中国人海外旅行の現在地 回復する市場と旅行ニーズの変化

データから読み解く訪日中国人旅行者のリアル

訪日中国人旅行者に対するインバウンドマーケティングでの成功をつかむには、彼らが日常的に接するメディアやプラットフォームを深く理解し、的確に活用することが不可欠です。

本連載では、電通が提携関係にある中国最大手のオンライン旅行代理店「Ctrip(シートリップ)」や大手SNS「小紅書(シャオホンシュー、英語名“rednote”)」など、中国人が旅行時に利用する主要オンラインプラットフォームからの提供データ、さらには、電通が独自に実施したオンライン調査データや電通中国が保有する独自のデータをフル活用して、インサイトを深堀りし、訪日中国人旅行者の実像に迫ります。

第1回は、2024年の中国人の海外旅行に関する動向を中国政府などの公開データなどから振り返ります。中国における海外旅行者の規模や主な旅行先、デモグラフィック特性を中心に据えて、中国の旅行者は、どのようなことを求めて、どのような時期に海外旅行に行くのか、などといった、日本が旅行先として選ばれるにあたっての基礎的な情報を整理します。

 

コロナ禍後の中国人海外旅行市場は急速に回復

2023年の中国人海外旅行者数は8700万人を超え、コロナ前の19年と比べて60%まで回復しました。

中国観光研究院「中国アウトバウンド観光発展報告書(2023-2024年)」
中国観光研究院「中国アウトバウンド観光発展報告書(2023-2024年)」

さらに、24年上期には6071万人に達し、前年同期比50.4%増加し、19年の74.7%まで回復しています。また、その旅行消費額は1240億ドル(約19兆円)と、中国経済の懸念に関する報道がある一方で、中国人の海外旅行熱には再び力強い勢いが見られます。

Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」

日本政府観光局(JNTO)の発表によると、24年上期の中国からの訪日客数は約307.2万人となっていますので、中国人海外旅行者のうち約5%が日本を訪問していると推定されます。また、24年の訪日旅行消費額が約8兆円でしたが、中国人海外旅行者の消費金額は上期だけで19兆円でしたので、その潜在的な消費力を感じ取っていただけると思います。


コロナ禍後の中国人の海外旅行ニーズの変化:旅行の質をより重視

23年以降、海外旅行の需要は継続して拡大しており、国際定期便の回復、中国政府の政策や利便性の向上によって、海外旅行の回復ペースが加速しています。

訪問先の上位10カ国・地域は、香港・日本・マカオ・韓国・台湾・イギリス・フランス・ドイツの順となっており、コロナ禍前と同じように、中国から近い東アジア地域への旅行は人気が高い状態です。

新しい傾向としては、中国政府が主導する「一帯一路」構想による国際交流と協力もあり、トルコ・アラブ首長国連邦(UAE)・エジプトなどの国々への旅行も増加してきており、中国人の海外旅行の旅行先の選択肢は多様化してきています。

出典:中国観光研究院「中国海外旅行観光発展報告書(2023-2024年)」
出典:中国観光研究院「中国海外旅行観光発展報告書(2023-2024年)」

また、中国人海外旅行者の旅行に対するニーズは常に変化しており、その消費習慣も変化しています。中国人海外旅行者は今、「旅行の質をより重視」し、「体験重視のオリジナルでカスタマイズされた旅行」を望み、「個性的で質が高く、体験に重きを置いたサービス」に出費を惜しまなくなってきています。

旅行ニーズの変化の例

海外旅行をする世代のボリュームゾーンの変化:中国人海外旅行者の半数以上が若い世代に

中国人海外旅行者は若い世代が中心層になりつつあります。1990年代と2000年代以降生まれ(20代から30代)が中国人海外旅行者全体の半数以上を占めるようになってきており、若者の海外旅行意欲は他の年齢層よりかなり高くなってきています。

出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」
出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」

中高年の親は、自分たちの子どもに海外旅行の計画を委ねるようにもなってきています。24年上期の調査では、その割合は42.8%に達し、1年前の27.3%から急激に増加しています。若年層が海外旅行先や、訪問先での行動の意思決定に与える影響はますます大きくなっているといえます。

出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」
出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」


重要な意思決定のデジタルチャネル:「SNS」「オンライン旅行サイト」「検索サイト」

海外旅行のインスピレーションを得るデジタルチャネルとして最も影響力のあるものは「SNS」です。続いて、Ctripなどの「オンライン旅行代理店プラットフォーム(OTA)」、「検索サイト」となります。

「SNS」で利用される主要プラットフォームは「抖音(Douyin、中国版TikTok)」、「小紅書(rednote)」と「微信(WeChat)」であり、これら3つのプラットフォームの利用率が5割を超えています。

こうしたSNSチャネルでの公式アカウントやKOL(Key Opinion Leader、インフルエンサーのこと)を通した情報発信と広告プロモーションの連携は重要な施策となっています。

出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」
出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」

中国人海外旅行のタイミング:「夏休み」が最もピークとなる時期

中国国家移民管理局の統計によると、「夏休み期間(7月〜8月)」が出入国の一番大きなピークシーズンとなっています。「国慶節(10月)」「春節(1〜2月)」「労働節(5月)」の連休がそれに続きます。春節や国慶節という大型連休が、訪日中国人旅行者のプロモーションのタイミングとして注目されがちですが、家族での海外旅行を考えると夏休みが最も適切なタイミングであり、この夏休みの期間前・期間中のプロモーション活動は無視できないといえます。そういった意味では、連休に向けた短期的な施策だけではなく、中長期的な施策を織り交ぜたプロモーション設計が重要になっています。

出典:中国出入国管理局「统计数据」
出典:中国国家移民管理局「统计数据」
 
参照データ:
・    《中国出境旅游发展报告(2023-2024)》在线发布 - www.cottm.cn
・    2024年中国出境游行业发展趋势报告_澎湃号·湃客_澎湃新闻-The Paper
・    统计数据_国家移民管理局
 

次回は、Ctripからの提供データや電通が独自に実施した訪日中国人オンライン調査を踏まえた、訪日中国人旅行者の旅行目的や購買傾向、消費パターンなど、ビジネスに活用できる重要なポイントを明らかにします。


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マイクロソフトやグーグル、なぜ「岩石の風化でCO2削減」の新技術に注目?

●この記事のポイント
・地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)排出量を削減し、気候変動を抑制するために世界中で推進されているカーボンニュートラルの動き。
・そんななか、空気中のCO2を吸着する技術として「岩石風化促進」がにわかに脚光を浴びている。マイクロソフトやGoogleも、この技術を持つ企業と提携して炭素除去クレジットを購入するなど多額の資金提供を行っている。

 地球温暖化対策が世界の喫緊の課題となる中、大気中の二酸化炭素(CO2)を能動的に除去する「ネガティブエミッション技術」への期待が高まっている。その一つとして、岩石の自然な風化プロセスを人工的に加速させ、CO2を固定化する「岩石風化促進(Enhanced Rock Weathering: ERW)」技術が注目を集めている。この技術は、そのポテンシャルの高さから、カーボンニュートラル達成に向けて野心的な目標を掲げるGoogleやMicrosoftといったグローバル企業からも、CO2除去量の購入という形で具体的な投資対象として熱い視線が注がれている。

 この分野の研究を牽引し、国の大型プロジェクトも率いる早稲田大学 理工学術院教授の中垣隆雄氏に、岩石風化促進技術の基本的な仕組みから、他のCO2回収・除去技術との違い、そして社会実装に向けた課題と展望まで、詳しく話を伺った。

目次

岩石風化促進とは?―自然の力を借りたCO2除去のメカニズム

――まず、岩石風化促進技術の基本的な仕組みと、他のCO2回収・除去技術(CDR: Carbon Dioxide Removal)との違いについてご説明いただけますでしょうか。

中垣教授:私たちが取り組んでいるのは、CDR、別称ネガティブエミッション技術の一つです。CDRは大きく二つに分類できます。一つは、森林やブルーカーボン(海洋生態系によるCO2吸収)など、植物の光合成を利用して大気中のCO2を取り込み、貯留する方法です。これを何らかの方法で加速させようというアプローチです。

 もう一つは化学反応を利用する方法で、これには「自発的に反応が起こるもの」と「外部からエネルギーを加える必要があるもの」の2種類があります。後者の代表例が「DAC(Direct Air Capture:直接空気回収)」です。DACはCO2を選択的に回収できますが、吸収材からCO2を分離して再利用する際にエネルギーを必要とします。回収したCO2は地下貯留などによって隔離する必要があり、「DACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)」とも呼ばれます。

 一方、岩石風化促進は、化学反応を利用しつつも、自発的に反応が起こり、CO2を安定的に固定化する点が大きな特徴です。CO2は、例えば水素と結合させて合成メタンなどの燃料に戻すことも考えられますが、CO2自体が燃料の燃焼後の物質であるため、燃料に戻すには投入したエネルギー以上の便益を得ることは難しく、多大なエネルギーが必要です。化学的にはギブズエネルギーという指標があり、CO2のギブズエネルギーは-394kJ/mol程度ですが、燃料はよりプラスの値になります。マイナスからプラスへ移行させるには外部エネルギーが不可欠です。

 ギブズエネルギーとは、「ある化学反応が自然に進むかどうかを決めるエネルギーの指標」です。簡単に言うと、ギブズエネルギーの変化(ΔG)がマイナスなら、その反応は外からエネルギーを加えなくても勝手に進みます。逆に、ΔGがプラスなら、反応を進めるには追加のエネルギーが必要になります。例えば、水が氷に変わるのは気温が低いと自然に起こります(ΔGがマイナス)。しかし、水を100℃以上で蒸発させるには熱を加える必要があります(ΔGがプラス)。この指標を使えば、「この化学反応が自発的に進むか?」を予測できるので、電池や燃料の開発、環境技術など様々な分野で活用されています。

 しかし、岩石風化促進では、CO2を炭酸塩(マグネシウムやカルシウムの炭酸塩、またはそれらを含むケイ酸塩やアルミナ酸化物など)として固定化します。この反応で生成される炭酸塩のギブズエネルギーは-1000kJ/mol以上と、CO2よりもさらに低い値になります。ギブズエネルギーがよりマイナス(低い)方向へ進む反応は自発的に起こるため、外部からエネルギーを投入する必要がないのです。これが岩石風化促進の最大の利点であり、DACとの根本的な違いです。

DACと岩石風化促進とのコスト面、実用面での比較

 DACはCO2を選択的に回収できる技術だが、吸収材の再生やCO2の分離・貯留に大量のエネルギーを必要とするため、コストが高くなりがち。一方、岩石風化促進は自然の化学反応を利用するため、エネルギー消費が少なく、比較的低コストで実施可能。

 DACはすでに商用化されているものの、コストが高く、拡張には大規模な設備投資が必要。一方、岩石風化促進はまだ実証試験段階だが、広範囲に適用できる可能性があり、長期的なCO₂固定化が期待されている。

結論:
・DACは高精度なCO₂回収が可能だが、コストが高く、エネルギー消費が大きい。
・岩石風化促進は低コストで長期的なCO2固定化が可能だが、適用には土地や鉱物資源が必要。
・どちらもカーボンネガティブの実現に貢献するが、用途やコストに応じて使い分けが必要。

岩石を砕き、撒く―その効果と持続性、そして課題

――岩石を粉砕して農地などに散布するという方法が中心的かと思いますが、そのCO2固定化効果はどのくらいの期間持続するのでしょうか。また、粉砕や散布に伴うエネルギー消費やCO2排出についてはどのように評価されていますか?

中垣教授:例えば1トンの岩石があったとします。この岩石が持つCO2固定化ポテンシャルは、岩石の種類によって異なり、数百年から数千年、数万年かけて自重の半分程度のCO2を固定化できるものもあります。これが究極的に蓄えられる量です。しかし、それでは2050年のカーボンニュートラル目標には間に合わないため、反応を早める必要があります。そのために、岩石を細かく粉砕して表面積を拡大することで反応を早めるのです。

 現在、私たちが日本で進めようとしているのは、砕石事業者から出る「ダスト」と呼ばれる削りカス(産業廃棄物)を利用する方法です。このダストをさらに細かく粉砕する際にはエネルギーが必要となり、CO2も排出されます。また、ダストを発生場所から農地などの散布場所へトラックで運搬する際にもCO2が排出されます。そのため、北海道の岩石を沖縄で使うといったことはせず、地産地消を基本とし、輸送に伴うCO2排出を最小限に抑えることを考えています。

 最終的なCO2固定化量は、これらのプロセスで排出したCO2量を差し引いて評価します(ライフサイクルアセスメント:LCA)。例えば、三菱重工業と早稲田大学が共同で進めているプロジェクトでは、特定の岩石(かんらん岩や蛇紋岩など)を用い、1年間でCO2を固定化する研究を行っています。時間をかければさらに多くのCO2を固定化できますが、実用化のためにはより短期間での効果が求められます。

――コストについてはどのようにお考えでしょうか?

中垣教授:現在、世界で最も安価にCO2を回収できると言われているのは、大規模な森林再生で、1トンあたり10ドル程度です。岩石風化促進も、将来的にはこれに近いコスト、あるいはそれ以下を目指せる可能性があります。特に、砕石ダストのような未利用資源を活用することで、原料コストを大幅に抑えられる可能性があります。

 重要なのは、CO2固定化量だけでなく、その「永続性(Durability)」です。樹木は何十年、何百年で枯れてCO2を再放出する可能性がありますが、岩石風化によって固定化された炭酸塩は、地質学的な時間スケールで安定的にCO2を貯留します。この永続性の価値をどのように評価するかが、今後の課題の一つです。

 また、農地に岩石粉末を散布することで、土壌改良効果や作物の収量増加といった副次的な便益(co-benefit)も期待できます。これらを経済価値として評価できれば、実質的なCO2固定化コストをさらに下げることができるでしょう。

なぜマイクロソフトやGoogleは岩石風化促進に注目するのか?

 MicrosoftやGoogleのような巨大テック企業は、自社の事業活動に伴うCO2排出量を実質ゼロにするだけでなく、過去の排出量も含めて大気中から除去するという野心的な目標(カーボンネガティブ)を掲げている。その達成のためには、大量かつ永続的なCO2除去を可能にする技術が不可欠だ。

 岩石風化促進技術は、以下の点で彼らのニーズに応える可能性を秘めている。

1.高い永続性(Durability): 岩石によって固定化されたCO2は、数百年から数千年という地質学的スケールで安定的に貯留されるため、森林再生など他の自然ベースの解決策と比較して再放出のリスクが低いと評価されている。

2.スケーラビリティの可能性: 原料となるケイ酸塩岩などは地球上に豊富に存在し、農地や鉱山跡地などを活用することで、理論上はギガトン規模のCO2除去ポテンシャルがあるとされている。

3.コスト効率への期待: 特に未利用の岩石資源(砕石ダストなど)を活用したり、土壌改良といった共同便益を考慮したりすることで、将来的に他のCDR技術と比較してコスト競争力を持つ可能性がある。

4.共同便益(Co-benefits): 農地への適用による土壌のpH調整、必須ミネラルの供給による作物収量の向上、海洋アルカリ化による海洋酸性化の緩和といった、CO2除去以外の環境・社会への貢献も期待されている。

 これらの理由から、MicrosoftはFrontier Fundなどを通じて岩石風化促進技術を持つスタートアップからCO2除去量を購入しており、Googleも同様の動きを見せている。彼らの投資は、技術開発を加速させるとともに、カーボンクレジット市場における岩石風化促進技術の信頼性を高める効果も期待される。

社会実装への道筋―NEDOプロジェクトと産学連携

――日本国内での具体的な社会実装のイメージや、現在進められている研究プロジェクトについて教えてください。NEDOの「ムーンショット型研究開発事業」でも、先生がプロジェクトマネージャーを務める「岩石風化ポテンシャルを最大限に引き出すCO2固定システムの開発」が採択されていますね。

中垣教授:はい、NEDOのムーンショット目標4「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」の一環として、私たちのプロジェクト「岩石風化ポテンシャルを最大限に引き出すCO2固定システムの開発」が2023年度から本格的に始動しました。このプロジェクトでは、2050年にCO2純排出量1ギガトン/年の削減ポテンシャルを持つ岩石風化促進技術の確立を目指しています。

 具体的には、以下の3つの主要な研究開発テーマに取り組んでいます。

1.岩石風化促進メカニズムの解明と最適化: 様々な種類の岩石(特に国内で豊富に存在する玄武岩やかんらん岩など)について、風化速度を最大化するための最適な粒度、散布環境(土壌の種類、水分量、温度など)を明らかにします。

2.CO2固定量の高精度評価技術(MRV)の開発: 岩石風化によって実際にどれだけのCO2が大気中から除去・固定されたのかを科学的根拠に基づいて正確に測定・報告・検証する手法を確立します。これはカーボンクレジット市場での取引や政策的な評価において不可欠です。衛星データやAIを活用した広域評価技術の開発も進めています。

3.社会実装モデルの構築とLCA/TEA評価: 日本国内の具体的な候補地(農地、森林、休廃止鉱山など)を選定し、実証試験を通じて技術的な課題を克服するとともに、経済性(TEA: 技術経済性評価)や環境影響(LCA: ライフサイクルアセスメント)を総合的に評価し、持続可能な社会実装モデルを構築します。

 このプロジェクトには、早稲田大学を中心に、産業技術総合研究所(産総研)、北海道大学、九州大学、電力中央研究所といった国内の主要な研究機関や大学が参画し、企業とも連携しながらオールジャパン体制で研究開発を進めています。

 産総研とは、以前から岩石風化促進技術のLCAやTEAを行うための評価ツール開発で協力しています。このツールを用いることで、異なる種類の岩石や散布場所、適用方法におけるCO2固定化量やコストを計画段階で予測できるようになります。

 日本国内での具体的な適用先としては、農地への散布が有望です。土壌改良効果も期待できるため、農業との連携が鍵となります。特に日本では水田が有力な候補地とされており、国内の水田の10%に岩石風化促進を適用した場合、年間300万トン以上のCO2削減効果が見込めると試算されています(日経クロステック記事より)。その他、休廃止鉱山の活用(酸性排水の中和処理とCO2固定化の同時実現)や、ハウス内に設置したトレイに粉砕した岩石を載せてCO2固定を促す「気固接触方式」なども研究されています。

――社会実装に向けて、最大の課題は何でしょうか?

中垣教授:やはり「測定・報告・検証(MRV)」の確立です。固定化されたCO2の一部は地下水などによって移動する可能性があり、最終的にどれだけのCO2が大気中から除去されたのかを正確に把握し、検証可能な形で報告する手法を確立する必要があります。MRVが確立されなければ、カーボンクレジットとしての価値も認められにくく、企業も参入しづらくなります。

 現在、世界中でMRV手法の開発競争が激化しており、私たちもNEDOプロジェクトなどを通じて、高精度な測定技術やモデリング手法の開発に注力しています。

未来展望―地球の自然治癒力を、人間の手で

――岩石風化促進技術が将来的に普及した先に、どのような未来像を描いていらっしゃいますか?

中垣教授:岩石風化促進技術は、地球が本来持っているCO2吸収能力、いわば「地球の自然治癒力」を人間の手で少しだけ加速させる技術だと考えています。この技術が広く普及すれば、農業や鉱業といった既存産業と連携しながら、持続可能な形で大気中のCO2濃度を低減していく道筋が見えてくるはずです。

 もちろん、この技術だけで気候変動問題の全てが解決するわけではありません。省エネルギー化や再生可能エネルギーへの転換といった排出削減努力(ミティゲーション)が大前提です。その上で、どうしても排出されてしまうCO2や、過去に排出されたCO2を除去する手段として、岩石風化促進技術が重要な役割を担える可能性があります。

 将来的には、様々なネガティブエミッション技術が適材適所で活用され、ポートフォリオとして地球全体のカーボンバランスを最適化していくことになるでしょう。その中で、岩石風化促進技術が、コスト効率と永続性に優れた選択肢の一つとして、世界のカーボンニュートラル達成に貢献できる未来を目指して、研究開発を進めていきたいと考えています。

――ありがとうございました。

(構成=BUSINESS JOURNAL編集部)

たった6分で運命が変わる?IVS LAUNCHPAD優勝者が語る、”共感”が未来を創る瞬間

●この記事のポイント
・国内最大級のスタートアップカンファレンスであるIVSは、スタートアップ関係者のみならず、投資家などからも大きな注目を浴びる。特にピッチイベントのLAUNCHPADは大きな夢がある。
・昨年の優勝者であるRENATUS ROBOTICSの安藤奨馬氏は、自身と会社に大きな変化をもたらした。

「起業とは、生き方のひとつである」

 そう語るのは、スタートアップピッチイベント「IVS LAUNCHPAD(ローンチパッド)」で昨年優勝を果たした、RENATUS ROBOTICS株式会社COO(最高執行責任者)であり、TRUST SMITH & CAPITAL代表でもある安藤奨馬氏だ。

 IVS LAUNCHPADは、毎年全国から300社以上のスタートアップが応募する国内最大級のピッチコンテストだ。そこを勝ち抜くには、ただ「良いサービス・良いプロダクト」を持っているだけでは勝てない。課題設定、ストーリーテリング、演出、そして何より“共感”を生む力が問われる。

 ピッチとは、数字を語るだけの場ではない。6分間という制限のなかで、世界をどう変えるのか、そのビジョンをいかに“物語”として提示できるか。安藤氏はその6分間で、観客と審査員の心をつかみ、そして自身の人生を変えた。

目次

京都大学からスタートアップの世界へ——「技術」と「事業」の接点を探して

 安藤氏のキャリアは、京都大学在学中に始まった。学生時代から複数の事業を立ち上げ、それらを売却(M&A)したり、先輩に引き継いだりと、実践的なビジネス経験を積んできた。

「当時は、起業というより、面白そうなことをどんどんやってみようという気持ちでした」

 大学卒業後、一度は就職の道を選ぶも、すぐに辞めてスタートアップの世界へ。本格的に活動を始めたのは、AIやロボット技術で知られる「TRUST SMITH」にジョインしたときだ。

 創業3カ月目の同社に飛び込んだ安藤氏は、文字通りゼロからの事業創造に携わった。AIアルゴリズムからロボット開発、PoC(概念実証)の立ち上げなど、多岐にわたる業務を経験。やがて、物流領域の現場で“解決すべきリアルな課題”と出会い、そこから誕生したのが、RENATUS ROBOTICSである。

「物流の完全無人化確定未来」——6分間のピッチに込めたビジョン

 安藤氏がIVS LAUNCHPADに登壇したのは2023年。約300社の応募のなかから本戦に選ばれ、6分間のピッチで優勝を掴み取った。

 彼がステージで掲げたのは、「物流の完全無人化確定未来」というメッセージ。この言葉は一見インパクト狙いに思えるが、裏には戦略がある。

 約300社の応募の中から本戦に選ばれた 彼は、ステージに上がる直前、何を考えていたのか。彼がステージで掲げたのは、「物流の完全無人化確定未来」という、一見すると大胆すぎるメッセージ。安藤氏は、いかにして観客と審査員の心を掴んだのか。その「6分間」の舞台裏には、緻密な戦略と、人を惹きつける”物語”の力が隠されていた 。

「“確定未来”という表現には、我々の狙う市場は必ず拡大する、という確信を込めました。未来予想ではなく、“必然”としての市場成長を投資家に伝えたかった」

 ピッチとは、プロダクトや収益モデルを説明するだけの時間ではない。聴衆の記憶に残るストーリーを描き、共感を呼ぶ“演出”が必要だ。

「僕の場合、ステージ全部を使って動いたり、発声やテンポにも気を配ったりしました。観客に“楽しんでもらう”ことを意識して、まるで短編映画のようにピッチを構成したんです」

 ピッチを“ショートムービー”と捉えるこの姿勢は、従来の起業家像とは一線を画している。そこにあるのは、数字とテクノロジーだけでなく、“人の心を動かす”という演劇的な要素だ。

ストーリーが共感を生み、共感が未来をつくる

「事業に可能性があるというのは大前提。そのうえで、共感を得られるピッチになっているかが重要です」

 安藤氏が繰り返し語ったのは、「共感」というキーワードだ。起業家は、社会や市場の課題を見つけ、解決するプロダクトをつくる。しかし、それだけでは投資家もユーザーも動かない。だからこそ、ストーリーが必要だ。

「僕自身、過去のLAUNCHPADのピッチもたくさん見ました。特に印象に残っているのは、2022年優勝のPETOKOTOさん。ペットの健康をテーマにした感情的なストーリー展開と、プロダクトのデモが非常にうまく噛み合っていました」

 観客の心に火を灯すピッチは、必ずしも数字の裏付けが強いだけではない。むしろ、課題と向き合い、社会をどう変えたいのかという“想い”が、言葉に宿るかどうかが鍵を握る。

 LAUNCHPAD優勝後、安藤氏とRENATUS ROBOTICSには、いくつもの変化が訪れた。なかでも大きかったのが、社内の空気だ。

「“優勝した会社”という事実が、エンジニアたちの意識を変えました。この会社でなら、未来がある。そう思ってもらえることが、モチベーションに直結しています」

 外部の変化も顕著だ。採用活動では応募者の質が高まり、資金調達では「すぐにラウンドが決まった」という。

「もちろん、ピッチで優勝したからといって売上が上がるわけではない。事業の本質的成長とは別の話です。ただ、注目度が上がることで、信頼が得やすくなったのは確かです」

「人生が変わる出会いがある」——IVSという場の力

 安藤氏は今、投資家としても複数のスタートアップに関わっている。その立場から見ても、IVSは「人生の分岐点」と言える場所だという。

「IVSでは、たくさんの出会いが生まれます。共同創業者と出会う人もいれば、10年続く投資家と出会う人もいる。採用につながることもあるし、自分の考えていた事業の方向性が大きく変わることもある」

 特に期待しているのは、「Startup Market 300」という出展型の企画だという。安藤氏自身の投資先も複数出展予定で、「そこでどんな化学反応が起こるか楽しみ」と語る。

 今年のIVSでは、従来のメインステージに加えて、「AI」「エンターテインメント」「ディープテック」「グローバル」「ジャパン」「シード」「グロース」という7つのテーマに分けたテーマゾーンの設置など、より多様な取り組みが展開されている。出会いが生まれやすい設計も随所に盛り込まれており、「スタートアップの交差点」としての進化を感じさせる。

「起業家が不幸になるようなEXIT(出口戦略)は見たくない」

 投資家としての顔も持つ安藤氏だが、その投資姿勢は極めて起業家目線に立っている。契約条件や資本政策においても、“共に歩む姿勢”を大事にしている。

「起業家は、お客さんや市場と向き合うことに集中すべき。投資家の顔色をうかがって動くべきではない。だからこそ、僕自身が正直に向き合うし、寄り添う姿勢を持ち続けています」

 スタートアップは孤独な戦いになりやすい。だからこそ、「一緒に戦ってくれる投資家」の存在が重要になる。

「冷戦みたいな関係では、何も育たない。お互いに悪いことも率直に言えるような関係性が理想ですね」

 最後に、これから起業を考える人や、IVSに参加を検討している人に向けて、こうアドバイスを送る。

「起業っていうのは、あくまで人生の中の選択肢の一つです。数字を追うとか、評価されるとか、そういうことにばかり目がいくと苦しくなる。でも、自分自身を幸せにするための手段だと思えば、のびのびと取り組める。IVSに関しては、まずは“行ってみる”ことが大事。仮説を持って参加すれば、必ず何かを持ち帰れる3日間になるはずです」

 IVS LAUNCHPADとは、6分で世界を動かす舞台だ。だが、その裏には、何年にも及ぶ準備や試行錯誤、社会課題への真摯な向き合いがある。登壇者の一言ひとことに、彼らの人生とビジョンが詰まっている。

 安藤奨馬氏が体現したのは、ただの「ピッチ勝者」ではない。“事業”と“表現”を統合し、社会に問いを投げかける、新しい起業家の姿だ。

 IVS2025のLAUNCHPADには、また新たな挑戦者たちが集う。次に6分で人生を変えるのは、あなたかもしれない。

(文=UNICORN JPOURNAL編集部)

大規模排出源、宇宙から特定=温室ガス削減対策に活用―観測衛星

 H2Aロケットに搭載される温室効果ガスの観測衛星「GOSAT―GW」は、地上では全容把握が難しい大規模な排出源を宇宙から特定する能力を備える。国立環境研究所(国環研)の谷本浩志・地球システム領域長は「発電所や工場からの排出を直接捉えることができ、温室ガス削減対策に役立つ」と期待を寄せる。

 今回の衛星は、人工衛星「いぶき」の1、2号機に続く3号機に当たる。温室ガスの約9割を占める二酸化炭素(CO2)とメタンの濃度を測定するだけでなく、化石燃料を燃やす際に生じる二酸化窒素も同時に観測することができる。これまで国単位が限界だった排出量の把握も都市単位で可能になる。

 得られた高精度の観測データは国環研が解析し、国内外に無償で提供する。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、締約国に2年ごとに温室ガス排出量を報告する義務を課しており、政府は各国にデータの活用を促していく考えだ。谷本氏は「CO2の削減が待ったなしという状況で日本が先駆けて(衛星を)打ち上げることには非常に大きな意義がある」と強調する。

 11月にはブラジルで国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)が開かれる予定。政府は、技術的、資金的な制約がある途上国の排出量推計を支援しており、会議の場などを通じて、衛星データを用いた算定手法の国際標準化も目指す。(了)
(記事提供元=時事通信社)
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