【参加者募集】Do! Solutions Webinar「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方」10月8日開催

電通が運営する、ビジネス課題を解決する情報ポータルDo! Solutionsは、10月8日(水)に開催するウェビナー「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方 実践事例で学ぶ、企業成長のヒント」の参加者を募集している。

新規事業がうまくいかない、株価が上がらない、採用活動がうまくいかない、期待した社員が離職する──そのような企業の「問題」を議論すると、必ずといってよいほど「人と組織」の課題が浮かび上がる。しかし、組織文化に対する取り組みは成果がでるのに時間がかかるため、社内で優先順位が下がり、先延ばしにしてしまいがちである。

本ウェビナーでは、動かない組織を動かし、成長につなげる「鍵」である組織文化について、実際に成果を上げた事例を交えながら説明する。

「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方 実践事例で学ぶ、企業成長のヒント」

【概要】
日時:
10月8日(水)14:00〜15:00
費用:無料
形式:Zoomウェビナー
登録締め切り:10月5日(日)17:30
定員:先着500人

■参加登録・セミナー詳細はこちらから


【プログラム】

第1部
組織文化変革が始まるきっかけ/Culture for Growthのご紹介

第2部
組織文化変革の事例紹介①
~組織の節目をきっかけとした企業文化の進化~

第3部
組織文化変革の事例紹介②
~新事業を飛躍させるために人と組織を変える~

第4部
まとめ:変革のポイント

【登壇者プロフィール】

電通 グロース・HR部 部長・ディレクター
小山 雅史(こやま まさし)

入社以来、一貫してブランドストラテジストとして食品、通信、金融、飲料、化粧品、家電、薬品、自動車など、さまざまな領域のコーポレートブランディングとそれに伴う企業変革や従業員意識の変革、事業戦略や開発などを担当している。顧客との関係だけでなく、マスコミ、投資家など企業や事業を取り巻くマルチステークホルダーの視点で「社会にとってのこの企業や事業の価値とは何か」を常に考えながら、企業価値の持続的な向上方法を模索している。

電通 BXコンサルタント
家泉 洋平(いえずみ ようへい)

マーケティング局にて飲料・アルコールメーカーをメインに消費財・化粧品・金融などの企業のマーケティング・PR戦略立案に従事。その後、ビジネスプロデュース局にて消費財のコミュニケーション領域に加えて、宣伝部ではない新規事業部署を担当、非広告領域での事業開発を支援。現局では企業理念浸透/中計時企業ストーリー策定/MVV策定などBX(Business Transformation)領域でクライアントビジネスを支援、特に企業文化やCultureの変革に多く携わり、企業文化変革「Culture for Growth」プログラムの開発・提供を行っている。

電通 プランナー
世津 洋子(せつ ようこ)

マーケティング部門、デジタル部門にて新規開発、マーケティング/コミュニケーション戦略立案、CX体験設計に従事し、顧客視点に立つことにより、ビジネスや広告のあり方を刷新する提案を行いながら顧客企業をサポート。現在は顧客企業の変革を幅広く支援。〈世の中〉〈企業ステークホルダー〉双方をとらえ、提案を行っている。新規事業やブランド、プロダクトの開発や中長期戦略策定に加え、企業文化変革におけるコンサルティングを提供。
 

【参加者募集】Do! Solutions Webinar「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方」10月8日開催

電通が運営する、ビジネス課題を解決する情報ポータルDo! Solutionsは、10月8日(水)に開催するウェビナー「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方 実践事例で学ぶ、企業成長のヒント」の参加者を募集している。

新規事業がうまくいかない、株価が上がらない、採用活動がうまくいかない、期待した社員が離職する──そのような企業の「問題」を議論すると、必ずといってよいほど「人と組織」の課題が浮かび上がる。しかし、組織文化に対する取り組みは成果がでるのに時間がかかるため、社内で優先順位が下がり、先延ばしにしてしまいがちである。

本ウェビナーでは、動かない組織を動かし、成長につなげる「鍵」である組織文化について、実際に成果を上げた事例を交えながら説明する。

「『先延ばし』にしない、組織文化変革のはじめ方 実践事例で学ぶ、企業成長のヒント」

【概要】
日時:
10月8日(水)14:00〜15:00
費用:無料
形式:Zoomウェビナー
登録締め切り:10月5日(日)17:30
定員:先着500人

■参加登録・セミナー詳細はこちらから


【プログラム】

第1部
組織文化変革が始まるきっかけ/Culture for Growthのご紹介

第2部
組織文化変革の事例紹介①
~組織の節目をきっかけとした企業文化の進化~

第3部
組織文化変革の事例紹介②
~新事業を飛躍させるために人と組織を変える~

第4部
まとめ:変革のポイント

【登壇者プロフィール】

電通 グロース・HR部 部長・ディレクター
小山 雅史(こやま まさし)

入社以来、一貫してブランドストラテジストとして食品、通信、金融、飲料、化粧品、家電、薬品、自動車など、さまざまな領域のコーポレートブランディングとそれに伴う企業変革や従業員意識の変革、事業戦略や開発などを担当している。顧客との関係だけでなく、マスコミ、投資家など企業や事業を取り巻くマルチステークホルダーの視点で「社会にとってのこの企業や事業の価値とは何か」を常に考えながら、企業価値の持続的な向上方法を模索している。

電通 BXコンサルタント
家泉 洋平(いえずみ ようへい)

マーケティング局にて飲料・アルコールメーカーをメインに消費財・化粧品・金融などの企業のマーケティング・PR戦略立案に従事。その後、ビジネスプロデュース局にて消費財のコミュニケーション領域に加えて、宣伝部ではない新規事業部署を担当、非広告領域での事業開発を支援。現局では企業理念浸透/中計時企業ストーリー策定/MVV策定などBX(Business Transformation)領域でクライアントビジネスを支援、特に企業文化やCultureの変革に多く携わり、企業文化変革「Culture for Growth」プログラムの開発・提供を行っている。

電通 プランナー
世津 洋子(せつ ようこ)

マーケティング部門、デジタル部門にて新規開発、マーケティング/コミュニケーション戦略立案、CX体験設計に従事し、顧客視点に立つことにより、ビジネスや広告のあり方を刷新する提案を行いながら顧客企業をサポート。現在は顧客企業の変革を幅広く支援。〈世の中〉〈企業ステークホルダー〉双方をとらえ、提案を行っている。新規事業やブランド、プロダクトの開発や中長期戦略策定に加え、企業文化変革におけるコンサルティングを提供。
 

DEIネイティブが、エンタメを変えていく。(後編) ~アーティスト育成とファンダム共創~

左から電通 在原、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏、電通 増山
左から電通 在原、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏、電通 増山

「DEIな発信」を実践する人物や組織に、リテラシーとアクションを伴うDEIマインドの育み方を伺う本連載。

第1弾となる今回は、グローバルマーケットの礎を築き、国内外で評価されるアーティストとそのチーム作りで注目されるエイベックスの事例です。

前編では、音楽マーケットとアーティストにまつわる「DEIな発信」において、カルチャーや国の壁を越えたエンタメ市場や、アーティスト、プロデュース事例から、貴重なビジネスヒントとなるお話を伺いました。

後編では、アーティストやスタッフ育成とファンダム共創における「DEIな発信」について、お話を伺います。

お話を伺った人:猪野丈也さん(エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ代表取締役社長)
聞き手:増山晶(dentsu DEI innovations、電通 第6マーケティング局クリエイティブディレクター)、在原遥子(電通 エンタテインメントビジネス・センタープロデューサー)
 
<目次>
「業界の常識はエイベックスの非常識」

アーティストもスタッフも、生身の人間。包摂とケアは欠かせない

ファンダムを巻き込んで、インクルーシブに発信力を高めていく

生きづらさを感じる若者も「いたい自分でいられる」力になるエンタメへ

これからのグローバルエンタメのチェンジメーカーに

「業界の常識はエイベックスの非常識」

──ここからはアーティストの発掘と育成についてのお考えをお聞きします。今の時代はSNSでの活動が欠かせませんが、コンプライアンスについてはいかがお考えでしょうか。

猪野:SNSは便利なツールだけど、好き勝手にものが言える文化もできたということでもあり、それに対しては常にアーティストも社員も意識を高めるようにしています。

コンプライアンスは一見、エンタメと真逆の面もあります。その中でバランスを取っていくのは、非常に難度が高い。もちろん誰かを苦しめたりしてはいけないけれど、なぜHIPHOPが生まれたのか、なぜロックが生まれたのかといえば、社会的な抑圧に対抗するツールが音楽だったことも事実なので、そういうものは失わない方がいいと思います。

エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏
エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏

──「avex vision 2027」に、「多様な地域・多様な分野で “愛される”IP」という言葉があります。これは歴史も含めた多様な地域、多様なカルチャー、多様な人々から愛されるということでしょうか?

猪野:やはり愛されないと、アーティストもわれわれも生きていけないですから。でも、どちらかというとただ愛される、よりも、「ドキドキ、ワクワク、熱狂を作る」という意味の方が強いです。通常の社会とは違う景色を見せるのがエンタメだとすると、それは非日常であるべきだと思います。非日常こそが「ドキドキ、ワクワク、熱狂」であり、それを音楽やリアルイベントで表現していくことが大事です。

そういう意味では、多くの人の共通項を歌うことで万人受けするよりは、ある一定の人々にぐさっと刺さる楽曲やコンテンツを発表していくことが重要だと考えています。特にクリエイティブについては、一般的であるべきではないと思います。

──確かに、ここまでメディアが多様化している中で、万人受けやみんなが聴いているというのは限界があるのではないかと思います。

猪野:そうですね、それで各コミュニティの中でビジネスが生まれるような時代になっているので、「全員が知っているヒット曲」ってなかなか出づらい世の中にはなっていると思います。昔の情報が少ない社会なら、「あっち向こうぜ」と言えば大衆が注目した時代があったんですが、今や1日に10万曲がアップロードされる時代なので、そこで一般的な話をされてもしょうがないですよね。当たり障りのない歌詞からは感動は生まれないので。

だから、ある一定の強いメッセージに対して共感してくれる人たちに向けた作品が、エンタメを構成する要因になっていると思います。そうした多様な非日常の表現や多様なIPが、多様な人たちのいる多様な地域で、それぞれに広がっていければいいなと思います。

映画からテレビ、テレビからYouTubeといった新しいメディアへの移り変わりの中で新しいスターが生まれ、新しいIPが生まれます。それはやはりとんがっていないと。ムーブメントを起こそう、なにか人がやらないことをやろう、「業界の常識はエイベックスの非常識」(創業者である松浦勝人会長の言葉)ということは、常に心に刻んでいます。

──そんな”愛される”IPの卵は、どんな人で、どのように見つけるのでしょうか?

猪野:ハッと振り向かせるような魅力や、何かオーラを感じるなみたいな人を見つけるようにしています。スポーツは記録を出せばヒーローですが、エンタメは記録を出しても必ずしもヒーローではないので、そこにお客さんとの熱量のキャッチボールが生まれるような、そんな人を探しています。上手なミュージシャンというよりは、スキルは発展途上でも、素材としてそんな魅力やオーラがある人を探しています。 

──「この先、魅力的な人になりそうだ」という人を探すということですね。

猪野:おっしゃる通りです。歌がうまい、ダンスがうまいというだけでは振り向かれない。スキルのその先に何かがある、というのがスター性になってくるので、ここを見極めるのがすごく大事です。

アーティストもスタッフも、生身の人間。包摂とケアは欠かせない

──生身の人間であるアーティストの育成について伺います。特待生になっても必ずしもデビューできると限らない、デビューもゴールではない世界で、アーティストのメンタルケアはどのように考えておられますか?

電通 増山
電通 増山

猪野:avex Youthという機関では2022年から、今活躍しているアーティストも含め、育成に力を入れてきました。そこでは語学やスキルの育成だけでなく、メンタルヘルスにも寄り添っています。過酷な環境の中で過酷な競争をしていて、挫折もある、厳しい世界の中では、メンタルの専門家のサポートも必要です。

──さまざまな経験を積んだアーティストが、プロデューサーなど、スタッフに回ることもありますか?

猪野:はい。ステージに立った経験のあるプロデューサーは、そうでないわれわれとは視座が違って、「あのときああすればよかった」「つらいときがあった」といった経験をもとに客観視して、判断ができるんですね。

そういう意味では日髙(光啓氏、BMSG代表取締役CEO)さんは、現在ご自身もアーティストとして活動されていることもあり、過去に蓄積された鬱憤を昇華して、経験則からアーティストに寄り添ったメッセージを発信しています。「つらいときもあったよ」の視座と説得力がわれわれとはまったく違います。

──アーティストやスタッフという異なる立場の垣根を超えることもある、ということですね。ではそんな会社のカルチャーについて伺います。エイベックスは障害者雇用やジェンダーリテラシーへの取り組みなど、カルチャーとして当たり前のようにDEIに力を入れており、アーティストやスタッフ、社員の多様性を包摂されています。

猪野:会社のカルチャーとしては、DEIというのはあるのかなと思います。海外のスタッフもたくさんいるし、当たり前にいろいろな人がいるよねと。そこに違和感は全くないです。普段からそういう意識でないと、グローバルとは何だということになります。日本が好きで、インディペンデントなエイベックスが好きだと、海外から採用に応募してくれる人も多いです。

例えばその国々の文化風習によって、ピースサインがいいとか悪いとかもありますよね。リテラシーというか、慣れていく、万一何か間違ってしまった場合も、そのミスに学んで、経験にしていくしかないと思っています。

──アーティストの育成における課題も踏まえ、今後のエンタメ業界で活躍する人材の要件はなんでしょうか?エイベックスでは、若いアーティストに年齢の近いマネジメントスタッフがついている印象があります。

電通 在原
電通 在原

猪野:はい、アーティストとマネジメントが同世代だと、いい共同体になれます。それと、今のアーティストはネットでのコミュニケーションが欠かせませんが、そこはデジタルリテラシーの高い若い社員がやるのがいいという会社のカルチャーもあります。僕らの世代だけでのSNSマーケティングは、リテラシー的にも机上の空論になりがちです。

──同世代だと、アーティストも安心して本音をさらけ出せる、心理的な安全性もありそうです。

猪野:アーティストはやはり、一般的な人とは違う強い個性を持つ人が多いですから、一般人であるスタッフと一緒にいると、お互い刺激があります。そのときに年齢が近いと、より本音のコミュニケーションが生まれます。上の世代もそうやってアーティストとスタッフが良い関係を築いてきましたし、そうしたタッグがうまく機能する成功体験が、若者にチャンスをあげようとか、若者の感覚を信じようといったエイベックスのカルチャーになっていると思います。

スタッフが社会人として一人前になるのに4、5年はかかるとして、それまでは“投資”ですが、ベテランも若者の感性に触れてアップデートされるので、相乗効果はあると思います。そのベテランと若手のシナジーがないと、発信内容がアップデートされず、結果的にファンにも見放されてしまうので、若い社員はエンタメ業界ではポジティブに機能しているのではないでしょうか。

グローバルでも、現地の人と話してみないと、現地のカルチャーも分からないし、言葉の正しい発音も分かりません。同じように、SNSとの正しい付き合い方は、SNSネイティブな若者世代に聞くしかありません。そうやってSNS文化やファンダムに合わせて新しいマーケットを作っていく手法は、マーケットができている環境で大物プロデューサーが「この曲で行け!」とプロダクトアウト型の発信をする手法とは、まったく異なりますね。エイベックスではこれまで、プロダクトアウトの方が多かったですが、その文化も失わずに、エイベックスらしい独特の作品やアーティストが育っていくようにしたいと思っています。

ファンダムを巻き込んで、インクルーシブに発信力を高めていく

──次に、ファンダムについてお伺いします。そんなSNS時代において、アーティストとファンとの距離感は、すごく近くなって、ある意味でインクルーシブに一体化しているとも言えるのではないでしょうか?

猪野:そう思いますし、全世界的にもそうなってきている印象です。単なるアーティストのファンではなく、ファンの中にも、後援会のように投資をしてくれるファンと、推し活のように発信してくれるファンがいるという構図だと思います。もちろんファンクラブ活動というのは従来もありましたが、今やデジタルの世界でもスケールの違うファンダムが生まれています。そんな、「一体化したファンダム」を作ったアーティストの成功事例が多いと思います。

猪野氏
──従来のアーティストファンは、出来上がったものを手に入れるだけでした。しかし、現在のアーティストのファンダムは、“推し活”などと言われるように、良いものを生み出せるよう、アーティストをアクティブに育てているとも言われます。

猪野:その通りですね。ファン自身が、自らの推すアーティストのPRパーソンになって、発信できる人が10人、100人と増えるにつれてどんどん広がる、そういうことができる社会なので面白いですね。公式が宣伝しても振り向かない場合も、「これめちゃくちゃいいよ」という熱量のあるクチコミで興味喚起できる。

ほかにもライブの撮影を許可することでファンによる拡散を支援したり、応援広告に参加してもらうなど、運営側もファンダムとの良好な関係作りを意識しています。SNSの戦略としてファンダムのリーダー格の方とコミュニケーションするというのも、マーケティング担当の仕事になっているんですよね。

生きづらさを感じる若者も「いたい自分でいられる」力になるエンタメへ

──また、社会的な活動をするアーティストをファンダムが応援する、ファン・アクティビズムもあります。

猪野:もちろんアーティスト活動もサポートしてほしいけど、アーティスト活動そのものが社会を良くするサイクルになることも大事です。いろいろなタイプのアーティストがいていいと思いますが、会社としてはそれをサポートするという立場です。アーティストのメッセージの発信にも協力したいですね。

──力強いメッセージを発信されている日髙さんと同じAAAのメンバーである與真司郎さんも、2023年にファンミーティングでセクシュアリティのカミングアウトをされました。

猪野:レーベルとしてももちろん、サポートしていく立場です。今の時代のアーティストやファンにとっては、セクシュアリティを含めたいろいろな多様性は当たり前なのではないかと思います。

──アーティストの生き様や姿勢も含めたクリエイティブをサポートされていくということですね。

猪野:そうです。少し前になりますが、コロナ禍で真っ先にクリエイター支援や設備の無料開放などを開始したうちの一社が、エイベックスなんです。自社に限らず、クリエイターやエンタメの収益が増えるようなお手伝いはしたいと思います。それが良いクリエイター、良いコンテンツが生まれるサイクルを作るので。

これからのグローバルエンタメのチェンジメーカーに

──「avex vision2027」に掲げる“愛される”IPについてや、エイベックスのマテリアリティ(重要課題)についてのお話を伺ってきましたが、 最後に、DEIを踏まえたこれからのグローバルエンタメ発信のありかた、展望をお聞かせください。

猪野:グローバル市場で考えたときに、DEIリテラシーのあるアーティストにファンダムの支持が集まっている傾向は明らかです。当社にはもともとDEIが当たり前というカルチャーがあります。アーティストのリテラシーを踏まえた発信を支援することで、国の枠を超えたエンタメを育てていけると考えています。

エイベックスとしては日本はもちろん大事ですが、ビジネスの話でいうと、海外にチャレンジしていくことが重要だと思っていますし、そのチャンスが訪れていると思います。無駄になる可能性があっても、そこに投資できる、チャレンジできる会社はそんなにありません。やはりエイベックスの、松浦のカルチャーですね。人がやらないことをやる、そこに未来があるという、トライ&エラーの会社なので。また、そういったフレキシビリティはインディペンデントの強みだとも思います。投資も含めてIPとインフラを育てていき、日本のコンテンツを世界に届けることをビジョン、ミッションにしています。

アジアのリーディングカンパニー、コンテンツのリーディングカンパニーというのが当社のビジョンで、そのチャレンジを面白がってくれる仲間、アーティストやスタッフが集まってくれることが大事です。昔われわれが日本でK-POPの情報流通を作ったのと同様に、おこがましいですが10年後には未来のエンタメを目指す方々に光を差す存在になれるように、全集中しています。

──まさに「多様な地域・多様な分野で“愛される”IP」のためのチェンジメーカーになるということですね。

猪野:はい、そして日本チーム全体でがんばろうと。誰かが突破していかないとマーケットはできないので、国も含めて、一緒に走りましょうと強く思っています。経産省にも、投資・規制のハードル打破、グローバル人材育成、定期的な海外への発信メディアやリアルプラットフォーム構築などの提言をしています。グローバルフォーマットにのっとって、日本のエンタメの価値を上げていくサイクルを作りたいですね。

──メディアやプラットフォームをはじめ、ぜひわれわれもチェンジメーカーのパートナーになれたら幸いです。本日はワクワク、ドキドキする熱量にあふれた貴重なお話をありがとうございました。

猪野氏
以上、後編では、アーティスト育成とファンダム共創にまつわるお話を伺い、世界で“愛されるIP”といったキーワードから、ビジネスにおける「DEIな発信」のヒントを受け取りました。

前後編を通じ、アーティストを擁して「DEIな発信」を実践するには、アーティスト、スタッフ、ファンダムというチームの誰もが人間力を磨き、互いに人権を尊重し、たとえ失敗をしても、それをより良い未来に生かす姿勢を持ち、日々DEIリテラシーをアップデートしていくことが大切だというメッセージをいただきました。エンタメ業界に限らず、今日のあらゆるビジネスへの大きなヒントだと言えるでしょう。


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DEIネイティブが、エンタメを変えていく。(前編) ~音楽マーケットとアーティストプロデュースの未来~

左から電通 在原、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏、電通 増山
左から電通 在原、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏、電通 増山

エンタメコンテンツの領域では、SNSやサブスクリプションを基盤に、国境や世代を超えた「グローバルでオープンなエンタメ体験」が可能になっています。

一方、歴史や文化に根差した多様な価値観への理解不足や、コミュニケーションへの配慮の欠如がトラブルを招く事例も散見されます。

エンタメにおけるダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(以下DEI)のアップデートには、何が必要なのでしょうか。

「DEIな発信」を実践する人物や組織に、DEIマインドの育み方を伺う本連載。第1回は、重点戦略として「多様な地域・多様な分野で“愛される”IPの発掘・育成を目指す」を掲げ、グローバルで評価されるアーティストとそのチーム作りで注目されるエイベックスの事例です。

前編では、音楽マーケットとアーティストにまつわる「DEIな発信」について伺います。

お話を伺った人:猪野丈也さん(エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ代表取締役社長)
聞き手:増山晶(dentsu DEI innovations、電通 第6マーケティング局クリエイティブディレクター)、在原遥子(電通 エンタテインメントビジネス・センタープロデューサー)
 
<目次>
クリエイティブを大切に、グローバルの「壁」を越えていく。

世界で勝負できるプロデューサーに求められる視座とリテラシーとは?

世界で愛されるアーティストになるために。

クリエイティブを大切に、グローバルの「壁」を越えていく。

エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏
エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ 猪野氏

──エイベックス・ミュージック・クリエイティヴはどんな会社ですか?

猪野:当社はいわゆるレコード会社で、エイベックス・グループのいわば“一丁目一番地”の歴史を積んできた会社です。エイベックスとしては、会社の成長につれて縦割り組織になっていった時期もありましたが、組織再編を経て、音楽事業全体の中でレーベル部門として分社化されたのが、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴです。音楽を作るうえでクリエイティブを大事にしていこうという社名になっています。
 
──音楽・エンタメが、グローバル市場で文化や慣習、規制などの「壁」に直面し、また超えていく状況についてのお考えをお聞かせください。

猪野:エイベックスはK-POPを日本に広めた会社のひとつだと思っています。韓国の音楽が日本というマーケットに対して受け入れられるところから始まり、さらに日本を超えて世界に行くという歴史も見てきました。僕の中では4つのフェーズがあったと思っています。

第1フェーズはJ-POPの良いところを生かしたアーティストとして活動した東方神起さんやBoAさん。当時、韓国のアーティストを売るというのが、なかなか大変でした。しかし、SMエンタテインメントさんのクリエイティブやアーティストとしての資質が素晴らしかったので必ず人気が出ると確信を持ち、日本市場ではJ-POPの良いところを生かした作品として、市場に打ち出していきました。

第2フェーズは韓国のアーティスト性や楽曲のまま、日本語に変えたKARAさんや少女時代さん。第3フェーズの頃には日本の中で韓国マーケットが出来上がってきていて、韓国で作ったものがそのまま日本で売れるようになり、その代表格がBIGBANGさんやEXOさんだと思っています。

そして第4フェーズが BTSさんやBLACKPINKさん。韓国で作られたものが、そのまま日本や世界に広がっていったという流れで、ここまでの景色は20年ほどかけて実現してきました。

それを間近で見ながら、われわれも日本の音楽をそのように海外に伝えられないだろうかと夢見ていました。最初は正直、「海外、特にアメリカで売るのは難しすぎるか?」と思ったこともありましたが、「ここはチャレンジしなきゃいけない」と強い思いで10年ほど前から取り組んできました。

テクノロジーの発展もあり、日本の音楽が世界で自然に聞かれる環境が整ってきた中に、日本特有のアニメやゲームのような人気カルチャーがあり、そこに音楽が広がっていった部分があると思います。 K-POPのフェーズの話で言うと、いきなり第3フェーズに飛び級した感覚で、良い意味で驚きました。われわれが今取り組んでいることは、海外のそれぞれのマーケット・文化に合わせて作っていく第1フェーズのやり方でもあるので、すごく難度は高くて、文化・慣習・規制などの壁には日々直面しています。

──今や日本や韓国の音楽が、国や地域の「壁」を超えて世界で展開していくようになりました。そのような音楽業界の変化に合わせて、アーティスト育成のあり方も変わってきているのでしょうか?

猪野:いろいろ変わりましたね。20年前はわれわれがやってきたJ-POPの良い部分を韓国側が吸収していくという部分が多かったですが、今はマーケティングやクリエイティブ面も含めて、われわれがK-POPから教わるべき部分が非常に多いです。10年ほど前から、日本でキラリと光るアーティストの卵たちを見つけて、K-POPの素晴らしいノウハウも取り入れながら育成しています。 この流れをどんどんスピードアップしていきたいですね。

近年日本のカルチャーが世界で評価されてきているので、日本らしさ、ユニークさを出していくことが、K-POPとの差別化にもなると思っています。世界の目を通したジャパニーズを意識することも大切ですが、日本人としてのアイデンティティを示すメッセージの方が伝わるものが大きいと感じています。

──日本のカルチャーというお話がありましたが、エイベックスは昔から音楽だけでなく文化も発信していましたよね。

猪野:そうですね、カルチャーやムーブメントを作ることは、とても重要視しています。僕らはもともとコンテンツがない会社だったので、イベントやトレンドでモメンタムを作ってビジネスにしていったんです。ムーブメントの中から、それに沿ったアーティストを生み出していき、コンテンツの世界に入っていったという歴史があるので、「業界の中で新しいことをやらないと誰も振り向かない」という思いがあります。

世界で勝負できるプロデューサーに求められる視座とリテラシーとは?

電通 在原
電通 在原

──アーティストを見いだし、世に出すプロデューサーについてお聞きします。その育成はどのようにされていますか?

猪野:これは、これまで脈々と伝えられてきたところで言うと、スタープロデューサーって、だいたいスタープロデューサーの横にいたんですね。

松浦(勝人氏、エイベックス代表取締役会長)も小室哲哉さんのそばにずっといて、どうやってヒットしているかを肌で感じていました。自分ならこうするな、とやってみたいと思っていたアイデアが、自分がプロデュースする立場になったときに発揮できたと思います。

もちろんもともとの才能もあると思いますが、日髙さん(光啓氏、株式会社BMSG 代表取締役CEO)も松浦を見ていたとか、そういう方が成功されていることが多いですね。

──会社の育成の枠組みで学ぶというよりは、徒弟制度のような方法なのですね。

猪野:もちろん、育成のための勉強会などもありますが、座学だけでは気づかないような点に気づく人が、スタープロデューサーやスターディレクターになるので。スターのそばでやり方やノウハウを検証している若手社員からは、僕らも刺激をもらっています。

──入社時からスタープロデューサーを目指している方もいますか?

猪野:多いですね。会社としては、そうした社員に対して、ビジネス面を鍛えるとか、デジタルをさわってみよう、営業現場でどういったものが売れているか感じよう、クリエイティブに行ってもらおうとか、そういうプロセスは踏みます。徒弟制度は歴史的に有効ですが、理論上はこういう知識をつけていこう、という育成方針はあります。

ただ、音楽業界にも優秀で熱意を持った人が増えていますが、3年たつとみんな会社の色に染まっていくのがいいことなのかは悩ましいですね 。知識は必要ですが、それは実現するための知識なので、アイデアは、ユーザーに近い純粋無垢な時代の感覚を持ってほしいと思っています。

僕がいつも社内で面談のときに言うのが、


「僕らが売っているものは音楽だけど、その先には音楽を生み出して力尽きているようなアーティストがいる。1回の投稿、1回のラジオオンエアのために、アーティストの人生を背負って、聴いてくれた人に感動を起こす仕事なんだよ」


ということです。頭の良さよりも、そのアーティスト、楽曲のことをずっと考えて、どうやって人に聴いてもらって喜ばれるかを考え続けることの方が大切な仕事なんですよね。

猪野氏
──そのように、アーティストとチームになって世界と戦える人材の在り方について、どう考えていますか?

猪野:日本には、世界で活躍できるクリエイターはたくさんいるけれど、圧倒的に足りないのが、グローバルなマーケティングができるビジネスプランナーです。プランナー、マーケターが世界と比べると少ない。国内向けにはいても、海外発信をしている人もメディアもプラットフォームもすごく少ない。それは韓国でPRやマーケティングすることが多くなって、すごく感じるところです。ここは、コンテンツチームだけでなく、日本国として、もっと発信力を持つべきだと思って、国やメディアとの会話を続けています。

エンタメビジネスのことや、日本の文化、日本と海外のやり方の違いが分かっていて、ビジネスにしていくことができる、そんなスペックの人材を日本で探すのは難度が高くて、結局韓国の方ばかりになることが多いです。

世界で愛されるアーティストになるために。

──今、グローバルで人気を集めているアーティストたちは、DEIリテラシーが高く、グローバル基準のものの見方をできることが共通点かと思います。Snow Manなど多くの人気ボーイズグループを擁するエイベックスですが、ここでは2グループについて伺います。

電通 増山
電通 増山

1つめがONE OR EIGHTです。育成を経てグローバルベースでデビューしましたが、どのような戦略がありましたか?

猪野:エンタメ業界の先達たちに学んで、日本でも世界でも、「それぞれの国のローカルチームがマネジメントを担うボーイズグループ」を作りたいと思いました。日本が少子高齢化になる中で、海外でビジネスをしなければとなったときに、アジア各地にローカルチームがいて、現地の文化も理解できて、ネットワーキングもできるということをやりたくて。そこでまず、ちゃんと世界基準のクオリティやスキルを身につけられる育成期間がある子たちをスカウトするところから始めました。

ONE OR EIGHTは、最初から海外を目指すというあまりない形、いわば名前の通り一か八かの戦略を立てました。K-POPの戦略はかなり学んだと思いますが、ナレッジがあるわけではないので、暗中模索の中で戦っていた感じはします。

先ほど言った通り、日本からの発信メディアがほぼない状態なのですが、半年経って、アジア、北米南米を回った時に、地球の裏側で、まだまだ少人数とはいえ熱狂が生まれていたことには、驚きもあり安堵もありました。日本、アジアのアーティストのマーケットが成長していることは肌で感じました。諸々の投稿やMVのコメントやフォロワーの7割が海外の方というのも、日本では非常に珍しい割合だと思います。

ONE OR EIGHT
ONE OR EIGHT

──アメリカでグローバルメジャー契約も結ばれました。

猪野:まずアジアから、と思っていましたが、デビュー曲のプロデューサーであるライアン・テダーに 「今、トレンドはTOKYOだ」と言われたり、BTSが活動休止中だから、アメリカでボーイズグループは非常に目新しい存在として捉えられると言われたり、大谷選手のフィーバーがあったり……アメリカで日本、日本人の価値が上がっている状況だったので、アメリカメディアもレーベルもファンも興味を持ってくれました。

日本人ボーイズグループとして初のUSRADIO TOP40にチャートインしたのも、そういった何か新しいアーティストがやってきたと思われた背景があったからだと思います。日本人から見たら変だなと思うところはあったと思いますが、アメリカから見た日本のクールさみたいな見え方を優先して制作していきました。

──次に伺いたいのが、日本の地上波でも展開されたオーディション企画発のBE:FIRST(BMSG所属)です。彼らも、世界ツアーを成功させました。

猪野:自分が、BE:FIRSTのことをコメントすること自体はおこがましいですが、僕の感想としてお話しすると、BE:FIRSTは、何よりプロデューサーである日髙さんの熱意とビジョンが素晴らしいと思っています。AAAという大きな看板のイメージも強かった中で、「プロダクションを作って勝負したい」という強い信念を持っていました。すべてのアーティストには才能があるという、自分がアーティストだからこそ感じた違和感みたいなものを、プロダクションの社長という立場で体現していると思います。

僕らは、「もちろんお手伝いさせてください」という立場でB-MEという共同レーベルを一緒に設立しましたが、オーディション番組の画面を通しても、日髙さんの熱量はどんどん伝わってきましたね。結果として生まれたBE:FIRSTは、まさに“愛される”IPそのものです。

K-POPにどんどん才能が流出する危機感がある中、それを乗り越えて勝ち上がった人だけがスターになっていくので、日髙さんもそういう勝負に出て、勝ったんだと思います。
 

BE:FIRST
BE:FIRST

──水面下で育成して海外から火をつけて売り出したONE OR EIGHTと、オーディション段階から広い年代の方に見守られて出てきたBE:FIRSTという2組ですね。この2組にも共通する、世界で活躍するアーティストの条件とはなんでしょうか?

猪野:世界基準はいわゆる完成品を出すということなので、言語とスキルはすごく重視されると思います。グローバルビジネスマナーやセンスがあり、日本文化を知り、カルチャーやビジネスを自分自身の言葉で言語化できる人というのが条件になります。

K-POPはわれわれより3歩くらい先を進んでいてナレッジもたまっていますが、日本はまだ海外にマーケットが出来上がってはいません。ただ、数を重ねていっていろいろな日本のアーティストが世界で活躍することによって、日本の文化圏の価値も上がっていくと思います。ボーイズも、ガールズも、シンガーソングライターもYouTuberもバンドもラッパーもいる面白い国だよねっていうマーケットを形成していきたいですし、それを発信するメディアやプラットフォームも作っていきたいです。

売り出し方も難度は高いのですが、K-POPが韓国で成功してから英語で海外マーケットに臨むナレッジがたまっているのに対し、日本はまだまだまだ成長過程なので、海外に受け入れられるアーティストを育て、メディアやプラットフォームを形成し、日本の文化の価値を上げていきたいと考えています。

猪野氏

以上、前編では、音楽マーケットとアーティストにまつわるお話を伺い、カルチャーや国の「壁を乗り越える」といったお話から、DEIリテラシーやグローバル基準のものの見方など、グローバルビジネスにおける「DEIな発信」のヒントを受け取りました。

後編では、そのビジネスを支える「人間力」の在り方、育み方をお伺いします。

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欧州最大級の脱炭素ファンド「EIT InnoEnergy」日本進出の意味…GX加速と国際競争力をめぐる新局面

●この記事のポイント
・欧州最大級の脱炭素ファンドEIT InnoEnergyが日本進出。資金とネットワークでGX加速に期待。
・バッテリー、水素、太陽光、カーボンクレジットなど日本市場で有望分野への投資が予測される。
・日本の強みは品質や製造力、弱点はスピード感。EIT参入で欧州規格適合やユニコーン誕生に現実味。

欧州発の巨額ファンドが日本へ

 2025年9月、欧州最大級の脱炭素ファンド「EIT InnoEnergy(イノエナジー)」が日本に進出するという報が流れ、エネルギー・環境業界に衝撃が走った。

 EIT InnoEnergyは欧州委員会からの支援を受け、再生可能エネルギー、蓄電池、グリーン水素など脱炭素関連産業を丸ごと立ち上げてきた実績を持つ。これまでに同社が投資した企業の資金調達総額は約6兆円を超え、ユニコーン企業も4社誕生している。単なる資金提供にとどまらず、「欧州バッテリー同盟」「欧州グリーン水素加速コンソーシアム」など、産業バリューチェーンをまるごと構築してきた存在だ。

 そんなEITが日本に拠点を置くことは、日本の脱炭素ビジネスにとってどんな意味を持つのか。業界関係者に話を聞いた。

日本市場で注力が予想される分野

 EIT InnoEnergyは、これまで欧州で「産業バリューチェーンの丸ごと立ち上げ」に力を発揮してきた。日本においても、その投資対象は明確だという。

(1)蓄電・バッテリー材料/製造・リサイクル
(2)グリーン水素・アンモニアと関連インフラ
(3)太陽光の国内製造回帰
(4)系統安定化(長時間蓄電や需給調整)

 さらに、EITはカーボンクレジット領域でも、モニタリングやデータ連携型オフセットを手がける企業へ投資実績を持つ。日本で成長しつつあるカーボンクレジット創出ビジネスに対しても、投資可能性は高いとみられる。

欧州と日本の制度・資金環境の違い

 欧州と日本では、脱炭素市場を支える制度や資金調達の仕組みに明確な違いがある。

・制度面
 欧州はEU-ETS(排出量取引制度)やCBAM(炭素国境調整メカニズム)を通じ、炭素コストが競争力の指標になっている。一方日本はGX-ETSが2026年度から本格制度化される段階で、クレジット価格の行方に注目が集まっている。

・資金調達面
 欧州では官民連携プログラムが充実し、EIT自身もEU資金アクセスのワンストップ支援を展開している。日本では大企業の影響力は強いが、実証実験止まりになりがちで、成長資金への接続が弱点だ。

・企業カルチャー
 欧州はアライアンスを組み「まずスケールさせる」文化があるのに対し、日本は品質や確実性を重視し、実証実験を積み上げながら進める傾向が強い。

日本企業の強みと弱点

 有識者は、日本企業の強みとして以下を挙げる。

・材料・部品・装置における精密製造力
・大規模サプライヤー網と品質保証
・水素・アンモニアプロジェクトの先行実証
・サステナブル調達やトレーサビリティに対する真面目さ

 一方で弱点は、意思決定の遅さ、国際規格や認証への対応力不足、そしてグローバル人材・資本の取り込みの弱さだ。「こうした弱みを補完する存在として、EITのネットワークや欧州資本の接続力に期待が寄せられています」と関係者は語る。

日本発ユニコーンは生まれるか

 EITの投資先企業は累計3兆円以上を調達し、4社がユニコーンに成長している。では、日本からも同様の成功は期待できるのだろうか。

「条件としては、初期から欧州市場を見据え、LCA(ライフサイクルアセスメント)やCBAMに適合した事業設計が必要です。サプライチェーン全体を巻き込んだ量産計画、EU資金や民間資金を段階的に活用できる調達設計も不可欠でしょう」

 日本の強みである精密製造や品質保証と、EITが持つ資金・ネットワークがかみ合えば、脱炭素分野で日本発ユニコーンが誕生する可能性は十分にある。

国際情勢と日本の立ち位置

 世界の脱炭素を巡る情勢は複雑だ。米国では政権交代の影響で政策の不確実性が高まり、投資の停滞も懸念される。一方、中国は圧倒的な製造力と価格競争力で世界市場を席巻している。

 そのなかで、日本が勝負できる立ち位置は「米欧市場に適合した品質と規格」だと関係者は指摘する。

「日本は信頼できる供給網、高品質、そしてEU規格に適合できる技術を持つ。米欧市場と相互運用可能な認証やデータ基盤を武器にすれば、中国との単純な価格競争ではなく、グローバルな橋渡し役になれる」

 EITの日本進出は、この「欧州規格側の正式メンバー」として日本企業を位置づける現実的な一手になりうるという。

日本のGX加速への期待

 日本政府はGX実行会議を通じ、20兆円規模のGX経済移行債を発行するなど、脱炭素関連投資を支援している。再生可能エネルギー、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)、地域資源を活用した分散型エネルギー、カーボンクレジットなど、国としても注力分野を明確にしている。

 今回のEIT進出によって、海外の先進技術や企業ネットワークが日本市場に流れ込み、日本発のGXビジネスを世界へ展開するための大きな後押しになると期待されている。

 関係者は次のように結んだ。

「EIT InnoEnergyが持つ知見とネットワークが加わることで、日本の脱炭素市場全体が活性化し、世界と肩を並べるイノベーションが生まれる可能性が高まります。私たちとしても、自然由来のカーボンクレジットを大規模に創出しつつ、グローバル市場に通用する仕組みづくりを加速させたいと考えています」

 EIT InnoEnergyの日本進出は、単なる資金流入ではなく、「欧州型の制度・市場の仕組み」と「グローバル資金への接続回路」を日本に持ち込むことを意味する。

 日本企業にとっては、自国の強みを生かしつつ弱点を補完し、欧州市場で競争力を確立するまたとないチャンスだ。GX実現の速度と国際競争力の行方を占う上で、今回の進出は大きな分水嶺となりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

参考:グリーンカーボン

空き家900万件時代、解体をDXしインフラ創出…社会課題を巨大ビジネス市場へ

●この記事のポイント
・空き家問題が深刻化する中、解体業界にDXを導入し、効率化と透明性を高めた起業家の挑戦を描く。
・レガシー産業の課題を機会に変え、社会課題解決と事業成長を両立させる経営戦略が明らかになる。
・解体を「終わり」ではなく「まちの再生の起点」と捉える発想が、新しい市場創出のヒントとなる。

 全国で空き家が900万件を超え、将来的には「3軒に1軒が空き家になる」と予測される日本社会。空き家は防災や治安、景観、資産価値に深刻な影響を与える社会課題として注目されている。そのど真ん中で、解体工事領域にテクノロジーを持ち込み、業界の変革と社会課題の解決を両立させようとしているのが株式会社クラッソーネだ。

 同社は「解体工事の一括見積もりサービス」を軸に事業を展開し、これまで2200社以上の工事会社が登録。全国152自治体とも提携するなど、解体業界におけるDXの先駆けとなっている。創業者で代表取締役CEOの川口哲平氏に、事業を通じて見えてきた市場機会と経営の学びを聞いた。

●目次

創業の原点──「『街』の循環再生文化を育む」

 クラッソーネは2011年に創業された。当初は注文住宅やリフォーム事業も手がけていたが、2019年にエクイティ調達を実施し、解体工事領域に集中する方向へ大きく舵を切った。川口氏が掲げるビジョンは「『街』の循環再生文化を育む」。

「解体というと“壊すだけ”のネガティブなイメージがつきまといますが、実は資材の95%以上はリサイクルされています。解体は循環型社会の重要な起点であり、まちを次の世代につなぐための再生事業なんです」

 解体を「終わり」ではなく「始まり」として位置づけ直す。この視点が、クラッソーネの独自性を形作っている。

空き家問題は「ニッチに見えてマス」な市場

 現在、日本の空き家数は約900万件にのぼる。総住宅数の13%に相当し、今後さらに増加することが予想される。放置空き家は景観や安全性を損なうだけでなく、不動産価値の下落を通じて経済全体にも悪影響を及ぼす。クラッソーネが代表理事企業を務める「全国空き家対策コンソーシアム」の試算では、5年間で約3.89兆円の損失になるという。 

 川口氏はこう語る。

「解体工事の市場は一見ニッチに見えるかもしれません。しかし、空き家問題が本格化するこれからは、誰もが向き合わざるを得ないテーマになります。マーケットサイズは想像以上に大きいのです」

 創業当初の需要は主に建て替えに伴う解体だったが、いまは「家じまい」需要が急増している。親世代が住んでいた住宅を相続した子ども世代が、住む予定もなく維持管理が難しいために解体を決断するケースが増えているのだ。

「社会課題に直結したニーズは、必ずしも華やかではありません。ですが、だからこそ本質的で強い。ニッチに見えても、実はマスマーケットにつながっていることが多いんです」

レガシー業界の課題に挑む

 解体業界には長らく構造的な課題があった。

 第一に、価格の不透明さである。同じ建物を解体するにも、見積もり額が業者によって大きく異なる。素人の施主にとって適正価格が分かりにくく、結果として不信感やトラブルが生じやすい。

 第二に、品質基準の曖昧さだ。法令遵守や安全対策にコストをかける業者と、最低限の対応しかしない業者が同列に比較され、価格競争に陥りやすい構造があった。

 クラッソーネはここに「透明化」という武器を持ち込んだ。複数社から見積もりを提示し、口コミや実績を可視化。工事会社には反社チェック、許可証の確認、風評調査を徹底。さらに、万一の工事トラブルを保証する仕組みも備えている。

「解体工事の発注経験がある人はほとんどいません。だからこそ、不安を払拭し、安心できる仕組みをつくることが最大の価値になる。そこにテクノロジーと仕組み化の余地が大きくありました」

自治体との連携──スタートアップが社会インフラになる道

 クラッソーネの大きな特徴は、自治体との積極的な連携だ。現在、152の自治体と協定を結び、横浜市・札幌市・神戸市など政令指定都市にも広がっている。

「多くの自治体には空き家相談窓口がありますが、実際に解体工事まで伴走する仕組みは整っていません。クラッソーネがその役割を担うことで、行政サービスを補完できるのです」

 自治体にとっても、放置空き家の解消は大きな課題。そこにスタートアップがテクノロジーとネットワークを提供することで、公共と民間の協働モデルが生まれた。これは他の社会課題領域の起業家にとっても示唆に富む事例だろう。

 プラットフォーム型ビジネスには「鶏と卵問題」がつきまとう。顧客がいなければ業者が集まらず、業者がいなければ顧客も集まらない。

 川口氏はこう振り返る。

「最初はとにかく一社一社、丁寧に口説いて登録してもらいました。業者さんからすれば『また変な仲介サービスかもしれない』という警戒も強かった。でも、実績と口コミが積み重なるにつれ、『違法業者と一緒に比較されたくないからこそ登録する』という動機が生まれてきたのです」

 登録業者数が増え、信頼できる施工事例が可視化されると、顧客の利用も増加。顧客が増えることでさらに業者の登録が加速する。こうしてネットワーク効果が回り始め、成長フェーズに入った。

 クラッソーネの挑戦からは、スタートアップ経営者にとって多くの学びが得られる。

(1)ニッチに見える市場を掘り下げよ
一見小さな市場に見えても、社会課題に直結していれば大きな成長ポテンシャルがある。

(2)レガシー業界の「不」を解消するDXは強い
不透明さや非効率をテクノロジーで可視化し、信頼を生み出すことで大きな付加価値を提供できる。

(3)自治体や既存プレイヤーを巻き込め
社会課題ビジネスは単独で広がりにくい。公共や地域プレイヤーと協働することで一気にスケールする。

(4)プラットフォームは“信頼の積み重ね”で回り出す
初期の登録者・利用者の信頼を勝ち取ることが、後のネットワーク効果につながる。

 川口氏は最後に、今後の展望についてこう語った。

「解体はゴールではなく、地域の再生のスタートです。更地になった土地をどう活用するか、建築や不動産、リノベーションへと広がっていく。その入口としてクラッソーネが機能することで、まち全体の循環が生まれると考えています。」

 解体という一見地味な領域を、社会課題の解決と事業成長の両輪で挑むクラッソーネ。そこには「スタートアップが社会インフラになる」という未来像が見えてくる。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

空き家900万件時代、解体をDXしインフラ創出…社会課題を巨大ビジネス市場へ

●この記事のポイント
・空き家問題が深刻化する中、解体業界にDXを導入し、効率化と透明性を高めた起業家の挑戦を描く。
・レガシー産業の課題を機会に変え、社会課題解決と事業成長を両立させる経営戦略が明らかになる。
・解体を「終わり」ではなく「まちの再生の起点」と捉える発想が、新しい市場創出のヒントとなる。

 全国で空き家が900万件を超え、将来的には「3軒に1軒が空き家になる」と予測される日本社会。空き家は防災や治安、景観、資産価値に深刻な影響を与える社会課題として注目されている。そのど真ん中で、解体工事領域にテクノロジーを持ち込み、業界の変革と社会課題の解決を両立させようとしているのが株式会社クラッソーネだ。

 同社は「解体工事の一括見積もりサービス」を軸に事業を展開し、これまで2200社以上の工事会社が登録。全国152自治体とも提携するなど、解体業界におけるDXの先駆けとなっている。創業者で代表取締役CEOの川口哲平氏に、事業を通じて見えてきた市場機会と経営の学びを聞いた。

●目次

創業の原点──「『街』の循環再生文化を育む」

 クラッソーネは2011年に創業された。当初は注文住宅やリフォーム事業も手がけていたが、2019年にエクイティ調達を実施し、解体工事領域に集中する方向へ大きく舵を切った。川口氏が掲げるビジョンは「『街』の循環再生文化を育む」。

「解体というと“壊すだけ”のネガティブなイメージがつきまといますが、実は資材の95%以上はリサイクルされています。解体は循環型社会の重要な起点であり、まちを次の世代につなぐための再生事業なんです」

 解体を「終わり」ではなく「始まり」として位置づけ直す。この視点が、クラッソーネの独自性を形作っている。

空き家問題は「ニッチに見えてマス」な市場

 現在、日本の空き家数は約900万件にのぼる。総住宅数の13%に相当し、今後さらに増加することが予想される。放置空き家は景観や安全性を損なうだけでなく、不動産価値の下落を通じて経済全体にも悪影響を及ぼす。クラッソーネが代表理事企業を務める「全国空き家対策コンソーシアム」の試算では、5年間で約3.89兆円の損失になるという。 

 川口氏はこう語る。

「解体工事の市場は一見ニッチに見えるかもしれません。しかし、空き家問題が本格化するこれからは、誰もが向き合わざるを得ないテーマになります。マーケットサイズは想像以上に大きいのです」

 創業当初の需要は主に建て替えに伴う解体だったが、いまは「家じまい」需要が急増している。親世代が住んでいた住宅を相続した子ども世代が、住む予定もなく維持管理が難しいために解体を決断するケースが増えているのだ。

「社会課題に直結したニーズは、必ずしも華やかではありません。ですが、だからこそ本質的で強い。ニッチに見えても、実はマスマーケットにつながっていることが多いんです」

レガシー業界の課題に挑む

 解体業界には長らく構造的な課題があった。

 第一に、価格の不透明さである。同じ建物を解体するにも、見積もり額が業者によって大きく異なる。素人の施主にとって適正価格が分かりにくく、結果として不信感やトラブルが生じやすい。

 第二に、品質基準の曖昧さだ。法令遵守や安全対策にコストをかける業者と、最低限の対応しかしない業者が同列に比較され、価格競争に陥りやすい構造があった。

 クラッソーネはここに「透明化」という武器を持ち込んだ。複数社から見積もりを提示し、口コミや実績を可視化。工事会社には反社チェック、許可証の確認、風評調査を徹底。さらに、万一の工事トラブルを保証する仕組みも備えている。

「解体工事の発注経験がある人はほとんどいません。だからこそ、不安を払拭し、安心できる仕組みをつくることが最大の価値になる。そこにテクノロジーと仕組み化の余地が大きくありました」

自治体との連携──スタートアップが社会インフラになる道

 クラッソーネの大きな特徴は、自治体との積極的な連携だ。現在、152の自治体と協定を結び、横浜市・札幌市・神戸市など政令指定都市にも広がっている。

「多くの自治体には空き家相談窓口がありますが、実際に解体工事まで伴走する仕組みは整っていません。クラッソーネがその役割を担うことで、行政サービスを補完できるのです」

 自治体にとっても、放置空き家の解消は大きな課題。そこにスタートアップがテクノロジーとネットワークを提供することで、公共と民間の協働モデルが生まれた。これは他の社会課題領域の起業家にとっても示唆に富む事例だろう。

 プラットフォーム型ビジネスには「鶏と卵問題」がつきまとう。顧客がいなければ業者が集まらず、業者がいなければ顧客も集まらない。

 川口氏はこう振り返る。

「最初はとにかく一社一社、丁寧に口説いて登録してもらいました。業者さんからすれば『また変な仲介サービスかもしれない』という警戒も強かった。でも、実績と口コミが積み重なるにつれ、『違法業者と一緒に比較されたくないからこそ登録する』という動機が生まれてきたのです」

 登録業者数が増え、信頼できる施工事例が可視化されると、顧客の利用も増加。顧客が増えることでさらに業者の登録が加速する。こうしてネットワーク効果が回り始め、成長フェーズに入った。

 クラッソーネの挑戦からは、スタートアップ経営者にとって多くの学びが得られる。

(1)ニッチに見える市場を掘り下げよ
一見小さな市場に見えても、社会課題に直結していれば大きな成長ポテンシャルがある。

(2)レガシー業界の「不」を解消するDXは強い
不透明さや非効率をテクノロジーで可視化し、信頼を生み出すことで大きな付加価値を提供できる。

(3)自治体や既存プレイヤーを巻き込め
社会課題ビジネスは単独で広がりにくい。公共や地域プレイヤーと協働することで一気にスケールする。

(4)プラットフォームは“信頼の積み重ね”で回り出す
初期の登録者・利用者の信頼を勝ち取ることが、後のネットワーク効果につながる。

 川口氏は最後に、今後の展望についてこう語った。

「解体はゴールではなく、地域の再生のスタートです。更地になった土地をどう活用するか、建築や不動産、リノベーションへと広がっていく。その入口としてクラッソーネが機能することで、まち全体の循環が生まれると考えています。」

 解体という一見地味な領域を、社会課題の解決と事業成長の両輪で挑むクラッソーネ。そこには「スタートアップが社会インフラになる」という未来像が見えてくる。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

「防災の話、家族としたことある?」半数が“ゼロ”と回答 Simejiが診断機能で会話を後押し

●この記事のポイント
・「Simeji」を提供するバイドゥが、防災週間にあわせて防災に関する意識調査を行った。
・「家族と防災を話したことがない」との回答は全体の約3割に上ったほか、「覚えていない」との回答も2割近くを占めた。
・全体として、家庭内の防災コミュニケーション不足が浮き彫りとなった。

「家族と防災について話したことがない、あるいは覚えていない」と回答した人が約半数に上る――。スマホ向けキーボードアプリ「Simeji」を提供するバイドゥが、防災週間にあわせて実施した意識調査で、家庭内の防災コミュニケーション不足が浮き彫りとなった。

 調査は8月25日~30日にかけて、全国のSimejiユーザーを対象にアプリ内アンケートで実施(有効回答数8,793件)。「家族と防災を話したことがない」との回答は全体の約3割、「覚えていない」との回答も2割近くを占め、Z世代から29歳以上の層まで「防災会話が定着していない」現状が示された。

会話を阻む要因と、話すきっかけ

 防災について「話したことがない」理由には、「知識がない」「災害が少ない地域に住んでいる」「忙しくて時間がない」といった声が多く寄せられた。反対に「話したことがある」理由には、学校での授業やニュース報道、非常袋の確認など“外部からのきっかけ”が多いことも明らかになった。

 一方、防災の話を「切り出しにくい」と感じる人は3人に1人にのぼり、その理由は「気まずさ」「親が真剣に聞かなそう」「難しそうで分からない」といった心理的ハードルが上位を占めた。必要性は感じながらも、家族内で会話が生まれにくい状況が浮かび上がっている。

備えはあるが“偏り”も

 調査では、7割以上が「防災グッズを備えている」と回答したが、“十分”と答えた人は26.6%にとどまった。備えの中心は懐中電灯や飲料水、ウェットティッシュなど生活必需品が多い一方で、簡易トイレや非常用バッテリーといった災害時に欠かせないアイテムは4割前後にとどまり、備えの偏りが課題となっている。

 また「家族と防災チェックリストを一度もやったことがない」と答えた人は72.6%。日常的な点検や共有が定着していない実態も示された。

Simejiが提供する新機能

 こうした状況を踏まえ、Simejiは9月5日から新機能「防災タイプ診断 with 防災ノート」を公開した。防災アドバイザー・岡部梨恵子氏監修のもと、災害時の行動傾向を16タイプに分類し、それぞれの特徴や注意点を提示する仕組み。診断結果はSNSでシェア可能で、会話のきっかけづくりに活用できる。

●特徴1:防災タイプ診断
災害時を想定した設問に答えると、性格や行動傾向から16タイプに分類。各タイプに応じた「特徴」「陥りやすい落とし穴」「おすすめ行動」を提示し、診断結果はSNSでシェアできる。

●特徴2:防災ノート
診断結果に基づき、自分専用の「#my防災ノート」を自動生成。専門家監修の備蓄品リストや家族のサポート項目を収録し、スマホで管理・更新できる。

●特徴3:シェア&キャンペーン
診断結果をSNSでシェアすると抽選で防災グッズが当たる。診断から保存・共有までの一連の流れを通じ、家族や友人との会話を促す仕組みとなっている。

 さらに、診断結果をもとに「#my防災ノート」を自動生成。専門家監修の備蓄品リストや家族のサポート項目をスマホ上で記録できる。紙では続きにくいチェックリストをデジタル管理することで、習慣化につなげる狙いだ。Simejiを提供するバイドゥは「若い世代から家庭へ、さらに学校や地域へと“新しい防災コミュニケーション”が広がるきっかけになれば」としている。

■キャンペーン情報
・体験可能期間:2025年9月5日(金)17:00~未定
・参加方法:Simeji公式Xアカウントのキャンペーン投稿またはアプリ内バナーからアクセスし、診断を受けた後に結果をシェア。
・賞品:投稿者の中から抽選で5名に、防災アドバイザー厳選「防災グッズセット」をプレゼント。当選者には10月15日(水)までにDMで通知される。

※本サービスは、予告なく終了となる場合があります。

※詳細はSimeji公式Xアカウントまたはアプリ特設ページを参照してください。

・HP:https://simeji.me/
・X(旧Twitter):https://twitter.com/Simeji_pr
・Simejiランキング:https://simeji.me/?p=news
・iOS版:https://itunes.apple.com/jp/app/id899997582?mt=8
・Android版:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.adamrocker.android.input.simeji

※本稿はPR記事です。

テスラ、EV低迷を背景に電力小売事業へ …「家庭の電力×蓄電池×EV」をつなぐ新戦略

●この記事のポイント
・テスラが電力小売り事業に参入、EVや蓄電池・ソーラーと連動した統合的エネルギー戦略を展開。
・再エネ普及と電力地産地消の流れを背景に、家庭・企業向けに「発電から消費まで」を一元化。
・EV販売に留まらず、電力プラットフォームを狙う挑戦で、規制や競合動向にも注目が集まる。

 近年、世界的に注目を集めてきた米テスラのEV(電気自動車)が、2025年に入り販売台数を大幅に減少させていると報じられている。欧州では4月の前年同月比で約半減、イギリスでは7月のEV登録が約60%も減少したとの数字もある。

 テスラはなぜ、これほどの販売不振に陥っているのか。ITジャーナリストでロボスタ編集長の神崎洋治氏は、その背景について「主に三つの要因がある」と指摘する。

●目次

EV販売不振の3つの要因

 EV市場の競争激化 中国のBYDやウーディンといった地場メーカーが急速に成長を遂げており、テスラのシェアを押し下げている。市場全体のパイが拡大する中で、テスラが相対的に押されている状況である。

 イーロン・マスクCEOの政治的関与 イーロン・マスク氏の政治的な発言や行動が、特に米国や欧州でのブランドイメージに影響を及ぼしている。従来、高級車の部類に入るテスラにとって、ブランド価値の低下は販売に直結する大きな問題である。

 主力モデルのアップデート停滞 主力モデルである「モデル3」や「モデルY」の性能アップデートが、他社に比べて停滞しているとの指摘もある。技術の進化が目覚ましいEV市場において、この停滞はテスラの魅力度を損ねる要因となっている。

 これらの要因が重なり、テスラの販売落ち込みに直結していると神崎氏は分析する。

EV不振への対応策「電力小売事業」の全貌

 こうした状況下で注目されるのが、テスラの「電力小売事業」への本格参入である。実はテスラは、2015年頃からすでにエネルギー事業に着手していた。

「EVは大量の電力を消費するため、そのあたりのところを利用して、家庭に『パワーウォール』という蓄電池システムを設置した」と神崎氏は語る。このシステムをソーラーパネルと組み合わせることで、余剰電力を販売したり、電力料金が高い時間帯に蓄電池から電力を供給したりするなど、家庭のエネルギーコストを最適化する仕組みを構築した。

 テスラがこの事業へ本格的に力を入れ始めたのは、2021年頃である。「テスラ・エナジーベンチャーズ」として、小売電力事業者としての登録を完了。そして、「仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)」事業をテキサス州で展開し始めた。これは、各家庭に分散して設置された蓄電池をネットワークでつなぎ、まるで一つの巨大な発電所のように機能させるシステムである。これにより、従来の電力会社とは異なる、効率的なビジネスモデルを確立したのである。

後発ながらテスラが持つ圧倒的な強み

 なぜ今、テスラは欧州で電力事業を拡大するのか。神崎氏はその理由を「欧州でEV販売が落ち込む中、既存のユーザーに対して価値を提供する戦略」だと説明する。

 報道によると、英国ではすでに25万台のテスラEVが販売され、数万台のパワーウォールが導入済みである。これらの既存ユーザーは、改めて設備を導入する必要がないため、サービスへの「参加障壁が非常に少ない」のである。

 ユーザーは、電力小売り事業に参加することで、例えば「月額6万円ぐらいの収入」を得られる仕組みとして紹介されており、経済的なメリットを享受できる。EV販売が伸び悩む中でも、テスラは既存ユーザーとの関係を強化し、新たな収益源を生み出そうとしている。

 電力事業としては後発となるテスラだが、神崎氏はその優位性を次のように指摘する。

「テスラは、すでに多くの家庭にパワーウォールという蓄電システムを導入しているという、いわゆる“下地”があることが最大の強みである。ゼロから蓄電池の導入を促すのは大変なコストと時間がかかるが、テスラはすでにある基盤を活かせる」

 さらに、電力小売事業とEV事業は、消費者の利便性向上という点でも密接に結びついている。停電リスクへの備えや、EVの安定的な充電といったメリットは、テスラ製品のパッケージとしての価値を高めている。

EVと電力事業の「両立」で進む未来

 テスラは今後、主力事業をEVから電力事業に変えていくのだろうか。神崎氏は「EVと電力事業は一体として進めていくのが、非常に効率が良い」と述べ、二本柱として両事業を展開する合理性を強調する。

「どれだけ利益が出ているか、加入者数がどれだけいるかなど、公的な情報は限られているので予測は難しい。しかし、家庭への浸透度の高さや、既存ユーザーの収益化可能性の大きさから、電力事業も一気に成長する可能性は高い」

 テスラの戦略は、単なる車の販売から、EV、蓄電池、太陽光発電、そして電力小売りを統合した「エネルギーのプラットフォーム」を構築することへとシフトしている。この統合型アプローチは、従来の自動車メーカーや電力会社にはない、テスラ独自の競争優位性を生み出している。

 テスラの電力小売り事業参入は、EV販売減少という課題への対応であると同時に、エネルギー領域での長期的なプラットフォーム戦略の一環である。今後、EVと電力事業のシナジーを活かした新たな収益モデルが、テスラの競争力を再び押し上げる可能性が高いといえる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=神崎洋治/ITジャーナリスト)

【Reflection】

アーティゾン美術館

「あの展覧会、素晴らしかったですね!」

そんな雑談を、社会課題を背景に制作している旧知のアーティストである林田真季さんとしていた。この熱量を雑談からもう一歩だけ進めてみたいと思った。思い切って連絡を取ってみた。

アーティゾン美術館
アーティゾン美術館は、1952年開館のブリヂストン美術館を前身とし、約4年半にわたる建て替えと館名変更を経て、2020年1月、最新の設備を備えた美術館として同じ東京・京橋の地に開館した

舞台はアーティゾン美術館(東京・京橋)。

「ARTIZON」とは、「ART」と「HORIZON」を組み合わせた造語だそうだ。実際に足を運んでみると、約3000点のコレクションを背景に、教科書でも見たことがあるようなとても有名な作品をリアルで目にすることができる。

今回、林田さんとの雑談のきっかけになった展覧会「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展(2025年6月24日-9月21日)を担当された学芸員の上田杏菜さんに、アートの地平を押し広げる一つの象徴的な事象、「オーストラリア美術コレクション」のお話を中心に伺った。より深い対話になるよう、聞き手は林田真季さんにお願いした。

美術館に行くと価値観が揺さぶられたとか、景色が変わったとか、そんな言われ方をよく耳にしたりもするが、その舞台が東京駅から歩いてちょっとのところに、本当にあるのだ。(宮川裕)

アーティゾン美術館学芸員 上田杏菜さん
アーティゾン美術館学芸員 上田杏菜さん
聞き手 林田真季さん
聞き手 林田真季さん

──私は今回の展覧会を観る前と観た後で、「アボリジナル・アート」と聞いて思い浮かぶものががらりと変わりましたが、「アボリジナル・アート」とは何を指すのでしょうか?

オーストラリアの先住民の人たちの芸術であるというのが大前提にあります。そして「アボリジナル・アート」と呼ばれる場合は主に視覚美術をさしています。伝統の部分と現代社会を反映している部分の二つの側面があり、両方をオーバーラップさせて作品を制作している作家もいれば、どちらかを追求している作家もいます。

オーストラリアの先住民の文化は、現存する世界最古の文化形態の一つと言われています。彼らは文字を持たなかったので、芸術的・身体的な表現を用いて文化を紡いできました。そういった部分がアートとして表出したものが伝統の側面にあたります。たとえば儀式のときに身体に施すボディ・ペインティングのデザインを絵画のモチーフにしたり、「ドリーミング」という神話の物語を砂に描いたりするのですが、砂絵の模様が絵画作品になっている場合などがあります。

現代社会の反映としてのアボリジナル・アートについては、イギリスの植民地としてたどってきたオーストラリア社会の歩み、その歴史が強く影響しているところがあります。先住民の人たちが経験してきたできごとを現代の作家はもう一度見つめ直して、アボリジナルの歴史としてもう一度つなぎ直す、語り直す作業をしている。現代社会において彼らが日常的に経験していること、ポジティブであってもネガティブであっても、それを着想源として作品に反映しています。伝統の面と、歴史と地続きの現代社会が反映された面が作品になっている、それがアボリジナル・アートの全体像だと思っています。

アーティゾン美術館
左:ユーカリの樹皮に彩色する「バーク・ペインティング」の解説 中央:吊るす展示により360度鑑賞可能 右:ユーカリの樹皮であることがよくわかる作品の裏面(展示風景より)
ノンギルンガ・マラウィリ《ボルング》2016年、天然オーカー・樹皮、石橋財団アーティゾン美術館
© the artist ℅ Buku-Larrŋgay Mulka Centre

──アボリジナルのバックグラウンドを持つということは、オーストラリアではどのように捉えられているのでしょう?

オーストラリアでは、作家へのレジデンスプログラムやフェローシップなどで、アボリジナルのバックグラウンドがないと応募できないものがあったりします。キュレーター職でも、アボリジナルのルーツを持っている人が優先される場合もあります。当事者の目線を大事にするという側面もありますし、オーストラリアは多文化主義を掲げているため政策的な面もあります。今やアボリジナルのバックグラウンドしかもっていない人はあまり多くはなく、ヨーロッパ系やアジア系などのミックス・ルーツをもつ人のほうが多いと思います。自分の中に複数のルーツがあったとして、どのアイデンティティを打ち出すかといったときに、アボリジナルのルーツを選択する作家はけっこう多いですね。

また複数のルーツ、言わばいくつものレンズを複層的にかさねて作品を制作し、それによって面白いレイヤーを生み出していたりします。やっぱり、こういうことがアートが可能にする語りの豊かさなんだなと思います。いろんなストーリーを引き出しながら、一つの作品にそれらを要素として入れることができる。現地に行くと、そういう作家は本当に多く活躍しています。

──アーティゾン美術館のオーストラリア美術のコレクションは、アボリジナル・アートの比率が高いことがユニークですよね。また、その中でも女性作家の作品を多く収集している印象を受けました。そこにはどのような意図があるのでしょうか?

オーストラリアの現代美術は女性作家の活躍が顕著であり、その多くが先住民のバックグラウンドを持っています。当館がオーストラリア美術のコレクションを拡充していく中で、必然的に女性作家の作品が増えていき、現在ではコレクションの約7割が女性作家によるもので、その全員がアボリジナルをルーツに持っています。オーストラリア美術を収集し始めたころは、作家の性別にこだわることなく、良い作品を集めていこうというところからスタートしていたのだと思います。

そこから、研究や展示活動などを通じて作品の背景やテーマをより深く掘り下げていく中で、現在のコレクションのかたちが形成されてきました。「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展は、これまでの収集活動と研究の成果でもあります。

イワニ・スケースの《えぐられた大地》という作品を本展で展示しましたが、これは2024年に新収蔵しました。微量のウラン酸化物が含まれた42個の吹きガラスからなる作品で、オーストラリアのウラン資源採掘とそれによって引き起こされる環境問題をテーマにしています。ウランはもちろん核兵器の原料となる元素であり、 それは冷戦期にスケースの祖先の土地で行われたイギリスによる核実験と深く関わります。1956年から1963年にかけて行われた核実験は、いまだにそこに戻ることはできない状況をつくったわけですが、それはオーストラリアでもあまり語られてこなかった歴史です。日本は唯一の被爆国ですが、作品鑑賞を通じてこういったオーストラリアの歴史にも思いを寄せる、共感することができるのではないか。つまりわれわれにとってアボリジナル・アートとは、異国の文化を受容するためだけのもの、ではないと考えています。時代も場所も違いますが、そういったものを超えられるのがアートの持つ力なのだと思っています。今も世界で核武装による脅威はずっと続いていますが、作品や展覧会を通じて、そこに対する問題意識を持ち続ける、そういうふうに続いていくといいなと。

アーティゾン美術館
展示室をブラックライトで照らした視覚訴求(展示風景より)
イワニ・スケース《えぐられた大地》2017年、ウランガラス(宙吹き)、石橋財団アーティゾン美術館
© Courtesy the Artist and THIS IS NO FANTASY

また、この展覧会におけるコレクションの活かし方として、マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリの《私の祖父の国》を展示の最後に持って行ったというのがあります。5階から4階に降りると、印象派や日本の近代洋画などを中心としたコレクションを紹介する展示室になるのですが、一気にモダンの作品群の世界になります。ガボリの作品は抽象的な絵画なので、4階とうまくつなぐ意図もあり、最後に展示しました。彼女のコミュニティは伝統的な視覚表現をもともと持っておらず、またガボリは西洋の美術教育も受けていないため、作品に描かれるイメージは作家自身の内側から出てきた独自の表現です。アボリジナル・アートはこういうもの、という固定したイメージがあった人にとっては、そこをきれいに打ち破ってくれる作品だと思います。私たちが持っている固定観念を解放してくれる、そんな作品も当館のコレクションです。

アーティゾン美術館
左:5階から4階を見下ろせる吹き抜け 右:4階へ下りるとコレクション選の会場(展示風景より)

10月からは「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着」展を開催予定です。ジャム・セッションは、現代作家が当館学芸員と協働して当館のコレクションを選び、作家自身の作品とともに新しい見せ方を提示する企画です。その一つとして、参加作家である山城知佳子さんが選んだ作品が、ジンジャー・ライリィ・マンドゥワラワラの《四人の射手》でした。土地創造神話(ドリーミング)の物語が具象的に描かれている作品で、当館のいろいろな企画でアボリジナル・アートの多様な表現を紹介できることは、コレクションとして作品を収蔵していることのメリットです。

さらに、オーストラリア美術の話でいうと、2026年1月には、リンディ・リーという作家の屋外彫刻が完成する予定です。両親が中国からの移民ということで、彼女はいわゆる移民2世のオーストラリアの作家です。この作品は、当館の屋外彫刻プロジェクトの作品の一つです。ご期待ください。

──アーティストとキュレーターは厳密には役割が違うとはいえ、私はキュレーターも広義な意味での「アーティスト」だと思っています。上田さんはキュレーターとしてどのようなことを心がけているのですか?

キュレーターとして心がけていることは、まず、先人たちがいて自分がいる、ということ。印象派などの展覧会に比べると日本でのアボリジナル・アートの展覧会って本当に数は少ないんですが、私がすごく影響を受けた2008年のエミリー・カーマ・イングワリィの展覧会も、それを開催しようと尽力した方々がいました。アボリジナル・アートの魅力を日本に紹介しようとしてくださった方々が、世代を超えているんです。もちろんまだあまり日本で紹介されていない分野であるのは事実ですが、実は地道に活動をしている美術館や研究者の方々がいて、自分はその延長線上に今いるだけと思っています。同様に、当館のアボリジナル・アート・コレクションを鑑賞して興味を持ち、この分野の展覧会をやってみようと行動を起こす人が未来に現れるかもしれない。徐々に醸成してくる、根付いてくるものだとすると、長いスパンで見ていくものなのかなと思っています。

アーティゾン美術館
(展示風景より)

また、幅広いコレクションを収蔵している美術館のキュレーターとして、他の分野のコレクションについても知識を深め展示活動をおこなっています。他分野の作品を知ることで、自身の専門分野を相対的に見直すことができ、新たな視点を得るきっかけにもなります。その上で、自分の専門性、私であればオーストラリア美術だったりしますが、そこで最善を尽くしてやる。たとえば、イワニ・スケースの《えぐられた大地》を収集候補として提案したとき、まわりは必ずしももろ手を挙げて賛成、というわけではありませんでした。というのも、当館では絵画以外のアボリジナル・アートを収蔵するのは初めてで、しかも素材がガラスという点も、新たな試みだったからです。そのため作品の背景や価値を共有するのにいつもより時間がかかりました。今回の展覧会で初めて展示したのですが、「これは収集してよかったね!」と納得の声が上がるようになりました。作品はシンプルな見た目で美しいため、来場された方々は、きれいという印象だけで終わってしまうのかな、もう一歩先のところまで掴んでくれるのかな、と少し不安な部分がありました。でもSNSなどで反応を見ていると、深く掴んでくださっている方がけっこう多くて。思った以上に来場してくださった方々はテーマをきちんと受け止めてくれている、というのが素直な実感です。

──最後に、ビジネスパーソンがアートに触れることについて、上田さんのお考えを聞かせていただけますか?

私は、アートは私たちが生きる社会の一部だと思っています。アートの先には、社会があって自分がいる。アートを見ていると、その先に今の自分が見えてくる。今の自分はどういう状況なのかとか、そこから先どうなりたいのかとか、そういうことをリフレクションとして戻してくれるのがアートだなって感じています。

ビジネスパーソンにおけるアートと考えたとき、アートという新しい知識を増やしてビジネスパーソンとしてのボキャブラリーを増やす、そういうことよりも、自分の内側に何か戻してくれるもの。そう思うと、そんなに敷居が高いものと思わず、ふらっと美術館に行って、素の自分のままで作品と向き合って、そこで素直に対話してみてはどうでしょうか。作品との対話だけど、多分その先には自分との対話がある。アートにはそういう見方もあるということを、ビジネスパーソンの方にも知ってもらえるといいな、と思っています。

アーティゾン美術館

自分になじみのない歴史や文化、社会課題を背景とするアート作品ならびに展覧会は、それらを通してただ「知る」だけではなく、自分たちの生きる社会や文化と照らし合わせて思いを巡らせるものという考えに、私は強く共感しました。アートという手段でメッセージを伝える醍醐味はここにあるように思います。(林田真季)

アーティゾン美術館

画像制作:岩下 智