Azure、グーグルを超える?AWSがQuick Suiteで企業経営に革命をもたらすか

●この記事のポイント
・AWSが発表した「Amazon Quick Suite」は、Google DriveやOneDriveなど他社サービスとも連携可能な革新的AIエージェントで、社内外データを統合分析できる。
・AzureやGoogle Cloudに押されていたAWSが、AI対応の遅れを克服しクラウド覇権奪還を狙う戦略的転換点として位置づけられる。
・Quick Suiteは企業の意思決定やナレッジ活用を支援し、「AIが働く時代」への実装を現実化する次世代BI基盤として注目されている。

 クラウド業界の盟主・Amazon Web Services(AWS)がついに動いた。今月発表された企業向けAIエージェント「Amazon Quick Suite」は、単なる新サービスの域を超え、生成AI時代におけるAWSの戦略的“再起動”を意味している。

 かつて世界クラウド市場で50%近いシェアを誇ったAWSだが、2024年には30%を割り込み、マイクロソフトのAzureやグーグルのGoogle Cloudに追いつかれる状況にあった。その要因として指摘されていたのが、「AI対応の遅れ」だ。

 AzureはOpenAIとの連携でChatGPTやCopilotを一気に法人需要へ広げ、Google CloudはVertex AIで検索・生成・データ解析の三位一体モデルを構築。対してAWSは「クラウドの安定性とスケール」はあっても、生成AIの表舞台では影が薄かった。

 しかし、「Amazon Quick Suite」はその構図を覆す可能性を秘めている。

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「Quick Suite」はどこが革新的なのか

「Quick Suiteの最大の特徴は、“AWSの内側”に閉じない点にあります。企業が日常的に使用するGoogle Drive、Microsoft OneDrive、SharePoint、Adobe、ServiceNowなどの外部サービスとシームレスに統合できます。つまり、これまでクラウド事業者間の“壁”とされていた部分を越え、異なるプラットフォーム上のデータをAIが横断的に理解・処理できる仕組みです。

 さらに特筆すべきは、外部データソースとしてAP通信やワシントン・ポストなど主要メディアのニュースデータを解析対象に含めた点でしょう。社内データだけでなく、世界の最新情報を文脈として理解し、企業の意思決定やレポート作成に反映できます。これは、従来のBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを超えた『進化型ナレッジ・アナリティクス』ともいえるでしょう」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

 実際、Quick SuiteではAWSの生成AI基盤「Bedrock」と、自然言語検索エンジン「Kendra」、データ統合基盤「Redshift」「S3」を横断活用し、「経営ダッシュボード」「自動レポーティング」「顧客対応シナリオ生成」などを一気通貫で行える。
BIツール、CRM、ナレッジ管理、文書生成──これまで別々のシステムに分かれていた機能を一つに束ねる統合AIスイートだ。

「AWSのQuick Suiteを理解するうえで、比較対象はやはりマイクロソフトの『Copilot』とグーグルの『Gemini for Workspace』でしょう。CopilotはMicrosoft 365とTeamsを核に、社内のあらゆる情報をAIが整理・要約。GeminiはGoogle Workspaceを中心に、メールやドライブ内の情報を自動で解析する。いずれも“自社エコシステム内”で完結する設計が基本。

 一方のAWSは、その“閉鎖性”を逆手に取ったもの。Quick Suiteは、他社プラットフォームを前提にしたオープンな設計を打ち出し、『AWSを基盤としながら、グーグルやマイクロソフトのユーザーも巻き込む』構想を描いています。

 つまり、AWSの顧客に限定されず、他社クラウド利用者にも“第2の頭脳”を提供するAIエージェントとしての立ち位置を取ったわけです。技術的にも、AWSの強みであるスケーラビリティ、セキュリティ、カスタマイズ性を継承し、企業ごとに独自のAIモデルを展開できる点が、CopilotやGeminiと大きく異なります」(同)

 生成AIを「使う」ではなく、「自社仕様に作り変える」──それがQuick Suiteの思想といえる。

AIエージェント市場の地殻変動

 2025年に入り、企業向けAIエージェント市場は急速に拡大している。OpenAIの「ChatGPT Enterprise」、グーグルの「Gemini for Workspace」、マイクロソフトの「Copilot」、アンソロピックの「Claude for Business」など、“社内業務に最適化されたAI”の提供が各社の焦点となっている。

 この流れを牽引しているのが「RAG(Retrieval Augmented Generation)」技術だ。社内データをAIに安全に検索・参照させる仕組みで、Quick Suiteも当然この構造を採用している。AWSは自社のクラウド上に顧客データを保持するため、RAGのセキュリティとスピード面で優位に立てる可能性がある。

 市場調査会社Synergy Researchによれば、企業AI支出のうち“社内AIエージェント構築・運用”分野は2026年に世界で800億ドルに達する見込み。AWSがQuick Suiteでこの領域を制すれば、クラウド競争の次章を主導できる。

なぜAWSはここまでAIで出遅れたのか

 AWSのAI遅延の背景には、同社の歴史的な企業文化がある。AWSは「開発者中心のインフラ企業」として発展してきたため、B2B SaaS型のユーザー体験(UI/UX)には長らく注力してこなかった。

 AzureやGoogle Cloudが「AIを使う人」を起点に設計しているのに対し、AWSは「AIを作る人」のための基盤提供にとどまっていた。

 しかし、ChatGPT登場以降、企業のニーズは「自分たちのAIを構築したい」から「業務をAIに任せたい」へとシフト。AWSはこの変化に応えきれず、生成AI分野で後手に回った。その反省が、Quick Suiteの“ユーザー中心設計”に色濃く反映されている。

AWSの日本市場戦略:Quick Suiteは起爆剤となるか

 日本では大手企業の8割以上がAWSを活用しているが、Azureとの併用が増えている。背景には、Copilotを中心とするマイクロソフトの「AI統合戦略」がある。Quick Suiteの登場で、AWSはこの“防衛戦”に反転攻勢を仕掛けた格好だ。

 特に注目されるのが、日本語対応の自然言語処理精度と国産パートナー企業との連携強化だ。AWSジャパンはすでに日立製作所、NTTデータ、サイボウズ、Sansanなどと協業し、Quick Suite上での社内AI展開を検討中とされる。加えて、日本政府が推進する「官民AIガイドライン」への準拠、国内データセンターでの処理完結も売りになる。

 Quick Suiteは、日本企業の「クラウドとAIの統合課題」を解く鍵になる可能性が高い。複数クラウド環境(マルチクラウド)にまたがるデータ活用を容易にし、製造、金融、流通といった産業領域での“AI内製化支援ツール”として拡大が期待される。

次の主戦場は「AIガバナンス」と「ナレッジ主権」

 AIエージェント競争の次なる焦点は、「どのクラウドが一番賢いか」ではない。「どの企業が自社の知識を安全に、効率的に活用できるか」だ。

 AWSがQuick Suiteで描くのは、AIを「知識の整理者」として企業内に埋め込む世界。AIが社員の質問に答えるだけでなく、過去の失敗事例や成功要因を“組織知”として継承する。それは、企業が長年課題としてきた「人材流動化」「属人化」「情報分断」への解決策でもある。

 一方で、AIが社内外のデータを統合することで、プライバシーや情報ガバナンスの新たな課題も浮上する。AWSはこれに対し、「データは常に顧客の所有下にある」という原則を明示しており、Quick SuiteのAIが参照するデータはすべて顧客のVPC(仮想プライベートクラウド)内で処理される。他社AIとの最大の違いがここにある。

 クラウド戦争の主戦場は、もはやインフラでもSaaSでもない。AIを中心に据えた「企業知の運用プラットフォーム」へと移行しつつある。AWSのQuick Suiteは、その転換点を象徴する存在だ。

 これまでAWSは“企業のITの裏側”を支えてきたが、Quick Suiteによって“意思決定の表側”に躍り出ようとしている。AIが企業経営を支援する未来――その中心に再びAWSのロゴがあるかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

アマゾンやマイクロソフト、なぜ過去最高の好業績なのにリストラ?「AI経営」の新常態

●この記事のポイント
・アマゾンやマイクロソフトなどが過去最高益を更新する一方で大規模人員削減を実施。AI導入による構造改革が進む。
・日本でもリコーやパナソニックなどが業績好調下で人員削減を発表。AI活用による“静かな構造改革”が拡大。
・「AIが人を奪う」ではなく「人の役割を再定義する」時代へ。経営者にはAI時代の組織設計力が問われている。

 2025年7〜9月期決算。米アマゾン、マイクロソフト、メタ、アルファベット――いずれもAIを軸とした構造改革の真っただ中にあるテクノロジー大手が、そろって過去最高益を叩き出した。

 アマゾンは純利益が前年同期比38%増の211億ドル(約3.2兆円)。これは同社史上最高である。その一方で同社は今月、1万4000人の人員削減を発表したばかりだ。
 マイクロソフトも同じ期間の純利益が12%増の277億ドルと過去最高を更新。そのなかで2025年通年の削減数は約1万5000人に達する。
 メタは一見すると純利益が83%減の27億ドルと大幅減益だが、これは税務関連の一時費用によるもので、実質ベースでは186億ドルの黒字と過去最高水準だった。
 グーグルの持株会社アルファベットも、売上高が四半期ベースで初の1000億ドルを突破し、純利益も増加している。

 つまり今、米テックのリストラが加速しているものの、それが経営悪化という図式は崩壊している。AI導入とクラウド最適化による生産性向上が、コスト削減を上回るスピードで進行しており、「業績が好調だからこそ人を減らせる」構造になっているのだ。

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「AIは雇用を奪う」は誤解か、経営の再設計か

「人員削減の背景にあるのは単純なコストカットではありません。アマゾンやマイクロソフトの決算書を読み解くと、AI関連投資額の急増が確認できます。たとえば、アマゾンは生成AI開発基盤『Bedrock』やクラウドAIモデル群への投資を拡大しつつ、倉庫や物流現場の自動化を加速させています。マイクロソフトは『Copilot』を中心に、全製品にAI機能を組み込み、AI関連のR&D費用は前年の1.4倍に達しています。これらは『人を削減して空いた余力をAI投資へ再配分する』動きともいえます」(経済ジャーナリスト・岩井裕介氏)

 つまり、人件費削減は“AI化のための再投資”の一環であり、経営のリストラクチャリングがAIを中心に再構築されている。

 この流れは、AIブームという一過性のトレンドではなく、企業組織の「設計思想の転換」を意味している。かつては「組織を拡張して規模の経済をつくる」ことが成長戦略だったが、今は「AIを軸にした最適化による利益率の拡大」が最優先課題に変わっている。

 では、日本はどうか。AI導入による構造改革はすでに静かに進んでいる。

 昨年、リコーは業績好調の中で約2000人削減を発表。三菱電機は人数目標を明示しなかったが、AIを活用した業務効率化を理由に大規模な再配置を進めている。パナソニックHDも約1万人削減を表明しており、国内製造業の間でも「好業績下の人員見直し」が常態化しつつある。

 各社は「AIが理由」とは明言していない。だが、実態を見ると明らかにAIシフトが背景にある。製造現場ではAIによる設備保守や検査の自動化、設計領域では生成AIによる設計支援、そしてホワイトカラー領域ではCopilotやChatGPT Enterpriseの導入が進み、“AIによる中間層の代替”が着実に進行している。

 リコーのように事務系職種の業務自動化を徹底する企業では、労働時間当たりの生産性は2年で約1.3倍に達している。同社の2025年3月期決算は、売上高が微増にとどまった一方で営業利益は17%増を記録した。「AIで効率化した分だけ利益率が上がる」構図は、すでに日本でも実証されている。

「解雇できない国」で進む“静かな構造改革”

 日本は解雇規制が厳しい国とされる。だが今、企業は「静かなリストラ」を加速させている。配置転換や早期退職募集、AIによるタスク削減による“自然減”を通じて、実質的な人員削減を進めているのだ。

「ある人事コンサルティング会社の試算では、2024〜25年度にかけてAI関連の業務効率化によって削減された雇用は約4万人規模に達するとみられています。特に影響を受けているのは、間接部門(総務・経理・営業支援など)と、顧客サポート職です。

 その一方で、AI運用・プロンプト設計・データ分析などの専門職需要は急増しています。総務省の労働動態調査によると、AI関連職の求人倍率は2022年の2.1倍から2025年には4.7倍に上昇しており、雇用構造の地殻変動が進行しています」(同)

“解雇できない国”であっても、企業がAI導入を進める限り、“再教育・再配置を通じた人員再構築”は避けられない。そしてその結果、「AIによって生産性を高め、利益を確保しながら人を減らす」という米国型モデルに近づいていくのだ。

 ここで重要なのは、「AIが人を不要にする」という発想を超え、“人の役割を再定義する経営”への転換である。マイクロソフトCEOサティア・ナデラは、決算説明会でこう述べている。

 “AI is not replacing people. It is replacing tasks.”
(AIが置き換えるのは人ではなく、タスクだ。)

 つまり経営の本質は「削減」ではなく「再構築」。不要になったタスクをAIに任せ、人は創造・判断・共感といった高次価値の領域にシフトすることが求められる。

 日本企業にとっても、単なる“人減らし”ではなく、「AIをどう組織に埋め込み、どう再設計するか」という設計力が問われる時代に入った。例えば、ソニーグループやトヨタなどは、AI活用による生産効率化を進めつつ、従業員のAI教育プログラムを並行して整備している。トヨタは25年から、全社員対象の「AI活用認定制度」を導入予定であり、「AIが奪う」よりも「AIを使う」方向に軸足を移している。

「人員削減=悪」ではなく「生産性進化の通過点」

 日本社会では、「人員削減=悪」という感情的反発が根強い。だが、AI時代においては、それが成長戦略の副作用として現れているにすぎない。むしろ注目すべきは、アマゾンやマイクロソフトが削減後も同規模、もしくはそれ以上の人材投資をAI分野に行っている点だ。

 アマゾンのAWS部門ではAIエンジニア採用を前年比で32%増、マイクロソフトのCopilot部門でも採用を1.5倍に拡大している。つまり「削って終わり」ではなく、「削って作る」――創造的再配置の発想である。

 今後、日本企業にも同様の変化が不可避となるだろう。業績が好調でも「現状維持ではAI競争に負ける」リスクが高まっており、組織の再設計が経営の最重要課題となる。

 業績好調下での人員削減は、AIシフトのための再投資構造の一部だ。日本企業でも同様の動きがすでに進行中であり、解雇規制の中で「静かな構造改革」が拡大。経営者は「AIによる効率化」ではなく「AIを使う人間の再定義」へ舵を切る必要がある。

 かつてリストラは“痛み”の象徴だった。だがAI時代のそれは、“進化”の通過点になりつつある。企業に求められるのは、人を減らす勇気ではなく、新しい価値を生み出す構造を設計する知恵である。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

エレベーターや立体駐車場からオペレーターが消える?人手不足の裏で進むDX革命

●この記事のポイント
・エレベーターや立体駐車場の保守現場で人手不足が深刻化。NEC・日立・三菱電機がDXやAIを活用し、省人化と安全性向上を両立。
・NECは無人運営の立体駐車場を実証、日立はNVIDIA技術で保守効率を倍増、三菱電機は地震後復旧を自動化するなどDXが加速。
・「機械設備保守×DX」市場は2030年に6000億円規模へ。AIとクラウドが“止まらない都市”を支える新たな社会インフラを形成。

 いま、日本各地のビル、マンション、商業施設で、ひそかに危機が進行している。立体駐車場やエレベーター、空調や給排水など、都市インフラを支える「機械設備」の保守・点検を担う人手が急速に減っているのだ。

 たとえば機械式立体駐車場。全国で約60万台規模の装置が稼働しているが、運営主体の多くは中小事業者だ。常駐オペレーターの確保が難しく、故障や誤作動の際に現場対応できる人材が不足している。「駐車場が動かない」「復旧まで数時間」――そんな事例が増えつつある。

 エレベーター業界も例外ではない。国土交通省によると、日本国内のエレベーター設置台数は2024年時点で約120万基に達し、年3〜4%ペースで増加している。一方で、保守・点検を担う技術者の数は減少傾向だ。特に地方では、定期点検のスケジュールが組めないケースも出ており、「安全性を維持できるか」が喫緊の課題となっている。

 こうした“人の限界”を補うべく、設備保守の世界で急速に進んでいるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)である。AI・画像認識・IoTなどを駆使し、点検・監視・運転を遠隔や自動で行う取り組みが広がっている。

●目次

NEC:立体駐車場を「無人化」する実証

 NECは2025年12月から、都内の立体駐車場で画期的な実証を始める。パートナーとなる駐車場メーカーと協業し、AI画像認識を活用した無人運営システムを開発中だ。
 従来は入庫・出庫のたびに人が操作盤で監視し、万一のトラブルには現場介入が必要だった。しかし新システムでは、カメラ映像から車両の動きをリアルタイム解析し、異常を自動検知。操作案内から緊急停止までをクラウド側のAIが判断し、オペレーターは遠隔から複数拠点をモニタリングするだけで済む。

 NECはすでに、駅や商業施設などで防犯カメラを活用した人流解析・安全管理システムを展開しており、その延長線上で立体駐車場領域に進出したかたちだ。都市の“縁の下”で進む無人化は、社会の安全と省人化を両立する新たなモデルとなりうる。

日立製作所:NVIDIA技術で「半分の人員」で保守

 日立製作所もまた、DXによる保守効率化に力を入れている。特に注目されるのが、NVIDIAのAIプラットフォームを活用した点検支援システムだ。
 設備機器の稼働音や振動データをセンサーで取得し、クラウド上のAIモデルが「異常の兆候」を自動的に検出。これまで熟練作業員の経験に頼っていた診断工程を自動化することで、必要な作業人員を約2分の1に削減するという。

 この取り組みは、日立の「Lumada(ルマーダ)」と呼ばれる産業DX基盤の一環でもある。膨大な設備データを解析し、異常予兆・保守計画・部品調達をすべて統合的に管理することで、工場やビル設備の稼働率を最大化する。AI企業との協業により、保守・メンテナンス領域の“省人化産業”がいよいよ現実のものとなりつつある。

三菱電機:地震後の復旧を自動化

 三菱電機もDXによる保守自動化で先行する。特に注目されているのが、地震発生後のエレベーター運転再開プロセスの自動化だ。
 これまでは地震で停止したエレベーターを、技術者が一基ずつ訪問して安全を確認し、再稼働の判断をしていた。そのため都市部では「再開までに数日」かかることもあった。
 しかし新システムでは、加速度センサーやAI解析を組み合わせ、建物ごとに安全性を自動評価。問題がないと判断されたエレベーターは、遠隔から即時に運転再開できる。これにより、復旧時間を数分の1に短縮する見込みだ。

 この技術は、将来的に地震国・日本のインフラレジリエンスを高める重要なピースとなる。大規模災害後の「人が動けない時間」をAIが埋める――そんな新たな保守体制が見え始めた。

市場が広がる「機械設備保守×DX」

「こうした技術潮流の背景には、単なる人手不足だけでなく、社会全体の構造変化があります。国土交通省によると、日本の建築物の平均築年数は30年を超え、老朽化が進行しています。メンテナンスコストが急増する一方で、技術者の高齢化も進んでいます。
 さらに、企業側には『安全性の確保』と『コスト最適化』という二律背反のプレッシャーがのしかかります。結果として、デジタルによる“見える化”“予兆検知”“遠隔監視”の需要が急速に高まっているのです」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

 民間調査によると、国内の設備保守DX市場は2024年の約2500億円から、2030年には6000億円規模に達する見込み。IoTセンサーやクラウド解析、画像認識AI、ドローン点検、ロボティクスなど周辺技術も含めると、裾野はさらに広がる。

 一方で、課題も残る。多くの立体駐車場や中小ビルの保守は、地域の中小事業者が担っており、DX投資の負担が重い。
「センサー設置やクラウド利用料など初期コストが大きく、IT人材の確保も難しいのが現状です。このため、NECや日立など大手による『サブスクリプション型DX支援』や『共同保守プラットフォーム』への期待が高まっています。

 たとえば日立は、保守データを匿名化して共有し、複数企業が共同でAIモデルを改善する仕組みを構想中です。こうした“共同学習”モデルが進めば、中小企業でもAI保守の恩恵を受けられるようになるでしょう」(同)

安全と効率、そして「信頼」の再構築へ

 DX化が進むとはいえ、機械設備の保守は「命を預かる仕事」だ。AIが異常を検知しても、最後の判断を下すのは人間であり、トラブル対応時には現場対応が不可欠だ。
 その意味で、DXは人を排除する技術ではなく、人を支える技術として位置づけられるべきだろう。

「DXの目的は“無人化”ではなく、“安全性と信頼性を維持しながら省人化すること”。人の経験をデジタルに置き換えるのではなく、デジタルで補完するという視点が必要です」(同)

 機械設備保守の現場は、これまで日の当たらない領域だった。だが今、DXによって「安全を支える裏方の仕事」が産業の主役に浮上しつつある。
 AI、センサー、クラウドという“目に見えない技術”が、都市の安心と持続性を支える時代が、すぐそこまで来ている。

“機械設備保守×DX”の波は、目立たぬが確実に産業の構造を変えつつある。製造業や建設業が人手不足で苦しむ中、この分野の技術開発は「労働力の代替」ではなく、「安全と生産性の両立」を実現する挑戦だ。

 エレベーター、立体駐車場、工場設備、インフラ点検――どの領域でも共通するキーワードは「自律・予兆・遠隔」。これらが融合したとき、都市の“静かな変革”が始まる。

 人が減っても止まらない社会。その鍵を握るのは、表舞台ではなく、裏方の技術だ。DXの本当の価値は、派手な生成AIではなく、こうした「社会の維持装置」を支える地道な革新の中にある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

中小企業とともに進化する。ファインズが挑む、複合ソリューションによる新しい成長戦略

 日本の企業の約98%を占める中小企業。一方で、その多くがいまだ「DXの波」から取り残されています。

 そんな現状を打破するため、中小企業のDX支援に軸足を置き、時流に即したテクノロジーを活用したサービスで成長を続けてきた株式会社ファインズは、マーケティングと業務支援の双方を支える豊富なソリューションとその顧客基盤を強みに、DX格差の解消に挑んでいます。

 今回は、代表取締役社長・三輪幸将氏に、多くの中小企業が直面する課題解決と自社の持続的成長を両立するための経営改革について伺いました。

中小企業のDX遅れが招く、深刻な成長リスク

——日本企業の約98%を占める中小企業ですが、DXからは取り残されている印象です。現状をどのように見ていますか。

 従業員100名以下の企業は、DXに取り組んでいない企業が53.1%にのぼります。対して、従業員数が1,000名以上の企業においては未対応がわずか3.9%。この差は歴然です。つまり、日本企業の約192万社以上が、DXに取り組めていないのが現状です。

 DXへの取り組みが進まない理由のひとつは、「DXのメリットが見えにくい」と感じている企業が多いことです。

 世の中の多くのシーンでデジタル化が進む一方、アナログのままでもなんとか仕事が成り立っているため、DXに取り組む必要性を感じたことがないという企業が多く存在します。業務がある程度回っている状態だと、従業員から理解を得られないケースもありますね。

 また、DXに取り組むにあたっての知識や情報、実行する人材が不足していることも大きな要因です。DXをしたほうがよいとわかっていても、中小企業ではDXやシステム運用を行う情報システム部門が設置されていないことがほとんどです。導入の手順や方法に関する知識がない、社内にDXを行ったり浸透させたりするスキルを持った人材がいないことが、DX推進の大きな壁になります。

——DXの遅れは、中小企業にとってどのようなデメリットをもたらすのでしょうか?

 中小企業が抱える、人材確保や生産性の向上、受注拡大などの課題が、一層深刻化していくと考えています。

 少子高齢化が進み、働き手が減少する中、企業は一人ひとりの生産性を伸ばしていかなければなりません。2000年以降、大企業ではDX化によって一人当たりの生産性が伸びている一方、中小企業は依然横ばいです。生産性が上がらなければ、売上や給与も伸びず、結果として人材も確保できない。仕事はあるのに人材不足で受注できないという悪循環に陥ります。このままでは、人手不足を起因とした倒産がさらに増加するおそれがあります。

「DX潜在層」に寄り添う、3つの強み

——中小企業のDX化には課題が多いものの、現状を聞くとDX市場には大きな成長余地があると感じますが、いかがでしょうか?

 実際、当社がターゲットとしている中小企業だけでも、2030年には1.4兆円以上の市場になると予測されています。今後、経営者の世代交代も進むなかで、DX化は避けて通れないテーマです。今から20〜30年先を見ても、まだまだ大きな伸びしろがあると感じています。

——ファインズが持つ、中小企業のDX市場に対する強みはどこにありますか?

 おもに、
・DX潜在層を掘り起こすマーケティング力
・DXに対するコンサルティング的なアプローチ
・豊富なソリューションで行う複合的なサポート

この3つが当社の強みだと感じています。

 多くの企業が大企業向けDX(9兆円市場)に注力するなか、ファインズはあえて中小企業市場に焦点を当ててきました。

 この経験を生かし、あらゆる課題を抱えつつも、DXの必要性を十分に認識していない企業や、どう進めていいかわからないという企業に対し、DXの必要性などを丁寧に説明しながら、潜在的にDXが必要な中小企業にアプローチしています。

 ソリューション導入後のサポート体制が手厚いのも、当社の大きな強みです。導入後も伴走する姿勢を大切にしています。

 実際、顧客の方々から「ソリューションの導入後はサポートされないことも多いが、ファインズの場合は都度サポートや提案を受けられるのが嬉しい」という声もあります。

 課題によって当社のソリューションを提案することもあれば、他社のソリューションやツールの導入支援を行うこともあります。

 そして、当社は提供ソリューションが豊富なことで、顧客の方々が持つ課題に対して複合的にサポートできるという側面があります。求人や集客に関する課題に対し、動画やデータを活用したマーケティング支援を行うプラットフォームサービス「Videoクラウド」や、マーケティングに関するあらゆるデータを一元管理できる「Raise」をはじめ、従業員のリスキリングや研修をサポートするe-ラーニングサービス「F-Learning」、請求などの業務を自動化する「Quick Bill」など数多くのソリューションを抱えているため、事業に対する根本的な課題から局所的な課題まで対応できます。

 各ソリューションの特長を活かし、先ほど話した人材確保、生産性の向上、受注の拡大という、中小企業の多くが抱えている課題に対してあらゆる方向からアプローチすることが可能です。

 この3つの強みを活用して、顧客それぞれの課題やニーズに合わせて複合的なプランを提供し、伴走的なサポートを行っていくイメージですね。

フローからストックへ。収益構造を変革する経営戦略

——特に3つ目のソリューションの豊富さは、ファインズ自身の収益安定化にも寄与するものではないでしょうか。

 そうですね。今回の経営改革にともなった、持続的な成長をしていくための戦略のひとつでもあります。

 これまでの当社の売上の多くが、顧客企業のお困りごとに対して特定のソリューションを提供していくフロー型の収益モデルでしたが、今後はより安定的かつ、顧客の事業成長に貢献するため、複数のソリューションを組み合わせて、ストック型の収益基盤を築いていきます。これにより、提供価値の向上と顧客の事業成長が連動する、より強固なパートナーシップの構築を目指していきます。

 現在、ストックによる約7,000社の継続取引顧客を、3万社まで増やすことを目標に、ご契約いただいたお客様への課題に応じたクロスセリングや新規開拓にも注力しています。営業手法に関してもプッシュ型の営業に加えて、プル型のセミナーの開催やWeb広告の活用を行って、中小市場を中核に中堅・大手市場へと顧客基盤の拡大に注力しています。

——AIを活用した取り組みも進めているそうですね。

 まず自社でAIを積極的に活用し、成功体験をショーケースモデルとして顧客企業に展開していきます。

 たとえば、社内で利便性を感じたSaaSツールを顧客企業に紹介するなど、”自分たちが使って良いと思ったものだけを勧める”というスタンスです。「自分たちが悩んでいることは、きっと多くの中小企業も悩んでいるのだろう」という考えを、提案の原点としています。

 今後は、採用選考でAIマッチングを使用したり、契約書周りをAIで自動化したり、という活用を考えています。

テクノロジーを現場の追い風に。ファインズが描く未来とは?

——今回お話しいただいたような成長戦略を通じて、10年後に実現したい未来を一言で表すとしたら、どんな言葉になりますか?

 まさに当社のパーパスにある「企業と地域社会の未来に、テクノロジーの追い風を。」という言葉に尽きると感じています。

 中小企業の方々が抱える人手不足や生産性の課題に対して、当社のような企業がテクノロジーを通じてどれだけ寄り添って伴走できるか。それが、今後の中小企業の行く末を握る鍵であると同時に、当社の存在意義であると思っています。まずは掲げるパーパスをしっかりと実現させること、それを目指して進んでいきたいですね。

 中小企業の課題を“自分ごと”として捉え、多様なソリューションとテクノロジーを通じて顧客とともに成長するファインズ。その取り組みは、中小企業だけでなく、日本が持続可能な成長をしていくことにも寄与してくれるのではないでしょうか。

 地域経済の底上げと日本全体の生産性向上へ。ファインズは、その一歩を踏み出しています。


【独自分析】イーロン・マスク、「反Wikipedia」の裏にある真の狙い

●この記事のポイント
・イーロン・マスクのxAIが公開した「Grokipedia」は“反Wikipedia”を掲げるAI主導の百科事典。表向きは中立を標榜するが、実際にはWikipedia依存や思想的偏りも指摘される。
・Grokipediaの狙いは、GrokとXを連携させたxAI独自の「知識インフラ」構築。AIが生成し人が修正、再学習する自己強化ループで知識主権を確立しようとしている。
・AIによる知識統治には誤情報やバイアスのリスクも。GrokipediaとWikipedia、どちらも完璧ではなく、鍵を握るのは誤り修正の透明性とガバナンスの質である。
 
  10月27日、イーロン・マスク氏率いるxAIが新たに公開したAI主導のウェブ百科事典「Grokipedia」が、世界的な議論を呼んでいる。

 マスク氏は「左派的バイアスに満ちたWikipediaに代わる、真に中立的な知識体系をつくる」と語ったが、実際のGrokipediaはWikipediaに酷似し、しかもその一部を改変・流用していることが判明した。

 この“反Wikipedia”の裏にある本当の狙いとは何か。AI・データビジネスの視点から紐解くと、それはxAIの「知識主権」戦略、すなわち自社LLMのための独自知識インフラ構築であることが浮かび上がる。

●目次

「反Wikipedia」を掲げたAI百科の登場

 米国時間10月27日、xAIは自社のAIチャットボット「Grok」に連動した新サービス「Grokipedia」を発表した。サイト上には「Grokipedia v0.1」と記されたシンプルなデザイン。検索バーを設け、記事件数はすでに88万件を超える。各ページの冒頭には「Grokによって執筆・ファクトチェックされた」との一文が添えられている。

 マスク氏はX(旧Twitter)上で「Wikipediaは“woke bias”(左派的バイアス)に満ちている」と投稿し、「真実を求める百科事典」としてGrokipediaを位置付けた。Wikipediaへの対抗を明確に打ち出した格好だ。

 しかし、The VergeやZDNET Japanなど複数のメディアが検証したところ、Grokipediaの多くの記事はWikipediaからの改変であり、ページ下部に小さく「Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0ライセンスの下で提供」との注記がある。つまり、「反Wikipedia」を掲げながらも、実際にはその知識体系に依存しているという構造的な矛盾を抱える。

理念と現実のギャップ:中立性は本当に保たれるのか

「Grokipediaの特徴は、AIが執筆・編集を担い、ユーザーが『誤り報告』ボタンで修正提案できる点にあります。この仕組みは、Xの『コミュニティノート』と類似しており、群衆によるファクトチェックを模しています」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

 だが現時点では、どのように修正が反映されるのかは不透明だ。ZDNETによる取材に対し、xAIは「フィードバックの反映プロセスは非公開」と回答を避けている。

 さらにINTERNET Watchによると、出生率や移民、ジェンダーなど、政治的トピックでマスク氏の持論と一致する内容が多く見られるという。AP通信も同様に、「Grokipediaは中立を掲げながらも、結果的に創設者の思想を反映している」と評している。

「AIによる自動編集は効率的ではあるものの、AI自身が誤情報を生成する“幻覚(ハルシネーション)”のリスクを常に抱えています。実際、公開リーダーボードではGrok 4の幻覚率は主要モデルの中でも比較的高く、OpenAIの『o4-mini-high』やマイクロソフトの『Phi-4』と同等レベルにとどまります」(同)

 つまり、「人間の偏りを排除する」どころか、「AIの幻覚と開発者の思想バイアス」という新たなリスクを内包しているのが実情だ。

Wikipediaも無謬ではない:マスクが突いた構造的弱点

 もっとも、マスク氏の主張が完全に的外れというわけではない。Wikipedia自身も「集合知の限界」を抱えている。

 700万件を超える記事は世界中のボランティアによって編集されるが、特定テーマ(政治・ジェンダー・外交など)では編集者の属性に偏りが生じやすく、結果として中立性が揺らぐことがある。

 共同創設者のジミー・ウェールズ氏自身も「編集層の同質性は課題」と認めている。

 さらに、Wikipediaの記事はオープンソースゆえに査読制度がなく、誤情報や古い記述が残りやすい。学術的・報道的な一次情報としては利用しにくいという問題もある。この点で、マスク氏が「Wikipediaに代わる新たな知識体系」を模索するのは理解できる。だがその解がAIによる“自動生成百科”だとすれば、問題の根はさらに深い。

本当の狙い:AIモデルの「知識主権」確立

 Grokipediaを理解する鍵は、マスクの発言よりもxAIの事業構造にある。現在、ChatGPTやClaude、Geminiといった主要な大規模言語モデル(LLM)は、Wikipediaを含む共通の公開データを学習している。

 結果として、各モデルの生成内容は似通い、差別化が難しくなっている。

「マスク氏が目指すのは、その“共通データ依存”からの脱却でしょう。Grokipediaで収集・生成された記事は、Grokの学習データとして再利用可能であり、『Grokが生成→人が修正→再学習→精度向上』という自己強化ループを構築できることになります」(同)

 これは単なる百科事典ではなく、xAIのための知識インフラ=独自データコーパスにほかならない。

 この構想は、X(旧Twitter)とGrokの連携にも通じる。SNS投稿(X)→AI学習(Grok)→知識集約(Grokipedia)という流れが完成すれば、マスクはGoogleやOpenAIのような外部ソースに依存しない「Musk版情報経済圏」を築ける。Grokipediaはその中核に位置づけられる“知識資源の自給装置”なのだ。

AIが知識を管理する時代の倫理とガバナンス

 この戦略は、ビジネス的には合理的である。AI企業が最も重視するのは「高品質で独占的な訓練データ」を持つことだ。しかし、知識の「私有化」が進むことへの懸念も無視できない。

 Wikipediaは非営利で運営され、知識のオープンアクセスを理念としてきた。対して、Grokipediaは企業主導・AI主導であり、編集過程やアルゴリズムはブラックボックス化している。AIが事実を自動生成し、その妥当性を同じAIが“検証”する仕組みは、民主的な知識空間の透明性を根底から揺るがしかねない。

 さらに、学習データとしてXの投稿を利用する点にもリスクがある。SNSには高エンゲージメントだが低品質な投稿が多く含まれ、学習結果として「過激・陰謀的・感情的な知識構造」が形成される可能性がある。実際、10月に発表されたarXiv論文では、こうした“ジャンクコンテンツ学習”がAIの出力に「精神病的傾向」や「極端な認知バイアス」をもたらすと指摘されている。

 つまり、マスク氏の構想は「自由で中立的な知識体系」を掲げつつも、閉鎖的・主観的な知識統治を生むリスクを孕む。

二つの「不完全な真実」:GrokipediaとWikipediaの行方

 GrokipediaとWikipedia――両者のアプローチは対照的だが、いずれも完璧ではない。Wikipediaは「人間による集合知」の限界、Grokipediaは「AIによる生成知」の限界を抱える。どちらも偏りや誤情報を完全に排除することはできず、信頼性を左右するのは誤りを修正する仕組みの質と透明性である。

 AP通信の記事はこう結んでいる。

“Musk criticizes Wikipedia for bias, yet Grokipedia risks replicating it in the opposite direction.”
(マスク氏はWikipediaの偏りを批判するが、Grokipediaはその逆方向で同じ過ちを繰り返す恐れがある)

 AIが生成する百科事典という新たな試みは、知識のあり方そのものを問う挑戦だ。「誰が真実を定義するのか?」。この根源的な問いに対して、マスク氏の答えは「人ではなく、AIが真実を編集する時代」なのかもしれない。

 だが、AIが書く世界で本当に必要なのは、“信じる力”ではなく“疑う力”だ。Wikipediaがそうであったように、Grokipediaが未来の知識基盤となるためには、誤りを正し続ける透明で人間的な修正ループを組み込めるかどうかが鍵となる。

 Grokipediaの誕生は、単なるWikipediaとの対立ではない。それは、AI企業が「自らの知識を自ら所有する」時代への第一歩だ。OpenAIがChatGPT内で検索・要約機能を統合し、GoogleがGeminiで検索と生成を融合させるように、xAIもまた「知識生成から検索まで」を垂直統合しようとしている。

 情報がAIの支配下に入る時代――。そのときに問われるのは、どのAIが最も「真実に誠実」か、ではなく、どのAIが最も「誤りを正す仕組み」を持っているか、である。

 Grokipediaは、その未来を占う実験場だ。“反Wikipedia”の仮面の下で、マスクは静かに「AIによる知識の国家」を建設し始めている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

親のNISA口座は「そのまま相続できない」…新NISAの落とし穴、正しい資産の守り方

●この記事のポイント
・新NISAの普及で高齢層の利用が増加する一方、亡くなった親のNISA資産は非課税のまま相続できず、課税口座に移される点に注意が必要。
・相続には金融機関への速やかな連絡と煩雑な書類手続きが求められ、親のNISA口座情報を家族が知らないと資産が凍結される恐れも。
・生前から資産状況を共有し、「見える化」しておくことが、相続トラブルを防ぎ資産を守る最も効果的な備えとなる。

 2024年から始まった新NISA(少額投資非課税制度)は、年間投資上限の拡大と非課税期間の「無期限化」により、若年層だけでなく70代以降の高齢層にも急速に普及している。

 実際、金融庁によると2024年末時点でNISA口座の保有者のうち約4割が60歳以上、70代以上も顕著に増加した。

 背景にあるのは、「長寿社会での資産寿命対策」だ。年金だけでは老後資金が心許ないと感じる層が、「老後の貯蓄を投資で増やしたい」と考え、NISAを利用して株式や投資信託を購入するケースが増えている。

 ところが、この流れの陰で意外と知られていないのが、「NISA口座は相続できない」という落とし穴だ。

「親が亡くなった場合、そのNISA口座の非課税の恩恵は死亡時点で消滅し、保有していた株式や投資信託は自動的に課税口座(特定口座など)へ移されます。つまり、非課税のまま子どもに引き継ぐことはできません」(ファイナンシャルプランナー・荒井友美氏)

●目次

非課税制度は本人限定…手続きを怠ると資産を引き出せくなるおそれも

 NISAは、あくまで「個人単位の非課税投資制度」だ。そのため、死亡した時点でその個人の非課税枠が消滅し、資産は課税対象資産へ移行する。これは法制度上の構造的な制約であり、例外的に相続で非課税を維持できる制度は存在しない。

「たとえば、亡くなった親がNISA口座で1000万円分の投資信託を保有していた場合、死亡時点の時価で『みなし譲渡』扱いとなり、相続時には時価での評価額が相続財産として扱われます。

 その後、子がその資産を売却すれば、売却時の価格と相続時の価格との差額が譲渡所得として課税されます。

 さらに厄介なのが、金融機関への連絡と手続きの煩雑さです。親が死亡しても、金融機関に連絡しない限り、NISA口座は自動で閉鎖されることはありません。放置すると、配当金や分配金が一時的に支払われないまま凍結状態となることもありえます」(同)

 相続人がNISA口座の資産を引き継ぐには、速やかに金融機関に連絡し、相続手続きを開始する必要がある。その際に求められる主な書類は以下のとおり。

 ・除籍謄本(死亡の証明)
 ・戸籍謄本(被相続人の出生から死亡まですべての戸籍・相続関係の確認のため)
 ・相続人全員の印鑑登録証明書
 ・遺産分割協議書(複数の相続人がいる場合)
 ・本人確認書類(マイナンバーカードなど)

 手続き完了までには数週間から数カ月を要することもあり、相続人が複数いる場合は調整に時間がかかる。

 このため、「親がどこの金融機関でNISA口座を開いていたのか」を知らないままだと、遺族が資産を発見できずに放置されるケースも少なくない。

「親がNISAをやっていることを知らなかった」――現場の声

 金融機関の相続担当者によると、実際のトラブルで最も多いのが、「親がNISAを持っていたことを家族が知らなかった」というケースだ。

 親世代は金融資産について子どもに話すことをためらう傾向がある。特に投資については「心配をかけたくない」「損をしたら恥ずかしい」という心理もあり、家族に共有しないまま亡くなってしまうことが多い。

 結果、金融機関からの郵送物で初めて気づく、あるいは確定申告時に「配当がある」と税務署から通知を受けて知る、という事例もある。こうした場合、手続きが遅れることで相続がさらに煩雑化し、場合によっては資産の換金や移管に時間がかかる。

 相続時の税制上の扱いを整理すると、次のようになる。

 つまり、相続税+譲渡所得税の両方の可能性がある点に注意したい。

「資産の見える化」と「家族共有」が最大の備え

「こうしたトラブルを防ぐためには、“生前の共有”こそ最大の防御策となります。具体的には以下のステップを推奨します」(同)

 1.資産一覧を作る
 NISA口座だけでなく、銀行・証券・保険などを一覧化。
 「どこの金融機関に、どんな商品を持っているか」を書き出す。
 2.家族に伝える
 口座番号までは不要だが、
 「A証券にNISA口座を持っている」「〇〇ファンドを保有している」など概要を共有しておく。
 3.定期的に見直す
 NISAは非課税限度枠が拡大しているため、複数年にわたる長期運用が前提。
 本人が高齢の場合は、「運用方針の見直し」「解約・贈与」などのタイミングを早めに検討する。

 また、エンディングノートや資産承継メモを作成しておくと、家族が迷わず対応できる。

新NISAは「長生きリスク」に備える制度でもある

 NISAはもともと「貯蓄から投資へ」を促す制度として始まったが、非課税期間の無期限化によって、今や「人生100年時代の長生きリスクに備える制度」へと性格を変えた。

 70代以降でも投資を続ける人が増えているのは、「使わないお金を非課税で増やし、後の医療費や介護費に備える」という合理的な発想による。ただしその一方で、“相続発生時の非課税喪失リスク”も抱える。

 だからこそ、親子で「NISAをどう活用し、どのタイミングで取り崩すか」「万一のときどうするか」を共有しておくことが不可欠なのだ。

資産運用のゴールは「残すこと」ではなく「伝えること」

 NISAは“自分のための非課税制度”であり、次世代への非課税継承は制度上できない。
だが、それを理解した上で適切に準備すれば、「資産を守り、家族にスムーズに引き継ぐ」ことは十分に可能だ。

 金融リテラシーの本質は、「増やす力」だけでなく「引き継ぐ力」にある。人生100年時代、親子で資産を“見える化”し、共有することが、真の意味での「資産防衛」となるだろう。

<参考になる実務チェックリスト>
 □親がどの金融機関でNISAを保有しているか把握している
 □相続人全員が話し合い済み
 □除籍謄本・印鑑証明など必要書類のリストを確認
 □金融機関への連絡窓口を控えてある
 □新NISAでの再運用を検討している

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

映画レビュー「ロードゲーム」

孤独なトラックドライバーが、殺人事件の容疑者を追う。“オーストラリアのヒッチコック”が生んだ傑作サスペンス、日本劇場初公開。

投稿 映画レビュー「ロードゲーム」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

日本市場の次の成長段階を牽引するのは自動化とM&Aか

日本市場は今、かつてとは異なる状況にある。企業は慎重に行動を考え、投資家たちは改めて日本市場に強い関心を寄せている。企業行動は急速に変化しつつあり、かつて人間が立っていた場所では機械が働いている。企業を結びつけるディールメイカーの動きも活発だ。政治の変化と新たな資本が産業全体に流れ込む中で、日本の物語は行動と成果を通じて変化が続いている。

日本ではテクノロジーと資金が共に動く

自動化は日本の産業に大きな変化をもたらした。工場やオフィス、倉庫において、作業は機械によって処理されるようになった。技術の進化により、新しい投資手段も生まれた。人々はデジタル資産に資金を投じるようになり、仮想通貨への関心が高まった。仮想通貨はすでに何年も前から存在しているが、従来の預金とは異なる新しい発想を求める日本の投資家層に、安定した支持を得るようになった。

自動化の進展とともに仮想通貨の活動も活発化した。仕事のやり方が変わる中で、人々の「価値」に対する認識も変化し、トークンを試し、価格の動きを追い、ブロックチェーンを基盤とするプロジェクトに関心を持つ人が増えていった。特に日本の仮想通貨取引所やプラットフォームの使いやすさが向上したことも、仮想通貨市場全体の成長を支えた。

近年注目を集めているのがICO(イニシャル・コイン・オファリング)という言葉である。これはプロジェクトが開始前にトークンを発行し、資金を集める手段として使われる。トークンはその後、取引所で売買可能になり、初期購入者にとっては有利なエントリーポイントとなる。最新の仮想通貨 ico ランキングでは、注目すべきプロジェクトが紹介されており、それぞれの特徴が詳しく解説されている。早期アクセスという強みの一方で、利用範囲が限定されていたり手数料が高いといった課題にも触れている。株価の上昇も重なり、デジタル通過市場と株式市場の両方に注目が集まっている。

これらの動きは日本の市場全体の成長を支えている。ICOのような新しい投資ツールや株価の上昇によって、より多くの人が市場に参加し、資本が流動化し、これまで動きがなかった分野にも資金が届くようになった。

日本企業は現金を活用し価値を生み出す

長年にわたり、日本企業は多額の現金を蓄えてきた。この動きが変わるきっかけとなったのが、東京証券取引所による10年以上にわたる改革の推進である。2025年10月にはTOPIX指数が3,200ポイントを超え、過去最高値を記録した。それでもなお、日本株は同等の収益を持つ米国企業に比べて割安で取引されている。

過去15年間、日本の一株当たり利益はS&P500と同水準で成長しているが、株価評価は依然として低いままだ。この状況が、投資家にとって投資しやすい環境を生んでいる。企業買収、自社株買い、配当の増加は、今や当たり前となっている。

少子高齢化が自動化と経営戦略に影響を与える

2024年、日本の出生数は70万人を下回った。これは政府予測よりも15年早い。死亡数も増加し、人口は90万9,000人減少した。労働者と国内消費者が減る中で、企業は現実を直視し、それに適応しようとしている。

企業はよりスマートな仕組みを構築し、機械を導入し、人手をかけずに成果を出せる体制を整えている。自動化は雇用の減少を補い、業務の円滑化を実現する。この流れは工場だけでなく、オフィスワークや農業にも広がっている。技術力と資金力を持つ大手企業は、対応しきれない他社を買収し始めており、M&Aの動きが注目されている。

海外投資家が日本への関心を強めている

米国のインフレや欧州の市場変動により、多くの海外投資家が日本に注目している。特にTOPIXを通じて、日本市場は自動車やハイテクだけでなく、幅広い産業の動きを映している。アナリストたちは製薬、産業用自動化、消費財などの分野に力強い動きを見ている。ASICSやロート製薬などがその代表例であり、見逃されがちな分野にも成長の兆しがある。

2025年10月10日現在、JPMorgan Japanese Investment Trust の時価総額は10億ポンドを超えている。CC Japan Income & Growth Trust や AVI Japan Opportunity Trust などの他のファンドも、安定したキャッシュフローや企業への積極的関与といった異なる戦略を展開している。これらのファンドは純資産価値に対して4.1〜13.4パーセントの割引があり、長期投資家の注目を集めている。

日本市場の焦点を変える機械と資金

日本の企業行動は大きく変わりつつある。機械がより多くの仕事を担い、企業は株主への価値提供を重視するようになった。M&Aは規模の拡大と効率化をもたらし、これまで眠っていた現金は配当や自社株買い、新規事業に活用されている。これらの動きは、労働力の縮小、生産体制の進化、安定した価値への需要といった現実的な変化への対応として展開されている。

日本の投資家は国境や従来型の投資から視野を広げている。株式取引に加えてデジタル資産を学び、トークンの動きを追っている。海外の投資家も、日本の構造改革が成果を上げていることを認識し始めている。

日本市場の次の成長段階は、外部ではなく内部から始まっている。もはや過去の成功モデルに頼るのではなく、手元の現金を活用し、より賢いシステムを導入し、今の時代にふさわしい企業像へと再構築を進めている。

※【PR】当記事はインフォメーションです。

グローバル投資家から“選ばれない国”を変える──志水雄一郎氏が「GRIC2025」を通じて描く日本再生の道

「日本は、世界の投資家から見れば“投資する意味がない国”になっている」

 衝撃的な言葉を放つのは、フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長である志水雄一郎氏。

 日本経済の停滞、新産業の不在、そして起業家が育ちにくい構造。こうした課題を目の当たりにしながら、志水氏が立ち上げたのがスタートアップカンファレンス「GRIC」です。

 今回は、GRICがスタートしたきっかけや、これまでのGRICやGRIC2025、さらに未来に続く日本のスタートアップに込めた想いを志水氏に語っていただきました。

日本には新たな産業が生まれづらい?その構造的な理由とは

——フォースタートアップスがスタートアップカンファレンスであるGRICの開催に至った経緯やきっかけを教えてください。

志水氏 GRIC開催の理由を知ってもらうためには、まず日本経済や日本のスタートアップが抱える課題からお話ししたほうがわかりやすいかもしれません。

 日本は現在、OECD加盟国の中でも賃金水準は加盟国平均を下回っています。よく経済を語る際に「ビッグマック指数」というキーワードを耳にすると思いますが、その指数も調査対象国で下位に位置しています。つまり、日本人は低い生活水準の中で暮らしているのです。

 同じ時代に、海の向こうでは日本の2〜3倍の平均年収で働く国があるにもかかわらず、日本人は世界の一次情報を十分に得られず、自国の衰退に危機感を抱けていません。

 こうしているうちに、日本は少子高齢化と生産人口の減少が進み、一人当たりの生産性も低下しています。外貨を獲得できるような新産業も育っていません。

 実は、アメリカも日本も、自動車産業やメーカーなど既存産業の株価指数の成長率に大きな差はありません。にもかかわらず、アメリカの株価指数が伸びているのはGAFAMをはじめとした新産業の成長が寄与しているためです。

 つまり、日本が自国の衰退を食い止めて成長していくためには、現在のアメリカやかつてのトヨタやソニーが誕生した頃の日本のように、新産業の誕生が必要になります。しかし、実は現在の日本には新産業が誕生しづらい構造的な課題があるのです。

——日本に新産業が誕生しない原因はどのようなものでしょうか?

志水氏 おもに、2つあると考えています。

 まず、「日本人が起業家をブライトキャリアと捉えていない」ことです。

 課題を特定し、自らでミッションやビジョンを語り、仲間を集めて事業を興し、社会システムの発展に貢献する。資産を形成したら、基金をつくるなどして世の中に寄付していく。これほど素晴らしいブライトキャリアはありません。

 しかし、日本では優秀な子どもに対して「大企業に入りなさい」と話す親は多くても、「起業の道を選びなさい」と話す親は少ないと思います。

 世界大学ランキングにランクインしている大学では、上位にいけばいくほど、卒業生の起業率が高い傾向にあります。一方、日本では国内上位の大学であっても、卒業生の起業率はそう高くありません。

 もうひとつが「日本の人材ビジネスが十分にその役割を発揮しきれていない」ことです。

 大手の人材紹介会社などは、優秀な人材から応募があった場合、多くは大企業やコンサルティングファームを紹介します。たとえ、将来的に数兆円規模の価値や雇用を生み出す可能性を秘めた人であっても、“雇われる”キャリアを勧めるケースが少なくありません。

 私は、本来の人材ビジネスは、国全体の競争力やイノベーション産業の構造を見据えたうえで、企業や人材の在り方をどう考えるか、海外人材をどのように取り入れていくか、といった観点から逆算して展開されていくこと望ましいと考えています。

 しかし現状では、案件数や予算規模の大きな企業への人材紹介に比重が置かれているように見受けられます。

 人材ビジネスは、人が働き、収入を得るという社会の根幹に関わる意義深い仕事です。一方で、世界で進む“イノベーション至上主義”の潮流とは、少し距離があるようにも感じられます。

 これらは、世界にある一次情報を日本人が把握していないことから起こる現象です。

日本のスタートアップカンファレンスにグローバル投資家は興味なし!?

——志水さんはもともとDODAの生みの親でありHR産業に深く関わっていましたよね。こういった課題や日本のスタートアップに対する気づきを得たきっかけはあったのでしょうか?

志水氏 10年ほど前、当時ガンホー・オンライン・エンターテイメントの会長であり、私の中高のクラスメイトだった孫泰造さんが、ヨーロッパ最大規模のスタートアップカンファレンスであるSLUSH(スラッシュ)に登壇した際の話を聞きました。

 彼は、「世界ではスタートアップの経営者が登壇ステージに上がると、ロックスターのようにフィーチャーされている」と興奮していたんです。実際、スタートアップへの資金調達市場が日本では年間1兆円程度なのに対し、アメリカなどではスタートアップへの資金調達市場は最盛期は50兆円ほどまでに上りました。

 このように、日本は調達市場が小さい上に、スタートアップカンファレンスも非常にクローズドでドメスティックなイベントが多かったのですよね。これでは、ユニコーン、デカコーンの誕生につながるような大きな資金調達は難しくなります。

 そこで、日本でも、世界の有力なVCにスタートアップが出資してもらえる機会をつくるため「SLUSH ASIA」というスタートアップカンファレンスを開催し、私もサポートに入りました。

 カンファレンス自体は何年か継続したものの、最初は有力VCがまったく参加してくれなかったのです。つまり、世界のVCは「日本に投資する意味がない」と感じていたのですよね。その状況を理解していないのは日本人だけです。

「スタートアップを民主化する」ために生まれたGRIC

——そういった、実際に世界から目を向けられない日本のスタートアップの現状を目の当たりにしたことが、GRICの開催につながるのですね。

志水氏 そうですね。GRIC開催でもっとも大事にしたことは「スタートアップを民主化すること」です。とにかく、世界に対して開かれた、オープンなスタートアップカンファレンスにすることにこだわりました。ピッチコンテストも審査員の約3割が海外の投資家です。

 開かれたカンファレンスになることで、世界でユニコーン、デカコーンをつくった投資家が日本のチームに対して知見を提供してくれたり、同じ領域で活躍する経営者とコミュニケーションをとって学んだりという機会を多く設ける必要があると感じたこともGRICのオープン化の理由のひとつです。

 もちろん、ユニコーン、デカコーンにスケールできるような大きな資金調達ができる場にすることも、世界に対してオープンなカンファレンスにした狙いです。

 また、オープンにすることで、「スタートアップと距離がある領域をつなぐ」ことも意識しています。

 スタートアップ同士のコミュニケーションで生まれる気づきも大切なのですが、そこに大企業や官公庁など、やや性質の違うものが掛け算される場をつくりたいと感じていたためです。私としては、米国のように、エンタメやスポーツに関わる方々が自身の得意分野で、スタートアップイノベーションに投資するという流れもつくりたいと思っています。

 実際、今回開催されるGRIC2025でも株式会社BMSGのCEOであるSKY-HIさんや、俳優のMEGUMIさんが登壇します。

——GRICをスタートするにあたって、注目していた業界などはあるのでしょうか?

志水氏 スタートアップと聞くと、どうしてもITやディープテックなどの領域をイメージしがちですが、それ以外の領域のスタートアップをフィーチャーできる場でもありたいと考えています。

 実際、おにぎりやコーヒーなど、日本ではそこまで知名度は高くないものの、グローバルでは有名なユニコーン企業になっている企業もあります。このような非IT・ディープテック領域の企業が、GRICという場で日本の強みを活かしてイノベーションを生み出すきっかけを掴んでほしいですね。

——実際に、GRICでグローバルでの調達や取り組みが成功した例はありますか?

志水氏 知的障害などを持つ方々の才能に着目してIP化し、アパレルなどにアウトプットして販売する事業を行う、へラルボニーという岩手県のスタートアップが、フランスのLVMHという企業の支援を受けてフランス進出を果たしています。

 また、ゲノム大規模構築技術を展開するLogomixというスタートアップは、GRIC2023のピッチコンテストで最優秀賞を受賞したことをきっかけに、28億円を調達し米国での事業を加速させています。

GRICが世の中に与える影響とは

——GRICを継続して開催する中で、カンファレンスの内外で変化は感じますか?

志水氏 近年になればなるほど、明確に政府との連携は高まっていますね。これは、政府が2022年にスタートアップ育成5か年計画を国策として策定したことも大きな要因になっています。

 昨年のGRIC2024では就任3日目の石破前総理大臣からもメッセージをいただきました。

 また、当社とジェトロで国内のスタートアップカンファレンスを一定期間に集め、「JAPAN INNOVATION WEEK」として海外に発信したイベントでも、内閣府、経済産業省にも協力いただきました。

 今まではオープンな中でも、ビジネスパーソンだけでクローズドになっていた部分があったように思いますが、政府など“官”の視点からもイノベーションの場のひとつであると認識されはじめていると感じます。

——実際に、民間で行われているスタートアップカンファレンスが行政に影響を与えていると思うことはありますか?

志水氏 東京都の「SusHi Tech Tokyo」や名古屋市の「TechGALA Japan」など、各自治体がスタートアップカンファレンスを開催するケースも増えていますね。

 ただ、これはしかるべき変化ではないでしょうか。

 政府が国家戦略としているスタートアップ育成5か年計画では、10兆円というスタートアップへの投資額を目標としています。これだけの目標は、民間の行動だけでは達成できません。日本のためにグローバル規模で投資を集められる責任者を置き、官民一体となって進めていける部分が拡大していけばよいですね。

——GRICは、日本のスタートアップにどのような変化をもたらすと感じていますか?

志水氏 多くの人が「起業家がブライトキャリアであることを知り、起業をする人が増える」と考えています。

 これは、GRICがオープンなスタートアップカンファレンスであることに起因しています。

 ピッチで真剣に自分自身の挑戦を語る真剣な表情に、人は心を震わせるのだと思っています。それはやはり、彼らが自分たちの未来を変えてくれる可能性がある存在だからですよね。

 そして、そのアントレプレナーシップは先天的に備わっているものではなく、環境や経験などで後天的に備わるものです。GRICのピッチなどを見ると、「すごい」と感じる一方、ステージに立っている起業家と自分に大きな違いがないことに気がつくはずです。

 私が好きな言葉に、ガンジーの「Be the Change You Wish to See in the World(あなたが見たいと思う世界の変化に、あなた自身がなりなさい)」という言葉があるのですが、課題を見つけたら自分が成長して、変化を起こすことが必要です。それができないことに、生まれながらの差が影響しているわけではありません。

 誰もが、ザッカーバーグにもイーロン・マスクにもなれる。何にでもなれる可能性を持っているのです。

 多くの人がこの気づきを得るために、起業家を皆で応援するために、ひいては日本が幸せになるために。オープンであることなどのGRICの持つ仕組みは、絶対的に必要な要素であると思っています。

「日本ではやっと皆がイノベーションを語りはじめている。灯りはじめた火を大きな炎にするために、GRICを通じてここから燃やし続けないといけない」

 そう語る志水氏。

 GRICは、単なるスタートアップの祭典ではありません。志水氏が描くのは、挑戦する人が応援され、誰もがイノベーションの担い手になれる社会です。

 小さな火種がやがて日本を押し上げる力へ——GRICの挑戦は、今年もその先も続きます。

「GRIC2025」の詳細はこちら
【公式】GRIC2025 (GROWTH INDUSTRY CONFERENCE)

※本稿はPR記事です。

「クリックしなくても報酬」…KDDIとグーグルが描く日本型AI共存モデルの行方

●この記事のポイント
・KDDIとグーグルが2026年春に開始する新サービスは、許諾を得た記事のみをAIが要約・引用する「責任ある検索」モデル。
・生成AI時代における著作権保護と報道の共存を目指し、KDDIは“信頼の入口”、Googleは“合法的AIモデル”の確立を狙う。
・成否の鍵は、報酬モデルの公平性・大手メディアの参画・UXの革新性にあり、日本発の共存型AI検索として注目される。

 2025年10月、KDDIと米グーグル傘下のグーグル・クラウド・ジャパンが発表した「記事検索サービス」の構想は、単なる検索機能の刷新ではない。それは、生成AIが支配する情報環境のなかで、コンテンツの価値と信頼をいかに守るかという、日本型「情報エコシステムの再設計」そのものである。

 2026年春に開始予定の同サービスは、グーグルの生成AIモデル「Gemini」やノート型AI「NotebookLM」を活用し、提携メディアの“許諾済み記事”のみを対象に、ユーザーの質問にAIが要約・引用して答える仕組みを取る。無断学習や著作権侵害が世界的に問題化するなか、あえて「権利者との共存」を掲げた点に、このプロジェクトの核心がある。

●目次

AIが変える“情報の主権”と“信頼の危機”

 生成AIの台頭によって、検索は「情報を探す」行為から「答えをもらう」行為へと変化した。だが、その便利さの裏で、いくつものひずみが生まれている。

 ・AIが誤情報(ハルシネーション)を生み出す「精度危機」
 ・記事をクリックしなくても満足してしまう「ゼロクリック問題」
 ・メディアの収益源である広告が細る「デジタル敗戦」

 とりわけ日本の報道産業は、紙媒体の衰退と広告モデルの限界のなかで、AI時代の“生き残り策”を模索している。その現状打破の糸口として、今回のKDDI×グーグル提携が注目を浴びたのだ。

KDDIの狙い――「通信の次」は“信頼の接点”づくり

「KDDIの狙いは明確で、『検索の主導権を取り戻すこと』、そして『ユーザー接点を再び自社領域に引き戻すこと』にあります。

 長年、通信キャリアは“パイプ役”として膨大なデータを流してきたが、肝心の情報消費の主導権はグーグルやYahoo!に握られてきました。生成AIが情報の“最終回答装置”になれば、キャリアはさらに影が薄くなる――その危機感が今回の提携の原動力でしょう。

 KDDIは自社の『ソブリンクラウド(国内管理型クラウド)』を通じ、Geminiを安全な環境で動かす。これにより法人・行政にも信頼されるAI基盤を構築し、『信頼性の高い検索=KDDI経由』という新たなブランドポジションを狙っています」(経済コンサルタントの岩井裕介氏)

 松田浩路社長が語っていたが、「コンテンツを守るのは通信事業者の使命」という思想を、AI時代の“責任ある情報流通”に拡張する試みだ。

グーグルの狙い――「免罪符」と「日本版Gemini強化」

 一方のグーグルにとって、この提携は極めて戦略的だ。

「世界各国でメディアとの著作権訴訟が相次ぐなか、『許諾を得た記事のみを対象とするAI検索』は、“責任あるAI”の象徴モデルとなります。つまり、『我々は合法的に共存できるAI検索モデルを構築した』と世界に示す“免罪符”でもあるわけです。

 さらに、提携を通じてグーグルは日本の主要メディアから高品質な記事データを得られます。Geminiの日本語理解と回答精度は、英語圏に比べて遅れているとされるが、信頼性の高い一次情報を安定供給できる体制が整えば、『日本版Geminiの性能向上プロジェクト』としても機能することになります」(同)

 つまり、グーグルは日本を“信頼型AI検索のショーケース市場”として位置づけた可能性が高い。

社会的意義――AIとメディアの「共存モデル」実験

 このプロジェクトの本質は、テクノロジーでも収益モデルでもなく、AIと報道が共存できるかどうかの社会実験である。

 メディアはAIに記事を要約されるだけではなく、「収益と信用を共有するパートナー」になれるのか。そしてユーザーは、AIが導く“正しい情報源”を信じ、再び一次情報にアクセスするようになるのか。

 この問いに対する答えが「検索の未来」そのものを左右する。AI要約に慣れた若年層が“記事を読む”体験を取り戻すきっかけとなるなら、それは民主主義社会における情報教育の再生にもつながる。

 岩井氏は、成否を分ける条件として以下の3つを挙げる。

(1)メディア参加と報酬モデルの公平性
 KDDIとグーグルは、提携メディアに対してAI検索内での利用状況に応じた報酬を支払う方針だが、その算定基準や金額の透明性が成否を大きく左右する。「クリックされなくても収益化できる」仕組みが確立すれば、既存広告依存から脱却できる可能性もある。
 だが報酬が小規模に留まれば、全国紙や大手出版社は参加を見送るだろう。信頼できるAI検索を名乗るには、読売・朝日・日経といった老舗報道機関の参画が不可欠だ。

(2)ユーザー体験の革新性
 既存のグーグル検索は“速さと広さ”が魅力だ。その一方で今回のサービスは“狭く、正確で、信頼できる”ことを売りにする。
 ユーザーが「高品質な回答のために別サービスを使う」必然性を感じられるか――。
Geminiによる多記事横断要約、音声応答、検索履歴との連携など、KDDIのモバイルUIとの融合がカギとなる。

(3)技術更新のスピードと独立性
 この構想はグーグルの生成AI技術に深く依存する。KDDIが国内クラウド上で運用するGeminiが、常に最新モデルを利用できる保証がなければ、競争優位は維持できない。
 グーグルにとっても「ソブリンAI(主権型AI)」としてローカルに最適化されたサービスを日本市場で成功させられるかが、今後の世界展開の試金石となる。

世界文脈で見た「日本モデル」の特異性

 世界では、OpenAIが米国メディアと提携して「ChatGPT Search」を展開し、中国では百度が国家監修のAI検索を強化するなど、AI検索の“倫理設計”を巡る競争が激化している。そのなかで、民間キャリアが“信頼性の担保役”を担うという構図は日本特有のものだ。

 行政と企業、メディア、テックが分断されず、三者が協調する“中間組織的エコシステム”こそ、日本型イノベーションの真骨頂である。KDDI×グーグル連携は、その社会構造を土台とした「合意型AI」の実証例として、国際的にも注目されるだろう。

 KDDIとグーグルが提示したのは、「利便性」よりも「信頼」を中心に据えたAI時代の情報モデルだ。生成AIによって誰もが情報発信者になれる一方で、社会が本当に必要としているのは「何を信じ、誰が保証するか」という構造である。

 もしこのサービスが定着すれば、AIと人間の協働による“信頼の検索インフラ”が実現する。逆に、透明性や報酬の不公平が残れば、また新たな“デジタル支配”の再生産に終わるだろう。

 日本発のこの実験が示すのは、「破壊ではなく共存」という道筋であり、それはAI時代のジャーナリズムとプラットフォームの未来を占う試金石でもある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)