Z世代の「海外旅行離れ」は国際意識の低下を招くのか?

電通デザイアデザイン(DDD)は消費と欲望の関係から、さまざまなソリューション開発や情報発信を行う組織です。

第21回からは、DDDが実施している「心が動く消費調査」を分析。調査結果から得られたインサイトやファインディングスをお伝えしています。

今回は、2024年11月に実施した第9回の調査結果に基づき、DDDの小野江理子が若者の国際感覚をテーマに調査の結果を考察します。

仮説:海外旅行経験の有無と国際意識の低下は相関しない?

2024年、国内の外国人労働者は約230万人に増加、訪日外国人旅行客は過去最多ペースで増加しており、国内ではインターナショナルな空気感のある街も増えてきました。

一方、コロナの流行が去り、出国日本人数は2024年1301万人に回復しましたが、コロナ前の水準までは到達していません。日本人のパスポートの保有率は、6人に一人、17%にまで落ち込んでおり、とりわけ、若者の海外旅行離れや国際意識の低下を不安視する情報をよく目にするようになりました。

実際のところ、海外旅行は、円安・物価高の影響で、若者だけでなく、年代関係なしに、なかなか手の届きにくいものになっていると感じます。

SNSの発展で情報はボーダレスになり、多くの外国人が国内にいる状況のなか、「海外旅行に行かないことが、Z世代の国際意識の低下につながるわけではない」との仮説を立て、調査を進めました。

なお、厳密な定義は無いものの「Z世代」と呼ばれていた層は、今年おおむね15歳~29歳になっています。当調査では10代は15歳~19歳に聴取しているので、便宜上、この記事の中では、15歳~29歳をまとめて「Z世代」と呼ぶことにします。

Z世代の海外旅行意欲は特別低いものではない

円安・物価高の影響で、海外旅行は金銭的なハードルが高くなっていますが、「今後一生、一度も海外旅行に行けなくても別に構わない」という質問に対しては、「そう思う」「ややそう思う」と答えた人の合計は、全体で60.1%でした。つまり、ふたりに一人以上が、今後一生海外旅行に行けなくても構わないということです。Z世代全体では、58.4%と全体と同程度でした。また、他の年代に比べて、「そう思う」は低い傾向です。

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 今後一生、一度も海外旅行に行けなくても構わない 図1
本調査における構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。(以降の図版すべて同様です)

近い未来のこととして聞いた「今後2~3年以内に海外旅行に行きたい」の質問に対する「そう思う(計)」は、全体で39.2%、Z世代では47.3%と全体よりも高い結果が出ています。

Z世代は他の年代に比べて、海外旅行意欲が低いわけではなく、むしろ30代以上に比べて高い結果です。

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 2~3年以内に海外旅行に行きたい 図2

SNS時代に国境はない!?Z世代にとって、国内で国際感覚を身に付けるのは“簡単” 

次に、国際感覚に関する項目についてご紹介していきます。

「外国人と交流できる能力が必要だと感じている」人は、全体で55.7%。Z世代では59.4%、特に10代で「そう思う」が飛びぬけています。「今後日本人には、グローバルに活躍できる能力が必要だ」という質問に対しての「そう思う(計)」は、全体で76.7%、Z世代で72.2%という結果でした。

この2点から日本人の国際化の必要性はZ世代も感じていることがわかります。

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 外国人と交流できる能力が必要と感じている 図3

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 今後の日本人にはグローバルに活躍できる能力が必要だ 図4

一方、Z世代で特徴的だったのは、「日本にいながら国際感覚を身に付ける」という意識です。

「日本にいながら、国際感覚を身に付けることは簡単だ」「日本にいながら、外国人や海外の人とコミュニケーションすることは簡単だ」という質問への回答が、全体と比べて「そう思う(計)」で10ポイント以上高くなりました。

若者の間では、外国人と交流できるイベントや語学習得アプリを使うことが一般化されています。若者たちは無意識のうちに、国内にいても国際感覚を身に着けられる環境が整っていると感じているのではないでしょうか。また、SNS上では海外の文化を簡単に知ることができるので、外国人と直接交流のない人も、海外の情報に接することは日常の一部かもしれません。

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 日本に居ながら国際感覚を身に付けることは簡単だ 図5

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 日本に居ながら、外国人や海外の人とコミュニケーションをすることは簡単だ 図6

「海外に一生いけなくても構わない派」でも、国際意識は十分高い!

それでは、「今後一生、一度も海外旅行に行けなくても別に構わない」に「そう思う」と答えたZ世代は、国際意識が低くなりそうな傾向があるのでしょうか。

「今後一生、一度も海外旅行に行けなくても別に構わない」に「そう思う/ややそう思う」と答えたZ世代と、「あまりそう思わない/全くそう思わない」と答えたZ世代を分類して比較してみました。

本記事では前者を「行けなくても構わない派」、後者を「行きたい派」を呼ぶことにいたします。(※データは割愛いたしますが、この2派に性年代構成比、未既婚の比率の違いはほぼありません)

まず、意外なことに「行けなくても構わない派」のほうがむしろ「グローバルに活躍できる能力の必要性を感じている」人の比率が高いというという発見がありました。さらに、「日本にいながら、国際感覚を身に付けることは簡単だ」という認識も「行きたい派」よりも高い結果となったのです。

「行けなくても構わない派」でも、海外への関心や、国際感覚を身に付けようというモチベーションは十分に高いと推察できます。

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 今後日本人にはグローバルに活躍できる能力が必要だ 図7

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 日本に居ながら国際感覚を身に付けることは簡単だ 図8

「海外に一生いけなくても構わない派」は、効率主義で失敗を嫌う

続いて、DDDが定義した、現代の「11の欲望」(※1)の元となる「欲求項目」や「価値観項目」について見ていくと、「行けなくても構わない派」は、次の項目が、「行きたい派」と比べて「そう思う(計)」が10ポイント以上も高いことがわかりました。

  • 「自由でいたい・縛られたくない」「自分だけの時間を大事にしたい、邪魔されないようにしたい」などの自由に関する項目
  • 「危険な目にあうこと、失敗すること、損することを避けたい」といったリスク回避に関する項目
  • 「うまくやりたい、効率よくしたい」といった効率化に関する項目

「行けなくても構わない派」は、自由を重視し、コスパ・タイパ意識がより高く、リスク・失敗を嫌う、といったいわゆる“Z世代らしい”特徴が顕著な層であるといえそうです。

※1「11の欲望」について詳しくは、こちらをご覧ください。
「新しい欲望に、名前をつけてやる。」(ウェブ電通報)
DENTSU DESIRE DESIGN、人間の消費行動に影響を与える「11の欲望」2024年版を発表

 

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 「自由でいたい・縛られたくない」 図9

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 「自分だけの時間を大事にしたい、邪魔されないようにしたい」 図10

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 「うまくやりたい・効率よくしたい」 図11

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 「危険な目に合うこと、失敗すること、損することを避けたい」 図12

そのほかの特徴として、英語習得に関するAB設問をご紹介します。

次にあげる「生活全般に関する考え方や行動」について、あなたに近いものをお知らせください。
【A】同時通訳の技術(翻訳AI)が発達したら、英語は話せなくてもいい 
【B】同時通訳の技術(翻訳AI)が発達しても、英語は話せるようになりたい

この質問に対しては、「行けなくても構わない派」が「行きたい派」よりも「Aに近い(計)」の回答が顕著に高い結果になりました。

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 同時通訳技術(翻訳AI)が発達したら英語は? 図13

「行けなくても構わない派」は「行きたい派」に比べると、英語は手段と割り切っており、「国際感覚の身に付け方」も効率重視なのかもしれません。

総じて、「行けなくても構わない派」にとって、「海外旅行」は、コスパ・タイパが悪く、わざわざ行くことで得られる魅力を実感していないのかもしれません。治安のよい日本で、おいしいものを食べて、安心して幸せに過ごせるのであれば、わざわざ失敗リスクを負ってまで海外を旅する必要はないと感じている可能性があります。

実際、「行けなくても構わない派」は、「おいしいものを食べたい・飲みたい」「安心して、平穏に過ごしたい」といった項目も「行きたい派」よりも顕著に高い結果がでています。さらに、「自分は幸せだと思う」という指標も「行けなくても構わない派」のほうが高いのです。(当記事内でデータの紹介は割愛)

一方、「行けなくても構わない派」の意外な特徴は、「人と出会いたい、仲間と共感したい」「疑似体験だけでなく、リアルな体験を大事にしている」といった社交性やリアルな体験を重視する項目が「行きたい派」に比べてやや高く出たことです。

DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 「人と出会いたい、仲間と共感したい」 図14
DDDが考える「欲望理論」からのマーケティング再構築 #529 疑似体験だけでなくリアルな体験を大事にしている 図15

リアルな体験を軽視しているわけでもないのに、海外旅行には行けなくてもいいということは、安全で快適な日本を離れるほどの大きな「海外旅行の魅力」が、実感しづらいということが考えられます。

「行けなくても構わない派」を海外旅行にいざなうには、現地で得られる体験に対する具体的な興味喚起が必要のようです。

SNSで海外の文化情報を日常的に見られ、外国人との交流も盛んになっている中、海外旅行との違いとして挙げられるのは、やはり、“現地の空気感”も含め、五感を通じた文化体験が欠落することです。

その五感を使った体験を、国内いながら画面を通じてではなくリアルに実感できると、海外旅行への興味喚起につながっていくかもしれません。

例えば、2025年の大阪・関西万博において、海外パビリオンでリアルな文化体験をすることは、海外旅行への興味喚起につながる可能性がありそうです。実際、X上では、海外パビリオンの没入感のある体験型コンテンツや食事についての投稿が多く見られます。

あるいは今後、VR旅行体験がさらに進化することで興味喚起の機会が増えることも考えられます。2050年に向けて内閣府が掲げるムーンショット目標によれば、サイバネティックアバター(※2)を用いて、あたかもその地にいるような感覚を五感でリアルに味わうことができる「テレイグジスタンス」技術が発達するといわれています。国内にいても海外旅行を五感で味わう体験ができるようになる可能性があります。その「テレイグジスタンス」体験が、リアルな海外旅行の意向喚起につながるかもしれません。

※2 サイバネティックアバター:遠隔操作でき、自分の体と同じように感覚を共有できる“身代わりロボット”のこと

 

結論、Z世代の海外旅行意欲はほかの年代に比べて低いわけではなく、大多数が国際感覚を身に付ける必要性を感じており、さらに、ほかの年代に比べて、日本にいながら国際感覚を身に付けることは簡単と捉えていることがわかりました。

また、Z世代のなかでも、「今後一生、一度も海外旅行に行けなくても別に構わない」と答える人たちのほうが、日本人の国際感覚の必要性をより感じており、さらに、日本にいながら国際感覚を身に付けることは簡単だと考えているようです。

DDDではこれからも、「心が動く消費調査」を通じ、生活者意識やトレンドを分析していきたいと考えています。


<第9回「心が動く消費調査」概要>
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:15~74歳
・サンプル数:計3000サンプル(15~19歳、20代~60代、70~74歳の人口構成比に応じて割り付け)
・調 査 手 法:インターネット調査
・調 査 時 期:2024年11月8日(金)~ 11月13日(水)
・調 査 主 体:電通 DENTSU DESIRE DESIGN
・調 査 機 関:電通マクロミルインサイト

 

sns

単身高齢者のリアルなリスク…危篤でも家族に連絡取れず、無縁遺骨になる例も増加

●この記事のポイント
・豊島区は、終活の意向を「もしもの時」に伝えるため、終活情報登録制度を開始した。これは、意思表示が困難な状況で、登録情報を警察や医療機関などに開示する仕組みだ。
・高齢化で「おひとりさま」が増える中、横須賀市や大和市など他の自治体も、情報登録に加え、経済支援や専門家による総合的な終活支援を展開している。
・豊島区の課題は、登録手続きの煩雑さにあり、利用拡大にはデジタル化や簡素化が必要だが、終活を始めるきっかけとして効果を発揮している。

 近年、高齢化と核家族化の進展により、「終活」は個人の人生の終わりを自らの意思で準備し、残された人々の負担を軽減するための重要な活動となっている。特に単身高齢世帯の増加や、親族との関係性の希薄化が進む社会情勢を背景に、「もしもの時」に本人の意向が尊重され、迅速かつ円滑な対応が可能となるよう、自治体による支援の必要性が高まっている。

 この社会的背景のもと、東京都豊島区が導入した「終活情報登録制度」は、本人の意思を未来につなぐ具体的な仕組みとして注目される。本稿では、終活を取り巻く現代社会の状況を概観しつつ、豊島区福祉部高齢者福祉課終活支援グループへの取材に基づき、豊島区の取り組み内容とその課題を整理する。さらに、他の自治体の事例と比較することで、終活支援の多様なアプローチを明らかにする。

●目次

現代社会における「終活」の重要性

 終活とは、人生の終わりに向けて、自分自身の希望や準備を整理する活動の総称だ。具体的には、介護、医療、葬儀、相続、遺品整理、そして緊急時の連絡先など、多岐にわたる項目が含まれる。

1. 高齢化と単身世帯の増加
 日本の高齢化率は世界的に見ても高く、2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる「2025年問題」を抱えている。さらに、生涯未婚率の上昇や家族の多様化により、「おひとりさま」として生活する高齢者が増えている。

2. 「もしもの時」の意思表示の困難さ
 単身者が事故や病気で意識不明になったり、急死したりした場合、本人のリビングウィル(延命治療に関する意思)や、葬儀・納骨に関する希望を家族や関係者に伝える手段がないという問題が深刻化している。これにより、行政による身元の確認や死後事務が滞り、無縁遺骨の増加や、故人の尊厳を守れない事態が発生しやすくなる。

3. 残された人々の負担軽減
 終活が不十分だと、残された親族や知人は、本人の意思を推測しながら、煩雑な手続きや費用の負担、人間関係の調整などに追われることになる。終活は、自身が望む最期を実現するためだけでなく、大切な人々への「思いやり」や「負担軽減」という意味合いも持つ。

豊島区の「終活情報登録制度」:本人の意思を未来につなぐ仕組み

 豊島区は、こうした社会情勢を踏まえ、区民の「もしもの時」に備えるための具体的な支援策として、「終活情報登録制度」を導入した。

1. 制度開始の背景・理由
 豊島区は、終活の相談窓口である「豊島区終活あんしんセンター」を令和3年2月より先行して開始していた。相談を通じて、区民が介護、葬儀、相続などの希望を整理しても、事故や病気で意思表示ができなくなった場合、その希望を伝える手段が無くなってしまうという切実な課題に直面した。この経験から、「ご本人の想いを正しく意思表示できる仕組みが必要」であると考え、令和4年4月に「終活情報登録制度」を立ち上げた。

2. 制度の具体的な内容
 この制度は、区内在住の65歳以上の方(その他必要と認める方)を対象としている。

 対象者:区内在住の65歳以上(その他必要と認める方)
 登録内容:終活で準備したこと(リビングウィルの有無、葬儀・納骨の希望など)や、緊急連絡先など
 情報の開示:万が一の際(意思表示ができない状態・死亡)に、区が情報を開示する。
 照会可能な者:警察、消防、医療機関、福祉事務所、および本人があらかじめ照会可能な者として登録した方。
 留意点:区から関係者へ連絡する制度ではない。照会があった場合にのみ情報を開示する。

 この制度は、あくまで「情報伝達の保険」としての役割を果たす。本人の意思が書かれたエンディングノートなどの保管場所や、緊急時の対応者を区が預かり、必要な時にのみ開示することで、本人の尊厳と意思を確保することを目的とする。

3. 現状と効果・成果
 事業開始から現在までの登録者数は50名(取材時点)と、まだ限定的だ。運用開始から情報開示に至ったケースは確認されておらず、登録者の死亡例もほとんどない状況だという。

 しかし、この制度が持つ間接的な効果は確認されている。

 終活を始める足掛かり:情報登録をきっかけに、特に身寄りのない方の死後事務委任などの相談につながるケースがあり、「終活を始める一歩」となっていることが実感されている。

4. 運用・利用拡大にあたっての課題
 利用拡大に向けた課題として、個人情報をお預かりする上での登録手続きの煩雑さが挙げられている。

 登録の手間:登録票への直筆が必要な形式であること。
 同意書の取得:緊急連絡先となる方への同意書の取得が必要であること。

 個人情報の適正な管理と、迅速な情報伝達の必要性を両立させるための、手続きの簡略化やデジタル化などが今後の課題となるだろう。

他自治体の終活支援事業との比較

 終活支援は、地域の実情や課題に応じて、全国の自治体で多様な形で展開されている。豊島区の「情報登録・伝達」に主眼を置いた取り組みに対し、特に先進的な取り組みを行う自治体の事例を並列で比較する。

1. 神奈川県横須賀市:経済的支援と情報登録の二本柱
 横須賀市は、全国でも早期に終活支援に取り組み、特に「無縁遺骨の増加」という深刻な問題に対応するため、経済的な支援と情報登録を組み合わせた独自のモデルを構築している。

【エンディングプラン・サポート事業(ES事業)】
 対象者:所得・資産に制限のある身寄りのない一人暮らしの高齢者
 目的・内容:低額(25万円など)で協力葬儀社と葬儀・納骨の生前契約を支援。市が間に入り、本人の希望に沿った葬送を確保する。
 豊島区との違い:経済的な支援と、死後事務の契約行為そのものを支援する点が、情報登録に特化した豊島区と大きく異なる。

【わたしの終活登録】
 対象者:希望するすべての市民
 目的・内容:緊急連絡先、リビングウィルの保管場所、葬儀・納骨の生前契約先など、死後事務に関わる情報を幅広く登録。万が一の際の情報伝達を目的とする。
 豊島区との違い:豊島区と同様の情報伝達の仕組みだが、登録できる情報がより広範で、終活全般をカバーしている。

 横須賀市の取り組みは、生活困窮層への具体的な葬送支援と、一般市民への情報登録による意思尊重の、両面から市民の尊厳を守ろうとする複合的な支援モデルといえる。

2. 神奈川県大和市:「条例制定」と「コンシェルジュ」による総合支援
 大和市は、終活を市の重要な施策と位置づけ、「大和市終活支援条例」を制定(令和3年7月)するなど、自治体の強い意志を示している。

【終活支援条例の制定】
 内容:終活に関する市の責務、市民や事業者の役割を明確化。継続的な支援事業の土台とする。
 豊島区との違い:条例に基づいた支援であり、行政としての強いコミットメントを示す点が、事業ベースの豊島区と異なる。

【終活コンシェルジュのサポート】
 内容:終活に関する相談、生前契約に関する情報提供、支援事業所との橋渡しなど、専門家による個別具体的な相談・仲介を実施する。
 豊島区との違い:相談と伴走支援に重点を置いている。豊島区の「あんしんセンター」は相談が中心だが、大和市のコンシェルジュはさらに踏み込んだ支援や情報提供を行う。

【エンディングノートの配布と市による保管サービス】
 内容:市独自のエンディングノートを配布し、作成したノートを市が預かり保管するサービスを提供。
 豊島区との違い:エンディングノートの保管という具体的なサービスを提供しており、情報登録に加え、意思が記された現物の保全も行う。

 大和市の取り組みは、制度的な基盤と、対人サービスの充実を重視しており、「終活をどう進めてよいかわからない」という市民に対し、きめ細やかなサポートを提供している。

終活支援のこれから

 豊島区の「終活情報登録制度」は、先行する「終活あんしんセンター」での経験を活かし、「もしもの時の意思表示」という現代社会の核心的な課題に対応するための、効率的かつ重要な情報伝達の仕組みとして機能し始めている。登録者数や開示実績はまだ少ないものの、この制度が終活への一歩を踏み出す動機付けとなっている点は、大きな成果といえる。

 豊島区の課題である「登録の手間」の解消は、今後の利用拡大の鍵となる。今後は、デジタル技術を活用したオンラインでの情報登録や更新、あるいはマイナンバーカードとの連携など、より簡便でセキュリティの高い仕組みが求められるだろう。

 横須賀市や大和市の事例に見られるように、終活支援は「情報伝達」に留まらず、経済的な支援、専門家による相談・伴走、条例による継続性の担保など、多角的なアプローチへと進化している。

 終活支援の最終的な目標は、市民が自身の人生の最期について不安なく、尊厳を持って準備できるよう支えることだ。そのためには、豊島区のように行政が「意思を伝える仕組み」を提供し、他の自治体の事例も参考にしながら、地域社会全体で「終活」を当たり前の文化として根付かせていくことが重要である。

 終活情報登録制度の利用拡大は、「人生の最期まで、自分らしく生きる」という個人の願いを社会が支える、共生社会の実現に向けた重要な一歩といえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

総延長約66万km、水道管の老朽化は深刻な課題…衛星データで漏水調査を効率化

●この記事のポイント
・リモート・センシング技術センターは、衛星データを活用した「mizuiro」で、水道管周辺の地表湿潤を解析し、漏水調査の効率化を支援。
・日本の環境や排水管データに特化したAIモデルで、調査対象を絞り込み、自治体や企業の調査コスト・時間を削減。
・将来的には農業や海外インフラ管理など、水分解析技術を応用した幅広い分野への展開も視野に入れている。

 日本の社会インフラ、とりわけ水道管の老朽化は深刻な課題となっている。総延長約66万kmにも及ぶ水道管の多くが高度経済成長期に敷設され、耐用年数を超えるものが年々増加している。しかし更新には莫大なコストと時間がかかり、漏水による水資源の損失や道路陥没などのリスクは後を絶たない。

 こうした課題に対し、衛星データを活用した革新的な漏水調査サービス「mizuiro」を提供しているのが、一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)だ。同センター ソリューション事業部 参事の奥村俊夫氏に、技術の仕組みから社会的意義、今後の展望まで話を聞いた。

●目次

光学カメラではなく「マイクロ波」で地表を観測

 RESTECの強みは、人工衛星データの専門機関として長年培ってきた解析技術にある。mizuiroの中核を担うのは、光学カメラではなく「合成開口レーダー(SAR)」と呼ばれるマイクロ波レーダーだ。

「SARは可視光よりも波長が長く、雲や植生を透過できるのが特徴です。地表の浅い層が湿っているかどうかを衛星から把握できるため、地中深く埋設された水道管からの漏水を間接的に捉えることが可能になります」(奥村氏)

 実際の解析では、10m四方単位で地表の湿潤状態をマッピング。排水管データと組み合わせることで、どの地点に異常がある可能性が高いかを“赤い点”として示す。従来の音聴調査のように人手で数千キロの管路を点検するのではなく、調査対象を効率的に絞り込めるのが大きな強みだ。

 福岡市での実証実験は、その有効性を示す象徴的な例だ。市内2平方キロを対象に、mizuiroが提示した候補地点と実際の音聴調査結果を比較したところ、13カ所の漏水のうち7カ所を検出できた。

「我々は漏水そのものを直接見ているのではなく、地表の湿潤を手掛かりに“怪しい場所”を抽出しています。ですからmizuiroは『漏水調査』ではなく『スクリーニングサービス』と位置づけています」と奥村氏。

 つまりmizuiroは万能な“漏水探知機”ではなく、調査すべき範囲を大幅に絞り込むフィルターの役割を担う。従来の調査を置き換えるのではなく、効率化のための前段ツールとしての価値が高い。

他社サービスとの差別化ーー「日本仕様」のAIモデル

 

 現在、衛星を用いた漏水調査サービスは国内外で複数展開されているが、mizuiroには独自性がある。

 一つは「国内完結」の体制だ。データ解析やAI学習はすべて日本国内で行われるため、海外に情報が流出することがない。安全保障上の懸念が高まる中で、自治体にとって安心材料となっている。

 もう一つは「日本の環境に特化したAIモデル」だ。乾燥地帯で開発された海外サービスは、日本のように湿潤な気候では誤検知が多発する可能性がある。mizuiroは国内の水道局が蓄積してきた過去の漏水データを学習に活用することで、地域ごとに適応したモデルを構築している。

「過去の修繕履歴をきちんと管理されている自治体ほど、解析精度も高まります。地道なデータ整備がAIモデルの品質を左右するのです」と奥村氏は強調する。

 もっとも、衛星観測には限界もある。豪雨や降雨直後のデータは地表が一様に濡れてしまうため、解析に使えない。またJAXAの衛星は多目的利用されており、漏水調査のためだけに高頻度観測が行われるわけではない。

「現状では年に1回程度しか観測機会がないケースもあります。今後、新しい衛星の打ち上げで頻度が増えることを期待しています」(奥村氏)

 さらに、地表に水分が現れないタイプの漏水(下方に浸透するケース)や、池や溜め池からの浸水など、誤検知や見逃しの要因も存在する。mizuiroはあくまで「スクリーニング」であり、現地調査と組み合わせることが前提だ。

社会的意義ーー水道インフラ維持の切り札に

 埼玉県での事例では、mizuiroが示した有力候補地点を対象に音聴調査を行い、漏水の疑いが高い地点を掘削したところ、地表は乾いていたにもかかわらず、地下1.1mの水道管から実際に漏水が確認された。

「衛星画像上では赤く表示されていたのに、現地では乾いている。これを信じて掘削したら本当に漏水していた、という事例は複数あります。衛星の目がなければ見過ごされていた可能性が高い」と奥村氏は振り返る。

 従来の方法では膨大な労力とコストが必要だった調査を、mizuiroは大幅に効率化できる可能性を示している。

 全国の水道管の更新率は年間0.8%程度と極めて低く、このままでは「全ての管路を更新するのに約130年かかる」と試算される。財政難に直面する自治体にとって、更新も調査も現実的に全件対応することは不可能だ。

「闇雲に調査しても効率が悪い。mizuiroは『この辺が怪しい』というヒントを与えることで、調査の効率を飛躍的に高めます。しかも衛星で見えるのは比較的大規模な漏水が多いため、修繕効果も大きい」(奥村氏)

 限られた予算と人員で最大限の成果を出す――mizuiroはそのための強力な武器となり得る。

今後の展望ーーインフラ監視のプラットフォームへ

 RESTECは現在、主な顧客を自治体や水道事業体に据えているが、将来的にはインフラ全般の監視に活用の幅を広げる構想を描く。道路陥没のリスク評価や産業用水の管理など、水道以外の用途も見込まれる。

「私たちは株式会社ではなく、一般財団法人です。営利追求ではなく、社会のために技術をどう役立てるかを最優先に考えています。衛星データの可能性を広げ、インフラ維持管理の基盤を支える存在でありたい」と奥村氏は語る。

 RESTECの「mizuiro」は、衛星データを駆使して“見えない漏水”を浮かび上がらせる新しい調査手法だ。課題はあるものの、老朽化するインフラに対して効率的な調査を可能にする意義は大きい。

 水資源の有効利用、防災リスクの低減、そして限られた公共予算の有効活用――。mizuiroは、社会全体が直面する課題に応える衛星ソリューションとして、今後ますます注目を集めていくことだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

PRの業界アワードエントリーは “模範解答” を得られる良き機会 ~反省とリベンジ、そしてときどき自己称賛を~

広告、マーケティング、PRなどのクリエイティブ業界にはさまざまなアワードが存在する。これらに参加することはどういう意義があるのか。賞を取ることは社内外の評価を得るという点で重要だろう。だが、「賞を取って評価を得る」以外にも大事な効果があると考える。本稿では、数あるアワードの潮流と参加することに対しての効果について電通PRで国内外のアワードの審査員を務めてきた井口理が考察する。

何のためにアワードにエントリーするのか

毎年6月に開催されるクリエイティビティの祭典、通称カンヌライオンズの終了後、夏の終わりにかけて各所でアワード報告会が開かれる。開催地であるフランス、カンヌで現地参加できる人数は、その距離や業務の多忙さ、昨今の円安などによる参加費・渡航費の価格高騰などによりかなり制限されているようだが、グローバルなコミュニケーションの潮流をいち早く肌で感じたいトップクリエイターやその高みを目指す若手層は、万全を排してここに集ってくる。実際、現地の熱気を感じてしまうと、しばらくその興奮は冷めやらず、帰国を待たずに自分の仕事と受賞エントリーを比較し、仕掛かりの業務をどこまで高みに昇華させることができるか、そしてあわよくば翌年のカンヌライオンズにエントリーという形で舞い戻ることができないものかと妄想するのが通例だ。

しかし、わずか1年ほどでそこまでたどり着くのはなかなかハードなことと断言できる。くしくも最近のカンヌライオンズの審査基準は、一過性のものよりもより根源的で、さらに継続的な取り組みを評価する方向へとかじを切っているのは間違いないからだ。とはいえ、こういったアワードイベントを体感し、これまでの自身の仕事を顧みるきっかけとするには非常によいタイミングと言えよう。

ご存じの方も多いと思うがカンヌライオンズの前哨戦としてはアジア太平洋地域を対象とした「スパイクスアジア」というアワードもある。より古くから続くタイのパタヤで開催される「アドフェスト」も同様だ。アジア地域での仕事をエントリーできるこれらのアワードでは、審査員たちも地域特性や独特なマーケット課題に精通しており、より同地域を対象とした仕事の本質を評価しやすい状況にある。いきなり世界的なアワードにチャレンジするよりも、まずはこれらのアワードで腕試しをしてみるというのもいいかもしれない。アワードへのエントリーはエージェンシーだけではなく、インハウス(組織内)のPR部門がエントリーすることも可能だ。

もちろん、アワード受賞はそれそのものが目的となってしまってはいけないが、相応の評価を得られれば、そのキャンペーンの妥当性が証明されたことにもなり、エージェンシーやその戦略を採用した企業の担当者も自分の仕事の正統性を確認することができる。これは自身への社内外の評価を向上させるだろうし、また自身にとっても今後の業務へのモチベーションアップに大きく寄与することになる。手がけたキャンペーンが、実際に成功したかどうかはそのビジネス的な成果によって評価が決まるのが当然だが、戦略プランナーとしてはそのプロセスが正しかったのかどうか、あるいはより先進性をもったチャレンジができていたのかといったところは気になるはずだ。そういった定性的な評価を得るためには、こういったアワードにぶつけて各所からの審査員、すなわち業界の識者の講評から客観的な評価を得られるとすれば、それはまれな機会として享受すべきものだろう。

審査基準はコミュニケーション技巧から、事業の取り組みそのものの革新性へ

今年、方々のカンヌライオンズ報告会のまとめとして語られていたのが、広告会社やクリエイティブ・ブティックなどによる表現の巧拙やテクニックを評価する視点から、企業が通常業務の中でいかに世の中と向き合い、社会課題解決も盛り込みながら事業の拡張・発展を実現したかを称賛する意向が強くなったということ。しかしこの流れは脈々と準備されていたであろうことがここ数年のカンヌの変化を見ていればわかる。

5~6年前から各カテゴリーの審査員には事業会社のPR担当者も参加するようになり、業界視点の評価のみならず、「事業会社視点/クライアント視点」でのキャンペーンの価値を評価するという視点が加わっている。また現地のセミナーにおいても、クライアントとエージェンシーが共にステージに上がり、その連綿と続く蜜月の関係から評価に値するような事例が生み出されているといったことをアピールするものが増えているのだ。それはこれまでの「発注する側/される側」といった関係性から、より両者が協働・共創するのがこれからの正しいスタンスだということを示唆しているようにも感じられる。

そんな予兆をしっかりと確信させてくれたのが、今年のカンヌの最多受賞事例であるフランスの保険会社AXAの「Three Words」だ。

2025カンヌライオンズGP最多受賞のAXA「Three Words」

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日本と同様、フランスでも多くが住宅保険へ加入しており、これらの契約は火災や洪水で住居に住めなくなった際に緊急避難場所を提供することになっている。AXA はこの火災・水害用住宅保険契約の対象にさらにもうひとつの危機的状況を追記することとした。それが「and domestic violence(家庭内暴力も)」という3語(=Three Words)だ。

そもそもフランスでは家庭内暴力(DV)の被害届が2016年から2023年までの7年で2倍に増加している中、AXAは10年前からこの問題に取り組み続けてきている。その間に各所の協力を取り付け、DV被害者から通報があったときにはすぐに緊急時車両を派遣し、火災・水害時と同様に緊急避難用住居へと避難させるシステムまで完成させたという。この制度の導入後1カ月で被害者121人を支援、ウェブサイト訪問数は321%増、契約数は9%増加、長らく業界2位だったブランド好意度も一気に1位へと躍り出るなどビジネス的成果までも達成している。また調査対象者の86%が「この条項は業界標準になるべき」と共感している。

DVに苦しむ多くの人にとって最も危険な場所は街灯のない夜道でも、治安の悪い歓楽街でもなく、自宅であるという事実。そこに自社製品やサービスを提供することで、自社の収益にマイナスになりかねないリスクをはらみながらも社会的責任を果たすという姿勢をしっかりと提示し、それが社会の共感を獲得して収益にも反映されることでこの活動が継続されるだろう好循環が達成できていることが素晴らしい。

もうひとつ、生活者のためなら行政の決めごとにももの申していく勇敢な振る舞いとして、イケアの事例も紹介しておこう。


社会を動かしたイケアのSHTキャンペーン

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カナダでは、2022年ごろから全国的な物価高騰が続き、イケアの調査ではカナダ人の45%が自身の家計に不安を感じ、多くの人が限られた予算の中でより多くの価値を得るため中古品市場に活路を見いだしていたという。実際、月に1回以上中古品を購入している人は全体の31%に達していた。一方、オンタリオ州では全ての売買取引に13%のHST(ハーモナイズド・セールス・タックス/統一売上税)が課されるという。この税は1997年から導入されており、もはや誰も疑問を持たない状況にあった。

しかしここでイケアはある問題に気付くことになるのだ。すなわち中古品を購入すると、実は税金が二重にかかってしまうということ。なぜなら中古品購買者は、その商品が最初に購入されたときにすでに支払われたHSTを再び支払わされることになるのだから。実はこうした二重課税によって連邦政府はなんと年間数百万ドルもの収益を獲得していたわけだ。

そもそもイケアでは、環境保護のため、また経済的な手頃さを提供するため、自社製品の中古品の売買を行っている当事者でもある。そこでイケアはこの二重課税の問題と戦うため、前述の「HST」に対して自社独自のサービス「SHT(セカンドハンド・タックス)」を考案するのだ。これは、中古品に課される二重課税を事実上打ち消す“対抗税”で、仕組みは至ってシンプルだ。HSTが13%課税であるのに対し、イケアはSHTをマイナス13%に設定し、顧客がイケアで中古製品を購入する際はイケアが相当分を負担し実質的に0%の税率としたのだ。

この取り組みは広く知れ渡ると同時に、イケアの中古マーケットプレイスへのアクセスを急増させ、同時に用意されたHST廃止を訴える署名活動への参加を促した。その結果、3万5000件以上の署名が集まり、イケアの中古品売り上げは192%の増加を記録、カナダ政府は二重課税を長期的に廃止するための政策変更についてイケアとの協議に応じることを決定した。これも自社に有利な環境を作り出そうということが起点ではなく、生活者の目線に立ったときに不公平な状況が発生していないかを観察し、それがなんであれ正しく解決していこうというスタンスが成し遂げた事例と言えるだろう。時に社会の公器としてその存在意義を求められる企業だが、通常の事業活動の中でこういった不具合を発見し、自ら解決していくその姿勢は、生活者の隣人としての親しみやすさと信頼感を獲得し、長期的なよき関係性を紡いでいくに違いない。

身近な壁打ち「PRアワード」があるじゃないか

先述してきたように、いまそれら企業や団体の取り組みに目を向け評価していこうというのがコミュニケーションアワード界隈(かいわい)のトレンドとなっている。これまではエージェンシーの賞獲り合戦だった場から、企業を賞賛する場と変遷している。ならばチャレンジしない手はないのではないだろうか?というのが今回の提案であると思ってもらいたい。

そんな中、都合のいいことに直近10月中旬までの締め切りとなる日本パブリックリレーションズ協会主催の「PRアワード」(https://prsj.or.jp/pr-award/)がある。こちらにエントリーしてみてはどうだろうか?さまつに見えて、実はエントリーのハードルとなるエントリー費用も2万5千円と手頃だ(海外アワードでは10万円前後となることもままある)。また海外アワードでは英文のエントリーシートやキャンペーン内容をまとめたボード、さらには解説動画であるケースフィルムなども必要となるが、「PRアワード」はA3 1枚の日本語エントリーシートのみで応募可能だ。(エントリーシートの書き方TIPSはこちらに解説あり。https://youtu.be/Ph3TW6h-42M

そして私自身も同アワードの審査委員、審査委員長を務めてきたが、審査委員はエントリーされてきた仕事への評価に余念がなく、細部にわたり応募案件の取り組み内容がしっかりと頭の中に刻み込まれている。さらにはPR会社、事業会社、メディア、アカデミア(大学教授)などから選出・参加している審査委員同士の熱い議論の中で、各エントリーの良き部分、惜しい部分、不足する部分を多種多様な視点から理解しているわけだ。

受賞エントリーには審査委員からの講評が発表される。ぜひ一度、この機会にアワードエントリーを体験していただき、またその評価に対して「反省」し、「リベンジ」を企て、しかし講評の中で良き部分を見つけられたのならば、ひととき自身の仕事に対して「自己賞賛」を施し、次の仕事の糧としていただきたい。かく言う私も今回の審査委員団には加わっていないものの、「あの電通報見ました!」の合い言葉を言ってくれれば、エントリーに際しても最大限のアドバイスを提供することを約束しよう。

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モバイル決済が生活に浸透する先、日本のキャッシュレスはどう変わる?

プラスチックカードからモバイルへ。

「決済手段の主役が変わった。」
そう思わせる結果が、2024年12月に実施したキャッシュレス調査(調査概要はこちら)で表れました。

「電通キャッシュレス・プロジェクト」が、毎年実施して今年で第7回となる「生活者のキャッシュレス意識調査」。今回のテーマは、「モバイル決済の利用実態解明」です。

日本のキャッシュレス決済に構造変化が起き、今後はモバイル決済が主役となる―。この仮説をベースに、

  • 生活者のキャッシュレス認知に変化はあるのか
  • キャッシュレス利用者が一番利用している決済手段はなにか
  • 個人間送金、投資、融資、保険などの金融サービス利用とモバイル決済との関係はあるのか

といった問いを立て、調査を実施しました。

カードが推進してきた日本のキャッシュレス決済は、今大きな転換点を迎えているように感じます。

「キャッシュレス・インサイト2025」では、前編/後編で、「生活者」とキャッシュレス決済を受け付ける「店舗」の両面から、電通の吉富才了が日本のキャッシュレス決済を俯瞰(ふかん)して考察します。

<目次>

日本のキャッシュレス指向を、より鮮明に

キャッシュレス派が8割超え。噂の“年齢格差”もなし

キャッシュレスの主役の座は、カードからモバイルへ

最も使うキャッシュレス決済手段は、モバイル決済が最多に

2年で上がったモバイル決済の浸透力

決済事業者が期待する新たな収益源とは

“合わせて使える”金融サービスで、顧客エンゲージメントを高める

日本のキャッシュレス指向を、より鮮明に

キャッシュレス・インサイト2025 #724 キャッシュレス利用分類 図版①
出典: 電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」

日本人のキャッシュレス指向が強まっている。今回の調査では、そう感じる結果が出ました。直近1年間の日常生活において、キャッシュレス決済を利用できるところで、どのくらいの頻度でキャッシュレスを使っているのでしょうか。

今回の調査では「100%キャッシュレス」「80%キャッシュレス:20%現金」「60%キャッシュレス: :40%現金」「40%キャッシュレス:60%現金」「20%キャッシュレス:80%現金」「現金しか使わない:100% 現金」の6分類から選んでもらいました。

この分類によって、大きくキャッシュレス派と現金派に分けることができます。「100% キャッシュレス」「80%キャッシュレス」「60% キャッシュレス」はキャッシュレス派。「40% キャッシュレス:60%現金」「20%キャッシュレス:80%現金」「現金しか使わない:100% 現金」は現金派と見なすことができます。

キャッシュレス派が8割超え。噂の“年齢格差”もなし

キャッシュレス・インサイト #724 キャッシュレス利用者の実態 図版②
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」【SA サンプル数=1000】

今回の調査結果では、日常生活の決済シーンで、5割以上キャッシュレスの決済手段を使っている人たち、つまりキャッシュレス派は80.2%となりました。内訳は、「100%キャッシュレス」が43.2%、「80%キャッシュレス」が25.1%、「60%キャッシュレス」が11.9%です。

前回(2023年11月)の調査結果で、キャッシュレス派は78.0%でした。直近1年間で2.2 ポイント増えたことになります。キャッシュレス派が8割を超え、またじわりと生活者の決済状況がキャッシュレス利用へ動いている状況がうかがえます。

現金派はどうでしょうか。今回の調査では前回の22%から減って19.8%となり、2割を切りました。これまで現金派の中でも一部キャッシュレスを使っていた「60%現金」と「80%現金」の人たちが、キャッシュレス派へ少しずつ移行しているようです。

ちなみに、キャッシュレス推進協議会※によれば、日本のキャッシュレス決済比率(日常の支出金額の中でキャッシュレス決済が占める率)は2023年時点で、39.3%と報告されています。キャッシュレス派が8割を超え、なおかつ完全キャッシュレス派とも呼べる「100% キャッシュレス」が4割を超えているにもかかわらず、キャッシュレス比率はなぜそんなに低いのでしょうか。

その理由は、まだ多くの中小店舗がキャッシュレス決済に対応していないからだと考えられます。この点については、キャッシュレス決済受付側の店舗に関する第2回「中小店舗のキャッシュレスの壁」で、触れていく予定です。

※:一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ2024 」(2024年12月)を参照 

 

また、キャッシュレスについては、「年齢が高くなるにしたがって、キャッシュレス決済利用が減り、現金派が増える」と都市伝説的に言われることがあります。しかし、今回の調査では、20代のキャッシュレス派は83%、30代は85%、40代は74%、50代は79%、60代は80%となり、年齢によるキャッシュレス格差はあまり見られませんでした。

キャッシュレス・インサイト #724 キャッシュレス派の年齢差はない 図版③
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」【SA サンプル数=1000】

 

キャッシュレスの主役の座は、カードからモバイルへ

キャッシュレス・インサイト2025 #724 キャッシュレス決済手段の認知度
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」【SA サンプル数=1000】
 

今回の調査で、キャッシュレス決済手段の認知度にはあきらかな変化がありました。

図表4のチャートは、5年前の2019年3月の調査と、2024年12月の調査を比較した結果です。これを見ると、モバイル決済の認知度だけが5年間で上昇しています。逆に、カードの認知度は下降気味です。オンライン決済や現金払いはほぼ変わっていません。具体的に見ていきましょう。

2019年3月といえば、PayPayがローンチした2018年10月から約半年後ということになります。モバイルQR決済がキャッシュレス決済であるという認知度は64.7%でした。この時点でも、短期間での認知向上という意味で、驚異的な数字であることは間違いありません。

日本中にPayPay旋風が巻き起こり、メディアは連日キャッシュレス決済を特集していました。2024年12月時点では13.7ポイント増えて78.4%に。モバイルQR決済の認知度はキャッシュレス決済手段としてクレジットカードにならび、交通系(Suica、PASMOなど)、流通系(WAON、nanacoなど)といった電子マネーとほぼ同格にまでなったのです。

また、カードやデバイスを専用機器にかざすだけで決済できる「モバイル非接触決済」は、2019年の40.5%から8.2ポイント増えて48.7%となり、認知率では6位になっています。この5年間で大きく伸びたのは、モバイルQR決済とモバイル非接触決済だけと言えます。モバイル決済がキャッシュレス決済手段として認知されてきたことの表れでしょう。

一方、認知率で大きく減退したのはカードです。クレジットカードは2019年の84.5%から78.4%へ6.1ポイント減少しました。デビットカードは59.0%から50.1%へ8.9ポイント減少。プリペイドカードは57.4% から39.3%へ18.1ポイントも減少しています。カードがキャッシュレス決済の代表格ではなくなりつつあることの現れかもしれません。

 

最も使うキャッシュレス決済手段は、モバイル決済が最多に

キャッシュレス・インサイト2025 #724 最も利用頻度の高い決済手段 図版⑤
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」【SA サンプル数=1000】

では、利用頻度で見てみるとどうでしょうか。日常生活において最も利用頻度の高い決済手段はなにかを聞いてみました。

その結果、モバイル決済(QR 決済と非接触の合計)を第一決済手段としている人が42.8% で最も多いということがわかりました。前回調査の36.5%から6.3ポイント上昇し、5人いたとしたら2人強がモバイル決済を第一決済手段として使っているということになります。

一方で、カード(クレジット、デビット、プリペイドの合計)は33.0%で、前回から3.2ポイントのダウンとなりました。現金は18.7%で前年から2.4ポイントのマイナス。電子マネーは5.1%で、前回から1.1ポイントダウンとなりました。

今回の調査で伸びたのはモバイル決済のみとなり、カードや現金、電子マネーが下落した分がモバイル決済に替わっていると分かります。

前回の調査では、モバイル決済が36.5%、カードが36.2% で、モバイル決済がわずか0.3%でトップでした。しかし今回は42.8%と33.0%で、その差は9.8ポイントと大きく開きました。キャッシュレス決済の主役が変わったと言ってもいいでしょう。

なお、年代別に見ると、若年層ほどモバイル決済を第一決済手段とする割合が高いことがわかります。20代は49.0%、30代は49.6%。若年層では実に半数がモバイル決済主義です。
 

キャッシュレス・インサイト2025 #724 最も利用頻度の高い決済手段(年代別)図版⑥
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」【SA サンプル数=1000】

詳しくは後述しますが、彼らは今後も長らくキャッシュレス決済を使い続ける可能性がある有望ユーザーです。40代になると40.1%となり、50代では39.5%、そして60代では36.0%まで低下します。60代は唯一、カードを第一決済手段としている人の割合(38.5%)が高いという結果でした。

 

2年で上がったモバイル決済の浸透力

キャッシュレス・インサイト2025 #724 モバイル決済の回数は増えたか 図版⑦
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」【SA サンプル数=929】

モバイル決済はいつから浸透していったのでしょうか。今回の調査結果では、キャッシュレス決済を利用している人のうち、61.1%が「2024年に入ってからモバイル決済の回数が増えた」と回答しました。とても増えたという人は4人に1人(24.3%)、やや増えたという人は3人に1人(36.8%)。これらのデータから、カードや電子マネー、現金よりもモバイル決済の利便性の高さが示唆されています。

では、どこでモバイル決済が増えているのでしょうか。最も多かったのがコンビニ(51.8%)、ついでスーパー/モール(45.2%)、ドラッグストア(41.0%)となっています。このトップ3は、いずれもレジが混み合いがちな場所です。
 

キャッシュレス・インサイト2025 #724 モバイル回線が増えた場所
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」【SA サンプル数=880】
 

これらの場所でのモバイルQR決済は利用者提示型(CPM: Consumer Presented Mode)で、スマートフォンに表示されるQRコードを提示するだけで良く、カードを決済端末に挿入し暗証番号を入力するなどの手間がありません。

グラフ表示はしていませんが、場所ごとの決済手段の頻度を見ると、コンビニのトップはモバイル決済(62.6%)で、クレジットカード(31.2%)や現金(33.4%)の2倍も使われています。ドラッグストアでもモバイル決済がトップで56.8%。2021年時点では、現金(49.2%)がトップで、モバイル決済(39.5%)は2位につけていたところ、17.3ポイントも上昇しました。

スーパー/モールでは、クレジットカード(60.0%)がトップですが、モバイル決済(54.9%)は2位。2021年時点では、36.3%と3位で、カードや現金の方が高い結果となっていました。

直近わずか2年でモバイル決済の浸透度は大きく上がり、日本のキャッシュレス決済の利用状況を大きく変えつつあります。

 

決済事業者が期待する新たな収益源とは

キャッシュレス・インサイト2025 #724 モバイルUQ決済利用者の金融サービス利用 図版⑨
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」【SA サンプル数=716】

モバイル決済が浸透する一方で、モバイル決済事業者はカードではむずかしかった金融サービスのクロスセルを推進し、着々と新たな収益源を手に入れています。つまり、個人間送金、投資、保険、融資などの金融サービスを一つのアプリ(デジタルウォレット)で提供しようとしているのです。

個人間送金の場合、モバイルQR決済利用者の39.9%が利用しています。確かに、送金手数料は無料なので、直接的には収益とはなりません。しかし、資金の受け手は、その資金で決済アプリ経済圏内でショッピングする可能性があり、手数料収入が見込めます。手数料率は減少しても、件数が増えればトップラインは伸びていきます。

モバイルQR決済と投資のクロスユース率も34.9%と高い数値です。NISAによって決済と投資の連携がこれまで以上に強まっています。モバイルQR決済事業者の多くは投資サービスを決済に紐づけて提供しています。少額投資からNISAでのつみたて投資まで、年間にすれば相当な額が決済されることになり、その分投資手数料がはいります。投資で増えた資金は、いずれ決済にまわり、手数料収入に変わる可能性もあります。

“合わせて使える”金融サービスで、顧客エンゲージメントを高める

モバイルQR決済利用者で保険を利用している人は、21.4%でした。熱中症やインフルエンザ見舞金、自転車保険、ゴルフ保険など、手軽に買える短期少額保険が人気を呼んでいます。少額とはいえ保険料収入が積み上がれば、安定的な収益源になります。

融資を利用している人は10.8%でした。融資からは金利収入が見込めます。モバイル通信キャリアの融資サービスは、ブランド力と手軽さで伸びています。加盟店手数料収益が減速する中、消費者からの収益確保は重要なポイントです。

モバイルQR決済の利用者のうち、QR決済のみを使っている人は40.6%でした。つまり約6割の人は、何らかの金融サービスをクロスユースしていることになります。モバイルQR決済がデジタルウォレットアプリとして機能していることの証左でもあります。
 

キャッシュレス・インサイト2025 #724 モバイルUQ決済と他金融サービスのクロスユース率 図版⑩
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「第7回生活者のキャッシュレス意識調査 2024年12月」【SA サンプル数=716】

利用サービス数がモバイルQR 決済+1件の人は32.5%でした。+2件は14.7%、+3件は6.6%、+4件は5.6%でした。デジタルウォレットであれば、その中にいくつでも金融サービスを組み込むことができます。

クロスユースが進めば進むほど、顧客のエンゲージメントも高くなり、収益を継続的に伸ばすことができます。また、モバイルQR決済と他サービスのクロスユース率が高いことは、ユーザーにとっても利便性が高いなどのメリットがあることの証左であると考えられます。モバイル決済は金融サービス利用の入口としても、今後さらに存在感を増していくかもしれません。

次回は、キャッシュレス決済を提供する店舗側の変化について見ていきたいと思います。

【調査概要】
第7回「生活者のキャッシュレス意識調査」
・目   的:生活者の決済手段の変化の把握
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:20~69歳男女
・サンプル数:1000 ※
・調 査 手 法 :インターネット調査
・調 査 期 間 :2024年12月1日~12月3日
・調 査 機 関 :楽天インサイト株式会社
※ 1000人に対し、性年代構成比を人口構成比(R2国勢調査)にあわせてウエイトバック集計を実施。「%」および「n」はウエイトバック後のスコア、サンプル数を掲載。
 
sns

 

企業、スポーツ団体、生活者の「スポーツの価値」を可視化する、「スポーツの地図」とは?

電通は、競技団体やリーグ、クラブなどのスポーツ団体、およびスポーツをマーケティング活用する企業の事業成長を支援し、魅力的な体験の創出など生活者にとっての価値へと循環させるための戦略フレームワーク「スポーツの地図ver1.0」(以下、スポーツの地図)を開発しました。

本記事では、スポーツの地図を開発したメンバーが集まり、スポーツコンテンツやスポーツ団体が抱える課題、スポーツの地図の開発背景とポイント、活用事例について語り合いました。

スポーツ
左から、電通スポーツビジネスソリューション局・安渕哲平氏、スポーツビジネスソリューション局・富山成貴氏、スポーツビジネスソリューション局・川堀登史氏、第5マーケティング局・林将宏氏、スポーツビジネスソリューション局・中北隆盛氏

企業全体でスポーツの価値を共有できる地図が必要

川堀:始めに自己紹介を。私は、電通のスポーツビジネスソリューション局(以下、SBS局)に所属しています。SBS局は、ステークホルダーと連携し、スポーツを通して世の中にさまざまな価値を生み出す取り組みを行っている組織です。

中北:同じくSBS局に所属しています。スポーツをマーケティングに活用する企業や、スポーツ団体と向き合い、データに基づいたマーケティング戦略や企画のプランニングを行なっています。

林:私は、第5マーケティング局に所属しており、事業戦略やマーケティング関連の領域の仕事をしています。特にスポーツ関連の案件が多く、スポーツを活用した企業のマーケティング支援や、競技団体の事業戦略のコンサルティングに携わっています。 

川堀:今回、SBS局メンバーや、林さんのようにスポーツ関連の案件に携わるマーケター、外部コンサルタントが集まって、スポーツの地図を作ったわけですが、まず、企業によるスポーツのマーケティング活用がどのように変化しているか、改めてお伝えしたいと思います。

大きく4つのフェーズがあったと理解しています。はじまりは、金銭的支援を中心とした寄付的な関わり方が多かったのですが、その後、競技が成長してくるとテレビに企業の看板やロゴが映るといった露出価値が生まれ、メディアとしてスポーツが捉えられるようになりました。2000年代になると、グッズを作りや販促キャンペーンに取り組むなど、単なるメディアをこえてマーケティングに活用するケースが増えてきました。

最近では、元来スポーツが持ち合わせている価値である社会や人とのつながりなどに注目が集まり、マーケティングだけでなく社会貢献や社会課題解決に資するスポーツの活用という視点も生まれ、企業がスポーツを活用する目的は多様化しています。 

いまの時代、「統合諸表ver1.0」(概要はこちら)にも表されているように、企業は利益を上げることだけでなく、多様なステークホルダーに対して価値を生み出していく必要があり、解決すべきさまざまな課題を抱えています。その課題解決に、スポーツが持つ価値を活用できるのではと考える企業が増えていると感じます。

とはいうものの、具体的にスポーツにはどんな価値があり、何ができるのかがイメージできず、十分に活用できていない、活用に踏み込めない企業もまた、多いと感じています。

中北:スポーツが企業のマーケティング活動や事業成長にどのように貢献できるのか、論理的・体系的に説明できるものは、これまでほとんどありませんでした。電通でもスポーツの活用手法についてはマーケターや担当者の経験則や各々のロジックのもとに提案されてきました。

林:そうですね。企業側にもスポーツのマーケティング活用についての明確な方法論が定まっていないので、それぞれの過去の経験や実績をもとに取り組まれていることが多いのが現状です。そのため、メソッド化することによって、より多くの企業にとってスポーツを企業戦略やマーケティング戦略として活用してほしいという思いもありました。

川堀:企業は、部署によってそれぞれ違う目線や目的を持っていて、何のためにスポーツを活用しているのか、全社での共通認識を持てていないケースもありますよね。

中北:はい。共通言語が持てなかったり、部署ごとに意識しているKGI/KPIが違ったり、共通の指標を持ってスポーツをマーケティング活用する意義を語れるものがありませんでした。

林:企業課題が複雑化するに伴い、多くの企業がスポーツの価値に注目するようになっています。そんな今こそ、何のためにスポーツを活用するのか、複数の部署やステークホルダーと同じ目線や目的を持つ“羅針盤”のようなものが必要だと感じたのが、スポーツの地図の作成に取り組むきっかけとなりました。

林将宏


 

企業、スポーツ団体、生活者の三者がWin-Winの関係になることが目的

川堀:改めて、スポーツの地図とはどのようなものか説明をお願いします。

中北:スポーツビジネスに関わる多様なステークホルダーが、共通の認識と視点を持って戦略・戦術を議論し、意思決定できるようにすることを目的としています。スポーツマーケティングの目的やKGI/KPIの設計、アクティベーションの方向性、必要なアセットの可視化など、事業成長というゴールにつながる道のりを体系的に整理し、そのゴールに到達するための「地図」の役割を果たすものです。

スポーツの地図は、企業向けとスポーツ団体向けの2種類があります。スポーツの地図を作るにあたり、スポーツコンテンツが、企業と団体の事業成長やマーケティング活動にどう寄与できるのか、その要素や要因を網羅的に洗い出しました。そして、因果関係を体系的に整理した戦略フレームワークになっています。 

地図はそれぞれ別々のものではなく、例えば、スポーツ団体とともに、この地図を使ってスポーツの価値向上に取り組むことで、サポートしている企業のマーケティング活動にも還元される好循環を生み出せると考えています。

●企業のスポーツマーケティングの戦略設計をサポート(スポーツの地図 for Business Partners)

スポーツの地図は、既にスポーツをマーケティング活用している企業に対しては、現状の施策と目標との整合性を診断し、より効果的な活用方法を導き出す支援を行う。また、新たにスポンサーシップの活用を検討する企業に対しては、マーケティング課題の可視化と仮説構築を通じて、最適な戦略設計の立案をサポートする。

スポーツ

●スポーツ団体の事業成長にも貢献(スポーツの地図 for Sports Organizations)

競技団体やリーグ、クラブなどのスポーツ団体に対しては、ゴールを達成するための重要な変数や因子、またその因子を刺激するのに必要な要素であるアセットを体系的に整理。ゴールにたどり着くためにすべきことの設計を支援することで、スポーツコンテンツ自体の価値向上にも寄与する。

スポーツ

林:企業は、マーケティング活用以外にも、ESGなども含めたコーポレート活動や、インターナルコミュニケーション、企業文化づくりにスポーツを活用することもあります。そういったことも網羅できるように設計しています。また、最近ではROI(Return On Investment:投資利益率)の視点が求められるケースも増えていますが、スポーツに投資した効果も見えるようにしています。

中北:そうですね、財務と非財務の両面でスポーツの価値が可視化できていることがこの地図の特徴ですね。スポーツには、人と人とのつながり・一体感を生み出す、人を勇気づける、気分転換になる、健康づくりに役立つ、地域の活性化に貢献できるなど、いろいろな社会的な役割があると思います。スポーツの地図を活用して、企業とスポーツ団体がこのようなさまざまなスポーツの価値を再認識することで、企業、スポーツ団体、生活者の三者がWin-Winの関係になれるきっかけになればと考えています。

中北隆盛


 

スポーツの地図によって、企業が享受しているさまざまな価値が見えてくる

中北:ここからは、スポーツの地図を活用した事例をお伝えします。私が紹介するのは、あるスポーツ大会のオフィシャルパートナーになったクライアント企業の事例です。スポーツをどのようにマーケティングに活用していけばよいかをスポーツの地図をもとに考えました。

このクライアントが行ったブランド調査によると、世の中からの信頼度は高く、技術力も認められていたのですが、クリエイティビティ、イノベーティブ、新しいことにチャレンジといったスコアが相対的に低かった。そこで、アクティベーション施策は、売り上げをKPIとせず、課題となる企業イメージの向上を通じて、企業ブランドのファンを増やし、社会的価値や企業価値を上げていくことでクライアントと合意できました。

さまざまなアクティベーション施策を検討する中で、その施策がどのイメージ強化に寄与し、このクライアントのファンの拡大につながるのか、スポーツの地図を使って目的から逆算しながらクライアントと施策を組み立てていきました。さまざまな施策を展開しましたが、早い段階で目的が明確に定まっていたため、大会後の成果を把握するためにどんな調査を行ってPDCAを回していけばよいかについてもスムーズに議論することができました。 

川堀:スポーツの地図を使うことで現場の担当者だけでなく、経営層も含めて最終的に目指すことが理解できたので、共通認識を作るという意味でとても役立ちましたよね。他に事例はありますか?

中北:あるスポーツリーグのタイトルパートナーになっている企業に対してもスポーツの地図を活用しています。タイトルパートナーを務める意義をスポーツの地図を使って整理したところ、とても分かりやすいという声をいただきました。 

この企業は、自社の認知拡大がタイトルパートナーを務める主目的だったので、企業認知がどれくらい上がったかという指標だけで、タイトルパートナーを継続するか否かを判断しようとしていました。

そこで、スポーツの地図を使うことで、タイトルパートナーを務めることにより、各チームへの営業活動のルートができたことや、社内向けには、試合のチケットが福利厚生として社員に人気があることもタイトルパートナーの成果であることを再認識していただきました。

川堀:スポーツのマーケティング活用は、いろいろな効果が出ていることに気づかないことがありますよね。スポーツの地図で俯瞰(ふかん)して見ると、実は企業が享受できている価値に気づくきっかけを与えられるということですね。

川堀登史
林:そうですね。採用活動に役立っていたとか。社員同士の交流につながっているとか、いろいろなところに好影響が出ているケースがあります。

これは事例ではないのですが、スポーツ×企業において、金融機関や流通系の企業などでは、本社と支店がバラバラに競技団体やチームを支援しているケースがあります。その背景には、各支店の営業活動や昔からのお付き合いといった側面があり、企業全体のマーケティング視点で見ると複雑化しているケースがあります。そういったケースでは、それぞれの支援の目的が何か、企業全体としてスポーツマーケティングをどう考えていくか整理するときにも役立ちます。

中北:確かに。他にも、スポーツのマーケティング活用では、「どのスポーツが良いのか」という話に終始することがあります。それでは目的を見失ってしまい、どこかの時点でスポーツの活用に疑問を感じてしまうこともある。そうではなく、まずは目的や意義を定めた上で競技を考える。そのように、スポーツの地図を役立てることもできるかなと思います。

川堀:スポーツ団体の事業成長という点で、スポーツの地図はどのように役立ちそうですか?

林:スポーツ団体は、自分たちが行っている競技を成長させるために、どうすれば人気が出るかということばかり考えてしまうことが多いんです。確かに、それはとても大事ですが、成長プロセスを俯瞰して考えることも必要です。例えば、競技人口を増やすという成長の方法もあれば、いろいろな観戦手法を増やしたり、パラスポーツ的な視点での成長もあります。スポーツの地図で、成長に向けたストーリーを考えるヒントになるのではないでしょうか。

中北:スポーツ団体・スポーツの中期的な成長のために、どのようなKGIを定めて、経済価値と社会価値を上げていく必要があるか、バックキャストで考えることが大事です。短期的なチケットセールスにとどまらずに、視座を引き上げるためにもスポーツの地図は役立ちそうですね。

川堀:本日、スポーツの地図について語り合って、企業、スポーツ団体ともに、スポーツの地図の活用可能性が改めて見えてきました。

林:スポーツをマーケティング活用したいが、検討には至っていない企業も多いと思います。どうしたらよいか分からない場合のきっかけにしてもらいたいですね。

川堀:スポーツは価値が見えにくい側面がありますが、その価値を明らかにしていくときにぜひ、スポーツの地図を役立ていただけるとうれしいですね。

「スポーツの地図」に関する詳細や導入に関する問い合わせ:sports-solution@dentsu.co.jp
 

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ソニーFGの上場で注目、パーシャルスピンオフって?親会社と株主へのメリットとは

●この記事のポイント
・パーシャルスピンオフは、親会社が子会社株式の一部(20%未満)を保持しつつ、残りを株主に現物配当し、ブランドやノウハウを維持しながら事業を独立させる組織再編。
・パーシャルスピンオフ税制により、再編時に親会社・株主の双方に発生する譲渡損益課税やみなし配当課税が非課税(繰り延べ)となり、税負担なく戦略的な事業分離が可能になる。
・上場第1号であるソニーFGの事例は、経営資源の集中と金融子会社のブランド維持・成長を両立させ、日本企業の事業再編を加速させる画期的な先例となった。

 パーシャルスピンオフ税制が適用された上場第1号として、ソニーグループの子会社で金融事業を担うソニーフィナンシャルグループ(ソニーFG)が東証プライム市場に上場し、注目を集めている。これは、日本企業の事業再編と成長戦略を加速させる上で画期的な動きです。

 本記事では、この「パーシャルスピンオフ」の概念、それを支える「パーシャルスピンオフ税制」の仕組み、そして企業と株主にもたらされる具体的なメリットについて、専門家に解説してもらう。

●目次

パーシャルスピンオフとは? 組織再編の新潮流

 まず、パーシャルスピンオフを理解するためには、元となる「スピンオフ」という概念を知る必要があります。

 スピンオフ(Spin-Off)とは、企業が特定の事業部門や子会社を切り出し、それを独立した新しい会社として設立し、その新会社の株式を元の会社の株主全員に現物配当する組織再編手法です。

 ・完全な独立:親会社は新設(または既存)の子会社の株式を全て手放します。
 ・株主への分配:親会社の株主は、親会社の株式を持ったまま、新会社の株式を無償で受け取ります。

 これにより、親会社と子会社は資本関係が完全に断たれ、それぞれが独立した経営を行います。

 これに対し、パーシャルスピンオフ(Partial Spin-Off)は、スピンオフの一種ですが、親会社が切り出した子会社の株式を全ては手放さず、一部を保持し続ける点が最大の特徴です。

 経済産業省が示す特例措置(パーシャルスピンオフ税制)では、親会社が子会社の株式を20%未満保有し続けるケースが想定されています。

パーシャルスピンオフ税制の仕組み

 パーシャルスピンオフが活用される背景には、以下のような狙いがあります。

 1.ブランド・ノウハウの維持:親会社が一定の持分を持つことで、「ソニー」のような強力なブランド名や、親会社の持つ技術、システム、ノウハウを、独立後も子会社が引き続き利用しやすくなります。ソニーの事例では、これが大きな動機の一つでした。
 2.円滑な事業承継・分離:子会社が市場で信頼を獲得するまでの移行期間において、親会社との一定の関係性を残すことで、顧客や取引先の安心感を維持し、事業の円滑な切り離しを可能にします。
 3.従業員の抵抗感緩和:完全な切り離しよりも、親会社との資本関係が一部残ることで、子会社の従業員のモチベーション低下や抵抗感を和らげる効果も期待できます。

 スピンオフは、欧米では一般的な組織再編手法ですが、日本では長らく、税制上の大きな壁がありました。

 従来の税制では、親会社が株主に子会社株式を現物配当すると、親会社には株式の譲渡益(簿価と時価の差額)に対して、また株主にはみなし配当(受け取った株式の時価)に対して、多額の課税が生じていました。

 この税負担が、機動的な事業再編の大きな障害となっていたため、2017年度の税制改正で「スピンオフ税制」が創設され、一定の要件(主に完全分離)を満たせば、譲渡益やみなし配当への課税を繰り延べたり非課税にしたりできるようになりました。

 しかし、前述の通り、ブランド維持などの観点から完全分離が難しいケースもあり、2023年度の税制改正で、親会社が一部持分を残すパーシャルスピンオフについても、成長発展が見込まれるなどの一定の要件を満たす場合に非課税(課税繰り延べ)とする「パーシャルスピンオフ税制」が創設されました。

パーシャルスピンオフ税制の適用メリット

 この特例措置の最大のメリットは、「再編時の税負担が生じない」ことです。これにより、企業は税負担を気にせず、戦略的な事業再編を実行できるようになります。

1. 企業(親会社)にとってのメリット

2. 株主にとってのメリット

ソニーグループの事例から学ぶ意義

 ソニーグループが金融子会社のソニーフィナンシャルグループ(SFGI)の上場に際してパーシャルスピンオフ税制を適用したことは、日本企業にとって非常に大きな意味を持ちます。

1. 「ソニー」ブランドの維持と金融事業の独立

 ソニーグループは、金融事業を独立させることで、中核であるエンターテインメント、エレクトロニクス、半導体事業への経営資源集中を加速させました。

 一方で、パーシャルスピンオフの形式を採用することで、SFGIの株式の20%未満をソニーグループが継続保有します。これにより、ソニーFGは「ソニー」ブランドを継続して使用することができ、長年築いてきた顧客からの信頼とブランド力を維持したまま、金融事業として迅速な意思決定や独自の資金調達を可能としました。

2. 税制適用の「実績」がもたらす影響

 ソニーグループが上場第1号としてこの税制を適用し、成功裏に再編を完了させたことは、後続の日本企業に具体的な事例と適用への道筋を示しました。

 これまで、税制適格の要件が厳しく、二の足を踏んでいた大企業にとって、「ブランドを維持しながら、税制メリットを享受し、成長事業を切り出す」という新しい選択肢が現実的になりました。

 今後、非中核事業の切り離しや、成長事業の独立を検討する多くの企業が、このパーシャルスピンオフの手法を採用し、日本の産業構造のダイナミズムが高まることが期待されます。

パーシャルスピンオフが拓く未来

 パーシャルスピンオフ税制は、単なる税制上の優遇策ではなく、「大企業からスタートアップを創出する」ための強力な政策ツールだ。

 ソニーグループの事例は、この新しい税制の試金石となった。日本の企業がより機動的に事業再編を進め、グローバル競争力を高めていくための重要な一歩として、パーシャルスピンオフは今後ますます注目を集める可能性を秘めている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

Canva、なぜ取扱説明書をドラマに?日本市場に合わせた“学びとエンタメ融合”戦略

●この記事のポイント
・Canva Japanが日本のデザイン市場向けに、従来のチュートリアル動画をドラマ化した「拝啓 今日も私と商店街は元気です」を制作。学びとエンタメを融合させ、ユーザーが楽しくデザインを学べる新体験を提供。
・この取り組みは、日本市場を重視する「シン・地元主義」戦略の一環。生成AI機能や日本独自のUX強化、地域に根ざしたコンテンツ提供を通じて、デザイン経験が浅いユーザーも取り込む狙いがある。
・ビジュアルコミュニケーションの重要性が高まる中、物語や映像で学びを届けるCanvaの試みは、単なる機能解説を超えた「ユーザー体験の再発明」を志向し、日本でのさらなる成長を目指す。

「チュートリアル動画がドラマに?」――従来の無機質な解説動画を物語化することで、学びとエンタメを融合させた新たな試みが、日本のデザイン市場で注目を集めている。キャンバジャパン株式会社は、日本独自の戦略『シン・地元主義』の一環として、ドラマ『拝啓 今日も私と商店街は元気です』を制作。チュートリアル動画をドラマ形式にすることで、ユーザーに学びながら楽しんでもらう体験を提供する。

●目次

企画発表の背景

 Canvaはグローバルで急成長するオンラインデザインプラットフォームだが、日本市場は世界でもっとも成長著しい地域のひとつだ。キャンバジャパン株式会社カントリーマネージャー高橋敦志氏は記者会見で、「日本のユーザーに寄り添うことが、グローバル戦略の成功にも直結する」と語り、今回の取り組みの背景を説明した。

 高橋氏は続けて、最新の生成AI機能やチュートリアル動画を紹介。「たとえばSNS用バナーを作るときにテキストを入力するだけで、AIが複数のデザイン案を提示します。さらに、ドラマ形式のチュートリアル動画で操作方法やデザインのコツを物語として学べるようにしました」と説明。デザイン経験が浅いユーザーでも、楽しみながら学べる環境づくりが狙いだ。

 会場では、短編ドラマの冒頭シーンが公開され、記者や参加者が実際に視聴。「チュートリアル動画とは思えないほど自然で引き込まれる」との声が上がり、単なる操作解説にとどまらない“ユーザー体験の再発明”が示された。

ドラマ『拝啓 今日も私と商店街は元気です』概要

 タイトルは『拝啓 今日も私と商店街は元気です』。舞台は地方の商店街で、若手店主や地域住民が日常の課題に取り組む姿を描く。チュートリアル動画の内容は、登場人物が実際にCanvaを使ってチラシやポスターを作成する場面に組み込まれ、学びと物語を自然に融合させている。

出演者・監督の声

有働佳史監督
チュートリアルとドラマを両立させる難しさに言及。「物語のテンポを損なわず、学びの要素をどう組み込むかが最大の課題でした」と説明。

石川翔鈴さん
「視聴者が知らず知らずのうちにデザインのコツを吸収できるよう意識しました」と語る。自然な演技を通じ、学びの要素を違和感なく物語に組み込む工夫を紹介。

三倉茉奈さん
母親役を通じ、世代を超えた学びの価値を表現。「子どもも大人も一緒に学べる環境を描けたのが魅力です」とコメント。

浜野謙太さん
本人役で商店街と絡み、実体験に基づく自然なデザイン活用を演出。「商店街の人々との親和性も意識しました」と語った。

Canvaの国内戦略と事業展開

 高橋氏は会見で、日本市場向けの「ローカライズ戦略」の具体例を紹介。Canvaは単なるグローバルプラットフォームの提供にとどまらず、日本独自のUXや機能を強化している。

日本仕様のUX
ふりがな機能や印刷・配送対応など、国内ユーザーの利便性を重視。

コンテンツパートナーとの連携
Aflo、いらすとや、円谷プロなどの素材提供企業と提携。教育や商店街など地域コミュニティ向けの素材も増やしている。

教育分野への浸透
学校や塾など教育現場での導入を進め、子どもから大人まで幅広いユーザー層に対応。今回のドラマ形式チュートリアルも、教育現場での利用を意識して設計されている。

ビジュアルコミュニケーションの潮流

 Canvaの戦略は単なるキャンペーンではなく、社会的潮流とも連動している。最新の調査によると、91%の人が「文字よりもビジュアルの方が理解しやすい」と回答しており、ビジュアルコミュニケーションの重要性が高まっている。

 高橋氏は「文字だけで伝える時代は終わりつつある。物語や映像を通じて学びを届けることが、ユーザー体験の向上につながる」と指摘。チュートリアル動画のドラマ化は、この潮流を踏まえた試みだ。

 今回のドラマ形式チュートリアルは、Canva Japanが日本市場での成長を加速させる象徴的な取り組みだ。従来の無機質な解説動画を物語化することで、学びを楽しみに変え、幅広いユーザー層を取り込む狙いがある。

 高橋氏は最後に「日本のユーザーから学び、日本市場に最適化したプロダクトとコンテンツを提供する。今後も教育や地域コミュニティに寄り添った取り組みを拡大していく」と語り、ビジネスとしての意義と社会的価値を強調した。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

※ドラマは2025年10月1日よりCanvaJapan公式YouTudeチャンネルにて第1話〜第3話を公開(第4話〜第6話は順次公開)

三菱商事も撤退で逆風の洋上風力発電、北九州は総合拠点化で経済波及効果に期待

●この記事のポイント
・北九州市は港湾再生策として洋上風力発電に注力し、製造からO&Mまで担う東アジアの総合拠点化を目指している。
・三菱商事の撤退など市場逆風もある中、国と連携しつつ国産風車の復活やサプライチェーン構築による波及効果を狙う。
・漁協や住民との合意形成を経て推進。2030年度末の拠点稼働を目標に、人材育成や地域産業の活性化にも取り組む。

 再生可能エネルギーのなかでも「洋上風力発電」は、日本の脱炭素と産業政策の両面で注目を集めている。だが一方で、三菱商事が欧州での大型案件から撤退するなど、世界的に逆風も吹いている。そうしたなか、北九州市は「洋上風力の総合拠点化」に向けて歩みを加速させている。なぜ同市は洋上風力に賭けるのか。そして、実際に何を目指しているのか。北九州市港湾空港局 洋上風力拠点化推進課長・白井氏に聞いた。

●目次

港湾活性化策として始まった洋上風力

 白井氏はまず、「洋上風力推進の原点は港湾の再生にある」と語る。

「北九州は1901年の官営八幡製鐵所の創業以来、鉄とものづくりの町として発展してきました。港も輸出偏重型で活況を呈していたのですが、リーマンショック以降は産業の空洞化が進み、港の活性化策が課題になっていました。そこで2011年から、ヨーロッパの先行事例を参考に洋上風力の導入を進めてきたのです」

 参考としたのは、ドイツ北部の港湾都市ブレーマーハーフェン。造船不況で停滞した港を、洋上風力の拠点化によって再生させた実績だ。北九州市は同様に、港湾再生の切り札として洋上風力に着目した。

 北九州は鉄鋼、造船、機械といった産業基盤を長年育んできた。その蓄積は洋上風力にも直結する。

「現在、国内で風車を本格的に製造するメーカーはほとんどありません。しかし北九州には、かつて陸上風車のサプライヤーだった企業が集積しています。これらの技術を活かし、国産風車の復活、あるいは主要部品の国産化を進めたいと考えています」

 洋上風力の部材は巨大で、港湾インフラや重工業の知見が不可欠だ。北九州はその条件を満たす数少ない都市の一つだという。

経済波及効果と中小企業の参入余地

 洋上風力は「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策の柱でもある。北九州市の取り組みも国策と密接に連動している。

「経済産業省や国土交通省と連携し、さまざまな支援を受けています。洋上風力を国産化することで、サプライチェーン全体が国内に根付く。それが国としても、市としても大きな意義を持つと考えています」

 製造拠点を誘致できれば、ティア1からティア3までのサプライチェーンが形成され、経済波及効果は大きい。非製造業分野にも裾野は広がる。

「基地港湾として西日本をカバーすることで、物流、海洋土木、電気工事など、これまでになかった産業が市内に定着します。中小企業やスタートアップの参入余地も当然生まれると考えています」

 ただし現状では「大元の製造拠点を誘致することが最優先」とも強調する。サプライチェーンの中心を引き寄せられるかが鍵だ。

 ただ、世界の洋上風力市場は順風満帆とはいえない。欧州では資材高騰や金利上昇の影響で採算性が悪化し、三菱商事も大規模案件からの撤退を決めた。

 白井氏もこの逆風を認めつつ、国の支援策の重要性を指摘する。

「三菱商事さんは見通しが甘かった部分もあるかもしれませんが、物価高騰への対策は国全体で整える必要があります。自治体レベルでできることには限界がある。市場環境を整えることが不可欠です」

差別化の鍵は「製造+東アジア」

 国内の基地港湾は東北・北海道が中心だが、北九州は別の強みを打ち出す。

「我々は単なる積み出し拠点ではなく、製造からメンテナンスまでを担い、東アジアに輸出する拠点を目指しています。ここまで構想している自治体は少ない」

 つまり北九州は「広域型の総合拠点」として差別化を図る。

 洋上風力は設置して終わりではない。長期にわたり保守が必要だ。北九州市は西日本をカバーするO&M(運用・保守)拠点の構築を進める。

「ヨーロッパでは部材のストックポイントを整備し、広域に供給しています。同じように、西日本全体を対象としたストック拠点を目指しています。また、人材不足が大きな課題なので、市内では人材育成拠点も既に稼働しています」

 風力発電は漁業者や住民の理解なくして進まない。

「北九州市の洋上風力は港湾区域内で、市が公募した案件です。その前段階で漁協や住民への説明会を何度も行い、大方の合意を得た上で進めました。これ以上新規サイトを広げる計画はありません」

 市民生活や雇用へのメリットについては「必ず波及効果はある」と断定する。

2030年に向けたロードマップ…北九州モデルは実現するか

 現在、浮体式拠点予定地の埋め立てが完了し、地質調査を進めている段階だ。

「2030年度末の稼働を目指し、関係企業や国と議論を深めながら拠点整備を進めます。製造からメンテナンス、輸出まで担える東アジアの総合拠点を構築するのが最終的な目標です」

 洋上風力をめぐる環境は厳しい。大手企業ですら撤退を余儀なくされる中で、地方都市が主導して総合拠点を築くのは容易ではない。それでも北九州市は「港湾再生」という原点を軸に、独自の戦略を描く。

 欧州では洋上風力が港湾都市の再生に成功例を生んだ。果たして「北九州モデル」は日本版の成功例となるか。2030年、その答えが見えてくる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

Roblox上で広がる、IP活用の可能性 「IP Game Jam Powered by dentsu and GeekOut 」を開催

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IP活用の視点から、没入型ソーシャルプラットフォーム「Roblox」の可能性を探るイベント「IP Game Jam Powered by dentsu and GeekOut」が、2025年7月17日(木)、18日(金)に電通ホールにて開催された。

電通グループと、Robloxにおけるコンテンツの企画・開発・パブリッシングなどを行うGeekOutによって開催されたもので、GeekOutが運営するGeekOut StudioからRobloxのトップゲームクリエイター28人が来日・参加した。17日(木)はクリエイターたちが、限られた時間内にゲームを企画・開発する「Game Jam」形式でIPをテーマにしたゲームを制作し、18日(金)は開発したゲームプロトタイプを、来場した日本のIPホルダー企業に向けて発表した。また、ゲームプロトタイプの発表前に、IPホルダー企業に向けてRobloxの概要や活用方法などを紹介するセッションも実施された。

18日(金)のイベント内容は以下の通り。

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GeekOut代表の田中創一朗氏

最初のセッションでファシリテーターとして登壇したのは、GeekOut代表の田中創一朗氏。田中氏はまず、本セッションの目的は、IPホルダー企業がRobloxをコミュニティの構築と育成をクリエイターと共に行う場所として活用できる視点を提供することであると説明。Robloxの特徴や注目度の高さ、ユーザー属性などの概要を紹介したうえで、Roblox内のゲーム「Grow a Garden」が同時接続数2160万人(25年6月末時点)を超え、世界で最も遊ばれているゲームのひとつになったといえることや、Roblox内のコンテンツはすべてUGC(User Generated Content=ユーザーが生成するコンテンツ)であることなどを語った。

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Roblox Japan Developer Relations 本部長の辻潤一郎氏

続いてRoblox Japan Developer Relations 本部長の辻潤一郎氏が登壇し、Robloxの人気を支えるクリエイターについて紹介。「Robloxでは、短時間で簡単に誰でもコンテンツを作れるゲームエンジンを提供しており、ゲーム開発を“民主化”した。これがUGCコンテンツを生み出すクリエイターが増える理由になっていると思う」とRobloxならではの魅力を語った。

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Robloxゲームを題材に動画制作を行うYouTuber・MeEnyu氏

次に、カナダ出身のRobloxゲームを題材に動画制作を行うYouTuber・MeEnyu氏が登壇。MeEnyu氏は2021年からRobloxのゲーム実況動画を配信し始め、現在のYouTubeチャンネルの登録者数は330万人以上(25年7月時点)。動画視聴回数はのべ7億回を超えるインフルエンサーとして活躍している。動画とゲームそれぞれのアクセスデータを交えながら「Robloxのクリエイターが作るコンテンツを、動画クリエイターが広めることで相乗効果が生まれる。ゲームのコミュニティを拡大するには、Robloxのクリエイターと動画クリエイターとのシナジーが大切だと思っている」と語り、UGCエコシステムにおける動画クリエイターの役割を強調した。

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セガ トランスメディア事業部 ブランドマーケティング部 ブランドディレクター 向大地氏

最後に登壇したのは、セガ トランスメディア事業部 ブランドマーケティング部 ブランドディレクター向大地氏。セガとGeekOutは現在、Roblox内で「龍が如く※」公認のゲームを共同で開発している。またセガは、Robloxが提供する新プラットフォームで「龍が如く」のライセンス提供も開始した。向氏は「クリエイターの意思やRobloxの文化を最大限に尊重しながらコンテンツを展開し、新しいファンコミュニティを生み出すきっかけにしたい」と語った。

※龍が如く:日本に拠点を置く「龍が如くスタジオ」が作り出す、ドラマチックアドベンチャーゲームシリーズ。https://ryu-ga-gotoku.com/


セッション終了後は、GeekOut Studio所属のクリエイターたちによる、ゲームプロトタイプ発表が行われた。今回は電通のオリジナルIP「豆しば※」を活用し、制限時間8時間で、3つのチームに分かれてゲームを開発。発表に対し、辻氏と、豆しばの生みの親である電通 第1CRプランニング局の金 錫源(キム・ソクウォン)氏が講評を行った。

※豆しば:電通が開発したオリジナルキャラクター。「ねぇ、知ってる?」というセリフから始まり、シュールな豆知識を披露する。

 

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一つ目のチームの発表の様子

一つ目のチームは、豆しばが披露する「豆知識」の内容をもとにしたミニゲームを制作。Robloxでのプレーは多くのユーザーが友達と一緒に5~10分のプレーを繰り返すという特徴がある。そのカルチャーを意識した5~10分の短時間で遊べる点もポイントとなっている。金氏は「豆しばをよく理解して丁寧に作ってくれたことが伝わった。自分もプレーしたくなったし、このゲームが海外でも豆しばの認知拡大につながる気がした」とコメント。辻氏は「IPの魅力を生かしながら、Robloxコミュニティに受け入れられる構造になっている。特にミニゲーム形式は初めてのユーザーにも入りやすく、豆しばの世界観を知ってもらう入り口として秀逸」とコメントした。

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二つ目のチームの発表の様子

二つ目のチームは、日本の高校を舞台に豆しばが描かれたカードでバトルが楽しめるゲームを制作。カードに書かれた豆知識によって強さが異なり、カードバトルで「生徒会長に戦いを挑む」ことが目的となっている。金氏は「“ねぇ、知ってる?”の豆知識をカードバトルに生かす発想が新鮮で、遊びながら自然と学べる構造になっている。IPのエッセンスをよく理解してくれている」とコメント。辻氏は「カードバトルはRobloxでは珍しく、日本のカルチャーが背景にある点も面白い。親子でも楽しめるゲーム設計で、IPを深く理解して構成されている」とコメントした。

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最後のチームの発表の様子

最後のチームは、さまざまな豆しばを探しながらゲーム内で写真撮影ができるゲームを制作。撮影すると豆しばが「豆知識」を披露し、撮った写真はゲーム内のアルバムに保存することができる。キム氏は「かわいらしい世界観が完成していて、見たことがない豆しばもいたが、どんな種類の豆しばが出てくるか楽しみになる。市販ゲーム並みのクオリティを感じた」とコメント。辻氏は「小さな子どもから大人まで楽しめるファインド型ゲームで、視覚表現のクオリティも高い。豆しばの魅力を最大限に引き出している」と評価した。

3チームの発表後、田中氏は「8時間で制作したとは思えないクオリティのゲームを体感してもらえたと思う」とコメント。精度の高いコンテンツを短時間で作れるというRobloxならではの開発力と柔軟性に加え、IPの本質を理解しつつ、世界観やキャラクターの潜在的な可能性を創造的に引き出してくれるプラットフォームであることを、IPホルダー企業に強く印象づけた。

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左から)GeekOut代表の田中氏、電通グループの池田心平氏

イベントでは、新サービスとして「Global Fan Community Growth Solution」の提供を開始したことも紹介された。本サービスはRoblox社より発表された新たなIPライセンス管理プラットフォームの発表に伴い提供するもので、IPが適切な形で活用され、IPの持つ可能性を最大化することを目的としている。

本件を担当する、電通グループ グローバルビジネス開発オフィス シニアマネージャーの池田心平氏は「UGCプラットフォームには大きな可能性を感じていただいている一方で、IPホルダーの皆さまからは、活用にあたっての課題や懸念も多く寄せられている。IPホルダーの皆さまのご判断を尊重しながら、ニーズのある具体的なユースケースを起点に段階的にスタートし、ともにファンコミュニティと向き合う新しい形を模索していきたい」と語った。(詳しくはこちら) 

グローバルのデイリーアクティブユーザー数が1億1180万人(2025年7月時点)を超えるRoblox。このプラットフォーム活用による、IPの新たな可能性が見えたイベントとなった。


開催概要
名称:IP Game Jam Powered by dentsu and GeekOut
開催日時:2025年7月17日(木)、18日(金)
会場:電通ホール