「気持ちのいい選択肢はだいたい間違い」修羅場化したSNS空間で炎上しないために

●この記事のポイント
・SNSの炎上が激化し、匿名ユーザーやインフルエンサーによる誹謗中傷が深刻化。上場企業経営者は「大人の対応」と冷静さが求められる。
・株主権の行使は適切な言葉と態度で行うべきであり、SNSを舞台にした過激なアクティビズムは法制度の想定を超えている。
・炎上対応では弁護士・危機管理コンサルタント・PR会社の3者連携が不可欠。感情に流されず、長期的・客観的視点で行動することが信頼維持の鍵となる。

 SNSの利用者の増加により、ネット炎上の規模がこれまでになく大きくなっている。これに伴い、アクセス数を目当てにしたインフルエンサーが力を集め、彼らに煽られた匿名ユーザーによる誹謗中傷も悪質化しているようだ。

 そんな「修羅場化したSNS」の時代に、私たちはどうやって自分の身や自社を守っていけばいいのか。経営実務の当事者として上場企業の経営権争いや炎上対応を経験し、現在では危機管理コンサルタントとして活動する小松裕介氏に話を聞いた。

●目次

社会的立場のある成功者なら「大人」の対応を

――最近、SNSにおいて上場企業が批判にさらされ、それが元でトラブルに発展しているケースが多く見受けられます。会社側にはどのような基本スタンスが求められますか。

小松裕介氏 まず前提として、株主をはじめとするステークホルダーが、上場企業の経営陣に対して経営方針等に意見や疑問を示すことは、当然に認められるべきだと思います。

 株式市場で適正な価格形成を実現するためには、多様な意見や議論が保証されることが不可欠です。上場企業の経営者が投資家からの批判的な視線に耐えられないのであれば、そもそも上場すべきではなかった、ということになります。

 最近では、匿名アカウントによる適法な投稿に対して「個人情報を開示請求してさらすぞ」などと脅す経営者も見受けられます。こうした行為は、場合によっては不法行為に該当する可能性があります。

 社会的立場のある上場企業の経営者である以上、ときには誹謗中傷に近い言葉であっても、同じ土俵で応酬するのではなく、冷静に受け止めたり受け流したりすることが求められます。経営者としての器や人間力を磨くことも大切です。株式上場を目指すスタートアップ経営者も、将来は上場企業の経営者になるわけですから、SNS上での批判に対して過敏になり過ぎないことが重要です。 

 時には法律の力を借りることも重要ですが、何でも法的に訴えるのは得策ではありません。ビジネスが社会に長く受け入れられ、確かな信用を築いていれば、些細な罵詈雑言に対応する必要はないはずです。大人のレベルになろうよ、という話が一番大事ではないでしょうか。

――一方、小松さん自身は経営者としてさまざまなトラブルに巻き込まれたり、それに対処したりしてきたわけですが、それはどういうケースだったのでしょうか。

小松氏 代表的なのは、所属YouTuberが悪質な誹謗中傷を受けたケースです。私がYouTuber事務所VAZ(バズ)の社長を務めていたとき、迷惑系YouTuberが所属YouTuberに対し、毎日のように誹謗中傷を繰り返してきたことがありました。

 このときは、被害者が未成年だったこともあり、弁護士や警察と速やかに連携して対応した結果、加害者は名誉毀損容疑での逮捕となりました。最終的に加害者は、懲役2年6か月(執行猶予4年)の有罪判決を受けています。

株主の権利行使と適切なコミュニケーションは両立する

――それは「大人の対応」では済まされないですね。

小松氏 この迷惑系YouTuberは、どのような理由であれ再生数が伸びれば利益につながると考えていたようです。事件後のインタビューでは「民事で裁判しても出費は30万円程度で済む」という弁護士の誤った助言を信じ、費用対効果の面から判断していたと語っています。

 つまり「仮に訴えられても経済的には得だ」と考え、迷惑行為をやめなかったということです。しかし最終的にはYouTubeのアカウントを削除され、収入も失う結果となりました。

――最近では、上場企業の従業員を侮辱したとして、元上場企業の執行役員でもあったインフルエンサーが、警察から事情聴取を受け書類送検される事案がありました。

小松氏 彼は株主として、いわゆるアクティビズム活動(株主による企業経営への介入)を行っていただけだと主張しています。彼はXに「いや、ぶっちゃけ、もし有罪になっても判例を見ると罰金9000円からせいぜい10万円でしてw」と投稿しており、仮に罰金刑となっても自身の収入や資産からすれば微々たるものだとして、攻めの姿勢を崩さないことを優先しているようです。

 もっとも、これは現行の侮辱罪のペナルティが低すぎることを逆手に取ったものであり、問題視すべき姿勢です。実際、テラスハウス事件などを契機として侮辱罪の厳罰化が進んでいます。私自身もVAZの社長時代に、DMに届く罵詈雑言に心をすり減らすYouTuberを多く見てきました。ネット上の炎上は、時に人の命を脅かすほど深刻な問題だと感じています。

――当該インフルエンサーのケースを整理すると、どうなりますか。

小松氏 今回の件では、侮辱罪に該当するような投稿を行った点が問題だったといえます。また、報道に対して「こんなことで訴えていたら、言論を萎縮させることにつながりかねない」と発言していますが、侮辱罪での書類送検が「株主の権利の抑制」に直結するかのような主張は誤りであり、その点を混同しているように見受けられます。

 株主としての正当な権利行使と、適切なコミュニケーションを維持することは両立します。適切な言葉を用いながら、会社や経営陣に対して「株主の意向を踏まえた経営を行うべきだ」と主張することは可能です。会社法でも、株主と経営者間の関係を定める規律として、株主総会はもちろんのこと、少数株主権の行使なども規定されています。

SNSで「アクティビストの過激化」が進むおそれも

――本来はSNS上ではなく、法律やビジネス常識の枠内で主張すべきだということですね。

小松氏 基本的にはそのとおりです。必ずしもSNS上での株主としての意見表明を否定するものではありませんが、少なくとも適切な言葉で主張すべきです。

 昨今では、株主総会においても株主権の濫用が問題視されています。過去の例として、野村ホールディングスは「野菜ホールディングスに社名を変更せよ」といった大量の株主提案を受けたことがありました。このような大量の株主提案の問題を受けて会社法が改正され、株主提案は1人10件までに制限されました。

 また、今後もSNSによって株主によるアクティビズムが過激化していくおそれがあると考えています。

――アクティビズムの過激化とは、具体的にどういうものでしょうか。

小松氏 アクティビズムの過激化とは、会社法が規定する株主の権利の本来の目的を超えて、自己実現や注目獲得を狙う動きのことです。特にインフルエンサーは、SNSでの発言が注目を集めやすく、それが経済的利益につながるため、過激な主張をすればするほど費用対効果が高くなります。これは迷惑系YouTuberの傾向にも似ています。

 例えば、会社法では、少数株主権として、先ほどの株主総会の議題や議案の提案権だけでなく、株主総会議事録、取締役会議事録や株主名簿の閲覧謄写請求権なども規定されています。本来ならばこれらの権利行使を通じて株主と経営陣が対話をしていくことが想定されているところ、アクティビズムの過激化では、権利行使をすることで世間の注目を集めることが目的になってしまっているのです。

 この問題の難しさは、インフルエンサーに限らず、本当の資本市場のプロフェッショナルであるアクティビストファンドであっても、同様の行動を選択することがあることです。世間の注目を集めたほうが対象会社の株式の売買出来高は増えますし、ファンドの知名度が高くなれば当該ファンドへの出資希望者も増えるという事実もあります。

――今後SNSを使ったアクティビズムの過激化が進むかもしれないと。

小松氏 そのおそれはあります。私自身も近年も株主総会のプロキシーファイト(委任状争奪戦)に関わった経験がありますが、明らかに実現可能性が乏しい業績目標を掲げたり事実と異なる誹謗中傷をしたりする事例が増えています。その際には情報発信の手段としてSNSが活用されます。現行制度では、仮に委任状勧誘規制違反があったとしても、決議の方法が「著しく不公正」でなければ株主総会決議は取消が認められません。

 背景には、従来の法制度がSNS時代に対応していないという問題があります。インフルエンサーによって株主総会や委任状争奪戦の過激化が進んでも、十分に制御できる法的枠組みが整っていないため、現状では効果的な抑止が難しいのです。

客観的かつ中長期的な目線で冷静に考える

――インフルエンサーによるアクティビズムは、従来の「モノ言う株主」といわれるファンドと似ているところがありませんか。

小松氏 確かに「モノ言う」点では似ていますが、リーガルコストをきちんと払っているかどうかは異なります。アクティビストファンドはインサイダー規制を含めて関連法令を熟知したうえでコミュニケーションを図り、コストを払いながらリターンを出しています。

 一方、個人のアクティビストは、多くの場合はリーガルコストを払っていないので、弁護士が入っていたら真っ先に止められるようなことも平気でしている。インフルエンサーも商売としてやっているのであれば、やはりそこはプロフェッショナルとして片手落ちでしょう、という感じは否めないですね。

――誹謗中傷が許容できないラインを超えてきたと感じたとき、会社はどのような対処をすればよいのでしょうか。

小松氏 リスクマネジメントのさまざまな案件をこの10年ほどやってきて、プロフェッショナルな弁護士の先生ともよく話すのですが、結論を言うと「気持ちのいい選択肢はだいたい間違っているよね」ということです。

 例えば、迷惑系YouTuberから誹謗中傷をされて炎上したりすると、やっぱり焦ってすぐに反論したくなりますよね。しかし、多くの人の注目を集めることが目的である彼らからすれば、反論なんかしたって喜ぶだけなんです。情報が正しいか間違いか、なんていうことは論点ではない。

 だから、ムカついた気持ちを晴らすために言い返したくなるところをグッとこらえて、アクションを取る前に「このやり方は、いろんなステークホルダーの目から見て本当に正しいんだろうか?」と確認することが大事だということです。

 ステークホルダーに「なんでこんなことで延々と裁判やってるんだろう?」と思われたら、会社の評価は下がります。第三者の客観的な目線や時間軸を長めに取った目線で対応を考えることが、危機管理コンサルタントのアドバイスになります。

炎上対応に必要な3つのプロフェッショナルとは

――炎上に適切に対応するためにはどういうステップが必要ですか。

小松氏 まずは早期に専門家、つまり法律の専門家である弁護士と、リスクの専門家である危機管理コンサルタントに相談することです。場合によっては、広報の専門家であるPR会社にも加わってもらいます。これが定石となります。

 炎上したときに頭に血がのぼって、SNS上でいきなり応酬したりDMで対応しようとして、結果的にぐちゃぐちゃな対応になってしまうのが最悪のパターンです。会社として早期に対応方針をきちんと決めて、それに沿った対応をしていくことが重要です。

 まず、弁護士に確認して違法行為が明確にあることが分かった場合、あるいは被害者が出ている場合には、相手方にやめるよう会社として勧告・警告をします。それでもやめない場合は、残念ながら捜査機関に相談するしかありません。法的要件を踏まえた上で、捜査機関に証拠とともに速やかに相談に行くことです。

 もう一つのポイントは、SNSのプラットフォーマーとも速やかに連携し、場合によってはアカウントの停止を求めることです。プラットフォーマーは当然ながら違法行為を禁じる規約を設けていますので、このあたりを丁寧に対応するのが王道だと考えています。

――弁護士だけではなく、PR会社も入れた方がいい理由は。

小松氏 弁護士はもちろん法的なプロフェッショナルですが、レピュテーション(評判、風評)マネジメントについてはPR会社の方が長けています。法律よりももう少し幅広い概念でコミュニケーションしないと、さらに炎上したり、間違った情報が拡散しかねないので、チームに入ってもらうことが多いですね。

 炎上対応において重要なのは、感情に流されず、第三者の視点と長期的な時間軸をもって判断することだ。

 小松氏の言葉を借りれば、「ムカついたときほど冷静に」こそが、信頼を守る最も合理的な選択である。SNS上の発言や対応が企業価値に直結する時代、法務・広報・危機管理のプロフェッショナルと連携し、客観的かつ中長期的な視点から最善策を探ることが、炎上リスクを最小化する唯一の道といえるだろう。

(文=鴨川ひばり/ライター、編集者)

プロフィール
小松裕介:1981年生、中央大学法学部卒。新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト(現・伊豆シャボテンリゾート)で代表取締役社長に就任。経営再建を果たした後、敵対的買収を受けて社長職を追われる経験を持つ。大手YouTuber事務所VAZ(バズ)の再建を主導する過程で炎上対応を行う。現在は株式会社スーツ代表取締役CEOとして経営支援クラウド「スーツアップ」の開発・運営をするかたわら、危機管理コンサルタントとして敵対的買収防衛や企業不祥事対応等に携わる。

「AI時代の経営」を語る…起業家・経営者のためのAI活用編~UNICORN NIGHT #6 開催


起業家・経営者限定のAIトーク&ネットワーキングイベント、10月30日(木)渋谷で開催

 経営者・決裁者限定のオフライン交流イベント「Unicorn Night(ユニコーンナイト)」が、10月30日(木)19時より渋谷クロスタワーで開催される。

 第6回となる今回は、テーマを「起業家・経営者のためのAI活用」と題し、いま最も注目を集める生成AIの可能性と経営への実装を徹底議論する。

 登壇するのは、AI分野を牽引する実践者たち。
 書籍『生成AI導入の教科書』で知られるおざけん氏(一般社団法人AICX協会 代表理事)、堀江貴文氏との共著『ChatGPT大全』を出版した荒木賢二郎氏(ホリエモンAI学校 代表取締役CEO)、東証グロース上場企業ライトアップを率いる白石崇氏(同社代表取締役社長)、そして複数の新規事業立ち上げを支援してきた福谷学氏(VPO 執行役Executive officer)が登壇する。

AIによって経営のあり方はどう変わるのか。
AIをどう“経営資源”として取り入れるべきか。
そしてAIが社会や組織、リーダーシップに与える影響とは——。
経営者たちがリアルな視点で語り合う2時間となる。

 トークセッション後は懇親会も実施。食事やドリンクを交えながら、登壇者や他の経営者との交流を深める貴重な機会となる。

【イベント概要】
日時: 2025年10月30日(木)19:00〜21:00
場所: 株式会社ライトアップ(東京都渋谷区渋谷2-15-1 渋谷クロスタワー32F)
参加費: 10,000円
主催: ユニコーンジャーナル
共催: VENTURE PITCH ONLINE
協賛: 株式会社セールスフォース・ジャパン

【参加対象】
AIを経営や事業開発に取り入れたい経営者
テクノロジーの最新トレンドを学びたい意思決定者
新たなビジネスチャンスやパートナーシップを求める方
次世代リーダーシップに関心のある方
※本イベントは経営者・決裁者限定です。受付時に名刺のご提示をお願いしております。
※定員に達し次第、申込を締め切らせていただきます。

 AIを恐れるのではなく、経営の武器としてどう使いこなすか。そのヒントを得られるのが、この夜——。
 経営者同士の知見が交差し、新たな共創が生まれる場に、ぜひご参加ください。

👉 イベント詳細・お申し込みはこちら(Peatix

【登壇者プロフィール】
一般社団法人AICX協会 代表理事
おざけん
「人間とAIが共存する社会をつくる」をビジョンに掲げ、AI分野で幅広く活動。書籍『生成AI導入の教科書』『AIエージェントの教科書』の刊行や、今までに1500本以上のAI関連記事の執筆を通じて、AIの可能性と実践的活用法を発信。一般社団法人AICX協会代表理事、一般社団法人生成AI活用普及協会常任協議員を務める。Cynthialy取締役CCO、Visionary Engine取締役、AI HYVE取締役など複数のAI企業の経営に参画。日本HP、NTTデータグループ、Lightblue、THAなど複数社のアドバイザーも務める。NewsPicksのAI番組「AI DIVE」のメインMC。千葉県船橋市生成AIアドバイザーとして行政のDX推進に携わる。NewsPicksプロピッカー、Udemyベストセラー講師、SHIFT AI公式モデレーターとして活動。AI関連の講演やトークセッションのモデレーターとしても多数登壇。AI領域以外では、2022年にCinematoricoを創業しCOOに就任。PRやフリーカメラマン、日本大学文理学部次世代社会研究センタープロボノ、デヴィ夫人SNSプロデューサーなど、多彩な経験を活かした活動を展開中。

ホリエモンAI学校株式会社 代表取締役CEO
荒木 賢二郎(あらき けんじろう)
大学卒業と同時に起業、Webデザイン会社などを創業・共同創業し、複数のEXITを経験。東京農工大学工学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科(MBA)修了。現在はホリエモンAI学校株式会社の代表取締役CEOとして生成AIとデジタルを活用した業務効率化関連の研修・コンサル事業を運営中。【著書】堀江貴文との共著『堀江貴文のChatGPT大全』は、2023年8月の発売直後から全国の大手書店で売上ランキング1位を獲得。

株式会社ライトアップ 代表取締役社長
白石 崇(しらいし たかし)
茨城県出身、筑波大学卒業後、NTTに入社。その後、サイバーエージェントにて同社初のコンテンツ企画制作部門を立ち上げ。同部署メンバーと2002年ライトアップ創業。企業のメールマーケティングの企画制作からメディア運営、ITツールの開発提供等を実施。2018年6月東証グロース市場に新規上場(証券コード6580)。「全国、全ての中小企業を黒字にする」を目標に掲げ、現在は、AIエージェントパッケージ30種類、AI SaaSサービス10種類を開発し提供。趣味は登山、将棋初段、お酒はほどほど。

VPO 執行役Executive officer
福谷 学(ふくたに がく)
1987年、福井県生まれ。2007年4月、19歳で独立し、株式会社東栄テクノを創業。2016年2月、AllCreationJapan株式会社を起業し、特殊製品や商社事業を展開。同時期にEDGE JAPANを創業し、ドローン事業を経営、その後2社を事業譲渡。2018年6月以降は新規事業立上げコンサルティングを展開。主に経営者マッチングアプリ COLABO の運営に携わり、合同会社アックスベンチャーズ VENTURE PITCH 執行役 Executive officer として活動。2022年9月、株式会社コミクスに執行役員として参画し、同年11月に取締役就任。2024年4月、株式会社START UP STUDIO 代表取締役 に就任。スタートアップ支援(資金調達・経営戦略アドバイス・イベント/カンファレンス運営・ビジネスメディア展開)を行う。さらに、日本初公式プロビジネスリーグ 「Biz LEAGUE」 を立ち上げ、複数社の幹部役員も務める。

猛暑の屋外に冷風を届ける…ダイキンの「アウタータワー」が切り拓く新空調市場

●この記事のポイント
・ダイキンの屋外設置型エアコン「アウタータワー」が駅ホームやテラス席などで導入拡大。工事不要で移動できる一体型冷房として注目を集めている。
・コロナ禍で一時停滞したが、猛暑と熱中症対策需要を背景に再び販売が好調。レンタル業者を通じてイベントや公共空間への展開が進む。
・海外勢の低価格競争に対し、ダイキンは品質とデザインで勝負。空調専門メーカーとして「屋外の快適性」を新たな社会価値として提案している。

 今年の夏も記録的な猛暑だったが、昨今、猛暑の常態化や熱中症対策の重要性が高まるなか、「屋外空間をどう涼しく保つか」が新たな社会課題となっている。ダイキン工業が2019年に投入した屋外設置型エアコン「アウタータワー」は、駅ホームやイベント会場など従来の空調が届かなかった場所に冷風を届ける新機軸だ。空調専門メーカーとしての技術力とブランド戦略を生かし、ダイキンは屋外空調という未開拓市場に挑んでいる。

●目次

スポットエアコンの進化と競争市場

 アウタータワーの背景には、ダイキンが30年以上前から手掛けてきた「スポットエアコン」の存在がある。工場スタッフの作業環境改善を目的に広まったこの製品群は、当時まだ「熱中症」という言葉すら浸透していなかった時代に誕生した。

 市場は長らく国内メーカーが中心だったが、2000年代半ば以降、低価格を武器にした海外メーカーが台頭。現在では年間10万台規模の市場のうち、半数以上を海外勢が占めると言われている。ダイキンにとっても、自社の強みを生かした差別化が求められる局面にあった。

屋外需要の発見…駅ホーム・テラス席に潜む冷房ニーズ

 そこでダイキンが目を付けたのが「屋外空間」である。工場以外でも快適性が求められる場所は多い。特に、夏場に高温化しやすい鉄道駅のホームや、テラス席を持つ飲食店などは、冷房ニーズが明確だった。

 ただし、従来の工場向け製品をそのまま持ち込むのでは不十分だ。屋外に馴染むスタイリッシュなデザインや、簡便な設置性が必要とされた。こうして2019年、「アウタータワー」が開発されたのである。

 発売当初、アウタータワーは、駅構内やイベント会場を中心に導入が進んだ。しかし2020年以降のコロナ禍でイベント需要が激減。販売台数は一時的に落ち込んだ。

 転機となったのは、2024年以降の社会活動の再開と猛暑の深刻化だ。各地で40度を超える日が続き、熱中症対策は社会課題として注目を集めた。その波に乗り、レンタル業者を通じた需要が急増。2025年も好調に推移している。

特徴と利点…工事不要で「動かせる冷房」

 アウタータワーは「移動可能な一体型空調」である。ほとんどの業務用エアコンは室外機と室内機に分かれ、設置工事が必須だが、アウタータワーは置くだけで使用できる。必要な場所に迅速に配置でき、不要になれば撤去することもできるため、イベントや臨時スペースに向いている。

 また、工場で使用されるスポットクーラーよりも冷却能力が高く、扇風機やミスト式送風機と異なり、確実に「冷風」を届けられる。暑さ対策が必須の場面において、設置工事が不要でスピーディに対処ができる空調機器である。

 一方で、アウタータワーは決して「安価な大量販売」を狙った商品ではない。デザインにこだわり、人目に付く鉄道の構内やオープンテラスと言った場所をターゲットにした商品として位置付けており、今後もその方向性は変わらない。サービス体制も含めて、ブランド価値を重視する戦略で取り組んでいく。

レンタル業者との共創が市場を育てる

 販売チャネルとして注目されているのがレンタル・リース業者だ。彼らはイベント会場や商業施設など多様な現場に多様な製品を提供している。アウタータワーは他社にない「設置・撤去が容易な業務用エアコン」として今後も用途が広がる可能性を持っているので、レンタル業者からは注目されている。

 現状、アウタータワーは、工場用スポットエアコンに比べれば、まだ「知る人ぞ知る」存在だ。しかし、都市の熱環境が悪化し続ける中で、「屋外空調」というジャンルそのものが今後拡大する可能性は大きい。

 特に鉄道インフラや公共空間、観光施設といった「不特定多数が集まる場」でのニーズは高まりやすい。加えて、企業が顧客体験価値を重視する時代において、「快適な屋外空間を提供できるかどうか」は企業の競争力に直結する。

「空調専門メーカー」が描く社会的使命

 ダイキンは国内唯一の空調専門メーカーであり、空気に関する技術と知見を積み重ねてきた。その立場から生まれたアウタータワーは、単なる新製品ではなく「社会における空調の役割」を広げる挑戦だといえる。

 猛暑が日常化するこれからの時代、屋外での快適性確保は人々の安全や生活の質に直結する。空調メーカーが持つ技術とブランドが、公共空間や都市インフラのあり方に影響を与える――そこにこそ、アウタータワーのビジネス的価値がある。

・差別化戦略の重要性
 低価格競争に巻き込まれず、ブランド価値を高める方向性で市場を切り拓く。

・新市場の発見
 既存顧客(工場)以外に目を向け、鉄道や飲食といった新しい用途を開拓。

・顧客との共創
 レンタル業者など利用現場からのフィードバックを取り込み、改良を重ねる。

 ダイキンのアウタータワーは、まだ小規模ながら「屋外を快適にする」という新しい価値を提示している。酷暑が社会課題となる今、同製品が示す方向性は、空調業界のみならず、都市開発やサービス業にとっても示唆に富むものである。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

心踊るサステナフードを食べながら、サステナビリティによるマーケティングの進化について考えてみた

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「マーケティングにとって、サステナビリティは敵か味方か?」

電通サステナビリティコンサルティング室で、サステナビリティによる企業価値向上や事業支援を行っている桜井香織です。

企業経営におけるSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の重要性が高まる中で、マーケティングにもサステナビリティを取り入れようという動きが進んでいます。しかし、「商品やサービスを売るためのマーケティング」と「環境や社会の持続可能性を担保するサステナビリティ」の両立は決して簡単ではなく、多くの企業にとって難題です。

マーケティングとサステナビリティの両立について考える際、私たちは“心踊るサステナ”というキーワードを使っています。“心踊るサステナ”であれば、自然と買いたくなるはずだから――。

この連載では、お買い物好きなプランナー5人が、暮らしの中でいいなと思った“心踊るサステナ事例”を基に、マーケティングにおけるサステナビリティの可能性をひもといていきます。

<目次>
「多少価格が高くても、サステナブルな商品を買う」人は6.8%!?
心踊るサステナフードの魅力をみんなで考えてみた
「◯◯◯なのにサステナ」という逆張り発想
心踊るサステナ探しの旅はつづく

 

「多少価格が高くても、サステナブルな商品を買う」人は6.8%!?

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出典:電通サステナビリティコンサルティング室調べ(N=250)2025年6月実施

電通で行った調査によると、「多少価格が高くても、サステナブルな商品を買う」と答えた人はたった6.8%。この結果に「やっぱりか〜」というのが正直な感想でした。私自身、価格が上がらないに越したことはない……というのが本音です。

マーケティングにサステナビリティを取り込むことが求められる時代ですが、どうしても価格に跳ね返りやすく、それが生活者に受け入れられにくい。特に、多くの人をターゲットにするマス商材で価格上昇を受容してもらうことは難しく、それがマーケティングSXの障壁になっていると考えます。

一方で、マス商材にはなっていないけれど、話題になっているサステナ事例はたしかに存在しています。そこにマーケティングSXのヒントがあるのではないか、と思ったサステナビリティコンサルティング室のメンバーは、“心踊るサステナ事例”を持ち寄って、みんなでおしゃべりしながら考えてみることにしました。ここからは、その座談会の様子をリポートします。


心踊るサステナフードの魅力をみんなで考えてみた

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座談会メンバー:(左から)電通 坂本愛、澤井有香、森由里佳、福田恭子、桜井香織
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初回は親しみやすい「食」からスタート!ということで、2つの事例を紹介します。1つ目は森ちゃんが教えてくれた「2foods(トゥーフーズ)」。銀座ロフト店にみんなで行ってきました。

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2foods銀座ロフト店
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2foodsはふらっと店舗に入って知ったブランドで、メニューを見ると「どうやら植物由来らしい」ということに気づきました。あえて“ヴィーガン”や“プラントベース”といった言葉を前面に出さずに、むしろポップに見えるブランド作りが面白いと思いました。SX08

銀座ロフト店はおしゃれで今っぽい店舗デザインですよね。植物由来感はゼロで、むしろ都会感を感じました。インバウンドをはじめ、若者でにぎわっていたのが印象的です。値段は若干高いけど、銀座という立地を考えるとそこまで高くないのかも。

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バーガーはかなり盛られたボリューミーな作りで、単なるファストフードというよりは“ごちそうバーガー”に近い感じ。お肉もチーズも植物由来で、罪悪感なくかぶりつけました!

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私はオムライスを注文。プラントベースのたまごを初めて食べましたが、本物のたまごと変わらない味!思った以上にオムライスでびっくりしました。この味わいでヘルシーなら文句なしですね。

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私が食べたたまご風サンドも驚くほどふわとろでおいしかったです。特にうれしかったのは、たまごサラダ部分は植物由来でコレステロールゼロなたまごフィリングが使われていること。アレルギーがなくても選びたくなる魅力がありますね。SX14

他にもクロワッサンやスイーツを売っていて、どれも食欲をそそる見た目なのに植物由来という、まさにジャンクフード欲求とヘルシー欲求の2つのわがままをかなえてくれるブランドでした。

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2つ目の事例は福田さんが教えてくれた「ovgo Baker(オブゴ ベイカー)」。

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小伝馬町にある「ovgo Baker Edo St.」店
 
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ovgoはクッキーやマフィンを展開しているブランドで、100%プラントベース、かつ、できるかぎりオーガニックや自然栽培、国産食材で作っているそうです。こう聞くとかなりストイックに感じるかもしれませんが、店舗や商品がとにかくかわいい。SX16
小伝馬町の店舗は、レトロでどこかニューヨークの街角を思わせる空気感があります。商品の並べ方も海外らしくて、ディスプレーを眺めるだけで楽しい気分に!

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正直サステナだから買っている人は少ないと思うのですが、そこがミソですよね。おいしそうだから、かわいいから、喜ばれそうだから買っている。しかもその先に、「実は環境に配慮している」や「実はヴィーガンで、オーガニックで」といったストーリーまでついている。

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種類がたくさんあって、テーブルに並べるだけで気分が上がる!一番人気は「インポッシブルチョコレートチップクッキー」だそう。これのどこがプラントベース!?というくらいの食べ応えです。SX19

まさにアメリカのクッキーみたいなザクザク食感で、ドライフルーツやチョコチップがたっぷり入っていて、でも甘すぎなくてすごくおいしい!このボリュームでクッキー1枚あたり400円程度。手が届きやすい価格なのもうれしいです。

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私たちの中では「ウィークエンドシトロン」というレモンケーキが一番人気でしたね。個人的には「チョコレートクランベリーカルダモンクッキー」はカルダモンの香りがすごく効いていて好みでした。

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店舗によって雰囲気が少しずつ違うらしく、他の店舗にもぜひ行ってみたいです。


「◯◯◯なのにサステナ」という逆張り発想

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2foodsとovgoに共通するのは、一見サステナに見えないところ。そして、「ジャンクな刺激」や「映えるアメリカンクッキー」といった食指の動くブランド作りをしているところ。

サステナビリティってどうしても何かを我慢したり節制したりする方向になりがちですが、今回紹介した2つのブランドは窮屈な感じが全くなくて、むしろ人間の本能や欲求を肯定してくれる感じが新しかったです。「食欲を刺激するのにサステナ」や「映えるのにサステナ」という意外性やギャップが若い人を中心に受けているのだと感じました。SX23

直感的に「食べてみたい!」「かわいい!」と心をつかんだ上で、しかも「ヘルシーでサステナなんです」と言われると、満足感が増しますよね。右脳的にも左脳的にもうれしいというか。

冒頭で、サステナ商品だからといって価格受容性が増すわけではない、という話がありましたが、“おいしくて、SNS映えして、ヘルシーで、しかもサステナ”なのであれば、値段がちょっと高くても許容できそうな気がします。

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サステナビリティだけではモノを買う理由にはなりづらいということを前提にした上で、「◯◯◯なのにサステナ」の「◯◯◯」で顧客にとっての価値をしっかり作りつつ、さらにサステナビリティで価値を上乗せしていく。サステナビリティを「ブランド価値やストーリーを複層化していく上での武器」と捉えると、マーケティングに前向きに生かせるかもしれません。

 

<今回のまとめ>
「◯◯◯なのにサステナ」という意外性やギャップで心をつかむ。
サステナビリティは、ブランド価値やストーリーを複層化する上での武器になりうる。
サステナビリティを前面に出すのではなく背景価値にすることで、「実はこれってサステナなんだよ」と人に語れるストーリーにもなる。

心踊るサステナ探しの旅はつづく

すっかりおなかいっぱいになった私たちですが、すでに2回目、3回目の記事も考案中。5人それぞれの個性や興味を生かしながら、心踊るサステナ収集をしていきたいと思います。それでは、最後に一言ずつコメントを。

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(前列左から)電通 澤井有香、坂本愛、桜井香織(後列左から)森由里佳、福田恭子

■PRと環境の視点をかけあわせて、ずるいサステナを掘り起こしたいです!(澤井有香)
■オーストラリアで過ごした経験を生かして、日本でもサステナをもっと身近に!(坂本愛)
■母として主婦としての感覚を生かして、マーケティングSXをやわらかくひもときます。(桜井香織)
■サステナな買い物は、子どもへの罪悪感もないし教育にもなる。母・クリエイター・生活者としてウオッチしていきます!(森由里佳)
■世界を彩るイノベーティブなサステナをグローバルに探していきます。(福田恭子)

次回も引き続き、お付き合いください!

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【Vision】

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ときめいた教科書。学生時代ではなく、割と近年の話。日本文教出版の「高校美術」はただならぬ一冊らしい、という噂を耳にし、初めて教科書供給所というものに足を運び購入した。なんと言ったらいいんだろう。教科書だというのに、めくってもめくっても宝石箱。今でも開けばときめいてしまう。
 
ゲルハルト・リヒターの「オーバーペインテッド・フォトグラフ」というシリーズの作品「27. April 2015」がこの教科書の表紙。ちなみに、美術手帖によるアンケート「読者が選ぶベスト展覧会」で2022年のトップは、東京国立近代美術館の「ゲルハルト・リヒター展」だった。リヒターは1932年生まれのドイツ人アーティストで、表現手法というかシリーズが複数あり、シリーズごとにものすごい数の作品を生み出している。教科書の表紙になることが一つのベンチマークになるのかは分からないが、今の時代を生きる巨匠リヒターは、未来へと続くアート、その長い歴史に名を刻む存在であることは間違いないらしい。
 
「写実的な絵画」ではなく、「写真のような絵画」の「フォト・ペインティング」というシリーズがあることを知り、僕は写実的であることと写真と見まがうことの違いに、混乱しつつ、お見逸れしつつ。こういう表現に至る現代アートの歴史は、なんだか恐ろしいなぁとも思う。なんて高みなんだろう。
 
 
ところで、「トムとジェリー」に出てきそうなチーズ、と聞いただけで画が浮かぶ方はいるだろうか。三角柱のような塊で、大きめの気泡?みたいな穴がけっこうあるのが特徴。なんだったら、ジェリーがその穴をトンネルみたいに通っていた気さえする。幼いころの記憶をたどっているので自信はない。僕自身はチーズがそれほど好きではないせいかもしれないが、あんなチーズを現物では見たことがない。でも、トムとジェリーに出てきそうなチーズを、「いかにもチーズ」と認識している自分がいる。不思議。
 
ある日、ショッピングモールをふらふらしていて、ケーキコーナーを通り過ぎた。視界に入ってきた、いかにもチーズ!?先を進む下半身と、「ケーキコーナーなのに、いかにもチーズ」に目を釘付けにされた上半身。コケそうになった。近寄って見ると、これはチーズケーキか。いかにもチーズ、をチーズケーキでもって(つまりチーズを原材料に)模倣というか再現していた。うーん、ややこしい。奥が深い。目が離せない。
 
アートの世界では、トロンプルイユという手法が流通していることを知った。いわゆる「だまし絵」。だまし絵なら馴染みがある。床から水が流れ落ち、落ちた先は当然その床よりも下にある床、のはずが、床を目で追っていくと段差も勾配もない同じレベルの床だった。そんなマウリッツ・エッシャーの絵本を、子どものころ病院かどこかの待合室でよく見た気がする。割と最近の錯視体験は、カップヌードルミュージアムとかのフォトスポット。絵じゃないから、だまし空間?あれはトリックアートという言葉のほうがぴったりの、和気あいあいの大衆性。
 
 
また、ある日は国立競技場に向かってふらふら歩いていた。ちょっと時間が早いな、そうだ、この辺にギャラリーがあった気が。以前ジュリアン・オピーの展示を見に行ったMAHO KUBOTA GALLERYに寄ってみよう。ガラス張りのギャラリーから、一輪ずつの花の絵が見えた。きれいだなぁ。たっぷりとした絵の具。その、ねちょっとした塊から、写実的とはまた違う形で、しかし花としか言いようのないものが再現されている。そんな絶妙な筆跡。映画「線は、僕を描く」で横浜流星さんが墨の筆でびゅーっと線を引いて、見事に竹とかを描いていたが、あんな感じで一発なのに迷いなく潔く花(花びら)の形状が描かれていた。なんて巧みなんだろう。
 
この花を生み出したのは、武田鉄平さんという現代アーティスト(話がまったく逸れてしまうが、存命かは問わず海外のアーティストは呼び捨てなのに、存命の日本人にはさん付けしてしまう自分がいる。すみません)。その花は、光でテカっている所と影になっている所があるので、平面の絵画だけどかなり凹凸というか絵具の盛り上がりがあるのだろう。本物の花ではないことは誰が見ても明らかなのに、そこには確かに花の端麗が立ち現れている。美しさをシンプルに感じずにはいられない。
 
花と言えば、個人的な思い出も多少はある。それだけじゃなく自分の外の物語、たとえば「カリオストロの城」で手品師のようにルパンが出した花、「幽遊白書」で軀が雷禅に手向けてほしいと幽助に渡した花、「はなかっぱ」でスランプで咲かなかった花。自分の内のものでも外のものでも、物語であればあるほど感傷を引き連れてくるようだ。
 
しかし、無地の背景に佇む、たっぷりとした絵の具から生まれた端麗な一輪は、不思議と僕の湿っぽい感情とは結び付かなかった。自分とか、思い出とか、物語とか、そういうのが投影されることなく、ただ美しさが際立つ。「世界に一つだけの花」も「赤いスイートピー」も頭の中で鳴ることはなかった。尾形光琳が突き詰めたカキツバタのデザイン性や、千利休が想像させた朝顔。そんなもののほうが近いように思えた。とにかく、毅然とした存在感。
 
20年くらい前に、一度だけプロダクトデザイナーの深澤直人さんとの対話の機会に恵まれた。作品集に書かれていた「デザインの輪郭」のこと。「ありそうでないもの」のこと。深澤さんの言葉自体が僕の内側の輪郭にすっとハマり、今でもちょうどよい圧力で僕の中にとどまっている(あまりに憧れの人だったので、作品集にちゃっかりサインをしてもらった)。
 
美しさに「輪郭」があるのだとすれば、武田さんの花みたいなんじゃないかな、と思う。
 
 
事件はギャラリーに入った後に起こった。キャンバスに近付くと、異変に気付く。ねちょっとした絵の具で描かれているはずなのに、絵の具の盛り上がりが見えない?凹凸がない?たっぷりの絵の具で描いた後、それをしっかりとしたライティングのもとで撮影した写真作品、でもないことはさらに近付いて見てすぐに分かった。ケチャップ並みの光沢や、FIRST TAKEな筆運びなんかを、細かく細かく筆で描き込んでいるのであった。写真のような再現を、手仕事でやっている。
 
写実的な絵画というのはよくあるが、武田さんは写実する対象を「たっぷりの絵具で描かれた、抽象度を高めたモノ(花)」に設定していた。和気あいあいのトリックアート体験とは異質の、僕にとって本当に事件だった。なんて企みなんだろう。
 
「CM上の演出です」みたいに、「○○上の○○」という状況がある。もしくは「○○の中の○○」。武田さんの作品は、花を写実的に再現したものではなく、いかにも絵具の塊に見えるので、「絵画上の花」というよりも「絵画上の絵具」といったところか。しかし、あの美しさは花の本質のようにも思えるので、「絵画上の絵具上の花の美しさ」。そして、きれいだなぁ、で終わるところをトロンプルイユであると気付いたとき、この美しさは描くことで生まれたのだ、描くことでしか生まれなかったのだとあらためて思い知らされる。描くという人間の行為の至高に驚く。彫刻上でも、マンガ上でも、アニメ上でも成立しない、「描くことを描く」。
 
絵、絵具、花、美しさ。いろんなレイヤーの存在。めくっていくように、異なる質の層に意識を向けていく。順に丁寧に見ていくと、積層に自分自身がしみしみと浸透していくようだ。静的なはずの「見る」が、気付けば動的になっている。そして層から層へとダイナミックに行き来していると、目にしているこの作品に対する信頼みたいなものが強まっていった。ハマってきたのかな。
 
「視覚」は浸透していくプロセスとともに、洞察、先見、展望、そして理想の姿とも訳せるのだとすると、鑑賞者としての自分にとどまらず、ビジネスパーソンとしての自分とかも含め、もっと広く、もっと等身大な自分にとって、とても本質的なことだと気付かされる。視覚のその先。こんなに豊かな営みだったとは。
 
©︎Teppei Takeda / Courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY Photo by: Keizo Kioku
©︎Teppei Takeda / Courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY
Photo by: Keizo Kioku
武田鉄平氏プロフィール
画像制作:岩下 智

心踊るサステナフードを食べながら、サステナビリティによるマーケティングの進化について考えてみた

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「マーケティングにとって、サステナビリティは敵か味方か?」

電通サステナビリティコンサルティング室で、サステナビリティによる企業価値向上や事業支援を行っている桜井香織です。

企業経営におけるSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の重要性が高まる中で、マーケティングにもサステナビリティを取り入れようという動きが進んでいます。しかし、「商品やサービスを売るためのマーケティング」と「環境や社会の持続可能性を担保するサステナビリティ」の両立は決して簡単ではなく、多くの企業にとって難題です。

マーケティングとサステナビリティの両立について考える際、私たちは“心踊るサステナ”というキーワードを使っています。“心踊るサステナ”であれば、自然と買いたくなるはずだから――。

この連載では、お買い物好きなプランナー5人が、暮らしの中でいいなと思った“心踊るサステナ事例”を基に、マーケティングにおけるサステナビリティの可能性をひもといていきます。

<目次>
「多少価格が高くても、サステナブルな商品を買う」人は6.8%!?
心踊るサステナフードの魅力をみんなで考えてみた
「◯◯◯なのにサステナ」という逆張り発想
心踊るサステナ探しの旅はつづく

 

「多少価格が高くても、サステナブルな商品を買う」人は6.8%!?

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出典:電通サステナビリティコンサルティング室調べ(N=250)2025年6月実施

電通で行った調査によると、「多少価格が高くても、サステナブルな商品を買う」と答えた人はたった6.8%。この結果に「やっぱりか〜」というのが正直な感想でした。私自身、価格が上がらないに越したことはない……というのが本音です。

マーケティングにサステナビリティを取り込むことが求められる時代ですが、どうしても価格に跳ね返りやすく、それが生活者に受け入れられにくい。特に、多くの人をターゲットにするマス商材で価格上昇を受容してもらうことは難しく、それがマーケティングSXの障壁になっていると考えます。

一方で、マス商材にはなっていないけれど、話題になっているサステナ事例はたしかに存在しています。そこにマーケティングSXのヒントがあるのではないか、と思ったサステナビリティコンサルティング室のメンバーは、“心踊るサステナ事例”を持ち寄って、みんなでおしゃべりしながら考えてみることにしました。ここからは、その座談会の様子をリポートします。


心踊るサステナフードの魅力をみんなで考えてみた

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座談会メンバー:(左から)電通 坂本愛、澤井有香、森由里佳、福田恭子、桜井香織
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初回は親しみやすい「食」からスタート!ということで、2つの事例を紹介します。1つ目は森ちゃんが教えてくれた「2foods(トゥーフーズ)」。銀座ロフト店にみんなで行ってきました。

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2foods銀座ロフト店
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2foodsはふらっと店舗に入って知ったブランドで、メニューを見ると「どうやら植物由来らしい」ということに気づきました。あえて“ヴィーガン”や“プラントベース”といった言葉を前面に出さずに、むしろポップに見えるブランド作りが面白いと思いました。SX08

銀座ロフト店はおしゃれで今っぽい店舗デザインですよね。植物由来感はゼロで、むしろ都会感を感じました。インバウンドをはじめ、若者でにぎわっていたのが印象的です。値段は若干高いけど、銀座という立地を考えるとそこまで高くないのかも。

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バーガーはかなり盛られたボリューミーな作りで、単なるファストフードというよりは“ごちそうバーガー”に近い感じ。お肉もチーズも植物由来で、罪悪感なくかぶりつけました!

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私はオムライスを注文。プラントベースのたまごを初めて食べましたが、本物のたまごと変わらない味!思った以上にオムライスでびっくりしました。この味わいでヘルシーなら文句なしですね。

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私が食べたたまご風サンドも驚くほどふわとろでおいしかったです。特にうれしかったのは、たまごサラダ部分は植物由来でコレステロールゼロなたまごフィリングが使われていること。アレルギーがなくても選びたくなる魅力がありますね。SX14

他にもクロワッサンやスイーツを売っていて、どれも食欲をそそる見た目なのに植物由来という、まさにジャンクフード欲求とヘルシー欲求の2つのわがままをかなえてくれるブランドでした。

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2つ目の事例は福田さんが教えてくれた「ovgo Baker(オブゴ ベイカー)」。

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小伝馬町にある「ovgo Baker Edo St.」店
 
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ovgoはクッキーやマフィンを展開しているブランドで、100%プラントベース、かつ、できるかぎりオーガニックや自然栽培、国産食材で作っているそうです。こう聞くとかなりストイックに感じるかもしれませんが、店舗や商品がとにかくかわいい。SX16
小伝馬町の店舗は、レトロでどこかニューヨークの街角を思わせる空気感があります。商品の並べ方も海外らしくて、ディスプレーを眺めるだけで楽しい気分に!

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正直サステナだから買っている人は少ないと思うのですが、そこがミソですよね。おいしそうだから、かわいいから、喜ばれそうだから買っている。しかもその先に、「実は環境に配慮している」や「実はヴィーガンで、オーガニックで」といったストーリーまでついている。

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種類がたくさんあって、テーブルに並べるだけで気分が上がる!一番人気は「インポッシブルチョコレートチップクッキー」だそう。これのどこがプラントベース!?というくらいの食べ応えです。SX19

まさにアメリカのクッキーみたいなザクザク食感で、ドライフルーツやチョコチップがたっぷり入っていて、でも甘すぎなくてすごくおいしい!このボリュームでクッキー1枚あたり400円程度。手が届きやすい価格なのもうれしいです。

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私たちの中では「ウィークエンドシトロン」というレモンケーキが一番人気でしたね。個人的には「チョコレートクランベリーカルダモンクッキー」はカルダモンの香りがすごく効いていて好みでした。

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店舗によって雰囲気が少しずつ違うらしく、他の店舗にもぜひ行ってみたいです。


「◯◯◯なのにサステナ」という逆張り発想

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2foodsとovgoに共通するのは、一見サステナに見えないところ。そして、「ジャンクな刺激」や「映えるアメリカンクッキー」といった食指の動くブランド作りをしているところ。

サステナビリティってどうしても何かを我慢したり節制したりする方向になりがちですが、今回紹介した2つのブランドは窮屈な感じが全くなくて、むしろ人間の本能や欲求を肯定してくれる感じが新しかったです。「食欲を刺激するのにサステナ」や「映えるのにサステナ」という意外性やギャップが若い人を中心に受けているのだと感じました。SX23

直感的に「食べてみたい!」「かわいい!」と心をつかんだ上で、しかも「ヘルシーでサステナなんです」と言われると、満足感が増しますよね。右脳的にも左脳的にもうれしいというか。

冒頭で、サステナ商品だからといって価格受容性が増すわけではない、という話がありましたが、“おいしくて、SNS映えして、ヘルシーで、しかもサステナ”なのであれば、値段がちょっと高くても許容できそうな気がします。

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サステナビリティだけではモノを買う理由にはなりづらいということを前提にした上で、「◯◯◯なのにサステナ」の「◯◯◯」で顧客にとっての価値をしっかり作りつつ、さらにサステナビリティで価値を上乗せしていく。サステナビリティを「ブランド価値やストーリーを複層化していく上での武器」と捉えると、マーケティングに前向きに生かせるかもしれません。

 

<今回のまとめ>
「◯◯◯なのにサステナ」という意外性やギャップで心をつかむ。
サステナビリティは、ブランド価値やストーリーを複層化する上での武器になりうる。
サステナビリティを前面に出すのではなく背景価値にすることで、「実はこれってサステナなんだよ」と人に語れるストーリーにもなる。

心踊るサステナ探しの旅はつづく

すっかりおなかいっぱいになった私たちですが、すでに2回目、3回目の記事も考案中。5人それぞれの個性や興味を生かしながら、心踊るサステナ収集をしていきたいと思います。それでは、最後に一言ずつコメントを。

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(前列左から)電通 澤井有香、坂本愛、桜井香織(後列左から)森由里佳、福田恭子

■PRと環境の視点をかけあわせて、ずるいサステナを掘り起こしたいです!(澤井有香)
■オーストラリアで過ごした経験を生かして、日本でもサステナをもっと身近に!(坂本愛)
■母として主婦としての感覚を生かして、マーケティングSXをやわらかくひもときます。(桜井香織)
■サステナな買い物は、子どもへの罪悪感もないし教育にもなる。母・クリエイター・生活者としてウオッチしていきます!(森由里佳)
■世界を彩るイノベーティブなサステナをグローバルに探していきます。(福田恭子)

次回も引き続き、お付き合いください!

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メルカリ ハロ、2年もたずに事業終了…「即断の英断」と「撤退の必然」の裏側

●この記事のポイント
・2024年春に始動したスキマバイトアプリ「メルカリ ハロ」が、2025年10月に事業撤退を発表。
・メルカリが挑戦した“日雇いマッチング”は、すでにタイミーが支配する市場構造に阻まれた。
・即断の撤退は、損失を最小化する経営判断として評価される一方、「事業探索の難しさ」も浮き彫りになった。

 メルカリが2024年春に開始したスキマバイトアプリ「メルカリ ハロ」が、わずか1年半で事業撤退を発表した。副業・短期就労マッチングの急成長市場において、同社が狙ったのは「CtoCで培った信頼と即時性を労働領域に応用する」こと。

 しかし、先行するタイミーが築いたネットワーク効果の壁は高く、十分なユーザー基盤を獲得できなかった。撤退の背景には、労働法制の複雑さやブランド親和性の問題もある。スピード撤退は損失最小化の英断ともいえるが、この決断が示すのは「勝てる市場の見極め」と「撤退を恐れぬ組織文化」の重要性だ。

●目次

メルカリ流の“スキマバイト”

 メルカリが「メルカリ ハロ」のサービス提供を開始したのは2024年3月6日。「メルカリで働くをもっと身近に」というコンセプトのもと、メルカリのフリマアプリとは異なる新領域への挑戦だった。

 ターゲットは、副業や短時間労働を希望する個人と、人手不足に悩む小売・飲食・物流業者。アプリ上で、数時間単位の仕事を手軽に検索・応募し、勤務後すぐに報酬を受け取れる仕組みを整えた。

 当初の構想は、メルカリが培ってきた「CtoCの信頼基盤」を労働市場に応用することだった。フリマアプリで確立した「相互評価」や「即時支払い」のUXを、スキマバイトに横展開できると踏んだのだ。

 さらに、メルペイによる決済機能や身元確認技術、メルカリShopsなどの既存サービスとの連携も見込まれ、社内では「メルカリエコシステムの拡張」として期待が高まっていた。

 だが、メルカリ ハロの開始から2年を待たずして、2025年10月14日、メルカリは「事業終了」を発表した。正確なユーザー数は非公表ながら、「登録者数は1200万人を超えた」と喧伝していた。だが、関係者によると実際の利用者は想定の数分の一にとどまり、加盟店舗数も伸び悩んだという。撤退理由として公式には「事業継続が難しいため」とのみ説明されているが、背景には複数の構造的要因があった。戦略コンサルタントの高野輝氏は次のように分析する。

1.タイミーが築いた「二面市場の壁」

「最大の競合は、言うまでもなくタイミーです。タイミーは2018年にサービスを開始し、累計ユーザー数800万人超、導入店舗数6万社を突破。コロナ禍を経て、飲食・物流・小売など労働需給が偏る業界で『即時人材確保インフラ』として定着していました。

 つまり、メルカリが参入した時点で、スキマバイト市場はすでに“Winner takes all(勝者総取り)”の状況だったわけです。

 日雇い型マッチングは、ネットワーク効果が極めて強いビジネスなので、求人側が多いほど労働者が集まり、労働者が多いほど求人も増えます。メルカリ ハロはこの二面市場の『初期ネットワーク』を構築できず、好循環を生み出す前に撤退を余儀なくされたといえます」

2.メルカリブランドの“意外な非親和性”

「もう一つの要因は、メルカリブランド自体の特性です。メルカリは『不要品の売買』=『副収入』イメージが強く、『働く』よりも『稼ぐ』文脈に結びつきます。そのため、『仕事探し』という文脈でのブランド信頼は必ずしも高くなかったといえます。

 一方のタイミーは、“仕事を通じて人と企業をつなぐ”という理念を前面に打ち出し、厚労省とも連携するなど社会的信頼を高めていました。結果的に、ユーザーは『働くならタイミー』『売るならメルカリ』と、明確に住み分けたと考えられます」

3.オペレーションの煩雑さと法規制の壁

「短期雇用には労働基準法・職業安定法など複雑な法的要件が絡みます。タイミーは独自の仕組みで『直接雇用型マッチング』を実現し、労働者保護とスピードを両立しています。これに対してメルカリ ハロは、リリース初期に『業務委託型』と『雇用型』が混在していたため、現場の混乱を招いたと指摘されています。特に飲食・小売業では、即日雇用や給与計算のオペレーションコストが重く、企業側の導入ハードルは想定以上に高かったと考えられます」

経営判断としての「早期撤退」

 一方で、事業撤退の発表は、スタートアップ的観点では「英断」ともいえる。一般に新規事業が赤字を垂れ流しながら数年継続するなか、メルカリはわずか1年半で撤退を決断。これは「損切りの速さ」こそが、次の成長機会を生むという経営哲学に基づく。

 実際、メルカリは過去にも「メルカリNOW」「メルカリ カウル」「メルカリ アッテ」など複数の新規事業をクローズしている。

 しかしそのたびに、組織やUXの知見を本体事業へ還元してきた。今回の撤退でも、本人確認技術や報酬即時支払いシステムなど、メルカリ ハロで得た技術資産を他事業に転用できる可能性が高い。

タイミーとの本質的な違い

 両者の違いを整理すると、単なる「サービスの差」ではなく、思想と構造の差に行き着く。

・メルカリ ハロ
目的 メルカリエコシステムの拡張
収益源 手数料+決済連携
ブランド認知 CtoC・副収入
ネットワーク効果 初期ユーザー不足
規制対応 雇用/委託モデル混在

・タイミー
目的 “働く”をなめらかにする社会基盤づくり
収益源 成功報酬型マッチングフィー
ブランド認知 就業・信頼・社会インフラ
ネットワーク効果 数百万単位の実績・リピート率高
規制対応 法的整合性を重視した雇用モデル

 タイミーは単なる求人マッチングではなく、「即時就業体験」を社会のインフラにまで高めている。この「理念と制度の統合」こそ、模倣が最も難しい部分だ。

「ハロ撤退」から見える教訓

1.ブランドの拡張には、ユーザー心理の“文脈転換”が必要
 同じ個人を対象にしていても、「売る」と「働く」では行動原理が異なる。
 既存ブランドをそのまま横展開しても、ユーザーの心理的スイッチは切り替わらない。

2.プラットフォーム型事業は“初期の臨界点”が全て
 特に二面市場では、数十万単位の利用者を早期に確保できなければ好循環は生まれない。メルカリのような大手企業でも、他社が築いたネットワークの牙城を崩すのは極めて困難。

3.撤退もまた、成長戦略の一部
 失敗を恐れず小さく試し、成果が見えなければ早く畳む。「探索→撤退→再挑戦」のサイクルを高速に回せる企業文化が、結果的に次のヒット事業を生む。

 今回のケースは、大企業の新規事業部だけでなく、スタートアップにも多くの学びを与える。一見「メルカリほどの知名度と資金力があれば勝てる」と思われがちだが、実際には“市場タイミング”と“構造理解”が全てである。メルカリ ハロは、「すでに定着した行動習慣をどう変えるか」という難題に挑んだが、それは“ゼロから市場を創る”よりも難しい。

 一方のタイミーは、長年の泥臭い営業と制度設計の積み重ねで信頼を築いてきた。スタートアップにとっては、「巨人が参入しても勝てない市場」を逆手に取り、特定領域での深耕・差別化・ローカル戦略を磨くことが、次のチャンスを生む。

 メルカリ ハロの撤退は、表面的には「失敗」だが、組織学的には「失敗を糧に次へ進む実験」だ。同社は今後、メルカリShopsやメルペイ、そしてAI出品機能など、既存事業の深化にリソースを再集中させると見られる。

「やめる勇気」を持てる企業は強い。それは、事業を守るためではなく、挑戦を続けるための撤退である。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)

ノーベル化学賞の「MOF」って何?化学や半導体、様々な領域で新市場を生む可能性

●この記事のポイント
・ノーベル化学賞受賞の京大・北川進教授が発見した新素材「MOF」が、CO2回収や半導体など多分野で実用化へ進展。
・大阪ガスやレゾナック、日本フッソ工業などがMOFを活用し、脱炭素や耐食性向上などの事業を加速。
・AIによる素材設計と融合し、MOFは日本の「素材立国」復権とGX産業の新たな成長軸を担う可能性が高まっている。

 ノーベル化学賞を受賞した京都大学の北川進教授。その功績を支えたのは、ナノレベルで分子を吸着・分離できる新素材「金属有機構造体(MOF)」だ。かつては実験室の中の研究素材と見なされていたこの“空孔素材”が、いま産業界で急速に実用化フェーズへと進んでいる。

 大阪ガスのCO2回収、レゾナックの分離膜技術、日本フッソ工業の耐食コーティング──。エネルギー、化学、半導体、あらゆる領域で新市場を生むMOF革命の全貌を追う。

ノーベル化学賞が示した新素材革命、世界で進むMOFビジネス

 2025年、京都大学・北川進教授がノーベル化学賞を受賞した。受賞理由は、金属イオンと有機分子を組み合わせて構築する「金属有機構造体(MOF)」の創出。

 ナノレベルで空間を制御できるこの素材は、CO2吸着やガス分離、水素貯蔵、触媒反応など、環境・エネルギー分野を根本から変えるポテンシャルを持つ。

 MOFとは、いわば“原子で設計されたスポンジ”だ。内部に無数のナノ孔を持ち、そこに特定の分子だけを選択的に吸着できる。空孔サイズや化学的性質を自在にチューニングできるため、従来の多孔質素材(活性炭やゼオライト)では不可能だった分離・貯蔵が可能となる。

 北川教授の研究が契機となり、現在、世界では40社を超える企業やスタートアップがMOF関連事業に参入している。米国のNuMat Technologiesは半導体製造に用いる高純度ガスの分離・貯蔵素材を開発し、Intelなどと提携。スイスのMOF Technologiesは大気中からCO2を回収するDAC向け素材を供給し、中国では上海MOF Materialsが量産体制を確立している。

 市場規模は2024年時点で約5億ドル、2035年には30億ドルを突破すると予測される。なかでも日本企業の存在感は大きく、素材・エネルギー・化学の三領域で実装が進んでいる。

・大阪ガス:大気からCO2を“吸い取る”都市ガス革命

 大阪ガスは、MOFを用いたダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)を開発。大気中の微量なCO2を効率的に回収し、再利用する技術だ。

 同社はMOFによってCO₂を高効率で吸着・放出できるプロセスを確立し、回収したCO2をメタン化する「eメタン」計画と連携。

 2050年には都市ガスの50%以上をeメタンなど再生可能ガスに転換する構想を描く。燃料を“分子レベルから再設計する”構想の中核を担うのが、まさにMOFである。

・レゾナック:CO2を“原料”に変える分離技術

 化学大手・レゾナックは、MOFを使ったCO2分離回収プロセスを実証中だ。従来のアミン吸収法はエネルギーコストが高く、設備腐食のリスクが課題だった。
 MOFなら低温・低圧でCO2を吸着・放出でき、運転エネルギーを大幅に削減できる。

 レゾナックは2035年度をめどに、プラントや発電所での実用化を進め、回収CO₂を用いた化学品製造へも展開する構想を掲げる。

 CO2を「廃棄物」ではなく「資源」に変える──。その構造転換を支えるのがMOFという分子素材だ。

・日本フッソ工業:ナノコーティングで金属タンクの寿命延伸

 日本フッソ工業は、プラントの貯蔵タンクや配管の内壁コーティングにMOFを導入。金属表面の酸化・腐食を抑制し、耐食性を数倍に高めることに成功した。

 フッ素樹脂コーティングでは対応できない高温・高圧環境でも安定性を保つため、化学プラントのみならず、半導体製造装置にも応用が拡大。

 ナノレベルの構造制御が求められる半導体分野では、MOFが次世代プロセスの要になる可能性もある。

“分離革命”が産業構造を変える

「世界の産業用エネルギーの15〜20%は、分離・精製プロセスに費やされているといわれます。空気から酸素や窒素を分ける、排気からCO2を除去する――これらは高温・高圧を必要とするため、膨大なエネルギーを消費します。MOFはこうした工程を常温付近で実現できます。つまり、工業プロセスそのものの“省エネ構造”を実現する素材で、分子レベルで設計された空孔が、エネルギー効率を劇的に高めることが期待されるのです」(物質科学研究の専門家)

 MOFは学術だけでなく、スタートアップエコシステムでも注目を集めている。京都発のAtomisは、水素やメタンを安全に貯蔵できるMOFガス容器を開発。米H-MOFは医薬品や香料の分子カプセル化を進める。欧州ではMOFappsがデータセンターの冷却システムに応用中だ。

 さらに、AIによる材料設計の自動化も始まっている。分子シミュレーションと生成AIを組み合わせ、用途ごとに最適なMOF構造を“自動生成”する取り組みが進行中だ。「素材をつくるAI」が、次の産業革命の火種となる。

 1980年代、日本は炭素繊維やセラミックスで世界を席巻した“素材立国”だった。だが近年、量産・商用化スピードで欧中に遅れを取った。しかし、MOFはその雪辱の機会となる可能性がある。

 北川教授のノーベル賞は、単なる学術的栄誉ではない。学界・産業界・スタートアップが結びつくことで、日本は再び「分子で世界を設計する国」として復権できるかもしれない。

 MOFはエネルギー、化学、半導体、インフラなど、多様な産業を横断する“プラットフォーム素材”である。CO2回収からデバイス材料まで、社会課題の最前線を支えるテクノロジーが、いま静かに日本から世界へ広がっている。

「分子を設計して、社会を設計する」。北川教授が示したこのビジョンは、AI時代の素材革新とGXを結ぶ日本発の希望のシナリオでもある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

キユーピー マヨネーズ100周年。ワクワクする「未来のマヨネーズ」の描き方

1925年に誕生し、長年日本の食文化を支えてきた「キユーピー マヨネーズ」は、2025年に100周年を迎えました。この節目にあたり、キユーピーでは未来志向の価値創造を目指し、電通未来事業創研が提供する「Future Craft Process」や「Expert Idea 500」を取り入れたワークショップを実施しました。

「Future Craft Process」とは、「未来の社会実態」「未来の生活者インサイト」の2つの視点から未来の企業価値をつくり出すアプローチ手法(詳細はこちら)。「Expert Idea 500」は専門家から500以上のアイデアを収集し、それを基に新しい事業の領域やコンセプトを導き出すサービスです(詳細はこちら)。

今回は、実際にワークショップに参加したキユーピー 経営推進本部 経営企画部 部長 髙田典明氏と、マーケティング本部 調味料戦略部家庭用チーム 中村友美氏、電通未来事業創研の伊神崇氏、吉田健太郎氏による座談会を実施。ワークショップを振り返りながら、未来を起点にした商品・サービス開発の可能性や、企業としての進化のあり方についてお話を伺いました。

(左から)電通 伊神崇氏、キユーピー 中村友美氏・髙田典明氏、電通 吉田健太郎氏
(左から)電通 伊神崇氏、キユーピー 中村友美氏・髙田典明氏、電通 吉田健太郎氏
<目次>
誕生から100年。進化を止めず未来に向け新たな価値創造を目指す

未来のペルソナ像を描くことで生まれた544のアイデア

固定観念をなくし、キユーピー マヨネーズの持つ可能性を広げることができた

未来志向のアイデアで、人々の食卓に幸せを届ける提案を

誕生から100年。進化を止めず未来に向け新たな価値創造を目指す

伊神:まずは、2025年にキユーピー マヨネーズが100周年を迎えられたこと、誠におめでとうございます。100周年に向けてさまざまな取り組みを進めてこられたと思いますが、その背景や具体的な内容についてお聞かせいただけますか?

中村:ありがとうございます。キユーピー マヨネーズの100周年のテーマは「still in progress.」。これには「進化は止まらない」という意味が込められています。1925年のキユーピー マヨネーズ発売以来、100年もの間、多くのお客さまにご愛顧いただいておりますが、私たちはこの節目を、進化を止めることなく次の時代へと歩みを進める機会と捉えています。その想いのもと、未来に向けた多様な施策を展開しております。

100周年ロゴ

伊神:まさに「進化」という点で、今回私たちとご一緒させていただいたワークショップにつながっているわけですね。今回「未来のマヨネーズ」をテーマに検討されたのは、どのような背景があったのでしょうか。

中村:100周年を機に未来に目を向けたときに、「どのような未来をお客さまと共に創っていくか」という考えがありました。生活者の皆さまが将来どのような暮らしを望んでいるのか。その姿を見据え、キユーピーとして何ができるのかを考えることが出発点でした。

実は90周年の際にも同様に取り組みを行いましたが、この10年で時代は大きく変化し、お客さまのニーズも変わってきています。これからも生活者の皆さまの食と健康に向き合い続けるためにも、90周年からさらに進化することが100周年においての課題と考えました。

髙田:90周年のときには、近い将来の課題解決に重点を置く「Issue Driven」の考え方が中心でした。しかし100周年に向けて、課題解決型ではなく価値創造型の「Vision Driven」で進めるべきだという考え方にシフトしています。次の100年を見据え、未来志向のアプローチに切り替えて取り組みを進めてまいりました。

未来のペルソナ像を描くことで生まれた544のアイデア

伊神:今回のワークショップには、マーケティング、広告宣伝、研究開発といった多様な部門の方にご参加いただきました。「Future Craft Process」で、まず3日間にわたってワークショップを実施し、「マヨ食によって健康でウェルビーイングな暮らしを送っている未来の人物像(=Future Persona)」を定義するところから始まりました。このアプローチについてはいかがでしたでしょうか?

ワークショップの様子

髙田:未来のペルソナを設定したうえでアイデアを創出するというアプローチは、これまで経験がなかったので、当初は「本当にアイデアが出てくるのだろうか?」といった不安があったのが正直なところです。しかし、実際に進めていく中で、多くのアイデアが次々と生まれて驚きましたし、最終的には当初の想定を大きく上回る成果が得られたと思います。

私たちはこれまで、メインターゲットを子育て世帯を中心としたファミリーライフステージ層に設定することが多かったのですが、あえてさまざまなライフステージにある幅広いペルソナを描き出して考えることで、未来を見据えた新たな視点を得ることができました。

髙田氏

伊神:その後、ワークショップで制作した20のFuture Personaをもとに、「Expert Idea 500」を使い、外部有識者とともに未来のマヨネーズに関するアイデア創出に取り組みました。そこから評価の高いアイデアをさらにブラッシュアップし、最終的に11の新商品やサービスのコンセプトが生まれました。

髙田:外部の視点を積極的に取り入れながら未来を構想するプロセスは、新たな気づきも多くあり、非常に有意義でした。弊社でも50~60件ほどのアイデアを出していたのですが、外部有識者の皆さまからも多数のご提案をいただき、最終的には544ものアイデアが集まりました。自分たちでは考えつかなかったようなアイデアがたくさんあって、見ていてとてもワクワクしました。

吉田:ワークショップを通じて、本当に多くのアイデアが生まれました。多くのアイデアが集まっていく過程で、意見を出しやすい雰囲気が自然と生まれたように感じています。

中村:そうですね。出てきた意見を否定せず、前向きにブラッシュアップしていく姿勢があったからこそ、より自由に意見を出しやすい雰囲気が醸成されたのだと思います。電通の皆さんにはそうした雰囲気づくりをしていただいて、本当にありがたかったです。

中村氏

伊神:今回出てきたアイデアは、キユーピー マヨネーズの過去から未来を語り合う100周年記念社内イベント「ミライマヨファーム」で展示してらっしゃいました。その中でも、特に印象的だったアイデアを教えてください。

中村:「パーソナライズ・マヨドレッシング」は、ボタン一つでその日の気分や体調に合った自分専用のマヨネーズやドレッシングを作れるフードプリンターというアイデアでした。10年後という少し手触り感のある未来に向けたアイデアだったこともあり、イベントで展示した際には、来場者の方々から「これ欲しい!」という声が最も多く寄せられました。

パーソナライズ・マヨドレッシング

「食でコミュニケーション カラーおえかききマヨペン」や、養鶏場の一口オーナーになることから始まり、自分好みのマヨネーズをつくる「Myニワトリのタマゴで作るマヨ!Kewpie Craft Mayo Fan Club」なども印象的でした。どちらも、個食化の進行や人口動態といった社会の潮流を踏まえたアイデアで、今の時代ならではのニーズや価値観に対応した提案でした。

伊神:どちらのアイデアも、「楽しさ」を通じて食の可能性を広げるような視点が非常にユニークでした。これから私たちがマヨネーズとどのように向き合っていくのか、その可能性を象徴する取り組みだったと感じています。

吉田:「カラーおえかききマヨペン」のアイデアが生まれた背景には、子どもの個食というテーマがありました。現代では、一人っ子世帯やシングルファーザー・シングルマザーのご家庭も当たり前になってきて、子どもたちが一人で過ごす時間も今後さらに増えていく可能性があります。そうした中で、子どもたちが一人の時間でも楽しく過ごせるようにするにはどうしたらいいか。

そこでマヨネーズが「一人での食事も楽しくする存在になれたら」、という発想が今回のアイデアの出発点になりました。未来の幸せをどう作っていくのかという視点で考えていただいたのが、すごく良かったなと思いました。

カラーおえかききマヨペン

「Kewpie Craft Mayo Fan Club」についても、バリューチェーンに対する意識の高さが感じられました。単なる商品アイデアにとどまらず、生産の最適化や安定供給のあり方まで踏み込んだ発想がありました。その視点は個人的にも非常に重要だと感じました。

吉田氏

中村:バリューチェーンは、弊社の中でも重要なキーワードになっています。不確実性の高い状況下においては、持続可能な商品開発にとどまらず、それぞれのサプライチェーンやバリューチェーンの中で競争していくことが求められます。いかにバリューチェーンの各段階において付加価値を創出していくか。「Kewpie Craft Mayo Fan Club」はその視点を象徴するアイデアだったと感じています。

Kewpie Craft Mayo Fan Club

「栄養、おいしさ。まとめてふりかけ。完全栄養マヨフレーク」も、非常にユニークなアイデアでした。イベントでは研究開発チームに協力してもらい、実際にフレーク状のマヨネーズを試作・展示したのですが、来場した社員にサンプルの香りを体験してもらうと、マヨネーズそのものの香りがすることに非常に驚かれました。世の中の食の価値観が変わっていく中で、こうしたアイデアもぜひ実現に向けて進めてほしいという熱を帯びたコメントがたくさん届きました。

髙田:今回印象的だったのは、商品だけでなく、サービスに関するアイデアも多く生まれたことです。私たちはどうしても、ものづくりに重きを置きがちですが、サービス領域にまで広がった発想は非常に新鮮でしたし、他のメンバーからの反応も非常に良かったと感じています。

もちろん、実現に向けてはこれから検討すべき点も多くありますが、もしこれらのアイデアが形になれば、お客さまの課題解決につながるのではないかと可能性を大いに感じています。何か一つでも実現につなげられたらと思いました。

固定観念をなくし、キユーピー マヨネーズの持つ可能性を広げることができた

伊神:今回のワークショップを通じて、「未来のマヨネーズ」というテーマのもと、さまざまなアイデア創出に取り組んでいただきましたが、実際にご参加いただいた皆さまからの反響はいかがでしたでしょうか?

伊神氏

中村:社内でも、キユーピー マヨネーズに改めて真剣に向き合ったことで、キユーピー マヨネーズの持つ可能性や魅力はまだまだ広がっていくと感じられたと話しています。また、ワークショップには多様な部門からメンバーが参加しましたが、こうした幅広い領域のメンバーが一堂に会し、マヨネーズについて語り合う機会はこれまであまり多くなかったように思います。そうした意味でも、部門を越えてじっくり対話できたことは、非常に有意義でした。

髙田:キユーピー マヨネーズは長年親しまれてきた商品ですが、その特性ゆえに新しいことに取り組もうとしても、どうしても既存の枠組みや固定観念といったバイアスがかかってしまう傾向があるように思います。しかし今回、多様なアイデアが自由に出されたことで、これまで考えてはいたものの言い出しづらかった意見が、表に出るきっかけになったことは非常に良かったです。こうしたバイアスが取り除かれたことで、今後の開発においても、より自由で柔軟な発想がしやすくなったと思います。

中村:キユーピー マヨネーズを「時代を超えて守るべき要素」、そして「時代の変化に応じて進化すべき要素」に要素分解したうえで、丁寧に議論したことで、しっかりと本質を捉えて議論できたと思います。参加メンバーからも「このまま終わらせたくない」「実現に向けてしっかり取り組みたい」といった前向きな声も多く聞かれました。実現に向けたステップの足がかりとして、大きな成果だったと思います。

未来志向のアイデアで、人々の食卓に幸せを届ける提案を

伊神:今まさに新たな進化の過程にあるキユーピー マヨネーズですが、これから先の10年、20年という中長期的な視点で、どのような進化をお考えでしょうか。

キユーピー

髙田:今回、100周年に向けたさまざまな取り組みを進める中で、改めて「未来」「グローバル」「挑戦」という3つのキーワードが重要であると感じました。まず「未来」について。今描いた未来像がすべてではなく、むしろ未来は常に変化し続けるものであるからこそ、これからも常に未来を考え続けていく姿勢が重要だと思いました。

「グローバル」については、現在、8カ国で自社生産し、79の国と地域のお客さまに商品をお届けしており、当社グループの海外売上高比率は年々伸長し約20%あります。今後は、今回のような取り組みを海外市場でも実施し、既存市場の深掘りや、新たな国・地域への展開にもつなげていけたらと考えています。日本で生まれたマヨネーズが、世界中の生活者により深く、広く受け入れられていく未来を描いていきたいです。

そして3つ目の「挑戦」ですが、現在進行中の4年間の中期経営計画においても、「Change & Challenge」というテーマを掲げています。この計画の中でも、まさに「挑戦」が重要な軸になっています。マヨネーズを通じて、未来に希望を持てるような新たな価値提案ができるよう、チャレンジし続けることが重要だと考えています。

中村:今回初めて、未来のペルソナを設定し、その人物が将来どのような生活を送っているのかという未来を描いてみたことで、お客さまが「もっとこうあったらいい」と感じている潜在的な課題のようなものが見えてきたように思います。その先に、私たちが果たすべき使命やミッションがあるのではないかと、改めて実感しました。

もっとも、未来は不確実なので、未来に向けたアイデアのストックを意識的に多く持っておくことが大切です。今回のようにあえて多くのアイデアを生み出していくというプロセスを経験できたことは、私たちにとって非常に意義のあることだったと思います。

伊神:確かに、未来が不確実だからこそ、私たち自身も視野を広く持ち、多様な可能性に備えておくことがますます重要になってきていると感じます。これからの時代は、特定の方向に絞り込むだけでは対応しきれない場面も増えてくると思いますので、あらかじめ幅を持った取り組みを意識して進めていくことが求められているのだと改めて実感しました。

吉田:世の中で語られる未来に関する情報は、どちらかというとネガティブに捉えられることが多い印象があります。そうした中で、キユーピーさん、そしてキユーピー マヨネーズという存在が、未来に向けて人々が喜びを感じられるようなことを模索されている姿勢に、非常に共感を覚えましたし、ご一緒できたことをうれしく思っています。

御社で未来志向で生まれてくるさまざまなアイデアが、少しずつでも形になっていくことで、人々の暮らしに小さな幸せが広がっていくような、そんな未来の光景が自然とイメージできました。だからこそ、これからの取り組みがますます楽しみです。このような機会をいただきありがとうございました。

取材の様子
 
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「持続可能なパートナーシップ構築のための広告制作プロセスマネジメントハンドブック【2025年度版】」発行

日本アドバタイザーズ協会(JAA)日本広告業協会(JAAA)日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)日本広告制作協会(OAC)Interactive Communication Experts(I.C.E.)の5団体は10月1日、「持続可能なパートナーシップ構築のための広告制作プロセスマネジメントハンドブック【2025年度版】」を発行した。

広告制作プロセスマネジメントハンドブック【2025年度版】

同ハンドブックは、2018年9月に発行された「新しい働き方のための広告制作プロセスマネジメントハンドブック」の内容をベースに、現在の広告制作業界が直面しているテーマに対応するために大幅なリニューアルを図ったもの。これからの時代の広告制作プロセスをマネジメントしていく上での方向性を示すものとなっており、日々の業務に役立つ内容となっている。


【広告制作業界が直面しているテーマ】

●広告のデジタル化に伴う制作業務の多様化
日本の総広告費は2024年には7.6兆円となったが、その47.6%にあたる3.6兆円をインターネット広告費が占めている。この急速な拡大の背景には、新たな消費者へのコミュニケーションの手段や手法が増え続けていることも挙げられる。そして、制作の現場はそうした新領域への対応を常に求められ続けている。加えて、インターネットメディアには即応性が求められることから、さらなるスピードアップへの要求も重なっており、結果として制作業務の過密化が生じている。今回からは、前回のハンドブックに参画した各団体に加え、デジタル領域を中心にコミュニケーションデザインを行うプロダクションやエージェンシーの業界団体である Interactive Communication Experts(I.C.E.)も加わった。

●「仕事を請け負う受注者の保護」を強化する流れへの対応
2024年11月にはいわゆる「フリーランス新法」が導入されたのに続いて、26年1月には下請法が改正されて通称「取適法」に変わるなど法的な整備も次々と進められている。広告主から広告会社、制作会社へと流れていくバリューチェーンにおいて適正な受発注を行っていくためには、これまで以上にプロセスを明確化していくことが求められる。発注時に明確な証跡が残されていなかったり、あるいは明確なスコープ・オブ・ワークを示さないままに業務を依頼していたりなど、旧態依然とした従来からの受発注慣習を、時代に合わせて改めていく必要がある。

●「地球環境負荷への取り組み」への着手
すでに「Ad Net Zero」の活動をはじめヨーロッパを中心に具現化しつつある、広告制作業務による温室効果ガス抑制など「地球環境負荷への取り組み」にも着手していかなければならない。この取り組みを進めていくためには、相応の労力やコストを割く必要があることを、広告制作に携わるすべての人が理解し、実行に移していくことが求められている。


また、今回のハンドブックでは、新たな取り組みとして、参加5団体の合意に基づく「広告制作ガイドライン」を掲載している。このガイドラインには、広告制作におけるより公正かつ透明な取引環境の整備、制作現場における労働環境をより魅力的なものにするための改善、制作プロセスにおける温室効果ガスの抑制など、今後の広告制作業界の持続的な発展を可能にするための指針が示されている。

「広告制作ガイドライン」
 
■本件の関するリリースおよび「広告制作プロセスマネジメントハンドブック」のダウンロードはこちらから
【問い合わせ】
日本広告業協会 info@jaaa.ne.jp