●この記事のポイント
JERA子会社のJERA Crossが2026年4月、グーグルの国内データセンター向けに、EnergyTag国際標準に基づく「時間単位証書(Granular Certificate)」の生成実証を実施。太陽光発電データと需要データを1時間単位で突合し、GHGプロトコルのScope2改訂を見据えた次世代の再エネ証明手法を検証した取り組みを解説する。
JERAの子会社であるJERA Crossは5月26日、米グーグルのデータセンター向けに、再生可能エネルギーの利用実態を1時間単位で証明する技術実証を実施したと発表した。実証は同年4月、グーグルの国内データセンターを対象に行われたもので、JERA Crossが保有する太陽光発電由来の非化石証書と、発電・需要データを組み合わせ、「その1時間に使った電気は、確かにその再エネ電源から供給されたものである」ことを可視化する仕組みだ。
これまで多くの企業が掲げてきた「再エネ100%」は、年間や月間といった長い期間の総量で帳尻を合わせる考え方が主流だった。昼間に太陽光発電の余剰分を購入しておき、夜間に火力発電由来の電気を使っても、年間トータルでは再エネ由来の証書量が使用量と釣り合っていれば「再エネ100%」と称することができた。
しかし、電気は貯めておくことが難しく、実際に電気を使っている瞬間にどの電源から供給されているかは、証書上の数字とは別問題だ。「夜間に電気を使っているのに、昼間の太陽光の証書で相殺している」という手法に対しては、実態を伴わない見せかけの脱炭素だとする批判が国際的に強まっている。
こうした背景から浮上してきたのが、電力の消費と発電を1時間ごとに突き合わせる「24/7 CFE(24時間365日カーボンフリーエネルギー)」という考え方であり、この概念を2020年ごろから世界に発信してきたのがグーグルである。同社は「2030年までに、事業を展開するすべての地域で、24時間365日カーボンフリーの電力で運用する」という目標を掲げており、今回の実証はその実現に向けた基盤づくりの一環と位置づけられる。
●目次
「時間単位証書」とEnergyTagの国際標準
今回の実証の核となるのが、「Granular Certificate(時間単位証書)」と呼ばれる仕組みだ。これは、電力の環境価値を発電時刻・発電場所・電源種別といった属性とともに1時間単位でトラッキングし、需要側の消費データと時間的・地理的に対応付けて証明するもので、国際的な非営利団体EnergyTagが策定した「Granular Certificate Scheme Standard」という国際標準に基づいている。
JERA Crossの発表によれば、実証では自社が持つ太陽光発電所の非化石証書と、発電量・需要量の時間別データを用い、EnergyTagの認定を受けたフランスのGranular Energy社と、グーグルなども出資するスペインのFlexidao社が「Hourly Matching」の処理を担当し、需要と発電の対応関係を時間単位で可視化した時間単位証書を生成した。なお、この取り組みはあくまで既存の非化石証書制度に付加する形のトラッキング手法であり、非化石証書そのものの性質や制度を変更するものではない点には注意が必要だ。
この分野が注目される背景には、企業の温室効果ガス排出量算定の国際基準である「GHGプロトコル」の動きもある。GHGプロトコルは現在、電力使用に伴う排出量算定ルール(Scope2ガイダンス)の改訂作業を進めており、改訂案では電力の環境価値の主張について、時間単位でのマッチングや、実際にその電力が供給可能であったかという「供給可能性(Deliverability)」の要件導入が検討されている。仮にこうした要件が正式に採用されれば、企業は年間ではなく時間単位での再エネ利用の証明を求められる可能性があり、今回の実証はその変化を先取りする動きといえる。
再エネ証明の技術が持つ3つの意味
この技術がもたらす意味は、単なる環境技術の高度化にとどまらない。ビジネスの現場で押さえておくべきポイントは大きく3つある。
第一に、グリーンウォッシュ批判への耐性強化だ。 投資家や取引先による環境情報の精査は年々厳しくなっており、年間総量での「再エネ100%」という主張だけでは説得力を持ちにくくなりつつある。時間単位で裏付けられた証明を持つことは、対外的な信頼性を高める材料になり得る。
第二に、サプライチェーン全体(Scope3)での差別化要因になり得る点だ。 グーグルのようにグローバルで24/7 CFEを追求する企業は、自社の目標達成のために取引先にも同様の水準を求める可能性がある。時間単位の再エネ証明に対応できる体制を早期に整えることは、国際的な取引関係において選ばれる要件の一つになっていくと考えられる。
第三に、電力需給の最適化を通じたコスト面のメリットである。 発電・需要データが時間単位で可視化されることで、再エネが豊富で電力価格が下がりやすい時間帯に生産活動やデータ処理を寄せるといった、企業のデマンドレスポンス(需要側での電力使用の最適化)を後押しする材料にもなる。
実用化への課題と今後の展望
もっとも、この仕組みが日本全体に広がるまでには、いくつかの課題も残る。時間単位でのデータ突合を支えるスマートメーターの普及や、制度設計、データ連携コストの負担など、社会インフラ側の整備が欠かせない。今回の実証でも、実証場所や供給電力量といった詳細は公表されておらず、あくまで基盤技術としての検証段階にあることがうかがえる。
「1時間単位でのトラッキングは、再エネの実態をより正確に映し出す点で意義が大きい。ただし、国内で広く使われるようになるには、非化石証書制度との整合性や、データを扱う事業者間の標準化が課題になるだろう。GHGプロトコルの改訂動向を注視しながら、段階的に対応を進める企業が増えていくのではないか」(エネルギー政策研究家)
この分野は一部の大企業やIT企業だけの話ではない。GHGプロトコルの改訂が実現すれば、時間単位での再エネ利用証明が事実上の前提となる時代が訪れる可能性がある。エネルギー調達の担当者は、自社の脱炭素戦略を「年間の総量」でとらえる発想から、「時間軸」でとらえる発想へと、今のうちから視点を広げておく価値があるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)