トヨタ・アルファード、1年待ちの悪夢再来か…第2次半導体ショックと中国依存リスク

●この記事のポイント
・中国・ネクスペリアの輸出規制により、再び自動車業界に半導体不足の波が到来。
・トヨタなど人気車種の納期長期化、部品調達難、受注制限の再来も懸念される。
・EV・ソフトウェア化が進む中、日本車の中国依存リスクが急速に拡大しており、“国産回帰”の現実性とスピードが問われている。

 トヨタ自動車の人気車種「アルファード」と「ランドクルーザー」。いずれも納期が1年を超えた“伝説の品薄車”として記憶に残るモデルだ。2021〜22年にかけての世界的な半導体不足の影響は、自動車生産ラインを一時停止に追い込み、ユーザーは数カ月から1年の納車待ちを強いられた。

 そして今、再びその「悪夢」がよみがえろうとしている。背景には、中国による半導体輸出規制という新たなリスクがある。

●目次

中国発・ネクスペリア規制の衝撃

 2025年秋、中国政府が突如として打ち出したのが、半導体メーカー「ネクスペリア(Nexperia)」製品の国外輸出制限だ。ネクスペリアはオランダに本社を置くが、中国のウィルセミ(Wingtech Technology)の傘下企業であり、実質的には中国資本が支配している。自動車向けアナログ半導体やパワートランジスタなどを数多く生産し、世界の自動車生産ラインの“縁の下の力持ち”として知られる。

 欧州の自動車メーカーでは、すでにこの輸出規制の影響が表面化している。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は、一部車種の生産停止を発表。同社関係者は「短期間で代替部品を確保できず、生産ラインの再編に時間がかかる」とコメントしている。一方、日本でも大手自動車メーカーが「一部車載用半導体の入手に支障が出ている」と報告。現時点では生産停止には至っていないが、供給リスクは現実化しつつある。

 日本の自動車メーカーは、ルネサスエレクトロニクスを中心とする国内半導体メーカーとの取引を強化している。

 だが、車載用半導体の供給構造をみると、国内調達だけでは到底賄いきれないのが実情だ。自動車1台あたりに搭載される半導体は、ガソリン車で約1000個、ハイブリッドやEVでは2000〜3000個にも及ぶ。

 ルネサスが得意とするマイコン(制御用チップ)は国内調達できても、電源制御や通信系、センサー、カメラ用などの多くは海外製だ。特にネクスペリア製品は、トヨタ・日産・ホンダの主要サプライチェーンにも広く使われているとされ、輸出制限の影響が長期化すれば、「2021年の半導体危機」の再来もあり得る。自動車アナリスト荻野博文氏はこう指摘する。

「車載用半導体は汎用品ではなく、車種や機能に合わせてカスタマイズされている。一度調達先を変えるには設計変更と認証試験が必要で、最短でも半年はかかる。“代替調達”は口で言うほど簡単ではない」

人気車種「アルファード」「ランクル」に集中するリスク

 市場ではすでに、人気車種の納期が再び延び始めている。特にトヨタの高級ミニバン「アルファード」とSUVの「ランドクルーザー」は、国内外で爆発的な人気を維持しており、受注が生産能力を上回る状況が続く。

「前回の半導体危機時には、転売目的での“投機的注文”も殺到。ランドクルーザー300は一時、納期4年待ち・中古価格が新車の1.5倍という異常事態を引き起こした。トヨタは今回、こうした混乱を防ぐために『受注制限』『グレード限定受注』などの対策を講じているが、部品供給が滞れば、いずれ同様の事態が起こりかねない。

 また、ハイブリッド車特有の制御系半導体や、人気オプション(大型ディスプレイ、パノラマルーフなど)に使用される電子部品は、依然として供給逼迫が続く“ボトルネック部品”だ。特定の部品が欠けるだけで、完成車が出荷できないケースもある」(同)

EV時代が生む「中国依存の罠」

 今回の問題は、単なる一時的な供給トラブルにとどまらない。むしろ、日本の自動車産業が直面する「中国依存の構造的リスク」を浮き彫りにしている。近年、日本メーカーはEV開発の加速に伴い、中国企業との連携を強化してきた。

 たとえば、
 ・日産やホンダは、中国CATL製のEV電池や車体プラットフォームを採用。
 ・トヨタは、中国BYDとの提携でEVセダン「bZ3」を開発。
 ・ソフトウェアや自動運転技術では、ファーウェイ製OSや通信モジュールを利用。

 こうした“合理的な協業”が進む一方で、地政学リスクが高まる今、「もし中国が供給を止めたらどうなるのか」という根源的な懸念が現実味を帯びてきた。

「EVのコア技術であるバッテリー、制御半導体、OSのいずれも中国の存在感が圧倒的に強い。中国が輸出制限カードを切るたびに、日本メーカーは『サプライチェーンの独立性』という難題に直面する」(同)

 こうしたリスクを背景に、トヨタやホンダは国内生産体制の再構築に動き始めている。ルネサスを中心に、車載向け半導体の生産拠点を国内で強化。

 また、ソニーとホンダが共同で設立した「ソニー・ホンダモビリティ」では、自社開発OS「Arene OS」による制御統合を進め、ソフトウェア面でも“脱中国”を模索している。

 一方で、サプライチェーンの完全な自立には時間がかかる。車載半導体の多くは長寿命かつ耐熱・耐振動性を求められ、一般的なPC向けチップのように数カ月単位で設計変更できるものではない。トヨタ幹部の一人はこう語る。

「われわれが本当に確保すべきは“数”ではなく“安定供給”。そのためには国内外のパートナーとどう分散するかがカギになる」

見えない在庫、膨らむリードタイム

「世界の半導体供給は、パンデミック期を経て一度は安定したように見えた。だが実際には、車載用半導体市場は慢性的な“隠れ不足”が続いている。納入リードタイムは平均で20〜40週(約5〜10カ月)。設計変更が難しいため、メーカーは「過剰在庫」と「欠品」の両極端を行き来している。

 特にハイブリッド・EV化が進むほど、必要な半導体の種類は指数関数的に増える。自動運転支援(ADAS)やコネクテッド機能には高性能チップが必要で、今後、“ソフトウェア定義車”時代に入るにつれ、車はもはや「走る電子機器」となる」

 つまり、半導体不足は“過去の一時的トラブル”ではなく、今後10年にわたって続く構造的課題だと見るべきだ。

 今回のネクスペリア問題を受け、政府も動き始めている。経済産業省は車載半導体を「戦略物資」と位置づけ、TSMC熊本工場(JASM)やラピダス(北海道)の支援強化を通じて、国産供給網の整備を急ぐ。

 しかし、これらの工場がフル稼働するのはまだ数年先だ。短期的には、「ネクスペリア代替の確保」が最大の課題となる。経済安全保障の専門家は「今の日本車は、中国製チップやソフトに“無意識的に”依存している。サプライチェーンの安全保障を軽視すれば、いずれ“戦略的な急所”を突かれる」と警鐘を鳴らす。

供給リスクが変える「モノづくりの発想」

 半導体不足は、もはや一過性の危機ではない。それは、自動車産業が直面する構造転換の“引き金”でもある。2020年代初頭、半導体の確保をめぐって「トヨタ・ショック」と呼ばれる教訓が生まれた。その後、トヨタはサプライヤーとの情報共有を強化し、在庫戦略を見直した。

 だが、地政学の激変とEV・AI化の進展により、今やその“勝ちパターン”も通用しなくなりつつある。「納期1年待ち」というニュースは、単なる流通トラブルではない。それは、世界のモノづくりが“再構築”を迫られているサインであり、自動車という巨大産業が「安全保障」と「サプライチェーンの主権」を取り戻す闘いの始まりでもある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

池袋で第2次家電量販店戦争が勃発…なぜ今「リアル店舗回帰」が起きている?

●この記事のポイント
・池袋にヤマダ・ヨドバシ・ビックが再び集結。体験型店舗や複合モール構想で家電量販店が復権へ。
・EC時代にリアル店舗が「動画・SNS・ライブコマース」の拠点となり、販売戦略が逆転。
・各社が競争よりも共存を選び、池袋を「家電と観光の街」として再定義。都市型商業の転換点に。

 池袋駅周辺が、再び家電量販店の戦場と化している。

 ヤマダデンキ、ビックカメラ、ヨドバシカメラ——日本を代表する家電量販3強が、相次いで池袋駅周辺に新店舗・大規模リニューアルを仕掛けているのだ。EC(電子商取引)全盛の時代に、なぜ今あえて「リアル店舗」に注力するのか。そこには、単なる販売競争を超えた“都市型商業の再定義”が進んでいる。

●目次

リニューアルしたヤマダが示した「家電の未来像」

 9月、池袋東口にヤマダデンキの大型店「LABI1 LIFE SELECT池袋東口」がグランドリニューアルオープンした。従来の「量販型」店舗とは一線を画し、コンセプトは“体験型”。店舗内には実際のリビングやキッチンを再現し、ソニーやパナソニックなど各メーカーの最新製品を「生活空間の中で」試せる構成となっている。

 例えばリビングゾーンでは、ソニーのテレビとBOSEのスピーカー、日立のエアコンを組み合わせたホームシアター体験が可能。スタッフがAIスピーカーで照明や音量を操作するデモも行う。「製品を“買う場所”ではなく、“暮らしを体験する場所”にしたい」(ヤマダ広報)という構想のもと、ライブ配信を通じた商品紹介や、ライブコマース連携も始まった。

「これは単にECに客を奪われた家電量販店の”延命策”ではなく、むしろ店舗を“動画スタジオ”として活用し、SNSやECへの流入を促すハブ機能として再定義しているといえます。つまり、リアル店舗がオンライン販売の“起点”となり始めているのです」(戦略コンサルタント・高野輝氏)

「ヨドバシ×西武」の衝撃…家電と百貨店の融合モデル

 今回の“第2次家電戦争”の引き金を引いたのは、ヨドバシカメラの動きだ。同社は今年、西武池袋本店内への大型出店を発表。詳細はまだ明かされていないが、業界関係者によれば「百貨店の上層階を大胆にリノベーションし、“百貨店×家電”の複合モールにする構想」が進んでいるという。

「背景にあるのは、ヨドバシが近年展開してきた“ヨドバシタワー構想”です。秋葉原や梅田などでも見られるように、家電だけでなく、書店、飲食、ホテル、そして物流を一体化させる戦略です。西武池袋という都内有数の立地に進出することで、観光・宿泊・ショッピングを一気通貫で体験できる都市型拠点を目指している可能性が高いです」(同)

 百貨店が苦戦するなかで、ヨドバシとの連携は西武にとっても“救いの一手”だ。百貨店が担ってきた「リアルの上質体験」を家電の分野に転用することで、新しい来店価値を創出する。その象徴的な一手となりうる。

EC時代の「逆転」…店舗がショールームではなくメディアに

 長らく家電量販店は“ショールーム化”が進んでいた。来店客が商品を確認した後、最安値を検索してECで購入する――そんな構図が業界の悩みだった。

 しかし、今起きているのは、その“逆転”だ。体験型店舗の進化によって、店舗そのものが「SNS的な拡散装置」へと変化している。ヤマダのライブ配信やヨドバシの複合施設構想のように、リアルな接点が「動画」「SNS」「インバウンド」に拡張され、顧客とのタッチポイントが無限に広がっているのだ。

 さらに、家電業界では製品の高機能化・高価格化が進んでおり、「比較・体験・相談」が購買プロセスの中心になっている。特にAI家電やスマートホーム機器などは、機能を理解してもらうために実演・体験が欠かせない。店舗は単なる販売の場ではなく、「体験と理解の場」としての価値を取り戻しつつある。

“戦い”ではなく“共存”へ

 池袋では、東口のヤマダ、西武のヨドバシ、西口のビックカメラが半径500メートル圏内に並ぶ。一見、過当競争のようだが、実際には「エリア戦略」として機能している。

「消費者にとっては、複数の大型家電店が集中することで比較検討がしやすくなることが大きい。観光客や地方からの来訪者にとっても、池袋が“家電の街”として再び認識されるようになります。この結果、エリア全体の来街者が増え、各社がそれぞれの得意分野で収益を上げる構図が成立します」(同)

 特にインバウンド需要の回復が追い風だ。家電量販店は免税販売の比率が高く、2024年以降、外国人観光客による高額家電の購入が戻りつつある。訪日客は「秋葉原か池袋か」で家電を買いに行くケースが多く、各社は「池袋を第二の秋葉原」に育てることを狙っているともいえる。

 家電量販店の動きは、池袋東口の再開発とも連動している。駅前では新たな商業施設「ハレザ池袋」や、グローバルブランドホテルの進出など、街全体が“滞在型・体験型”の街へと進化している。

 豊島区のデータによれば、池袋の訪日客数は2019年比で約9割まで回復(2025年6月時点)。新宿や渋谷よりも宿泊費が安く、交通アクセスが良いことから“滞在拠点”として人気が高まっている。家電量販店各社は、単なる商業施設ではなく「観光インフラ」としてこの流れに乗ろうとしているのだ。

“体験経済”の中での再定義

 従来、家電量販店のKPI(重要業績評価指標)は「売上」「来店数」「在庫回転率」だった。

 しかし今、注目されているのは「体験時間」「SNS投稿数」「ライブ配信視聴者数」など、新しい指標である。ある大手家電メーカー幹部はこう語る。

「ユーザーが店舗で30分過ごしてくれれば、SNSに一回投稿してくれる。その投稿をきっかけにECで購入することもある。店舗のROI(投資利益率)を“来店→購買”ではなく、“来店→拡散→購入”で捉える時代です」

 つまり家電量販店は、もはや小売業ではなく「体験を起点にしたメディアビジネス」へと進化している。ライブ配信スタジオ、SNS動画、メーカーとの協業イベント……そのどれもが新しい“販売装置”となる。

 ヨドバシの動きは、単なる出店ではなく、都市インフラへの参入でもある。同社は物流拠点「マルチメディア配送センター」を全国で拡大しており、店舗を倉庫・EC配送のハブとして機能させている。家電を売るだけでなく、「都市生活における最後の1マイル」を自社で掌握しようとしているのだ。

 この構想は、Amazonなどのプラットフォーマーに対抗する日本型の“リアルOS”構想ともいえる。家電、宿泊、飲食、配送を統合するヨドバシの都市モデルは、地方都市への展開も視野に入っている。

家電量販店は「街の体験拠点」として生き残るか

 家電量販店の戦いは、もはや「どこが安いか」ではなく、「どこが面白いか」の勝負に変わった。体験・滞在・拡散・接客といった、非価格要素の競争が始まっている。

 その意味で、池袋東口の動きは、家電業界だけでなく、日本の都市商業の未来を占うリトマス試験紙といえる。

 今後は、AI家電やロボティクス、エネルギー機器など“体験しないとわからない製品”が増えていく。それらをどのように「街の中で体験させるか」が、次の競争軸になるだろう。

 池袋東口に再び家電量販店が集う理由は、単なる競争ではなく「共創」にある。各社が同じエリアに集まることで、話題性と利便性を高め、エリア全体での集客を狙う。リアル店舗はもはやECに対抗する存在ではなく、むしろその“入口”となる。

 “第2次・池袋家電量販店戦争”とは、リアルとデジタルの境界を超え、家電量販店が「体験のメディア」として進化する戦いなのである。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

三井住友カード、年会費約10万円“超高級カード”の狙い…改悪後の経済圏戦略

●この記事のポイント
・三井住友カードが年会費9万9000円の最上位カード「Visa Infinite」を新設。富裕層の囲い込みとVポイント経済圏の強化が狙い。
・楽天、PayPay、d、au、Vポイントの5大経済圏が競合。買い物還元から金融・投資連携へと主戦場が移行している。
・各社がAIや自治体連携を強化するなか、ユーザーは生活スタイルに合った経済圏選択とポイント最適化が重要となっている。

 三井住友カードが9月30日に発行を開始した、同社として初となる最上位クラスのクレジットカード「Visa Infinite」。年会費は9万9000円(税込)で、プラチナカード(年会費5万5000円)のさらに上に位置づけられる。

 これまでの三井住友カードといえば、「三井住友カード ゴールド(NL)」や「プラチナプリファード」など、キャッシュレス還元とステータス性を両立させたラインナップで人気を集めてきた。しかし、2024年以降のVポイント還元率改定(実質改悪)や、「SBI証券とのポイント付与見直し」など、コスト圧縮の動きが相次いでいた。

 そんななかで、なぜ今、“ハイエンド層向け”カードを新設したのか。ファイナンシャルプランナーの荒井友美氏に分析してもらった。

●目次

Vポイント経済圏の再構築:銀行・証券・カードの三位一体

「三井住友カードの関係者に話を聞いたのですが、狙いは『富裕層セグメントの囲い込みと、海外利用のシェア拡大』にあるようです。円安・物価高のなかでも海外旅行や外資系ホテル利用が活発な層を対象に、Visaグローバルの特典(空港VIPラウンジ、海外旅行保険、ホテル優待など)を強化し、さらに三井住友銀行・SBI証券・Olive(オリーブ)口座連携を通じて、Vポイントを経済圏の中核通貨として育てる方針を明確にしています」(荒井氏)

 つまり、Visa Infiniteは「カード単体の収益」ではなく、富裕層を経済圏にロックインする“旗艦プロダクト”としての役割を担う。

 Vポイントは2024年4月、Tポイントと統合されて誕生した。統合直後は利便性が向上した一方、「付与率低下」や「交換先制限」への不満も多かった。しかし、三井住友カードとSBI証券、さらに三井住友銀行の“Olive連携口座”によって、Vポイントの生態系は大きく変化している。

 ・SBI証券:投信積立や株式取引でVポイントを貯める/使う
 ・三井住友銀行:給与振込・光熱費支払いでポイントアップ
 ・三井住友カード:Visaタッチ加盟店で最大7%還元(コンビニ・マックなど)

 このように、Vポイントは「クレカの特典」から「資産形成・決済を一体化した経済圏ポイント」へと進化中だ。

 また、三井住友カードは2025年に向けて「ポイントの長期優遇設計(ロイヤル会員制度)」も検討しており、富裕層とリテール層を明確に分けた設計を進めているとみられる。

■5大経済圏の比較:楽天、PayPay、ドコモ、au、Vポイント

「各経済圏の競争軸は、従来の買い物還元から金融・投資・通信・公共料金など、生活インフラへの接続度に移行しています。特にVポイントとPayPayは金融分野での勢いが強く、楽天・ドコモ・auが築いた既存顧客層への浸透を狙う構図です」(同)

「ポイント改悪」の裏にある共通構造

 2024〜2025年にかけて、多くの経済圏で「ポイント付与率引き下げ」「特典縮小」が相次いだ。背景には、
 ・加盟店手数料の低下(特にQR決済)
 ・物価上昇とシステム維持コスト増
 ・ユーザー還元よりもエコシステム強化へ投資転換
といった要因がある。

 たとえば楽天は「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」の条件を厳格化、PayPayは「PayPayステップ」の達成条件を複雑化。ユーザーの間では“改悪”と捉えられるが、企業側は「選別的ロイヤリティの最適化」と説明する。

 つまり今や、“誰にでも高還元”の時代は終わり、ロイヤル層に集中投資する時代になったのだ。

2025年のポイントプログラム最新潮流

 1.「共通ポイント→通貨化」への流れ
 Vポイント・dポイント・楽天キャッシュはいずれも送金・投資・外貨両替機能を強化。電子マネーから“疑似通貨”へと進化している。

 2.クレカとQRのハイブリッド統合
 PayPayカードや楽天カードタッチ決済など、「一体アプリ」での利用が進み、支払方法を自動最適化するAI機能が搭載されつつある。

 3.AIによる最適還元提案
 楽天の「AIお買い物ナビ」や三井住友の「Olive AIアシスタント」は、ユーザーの生活行動から自動で最適な支払い手段を提示。無意識のうちにポイントを最大化できる仕組みが整いつつある。

 4.地方自治体との連携強化
 PayPay・d払い・au PAYは、地方税や公共料金支払いでポイント還元を提供。全国の自治体と「地域通貨」的に連動するケースも増加している。

 ここで、意外と知られていないお得なテクニックを聞いた。

 1.SBI証券×三井住友カード(プラチナプリファード)で投信積立1.0%還元
 高額積立ユーザーほど恩恵が大きい。年間上限5万円分のVポイントが狙える。

 2.PayPay公共料金支払い+ソフトバンクまとめ請求で実質1.5%還元
 自治体支払いでも還元がつく珍しいケース。固定費節約に有効。

 3.楽天キャッシュ×楽天証券の再連携(2025年春再開)
 積立設定をキャッシュ払いに変えるとポイント二重取りが可能に。

 4.dポイント投資「おまかせコース」で毎週自動積立
 元手ゼロでも投資体験でき、ドコモ利用状況によってボーナス還元も。

 5.au PAYマーケット「還元率ブースト」+じぶん銀行残高連動
 金利優遇と合わせると実質年利換算で1.8%超え。貯蓄型利用に最適。

経済圏競争の主戦場は「決済」から「金融」へ

 クレジットカードやQR決済の競争は、もはや“支払いの便利さ”ではなく、「お金をどう運用し、どれだけ生活に還元できるか」が焦点となっている。

 三井住友カードが「Visa Infinite」という象徴的な最上位カードを導入したのは、単なる富裕層向けの贅沢品ではなく、Vポイントを軸にした金融エコシステムの頂点を築く意思表明だ。楽天・PayPay・d・auが築いた生活圏を追う形で、三井住友は“資産形成+決済+信用”を統合した「新・金融型経済圏」のリーダーを狙う。

 そしてユーザー側に求められるのは、「どの経済圏で生きるか」を意識し、自分の生活行動とポイント還元を最適化する“戦略的家計管理”である。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

ENEOS、AI異常予兆検知システム導入へ…安定稼働と効率化、背景に老朽化と人材不足

●この記事のポイント
・ENEOSが国内製油所にAI予兆検知システム「Aspen Mtell」を導入。老朽化設備と人材減少に対応し、安定稼働を図る。
・過去データをAIが学習し、異常兆候を早期に検知。運転停止リスクの低減や補修費削減など経営的効果を期待。
・ENEOSはAIを製造現場だけでなく素材開発やサプライチェーン効率化にも活用し、事業全体のデジタル転換を推進。

 エネルギー大手のENEOSは、国内の製油所にAIを活用した異常予兆検知システム「Aspen Mtell」を導入する取り組みを進めている。背景には製油所設備の老朽化や熟練技術者の減少といった構造的課題がある。ENEOSは「第4次中期経営計画」でAI活用を掲げ、製油所へのデジタル技術の導入を加速している。本稿はENEOS技術計画部次世代技術グループのコメントを基に、導入の狙いと効果、エネルギー産業におけるAI活用の展望を探る。

●目次

背景:エネルギー産業が直面する「二重の課題」

 石油精製業界は変革期にある。脱炭素の潮流が進む一方、依然として石油製品の安定供給は社会にとって不可欠だ。その中で日本の製油所が抱える課題は二つある。

 第一は設備の高経年化だ。日本の多くの製油所は1960年代から70年代に建設されたものが中心で、設備の老朽化が進んでいる。小さな不具合が大規模トラブルに発展するリスクが高まり、保全コストや運転停止のリスクが増大している。

 第二はベテラン運転員の減少である。長年にわたり設備の「異音」や「微妙な振動」を感覚的に察知してきた熟練技術者の退職が進み、経験知をどのように継承するかが大きな課題となっている。

 こうした背景を踏まえ、ENEOSは「製油所稼働率の最大化」と「AI活用の推進」を第4次中期経営計画の重要テーマに位置づけている

「製油所設備の高経年化やベテラン運転員の減少といった構造的課題を踏まえ、製油所の安定・高効率運転を実現するため、AIを用いた設備トラブルの早期予兆検知を可能にするAspen Mtellの導入を決定しました」(ENEOS技術計画部次世代技術グループ)

Aspen Mtellとは:データが語る「異常の兆し」

 Aspen Mtell(AspenTech提供)は、AIを用いて異常の予兆を検知するシステムだ。

 同システムの特徴は、過去の膨大な運転データをAIに学習させ、正常運転時と異常発生時のデータ相関を解析することで、従来の閾値監視では捉えにくかった微細な前兆を検知する点にある。

「本システムでは、過去の膨大な運転データからAIを用いて正常運転時・設備故障時における計器データ間の相関関係を学習することで、設備の異常予兆や過去に経験した類似故障の予兆検知を可能にします」(同)

 従来、定期点検やセンサー等での運転データの閾値監視では見つけられなかったごく小さな兆候や、経験の浅い運転員では見落としがちだった兆候をAIに検知させる。例えば、わずかな温度変化や圧力変動など、センサーの数値としては許容範囲内でも、異常発生の前触れであるケースを検知することができる。

導入効果:運転停止リスクの最小化とコスト削減

 異常予兆検知により、設備トラブルを早期に発見・対応できれば、製油所の計画外停止の抑制や補修費の低減が期待できる。

 同社は効果について次のように説明する。

「本システムの導入により、設備トラブル(従来は検知が難しかったものを含む)を初期段階で検知することが可能になるため、設備トラブル発生時の運転停止期間の短縮や補修費の削減といった効果が期待されます」(同)

 製油所の計画外停止は生産損失や補修費用などで大きなコストが発生するため、AIによる早期検知で停止回数や期間の削減につながれば、経営面でのメリットは大きくなる。

ENEOSのデジタル戦略:製油所を超えて

 ENEOSのAI活用は製油所だけにとどまらない。2025年7月に公表した「ENEOSデジタル戦略」では、以下の分野でのAI活用が示されている。

 ・革新的材料開発:新素材の探索や性能予測にAIを活用
 ・サプライチェーン効率化:需要予測や在庫最適化によるコスト削減
 ・製造領域:プラント自動運転への挑戦

「当社では『革新的材料の開発』や供給領域における『サプライチェーンの効率化』において先進的なAIを活用しています。また、製造領域においては異常予兆検知システム以外にも『AIを用いたプラントの自動運転』にも取り組んでいます」(同)

 つまりENEOSは、AIを単なる省力化ツールとしてではなく、事業基盤を再定義する「成長のカギ」と位置づけている。

ビジネス的含意:エネルギー×AIの未来

 今回の導入は、エネルギー産業が抱える課題をAIでどう解決できるかを示す象徴的な事例といえる。

 1.リスク管理の高度化
 従来は人の経験に依存していた異常予兆検知をAIに置き換え、先手の対応を可能にする。

 2.人材不足の補完
 熟練技術者の「暗黙知」をAIに取り込み、技術継承を支援する。

 3.経営資源の最適配分
 効率化で生まれた余力を事業投資等に振り向けることが可能になる。

 経営層にとって重要なのは、この取り組みが単なる「守りの施策」にとどまらず、次の成長へとつながる点だ。

 ENEOSの事例は、老朽化した製油所設備という課題に対してAIを戦略的に活用するモデルケースだ。従来の「守りの安全対策」を、経営戦略としての「攻めのAI活用」へと転換しようとする試みである。製油所の安定稼働は社会インフラの根幹に直結しており、そこにAIを中核に据えることは、エネルギー企業にとどまらず、多くの産業に示唆を与えるだろう。今後、AIは「製造現場の効率化」から「企業全体の経営判断支援」へと役割を広げていくことが期待される。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

暗号資産で決済も配車サービスも…実用化に向けた次世代金融インフラ構想

●この記事のポイント
・イオレが暗号資産を実用化する次世代金融インフラ「Neo Crypto Bank」構想を発表し、2027年にスーパーアプリの提供を目指す。
・戦略は資金調達から運用・活用まで4段階で展開し、AI統合やビットコイン保有拡大、他社連携も進める計画。
・トークセッションでは専門家がステーブルコインの普及や非金融領域への拡張を議論し、暗号資産時代の到来を示唆した。

 PCやスマホ向けの各種サービスを展開するイオレ(東京都中央区)は、暗号資産の実用化を見据えた次世代金融インフラ「Neo Crypto Bank」構想を打ち出し、このほど戦略発表会を開催した。

 発表会ではまず、代表取締役社長の瀧野諭吾氏が登壇。事業戦略発表の背景や経営体制強化の経緯、そして急速に進化する暗号資産金融の現状について説明した。

「構想を実装へと移す準備を重ね、暗号資産を投機ではなく事業の財務戦略と位置づけ、新たな金融・経済インフラの基盤として活用していく。かつて情報技術の最先端にいた日本は成長の過程で『問題を恐れる国』となり、外資の巨大プラットフォームに依存することに慣れてしまった。しかし、いまこそ主導権を取り戻す時だ。AIとブロックチェーンで預ける・運用・決済を統合し、“信頼”そのものをテクノロジーで創り出すことを使命としている」

●目次

2027年に「スーパーアプリ」提供へ

 続いて、執行役員CBOで暗号資産金融事業責任者の花島晋平氏が登壇し、「Neo Crypto Bank」構想の詳細を説明した。

 花島氏はまず、「15〜16年前に登場したビットコインをはじめとする暗号資産は急速に経済圏を拡大したが、社会実装はまだ途上にある」と現状を指摘。そのうえで、同社が描く戦略は「資金調達(DAT=Digital Asset Treasury)」「貸付(DAL=Lending)」「運用(DAM=Management)」「活用(DAU=Utilization)」の4段階で構成されると説明した。

 初期段階のDATでは、資金調達と暗号資産の購入を行い、続くDALで貸付サービスを展開。第三段階のDAMでトレーディングやステーキング(銀行の定期預金に似た暗号資産運用)を行い、最終段階のDAUでそれらの資産を活用した新たな金融サービスの展開を目指す。

 DATフェーズでは、2025年第3四半期から段階的にビットコイン(BTC)の購入を開始し、2027年末までに保有額43億円規模を目指す計画だ。

 最終段階では、金融プラットフォームを基盤にチャット、決済、ショッピング、配車サービスなど複数の機能を統合した「スーパーアプリ」を開発。これまで暗号資産と結びつかなかった多様なサービスを一つに接続するという。

 また、この構想の実現に向けて、暗号資産交換業登録を有するFINX JcryptoやSLASH VISION、J-CAMなどとの連携を進めており、ZUUとも暗号資産金融レンディング領域で協業を開始した。

 さらに、イオレのAI事業による機能統合(AIインテグレーション)も実装予定。花島氏は、「AIとの接続により、ECや資産運用の顧客体験を変革していく」と述べた。

 例えば、ユーザーは自分に最適な商品を適切な価格・条件で購入できるようになり、最適な運用商品を安全かつ効率的に選択できるようになるという。

 花島氏は目標として、2027年度末までにキャッシュレス決済の市場で「回数・金額ともに1%のシェア(約4億回/1.2兆円)」を目指すとした。

円建てステーブルコイン「JPYC」発行とリスク対応

 トークセッションでは、「finoject」CEOの三根公博氏、「Animoca Brands」CEOの天羽健介氏、「SBI VCトレード」CTOの池田英樹氏が登壇し、暗号資産の今後について多角的な議論を展開した。

 三根氏は、日本でステーブルコインのライセンス制度が整備されたことを「大きな前進」と評価。年内にも円建てステーブルコイン「JPYC」の発行が始まる見込みであると説明した。

 JPYCはブロックチェーンを基盤とした新しいデジタルマネーで、24時間リアルタイムかつ低コストの送金・決済が可能。JPYC社は8月に金融庁から発行ライセンスを取得し、従来の「前払い式支払手段」から、顧客による買い戻し請求を可能にした。一方で、金利変動により返金額が減少するリスクを伴う「ALM(資産負債管理)」への慎重な対応が必要だと指摘した。

 花島氏が「企業は暗号資産を“保有”から“運用”へと進化させる段階にある」と説明したのに対し、天羽氏は「保有はあくまで入口にすぎない」と述べ、

「最終的な目的はブロックチェーンを活用した新しいビジネスの創出であり、今後は金融領域を超えて、ゲームやコンテンツといった非金融領域への展開が進むだろう」と語った。

 池田氏は、ビットコイン以外の銘柄への需要拡大を踏まえ、取引所としてのリスク管理支援の重要性を強調した。

今後の展望──企業も個人も「暗号資産時代」へ

 質疑応答では、「一般消費者向けサービスなのか」という質問が寄せられたが、花島氏は「基本的には一般ユーザー向けだが、BtoB利用も視野に入れている」と説明。BtoB領域で生じる課題については「今後順次対応していく」とした。

 また、イオレの強みについて問われると、瀧野社長は「海外に流出した優秀な専門人材を呼び戻したい」と述べ、「年収3000〜4000万円、必要に応じて6000万円クラスの人材を採用する用意がある」と意欲を見せた。

 暗号資産を使ってコンビニで買い物をしたり、ECサイトで決済したり──そんな日常が現実になる日は近い。

 企業が自前の“暗号資産銀行”を持ち、新たなビジネスモデルを創出する時代が訪れようとしている。イオレの「Neo Crypto Bank」構想は、その先駆けとなる可能性を秘めている。今後の展開に注目したい。

(文=横山渉/フリージャーナリスト)

京都と滋賀を誤認して報道で注目、「Grok」とは?小さなミスに隠れた大きな課題

●この記事のポイント
・X発のチャットAI「Grok」が京都と滋賀を誤認し、AI報道の信頼性に疑問の声。
・Grokは倫理制約が少なく、X上の感情トレンドを解析できる独自AI。
・リスクもあるが、SNS分析やマーケティング応用の可能性も大きい。

 X(旧Twitter)上で利用できるチャットAI「Grok」が、京都と滋賀を取り違えた投稿を記事として配信し、話題となっている。地域メディアのニュースをGrokが要約した際に、「滋賀県でのイベント」を「京都」と誤記したのだ。

 一見、単なる地理的なミスに思えるが、Grokが自律的にX上の情報を収集し、要約・記事化まで行うという構造を踏まえると、問題の本質はより深い。生成AIがニュースやトレンドを「事実」として発信する時代に、正確性や倫理の担保をどう図るのか――。

●目次

Grokとは何か:「X専属AI」かつ「自由奔放な語り口」

 Grokは、イーロン・マスク氏率いるxAI社が開発し、X上で利用できる生成AIチャットボットである。

 OpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeなどと同様、自然言語での対話を通じて質問に答えたり、要約・分析・執筆などを行う。しかし、Grokの特徴は「X上のリアルタイム情報を参照できること」と「倫理的な制約が非常に緩いこと」にある。

 マスク氏はGrokの開発当初から、「検閲をしない」「時事・政治・社会問題にも踏み込む」AIを目指すと明言。2023年のリリース以来、ニュース速報や政治的発言を巡る回答の刺激的な言い回しで注目を集めてきた。

 英語圏のユーザーからは「ChatGPTより正直」「時に皮肉屋で面白い」との声がある一方、「誤情報を拡散するリスクが高い」「偏った回答をする」といった懸念も根強い。

 Grokのもう一つの特徴は、X上の膨大な投稿をリアルタイムで解析し、ユーザーの感情やトピックの盛り上がりを把握できる点だ。

 これは他の生成AIとは一線を画す機能であり、SNS時代における「民意」や「世論の温度感」を掴むうえで強力なツールといえる。

 たとえば、選挙や企業不祥事、エンタメの話題などがトレンド入りした際、Grokは関連する投稿の文脈・感情・発言頻度を自動解析し、「世論の傾向」を言語化することができる。

 しかし同時に、この機能が「感情的な投稿」「誤情報」「バイアスのある発言」を拾ってしまうリスクも高い。京都と滋賀の誤認も、その過程で発生したとみられている。

「AIが記事を書く時代」に突入

 今回のGrokの誤情報問題が示すのは、AIが単なる会話相手ではなく「メディアの一部」として機能し始めた現実だ。

 すでにXでは「Grok News」という形で、トレンドを自動的に要約・記事化する試みが始まっている。利用者の多くは「速報性が高く便利」と評価するが、一方で「出典が曖昧」「情報の裏取りがされていない」といった指摘も少なくない。

 AIが自律的に情報を発信する環境では、人間による検証・編集という「メディアの根幹」が失われる危険がある。ITジャーナリストの小平貴裕氏はこう警鐘を鳴らす。

「Grokは“正確さよりスピード”を重視しています。SNSのトレンドを即座に要約できる利点はあるものの、裏取りは自動化できていません。つまり“リアルタイムAI報道”と“信頼性”のバランスが取れていないのです」

 X上ではすでに多くのユーザーがGrokを試しているが、反応は二極化している。

 ポジティブな声としては、「ニュースの背景を短時間で理解できる」「ChatGPTより砕けた言葉遣いで親しみやすい」などが挙がる。

 一方で、「政治的に偏った回答をする」「特定人物への批判的表現が多い」との懸念も出ている。

 企業の広報担当者やメディア関係者の間では、Grokの回答を「参考情報として見る分には有用だが、公式情報には使えない」という慎重なスタンスが主流だ。とりわけ、AIが生成するニュース要約や記事を社内文書やプレスリリースの下書きに使う場合、出典・真偽の確認は必須である。

「倫理フィルターの緩さ」は武器かリスクか

 Grokのもう一つの特徴が、倫理的制約の少なさだ。ChatGPTやClaudeは「差別的・暴力的・政治的に過激な発言」を避けるよう設計されているが、Grokはそうしたフィルターを極力緩めている。

 これにより「本音を話すAI」「マスク流の自由主義的AI」として人気を集めているが、同時に誤情報や中傷的発言を含む投稿を再構成してしまうリスクが高まる。AI倫理の専門家はこう分析する。

「AIが“倫理的に正しい発言”だけをする世界が良いのかという問題提起としては面白い。しかし、Grokのように発信の自由度を優先すると、AIが“責任なき発信者”になる危険がある。社会がどこまでそれを許容するかが問われる」

 一方で、Grokのリアルタイム分析能力は、マーケティングや広報分野での活用余地が大きい。企業や自治体がX上のトレンド・感情変化を即座に把握できれば、炎上リスクの予兆検知やキャンペーン戦略の最適化に役立つ。

 また、GrokのデータをAPI経由で活用することで、政治・経済の「空気感」を定量化する新しいデータ分析の試みも進んでいる。

 あるデジタルマーケターは次のように語る。

「人間が一日かけて調べるSNS反応を、Grokなら数秒で構造化してくれる。誤情報の混入リスクはあるが、“定性的データを即定量化するAI”としては非常に魅力的です」

 京都と滋賀の誤記は、AI時代の情報流通の本質的な課題を浮き彫りにした。AIが膨大な情報を一瞬で処理し、ニュースとして提示する時代には、「誤情報を出さない仕組み」よりも「誤情報を出した後の修正力」「透明なプロセス」のほうが重要になるのかもしれない。

 Grokの自由さは、生成AIの可能性を広げる一方で、信頼という名の“人間の監督”を不可欠にしている。AIが“語る”時代に、私たちは何を信じ、どう使いこなすべきか――。その問いは、今まさに現実のものとなっている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

企業広告の「目的」が見えてきた。 個人投資家時代のIRとは?

IR×ブランディング #1 鹿川さん 上西さん 正面写真
左から電通 第20ビジネスプロデュース局・鹿川耕治郎氏、第7マーケティング局・上西美甫氏

誰もが株主になる時代に、IRは、そして企業コミュニケーションはどう変わっていくのでしょうか?

新NISAが浸透し、生活者にとってより身近になった投資。いまや日本の個人株主の数は延べ人数で8000万人を超えました。そして今後も、個人投資家の増加は加速していくでしょう。

電通は2025年、「IR-Branding360°」を開発・提供開始しました。電通が持つ「生活者マーケティング」の知見を個人投資家向けIRに活用し、コミュニケーションの戦略策定を支援するソリューションです。

電通、上場企業の個人投資家向けIRを支援するマーケティングサービス 「IR-BRANDING 360°」を開発・提供開始 - News(ニュース) - 電通ウェブサイト
 

本稿では、企業のIRブランディングに伴走する電通のマーケティング・コンサルタントの上西美甫氏と、ビジネスプロデューサー鹿川耕治郎氏にインタビュー。ソリューション開発の背景と、これからのIRの在り方を聞きました。

<目次>

個人株主数は延べ8000万人超。企業と生活者の新しい関係

これからのIRは「成長戦略」を魅力的なストーリーで伝える

電通の生活者マーケティング知見をIRに活用すると? 

個人株主数は延べ8000万人超。企業と生活者の新しい関係

IR×ブランディング #1 鹿川さんソロ

──お二人の自己紹介をお願いします。

上西:私はマーケティング・コンサルタントとして、主に生活者を対象としたマーケティングに取り組んできました。今回のプロジェクトでは、長年培ってきた生活者マーケティングの知見と、電通の持つアセットでもって、個人投資家の分析と、コミュニケーション開発を行っています。

鹿川:私はクライアント企業のパートナーとして、さまざまな課題解決に取り組むビジネスプロデューサーです。私の担当クライアントである日清製粉グループさんから、生活者とのコミュニケーションに投資家視点も入れたいとご相談を受け、上西のチームに声がけをしたことが、「IR-Branding360°」を開発する最初のきっかけになっています。

──マーケターやビジネスプロデューサーという職種のお二人が、IRという領域をサポートするのは意外な気がします。

鹿川:そもそも、電通がIRの支援というのも、ピンと来ない方がいるかもしれませんね。でも、この連載で詳しくお伝えしていきますが、これからの生活者とのコミュニケーションには、「投資」の視点が欠かせないと考えています。

というのも個人投資家、すなわち「生活者」が企業の多くの株を持つようになり、経営に影響を与えるようになっているのです。私もビジネスプロデューサーとしての立場から、クライアントの課題解決のために「IRを変えていきませんか」というご提案をさせていただくようになりました。

上西:そしてIRを生活者とのコミュニケーションと捉えるならば、電通には長年培ってきた豊富な知見があります。さまざまなデータ分析による生活者理解と、それに基づいて生活者に伝わりやすいコミュニケーションを開発するのは電通の得意とするところで、これらをIRの領域に拡張したのが今回の取り組みです。

──それではまず、個人投資家へのコミュニケーションを意識する企業が増えている背景を教えてください。

上西:日本取引所グループが、国内で株式を保有する個人投資家の延べ人数が8000万人を超えたという調査結果を発表しました。個人投資家の数は11年続けて過去最多を更新しており、新NISAの影響もあって投資のすそ野は広がっています。

企業によって異なりますが、私たちのクライアントでは、株主構成として、全体のだいたい10%前後から、多いところでは40%や、半数超を個人投資家が占めるケースもあります。いまや個人投資家は、あらゆる企業にとって見逃せない存在なのです。

また、近年、海外のアクティビスト(物言う株主)や、外国企業からの買収計画など、株主構成によっては企業経営に大きな影響が出るケースもありますよね。その点、個人投資家の中には、企業に愛着を持つ「ファン株主」と呼ばれる人たちもいて、長期で株を保有してくれたり、株価が下がったら買い増してくれたりする傾向があります。

つまり、株価の変動抑制や、買収のリスクを低減するためにも、ファン株主の獲得や個人投資家に向けた施策に力を入れ始めている企業が出てきているということです。

──個人投資家が増えることで、企業のIRにはどのような変化が起こるのでしょうか。

鹿川:伝えるべき情報、メッセージが変わります。これまで企業のIRは、多くが保険会社や投資信託会社、年金基金等の機関投資家に向けたものでした。そして機関投資家が企業を評価するときには、いわゆる「財務情報」を中心に見ていました。企業側の発信もやはり財務情報や経営戦略が大半です。

一方で個人投資家が注目するのは、「この投資が自分の生活とどうつながるか」です。今はまだ、自分の資産をいかに増やすかを重視している方が多いですが、新NISAの広がりによって個人投資家の行動も今後、変わってくると考えています。最初はローリスク・ローリターンの投資信託から始める方も多いですが、いずれ自分で銘柄を指名して買うようになっていくはずです。電通の調査でも、多くの人がインデックス系の投資信託を購入するところから始まり、だんだん個別株に投資するようになる推移が見て取れます。

そして、その時はよく知らない会社の株をいきなり買うのではなく、親族が働いている会社や仕事で関わっている会社など、まずは自分にとって身近な、応援したい会社に目を向けると思います。つまり、企業への「応援投資」の要素が次第に入ってくるのです。そこで重要になるのが「非財務情報」です。その企業を応援する気持ちを持ってもらうには、財務情報だけでは足りません。

上西:これまでIRにおいて、非財務情報は“付帯物”のように扱われてきました。非財務情報とは、企業が創出している価値や、行っている活動のうち、財務の数値としては表れていないものを指します。例えば持っている技術力や人材力、知的財産や、社会からのレピュテーション、環境に対する取り組みなども含まれます。

非財務情報は別の言い方で「未財務情報」といわれることもあり、いわば「財務指標に表れる前」の企業活動などを表す指標でもあります。これらは投資判断とはあまり関係ないと思われがちですが、のちのちインパクトを与えていくものもあるんです。

鹿川:財務情報の“背景”に、非財務情報があるということもあります。財務情報はただの数字ですが、その数字の背景には必ず企業や人間の意思や営みがあり、それをストーリーとして語ることで、生活者に共感が生まれます。これからはそうした情報も、投資判断に影響を与えるようになってくるということですね。

上西:機関投資家の間では、例えばインパクト投資のように、「財務的リターンと同時に、社会へのポジティブな影響を生み出すことを重視して投資しよう」という考えが広まっています。個人投資家にとっても、「企業活動を通じて自分たちが暮らす社会にいい影響を与えている会社かどうか」は投資の判断材料になってくるはず。そのため両者に向けて、非財務情報を分かりやすく魅力的に伝えていくことも、企業の重要課題となっています。

これからのIRは「成長戦略」を魅力的なストーリーで伝える

IR×ブランディング #1 上西さんソロ

──企業コミュニケーションに、具体的には、どのような変化が起こっているのでしょうか。

上西:これまで分断されることが多かった企業広告を担当する宣伝部のようなチームと、メディア対応を担当する広報チーム、そしてIRなど投資家対応を担当するIRチームを、統合的にマネジメントする機運が高まっています。というのも、個人投資家へのコミュニケーションと生活者へのコミュニケーションは、かなり重なる部分があるからです。

私や鹿川は個人投資家のことを「生活者投資家」とも呼んでいますが、個人投資家は、生活の延長で投資をする「一生活者」でもあります。生活者に向けて、企業の価値をどう伝えていくかが重要になっていく。今後特に重要になるのが、企業広告の目的設定です。

鹿川:企業広告とIRというのは、少し結びつきにくいかもしれないので、掘り下げてお話をします。従来、ブランディングを目的とした企業広告は、「私たちはこういうことをやっている会社です」という、いわば自己紹介に近いものが主流でした。特にBtoB企業はそうなのですが、取引先や就活生といったステークホルダーに向けて、「自己紹介」をするのが、企業広告の在り方でした。しかし今後は、個人投資家という新たなステークホルダーに向き合う必要があります。

そこで、企業広告のメッセージは、「自己紹介」から「成長戦略」へと拡張していく必要が出てきます。個人投資家を味方につけるため、「これまでやってきたこと」を自己紹介的に伝えるだけでなく、「これからやろうとしていること」を分かりやすく魅力的なストーリーにして伝えることが求められるようになります。

そして、企業が発信する成長戦略では、「このくらい収益が上がるようになる」ということだけでなく、「この会社が成長すれば、収益とともに、社会が良くなる」ことを伝えなければなりません。電通グループでは「B2B2S」(ビジネス・トゥ・ビジネス・トゥ・ソサイエティ)を掲げていますが、これはクライアントが社会を良くするお手伝いを電通がするという文脈ですね。

──個人投資家というステークホルダーの存在を考えたとき、企業広告の「主な目的」が、認知や好意向上だけではなくなっていくということなのですね。

上西:はい。企業広告のKPIには今後、「認知向上」だけでなく、「投資意向」や「企業への期待度」も含まれてくるはずです。企業に対する「好き」「知っている」という評価だけでなく、「この企業は将来良くなっていく」という、未来視点を入れた指標も必要になる。つまり、企業コミュニケーションの成果指標がアップデートされるのではないでしょうか。

鹿川:企業はこれまで、自社の商品やサービスによって生活者から「選ばれて」きました。そして今後は、もう一つの選定行動が加わります。つまり、投資すること。単なる資産形成ではなく、生活者が「この企業は社会を良くしていくんだ」と考えて、投資をするという構図です。

上西:広告に限らず、企業のブランディング活動全体を通して、成長戦略をストーリーにして伝えることも求められます。これまでは、広報部、宣伝部、IR部署などが、従業員や投資家、一般生活者や取引先など、ステークホルダーごとにバラバラにメッセージを発信していました。企業のコアとなる価値はどこなのか。将来に向けて何をやっていこうとしているのか。これらのメッセージを、今後はより統一して考える必要があるでしょう。  

──お二人が企業ブランディングやIRを支援している日清製粉グループの事例について教えてください。

鹿川:日清製粉グループは、国内の小麦粉の販売シェア(重量ベース)約40%を担う企業です。また食物繊維を豊富に含んだ高食物繊維小麦粉の開発なども行い、国内だけでなく、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど海外でも大きな生産能力を持っています。日本の企業ですが、小麦粉が主食のオーストラリアでも、なんと生産能力ナンバーワンなんですよ。

私が日清製粉グループを担当することになって、これらの情報を知ったとき、個人的にも「世界の食を支える、こんなすごい会社が日本にあるんだ!」と驚き、ワクワクした気持ちになりました。「世界を舞台に食文化や食の未来を豊かにすること」。これこそが、日清製粉グループの「成長戦略」と言えると思います。

例えば、従来の投資家向けコミュニケーションは、「小麦粉で市場の40%のシェアを持つ」といった情報の開示でした。ここに「125年前から、小麦粉の安定供給により日本の食生活を支えてきた企業」というストーリーも併せて伝える。こうしたコミュニケーション設計は、クリエイティブと生活者コミュニケーションに取り組んできた電通ならではだと思います。

──非財務情報を魅力的に伝えることが、投資につながる。だからこそ、IR領域に広報・コミュニケーション視点を入れることで企業価値を上げていこうという提案なのですね。

鹿川:まさに、そういうことです。企業の成長戦略を、未来への期待感を持ったストーリーとして、分かりやすく伝えることができれば、その企業に投資をしたくなるし、企業を応援している自分を好きになれるし、日常生活の中での意識も変わってくるはずです。

「この企業が好きで、共感できるから、商品やサービスを買う」ということに加えて、「投資する」という選択肢が入ってくる。これが、新しい時代の企業コミュニケーションの形ではないでしょうか。

電通の生活者マーケティング知見をIRに活用すると?

IR×ブランディング #1 図版1

──「IR-Branding360°」がどういうサービスなのか、詳しく教えてください。

鹿川:概観としては、全方位型のマルチステークホルダー視点で、企業コミュニケーションとIRを統合的にマネジメントするソリューションです。これを実現するために、電通の生活者マーケティングの知見を活用しています。まず、基点となるのが生活者理解です。

上西:企業はIR活動として、株主総会を開いたり、個人投資家向けにセミナーを行ったりすることもありますが、参加する株主は一部です。そのため、「自社の株を買ってくれたり、興味を持っている個人投資家がどのような人なのか」が見えていない企業が意外と多いという課題がありました。

IR-Branding360°は、電通が持つ生活者のビッグデータと、個人投資家に対して大規模に実施する調査結果をかけ合わせたデータから、

  • 個人投資家の投資傾向別タイプ別
  • 各クラスターごとのペルソナ
  • 各クラスターごとの投資ジャーニー

を分析・可視化できます。

電通のPeople Driven DMPなどのデータ基盤や、生活者のテレビ番組への接触と広告効果を可視化するSTADIAといったソリューションを活用することで、自社の株に関心を持ってくれている人の性別や年齢、趣味、価値観、投資の予算、投資家としてのタイプや、銘柄を知ってから購入に至るまで、どのメディアでどんな情報に接しているかなど、さまざまなことが分かります。

──投資家としてのタイプというのは、どういったものでしょうか。

上西:新NISAをきっかけに個人投資を始めた「新NISAエントリー型」や、商品や企業自体を応援するために株式を購入している「応援志向サポーター型」など、8つのクラスターに分けており、自社株の購入者にはどのタイプが多いかを分析可能です。調査・分析してみると、かなりくっきりとタイプが分かれていることに私も驚きました。各タイプごとのペルソナやジャーニーだけでなく、どの層にどのくらいボリュームがあるのかも分かります。

IR×ブランディング #1 図版2 投資家タイプ

上西:ここにさまざまなデータをかけ合わせることで、どのクラスターの人が自社の株を買ってくれているのか?このクラスターの人は、どういう趣味を持っていて、どの時間帯にどのテレビ番組を見ているのか?銘柄を知ってから購入に至るまで、どういうメディアに接してどういう行動をしているのか?といったことが分かります。

──分析結果はどのように活用されるのでしょうか。

上西:「このクラスターの人たちが、このくらい自社の株を買ってくれている」「銘柄を知ってから投資に至るまで、こんなメディアにこんなふうに接触している」ということが具体的に分かれば、その層に向けた効果的なメディアプランニングなど、個人投資家向けコミュニケーションの戦略を策定できます。

また、自社の株を買ってくれている個人投資家たちが、会社のどの事業に魅力を感じているか、どういうストーリーが“刺さる”かも、投資家タイプ別で分かるので、成長戦略を伝える方法や情報発信も、より効果的に設計できます。本ソリューションでは、分析を基にした情報発信はもちろん、統合報告書の作成に至るまでワンストップで提供しています。

鹿川:日清製粉グループさんのケースで、どんな分析をしてどんなコミュニケーション設計をしたかについては、別の回で詳しくお伝えします。最終的なアウトプットの部分だけ少しお話しすると、私たちは上記のような分析を基に、日清製粉グループさんのブランディングサイトと、IRサイトのリニューアルを担当しました。どちらも、広報部宣伝チームとIR・SR室の垣根を越えたご協力をいただいて実現したものです。

ブランディングサイトでは「自己紹介」よりも「成長戦略」を、個人投資家が共感できるような物語で見せる作り方にしました。「IRは、IRだけでは伝えきれない」というのが私の考えで、ブランディングだからこそ伝えられるストーリーや意思というものがあります。

一方IRサイトでは、図版やインフォグラフィックを活用し、UI/UXの観点を意識的に入れました。従来のIRは、多くの場合は機関投資家向けに作っていて、「リンク集」のような形になっている企業も多いと思います。また、正確な財務情報を発信することに特化していて、ある意味「無表情」なところがあります。そこに、広報・広告的な視点を入れていくことで、企業や経営者の「意思」が投資家に伝わりやすくなるという設計です。

>The Base of Life スペシャルサイト
https://www.nisshin.com/thebaseoflife/

>個人投資家の皆様へ
https://www.nisshin.com/ir/investor/

上西:企業のトップが持つ「意思」を投資家に伝えるのはとても大事なことなんですが、従来のIRのコミュニケーションだと意外と見えづらかった部分なのかなと思います。会社がこの方向に成長していくんだという意思も、投資家にとっては重要な情報になります。

──生活者が企業活動を応援したくなるようなストーリーとして伝える、それも広告や広報のコミュニケーションも統合して行う、という事例になっているんですね。

鹿川:最後に今日の話をまとめます。これからの生活者は、商品やサービスで企業を選ぶだけでなく、「投資対象」としても企業を選ぶようになっていきます。投資が身近になり、生活者と企業の関係が大きく変わる中で、IRの考え方も、企業広告の考え方も変わっていかざるを得ません。従来は「いろんなステークホルダー」に向けてバラバラに行っていた施策が、これからは一つのストーリーを中心に一貫性を持って行うものになっていくと私たちは考えています。

今後、ますます生活者が企業に投資するようになっていく中、私たち電通は生活者マーケティングの知見を強みにしながら、クライアントの企業コミュニケーションをサポートしていけたらと思います。 

IR×ブランディング #1 鹿川さん 上西さん 向かい合うショット

sns

電通、スポティファイジャパンと広告の「計測パートナーシップ協定」を締結 Spotify広告の効果計測ソリューション「SONATA」を提供開始

電通は、スポティファイジャパンと、Spotify広告の計測・分析に関する「計測パートナーシップ協定」を世界の広告会社として初めて締結した。これに伴い、電通と電通デジタルは、世界で6億9600万人以上が利用するオーディオストリーミングサービス「Spotify」の広告効果を可視化する新しいソリューションとして「SONATA(ソナタ)」を開発、10月22日(水)から提供を開始した。 

電通、スポティファイジャパンと「計測パートナーシップ協定」締結

急成長するデジタルオーディオ広告は、誰に・いつ・どんな気分で聞かれているか、に応じて届けられるパーソナライズ可能なメディアへの進化を遂げている一方で、その効果検証がまだ十分ではなく、マーケティングROI(mROI)の可視化が課題となっている。

こうした状況に対応するため、電通と電通デジタルはスポティファイジャパンと計測パートナーシップ協定を締結し、Spotifyの広告接触ログと電通が保有する各種データを掛け合わせて分析を行う「SONATA」の開発・活用により、モバイル端末での広告接触についてSpotify広告の広告効果およびmROI の可視化を実現した。

また、電通が保有する各種データ(サイト来訪データ、購買データ、TV接触データなど)との掛け合わせ分析により、テレビCMやラジオCM、デジタル動画広告など、他の広告施策との効果比較や統合リーチ計測など、Spotify広告の効果を多角的に検証する。さらに、電通が持つ既存のオーディオ広告統合プランニングシステム「オーディオトータルアロケーション」と組み合わせることで、予算の最適配分から効果検証までを一気通貫で行う。

電通と電通デジタルは今後も、Spotifyのユニークな趣味嗜好(しこう)データや楽曲聴取データを活用した効果検証の高度化、ならびにクライアントデータとの統合を可能にするSpotifyデータクリーンルームの開発・強化を目指すとともに、オーディオ広告に関するデータドリブンなPDCAサイクルを加速させていくことで、デジタルオーディオ広告市場のさらなる成長に貢献していくとしている。

「SONATA(ソナタ)」


【デジタルオーディオ広告の現在地と提言をまとめたレポート】
国内電通グループの横断組織「dentsu Japan デジタルオーディオADラボ」は、デジタルオーディオ広告の現在地と提言をまとめたレポート「急伸するデジタルオーディオ広告市場、その現在地とは? 〜dentsu JapanデジタルオーディオADラボが読み解く、耳から生まれるブランド体験〜」を公表した。

同レポートでは、市場の成長性、生活者の聴取スタイルの変化、他メディアとの組み合わせによる相乗効果など、国内外の調査データや具体的な活用事例も交えながら、デジタルオーディオ広告の「現在地」を多角的に分析している。広告主・マーケターがデジタルオーディオ広告の活用を検討する際のガイドになるレポートである。

■レポートのダウンロードはこちらから
 

■dentsu Japan デジタルオーディオADラボ
電通のマーケティング部門、ラジオを中心としたメディア部門、電通デジタル、セプテーニなど、dentsu Japanにおいてデジタルオーディオ広告の知見・経験を有するメンバーなどで構成される国内電通グループ横断組織。クライアントの事業成長に貢献するデジタルオーディオ広告の知見の集約、プランニング力の向上、事例・実績の蓄積、新たなソリューション開発を担っている。

■本件に関するリリースはこちら

並河進著「AIネイティブマーケティング 人、企業、AIの幸せな関係をつくる」発売

dentsu Japanのグロースオフィサー・並河進氏による著書「AIネイティブマーケティング 人、企業、AIの幸せな関係をつくる」(宣伝会議)が10月17日に発売された。

「AIネイティブマーケティング 人、企業、AIの幸せな関係をつくる」(宣伝会議)
宣伝会議、四六判、280 ページ、2420円(税込)、ISBN:978-4-88335-633-1


【書籍の内容】
AIは社会を、マーケティングをどう変えるのか?

本書は、AIが日常に深く浸透した社会において、企業と人がどのようにAIと関係を築き、マーケティングを再構築していくべきかを体系的に示した一冊。AIを単なるツールとしてではなく、企業活動の根幹を変革する存在と捉え、マーケティング、事業開発、コミュニケーション、クリエイティブに関わるすべての人に向けた羅針盤となることを目指している。当たり前のようにAIを使いこなす「AIネイティブパーソン」、業務プロセスがダイナミックに再構築される「AIネイティブマーケティング」、AIが人々を独自のアルゴリズムでつなぐ「AIネイティブ社会」についても解説している。

【目次より】
第1章 AIネイティブ時代がやってくる
第2章 AI技術の仕組みとできること
第3章 マーケティングプロセスの再構築
第4章 顧客体験の変革
第5章 AIは社会をよりよくする力になれるか
第6章 AI時代に生活者から愛され選ばれるブランドとは 人-AI-企業のトライアングル

【著者コメント】
マーケティングが、企業のありかたが、AIによって、いま、大きな変革のときを迎えています。

一方、「人の仕事はAIにすべて置き換わる」「人は人にしかできないことをやるしかない」といった解像度の低い諦念も世の中にはあふれています。

そうではなく、人とAIがともにある、よりよい未来を模索したい。そんな思いが本書を書く原動力となりました。

人間の能力を拡張する道具としての活用法、知性のある仲間としての可能性、AIネイティブ企業への変革のステップ、AIに依存するリスク。こうしたことを、できるだけ解像度高く、実践知や具体例に基づいて書きました。

この本が、マーケターやクリエイターをはじめとする多くの方々が、人と企業とAIのよりよい関係について考え、議論し、実践する出発点になることを願っています。

【著者紹介】

並河進


並河 進(なみかわ すすむ)
dentsu Japan グロースオフィサー/エグゼクティブクリエイティブディレクター/主席AIマスター

AIを活用したプロジェクトと、企業と社会を結ぶソーシャルプロジェクトが得意領域。2022年9月、電通クリエイティブインテリジェンス発足。東京大学AIセンターとの共同研究をスタート。Augmented Creativity Unitユニットリーダーをつとめる。著書は、「Social Design」(木楽舎)、「Communication Shift」(羽鳥書店)他多数。読売広告大賞、広告電通賞など受賞多数。


■本件に関するリリースはこちら

推し活の行動を変容する。ミージアムが目指すクリエイティブeコマースとは?

富士フイルムビジネスイノベーション(以下、富士フイルムBI)と電通が共同で開発を進める「MeSEUM(ミージアム)」は、ファンが公式画像を自由にセレクトし、自分だけの写真集やグッズをオンデマンドでつくれる「クリエイティブeコマース」サービスです。

meseum

今年5月には、花人 赤井勝氏の企画写真展「時静-JISE- 花人 赤井勝のせかい」を開催し、展示作品の一部をコンテンツサイトにて販売。9月25日には日本外国特派員協会で赤井氏の世界観を新たに展開するミージアムの構想が発表されました。本稿では、ミージアム総合プロデューサーのアーロン・ズー氏が、ミージアムの狙いや記者会見・企画写真展の舞台裏、今後の構想を語ります。

推し活の体験価値をアップデートする、「クリエイティブeコマース」

近年、「推し活」と呼ばれるアーティストやタレント、キャラクターへの応援活動が活発化し、ファン一人一人が多様なかたちで「推し」を楽しむ時代になっています。

ミージアムは、ファンがライブやイベントなどの公式写真の中から好きなカットを選び、自分だけの写真集としてオンデマンドで製本・購入できるサービスです。写真集以外のオリジナルグッズ制作にも対応し、単なるグッズ販売/グッズ購入を超えて、ファンとコンテンツホルダー双方にとっての新たな関係を生み出す可能性を秘めています。

meseum

長年、銀塩写真やデジタルプリンティングを極めてきた富士フイルムグループの技術力に、電通のコンテンツ開発力を掛け合わせることで、ファンとアーティストの関係性を新しいかたちにアップデートできるのではないか。そんな思いで、私たちは共同開発を進めています。

ミージアム(MeSEUM)は、「Me(自分)」と「Museum(ミュージアム)」を掛け合わせた造語です。自分だけの推し写真集や推しグッズを、自分の部屋にある小さな博物館のようにコレクションし、飾っていく。そのような行為そのものを楽しんでもらいたいという願いが込められています。推し活は単なる消費行動ではなく、すでに日本独自の文化として定着しています。スマホをはじめとするデジタルの世界だけで完結するのではなく、「手に持ち、飾り、めでる」という身体的な行為も重視されているのが、日本の推し活文化の特徴です。

富士フイルムBIの取締役 執行役員でグラフィックコミュニケーション事業を統括する木田裕士さんは、ミージアムの構想をこのように語ります。

「ミージアムは、ファンの皆さまが好きな写真をみずからセレクトし、弊社のAI技術とデジタルプリンティング技術を活用して、世界に一つだけのオリジナルアイテムをつくれる推し活プラットフォームです。コンテンツホルダーの皆さまにとっては、眠っているコンテンツを可視化することで、その価値を再発見していただくことができます」

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富士フイルムビジネスイノベーション 取締役 執行役員 木田裕士氏(中央)

ミージアムは推し活を楽しむファンとコンテンツホルダーの双方にとってのパートナーでありたいと思っています。公式素材をもとに、ファンが自由に編集し、自分だけの、とっておきのアイテムに囲まれていく。その体験をきっかけに、アーティストやタレントの新しい魅力も今以上に深く引き出されていき、さらなるブランディング推進やビジネス拡大につながる。このように、次世代プラットフォームを通して推し活の行動変容と社会貢献につなげていく世界観を、私たちは「クリエイティブeコマース」と名付けています。

MeSEUM(ミージアム)は、
単にセレクト写真集を売るためのツールでなく。

MeSEUM (ミージアム)の「好き」をもっと好きに。
の思想・理念を広げること。

結果的に、推し活界隈のいまの人々の行動を変容する事業。

これが私が考える「クリエイティブeコマース」です。

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 「MeSEUM」サービス提供スキーム構想

写真の中に「装花」する。花人 赤井勝氏とともに探る表現の可能性

ミージアムのコンセプトを体現する手段として、私たちは花人 赤井勝さんとのコラボレーションにチャレンジしています。2025年5月に開催された企画写真展「時静 -JISE- 花人 赤井勝のせかい」は、富士フイルムの銀塩プリントとオンデマンド印刷を併用しながら、赤井さんの「装花」という行為と写真を掛け合わせた、これまでにない作品の世界を提示する場でした。赤井さんの花はいわば、瞬間芸術です。その時、その空間にしか存在しない素晴らしい作品を、写真の中に表現することで、永遠に残していくことができるのではないか。私たちはそう考えました。

赤井さんは、この写真展に込めた思いをこう語ってくれました。

「装花したものを撮るのではなく、写真の中に装花する。そして、見る人の心の中に装花する。そのような気持ちで作品をつくりました」

展示会場では、大判の銀塩プリントが放つ圧倒的な存在感と質感で赤井さんの作品を表現。展示期間中に一部の作品を、ミージアムのセレクトコンテンツとして提供しました。この写真展には1週間で約8000人が来場。富士フイルムBIの木田さんも、「個人開催としては過去最大級の集客だった」と話してくださり、多くの方の心に響いたという手応えを感じました。

赤井勝

推し活文化を世界に。ミュージアム構想発表の場にFCCJを活用

ミージアムは、ファンとアーティストの関係を深める仕組みであると同時に、日本発の推し活文化を世界に発信するプロジェクトでもあると私たちは考えています。その意味で、構想の本格始動を発表する舞台として、日本外国特派員協会(FCCJ)を選んだのは自然なことでした。

9月25日、東京・有楽町にあるFCCJで開催した記者会見には、花人 赤井勝さん、富士フイルムBIの木田裕士さんらの5人で登壇しました。

赤井勝
花人 赤井勝氏

この日、赤井さんはこれまでの活動を振り返りながら「花」と「人」とともに生きてきたことへの感謝を述べ、今後の活動として「装花」と写真のコラボレーションにも挑戦していくことを発表。私たちは、その赤井さんの新たなチャレンジを展開する場として、ミージアム構想を紹介しました。また、アーティストやタレントの魅力をコンテンツで届ける手段の一つとして、TOKYO FMで10月からスタートするラジオ番組「すきもあミージアム」の立ち上げも発表。登壇者がそれぞれの立場から「推し」や「好き」を表現する大切さを語りました。

この会見のもう一つの特別な側面は、各国の駐在大使夫人の方々がずらりと最前列に並ばれていたことです。実は赤井さんは、長年にわたり駐在大使および大使夫人と「装花」を楽しむ会を続けてこられた方で、駐在大使夫人の間でも深い信頼と敬意を集めています。そうした背景があり、この日の会場では国境や文化を超えた交流がさかんに行われていました。

推し活という言葉は、いまや一時的なトレンドではなく、自己表現とつながりを生み出す文化的な行為になっています。ミージアムは、そんな「好き」という感情に寄り添い、誰もが自分らしく「好き」を表現できる新しい入り口になれたらと願っています。そしてその入り口は、日本だけでなく、世界中のファンに向けて開かれています。今回、世界各国の駐在大使夫人も同席したFCCJでの会見は、推し活文化を世界に広める第一歩となる情報発信の機会をいただけたと、今あらためて思います。

ミージアム総合プロデューサーのアーロン・ズー氏
MeSEUM総合プロデューサー アーロン・ズー氏

一人一人の「好き」をかたちに残す

ミージアムを活用した「クリエイティブeコマース」は、ファンとアーティストの関係性をより深め、同時にアーティスト自身の魅力を新しい角度から引き出す役割も果たします。たとえば、普段は公開されないようなオフショットや未発表カットを、ファンが自分の視点で魅力的に編集し、一冊にまとめて残す。それを他のファンたちが見つけ、新たな魅力として拡散していく。そういった、個人の「好き」から生まれる新しいコンテンツを、コンテンツホルダーの公式の枠組みの中で提供することが重要なのです。

さらに、オンデマンド製造による在庫レス運用や必要なときだけ生産する体制は、コンテンツビジネスにおける廃棄の最小化、つまりサステナビリティへの貢献にもつながると考えています。

今後、より多様なジャンルやアーティストとの連携が増えていくことを想定していますが、それぞれの世界観にどう寄り添い、どのようにサービスに落とし込むか。その部分は常に、IPごとに丁寧に向き合っていく必要があると感じています。

誰かが生み出した作品と、自分の感情とを、自分自身の手でつなぎ、かたちにして残す。それがごく自然なこととして広がっていく社会を、私たちは思い描いています。今後も国内外のステークホルダーの皆さまとの連携を加速させながら、体験価値のアップデートにチャレンジしてまいります。

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