電通未来事業創研著「未来思考コンセプト―ポストSDGsのビジョンを描く」6月27日発売

電通と、国内電通グループ6社の横断組織として独自のアプローチで企業の未来価値を見いだす「未来事業創研」は、書籍「未来思考コンセプト―ポストSDGsのビジョンを描く」を執筆した。

本書は、2030年以降のポストSDGs時代を迎える今だからこそ必要となる未来をつくるためのアプローチを紹介する1冊で、クロスメディア・パブリッシングから6月27日(金)に発売される。

書籍「未来思考コンセプト―ポストSDGsのビジョンを描く」
クロスメディア・パブリッシング、A5判、264ページ、2680円(税別)
ISBN:978-4-295-41110-9

 

【書籍の内容】
ポストSDGs時代を目前に、未来への期待よりも課題が語られやすい今だからこそ、未来事業創研は「未来は予測するものではなく、つくるもの」という考えを大切にし、「つくりたい未来」を描くことの必要性を、ビジネスと未来の関係性を交えて実用的にまとめている。

本書では、視野や選択肢を広げ、仲間を増やすこともできる「未来」を魅力的で実用的なビジネスツールと捉え、「未来」を活用して新しい価値を世の中に創造していくことを提唱している。未来に向けた意思をベースとしてコンセプトをつくることで、共有が加速し、迷いが減り、そのコンセプトを掲げてアクションを進めるチームに存在意義を生み出すこともできる。これまでの慣習や前例という壁に悩むビジネスパーソンに、突破の一助となる1冊。

【目次より】
はじめに:あなたは未来をつくる意思をもっているか?
第1章:今、なぜ、未来について考えるのか?
第2章:ビジョンドリブンなバックキャストアプローチ
第3章:未来はビジネス課題を解決するツール
第4章:つくりたい未来像=ビジョンのつくり方
第5章:「つくりたい未来像」構想事例
第6章:未来コンセプトの見つけ方

◼️未来事業創研について

未来事業創研ロゴ

新規事業開発、ビジョン・パーパス策定、中長期戦略策定などのビジネス課題に対し、人・くらし・社会の未来を描き、「未来」をツールとして活用した創造性の高いビジネスソリューションを提供する国内電通グループの横断組織。
公式サイト:https://dentsumirai.com/


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【Cohort】

マーケティング アート
アートの世界を覗いてみるようになって、すぐに壁にぶち当たった。基本的なこととして、僕は歴史を知らないんだと気付かされる。日本史も世界史も。アートの手触りを得るつもりが、歴史。あと地理もほんと知らないと再認識。アートの醍醐味を感じるつもりが、地理。新しい壁の出現、その繰り返し。
 
中高年のリカレント教育なんて言葉が飛び交っているせいか、中高生の頃には疎かにしていた社会科の学び直しもいいかもと、幸いなことに前向きな気持ちが芽生えた。取っ付きやすいところから気まぐれに調べてみることにした。ぱっと思い浮かぶ歴史的な事象・人物が活躍していた頃、日本では何が起こっていた?
 
 
切り良く500年くらい前、1500年頃は、ルネサンスの時期か。レオナルド・ダ・ヴィンチが解剖学も含め凄まじい観察眼で大活躍している。魅惑的な「モナ・リザ」や「最後の晩餐」はもちろんのこと、両手を広げた裸の男性が正円に囲まれたスケッチ、これなんかも大多数の日本人が思い浮かべられる、気がする。どこで刷り込まれたんだろう。
 
その頃日本には誰がいたかを調べてみて、一人で盛り上がった。絵画の国宝数6作品でナンバーワン、雪舟!水墨画と聞いてぱっと思い浮かべるのは、雪舟の絵、もしくは雪舟っぽい絵、ではないだろうか(言い過ぎだろうか)。そんな中、「小学館の図鑑NEOアート はじめての国宝」なんかも眺めていて僕がとてつもなく気になっている絵がある。ついには大阪市立美術館まで足を伸ばし、日本国宝展で原本も見に行った。雪舟の「慧可断臂図」だ。えかだんぴず。読めないし、覚えられないしで、何度復唱したことか。
 
故事が題材で、ダルマさん(人形)のモデルである達磨が描かれているが、そのストーリーはさておき、描かれ方が不可解。大混雑の展覧会場で、思わず「おっかしいねぇ~」と声を出してしまった。いかにも雪舟っぽい岩肌(しかも黒い点々を、いつもよりも多めに振りかけております、と言わんばかり)の描写に対し、達磨の体は大胆に簡略化。そして顔は異様にリアルだけどパーツはどの視点から見たんだ?というくらいバラバラ。ピカソの絵みたい。子どもの頃に見ていたアニメ「キャプテン翼」を思い出した。ドリブルのシーンは確か真横もしくは斜めからのアングルが多かったと思うのだが、ドリブルをするキャラクターの口はほぼ正面を向いているので、それが頬っぺたに張り付いているように見える、みたいな……。
 
だけど、全体の一皿としてオイシイと思ってしまった。各所に食べ応えあり。味変もあり(なんとも贅沢なことに、同じ展示室に「山水長巻」と「天橋立図」もあり、見比べられたことも大きいかも)。不可解で、オイシクて、矛盾を笑い飛ばすような存在感に脱帽してしまった。
 
ダ・ヴィンチとはずいぶんアプローチが違う気がするが、双方なんとも魅惑的。同時代に尋常ではない観察眼を持ったこの二人の天才が生きていたとは、なんとエキサイティングなんだろう。お互いを知る術が1500年頃にあったならば、絶対意識し合ったんじゃないかな、と思わず妄想してしまった。空間認識・再現とか、肖像と風景の関係性とか。ピカソが生まれる数百年前に二人でキュビズム談義なんかをしているところを想像したら、僕は21世紀を生きる部外者だけれど、とても誇らしい気持ちになった。
 
 
少し時代を近付けて、今から200年くらい前。僕の中では数字として覚えやすいという記憶だけが残っていて、中身は全然思い出せなかった1789年、フランス革命。ルネサンスとは異なる性質なのだろうけど、ヨーロッパというのは常々解放の歴史、自由を獲得する歴史なのかな、と俄か調べながらも思いを馳せてみる。それからルーヴル美術館が開館したのが1793年。もともとは要塞として建設されたものだそう。シンボリックなガラスのピラミッドが増設されたのは割と最近のことらしい。所蔵品も元々は王室由来。アートが特権的なところから開かれていく歴史の生き証人のようだ。
 
さて、その頃日本では?毎週楽しみ、大河ドラマ「べらぼう」の時代だ!よっ、ツタジュウ。顔がアップの大首絵(おおくびえ)、歌麿の三美人が1793年頃で、写楽の妙にリアルな歌舞伎役者の絵が1794年頃。蔦屋重三郎がプロデューサーとして美人画さらには役者絵でも手腕を振るうことになった背景に、「白河の清きながれに魚すまず……」でおなじみ?「寛政の改革」の存在があった模様。質素倹約!風紀を乱すな!の幕府のお裁きで蔦重はずいぶん痛手を被ったようだ。が、そこで幕引きではなく今で言うところのピボットを図ったということか。流行の先取り、時代の牽引。負けは負けにあらず、の実践。あぁ、脱帽。
 
なぜ寛政の改革が起こったのか?もう少しマクロに眺めてみると、日本ならではと言えるかは分からないが、洪水、干ばつ、火山噴火、そして社会科で習った気もする「明和の大火」、さらには「天明の大飢饉」。つまり、災害大国ニッポン、という話である。ところで、「明暦の大火」ならぬ「明暦の『大怪獣』」をご存知だろうか。マンガ「怪獣8号」。災厄を怪獣という設定にしてしまう巧妙。明暦なので、明和よりも100年くらい前。話が逸れてしまった。100年も逸れてしまった。
 
フランス革命や、ルーヴル美術館開館といった事象が、ヨーロッパの自然環境とどのくらい関係があるのか僕はまったく知らない。が、方や日本を紐解いていく時、だいたいの場合において自然環境の話がちらつく。ヨーロッパと日本では、支配的なものの存在が根本的に違うということか。個人的には日本におけるアニミズム、八百万の神々、そんな感覚はすんなりと入ってくる。
 
 
さて、現代。将来行ってみたいヴェネチア・ビエンナーレに思いを馳せてみる。国際美術展と国際建築展が毎年交互に実施されている。2024年は国際美術展。テーマは「Foreigners Everywhere(どこにでもいる外国人)」。国別参加部門の金獅子賞はオーストラリア館で、先住民族にルーツを持つアーティストが家系図の作品を展示。参加アーティスト部門の金獅子賞は、ニュージーランドのマオリのアーティスト集団が受賞。金獅子賞というのは、日本人もテレビでよく目にするヴェネチア国際映画祭の金獅子賞と同様、最高賞のようだ(獅子はヴェネチアの守護神、的な)。
 
この時の日本館のアーティストは毛利悠子さん。時期も少し被って、日本で毛利さんの展覧会がアーティゾン美術館で開催されていた。ヴェネチアは遠いけど、京橋は近いので行ってみた。見渡す限り、レトロなテクノロジーと手仕事の融合?これらの作品群をどう受け止めたらよいのだろう。あーでもないこーでもないと観察したり、毛利さんのトークイベントに参加したり。結果的に4回アーティゾン美術館に足を運んだ。
 
毛利さんは、モノを使って何かしらの形をつくるのではなく、モノを通して形のない自然の「現象」を取り扱っていると言っている。小さな揺らぎ、例えば果物が徐々に腐っていくことと、社会変革のような大きなうねりは、同等に絶え間ない世界の動きであり世界そのものである、とも言っている。なんと繊細で鋭敏な観察眼なんだろう。
 
それ以上に、鑑賞者への気付かせ方が、知れば知るほど脱帽。展覧会のタイトル「ピュシスについて」のピュシスとは、「自然の本性」と訳されたりするらしい。見逃してしまうような世界の動き(揺らぎ)を災害大国ニッポンで、というか京橋で、アートという人工物を通じて気付かせてくれている。旬を過ぎた一昔前のテクノロジー・機器をあえて活用しているのに(いや、活用しているからこそ)、自然の気配が立ち現れてきた。確かに僕の前に立ち現れていた。雪舟の時代も、蔦重の時代も、日本はアジア大陸の東の端っこの言わばforeignで、グローバリゼーションが進んだ今に至っては日本に限らずどの国も多様なforeignの一つ。小さな揺らぎと多様なforeignは地続きな気がして、僕はなんとも誇らしい気持ちになった。
 
毛利さん本人に質問をする機会があり、キュレーターや担当学芸員とはどんな存在ですか?と聞いてみた。第一声は、アートは時間を超える、と言っていた。この展覧会の担当学芸員は自分よりも下の世代だが、それゆえに生まれる対話がある、と。続けて、デュシャンやマティスの作品と自分の作品との共鳴、つまり時代を超えた対話がある、と。世代を超えた対話と時代を超えた対話。アートは時間を越えるって、そういう手触りか。
 
僕は研究者ではないので、正しい歴史認識なんかはとてもじゃないができないけれど、今回のような探索はとっても楽しかった。これを学び直しと呼べるかは怪しいけれど。次はアメリカとか、アジアとか、アフリカなんかも覗いてみようかと。
 

画像制作:岩下 智

“楽しい”が行動を変える。「食べチョク」に学ぶ、脱炭素社会のヒント

cn気候変動が深刻さを増す中、脱炭素社会の実現は企業にとって重要な経営課題となり、社会的責任を果たす取り組みもいっそう強く求められています。2015年のパリ協定では「産業革命以前と比べて気温上昇を1.5℃以内に抑える」ことが掲げられましたが、2024年には世界の平均気温上昇がすでに約1.5℃に達し、危機は現実のものとなっています。

こうした中で注目されているのが、企業の努力だけでなく、生活者一人一人の意識と行動の変化──すなわち“行動変容”の必要性です。電通では全国5万人を対象に「カーボンニュートラルに関する生活者調査」を実施。そこからは、生活者の関心の多様性や、脱炭素を自分ごと化することの難しさが見えてきました。

本連載では、環境省が推進する「デコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)」に参画し、実際に行動変容を後押ししている企業や団体をゲストに迎え、調査結果を交えながら議論していきます。

今回のゲストは、産直通販サイト「食べチョク」を運営する株式会社ビビッドガーデン・執行役員の松浦悠介氏。食と地域を軸に行動変容をどう生み出しているのか、電通の荒木丈志が伺いました。

食べチョク
ビビッドガーデン 執行役員 松浦悠介氏(左) 電通 パブリック・アカウント・センター 荒木丈志氏

生産者のこだわりが、正当に評価される世界をつくる

荒木:はじめに御社のことを教えていただけますか?

松浦:ビビッドガーデンは、「生産者の“こだわり”が正当に評価される世界へ」というビジョンを掲げて活動している企業です。社名の「ビビッド」には、色鮮やかな農地を日本中に取り戻したい、という思いが込められています。創業の背景には、代表・秋元の実体験があります。実家が農家だったのですが、廃業してしまったことから、「産業としてきちんと稼げる仕組みがなければ続かない」という課題意識が生まれました。

そうした思いから立ち上げたのが、産直通販サイト「食べチョク」です。食べチョクは、こだわりのある生産者から直接食材や花などを購入し、消費者が生産者に感想などを伝えることができる、オンライン上のマルシェ・直売所のようなプラットフォームです。生産者と消費者が直接つながることで、お互いに思いや背景を理解し合える関係性が生まれます。そして、規模が小さい生産者でもきちんと収益が得られる仕組みを構築することで、持続可能な一次産業の実現を目指しています。

食べチョク
食べチョクのユーザー数は110万人、登録⽣産者数は1万軒を超える(2025年4月時点)。野菜・果物をはじめ、米・⾁・⿂・飲料といった⾷材全般と、花き類を取り扱い、約5万点を超えるこだわりの逸品が出品されている。

荒木:創業者の原体験から生まれた事業なんですね。生産者が持続的に収益を挙げられる仕組みを提供しているところが印象的なのですが、食品ロスなどの社会課題への意識は、当初からあったのでしょうか?

松浦:環境負荷の低減や食品ロスに対する取り組みは、サービス立ち上げの当初からテーマとしては存在していたものの、より本格的に意識するようになったのは、ここ2〜3年くらいですね。食べチョクでは、常に「生産者のこだわりをどのように伝え、どのように消費者とマッチングさせるか」を大事にしてきました。こだわりといっても、栽培方法や珍しい品種を生産していること、大容量の家族向けセットを販売しているなど、本当に多様です。

その中の一つとして、環境負荷を抑えた生産や食品ロス対策に注力されている生産者も多く、環境に対する考え方を購入基準にする消費者も増えてきています。そこをマッチングしていくことで、食べチョクとしても脱炭素や食品ロス削減に貢献できると考えています。

荒木:今回、御社は環境省の「デコ活」推進事業に参画されていますが、その経緯や、活動内容について教えていただけますか?

松浦:先ほど申し上げたように、私たちは創業時から食を通じた社会課題の解決に取り組んできたのですが、食品ロス削減や脱炭素といったテーマは、これまで以上に消費者との接点の中で意識するようになってきました。その中で、今回の「デコ活」推進事業の趣旨に強く共感し、デコ活応援団に参画させていただきました。

われわれの具体的な活動内容としては、まず小売企業と連携して、夜間に余りがちな刺身を活用した「食べきり弁当」の企画を進めています。売り場や商品の設計に加えて、ポイント制度などのインセンティブを組み込むことで、消費者の皆さんが“楽しく”食品ロス削減に取り組めるように工夫しています。

また、自宅に届いた食材を無駄なく使い切るための調理法を紹介するレシピの掲載や、参加者同士が情報を共有できるコミュニティ運営にも力を入れていきます。日々の食卓の中に、環境への貢献を感じられるような体験を提供することで、行動変容のきっかけを広げていけたらと考えています。

食べチョク

生産者と消費者の“つながり”を強みに、食品ロス削減にアプローチ

荒木:「デコ活」の取り組みは、まさに御社がこれまで積み重ねてきた活動の延長線上にあると思うのですが、特に最近のプロジェクトにおける生活者の行動変容について、どのような手応えを感じていますか?

松浦:私たちは、生産側での食品ロスの削減が脱炭素社会の実現にもつながっていくと考えています。そして、食品ロスには「生産者側のロス」と「消費者側のロス」の両方がある。そのどちらもなくしていきたいと考えています。

その上で当社の強みは、「生産者と消費者がつながること」や、「背景にある思いやストーリーを共有し理解できること」にあります。これらの強みを軸に、両者のロスを減らすためのさまざまな取り組みを展開しています。インパクトの総量としてはまだ小さいのですが、反応や行動変容の“質”という意味では、手応えを感じているところです。

荒木:具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか?

松浦:まず、生産者側のロス削減については、農林水産省と連携して有機農産物の普及や啓発に取り組んでいます。また、規格外品や収穫時期がずれて余ってしまったものなど、天候によって突発的に発生するロスもありますよね。こういった場合に、生産者と消費者がダイレクトにつながっていると、「急にたくさん採れちゃいました。よかったら買いませんか?」といった発信ができます。まさにコミュニティ的なアプローチです。実際、食べチョクのシステムとして、生産者が消費者に直接メッセージを送ることができる機能を設けており、ロスが発生しそうなときの販促にもご活用いただいております。

さらに、一部の生産者はロスになりそうな食材を加工して商品化しています。私たちもプライベートブランドとして協働し、冷凍のお弁当用惣菜を開発するなど、ロスの吸収に取り組んでいます。

荒木:なるほど。直接コミュニケーションを取れるというプラットフォームの強みを生かして、ロス発生を販売機会に変えていく流れができているんですね。消費者側の行動変容についてはいかがですか?

松浦:消費者側についても、「生産者との強い結びつきがあるからこそ、ロスを意識するようになる」という点に手応えを感じています。たとえば、「農家メシ」や「漁師メシ」といった生産者独自のレシピコンテンツを活用し、大根の葉っぱや魚のアラなど、普段あまり食べない部位の活用を提案しています。「食べきる」ことの価値を再発見してもらえるような工夫です。

また、先ほどのマッチングの話にも関連しますが、「◯◯さんの野菜だから最後まで大事に食べよう」といった意識も芽生えているようです。にんじんの葉っぱ一つとっても、誰がどのように作ったのかを知ると、捨てずに食べられないか?と考えるようになる。そういった意味で、消費側のロス削減にも貢献できていると感じています。

荒木:作り手の顔が見えることで、食材への向き合い方が変わる。まさに“行動変容”ですね。

松浦:そうですね。「ただ便利に買える」以上の価値を提供していくことで、意識も少しずつ変わってきていると思います。

食べチョク

「楽しそう」「面白そう」が、人の行動を変える

荒木:生産者と生活者の間にしっかりとしたコミュニケーションの接点があることが、食品ロスの削減だけでなく、安心・安全の提供にもつながっていると感じました。食べきれる工夫のように環境的なメリットもありつつ、それだけではない、さまざまな価値を生産者から提供されている印象があります。脱炭素という言葉だけではなかなか自分ごと化するのが難しい中で、“伝え方”の観点で意識しているポイントはありますか?

松浦:まさに“伝え方”が行動変容のカギだと思っています。「脱炭素しましょう」といきなり言われても、正直ピンとこない方が多いと思います。だからこそ、おいしそうとか、面白そうなど、まずはそういった興味から入ってもらうことがすごく大切だと考えています。

たとえば「農家メシを食べてみませんか?」とか「旬のフルーツが届きます」といった入り口から、食べていくうちに自然と食べきることを意識するようになり、結果的に食品ロスが減って、脱炭素にもつながっていく。そのような流れを意識しています。

食べチョク

荒木:地球環境の変化とともに、産地や収穫時期も少しずつ変わってきていますよね。そういった情報を家族で共有できれば、特に子どもたちにとってはすごく身近に感じられる学びになると思います。

松浦:私たちも、次世代に“食と環境”のつながりをどう伝えていくかは重視している取り組みの一つです。以前、食育の一環として「食育やさいBOX」という企画を実施しました。土が付いたままの野菜を直送し、そこに食育用の読み物やキャラクターシールを同封することで、子どもたちが楽しみながら学べるようにしたんです。

また、農林水産省と連携して、有機農業や生物多様性をテーマにしたバスツアーを実施したこともありました。40名ほどの参加者と一緒に東京から千葉の産地に行き、実際の畑を見て学んでいただくような体験です。このようにオンラインだけではなく、オフラインの強みも活用しながら、まずは「楽しい」「面白い」と思ってもらうことを大切にしています。

荒木:現地での学びや出会いは、生活者にとっての気づきがすごく多そうですね。以前「食べチョクアワード2024」を受賞された生産者の方々からお話を伺ったとき、「食品ロスの解像度が生産者の中でも違うし、消費者が見ている世界も違うのが課題」「利益が出ないと続けられない。食品ロス削減の取り組みによる商品をブランド化し、消費者にも丁寧に伝えられると応援買いにつながる」といった意見・アイデアが挙がっていたのが印象に残っています。

松浦:おっしゃる通りで、生産者と消費者の距離を縮めることが、あらゆる面で重要です。価格の話にしても、生産者は本当に一生懸命つくっているわけですから、その分コストもかかります。そのコストを価格に転嫁しても、「この人が作っている物だったら買いたい」と思ってもらえる関係を築いていくことが理想です。そのためにも、私たちは「推しの生産者がいる世界」をつくっていきたいと考えています。

たとえば「うちのニンジンはこの農家さん」「お米はこの生産者さん」といったように、ファンのような関係ができれば、少し高くても納得して買ってもらえる。実際、今でもリピーターが多い生産者は価格も維持できていますし、そういった“ファンコミュニティ”を各地で広げていきたいと思っています。

荒木:コストの課題を解決していくためには、やはり“つくっている人の顔が見えること”が重要ですよね。

日常や地域の中にある“発見”を大切に

荒木:電通では、カーボンニュートラルに関する全国調査を継続的に行っておりまして、国民全体がどのような意識を持ち、どのような行動に関心を寄せているかを深掘りしています。その中で特に注目しているのが、「今後どんな行動をとっていきたいか」という個別アクションへの関心や実施意向です。たとえば「食事を食べ残さない(食べきり)」や「地産地消」は、実施意向が非常に高い傾向が出ています。

食べチョク

食べチョク

「食べきり」に関しては、経済的メリットを感じている人が多く、「生活に負担がないならやりたい」という声がありますし、「地産地消」は「地域の役に立ちたい」という気持ちが動機になっています。

食べチョク

こうした行動は、取り組みやすさや意義の実感といった面で、生活者の行動変容にとって大きなきっかけになりうると感じています。すでに御社では、生産者と消費者がつながる仕組みを通じて、地域との連携も進められているかと思いますが、地域連携に関して考えていらっしゃること、または感じている課題などがあれば教えていただけますか?

松浦:直近では地方自治体との連携に注力しておりまして、全国各地の自治体と100件を超える連携を進めてきました。取り組みを通じて気づいたのは、まだまだ私たちも知らない魅力的な地域や産品がたくさんあるということ。こだわりを持った素晴らしい生産者の方々が本当にたくさんいらっしゃるのですが、皆さん口をそろえて「見せ方が苦手で…」とおっしゃるんです。

だからこそ、私たちはそこに大きな伸びしろがあると考えています。地元では当たり前すぎて気づかれていないような価値があると思うんです。そういった地域の魅力を外の視点から再発見し、都市部や他の地域の消費者に伝えていく。そのような取り組みが結果的に、食品ロス削減や地域経済への貢献にもつながっていくと思っています。

荒木:地域の魅力を発信していく上で、消費者のモチベーションづくりにおいて意識されていることはありますか?

松浦:私たちが意識しているのは、“発見”を提供できるかどうかです。もちろん「新鮮でおいしいものを食べたい」「品質のいいものを選びたい」というニーズはありますが、それだけではなく、日常にちょっとした変化を求めている方も多いんです。たとえば、「珍しいみかんが届いたから、ちょっと一緒に食べてみようよ」といった体験が生まれる。あるいは「これはお母さんの地元でつくられた、新しい品種らしいよ」など、家族で話題になるような“きっかけ”をつくることも大切にしています。そうした小さな気づきや感動が、地域や環境に対する関心にもつながっていくと信じています。

荒木:確かに、そうした“変化を楽しめる行動変容”って、他の分野ではなかなか少ないですよね。家電の買い替えなどにはあるかもしれませんが、日々の生活の中で自然に取り入れやすいのは、やはり“食”だと思います。そういう意味でも、御社の取り組みは他の行動変容にもつながるヒントが詰まっているように思います。

その一方で、カーボンニュートラルに向けた行動変容をビジネスとして広げていく中で、難しさを感じている部分があれば、ぜひ率直にお聞かせください。

松浦:いくつかありますが、一つは行動変容を計測することの難しさですね。私たちとしては、「生産者と消費者がつながった結果、食べきるようになった」「食品ロスが減った」という手応えはあるものの、それを具体的な数値で明確に示すのはなかなかハードルが高いと感じています。

もう一つは、「知らない」「関心がない」「効果を感じられない」「自分にメリットがない」といった行動変容の“ボトルネック”への対応ですね。こうした心理的なハードルに対して、私たちのような“推し生産者とのつながり”は有効なアプローチだと考えているのですが、それが一気に広がるかというと、正直時間がかかると思っています。

だからこそ、小売店や飲食店など、日本中のさまざまな接点を持つ企業や場所と連携して、「どこに行っても行動変容のきっかけがある」状態を目指していくことが必要だと考えています。

荒木:確かに、スピード感が求められる中で、どうやって一気に広げていくかは非常に重要な課題ですね。2024年にはすでに世界の平均気温の上昇が1.5℃を超えた期間があったと言われるほど状況は逼迫していますし、これからの企業連携の中で、その可能性をぜひ広げていければと思います。

食べチョク

“濃い熱源”をつくり、共創を通じて社会に伝搬させる

荒木:最後に、今後の展望や取り組みたい課題などがあれば、ぜひお聞かせください。

松浦:まず私たちとしては、これからさらに“濃い熱源”をつくっていきたいと考えています。生産者と消費者が直につながり、その関係性の中でコミュニティが形成されていく。そこに“推し農家”ができ、学びが生まれ、食卓での食品ロスが自然と減っていく。そういった好循環を、まずはしっかりとつくっていきたいと思っています。

濃い関係性が築ければ、次のフェーズとして“広げていく”という展開が見えてくるはずです。そのためにも、どうすれば人は行動変容につながるのか、さまざまな手段やコミュニケーションを通じて解明していきたいと考えています。

そしてもう一つ、これからは“連携”もいっそう重要になると感じています。私たちの活動はビジネスであり、持続可能であることが大前提です。消費者にとってのメリットはもちろん、企業側にも中長期的に利益が積み上がっていく仕組みでなければ続けられません。資本主義社会の中でもきちんとワークするようなエコシステムを、志を同じくする方々と一緒につくっていけたらと思っています。

荒木:“つながり”が、まさにこれからのキーワードだと私も感じました。関係性が深まることで、行動変容も自然と生まれてくる。そういったつながりを広げていくことで、脱炭素社会への一歩を確実に進めていけるのではないかと思います。本日いただいたお話も、まさにそのヒントにあふれていました。私たちも調査結果を活用しながら、さまざまなプレーヤーの皆さまとともに、行動変容を促す取り組みを支援していければと考えています。ありがとうございました。

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Facebookも新たに開始…主要SNSの「収益化プログラム」を比較・整理してみた

●この記事のポイント
・Facebookは2024年、新たな収益化プログラムをリリース
・主要なSNSでは収益化の仕組みが多様化しており、プラットフォームごとの特徴を理解し、適切に選択・運用することが重要
・短期的な拡散力を求める場合はTikTok、案件収益を狙うならInstagram

 Facebookは昨年(2024年)、新たな収益化プログラムをリリースし、海外では10万ドル(約1500万円)以上の収益を見込む企業も出始めているという情報もあり、Facebookはクリエイターに報酬を支払う方針を強めている。Facebookに限らず、YouTube、X(旧Twitter)、Instagram、TikTokなど他のメジャーなSNSも収益化プログラムに類する仕組みを提供している。それぞれ、どのような特徴があるのか。また、どのような使い分け方をすれば、より大きな収益を上げやすいのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

各SNSの収益化プログラムの特徴

 高額な広告収入を公表する人気YouTuber(ユーチューバー)もいるため、SNSでの収益化と聞いて真っ先に思い浮かぶのがYouTubeだろう。例えばYouTubeパートナープログラムで収益を得るためには、まず同プログラムに申請するための条件である「チャンネル登録者数500人以上」「直近90日間にアップロードした公開動画3本以上」「直近12カ月間の公開動画の総再生時間3000時間以上、または直近90日間のショート動画の視聴回数が300万回以上」などを満たす必要がある。さらに同プログラムに登録した上で広告収益化機能を有効にするためには、「チャンネルの登録者数1000人以上」「直近12カ月の動画総再生時間が4000時間以上、または直近90日間のショート動画の視聴回数が1000万回以上」などの条件を満たす必要がある(いずれも2025年5月末時点)。広告再生回数1回あたりの収入は動画によって差があり、ここ数年、その金額は低下傾向にあるとされる。

 各SNSの収益化プログラムの特徴について、運用型 SNS・インフルエンサー広告プラットフォーム「INFLUFECT(インフルフェクト)」を提供するリデル株式会社は次のように説明する。

「現在、主要なSNSでは収益化の仕組みが多様化しており、クリエイターにとってはプラットフォームごとの特徴を理解し、適切に選択・運用することが重要になっています。

 YouTubeは、動画再生による広告収益を主軸とした『YouTubeパートナープログラム』が非常に安定しており、長尺コンテンツや教育・解説系のジャンルとの相性が良いです。また、スーパーチャットやメンバーシップなどの追加機能も充実しています。

 Instagramでは、直接的な広告収益制度は限定的ですが、企業とのタイアップやブランド案件による収益が主流です。クライアントコミュニケーションと共感性に長けたクリエイティブやコンテンツを作成できる方に向いています。

 TikTokは、再生回数に応じた報酬を得られるクリエイター向けのプログラムや、ライブ配信時のギフト機能が用意されています。拡散力が高く、短期間でバズを狙いたいクリエイターに適しています。

 Facebookは、Reelsによる広告収益や、Stars(投げ銭)、サブスクリプション機能などがあります。ただし、日本国内ではまだ普及段階にあり、活用しているクリエイターは限られています。年齢層の高いユーザーが多いため、特定のテーマやコミュニティ運営に強い方に向いています。

 Xは、近年、投稿のインプレッション数に応じた広告収益やサブスクリプション機能が始まりましたが、まだ実験的な段階で、安定収益には結びつきにくい面があります。ただし、情報発信力のあるユーザーや影響力の高いアカウントにとっては、可能性がある領域です」

最初に目指すべきは「収益化」ではない

「このようなタイプのユーザーであれば、このSNSを使うと収益を上げやすい」といった使い分け方は、あるのか。

「収益性という観点では、現時点ではYouTubeが最も安定して収益を上げやすいプラットフォームです。再生数に応じた広告収益に加え、コンテンツの寿命が長いため、長期的なストック型の収益が期待できます。一方で、短期的な拡散力を求める場合はTikTok、案件収益を狙うならInstagram、情報発信やコミュニティ形成を重視するならXやFacebookといった使い分けが有効です。

『どのSNSを使えばいいか』は、その人の強み・届けたい層・得意なコンテンツ形式によって変わります。例えば、動画編集に強い人であればYouTube、セルフプロデュースが得意な方であればInstagramやTikTokが向いています」(リデル)

 もっとも、SNSで過度に大きな収益を上げようとする行為は、SNSというものが持つ性質とは相反するので注意が必要だという。

「SNSの収益化について述べましたが、そもそも各SNSプラットフォームのはじまりは、収益を目的に生まれたものではありません。自分が発信源となり、自由な表現を楽しみ、価値観の合う人やモノと出会える。そんな『つながり』や『共感』から始まったものです。だからこそ、まずは好きなことを自分らしく発信し、それを誰かとシェアして楽しむ姿勢が大切です。その積み重ねが共感や支持につながり、結果として人気や影響力という価値となって、収益化の可能性が自然と生まれていく。それが、本来あるべき健全な流れだと思います。

 なので、最初に目指すべきは『収益化』ではなく、『誰かのために、楽しく発信を続けられるかどうか』です。そのうえで、より多くの人に届けるためには、SNSのアルゴリズムや、魅力的なコンテンツづくりのノウハウを学ぶことが重要です」(リデル)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=リデル)

日銀、金融政策維持へ=国債購入減額のペース緩和議論―16日から会合

 日銀は16日から2日間の日程で金融政策決定会合を開き、昨年7月に決めた国債買い入れの減額計画に関する中間評価を行う。会合では、来年4月以降の国債買い入れの減額ペースを緩めることを議論する。金融政策については、米関税政策の影響を見極める必要があるとして、短期金利を0.5%程度で推移させる現在の誘導目標を維持する見込み。 

 日銀は現在、金融正常化の一環として、国債買い入れを四半期ごとに4000億円ずつ減額している。来年3月までは現在の計画通りの減額ペースを継続する公算が大きく、同月の月間国債買い入れ額は2兆9000億円まで縮小する。

 来年4月以降の新たな買い入れ計画に関しては、長期金利が急騰するリスクを回避するなど市場安定に配慮し、四半期ごとの減額幅を現在の半分の2000億円にペースダウンすることが有力視されている。

 国内外の経済を巡っては、トランプ米政権の高関税政策など不透明要因が多く、日銀は当面、景気や物価の動向を慎重に点検する考え。コメなど食料品を中心とした物価高の持続性についても議論する。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/06/11-17:40)

「試験はしない」「生きぬける子を育てる」異色の学校が追求する、本当に“多様な学び”とは? – ニュースな本

不登校とされた小中学生はいまや過去最多の30万人を超え、その受け皿としてフリースクールやオルタナティブスクールなどが広がりつつあること、またそうしたスクールが“既成の学校”とは何が違うのかを、前回は取り上げました。本稿では、前屋毅さん著『学校が合わない子どもたち』(青春出版社)から、湘南ホクレア学園というオルタナティブスクールの取り組みや理念を通して、日本の教育の多様化の必要性をご紹介します。

AI搭載型スマートグラス、一日中装着する時代に?グーグルとメタの最新デバイスでみえた未来

●この記事のポイント
・グーグル、「Android XR」を利用し、「Gemini」を搭載するメガネ型デバイスの試作機を発表
・メタ、ARメガネの研究プロジェクト「Project Aria」の最新の研究用グラス「Aria Gen 2」の詳細を発表
・メタのデバイスは研究開発用、グーグルのデバイスは一般向け製品のリリースを前提

 大手テック企業2社のAI搭載スマートグラス(メガネ型デバイス)の最新デバイスの情報が出揃った。米グーグルは5月20日、スマートグラスの開発プラットフォーム「Android XR」を利用し、生成AI「Gemini」を搭載するメガネ型デバイスの試作機を発表。6月4日には米メタが、ARメガネの研究プロジェクト「Project Aria」の最新の研究用グラス「Aria Gen 2」の詳細を発表した。それぞれの注目すべき特徴や違いは何であるのか。また、どのような用途や利用メリット、活用法が想定されるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

異なる言語を話す人同士の会話も可能に

 グーグルは2012年にスマートグラス「Google Glass」を発表し(2023年に販売中止)、普及には至らなかったが、昨年にはXR(仮想現実・拡張現実)デバイスの開発プラットフォームである「Android XR」を発表し、同領域に注力していく姿勢をみせていた。すでにサムスン電子と開発したヘッドセット型の「Project Moohan」を発表していたが、5月には新たにより軽量のスマートグラス型の試作機を発表。カメラ、マイク、スピーカーを内蔵し、Geminiと連携。スマートフォンのアプリを利用でき、レンズ内のディスプレイに必要な情報が表示される。「スマートグラスはあなたが見たり聞いたりしているものを理解し、状況を把握し、重要な情報を記憶して、一日を通してサポートを提供」(公式サイトより)するという。メッセージ送信、Googleマップと連動したナビゲーション、写真撮影といった機能があり、自動翻訳機能を使えば異なる言語を話す人同士の会話も可能になる。

 一方、これまで「Meta Quest 3」や「Ray-Ban Meta」を販売していたメタは前述の「Project Aria」を推進しており、2020年に「Aria Gen 1」を公開。今年6月にはその後継デバイスにあたる「Aria Gen 2」の詳細を公開した。コンピュータービジョン、機械学習、センサー技術の最新技術を融合したウェアラブルデバイスであり、 Gen 1から快適性とフィット感が向上。高度なカメラベースの視線追跡システムを搭載し、片目あたりの視線、輻輳(ふくそう)点、瞬き検出、瞳孔中心推定、瞳孔径、角膜中心など豊富な情報を提供し、装着者の視覚的な注意と意図をより深く理解。人間とコンピューターのインタラクションの新たな可能性が開かれるという。また、視覚慣性オドメトリ(VIO)を用いて空間座標系内でメガネを追跡でき、シームレスなナビゲーションとマッピングが可能になっている。

2つの大きな違い

 主な特徴や注目すべき特徴について、ITジャーナリストの酒井麻里子氏は次のように解説する。

「メタ『Aria Gen 2』は、あくまでも研究開発用のデバイスで、これ自体が製品化されるわけではありません。グラス型のデバイスに複数のカメラや視線追跡機能、手の動きを検知する3Dハンドトラッキング、心拍センサーなどが搭載され、装着者自身やその周囲の環境を検知してデータを集めることができるようになっています。加えて、デバイス内で処理が完結する(オンデバイス)AIも搭載され、収集したデータを扱えるようになっています。研究者がこのデバイスを使ってデータを集め、AIをトレーニングすることが主な目的です。

 グーグルの『Project Aura』は次世代ARデバイスの製品化に向けたプロジェクトで、ARデバイスメーカーのXreal、デバイスに搭載するチップを開発するクアルコムとの協業で進められています。具体的な製品の発売時期は未公表ですが、5月のGoogleI/Oでは試作機を使ったデモとして、グーグルのAI『Gemini』を使ったリアルタイム翻訳や道案内の様子が披露されています」

 2つの大きな違いは何か。

「メタのAria Gen 2は『研究者のデータ収集用』、グーグルのProject Auraは『一般向け製品のリリースを前提としたプロジェクト』という違いがあります。レストランで新メニューを開発する場合にたとえるなら、Aria Gen 2は『シェフが厨房で試行錯誤している』段階、Project Auraは『メニューの方向性が固まり、常連客向けに試食会を実施している』段階というイメージです。どちらのメニューもまだ、一般客が注文して食べることはできません。

 グーグルのProject Auraは、この先のロードマップがある程度明らかになっています。まず、6月11日には、米国で開催されているXRカンファレンス『Augmented World Expo』のなかで、より詳細な情報が発表されました。そして、今年後半には開発者向けツールの提供を開始するとされています。製品の発売時期は公式には発表されていませんが、早ければ2026年には登場するのではと噂されています。

 一方のメタは、具体的なロードマップを公表していません。とはいえ、将来的にAria Gen 2で得られた知見をベースにした製品がリリースされる可能性は高いと思われます。その際には、2社のグラスは似たような機能を備えた競合製品になるかもしれません」(酒井氏)

グラス型デバイス、機能や用途で大別

 では、どのような用途や利用メリット、活用法が想定されるのか。

「Project Auraのデバイスは、1日中かけたまま使うことを想定して設計されています。つまり、『今までスマホを操作してやっていたことを、スマホと接続したグラスからハンズフリーで行えるようになる』というイメージです。Google I/Oのデモでは、目の前の人が話す言葉をリアルタイムで翻訳してグラスに表示したり、グラス越しにナビを表示したり、グラスを使ってメッセージに返信したりといった操作をする様子が披露されました。スマホをポケットから出して画面を見ながら操作しなくても、グラスとAIの音声操作を使って、さまざまな操作ができるようになると期待されています。

『グラス型のデバイス』には、すでに一般販売されている製品もありますが、同じような形状でも、機能や用途でいくつかに大別できます。

(1)次世代型:Project Auraで予告されているサングラス型のデバイスや、Meta Ariaで集めた技術をベースに将来開発される可能性のあるメタのデバイス。常時装着してスマホのように使用(未発売)。

(2)仮想ディスプレイ型:PCやスマホの画面を映し出すデバイス。大画面の外部ディスプレイとして使用(XREAL Oneなど)

(3)現場支援型:ヘルメットなどに装着して、現場作業の補助に使われるデバイス。搭載されたカメラで装着者が見ている映像を遠隔にいる人に共有したり、ディスプレイに作業指示を表示したりできる。

(4)その他:オーディオ再生に特化したもの(Bose Framesなど)や、心拍センサーなどを備えたスポーツ向けのデバイス(ENGO 2など)など。

 なかでも違いが分かりづらいのは、仮想ディスプレイ型(現行のXREAL製品など)と、これから登場する次世代型かもしれません。大きな違いは、仮想ディスプレイ型が『必要なときだけ装着して、特定の用途だけに使用する』ものであるのに対して、次世代型は『1日中装着する前提の汎用型』になる点です。私もXREALの歴代モデルを使っています。画質や使い勝手は年々向上していると感じる一方で、長時間使っていると目が疲れてくるので、長くても数時間が限度だなと感じています。そして、サングラスに近い外観でかなり威圧感があるので、どこでも使えるとはいいがたいです……笑」(酒井氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=酒井麻里子/ITジャーナリスト、ライター)

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