アップル税30%時代は終わるのか…「スマホ新法」で日本のアプリ市場は変わる?

●この記事のポイント
・12月施行のスマホ新法は、アップル・グーグルの30%手数料構造に変化を促し、外部決済を制限できなくなる可能性がある。アプリ市場の競争促進が狙い。
・アプリ企業は手数料負担が軽減され、外部決済誘導や価格引き下げが進む一方、アップル・グーグルは新手数料やUX調整などで収益維持を図るとみられる。
・消費者にとってはアプリ料金の実質値下げやサブスク割引などメリットが出る可能性があるが、外部決済増加によりセキュリティリスクにも注意が必要となる。

 12月、国内スマホ市場における長年の宿痾(しゅくあ)ともいえる「アップルストア&グーグルプレイ縛り」に、ついにメスが入る。独占禁止法の特例規制として位置づけられる「スマホ新法」が施行され、アプリストア運営企業による“合理的でない技術制約”や“過度な金銭負担”が禁止される。

 これにより、アプリ提供企業がアプリ外の自社サイトなどで独自に決済を行う仕組みに、アップルやグーグルがストア運営権限を使って制限することが難しくなる可能性がある。

 アプリ提供企業やゲーム会社にとっては、長年にわたり“アップル税”“グーグル税”と呼ばれた30%手数料問題の転換点となり得る。

 一方、アップルやグーグルにとっては日本市場で年間数千億円ともいわれる決済収入が揺らぐ。国内ゲーム市場、スマホ料金、生活者のアプリ利用はどう変化するのか。

●目次

スマホ新法とは何か…“名指し規制”のインパクト

●目的は「競争促進」
 スマホ新法(スマートフォン特定ソフトウェア開放法)は、アプリストアやOSを提供する巨大プラットフォーマーの市場支配を抑制し、アプリ市場に健全な競争をもたらすことを目指している。

 特に焦点となってきたのが、アプリ内での決済手段をストア内課金に限定し、外部リンクへの誘導や外部決済を禁じるというアップルとグーグルの運用だ。

●法文では明言されず、しかし「狙いは明確」
 法文には「アップルストアの外部決済を許容せよ」といった直接的な表現はない。だが、総務省関係者は次のように指摘する

「外部課金を妨げるような技術的制約は“合理的でない”と判断される可能性があります。巨大企業の恣意的ルールによる競争阻害をなくすことが目的です」

 つまり、外部リンク誘導に対してアップル・グーグルがストア審査を理由に排除した場合、規制対象となり得る。

30%手数料の実態…日本市場で何が起きていたのか

 現在のスマホアプリ市場では、ゲーム企業やサブスク事業者はストアを経由した課金に対し、原則として30%をアップル・グーグルに支払っている。

 日本は世界でもトップクラスのゲーム消費国であり、両社が日本市場で得ている手数料収入は年間数千億円規模と推計される。

 国内大手ゲーム会社の幹部は次のように語る。

「30%の手数料は、ゲーム運営の持続性に直結します。追加開発やイベント投資に回せる資金が大きく削られていました」

 こうした不満が世界中で噴出し、欧州デジタル市場法(DMA)、米エピック対アップル訴訟、そして今回の日本スマホ新法が続く。

アップルとグーグルはどう動く?

シナリオ①:外部決済を容認しつつ“新手数料”で収益確保

 欧州ではDMA施行後、アップルが外部決済を一部容認する代わりに「コアテクノロジー料」と呼ばれる新たな手数料体系を導入し、事実上の“迂回的30%”と批判された。日本でも同様のモデルを導入する可能性は高い。

「アップルは世界で足並みを揃えた対応を好む傾向があります。日本でも外部決済容認と同時に“アプリ配布料”“API利用料”(仮称)のような新コスト導入が濃厚です」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

シナリオ②:外部リンクを許容するが、UI上は“わかりにくく”する

 欧州・韓国では、外部リンクを利用する際に、ユーザーに大量の警告表示を出すことで(例:「このサイトに移動すると安全性が保証されません」など)、実質的に“ストア課金が無難”という空気を作っている。日本でも同様のUX調整が行われる可能性がある。

シナリオ③:ストア側の還元キャンペーンなどで、アプリ企業の離脱を抑制

 特にゲーム業界はストア内での露出、ランキング、広告効果が極めて大きいため、企業側もストアを離れにくい。アップル・グーグルはストア内の優遇施策(手数料減免、プロモ枠拡大)などで、囲い込みを強化するだろう。

ゲーム企業・アプリ提供企業、行政の動き

 現状、国内の大半のゲーム企業は、ストアとの関係性を重視して慎重な姿勢を崩していない。

「外部決済に移行してアップルの検索順位で不利になれば、新規ユーザー獲得が難しくなります。実質的に“空気を読む”必要があるのです」(前出・ゲーム会社幹部)

 ただし、手数料負担が利益を圧迫してきたのも事実であるため、大型タイトルの一部が外部決済への誘導をテストする動きは本格化する可能性がある。

 音楽・映像サブスクなど、アプリ外でのユーザー接点を持つ企業は「自社決済に誘導しやすい」ため、新法を歓迎する傾向にある。

 政府は、今回のスマホ新法を「国際的な潮流の中での日本版規制」と位置づけている。欧州のDMA、米国の反トラスト訴訟などと同じ方向性だが、日本はより“競争促進”に軸を置いている。

「欧州のDMAは厳しい反面、企業側にとって制度が複雑で、結果としてユーザーが混乱している面もある。日本の制度は比較的シンプルで、アップルとグーグルが世界動向に合わせて対応する余地を残している」(小平氏)

一般の生活者への影響は?

① ゲーム・アプリの“実質値下げ”が起きる可能性

 外部決済が普及すれば、手数料30%が削減され、その分“ユーザー価格に転嫁”する動きが出る。ゲームアイテムの価格が数%〜10%程度値下がりする可能性もある。

② 月額サブスクの割引キャンペーンが増える

 動画配信、音楽配信などはアプリ外決済に誘導しやすいため、「外部決済なら実質◯%OFF」といったキャンペーンが増える可能性がある。

③ 逆に“ストア課金は高い”という構造が可視化される

 ユーザー側の「損得」意識が変わることで、アプリ市場の慣習が大きく揺らぐ。

④ ただし、セキュリティリスクの議論も再燃

 外部リンク誘導は、フィッシング詐欺や偽サイト誘導の温床になるという指摘もある。
 専門家からも次のような懸念は根強い。

「ユーザーの決済動線が複雑になるほどリスクは高まります。ストア決済の利点は“安全性”にありました」(小平氏)

“ポスト・アップル税”時代の構造変化

●アプリストアの地位は相対的に低下へ
 外部決済が普及すれば、アプリストアは「アプリの配布場所」としての役割が強まり、決済・収益モデルの構造が変わる。

●中小アプリ企業の参入ハードルが下がる
 30%の中抜きがなくなれば、スタートアップでも収益が確保しやすくなる。

●アップル・グーグルは“囲い込み戦略の再構築”へ
 新たな収益源として、API利用料、広告枠の拡大、開発者向けサービスの有料化など、新モデルが登場する可能性が高い。

●“外部決済エコシステム”という新しい争奪戦が起きる
 外部決済が広がれば、決済代行企業、EC基盤企業なども新しい市場機会を得る。

 スマホ新法によって、表面的には「外部決済解禁」という大きな変化が起こる。しかし、その影響は一気に市場を激変させるものではない。アップル・グーグルは法の範囲内で“巧妙な制御”を行い、アプリ企業も巨大プラットフォーマーとの関係を維持したいという思惑がある。

 ただし、日本政府が世界に先駆けてスマホ市場の課題を明確に指摘し、競争促進の方向性を示したことは大きい。これにより、外部決済、値下げ競争、中小アプリ企業の参入など、ゆっくりと、しかし確実に市場の地殻変動が進む。

 生活者のスマホ体験も、アプリの購入方法、価格、セキュリティ意識などが変化していく可能性が高い。

 12月施行のスマホ新法は、単なる“アプリ課金の話”ではなく、日本のスマホ市場、ゲーム産業、デジタル経済の構造を揺さぶる「静かな革命」の幕開けといえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

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