アルゴリズムが裁かれる時代へ…快手判決が示す、中国の「プラットフォーム経済」終焉

●この記事のポイント
・快手に対する判決は、ショート動画プラットフォームに著作権侵害を未然に防ぐ「合理的注意義務」を課し、監視体制の強化を求めた。
・ショート動画を「映画的著作物」として法的に保護する判断が示され、個人クリエイターの作品価値が知的財産として明確化された。
・プラットフォームに事前フィルタリングなどの技術的対策を義務づけ、著作権とデータ利用の新しいルール形成が進む転換点となった。

 2025年、中国のショート動画大手「快手(Kuaishou)」に対して下された判決が、テクノロジー業界と知的財産の両分野に波紋を広げている。

 争点は、ユーザーが長尺の映画やドラマを無断で切り抜き、ショート動画として快手上に投稿していたこと。これまでは「通知があって初めて削除する」という消極的な対応が認められてきたが、裁判所は初めて“プラットフォーム側に積極的な監視義務”を課したのだ。

 この判断は、AIとデータが情報流通を支配する時代における、新しい「責任の形」を突きつけている。

●目次

「通知・削除」では不十分…ショート動画も「映画的著作物」として保護

「今回の訴訟の本質は、著作権侵害に対するプラットフォームの責任の範囲をどこまで広げるか、という点にあります。これまで中国でも日本でも、権利者が侵害を発見し、通知を出した時点で初めて削除義務が発生する『通知・削除(Notice & Takedown)』が一般的でしたが、判決はショート動画サービスの性質を踏まえ、『単に通知を待つだけでは合理的な対応とはいえない』と明確に指摘しています」(ITジャーナリストの小平貴裕氏)

 快手のようにユーザー投稿が膨大で、しかも商業的収益を上げるビジネスモデルの場合、 プラットフォーム自体がプロアクティブ(能動的)な監視体制を構築すべきだと判断したのだ。これは単なる技術論ではない。「プラットフォームが中立的な情報の場ではなく、積極的な“選別者”である」という司法判断にほかならない。

 この一文は、中国だけでなく世界中のショート動画企業の法務部門を震撼させた。

「もう一つの重要な論点は、ショート動画という新しいメディア形式に対する著作権保護の明確化です。判決は、ユーザーが編集し創作したショート動画を、著作権法上の『映画的著作物(Cinematographic Works)』と同等に位置づけ、快手などのプラットフォームが扱うコンテンツ自体が、長期的な知的財産として保護されるべきだと認定したのです」(同)

 これは、中国のデジタルクリエイターにとって大きな追い風となる。従来、ショート動画は“切り貼り”や“派生物”とみなされ、法的保護が曖昧だった。

 だが今回の判決により、個人クリエイターが制作したショート作品も、法的価値のある創作物として扱われることが明確になった。

 この点は、TikTokやYouTube Shortsなどを運営するグローバル企業にも直結する。今後、各国の法制度においても「ショートコンテンツ=軽視できない知的財産」という認識が広がる可能性が高い。

「判決が示した第3のポイントは、プラットフォームが著作権侵害を未然に防ぐための技術的義務を負う点です。人気の高い映画や番組など、侵害リスクが高いコンテンツについては、アップロード前に自動的にフィルタリングを行う『事前スクリーニング』の導入が求められます。これにより、中国のショート動画業界では、各社が自前の著作権データベースを構築し、相互に権利情報を照合するようになっています。結果として、プラットフォーム間に『著作権の防壁』が築かれつつあるのです」(同)

 つまり、コンテンツの相互利用や転載が厳しく制限され、各社のAIモデルが利用できるデータ範囲にも境界が生まれているのだ。

 その一方で、こうした制約は、AI開発におけるデータ利用の透明化を促す効果もある。
 AIが生成するコンテンツの著作権をめぐる国際的な議論に対しても、中国は先行的なモデルを提示したといえる。

「法がアルゴリズムを裁く」時代の幕開け

 快手判決の根底には、「技術的中立性」という神話の終焉がある。
 アルゴリズムが何を推薦し、どのコンテンツを拡散させるか――それ自体が社会的影響を持つ以上、企業は“単なるプラットフォーム”ではいられない。

 今回、著作権の文脈で示された「合理的注意義務」は、今後、AIやレコメンドシステム全般に拡張される可能性がある。
 動画の自動要約や生成、広告配信など、AIが創作や意思決定に関与する領域で、「リスクを予見し、未然に防ぐ」義務が標準化するだろう。

 つまり、アルゴリズムも法の支配下に置かれる時代が始まったのである。

 快手判決は、中国の法制度にとっても大きな意味を持つ。同国ではここ数年、国家インターネット情報弁公室(網信弁)や市場監管総局による「アルゴリズム推薦管理規定」や「プラットフォーム責任指針」などの整備が進められてきた。

 だが、それらは行政ガイドラインにとどまり、実際に司法判断で具体化された例は少なかった。今回のケースで、裁判所が企業の“コード(仕組み)”にまで踏み込み、「アルゴリズム的運営も法的義務の範囲に含まれる」と明言したことは画期的だ。

 EUのデジタルサービス法(DSA)、米国のAI Accountability Actと並び、中国の“司法的アルゴリズム規制”は世界のAIガバナンス議論において欠かせない参照点となる。

ショート動画も「映画的著作物」として保護

 一方で、こうした「プロアクティブな監視義務」が進めば、プラットフォームの創造的自由が損なわれる懸念もある。企業がリスクを恐れて過剰な検閲を行えば、ユーザー生成コンテンツの多様性は失われる。イノベーションを促すはずのプラットフォームが、法的安全性を最優先にした“萎縮構造”に陥る可能性もある。

 結局のところ、今回の判決が突きつけたのは、「表現の自由」と「知的財産の保護」、「技術の革新」と「法の統制」という、社会が抱える二律背反の構図だ。

 快手判決は、中国のショート動画市場における単なる法的節目ではない。それは、テクノロジー企業が“無限の自由”から“有限の責任”へと転換する象徴でもある。

 著作権の合理的注意義務、ショート動画の法的地位、事前フィルタリングの責任――いずれもAIとデジタル社会の「次の標準」を先取りする動きだ。これからのプラットフォーム競争を決めるのは、単に技術力やユーザー数ではなく、どれだけ責任をデザインできるか。アルゴリズムの透明性、データ利用の倫理、そして創作者を守る仕組み――そのすべてを統合した企業こそが、次の時代の信頼と市場を勝ち取るだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

スポーツ観戦時の「感情」を可視化…博報堂とDAZNが仕掛ける次世代アドテク

●この記事のポイント
・博報堂とDAZNが仕掛けるのは、スポーツ観戦中の視聴者の「感情」をAIで可視化し、体験そのものを進化させる実証実験。
・試合の熱狂に合わせて広告を届ける仕組みは、従来の視聴回数ベースから「感情反応」を基準とする新しい広告モデルを提示する。
・2025年度には新サービスとして形になる予定。広告とスポーツ産業の未来を変える可能性を秘めた試みが、いま動き始めている。

 テレビやネット配信でスポーツ観戦をする人にとって、「歓喜」「落胆」「緊張」といった感情の高まりは試合の醍醐味だ。これまではスタジアムに足を運ばない限り、周囲とその感情をリアルタイムで共有するのは難しかった。しかし今、博報堂とDAZNが共同で進める実証実験は、そうした「視聴者の感情」をデータとして可視化し、新しい観戦体験と広告のあり方を切り拓こうとしている。

 今回、博報堂のこの取り組みの担当者に取材し、その狙いと今後の展望について話を聞いた。

●目次

感情を起点に進化するスポーツ視聴体験

 博報堂は、この取り組みについてこう説明する。

「DAZNとの戦略的提携の一環として、スポーツ視聴体験を“感情”という新たな視点から進化させる取り組みを進めています。視聴者の感情を定量データとして可視化することで、観戦体験をアップデートしたいと考えているのです」

 まるでスタジアムにいるかのように観客同士が盛り上がりを共有する――そんな体験をオンラインで再現するのが狙いだという。スポーツ配信の差別化が難しくなるなか、「感情」という新しい切り口でDAZNの価値を高めようとしていることが取材を通じて浮かび上がった。

 今回の取り組みは視聴体験の進化にとどまらない。広告の新しい形を模索する意味もある。

「感情が高まる瞬間が可視化されれば、広告主のブランドメッセージを最適な形で届けられます。試合の決定的なシーンや、視聴者の心拍数が一斉に高まる場面こそ、広告の価値が最も発揮されるタイミングなのです」(博報堂 ストラテジックプラニング局 腰前伸圭氏)

 従来のスポーツ配信広告は、試合前後やハーフタイムに枠を設けるのが一般的だった。しかし本当に心を動かされるのは、ゴールや逆転の瞬間だ。そこで広告を差し込めれば、ブランドの印象は強烈に残る。今回の取材で見えてきたのは、広告の評価基準そのものが「インプレッション数」から「感情指数」へと移りつつある未来像だった。

実証実験の現場――生体データと試合データの統合

 では、具体的にどのような実証実験が行われているのか。

「詳細はまだ開発段階でお伝えできない部分もありますが、試合中のプレーに関する事象データと、視聴者の生体反応データ(例えば心拍数など)を組み合わせ、感情をスコア化しています」と担当者は説明する。

 例えばサッカーの試合で得点が決まった瞬間に心拍数が一斉に上がる。そうしたデータが積み重なれば、どのシーンで観戦者の感情が揺さぶられるのかを定量的に捉えることができる。取材を通じ、スポーツの「熱狂度」をデータで裏づける仕組みが着実に構築されつつあることが明らかになった。

 博報堂が強調するのは「広告開発だけではない」という点だ。

「私たちが目指すのは、観戦体験そのものの進化です。視聴者がリアルタイムで同じ感情を共有できれば、オンラインであってもスタジアムでのどよめきや熱狂に近い体験を提供できます」と担当者は語る。

 もし配信画面に「いま全国の視聴者がもっとも興奮している瞬間です」といった指標が表示されれば、離れた場所で観戦している人々も一体感を味わえる。今回の取材で浮かび上がったのは、スポーツをより「ソーシャルな体験」に変えていこうとする両社の姿勢だった。

ビジネス展開の展望――2025年度中に新サービス発表へ

 今後のロードマップについても聞いた。

「2025年度中には、このプロジェクトから生まれる新しいコンテンツや広告ソリューションを発表できるよう取り組んでいます。視聴者や広告主の期待に応えられるよう、継続的に進化させていきたいと考えています」と担当者は展望を語る。

 取材から見えてきたのは、この実証実験が単なる技術検証ではなく、明確に事業化を前提とした取り組みであるということだ。観戦体験の拡張と広告ソリューションの商用化――この二本柱でスポーツビジネスに新たな価値を創出しようとしている。

 さらに担当者は「将来的には音楽やエンタメ分野にも応用できる」と話す。音楽ライブやeスポーツ、映画やドラマなど、感情が大きく動くコンテンツは数多い。

 もし感情データがリアルタイムで取得できれば、広告や演出だけでなく、コンテンツそのものの設計に活用できる。取材を通じ、今回の技術がスポーツの枠を超え、エンタメ産業全体に波及する可能性を秘めていることが実感できた。

 一方で、課題もある。

「生体データは非常にセンシティブな情報です。視聴者が安心して利用できる仕組みづくりが不可欠ですし、広告における倫理的な配慮も重要です」と担当者は指摘する。

 感情データの活用は、視聴体験を豊かにする一方で「感情を利用される」という懸念も生じかねない。そのバランスをどう取るか。取材を通じ、今後の事業化に向けて透明性と説明責任が大きな鍵になると感じた。

「感情」を軸にした新しい広告と観戦の未来

 今回の取材で浮かび上がったのは、博報堂とDAZNが取り組む実証実験が、単なる技術開発ではなく「スポーツ観戦の本質」に迫る挑戦だということだ。人々がスポーツに熱狂する理由は、まさに感情の揺れ動きにある。その瞬間をデータ化し、共有し、広告やコンテンツに生かすことで、新しい価値を生み出そうとしている。

 2025年度の発表に向け、両社の取り組みは大きな注目を集めることになるだろう。スポーツビジネス、広告業界、そしてエンタメ全体の未来を見据える上で、この「感情データ」の挑戦は見逃せない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

「森を切らずに稼ぐ」静岡市の挑戦…カーボンクレジットで生まれる新しい森林経済

●この記事のポイント
・静岡市は森林を「循環林」と「環境林」に区分し、環境林を対象にカーボンクレジット創出の実証を開始。
・衛星・AI・DNA解析を活用し、二酸化炭素吸収量だけでなく生物多様性など公益機能も評価。
・収益は森林整備や地域還元に充て、持続可能な森づくりと企業参加型の新たな仕組みを目指す。

 静岡市は2025年度から、市内の森林を対象にカーボンクレジット創出の実証実験に乗り出した。背景にあるのは、森林を「経済資源」としてだけでなく「環境資源」として管理していくという大きな方針転換だ。従来、森林の所管は経済局に置かれていたが、今年度から環境局へ移管。これにより、木材生産に依存しない森林管理のあり方が議論され始めた。

 市は森林を「循環林」と「環境林」に区分する方針を示した。循環林は従来通り木材生産を中心に管理されるが、環境林は水源涵養(かんよう)や生物多様性保全など、公益的機能を重視する。この環境林を活用したカーボンクレジット創出が、今回の実証実験の核心となる。

●目次

環境林が抱える「収益化の壁」

 森林が持つ環境機能の重要性は誰もが認めるところだ。しかし現実には、木材を生産しない環境林は収益を生みにくく、維持管理の財源確保が課題となってきた。森林整備には人件費や機材費がかかり、補助金に頼る構造が続いている。静岡市の担当者はこう語る。

「環境林は木を切って売ることが前提ではないため、お金を生む仕組みがない。だからこそ、カーボンクレジットで環境価値を収益化し、整備のインセンティブにしたいのです」

 市内の森林面積は約10万7000ヘクタール。そのうち人工林が半分を占め、環境林としては約3.5万ヘクタールが該当する見込みだ。これだけの規模を有効に活かせば、市独自のカーボンクレジット市場形成にもつながる可能性がある。

 カーボンクレジットとは、森林や再生可能エネルギーによるCO₂削減・吸収量を「クレジット(証書)」として取引できる仕組みだ。日本では国主導の「J-クレジット制度」が広く知られるが、これは主に木材生産林や再エネ事業が対象となってきた。

 静岡市が挑むのは、従来の制度ではカバーしきれなかった環境林を対象にした新しい方法論の確立だ。岐阜県の「Gクレジット」など、自治体独自の制度も出始めているが、静岡市は環境林に特化した仕組みづくりで独自性を出そうとしている。

実証実験の仕組み

 今回の実証実験では、衛星画像やレーザー測量(LiDAR)を用いて森林の状態を解析し、CO2吸収量を算定する。さらに、環境DNA解析など最新技術を活用し、生物多様性の把握も試みる予定だ。

 期間は2025年度から2027年度までの3年間。最終的には「新しい方法論」を策定し、国際的・国内的に認証されることを目指す。担当者は語る。

「二酸化炭素吸収量に加えて、環境林が持つ公益的機能をどう評価するかが最大のハードルです。水源涵養や災害防止、生物保全など、多面的な価値をクレジットにどう反映するかが鍵になります」

 クレジット取引の収益規模については現時点で明言されていない。認証手続きや市場での評価が定まらない段階だからだ。ただし、仕組みが確立されれば、収益は森林所有者や地域に還元される見込みだ。市としても「持続可能な森づくりに賛同する企業」を募り、資金循環を生み出す構想を描く。

 これは単なる財源確保策にとどまらない。企業がカーボンニュートラルの一環として静岡市のクレジットを購入すれば、地域と企業が共に価値を享受する新しい連携モデルとなりうる。

 もちろん課題も少なくない。最大の難点は「環境価値をどう数値化するか」だ。J-クレジットのようにCO2吸収量だけを基準にすれば簡潔だが、静岡市が重視するのは水の貯留機能や生態系保持など目に見えにくい価値である。これを第三者が認める形で評価・認証するのは容易ではない。

 また、こうしたクレジットは必ずしも国の温室効果ガス削減目標に算入できるわけではない。そのため「どの企業が買うのか」「市場でどの程度の価値がつくのか」は不透明だ。担当者も慎重に語る。

「国の温室効果ガス削減量としてカウントできないため、どれだけ企業の関心を引き込めるかが成否を分けます」

地域全域への拡大と市民参加

 静岡市は将来的に、今回の方法論を市内全域や民有林にも広げたい考えだ。すでに市有林だけでなく民有林での調査も予定されている。制度が成熟すれば、市民や地域企業が寄付や協賛を通じて参加する道も開けるだろう。

 さらに、環境林が価値を持てば、観光や教育と連動する可能性もある。自然体験や環境教育の拠点として活用すれば、地域ブランド向上にもつながる。

 静岡市の試みは、森林を「木材生産」から「環境資本」へと再定義する挑戦だ。気候変動対策の一環としてカーボンクレジットは注目されるが、静岡市の取り組みはそれを単なるCO₂削減の道具にとどめない。

「生態系サービスの価値をどう社会に埋め込むか」という問いは、自治体や企業に共通する学びを与える。都市開発や産業振興だけでなく、地域資源を持続的に管理する仕組みをどう構築するか。そのモデルケースになる可能性がある。

 静岡市の取り組みは、単なる森林政策の一環にとどまらず、「森林を環境資本としてどのように社会に位置づけ直すか」という大きな挑戦といえる。従来のように木材を生産して経済的価値を生む「循環林」だけではなく、公益的な機能を担う「環境林」にも光を当て、その価値を「カーボンクレジット」という新しい市場に乗せて可視化・収益化しようとしている。

 この方針転換の背景には、森林整備にかかるコストや人手不足といった構造的課題がある。木材価格の下落や人件費の高騰により、森林の維持は補助金頼みになりがちだった。しかし、カーボンクレジットという仕組みを通じて「環境林が持つ水源涵養・災害防止・生物多様性保全といった機能」に市場価値を与えることができれば、整備のインセンティブを生み、補助金に頼らない持続可能な管理体制が可能になる。

 また、クレジットの収益は森林所有者や地域に還元される見込みであり、企業がカーボンニュートラルの一環として購入することで「環境貢献の見える化」にもつながる。

 この実証実験は「森林の公益的機能を資産化する」という点で先駆的であり、他の自治体や企業にとっても大きな示唆を与える。今後、環境林の整備やカーボンクレジットの市場形成が進めば、静岡市は「持続可能な森づくり」を先導するモデルケースとなりうるだろう。

 つまり、この挑戦は「静岡市の森林を守る」だけではなく、「地域の未来を守る」ための一歩である。読者にとっては、環境価値をどう社会に埋め込み、持続可能性と経済性を両立させるかという普遍的なテーマを考えるきっかけとなるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

動画×DXで急成長、上場を経たファインズが挑む、さらなる成長に向けた経営改革

かつては親会社の一事業に過ぎなかった、小さなWebマーケティング会社。
しかし、時代はガラケーからスマートフォンへ、静的な広告から動画マーケティングへと、劇的に変化していきました。

その波を敏感に捉え、「動画を起点としたマーケティングDX」を武器に、ファインズは急成長を遂げ、2022年にはついに上場を果たします。

けれど、そこがゴールではありませんでした。 代表取締役社長・三輪幸将氏は「成長のなかで多くの課題に直面した」と語ります。

マーケティングを、もっと多くの企業の武器にしたい。現場に根ざしたDXを、もっと“機能するもの”にしたい。その想いの先にあったのは、「経営改革」という大きな決断でした。

なぜいま、ファインズは変わるのか──。
“動画屋”の殻を破り、企業の成長を支援するマーケティングソリューション企業へと進化を遂げようとしているファインズの現在と未来を、三輪氏に聞きました。

時流に乗り成長した、動画マーケティング事業

——ファインズ創業の経緯を教えてください。

株式会社ファインズは、もともとフリーセル(現ブランディングテクノロジー)という会社の中の、Webコンサルティング部門を子会社化して誕生しました。2010年の子会社化当時は、ちょうど世の中がガラケーからスマートフォンへの移行期。多くの企業がモバイル専門の事業や子会社を立ち上げる中、ファインズも同様の意図で誕生しました。当初はモバイル向けのFlashサイト作成、SEOやMEO(マップエンジン最適化)などWeb施策を中心に展開していました。

動画マーケティング事業は、私が海外のWebサイトで動画が埋め込まれたページを多く目にしたことがきっかけで、スタートしました。企業やサービスの魅力を効果的に伝えられる動的コンテンツの可能性を感じ、2015年頃から本格的に事業を開始したのです。

——ファインズの顧客は中小企業がメインですよね。動画マーケティングは当時の日本になじみがない中で、どのような反応がありましたか?

想像よりもリーズナブルだという評価を多くいただきました。動画によるマーケティングは大手企業が行うことという印象が強い中、中小企業向けの動画制作を提案していたので、導入もしやすく、他社との差別化も図りやすいというお声をいただくことが多かったです。また、当時の顧客は「編集の方法がわからない」「編集ソフトが高額」といった課題を抱えており、また動画コンテンツの埋め込みがページランクに影響しやすいというSEO的な事情も追い風となり、事業は早期に軌道に乗りましたね。

——ファインズは動画マーケティングを軸に2022年に上場するなど、急成長を遂げていますよね。その要因はどこにあると考えていますか?

お客さまにとって「意外に導入ハードルが低かった」ということが要因のひとつです。加えて、企業向けの動画マーケティング事業を、営業組織を活用して本格展開する競合がほとんどいなかったことも動画マーケティングを軸に成長できた大きな要因だと考えています。また、外的な要因もありますね。上場前にコロナ禍に突入したことで、対面以外で詳細にプロダクトや企業の魅力を伝えられるプロモーション手法に対するニーズが広がり、動画マーケティングに注目が集まったことも大きいです。

——データを活用した顧客への伴走力も、競合他社との大きな差別化のポイントになったのではないでしょうか。

そうですね。インタラクティブ動画にも対応した動画のプラットフォーム事業にも力を入れていたことで、蓄積されたデータをもとに、お客様に対して「動画を活用したDXコンサルティング」という形でサービス提供ができるようになりました。これも、他社との差別化や成長の要因となった部分です。

データ活用で、メイン顧客である中小企業の方々の多くが抱く、「認知が足りない」「予算に限りがある」「確度の高いリード獲得がしたい」という要望にも、しっかりと伴走ができるようになっています。エリアや年代を限定したターゲティング広告、動画を閲覧したユーザーへのリターゲティング広告などはもちろん、ホームページ内の動線、価格やサービスの分析など、あらゆる側面からサポートしています。

外からではなく、中から変える。経営改革の決断

——急成長の一方、会社として課題を感じた部分などがあれば教えてください。

事業の拡大に伴い、“人的資本”への投資不足が成長のボトルネックとして表れてきたと感じます。

Webに関するコンサルティングは、経営に関する知識も必要ですが、そうした知識が標準化されないまま成長してきたため、個々の仕事の質や営業成績にバラつきが生じていました。これは、社内の人材教育ができていなかったことに由来していると考えています。

さらに、営業以外の部署での採用も進まず、AI活用などが思った速度で進められない、あるいは優秀な人材が流出するという事態に。これは、そもそも自社の魅力を社内外に伝えきれていないことも影響した結果でした。

——課題を抱えるなか、なぜ「経営改革」という大きな動きに踏み切ったのでしょうか?

2022年の上場後、会社をさらに成長させたいと願う一方で、売上も利益もやや低下傾向にある、という現実があります。

この停滞の根底には、先述の人材的な課題があると認識していました。経営コンサルタントとも協議しましたが、外部の力で社内を変えるイメージが持てませんでした。そこで、優秀なCXO人材を社内に招き入れて、内部から改革を起こそうと決断したのです。

——実際に経営改革に着手して、浮かび上がってきた問題などはあったのでしょうか?

まず感じたのは、会社のビジョンが、従業員にしっかりと浸透していないのではないか、という点です。「なんのために働くのか」「どうして頑張るのか」というメッセージが届かず、従業員が「自分自身の成長のため」「お金を稼ぐため」といった個人的な目標に終始しているのが現状でした。

上場までは、皆「上場する」という目標に向かって動けるのですが、その後にしっかりとしたビジョンを設計し、示せていなかったことが原因だと考えています。このような状態では、仕事のやりがいを見出すことも難しく、優秀な人材を採用したり、志の高い従業員に勤続してもらったりすることが困難になります。ビジョン設計の甘さが、先にお話しした課題にもつながっているのだという気づきがありました。

そこで、最初に着手しているのが企業としての一丁目一番地である経営ビジョンの再設定です。ミッションやバリューなど、さまざまな側面がありますが、まずは「なぜやるのか」という企業としてのパーパスを設定し、自分たちのあるべき姿や目指すべき方向性を示していくことが大事ではないかということになりました。

とくにこだわっているのは、「従業員全員でパーパスを創り上げること」です。ただ上層部からの指示で浸透させるのではなく、現場で働く従業員からのアンケートや議論を重ね、全員が納得し、自らの魂を込められるようなパーパスを目指しています。

顧客にも従業員にも、選ばれ続ける企業であるために

——今回の経営改革も踏まえ、今後目指していきたいファインズの姿について教えてください。

今回の経営改革では、パーパスなどのほか、OKRや1on1の導入、併せて従業員の評価制度や教育制度についても大きく変えていきます。「働きやすさ」だけでは、働く意味を見失いがちですし、「働きがい」だけでも、よい働き方は実現できません。今回の経営改革を通じて、ファインズは「働きやすさ」と「働きがい」が両立する組織を実現していきたいですね。

また、日本の生産年齢人口が減少していくなかで労働生産性を上げていくため、DXやAI活用がますます重要になっていきます。ファインズでは、自らがDXやAI活用を積極的に実践し、活用事例を体現することで、お客様に具体的な成功モデルを提示できる「ショーケースビジネス」としての存在を目指しています。

実際に現在、全従業員がAIを活用し、業務の効率化を図るなど、具体的な行動に移しています。これらの成功事例は、積極的にお客様に共有しています。

従業員やお客様など、ファインズに関わる方々が「ファインズがいてくれてよかった」と誇りに感じ、必要とされる企業を皆で構築していければと思っています。

時代の変化に伴う大きな流れに乗り、急成長を遂げたファインズ。その成功に満足することなく、その裏で浮かび上がってきた課題に正面から向き合い、自ら変革を選んでいます。
テクノロジーの力と人の想いを掛け合わせながら、「ファインズがいてくれてよかった」と実感される企業を目指す挑戦は、いま始まったばかりです。

【経歴】
株式会社フリーセル(現 ブランディングテクノロジー株式会社)の営業部門にてキャリアをスタート。その後、株式会社ファインズの立ち上げメンバーとして参画し、Webマーケティングの営業を中心としながらも経営戦略や事業全般の企画・推進に従事し、執行役員、常務取締役に就任。また、子会社を立ち上げ代表取締役に就任するなど、グループ内外での事業展開にも深く携わる。
2018年に株式会社ファインズの代表取締役社長に就任。2022年にはグロース市場上場へと導くなど、常に未来を見据えた経営戦略を推し進めている。

※本稿はPR記事です。

映画レビュー「ホーリー・カウ」

父親が死んで、人生が一変した。幼い妹を世話し、生計を立てるため、トトンヌはチーズ作りを学び、コンテストでの優勝をめざすが――。

投稿 映画レビュー「ホーリー・カウ」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

誰も置き去りにせず変革を生む。ネクスウェイが提案する「変えないDX」構想

 デジタルとアナログをつなぐ通信サービス、SaaSを提供する株式会社ネクスウェイ(TISインテックグループ)が2025年10月2日、「変えないDX」の構想発表会を開催した。

「変えないDX」とは、世の中でDX推進が加速するなか、企業が大切にしたい価値を変えないまま、実現可能な変革を見つけ、ストレスなくアナログからデジタルへシフトしていくという考え方だ。

 当日は、ネクスウェイのサービス支援により「変えないDX」を実践している茨城県笠間市、うまい棒などで知られる株式会社やおきんを迎えたトークセッション、さらにアナログとデジタルの狭間で苦悩する“アナログサラリーマン”に扮したキンタロー。氏を招き、新ネタ披露なども行われた。

変化することの難しさがDX格差を生む

 まず、代表取締役社長 坂本倫史氏から、日本のDX事情が語られた。

 いわゆる大企業といわれる規模の企業の96.6%が「DXが進んでいる」と回答したのに対し、従業員が100名以下の中小企業のDX推進は44.7%にとどまっている。予算も人員も不足するなか、中小企業の価値変化に必ずしもDXが寄与しないことが、中小企業における対応遅れの原因のひとつになっているという。

 また、中小企業のDXが進まないことが、中小企業を取引先とする大企業のDX推進を阻害している一面についても語られた。

 DXは変化することが前提となっている一方で、大胆で急激な変化が難しい部分があることが、大企業と中小企業のDX格差からも見てとれる。

 この部分に対して、変化を押し付けるのではなく、“変えずに変える”ことをひとつのステップとしてDX支援をしていこうという考えが、ネクスウェイの提唱する「変えないDX」だ。

 坂本氏は、

「ゆっくりと優しく変わっていけるような世界観を、さまざまなコンテンツと寄り添った支援を通じて啓蒙していきたい」

 と語った。

【茨城県笠間市】選択肢を増やすことで「変えない」部分をつくる

「変えないDX」の実例として、茨城県笠間市の定額減税補足給付金の支給決定通知が紹介されるとともに、笠間市長である山口伸樹氏と坂本氏によるトークセッションが行われた。

 定額減税補足給付金とは、令和6年の定額減税で減税しきれないと見込まれる住民に対し、その不足分を追加で支給するもの。笠間市では従来、この給付にかかる通知を住民1人当たり合計3回の郵送で行っていたが、郵送コストや住民への給付スピードが課題になっていた。

 そこで、すでにネクスウェイのSMS配信サービス『SMSLINK』を導入していた笠間市は、住民から提出される支給確認書に支給決定通知の手段として、郵送またはSMS、どちらを希望するか選択する欄を設けて住民の希望を取り、SMS通知の希望者には携帯電話番号を記載してもらうという試みを実施したそう。

 結果、66.2%もの住民が『SMSLINK』による SMS配信での通知を希望。職員の作業負担軽減やスピード感のある給付につながった。

「すべてを変えるのではなく、選択肢を増やすという方法をとったことで、住民の方々にほとんど抵抗感がないように見えた。これまで笠間市ではほとんど紙ベースで作業をしていたが、7割近くの住民の方がSMSを選択したことで、デジタルが我々の生活に深く浸透してきていることを強く感じた」

 と、山口氏は話している。

 山口氏の発言を受け、坂本氏も、

「給付のスピード感に寄与できたことに加えて、職員の方々の作業を効率化できたことがうれしい。こういった流れが、前向きな自治体運営につながっていくのでは」

 と、喜びを表していた。

 実際、笠間市職員の間では、この仕組みをより多くの住民サービスに活用できるのではないか、という意識が高まっているという。

【株式会社やおきん】「変わりたくない」という感情を乗り越えるDX

 受信したFAXをウェブブラウザで管理、返信できるネクスウェイの『FNX e-受信FAXサービス』を活用し、「変えないDX」を実践した例として紹介されたのは、株式会社やおきん。

 すでにデジタル化されている部分がある一方で、FAXによる受注業務もいまだ多いやおきんでは、繁忙期には1日2000枚以上にも及ぶ受信書類の仕分けにかかる時間や、複合機の順番待ちで生じる取引先への返信遅延などに悩まされていたそう。

『FNX e-受信FAXサービス』の導入により、取引先のデジタル環境に寄り添い、FAXという受信手段は変えることなく、FAXでの受注や振り分けのデジタル化、自席でのFAX返信が可能になり、従業員の作業効率が大幅に改善された。

 リモートワークでもFAXの送信ができることで、よりフレキシブルな働き方を実現するとともに、紙での出力がなくなり経費の削減にも寄与したという。

 やおきんの営業企画部システム業務課次長、栗林雅治氏は、

「(DX)導入に際しては、『変化したくない』という人の感情が大きな課題だった」

 と語る。しかし、取引先から見ると業務フローに変化がないこと、操作性がよく使いやすいことで、意外なほどに社内ではすんなり受け入れられたそう。

 この使いやすさはネクスウェイが「変えないDX」を支援するにあたって、非常に重要視したポイントだ。

 営業企画部商品課係長の小野貴裕氏も、従業員が『FNX e-受信FAXサービス』の活用に順応していく様子を見て、「変えないDX」を行ったことによる働きやすい環境への変化を感じたそう。

 トークセッションを受け、坂本氏は、

「世の中的にDXを強力に進めていかなければいけない一方で、固定化された業務を変えられないという方はたくさんいる。その間に我々ネクスウェイが入って支えることで、デジタルの恩恵を受けながら“変わらない”状態をつくることができれば」

 と、今後の「変えないDX」への展望を口にした。

キンタロー。扮するアナログサラリーマンも登場

 そして「変えないDX」構想発表会の最後には、お笑い芸人のキンタロー。氏による“アナログサラリーマン”、酒田光男が登場。この日、初めて披露される新ネタだ。

 ネタづくりのこだわりを聞かれ「出オチ」と答えた一言に違わず、登場のインパクトで会場の心を掴んでいた。

 また、トークセッションでは、お笑い芸人として、個人事務所を立ち上げたビジネスパーソンとして、母としての顔を持つキンタロー。氏が「変えないDX」にかけ、3つの役割で活躍し続けるために変わらずに大事にしている軸を語った。それぞれ「明快」「志」「変顔育児術」を挙げ、

「0歳の子でも笑える単純明快さを変わらず大事にしている」

 と、その場で架空のキャラクターを演じながら話し、会場の笑いを誘った。

 最後、「変えないDX」が世の中に広まることのメリットや価値を聞かれ、キンタロー。氏は、

「自分の中でルーティン化されたものをガラッと変えるのは怖いこと。“変えない”部分があることでDXに対するハードルが低くなり、間口も広がるのではないかと思う。自分の守りたい部分を守りながら、徐々に便利にしていくサービスはとてもありがたいものだと思う」

 と締めくくった。

「変えないDX」は、急激な変化を強いるのではなく、一人ひとりのビジネスパーソンや企業が大切にしてきた価値を守りながら前へ進むための考え方をもとにしている。

 変化に重きを置く時代にあえて、「変えない」勇気を後押しするネクスウェイ。デジタルの力で優しく社会を変えていく挑戦に、今後も大きな注目が集まりそうだ。

世界初のAI規制法SB53成立の裏側…規制緩く投資や戦略も弱い日本の未来は

●この記事のポイント
・カリフォルニア州がAI規制法SB53を制定し、開発者に透明性と安全性確保を義務づけ、連邦政府と逆の姿勢を示した。
・EUや中国と異なるアプローチが浮き彫りになり、世界でAI規制の在り方をめぐる多様なモデルが展開しつつある。
・日本は緩やかな規制の一方で投資や戦略が弱く、スタートアップは世界の規制潮流を理解し備えることが重要となる。

 人工知能(AI)が社会のあらゆる分野に浸透しつつあるなかで、そのリスクをどう管理するかが国際的な課題になっている。とりわけ注目を集めているのが、2025年9月29日に成立したカリフォルニア州のAI規制法「SB53」だ。

 AIの安全性向上や透明性確保を目的としたこの法律は「世界初」とも評され、今後の規制議論の先行モデルとなる可能性を秘めている。

 明治大学専門職大学院ガバナンス研究科の湯浅墾道教授(※浅の字は旧字体)への取材を基に、アメリカの現状と日本の課題、そして世界の潮流について整理する。

●目次

カリフォルニア州SB53とは何か

 SB53は、AI開発者に対して 安全性確保の方針を策定・公表する義務 や、重大インシデントの州当局への報告義務を課す法律である。対象となるのは主にシリコンバレーの大手企業であり、スタートアップや中小企業については一定の例外規定も盛り込まれている。

 湯浅教授は次のように語る。

「AIはブラックボックス化しやすく、開発過程や学習内容が見えにくい。透明性を高めるために、開発者自ら安全性確保の方針を公表させることは、社会的に大きな意義があります」

 背景には、カリフォルニアが歴史的に「規制先進州」であったことがある。自動車の排ガス規制や個人情報保護法制など、全米に先駆けて新たな規制を導入してきた。SB53もその流れの延長にあるといえる。

州と連邦のねじれ:アメリカにおけるAI規制の構図

 注目すべきは、カリフォルニア州と連邦政府の姿勢が正反対である点だ。

 ・連邦政府(トランプ政権)…AI規制を撤廃し、開発を加速させる方針
 ・カリフォルニア州…安全性や透明性を担保するため、開発者への規制を強化
 
「トランプ政権は規制緩和どころか、規制自体を否定しています。一方でカリフォルニアは安全性や透明性を理由に強く規制を打ち出した。全く逆の方向性です」

 この「州対連邦」の対立構図は、今後のAI政策をめぐるアメリカの大きな特徴となるだろう。シリコンバレーを抱えるカリフォルニアの影響力を考えれば、州法の影響は州境を越えて全米企業に及ぶことになる。

 SB53を支持する側は「透明性の欠如」と「被害発生後の救済困難」を問題視している。インシデント報告義務がなければ、政府は被害の全体像を把握できない。

 一方、反対派は「規制が中国との競争で不利になる」と主張する。規制による開発の遅れは、米中の技術競争で決定的な差につながるという懸念だ。

 湯浅教授は「この二つの主張は当面並立し、激しい論争が続く」と指摘する。

EU・中国との比較:利用者規制か開発者規制か

 世界のAI規制の潮流を見渡すと、各地域でアプローチが異なる。

 ・EUのAI Act…利用者への規制が強い。利用禁止用途を定め、間接的に開発者も規制。
 ・中国…生成AIコンテンツへの表示義務など厳格な統制。国家戦略と一致する部分のAI応用は加速。
 ・カリフォルニアSB53…開発者に直接義務を課す。

 湯浅教授は「卵と鶏の問題」と表現する。利用者を規制するか、開発者を規制するか。各地域の産業構造や技術力の違いがアプローチの差を生んでいる。

 日本は「緩い規制」のままでいいのか

 一方、日本のAI新法は「責務規定」が中心で、違反に対する制裁は存在しない。湯浅教授はこれを「日本独特の官民協調型アプローチ」と分析する。

「日本は役所が示す方針に企業が自主的に従う文化があり、強制的な規制を嫌う傾向があります。だが海外で規制強化が進むなか、日本の緩さは国際競争上の不利益につながりかねません」

 特に、シリコンバレーを抱えるカリフォルニアですら厳格な規制を敷く事実は、日本にとって示唆的だ。規制を設けることで「ここまではやってよい」というラインが明確になり、むしろ開発の促進につながる可能性もあるという。

 SB53は直接的にはビッグテックを対象にしているが、スタートアップにとっても無関係ではない。規制が強化されると、大企業がコンプライアンス対応に資金を投じる一方で、中小企業には「信頼性」を武器に差別化できる余地が生まれる。

 投資家やVCにとっても、規制はリスクと同時にチャンスとなり得る。安全性や透明性を確保した企業は、規制を逆手にとって市場優位を築く可能性があるからだ。

今後の展望:二つの対立軸

 湯浅教授は、今後のAI規制議論を「二つの対立軸」が支配すると予測する。

 ・規制撤廃派…技術発展を阻害しないことを最優先に、中国との競争で遅れを取らないことを強調。
 ・規制強化派…消費者の安全確保と開発基準の明確化を重視。むしろ規制によって安心して開発できると主張。

 EU、日本、アメリカそれぞれの立場や産業構造によって、どちらのアプローチを取るかは異なる。だが少なくとも、規制が「技術抑制」か「健全な発展の枠組み」かをめぐる論争は続く。

 最後に湯浅教授は、日本のスタートアップが備えるべき点として「規制対応」以上の課題を挙げる。

「日本はAIの著作物利用については非常に緩く、開発しやすい環境を持っています。しかし研究支援や補助金投下は乏しく、ハード偏重でソフトウェアへの投資が足りない。このアンバランスを解消しないと、米中に追いつくのは難しいでしょう」

 つまり、規制だけでなく、研究開発投資、人材育成、産業戦略を総合的に見直す必要がある。

 カリフォルニア州SB53は、AI規制の新しいモデルとして世界に波紋を広げている。規制は一見すると技術開発のブレーキのように見えるが、枠組みを明確にすることで企業に安心感を与え、新たな市場を切り開く可能性もある。

 日本が周回遅れを脱するためには、規制緩和に頼るだけでなく、研究開発支援や戦略的投資を含めた包括的な政策が不可欠だ。スタートアップにとっては、世界の規制動向を正しく理解し、透明性や安全性を自社の武器に変えていく姿勢が求められる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅墾道/明治大学専門職大学院ガバナンス研究科教授)

うんちが薬に。「腸内細菌ドネーション」から始まる健康の未来

「うんち創薬」という新しいビジネスをご存じでしょうか?

「うんち創薬」とは、優れた腸内環境を持つ「腸内細菌ドナー」から便を提供してもらい、腸内細菌を抽出して患者の腸に移植する「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)移植」などの医療や、創薬に取り組む事業です。同事業を推進するのが、日本発の医療・創薬スタートアップ「メタジェンセラピューティクス 」。

本連載では、メタジェンセラピューティクス代表取締役社長CEOの中原拓氏と、同事業に伴走する電通のクリエイティブ・ディレクター 佐々木瞭氏にインタビュー。「うんちのドネーション」を通じて構築される社会のビジョンや、事業の成長に電通のコミュニケーションノウハウがどう貢献できるかなどについて話を伺いました。

中原氏、佐々木氏
(左から)メタジェンセラピューティクス 中原拓氏、電通 佐々木瞭氏
<目次>
「うんち×創薬・医療」というビジネスを立ち上げたワケ

“バイオベンチャーの100均問題”を乗り越えるために必要なこと

「難病治療に社会全体が関わり合う場」を可視化するビジョンマップ

健康はおすそ分けして共有できるものに。「ヘルスシェア」という概念

「うんち×創薬・医療」というビジネスを立ち上げたワケ

──まず、本ビジネスを立ち上げたきっかけを教えてください。

中原:私は元々、情報科学を用いてゲノムやDNAなどの解析を行うバイオインフォマティクスの研究者でした。そこからビジネス寄りのキャリアにシフトしていったのですが、その中で、2018年ごろから腸内細菌のビジネスが急速に盛り上がっていく様子を目の当たりにしました。創薬の分野では、腸内細菌の研究を活用して難治性疾患の治療につなげようという動きが加速しており、アメリカでも腸内細菌を使った創薬を目指すベンチャーが次々と立ち上がっていました。

実は腸内細菌、つまりうんちの研究が進み始めたのは、2000年代前半ごろからなんです。昔はうんちなんてただの排泄物で何の役にも立たないと思われていましたが、次世代シーケンサー(NGS)(※1)を用いた解析によって、うんちに含まれる菌が実は人間の健康に寄与することがわかってきました。私自身、研究者として、まだ新しく開拓しがいがある腸内細菌という分野の研究に面白さを感じていたこともあり、ビジネスの力で研究を推進できないかと考えたんです。

※1=次世代シーケンサー(NGS)
DNAなどの塩基配列を高速かつ大量に解読する技術


ちょうどそれと同時期に、日本の腸内細菌研究の第一線で活躍する友人たちが集まって、山形県鶴岡市に「メタジェン」を立ち上げていました。その友人たちと、うんちを使った創薬事業を立ち上げようと思い、2020年にメタジェンの子会社という形でメタジェンセラピューティクスを立ち上げ、事業をスタートしました。その後、経営を分離し、現在は兄弟会社として独立して運営されています。

──腸内細菌ドネーションを、どのように医療や創薬とつなげていこうとしているのでしょうか。

中原:私たちが取り組んでいるのは、健康なうんちから取り出した腸内細菌を、腸内環境が著しく悪化している患者の腸内に、内視鏡を通じて移植するという新しい治療法の社会実装です。抗生物質を使って腸内の細菌を一度すべてリセットし、健康な腸内細菌に入れ替えることで、バランスを崩した腸内環境を正常な状態へと導いていくんです。

まだ日本には、うんちを原料とした薬はありませんが、実は、腸内細菌叢移植は指定難病である潰瘍性大腸炎や、アレルギー、ぜんそく、アトピー性皮膚炎といった免疫系疾患などに対する新たな治療法として期待が集まっています。

腸内細菌を用いた医薬品の原材料を作るには、健康な人からうんちを提供していただかなくてはならない。そこで私たちは、「腸内細菌ドネーション」という仕組みを通じて、献血のようにうんちを提供してもらう“献便”の取り組みを、電通さんと一緒に始めています。

中原氏

“バイオベンチャーの100均問題”を乗り越えるために必要なこと

──電通とプロジェクトを始めるきっかけは何だったのでしょうか?

中原:いわゆる「バイオベンチャーの100均問題」というものをご存知でしょうか?日本では、技術や商品が難解なバイオベンチャーは、上場する際、その実態にかかわらず時価総額が一律で約100億円程度に設定されがちだという問題です。たとえどんなにユニークで社会インパクトの大きいビジネスに取り組んでいても、前例主義に「右へ倣え」で100億円程度に「値付け」されてしまう。本来であれば、科学的なポテンシャルや臨床的な進展に応じて、企業の価値が評価されるべきですが、それを評価できる投資家が日本にはまだ少ないのが現状です。そこで、知人のクリエイティブ・ディレクターに相談を持ちかけたところ、佐々木さんをご紹介いただいたんです。

佐々木:「うんちから薬を作ろうとしている会社がある」という話を聞いたとき、こんな一見奇妙で面白いテーマに本気で取り組んでいる会社があることに驚き、興味を持ちました。初めて中原社長にお会いする前、6時間にも及ぶ経営合宿の映像をいただき勉強したところ、その興味は、このビジネスが日本から生まれる意義への深い理解に変わりました。それと同時に、自分が6時間かけて理解した、このインパクトのあるテーマの裏にあるポテンシャルを、短い言葉やコンセプトでぎゅっと凝縮することで、さまざまなステークホルダーに、この会社の圧倒的な「ちがい」をもっと早く、クリティカルに伝えることができないだろうか、とも思いました。「100均問題」は深淵な問題ですが、ある種のブランディングを通じてこれを解決できないだろうか?と。

中原:当初は、相談ベースのやりとりをしながら、中期経営計画の壁打ちなどを続けていましたが、話を重ねるうちに、IPOに向けた課題が明確になっていきました。腸内細菌叢移植を行うには、健康な便を提供してもらう必要がありますが、治療に使えるかどうかの厳しいチェックを通過できる「うんちエリート」に該当するドナーはなかなかいません。そのため、できるだけ多くの人に協力してもらう必要がありますが、「うんちを集めている団体がある」ということ自体、まだ世の中にはほとんど知られていませんでした。そんな中で、どうすればドナーとして協力してくれる人を集められるのか、ということも課題になっていたんです。

そのためには、私たちとしても、きちんとブランドを構築し、より多くの方の認知を得ていくことは重要だと考えていました。そこで、ブランディングのパートナーとして電通との関係性を再定義し、現在のような関係に発展していきました。

佐々木:メタジェンセラピューティクスは、いわば、健康な人のもつ潜在能力を、病を抱える人の治療に活かすことに挑戦する唯一の医療・創薬企業であるといえます。

この「患者だけでなく健康な人、つまり社会全体と向き合ってひろがる」事業の構造は、メタジェンセラピューティクスという会社の世の中への影響範囲を非常に大きなものへ化けさせています。しかし、その「健康な人から健康がひろがる」という社会意義が、投資家など社外のステークホルダーに十分に伝わりきっていないのではないかとも感じました。

佐々木氏

やはり、こういったディープイシューに取り組む企業は、自社のもつ商品やサービス、技術がすでに目の前にある企業と比べ、事業のインパクトを短期的な数字で語りづらいため、どうしても評価が難しくなります。しかし、描いているビジョンの輪郭をはっきりと可視化していくことで、事業の未来価値を評価する難しさという問題を解消していくことができるのではないかとも思います。

「難病治療に社会全体が関わり合う場」を可視化するビジョンマップ

──「ちがいを伝える」という問題意識から、どんなアウトプットが生まれていったのでしょうか。 

中原:当初は、「事業スキームの全体像をどう表現するか」という話からスタートしました。私たちのビジネスモデルには、ドナーからうんちを集めるバイオバンクという基盤事業の上に、腸内細菌を活用した創薬事業、腸内細菌叢移植を行う医療事業、研究機関や一般企業と連携した事業開発支援といった3つの事業があります。こうした構造をただ説明するだけでなく、私たちの価値や取り組みを正しく、そして効果的に伝えていくためには、事業全体の世界観そのものを表現することが有効なのではないかという仮説に至りました。

そこから、製薬や医療の関係者だけではないすべての人が、日常生活を通じて、難病治療のために関わり合っていく世界を作っていく、というビジョンが生まれてきたんです。そうした思いを、一枚の絵に可視化してみようというアイデアが生まれ、ビジョンマップの作成につながっていきました。

ビジョンマップ

佐々木:先進医療って、一般的には限られた専門領域の中で閉じているイメージがあるかもしれませんが、メタジェンセラピューティクスが実現する腸内細菌医療の営みは、さまざまな人との開かれた関係性の上に成り立っている。このこと自体が、すごく重要なファクトだと思っていて。それを世の中や投資家、そして今後パートナーになっていく企業に向けてしっかり伝えていく必要があるよね、という話になりました。

ビジョンマップを作れば、水戸黄門の印籠みたいに、この事業が何をしていて、どんな価値があって、どんな可能性があるのかが、一目で伝わるようなものとして機能する。そんなふうに考えて作りました。実際の“印籠”の効果はどうですか? 

中原:今いくつかの会社と将来の協業について話しているのですが、ビジョンマップを作ってからは、そうした話が格段にスムーズになりましたね。例えば私たちは広くドナーを募っていて、献便に協力してくださった方には、協力費として最大5000円分の金券をお渡ししています。ただ、これまでは事業の説明をして、「健康なうんちを5000円で買っているんですよ」と言っても、なかなか本質的な意義が伝わらないことも多かったんです。でも、ビジョンマップを見せると、そうした活動の背景や世界観が一気に伝わります。相手の理解も深まりますし、「こういうビジョンのイメージを持っていること自体がうらやましい」と言ってもらえることもあり、本当に強力なツールになったと実感しています。

健康はおすそ分けして共有できるものに。「ヘルスシェア」という概念

佐々木:このビジョンマップ作成の過程で行き着いた、健康の考え方における新しい言葉があります。それが「ヘルスシェア」という概念です。日々出している、究極の不要物であるうんちで、誰かが救われる可能性がある。献便は、自分の健康を“おすそ分け”するような感覚で、人と分かち合える行為なんです。これは、なにひとつ自己犠牲を伴わない、まったく新しいドネーションの形です。

そしてこの考え方は多分、健康そのものの概念を変えると思うんです。これまで健康とは、当たり前ですが、自分のために保つものでした。それが他の誰かと共有できるものになりうるというのは、すごく大きな価値観の転換だなと。健康を「利己」から「利他」の営みに変えていく未来をひとことで表す言葉とは、「ヘルスケア」ならぬ「ヘルスシェア」なんじゃないかと思いました。

──ビジョンマップの作成と同時に、企業リブランディングを行ったそうですが、これにはどんな目的があったのでしょうか。

佐々木:元々は親会社であるメタジェンと同じロゴを使っていたのですが、やはりメタジェンセラピューティクスとして独自のコーポレートアイデンティティを示すブランドシンボルが必要だと考えました。一見、不浄で不要なものに思えるうんちを全く新しい角度から科学し、新しい価値に還元するという着眼点のユニークネスを形にできれば、この企業の違いを表現する強力なツールになっていくんじゃないかと思い、進めていきました。

「自分のうんちを誰かに提供する」という行為を、とても意義のあるかっこいいこととして捉えてもらえるようにするには、デザインを含めたリブランディングの取り組みは重要だよね、という話を中原さんとも共有しながら、方向性を考えていきました。

ロゴデータ
新たなCIの開発にあたっては、4CRプランニング局 友田菜月氏がアートディレクションを行った。

ロゴ集合画像
中原:このブランドシンボルの核となっているのは、「人から人へと健康を受け継ぐ」聖火“Torch”と、「うんちの見方を変える」という新しい視点“New Perspective”です。うんちのアイコンを見る角度を変えて、上から見た形状をモチーフにしながら、そこに“Torch”のイメージを重ねることで、情熱と命のエネルギーを感じさせるビジュアルにしています。

私たちは普段、便をただのゴミとして、トイレで当たり前のように流していますが、見る角度を少し変えるだけで、そこにはまったく新しい価値が生まれることがある。それこそが、私たちがこのコーポレートアイデンティティに込めた、大きな意義です。

※後編につづく

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あなたの得た情報は「偏っている」?データで読み解く情報偏向への向き合い方

電通デザイアデザイン(DDD)は消費と欲望の関係から、さまざまなソリューション開発や情報発信を行う組織です。

第21回からは、DDDが実施している「心が動く消費調査」を分析。調査結果から得られたインサイトやファインディングスをお伝えしています。

今回は、2025年5月に実施した第10回の調査結果に基づき、DDDの千葉貴志が情報取得における認識と行動をテーマに調査の結果を考察します。

「情報の偏り」への意識と行動で、令和の消費者意識をひもとく

情報爆発といわれて久しい昨今において、われわれが日常生活において接している情報は、スマートフォンを中心に一人一人に向けてパーソナライズされています。自分がその日接した情報が隣の人と全然違うのは当たり前になっており、「みんなが知っていること」というものは昔と比べて少なくなっています。

しかし、「自分が普段得ている情報は、偏っている」と思うかを聞いたところ、「そう思う」「ややそう思う」と答えたのは52.1%、「そう思わない」「あまりそう思わない」が47.9%となり、半数近くの人が「偏っていない」と思っていることが明らかになりました。

DDD#24 自分が普段得ている情報は、偏っていると感じている 図版1

では、情報取得に向けた行動についてはどうでしょうか。「自分とは異なる立場の人の意見や考え、情報を知るための行動をとっている」かどうかを聞いた結果が以下のグラフです。

「そう思う」「ややそう思う」が46.0%、「そう思わない」「あまりそう思わない」が54.0%と、こちらは「そう思わない」「あまりそう思わない」がやや多いという結果になりました。


DDD#24 自分とは異なる立場の人の意見や考え、情報を知るための行動をとっている

そこで今回は、この「情報の偏り」について、「偏っているという意識」と「異なる意見や情報を知るための行動」という2つの軸を組み合わせることで、令和の消費者の情報に対する向き合い方を見ていきます。

情報への向き合い方は、年代によって顕著な差

はじめに、4象限で分類した時の割合を見てみます。一番多いのが「情報の偏り認識なし×自分と異なる意見や考えに対する積極的な情報の取得行動なし(以降、積極的な情報の取得行動なし)」で29.0%、次に多いのが「情報の偏り認識あり×積極的な情報の取得行動あり」27.1%となっています。

一番少なかったのは「情報の偏り認識なし×積極的な情報の取得行動あり」でしたが、それでも18.9%のボリュームがあります。多少の差はあるものの世の中全体として、4象限それぞれに一定のボリュームの消費者がいることが分かります。

DDD#24 偏りの認識有無と積極的な情報の取得行動の有無 図版3

一方で、象限別の年代構成を見てみると、大きな違いが見られます。

DDD#24 象限別年代構成比 図版4
※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合や、テキストの記載と差が発生することがあります。


例えば、情報の偏りの認識があり、そのうえで積極的な情報取得のための行動をとっている「情報の偏り認識あり×積極的な情報の取得行動あり」層は、30代以下で47.0%と半数近くを占めますが、50代以上では31.2%にとどまります。

対して、「情報の偏り認識なし×積極的な情報の取得行動なし」層は、30代以下で25.8%とおよそ4分の1しかいない一方、50代以上では54.8%と過半数以上を占めています。

こうした状況から、情報の偏りと積極的な情報取得のための行動については明らかに年代による違いがあると言えます。

現代の消費者が抱える「欲望」は、情報偏向意識と行動に影響するか

次に、同じ4象限に対して、DDDが定義する「11の欲望」※を基に、各欲望を最も強く持つ人々ごとの違いを見てみましょう。

DDD#24 11の欲望

DDD#24 各欲望を最も強く持つ人々の違い 図版5

※「11の欲望」について詳しくは、こちらをご覧ください。
「新しい欲望に、名前をつけてやる。」( ウェブ電通報)
DENTSU DESIRE DESIGN、人間の消費行動に影響を与える「11の欲望」2024年版を発表 


レーダーチャートを見てみると、ほぼすべての欲望因子において、各象限の傾向が同じような形となっています。その中で、「情報の偏り認識あり×積極的な情報の取得行動あり」層(水色)は、他の象限よりもすべての欲望が強く、逆に「情報の偏り認識なし×積極的な情報の取得行動なし」層(薄いオレンジ)は全項目弱い様子が見てとれます。

つまり、情報の偏りに対する自己認識と積極的な情報の取得行動の有無は、各自が持つ「全体的な欲望の強さ」と相関があると言えそうです。

また、概ね同じような形のチャート図を示す中でも「承認&優越」「興奮&享楽」「収集&没頭」といった、比較的消費行動につながりやすい3欲望には各象限における、数値の差が比較的顕著にみられます。その点を踏まえると、各象限は全体的な欲望の強さに差があることに加えて、価値観や消費行動にもある程度の偏りや違いがあると考えられます。

幸せを感じやすいのはどのタイプ?情報への向き合い方と「価値観」の関連性

ここからは、象限ごとの価値観について見ていきます。「自分は幸せだと思う」かどうかを聞いた結果が以下のグラフです。

DDD#24 自分は幸せだと思う 図版6

「自分とは異なる立場の人の意見や考え、情報を知るための行動をとっている」と答えた「情報の偏り認識あり×積極的な情報の取得行動あり」層、さらに「情報の偏り認識なし×積極的な情報の取得行動あり」層のほうが、行動をとっていない2つの層よりも「幸せだ」と考えている人の割合が高い結果となりました。

情報があふれる社会においては、情報に対する向き合い方と幸福感は無関係ではないと言えるのかもしれません。

他の価値観項目についても見ていきます。

DDD#24 価値観項目 図版7

いくつか特徴的なところを詳しく見てみましょう。

「インターネット上の情報よりもテレビ局や新聞社などの大手メディアの情報を信頼している」と答えた人の割合が、全体平均では56.7%でしたが、「情報の偏り認識なし×積極的な情報の取得行動なし」層が60.3%と他の層と比べて大手メディアへの信頼度が高いことが分かります。これは図表4で示した年代構成の影響も大きいと考えられます。

「YouTubeなどの動画共有サービスでレコメンドされた動画コンテンツを見ていると、自分の興味関心が広がっている気がする」という項目については、「情報の偏り認識なし×積極的な情報の取得行動あり」層が63.3%と他の層より高くなっています。

レコメンドは多くの場合、ユーザーの検索内容や再生状況から、興味関心に近いものを深掘りしていく機能です。しかし、自分の得ている情報を偏っていないと捉えているこの層の人たちは、「興味関心の深掘り」ではなく「興味関心の広がり」の契機と捉えているのではないでしょうか。

「日常の裏に潜む誰かの苦労や不幸せを知る機会を得たい」という項目と「自分さえ幸せであればいいと思う方だ」という項目を組み合わせてみると、どちらも「情報の偏り認識あり×積極的な情報の取得行動あり」層が一番高い結果となっています。「誰かの苦労や不幸せを知りたい」と思いながらも、「自分さえ幸せであればいい」と答える人が多い点からは、「誰かの苦労や不幸せ」を見ることで、相対的に自分の幸せを確かめている可能性もあるのかもしれません。

情報の偏りは、単に世の中から「みんなが知っていること」が減っているというだけでなく、幸福感やさまざまな価値観の違いとも関連があることが分かりました。個人としても社会としても、どういった状態が「情報空間や情報摂取においてあるべき未来」なのかを考えながら、周囲を取り巻く情報と向き合っていく必要があるのではないでしょうか。

【調査概要】
第10回「心が動く消費調査」
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:15~74歳男女
・サンプル数:計3000サンプル(15~19歳、20代~60代、70~74歳の7区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け)
・調 査 手 法:インターネット調査
・調 査 時 期:2025年5月13日(火)~ 5月16日(金)
・調 査 主 体:株式会社電通 DENTSU DESIRE DESIGN
・調 査 機 関:株式会社電通マクロミルインサイト

 

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歴史をヒントに!「今」をつくった未来コンセプトを考察する

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グラフィックレポート&挿絵:甲斐千晴(電通グラレコ研究所 代表)

2025年6月、電通グループ横断組織「未来事業創研」の初の書籍「未来思考コンセプト―ポストSDGsのビジョンを描く」が刊行されました。本連載では、書籍のテーマでもある「未来コンセプト」について解説しながら、「未来」をビジネスに活用するヒントをお伝えしています。

2回目の今回は、時代をつくってきた歴史上の人物に焦点をあて、彼らがどのような未来を描き、社会を動かしてきたのか――。描いた未来を具現化するプロセスを未来事業創研の山田茜が考察していきます。

歴史は見えていること見えていないことがあり、人によってさまざまな捉え方が存在します。今回取り上げる歴史上の人物やエピソードはあくまで「未来思考に繋がるエッセンス」の一つとして紹介しています。

mirai07未来思考コンセプト―ポストSDGsのビジョンを描く
発行:クロスメディア・パブリッシング/編著者:電通未来事業創研

ポストSDGs時代を目前に、未来への期待よりも課題が語られやすい今だからこそ、「未来は予測するものではなく、つくるもの」という考えを大切にし、「つくりたい未来」を描くことの必要性を、ビジネスと未来の関係性を交えて実用的にまとめた一冊。

 

 

偉業を成し遂げた歴史上の人物は未来コンセプトをもっていた!?
 

第1回でもご紹介した通り、未来事業創研が提唱している「未来コンセプト」とは、「つくりたい未来像」を描き、その未来を実現するために必要な事業や活動をどのように進めていくかという指針を言語化したものです。

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「未来コンセプト」と聞くと、新しい発想のように思われるかもしれませんが、じつは時代や領域を問わず、人々を動かし、世の中を変えてきた歴史上の人物は皆、「どんな未来をつくりたいか、そのために何をするか」という考えを明確にしています。つまり、明確なビジョンと、そこに至る道筋=未来コンセプトが、人や社会を動かし、現実を変える原動力だったと考えられます。

例えば、聖徳太子は、争いを防ぐために十七条の憲法を制定しました。第一条にある「和を以て貴しと為す(わをもってとうとしとなす)」という言葉は、何事をするにも人々が仲良く和合することが大切であることを意味しています。まさに当時、聖徳太子が願った未来コンセプトとして捉えられるのではないでしょうか。

平和な世の中をつくりたいという信念で、天下統一という手段を取った徳川家康は、長く続いた戦乱を終わらせ、日本に安定と秩序の時代をもたらしました。

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こうして歴史を見渡すと、未来をつくるアプローチは一つではありません。“争いのない未来をつくりたい”と同じ未来を願っていても、力によって統一していく考え方もあれば、理解によって争いをなくしていこうとするアプローチもあります。つくりたい未来は同じでも、そこに至る未来コンセプトは人それぞれ多様であることもまた、未来を考える上での大切なヒントとなります。

今につながる未来を描いた「平和の人」

もう一人、今につながる未来を描いた先人の例を掘り下げてみましょう。それは、「つくりたい未来像」や未来コンセプトが明確だった元南アフリカ共和国大統領のネルソン・マンデラ(1918-2013)です。彼がつくりたい未来を実現していった過程は非常に学びがあり参考にできるポイントがいくつもあるため、未来思考につながるエッセンスの一つとしてご紹介します。

マンデラが描いていた「つくりたい未来像」は、肌の色や出自に関係なく、誰もが尊厳と自由をもって生きられる社会でした。当時の南アフリカでは、少数の白人が政治・経済の実権を握り、黒人を隔離・差別する人種隔離政策(アパルトヘイト)が長く実施されていました。そんな状況の中、反アパルトヘイト闘争を率い、27年間もの投獄生活を余儀なくされていたマンデラ。しかし彼が釈放後に選んだのは「勝者が敗者をねじ伏せる未来」ではなく、「支配者層と差別を受けていた側が同じ国をつくり直す未来」。つまり、報復ではなく「赦(ゆる)し」と「共存」であり、お互いの思想の違いを受け入れ、共に前に進むことを目指したのです。

これを私なりに解釈すると、マンデラが描いた未来コンセプトは、
「赦しと対話で平和と共生をつくる」
そして注目すべきは、このコンセプトをマインドで終わらせず仕組みに落とし込んだことです。


象徴の力を生かし、皆で共有

1948年に法制化されたアパルトヘイト政策は1994年に撤廃。同年、マンデラは南アフリカ初の民主的な普通選挙によって大統領に就任しました。しかし、これまでの人種差別の遺恨は根強く、依然として国内は支配層の抑圧に被支配層が闘争する状態が続いていたのです。

そこで当時のマンデラは、1995年に自国開催となったラグビーW杯をきっかけにして、人種的な分断を終わらせる努力をしたのです。

じつは、当時の南アフリカでは、ラグビーは支配層に人気のスポーツ。ラグビー代表チームも白人選手で構成されており、アパルトヘイト期の支配層を象徴するものでした。そのため、当時マンデラが率いていた与党内でもラグビー代表チームの廃止論が強かったようですが、マンデラはあえて存続を支持し、“One Team, One Country”という言葉を掲げました。

代表合宿を訪ねて選手やスタッフと対話し、代表チームには、被支配層の居住区訪問や学校・病院での交流を促し、支配層ファンには被支配層社会への敬意を、被支配層ファンには“このチームを一緒に応援しよう”というメッセージを発信したのです。

そして迎えたW杯の決勝戦当日。かつてはマンデラの存在に反発していた支配層の観客で埋まったスタジアムが「ネルソン!」の大合唱に変わり、南アフリカ代表チームは優勝。表彰式でマンデラが代表チームのジャージ姿でトロフィーを手渡す光景は、「分断の象徴」を「共有できる誇り」に再設計した瞬間でした。

支配層と差別を受けていた側が同じスタンドで同じチームを応援する体験を国家的にデザインし、人々に共有させたのです。

さらに真実和解委員会(Truth and Reconciliation Commission)(※)を設け、過去の暴力と不正を公に語り、謝罪と赦しのプロセスを制度として構築しました。理念を掲げるだけでなく、仕組みに落とし込む。ここが彼の未来コンセプト「赦しと対話で平和と共生をつくる」の核です。


※真実和解委員会=過去に起きた深刻な人権侵害や社会的対立を調査・記録し、被害者の声を聞くことで、社会の和解と再建を目指すために設置される委員会。

 

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「虹の国」という共通の物語づくり

マンデラの未来コンセプトのもう一つの核は、「共通の物語づくり」です。

マンデラは南アフリカを「虹の国」という言葉で呼ぶことにしました。さまざまな人種や文化が一つの国で共に生きていく多様性を、色とりどりの虹にたとえています。異なる色は混ざれば濁るのではなく、並ぶからこそ美しい。そう語るメッセージを国の旗に、歌に、スポーツに宿らせたのです。未来は我慢の積み上げではなく、皆で共有できる物語が引っ張っていく、これがマンデラの設計思想でした。

マンデラの未来コンセプトは、対立が常態化した世界で実装可能な方法論でした。彼の実績から、平和は願うだけではなく、赦しと対話、象徴の再設計、制度化、物語の共有……これらを設計して運用するものだという学びを得ることができます。

現代へのヒント、そして未来へ

ではマンデラがつくり出した「当時の未来」は、いま世界にどのように引き継がれているのでしょうか。私は3つの方向で、マンデラのつくりたい未来像が実現していると考えます。

1. 権利の明文化
南アフリカはアパルトヘイト終結後の新憲法(1996年採択)で、人種だけでなく性別や性自認および性的指向など広い差別禁止を明記しました。さらに、同性婚の合法化(2006年制定)も実現しました。法に明文化するアプローチでの差別禁止は各国で広がり、ヘイトクライム禁止や婚姻・雇用での差別禁止などが具体的に定着しつつあります。誰がどの場面で不利益を受けないようにするかを法律に落とし込んだことから、ダイバーシティがいっそう前進するようになりました。

2. 真実と和解の見える化
南アフリカの真実和解委員会の手続きは、カナダの先住民寄宿学校制度をめぐる問題や、南米・アフリカ・ヨーロッパ各地の人権侵害の検証にも応用されているといわれます。加害と被害の事実を公にし、記録し、必要な謝罪と補償を設計していく。差別の歴史を闇に葬ることなく「見える化」し、将来の再発防止に結びつける仕組みとしているのです。

3. 象徴と言語の再設計
南アフリカは11もの公用語を認め、国旗や国歌に多文化性を組み込みました。その後現在に至るまで、各国でも、先住民言語の公的表示や学校教育への導入、スポーツ代表や式典での多言語運用など、日常の場面に多様性を埋め込む工夫が広がっています。マンデラの取り組みは、その端緒です。

「差別を禁止する条文」「過去と向き合う制度」「多文化を可視化する象徴」。マンデラの描いた未来は、今も3つの具体として世界に受け継がれています。平和は願うだけでなく、この3つを積み重ねていくことで、ダイバーシティを「生きた現実」に変えていくのだと私は感じました。これからの未来に向けて、ますます差別が起きにくい社会を、感情ではなく仕組み化し、それを運用する流れが進んでいくと考えます。

マンデラが示した順番も明快です。どんな景色を誰と共有するかを具体化し、赦しと対話を手段に選び、象徴と制度に落として運用する。ダイバーシティは“掲げるもの”から“機能するもの”へ。理念だけでなく、未来コンセプトに基づいた取り組みが日常に浸透していく未来につながっていくのではないでしょうか。

未来コンセプトが次世代をつくる力に!

今回取り上げたマンデラや聖徳太子、徳川家康らの歴史上の人物は、それぞれ「こんな社会にしたい」という明確な未来像と、それを実現するための太い軸となる「未来コンセプト」を持っていました。全員の共通点は、社会や組織を良くしたいという未来への強い思いと、そのためのコンセプトややり方を自分なりに持っていたことです。「つくりたい未来像」が具体的で解像度が高いからこそ、実際の手段や制度策定に生かされ、次世代をつくる力になります。

書籍「未来思考コンセプト―ポストSDGsのビジョンを描く」でも、企業や自治体の成功事例を「つくりたい未来像・未来コンセプト・具体手法」という構造で整理し、紹介しています。今すでに面白い取り組みとしてご紹介できる事例は、過去のある地点で「つくりたい未来像」を描くことに向き合った結果です。

歴史を振り返り、当時の“当たり前”が、どう変化したのか?を考えることで、10年後、私たちは何を大切にしているだろう?今の“当たり前”は、未来にどう変化していくだろう?そして、自分や自社は、その未来にどう関わっていきたいのか?という部分も浮き彫りになると感じます。

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過去にとっての現在は、私たちにとっての未来とも言えます。先人たちが描いた未来像や未来コンセプトには、今を生きる私たちが学べる視点が詰まっています。ただ、こうした「つくりたい未来像」を描くためには、これから訪れる未来の変化を知り、向き合うことも欠かせません。

次回からは、未来事業創研のメンバーがテーマごとに未来の兆しを読み解きながら、「どうすれば人と社会にとってより良い未来が実現できるのか」を探っていきます。お楽しみに!

関連情報:
未来を可視化し、未来の事業をつくるプログラム Future Craft Process

参考文献:
・ネルソン・マンデラの生涯、終わりなき人種差別との闘い(ナショナル ジオグラフィック日本版サイト)
・リチャード・ステンゲル「信念に生きる ― ネルソン・マンデラの行動哲学 Kindle版」
・The Constitution of the Republic of South Africa
・South African Government
・南アフリカ:「虹の国」南アフリカ 故マンデラ大統領が目指した多様性は今(アムネスティ日本)
・Truth and Reconciliation Commission of Canada(カナダ政府:TRC)
・National anthems / Ngā ngaringari(ニュージーランド政府)
・ラグビーと南アフリカ(南アフリカ観光局)
・映画「イン・マイ・カントリー」(DVD)

 

【グラフィックレポートの制作:電通グラレコ研究所 代表 甲斐千晴】
電通グラレコ研究所は、グラフィックレコーディングやファシリテーションを中心としたビジュアライゼーションサービスの提供と研究を目的とする電通グループ横断プロジェクトチームです。本記事の著者が最も伝えたいことを、未来思考コンセプトの世界観の中で描き上げました。https://www.dentsu.co.jp/labo/grareco/index.htmlmirai09
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