企画することと提案すること

これはまったく架空のお話ですが。

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とある地域に、カリスマ創業社長が経営して急成長を遂げている精肉店がありました。

そこでは、和牛、国産牛、輸入牛を取り扱っているけれども店頭には「しゃぶしゃぶ用」「焼肉用」「煮込み用」といった、あらかじめスライスされた商品はありません。「大人5人でBBQ」とか「2000~3000円で肉塊がゴロゴロのカレーをつくりたい」とか、鶏でも豚でも、おおよその予算で何をしたいのかを店員さんに相談してはじめて商品を提案・カットしてもらうスタイル。正直、値段は安くないけれど、確実にファンを獲得し続け、週末には行列もできる人気店に。

そこでカリスマ創業社長は、地元の調味料メーカーと漬物(主にキムチ)メーカーを買収。「総合ミートエンターテインメント」をコンセプトに据え、東京進出を計画。コミュニケーション計画全体を広告会社に相談したところ……。

広告会社の担当者は、「総合ミートエンターテインメント」という創業社長が立てたコンセプトに基づいて、新しいロゴ、PR計画、そしてテレビ、デジタル、OOHを統合したトリプルメディアの広告企画を提案しました。

……という(しつこいですが、まったく架空の)話なのですが。ここまで聞いて皆さんは、この広告会社のお仕事をどう思いますか?

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想像するに、もしかしたらその「カリスマ創業社長」は自信満々であまり他人の話を聞くタイプではないのかもしれません。そして広告会社としても、新規取引でクライアントに怒られたくはないという心理が働くのも当然です。

しかし一方で思うのです。「最終的にどのような提案にまとめるかは置いておいて、いったんフラットに生活者とクライアント企業との関係を見ることから企画を始めませんか?」と。

ぼくがその広告会社の社員だった場合、少なくとも先の話を聞く限りでは、このお店が成功した秘訣は、店員さんに相談しないとお肉を買えない仕組みにあるように思われます。つまりそこにあるお客さまとお店のつながり(コンセプト)は「お肉のコンサルティング」的なことと推察されます。

あるいは、現地で詳細な観察をしてみた結果、(実はもっと店員さんの役割が大きな)キャストが主役の「ミート劇場」みたいなコンセプトが適当だという提案になるかもしれません。

そしてお店のコンセプトが実際のところ「お肉のコンサルティング」であるなら、PR等で伝えたいのも「こんな独自で面白い提案があるんですよ」になるでしょうし、キャストが主役の「ミート劇場」なら「こんなに面白い店員さんがいるよ」という人物紹介は欠かせません。

「『総合ミートエンターテインメント』というコンセプトを出発点にしないと、あのカリスマ創業社長に嫌われる」という思考停止は、提案の質を下げるリスクにつながってしまうのです。

言い換えると、残念ながら「総合ミートエンターテインメント」はどこにも焦点が当たっていない「コンセプトもどき」です。最終的に何か具体的な施策を挙げて「……というのが、御社の目指す『総合ミートエンターテインメント』の実践です」というふうに提案するにせよ、いったん企画段階では「お肉のコンサルティング」や「ミート劇場」といった、生活者との独自のつながりを見いだして基点にしないと、このお店の魅力を伝える独自の具体策も生まれません。

最近社内でCreative Dialogue※を重ねる中、クライアントの良きパートナーになることとクライアントに言われたことを丸呑みすることは違うんだけどなぁ……なんてことを感じる機会が何回かあり、「企画すること」と「提案すること」の違いについて考えたのでした。

※Creative Dialogue:コンセプトの“製造”や“品質管理”の方法論について考える対話の場。電通社内で300回以上実施されている。(詳しくはこちら
 

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さてさて。思い返すと、山形県尾花沢市の雪降り和牛をお手伝いしてから10年以上の月日が流れました。ありがたいことに、きょうも銀座三越、片葉三でそのおいしいお肉を買うことができます。

事例:尾花沢市の雪降り和牛 /後半 | ウェブ電通報

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そういえば、片葉三のロゴにある「CONNOISSEUR OF BEEF」とは「牛肉の目利き」という意味。まさにこの店に相談すれば、和牛の楽しみ方をいろいろと提案してもらえます。今晩も雪降り和牛の切り落としを炒めて、冷凍してあった粒山椒をパラリ。誰が調理をしても間違いなく、絶品。無限にお酒もごはんも進みます。
 
どうぞ、召し上がれ!

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山田壮夫が取り組む「Indwelling Creators」について詳しくは、ロゴをクリック。

お問い合わせ/担当:山田

書籍「コンセプトのつくり方」

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「A3サイズに畳めるベビーカー」誕生の舞台裏…コンビが描く次世代の子育て支援

●この記事のポイント
・A3サイズに折り畳める新型ベビーカー「auto N second BQ」が話題に。都市部の子育て世代に向けた革新設計。
・開発元コンビは「狭い玄関や車内でも置きやすい」ニーズに応え、安全性とコンパクトさを両立させたと強調。
・小型化を実現する構造設計の工夫や素材選びに注力。国内外市場への展開やシリーズ化への期待も高まっている。

 育児用品メーカー大手のコンビ株式会社が9月(上旬)に発売した新商品「auto N second BQ(オートエヌ セカンド ビーキュー)」が、発売前からSNSを中心に話題を呼んでいる。最大の特徴は、折りたたむと床設置面積がA3サイズになるという驚異のコンパクトさだ。

 子育て世代にとって、ベビーカーは生活を支える必需品である一方、収納場所や持ち運びの負担が課題となってきた。その制約を打ち破る新製品は、どのような発想から生まれたのか。開発・販売元であるコンビの開発担当者に話を聞いた。

●目次

セカンドベビーカー市場に見えたニーズ

 今回登場した「auto N second BQ」は、生後6〜7カ月頃から使える、いわゆる「セカンドベビーカー」と呼ばれるカテゴリーに属する。生後1カ月頃から使えるフルフラットの「ファーストベビーカー」に続く、2台目として選ばれるケースが多い。

「1才以降などお子様が一人で立って歩けるようになると、ご家庭ではより軽量で持ち運びやすいベビーカーが求められる傾向があります。玄関や車のトランクに置いたときに場所を取らず、かつ片手で操作できるような製品があれば、育児の負担を大きく減らせると考えました」(開発担当者)

 つまり、メインの大型ベビーカーに加えて、日常の移動や旅行でストレスを減らす“セカンドベビーカー”としてのニーズに狙いを定めたのだ。

開発の着眼点:「片手開閉」と「A3サイズ収納」

 開発の出発点は、利用シーンに直結するユーザー体験だった。小さな子どもと手をつなぎながらベビーカーを操作する場面は多く、片手で開閉できることは必須条件とされた。さらに、近年高まる都市部の居住スペース問題がもう一つの着眼点となった。

「マンションの玄関や車内スペースを広く使いたいという声は非常に多く聞かれました。そこで、片手開閉に加えて、床設置面積がA3サイズ以下に畳めるほどのコンパクトさを実現することを目指しました」

 この二つの条件を両立することは容易ではなかったが、同社は数年にわたる試行錯誤を重ねた。結果、片手でボタンを押すだけで自動的に折りたためる“オートクローズ機構”を搭載し、業界でも画期的なモデルを完成させた。

技術的な挑戦──安全性と軽量化の両立

 ベビーカーに求められるのは「小ささ」だけではない。むしろ安全性・安定性・耐久性が最も重視される。

「安全基準に適合することは大前提です。その上で、折りたたんだ時に勢いでベビーカーが倒れることがないようにスタンド機能を付けるなど、細部に工夫を凝らしました」

 また、軽量化の追求も欠かせなかった。担当者自身が一児の母であり、実体験から「片手で子どもと手をつなぎながら操作できる軽さ」を徹底的に意識したという。結果として、4歳まで使用できる剛性を確保しながらも、床設置面積がA3サイズに収まる軽量設計を実現した。

 では、このベビーカーは具体的にどのような場面で力を発揮するのか。

・都市部のマンション:狭い玄関や収納スペースに置いても邪魔にならない
・共交通機関での移動:電車やバスに乗る際、足元に置けるサイズ感
・自動車での帰省・旅行:チャイルドシートと荷物に加え、トランクや座席足元に収まる利便性

 特に「特急や新幹線での帰省シーン」は開発者自身の経験から強く意識されたという。

「従来型ではベビーカーの置き場に困り、予約が必要な場合もありました。床設置面積がA3サイズ以下なら足元に収まるので、移動時のストレスを大幅に減らせます」

店頭での「一番の質問」を解決

 ベビーカーを初めて購入する家庭にとって、最も大きなハードルは「操作の複雑さ」だ。

「お客様からよくいただく質問が『どうやって畳むんですか?』なんです。スマートフォンのように使い方が事前にわかるものではなく、子育てを機に初めて手に触れる製品だからこそ、操作方法に戸惑うものです」

 その課題を解決するのが、今回のオートクローズ機能だ。片手でボタンを押すと自動で折りたたまれ、余計な操作は不要。

「また、セカンドベビーカーはすでに、ベビーカーを使用した経験のある方が、その体験を踏まえて追加購入を検討されるケースが多い製品です。そこで、ベルトや収納カゴが開閉時に引っかからないように設計するなど、細部に至るまで機能を磨き上げ、快適にご使用いただけるようにこだわりました」

 従来、セカンドベビーカーの多くは3歳頃までの使用を想定していた。

 しかし「もっと長く使いたい」という声は年々強まっている。今回のモデルでは剛性を高め、4歳まで使えるロングユース仕様を実現した。

「お子様の成長に寄り添い、長く安心して使えることは大きな付加価値です。買い替えコストの軽減にもつながるため、ユーザーにとってメリットは大きいと思います」

市場の反応と今後の展開

 SNSで発表された瞬間から反響は予想を上回るものだった。

「今回、『できないこと、なくなれ』というメッセージを掲げてオートクローズ機能を中心に発信したところ、これまでの新製品発表時と比べても、桁違いのリアクションをいただきました」

 9月上旬から各店舗に順次並んでいる。社内目標としては「セカンドベビーカー市場で過去最大の販売数」を目標に掲げており、発売後の販売も好調だという。

 さらに、今後の展望についても前向きだ。

「今回のセカンドと同時に、ファーストモデルでもオートクローズ機構を導入しました。ユーザーの“もう一つの手”となる存在として、製品群を広げていきたいと考えています」

 ベビーカーの小型化は単なる利便性の追求にとどまらない。都市部の住宅事情や共働き家庭の増加、公共交通の利用環境といった社会背景に直結している。

 企業にとっても、“ユーザーの日常の小さな不満”を丁寧に拾い上げ、それを技術とデザインで解決することが次の市場を切り拓くことを示している。

 今回の開発には、ユーザーの実体験に基づく視点、徹底した安全性検証、直感的な操作性の追求があった。これは、あらゆる消費財の開発に通じる学びである。

 つまり、「ユーザーの困りごとを言語化し、そこから逆算して技術を組み合わせる」──その積み重ねこそが、生活を変えるヒット商品を生み出す鍵となるのだ。

「A3サイズに畳める」という一見シンプルな特徴の裏には、生活者の声に耳を傾け続けたメーカーの執念があった。ベビーカーは単なる移動手段ではなく、育児における親の自由度を左右する重要な存在だ。その一台が、都市部の狭い玄関や新幹線の足元にすっきり収まり、子育て世代の行動範囲を広げていく。

 今回の「auto N second BQ」は、単なる新製品ではなく、“小さな不便を解消することで、大きな生活の変化を生む”というものづくりの本質を体現しているといえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

茨城空港は首都圏第三の国際空港になれる?インバウンド6000万人時代に向けて

●この記事のポイント
・羽田・成田空港はインバウンド急増で容量不足の懸念があり、茨城空港が「第3の国際空港」として注目されている。
・しかし茨城空港は規模が小さく、成田の不足分を担うには限界があり、受け皿としては地方空港の役割も重要となる。
・空港戦略は容量拡大だけでなく、オーバーツーリズム対策や地方分散を含めた観光政策と一体で進める必要がある。

 東京の空の玄関口である羽田空港と成田空港。日本の空の需要を支える両空港は、急増するインバウンド需要に対応し、すでにキャパシティの限界が迫っているとささやかれている。こうした状況のなか、「首都圏第3の国際空港」として、茨城空港の活用が浮上している。

 本当に茨城空港は、将来の日本の空の需要を支える「第三の選択肢」となり得るのだろうか。航空経営研究所主席研究員の橋本安男氏への取材に基づき、首都圏の空港が抱える現状と、茨城空港の将来的な可能性、そして日本全体の空港戦略について考察していく。

●目次

羽田・成田の現状と将来的な課題

 まず、首都圏の空の現状を見ていこう。

 羽田空港は年間発着回数50万回と国内線を中心にほぼ上限まで活用されており、これ以上の余裕はほとんどない 。一方、成田空港は年間発着回数30万回(2025年10月以降は34万回)のキャパシティに対し、2024年度の実績は25.5万回で、まだ余裕がある状態だ 。この余裕は、旅客数に換算すると約1,500万人分に相当する 。

 しかし、政府が掲げる「2030年にインバウンド6,000万人」という高い目標を達成するためには、成田空港のさらなるキャパシティ拡大が不可欠だ 。成田空港では現在、B滑走路の延長とC滑走路の新設工事が本格的に進められており、2029年3月の供用開始をめざしている 。これが実現すれば、年間発着回数は50万回に達するため、当面は問題なく運営できると見込まれている 。

 ただし、この拡張計画には不確定要素も存在する。用地買収が全体の2割弱残されており、交渉が難航すれば供用開始が2030年以降にずれ込む可能性も十分に考えられる 。もし工事が遅れた場合、インバウンド需要が急増すれば、一時的に成田空港のキャパシティが不足する事態も起こり得るのだ 。

茨城空港は「第三の国際空港」になれるのか

 このような状況のなか、将来の容量不足に備えるため、茨城空港の活用が議論されている 。

 茨城県は、茨城空港を「首都圏の第3の国際空港」とブランディング戦略の一環としてアピールしている 。このキャッチフレーズに偽りはないが、その実態を知ると、成田空港の容量不足を補う主要な「解決策」にはなり得ないことがわかる 。

 茨城空港は、自衛隊の百里飛行場と滑走路を共有する「共用空港」として、2010年に開港した 。開港当初は自衛隊により「離陸は1時間に1回」などの運航制限が課せられていたが、現在は解除されている 。

 最も大きな課題は、その規模だ。茨城空港は、当初の想定利用者数81万人、国内線は小型機(リージョナルジェット)の使用を前提に設計された 。そのため、2024年度の利用者数が78万人になった現在でも、すでにターミナル内は混雑し、空港としてのキャパシティは限界に達している 。

 2024年度の国内空港における国際線年間旅客数ランキングを見ると、成田・羽田の両空港だけで日本の国際線旅客全体の5割以上を占めている 。茨城空港は国際線旅客数で約7万人弱と、成田のわずか0.2%に過ぎない 。この数字からもわかるように、茨城空港は現状、他の主要な国際空港とは規模感がまったく異なるのだ 。

茨城県が描く将来ビジョンと現実

 茨城県は、空港の現状を打開するため、2024年に「茨城空港のあり方検討会」を立ち上げ、2025年7月には「茨城空港将来ビジョン~首都圏第3の空港を目指して~」を発表した 。

 このビジョンでは、茨城空港の役割として、以下の3つを掲げている 。

 役割1: 茨城県や近隣県の観光・ビジネスの拠点となる空港
 役割2: 羽田・成田とともに、首都圏第3の空港として、日本の国際・国内航空需要に対応する空港
 役割3: 大規模災害時の災害対応拠点となる空港
ビジョンでは、ターミナルビルや駐機場の拡張、誘導路の増設など、大規模な改修による空港容量の拡大が計画されている 。これにより、国際線の旅客数を2030年代に50万人、2040年代には60万人まで増やすことを中期・長期目標としている 。

 これは、茨城空港にとっては大きな目標であり、実現すれば大きな成長となる。しかし、もし成田空港の工事が遅れ、年間2万回分の便が溢れた場合、旅客数にして約350万人分が受け入れ先を必要とする 。茨城空港が将来的な目標を達成したとしても、受け入れられるのは国際線で50万〜60万人程度だ 。残りの大半は、他の地方空港に分散して対応せざるを得ない 。

 茨城空港は「首都圏第3の国際空港」と名乗っているが、国全体で見た場合、その規模感は小さく、成田空港の容量不足をすべて賄うのは現実的ではない 。

 では、溢れた需要はどこへ向かうのだろうか。

 国内の国際線旅客数ランキングを見ると、成田・関西・東京国際(羽田)に次いで、福岡、中部、新千歳、那覇空港などの基幹空港が300万~900万人の国際旅客を扱っている。溢れた需要の一部は、首都圏を離れた入国とはなるが、これら基幹空港に向かうであろう。

 また、首都圏に比較的近い地方空港として、仙台空港は国際線旅客数が50万人程度、静岡空港も20万人程度と、茨城空港よりも多い実績があり、首都圏の需要の受け皿となる可能性を秘めている 。これらの空港は、首都圏からのアクセスも比較的良好で、今後、需要の受け皿として機能していくことが期待される 。もちろん、各空港がさらに発着数を増やすには、誘導路の増設などそれなりの改修が必要となり、時間も費用もかかるが、これらが現実的な選択肢となるだろう。

オーバーツーリズムと日本の観光戦略

 もう一つ、忘れてはならないのが、観光客の増加に伴うオーバーツーリズムの問題だ。

 観光庁自身も、一部の地域でオーバーツーリズムが深刻化していることを認識しており、この問題に対する委員会を立ち上げるなど、対策を講じ始めている。もしインバウンド需要が目標通りに増加しても、それを運ぶ交通インフラや宿泊施設が追いつかないという、空港のキャパシティとは別の問題も発生する。

 首都圏の空港が容量不足になった場合、地方の空港を活用する動きは、観光客の流れを分散させ、地方創生にも繋がる可能性がある。また、インバウンドの増加を抑制することで、日本人が旅行しにくくなる、航空券が高騰するといった問題を回避できる側面もある。

 茨城空港が「首都圏第3の国際空港」という看板を掲げ、将来に向けた大規模改修計画を進めていることは、高く評価すべき努力だ。しかし、日本の航空需要全体を支えるためには、茨城空港だけでなく、仙台や静岡をはじめとする地方の国際空港が連携し、それぞれの強みを活かした戦略を構築していくことが重要となる。

(文=Business Journal編集部、協力=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、元桜美林大学客員教授)

考えなくても回るオフィス…“成長するAI”が描くバックオフィス自動運転化

●この記事のポイント
・バックオフィスの“自動運転化”を掲げる新サービスが登場。AIが自社固有のルールや例外処理を学習し、業務を丸投げで自動化する。
・導入企業では数千時間規模の業務削減や数千万円単位のコスト削減を実現。ROIは平均3~6カ月で回収可能と高い効果を発揮している。
・「考えることからの解放」を掲げ、現場負担を減らす設計が特徴。経営者にとってはAI導入の本質と業務設計の重要性を学べる事例だ。

 AIの進化が加速し、生成AIや自動化ツールはビジネスの現場に急速に浸透している。しかし、多くの企業が依然として“人手”に頼り続けている領域がある。それが、バックオフィスにおける書類処理やデータ入力だ。

「自動車が自律走行する時代に突入した一方で、企業の働き方は依然として“手動運転”に留まっています」 

 こう語るのは、株式会社YOZBOSHI(ヨツボシ)の代表取締役社長CEO、藤井翔吾氏だ。同社が開発・提供するクラウドサービス「Connected Base」は、単なるAI-OCRやRPAでは届かなかった“人の判断を伴う業務”を代替し、バックオフィスを“一任型の自動化”する。

●目次

バックオフィスの「自動運転」構想

 藤井氏は、現場の状況をこう指摘する。

「請求書や契約書の転記、ハンコ待ち、Excelへの入力……。こうした作業はいまだに人の判断と手作業に依存しています。AIやRPAを導入しても、例外処理や現場独自のルールが残り、結局人が対応しているケースが多いのです」

 そこでYOZBOSHIが打ち出したのが「Connected Base」。同サービスの特長は以下の3点に集約される。

(1)“成長するAI”:自社固有のルールや例外処理を学習し、運用するほど精度が向上
(2)“丸投げ”設計:ユーザーは書類をフォルダやクラウドに保存するだけで処理が完了
(3)“全方位対応”:定型・非定型、複雑なフォーマットや外国語文書まで一気通貫で対応

 従来の自動化ツールが「定型業務の一部自動化」にとどまったのに対し、Connected Baseは“現場判断ごと”自動化する点で異なる。

 導入事例を見ると、その効果は顕著だ。「2024年社内導入調査(YOZBOSHI調べ)」。

・大手建設ゼネコン:年間7,350時間=46人月、約1,300万円のコスト削減
・大手医療機器ディーラー:月1,600時間削減、年間2,600万円のコスト効果
・中堅製造業(ユミックス社):経理処理の324時間/月削減=年間約505万円の削減

 いずれの事例でも、単なる効率化にとどまらず、ROIは平均3~6カ月で回収可能というスピード感を実現している。

「現場に“難しい操作”を強いると定着しません。だから私たちは『書類を保存するだけ』で済む仕組みに徹底的にこだわりました。現場負担が軽減されることで、自動化は全社に広がっていくのです」(藤井氏)

なぜ“丸投げ”が可能なのか──AI導入の本質

 Connected Baseは、AI-OCRや生成AIに加え、YOZBOSHI独自の「解析カスタム」を組み合わせている。YOZBOSHIは、従来のAI-OCRが苦手とする“文脈補正”や“業務要件への再構成”を独自アルゴリズムで実現しているといえる。

(1)特定する:ユーザー固有のフォーマットを見分ける
(2)補正する:OCRの誤読を意味ごと修正し、正しい文脈でデータ化
(3)纏める:文章や数値を業務要件に沿ったまとまりへ整理

 さらに、必要に応じて人のオペレーターが最終チェックを行う。これにより「完全非定型の書類」や「外国語の契約書」にも対応できる。

「AIは万能ではありません。だからこそ、AIと人間の役割分担を設計し、“人を減らす”のではなく“人を活かす”方向に進める必要があります」(藤井氏)

 藤井氏の言葉からは、経営者がAIを導入する際に見落としがちなポイントが見えてくる。

・経営者が押さえるべき3つの視点」

(1)「業務設計」が最初の壁
単にAIを導入しても成果は出ない。現場に存在する「例外ルール」や「属人判断」をどう可視化し、共通化するかが成否を分ける。
(2)「教育投資」を惜しまない
Connected Baseでも、導入時にAIをカスタムする工程がある。これは人材教育と同じで、「初期の投資が、その後の安定稼働を決める」という考え方だ。
(3)「丸投げ設計」で現場を解放する
DXが失敗する最大の理由は「現場に負担を強いること」。逆に現場が自然に使える設計なら、全社的なスケールは容易になる。

今後の展望──“自動運転”の次へ

 YOZBOSHIは今後、Connected Baseをバックオフィス業務にとどまらず、**業務全般の「自動運転基盤」**へと拡張していく構想を持つ。

・法令対応:電子帳簿保存法やインボイス制度などへの完全対応
・クラウド連携:freeeなど外部サービスとの自動連携
・グローバル対応:海外書類や多言語処理の拡張

「バックオフィスは企業活動の“血流”です。ここが滞ると、どんな戦略も実行できません。私たちは、この領域を“自動運転化”することで、企業が本来注力すべき価値創造に集中できる社会をつくりたいと考えています」(藤井氏)

「Connected Base」の本質は、単なる業務効率化ツールではなく、「人間の思考負担を減らす」という発想にある。

「人が考えるべきなのは、もっと創造的で付加価値の高いこと。ルールに従うだけの作業からは解放されるべきです。私たちは、そのための“自動運転”を提供しています」(藤井氏)

 AIが進化する時代において、経営者に求められるのは「人とAIの役割分担をどう設計するか」だ。YOZBOSHIの挑戦は、バックオフィスの未来を映す鏡であり、ビジネスパーソンにとっても多くの学びを与えてくれるだろう。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

病院の待ち時間をなくせ!「MRIの空き時間シェア」で医療の未来を変える挑戦

●この記事のポイント
・株式会社Seamrは、病院間でMRIを貸し借りできるオンラインプラットフォームを運営し、医療機器のシェアリングを可能にした。これにより、大病院の待ち時間を解消し、活用されていない機器を有効活用する。
・このサービスは、成功報酬モデルを採用し、初期費用を不要にすることで、慎重な医療現場でも導入しやすい仕組みだ。また、自治体との連携で信用を得て、事業を拡大している。
・薬剤師の経歴を持つ佐野CEOは、「時間がかかる医療」を変えたいという想いから起業。将来的には、場所に関係なく質の高い医療を受けられる社会を目指している。

 MRI(磁気共鳴画像装置)と聞けば、多くの人が大病院の奥に設置された高価で巨大な機械を思い浮かべるだろう。実際、日本はOECD加盟国の中でも人口当たりのMRI保有台数が世界トップクラスであるにもかかわらず、大学病院などの大規模医療機関では「一か月以上待ち」という状況が常態化している。

 その一方で、十分に活用されないまま「遊んでいる」MRIも少なくない。このミスマッチを解消し、医療資源を社会全体で有効活用することを目指すのが、株式会社Seamr(シームル)だ。同社は「医療機器のシェアリング」という新たな概念を切り開き、病院間でMRIを貸し借りできるオンラインプラットフォームを運営している。

 本稿では、Seamr代表取締役CEOで薬剤師でもある佐野隼也氏の言葉をもとに、この挑戦の全貌と、医療ビジネスを動かす視点を探る。

●目次

「MRI版・じゃらん」──病院間をつなぐシェアリングモデル

“MRI版・じゃらん”という比喩は、医療機器の空き枠を検索・予約できる利便性を直感的に伝えるものだ。Seamrのサービスは一言で言えば「医療機器のマッチングプラットフォーム」である。大病院が持つMRIの空き時間をWeb上で公開し、撮影を希望する地域の病院やクリニックが検索・予約できる仕組みだ。従来は電話やFAXを介した煩雑なやり取りに頼っていたが、同社のサービスではすべてオンラインで完結する。

「仕組み自体は以前から制度的に認められていました。厚労省も病院間の機器シェアリングを推奨していますし、保険点数も上乗せされているんです(2020年の診療報酬改定により、病院間の機器共用に対する加算が認められた)。ただ実際には使われてこなかった。理由は単純で、やり取りが電話とFAXで非効率だったからです」(佐野氏)

 まるで「じゃらん」や「ホットペッパービューティー」のように、空き枠を検索しクリック一つで予約が完了──そのシンプルさが医療現場に新たな利便性をもたらす。

 日本におけるMRI普及率は世界トップ水準。ベッドを持つ病院の約6割がMRIを設置していると言われる。しかし稼働状況をみると、全体の7割の病院が「採算割れ」の状況にある。MRIの損益分岐点は1日8件程度だが、それを上回っている病院は全体の3割に過ぎない。需要は偏在し、大病院には患者が殺到する一方で、地方の病院では機械が活かされていない。

 結果として、患者は診断まで長く待たされ、治療開始の遅れによる重症化リスクを抱える。これは医療費増大の一因でもある。

「重症化を防ぐためには、早期に検査を受け、早期に治療を始めることが大切です。待ち時間を短縮するだけで、医療費全体を抑制できる可能性があるんです。」(佐野氏)

成功報酬モデルで広げる「使いやすさ」

 Seamrがこだわるのは「医療現場にとって導入ハードルの低い仕組み」である。利用料はサブスクリプションではなく、撮影利用が発生した際に10%の成功報酬を支払うだけ。初期費用も専用システムの導入も不要で、すぐに利用を開始できる。

「医療機関はサブスクモデルに慣れていません。定額でずっとお金が出ていくことに抵抗感がある。だから使った時だけ費用が発生する仕組みにしました。」(佐野氏)

 この柔軟なビジネス設計は、医療という慎重な業界にこそ適している。

 Seamrの可能性は「医療の効率化」だけにとどまらない。将来的には予防医療やヘルスケア分野への応用も視野に入れる。

 たとえば「違和感を覚えたので念のためMRIを撮っておきたい」というニーズや、スポーツ分野、企業の福利厚生での利用などである。さらに、交通事故後の診断に保険会社がMRIを求めるケースもあり、既存の医療制度を超えた広がりが期待できる。

 もっとも、自由診療分野への展開には医療業界特有の抵抗感もある。しかし佐野氏はこうした「壁」を崩していくことも、長期的なミッションの一つだと語る。

 Seamrのチームには、医師や放射線技師といった現場の専門家が加わっている。もともとはサービスの必要性を探るインタビュー対象者だったが、課題に共感し、仲間となったという。

 この背景には、医療領域特有の「信頼の獲得」がある。医療機関は閉鎖的で、外部の新興企業に門戸を開かない傾向が強い。そこでSeamrは自治体と連携し、社会的信用を得る戦略をとった。茨城県やつくば市でのトライアル実績は、病院への説得力を高めている。

創業の原点──「時間がかかる医療を変えたい」

 佐野氏は薬剤師資格を持ちながら、長らく製薬会社のMRとして勤務していた。病院と病院をつなぎ、新薬を紹介する立場で見えてきたのは「患者が医療を頼らずに重症化する」現実だった。

「もっと早く医療にかかっていれば救えたはずの人がたくさんいる。でも病院に行くには半日、丸一日つぶれる。有休を取らないといけない社会人も多い。医療は『時間がかかる』業界なんです。そこを変えたいと思ったのが起業のきっかけでした。」

 時間とアクセスの壁をなくし、患者と医療の距離を縮める──その志がSeamrの根幹にある。

 医療領域は規制や倫理の制約が多く、ビジネスライクな論理だけでは進まない。佐野氏も当初は「効率化」という視点で事業を立ち上げたが、現在は「現場理解」に軸足を置いているという。

「人が関わる業態なので、机上の効率化だけでは動かない。医療の現場を深く理解する姿勢が不可欠だと感じています。」

 この柔軟なスタンスは、医療領域で挑戦する起業家にとって重要な学びとなる。

 佐野氏が強調するのは「自治体との連携」の重要性だ。医療は公共性の高いインフラであり、自治体の課題感と合致すれば協働の余地が大きい。県立病院や市立病院への橋渡し役にもなるため、事業の最初の足掛かりとして極めて有効だ。

 また、資金調達や仲間集めにおいても「課題を共有できる専門家を仲間にする」ことが鍵だという。インタビューから共感者を見つけ、チームに引き込んでいく──これは多くの起業家に応用可能なアプローチだろう。

どこに住んでも質の高い医療が受けられる社会を

 佐野氏が描く未来像は明確だ。国民皆保険の仕組みの上に、地域の病院が一つの大きなネットワークとして機能し、どの地域に住んでいても均質で質の高い医療サービスを受けられる社会を実現することだ。

「病院が少ないから引っ越さなきゃいけない──そんな社会をなくしたい。医療インフラを“つなぐ”ことで、場所に縛られない医療アクセスを実現したいと思っています。」

 Seamrの挑戦は「高価で特殊な医療機器をシェアする」という単なる効率化ではない。それは「医療資源を社会全体で最適化し、アクセスの格差をなくす」という大きなビジョンに裏打ちされている。

 ここには、スタートアップ経営者にとって学ぶべき多くの要素がある。

・規制産業に挑む際の「信用構築の方法」
・成功報酬モデルに象徴される「導入ハードルを下げる工夫」
・現場理解を深めながら進める「医療とビジネスのバランス」

 医療領域に限らず、社会インフラの課題に挑む起業家にとって、Seamrの取り組みは示唆に富む事例だ。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

親の口座からお金が下ろせない?”その時”に備える3つの財産管理制度

●この記事のポイント
・高齢者の財産管理は、本人の判断能力が衰えると家族でも難しくなります 。元気なうちから「家族信託」「任意後見契約」「財産管理等委任契約」の3つの制度を理解し、準備しておくことが重要です。
・それぞれの制度にはメリットとデメリットがあります 。不動産の売却や事業承継には家族信託、将来の安心を重視するなら任意後見契約、日常の管理には財産管理等委任契約が向いています。
・どの制度を選ぶにしても、最も重要なのは「誰に任せるか」という信頼できる人選びです 。費用や手間、制度の組み合わせも考慮し、家族で話し合って準備を進めることが将来のトラブルを防ぎます 。

「父の介護費用を支払うために銀行へ行ったら、口座からお金を下ろせなかった」「母が施設に入ることになったが、不動産を売却できずに困っている」ーー。

 高齢化が進む日本で、こうした声は珍しくなくなってきました。元気なうちは何の問題もなかった日常の手続きが、本人の判断能力が衰えると突然「ストップ」してしまうのです。銀行や不動産取引、医療・介護の契約などは、すべて“本人の意思確認”が前提。もし意思表示が難しくなれば、家族であっても自由に代行することはできません。

 だからこそ、あらかじめ「お金の管理をどうするか」を考え、備えておくことが重要になります。

 では具体的に、どんな制度があり、どのように使い分ければいいのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏に話を伺いました。

目次

3つの制度の特徴を整理する

 黒田氏によれば、高齢期に備える制度として代表的なのが「家族信託」「任意後見契約」「財産管理等委任契約」の3つです。

1. 家族信託(民事信託)
 家族など信頼できる人に財産を託し、本人(受益者)のために管理・処分してもらう仕組みです。
・メリット:不動産売却や事業承継など、柔軟な財産管理が可能。本人が認知症になっても受託者がスムーズに動ける。
・デメリット:契約書作成に専門家の関与が必要なケースが一般的で費用がかかる。信頼できる家族がいなければ利用できない。

2. 任意後見契約
 将来の判断能力低下に備え、生活や財産管理を任せる契約。家庭裁判所の監督が入ります。
・メリット:裁判所の関与があるため安心感が高い。不正利用のリスクが低い。
・デメリット:本人の判断能力が十分な間は発動しない。監督人の報酬などコストがかかる。

3. 財産管理等委任契約
 まだ元気なうちから、日常的な財産管理を信頼できる人に任せる契約です。
・メリット:銀行手続きや支払いを早い段階からサポートしてもらえる。柔軟で導入が手軽。
・デメリット:本人が判断能力を失うと効力がなくなる。その後は後見制度に移行する必要がある。

どの制度を選ぶべきか?

「結局、どれを選べばいいのか?」というのが読者の一番の疑問でしょう。

 黒田氏は「制度ごとに向き不向きがあり、本人や家族の状況によって選び方は異なります」と話します。

・不動産の売却や事業承継など、柔軟な対応が必要なら → 家族信託
・将来の認知症リスクに備え、裁判所の監督下で安心感を重視するなら → 任意後見契約
・まだ元気だが、銀行や支払いを任せたい段階なら → 財産管理等委任契約

 つまり「今すぐサポートが欲しいのか」「将来の安心を重視するのか」「特殊な財産をどう扱うのか」といった視点で選び分けるのがポイントです。

注意すべき3つの落とし穴

 制度を使えば安心、というわけではありません。黒田氏は次の点に注意を促します。

(1)信頼できる人を選ぶことが最重要
「誰に任せるか」がすべてのカギです。例えば任意後見契約で子どもを後見人に指定していても、「子どもに多額の借金がある」など裁判所が不適格と判断すれば認められないケースもあります。
(2)費用や手間は制度ごとに異なる
 専門家報酬や監督人報酬など、契約コストは制度によって違います。長期的な負担を考えて選ぶ必要があります。
(3)組み合わせて使うのが有効な場合もある
 例えば「元気なうちは財産管理等委任契約」「判断能力低下後は任意後見契約」という連携パターンもあります。

制度より大切なのは「誰に任せるか」

 最終的に黒田氏が強調するのは「制度そのものよりも、信頼できる担い手をどう確保するか」です。家族の誰に託すのか、あるいは専門家に頼むのか。本人が元気なうちから話し合い、準備しておくことが欠かせません。

 高齢社会の日本において、お金の管理は避けて通れないテーマです。制度を理解し、自分や家族に合った形を考えることは、将来のトラブルを防ぐ最も確実な方法といえるでしょう。

おわりに──“今はまだ早い”は本当か?

「まだ元気だから必要ない」と思う方も多いでしょう。しかし実際に必要になるときは、本人の判断能力が落ちてから──つまり“もう遅い”段階であることが少なくありません。

 家族で話題にするのは気が重いかもしれませんが、制度を知り、少し調べてみるだけでも第一歩になります。

 お金の管理を「未来の自分ごと」として考えてみる。そこから、安心できる老後の準備が始まります。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー)

もうすぐ「時限爆弾」が爆発する恐れも…“老いるマンション”の深刻な真実

●この記事のポイント
・日本の都市部で増え続ける「管理不全マンション」問題に、スタートアップのRing-ndxが挑む。老朽化による住民の合意形成の難しさが最大の課題だ。
・同社は、DXを活用し、管理組合の一部を取得するリースモデルを導入。孤独死や生活の困りごとまで見守ることで、住民の意思決定を支援する。
・誰も本格的に手を付けてこなかった巨大市場に挑むRing-ndx。社会課題を解決しつつビジネスを両立させることで、都市全体の持続可能性を守ろうとしている。

 日本の都市部には、いま大きな“時限爆弾”が潜んでいる。マンションの高齢化と管理不全だ。新築当時は駅近という好立地で人気を誇ったマンションも、数十年が経過すれば住民の高齢化が進み、建て替えや修繕の合意形成は困難になる。結果として「管理不全マンション」が増加し、地域全体の資産価値や治安にも悪影響を与えている。

 この社会課題に真正面から取り組むのが、マンション管理のDXを掲げるスタートアップ、Ring-ndx株式会社である。代表取締役の蔭山貴弘氏は、全国の管理会社や管理組合の悩みに日々向き合ってきた専門家だ。

●目次

管理不全マンションがもたらす社会リスク

 蔭山氏は「いま日本の都市部で最も深刻なリスクは、駅近に残された古いマンションの管理不全です」と語る。

 空室が増加した結果、非住宅用途への転用が進み、地域の居住環境に影響を及ぼすケースも報告されている。

 こうした「老いるマンション」の後始末を公費で行うケースも出始めているとの報道もある。蔭山氏は「このまま放置すれば社会全体の負担することになる」と警鐘を鳴らす。

DXで挑む「合意形成」という最大の壁

 マンション管理のDXというと、アプリやシステムの導入をイメージしがちだが、Ring-ndxが注目するのはもっと根源的な課題――住民合意の形成である。DXの本質は、意思形成の透明化とプロセスの簡素化にある。

「不動産業界はDXが最も遅れている分野の一つです。その理由は、最終的な意思決定者が“住民”であり、彼らの合意を得なければ何も進まないからです。特に高齢化した住民に新しい仕組みを理解してもらうのは容易ではありません」(蔭山氏)

 そこでRing-ndxは「管理組合の一部を取得し、リースモデルを導入することで、住民の意思形成を支援する」というアプローチを取る。単にシステムを提供するのではなく、管理組合の一部を購入して共同所有者となり、運営主体としてリースモデルを導入する。住民は賃借人として住み続けながら、運営はプロに任せることができる。

 さらに、LINEを活用して居住者と日常的に接点を持ち、孤独死や生活上の困りごとを即座に把握できる体制も整えた。蔭山氏は「共用部分だけでなく“居住空間の内側”まで見守ることが、最終的な目標」と語る。

「クレームは美しいダイヤモンド」──シンクタンク型の発想

 Ring-ndxのビジョンはユニークだ。蔭山氏は「クレームは美しいダイヤモンド」と表現する。

「住民からのクレームは、ただの不満ではなく“潜在的なニーズの集合体”です。クレームを集めて解決し、その情報をシンクタンクのように分析・提供することで、新しいサービスを生み出せる」

 同社には12万人規模の専門家・経験者ネットワークが存在し、マンション役員経験者や建築・法務のプロフェッショナルが参加している。案件ごとに最適な専門家をマッチングし、労働集約型の旧来モデルに依存せずに効率的なソリューションを提供するのが特徴だ。

巨大市場に挑むスタートアップ

 日本のマンション関連市場は約30兆円で、そのうち「管理不全兆候のある市場」は4兆円規模との試算もある。Ring-ndxはまさにこの“誰も本格的に手を付けてこなかった領域”に挑む。

 もちろん課題は多い。蔭山氏は、多摩地域で取り組んだ「マンション再生プロジェクト」を例に挙げる。

 住民の意思形成が纏まらずに頓挫し、「住民合意の難しさと市場価値への影響を痛感した」と語る。それでも諦めないのは、「放置すれば、住民の安全が守られないだけでなく、地域全体の安全・安心にも影響する」からだ。

 大手不動産各社や行政とも連携し、少しずつ解決策を探る日々である。

スタートアップにとっての「社会課題」というチャンス

 蔭山氏は、社会課題に挑むスタートアップの経営者に向けてこう語る。

「社会課題は巨大市場ですが、簡単にはお金になりません。その分、参入障壁は高い。だからこそスタートアップが挑む余地があると思います。

 我々が行政や大手企業に応援されているのも、誰もやっていない領域だからです。信用はなくても、挑戦していること自体が評価される」

 スタートアップに必要なのは「まずは実績を積み重ねること」。

 Ring-ndx自身も、大田区のイノベーションプログラムで表彰されるなど実績を重ね、徐々に存在感を高めている。

「老いるマンション」問題の先にある未来

 人口減少と高齢化は避けられない。マンション管理市場の課題は今後さらに拡大していく。Ring-ndxは、その渦中で「社会課題解決とビジネスの両立」を模索する。

 蔭山氏は最後にこう締めくくった。

「難しい問題だからこそ、誰かが取り組まなければならない。私たちは、仲間としてマンションの中に入り込み、DXを使いながら住民と一緒に課題を解決していきたいと思っています」

“老いるマンション”の再生は、単なる建物管理にとどまらない。都市の安全、住民の安心、そして日本社会全体の持続性に直結する挑戦だ。Ring-ndxの試みは、社会課題をビジネスとして成立させることの難しさと可能性を示している。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

寝ながら疲れが取れる?ワークマン「メディヒール」、相場の5分の1の価格の秘密

●この記事のポイント
・ワークマンが、疲労回復を促すリカバリーウェア「メディヒール」を発売。遠赤外線効果を持つ鉱石を生地に練り込み、他社の5分の1以下の価格を実現した。
・「メディヒール」は一般医療機器として登録されており、日中の作業用から夜間の疲労回復用へと用途を拡大。ルームウェアとして1900円から提供。
・ワークマンの知名度と大量生産体制が低価格の鍵。他社が広告宣伝費や生産コストを抑えられないなかで、ワークマンは市場の定着を目指す。

 ワークマンは今年の秋冬ものを紹介する「WORKMAN EXPO 2025秋冬」でリカバリーウエア「メディヒール」を紹介した。メディヒールは人体が発する遠赤外線を輻射し、血行を促進することで疲労回復を促すという。2021年から作業着向けにメディヒール商品を販売しているが、一般向けは今年9月1日から。ルームウエアの長袖シャツは1900円、ロングパンツは1900円とワークマンらしい安い価格帯を実現した。他社が提供するリカバリーウエアは数千円から1万円台が相場だ。ワークマンはなぜ相場より安い価格で提供できるのか。商品開発担当の半田俊也氏に取材し、メディヒールの効果と戦略を聞いた。

●目次

8種類の鉱石で遠赤外線を輻射

 9月1日に発売したメディヒール商品は部屋着を想定したルームウエアが中心だ。長袖シャツやロングパンツはいずれも1900円で、男女別に投入する。499円のソックスや2900円のマグネックレス、1900円の膝サポーターなども揃える。また、布団やベッドを想定した敷パッドやブランケットも揃え、価格は1900円に設定した。一般向け商品の発売に至った経緯について半田氏は次のように話す。

「2021年以降投入している作業着用のメディヒールは日中の行動中を想定したものであり、安静時や夜用の商品として一般向けの商品化に至りました。安静時の疲労回復を狙ったリカバリーウエアで、”一般医療機器”として登録されております」(半田氏)

 メディヒールは疲労回復や血行促進、筋肉のハリ・コリの緩和、筋肉の疲れ低減と4つの効能を謳っている。どのような原理で回復を促進するのか。

「メディヒールは人体が発する遠赤外線を輻射する性質があり、遠赤外線により血行促進や疲労回復を促す仕組みです。セラミックスを中心とした8種類の鉱石が生地の糸に練りこんであり、鉱石が遠赤外線を輻射します。通常の生地は遠赤外線を透過してしまうため、メディヒールのような効果を得られません」(同)

「輻射」とは、熱が赤外線などの電磁波を通じて伝わることだ。8鉱石を含むメディヒール用の糸は市場に出回っているもので、他社のリカバリーウエアも同じものを使っている。だが、ワークマンには服の動きやすさや着心地を追求するノウハウがあり、そうした面は他社製品に対する強みだと半田氏は主張する。

200万枚を生産し、安さを実現

 遠赤外線効果や疲労回復など、メディヒールと同じ効能を謳う「リカバリーウエア」は7000円から1万円以上が相場だ。上下セットで2万円を超える場合もある。対するメディヒールは上下セットで3800円と5分の1以下の価格帯だ。大手の優位性を活かせるため、低価格を実現できるという。

「大手小売店の中で大々的にリカバリーウエアを発売するのは弊社が初です。他社は比較的小規模な業者が多く、認知度や信頼性を獲得するために多額の広告宣伝費をかけなければなりません。弊社は『ワークマン』のネームバリューがあるので、1着に対する広告費は抑えることができます。また、今シーズンでメディヒール商品は200万枚を生産しており、大量生産によって低コスト化を実現しました」(同)

 筆者の主観だが、リカバリーウエアを調べてみると他社のブランドは初耳のところが多い。こうした小規模業者は多額の宣伝費をかけつつも、リスクを負えないためワークマンのように数十万着ごとの生産は難しいはずだ。1着当たりの生産コストや宣伝費は大手と比較して多額になり、結果的に高価格になってしまうと考えられる。ワークマンには、年1000万着単位の生産を10年以上にわたって委託してきた生産業者もあり、製品の低価格化を実現してきた。

 トークセッションでは「百獣の王」の武井壮氏も登壇。一日に6回も体温を測定する自身のエピソードを交えながら、疲労回復の重要性を訴えた。こうした芸能人を活用できる事もワークマンの強みと言える。

来年は春夏向けの展開も

 7月末時点でワークマンは1000店舗超を展開している。最も多いのは一般向けの「WORKMAN Plus」で649店舗。「ワークマン」は283店舗で、「#ワークマン女子」は70店舗を展開する。かつてはプロ向けの作業着店が主体だったが一般向けにシフトした。今回のメディヒールは全業態店で販売する方針だ。

「これまでの作業着向けメディヒールは年間60万枚の売れ行きでした。今回の一般向けは200万枚生産しており、そのうちの190万枚が販売目標です。今期の商品は秋冬ものですが、売れ行き次第では来年の春夏もメディヒールを200万枚ほど販売したいと考えております。メディヒールは表面温度を上げる効果があるものの、脇の下や舌下の温度までは上昇しないため、夏用の商品展開も可能です」(同)

「リカバリーウェア」のGoogleトレンドを見ると、2023年から上昇し始め、今年は昨年を上回る注目度になっている。著名なブランドではチャンピオンが投入したが、ユニクロは進出していない。量販店で先手を打ったのはワークマンだ。リカバリーウエアというジャンルが消費者の間で定着するのか。そのカギを握っているのはメディヒールといえよう。

(文=山口伸/ライター)

映画レビュー「こんな事があった」

原発事故は終わっていない。「追悼のざわめき」(88)の鬼才・松井良彦監督が、原発ニッポンの欺瞞を、地元被災者の視点で描く。

投稿 映画レビュー「こんな事があった」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

親の葬儀、後悔する人は3人に1人…「事前準備」が心のゆとりと満足度を3倍に

 親の葬儀を「生前から準備すること」に抵抗を感じる人は少なくない。死を前提とした話し合いは、タブー視されがちであり、気持ちの上でも「早すぎる」と後回しにしてしまうのが実情だ。

 しかし、事前の準備があるか否かで、葬儀に対する満足度や心のゆとりに大きな差が生まれていることが、燦ホールディングス株式会社の調査で浮き彫りになった。

 同社は、親を看取った経験がある40歳以上の男女300人を対象に、葬儀に関する意識調査を実施。その結果、親の逝去前に「葬儀の準備をしていなかった」と答えた人は71.7%にのぼった。多くの遺族が、十分な時間を取れぬまま葬儀に臨んでいる実態がある。

準備の有無が生む「時間的余裕」と「心の区切り」の差

 調査では、葬儀準備の期間が「十分に取れた」と回答した割合に大きな開きがあった。

「1年以上前から準備していた」人の72.2%が余裕を持てたと答えたのに対し、「準備をしていなかった」人で同様に答えたのはわずか5.6%。時間的余裕の有無が如実に現れている。

Q1.親御さんのご逝去前、どのくらい前から葬儀について準備していましたか? n=300

Q2.親御さんの葬儀準備期間は、十分に取れたと思いますか?n=300

Q3.葬儀の準備が十分にできなかったと感じた理由として当てはまるものをお選びください。n=124

 さらに注目すべきは、葬儀を通じて「心の区切りをつけられた」と回答した割合だ。準備をしていた層では3割超が「整理できた」と感じているのに対し、準備をしていなかった層では2割台にとどまった。葬儀の雰囲気や演出に故人との絆を込められたかという点でも、準備層の満足度は約3倍に達している。

Q4.葬儀を通じて、親御さんとの別れに気持ちの整理をつけられましたか?n=300

Q5.親御さんとの絆や思い出を、葬儀の雰囲気や演出に十分に込められたと感じますか?n=300

後悔の多くは「話し合い不足」と「最後の時間」

 一方で、3人に1人(32.3%)が葬儀に対して何らかの後悔を抱いていることも明らかになった。

「もっと生前に話し合っておけばよかった」(26.0%)、「故人と最後にゆっくり面会できればよかった」(25.3%)が代表的な声である。突然の別れに直面し、十分に希望を確認できないまま葬儀を終える無念さが浮かび上がる。

Q6.親御さんの葬儀に対して、後悔していることはありますか? n=300

Q7.親御さんの葬儀の際に、「もっとこうしてあげたかった」「今思えば心残りだった」と感じたことは何ですか?n=300

Q8.親御さんの葬儀での故人との面会環境について、どのように感じましたか? n=300

 また、故人への感謝を「棺に納めるもの」に込める傾向も強い。愛用品を入れた人は56.3%に上り、思い出の写真や手紙を入れたかったという声も少なくない。葬儀は形式的な儀式ではなく、最後に感謝を伝える大切な機会であることを改めて示している。

Q9.親の葬儀について棺に何を入れてあげましたか。 n=300

Q10.親の葬儀について棺に入れられなかったが、入れたかったものはありますか。 n=300

事前準備は「タブー」ではなく「ゆとり」

 今回の調査は、事前準備の有無が単なる手続きの効率化だけでなく、遺族の精神的な満足度に直結することを示している。死を語ることを避けがちな日本社会において、事前準備はむしろ心のゆとりを生み出す重要な役割を果たしているようだ。

 親子で生前に話し合いを重ねておくことが、慌ただしさを和らげ、最後の時間をより豊かにする。後悔の少ないお別れのために、あえて“早め”の準備を始めることが求められている。

会社概要

燦ホールディングス株式会社
1932年創業。東証プライム市場上場の葬祭業界大手。公益社や家族葬のファミーユなどを傘下に、全国規模で葬祭事業・ライフエンディングサポートを展開。資本金25億6,815万円、連結従業員数1,153名(2025年3月末現在)を擁し、持株会社事業や不動産事業も展開。主要取引銀行には三井住友銀行や三菱UFJ銀行など大手金融機関が名を連ね、業界のリーディングカンパニーとして存在感を発揮。人生100年時代における「最後の時間が愛と敬意に包まれる社会」の実現を掲げ、葬儀の事前準備や啓蒙活動を通じ、持続的な成長と社会的価値の両立を目指す。

※本稿はPR記事です