「AIがないと仕事が進まない」月1万7600時間の業務削減を見込むMIXIのAI活用

●この記事のポイント
・MIXIはChatGPT Enterpriseを全社導入し、月1万7600時間の業務削減を実現。AIを業務の共通基盤へ。
・法務対応や社内報、オンボーディングなど多様な領域で活用し、経営会議の質も大幅に向上。
・AIを効率化にとどめず文化変革や新規事業開発につなげ、競争優位と社員のキャリア形成を強化。

 生成AIの社会実装が加速するなかで、企業はどのようにAIを活用すべきかが問われている。SNSやエンタメ領域で知られる株式会社MIXIは、その問いに先駆的な答えを出しつつある。

 同社は2025年3月、ChatGPT Enterprise(エンタープライズ版ChatGPT)を全社導入。すでに月間で1万7600時間の業務削減を見込むなど、大きな成果を上げている。

 MIXIのAI推進をリードするのは、取締役・上級執行役員の村瀨龍馬氏だ。本稿では、同氏への取材をもとに、同社がどのようにAI活用を進め、どんな効果や文化的変化をもたらしているのかを掘り下げていく。

●目次

なぜChatGPT Enterpriseの導入に踏み切ったのか

 MIXIが生成AIの全社利用に踏み出したのは、2023年春にさかのぼる。まずは社員向けにChatGPT Plusの利用補助を行い、さらに自社開発の「Chat-M」という簡易的なLLMツールを導入した。

 しかしこの段階では、いくつかの課題が浮かび上がった。

 ・社員によって利用UIの慣れに差があり、浸透が進みにくい
 ・情報の取り扱い方が不明確で、セキュリティ面で不安が残る
 ・個人が得た知見を「横展開」できず、ノウハウが共有されない

 村瀬氏は語る。

「AIを使った本人は大きな効果を感じても、それを同僚に言葉で伝えるのは難しい。『AIは便利だよ』だけでは響かないんです。だからこそ、ワークフローや文化として定着させる仕組みが必要でした」

 そこで同社はAI委員会を立ち上げ、ルールや教育体制を整備したうえで、全社員が安心して利用できるChatGPT Enterpriseへの移行を決断したのだ。

複数AIを業務に応じて使い分ける

 導入したのはChatGPT Enterpriseだが、MIXIは単一ツールに依存していない。GoogleのGemini、AnthropicのClaude、さらにGoogle NotebookLMなども状況に応じて利用している。

 ・文章生成・要約・ワークフロー組込み → ChatGPT
 ・ソースコード生成 → Claude
 ・音声・ポッドキャスト風コンテンツ化 → NotebookLM

 つまり「用途に応じてベストなAIを選ぶ」方針をとっており、ChatGPTはその中核を担っている。

実際の活用領域

 MIXI社内でAIはどのように使われているのか。代表的な事例を挙げよう。

1. 法務対応の効率化
 契約関連のやりとりをAIが整理し、必要な手続きや承認フローを提示。
 従来は人に確認していた内容を、AIが自動で手順化してくれる。

2. 資料作成の効率化
 社内報の作成工数は最大50%削減。契約書ドラフトや会議資料も自動生成されることで、大幅な工数削減が実現している。

3. 新入社員オンボーディング
 社内制度や業務手順をAIに尋ねれば即座に回答が得られる。
 「今さら聞けないこと」もAIなら気軽に確認できるため、社員定着率の向上にも寄与している。

4. 経営会議の高度化
 経営会議でもAIが活躍している。
 各部署の最新データをAIが自動で取りまとめるため、会議は「事実確認の場」から「意思決定の場」へと進化。監督領域はAIに任せ、人間はより創造的な議論に集中できるようになった。

数字で見る効果

同社では毎月、AI活用による時間削減効果を各部門からレポートさせている。

 ・予算申請や問合せ対応業務のbot構築(1件あたりの所要時間を約50%短縮)
 ・発注書作成支援botの導入(発注書に関する法務相談件数を約70%削減)
 ・スタートアップ投資検討におけるレポート作成の自動化など、一部業務では80〜90%削減のケースも

 その積み重ねが「月1万7600時間削減」というインパクトにつながっている。

文化的変化:「AIがないと仕事にならない」

 業務効率化にとどまらず、AI導入は社内文化を大きく変えた。

 以前は「AIっぽい文章」を嫌う風潮もあったが、今では「長文メールはAIに要約させるのが当たり前」という状況に。社員同士の理解促進にもAIが介在するようになった。

 さらに、人事領域にも副次的な効果がある。社員はAIを使って目標設定や自己評価を言語化し、上司にアピールしやすくなった。結果として履歴書やキャリア形成にも活用できる仕組みが整いつつある。

 村瀬氏は次のように語る。

「AI活用を通じて、自分の市場価値を高められる。社員がそう実感できているのは非常にポジティブです」

教育とセキュリティ体制

 もちろん、全社導入にはリスクも伴う。MIXIは以下のような体制を整えた。

 ・禁止事項の明確化:個人情報や社外コラボ情報は投入不可
 ・専門部署によるチェック:法務・知財・セキュリティ・開発などがツールごとに利用可否を判断
 ・教育制度:eラーニングやGoogle/OpenAIと連携した研修を導入
 ・アンバサダー制度:各現場に推進担当を配置し、勉強会や「黙々会」で実践的に学習

 これにより、社員が安心してAIを活用できる環境を整えている。

今後の展望:「AIを共通言語にする」

 村瀬氏は今後の展望について、次のように語る。

「AIは一部の便利ツールではなく、会社を変革する共通言語です。AIを通じて部門間の壁を超え、情報透明性を高める。その延長線上に、新しいエンタメの創出や事業変革があると考えています」

 MIXIにとってAIは単なる業務効率化の手段ではない。組織の文化・働き方・経営の在り方を変革する力として位置付けられている。

 MIXIの事例から学べるのは、単にAIを導入するだけでは成果は出ないという点だ。

 ・ルールと教育体制を整備する
 ・部門横断で「共通言語」としてAIを位置付ける
 ・数値で効果を測定し、経営層と現場の双方にフィードバックする

 この3つを徹底することで、AIは「便利な補助ツール」から「企業変革のエンジン」へと進化する。

「AIがないと仕事が進まない」──村瀬氏が語った言葉は、決して誇張ではない。MIXIは生成AIを単なる効率化の手段にとどめず、経営・文化・個人キャリアのすべてをアップデートする仕組みへと昇華させた。

 AI活用に迷う企業にとって、その姿勢は大きなヒントとなるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

グーグル独禁法裁判、新たな競争の幕開けか…事業分割回避でもネット市場再編の兆し

 2025年10月、米連邦地裁が下した判断は、テック業界にとって大きな節目となった。米司法省が求めていたグーグルの「Chrome事業売却命令」を退け、事業分割を回避する内容だったからだ。検索エンジン市場での独占的地位を長年維持してきたグーグルに対する規制のあり方は、業界全体の競争の枠組みを左右する。だが、この判決は「グーグルの安泰」を意味するのか、それとも新たな競争の幕開けを告げるのか。

 テックジャーナリストでニューズフロントLLPパートナーの小久保重信氏は、「今回の判決そのものよりも、AIが市場構造に与える影響のほうが決定的」と強調する。本稿では小久保氏の分析を軸に、判決の背景、競争環境の変化、そして未来の展望を探る。

判決の読み方 ― グーグルは本当に「無傷」か

 判決を受け、「グーグルの競争優位は揺るがない」という見方と、「長期的には利益低下につながる」という見方が交錯している。小久保氏は次のように指摘する。

「現時点では“何の影響もない”といえるでしょう。グーグルは控訴の姿勢を示しており、法廷闘争は長期化します。今後数年にわたり、検索・広告事業が直ちに揺らぐとは考えにくいのです」

 一方で、判決は「将来のほころび」を示唆している。検索市場で圧倒的優位を誇るグーグルだが、生成AIの台頭によって、ユーザーが「検索結果に頼らない」行動様式を取り始めている。グーグルが直ちに経済的打撃を受けることはなくとも、AI競合の存在が中長期的に牙を剥く可能性があるのだ。

判決の背後にある政治的・経済的文脈

 今回の判決を「米国の産業戦略」と結びつける見方もある。もしグーグルが弱体化すれば、米国全体のAI産業の競争力も低下し、中国勢を利することになる。だが小久保氏は、対中戦略よりも「AI時代の国内競争構造」が焦点だったとみる。

「裁判所は、中国への対抗というより、米国内での検索市場の将来を考慮したはずです。AIが台頭する中で、グーグル一強体制が徐々に揺らいでいる。その現実を踏まえた判断といえるでしょう」

 つまり、米連邦地裁は「米国の国益」を守る意識を持ちながらも、AIがすでにグーグルの牙城を侵食し始めている事実を直視したのだ。

AIが変えるネット市場の力学

 小久保氏が強調するのは「今回の判決そのものではなく、AIの隆盛の影響」だ。AIは検索、広告、Eコマース、報道サイトへの集客など、ネット市場のあらゆる領域を変革しつつある。

 従来、グーグルの強みは膨大な検索データの独占にあった。しかし生成AIの進化は「検索という入口」を迂回させ、ユーザーが直接的にAIに答えを求める行動を加速させている。検索広告に依存してきたグーグルのビジネスモデルにとって、これは潜在的な脅威だ。

 さらに重要なのは「データ共有」の問題だ。もし他の企業や政府機関が検索データや行動ログを共有できる仕組みが整えば、AIサービスの質は急速に向上する。競争のカギは「どれだけ広範かつ多様なデータを扱えるか」に移りつつある。

市場競争の行方 ― データは共有されるのか

「データ共有」が新しい競争環境を形作るとすれば、その実効性をどう担保するかが最大の焦点だ。EUではすでに「デジタル市場法(DMA)」により、大手プラットフォーマーへの規制強化が進んでいる。米国でも同様の議論が加速すれば、グーグルは独占的データ保有という強みを削がれる可能性がある。

 しかし、データは単なる「量」だけではなく「質」も重要である。検索クエリ、ユーザー行動、購買履歴など、多層的なデータが統合されて初めて有効に活用できる。ここにグーグルの優位性は依然として残る。小久保氏も「競合がグーグルのデータに匹敵する資産を得られるかどうかが鍵」と語る。

日本企業にとっての教訓

 今回の判決は、日本企業にとっても示唆に富む。検索や広告市場における直接的な影響は限定的だが、AI時代の競争構造の変化はグローバルに波及する。特に、以下の2点は注視すべきだ。

・データ活用の民主化:巨大プラットフォームに依存せず、自社データやパートナーシップを通じて競争力を高める姿勢が不可欠になる。

・生成AIの活用による業務効率化:検索を前提とした旧来型の情報収集から、AIエージェントによる意思決定支援へ移行する流れは、企業経営そのものに直結する。

 つまり、日本企業も「AIをどう使うか」だけでなく、「AIを支えるデータをどう確保するか」が競争力を左右する時代に突入している。

今後の展望…グーグルの未来と市場の再編

 グーグルは控訴を続け、法廷闘争は長期化するだろう。その間に、生成AIを核とした新しい競争環境が加速度的に進展する。

 小久保氏は最後にこうまとめる。

「判決が意味するのは、グーグルが“これまでのように強い状態でいられなくなる”未来です。AIが市場を再定義する以上、今回の地裁判断は、その序章にすぎません」

 グーグルの独占禁止法訴訟は、単なる一企業の問題ではない。AIによって再編される世界のネット市場の象徴的事件であり、ビジネスの最前線にいるすべての人に「次の競争のルール」を考える契機を与えている。

 今回の判決は、グーグルが短期的に影響を免れたことを意味する。しかし、AIの進展とデータ共有の潮流は、いずれグーグルの優位性を削り取るかもしれない。むしろ注目すべきは「AIが市場支配を崩せるのか」という根本的な問いであり、世界の競争秩序は今まさに書き換えられつつある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小久保重信/ニューズフロントLLPパートナー)

スマホで歩ける商店街? ECの“当たり前”を覆した「楽天おうちで商店街」の新しいお買い物体験

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーが情報発信する連載が「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

今回は、2024年10月7日にローンチした、楽天グループ(以下「楽天」)と電通が共同で開発したデジタル商店街「おうちで商店街 Powered by Rakuten」(以下「おうちで商店街」)についてご紹介します。

自宅にいながら、まるで現実の商店街を歩いているような没入体験が楽しめる今回の取り組み。どのようなきっかけで始まり、どのような体験設計を盛り込んだのか。発案者であり、CXを含めた全体のクリエイティブディレクションを担当した小田健児氏、UI/UXの設計から実装をリードした菅原太郎氏に話を聞きました。

小田氏、菅原氏

(左から)【小田健児氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブプランナー
WOWのある表現から先端テクノロジーを活用した体験型のクリエイティブまで、時代の変化と課題に合わせて手口ニュートラルに幅広く対応。カンヌライオンズ審査員をはじめ、ACCグランプリ、ADFEST グランプリ、ONE SHOW ゴールドほか、国内外の主要な広告賞やアワードにて審査員経験多数。

【菅原太郎氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
エクスペリエンス・デザイナー
UX/UI領域を中心にデジタル・イベント・PRを掛け合わせ企業と社会をつなぐ体験の設計から実装まで数多く手掛ける。つくりながら考えるR&D思考でモックアップ/プロトタイプなどを通じて仮説・検証を繰り返し、人が動くCXクリエイティブを追求。ADFEST グランプリ、SPIKES ASIA シルバー、広告電通賞、ACC 特別賞、PRアワードグランプリなど受賞。
 

オンライン商店街で“楽しいお買い物体験”をつくる

 月刊CX:まずは、「おうちで商店街」とはどのような取り組みなのかを詳しく教えてください。

メイン

小田:「おうちで商店街」は、地域経済の活性化を目的に、“まるで商店街を歩くかのような、まったく新しい買い物体験をつくろう”という自主提案から始まったプロジェクトです。

スマホの画面をスクロールしながら楽天オリジナルの商店街を進んでいくと、各店舗の店長のコメントやおすすめ商品の情報を見られます。もちろん、そこで気に入った商品があれば商品ページに遷移して、その場で購入できます。「楽天市場」に出店している30店舗が実験的に参画しており、店構えや店員の表情を見ながらより親しみを持ってお買い物を楽しめる施策です。

菅原:商店街のビジュアルは、全国各地の商店街を参考にしながら、区画ごとにデザインを変えています。古くて味のあるものから、お祭り感があるものなど、商店街ならではの魅力を楽しんでもらいたいなと考えました。

商店街のビジュアル

また、奥にスクロールしていくと自転車や人力車、阿波おどりをする人々が通りを横切るといった遊び心のある仕掛けを盛り込んだこともポイントですね。ソーシャルゲームからヒントを得て、商店街を歩くワクワク感をカジュアルに伝えられるようにこだわりました。

月刊CX:そもそもこの企画が生まれたきっかけは何だったのでしょう。

小田:コロナ禍での体験が大きく影響しています。当時は私も含め、多くの人が外出を控えてずっと家にいながら悶々としていたと思います。その中で、日常品の買い物で外に出たときに、一番気軽で気分転換にもなり、気持ちがワクワクしたのが商店街でした。

商店街は、ただ商品を買うだけではなく、お店の人と話して何かをおすすめしてもらったり、歩いていたらたまたまイベントに出くわしたりと、偶発的な出会いが生まれる場所ですよね。なんなら、物を買わなくても楽しめる。

日本全国には1万2000を超える商店街があり、どの商店街もオリジナリティであふれているのが魅力です。もともと、私は旅行で全国津々浦々の商店街を回るなど、商店街への思いが人一倍強かったんですよ。

そういった背景もあり、コロナ禍で商店街が打撃を受けて弱っている様子を目にしたときに、この企画を思いついたのです。オンライン上に商店街をつくることができれば、商店街の価値や意義をより多くの人に伝えられますし、リアルの商店街の価値を、「おうちで商店街」を通して、より高められるのではないかと考えました。

月刊CX:そこで楽天とタッグを組んだというわけですね。

小田:ええ。コロナ禍が明けて、さまざまなところでオンライン商店街の企画書を社内の人に見せていたら、楽天を担当しているマーケターから「この企画を楽天さんに提案したい」と声をかけてもらって。すぐに先方にアポを取って自主提案で持ち込んだところ、非常に喜んでいただいて、翌週からプロジェクトがスタートしました。

菅原:「楽天市場」は「地方の店舗でもECの仕組みを使って世界中で戦えるようにしたい」という思いから生まれたサービスで、今回の企画とも非常に相性が良かったようです。

月刊CX:楽天と組んだからこそ実現できた企画でもあったのですね。

菅原:そうですね。「楽天市場」は店舗ごとのページが独特です。それぞれのお店の店主の方々が工夫を凝らし、そのお店ならではの個性あふれるビジュアルをつくっているのが特徴です。あのページ自体が店舗の個性や店主の人となりを表すものになっていますし、“楽しいお買い物体験”につながっていますよね。企画を通して、そういった楽天の強みを別の形で表現できたのではないかと思います。

また「おうちで商店街」に出店していただくお店選びなどは、楽天と全国の店舗との深いつながりを感じました。出店の交渉については大変なところもあるかもしれないと思っていたのですが、とてもスムーズに進みましたね。

通常のECでは苦戦しがちな新規顧客の獲得にも貢献!

月刊CX:「おうちで商店街」の反響はいかがでしたか。

小田:想像以上の大成功でした。「おうちで商店街」では、商品の購入に使えるクーポンを配布していたのですが、ローンチしてわずか2日で1万人分のクーポンが完売し、事前に掲げていた売り上げ目標もすぐに達成しました。クライアントの皆さまにも喜んでいただけましたし、私たちも非常にうれしかったです。

「おうちで商店街」のサイトを訪れた方からは、「普段のネットショッピングでは感じられない楽しさがあった」「実際にお店にも行ってみたい」と数々のお褒めの言葉をいただきました。まさに私たちが求めていたリアクションでしたね。

月刊CX:「おうちで商店街」の出店者からの声はありましたか。

菅原:新規のお客さまから特に大きな反響があったようで、非常に喜ばれていましたね。

今まで「楽天市場」では基本的にランキングや口コミから購入するお客さまやリピーターが多かったのですが、今回の取り組みでは初回購入率が半数以上と非常に高い数値をたたき出していました。EC業界ではリピートよりも新規顧客の獲得が難しいといわれており、業界的にもこの数値は異例です。出店していただいた店舗と新しいお客さまとの接点をつくることができてよかったなと思っています。

テーマは「単位時間あたりの豊かな体験」と「人の介在」

月刊CX:今回の「おうちで商店街」で、より良い買い物体験を提供するためにCX的にこだわったところを教えてください。

小田:今回は売り上げ最大化ではなく、買い物による「単位時間あたりの豊かな体験」「人の介在」を大きなテーマとして取り組んでいました。

例えば現在のECでは、ワンクリックでシームレスに買えるような合理的な購買が定石です。しかし、それでは滞在時間あたりのワクワク感や買い物に対する気持ちの高まりがそぎ落とされているように感じます。

一方で、商店街を歩いているときや、自分の記憶に残っている買い物の体験を振り返ると、そこには“人との関わり”があったと思います。そのため、今回の施策では店主の人となりを伝えるビジュアルと会話コメントにこだわりました。

店主の人となりを伝えるビジュアル
菅原:例えば、店主がお客さまに語りかける言葉は、本人にヒアリングしたコメントを編集して載せています。コメントの文字数に大きな差が生まれないように全体を調整したり、店主の人柄に合わせてフォントを調整したりしました。

これまでの仕事で培ってきた知見を生かせましたし、私たち電通が関わる意味があったなと感じていますね。ただワクワクさせるだけではなく、楽天というブランドに即した本質的な購買体験をつくることができたと自負しています。

月刊CX:サイト設計についてはいかがでしょうか。

菅原:「おうちで商店街」は、画面をスクロールして前に進んだり、ときには後ろに戻ったりして、商店街を歩いているように感じられる体験設計にしています。進むスピードもどれくらいがベストなのか、綿密な検証を重ねました。

オートとマニュアルのイメージ動画


またスクロールについて、今回はお客さま自身が操作する「マニュアル」と自動で進む「オート」の2種類を用意しました。自分で進む楽しさと、自動で動く様子を眺める楽しさの両方があったほうが、お客さまにとって親切ではないかと思ったのです。

そうした点も没入感を高める一助になったのではないかと。店舗同士の間隔やコメントが表示されるインターバルなども、訪れた人が心地よく感じるバランスを探りながら落とし込みました。

当たり前を問い直し、誰かの記憶に残るCXを

月刊CX:今回のプロジェクトを踏まえて、今後の展望を教えてください。

小田:ローンチ後に、今回は出店されていなかった店舗から「『おうちで商店街』に出店したい」というお声をいただきました。そういった声に応えていきたいですね。

月刊CX:最後に、おふたりが今後CX領域で挑戦したいことを教えてください。

小田:私は地球全体をバズらせるようなCXに挑戦したいです。例えば、双方向のインタラクションによる参加性や身体性は、顧客との結びつきをいっそう強固にすることができます。

自分が体験して受け取ったことは強く記憶に結びつきますし、インパクトも大きい。そうしたCXを自分の強みであるノンバーバルなクリエイティブを武器に、地球上の一人でも多くの人に伝えられたら、地球規模でさらに楽しい取り組みができるはずです。

菅原:視点を変えることで既存のものから新しい体験をつくるようなことをやっていきたいです。今回の施策では、ECが効率良く最短距離で買うことが是とされていることに対して、非合理的な部分をあえて取り入れることで新しいお買い物体験をつくれましたし、滞在時間が延びたり購買目的でなくても楽しんでもらえたり、新たな発見がありました。

今の“当たり前”を問い直して新しい体験を生み出し、誰かの記憶に残るようなものをつくっていきたいですね。


(編集後記)

今回は、2024年10月7日にローンチした、楽天と電通が共同で開発したデジタル商店街「おうちで商店街」についてお話を聞きました。

現実の商店街の価値を問い直し、オンラインで実装。そしてまた現実へエンパワーメントさせる今回の施策は、つくり手のこだわりと商店街への愛が詰まったものでもありました。また、楽天というクライアントの特性を存分に生かしていたことも印象的です。

今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

月刊CXロゴ
月刊CX編集部
電通CXCC 木幡 小池 大谷 奥村 古杉 イー 齋藤 小田 高草木 金坂
 
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ショートドラマはプロモーション手法として定着するか?

TikTokが発表した2024年上半期のトレンド大賞で大賞を、通期のトレンド大賞で特別賞を受賞したのが「ショートドラマ」でした。SNSのタイムラインにショートドラマが流れてきたときに、「ついつい手を止めて見てしまった」ことがある人も多いのではないでしょうか?

この潮流の中で、すでに多くの企業が自社の商品プロモーションにショートドラマを取り入れ始めています。電通グループのデジタル総合エージェンシーであるセプテーニも、早い時期からこの手法に着目し、数々のプロモーション活用事例を創出してきました。

■セプテーニによるショートドラマに関する連載(電通報)
https://dentsu-ho.com/booklets/633

 

本記事ではセプテーニでショートドラマの事業プロデュースとプランニングを担当する江村雄一と村城太一、セプテーニのショートドラマのパートナーであるGOKKOの村田一馬が、ショートドラマのさらなる可能性と、プロモーションで活用するためのカギ、今後の展望についてお伝えします。

<目次>
若年層にも圧倒的に“届く”、ショートドラマのリーチ力
ショートドラマをプロモーションで最大限に活用する2つの鍵
ショートドラマの「これから」~偶然の出会いを「価値」に変えるには

若年層にも圧倒的に“届く”、ショートドラマのリーチ力

ショートドラマの魅力は、その圧倒的なリーチ力にあります。質の高いコンテンツはオーガニックで100万回以上再生されることも珍しくありません。実際にセプテーニが過去に制作・公開したショートドラマの平均再生数は、1話あたり165万回にも上ります。

さらに、オーガニックでの再生は、アドブロックやYouTube Premiumなどの広告非表示設定をしているユーザーも含め、あらゆるプラットフォームでコンテンツを通じてプロモーションを届けられるという大きな強みを持っています。若年層のテレビ離れが進み、広告が届きにくくなっている現代において、コンテンツを通じて消費者との新しい接点を作り出せるのがショートドラマの大きなポイントなのです。

ショートドラマ#4_図版01
※インクリメンタルリーチ:既存の広告に加えて、新たな媒体に広告を出した際にリーチの増加分を示したもの。

一方で私たちセプテーニは、ショートドラマを単なるリーチ力のあるコンテンツとしてだけでなく、より普遍的なプロモーション手法として確立する必要があると考えています。

リーチ力にとどまらないショートドラマの「効能」を最大限に引き出し、広告効果を適切に数値化することで、そのプロモーション効果を飛躍的に高められるはずです。

ショートドラマをプロモーションで最大限に活用する2つの鍵

ショートドラマをプロモーションで最大限に活用するための鍵として、特に重要なポイントが2つあります。

  1. プロモーション全体を踏まえた上でのプランニング
  2. 適切な評価設計と施策評価

まずは1つ目のポイント、プランニングについて詳しく見ていきましょう。

ショートドラマ単体でもそのリーチ力による商品やサービスの認知向上が期待できます。しかし、並行してキャンペーンといった他の施策を行うなど、立体的な施策を設計することで、商品を認知したユーザーを「態度変容」まで導ける可能性が高くなります。

以前ご紹介した、日本航空(JAL)のショートドラマ施策事例は、ショートドラマとTikTokやX上でのキャンペーンを並走させることで、実際のCVにつながった好事例といえます。

■JALはなぜ縦型ショートドラマで成果を出せたのか? 1000万回再生の裏側
https://dentsu-ho.com/articles/9062
 

この“立体的なプランニング”の考え方は、コミュニケーションの側面はもちろん、メディアプランニングにおいても同様に重要です。例えば、下図のようにショートドラマ単体で実施した場合よりも、同じ時期にテレビCMとショートドラマを同時実施することで、両方に接触したユーザーのブランドリフト率が相乗的に作用していることが示されています。

ショートドラマ#4_図版02

このように、単にショートドラマの施策を実施するだけでなく、商品やサービスに応じて他の施策や複数のメディアを組み合わせるといった立体的なプランニングを設計することで、より大きな効果を期待することができるのです。

次に、2つ目のポイントとなる評価設計と施策評価について解説します。

ショートドラマの再生数やリーチ数が、プロモーションKPIにどれだけ貢献するのかを的確に評価するためには、事前の目標設計が必要です。これをしておくことで、クリエイティブや施策の評価を正確に行い、PDCAサイクルを効率的に回すことが可能になります。こうした手法より、クリエイティブの改善はもちろん、施策全体の設計を見直すことで、費用対効果を格段に向上させることができます。

以下は、セプテーニが提唱する評価設計とPDCAサイクルのイメージです。

ショート動画#4_図版03ショート動画#4_図版04

ショートドラマの「これから」~偶然の出会いを価値に変えるには

少し視野を広げてみます。数年前に「インフルエンサーマーケティング」が台頭し、企業主語ではないメッセージが消費者に受け入れられることで、多くの企業がその手法を取り入れました。それは一過性の流行に終わらず、今やプロモーション手法として定着しています。

ショートドラマもまた、かつてのインフルエンサーマーケティングと同様に、新しいプロモーション手法としてその存在感を示し始めています。今まさに、この手法がプロモーションのスタンダードとして定着するか、あるいは一時的なブームで終わるかの岐路に立っていると言えるでしょう。

しかし、消費者の広告離れが加速し、AIによってレコメンドがさらに最適化されていく世界において、ショートドラマが実現する「ついつい手を止めて見てしまう」ような、偶発的な商品やサービスとの出合いを提供する力は、今後ますます価値が上がっていくのではないでしょうか。

ショートドラマをプロモーション手法として「攻略」し、最大限に活用することができれば、それはプロモーションにおける強力な武器を一つ手に入れることに他なりません。

そのために私たちセプテーニは、ショートドラマのクリエイティブな側面だけでなく、戦略的なプランニングと効果的な評価という側面からもアプローチを進めています。セプテーニおよび電通グループ各社では、縦型ショートドラマの制作からマーケティング活用まで一貫してサポートしていますので、ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

【ショートドラマの活用にご興味がある方はこちら】
Email:sss@septeni.co.jp 担当:村城
 

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高市早苗政権でAI政策はどうなる?世界は規制強化の傾向、日本は推進か規制か

●この記事のポイント
・高市早苗政権が誕生すれば、日本のAI政策は規制より推進に傾く可能性が高いと見られている。
・世界では欧米が包括的規制を進める一方、日本は経済安全保障の観点から対中国戦略を重視する方向へ。
・日本企業には成長機会が広がるが、国際基準やリスク対応を欠けば長期的競争力を失う懸念も残る。

 新しい自民党総裁に高市早苗・前経済安保相が選ばれた。衆参ともに少数与党ということもあり、一筋縄にはいかないとの指摘もあるものの、新首相に指名される公算が高く、10月15日には日本初の女性首相になるとみられている。

 高市氏が新たに首相となる可能性が高まるなか、日本のAI政策がどのように転換するかという点も注目されている。世界では欧州連合(EU)のAI法案をはじめ、米国も安全性や透明性を確保する規制の動きを強めている。一方で日本はこれまで「過度な規制よりも産業振興を優先する」という立場を取ってきた。高市政権が誕生すれば、その傾向がさらに鮮明になるとの見方が強まっている。

 本稿では、世界的なAI規制の潮流と日本の立ち位置を整理しつつ、高市政権下でのAI政策がどのように展開し得るのかを、専門家のコメントを交えながら展望する。

世界のAI規制情勢:安全性と倫理を重視する流れ

 欧州連合(EU)は2024年に「AI法案(AI Act)」を可決し、世界で初めて包括的なAI規制枠組みを確立した。これはAIをリスクベースで分類し、高リスク分野に厳しい透明性・説明責任を課すものだ。例えば自動運転や医療AIは「高リスク」とされ、利用者への説明義務や第三者検証が必須となる。

 米国では、バイデン政権が2023年に「AI権利章典(Blueprint for an AI Bill of Rights)」を発表し、公平性や説明責任を強調。さらに2024年には大手テック企業に自主的なセーフティ基準を導入させる動きを進めた。欧州のような法制化には慎重だが、国家安全保障や軍事用途では規制を強化している。

 中国は国家AI戦略の下で積極的に研究開発を推進する一方、生成AIの利用に関しては「内容の健全性」を名目に厳格な統制を行っている。国内で提供されるAIサービスには登録制や検閲が課され、政治的に不適切な表現は排除される仕組みが敷かれている。

 こうした世界の動向を総合すると、「AIの経済的メリットを享受しつつ、リスクを抑えるための規制」が共通の課題となっていることがわかる。

日本の現状は規制より支援を優先

 日本政府はこれまで、AI規制において欧米のような包括的な法制度を持たず、事業者による自主規制やガイドライン整備にとどめてきた。背景には、AI人材不足や研究開発投資の遅れがあり、「規制よりまずは競争力の確保を優先すべき」との危機感がある。経済産業省や内閣府はAI活用を推進する支援策を矢継ぎ早に打ち出してきたが、国際的には「規制が遅れている」との批判も根強い。

 明治大学専門職大学院の湯淺墾道教授は、高市政権下でのAI政策について次のように指摘する。

「高市政権に代わって、AIというのは規制のほうに進むのか、それとも推進のほうに進むのかというと、やっぱり推進のほうに進む可能性が高いでしょう。高市さんの持論である経済安全保障やスパイ防止法の文脈から見ると、むしろ中国への対抗という方向でAI政策が組み込まれていくのではないかと思います」

 つまり、日本独自の規制強化ではなく、「対中国戦略の一環としてのAI推進」が軸になる可能性が高い。湯淺教授は続けて次のように述べている。

「例えば日本国内で中国製のAIサービスや製品の使用を制限する。公的部門から排除したり、セキュリティクリアランスを強化して中国人技術者や留学生を研究現場から遠ざけるといった動きはあり得ます」

 実際、米国ではすでに政府機関で中国製のIT機器やアプリの利用を禁止しており、日本も同様の道をたどる可能性が高い。特にAI関連システムに中国製が含まれることは、情報漏洩やスパイ活動への懸念を招くため、まずは行政システムや防衛関連で排除が進むとみられる。

 湯淺教授が指摘するように、研究現場においても「経済安全保障」の名の下にセキュリティクリアランスが強化され、中国人研究者や技術者の参加が制限される可能性がある。これは人材流動性を抑制する一方で、日本国内の研究力を高める契機ともなり得る。

 さらに、AI関連技術の輸出規制が導入されることで、中国への技術流出を防ぎつつ、日本企業には政府の支援を伴う開発投資が集中する可能性がある。

日本企業へのインパクト

 高市政権がAI推進に舵を切れば、日本企業にとっては大きな成長機会となる。特に生成AI、半導体、クラウド基盤などの分野で研究開発支援が強化される可能性が高い。

 一方で、国内規制が緩やかなままでは、個人情報流出や著作権侵害といったリスク対応が不十分になる懸念もある。世界市場で競争力を確保するには、推進と規制のバランスが欠かせない。

 欧州や米国が規制を強めるなか、日本が「推進一辺倒」に見えると、国際協調から孤立するリスクもある。日本企業がグローバル市場で取引する上で、国際基準に適合したAI倫理やガバナンスが求められることは避けられない。

 高市政権下で日本が目指すべきは、単なる規制緩和や支援の拡大ではなく、「支援型規制」というバランスモデルだろう。すなわち、研究開発と産業競争力を後押ししつつ、安全性や倫理を担保する最低限の規制を整備するアプローチである。

 湯淺教授の指摘する「対中国戦略」の要素は今後も色濃く反映されるだろうが、それに加えて国際社会との足並みを揃える取り組みがなければ、日本のAI産業は孤立する可能性がある。

 世界がAI規制を強化する流れの中で、日本は高市政権の下、「推進」に重きを置く可能性が高い。ただし、それは単なる緩和ではなく、経済安全保障や対中国戦略の一環としての色合いを帯びることになるだろう。日本企業にとっては追い風となるが、国際基準との整合性やリスク対応を欠いたままでは、長期的な成長は難しい。

 いま日本に求められるのは、AIを国家戦略の中核に据えつつ、国際的な規範形成にも積極的に関与する姿勢である。高市政権がその舵取りをどう行うか、日本の未来を左右する重要な局面に差し掛かっている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

2050年、カーボンニュートラルは幻想か現実か ―― 高校生が投げた鋭い問い

ある日、Green Carbon株式会社(以下、GC)に届いた1通のメール。

内容は「『カーボンプライシングによる脱炭素』という気候変動対策の中核的政策について、経済効果と環境インパクトの両面から実証的な研究に取り組んでいるので、話を聞きたい」というものでした。

大人でも専門知識がないと難しいほどの質問。その差出人は、なんと高校1年生だったのです。

今の環境に対する取り組みが、ダイレクトに影響する高校生世代は今、何を考え、取り組もうとしているのか。GCと高校生らのインタビュー現場に潜入取材しました。

高校生の口から飛び出した、大人顔負けの専門的な問い

取材当日、最初に口を開いたのは高校生たち。

―― GCのAWD(間断灌漑、水田の水管理方法)技術やバイオ炭による温暖化ガス削減の測定にあたって、国際基準モデルだけでなく現場でのデータ活用が重要だと思います。貴社はモデルとデータの誤差をどう修正して、どのようにクレジットを発行していますか。

国際基準と実地データの整合性に踏み込む鋭い質問に、GC海外事業部 マネージャー横山治生氏は驚きながらも、丁寧に答えます。

横山「AWDではチャンバー(温室効果ガスを測定する装置)を水田に配置し、ガスを直接採集して成分を分析します。カーボンクレジット認証機関が承認する方法論に従い、現地の大学や農家さんの協力を得て公平に評価しています。

バイオ炭は、これまで放置されるか焼却されていた農業残渣(もみがらなど)を無酸素で熱分解して作ります。二酸化炭素を大気に出さず、炭素を炭に固定する技術です。その炭素固定量については大学に依頼し、成分分析と評価を受けています。第三者の研究機関が関与することで、恣意的な操作はできません」

背景にある高校生たちの探究心

なぜ高校1年生がこれほど高度な問いを投げかけられるのか。

彼らは神奈川県相模中等教育学校に在籍する4年生(高校1年に相当)。探究学習で「脱炭素」をテーマに研究し、日本経済新聞社主催の金融・経済学習コンテスト「日経STOCKリーグ」に参加しているそうだ。

高校生たちは、学校での環境に対する学びや問題意識についてこう語ります。

「環境についての調べ学習の機会が多く、問題意識は持っています。ただ、日常で、環境に優しい商品を選ぶかどうかなど、環境意識を生活に反映させるか否かは人それぞれだと思います」

「学校で環境の話題を提示される機会はありますが、社会が本当に危機感を持って早急に対応をしているかといえば、実感できない部分があります」

「委員会を通じて節電を意識することがあります。また運動部では、外での活動の際に地球温暖化の話題が出ることもあり、ニュースなどを見てそれを実感しています」

環境以外にも、興味の幅は広い。

「AIなどのテクノロジーの進歩に興味があります」

「私は量子コンピューターにすごく興味を持っていて、学校では疑問が解決できず、自分で大学の先生に聞きに行ったこともあります」

社会の動きと好奇心、そして問題意識を携え、彼らはカーボンクレジットの現場で起きている生の話を聞きたいとGCを訪れていました。

次々と繰り出される専門的な質問

高校生たちは、さらに踏み込んだ質問を続けます。

――植物のゲノム情報の研究開発で、炭素の固定能力を高めるアプローチもあると思いますが、いかがですか。

研究の最前線に踏み込む問いに、広報室 室長である井家良輔氏が応じます。

井家「社外秘の部分もありますが、植物のゲノム編集については長期的視野での研究を進めています。

一方で、当社で今一番進んでいるのが微生物の研究です。メタンガスを抑制する新種の微生物をスクリーニングし、それを稲に付与することでCO2の削減量を増やし、より多くのカーボンクレジットを作ることを目指しています。なぜ水田でCO2が出るのかと言えば、稲そのものではなく、水田の生成菌と呼ばれる菌によるもの。当社の研究はこれを抑制する事に焦点を当て、研究開発の分野からも差別化を図ろうと考えてます」

――バイオ炭に関して、炭素の固定効果は数百年ほど続くと言われていますが、土壌のPHや微生物の分解速度、降水パターンによって変わると思います。貴社はそうした環境変数をどうモデルに組み込み、クレジットの信頼性を確保していますか。

横山「観点は2つあります。Jクレジットではバイオ炭の方法が認められていますが、排出量の算定は排出係数のように定められており、数値はあらかじめ決まっています。

例えば間伐材を使う場合、伐採で出た枝を炭にして農地にまくと窒素量が減り、その差分がクレジットとして認められます。つまり『何をどれだけ燃やし、どのくらい撒けばどのくらい削減できるか』は制度上の前提として定められているのです。当社は基本的に第三者機関に委託して公平な評価を得るようにしています。

他社では、バイオ炭に微生物を入れて、高機能バイオ炭のような形にして使うところもあります。今後は既存のJクレジット技術を最大化する方法も出てくるかもしれません」

高校生が問う、Green Carbonの展望

――貴社が事業として取り組むプロジェクトはどのような視点で決めていますか。

横山「GCの大前提のビジョンは『生命の力で地球を救う』です。機械を作ってCO2をどんどん吸収する、というようなことではなく、自然由来のものを活用して脱炭素を進めていきます。

ビジネスとしては収益性も大事です。水田のプロジェクトは、大規模な初期投資を必要とせず、農家さんに水の管理方法を指導することで進められるため、事業としてはやりやすいです。

一方でバイオ炭のプロジェクトは初期投資がかかりますが、バイオ炭とバイオオイルを有機肥料や土壌改良材として販売でき、回収も早い。クレジット量は少ないけど収益性は高いのです。さらに農家のコスト削減やN2O削減、米の品質向上にもつながる。農業全体の振興にどう貢献できるかというのも重要な視点です」

―― GCの一番の強みは何ですか。

井家「勿論、海外展開スピードやカーボンクレジットの創出規模日本No.1の強みはありますが、“立体性”だと思います。ネイチャーベースのカーボンクレジット全般を扱える技術と実績、植物や微生物の研究開発、国内外33大学や研究機関との連携、衛星データとの連携、クレジット創出のDX化など、さまざまな要素を組み合わせて事業を立体的に運営しています。それこそがGCの唯一無二であり、強さですね。

目指している世界観は楽天さんに似ているかもしれません。楽天さんが、通信や電気、ECなどで楽天経済圏を作っているように、私たちもカーボンクレジットを中心に、“GC経済圏”を構築したいと考えています。今後は取引所、金融、人材派遣、コンサルティングなど、さまざまな領域に派生していきます」

2050年、カーボンニュートラルは実現できるのか

GCからの質問も続く。

――数ある企業の中から、なぜGCに注目してくれたのでしょうか。

高校生「生成AIを使って関連する企業を調べる中で、自分たちのテーマに最もマッチしていると感じたのがGCでした。先ほども“立体性”とお話されていましたが、さまざまなプロジェクトを手がけているので、何でも質問にお答えいただけるだろうと思いました。『生命の力で地球を救う』というスローガンにも惹かれました」

さらに、高校生とGCの会話は、今から25年後の未来にまで及んでいく。

―― 日本は2050年までにカーボンニュートラルを実現していくと表明していますが、実現に向けて順調に進んでいるという話はあまり聞きません。実現には、今後どのようなことが必要なのでしょうか?

難しい問いに、横山氏が少し考えながら慎重に答えます。

横山「難しいですね。GCとしての目線でいえば、GXを加速させ、カーボンクレジットの需要を高めていく。それによってカーボンニュートラルに近づけていくというのが、ビジネス上では理想的ではあります」

井家氏も続く。

井家「一方で、政府や国、そして環境に対する世界的な動きは不可欠です。『脱炭素への取り組みはやらなければいけない』という世界観に変わりつつある今、それをさらに加速させる必要はあると思います」

横山「あとは消費者の意識を高めていくことですね。環境配慮型の商品を選ぶ動きが広がれば、企業は必ず対応せざるを得なくなる。就職活動でも『環境に配慮している企業を選ぶ』流れができれば、大きなムーブメントが生まれます。

中高生の皆さんの世代にかかっているところも大きいですよね。2050年にカーボンニュートラルを達成できなければ、気候変動はさらに加速すると言われています。その未来を生き抜くのは、まさに僕らも含めたみなさんの世代です。だからこそ環境に配慮していくという価値観を持つことが重要です。

そして今回のように、高校生がカーボンクレジットを真剣に調査し、発表すること自体が社会を動かす大きな意義を持つと思います」

2050年を見据えて、カーボンニュートラルへの挑戦はすでに始まっています。Green Carbonのように、科学とビジネスの力で脱炭素を進める企業が現れているのは、その証。

未来世代の真剣な声と、スタートアップの挑戦。両者の努力に、私たち大人社会と消費者がどう応えるのか――。

未来は、まさに私たちの「これから」にかかっています。


取材時の様子

※本稿はPR記事です。

高利回りだけじゃない、ドバイ不動産が資産家を惹きつける本当の魅力…弁護士が選んだ海外投資先

●この記事のポイント
・税制優遇や人口増加を背景に、ドバイ不動産が投資先・移住先として注目を集める。
・国際弁護士が、経験を活かし、透明で安全な取引を実現する海外不動産ビジネスへ取り組んでいる。
・海外進出では人脈づくりが成功の鍵。現地でのつながりが新たなチャンスを生む。

「ドバイ不動産」と聞くと、派手な高層ビル群や高利回りの投資対象を思い浮かべる人は多いだろう。しかし実際に参入する際には、法規制・取引の信頼性・現地文化など多くの壁がある。

 そのなかで、弁護士資格を持ち、暗号資産や海外ビジネスに精通する人物が日本人投資家のための“安全なゲートウェイ”を築いている。ドバイで不動産事業を展開するEminence Luxe CEO・森和孝氏に、事業の背景と投資家にとってのドバイの可能性を聞いた。

弁護士から投資家、そしてドバイ不動産へ

 森氏は2010年に日本で弁護士登録し、2016年から移住先のシンガポールを拠点に弁護士業務を展開。2021年後半にはドバイへ渡り、現地での法律業務を担うなかで不動産投資に出合った。

「もともとエンジェル投資をしていて、ドバイの不動産も面白いと感じました。現地で信頼できるエージェントと出会い、一緒に会社を立ち上げたのがEminence Luxeの始まりです」

 弁護士業務を続けつつ、不動産は“二つ目の本業”。自身も投資家として物件を購入し、その経験を顧客へのサポートに生かしている。

 ドバイ不動産市場には魅力がある一方で、規制を無視した取引やグレーな慣習も少なくない。

「例えば仮想通貨での決済を独自に処理する業者や、広告規制を守らない業者もあります。私は弁護士として法的にクリアな取引に徹し、淘汰(とうた)の中で信頼を勝ち取る戦略を取っています」

 契約書の精査やセカンダリー取引でのトラブル回避など、弁護士としての専門性が大きな強みになっている。特に暗号資産での不動産購入に対応できる点は、ドバイでもほぼ唯一の存在だ。

 森氏が重視するのは、購入後のサポートだ。

「多くの業者は売ったら終わりで、賃貸管理や転売、支払いが滞ったケースまで私のところに相談が集中します。私たちはチームを組んで賃貸や転売をサポートし、場合によっては私自身が物件を引き受けることもあります」

 購入から賃貸・転売、移住に関わるビザ取得や法人設立まで、法務・実務を一括で支援できる体制は、スタートアップ経営者や投資家にとって大きな安心材料だ。

ドバイ不動産の投資妙味

 ドバイ不動産の魅力は、税制と成長ポテンシャルにある。

 ・キャピタルゲイン税・所得税・固定資産税なし
 ・過去数年で年10%以上の値上がり実績
 ・賃貸利回りは7〜8%を狙える水準

 さらに人口増加が政策的に支えられており、毎年10万人以上が流入。東南アジアの主要都市が人口減少に転じる中、2035年頃までは堅調な需要が見込まれる。

「値上がり期待と安定的な賃貸利回りを両立できる点で、ドバイはポートフォリオのなかでも独自の位置づけになる」と森氏は語る。

 投資先として注目を集める一方、盲点もある。

 空室リスク:夏場は人口が減少。ただし年間払い家賃が主流のため平準化可能。
 外国人依存:人口の92%が外国人。政治的に不確実性をはらむ。
 セカンダリー取引リスク:契約条件の誤解で紛争に発展しやすい。

「政治リスクや戦争リスクは日本より低いほど。ただ、外国人依存の構造は独特のリスクとして見ておく必要があります」

 Eminence Luxeの顧客は経営者やエグジット経験者が中心。医師の購入も多い。当初は資産運用目的が大半だったが、近年は「移住・事業展開」を目的とするケースが増えている。

「寿司店が日本の倍の単価で成立するように、ビジネスチャンスを求めて移住する人が増えています。資産運用から事業展開へ、投資目的はシフトしています」。

弁護士と経営者、二つの顔をどう両立するか

「弁護士時代からビジネス感覚が強く、暗号資産やスタートアップ支援で自然に投資家としても動いていました。不動産も同じ文脈で、弁護士の知見を活かして業界を支える。両立というより、根っこは一つです」

 顧客の契約書作成やビザ取得、法人設立まで一気通貫で支援できるのも、弁護士経験と投資家経験が交差しているからこそ可能なことだ。

 森氏が強調するのは「つながり」の重要性だ。

「ドバイやシンガポールに来て失敗する人は、オフィスにこもって外に出ない人。言語に不安があっても、交流を重ねればビジネスチャンスは広がります。特にドバイは政府や大企業と仕事をしやすい環境が整っている」

 自身も現地政府と連携するスタートアップに投資しており、起業家にとっての可能性を肌で感じている。また、森氏は、日本とドバイの架け橋となるべく、さまざまな活動を展開している。先月には、日系起業家約400名を集める過去最大規模のイベントの実行委員長を務めて大成功を収めた(参考記事https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000158381.html)。

「海外進出を考えるなら、最初のアクセスポイントをどう作るかが最大のカギです。ドバイは日本に比べて過度な競争社会で、油断をすればすぐに騙されます。安心してビジネスに専念できる環境整備が私の使命と考えています」

 ドバイ不動産は、投資利回りや人口動態に支えられた成長市場であると同時に、法的リスクや取引上の盲点も多い。そのなかで、弁護士であり投資家でもある森氏が提供する「合法性」と「アフターフォロー」は、日本人投資家にとって安心して参入できる希少なゲートウェイだ。

スタートアップ経営者や投資家にとって、資産形成だけでなく新規事業の舞台としてのドバイは、今後ますます無視できない存在となるだろう。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

“Possibilism(ポシビリズム)”~AI時代のリテール・コマースの新たな可能性は、米国ではなくAPACから(後編)

2025年も、はや終盤戦ですが、「250年」「80年」「60年」、これらの数字それぞれは何の区切り・節目なのか、皆さまはお分かりでしょうか?

米国は、来る2026年7月4日に「建国250周年」という大きな節目を迎えます。それに伴い米国各地で本年夏から2026年初頭にかけ、新たなランドマークの誕生や世界的イベントの開催が相次ぐそうです。また、日本人にとっては「戦後80年」。かつて高度経済成長を経て「世界第2位の経済大国」へと成長した日本も、現在は世界のGDP総額に占める割合が、日本:日本以外のアジア全体で1:7。アジアから日本への関心は、昨今急速に低くなってきてもいるそうです。最後に、シンガポールは1965年8月9日にマレーシアから独立し今年で建国60周年。「SG60」を迎える特別な節目の年にあたります。2026年には日本とは外交関係樹立60周年でもあり、「Co-imagine, Co-create, Co-evolve/共想、共働、共進」というテーマのもとで各種交流事業が実施されるとのこと。

そんな、さまざまな節目となる今年。筆者がNRF Retail's Big Show(以下、NRF)視察を通してみてきた上記の国々の社会環境を、定番となった?!4通フレームワークで比較すると下記のように整理できます。

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米国・台湾・シンガポール・マレーシアの消費社会比較(「4通」視点から)

前編でお伝えした通り、リテール・コマース領域ではいま、米国の超大手グローバル企業の先進的なリテールDXよりも、APACエリアの「ポシビリティ・ポテンシャル」に注目が集まっています。後編のレポートでは、昨年11月以降に訪れる機会を得た、台湾・シンガポール・マレーシアの3カ国における、店舗視察を紹介しながら、節目を迎えたこれらの国々におけるリテール・コマース環境をコンパクトにお届けします。

(1)台湾の店舗視察

無数の専門店や伝統的な市場を中核に、それらを取り巻く形で「4大CVSチェーン」が起点となって発展した、超高密度・小商圏・リテール(実店舗)大国。特に医食同源の文化を色濃く反映してか、漢方・乾物の専門店が健在で、医療・美容カテゴリーへの意識が比較的高いと言えることが特徴です。

①CVS:Hi-Life(萊爾富便利商店) 
imageセブン‐イレブン、ファミリーマート、OKマートと4大チェーンの一角を形成する台湾発祥のCVSチェーン。店内に休憩室(現在のイートインコーナー)を設けたり、コーヒーの寄杯(数杯分を先払いすると割引になり、次回以降はレシートを見せるとコーヒーを受け取れる制度)を開始したり、4℃生鮮食品を扱うなど、彼らが始めたサービスも多い。

➁ブランド旗艦店:DAYLILY(デイリリー)/台湾漢方 
image台湾では、迪化街(てきかがい)と呼ばれるような茶葉、漢方薬、乾物、布地等を取り扱う昔ながらの問屋街が有名だが、スタンド・アローンの調剤漢方薬局のようなお店も多い。その中でもD2Cを起点に学生時代の同窓である台湾人・日本人の共同経営により立ち上げられた台湾漢方ブランドDAYLILYでは温故知新(台湾漢方らしいストアインテリアを、スタイリッシュ・モダンにアレンジ)×和洋折衷(日本人デザイナーを起用、パッケージ・カラーを日本人にも受け入れられるようポップに)な品ぞろえで、ファミリービジネスならではの温かいホスピタリティが人気。

➂スーパーマーケット(SM):PX Mart(全聯福利中心) image台湾コングロマリット潤泰グループと仏企業の合弁によって運営されていたRT Mart(大潤發)を、全聯が2025年8月に買収完了。日本の流通小売業に明るく、台湾に日本的CVS業態の定着を成功させた徐氏のリーダーシップの下、台湾全土に及ぶスケールとネットワークを生かしてコロナ期に急速なリテールDXを推進した。名実ともに台湾№1リテーラーとなっている。

(2)シンガポールの店舗視察

マレーシアから、中華系民族が分離独立を認められ今年で60年。急速な近代化も相まって熟成されたリテール・コマース環境は、“SIN-Retail”とも言うべき独自の発展を遂げています。その一翼は、日本の百貨店や新興勢力のDON DON DONKI、豪州企業などによっても担われています。

①ブランド旗艦店:BACHA COFFEE/コーヒー
image1910年にモロッコのマラケシュにあるダール・エル・バシャ宮殿内に創立され、ルーズベルト大統領やチャップリンなども出入りした伝説のカフェへのオマージュとして、アラビカ種のみを取り扱うハイエンドコーヒーブランド。紅茶で有名なTWGブランドを擁するV3グルメグループのタハ・ブクティブCEOが2019年にプロデュース。シンガポールを起点に世界展開しており、2025年銀座にも旗艦店オープン。

➁モール:Raffles City(LUMINE)iamge2024年8月26日にオープン。日本から海外へ、グローバルで初となる旗艦店としてショップインショップ形式で、セレクトショップブランド群を筆頭に、日本の独自性の高いファッション文化や食文化を扱うセレクトショップブランド群を筆頭に、クラフトマンシップが光る日本各地の伝統工芸品が置かれている。東南アジア初上陸のBLUE BOTTLE COFFEE店舗もテナント格納。

➂ディスカウントストア:DON DON DONKIimage2017年にシンガポール初上陸し、「24時間営業」という利便性を武器にローカライズ。「マルシェ」と呼ばれる飲食スペースを併設し、買い物と食事を同時に楽しめる点もシンガポールでは差別化ポイントとなった。独自のサプライチェーンによりユニークな商品バラエティが豊富に取りそろえられ、「ジャパンブランド・スペシャリティストア」としてのポジショニングを明確に打ち出す。

(3)マレーシアの店舗視察

“メガ・モール・カルチャー”がけん引する消費社会・経済。高温多湿な気候の影響もあり、暑さをエコノミカル&エコロジカルにしのぐため、お買い物以上に涼みにお店へ来る、“クールシェア”感覚の来店客が多数。マレー人がリードしつつも、多民族・複数の宗教の中で成熟された“マイルド・ハラル”にあって、バラエティ豊かな売り場や寛容なお買い物環境が特徴となっています。

①ディスカウントストア:AEON BIGimageイオンがマレーシアで展開する食品を、重点強化したディスカウントストアであり、カルフール(仏)のマレーシア事業を買収して2012年にローンチ。日用品やホームファッションまでワンストップショッピングが可能な大型店で、トップバリュなどのPBや現地アレンジした寿司が人気のデリカなどがキラーアイテム。昨今は都市部から郊外店舗に注力。

➁モール:IOI City Mall 
imageプトラジャヤ地区にあるマレーシアで最大級のモール。映画館やスケートリンク、ゴーカート、屋内テーマパーク「District 21」などの娯楽施設もあり、ゴルフ場も控えるリゾートシティとして、大規模開発の現地成功事例(居住棟も伴った開発はAPAC全域で流行している)。イオン店舗や高級ブランドショップも入居、旅行者~食事を楽しむ地元の人々まで多様な顧客層を多数吸引。

➂グロッサリーストア:JAYA GROCER image2007年創業、マレーシアで50店舗ほど展開されている現地で最も勢いのある高級グロッサリーストア。宅配事業&小売り分野参入を企図したGrabが2021年12月に買収。ハラル対応はもちろん、生鮮食品や日用品に加え、日本食材専用コーナーを設け、在マレーシア日本人の間でも利用頻度が高い。

韓国・フィリピン・タイ・インドネシアにおける「Commerce×Culture」

フィールドワークを実施できた台湾・シンガポール・マレーシアの3カ国以外にも、今回コンベンションにて登壇したAPACを代表する4カ国のトップリテーラー幹部によるキーノートから読み解くと、韓国・フィリピン・タイ・インドネシアにおける「Commerce×Culture」は以下のように整理できます。

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日本のリテール・コマース環境への示唆

いかがだったでしょうか?概観してきたこれら“7カ国”の中からシンガポール・マレーシアを引き合いに出しながら、APACの中では最も独自性があると言っても過言ではない日本のリテール・コマース環境への示唆を4つお伝えします。

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(左上・左下)シンガポール:マックスウェル・ホーカー(屋台街)とラッフルズホテル・ロングバー(右上・右下)マレーシア:イオンモール IOI CITY Mallのノンハラル売り場
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(左上・左下)シンガポール:Grabアプリの画面UI(右上・右下)マレーシア:タクシー内のMAP画面はGoogleマップと、マレーシア独自のMyCartoGo(マイカルトゴー)
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(左上・左下)シンガポール:オープンからまだ年数の浅い、TANGLIN MALL(右上・右下)マレーシア:クアラルンプール最大級のTHE GARDENS MALL 内、イオン店舗の大型サイネージ付きタッチパネル
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(左上・左下)シンガポール:DON DON DONKIのサントリー洋酒群の配架(右上・右下)マレーシア:甘い物好きの現地が好むCHOYAの梅酒のサイネージはpublikaモールにて。

最後に、数年前まで大手流通小売業のAPAC拠点を統括されていた方の所感をお伝えします。

“シンガポールは小売業とデジタルの進化だけでなく、生活スタイルも日進月歩で進んでいるなという印象を受けました。同時にマレーシアでは、生き残るための施策を国主導&民活で確実にプロセス管理できているのが強いと思いました。

日本の「何となくうまく行くだろう」という方針では本当に将来が危ないと感じた次第です。そういった意味でも、NRF APACに日本企業が参加するとすれば、単なるソリューション提供でなく、各国生活者に対する未来志向での提案が具体的にできないと評価されないと危惧しています”

APACの一員・日本の流通小売業・メーカーの皆さまと共に、欧米にはない新しいポシビリティを探索する試みはまだまだ始まったばかり。

次回は「Culture×Commerce」が交錯するAPACから、今年2025年に仏・パリでようやく初開催となるNRF EUROPE 2025のコンベンションと、欧州での店舗視察の模様を、皆さまにお届けします。

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2時間2万円でも大人気、“本物の体験”に投資…外国人旅行客の新しい消費行動

●この記事のポイント
・インバウンドは「観光」から「体験」へシフト。漫画や声優、食文化などの没入型体験に富裕層を中心に需要が拡大している。
・本物のプロとの交流や裏話を聞けることが大きな価値となり、SNS拡散や口コミにつながる新たな観光の形が生まれている。
・ガイド不足や家族向けコンテンツ不足といった課題も多いが、逆に新たなビジネスチャンスが広がっている。

 2024年、日本を訪れる外国人旅行客数(インバウンド)はコロナ禍前を超える勢いで回復した。観光庁によると、2024年の訪日客数は初めて3000万人を突破し、政府は2030年に6000万人の目標を掲げる。円安の影響もあり、街中では外国人観光客を見かけることが日常の風景となった。だが彼らが求めているのは、単なる「観光地めぐり」や「買い物」ではなく、日本ならではの“没入型体験”だ。

 そんな新しい需要を先取りするのが、体験型ツアーを企画・運営するUNIQUE TRAVEL JAPANである。同社COOで、自らも「漫画講座」を担当する林将史氏に、外国人観光客の最新トレンドと今後のビジネスチャンスを聞いた。

●目次

「漫画を描く」ことで日本文化に触れる

 UNIQUE TRAVEL JAPANの看板コンテンツは、漫画家を招いて実際に「漫画を描く」体験ができるワークショップだ。参加者は自分の好きなアニメキャラクターを描いたり、オリジナルキャラクターを生み出したりと、2.5時間の講座でプロから手ほどきを受ける。

「漫画好きのお客さんだけでなく、日本文化に没入したいという動機で参加する大人の方も増えています。アニメや漫画に詳しくない方でも“本物の漫画家と交流できる”体験そのものに価値を感じていただいています」(林氏)

 体験型プログラムは漫画にとどまらない。築地市場で魚を仕入れ、日本料理人が目の前で調理する「食のツアー」、プロ声優と一緒にアニメ映像にアフレコする「声優体験」、さらにアニメーションを実際に制作する「アニメーター体験」など、ユニークなプログラムを展開している。いずれも「見る」だけではなく「参加する」「創る」ことがポイントだ。

富裕層が支持する“没入型体験”

 同社の体験プログラムの価格帯は一人2万~4万円。一般的な観光ツアー(数千円台)と比べると高額だが、むしろ富裕層を中心に需要が拡大している。

「メジャーリーガーの方が参加されたこともありますし、経営者や医師なども多いですね。円安の影響もあり、日本国内で2万円は高額ですが、海外の富裕層にとっては“本物の体験”に投資する価値がある価格帯です」(林氏)

 実際、2023年から2024年にかけて予約数は急増。特にアメリカ、欧州、中東からの客が多い。国や地域によって好まれる体験には特徴もある。アメリカは「幅広く何でも人気」、ヨーロッパは「食と文化」、中東は「アニメ・漫画」への関心が高い。

 林氏が繰り返し強調するのは「本物の人との交流」だ。

「単に体験するだけでなく、実際にその道を職業にしている方と触れ合えることが大きな魅力になっています。料理人や漫画家、声優といったプロの裏話を聞きながら、一緒に時間を過ごせることが、外国人観光客にとって忘れられない思い出になるんです」

 この“交流”要素が満足度を高め、SNSでの拡散や口コミにつながる。林氏によると、リピーターや紹介経由の参加者も少なくないという。

インバウンドが抱える「受け皿不足」

 政府が掲げる6000万人目標に対し、課題も多い。ホテルの部屋不足、大人数家族向け施設の乏しさ、そして人材不足だ。

「特にガイドの不足は深刻です。英語が話せるだけでなく、ホスピタリティを持ち、お客様一人ひとりに合わせた“おもてなし”ができる人材は非常に少ない。予約を受けてもガイドを確保できず、やむなくキャンセルするケースすらあります」(林氏)

 観光産業は宿泊施設や輸送インフラの整備だけでなく、人材育成や受け皿づくりにも投資が必要だ。逆にいえば、ここに大きなビジネスチャンスが潜んでいる。

 UNIQUE TRAVEL JAPANが次に注力するのは「家族向け」だ。

「東京の観光コンテンツは夜のアクティビティを中心に増えているが、子どもが主体で楽しめる体験が少ないんです。家族全員で楽しめる体験や、子どもだけでも楽しめる体験を充実させたいと考えています」

 また教育機関との連携も進めている。英国の専門学校が日本文化体験をカリキュラムに組み込むなど、修学旅行や海外研修の一環として「体験プログラム」を導入する事例が増えている。観光と教育の融合は、今後の成長分野といえそうだ。

体験価値をどう作るか

 インバウンド市場の拡大は、日本企業にとって単なる「観光需要」以上の意味を持つ。林氏の言葉から浮かび上がるのは、次の3つの示唆だ。

「見る」から「参加する」へ
 観光地をめぐるだけでなく、自ら創作したり交流したりする“参加型体験”が求められている。

「本物の人」との出会いが価値になる
 プロフェッショナルとの交流は、観光商品に付加価値を与える。日本企業が持つ専門性や職人技は強力な武器だ。

不足こそビジネスチャンス
 ガイドや家族向け体験の不足は課題であると同時に、新規参入やサービス開発の余地を示す。

 円安と回復する世界経済を背景に、日本を訪れる外国人旅行客は今後も増加が見込まれる。ただし、求められるのは“物見遊山”ではなく、日本文化に深く触れる体験だ。UNIQUE TRAVEL JAPANのように「創る」「交流する」体験を提供する企業が、次世代の観光をリードしていくだろう。

「インバウンドの需要はまだ伸び続けます。課題も多いですが、逆に言えば日本には無数のビジネスチャンスがあるんです」(林氏)

 観光はもはや一大輸出産業であり、体験価値の提供は世界に誇れる“Made in Japan”そのものになりつつある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

ジャングリアで注目の沖縄…サウナもジャグジーも完備、富裕層向けリゾート開発で上場へ

●この記事のポイント
・沖縄北部で富裕層向けリゾートヴィラ開発が活発化。サウナやジャグジー付き施設が人気を集め、投資需要が拡大している。
・木立は物件販売に加え、運営や集客まで担い、オーナーに安定収益を提供。平均価格は1億円規模で経営者層が購入者の中心。
・ジャングリア開業による観光需要増を追い風に、木立は小口投資ファンドや保険事業へ展開し、将来的な上場を目指している。

 沖縄県北部では、ホテルや別荘など観光目的の不動産投資が盛んになっているという。昨今何かと話題のジャングリア沖縄も開業し、投資を呼び込む。そんな沖縄でサウナ、ジャグジー付きのリゾート開発をするのが株式会社木立だ。

 民泊などを想定した投資用物件で、価格は平均1億以上。オーナーは経営者や上場企業役員などの富裕層だ。木立では施設の運営も手がけているため、オーナーは宿泊客の集客を任せることができる。宿泊客は海外からも来ており、インバウンドの増加が追い風となっているようだ。リゾートヴィラ運営はオーナーにどの程度のメリットをもたらすのだろうか。木立の三木一成社長にリゾート開発と運営事業について聞いてみた。

●目次

平均1億円のプール付きリゾートヴィラ

 木立では宿泊施設としての運営を想定したリゾート開発事業と運営事業、そしてWeb関連事業の主に3事業を展開している。リゾート開発事業では主に木立が仕入れた土地を販売する。形態は建築条件付き土地販売であり、建物の建設は指定のハウスメーカーが手がける。買主から見ると、土地を木立から購入しリゾートヴィラの建物はハウスメーカーから購入する形式だ。宿泊客の集客や満足度に影響するため、リゾートヴィラもある程度の「型」が決まっているという。

「宿泊者が施設内で楽しめる体験型宿泊施設と定義しており、リゾートヴィラにはサウナ、ジャグジー、BBQテラスが必ず付いています。素泊まりだけの使い方は想定しておりません。物件価格は1件あたり8000万円から3億円で、平均1億円です」(三木氏)

 リゾートヴィラを購入するのは富裕層だ。年収の中央値は2000~3000万円台。ほぼ全員が経営者で、一部医者や上場企業の役員もいる。沖縄の地銀はリゾートヴィラに対する融資が非常に厳しく、自己資金や株担保ローンの借入を用意できる人しか購入できないため、オーナー層は自ずと限られるようだ。毎日5~10人の投資家から連絡が来るという。一部、投資用ではなく別荘として購入するオーナーもいる。

「沖縄県北部には主要観光地が沖縄美ら海水族館しかないため、南部より閑散としていました。しかし、沖縄ジャングリアができたことでリゾートヴィラの開発が活発化しています。ジャングリアの想定来場者数は1日5000人です。水族館とジャングリアは1日では周れないため、宿泊施設が必須であり、一帯にあるホテルの稼働率も上昇しています」(同)

3世代の団体客がターゲット

 運営事業ではオーナーに代わってリゾートヴィラの集客や清掃などの施設運営を手がける。宿泊客向けには1棟貸切ヴィラ「MIRATIO」のブランド名で提供している。宿泊費は閑散期で1泊3万円台後半、オンシーズンで8万円台だ。1組あたり平均で2.5泊滞在する。宿泊客の特徴について聞いてみた。

「リゾートヴィラは3世代のファミリー層で6~8人の団体客をターゲットにしています。1つの空間で一緒に楽しみたいという需要に沿った施設です。今は6対4で日本人が多いですが、以前は8対2の割合でインバウンドが主でした。外国人は韓国、中国、台湾、香港などアジア圏の富裕層が多いです。日本人は比較的若い方が多く、友達連れで宿泊される方もいらっしゃいます」(同)

 集客にはAirbnbやBooking.comなどの海外OTAを活用する。OTAとはオンライン旅行代理店の略で、施設と宿泊希望者を仲介するサービスのことだ。国内勢ではじゃらんや楽天トラベルなどがあげられる。外国人は日本のサイトを読めないため、彼らが日本の施設を予約する際は海外OTAを介するのが一般的だ。なお、前述の通りリゾートヴィラにはサウナ、ジャグジー、BBQテラスなどの施設が必須となっているが、こうした型を決めているのはOTAの評価アルゴリズムに対応するためだ。潮流に合わせてリゾートヴィラの建築スタイルを変えている。

「『サウナだけつければ良い』と仰るオーナー様もいますが、OTAの評価アルゴリズムに対応し、優先的に表示されるためにはさまざまな機能をつけなければなりません。また、建物からの眺望や匂いなどの顧客体験はOTAのアルゴリズムに影響しませんが、宿泊客のレビューに影響するため、そうした点も高評価を得るように心がけています。比較的、外国人よりも日本人宿泊客から厳しいレビューを頂くことが多く、ご意見を改善につなげています」(同)

 こうした施策が効果を発揮しているのか、リゾートヴィラオーナーの表面利回り20%、実質利回りは5~6%を超えるという。5年間でオーナーが3000万円の利益を得られることを目指している。木立は独自の売上・稼働率調査で沖縄県全域をデータ分析化しており、収益の効率を高めている。

ウェブ事業の強みを不動産事業に活かす

 木立ではホームページ作成などのウェブ関連事業も展開している。年商10億円以上のDXを進めたいBtoC企業が主な顧客だ。例えば眼科や皮膚科の予約システム、ウェブサイトの作成、SNSの運用代行などを手がける。

「一見客の獲得につながるため、病院やクリニックの集患には広告がかなり重要です。美容業界や歯科医は集患にお金をかけるのですが、眼科や皮膚科、小児科などは集患に力を入れていないところが多く、そうしたクリニックや企業のサポートを行っています」(同)

 ウェブ関連事業では沖縄に限らず全国の法人向けにサービスを提供している。一見すると不動産事業とはまったくの別事業に見えるが、両事業を展開することによるメリットは大きいと三木社長は主張する。

「ヴィラの設計をする時にマーケティングを行い、『何が求められているか』をデータ化してデザインに反映させるので、ウェブ事業で培ったマーケティング力が生かされます。また、広告のノウハウも有しており、やみくもに予算をかけて集客するのではなく、最低限のコストで集客しております。リゾート開発事業では、FacebookやInstagramなどのSNS広告のみで集客しています」(同)

 不動産会社はデジタルの集客を苦手とするところが多く、いわゆる一人社長の人脈で成り立っている企業も多い。そうしたなか、集客や広告運営を内製化している点は木立の強みといえる。

株式上場を目指す

 現在の事業構造はウェブ事業が中核にあり、そこからリゾート開発や宿泊事業が派生している。事業を多角化しているように見えるが、大きくいえば「アセットマネジメント」のビジネスであると三木社長は話す。

「今後は投資家の資産を増やす、管理するビジネスを強化したいと考えております。その一歩として今はヴィラ事業を展開していますが、第二種金融商品取引業として登録し、小口投資ファンドを始める予定です。『1000万円出せるけど、融資の関係でヴィラ1棟を買えない』という方にはファンドを購入してもらう。また、相続や保険ビジネスも展開したいと考えており、実際に大手保険会社の代理店になる予定です」(同)

 現在の売上高は4~5億円だが、まずは10億円企業を目指し、事業を拡大する方針だ。2027年にTOKYO PRO Market、28年には福岡証券取引所のQ-board上場を目指す。31年にはグロース市場に上場し、沖縄県で10社目の上場企業にしたいという。現在、沖縄県で上場しているのはおきなわフィナンシャルグループや沖縄セルラー電話、沖縄電力などインフラ系が中心だ。ホテル産業も本州の企業が展開していることが多い。富裕層をターゲットにした沖縄県発の上場企業が生まれるのか、木立の今後に注目したい。

(取材・文=山口伸/ライター)