鰻の成瀬、開業わずか2年半で360店舗超の急成長の秘密…飲食チェーンの常識を逸脱

●この記事のポイント
・鰻料理チェーン「鰻の成瀬」、2022年9月の1号店オープンから2年半で360店舗以上となる急成長
・運営元は、これまで飲食業態未経験であり、店舗ごとの内装・外装はバラバラ
・国内では店舗網を拡大する計画はない。オーナー間で競合が発生することを避ける。

 高級食材である鰻(うなぎ)をリーズナブルな価格で味わえるとして人気が高まっている鰻料理チェーン「鰻の成瀬」。2022年9月の1号店オープンから、わずか2年半で360店舗以上となる急成長を遂げている。実は運営元のフランチャイズビジネスインキュベーション(FBI)は、これまで飲食業態未経験であり、取得した居抜き物件に最低限の改装を施して開業するため店舗ごとの内装・外装がバラバラであったりするなど、外食チェーンの常識にはとらわれない経営を展開。また、スケールメリットを発揮すべく拡大路線を続ける飲食チェーンも少なくないなか、これ以上は大きく店舗を増やす計画はないという。なぜ「鰻の成瀬」は極めて短期間で急成長を遂げることができたのか。FBI社への取材を交えて追ってみたい。

●目次

ブルーオーシャンの市場

 専門店では3000~4000円以上することも珍しくない鰻重を、1600円(並/梅)からという低価格で提供する「鰻の成瀬」。すでに鰻料理店が数多く存在するなかで、なぜ参入を決めたのか。

「弊社はフランチャイズブランドの立ち上げやフランチャイズを展開されたい方の支援をしていたのですが、より深い支援を行えるようになるために自社でもフランチャイズブランドを立ち上げることになったのが、きっかけです。商材を探しているなかで、ある商社が『うなぎ』のフランチャイズブランドを拡大したいと相談にこられ、いろいろと話をさせていただいているなかで協業というかたちでブランド展開をしていくというかたちになりました。こうして、それまで飲食店業態の経験がなかった弊社が鰻料理チェーンに進出することになったというのが経緯です。

 また、鰻は多くの日本人に愛されている食べ物である点や、鰻店は“見かけたから入る”タイプの店ではないので、お客様にわざわざ足を運んでいただけるような施策を打てば一定の来客数を見込めるのではないかと判断したという点もあります」

 チェーン店としては稀にみるほどの速いスピードで急拡大した要因は何か。

「鰻という商材は老舗店がとても多く、新規参入の店舗はあまり多くはなく、地元に根付いて地域のお客様を抱えている店がほとんどでしたので、逆にいうとマーケティング的な視点でいえばブルーオーシャンの市場であったというのが一つ目の要因です。2つ目が、店舗オペレーションが比較的軽く、一次加工をした鰻を店舗に配送することでアルバイト店員でも上手に調理できる仕組みをつくることができるという点です。

 場所を問わず出店できたという要因も大きいです。鰻は目的食なので、お客様は『鰻が食べたい』という明確な目的を持って店舗を探して足を運ぶので、わざわざ目につくような場所に出店する必要がありません。住宅街にあるような飲食店やコンビニエンスストアが撤退した居抜き物件に、低い初期投資で出店することができました。商業施設や駅前などへの出店は最近になってからです」

店舗の改装にお金をかけない

 飲食チェーンとしてユニークな手法などを取り入れたりはしているのか。

「弊社はもともと飲食業態は未経験でしたので、何がユニークな手法なのかが分かっていませんでした。一般的に同一のチェーンであれば、店舗間で外観・内観に統一性がみられますが、弊社は居抜き物件をそのまま使っていますので、前が寿司店の店舗にはカウンター席があったり、元がピザ店の店舗はモダンな内装になっていたりしており、統一されているのはロゴくらいです。看板のイメージやお店の雰囲気は基本的にはオーナーさんに任せてやっていただいています。店舗の改装にお金をかけるよりも、より低価格で美味しい鰻を提供したほうがお客様にとっても満足度の向上につながるのではないでしょうか。

 ですので、いまだにチェーン店だと認識されていないことも多く、『なんか地元にいいうなぎ屋ができたらしい』という噂が広がって、地元の方々に愛されるというような受け入れられ方が良いと考えております。『ここは、鰻の成瀬です』ということを打ち出す気はあまりありません」

 日本では鰻の確保が難しいといわれているが、300店舗以上で消費される大量の鰻をどのように調達しているのか。

「店舗数が増えてきたこともあり、1種類に絞っていると確保が難しいため、3種類の鰻を取り扱っています。関税などの影響も懸念されるため、リスク分散の観点からも3種類を取り扱っています。商社と一緒に品種の選定や在庫確保に動いており、養殖場のISO取得やHACCP(ハサップ)導入の状況なども確認しながら品質を担保するよう取り組んでいます」

長く地元の方々に愛されるお店づくり

 同社は集客のツールとしてLINEを積極的に活用している。

「これに関しては本部が主導するかたちで、オーナーさんに導入いただいています。本部のほうで利用状況を分析して、週単位で各店舗のお友達数がどれだけ増えたかを全店に公表しています。例えばオーナーさんからの『1周年なので、こういうお祝いをしたい』といった相談には本部としても応えますし、一緒に取り組んでいくというスタンスです。オープンから1年で一店舗あたり数千人のお友達がおり、メッセージ開封率もとても高くなっています。定期的に割引クーポンを配布するといったことはあまりしていないのですが、それでも開封率が高いというのは、質の高いお友達の方々にフォローいただいていると考えております」

 意外にも同社は今後、店舗数を大きく拡大させていくつもりはないという。

「国内に関していいますと、ここから大きく拡大する計画はありません。私たちの本来の目的は『鰻の成瀬』が拡大することよりもオーナーさんが儲かることなので、これ以上店舗数が増えるとオーナーさんの間で競合が発生してしまう恐れがあり、それを避けるということは非常に大事なポイントだと考えております。地元の方々に愛されるお店づくりを重要視しており、廃業率を上げることは避けるべきなので、なんらかの事情でオーナーさまが経営を続けられないとなった際には、他のオーナーさまを見つけることで、できるだけ長く地元の方々に愛されるお店づくりができるようにサポートしていく方針になっています。一方、海外出店に力を入れておりまして、数カ国で出店を進めている状況です」

 そんな同社が現在、力を入れているのが地方活性化だ。

「フランチャイズの力で日本の隅々まで元気にしていきたいという思いがあり、昨年の夏には本社を東京から滋賀県の高島市に移しました。弊社代表の山本の地元で人口約4万5000人の自治体ですが、そこで地域活性化に取り組み、その手法を全国に広げていきたいと考えています。地方自治体や地元企業さんと組んで新メニューを開発したり、地元が活性化していく取り組みを進めて、地方創生に寄与していく施策を計画中です」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

沖縄北部観光の起爆剤に=「ジャングリア」に高まる期待

 沖縄の豊かな自然を体感できるテーマパーク「JUNGLIA OKINAWA(ジャングリア沖縄)」(今帰仁村、名護市)が7月25日に開業した。夏休みの親子連れらでにぎわい、北部観光・経済の起爆剤として期待が高まる。経営が苦しいテーマパークも多い中、成功事例となるか―。

「鉄とコンクリートのテーマパークとは全く違う」。企画したマーケティング会社「刀(かたな)」(大阪市)の森岡毅代表は自信を見せる。

「やんばる地域」の大自然を生かした数々のアトラクションが売り。特に「素通り」が課題になってきた北部観光の目玉として地元の期待は大きく、宮本勝浩関西大名誉教授らの試算によると、開業後15年間の経済波及効果は約6兆8080億円、約88万人の雇用創出が見込まれる。

 観光バスなどによる交通渋滞も懸念されるが、無料シャトルバスの運行に加え、沖縄県も道路拡張などで対応する構え。玉城デニー知事は「沖縄観光の魅力とブランド力が向上し、多くの観光客の来訪に期待する」と強調する。

 ただ、テーマパーク運営は東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)など一部を除くと厳しいのが実情。近年は福岡県のスペースワールドや東京都のとしまえんが閉鎖しており、山口有次桜美林大教授は「レジャーの多様化、高質化で、二極化が進んでいる」と話す。

 一方、「設備に再投資し続け、消費者のニーズをつかみ続けられるパークが堅調な運営をしている」と分析、ジャングリアについては「日本で唯一といった特徴が出せるかが生命線」とみる。

 森岡氏は「地域の皆さまと力を合わせ観光目的地として育てたい」とし、今後インバウンド(訪日客)へのアピールも強めたい考え。自然体験というコンセプトで仮想現実やゲームに慣れた消費者のニーズにいかにつかむか、挑戦は続く。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/16-15:26)

ミキハウス、海外事業拡大の秘密 海外店舗数が国内を上回る…規模拡大より品質、サービスにこだわる着実な展開

●この記事のポイント
・ミキハウスの海外事業が拡大、店舗数ベースでは海外が国内を上回っている
・海外で代理商になるオーナーの多くが、ミキハウス商品のヘビーユーザーやお客様
・海外の病院や高級リゾートホテルにコラボルームを設置するなど、BtoB事業も推進

 年間売上高は183億円(2025年2月期)に上る高級子ども服ブランド・ミキハウスの海外事業が拡大している。すでに店舗数ベースでは海外が国内を上回っており、着実に店舗数を拡大させているが、意外にも「規模の拡大よりも質を重視している」(同社)という。同社の強さの秘密、そして海外事業成長の背景について追ってみたい。

●目次

「ものづくり」に妥協を許さない姿勢

 ミキハウスの海外事業は1979年、アメリカ市場向けの輸出がスタートとなった。1987年にフランスのパリに第1号となる海外直営店、パリ ヴィクトワール店をオープンし、海外展開を本格的に開始。2010年には上海万博日本産業館への出店が契機となりアジア、特に中国でブランド認知度が向上し店舗数が拡大し、海外展開が急速に進展した。2025年7月現在の海外店舗数は107店であり、日本国内の直営店90店舗よりも多い。海外の旗艦店は、ニューヨークのザ・プラザホテル店、ロンドンのハロッズ店、パリのサントノーレ路面店、上海のIFC店、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ店、台北のべラヴィータ店で、海外におけるブランド発信の拠点となっている。

 ミキハウスの海外事業が順調に拡大している要因について、同社グローバル事業部は次のように説明する。

「弊社の一番のアイデンティティ、軸となるのは、子どもにとって着やすい、本当に安心安全であるという、子どもを第一に考えて、子供服ならでは高品質にこだわった『ものづくり』に妥協を許さない姿勢という点です。実際に使っていただいて、商品の肌触りや丈夫さなどへの驚きと気づきを世界中のお客様に感じ取っていただいているところなのかなというのは、すごく感じます。また、海外事業については現地の代理商様に商品を卸し、販売をさせていただいているため、弊社がもっとも大事にしている理念や考え方を、販売現場でお客様とじかに接する代理商様や販売スタッフの方々にどれだけ共有していただき、同じ温度感でお客様にそれを語って商品をご提供できるのかを重要視しています。

 そのためには、教育やレクチャーの前に、まず代理商様がなぜ弊社の商品を扱って商売をしたいと思われたのかがもっとも重要です。実は海外で代理商になっていただいている方の多くが、元々は弊社商品のヘビーユーザー、お客様なんです。みなさん、日本に来た際に弊社の商品を直営店で接客を受けて購入し、サービスも含めて共感・感動されたという方が非常に多いです。このような、私たちの子どもへの想いと、もの・サービスの価値に共感し、信頼関係のあるパートナーと一緒に現地でのブランド展開を進めています。

 近年では、各国の言葉できちんとミキハウスが商品に込めた思いを、世界中のお客様により伝えられるよう、弊社の教育研修と手を組んで、現地のスタッフの方々への教育も本格的にスタートしました。この取り組みを通して、我々の思いがこれまで以上に現地のお客様に届き始めたと実感しております」

 つまりミキハウスの海外展開については、ターゲットとする地域を定めて同社主導で出店を進めるだけではなく、各国・地域の代理商からの要請を受けて進出をするというケースも少なくないのだ。

「もちろん中長期的な海外進出計画を策定してマーケティングリサーチを行っておりますが、結果的にブランドの認知度が上がって、売り上げが大きくなる地域は、弊社の商品を扱いたいと手を挙げてくださった代理商様が手掛けられるところが多いのは事実です」

BtoB事業推進の理由

 ミキハウスは海外の病院や高級ホテルにコラボルームを設置するなど、BtoB事業も推進しているが、その目的は何か。

「前提として、ミキハウスというブランドは日本でこそ一定の認知度がありますが、世界ではまだまだ知られていません。上海万博を皮切りに中国においては、お子さまにとにかく良いものを求めるという、我々がターゲットとしている方々の約半分くらいは知ってるけれども、中国の全人口のうちで『ブランド名を耳にしたことがある』という人は10%に届くかどうかというイメージです。東南アジアやそれ以外の地域でも、残念ながら認知度的にはほぼ知られていないといっていい状況です。

 そうしたなかで、弊社としては、まずは『こういうブランドがあるんだよ』ということを少しでも多くの方に知っていただく必要があり、その方法としてモールや百貨店に店舗を構えてお客様に来ていただくというかたちがありますが、今ではSNSなどで先にブランド名を知ることも多いです。店舗はブランディングのベースであり、最終的にそこできちんとお客様に寄り添って接客をさせていただいて、商品をご購入いただく満足度を提供できる環境を整えていきたいという思いはありますが、そこに行き着くまでが非常に難しいです。

 そこで、より多くのお客様に弊社の安心・安全な商品と高付加価値なサービスをお届けできるように、産院や産前産後ケア施設、高級リゾートホテル等との法人の取り組みを強化しています。日本国内ではオリジナルのベビー肌着や授乳クッションなど新製品の開発や、退院ギフトの採用、産後セミナーの提供等、日本中の100以上の施設と提携しております。ホテルでもコラボルームやホテル内アメニティの採用、ホテル内ショップの展開等、お子さまとの滞在がより楽しく、快適に過ごして頂けるような取り組みが進んでいます。今はこのような取り組みが海外にも広がってきました。

 中国、タイ、ベトナムといった国々には全世界中から渡航者が集まっており、このような取り組みを通して、ホテルや産院でミキハウスというブランドを知っていただき、品質の良さを実感いただくという狙いもあります。例えばタイのバンコクで技術力の高い医療を提供するランカムヘンという病院では、退院する赤ちゃんにミキハウスの商品をプレゼントしたり、子どもが元気な気持ちで治療を受けられように小児科と産婦人科の空間をプロデュースしたりといったことも行っております」

 今後の海外事業の展開について、むやみに規模を追うことはしないと同社は言い切る。

「高品質の商品とサービスをワンセットでお届けすることを重視しながら、各国のニーズに合わせて代理商様と連携しながら、きちんとフォーカスを絞ってサービスを提供していきたいと考えています。海外のある企業から『当社と組めば一気に500店舗オープンできますよ』といったお話をいただくこともありますが、弊社の商品は素材を厳選し、生地から丁寧につくっているので、大量生産ができません。一時的なビジネス拡大と売り上げを追求するのではなく、子どものための安心・安全な高品質で信頼されるブランドとして、それぞれの地域で着実に顧客様を増やしていきたいと考えております。」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

日本でも「AI失業」の兆候…企業で新規採用を控える動き、「人材採用よりAI活用」が定着

●この記事のポイント
・GAFAMなど米国テック企業ではAIによる効率化によって従業員が削減
・日本のスタートアップやメガベンチャーでもAIを使うことで雇用を抑えようという動き
・人とのコミュニケーションができて利益も上げていくことができるエンジニアは必要とされる

 AIの普及と性能向上に伴いエンジニアを含む労働者が職を失うことを意味する「AI失業」というキーワードが注目されている。米セールスフォースのマーク・ベニオフCEOは2月、同社が開発した新しいAIエージェント「Agentforce」を導入したことによりエンジニアを採用する必要がなくなったため、2025年度はエンジニアの採用をしないと発表。GAFAMでも同様の動きはみられ、米マイクロソフトは5月、約6000人の人員を削減すると発表。米アマゾン・ドット・コムも6月、CEOがAIによる効率化によって従業員数が減少すると発言した。こうした動きは日本企業でも広がるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

新規雇用する代わりにAIを使って生産性を上げる

 まず、現在のシステム開発の現場における問題点を整理してみたい。企業のシステム企画・支援を手掛ける株式会社AnityA代表の中野仁氏は、経験豊富なオールラウンダー的なエンジニアが少なくなりつつあるという。

「コーディングや要件定義もできて、プロジェクトマネジメントもできて、顧客とも社内メンバーともきちんと会話・コミュニケーションができるという上の世代のエンジニアが、徐々に第一線を離れて少なくなってきているという印象があります。就職氷河期以降はエンジニアの仕事も割と分業化が進み、いわゆるオールラウンダー的な人が育っていません。需要に対して供給が間に合っていないという問題もあります。結果的にエンジニアの単価が上昇しており、大手コンサルファームに発注するとシニアクラスのマネージャーの人月単価が300万円くらいというのが当たり前になってきています」

 ここ数年はIT業界の大きな問題として人手不足が叫ばれ、新卒就職者の初任給をはじめとする給与引き上げ競争が進行してきたが、その状況も徐々に転換の兆しが見えつつあるという。

「AIの性能が飛躍的に向上してきて、私の周りでも20年以上、第一線でやってきた要件定義からプロジェクトマネジメントまでこなせるようなエンジニアたちから『3~5年後には、もう仕事ないかも』といった声が聞こえてきます。並のエンジニアを雇用して使うくらいなら、AIを使ったほうが2~3倍の生産性を出せるかもしれないという方向性になってきています。米国では大手テック企業がAI活用による開発効率の向上によって、大量の人員削減を進めていますが、日本でもすでにスタートアップでAIを使うことで雇用を抑えようという動きが出てきており、来年か再来年ぐらいからメガベンチャーあたりでもそうした動きは顕著になってくるといわれています。スタートアップやメガベンチャーの経営層の認識としては、『そろそろ景気後退も始まるので、新規雇用する代わりにAIを使ってどんどん生産性を上げましょう』となりつつあります。

 AIで生産性を上げるということは、従業員一人あたりの営業利益を最適化する、人を減らしてして利益を上げるということなので、外注費を減らして社内の人件費も抑制することになりますが、スタートアップやメガベンチャーはまず外注費の最適化を行って、今年から来年にかけて様子を見つつ、そこから先で社内の人件費に手を付けていくという動きになるという見立てが広まりつつあります。米国のシリコンバレーで起きた動きが数年遅れで日本でも起きる傾向がありますが、そうした動きに最初に敏感に反応するのがスタートアップとメガベンチャーです。

 ですので、少し前までは各社が高い給料を提示して若い人材を獲得しようとする動きがありましたが、今では新卒採用でもよほど優秀な人材でないと採用しないといったかたちで、すでに採用の凍結に動いている会社も増えており、近いうちに状況がガラッと一変するでしょう。特にスタートアップは景気変動の影響をもろに受けやすく倒産のリスクも抱えているので、少し前のエンジニアバブルの頃のような感覚の経営者は少ないのではないでしょうか」(中野氏)

人とのコミュニケーションができる広義の意味でのプロマネのスキルが必要

 企業としては、エンジニアを含めて人材を極力抱えない方向へシフトしていくという。

「円安や諸外国のインフレの影響で、相対的に日本人の人件費が安くなってきつつあるので、オフショア開発など海外の人材に発注するよりは日本人を使ったほうがコミュニケーションギャップも少ないしいいよね、という側面は残るかもしれません。ただ、新たに人材を採用したり外部に発注するよりも、ちょっとスキルが高いシニアクラスの人がAIを使ったほうが高いパフォーマンスを出せるということになれば、やはり企業は採用を控えるということになります。社員の人数を増やせば増やすほどマネジメントは難しくなるので、できるだけ関わる人を増やさないほうがいいというのは企業の原則論としてあるわけです。そう考えていくと、今後も企業が採用を増やし続けていくという状況が続くとは考えにくいです」

 では、そうしたなかでも必要とされるエンジニアとは、どのようなタイプなのか。

「単純にプロジェクトの進捗管理だけしているようなプロジェクトマネージャーは需要が減るでしょう。そうした業務はAIツールで置き換えが可能だからです。一方で、人とのコミュニケーションができて、仕事をきちんと前に進めることができて、利益も上げていくというのはAIでは無理なので、そういう広義の意味でのプロマネのスキルを持つエンジニアは必要とされると思います。シニアクラスでも単純に技術しかわからないような人は厳しく、GAFAMでも非常に優秀で業界内では名の知れたようなエンジニアですらレイオフの対象になっている様子です。

 逆にコンサルタントであれば、豊富に人との接点を持っていてコミュニケーション能力が高く、顧客から受注を取ってきて社内の多くの人員の仕事を確保し、顧客との関係性を維持してプロジェクトを完了まで持っていけるような営業的な仕事ができるような人は必要とされるでしょう。エンジニアもコーディングしかできませんという人は厳しく、PDM(Product Development Manager:製品開発マネージャー)と会話しながらプロジェクトを推進して利益を生み出せるところまで持っていけるようなエンジニアでないと、生き残っていくのは難しいでしょう」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中野仁/AnityA代表)

NTTデータと鹿島、シンガポールでスマートビルの実証実験を開始=関連データをKPIで分析

 NTTデータは12日、鹿島建設と提携してシンガポールでスマートビルディング運用の実証事業を開始したと発表した。鹿島が地域本社兼研究開発拠点としてシンガポールに開設した「The GEAR(ザ・ギア)」を拠点に、10以上の技術を統合、収集したビル関連データを経営指標(KPI)に基づいて分析し、運営効率と持続可能性の向上を図るという。

 NTTデータはネットワーク基盤やIoT(モノのインターネット)プラットフォーム、コンサルティングを提供して建物内の約2000個のセンサーから得られる8700件超のデータを一元管理する。業務自動化や在庫・調達の最適化、遠隔監視、利用者の快適性向上を実現する。エネルギーの監視や知的管理システムも導入して資源効率化によるコスト削減と環境配慮型運営を進める。

 ザ・ギアはシンガポール建築建設庁(BCA)が定める持続可能な不動産認証の最高位「グリーンマーク・プラチナム」の「スーパー・ロー・エナジー(SLE)」認証を取得済みで、導入されたスマートシステムはエネルギー消費削減やライフサイクル管理の高度化を通じ、認証基準の維持に寄与している。サイバーセキュリティー対策も全システムに組み込み、IoT機器やデータ保護を強化した。

 NTTデータ・シンガポールのプン・キムメン最高経営責任者(CEO)は、「現行、将来の需要に応える柔軟な環境を実現した」と強調。ザ・ギアのマネジング・ディレクターであるルーク・ウー氏も、「ビルを革新と持続可能性の『生きた実験室』に変えた」と述べた。【時事】
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/15-19:26)

情報が安心に変わる。燦ホールディングスが挑む“後悔のない葬儀”のかたち

 多くの人が、一生に数回しか経験しない葬儀。しかし、料金体系のわかりにくさや慌ただしい意思決定などが原因となり、消費者と葬儀事業者の間でトラブルが増えています。

「こうしたトラブルの根底には消費者と葬儀事業者の“情報格差”がある」と話すのは、燦ホールディングス株式会社の代表取締役社長、播島 聡氏。

 燦ホールディングスは創業90年以上の歴史があり、東証プライム市場に上場する全国展開の専業葬儀事業者です。グループ会社としては、株式会社公益社や株式会社きずなホールディングス、ライフフォワード株式会社などがあります。

 今回は、播島氏に、葬儀業界における課題とその原因、燦ホールディングス株式会社が終活の啓蒙に尽力する理由などをお聞きしました。

 本当に納得できる「人生の終わり方」のために、私たちはどのように向き合えばよいのでしょうか。その答えに迫ります。

消費者と葬儀事業者の“情報格差”はなぜ起こる?


——現在、葬儀業界で起こっている問題があれば教えてください。

 現在、独立行政法人・国民生活センターへの葬儀に関する相談が増加しています。相談件数は、2024年には978件にも上っています。

 最近目に付く事例は「提示されている金額よりも高額になった」「希望していないオプションをつけられた」などの、料金に対する相談です。CMなどにより家族葬は比較的金額が抑えられるというイメージが定着しつつあり、提供されるサービス内容についてよく判らないまま、広告で表示されている料金だけで依頼する葬儀事業者を決めてしまうことで、葬儀後に金額や内容に疑問や不満が出てくるというケースが多いようです。

 この問題に対して、私は「葬儀事業者が持っている情報」と「お客様が持っている情報」に格差があることが原因だと考えています。

——葬儀事業者と消費者の間に情報格差が発生してしまう原因はどこにあるのでしょうか?

 私は、おもに

●葬儀は日常使いするサービスでないということと、比較検討する十分な時間や判断基準がない中で、提供されるサービス内容や料金について短時間で判断・決定しなければならないということ

●葬儀業界への新規参入ハードルの低さ

●料金体系のわかりにくさ

 この3つだと思っています。

 葬儀などのエンディングに関するサービスを利用する機会は、どんな方でも一生に数回程度です。そもそも日常使いするサービスではないため、お客様の多くは、依頼する事業者を選定する判断基準を持っておられないのではないでしょうか。 

 さらに、葬儀を執り行うまでに時間がなく、慌ただしく物事を決めなければなりません。情報に接する頻度が少ない上に、情報を精査する時間もないのです。

 また、葬儀事業そのものは許認可制ではないため、事業者にとって参入ハードルが低い業界です。

 事業者ごとに葬儀に対する知識や考え方が違うため、提供するサービスや価格のばらつきが大きく、同じサービスでも金額の桁が違う場合もあります。

 お客様から見た際、事業者ごとの知識量や考え方の差が見えづらいことで、安心して葬儀を任せられる事業者なのかが判断できないのです。

 サービス内容や価格体系がそもそも不透明な業界であった、ということも、お客様がエンディングサービスに関する正確な情報を得づらかった原因のひとつです。

 以前は人生のエンディングに関して、価格の話をしたり聞いたりすることをはばかる方が多く、葬儀業界からも積極的に情報発信がされてこなかったという歴史があります。

 燦ホールディングスのグループ中核葬儀会社の公益社では、公益社としての創業当初から価格を明確に打ち出す取り組みを行ってきたのですが、数十年前は「なぜ料金をオープンに見せるんだ!」など、むしろ同業者からのクレームが多かったですね。

 葬儀などは、終わってしまうとやり直しができません。エンディングサービスに対する情報を得られないことは、お客様の後悔につながってしまう可能性があります。

——価格に対しては、ネット広告やテレビCMなどで低価格を明確に打ち出す事業者も増えている印象です。

 テレビCMなどでプロモーションを行っていた多くの事業者は、お客様に葬儀事業者を紹介する仲介事業者ですが、彼らのマスメディアを使った広告宣伝の効果もあって、「安い葬儀」=「家族葬」というイメージが消費者に定着したと言っても良いかと思います。

 お客様が安くてよいサービスを求めることは自然なことですし、決して悪いことではありません。

 問題は、広告宣伝で表示している価格や提示された見積金額と、結果的に支払う金額が大きく乖離(かいり)して、お客様に不信感が残ってしまうなど、消費者センターへの相談につながってしまうようなサービス提供を行っている事業者も一部存在していることですね。

終活とは、生きているうちに自分の今後に答えを出すこと


——消費者が抱える「情報がないことへの不安」という課題に対して、燦ホールディングスが寄与できるポイントを教えてください。

 情報を積極的に開示することで「安心感」を抱いていただける、という部分ですね。

 未上場の事業者が多い葬儀業界において、上場している事業者であるということは、コンプライアスやガバナンスの面からもお客様に安心感を与えられる要素であると感じますし、当たり前のことではありますが、創業当時から一貫して続けている料金体系の開示も、お客様の不安を払拭できる大きなポイントです。

 サービスについての価格や金額を明確にするだけでなく、しっかりと説明を行い、お客様の事情やご希望に対応し、必要な部分、不必要な部分などもお伝えすることが大切だと考えています。

 また今、燦ホールディングスが進めている終活の啓蒙やライフエンディングサポート事業は、葬儀などの局所的な部分のみではなく、「人生を送ること」における安心感をお客様に抱いていただけるポイントであり、他社と大きく差別化できる部分です。

——終活の啓蒙とは、どのようなことを行っているのでしょうか?

 「自分でしっかりと考えられる元気な時期に、自分の今後についての答えを出しておく」ということを啓蒙しています。

 多くの方は、「自分に何かあったときに子どもや家族に負担をかけたくない」と考えている一方、終活に向けて動き出すタイミングがわからず、行動できていない状態です。実際、終活という言葉をよく聞くようになったものの、具体的に終活を進めている方が劇的に増加しているという印象はありません。

 しかし、頭で考えているだけでは、周囲に自分の今後どうしてほしいかを示すことができず、結果、いざというときに周囲に負担をかけてしまうことになるのです。

 我々は相続や葬儀、お墓に関することなど、これまではお客様自ら、ぞれぞれの事業者や専門家にアプローチしなければ必要とする情報が得られなかったのですが、私たちはワンストップでサポートする体制を整えています。このような仕組みで動いている葬儀事業者は、現状ではあまり耳にしません。

 もちろん、「葬儀やお墓に関することはまだイメージしづらい」とおっしゃる方もいます。そういった方に対しては、例えば、家にあるものの整理や、家族と何気なく話しておいたほうがよい事柄などについて事前相談会などでお話しさせていただいています。

葬儀業界を内側から変えることが消費者の安心につながる


——今後、葬儀業界はどう変化していくと考えていますか?

 葬儀というもの自体がなくなることはありません。

 新型コロナ感染症流行以降、葬儀の小規模化が進み家族葬がメインになったという変化があった一方、人とのつながりの大切さも改めて認識されていると感じます。人生のイベントとして、葬儀やそれに向けた終活などがより大事になってくるのではないかと思います。

 業界として目に見えるような大きな変化はなく、しばらく今のような状態が続いていくと考えていますが、葬儀業界が自ら変革していかなければいけない部分はあると感じますね。

——具体的にはどのような部分でしょうか?

 現在、多くの業界でAIなどテクノロジーの力での省力化が進んでいます。しかし、葬儀事業は、人が対面でお客様と接して信頼関係を構築することが非常に重要な事業です。私は、葬儀事業に従事する方々は、エッセンシャルワーカーであると認識しています。

 お客様との信頼関係を構築すると同時に、生産性も上げながらしっかりと利益を出し、働く方々の環境をいかに整えていくか、という部分は、より重視していかなければなりません。生産年齢人口が減少するなか、人の確保が重要な葬儀業界においては、どれだけ「この業界で働きたい」と考えてくれる方を増やしていけるかが今後取り組むべき大きなトピックになります。

 働く環境を整備し、従業員のエンゲージメントを高く保つことは、結果的にお客様のエンゲージメントを高めることにもつながります。

 お客様の人生に向き合う前に、まず自分の人生に向き合い、「自分はどう生きていきたいか」「自分は何を大切にしたいか」を考え実践することが大切で、従業員のエンゲージメントを高め「より良く生きる従業員」を育成していくことは、お客様にとっての「より良い人生の伴走者、パートナー」を育成することにもなるものと考えています。

 従業員に対しての人的資本投資や利益の還元、お客様との信頼関係構築や認知獲得のためのマーケティングなど、燦ホールディングスは、規模のメリットをしっかりと享受してグループ会社との連携を図り、従業員にもお客様にも多くのものを還元していける企業になっていければと思います。

 誰しもが避けられない「そのとき」に備えることは、遺される人のためであると同時に、自分自身の人生と向き合うことでもあります。

 葬儀はやり直しのきかない、関わる人すべてにとって大切な人生の節目でありイベントです。後悔しないためには、正しい情報にアクセスできる環境や余裕、信頼できるパートナーの存在が不可欠です。

「情報格差」を埋め、人生の終わりに“安心”を届ける燦ホールディングス株式会社の取り組みは、今後の葬儀業界にとってひとつの道標となるかもしれません。

※本稿はPR記事です

亀田製菓、実は海外事業比率40%の「グローバル企業」の素顔…北米の売上745億円への戦略

●この記事のポイント
・亀田製菓、2030年代前半に北米事業の売上高を745億円まで成長させる戦略を描く
・北米で取り組んできた構造変革による営業赤字の減少が奏功し、海外事業として初めての黒字化を達成
・北米でのグルテンフリー市場の深耕、アジアでのOEMビジネスおよび内販拡大、国を超えたクロスボーダー取引の3本柱

「亀田の柿の種」「ハッピーターン」「ソフトサラダ」などで知られる大手製菓メーカー・亀田製菓の業績が伸びている。2026年3月期の連結純利益は前期比4.5倍の242億円となる見通しだが、実は売上高における海外事業比率が約40%(米THフーズ連結子会社化後)に上るグローバル企業という顔を持つ。ベトナム・タイ・中国などアジア市場に加え、2030年代前半に北米事業の売上高を745億円と、25年3月期の約10倍にまで成長させる戦略を描くなど、海外事業の強化に注力している。そんな亀田製菓の海外進出加速の舞台裏に迫る。

●目次

各国のお客様の嗜好に合わせた商品開発

 まず、近年の海外事業の状況について、亀田製菓 執行役員 海外事業部長 堀部宏幸氏は次のように説明する。

「24年度の海外事業の実績は売上高172億3900万円(前年比114.2%)、営業利益1億3500万円で着地しました(海外事業の業績推移は以下をご参照ください)。好調なアジア事業での売上と営業利益の拡大、北米で取り組んできた構造変革による営業赤字の減少が奏功し、海外事業として初めての黒字化を達成しました。国別では、アジアのベトナム・タイが特に好調に推移しています。ベトナムは主力商品『ICHi』の販売強化、タイは輸出拡大が好実績につながりました。

年度  売上高    営業利益
2020  7,597   -376
2021  9,183   -278
2022  13,751   -589
2023  15,096   -413
2024  17,239     135
(単位:百万円)」

 海外事業の成長のために、具体的にどのような取り組みを展開してきたのか。

「海外事業は、北米でのグルテンフリー市場の深耕、アジアでのOEMビジネスおよび内販拡大、国を超えたクロスボーダー取引の3本柱で事業拡大を目指しています。北米事業においては、先日THフーズ社の連結化に向けて動き出すことを決定いたしました。これにより、亀田製菓の売上高における海外事業比率は約40%になります。現在は日本のうす焼の技術をいかしたライスクラッカーを販売していますが、亀田製菓が創業以来培ってきた米菓の加工技術を活かしてラインナップ強化を行い、北米のライスクラッカー市場のさらなる深耕を図ります。

 アジア事業においては、ベトナムと中国で内販強化を行っています。日本のグローバル技術開発部、マーケティング戦略本部とも連携し、各国のお客様の嗜好に合わせた商品開発を行っています」

OEMで稼いだ利益をブランド事業に投資する好循環

 現在、特にベトナム市場に力を入れているという。

「ベトナムのTHIEN HA KAMEDA,JSC.が非常に好調に推移しています。これまで自国で生産した商品を国内で販売する内販が中心でしたが、ベトナムで生産した商品をアメリカほかに輸出するクロスボーダー取引もスタートさせています。ベトナムでは日本の『揚一番』のような揚げせんべい『ICHi』を主力商品として展開しており、国内の3工場で生産しています。24年7月には『ICHi』のリブランディングを行い、より若い世代の方にも親しみをもっていただけるパッケージに変更、加えて、味替え商品も発売しており、ブランド拡張を図っています。これにより8月は前年比で10%近く売上伸長いたしました」

 今後の海外事業伸長に向けた戦略・計画については次のように説明する。

「現中期経営計画で定めているようにブランド事業とOEM事業の両輪で拡大、OEMで稼いだ利益をブランド事業に投資する好循環を実現し、事業拡大を続けていきます。 亀田製菓のコアコンピタンスである『お米の加工技術』と『各国の生活者の嗜好に合わせたローカライズ』により、唯一無二の価値を提供することで2026年の中計目標(売上高180億円、営業利益率3.0%以上)の結果を狙っていきます」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

聞こえにくくても誰もが平等に「電話」を使える社会へ。相手の声が読める電話「ヨメテル」 で変わる未来

mc01
お話を伺ったのは、総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報活用支援室 課長補佐の輿石美和氏(写真中央右)、日本財団電話リレーサービス広報チームディレクター上村麻子氏(写真右)、日本財団電話リレーサービス文字表示電話チームディレクター西川賢氏(写真中央左)。聞き手は電通 野村朗子氏(写真左)。

電通は国内電通グループ8社と共同で、“誰一人取り残されない”コミュニケーションの実現を目指す「みんなのコミュニケーションデザインガイド」を制作し、2025年1月28日より一般公開をしています。

本連載では、みんコミュ事務局のメンバーが、コミュニケーションにおける多様性やインクルージョンの貢献に寄与する事例を紹介しながら、その社会的意義を深掘りします。

今回取り上げるのは、電話で相手先の声が聞こえにくいことがある人へのサービスとしてスタートした相手の声が読める電話「ヨメテル」です。なぜ通話相手の声を文字にするアプリを開発するに至ったのか――。その経緯や社会的背景をひもとくと、聞こえにくいなどの理由によって電話でのコミュニケーションが難しい約1430万人(※1)の存在が浮き彫りになりました。

多様な“みんな”を知り、誰もが当たり前にコミュニケーションを享受できる社会のために必要なこととは?

※1厚生労働省によると、難聴患者数は全国で約1430万人(国民全体の約10%)いるといわれている。  

 

電話リレーサービスは、国民の生活に欠かせない公共インフラの一つ


野村:2025年1月23日から、相手の声が読める電話「ヨメテル」 の提供がスタートしました。まずはヨメテルのサービスについて簡単にご紹介をお願いします。

上村:ヨメテルは、難聴者や中途失聴者など電話で相手先の声が聞こえにくいことがある人へのサービスとして、通話相手の声を文字にする電話アプリです。24時間、365日、双方向で利用ができるのも特徴です。通話相手の声を文字にすることで、電話でのコミュニケーションをスムーズにする、法律に基づいた公共インフラの一つとなっています。

mc02
ヨメテルは、電話で相手先の声が聞こえにくいことがある人へのサービスとして、自身の声で通話相手に伝え、通話相手の声を文字で読むことができる電話アプリです。

野村:法律に基づいてサービスが提供されているということですが、このヨメテルのサービスの提供にいたった社会的背景を教えてください。

輿石:ではまず電話リレーサービスについてお話しさせてください。そもそも電話は、遠くにいる相手とリアルタイムで意思疎通ができる基礎的なコミュニケーション手段で、とくに緊急時や災害時に重要な役割を担っています。しかし、音声でのやりとりをする電話の特性上、聴覚や発話に困難のある人が利用することが難しく、緊急時に自身で電話ができないというのは、命にかかわる大きな問題でした。

mc03
こうしたさまざまな課題を解決するために海外などで運用されていたのが電話リレーサービスです。これは電話の利用が困難な人に対し、通訳オペレータを介し、手話や文字などを使って電話が利用できるサービスです。

日本では、2013年9月より日本財団がモデルプロジェクトとしてサービスの提供を開始し、聴覚や発話に困難がある人と聞こえる人との会話を通訳オペレータが手話や文字と音声で通訳することで双方向なコミュニケーションを実現してきました。

その後、日本財団でのモデルプロジェクトとしてのサービス提供が2020年度に終了するということもあり、デジタル活用共生社会実現会議の電話リレーサービスワーキンググループなどで議論を行い、総務省で制度整備について検討を行いました。そして2020年6月に「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」が可決成立。電話リレーサービスが制度化(※2)され、2021年度から公共インフラとしてのサービス提供が始まったのです。

野村:なるほど。電話リレーサービスを誰もがいつでも使えるように 制度化し、公共インフラとして整備されたという経緯があったのですね。

※2 法律に基づき、総務大臣が全国で1者指定する電話リレーサービス提供機関として(一財)日本財団電話リレーサービスが指定され、サービスの提供や啓発活動などを行っている。

 

抱える課題やニーズは人それぞれ。まずは多様な「みんな」を知ることから

野村:ではヨメテルのサービスはどのような課題がきっかけで、アプリの開発やサービス提供に至ったのでしょうか?

西川:先に提供を開始していた電話リレーサービスは、聴覚や発話に困難がある人と聞こえる人との会話を通訳オペレータが手話や文字と音声で通訳するサービスです。厚生労働省の調査によると、現在日本においては聴覚・言語障害者(障害者手帳保持者)は約37万9000人(※3)います。 その中で、手話を使う人は約8万人弱いるといわれています。 この電話リレーサービスは 手話を使う人が利用できるサービスです。

ただ、自己申告による難聴者率は、日本の人口の約10%(※4)いるといわれています。


※3 厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」
※4 日本補聴器工業会の調査「JapanTrack 2022」
 

cm04
上村:中途失聴者の場合は、失聴するまでは音声によるコミュニケーションを活用していたため、自分の声を使いたいと思っている人が多くいらっしゃいます。しかし相手の声は聞こえない、もしくは聞こえにくいため電話を使うのが困難という状況がありました。

電話リレーサービスは、手話や文字を使って電話をするサービスのため、自分の声で何かを伝えることができません。そのため、自分の声を使いながら、相手の声を補完してくれるサービスが欲しいというニーズが以前からありました。

野村:海外ではすでにそういったサービスは展開されていたのでしょうか?

上村:海外でも同様のニーズがあり、アメリカなどではCaptioned Telephone Service(以下、CTS)という字幕付き電話サービスがあります。そのため、日本でもCTSのようなサービスを求める声が多くあり、「ヨメテル」の開発がスタートしました。

輿石:これまで限られた人しか利用できなかった電話リレーサービスでしたが、ヨメテルの登場により選択肢が増えました。 

野村:みんコミュガイドでも、障害のある人の中には多様なニーズの受け手がいることをお伝えしています。ヨメテルはそういった多様なニーズに応えるサービスの一つとなっているのですね。

また、「自己申告による難聴者率は日本の人口の約10%」というデータもみんコミュガイドに掲載していますが、私たちが思っている以上に聞こえない、聞こえにくいといった悩みを抱える人は多いのですね。

上村:おっしゃる通りです。聴覚障害といっても一くくりにはできず、それぞれに抱える悩みやニーズは違うということは多くの人に知ってほしい事実です。

cm05

聴力の低下が気になる人にも!ヨメテルの利用がQOL向上の一助に

野村:ヨメテルのアプリ開発や運用にあたって意識したことはありますでしょうか? 

上村:先ほど輿石さんがおっしゃったように、電話は遠隔にいる人とコミュニケーションを図る基礎的なツールです。その理念をきちんとヨメテルのアプリに反映させ、iPhoneやAndroidのOSに入っている電話機能と使用感のギャップを作らないようにシンプルな使い心地を意識して開発しました。

cm07
※イメージ

西川:昨夏に試験運用を実施して、多くの人にご意見をいただきながら使いやすさを追求してきました。特に相手の声が文字になる速度や見やすさ、ほかに発信や着信などは、当事者のご意見を反映させ、議論して作り上げていった部分でもあります。

また、相手の声を文字にする方法は、AI(自動音声認識)と文字入力オペレータ を選べるようになっており、よりスピードを重視してリアルな通話感を求める場合はAI(自動音声認識)、精度の高さを求める場合は文字入力オペレータと使い分けることも可能です。

cm08
実際の通話画面。このように通話相手の声が文字で表示される。

上村:人によっては普段生活をする上ではそこまで不便は感じないけれど、電話の機械音が聞こえにくいといった人もいます。そういった人は、ヨメテルを利用して、聞こえにくかった場所のみ文字を確認するといったこともできます。

野村:年齢を重ねるうちに聞こえづらくなる加齢性難聴の人や突発性難聴、また女性に多いとされるメニエール病で聴力の低下が気になる人などにも利用してほしいですね。実際にサービスが開始されてまだ日は浅いですが、普及率などはいかがでしょうか?

西川:登録者を見ると、現在はこのサービスを前々から待ち望んでいた人々が登録をして利用している状況です。しかし先ほどのデータでもあった通り、日本の人口の約10%が難聴者ということを考えると、10人に1人はヨメテルの利用対象者となり得るわけです。そう考えると、潜在的な対象者はまだまだ多く、その人たちにヨメテルの情報が届いていないという課題を感じています。
この辺りは、登録方法の見直しや説明会、講習会の実施などを行いながら、引き続き普及啓発を行っていきたいと思います。

mc09

 

誰にでも平等に情報が届く社会へ。総務省が取り組む情報アクセシビリティの配慮とは?

野村:総務省は経済や社会活動など国民の生活基盤に関わる行政機能を担っている省であり、情報通信に関する整備なども担当されているかと思います。インターネットの普及によって社会の在り方も大きく変化している今、力を入れていくべきことや課題意識を感じていることなどはありますか?

mc10

輿石:誰もがスマホやPC、タブレットなどさまざまな端末でインターネットに接続でき、多くの情報に触れることができる今、情報アクセシビリティの確保はとても重要です。情報アクセシビリティとは、年齢や障害の有無にかかわらず、誰でも必要な情報に簡単にたどり着くことができ、利用できることを指します。

わかりやすいところで言うと、UDフォントのように読みやすいフォントが使用されているか、一文が長すぎてわかりにくい文章になっていないか、難しい漢字にはルビがふられているか、色弱者や高齢者などに配慮した色彩が使われているか……など、意識すべき点はたくさんあります。ですが、意外と情報を伝える側のちょっとした心がけで解決できる部分も多くあると感じています。

野村:「みんコミュガイド」でも、ジェンダー、年齢、障害といった多様なニーズのある受け手がいることを前提に、必要な配慮や参考となる事例などを紹介しています。

■印刷

mc11

行や文字間隔を調整し、読みやすい情報量にしたり、読みやすいフォントを使ったりすることで、必要な人に正しい情報を伝えやすくなります。

■動画コンテンツ・CM

mc12
動画コンテンツやCMにおいては、配色やフォントなどの調整で視認性を上げたり、字幕を付けたりするなど、見えにくさや聞こえにくさをサポートする工夫も重要です。

輿石:こういったガイドがあるとわかりやすいですよね。

総務省ではウェブサイトのアクセシビリティに関しても「みんなの公共サイト運用ガイドライン」を公開しています。国および地方公共団体など公的機関のホームページなどでは、国民にとって重要な情報を多く発信しています。そのため高齢者や障害者を含む誰もが利用しやすいものとなるように、ウェブアクセシビリティに関する規格や手順を示し、ウェブアクセシビリティの向上を呼び掛けています。

野村:インターネットでさまざまな情報を取得できる今、ウェブアクセシビリティの向上は公的機関だけでなく、多くの企業でも意識すべき重要課題ですね。

輿石:そうですね。情報取得者の中には、視覚に障害のある方、ディスレクシア(読み書きに困難がある学習障害)の方、外国の方などさまざまな特性の人がいることも配慮する必要があります。

情報を伝えたい人たちの中にどんな人たちがいるのかをまずは想像し、文字の大きさ、動画の遷移の仕方、音声の出るタイミングなど、「みんなの公共サイト運用ガイドライン」を参考にして整備していただけたらと思います。

ウェブアクセシビリティの向上を多くの企業や団体が実践していくことで、誰もが不自由なく情報を取得でき、やがて誰一人取り残されないコミュニケーションの実現につながると感じています。

野村:また世の中が便利になった一方で、偽・誤情報、闇バイト、オンラインカジノなど、インターネットにまつわるさまざまな問題が発生しています。総務省で取り組まれている対策などあれば教えてください。

輿石:2025年1月から総務省の情報活用支援室では、「DIGITAL POSITIVE ACTION」という取り組みを始めています。フェイク情報にだまされたり、拡散させたりすることのないよう、国民一人ひとりが情報リテラシーを高めていく必要があります。

誰もが簡単にインターネットにアクセスできる時代だからこそ、情報アクセシビリティや情報リテラシーについて、一人ひとりが理解を深め、実践していくことが、インクルーシブな社会をつくる第一歩だと考えています。

野村:今回のお話を聞いて、コミュニケーションを取る相手の特性やニーズを想像することの必要性をあらためて強く感じました。情報アクセシビリティの配慮や情報リテラシーの向上など、できることから実践していけたらと思います。本日は貴重なお話ありがとうございました。

 

みんなのコミュニケーションデザインとは? 

mc13
コミュニケーションの対象には、年齢、障害の有無、ジェンダー、国籍など多様な特性やニーズのある受け手がいることを前提に、“誰一人取り残されない”みんなにとって理想的なコミュニケーションの実現を目指す考え方。「みんコミュガイド」では、多様な「みんな」を知ることと、送り手と受け手の間に介在する多岐にわたるコミュニケーションメディアを取り上げ、必要な配慮や参考となる事例などを紹介しています。

Twitter

経理業務の効率化と業務負荷低減を実現するBPaaSとは?主要サービス3選と導入のポイント

●この記事のポイント
・BPaaSが経理業務の新たなソリューションとして注目されている
・定型的な経理業務を専門家に委託しつつ、リアルタイムでのデータ管理や法令改正への対応をクラウドで実現
・代表的な経理業務向けBPaaSサービス3選とは

 企業のデジタル化が急速に進む中、経理部門も効率化と高度化の両立を迫られている。従来の経理業務は煩雑で専門性が高く、人手不足や業務負荷の増加が課題となってきた。こうした背景から、クラウド技術とアウトソーシングを融合させた「BPaaS(Business Process as a Service)」が経理業務の新たなソリューションとして注目されている。BPaaSは、定型的な経理業務を専門家に委託しつつ、リアルタイムでのデータ管理や法令改正への対応をクラウドで実現するサービスであり、企業の経理体制の改革に貢献している。本記事では、BPaaSの仕組みと特徴を整理し、主要なサービス事例を紹介する。

●目次

 BPaaSは、クラウド上で業務プロセスを提供し、ソフトウェア(SaaS)と専門家による業務代行(BPO)を組み合わせたサービス。経理分野では仕訳入力、請求書発行、支払管理、財務報告、税務申告など、専門性が高い一方で繰り返し作業の多い業務に適用される。これにより企業はノンコア業務の負担を軽減し、戦略的な業務にリソースを集中できる。

【BPaaSの主な特徴】
・クラウド活用:データを一元管理しリアルタイム更新。法改正にも自動対応
・専門家サポート:経理・税務のプロが業務を代行し高精度な処理を実現
・柔軟なコスト体系:サブスクリプションや従量課金で初期投資を抑制

 世界のBPaaS市場は急成長を遂げており、国内でも人手不足やDX推進の追い風を受けて導入が拡大している。

BPaaS導入のメリットと注意点

 BPaaSを導入することで得られる最大のメリットは、経理業務の効率化だ。クラウド技術と専門家の代行により、従来手間のかかっていた作業時間を大幅に短縮できるだけでなく、人的ミスも削減できる。また、自社で経理システムを構築したり専門人材を採用したりするコストを抑制できるため、経費面でも貢献する。さらに、クラウド上で経理データを一元管理することで、必要な情報を迅速に把握でき、経営判断のスピードアップにもつながる。

 一方で、クラウドサービスを利用するため、データの漏洩や不正アクセスなどのセキュリティリスクに十分配慮しなければならない。また、特定のBPaaSサービスに依存すると、将来的に他社サービスへの移行が難しくなるベンダーロックインの問題にも要注意だ。さらに、標準化されたサービスのため、企業独自の複雑な業務要件に対応しきれず、カスタマイズに制約が生じる場合がある点も留意する必要がある。

代表的な経理業務向けBPaaSサービス3選

 次に、国内の代表的な経理業務向けBPaaSサービスを紹介しよう。

1. freee受取請求書アシスト
 クラウド型経理アウトソーシングサービスで、AI-OCRと専門スタッフが請求書処理を効率化。紙・PDFの請求書を自動データ化し、freee会計と連携。電子帳簿保存法・インボイス制度に対応し、支払管理も自動化可能。業務負担軽減と法令遵守を実現する。
 https://www.freee.co.jp/bpaas/ac/

2. マネーフォワード おまかせ経理
 中小企業向けの経理BPOサービス。AIとクラウドを活用し、記帳、請求書発行、支払管理、給与計算などを代行。最短5営業日で月次試算表を提供し、経営の可視化を支援。専門家によるサポートで、法改正対応や業務効率化を実現し、経営者が本業に集中できる環境を構築する。
 https://biz.moneyforward.com/campaign/keiri_bpo/

3. 奉行V ERPクラウド会計
 OBCが提供するクラウド型会計システム。財務会計・管理会計を一元管理し、AIによる自動仕訳やデータ連携で経理を効率化。電子帳簿保存法・インボイス制度に対応し、法改正も自動更新。Microsoft Azure基盤で高セキュリティを実現し、中堅・上場企業のDX化を力強く支援する。
 https://www.obc.co.jp/bugyo-v

導入成功のためのポイント

 BPaaS導入の際には、自社の経理フローに合致したサービス選定、セキュリティ対策の徹底、サポート体制の確認、コスト透明性の確保が重要となる。また、今後はAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用により自動化の精度が向上し、法改正対応の負担軽減も期待される。以降もますます、国内市場では人手不足やテレワーク普及を背景に、BPaaSが経理業務改革の中核ツールとして位置付けられるだろう。

(文=齋藤めぐみ/有限会社リーゼント、ライター)

海外就労希望者の情報収集支援プラットフォームを開設=JICA・ベトナム

【ハノイ時事】国際協力機構(JICA)とベトナム内務省の海外労働管理局(DOLAB)は連携し、技能実習生や在留資格「特定技能」を活用して海外での就労を希望するベトナム人向けに、送り出す機関と就労希望者をつなぐプラットフォーム「DOLAB-JICA(ドラブ・ジャイカ)」を開設したことを明らかにした。アプリケーションを用い、仲介者(ブローカー)不要で求人情報にアクセスできるほか、関心がある情報があれば取り扱う送り出し機関と直接メッセージでのやりとりや応募ができる。

 法外な手数料を要求するブローカーを排除し、技能実習生らには日本での仕事内容や条件など正確な情報を得た上で安心して来日してもらいたい考えだ。

 2022年の日越首脳会談では両国間の人的交流について、技能実習生の失踪問題や悪質なブローカーの介在などについて両国で解決に向けて取り組む方向性が確認された。これを受けてシステムの構築が始まったという。

 送り出し機関は求人情報を掲載し、基本的に就労希望者はアカウントを登録。スマホアプリやパソコンから情報検索や閲覧ができ、希望に合う仕事を無料で探せる仕組みだ。就労場所や労働条件のほか、送り出し機関に納めるサービス料や健康診断料など出発前に必要な支払い費用も明確に確認できる。

 名前やメールアドレス、電話番号などの基本情報は、提供に合意した場合は送り出し機関側に共有され、通知される。

 送り出し機関側にとってもベトナム全域の求職者にアプローチできるという利点がある。8月中旬の時点で250機関ほどが登録しているという。JICAはベトナムの中央政府や地方省・市、関係機関と協力し、プラットフォームの周知と広報に努める方針だ。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/14-19:08)