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アマゾンとグーグルが「海底」で激突…“見えないインフラ戦争”と、日本企業の躍進
●この記事のポイント
・生成AIの普及と地政学リスクにより、海底ケーブルが国家と巨大テック企業の新たな戦略資産に。アマゾンやグーグルが独自回線を深海に敷設し、インフラ争奪戦が本格化している。
・海底ケーブルを製造できるのは世界で3社のみ。中でもNECは高い技術力と安全保障上の信頼性から各国の引き合いが急増。AI時代に不可欠なSDM技術でも世界をリードしている。
・ソフトバンクはメタなどと連携し、太平洋横断ルートで日本をアジアの通信ハブに押し上げる戦略を推進。海底インフラの主導権争いは、日本企業に大きな追い風となっている。
生成AIが世界のあらゆる産業を塗り替える中、誰の目にも触れない“深海の暗闇”が、巨大企業と国家がぶつかり合う最前線へと変貌している。クラウドの覇者であるアマゾンやグーグルが、近年こぞって巨額投資を進めているのが、海底ケーブルだ。これは単なる通信インフラではない。AI時代における「国の生命線」であり、「企業の競争優位」を左右する戦略資産である。
さらに、この世界的潮流の中で、日本企業――NECとソフトバンク――が、かつてないほどの存在感を放ち始めている。AI×安全保障という新秩序が形作られる中、日本の技術が世界を支える構図が生まれつつある。
●目次
- アマゾンが海底“地下深く”にケーブルを埋める理由
- AIは海底ケーブルが詰まれば機能不全に陥る
- 世界で3社しかつくれない“寡占市場”
- ソフトバンクが仕掛ける“連合戦略”
- 日本は「海底のゴールドラッシュ」に勝てるか
アマゾンが海底“地下深く”にケーブルを埋める理由
2028年の完成を目指し、アマゾンが米国とアイルランドを結ぶ海底ケーブルを敷設すると発表した。もっとも注目を集めたのは、その“敷設方法”だ。従来よりも深い海底の地層に埋設するという。
これは単なる技術的進化ではない。近年、世界各地で海底ケーブルの損傷・切断が相次いでいる。台湾周辺、北欧、フィリピン――いずれも不審な船舶の存在が取り沙汰され、地政学的リスクが現実化している。
国際安全保障の専門家である畠田祐一氏は、こう指摘する。
「海底ケーブルは、国家機能の維持において電力網と並ぶ最重要インフラです。特に米中対立が激化する中、“切断”“傍受”のリスクは現実の脅威になっています。埋設は、軍事的脆弱性を低減させるための戦略的措置といえるでしょう」
アマゾンが地下深くに埋める理由は“安全保障”なのだ。AIのデータが流れる“神経網”を守るための、必要不可欠な防御でもある。
AIは海底ケーブルが詰まれば機能不全に陥る
巨大テック企業が海底ケーブルに投資する最大の理由は、AIの性能が通信インフラに依存しているからだ。
生成AIや高度なクラウド処理は、世界中に点在するデータセンターが同時に演算を分担することで成立している。このセンター間を結ぶのが海底ケーブルであり、ここが遅延すればAIは遅くなり、切れればサービスは止まる。AIを“血液”とするなら、海底ケーブルは“血管”である。
グーグルは日米間の新ケーブルに約1400億円を投じたほか、アフリカ・欧州を結ぶルートなどを相次いで発表。メタも地球一周をカバーする巨大計画を進めている。
AI市場は今後も指数関数的に増える。それは同時に、海底ケーブルの“総延長”と“容量”を奪い合う時代が到来することを意味する。
世界で3社しかつくれない“寡占市場”
海底ケーブルを製造・敷設できる企業は、世界でわずか3社。
・SubCom(米)
・ASN(仏)
・NEC(日本)
これらは“海底ケーブル三巨頭”と呼ばれる。技術・安全保障・実績のすべてを満たした企業は極めて少なく、ビッグテックがどれほど資金を持っていても、この3社の製造枠を押さえなければケーブルは作れない。
NECは、この寡占市場で圧倒的存在感を示している。過去50年以上、地球8周分の海底ケーブルを手がけてきた実績に加え、AI時代の大容量通信に不可欠なSDM(空間分割多重)技術で世界をリードしている。
海底通信も手掛けてきた技術者の佐伯雄太氏は語る。
「SDMは今後10~20年の海底ケーブル容量拡張の鍵となる技術です。NECは光ファイバー構造の最適化や波長多重技術に強く、ビッグテックの要求に応えられる“数少ないパートナー”です」
さらに、米中対立が深まる中、中国製ケーブルは国際的に敬遠されている。この状況は、NECにとって追い風どころか“追い台風”とも言える圧倒的有利な環境を生み出している。
ソフトバンクが仕掛ける“連合戦略”
一方、通信事業者として存在感を急速に高めているのがソフトバンクだ。
ソフトバンクはメタなどと企業連合(コンソーシアム)を組み、太平洋横断を含む複数のケーブル敷設に参加している。特に注目されるのは、日本をアジアの通信ハブに引き上げるルート戦略だ。
米国→日本→アジア各国を結ぶ主要ルートは、今後のAIサービス配信において最重要となる。もし日本がこの「起点」を押さえれば、データ流通の主導権を握ることができる。
前出の佐伯氏はこう解説する。
「海底ケーブルの地政学は、もはや国家戦略そのものです。アジア地域のデータ流通を主導できる国は、単に通信収益を得るだけでなく、産業競争力でも優位に立ちます。ソフトバンクの連合戦略は日本の国力にも直結する動きです」
AIの世界で覇権を握るのは、クラウドだけではない。“どのルートを押さえるか”が勝負を分ける。ソフトバンクは、この「地政学×経済」の構造を見据えている。
日本は「海底のゴールドラッシュ」に勝てるか
海底ケーブル市場は今、空前の需要急増に直面している。AIが普及すればするほど、データセンター間の通信量は爆発的に増え、海底ケーブルの“太さ”、本数、冗長性が求められる。
アマゾンが地下深くに埋めるのは、通信容量(Speed)と安全保障(Security)を同時に守るためだ。
これは大きな転換点である。世界は今、通信競争から生存競争(サバイバビリティ)へシフトした。
そして、この波は日本企業にとって千載一遇のチャンスでもある。
・NEC:世界中のビッグテックが“頼らざるを得ない”製造技術
・ソフトバンク:日本をアジアのデータハブに押し上げる交渉力・連合戦略
「海底ケーブルは、AI時代の“デジタル海運ルート”です。ここをどこが握るのかは、国家の未来を左右します。日本の立ち位置は想像以上に大きい」(佐伯氏)
生成AIの裏側では、深海の暗闇で熾烈な権益争いが続いている。島国・日本は国際通信の99%を海底ケーブルに依存しており、この“見えない戦場”の行方は、企業の成長だけでなく、日本という国家の未来そのものを決める。
海底で始まった新たなゴールドラッシュ。日本企業は、この歴史的チャンスをつかめるのか。勝負の行方は、すでに海の底で動き始めている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)
CO2を埋めるビジネスが巨大産業に…脱炭素の本命CCS、日本の成長産業になる?
●この記事のポイント
・政府主導でCCSが実装フェーズに入り、九十九里沖や苫小牧などで大規模プロジェクトが進む。脱炭素を背景に、日本の産業構造を変える新たな基盤技術として注目されている。
・商社やエネルギー大手はCO2輸送・貯留を組み合わせた国際ビジネスを狙い、海外権益の確保を加速。CO2を「貨物」と捉えた越境CCSの構築が、日本の新たな輸出産業の可能性を開く。
・普及の最大の壁は高コストと“純度99%”規制。基準緩和と商社モデルの確立が進めば、日本企業の強みを生かしたCCS産業が本格化し、脱炭素の「新たな成長分野」になり得る。
「脱炭素」はもはやCSRの枠を超え、日本の産業構造そのものを塗り替える巨大ビジネスへと変貌している。その中核に浮上したのが、排出されたCO2を回収し、地中深くに封じ込めるCCS(Carbon Capture and Storage)だ。
これまで“夢の技術”と揶揄され、採算難が最大の弱点とされてきたCCS。しかし、政府が本腰を入れ、商社・エネルギー企業がこぞって参入を表明したことで、状況は一変した。CCSは今や、「脱炭素コスト」ではなく「新たな輸出産業の芽」という期待を背負い始めている。
本稿では、最新政策、商社の国際戦略、技術・コストの壁、国際潮流、実現可能性を多角的に検証し、専門家の見解を交えながら、日本発CCS ビジネスの現実解を探る。
●目次
- 九十九里沖が象徴する「実装フェーズ」への転換
- 商社が描く「ゴミではなく貨物」のビジネスモデル
- CCS最大の敵は「99%の壁」、技術ではなく“規制”がコストの主因
- 世界で進む “CCS覇権争い” と日本の立ち位置
- CCSには“見落とされがちなリスク”もある
- 日本発「技術輸出産業」、勝敗の鍵は“規制緩和”と“商社モデル”
九十九里沖が象徴する「実装フェーズ」への転換
CCSがいよいよ実装段階へ入ったことを示す象徴が、千葉・九十九里沖の“500万トン規模”の貯留区域指定だ。2024年9月、経済産業省は同海域を国内最大級のCO2貯留候補地として公表し、試掘事業者の募集を開始した。
これは、複数基の大型石炭火力に相当する年間排出量を一括で埋め込める規模であり、政府が「CCS抜きでは2050年カーボンニュートラルは不可能」と判断したことを如実に物語る。
北海道・苫小牧では、2016〜2019年に行われた実証で累計30万トンを安全に貯留しており、石油資源開発(JAPEX)は新たな試掘に踏み切る計画だ。CCSは今や、実験ではなく社会インフラとして扱われ始めている。
「九十九里沖の決定で、CCSは“政治意志のプロジェクト”になりました。政府は長期的に産業を成立させる腹を括ったといえます」(エネルギー研究・政策アナリストの田代隆盛氏)
政策面での強烈な後押しは、企業にとって参入リスクを大幅に下げる。特に商社・エネルギー企業は、「規制が整う前に動くことで先行者利益を得られる」と判断している。
商社が描く「ゴミではなく貨物」のビジネスモデル
国内以上に熱気を帯びているのが、総合商社によるCCS権益争奪戦だ。三井物産、三菱商事をはじめ、エネルギー大手はこぞって海外でのCO2貯留権益確保に走っている。
その理由は単純だ。日本は地質的に大規模貯留に適した場所が限られているからである。そこで浮上するのが、“CO2を輸出する”という発想だ。日本で回収したCO2を船で運び、マレーシアなどの地質的優位性を持つ地域に埋める「クロスボーダーCCS」である。経産省はすでにマレーシア政府と協力枠組みを締結した。
これはCO2を“産業廃棄物”ではなく、輸送・貯留がセットで価値を持つ「貨物」として扱う発想だ。
【表】日本の主要プレイヤーによるCCSプロジェクト・投資マップ
大手総合商社でエネルギー事業に携わっていた戦略コンサルタントの高野輝氏は、「商社にとってCCSは“次のLNG”になり得ます。輸送船、液化技術、貯留権益、保険、オフテイク契約まで一気通貫のビジネスに拡張できる」と語る。
日本企業は LNGで培った液化・海上輸送の知見をCCSに転用できる。これは世界的にも競争力がある分野で、技術輸出産業としてのポテンシャルは大きい。
CCS最大の敵は「99%の壁」、技術ではなく“規制”がコストの主因
CCSが普及しない最大要因は、コストである。経産省やRITE(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)は、CO2貯留コストを以下のように試算している。
・現状:1万2000〜2万円/t-CO2
・2030年目標:6000〜8000円/t-CO2
特にコストの6〜7割を占めるのが「分離・回収」。CO2を排ガスから分離し、濃度99%まで高純度化する工程に膨大なエネルギーが必要だからだ。
「99%ルールがコストを跳ね上げています。95%で許容されれば回収エネルギーを3〜4割削減できるケースもあります」(前出・田代氏)
安全性の確保は欠かせないが、欧州では95〜97%のプロジェクトもあり、国際基準との整合性が議論されている。日本でも経産省が規制の見直しを開始した。
もし基準緩和が実現すれば、分離・回収コストが劇的に下がり、ビジネスとしての自立性が一気に高まると見られている。
世界で進む “CCS覇権争い” と日本の立ち位置
国際的に見ると、CCSはすでに熾烈な投資争奪戦に突入している。
・ノルウェー「Northern Lights」:欧州域内CO2を受け入れる越境CCSの先駆け
・米国「45Q税額控除」:貯留量に応じて最大85ドル/トンを企業に還元
・中東産油国:自国産業の脱炭素化とCO2輸出ビジネスを同時推進
これらの国は、政策支援・補助金・規制整備を強烈に進めており、「CCSを早期に産業化した国が覇権を握る」との見方が強い。
日本は技術力では世界トップクラスだが、ビジネス化のスピードでは米欧より遅れている。その遅れを一気に取り戻すための政策が、九十九里沖を皮切りに急浮上しているわけだ。
CCSには“見落とされがちなリスク”もある
CCSを推進する一方で、課題も無視できない。
(1)地震大国・日本特有の地質リスク
地層の安定性を長期的に確保できるかという懸念は大きい。ただし苫小牧実証では微小な地震誘発は確認されず、安全性は確保されたとされる。
(2)長期責任(Liability)問題
貯留後数十〜数百年にわたり漏出リスクがゼロとはいえない。国がどこまで責任を負うのか、制度設計は道半ばだ。
(3)地域住民の理解
CCS設備に対する心理的抵抗は依然として強く、事業者による丁寧な説明が欠かせない。これらの課題に対応しなければ、事業化は加速しない。
日本発「技術輸出産業」、勝敗の鍵は“規制緩和”と“商社モデル”
CCSは単なる環境対策ではなく、造船・エンジニアリング・商社・資源開発など日本の得意分野を総動員できる 巨大な産業ポテンシャル を秘めている。
さらに、LNGやプラント輸出で蓄積した日本企業の物流・技術・金融の知見は、CCSと極めて親和性が高い。日本が“脱炭素の輸出国”に転じるチャンスすらある。
しかし、実現の鍵を握るのは以下の3点。
(1)分離・回収コストを決める「99%ルール」の突破
(2)国際標準に基づく規制整備のスピード
(3)商社が描く越境CCSモデルの確立
これらがそろったとき、日本のCCSは「負担」ではなく新たな飯のタネへと変貌するだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)