなどのツールやサービスが、そもそも産業の根幹となる業務にマッチしない場合が多いのだと思います。

中田:こうした業界では、スタートアップが生み出すものに価値を感じてもらいづらい、ということなのかもしれませんね。

 企業が生まれて存続していけるのは、生み出した価値に対して対価が支払われるからです。

 課題ドリブンでスタートアップが生まれる場合、課題が明確に認識されている場合はそこに解決方法をぶつけやすいですし、ソリューションに価値を感じてもらいやすくなります。一方、課題が認識されづらい業界においては「対価を払うべきものではない」と思われてしまいます。

平田:本当に必要な場合はしっかりと対価を払って享受したい、という考えはあるのでしょうが、インフラやレガシー産業は「人が柔軟で最適化されている状態」なのですよね。ゆえに、DXのソリューションを入れたところで人が手を動かしているのとあまり変わらず、対価を払うほどのインパクトがない、という部分もあると感じます。

 AIやロボティクスなども多く活用すれば効率化されると考えがちですが、建設業などは安全規制が厳しい上に作業の条件分岐が無限に存在します。現状、ロボティクスはそこまでの柔軟性を持つものではなく、AIも思考がブラックボックスなため、安全基準に正確に適合しているとは断言できません。

 テクノロジーをすべて業務に適応させようとすると、人が手を動かすよりも開発費用のほうが高くなってしまうのです。

中田:まさにその通りで、建設業や製造業などでは、現時点で人が一番安い労働力であることが多いのですよね。

 人を労働力としている以上、今後の労働人口の減少は大きな問題になるのですが、現在の経営層の方々が定年を迎えるまでの間には、その問題は大きく顕在化してきません。そうなると経営層にとっては、労働力不足に向けたDXなどにたった今お金を払うよりも、コストを削減し四半期の決算で利益を積み上げるほうが重要なことになります。

 意思決定者のライフサイクルが、課題のライフサイクルを超えてしまっている状態なのです。

——しかし、この状態では対処しないまま課題が顕在化してしまいますよね。

平田:そうですね。今後、ノウハウを持っている方々がどんどん高齢化して業界から離れていきます。ノウハウが消えゆくなかで、このまま人の手だけで業務が回せるのか?という議論は必ず起こると考えています。

 そうなると、デジタルに置き換えようという動きが加速したり、徐々にルールが変化したり、法的な後押しが出てきたりと、新たな選択肢を取れるチャンスや機会も生まれてくるのではないでしょうか。

スタートアップにも既存企業にも有効なハードウェア支援

——インフラやレガシー産業の課題、業界に参入する際のスタートアップの課題に対して、Lenovoのハードウェア支援「Lenovo for start-ups」が寄与できるポイントはどのようなものでしょうか?

中田:サブスクリプションでパソコンというデバイスを利用できるので、フィナンシャル面での負担を軽減できるところは大きなポイントだと感じます。

 支払いを月々の定額にすることで、スタートアップという資金やリソースに限りある事業体においても、フィナンシャル面での不安なく、産業に対して高付加価値を生み出す可能性がある事業を維持できます。

平田:これはどの産業に参入しようとしているかにかかわらずいえることですね。現在、どの分野においてもパソコンは必須ですが、事業を加速させるという意味では最もお金をかけるポイントではないと思っています。

 一気に数百万のキャッシュが出ていく購入という形を取らないことで、キャッシュフローを安定させる一助になりますよね。

 また、利用するパソコンのスペックの相談ができるのは、インフラやレガシー産業に対して直接参入したいスタートアップにとっても有効です。

 直接参入の場合、既存企業との差別化をしなければ、競争優位性は生まれません。当然、デジタルの仕組みが入る部分も多いですし、そういった仕組みをつくるパソコンにはある程度のスペックが必要です。

 とはいえ、ただ高いものを使うのではオーバースペックになり、無駄な支出を生むことになります。

 その部分を相談して、サブスクリプションでパソコンが利用できるという部分はLenovo for start-upsが持つ、インフラやレガシー産業のスタートアップに対する強みかもしれません。

 逆に、想定よりも業務に対してパソコンが低スペックだった、という事態も防げます。

 あとは、サポートが手厚いということがメリットですね。積極的なサポートが受けられずに、うまくデバイスやシステムが活用できないという例は多いです。

 そういった意味では、スタートアップだけではなく、インフラやレガシー産業に存在する既存の中小企業にも有効な支援のようにも感じます。

中田:たしかに、インフラやレガシー産業は企業ごとにパソコンの導入率やOSのバージョンがバラバラで、パソコンを通じたコミュニケーションがシームレスにいかない場合があります。

 たとえば、Zoomでミーティングを行う企業もあれば、パソコンのメモリ不足でZoomがうまく利用できない企業もあります。あまりにパソコンの導入状況やスペックに違いがあると、効率化に影響して取引が難しくなってしまうということにもなりかねません。

 企業同士のコミュニケーションに制約がない状態をつくる、というのは非常に大切なことですね。

 たった今必要なスペックを見極めて、バージョンサポートが終わったものに関しては新たなモデルに入れ替えることもサブスクリプションであれば可能です。

機能強化と選択肢の拡大、それぞれの方向から産業を変えていく

——それでは、最後にLenovoとwaypoint venture partners、それぞれがスタートアップ支援を通じてどのような社会を実現したいか、その展望を教えてください。

中田:スタートアップ向けにフレームワーク化された我々のサプスクリプションのモデルが、先ほど話に出てきたような中小企業のエンパワーメントにも寄与できればと思っています。

 日本の企業は、9割以上が中小企業です。スタートアップはもちろん、既存企業の機能を高め、成長につながる支援として存在したいですね。

 そのためには、どこでもユニバーサルに使えるパソコンというものに対して、その周辺機能を徹底的に強化していくことが非常に重要だと感じています。

平田:先に挙げたVCとしての3つのテーマにおいて、個人や企業に対して広く選択肢を提供できるようになればと考えています。

 我々が投資するスタートアップが、対象とする顧客に新たな価値や選択肢を届け、さらに選んでもらえる存在になることに対して、微力ながらも後方支援を続けていきたいですね。

 その先に、「あのタイミングであの企業が生まれてくれたからこそ、街のあり方や産業が変化した」と感じてもらえる状態が生まれればベストです。

 インフラやレガシー産業とスタートアップ。一見、交わりのない二者にも思えますが、スタートアップは既存産業に新たな価値をもたらし、支えていく存在になりつつあります。

 VCやハードウェア支援がその歩みを後押しすることで、日本を支え続ける既存産業にどのような変化が訪れ、どんな未来が描かれていくのか注目されます。

※本稿はPR記事です。

【参加者募集】Do! Solutions Webinar「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方」10月8日開催

電通が運営する、ビジネス課題を解決する情報ポータルDo! Solutionsは、10月8日(水)に開催するウェビナー「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方 実践事例で学ぶ、企業成長のヒント」の参加者を募集している。

新規事業がうまくいかない、株価が上がらない、採用活動がうまくいかない、期待した社員が離職する──そのような企業の「問題」を議論すると、必ずといってよいほど「人と組織」の課題が浮かび上がる。しかし、組織文化に対する取り組みは成果がでるのに時間がかかるため、社内で優先順位が下がり、先延ばしにしてしまいがちである。

本ウェビナーでは、動かない組織を動かし、成長につなげる「鍵」である組織文化について、実際に成果を上げた事例を交えながら説明する。

「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方 実践事例で学ぶ、企業成長のヒント」

【概要】
日時:
10月8日(水)14:00〜15:00
費用:無料
形式:Zoomウェビナー
登録締め切り:10月5日(日)17:30
定員:先着500人

■参加登録・セミナー詳細はこちらから


【プログラム】

第1部
組織文化変革が始まるきっかけ/Culture for Growthのご紹介

第2部
組織文化変革の事例紹介①
~組織の節目をきっかけとした企業文化の進化~

第3部
組織文化変革の事例紹介②
~新事業を飛躍させるために人と組織を変える~

第4部
まとめ:変革のポイント

【登壇者プロフィール】

電通 グロース・HR部 部長・ディレクター
小山 雅史(こやま まさし)

入社以来、一貫してブランドストラテジストとして食品、通信、金融、飲料、化粧品、家電、薬品、自動車など、さまざまな領域のコーポレートブランディングとそれに伴う企業変革や従業員意識の変革、事業戦略や開発などを担当している。顧客との関係だけでなく、マスコミ、投資家など企業や事業を取り巻くマルチステークホルダーの視点で「社会にとってのこの企業や事業の価値とは何か」を常に考えながら、企業価値の持続的な向上方法を模索している。

電通 BXコンサルタント
家泉 洋平(いえずみ ようへい)

マーケティング局にて飲料・アルコールメーカーをメインに消費財・化粧品・金融などの企業のマーケティング・PR戦略立案に従事。その後、ビジネスプロデュース局にて消費財のコミュニケーション領域に加えて、宣伝部ではない新規事業部署を担当、非広告領域での事業開発を支援。現局では企業理念浸透/中計時企業ストーリー策定/MVV策定などBX(Business Transformation)領域でクライアントビジネスを支援、特に企業文化やCultureの変革に多く携わり、企業文化変革「Culture for Growth」プログラムの開発・提供を行っている。

電通 プランナー
世津 洋子(せつ ようこ)

マーケティング部門、デジタル部門にて新規開発、マーケティング/コミュニケーション戦略立案、CX体験設計に従事し、顧客視点に立つことにより、ビジネスや広告のあり方を刷新する提案を行いながら顧客企業をサポート。現在は顧客企業の変革を幅広く支援。〈世の中〉〈企業ステークホルダー〉双方をとらえ、提案を行っている。新規事業やブランド、プロダクトの開発や中長期戦略策定に加え、企業文化変革におけるコンサルティングを提供。
 

【参加者募集】Do! Solutions Webinar「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方」10月8日開催

電通が運営する、ビジネス課題を解決する情報ポータルDo! Solutionsは、10月8日(水)に開催するウェビナー「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方 実践事例で学ぶ、企業成長のヒント」の参加者を募集している。

新規事業がうまくいかない、株価が上がらない、採用活動がうまくいかない、期待した社員が離職する──そのような企業の「問題」を議論すると、必ずといってよいほど「人と組織」の課題が浮かび上がる。しかし、組織文化に対する取り組みは成果がでるのに時間がかかるため、社内で優先順位が下がり、先延ばしにしてしまいがちである。

本ウェビナーでは、動かない組織を動かし、成長につなげる「鍵」である組織文化について、実際に成果を上げた事例を交えながら説明する。

「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方 実践事例で学ぶ、企業成長のヒント」

【概要】
日時:
10月8日(水)14:00〜15:00
費用:無料
形式:Zoomウェビナー
登録締め切り:10月5日(日)17:30
定員:先着500人

■参加登録・セミナー詳細はこちらから


【プログラム】

第1部
組織文化変革が始まるきっかけ/Culture for Growthのご紹介

第2部
組織文化変革の事例紹介①
~組織の節目をきっかけとした企業文化の進化~

第3部
組織文化変革の事例紹介②
~新事業を飛躍させるために人と組織を変える~

第4部
まとめ:変革のポイント

【登壇者プロフィール】

電通 グロース・HR部 部長・ディレクター
小山 雅史(こやま まさし)

入社以来、一貫してブランドストラテジストとして食品、通信、金融、飲料、化粧品、家電、薬品、自動車など、さまざまな領域のコーポレートブランディングとそれに伴う企業変革や従業員意識の変革、事業戦略や開発などを担当している。顧客との関係だけでなく、マスコミ、投資家など企業や事業を取り巻くマルチステークホルダーの視点で「社会にとってのこの企業や事業の価値とは何か」を常に考えながら、企業価値の持続的な向上方法を模索している。

電通 BXコンサルタント
家泉 洋平(いえずみ ようへい)

マーケティング局にて飲料・アルコールメーカーをメインに消費財・化粧品・金融などの企業のマーケティング・PR戦略立案に従事。その後、ビジネスプロデュース局にて消費財のコミュニケーション領域に加えて、宣伝部ではない新規事業部署を担当、非広告領域での事業開発を支援。現局では企業理念浸透/中計時企業ストーリー策定/MVV策定などBX(Business Transformation)領域でクライアントビジネスを支援、特に企業文化やCultureの変革に多く携わり、企業文化変革「Culture for Growth」プログラムの開発・提供を行っている。

電通 プランナー
世津 洋子(せつ ようこ)

マーケティング部門、デジタル部門にて新規開発、マーケティング/コミュニケーション戦略立案、CX体験設計に従事し、顧客視点に立つことにより、ビジネスや広告のあり方を刷新する提案を行いながら顧客企業をサポート。現在は顧客企業の変革を幅広く支援。〈世の中〉〈企業ステークホルダー〉双方をとらえ、提案を行っている。新規事業やブランド、プロダクトの開発や中長期戦略策定に加え、企業文化変革におけるコンサルティングを提供。
 

DEIネイティブが、エンタメを変えていく。(前編) ~音楽マーケットとアーティストプロデュースの未来~

左から電通 在原、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏、電通 増山
左から電通 在原、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏、電通 増山

エンタメコンテンツの領域では、SNSやサブスクリプションを基盤に、国境や世代を超えた「グローバルでオープンなエンタメ体験」が可能になっています。

一方、歴史や文化に根差した多様な価値観への理解不足や、コミュニケーションへの配慮の欠如がトラブルを招く事例も散見されます。

エンタメにおけるダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(以下DEI)のアップデートには、何が必要なのでしょうか。

「DEIな発信」を実践する人物や組織に、DEIマインドの育み方を伺う本連載。第1回は、重点戦略として「多様な地域・多様な分野で“愛される”IPの発掘・育成を目指す」を掲げ、グローバルで評価されるアーティストとそのチーム作りで注目されるエイベックスの事例です。

前編では、音楽マーケットとアーティストにまつわる「DEIな発信」について伺います。

お話を伺った人:猪野丈也さん(エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ代表取締役社長)
聞き手:増山晶(dentsu DEI innovations、電通 第6マーケティング局クリエイティブディレクター)、在原遥子(電通 エンタテインメントビジネス・センタープロデューサー)
 
<目次>
クリエイティブを大切に、グローバルの「壁」を越えていく。

世界で勝負できるプロデューサーに求められる視座とリテラシーとは?

世界で愛されるアーティストになるために。

クリエイティブを大切に、グローバルの「壁」を越えていく。

エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏
エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏

──エイベックス・ミュージック・クリエイティヴはどんな会社ですか?

猪野:当社はいわゆるレコード会社で、エイベックス・グループのいわば“一丁目一番地”の歴史を積んできた会社です。エイベックスとしては、会社の成長につれて縦割り組織になっていった時期もありましたが、組織再編を経て、音楽事業全体の中でレーベル部門として分社化されたのが、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴです。音楽を作るうえでクリエイティブを大事にしていこうという社名になっています。
 
──音楽・エンタメが、グローバル市場で文化や慣習、規制などの「壁」に直面し、また超えていく状況についてのお考えをお聞かせください。

猪野:エイベックスはK-POPを日本に広めた会社のひとつだと思っています。韓国の音楽が日本というマーケットに対して受け入れられるところから始まり、さらに日本を超えて世界に行くという歴史も見てきました。僕の中では4つのフェーズがあったと思っています。

第1フェーズはJ-POPの良いところを生かしたアーティストとして活動した東方神起さんやBoAさん。当時、韓国のアーティストを売るというのが、なかなか大変でした。しかし、SMエンタテインメントさんのクリエイティブやアーティストとしての資質が素晴らしかったので必ず人気が出ると確信を持ち、日本市場ではJ-POPの良いところを生かした作品として、市場に打ち出していきました。

第2フェーズは韓国のアーティスト性や楽曲のまま、日本語に変えたKARAさんや少女時代さん。第3フェーズの頃には日本の中で韓国マーケットが出来上がってきていて、韓国で作ったものがそのまま日本で売れるようになり、その代表格がBIGBANGさんやEXOさんだと思っています。

そして第4フェーズが BTSさんやBLACKPINKさん。韓国で作られたものが、そのまま日本や世界に広がっていったという流れで、ここまでの景色は20年ほどかけて実現してきました。

それを間近で見ながら、われわれも日本の音楽をそのように海外に伝えられないだろうかと夢見ていました。最初は正直、「海外、特にアメリカで売るのは難しすぎるか?」と思ったこともありましたが、「ここはチャレンジしなきゃいけない」と強い思いで10年ほど前から取り組んできました。

テクノロジーの発展もあり、日本の音楽が世界で自然に聞かれる環境が整ってきた中に、日本特有のアニメやゲームのような人気カルチャーがあり、そこに音楽が広がっていった部分があると思います。 K-POPのフェーズの話で言うと、いきなり第3フェーズに飛び級した感覚で、良い意味で驚きました。われわれが今取り組んでいることは、海外のそれぞれのマーケット・文化に合わせて作っていく第1フェーズのやり方でもあるので、すごく難度は高くて、文化・慣習・規制などの壁には日々直面しています。

──今や日本や韓国の音楽が、国や地域の「壁」を超えて世界で展開していくようになりました。そのような音楽業界の変化に合わせて、アーティスト育成のあり方も変わってきているのでしょうか?

猪野:いろいろ変わりましたね。20年前はわれわれがやってきたJ-POPの良い部分を韓国側が吸収していくという部分が多かったですが、今はマーケティングやクリエイティブ面も含めて、われわれがK-POPから教わるべき部分が非常に多いです。10年ほど前から、日本でキラリと光るアーティストの卵たちを見つけて、K-POPの素晴らしいノウハウも取り入れながら育成しています。 この流れをどんどんスピードアップしていきたいですね。

近年日本のカルチャーが世界で評価されてきているので、日本らしさ、ユニークさを出していくことが、K-POPとの差別化にもなると思っています。世界の目を通したジャパニーズを意識することも大切ですが、日本人としてのアイデンティティを示すメッセージの方が伝わるものが大きいと感じています。

──日本のカルチャーというお話がありましたが、エイベックスは昔から音楽だけでなく文化も発信していましたよね。

猪野:そうですね、カルチャーやムーブメントを作ることは、とても重要視しています。僕らはもともとコンテンツがない会社だったので、イベントやトレンドでモメンタムを作ってビジネスにしていったんです。ムーブメントの中から、それに沿ったアーティストを生み出していき、コンテンツの世界に入っていったという歴史があるので、「業界の中で新しいことをやらないと誰も振り向かない」という思いがあります。

世界で勝負できるプロデューサーに求められる視座とリテラシーとは?

電通 在原
電通 在原

──アーティストを見いだし、世に出すプロデューサーについてお聞きします。その育成はどのようにされていますか?

猪野:これは、これまで脈々と伝えられてきたところで言うと、スタープロデューサーって、だいたいスタープロデューサーの横にいたんですね。

松浦(勝人氏、エイベックス代表取締役会長)も小室哲哉さんのそばにずっといて、どうやってヒットしているかを肌で感じていました。自分ならこうするな、とやってみたいと思っていたアイデアが、自分がプロデュースする立場になったときに発揮できたと思います。

もちろんもともとの才能もあると思いますが、日髙さん(光啓氏、株式会社BMSG 代表取締役CEO)も松浦を見ていたとか、そういう方が成功されていることが多いですね。

──会社の育成の枠組みで学ぶというよりは、徒弟制度のような方法なのですね。

猪野:もちろん、育成のための勉強会などもありますが、座学だけでは気づかないような点に気づく人が、スタープロデューサーやスターディレクターになるので。スターのそばでやり方やノウハウを検証している若手社員からは、僕らも刺激をもらっています。

──入社時からスタープロデューサーを目指している方もいますか?

猪野:多いですね。会社としては、そうした社員に対して、ビジネス面を鍛えるとか、デジタルをさわってみよう、営業現場でどういったものが売れているか感じよう、クリエイティブに行ってもらおうとか、そういうプロセスは踏みます。徒弟制度は歴史的に有効ですが、理論上はこういう知識をつけていこう、という育成方針はあります。

ただ、音楽業界にも優秀で熱意を持った人が増えていますが、3年たつとみんな会社の色に染まっていくのがいいことなのかは悩ましいですね 。知識は必要ですが、それは実現するための知識なので、アイデアは、ユーザーに近い純粋無垢な時代の感覚を持ってほしいと思っています。

僕がいつも社内で面談のときに言うのが、


「僕らが売っているものは音楽だけど、その先には音楽を生み出して力尽きているようなアーティストがいる。1回の投稿、1回のラジオオンエアのために、アーティストの人生を背負って、聴いてくれた人に感動を起こす仕事なんだよ」


ということです。頭の良さよりも、そのアーティスト、楽曲のことをずっと考えて、どうやって人に聴いてもらって喜ばれるかを考え続けることの方が大切な仕事なんですよね。

猪野氏
──そのように、アーティストとチームになって世界と戦える人材の在り方について、どう考えていますか?

猪野:日本には、世界で活躍できるクリエイターはたくさんいるけれど、圧倒的に足りないのが、グローバルなマーケティングができるビジネスプランナーです。プランナー、マーケターが世界と比べると少ない。国内向けにはいても、海外発信をしている人もメディアもプラットフォームもすごく少ない。それは韓国でPRやマーケティングすることが多くなって、すごく感じるところです。ここは、コンテンツチームだけでなく、日本国として、もっと発信力を持つべきだと思って、国やメディアとの会話を続けています。

エンタメビジネスのことや、日本の文化、日本と海外のやり方の違いが分かっていて、ビジネスにしていくことができる、そんなスペックの人材を日本で探すのは難度が高くて、結局韓国の方ばかりになることが多いです。

世界で愛されるアーティストになるために。

──今、グローバルで人気を集めているアーティストたちは、DEIリテラシーが高く、グローバル基準のものの見方をできることが共通点かと思います。Snow Manなど多くの人気ボーイズグループを擁するエイベックスですが、ここでは2グループについて伺います。

電通 増山
電通 増山

1つめがONE OR EIGHTです。育成を経てグローバルベースでデビューしましたが、どのような戦略がありましたか?

猪野:エンタメ業界の先達たちに学んで、日本でも世界でも、「それぞれの国のローカルチームがマネジメントを担うボーイズグループ」を作りたいと思いました。日本が少子高齢化になる中で、海外でビジネスをしなければとなったときに、アジア各地にローカルチームがいて、現地の文化も理解できて、ネットワーキングもできるということをやりたくて。そこでまず、ちゃんと世界基準のクオリティやスキルを身につけられる育成期間がある子たちをスカウトするところから始めました。

ONE OR EIGHTは、最初から海外を目指すというあまりない形、いわば名前の通り一か八かの戦略を立てました。K-POPの戦略はかなり学んだと思いますが、ナレッジがあるわけではないので、暗中模索の中で戦っていた感じはします。

先ほど言った通り、日本からの発信メディアがほぼない状態なのですが、半年経って、アジア、北米南米を回った時に、地球の裏側で、まだまだ少人数とはいえ熱狂が生まれていたことには、驚きもあり安堵もありました。日本、アジアのアーティストのマーケットが成長していることは肌で感じました。諸々の投稿やMVのコメントやフォロワーの7割が海外の方というのも、日本では非常に珍しい割合だと思います。

ONE OR EIGHT
ONE OR EIGHT

──アメリカでグローバルメジャー契約も結ばれました。

猪野:まずアジアから、と思っていましたが、デビュー曲のプロデューサーであるライアン・テダーに 「今、トレンドはTOKYOだ」と言われたり、BTSが活動休止中だから、アメリカでボーイズグループは非常に目新しい存在として捉えられると言われたり、大谷選手のフィーバーがあったり……アメリカで日本、日本人の価値が上がっている状況だったので、アメリカメディアもレーベルもファンも興味を持ってくれました。

日本人ボーイズグループとして初のUSRADIO TOP40にチャートインしたのも、そういった何か新しいアーティストがやってきたと思われた背景があったからだと思います。日本人から見たら変だなと思うところはあったと思いますが、アメリカから見た日本のクールさみたいな見え方を優先して制作していきました。

──次に伺いたいのが、日本の地上波でも展開されたオーディション企画発のBE:FIRST(BMSG所属)です。彼らも、世界ツアーを成功させました。

猪野:自分が、BE:FIRSTのことをコメントすること自体はおこがましいですが、僕の感想としてお話しすると、BE:FIRSTは、何よりプロデューサーである日髙さんの熱意とビジョンが素晴らしいと思っています。AAAという大きな看板のイメージも強かった中で、「プロダクションを作って勝負したい」という強い信念を持っていました。すべてのアーティストには才能があるという、自分がアーティストだからこそ感じた違和感みたいなものを、プロダクションの社長という立場で体現していると思います。

僕らは、「もちろんお手伝いさせてください」という立場でB-MEという共同レーベルを一緒に設立しましたが、オーディション番組の画面を通しても、日髙さんの熱量はどんどん伝わってきましたね。結果として生まれたBE:FIRSTは、まさに“愛される”IPそのものです。

K-POPにどんどん才能が流出する危機感がある中、それを乗り越えて勝ち上がった人だけがスターになっていくので、日髙さんもそういう勝負に出て、勝ったんだと思います。
 

BE:FIRST
BE:FIRST

──水面下で育成して海外から火をつけて売り出したONE OR EIGHTと、オーディション段階から広い年代の方に見守られて出てきたBE:FIRSTという2組ですね。この2組にも共通する、世界で活躍するアーティストの条件とはなんでしょうか?

猪野:世界基準はいわゆる完成品を出すということなので、言語とスキルはすごく重視されると思います。グローバルビジネスマナーやセンスがあり、日本文化を知り、カルチャーやビジネスを自分自身の言葉で言語化できる人というのが条件になります。

K-POPはわれわれより3歩くらい先を進んでいてナレッジもたまっていますが、日本はまだ海外にマーケットが出来上がってはいません。ただ、数を重ねていっていろいろな日本のアーティストが世界で活躍することによって、日本の文化圏の価値も上がっていくと思います。ボーイズも、ガールズも、シンガーソングライターもYouTuberもバンドもラッパーもいる面白い国だよねっていうマーケットを形成していきたいですし、それを発信するメディアやプラットフォームも作っていきたいです。

売り出し方も難度は高いのですが、K-POPが韓国で成功してから英語で海外マーケットに臨むナレッジがたまっているのに対し、日本はまだまだまだ成長過程なので、海外に受け入れられるアーティストを育て、メディアやプラットフォームを形成し、日本の文化の価値を上げていきたいと考えています。

猪野氏

以上、前編では、音楽マーケットとアーティストにまつわるお話を伺い、カルチャーや国の「壁を乗り越える」といったお話から、DEIリテラシーやグローバル基準のものの見方など、グローバルビジネスにおける「DEIな発信」のヒントを受け取りました。

後編では、そのビジネスを支える「人間力」の在り方、育み方をお伺いします。

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DEIネイティブが、エンタメを変えていく。(後編) ~アーティスト育成とファンダム共創~

左から電通 在原、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏、電通 増山
左から電通 在原、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏、電通 増山

「DEIな発信」を実践する人物や組織に、リテラシーとアクションを伴うDEIマインドの育み方を伺う本連載。

第1弾となる今回は、グローバルマーケットの礎を築き、国内外で評価されるアーティストとそのチーム作りで注目されるエイベックスの事例です。

前編では、音楽マーケットとアーティストにまつわる「DEIな発信」において、カルチャーや国の壁を越えたエンタメ市場や、アーティスト、プロデュース事例から、貴重なビジネスヒントとなるお話を伺いました。

後編では、アーティストやスタッフ育成とファンダム共創における「DEIな発信」について、お話を伺います。

お話を伺った人:猪野丈也さん(エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ代表取締役社長)
聞き手:増山晶(dentsu DEI innovations、電通 第6マーケティング局クリエイティブディレクター)、在原遥子(電通 エンタテインメントビジネス・センタープロデューサー)
 
<目次>
「業界の常識はエイベックスの非常識」

アーティストもスタッフも、生身の人間。包摂とケアは欠かせない

ファンダムを巻き込んで、インクルーシブに発信力を高めていく

生きづらさを感じる若者も「いたい自分でいられる」力になるエンタメへ

これからのグローバルエンタメのチェンジメーカーに

「業界の常識はエイベックスの非常識」

──ここからはアーティストの発掘と育成についてのお考えをお聞きします。今の時代はSNSでの活動が欠かせませんが、コンプライアンスについてはいかがお考えでしょうか。

猪野:SNSは便利なツールだけど、好き勝手にものが言える文化もできたということでもあり、それに対しては常にアーティストも社員も意識を高めるようにしています。

コンプライアンスは一見、エンタメと真逆の面もあります。その中でバランスを取っていくのは、非常に難度が高い。もちろん誰かを苦しめたりしてはいけないけれど、なぜHIPHOPが生まれたのか、なぜロックが生まれたのかといえば、社会的な抑圧に対抗するツールが音楽だったことも事実なので、そういうものは失わない方がいいと思います。

エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏
エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏

──「avex vision 2027」に、「多様な地域・多様な分野で “愛される”IP」という言葉があります。これは歴史も含めた多様な地域、多様なカルチャー、多様な人々から愛されるということでしょうか?

猪野:やはり愛されないと、アーティストもわれわれも生きていけないですから。でも、どちらかというとただ愛される、よりも、「ドキドキ、ワクワク、熱狂を作る」という意味の方が強いです。通常の社会とは違う景色を見せるのがエンタメだとすると、それは非日常であるべきだと思います。非日常こそが「ドキドキ、ワクワク、熱狂」であり、それを音楽やリアルイベントで表現していくことが大事です。

そういう意味では、多くの人の共通項を歌うことで万人受けするよりは、ある一定の人々にぐさっと刺さる楽曲やコンテンツを発表していくことが重要だと考えています。特にクリエイティブについては、一般的であるべきではないと思います。

──確かに、ここまでメディアが多様化している中で、万人受けやみんなが聴いているというのは限界があるのではないかと思います。

猪野:そうですね、それで各コミュニティの中でビジネスが生まれるような時代になっているので、「全員が知っているヒット曲」ってなかなか出づらい世の中にはなっていると思います。昔の情報が少ない社会なら、「あっち向こうぜ」と言えば大衆が注目した時代があったんですが、今や1日に10万曲がアップロードされる時代なので、そこで一般的な話をされてもしょうがないですよね。当たり障りのない歌詞からは感動は生まれないので。

だから、ある一定の強いメッセージに対して共感してくれる人たちに向けた作品が、エンタメを構成する要因になっていると思います。そうした多様な非日常の表現や多様なIPが、多様な人たちのいる多様な地域で、それぞれに広がっていければいいなと思います。

映画からテレビ、テレビからYouTubeといった新しいメディアへの移り変わりの中で新しいスターが生まれ、新しいIPが生まれます。それはやはりとんがっていないと。ムーブメントを起こそう、なにか人がやらないことをやろう、「業界の常識はエイベックスの非常識」(創業者である松浦勝人会長の言葉)ということは、常に心に刻んでいます。

──そんな”愛される”IPの卵は、どんな人で、どのように見つけるのでしょうか?

猪野:ハッと振り向かせるような魅力や、何かオーラを感じるなみたいな人を見つけるようにしています。スポーツは記録を出せばヒーローですが、エンタメは記録を出しても必ずしもヒーローではないので、そこにお客さんとの熱量のキャッチボールが生まれるような、そんな人を探しています。上手なミュージシャンというよりは、スキルは発展途上でも、素材としてそんな魅力やオーラがある人を探しています。 

──「この先、魅力的な人になりそうだ」という人を探すということですね。

猪野:おっしゃる通りです。歌がうまい、ダンスがうまいというだけでは振り向かれない。スキルのその先に何かがある、というのがスター性になってくるので、ここを見極めるのがすごく大事です。

アーティストもスタッフも、生身の人間。包摂とケアは欠かせない

──生身の人間であるアーティストの育成について伺います。特待生になっても必ずしもデビューできると限らない、デビューもゴールではない世界で、アーティストのメンタルケアはどのように考えておられますか?

電通 増山
電通 増山

猪野:avex Youthという機関では2022年から、今活躍しているアーティストも含め、育成に力を入れてきました。そこでは語学やスキルの育成だけでなく、メンタルヘルスにも寄り添っています。過酷な環境の中で過酷な競争をしていて、挫折もある、厳しい世界の中では、メンタルの専門家のサポートも必要です。

──さまざまな経験を積んだアーティストが、プロデューサーなど、スタッフに回ることもありますか?

猪野:はい。ステージに立った経験のあるプロデューサーは、そうでないわれわれとは視座が違って、「あのときああすればよかった」「つらいときがあった」といった経験をもとに客観視して、判断ができるんですね。

そういう意味では日髙(光啓氏、BMSG代表取締役CEO)さんは、現在ご自身もアーティストとして活動されていることもあり、過去に蓄積された鬱憤を昇華して、経験則からアーティストに寄り添ったメッセージを発信しています。「つらいときもあったよ」の視座と説得力がわれわれとはまったく違います。

──アーティストやスタッフという異なる立場の垣根を超えることもある、ということですね。ではそんな会社のカルチャーについて伺います。エイベックスは障害者雇用やジェンダーリテラシーへの取り組みなど、カルチャーとして当たり前のようにDEIに力を入れており、アーティストやスタッフ、社員の多様性を包摂されています。

猪野:会社のカルチャーとしては、DEIというのはあるのかなと思います。海外のスタッフもたくさんいるし、当たり前にいろいろな人がいるよねと。そこに違和感は全くないです。普段からそういう意識でないと、グローバルとは何だということになります。日本が好きで、インディペンデントなエイベックスが好きだと、海外から採用に応募してくれる人も多いです。

例えばその国々の文化風習によって、ピースサインがいいとか悪いとかもありますよね。リテラシーというか、慣れていく、万一何か間違ってしまった場合も、そのミスに学んで、経験にしていくしかないと思っています。

──アーティストの育成における課題も踏まえ、今後のエンタメ業界で活躍する人材の要件はなんでしょうか?エイベックスでは、若いアーティストに年齢の近いマネジメントスタッフがついている印象があります。

電通 在原
電通 在原

猪野:はい、アーティストとマネジメントが同世代だと、いい共同体になれます。それと、今のアーティストはネットでのコミュニケーションが欠かせませんが、そこはデジタルリテラシーの高い若い社員がやるのがいいという会社のカルチャーもあります。僕らの世代だけでのSNSマーケティングは、リテラシー的にも机上の空論になりがちです。

──同世代だと、アーティストも安心して本音をさらけ出せる、心理的な安全性もありそうです。

猪野:アーティストはやはり、一般的な人とは違う強い個性を持つ人が多いですから、一般人であるスタッフと一緒にいると、お互い刺激があります。そのときに年齢が近いと、より本音のコミュニケーションが生まれます。上の世代もそうやってアーティストとスタッフが良い関係を築いてきましたし、そうしたタッグがうまく機能する成功体験が、若者にチャンスをあげようとか、若者の感覚を信じようといったエイベックスのカルチャーになっていると思います。

スタッフが社会人として一人前になるのに4、5年はかかるとして、それまでは“投資”ですが、ベテランも若者の感性に触れてアップデートされるので、相乗効果はあると思います。そのベテランと若手のシナジーがないと、発信内容がアップデートされず、結果的にファンにも見放されてしまうので、若い社員はエンタメ業界ではポジティブに機能しているのではないでしょうか。

グローバルでも、現地の人と話してみないと、現地のカルチャーも分からないし、言葉の正しい発音も分かりません。同じように、SNSとの正しい付き合い方は、SNSネイティブな若者世代に聞くしかありません。そうやってSNS文化やファンダムに合わせて新しいマーケットを作っていく手法は、マーケットができている環境で大物プロデューサーが「この曲で行け!」とプロダクトアウト型の発信をする手法とは、まったく異なりますね。エイベックスではこれまで、プロダクトアウトの方が多かったですが、その文化も失わずに、エイベックスらしい独特の作品やアーティストが育っていくようにしたいと思っています。

ファンダムを巻き込んで、インクルーシブに発信力を高めていく

──次に、ファンダムについてお伺いします。そんなSNS時代において、アーティストとファンとの距離感は、すごく近くなって、ある意味でインクルーシブに一体化しているとも言えるのではないでしょうか?

猪野:そう思いますし、全世界的にもそうなってきている印象です。単なるアーティストのファンではなく、ファンの中にも、後援会のように投資をしてくれるファンと、推し活のように発信してくれるファンがいるという構図だと思います。もちろんファンクラブ活動というのは従来もありましたが、今やデジタルの世界でもスケールの違うファンダムが生まれています。そんな、「一体化したファンダム」を作ったアーティストの成功事例が多いと思います。

猪野氏
──従来のアーティストファンは、出来上がったものを手に入れるだけでした。しかし、現在のアーティストのファンダムは、“推し活”などと言われるように、良いものを生み出せるよう、アーティストをアクティブに育てているとも言われます。

猪野:その通りですね。ファン自身が、自らの推すアーティストのPRパーソンになって、発信できる人が10人、100人と増えるにつれてどんどん広がる、そういうことができる社会なので面白いですね。公式が宣伝しても振り向かない場合も、「これめちゃくちゃいいよ」という熱量のあるクチコミで興味喚起できる。

ほかにもライブの撮影を許可することでファンによる拡散を支援したり、応援広告に参加してもらうなど、運営側もファンダムとの良好な関係作りを意識しています。SNSの戦略としてファンダムのリーダー格の方とコミュニケーションするというのも、マーケティング担当の仕事になっているんですよね。

生きづらさを感じる若者も「いたい自分でいられる」力になるエンタメへ

──また、社会的な活動をするアーティストをファンダムが応援する、ファン・アクティビズムもあります。

猪野:もちろんアーティスト活動もサポートしてほしいけど、アーティスト活動そのものが社会を良くするサイクルになることも大事です。いろいろなタイプのアーティストがいていいと思いますが、会社としてはそれをサポートするという立場です。アーティストのメッセージの発信にも協力したいですね。

──力強いメッセージを発信されている日髙さんと同じAAAのメンバーである與真司郎さんも、2023年にファンミーティングでセクシュアリティのカミングアウトをされました。

猪野:レーベルとしてももちろん、サポートしていく立場です。今の時代のアーティストやファンにとっては、セクシュアリティを含めたいろいろな多様性は当たり前なのではないかと思います。

──アーティストの生き様や姿勢も含めたクリエイティブをサポートされていくということですね。

猪野:そうです。少し前になりますが、コロナ禍で真っ先にクリエイター支援や設備の無料開放などを開始したうちの一社が、エイベックスなんです。自社に限らず、クリエイターやエンタメの収益が増えるようなお手伝いはしたいと思います。それが良いクリエイター、良いコンテンツが生まれるサイクルを作るので。

これからのグローバルエンタメのチェンジメーカーに

──「avex vision2027」に掲げる“愛される”IPについてや、エイベックスのマテリアリティ(重要課題)についてのお話を伺ってきましたが、 最後に、DEIを踏まえたこれからのグローバルエンタメ発信のありかた、展望をお聞かせください。

猪野:グローバル市場で考えたときに、DEIリテラシーのあるアーティストにファンダムの支持が集まっている傾向は明らかです。当社にはもともとDEIが当たり前というカルチャーがあります。アーティストのリテラシーを踏まえた発信を支援することで、国の枠を超えたエンタメを育てていけると考えています。

エイベックスとしては日本はもちろん大事ですが、ビジネスの話でいうと、海外にチャレンジしていくことが重要だと思っていますし、そのチャンスが訪れていると思います。無駄になる可能性があっても、そこに投資できる、チャレンジできる会社はそんなにありません。やはりエイベックスの、松浦のカルチャーですね。人がやらないことをやる、そこに未来があるという、トライ&エラーの会社なので。また、そういったフレキシビリティはインディペンデントの強みだとも思います。投資も含めてIPとインフラを育てていき、日本のコンテンツを世界に届けることをビジョン、ミッションにしています。

アジアのリーディングカンパニー、コンテンツのリーディングカンパニーというのが当社のビジョンで、そのチャレンジを面白がってくれる仲間、アーティストやスタッフが集まってくれることが大事です。昔われわれが日本でK-POPの情報流通を作ったのと同様に、おこがましいですが10年後には未来のエンタメを目指す方々に光を差す存在になれるように、全集中しています。

──まさに「多様な地域・多様な分野で“愛される”IP」のためのチェンジメーカーになるということですね。

猪野:はい、そして日本チーム全体でがんばろうと。誰かが突破していかないとマーケットはできないので、国も含めて、一緒に走りましょうと強く思っています。経産省にも、投資・規制のハードル打破、グローバル人材育成、定期的な海外への発信メディアやリアルプラットフォーム構築などの提言をしています。グローバルフォーマットにのっとって、日本のエンタメの価値を上げていくサイクルを作りたいですね。

──メディアやプラットフォームをはじめ、ぜひわれわれもチェンジメーカーのパートナーになれたら幸いです。本日はワクワク、ドキドキする熱量にあふれた貴重なお話をありがとうございました。

猪野氏
以上、後編では、アーティスト育成とファンダム共創にまつわるお話を伺い、世界で“愛されるIP”といったキーワードから、ビジネスにおける「DEIな発信」のヒントを受け取りました。

前後編を通じ、アーティストを擁して「DEIな発信」を実践するには、アーティスト、スタッフ、ファンダムというチームの誰もが人間力を磨き、互いに人権を尊重し、たとえ失敗をしても、それをより良い未来に生かす姿勢を持ち、日々DEIリテラシーをアップデートしていくことが大切だというメッセージをいただきました。エンタメ業界に限らず、今日のあらゆるビジネスへの大きなヒントだと言えるでしょう。


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欧州最大級の脱炭素ファンド「EIT InnoEnergy」日本進出の意味…GX加速と国際競争力をめぐる新局面

●この記事のポイント
・欧州最大級の脱炭素ファンドEIT InnoEnergyが日本進出。資金とネットワークでGX加速に期待。
・バッテリー、水素、太陽光、カーボンクレジットなど日本市場で有望分野への投資が予測される。
・日本の強みは品質や製造力、弱点はスピード感。EIT参入で欧州規格適合やユニコーン誕生に現実味。

欧州発の巨額ファンドが日本へ

 2025年9月、欧州最大級の脱炭素ファンド「EIT InnoEnergy(イノエナジー)」が日本に進出するという報が流れ、エネルギー・環境業界に衝撃が走った。

 EIT InnoEnergyは欧州委員会からの支援を受け、再生可能エネルギー、蓄電池、グリーン水素など脱炭素関連産業を丸ごと立ち上げてきた実績を持つ。これまでに同社が投資した企業の資金調達総額は約6兆円を超え、ユニコーン企業も4社誕生している。単なる資金提供にとどまらず、「欧州バッテリー同盟」「欧州グリーン水素加速コンソーシアム」など、産業バリューチェーンをまるごと構築してきた存在だ。

 そんなEITが日本に拠点を置くことは、日本の脱炭素ビジネスにとってどんな意味を持つのか。業界関係者に話を聞いた。

日本市場で注力が予想される分野

 EIT InnoEnergyは、これまで欧州で「産業バリューチェーンの丸ごと立ち上げ」に力を発揮してきた。日本においても、その投資対象は明確だという。

(1)蓄電・バッテリー材料/製造・リサイクル
(2)グリーン水素・アンモニアと関連インフラ
(3)太陽光の国内製造回帰
(4)系統安定化(長時間蓄電や需給調整)

 さらに、EITはカーボンクレジット領域でも、モニタリングやデータ連携型オフセットを手がける企業へ投資実績を持つ。日本で成長しつつあるカーボンクレジット創出ビジネスに対しても、投資可能性は高いとみられる。

欧州と日本の制度・資金環境の違い

 欧州と日本では、脱炭素市場を支える制度や資金調達の仕組みに明確な違いがある。

・制度面
 欧州はEU-ETS(排出量取引制度)やCBAM(炭素国境調整メカニズム)を通じ、炭素コストが競争力の指標になっている。一方日本はGX-ETSが2026年度から本格制度化される段階で、クレジット価格の行方に注目が集まっている。

・資金調達面
 欧州では官民連携プログラムが充実し、EIT自身もEU資金アクセスのワンストップ支援を展開している。日本では大企業の影響力は強いが、実証実験止まりになりがちで、成長資金への接続が弱点だ。

・企業カルチャー
 欧州はアライアンスを組み「まずスケールさせる」文化があるのに対し、日本は品質や確実性を重視し、実証実験を積み上げながら進める傾向が強い。

日本企業の強みと弱点

 有識者は、日本企業の強みとして以下を挙げる。

・材料・部品・装置における精密製造力
・大規模サプライヤー網と品質保証
・水素・アンモニアプロジェクトの先行実証
・サステナブル調達やトレーサビリティに対する真面目さ

 一方で弱点は、意思決定の遅さ、国際規格や認証への対応力不足、そしてグローバル人材・資本の取り込みの弱さだ。「こうした弱みを補完する存在として、EITのネットワークや欧州資本の接続力に期待が寄せられています」と関係者は語る。

日本発ユニコーンは生まれるか

 EITの投資先企業は累計3兆円以上を調達し、4社がユニコーンに成長している。では、日本からも同様の成功は期待できるのだろうか。

「条件としては、初期から欧州市場を見据え、LCA(ライフサイクルアセスメント)やCBAMに適合した事業設計が必要です。サプライチェーン全体を巻き込んだ量産計画、EU資金や民間資金を段階的に活用できる調達設計も不可欠でしょう」

 日本の強みである精密製造や品質保証と、EITが持つ資金・ネットワークがかみ合えば、脱炭素分野で日本発ユニコーンが誕生する可能性は十分にある。

国際情勢と日本の立ち位置

 世界の脱炭素を巡る情勢は複雑だ。米国では政権交代の影響で政策の不確実性が高まり、投資の停滞も懸念される。一方、中国は圧倒的な製造力と価格競争力で世界市場を席巻している。

 そのなかで、日本が勝負できる立ち位置は「米欧市場に適合した品質と規格」だと関係者は指摘する。

「日本は信頼できる供給網、高品質、そしてEU規格に適合できる技術を持つ。米欧市場と相互運用可能な認証やデータ基盤を武器にすれば、中国との単純な価格競争ではなく、グローバルな橋渡し役になれる」

 EITの日本進出は、この「欧州規格側の正式メンバー」として日本企業を位置づける現実的な一手になりうるという。

日本のGX加速への期待

 日本政府はGX実行会議を通じ、20兆円規模のGX経済移行債を発行するなど、脱炭素関連投資を支援している。再生可能エネルギー、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)、地域資源を活用した分散型エネルギー、カーボンクレジットなど、国としても注力分野を明確にしている。

 今回のEIT進出によって、海外の先進技術や企業ネットワークが日本市場に流れ込み、日本発のGXビジネスを世界へ展開するための大きな後押しになると期待されている。

 関係者は次のように結んだ。

「EIT InnoEnergyが持つ知見とネットワークが加わることで、日本の脱炭素市場全体が活性化し、世界と肩を並べるイノベーションが生まれる可能性が高まります。私たちとしても、自然由来のカーボンクレジットを大規模に創出しつつ、グローバル市場に通用する仕組みづくりを加速させたいと考えています」

 EIT InnoEnergyの日本進出は、単なる資金流入ではなく、「欧州型の制度・市場の仕組み」と「グローバル資金への接続回路」を日本に持ち込むことを意味する。

 日本企業にとっては、自国の強みを生かしつつ弱点を補完し、欧州市場で競争力を確立するまたとないチャンスだ。GX実現の速度と国際競争力の行方を占う上で、今回の進出は大きな分水嶺となりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

参考:グリーンカーボン

空き家900万件時代、解体をDXしインフラ創出…社会課題を巨大ビジネス市場へ

●この記事のポイント
・空き家問題が深刻化する中、解体業界にDXを導入し、効率化と透明性を高めた起業家の挑戦を描く。
・レガシー産業の課題を機会に変え、社会課題解決と事業成長を両立させる経営戦略が明らかになる。
・解体を「終わり」ではなく「まちの再生の起点」と捉える発想が、新しい市場創出のヒントとなる。

 全国で空き家が900万件を超え、将来的には「3軒に1軒が空き家になる」と予測される日本社会。空き家は防災や治安、景観、資産価値に深刻な影響を与える社会課題として注目されている。そのど真ん中で、解体工事領域にテクノロジーを持ち込み、業界の変革と社会課題の解決を両立させようとしているのが株式会社クラッソーネだ。

 同社は「解体工事の一括見積もりサービス」を軸に事業を展開し、これまで2200社以上の工事会社が登録。全国152自治体とも提携するなど、解体業界におけるDXの先駆けとなっている。創業者で代表取締役CEOの川口哲平氏に、事業を通じて見えてきた市場機会と経営の学びを聞いた。

●目次

創業の原点──「『街』の循環再生文化を育む」

 クラッソーネは2011年に創業された。当初は注文住宅やリフォーム事業も手がけていたが、2019年にエクイティ調達を実施し、解体工事領域に集中する方向へ大きく舵を切った。川口氏が掲げるビジョンは「『街』の循環再生文化を育む」。

「解体というと“壊すだけ”のネガティブなイメージがつきまといますが、実は資材の95%以上はリサイクルされています。解体は循環型社会の重要な起点であり、まちを次の世代につなぐための再生事業なんです」

 解体を「終わり」ではなく「始まり」として位置づけ直す。この視点が、クラッソーネの独自性を形作っている。

空き家問題は「ニッチに見えてマス」な市場

 現在、日本の空き家数は約900万件にのぼる。総住宅数の13%に相当し、今後さらに増加することが予想される。放置空き家は景観や安全性を損なうだけでなく、不動産価値の下落を通じて経済全体にも悪影響を及ぼす。クラッソーネが代表理事企業を務める「全国空き家対策コンソーシアム」の試算では、5年間で約3.89兆円の損失になるという。 

 川口氏はこう語る。

「解体工事の市場は一見ニッチに見えるかもしれません。しかし、空き家問題が本格化するこれからは、誰もが向き合わざるを得ないテーマになります。マーケットサイズは想像以上に大きいのです」

 創業当初の需要は主に建て替えに伴う解体だったが、いまは「家じまい」需要が急増している。親世代が住んでいた住宅を相続した子ども世代が、住む予定もなく維持管理が難しいために解体を決断するケースが増えているのだ。

「社会課題に直結したニーズは、必ずしも華やかではありません。ですが、だからこそ本質的で強い。ニッチに見えても、実はマスマーケットにつながっていることが多いんです」

レガシー業界の課題に挑む

 解体業界には長らく構造的な課題があった。

 第一に、価格の不透明さである。同じ建物を解体するにも、見積もり額が業者によって大きく異なる。素人の施主にとって適正価格が分かりにくく、結果として不信感やトラブルが生じやすい。

 第二に、品質基準の曖昧さだ。法令遵守や安全対策にコストをかける業者と、最低限の対応しかしない業者が同列に比較され、価格競争に陥りやすい構造があった。

 クラッソーネはここに「透明化」という武器を持ち込んだ。複数社から見積もりを提示し、口コミや実績を可視化。工事会社には反社チェック、許可証の確認、風評調査を徹底。さらに、万一の工事トラブルを保証する仕組みも備えている。

「解体工事の発注経験がある人はほとんどいません。だからこそ、不安を払拭し、安心できる仕組みをつくることが最大の価値になる。そこにテクノロジーと仕組み化の余地が大きくありました」

自治体との連携──スタートアップが社会インフラになる道

 クラッソーネの大きな特徴は、自治体との積極的な連携だ。現在、152の自治体と協定を結び、横浜市・札幌市・神戸市など政令指定都市にも広がっている。

「多くの自治体には空き家相談窓口がありますが、実際に解体工事まで伴走する仕組みは整っていません。クラッソーネがその役割を担うことで、行政サービスを補完できるのです」

 自治体にとっても、放置空き家の解消は大きな課題。そこにスタートアップがテクノロジーとネットワークを提供することで、公共と民間の協働モデルが生まれた。これは他の社会課題領域の起業家にとっても示唆に富む事例だろう。

 プラットフォーム型ビジネスには「鶏と卵問題」がつきまとう。顧客がいなければ業者が集まらず、業者がいなければ顧客も集まらない。

 川口氏はこう振り返る。

「最初はとにかく一社一社、丁寧に口説いて登録してもらいました。業者さんからすれば『また変な仲介サービスかもしれない』という警戒も強かった。でも、実績と口コミが積み重なるにつれ、『違法業者と一緒に比較されたくないからこそ登録する』という動機が生まれてきたのです」

 登録業者数が増え、信頼できる施工事例が可視化されると、顧客の利用も増加。顧客が増えることでさらに業者の登録が加速する。こうしてネットワーク効果が回り始め、成長フェーズに入った。

 クラッソーネの挑戦からは、スタートアップ経営者にとって多くの学びが得られる。

(1)ニッチに見える市場を掘り下げよ
一見小さな市場に見えても、社会課題に直結していれば大きな成長ポテンシャルがある。

(2)レガシー業界の「不」を解消するDXは強い
不透明さや非効率をテクノロジーで可視化し、信頼を生み出すことで大きな付加価値を提供できる。

(3)自治体や既存プレイヤーを巻き込め
社会課題ビジネスは単独で広がりにくい。公共や地域プレイヤーと協働することで一気にスケールする。

(4)プラットフォームは“信頼の積み重ね”で回り出す
初期の登録者・利用者の信頼を勝ち取ることが、後のネットワーク効果につながる。

 川口氏は最後に、今後の展望についてこう語った。

「解体はゴールではなく、地域の再生のスタートです。更地になった土地をどう活用するか、建築や不動産、リノベーションへと広がっていく。その入口としてクラッソーネが機能することで、まち全体の循環が生まれると考えています。」

 解体という一見地味な領域を、社会課題の解決と事業成長の両輪で挑むクラッソーネ。そこには「スタートアップが社会インフラになる」という未来像が見えてくる。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

空き家900万件時代、解体をDXしインフラ創出…社会課題を巨大ビジネス市場へ

●この記事のポイント
・空き家問題が深刻化する中、解体業界にDXを導入し、効率化と透明性を高めた起業家の挑戦を描く。
・レガシー産業の課題を機会に変え、社会課題解決と事業成長を両立させる経営戦略が明らかになる。
・解体を「終わり」ではなく「まちの再生の起点」と捉える発想が、新しい市場創出のヒントとなる。

 全国で空き家が900万件を超え、将来的には「3軒に1軒が空き家になる」と予測される日本社会。空き家は防災や治安、景観、資産価値に深刻な影響を与える社会課題として注目されている。そのど真ん中で、解体工事領域にテクノロジーを持ち込み、業界の変革と社会課題の解決を両立させようとしているのが株式会社クラッソーネだ。

 同社は「解体工事の一括見積もりサービス」を軸に事業を展開し、これまで2200社以上の工事会社が登録。全国152自治体とも提携するなど、解体業界におけるDXの先駆けとなっている。創業者で代表取締役CEOの川口哲平氏に、事業を通じて見えてきた市場機会と経営の学びを聞いた。

●目次

創業の原点──「『街』の循環再生文化を育む」

 クラッソーネは2011年に創業された。当初は注文住宅やリフォーム事業も手がけていたが、2019年にエクイティ調達を実施し、解体工事領域に集中する方向へ大きく舵を切った。川口氏が掲げるビジョンは「『街』の循環再生文化を育む」。

「解体というと“壊すだけ”のネガティブなイメージがつきまといますが、実は資材の95%以上はリサイクルされています。解体は循環型社会の重要な起点であり、まちを次の世代につなぐための再生事業なんです」

 解体を「終わり」ではなく「始まり」として位置づけ直す。この視点が、クラッソーネの独自性を形作っている。

空き家問題は「ニッチに見えてマス」な市場

 現在、日本の空き家数は約900万件にのぼる。総住宅数の13%に相当し、今後さらに増加することが予想される。放置空き家は景観や安全性を損なうだけでなく、不動産価値の下落を通じて経済全体にも悪影響を及ぼす。クラッソーネが代表理事企業を務める「全国空き家対策コンソーシアム」の試算では、5年間で約3.89兆円の損失になるという。 

 川口氏はこう語る。

「解体工事の市場は一見ニッチに見えるかもしれません。しかし、空き家問題が本格化するこれからは、誰もが向き合わざるを得ないテーマになります。マーケットサイズは想像以上に大きいのです」

 創業当初の需要は主に建て替えに伴う解体だったが、いまは「家じまい」需要が急増している。親世代が住んでいた住宅を相続した子ども世代が、住む予定もなく維持管理が難しいために解体を決断するケースが増えているのだ。

「社会課題に直結したニーズは、必ずしも華やかではありません。ですが、だからこそ本質的で強い。ニッチに見えても、実はマスマーケットにつながっていることが多いんです」

レガシー業界の課題に挑む

 解体業界には長らく構造的な課題があった。

 第一に、価格の不透明さである。同じ建物を解体するにも、見積もり額が業者によって大きく異なる。素人の施主にとって適正価格が分かりにくく、結果として不信感やトラブルが生じやすい。

 第二に、品質基準の曖昧さだ。法令遵守や安全対策にコストをかける業者と、最低限の対応しかしない業者が同列に比較され、価格競争に陥りやすい構造があった。

 クラッソーネはここに「透明化」という武器を持ち込んだ。複数社から見積もりを提示し、口コミや実績を可視化。工事会社には反社チェック、許可証の確認、風評調査を徹底。さらに、万一の工事トラブルを保証する仕組みも備えている。

「解体工事の発注経験がある人はほとんどいません。だからこそ、不安を払拭し、安心できる仕組みをつくることが最大の価値になる。そこにテクノロジーと仕組み化の余地が大きくありました」

自治体との連携──スタートアップが社会インフラになる道

 クラッソーネの大きな特徴は、自治体との積極的な連携だ。現在、152の自治体と協定を結び、横浜市・札幌市・神戸市など政令指定都市にも広がっている。

「多くの自治体には空き家相談窓口がありますが、実際に解体工事まで伴走する仕組みは整っていません。クラッソーネがその役割を担うことで、行政サービスを補完できるのです」

 自治体にとっても、放置空き家の解消は大きな課題。そこにスタートアップがテクノロジーとネットワークを提供することで、公共と民間の協働モデルが生まれた。これは他の社会課題領域の起業家にとっても示唆に富む事例だろう。

 プラットフォーム型ビジネスには「鶏と卵問題」がつきまとう。顧客がいなければ業者が集まらず、業者がいなければ顧客も集まらない。

 川口氏はこう振り返る。

「最初はとにかく一社一社、丁寧に口説いて登録してもらいました。業者さんからすれば『また変な仲介サービスかもしれない』という警戒も強かった。でも、実績と口コミが積み重なるにつれ、『違法業者と一緒に比較されたくないからこそ登録する』という動機が生まれてきたのです」

 登録業者数が増え、信頼できる施工事例が可視化されると、顧客の利用も増加。顧客が増えることでさらに業者の登録が加速する。こうしてネットワーク効果が回り始め、成長フェーズに入った。

 クラッソーネの挑戦からは、スタートアップ経営者にとって多くの学びが得られる。

(1)ニッチに見える市場を掘り下げよ
一見小さな市場に見えても、社会課題に直結していれば大きな成長ポテンシャルがある。

(2)レガシー業界の「不」を解消するDXは強い
不透明さや非効率をテクノロジーで可視化し、信頼を生み出すことで大きな付加価値を提供できる。

(3)自治体や既存プレイヤーを巻き込め
社会課題ビジネスは単独で広がりにくい。公共や地域プレイヤーと協働することで一気にスケールする。

(4)プラットフォームは“信頼の積み重ね”で回り出す
初期の登録者・利用者の信頼を勝ち取ることが、後のネットワーク効果につながる。

 川口氏は最後に、今後の展望についてこう語った。

「解体はゴールではなく、地域の再生のスタートです。更地になった土地をどう活用するか、建築や不動産、リノベーションへと広がっていく。その入口としてクラッソーネが機能することで、まち全体の循環が生まれると考えています。」

 解体という一見地味な領域を、社会課題の解決と事業成長の両輪で挑むクラッソーネ。そこには「スタートアップが社会インフラになる」という未来像が見えてくる。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)