「ただのシェアオフィス」ではない──CIC Tokyoが描く、日本発ユニコーンを生むエコシステム

●この記事のポイント
・イノベーション創出拠点「CIC Tokyo」は、単なるシェアオフィスではなく、「スタートアップエコシステムそのものをデザインする存在」として注目を集めている。約330社のスタートアップや関連企業が入居しており、大企業、行政、投資家など多様なプレイヤーとの接点を生み出す年間400件以上のイベントを開催。
・柔軟なマンスリー契約制度やグローバル展開支援の「ジャパンデスク」など、ハード・ソフト両面からスタートアップを支援している。

「ただのシェアオフィス」とはもう呼ばせない。CIC Tokyoが目指すのは、日本のスタートアップが“世界と勝負するための土台づくり”だ。

 2025年7月、京都で開催された国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」。未来のユニコーン候補たちが集い、VCや大企業、行政関係者が入り乱れるこの熱狂の中に、存在感を放っていたブースがあった。

 それが、イノベーション創出拠点「CIC Tokyo」だ。

 ボストン発のグローバルイノベーション施設として、2020年に日本上陸したCIC Tokyoは今や、ただのシェアオフィスの枠を超え、「スタートアップエコシステムそのものをデザインする存在」として国内外の注目を集めている。

 本稿では、CIC TokyoがIVSに出展した背景から、彼らの活動が描き出す「スタートアップ支援の未来像」までを掘り下げる。

目次

「世界とつながる拠点」CIC Tokyoの全貌

 東京都港区・虎ノ門ヒルズ内に位置するCIC Tokyoは、約330社のスタートアップや関連プレイヤーが入居する、日本最大級のイノベーションキャンパス。特徴は「物理的なスペース」ではなく、「関係性を紡ぐ仕組み」にある。

 たとえば、年間400件を超えるイベントを開催し、大企業、行政、大学、投資家、海外スタートアップなど多様なプレイヤーとの接点を生み出している。また、事業成長に合わせて柔軟にスペースを拡張できるマンスリー契約制度や、グローバル展開支援の「ジャパンデスク」、実務支援プログラム「CIC Institute」など、ハードとソフトの両面からスタートアップを支えているのが特徴だ。

「CICが目指すのは、起業家が孤立せず、成長の壁を一人で乗り越えずに済む“エコシステム”を形にすることなんです」(CIC Tokyo・コミュニティオペレーションズマネージャー 小林尚生ケイ氏)

なぜ今、IVSに出展したのか?「信頼の交渉市場」で描いた戦略

 CIC TokyoがIVSに出展したのは、自社のPRだけが目的ではない。むしろ、“スタートアップエコシステムを加速させるための拠点”としての存在を、スタートアップと支援者双方に実感してもらう機会だった。

「京都で開催されたIVSは、私たちにとって“同窓会”のような場所にもなっていました。入居企業の方々にたくさんお会いできて、そこで新たなネットワークも広がったんです」(小林氏)

 IVSは、出展には審査や推薦が必要な「信頼されたマーケット」。その場でスタートアップ支援機関として顔を出すことは、CIC自身のプレゼンスを高めるだけでなく、入居企業への信頼性を補完する意味合いもある。

 また、京都・大阪など今後の展開エリアに向けた地ならしとしても意義深い。2025年4月には福岡拠点が始動、今後は大阪・京都への展開も視野に入っている。

「日本最速ユニコーン」も育った、柔軟かつ強固な成長支援

 CICの実力を象徴する事例の一つが、日本で最速でユニコーン企業となったAI企業「SakanaAI」だ。

 創業間もない時期からCICに入居し、成長フェーズに合わせてフロアを増床し続け、現在も拠点として活用している。

「最初はたった3人でしたが、今では大きなチームに成長。CICのマンスリー契約制度を活用して、部屋を段階的に広げていきました。スタッフも彼らの相談役として支援してきました」(小林氏)

 このような柔軟性は、固定契約型オフィスではなかなか実現しない。加えて、CICは定期的な登壇機会やビジネスマッチングの場も提供しており、SakanaAIのようなスタートアップが資金調達や事業提携の機会を得やすい環境を整えている。

 IPOを視野に入れる段階で卒業した企業も多く、アスエネ、TERASS、Unerryなどが代表的な「CIC発」スタートアップとして知られている。

エコシステムを「動かす」存在へ──他社と何が違うのか?

 CIC Tokyoの支援は、単にスタートアップを“育てる”だけにとどまらない。

 彼らが目指しているのは、スタートアップと社会実装の担い手(行政・大企業)をつなぐ“触媒”の役割だ。たとえば東京都が推進する「Be Smart Tokyo Project」では、スタートアップと大企業が共同で実証実験を実施。CICがその運営を担っている。

 さらに、世界有数のラグジュアリーブランド「ケリング」や、韓国スタートアップセンターなどとの連携も進む。ボストン拠点に設けた「ジャパンデスク」では、グローバルに挑戦する日本企業を現地のネットワークで支援する。

「ただ中だけで完結するのではなく、外とつながる“ハブ”としての価値が、これからの時代は問われると思います」(小林氏)

スタートアップに“孤独”はもういらない──CICのコミュニティ文化

 CICでは、起業家の“孤独”に向き合う仕組みも徹底されている。

 代表的なものが、入居者主導のコミュニティイベントだ。テーマ別の「お悩み相談会」や、「自販機の空きスペースをどう活用するか?」といったアイデアソンが実際に事業化につながったケースもある。

 また、法律・ガバナンス・採用などの課題に対しては、専門家による「オフィスアワー」を設置。必要に応じて契約に進む形で、負担なく相談できる仕組みを整えている。

「みんなで悩みを共有して、アイデアを出し合って、時にチームが生まれる。それが日常的に起きているのがCICの文化です」(小林氏)

次に目指すのは「グローバル×ディープテック×ダイバーシティ」

 CICが次に見据えるのは、3つのキーワード──グローバル、ディープテック、そしてダイバーシティ。

 現在、入居企業の約20%が海外企業。スタッフもバイリンガル対応で、海外から日本に進出する企業、日本から海外に挑戦する企業、双方にとって「ゲートウェイ」として機能している。

 大阪・関西万博では、各国の視察団がCICを訪問し、日本のイノベーションハブとしての注目度も高まっているという。

「日本のスタートアップは、最初からグローバルを前提に事業・チーム設計をすることが成長のカギ。SakanaAIのように、多国籍の研究者と日本の行政出身者が組むことで、両方の視点を持ったチームが生まれます」(小林氏)

 加えて、ジェンダーや年齢の多様性を受け入れた支援体制も強化中。ダイバーシティを重視したイベントやネットワーク構築も積極的に展開している。

日本のスタートアップ支援の「核」になれるか

 日本各地にインキュベーション施設や支援拠点が次々と立ち上がる中で、CICが担おうとしているのは、それらをつなぐ“マーケットリーダー”としての役割だ。

「それぞれが一生懸命やっていても、連携しなければ相乗効果は生まれない。エコシステムを一緒に盛り上げるために、私たちがそのハブになっていきたい」(小林氏)

 いま、日本のスタートアップ支援は「分断から共創へ」という新たなフェーズに入ろうとしている。

 CIC Tokyoは、その流れを牽引するリーダーとして、次の時代のスタートアップエコシステムを支える存在となるだろう。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

魚肉ソーセージ、なぜ登場から70年目の「密かなブーム」?マルハニチロの緻密な戦略

●この記事のポイント
・日本で登場してから70年以上たった魚肉ソーセージの売上が、ここへきて伸びている。
・魚由来のたんぱく質やカルシウム、DHAなどが配合され消費者の健康志向にマッチ。畜肉ソーセージなどと比較して割安な価格。
・中性脂肪低減効果のある商品や疾病リスク低減トクホの商品も。

 日本で登場してから70年以上たった魚肉ソーセージの売上が、ここへきて伸びている。魚由来のたんぱく質が手軽に摂れ、カルシウム、DHAなどが配合されていることから消費者の健康志向にマッチしているのに加え、ここ数年の物価上昇で畜肉ソーセージなどと比較して割安な価格である点などが受けている。さらに「密かなブーム」の背景を探っていくと、メーカーの地道な努力が垣間見えてくる。メーカーへの取材を交えて追ってみたい。

●目次

健康に良い成分が配合されている商品が注目

 魚肉ソーセージの製造・販売を手掛ける大手食品メーカーのマルハニチロ。水産物の調達に強みをもち、缶詰・びん詰・ちくわ・練りものなどを取り扱う同社の主力商品の一つがフィッシュソーセージだ。「うなぎ」や「のどぐろ」など全国各地の魚を原料に使った使ったものなど多彩な味のバリエーションを提供しており、「DHA入りリサーラソーセージ」「おはだのごちそう D-HADA(ディーハダ)」「1秒OPENおさかなソーセージ」など、販売している「フィッシュソーセージ」は常時60種類近くに上る。

 同社の魚肉ソーセージ製品の売上高は伸びている。2024年度は前年度比1~2割増加となっており、25年も好調に推移。23年までは毎年、微増微減を繰り返しほぼ横ばい状態だったが、24年度に大きく伸長した。その理由について、マルハニチロは次のように説明する。

「人々の健康意識の高まりから、魚由来のたんぱく質を摂取でき、カルシウムやDHAなどの健康に良い成分が配合されている商品があることが注目されています。物価高の昨今、畜肉ソーセージの価格と比較し、手に入りやすい価格であること、常温で保存でき、ハサミを使わずに手で開けられることから防災備蓄品として注目されていることなども影響していると考えております。軽食にはもちろん、おつまみや料理素材としてなど、幅広い食べ方ができる点、さまざまな魚種由来の中身にこだわった商品が開発されている点もご評価いただいています」

グローバルなバリューチェーンを活かす

 同社が販売拡大のためにさまざまな取り組みを推進したことも、売上を押し上げたという。

「弊社商品の『DHA入りリサーラソーセージ』が、2005年にフィッシュソーセージとして初めて特定保健用食品の認可を受けました(中性脂肪低減効果)。本商品の製造ノウハウや知見を活かし、心血管疾患のリスクを低減する日本初の疾病リスク低減トクホのフィッシュソーセージ『DHA入りリサーラソーセージω(オメガ)』を2024年2月に発売。人々の健康意識の高まりに対応しています。

 その他、カルシウム入りや減塩タイプなど、さまざまな切り口でお客様のニーズに応えることができるよう商品開発を行っています。また、『フィッシュソーセージはフィルムがむきにくい』というお客様の声にこたえるべく、1秒でOPENできるような開けやすいフィルムを開発するなど、既存品のブラッシュアップにも力を入れています」(同)

 前述のとおり豊富な商品ラインナップを揃えている点も同社の強みだ。

「グローバルなバリューチェーンを生かし、原料のすり身調達から製造、販売までを自社で行っており、その調達力はさまざまな魚種を配合した『こだわり魚種』シリーズの開発にも生かされ、手軽にいろいろな魚種の味をお試しいただけることが当社のフィッシュソーセージの強みであると考えています。お子様から大人まで、毎日お召し上がりいただけるよう飽きのこない味付けにしています」(同)

 魚肉ソーセージ製品のなかでも、どのような製品が人気なのか。

「オーソドックスなソーセージの『1秒OPENおさかなソーセージ』や、健康志向の高まりから『DHA入りリサーラソーセージ』シリーズ、ご当地のおさかなを手軽に味わえる『こだわり魚種』シリーズなどが好評をいただいております」(同)

 同社はさらなる売上増大に向けて攻めの姿勢を崩さない。

「フィッシュソーセージは手軽に魚由来のたんぱく質を摂ることができます。また、2025年春の新商品では、皮膚の健康維持に役立つ栄養機能食品『おはだのごちそう D-HADA』を発売しており、新たな切り口での商品開発も進めています。当社が新長期ビジョンとして掲げる『持続可能なタンパク質の提供』『健康価値の創造』の実現に向けて、より人々の健康課題に貢献できる商品の開発に取り組んでいきます」(同)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

住宅ローン金利が逆転、ネット銀行よりメガバンクのほうが低いケースも…今「一番お得な」ローンを選ぶべき?

●この記事のポイント
・低い金利を設定して住宅ローン残高を積み上げてきたインターネット銀行が、逆風にさらされている
・ネット銀行よりメガバンクの住宅ローン金利のほうが低いケースも
・住宅ローンを選ぶ際には、銀行のカテゴリーに関係なく、金利が一番お得なところを選べばよい

 これまでメガバンクや地方銀行などより低い金利を設定して住宅ローン残高を積み上げてきたインターネット銀行が、逆風にさらされている。日本銀行によるゼロ金利解除・金利引き上げや貸出増加支援資金供給制度の新規貸し出しの終了がその原因。すでにネット銀行よりメガバンクの住宅ローン金利のほうが低いケースも出てきているが、「借りる側」はどのような行動をすべきなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

ネット銀行が巻き込まれた競争

 住宅ローンの一括比較や診断サービスを提供するサイト「モゲチェック」を運営する株式会社MFS取締役CMO・塩澤崇氏は次のようにいう。

「『金利のある時代』に転換したことで、ネット銀行が預金集めに苦労しています。銀行は預金を原資として住宅ローンの貸し付けを行いますが、その原資を集めるコストが上がったため、住宅ローン金利を高く設定せざるを得なくなっています。今までローコスト運営を続けてきたネット銀行ですが、その優位性が薄まっているというのが要因の一つ目です。

 その兆候が顕著になり始めたのが今年4月です。決算期の締めにあたる3月末までは貸し付け残高の積み上げ努力を続けていましたが、4月から新年度が始まり、新たな事業計画がスタートするのに合わせて新しい金利を設定し、一斉に金利を上げました。日銀が貸出増加支援資金供給制度の新規貸し出しを6月に終了すると1月に発表した影響も大きいでしょう。そこを見据えて各行が4月からブレーキをかけるという意思決定をしたのだと思われます」

 ネット銀行が預金を集めにくくなった理由は何か。

「やはり日銀による資金供給制度が終わることが大きいと考えられます。これまでは数十億~数百億円を調達できたものができなくなり、住宅ローンの原資となる預金は『金利のある時代』になると比較的高いコストを負担しないと集められなくなっています。多くの銀行が夏のボーナスシーズンに合わせて高い金利で定期預金を集めようとキャンペーンを展開していますが、そうした競争に巻き込まれてしまうわけです。

 一方でメガバンクや地銀は、多くの人が給与振り込み口座やクレジットカードの決済口座を持っているので、銀行が預金金利のキャンペーンなどを行わなくても自動的に預金が集まってくるわけです。それ以外の銀行は高い金利を払わないと預金を集められないという戦い方を強いられています」(塩澤氏)

「金利の上がりやすさ」はどの銀行でも同じ

 現在の住宅ローン金利の水準はどう捉えるべきなのか。

「前提として、現在の日本の住宅ローン金利は非常に低いです。固定金利は2%前後、変動金利は0.6~0.7%くらいの水準であり、上昇しつつあるとはいえ1%を切っている状態です」(塩澤氏)

 では、これから住宅ローンを借りようと考えている人にとっては、ネット銀行を使うメリットは薄まりつつあるといえるのか。

「住宅ローンを選ぶ際には、ネット銀行なのかメガバンクなのか地銀なのかといったカテゴリーに関係なく、金利が一番お得なところを選べばよいと思います。その時たまたま一番お得なのがネット銀行であればネット銀行から借りればよいですし、地銀が一番お得なら地銀で借りればよいでしょう。単純に金利ランキングの上位の顔ぶれがネット銀行から他の銀行に移っているだけですので、ユーザー側からすると、しっかりと比較して良いものを選びましょうという原理原則は変わりません。

 経営体力などを加味してネット銀行は避けたほうがよいのかといったことも、あまり過敏になる必要はないと思います。『ネット銀行だと金利が急激に上がる可能性があるのではないか』と心配する方もいるかもしれませんが、変動金利は基本的には日銀が設定する金利次第なので、例えば日銀が0.25%利上げすれば、どの銀行も一律で金利を0.25%上げることになります。つまり『金利の上がりやすさ』というのは、変わりません。

 ですので、今現時点でもっとも住宅ローン金利が安い銀行を選択して、返済を続けていけばよいというのが基本的なスタンスです。もし万が一、仮に銀行がどんどん金利を上げるようなことをしてくれば、他の銀行で借り換えれば済む話ですし、銀行側とすれば自分たちだけがどんどん金利を上げれば流出が増えて住宅ローン残高が急減するので、無茶なことはできません。銀行間での緊急関係、競争関係がありますので、過敏になる必要はないでしょう」(塩澤氏)

 気になるのは、ネット銀行の今後だ。経営的には厳しい環境に置かれることになるのか。

「これからポイントとなってくるのは、預金をいかに低いコストで集めるかという点です。5月に住信SBIネット銀行がNTTドコモの子会社となりドコモ傘下に入ることが発表されましたが、住信SBIネット銀行としてはドコモユーザーを取り込んで預金集めをするという狙いがあるのだと推察されます。auじぶん銀行も同じような動きを見せており、銀行のリアル店舗に対抗するかたちで携帯電話の顧客基盤を活用するといった戦い方も出てくるかもしれません。このようにネット銀行はなんとかして預金を集めようという動きを強めていくでしょう」(塩澤氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=塩澤崇/MFS取締役CMO)

映画レビュー「よみがえる声」

被爆者、従軍慰安婦、徴用工…。植民地時代に虐げられた朝鮮人被害者たちの生々しい証言が、修復されたフィルムの中に甦る。

投稿 映画レビュー「よみがえる声」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

ウーバー、高齢者向け機能提供=配車手配を家族がサポート

 配車サービス大手ウーバージャパン(東京)は24日、高齢者の利用を想定した新機能「ウーバーシニア」の提供を開始したと発表した。家族が遠隔でタクシーなどの車両手配をサポートできるようにし、乗車状況の確認も随時行えるようにすることで高齢者の通院や買い物などでの利用を促す狙い。 

 同社によると、シニア向けの機能は6月に米国で提供を開始し、各国で導入を進めているという。家族がアカウントを作成することで、高齢者本人ではなく家族のクレジットカードを支払先に選択でき、支払いまで一括管理できるのが特長。クレジットカードを持たない高齢者でも利用しやすくなり、支払金額に上限を設けることもできる。

 また、配車した後も、ドライバーとのチャットのやりとりなども家族が行える。このほか、「シンプルモード」を選択すると、スマートフォンの画面上も文字やアイコンが大きなサイズで表示され、最低限の情報に絞り込まれる。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/07/28-04:35)

Dress Codeが描く「複合型SaaS」の未来…摩擦ゼロの経営とグローバル戦略

●この記事のポイント
・元ビットキーの江尻祐樹氏が創業したDress Codeは、ワークフォースマネジメントSaaS「DRESS CODE」を展開し、設立7カ月で14億円を調達。江尻氏のERP領域での豊富な経験を背景に、徹底して「無駄を省く」戦略で急成長を遂げている。
・製品の特徴は、SaaS間の“摩擦”をなくす「コンパウンド」型設計で、職種に応じたアカウント管理やデバイス調達の自動化を実現。経験豊富な「二周目人材」が率いる少数精鋭体制で、初期からアジア市場への展開も視野に入れる。

 元ビットキーのシリアルアントレプレナー、江尻祐樹氏が創業したワークフォースマネジメントプラットフォーム「DRESS CODE」を提供するDress Code株式会社(ドレスコード)。設立からわずか7カ月で約14億円のシードラウンド資金調達を成功させ、日本およびアジアで130社を超える導入実績を誇る同社は、なぜこれほどの急成長を遂げることができたのか。江尻氏の言葉を交えながら、その「ゼロイチ」戦略と未来への展望に迫る。

目次

「ゼロイチ」の舞台裏:無駄を排除し、本質に集中する

「起業の背景としては、私個人の考えと、Dress Codeという会社自体に対しての考えと2軸のストーリーになると思っています」と江尻氏は語り始めた。Dress Codeの急成長を支える根幹には、徹底的に「無駄をなくす」という哲学がある。

「世の中のほとんどのスタートアップは、良い意味で”無駄”が楽しいと思っていることが多いと思っています。効率の観点としては無駄ですが、そこを試行錯誤すること自体が楽しいし、それがあることによって一つの結束性やモーメンタムが生まれます。これも重要だと思いますし、否定するわけではありません。しかし、我々が登る高い山を考えたときに、特に初期に関してはその無駄はあまり意味がないと考えています。知見や経験がある人が集まることでスキップできるところはスキップし、無駄を省いて、急激なグロースを目指していきたいです」 

 一般的なスタートアップが多大な時間を費やす市場調査や試行錯誤を、Dress Codeは大胆にスキップする。江尻氏自身の20年近く 以上にわたるERP(企業資源計画)領域での経験と、数百に及ぶプロジェクト導入の知見が、その判断を可能にしている。「私は営業をする際、ヒアリングはしません。創業前も、一社もやっていません」と江尻氏は述べている。

 これは単なる勘ではなく、深いドメイン知識に裏打ちされた自信だ。

「BtoBはBtoCと違って、どうやっても業務理解やドメイン理解がものすごく効いてくる領域なので、一度目の起業でスーパーホームランを打っている起業家はいないと思っています」

 江尻氏自身が「(人事、会計、SCM、EC等の)ERPの全てのプロダクトを見たことがある」と語るワークスアプリケーションズ勤務時代の経験は、Dress  Codeが目指す「統合型SaaS」の設計思想の源流となっている。

顧客を惹きつける「体感的なペイン」と「組み合わせの価値」

 Dress Codeは、初期の顧客獲得において、SaaSの分断に課題意識を持つ企業に狙いを定めている。課題意識を持っていない企業へのアプローチについては、「アプローチしません」と言い切る。

「それは今アタックするお客様ではありません。これは全ての事業において言えると思うのですが、最初にコミュニケーションコストが高かったり、課題感を持っていない顧客は捨てるべきだと考えています」

 Dress Codeが展開するワークフォースマネジメントプラットフォーム「DRESS CODE」が提供するのは、単なる機能の便利さだけではない。例えば、企業が直面するこんな課題を解決できる。

 多くの企業では、IT管理だけでなく、人事労務や総務といった様々な領域でSaaS(クラウドサービス)を活用しているが、これらのサービスがそれぞれ独立しているために、「摩擦」が生じることがある。

 具体例を挙げてみよう。SalesforceやSlackのようなツールのアカウント管理は、通常、IT部門が行う。この際、「この従業員はマーケティング職なのでアカウントを持つべき」「営業職かマーケティング職であればアカウントを持っていてもよい」といった、役職や職種に応じたルールを設定し、それに違反している人がいないかリアルタイムで把握し、アラートを出したい。

 しかし、このようなアラートを正確に鳴らすためには、従業員の職種や所属といった人事情報が必要不可欠だ。一般的なIT資産管理ツール単体では、HR(人事)関連のデータベースを持っていないため、この情報を参照することができない。

 そのため、多くの企業ではHR SaaSに登録されている人事情報を参照しようとする。しかし、管理すべきメンバーは正社員や役員だけではない。業務委託契約者も多数存在するが、HR SaaSには業務委託契約者の情報が含まれていないケースも少なくない。

 Dress Codeが提唱する「コンパウンド(混合物)」という考え方は、まさにこの課題を解決するものだ。

「”統合”ではなく”コンパウンド”が意味するのは、『カゴ』のようなものなのです。組み合わせると『今までこれをやりたかったんだよね』と言われるようなものがすごくたくさん詰まっているのでできるのです」

 DRESS CODEであれば、HR関連の情報も含めて統合的に管理することで、職種に応じたアカウントルール設定や、ルールに違反するアカウントへのリアルタイムアラートが可能になる。これこそが、従来のシステムでは実現できなかった「組み合わせの価値」であり、顧客が抱える「体感的なペイン」の解消に繋がっている。

 例えば、採用予定者の情報とデバイス在庫を自動で紐付け、不足数を把握するといった機能は、従来のシステムでは実現不可能だった。

「例えば、一般的に企業におけるデバイスの管理は、情報システム部で把握しているかもしれませんが、そこには当然HR(人的資源)のデータはありません。DRESS CODEを使用していれば、ATS(採用管理システム)で採用予定者の情報を持っています。

 仮に、7月1日に5人入社するとします。デバイス台帳はExcel管理しているが、iPhoneが何台足りないかなどはアナログコミュニケーション(SlackやTeamsなど)でやり取りしないとわかりません。ミスも起きるかもしれません。しかし、DRESS CODEであれば、『採用予定者5人です。デバイス管理のiPhoneは現状2台利用可能です。つまり、3台足りません。』といった情報が自動で出てくるのです。普通のことに見えますが、これすら今はできません。経営者に説明すると、『すごい、これやりたかったやつだ』と大喜びされます」

 さらに、「スマホが3台足りない」と分かれば、次は調達したいというニーズが生まれる。 「iPhoneを3台、6月25日までにeSIM入りで、アクティベーションしたらすぐ使える状態にして届けてほしい」という情報を踏まえて、DRESS CODE内のマーケットプレイス内でスマホ等の調達・手配が可能になるという。

 こうした「体感的なペイン」の解消と「組み合わせの価値」の提供が、顧客の満足度を高め、導入実績へと繋がっている。「すごい。これがやりたかったやつだ」という顧客の声が、Dress Codeの価値を物語っている。

14億円調達を可能にした「ドメインがシリアルな起業家」の説得力

 14億円のシードラウンド資金調達の成功は、Dress Codeが描くビジョンの蓋然性と江尻氏自身の説得力に他ならない。「ドメインがシリアルな(事業領域がつながっている)人たちが作ることが、私は必須条件だと思っていました」。 江尻氏は、複雑なBtoB SaaSの開発には、ドメイン知識に精通したシリアルアントレプレナーが不可欠だと強調する。

 江尻氏の経歴は、その言葉を裏付けている。ワークスアプリケーションズでのERP開発・導入経験、ビットキーでの創業・急成長経験。「実務と経営の濃密な経験、50年分ぐらいを5年でこなしたような感覚なのです。だから、もう難しいとか動揺するといったことはありません。意思決定で悩むこともほぼありません」。 この圧倒的な経験値と意思決定の速さが、投資家にとって大きな魅力となった。

 また、Dress Codeが目指すワークフォースマネジメント領域は、グローバルでWorkdayやRipplingといったデカコーン企業が多数出現している成長市場であることも、投資家への訴求ポイントとなった。

「ワークフォースマネジメント市場は、2024年に74億1000万ドル、2029年には103億5000万ドルに達する見通しで、年平均成長率は6.91%と堅調に推移しています。」

レッドオーシャンを切り拓く「コンパウンドプロダクト」戦略とグローバルへの挑戦

 SaaS市場、特に人事労務管理の分野はレッドオーシャンと化していると江尻氏は指摘する。

「日本で言うと、例えば労務管理は非常に多くの製品があり、勤怠管理が100ほど、採用管理も40以上あって、非常に悪い言い方ですが、コモディティ化してレッドオーシャンになっていて、差別化不可能な状況になってきています」

 Dress Codeがこのレッドオーシャンを切り拓く鍵は、「コンパウンドプロダクト」という独自の概念にある。

「データベース、ミドルウェア、UI/UXも含めて共通基盤化された製品の方が、結局、お客様は望んだことができます。しかし、誰もできていないので、それに挑む価値があるだろうというのが、我々のミッションの裏にあるのです」

 江尻氏は、ディズニーランドを例にその難しさを説明する。

「ディズニーランドには地下の二層、三層にとても重要な秘密があります。たとえばゴミ箱は全部エアシューターで繋がっており、地上で捨てられたゴミは特定の場所に全部集まるのです。また、従業員はみんな地下から通勤します。“夢の国”のイメージを壊さないために、見えないところから出入りするんです。それを、既存の遊園地が真似しようとしても、一度全てを取り壊さない限り同じものは作れません」

 つまり、初期段階でどれだけ強固な共通基盤(アーキテクチャ)を構築できるかが、その後の成長を決定づけるというわけだ。

 さらに、Dress Codeは創業当初からグローバル展開を視野に入れている。

「最初から世界展開は視野に入れていましたが、具体的な国の選定など、細かく戦略的には考えていません。ただ、アジアという市場は非常に日本と共通点が多く、私の過去の経験則上も、同じプロダクトを最初から大きく作れば挑みやすい市場だと考えています。」

 またアジア市場は、欧米の大型プレイヤーが進出しておらず、競合が弱いという特徴がある。

「彼ら(欧米企業)からすると、コミュニケーションコストが低く、商慣習が近いマーケットで相当なTAM(Total Addressable Market/獲得可能な市場)があるので、アジアの優先順位がまず落ちるのです。これは経済的な理由からも落ちていました」

 Dress Codeは、このブルーオーシャンともいえる市場で、日本で培ったオペレーショナルエクセレンスを武器に勝負を挑む。

「珍しいのは、まず土台を英語で作って、そこに日本語、インドネシア語、ベトナム語、タイ語等の辞書を搭載し、設定変更で言語変更に対応していることです。これを初手から入れる会社は、おそらくほぼないでしょう。ロケーションと言語の分離をかけるというのは、私たち以外見たことないと思うのですが、実はワークスアプリケーションズで、似ているものがあるのです」

「二周目人材」と「強制成長」が生み出す少数精鋭組織

 Dress Codeの急成長を支えるのは、江尻氏が「二周目人材」と呼ぶ経験豊富なメンバーたちだ。

「私たちは難しいことをやろうとしているので、一般的な基礎の『き』にあたる部分を確認する作業を省略することが重要です。試行錯誤せずに『この場合は、こうやるよね』と一段階スキップできる人たちが集まっているのが大きいです。そのうえで、みんながやったことがない部分に対して知恵を絞るような人材が集まっているかもしれないなと思っています」

「(市場)探索コストゼロ」で業務を遂行できる彼らは、プロダクト開発から顧客対応まで、あらゆる場面で効率性を追求する。また、江尻氏自身も「この会社もそうですが、ファイナンスも自分でやります。資本政策と資金調達の契約書を、私が全て書いてから弁護士に最終確認をお願いしています。全ての業務を実務的にこなします」と語るように、経営者自らが先頭に立って業務をリードする。

 江尻氏は、意図的に「強制環境下における強制成長」の状況を作り出すという。グローバル展開を初期から設定することで、エンジニアは4カ国で通用するデータベースを構築せざるを得ず、CSメンバーも各国の商慣習を考慮したサポート体制を考えるよう促される。

「別に私がすごいという話ではないのです。強制的にその状況になったら、スタートアップに挑んでいる経営者たちは、“強制環境下における強制成長”で結構みんな強くなるのです。その状況に置かないから、みんな甘んじたところまでしか行けないと思うのです。」

 江尻氏は、スタートアップが「いかに綺麗に成長していくかとか、小さく成功して終わりという状況で終わってほしくない」と語り、Dress Codeが目指すのは、富士山ではなくヒマラヤのような「一番でかい山」であることを強調する。

「やってみたら、結果的にできます。グローバル展開もできますよ」。 江尻氏のこの言葉は、Dress Codeが描く「統合型SaaS」の未来が、単なる理想ではなく、確かな経験と戦略に裏打ちされた現実であることを示唆している。Dress Codeの挑戦は、日本のSaaS市場、そして世界のWorkforce Management市場に、新たな「摩擦ゼロ」の波を起こすかもしれない。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

映画レビュー「入国審査」

移住のためNYに降り立ったカップルに、入国審査官が立ちふさがる。私生活にまで踏み込む尋問は、二人を徐々に追いつめていく。

投稿 映画レビュー「入国審査」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

カゴメとキユーピーが脱炭素の共同研究…未利用野菜資源をバイオ炭に転換し農業に利用

●この記事のポイント
・カゴメとキユーピー、脱炭素の共同研究を推進
・食品工場などから排出される未利用の野菜資源をバイオ炭化し、農地に散布することで土壌改良や炭素貯留の効果を期待
・持続可能な地球環境の維持に向け、単独では解決が難しい課題に対して一緒に解決していく

 食品メーカーのカゴメとキユーピーが共同で脱炭素に取り組む。食品工場などから排出される未利用の野菜資源をバイオ炭化し、それを契約農家の農地に散布することで土壌の改良や炭素の貯留につなげる技術の実用化に向けて共同研究を行う。バイオ炭は、通常の堆肥と比べて分解されにくく、長期間土壌中に留まることができる。どのような技術・仕組みなのか。また、なぜ共同研究というかたちでタッグを組むのか。両社に取材した。

●目次

両社のリソースを活用して、野菜の栽培・加工に関するサステナビリティ課題解決を目指す

 今回の取り組みの目的について、カゴメはいう。

「未使用の野菜資源を燃やすと、有機物をCO2に変えて大気中に放出し、温室効果ガス(GHG)を排出することになります。また、発酵させて堆肥化させてもメタンガスなどのGHGが出ます。そこで、違う方法によってCO2を削減できないかということで、キユーピー様と一緒に本研究に取り組んでいます。従来の方法であればGHGとして放出されてしまう炭素をバイオ炭として地中に貯留し、さらに土壌改良の効果も期待できるというものです。

 2社共同で取り組む背景は、持続可能な地球環境に向けた取り組みは各社が進めていますが、一社単体ではなかなか解決が難しい課題に対して一緒に解決していくソリューションを開発することで、大きな課題の解決につなげていくことが可能なのではないかと考え、共同での研究に取り組んでいます。

 具体的には、両社の研究部門の交流のなかで2023年から新規事業を共創するワークショップを開催し、持続可能な農業の実現に向けて、互いのリソースを活用して解決につなげることができないかと考え、本研究の開始に至りました」

 キユーピーはいう。

「キユーピーグループは、2030年のサステナビリティ目標達成に向けた取り組みを推進しています。そして、2025年度に始まる第11次中期経営計画を機に、2050年を見据えた新たな環境ビジョン『キユーピーグループ 環境ビジョン2050』を策定しました。この新ビジョンでは、資源循環(サーキュラーエコノミーの実現)を主要な柱として掲げており、今回の取り組みもそのビジョンに繋がるものです」

 なぜ協力するに至ったのか。

「カゴメはケチャップ、キユーピー様はマヨネーズを扱っており、これまでケチャマヨ体操という両社コラボでのメニュー提案も行ってきました。農業の振興や持続可能な地球環境に関して同じ課題を持っておりますので、お互いのリソースを活用して一緒に取り組ませていただくことで解決に近づくと考えております。また、カゴメとキユーピー様を含む全6社で「未来型食品工場コンソーシアム」というものを結成し、食品工場の技術革新により、持続可能な食インフラの構築を目指す取り組みも行っています」(カゴメ)

「サステナビリティに関しては、競合であるかどうかという次元の話ではなく、同じ食品会社としてきちんと社会に還元できるのであれば、そういう技術を持った者同士が一緒にやっていくっていうのが当たり前の世界になってきています。カゴメ様とは親和性の高い部分がとても多いので、今回の協働が実現していると考えております」(キユーピー)

技術的なカギと課題

 炭素除去クレジットの創出という目的もあるのか。

「持続可能な農業の実現と環境負荷低減を目指し、将来的には本研究を事業モデルとして確立していきたいと考えています。そのためにクレジットの創出も目指しています」(カゴメ)

「最終的には新たな経済的価値を生み出せればよいと考えておりますが、優先順位としては炭素貯留ができる仕組みをつくるというほうが高いと考えております」(キユーピー)

 両社はマイルストーンとして、2027年以降の事業化を目指しており、まず2年ほどかけて研究や実際にバイオ炭を栽培農地にまいた場合の評価などを行っていく。技術的にカギや課題になる部分は何か。

「現在実装されているバイオ炭は、もみ殻や木材由来のものが多いのですが、水分が少ない原料から作るのは比較的効率は良いです。一方、植物や食品工場で生じる残渣は水分が多い資源なので、それを効率よく炭化する技術を2社で協力しながら進めています。特に脱水という部分に関しては、両社で検討しながら進めております」(カゴメ)

 社会的には意義のある取り組みだが、企業としてどのようなメリットやプラスの効果があるのか。

「私たちは『畑は第一の工場』と考えており、畑から出た未利用資源を、再び畑に活用することで、未利用野菜資源の有効活用だけでなく、CO2 削減につながることは大きな意義があると考えています。また、バイオ炭の活用により、土壌改良や作物の生育促進効の効果の検証も、今後行っていきますので、野菜由来のバイオ炭の農業利用における有効性にも期待しています」(カゴメ)

「私たちも、サーキュラーエコノミーの実現というビジョンを、達成していくということについては、経営的な意義があると考えております」(キユーピー)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

食品ロス対策、多様に=食べ残しで発電も―外食・メーカーなど

 食品ロスを削減しようと、外食やメーカー、小売りが新たな切り口で対策を講じている。飲食店の食べ残しを電力に変えたり、店頭で売れる期間が過ぎた商品をメーカーが自前で販売したりと、無駄を減らす取り組みが多様化している。

 回転ずし店「スシロー」を運営するあきんどスシローなど外食大手6社は、食べ残しや調理で出た端材を活用し、メタンガスを発生させて発電用の燃料にする取り組みを始めた。発電や電力供給を担うのはJFEエンジニアリングで、スシローや「ロイヤルホスト」のロイヤルホールディングス、「ミスタードーナツ」のダスキンなどの参加企業は割安価格で電力を買い取れる。

 賞味期限が近づいたヨーグルトなど乳製品を中心に販売する直営店を設けたのは明治。「明治ザ・ステナイファクトリー」を昨年末、さいたま市内に開設した。同社は「まだ食べられる商品を『捨てない』との思いを込めた店名にした」と話す。

 小売りや食品の業界には「3分の1ルール」と呼ばれる商慣習があり、例えば製造日から賞味期限までの期間が3週間なら、3分の1に当たる1週間以内に小売業者へ納品しなければならない。期限を過ぎた商品は廃棄対象になるため、食品ロスが増える原因と指摘されてきた。明治の直営店では、納品の期限を過ぎてしまった商品を希望小売価格の4割引き程度で販売。賞味期限当日まで店頭に置く。営業は今年4月までの予定だったが、好評のため7月も継続中だ。

 ローソンは長期間販売できる冷凍のおにぎりやパンに力を入れており、今月15日から取扱店舗を増やした。賞味期間はおにぎりが約1年、パンは約200日と長く、食品ロス削減に効果を上げているという。昨年7月には、通常のおにぎりの一部商品も衛生管理の徹底などにより消費期限を6時間延ばした。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/07/28-04:35)

ウォルマートも注目!レシートが宝の山に…5千万人が使うキャッシュバックアプリ

●この記事のポイント
・米キャッシュバックアプリ「Ibotta(アイボッタ)」は、レシートを起点に誕生し、利用者5000万人を超える急成長企業へと進化。消費者向けD2Cモデルから、WalmartやInstacartなど大手リテーラーと連携するB2B2C型プラットフォーム「Ibotta Performance Network(IPN)」へと事業を巧みに転換。
・売上は前年比15%増の3.7億ドル、純利益は80%増と急伸。紙からデジタルへの移行という業界潮流を追い風に、広告の新たな形を切り拓いている。

「I-bought-a(私が買った)」という日常の瞬間に、私はビジネスの宝の山を見つけましたーー。

 Ibottaの創業者兼CEOであるブライアン・リーチ氏は、とある出張帰りの飛行機で見た みた、経費精算のためにレシートの写真を撮る同乗者の姿から着想を得て、創業から10余年ほどでニューヨーク証券取引所に上場する企業をつくりあげた。

 同社はいわゆる「キャッシュバックアプリ」を提供しており、消費者は商品を購入すれば一定の現金還元オファーを受けることができる。ときには全額キャッシュバック対象で実質無料となる商品もあり、日々の支出を抑えたいユーザーから熱烈な支持を受けているサービスだ。

 2024年度通期決算では売上高3.7億ドルと前年から15%の増収となり、純利益では同80%増の6874万ドルへと成長。利用者数は累計5000万人規模にも上る。

 一見すると「消費者向けのお得な割引アプリ」にみえる同社だが、実は足元の成長の裏側にはB2Bモデルへの巧みな事業転換がある。大手小売りのWalmartや食料品配達のInstacart、フードデリバリーのDoorDashなど、米国の巨大なリテールプレーヤーを取り込む同社の事業モデルについて、本記事では紹介していく。

目次

創業者の着想:一枚のレシートに眠るデータの価値

 Ibottaの創業者兼CEOであるブライアン・リーチ氏の経歴は、典型的なITベンチャー創業者とは一線を画す。彼はハーバード大学、オックスフォード大学、イェール大学ロースクールを卒業後、合衆国最高裁判所のデイヴィッド・スーター判事のロークラークを務め、最終的には国内有数の訴訟法律事務所でパートナーにまで上り詰めたエリート弁護士だ。

 そんな彼が起業するに至ったのは、ブラジルのリオデジャネイロからの帰国便で目にした何気ない光景にある。隣の乗客が経費精算のためにスマートフォンのカメラでレシートを撮影していたのだ。

 そんなふとした行動をきっかけに、一枚のレシートが、購入された商品のUPC(商品コード)、価格、数量、店舗、日時に至るまで、購買行動のすべてを記録した「情報の宝庫」であるのではないかと思い至った。一方で、調べてみると、そのレシートの中に含まれる魅力的な情報を整理して、消費者の支出習慣の正確な全体像を把握する方法はまだないということも判明した。

 テクノロジーでこのデータを束ねることができれば、消費者一人ひとりの特徴を無視した画一的なマスマーケティングから脱却し、各人に最適化されたプロモーションを提供できるのではないか。その着想が、Ibotta(”I bought a…”=「私は〜を買った」に由来)の原点になった。

 もちろん単なるビジネス上の野心だけではなく、「人々の日常生活の支えになる何かを創造したい」という強い使命感もあったという。Ibottaが提供するキャッシュバックが食費や家賃、医療費の助けになるという点もサービスを思案するなかで重要なポイントだった。

自社アプリを中心とする消費者・ブランドネットワークの構築

 Ibottaの壮大な構想は、2012年にリリースされた自社モバイルアプリから始まった。仕組みはシンプルで、アプリ上には商品と合わせてそれぞれ特典内容が表示されており、その商品の購入後にレシートをアップロードするだけでキャッシュバックが受けられるというもの。

 商品メーカーなどブランド向けには実際に売れた分だけ報酬を支払う「成果報酬型」のモデルをとった。マス広告など成果が読みづらい媒体に広告費を払うことと比べ、ブランド側はリスクなく販売網を広げることができる。

 このアプリを同社は直接消費者にサービスを届けるという意味で「D2C」モデルと位置づける。しかしこのアプリ自体の成長は最終目的ではなく、むしろ後に来る「Ibotta Performance Network(IPN)」というビジネスを登場させるための周到に計画された「第1幕」であった。

 特に米国の成人の60%が給料ぎりぎりの生活を送っているといい、日々の出費を手軽に抑えられるこのアプリは、口コミの力もあり爆発的に広まった。このD2Cアプリを通じて、同社は下記3つのビジネス上極めて重要な資産を築き上げた。

1.消費者のユーザー基盤:アプリは5000万以上のダウンロードを記録し、消費財ブランドにとっては魅力的な巨大ユーザー基盤を形成した。

2.消費財ブランドとのネットワーク:850社以上のクライアント、2400を超えるブランドと直接契約を結び、様々な消費財を購入できるプラットフォームになった。

3.膨大な行動データセット:レシート処理、購買認証、決済処理といったコア技術を開発・改良すると同時に、数億枚のレシートから得られる消費者行動に関する膨大かつ独自のデータセットを構築した。

 要するにIbottaは、自社アプリを通じて「キャッシュバック」を銘打てば多くのユーザーを惹き寄せられること、そのユーザー向けの商品提案を「成果報酬型」でできればブランド側の収益がリスクなく上がること、この2点を証明した。これがのちにWalmartなど巨大ブランドを自社ネットワークに呼び込む上での強い交渉力となる。

真の狙い「Ibotta Performance Network(IPN)」の誕生

 2020年、同社は「Ibotta Performance Network(IPN)」という、真に狙っていたビジネスを本格的に始動させた。消費財ブランドが、パブリッシャーを通じて消費者にデジタルプロモーションを配信することを可能にするプラットフォームだ。

 例えば、レゴやネスレといった消費財ブランドが、WalmartやDollar General(ディスカウントストア)などのECサイト/アプリなどのパブリッシャー上でプロモーションを付与できるというもの。要するに、Ibottaアプリ上ではなく、第三者の媒体上でブランド側が特典オファーを出すことができる仕組みである。

 これは単なる新機能の追加ではなく、事業モデルをB2CからB2B2Cへとピボットすることを意味する。その仕組みは「Rewards as a Service(RaaS)」とも表現される。

 Walmartなどパブリッシャーにとっての価値はなんといっても、何百何千ものブランドとの交渉をすることなく、彼らが提供している最新のデジタルプロモーションの情報を取得し、それを消費者に提供できることだ。技術開発も営業組織も必要ない。

 ネスレやコカ・コーラなど消費財ブランドにとっては、一度IPN上でキャンペーンを組成するだけでWalmartやDollar Generalを含むリテール大手の持つ膨大な消費者リーチを獲得することができるのが魅力だ。各リテーラーとの個別交渉を完全に不要にし、ワンストップでプロモーションを管理できる。

 重要な差別化要因は「成果報酬型(Pay-Per-Sale)」モデルである。従来の広告がインプレッション(CPM)やクリック(CPC)に対して課金されて売上を保証しないのに対し、Ibottaのモデルではクライアントは「プロモーションが実際の売上につながった場合にのみ」料金を支払う 。これによりブランドはリスクを大幅に低減し、測定可能な広告費用対効果(ROAS)を得ることができる。平均ROASは7倍にも達するという。

Walmartが支える成長と「紙→デジタル」シフトの追い風

 財務状況をみると、やはりWalmartとの戦略的提携が大きな成長ドライバーとなっている。2022年第3四半期にWalmartの有料会員向けにIPNの利用が開始され、2023年第3四半期にはWalmart.comの全顧客へと拡大した。

 これにより提携以前はごくわずかだったサードパーティ・パブリッシャー経由の売上は、2023年度に約8000万ドルに急増し、2024年度にはさらに125%増の1.9億ドルに達した。全体売上の約半分を占める規模であり、大部分はWalmartによるものだ。

「リディーマー(特典利用者)」の数は、2022年度の290万人から2023年度には820万人、2024年度には1470万人へと飛躍的に増加した。この成長のほぼすべてが、サードパーティ・パブリッシャー経由のユーザーによるものである。いかに自社アプリモデルからの戦略的展開が奏功したかがうかがえる。

 IPO(株式新規公開)後、2024年8月にはInstacart、2025年1月にはDoorDashと提携を発表。Walmartなど小売大手のみならず、様々なリテールテック大手も惹きつける魅力があることの証左となっている。

 反対に自社アプリのユーザーは減少に転じているが、これは「自然な顧客の移行」と同社はみる。各種パブリッシャーでプロモーションを享受できるようになったことで、いわばカニバリゼーションが起こり、「想定どおり」顧客が移動したと受け止めている。

 いうまでもなくIbottaがターゲットとする市場は広大だ。米国の消費財ブランドは、プロモーションや広告に年間約2000億ドルを費やしている 。Ibottaの2024年度の売上高(3.7億ドル)は、わずか0.2%にも満たない。

 業界のトレンドも追い風だ。紙クーポンからデジタルプロモーションへの移行、成果が測定可能なパフォーマンスマーケティングの需要の高まり、リテールメディア広告への注目など現代の小売マーケティングの主要な潮流のまさに交差点に位置している。

(文=干場健太郎)