──小布施GO、未来を誰と、どうつくりますか?

dentsu Japan(国内電通グループ)は、重点領域を切り開く事例創出を担う役職として、グロースオフィサー(GO/特任執行役員)を設置しており、2025年度には、各領域から7人が選出されています。本連載では、電通が掲げる「真の Integrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)」を体現するGOたちの、未来に向けての視点と思考に迫ります。

第1回に登場するのは、小布施典孝GO。Future Creative Center(フューチャー・クリエイティブ・センター)のセンター長も務める小布施GOが注力する「未来づくり」の仕事とは。そして、理想とする「一人一人が創造性を発揮できる社会」とは。

小布施典孝(こぶせ のりたか)
小布施典孝(こぶせ のりたか) dentsu Japan グロースオフィサー(特任執行役員)/電通 Future Creative Centerセンター長。さまざまな企業とのマーケティング/プロモーション/クリエイティブ領域でのプロジェクトに関わり、2020年、未来価値創造を支援するFuture Creative Centerのセンター長に就任。経営の打ち手のグランドデザイン、ビジョン策定、シンボリックアクション開発や、企業や事業の価値向上につながるブランディングやコミュニケーションを手掛ける。カンヌライオンズ2023金賞銀賞銅賞、ACC2024金賞銀賞銅賞、日本マーケティング大賞2024グランプリ受賞。その他、国内外の受賞多数

 

「未来づくり」という仕事

──小布施さんは、グロースオフィサーであるとともに、クリエイター100人が在籍するFuture Creative Centerのセンター長でもあります。最近はどのような仕事やプロジェクトに取り組んでいますか。

小布施:広告の仕事ももちろん多いのですが、最近は「未来づくり」とでも呼ぶべき仕事が増えています。例えば、「これからの日本のロールモデルになるような街をつくりたい」「日本の教育を変えるにはどうすればいいのか」「新しい旅の提案をしたいのだけれど、どうすればいいか」といった相談から、「スポーツ界に新しいヒーローを生み出したいが、どうすればいいと思う?」といった相談まで、大きな意思はあるのだけれど、どう仕掛けていけばいいのかまだわからないという段階から相談を受けるケースが増えています。

──そうした相談は、どのような企業や人から寄せられるのですか。

小布施:大企業やスタートアップの経営層の皆さんや、スポーツ選手やアーティストや有識者の方など、幅広くさまざまな方からの相談にのらせてもらっています。共通しているのは「未来を変えたい」という強い思いを持った人たちであることだと思います。彼ら・彼女らの野望に、僕たちは並走していると言ってもよいかもしれません。

──企業の経営層からも、そうした相談が増えているのは、なぜなのでしょうか。

小布施:企業の経営層の方々と話をしていると、課題解決型の発想にちょっと疲れているというか、そうではないアプローチを欲しているのではないかと感じることがあります。

会社や組織の中に課題を見つけようとすると、いくらでもあるのが普通なので、その課題を一つ一つつぶしていっても、マイナスがゼロにはなるけれど、ゼロがなかなかプラスになっていかない――そういった悩みを抱えている経営層が多いように感じます。そうした背景から、課題解決型の発想法とは別に、「ありたき未来にむけて何をするといいのだろうか」という未来創造の視点から、相談をしてくださる方が増えている実感があります。

──個々人の強い思いや未来創造の視点がプロジェクトの出発点となるのですね。

小布施:はい。数年前に視察に行った世界的に有名なデンマークのビジネススクールでは、これから自分が手掛けていく活動を、自分の内発的動機と結びつけ、自分の言葉で語ることを大切にしていました。それを「クリアボイス」と呼んでいて、クリアボイスを持っているからこそ、さまざまなステークホルダーを、そして世の中を動かすことができる。そうした考え方をしていました。

実際、デンマークは世界競争力ランキングで世界1位でありながら、幸福度ランキングでも世界2位。このように強さと幸せを両立できているのは、一人一人がやらされているのではなく、意思をもって主体的に仕掛けている、ということが秘訣なのではないかと思いました。

正解のない時代になればなるほど、これまでの経験が通用しません。何が正しいのかわからないからこそ、むしろ自分の手で正しくしていくんだ、という姿勢こそが重要で、とすると、それほどの情熱を注げることは何なのか、そもそも自分たちや自社のモチベーションの源は何なのか、その内なる意思との対話から、未来に向けての企画が生まれてくる時代になってきているのでは、と考えています。

インタビューに答える小布施GO


「プレゼンテーション」から「クリエイティブセッション」へ

──「未来づくり」の仕事の事例を教えてください。

小布施:北海道ボールパークFビレッジ(エスコンフィールドHOKKAIDO)の開発プロジェクトの仕事は、完成したスタジアムを宣伝する広告の仕事ではなく、どんなスタジアムにするのか、どんな街にするのか、どんな体験ができるようにするのか、そうした未来を構想するところから、ファイターズの皆さんと並走させていただいたプロジェクトでした。

新しいスタジアムをつくるにあたって、あるべき体験のかたち、施設のかたち、あるいは「北海道にできるスタジアム」として他の観光地やテーマパークとどう差別化するか、そして完成後も持続的に発展するためにどうすればよいのかなどを、ファイターズの皆さんと何度も議論させていただきました。まさに、広告の手前の、「未来づくり」から関わらせてもらった仕事だと思います。

プロジェクト当初の現地の様子。そこにはまだ何もなかった。
プロジェクト当初の現地の様子。そこにはまだ何もなかった
個々人が活発にアイデアを出し合ったファイターズの皆さんとのセッションの様子。
個々人が活発にアイデアを出し合ったファイターズの皆さんとのセッションの様子
完成した北海道ボールパークFビレッジ。
完成した北海道ボールパークFビレッジ。球場、サウナや温泉、宿泊施設、レストラン、アウトドアアクティビティ施設など、子どもから大人まで誰もが楽しめる
未来の設計図としてプロジェクト初期に作成したビジョンブックの一部。
未来の設計図としてプロジェクト初期に作成したビジョンブックの一部。実現したアイデアの多くがここにある


──「未来づくり」の仕事の進め方は、広告の仕事とどう違うのですか。

小布施:広告の仕事は、クライアントから「ブリーフシート」をいただいて、それに沿って企画を考えて、「プレゼンテーション」という形で提案をするのが、これまでの慣習でした。これは、依頼者と提案者をしっかりとわける方法論ですよね。

けれども、「未来づくり」の仕事というのは、広告表現制作とは違う、もっと手前の領域なので、輪郭がぼんやりしているところから始まることが多いです。だから、依頼と提案を明確に線引きすることが難しい。なので、その場で問いと答えをいったりきたりする、概念と具体をいったりきたりする、意思と合理をいったりきたりする、そうした往復運動を一緒に行っていく中で、未来に向けての企画を練り上げていくという仕事の進め方になってきています。

ということは、その一緒に考える場のクオリティが、そのまま企画のクオリティになってくる、ということなので、いわゆる普通のワークショップとはまたちょっと違う、「クリエイティブセッション」という独自の方法論を磨いています。つくり方をつくる挑戦です。

──クリエイティブセッションについて、もう少し詳しく教えてください。

小布施:よくある普通のワークショップは、面倒くさいわりに、あまりいい企画が生まれないイメージがありませんか? 企画を出し合って、グルーピングして、ポストイットを貼って、多数決で決めて……これだと結局、企画がはじめに出している企画以上のものになっていない、という問題を抱えていると思うのです。

ですから、僕らが行っているクリエイティブセッションは、参加者みんなで対話をしながら、アイデアを「重ねていく」ことを重視しています。みんなで重ねていくことで、一人では到達しなかった高みに企画を昇華させていくというやり方です。

そのためにも、まずはそのセッション自体を、即興舞台芸術の場だと捉えるところから始めます。その時、その場所、そのメンバー、その空気の中からしか生まれない企画をつくっていく――そうした場の捉え方です。

企業秘密でもあるので、それ以上のことはあまり言えないのですが、体験された方はみなさん、良いのか悪いのかわかりませんが、「楽しかった!」と、熱量高く言ってくださいます(笑)。でも、それはとても大切なことで、緊張感漂う、ピリッと張り詰めた空気の会議室の中からは、未来に向けてのワクワクする企画は生まれてこないと思うんです。最近は会議室から離れるために、固定観念を取り除いたり、発想のストレッチをしたりするのに適した小旅行を組み合わせたプログラムも実施しています。

とある企業とのフィールドワーク。
とある企業とのフィールドワーク。地域の現場で実際に起きていることを体感しながら、未来への打ち手を考える
会議には大きく2つのパターンがある。
会議には大きく2つのパターンがある。経営層になればなるほど、ジャッジが求められる会議が増えていく

──クライアントに企画を提案するのではなく、クライアントと一緒に企画を生み出すのですね。

小布施:はい。経営企画、事業企画、商品企画、人事企画、アクション企画……「企画」という言葉がついた領域は多くありますが、企画のつくり方を習う機会は意外とないのではないでしょうか。先日も、経営者の方が「うちの経営企画は、経営整理にとどまっているかもしれない」とおっしゃっていて、下から上がってきた数字をまとめているだけで、未来に向けての打ち手を企画できていないかもしれない、と危機感を持たれていました。なので、僕たちがやっていることは、クリエイティブセッションを通して、皆さんと一緒にやりたいことを出し合い、みんなでアイデアを重ね、そこに僕たちのクリエイティビティを掛け合わせて、未来に向けての企画をつくりあげていくことなんだと思っています。

そして、もう一つポイントだと思っているのが、この場を通じてできあがった企画は、「電通さんから提案してもらった企画」ではなく、「自分たちが生み出した企画」になっていくことなんです。自分たちの内側から生まれたものだからこそ、そこに愛情がのってくる。この企画を実現させたい、そのためにプロジェクトを前に進めたい、そうしたモチベーションが大きくなり、クライアントさんの社内での大きなうねりになっていきます。そう考えると、もしかしたら「企画は広告会社だけでつくるもの」という考え方自体が、もはや古いのかもしれません。関わる人みんなでつくることで、大きな求心力を持つのではないかと感じています。

ロッテの皆さんとのクリエイティブセッションの様子
ロッテの皆さんとのクリエイティブセッションの様子。「みなさんは、答えを持ってくるのではなく、ともに答えを生み出してくれる人たちなんですね」という声をもらうという
「ヘラルボニー」の未来に向けてのブランディング&アクションも支援している。
2025年6月にカンヌライオンズで金賞を受賞したスタートアップ「ヘラルボニー」の未来に向けてのブランディング&アクションも支援している

──みんなの気持ちを一つにするクリエイティブセッションは、企業の中から変革を起こすための手法にもなりそうですね。

小布施:そう思います。クリエイティブセッションは、社長と役員の皆さまとで行うことが多いのですが、「実は、会社の未来について、こうした形でみんなと考える機会はなかった」という感想をいただくことが多いです。おそらくその背景にあるのは、多くの企業にまん延している「課題分割病」なのでは、とにらんでいます。企業が直面している課題を細分化して、役員に振ることによって、役員の方々が自分の担務領域の視点しか持てなくなる。故に、組織がどんどん縦割りになる。タスクと数値目標だけが現場に振られ、こなす仕事が生まれていく。結果、「未来をこうしたい!」というWILL(意志)がない状態になってしまう。もしこういう状態が会社の中で起きている場合には、その企業の「未来のありたき姿と打ち手」を、みんなで「統合的に構想」し、変革の種火を生み出すクリエイティブセッションというものは、大きな意味を持つ、と思っています。

企業は意図せず分断化していってしまう
課題を分割し、各担当役員にタスクを割り振っていくことで、企業は意図せず分断化していってしまう
日経新聞主催のWell-being Initiativeもプランニングプロデュースしている
業種や業界の垣根を超えて、さまざまな企業と経営者とともに、Well-being(ウェルビーイング)な社会をつくるための打ち手を考える日経新聞主催のWell-being Initiativeもプランニングプロデュースしている
JALの未来に向けての打ち手を可視化したFUTURE MAP
JALの未来に向けての打ち手を可視化したFUTURE MAP


──最近は、このようなクリエイティブセッションの仕事が多いのでしょうか。

小布施:そうですね。このクリエイティブセッションを起点にして、企業価値向上にむけてのブランディング・コミュニケーションであったり、アクションやエクスペリエンス開発、インナーアクティベーションのプロジェクトへと進んでいくことが多いです。やっぱり最終的なアウトプットに関わっているからこそ、人の心を打つにはどうすればいいのか、人の心を動かすってどういうことなんだろう、ということへの肌感覚を常に磨き続けることができると思っていますし、その感覚をもって抽象的な議論ができる、というのは強みになっていると思っています。


一人一人が創造性を発揮できる社会へ

──今、注視している社会の変化や課題はありますか。

小布施:一緒に仕事をしているチームのみんなとは、社会全体が効率化や合理化の方向に進みすぎていて、人間の創造性が失われつつあるのではないか、という話をよくしています。物事を効率的に進める「システム化」は、正しいことである一方で、そこに関わる人の楽しさを奪い、新しい発想を妨げるものになってしまうと良くないですよね。もっと一人一人が主体性を持って、創造力を生かせるような社会をつくっていけないか。そうすれば、そこで暮らす一人一人が、もっともっとWell-being(ウェルビーイング)でいられる未来になるのではないか、そう考えています。

──「創造力を生かせる社会」とのことですが、創造力やクリエイティビティをどのようなものと捉えていますか。

小布施:僕は、「クリエイティビティ」とは「画一性」の対極にあるものだと思っています。画一的な世界はイメージでいうなら、なんだろう……例えば最近、駅に降り立った時に街の風景がどこも同じに見えるんですが、そのイメージに近い感じでしょうか。あらがえない大きなシステムの一部に人間が組み込まれてしまって個性を発揮できないでいる状態――そうした状態を変え、一人一人が意志を発露できる社会をつくることができたら、それこそが「創造力を生かせる社会」なのではないかな、と考えています。

クリエイターというと何か特別な能力を持ってアイデアや表現を生み出す人のことを指すと思いがちですが、これからの時代は、「こんな未来をつくりたい!」「こんな社会をつくりたい!」というクリアボイスを持って、主体的に生きていく人全員がクリエイターなのではないかなと思っています。だから、僕たちは意志ある経営層の方々もクリエイターだと捉えていますし、もっと言うと、子どもたちなんてもう根っからのクリエイターですよね。

余談になりますが、僕は仕事とは別に私的な活動として、園児や小学生に「企画する楽しさ」を体験してもらうプログラム「きかくのがっこう」を定期的にサポートしています。そこで印象的なのは、「あ、ひらめいた!」というアイデアが降ってきた瞬間に、子どもたちの目が、急にキランと輝き始めるマジックモーメントがあることなんです。そうすると、そこから急に子どもたちは夢中になって紙にアイデアを書き、絵を描き、自分の思いついたことを思い思いに表現するんです。アイデアが降ってきたのをきっかけに、前に進もうとする力が湧き出すんですね。

「きかくのがっこう」の様子
「きかくのがっこう」の様子。自分で考えたアイデアを説明する子どもたちの目は輝いていた

実はクリエイティブセッションをしている時の経営層の方々も同じなんです。アイデアが降りてきた瞬間に目がキランと輝いて、「やりたい、やろうよ!」と、どんどんと前のめりになっていく。そうした経営者や子どもたちの目がキランと輝く瞬間に何度も出合ううちに、そういうマジックモーメントを創造することこそが、企画をつくるということの本質なのではないか、と思うようになりました。

──最後に、「未来づくり」や「創造力を生かせる社会」といった取り組みを踏まえて、今後のご自身のグロースオフィサーとしての役割をどう考えていますか。

小布施:電通はまさに今、広告会社から次のフェーズへと飛躍しようとしています。僕がイメージするこれからの電通は、広告にとどまらず、世界をこう変えたい、と思っている方々の「未来づくり」に伴走していく会社です。僕らのチームが持っている、構想化、言語化、可視化、物語化、体験化という日本トップレベルのクリエイティビティとプロデュース力を、いろんな方々の思いと掛け合わせることで、世の中に大きなうねりを生み出していく。それが、より良い未来をつくることにつながっていけたら、とても意義のあることですよね。そうした未来づくりのためのたくさんの仲間を作っていくことが、自分のグロースオフィサーとしての使命なのかなと考えています。

小布施孝典GO

クリエイティブセッションを通して、人々のクリアボイスを引き出し、未来をつくる。広告制作とは全く違うアプローチで広告会社の新たな可能性を示す小布施GOの思考と視点は、独創的かつ刺激的です。そんな小布施GOご本人のクリアボイスを伺ったところ、いろいろな企画の始まりになっている企画書をずらっと展示する「企画書博物館」をつくり、そこの館長になることだそう。そう語る小布施GOの目はキランと光っていました。

 

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水上太陽光発電、普及の兆し…適地は海など無限大、森林伐採も不要、課題は発電コストの低減

●この記事のポイント
・再生可能エネルギーの一つとして水上太陽光発電の導入が進みつつある
・陸上と異なり森林伐採などの造成が必要ないため環境負荷も低い
・陸上での太陽光発電に比べると若干コストがかかってしまうというハードル

 国内で陸上の太陽光発電設備の適地が少なくなるなか、再生可能エネルギーの一つとして水上太陽光発電の導入が進みつつある。現時点で導入実績は陸上と比べるとまだ少ないものの、農業用ため池、遊水池、工業用水池、貯水池、将来的には、湖、河川、海洋など適用範囲は広く、陸上と異なり森林伐採などの造成が必要ないため環境負荷も低いとされる。一方、設置・維持コストの高さなどがネックとされるが、水上太陽光発電の特徴や優位性、そして普及の可能性などについて、事業者への取材を交えて追ってみたい。

●目次

水上太陽光発電の強み

 水上太陽光発電が陸上での太陽光発電と異なる点は何か。事業を手掛ける三井住友建設 再生可能エネルギー推進部は次のように説明する。

「一番大きな違いは、やはり環境負荷が低い工法だという点です。陸上の場合、山を削ったり森林を伐採したり造成する必要がある一方、水上太陽光発電の場合はそうした行為をすることなく設置できます。また、水の上に浮かべると冷却効果で太陽光パネルが熱くなりすぎないので、発電効率が良いのも強みです。国内では太陽光発電を行える適地が限られつつあるなか、水上はまだまだポテンシャルが大きいというのも利点です」

 このほか、同社によれば水上太陽光発電の強みとしては以下があげられる。

・水面の有効利用
 これまで使用されていなかった池や貯水池に、新たな太陽光発電設備を設置して水面を有効活用できる(新たな賃借料や利用料収入)。

・適用範囲
 農業用ため池、調整池、遊水池、工業用水池、貯水池、湖、海洋、河川など、さまざまな水源に導入可能。

・影の影響
 地上設置に比べて周辺植物の成長による日照への影響が少ないため、ロスのない発電が望める。

・優れた施工性
 人力で組立可能で、陸上への設置と比較して、施工性に優れている。工事に際して、粉じん等、騒音・振動の影響が小さい。

・遮光の効果
 フロートで水面を覆うことで、遮熱による水温上昇の抑制や、遮光による水の蒸発や藻の発生を抑制することが期待できる。

・レジリエンス
 監視カメラ、風向風速計を標準設置し、水位計や水温計を追加設置することで、災害時等のため池遠隔監視が可能となる。

需要家は毎月の電気代のみを負担

 三井住友建設は2014年に自社独自の水上太陽光発電用フロートシステムを開発し、事業をスタート。これまで自社の発電所として、合計14.4メガWの実績を持っており、水上太陽光発電の肝になるフロートシステムの開発から販売までの経験・実績を持っているのが同社の強みだ。

「現在はフロート販売事業は行っておらず、軸足を切り替えて、自社製フロートに拘らず、他社製フロートも積極的に採用し、発電事業に重きを置いて取り組んでおります。弊社は建設会社ですので、風洞実験や強度試験が可能な施設や設計部門を持っており、総合的なエンジニアリング力を活かして取り組むことができるというのが大きな強みだと考えております」(三井住友建設 再生可能エネルギー推進部)

 ビジネスモデルはどうなっているのか。契約の形態としては、需要家の近接水面を活用して自営線で直接給電する「オンサイト型PPA」と、系統線により送電する「オフサイト型PPA」の2種類がある。前者は、需要家と三井住友建設がPPA契約を締結し、同社が電力を供給する。後者は、需要家は小売電力事業者と電力供給契約を結び、三井住友建設は小売電力事業者とPPA契約を結ぶ。需要家は毎月、電気料金を支払う。

「これまでは固定価格買取制度(FIT)に基づき発電した電力を電力会社に販売するというビジネスでしたが、FIT制度の終了に伴い、現在はPPAのスキームを活用した売電事業に注力しております。水上で発電する場所と売電先をセットで探すということが開発のポイントです。

 PPAの場合、需要家様は発電用フロートシステム導入時の初期費用、メンテナンス費用、撤去費用の負担なしでご利用いただけ、毎月の電気代のみをお支払いいただくかたちとなっております。発電した電気をkwh単位の金額で契約させていただくかたちです」

 気になるのは電気料金だ。初期費用やメンテナンス費用が発生しないとなると、その分、電気料金が上がり大手電力会社の料金より高くなってしまうのではないか。

「現時点では、補助金に頼らざるを得ないのが現状ですが、国からの補助金も活用し、大手電力会社と同等くらいの価格でご提案させていただいております。やはり再生エネ由来の電源という点に価値を見いだしていただけるお客様に契約をしていただいております」(同)

自治体・行政の動きも普及のカギ

 では今後の普及に向けては、どのような点がカギとなってくるのか。

「国や行政、民間企業にもっと『水上太陽光発電』のメリットを認知してもらう必要があると思っています。そのため、今年度から水上太陽光発電に関わる数社でワーキンググループをつくり、水上太陽光発電のPR、補助金等の支援の働きかけ等の取り組みも開始しています。

 また、コストを考えると農業用のため池や水深が深くない貯水池などが向いているといえますが、弊社は洋上等での適地拡大を狙って取り組んでいるところです。海というのは無限にポテンシャルがあり、使い方によっては適地拡大となって太陽光発電の導入を一気に拡大させる可能性も持っています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

上半期の訪日客、最速2000万人超え=4~6月消費額18%増

 日本政府観光局が16日発表した2025年上半期(1~6月)の訪日外国人数(推計値)は2151万8100人と、過去最も速いペースで年間2000万人を超えた。春節(旧正月)や桜の開花時期に中国などからの観光客が増え、前年の上半期に比べて21.0%増加した。一方、観光庁によると、4~6月期の訪日外国人旅行消費額(速報値)は前年同期比18.0%増の2兆5250億円だった。

 6月単月の訪日外国人数は前年同月比7.6%増の337万7800人と、6月として過去最多を更新した。夏休みシーズン前で例年は比較的旅行者数が落ち着く時期だが、東南アジアや欧米から学校の休暇に合わせた来日が増えた。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/07/16-16:17)

Lenovoのスタートアップ支援が産業の創出をサポートする——創業と成長を支える伴走力とは

●この記事のポイント
・レノボ・ジャパンがスタートアップに向けて展開する「Lenovo for start-ups」は、創業者の多くが悩むポイントに寄り添うサービスである。
・単にパソコンを貸し出すのではなく、ハードウェア支援を通じてスタートアップエコシステムに寄与するものであるという。

 世界を変える技術や、これまでにないアイデア。そんなプロダクトの根幹になる部分にすべての時間を使いたい——。これはスタートアップ創業者やメンバーの誰もが感じることではないでしょうか。
 しかし、スタートアップには、パソコンのセットアップやセキュリティ設定、キャッシュフローへの不安など、本業とは違う部分で予想以上に多くの課題があるのです。

 そんなスタートアップの“痛点”を、ハードウェアの側面から根こそぎ支援するのがレノボ・ジャパンの「Lenovo for start-ups」。
 なぜ、ハードウェア支援が必要なのか、グローバル企業であるLenovoが日本でサービスをスタートしたのはなぜか。
 レノボ・ジャパンの中田 竜太郎氏に、日本企業のスタートアップの課題と可能性にアプローチする、Lenovoの“伴走力”の根源をお聞きしました。

目次

スタートアップのハードウェア支援、なぜ必要?

——Lenovo for start-upsの概要について教えてください。

 Lenovo for start-upsは、スタートアップ企業に対してハードウェアの観点からサポートするサブスクリプションサービスです。
 スタートアップにおいてよくある、コーポレートITにかける時間のせいで本業に十分なリソース注入が困難になる、そもそもコーポレートITの整備が手薄になってしまう、という課題にアプローチしています。

 内容としてはおもに、

●創業初期に必要な情報を提供する「ナレッジインジェクション」
●デバイスを業務に応じてセレクトして特別価格で提供する「スペシャルオファー」
●法人として必要なセットアップやセキュリティ設定を1台から対応する「セットアップサービス」

 この3つです。

——この3つのポイントからアプローチすることが重要だと考える理由はなんでしょうか?

 現在、スタートアップにかかわらず、事業においてコンピューティングパワーを活用することは必須になっています。しかし、多くの企業が「法人としてコンピューターを使うとはどういうことか」「どんなスペックを持ったデバイスが必要なのか」「企業特有の機密データはどう扱わねばならないのか」ということを理解していません。

 パソコンを買ってただ仕事するだけでは、法人として事業活動が立ち行かなくなる可能性があることを知らないのです。
 まず事業を行うにはどんな知識やアクションが必要なのかを知ってもらうことにアプローチするのが、「ナレッジインジェクション」ですね。

「スペシャルオファー」は、本サービスの中核の1つですが、おもにスタートアップにおけるキャッシュフローの課題にアプローチしています。
 創業間もない企業は利益がない、または赤字という場合もあります。そういった企業にとって、数十万、場合によっては百万を超えるキャッシュアウトでメンバーのパソコンをすべて購入することは非常にハードルが高いのです。
 Lenovo for start-upsは、月額料金でパソコンを使用できることで、キャッシュアウトを抑えることができます。これは、パートタイムで稼動するメンバーが多いスタートアップ企業においても非常に有効です。

——パソコンのスペックに関する相談も可能なのでしょうか?

 もちろんです。業務内容をお聞きして、それに応じた必要なスペックのデバイスを提供します。
 たとえば、データ入力や資料作成が中心の場合、ハイスペックのパソコンを高額で支給する必要はありません。適切なデバイスを選択することで、コストも最適化できます。

 3つ目の「セットアップサービス」は、パソコンを箱から出して電源を入れたらすぐに事業活動が開始できるよう、セットアップを済ませた状態でお渡しするサービスです。これは、スタートアップ企業のコーポレートITの脆弱さにアプローチしています。
 実際に事業活動を始める前に、ドメインやセキュリティの設定など、本業にはかかわらない作業が多く発生するため、多くの創業者がすぐに本業にリソースを100%投下できないというのが現状です。
 Lenovo for start-upsは初期設定がすべて完了している状態でお渡しするので、最初から貴重なリソースを本業に使うことができます。

セキュリティへの対応不足が成長を阻害する!?

——ハードウェアのレンタルやリースを行う事業は多くあると思いますが、そういった事業とLenovo for start-upsが異なる部分を教えてください。

 違いは、大きく2つあると思っています。

 1つ目が、サポートを含めたサブスクリプションサービスである、という点です。
 サブスクリプションは、仕組みとして金融サービスに近いため、本来は収益に不安が大きく、与信が低いスタートアップ企業は本来利用しづらいサービスなのです。そういったサービスが使えない以上、大きな出費を背負ってパソコンを購入するという選択を取るしかなくなり、キャッシュフローに追われてしまうという悪循環になりかねません。

——レンタルなどの場合、キャッシュフローの課題は解決されないのでしょうか?

 レンタルは長期的に利用する仕組みになっておらず、1週間や1カ月単位での貸し出しが多いため、結果的に高額になってしまいます。購入のほうがコストパフォーマンスがよい、という場合が多いのです。

 また、レンタルや購入では、十分なサポートが受けられないケースもあります。
 Lenovoでは、Lenovo for start-upsを単なるデバイスを貸し出すというハードウェアのサブスクリプションではなく、サポートも含めて「機能としてのデバイス」をサブスクリプションとして提供している、と考えています。
 故障した場合の保守やデバイス紛失時のログ追跡など、サポートも含めて長期的に使っていただくことを想定しているため、価格を抑えることができているのです。

——2つ目のポイントはなんでしょうか?

 2つ目は、セットアップの段階で、「法人としてのベーシックレベル」をクリアしたセキュリティ設定をサービスのなかで提供させていただくという点です。
 これは、「事業を行うにおいて知っておくべきこと」をあまり知らない、という先の話に似た部分ですが、「最低限、セキュリティに抜け漏れがない状態」を自信を持って示すことができる企業は多くありません。Lenovo for start-upsでは、そういった企業におけるセキュリティの弱みを、最初の段階でカバーします。
 もちろん、セキュリティはデバイス対応のみで完結するものではなく、“絶対的な安全”は存在しませんが、まずはデバイスなどのハードウェア面におけるセキュリティに不安がない状態を提供している、ということですね。

 セキュリティ設定がしっかりなされていないことで生じるリスクは、日常における情報漏えいなどだけではありません。企業の成長期において、共同研究開発などの取引やIPOの可能性が発生した場合、セキュリティ設定を含むコーポレートITに大きくテコ入れが必要になってしまいます。場合によっては、大きな機会損失にもなりかねません。

日本のエコシステムに欠けているハードウェア分野

——Lenovo for start-upsは、各国で提供されているサービスなのでしょうか?

 いえ、Lenovo for start-upsは日本だけのサービスですね。Lenovo Japan独自のサービスなので、海外展開はしていません。

——何か、日本においてハードウェアのサブスクリプションサービスが必要な事情があるのでしょうか?

 Lenovo for start-upsはすべての国のスタートアップ企業にとって有益なサービスだと考えていますし、日本においてだけ必要なサービスであるとは考えていません。
 ただ、日本にはスタートアップ支援を行うプロフェッショナルが少なく、コーポレートITやハードウェアについて知識を持ってアドバイスできる人物がかなり限られています。スタートアップ支援者が、支援を本業としている人材ではなく、自身も事業を行う傍らで支援を行っているため、支援が限定的になってしまうのです。
 また投資家も、投資の目的が、「技術などを持っているスタートアップとのコネクション」であることが多いため、ハードウェアやセキュリティを含むコーポレートIT周辺の不十分さをあまり問題としないケースが見られます。

——海外ではどのような形態でスタートアップ支援が行われているのですか?

 たとえば、アメリカでは「アクセラレーター」と呼ばれるスタートアップ支援のプロフェッショナルが企業に常駐して支援を行います。それぞれの得意分野に特化した集団であることが多いため、当然、ハードウェアを含むコーポレートITに関しての支援に長けている人物もいるのですよね。
 投資家も、投資の目的を「企業の成長によるリターン」に置いているため、成長段階におけるコーポレートITの脆弱さがどのようなデメリットをもたらすか理解しています。投資家側にも、コーポレートIT支援のプロフェッショナルを連携する体制が整っているのです。

 日本のスタートアップエコシステムにおいて支援が十分ではない部分に対して、Lenovoができることがハードウェアを通じたコーポレートIT周辺での機能やサポートの提供だった、ということが、まず日本においてLenovo for start-upsがスタートするに至ったロジックですね。

「日本の勝ち筋」を強固に信じてサポートする

——今後、海外へのサービス展開や、サービス内容の拡張の予定はありますか?

 Lenovo for start-upsは立ち上げて間もないサービスですが、今後、台湾や韓国などへの展開もしていければと考えています。

 また、より高いコンピューティングパワーを必要とする領域についても、サービス提供を広げていきたいですね。
 CADを利用した設計や生成AIの利用など、高度な技術力や計算能力を必要とする分野では、GPUなどが高性能なハードウェアが求められます。
 現状、Lenovo for Start-upsでのサブスクリプションではありませんが、GPUやCPUなどをカスタマイズしたハイエンドワークステーションを、スタートアップ向けに特別価格で提供させていただくというサービスは今後も拡大していきたいと考えています。

——最後に、Lenovoが、Lenovo for start-upsのハードウェア支援を通じて実現したいことを教えてください。

 日本は他の国に比べて、プロダクトの提供付加価値が低いと考えています。これは、企業の平均営業利益率は欧州が11%、アメリカだと17%を超えるなか、日本は7〜8%と低迷していることからも見てとれます。
 高い付加価値を持ったプロダクトやサービス、ひいては産業が登場する土壌になり得るのがスタートアップです。我々の支援が、日本のスタートアップエコシステムや新たな産業の創出につながっていけばとよいですね。

 また、スタートアップを入り口としてこの取り組みを中小企業や研究機関などにも広げていければと思っています。
 中小企業のなかには、ただ正しいコンピューティングパワーへのアクセスを知らないだけで、条件さえ整えばグローバルで通用するようなきらりと光るものを持った企業があるのです。そういった企業にハードウェアの側面からアプローチして、産業成長の後押しに貢献できればと考えています。

 研究機関などに対するサポートはすでにスタートしており、大学の研究室や法人化前の任意団体もLenovo for start-upsの対象としています。
 これは、なかなか目先の収益化は難しいものの、必ず伸びていくであろうディープテックなどの分野に対して、日本の勝ち筋を見出しているから、ということも理由の1つです。
 世の中の難しい課題を解決するものはやはりテクノロジーです。日本は先端技術に関する論文の数や大学ランキングもまだまだ上位ですし、人口や高齢化など世界的な課題の面でも先をいっています。
 あらゆる条件がそろっているなか、その勝率を上げていくためのアプローチですね。

 スケールアップの可能性があるポイントに、くまなく提供していけるサービスに成長していきたいですし、これはグローバル視点を持ってハードウェア分野を磨いてきたLenovoだからこそできることだと感じています。

「やりたいことに、集中できる」
 そのシンプルな願いを、ハードウェアの側面から実現しようとしているのがLenovo for start-upsです。
 新たなものを生み出そうとするスタートアップ企業に寄り添う姿勢には、ハードウェア企業ならではのものづくりの情熱が表れているようにも感じられます。
 誰かのアイデアや技術が、ひとつでも多く形になるために。Lenovoの“伴走”は、これからの日本のスタートアップ企業にとって、心強い味方になっていきそうです。

※本稿はPR記事です。

【一次産業×脱炭素で地球を救う #1】売るのは「米」だけじゃない。環境価値が農家を変える — 水田クレジット最前線

気候変動対策と聞くと、多くの人が工場やエネルギー産業などの「二次産業」を思い浮かべるかもしれません。実際、CO2排出量を意識し、カーボンクレジットの購入や創出に積極的な企業も増えています。
しかし、地球温暖化に加えて「食」を取り巻く不安も高まるなか、農業や酪農などの「一次産業」もまた、脱炭素の担い手として注目されつつあります。

本連載【一次産業×脱炭素で地球を救う】では、これまで環境配慮とは縁遠いとされてきた一次産業の現場が、脱炭素というテーマとどう向き合っているのかを追っていきます。

第1回のテーマは、Green Carbon株式会社が導入を推進するネイチャーベースのカーボンクレジット「水田クレジット」。「農家の皆さまの幸せにつながることが、最も重要」と語るGreen Carbon社の吉見氏に、米農家が直面する課題と、水田クレジットがもたらす可能性を伺いました。

米農家が直面する、3つの大きな課題

日本の一次産業が多くの課題を抱えていることは、すでに多くの人が知るところです。なかでも米農家が直面しているのは、主に以下の3つです。

  • 後継者不足
  • 肥料・農薬の価格高騰
  • 米単価の不安定さ

吉見氏によれば、米農家の平均年齢は65歳以上。40代でも「若手」とされるほど高齢化が進み、担い手不足に悩まされています。新規就農への意欲があっても、例えば重機の購入など数千万円単位の初期投資が障壁となり、参入が難しいのが現状です。
さらに肥料や農薬は主に輸入に頼っているケースが多く、昨今の国際情勢の影響で価格が高騰。それが経営に直結する深刻な負担になっています。

そして、最近では米の単価も不安定。価格が上がれば利益は出やすくなりますが、一方で消費者の「米離れ」を招くリスクもあります。需要の減少が急激な価格下落を引き起こし、経営を圧迫する場合もあるのです。 生産者・消費者の両方にとって、適正価格が定まらない状況は大きなリスクです。

「もうひとつの収穫」──水田クレジットがもたらす新たな収益

こうした課題に対して、Green Carbon社が提案するのが「水田クレジット」です。
これは、水田の“中干し”期間を延ばすことでメタンの排出を抑制し、クレジットとして価値化する仕組み。

水田に水が張られて酸素が届かない状態では、嫌気性微生物が有機物を分解し、温室効果ガスのメタンを発生させます。中干し期間を過去2年の平均より7日延長することで、その期間分がクレジットの対象になります。延長による収穫への影響を懸念する声もありますが、リスクがある場合は中断でき、ペナルティも発生しません。

吉見氏は、水田クレジットを活用したGreen Carbon社の取り組みについて、「カーボンクレジットを、米農家において副収入となり得る新たな収益として考えている」と話します。

Green Carbon社では、水田クレジットを1ヘクタールあたりの価格で算出しており、エリアによって差があるものの、大規模農業の場合は数十万〜数百万円規模の副収入になることもあります。高騰する農業資材費や人件費の一部を補える可能性があるのです。

現在、導入しているのは全体の3%ほどで、平均耕地面積40ヘクタール以上の大規模農家が中心。これは面積が広ければ広いほど、水田クレジット導入における手間に対して、得られる収益のメリットを感じやすいためでしょう。
30〜50代の若手農家の関心が高く、次世代の担い手が農家の新たな価値向上の一手に取り組み始めています。

利益は“社員旅行”に?水田クレジットがもたらす副次効果

Green Carbon社では当初、クレジットで得た利益は農薬や重機の購入に使われると想定していました。ところが実際には、社員旅行など、従業員への還元に使うケースが目立ったといいます。

また、吉見氏は「最初は多くの米農家が“リスク”と捉える中干しの延長に対しても、実際の導入後はポジティブな意見が寄せられることも多い」と話します。水はけのやや悪い土壌にもかかわらず、周囲の農家と同じ日数で中干しをしていた場合、水田クレジット創出のための中干しの延長が、結果的に稲の生育促進につながるケースがあったためです。

一方、現時点で「環境への貢献」を導入理由に挙げる農家は少なく、いかに環境価値を“実感”できるかも、今後の普及には重要なポイントです。

“環境にやさしいお米”が、米の価値を高める

Green Carbon社は、さらなる展開として「環境配慮米」のブランド化にも取り組んでいます。
これは、水田クレジットを通じて環境負荷を抑えながら収穫した米に、新たな価値をつけて販売するというもの。水田クレジットの導入と同時に、米単価の上昇に寄与できるのです。
実際、大手チェーンやコンビニでも、環境に配慮した食材を求める動きが強まっており、出口が明確な販売ルートは農家にとっても大きな魅力です。

また昨年夏には、キッチンカー企業と協業し、『お台場冒険王』で、おにぎりの販売量に比例してどれだけのCO2が削減できたか? をコンテンツ化して見せるなどの取り組みを行いました。これは、消費者にも環境配慮への意識を促すと同時に、環境配慮米のブランド化と消費が、米農家の収益や事業継続につながっていることを認識してもらう取り組みです。

環境配慮米の販売は、2024年には4,000トン・20億円規模が見込まれており、今後さらなる広がりが期待されます。

カーボンクレジットを軸に、農業課題を多角的に解決する

Green Carbon社の取り組みは、水田クレジットや環境配慮米にとどまりません。たとえば、収穫量を減らす「倒伏」(※)を防ぐ薬剤や、除草剤の使用量を減らす技術など、農業支援のソリューションも展開しています。
国内には現在、約136万ヘクタールの水田があり、すべてに水田クレジット導入が行われると、その規模は約140億円。Green Carbonはその30〜40%のシェアを目指しつつ、酪農や森林クレジットにも領域を広げつつあります。

その中核にあるのは、「一次産業に関わる方々が幸せになる取り組みかどうか」。そのためには、「カーボンクレジット導入の拡大もさることながら、一次産業におけるサポートのスキーム化が大切」と、吉見氏は語ります。たとえば、従業員が不足している米農家に対して人材を派遣できる仕組みや、新規就農希望者と担い手の不在に悩む米農家とのマッチングなど、課題に対する最適なスキームづくりを進めています。

水田クレジットをはじめ、販売や人材など多角的にアプローチすることで、米農家の「作物単価の上昇」「収益の増加」「支出の減少」というポイントに具体的なメリットをもたらすことが可能になるでしょう。

※ 倒伏:米や麦など穀物の茎が地面近くで曲がること。収穫が困難になり、収穫量に大きく影響する。

米農家が「環境価値の創出者」になる日

脱炭素やサステナビリティが加速する今、農家が「作物を育てるだけ」でなく、「環境価値を生み出す存在」としても評価される時代が近づいています。

Green Carbonの取り組みは、その可能性を具体的に示すものです。
農業に新しい選択肢が生まれ、現場の意識が変わり、持続可能な未来が形づくられていく——。そんな変化の兆しが、田んぼの中から静かに、しかし力強く始まっています。

※本稿はPR記事です。

TONステーキングでUAEビザ取得?報道の真偽を探る

 The Open Network(TON)は7月6日、10万ドル相当を3年間ステーキングすることで、アラブ首長国連邦(UAE)の「ゴールデンビザ」が取得可能になると発表した。

 これにより、TONの価格は約10%上昇。トークンのステーキングで長期居住権を獲得できるという仕組みは、デジタル資産の新たな可能性を示すものとして、多くの投資家の注目を集る結果となった。そして、新しい仮想通貨の上場予定一覧にあるように、たとえばAIでコンテンツ最適化を図る銘柄や、店舗決済を改革する銘柄など、すでに話題性がある資産に多くの資産が流入することが予想された。

 一方で、UAE当局からはこの時点まで何の発表もなかったことから、疑問を呈する声も少なくなかった。そして7月7日、UAE当局はこのニュースの真偽について公式声明を発表。「そのような制度は存在しない」との明確な否定を行った。

TONによるビザ取得の報道とその経緯

 今回注目を集めたのは、TON Foundationが発表した「10万ドル相当のTonをステーキングし、35,000ドルの手数料を支払うことで、UAEの10年ゴールデンビザを取得可能になる」という内容だ。この報道は瞬く間にSNS上で拡散され、Tonの価格は2.73ドルから3.04ドルまで上昇した。

 暗号資産投資によるビザ取得というこのスキームは、年利3~4%の報酬を得ながら、居住権も手に入るというもの。近年、UAEが暗号資産企業や富裕層の誘致に積極的であることから、報道には一定の信ぴょう性も感じられた。

 しかしその直後、UAEの複数の政府機関が連名で否定声明を発表。UAE連邦移民庁(ICP)、証券庁(SCA)、そして仮想資産規制庁(VARA)は、「TON Foundationは当局の認可を受けておらず、暗号資産を通じたゴールデンビザの取得制度は存在しない」と明言した。これを受け、Tonの価格は急落し、本稿執筆時点では2.79ドルに着地している。

 報道の背景には、暗号資産業界の競争が激化する中で、プロジェクトが注目を集めるために用いる巧妙なマーケティング戦略の一環として、誇張された発表がなされた可能性があることも考えられる。特に、UAEのように規制と柔軟性の両方を求めようとする国では、情報の真偽を見極めることが投資家にとって極めて重要となるだろう。

UAEのゴールデンビザ制度とは

 UAEのゴールデンビザ制度は、2019年に導入された長期滞在許可制度である。 主に、高度な専門性を持つ人材や、一定規模の投資を行う外国人に対して、最長10年間の居住資格を与えるもので、不動産投資やスタートアップ設立、医師や研究者といった特定の職業従事者が対象となる。

 そして、ゴールデンビザを獲得すれば最大10年間の滞在が可能となり、この期間は就労や就学もできるようになる。 したがって、このゴールデンビザの導入以降、UAEは中東地域で最も多くの外国人を受け入れる国の1つとなり、スタートアップや富裕層の移住先として注目を集めている。

 暗号資産関連企業も、ドバイを中心に事業拠点を構えるケースが増えており、制度の柔軟性と税制上の優遇措置がその背景にある。一方で、現在の制度では暗号資産の保有や取引のみを根拠としてゴールデンビザを取得することは認められておらず、今回のTON報道が誤解を招いた理由もここにあると言える。

他国に見る、暗号資産による長期滞在許可制度の実例

 UAEでのTONステーキングによるゴールデンビザ取得は否定されて一方で、暗号資産による移住や市民権取得の制度は、他国では実際に存在している。

 たとえば、世界で初めてビットコインを法定通貨として採用したエルサルバドルでは、採用当初より、外国人に対して市民権を与える法案の可決を目指していた。そして2023年に、「Freedom Visa」プログラムを導入。これは、ビットコインもしくはUSDTで少なくとも100万ドル以上を寄付することで、年間最大1,000人に市民権を与えるという制度である。

 また、カリブ海のアンティグア・バーブーダでは、従来からある市民権取得プログラム(CBI)において、公式代理店を通じてビットコインなどでの支払いが事実上認められている。一定額の国家基金への寄付や不動産投資によって市民権が与えられる仕組みで、暗号資産による送金は支払い手段の1つとして機能している。

 さらに、欧州の一部の国でも、暗号資産を資金源とした不動産投資や起業によって、ゴールデンビザの対象となるケースが報告されている。たとえばポルトガルでは、ポルトガルの資産運用会社Fundboxと、暗号資産投資プラットフォームであるKvarn Xが提携し、ポルトガルのゴールデンビザ獲得の可能性を提供するためのファンドを設立を公表している。

 このように、暗号資産への投資を通じて居住権を得るための仕組みは、世界的には確かに広がっているのである。

暗号資産とグローバル移住の可能性

 暗号資産を活用した移住制度は、国によってルールや認可の仕組みが異なるものの、先述の通り現実に導入されるケースが増えている。その背景にあるのは、暗号資産ならではの特徴、つまり「世界中どこへでもすぐに移動できる資産」であるという性質だ。

 これまでの資産は、現金や不動産のように管理や移動が複雑であったが、暗号資産はインターネットさえあれば国境を越えて送金可能。しかも、手数料はほとんど発生せず、送金スピードも圧倒的である。この柔軟さが、資産と居住権との関係に新しい可能性をもたらしているのである。また、国によっては暗号資産で得た利益に対する税制が、自国より低く設定されている場合もあり、このことも移住の決め手となるだろう。こうした理由を背景に、暗号資産を活用した移住は、複数の国に生活拠点を持ちたい富裕層やスタートアップ創業者にとって、さらに有力な選択肢となっていくはずだ。

 ただし、この度のTONをめぐるケースのように、実際には存在しない制度がSNSによって急速に広まることは、今後も発生し得るかもしれない。そのため、制度の正当性や認可状況については、各国の公式機関の情報を必ず確認することが重要だ。

今後の制度整備の行方

 デジタル資産が、各国のビザ制度や居住権制度と結びついていく動きは、今後さらに広がっていくだろう。 特に、外国人による自国への投資や、資本流入を促進したい国々にとって、暗号資産を評価する仕組みづくりは重要な政策手段の1つとなるはずである。

 そして、この実現のためには制度の透明性を高め、ルールを明確にすることが不可欠となる。 そうした基盤が整えば、暗号資産を活用したビザや居住権の取得が、より多くの国で実現していくと考えられる。

 一方で、暗号資産への期待が過剰になり、投資家の一部には、根拠の薄いプロジェクトに過信してしまうケースもあり得るだろう。 今回、暗号資産取引所バイナンスの前CEOであるCZ氏がすぐに「UAE当局からの発表がないことは疑わしい」ことを指摘していたが、まさしく的を得ていたことになる。そのため投資家は、制度の仕組みやリスクをきちんと理解した上で行動する、より一層のリテラシーが求められる。

※【PR】本稿はインフォメーションです。

EV普及のカギ握る全固体電池、実用化が目前…出光興産とトヨタが世界をリード、中国勢も追い上げ

●この記事のポイント
・EV普及のカギを握る全固体電池、実用化が目前に。航続距離の伸長や充電時間の短縮、電池の長寿命化が期待される
・出光は固体電解質の原料である硫化リチウムの製造技術に強みを持ち、大型製造装置を竣工させる予定
・全固体電池搭載車を2027~28年に市場導入、量産化に向けた検討を推進

 EV(電気自動車)普及のカギを握るといわれる全固体電池の実用化が目前に迫りつつある。航続距離の伸長や充電時間の短縮、電池の長寿命化が期待できるが、技術開発で世界をリードするのがトヨタ自動車と出光興産だ。出光は全固体電池の実用化においてカギを握る固体電解質の原料である硫化リチウムの製造技術に強みを持ち、2027年6月には硫化リチウムの大型製造装置を竣工させる見込みだ。トヨタが2027~28年に市場に導入するEVに両社が開発する全固体電池が搭載される予定。一方、技術開発では日本がリードしてきたが、近年では中国政府が国策として開発を推進していることもあり、中国勢が急激に日本を追い上げている。日本はどのように優位性を維持していくのか。そして、量産化のメドは立っているのか。出光興産に取材した。

●目次

出光とトヨタの協業

 トヨタとの協業について、出光興産は次のように説明する。

「まずは2027~28年の全固体電池実用化を目指します。また、その先も含め、固体電解質の量産技術開発や生産性向上、サプライチェーン構築に両社で取り組んでまいります」

 具体的には以下の内容だ。

・第1フェーズ:硫化物固体電解質の開発と量産化に向けた量産実証(パイロット)装置の準備
 出光とトヨタは、双方の技術領域へのフィードバックと開発支援を通じ、品質・コスト・納期の観点で、硫化物固体電解質を作り込み、出光の量産実証(パイロット)装置を用いた量産実証につなげる。

・第2フェーズ:量産実証装置を用いた量産化
 出光による量産実証(パイロット)装置の製作・着工・立ち上げを通じた、硫化物固体電解質の製造と量産化を推進する。トヨタによる、当該硫化物固体電解質を用いた全固体電池とそれを搭載した電動車の開発を推進し、全固体電池搭載車の2027~28年市場導入を、より確実なものにする。

・第3フェーズ「将来の本格量産の検討」
 第2フェーズの実績をもとに、将来の本格量産と事業化に向けた検討を両社で実施する。

 前述のとおり、全固体電池の実用化を左右する固体電解質の原料である硫化リチウムの製造技術で、出光は強みを持つ。2027年6月には、硫化リチウムの大型製造装置を千葉事業所に竣工させる予定だ。

「硫化リチウムは全固体電池で使用する固体電解質の原料のひとつです。建設を決定した大型製造装置は、世界トップクラス(電池容量にして3GWh/年相当)の製造能力を持ちます」

大型製造装置設置による硫化リチウムの供給体制確立

 硫化物系の固体電解質は水に触れると人体に有害な硫化水素ガスが発生するなど、扱いが難しい面がある。出光は、どのように硫化リチウムを量産するための技術を確立することができたのか。

「オイルショック以降、石油精製の副生物として得られる硫黄成分の有効活用法を探索するなかで、とある研究員が硫化リチウムをプラスチックの製造に応用する検討をはじめ、硫化リチウムの量産技術を確立しました(1994年に特許出願)。この技術をもとに、その後も高品質な硫化リチウムを量産するための知見と技術力を培ってきました」

 では、大型製造装置設置による硫化リチウムの供給体制確立により、トヨタ、および日本のEV普及にどのような影響を与える可能性があるのか。

「トヨタと共に2027~28年の市場導入を目指している全固体電池には、当社の固体電解質が使用される予定です。この固体電解質を製造する大型パイロット装置についても、25年度内には最終投資判断を行う計画です。固体電解質の原料である硫化リチウムの量産体制を確立することは、固体電解質の量産化に不可欠であり、全固体電池の開発推進に資するものです。

 全固体電池は、EVにおける出力の向上、航続距離の拡大、急速充電時間の短縮、そして、電池の長寿命化への寄与など、様々な価値をもたらすことが期待されています。当社は高性能な固体電解質をお届けし、全固体電池の実用化、社会実装を推進します。これによって、日本におけるEVの普及拡大に寄与するとともに、日本の蓄電池産業の競争力向上にも貢献できると考えております」

中国勢の追い上げ

 気になるのは中国勢の追い上げだ。出光はどのような点で優位性を打ち出していくのか。

「中国においても全固体電池、固体電解質の開発がスピードアップしていることは認識しています。当社は材料メーカーなので、材料面で品質とコストの両面を常に向上させながら、世の中に広く使っていただける固体電解質の供給を通して全固体電池の普及に貢献するスタンスです。当然、知財面の戦略もしっかりとたてています」

 最後に量産化に向けた見通しについて聞いた。

「トヨタ自動車と進める、2027~28年の全固体電池実用化へ向けては、掲げたスケジュール通りに着実に進捗しています。まずは、きっちりとこれを仕上げていくことに全力を注ぎます。その先の量産化については、実用化をもって動向や普及スピードを見極めていく必要があります。そのため、今の時点でははっきりとした時間軸はいえませんが、当社としては全固体電池を搭載したEVが世の中に出てからが、真のスタートだと考えています。全固体電池の価値が世の中で認められ、可能性がより広がるよう、固体電解質の開発や量産技術のブラッシュアップを継続してまいります」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

2025年のパリでAIの多様性を考える(後編)

こんにちは、Dentsu Lab Tokyoの なかのかな です。ラボのR&D活動の一環として、2025年6月11日〜14日にフランス・パリで開催されたヨーロッパ最大級のテックイベント「Viva Technology 2025」を視察してきました。後編では、大手企業とスタートアップのコラボレーション事例や国別ブースの様子をお届けします。

LVMHはブドウから店舗までAIを活用

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会場中央に構えられたLVMHブースでは、傘下のメゾンとコラボレーションする15社のスタートアップが紹介されていました。レース状の内装は昨年のLVMHイノベーション・アワードの受賞企業Aectualが担当しており、リサイクル素材と3Dプリント技術が活用されています。

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モエ・エ・シャンドンでは、ブドウの病気や傷を見分けるシステムにAIを活用しています。農業用画像解析ソリューションを提供しているHiphenとの協業で、6000枚以上の注釈データつきブドウ画像で訓練したアルゴリズムは、1万6000パレットを超えるブドウの品質評価を3週間で終えられるようになったそうで、2024年に全てのモエ・エ・シャンドンのプレス機に導入されています。パートナー農家向けには写真の中央の黒い機器のような移動可能な検査キットも開発しています。

ブルガリは、AIでジュエリーのトレーサビリティを実現。Dev4Sideとの協業により、人の目には見えないマイクロサイズで彫り込まれたシリアル番号を専用アプリで読み取ることで、真贋(しんがん)や産地といった情報を確認したり、サポートを受けたりすることができます。

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AIで商品画像の制作デモを行っていたのがルイ・ヴィトンです。Rigstersのロボットカメラで商品を360°撮影して3D化、OKCCの生成AIソリューションによりブランドに合わせた背景を作り出すことで、ウェブサイトやキャンペーンのローカライズに役立つとしています。

ディオールはオンライン体験のパーソナライズ化にAIを用いていました。提携先のKahoonaはサイト訪問者の振る舞いからデジタル・プロファイリングを行い、実店舗の経験豊富な店員のように顧客のプロファイルや行動を予測し、個々のニーズにリアルタイムに応えることができるようにするソリューションが評価され、LVMHイノベーション・アワードで最優秀ビジネス賞を獲得していました。

生成AIを用いたビジュアルが印象的だったロレアル

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未来的なビジュアルが目を引いたロレアルブース。昨年のVivaTechで発表された社内向け生成AIラボCREAITECHは、各ブランドに対応した商品開発や広告制作を高速化する目的で作られており、来場者がブランドに即した画像や映像の生成を体験できるコーナーもありました。

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AIを活用したマルチブランドのビューティーマーケットプレイスNoli(No one like I(ノリ)は、ロレアルが設立したスタートアップで、NVIDIA(エヌビディア)、アクセンチュア、マイクロソフトとの協業を発表しています。ユーザーの「ビューティープロファイル」をもとに、製品をマッチングするAI診断ツールを搭載しており、100万件以上の肌スキャンデータと数千の製品の配合データをAIが分析し、ユーザー一人ひとりの肌質や悩みに合わせて複数ブランドから最適な製品を自宅に届けてくれるそうです。

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環境負荷を抑えながら高品質な製品づくりを目指す、サステナブルなAI活用事例もありました。香水の原料となる植物を栽培する垂直農業システムは、フランスのInterstellar Labが開発したもの。同社は宇宙ステーションや火星などでの食物生産技術を開発しています。従来の品質を保ちながらも水や栄養の最適化で資源の消費が少なく、輸送にかかるエネルギーも削減できるそうです。

また、育てた植物から香り成分を抽出するための新しい技術も紹介されていました。加熱や冷却ではなく空気の流れによって揮発した香り成分を集める手法で、これまでの手法ではできなかった香り成分を抽出することができるそうです。

鯨からがんまでAIで見分けるカナダ

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今年の国カナダのブースは中央に人形ロボットAmeca(アメカ)を設置。イギリスのEngineered Arts社のロボットですが、応答にはカナダのIVADO LABSのプログラムが使用され、AIやブースの質問に対して答える仕掛けで人を集めていました。Viva Techで今年新設された「Tech for Change」アワードのファイナリストに選出されていたReveal AIは、光学的手法とAIを組み合わせることで、生体内でのリアルタイム分子診断ができるツールを展示。がん手術の際の切除する領域を正確に判定することで再発率を下げることができるそうです。

その他にも、コンテナや倉庫などへの商品の最も効率的な積み方を3Dビジュアルで提案するソフト、鯨など海洋哺乳類を自動検出することで船への衝突防止や生態調査などに活用するツール、猫の痛み度合いを表情から推定する獣医師向けアプリなどさまざまなスタートアップがAIを応用したビジネスを展示していました。

アフリカテックアワードでもAI関連企業が受賞

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フランスという地理的・言語的な親和性から、VivaTechにはアフリカからの出展が例年積極的に行われているそうです。今年はセネガル、コートジボワール、初出店のギニアなど8カ国がブースを構えていました。4回目になるAfrica Tech Awards(アフリカテックアワード)では、eコマース&フィンテック部門でナイジェリアのZeeh Africaが受賞。銀行口座を持たない人が多数いるため、スマートフォンの取引履歴や行動パターンデータをもとにAIで信用評価を行う仕組みが評価されていました。グリーンテック部門では、AIを活用した家庭用エネルギー管理プラットフォームを開発した南アフリカのPlentifyが受賞していました。

「誰のために、誰のデータで、誰によって設計されるべきか」って誰が決めるの?

VivaTech 2025では、「AI」がまさに主役。会場のあちこちでその文字を見かけ、ラグジュアリーブランドから医療、環境、金融まで、さまざまな分野でAIが活用されている様子が紹介されていました。大手企業とスタートアップが手を組み、社会課題の解決や新たなビジネスの創出に取り組む姿も目立ち、AIが私たちの暮らしに深く入り込んできていることを実感できるイベントでした。

一方で、AIの開発には膨大なデータと計算資源が必要なため、どうしても一部の巨大企業や国家に技術が集中しがちです。そうなると、どんなデータを使うか、どんな価値観で設計するかといった判断も、限られたプレイヤーに委ねられてしまいます。これは、情報の偏りや、私たちの生活に影響を与える意思決定の偏向につながる可能性があります。

こうした懸念に対し、少数言語に対応したAIの開発や、各国が自国のデータを自国内で管理する「データ主権」の動きも進んでいます。地域に根ざした技術開発は歓迎すべき流れですが、同時に、国や地域ごとにAIのルールや価値観が分断されてしまうリスクもはらんでいます。グローバルな協調とローカルな自立、そのバランスをどう取るかが、これからの大きな課題です。

今回のイベントを通じて強く感じたのは、AIを社会にどう実装していくかを考えるうえで、「誰のために、誰のデータで、誰が設計するのか?」という問いが、ますます重要になっているということです。そしてその問いに答えるのは、企業や政府だけではなく、私たち一人ひとりかもしれません。

今回の視察では、Dentsu Lab Tokyoでも「こぼれ話」をご紹介しています。視察に関する詳細なレポートもご提供可能(有償)ですので、お気軽にお問い合わせください。

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「素材」のブランディングで新たな可能性を拓く、ゼブラ企業との挑戦

「ゼブラ企業」をご存知でしょうか?

“企業としての利益追求”と、“社会との共存性”を共に重視するスタートアップ企業を、白と黒の2色模様の動物であるシマウマに擬えた言葉です。

その内の一つ「KAPOK JAPAN」(以下、カポックジャパン)は、「カポック」という植物を活用し、サステナブルなアパレル素材の開発とファッションブランドの運営を手掛けています。

電通BXクリエイティブセンター(以下、BXCC)は、同社のビジネスパートナーとして、カポックの素材自体のブランディング(「マテリアルブランディング」)と、イタリアで開催される素材とテキスタイルの見本市「ミラノ・ウニカ」出展に向けたロゴ・ステートメント制作に取り組みました。 

本記事では、カポックジャパンの代表取締役社長・深井喜翔氏、BXCCの庄野元、三宅優輝、長谷川輝波にインタビュー。今回の取り組みでポイントとなった「ブランドストーリーを整理すること」の重要性や、マテリアルブランディングが広げる可能性、その際に必要なBXクリエイティブの観点についてお聞きします。

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電通BXCC・三宅、カポックジャパン・深井氏、電通BXCC・庄野、長谷川。

「木の実を使ったダウン」の発想で生まれた新たなブランド

──お一人ずつ自己紹介をお願いします。深井さんは「カポックジャパン」の事業内容も含めてお聞かせください。

庄野:BXCCでは、広告領域で培ったクリエイティブの力を、より経営や事業に近い領域の価値提供に生かしていくことをミッションとしています。本プロジェクトにはクリエイティブディレクターの立場で参加し、ブランディングを構想したり、事業価値の規定における全体設計部分などを担当しました。

三宅:ナショナルクライアントやスタートアップなど、幅広い企業のブランディングロゴやビジュアル制作を担当し、各ブランドの持つ世界観をアートワークでつくりあげています。日頃からSNSを通してファッション関連に携わりたいとつぶやいていたところ、庄野に声をかけてもらい参加しました。

長谷川:BXCCではプランナーなど複数の肩書を持っていますが、今回はコピーライターとして参加しました。持っている全ての肩書の業務にニュートラルに携わる中で、まだ見たことのないアイデアや事業のお手伝いをすることを仕事の軸としています。

深井:実家が代々アパレル稼業をしており、私はその4代目です。8年ほど前に家に戻り、2019年に新事業として「KAPOK KNOT(カポックノット)」というアパレルブランドを立ち上げました。そこで東南アジアに生えているカポックという木の実を使ったダウンのようなコートを製造・販売したところ、大きな反響があったため、別会社として「カポックジャパン」を設立し代表取締役社長を務めています。

KAPOK#1_カポックの木と実
(画像左より)カポックの樹と実。

深井:元々家業のルーツが綿などの“素材”だったので、僕も素材を軸にした事業ができないかと繊維に関わる資格の勉強をしていました。その中でカポックの存在を知り、興味を持ったんです。これまでもアパレルの素材に使おうとした企業はあったようなのですが、繊維にするのが難しかったそうで……ならばダウン(羽毛)の代わりに使うのはどうかと考えました。

カポックは軽くて保温性が高く、ダウンと同じような機能を有しています。木の実が原料なので鳥を傷つけることはなく、樹木本体の伐採も必要ない。また、CO2を吸収し、ダウンよりはコストもかからない。そのため、ビジネス的にも社会的にも意義があると思ったのです。

KAPOK#1_カポックノットのコート

“素材を扱うプレーヤー”を増やすことが、持続可能な社会を広げる鍵になる

KAPOK#1_庄野さんソロカット

──カポックのマテリアルブランディングと2025年2月のミラノ・ウニカ出展に向けたアートワーク制作を行った、今回のプロジェクト発足の経緯を教えてください。

深井:カポックの事業を始めた当初、この「素材」を採用してもらえないか他のアパレル企業に提案をしていたのですが、採用実績がないため、かなり厳しい状況でした。であれば、自分で実績をつくろうと考え開発したのが、カポックノットのコートです。当時このコートの約2年分の在庫を用意するつもりで作ったら、発売後ほぼ一瞬で売り切れるという予想以上の反響がありました。

その後も好調な売れ行きに伴って、素材自体への手応えが見えてきたので、2024年4月に素材研究や販売に特化した「マテリアル事業」をスタートしました。本事業では海外販売の構想があり、まずは2025年2月にイタリアで開かれた展示会ミラノ・ウニカへの展示を目指していました。その過程で電通とのご縁があって、素材のブランディングやロゴなどのアートワークが必要だったため、協業させてもらうことになりました。

庄野:深井さんと知り合ったきっかけは、BXCCが企業のBX推進の取り組みの一つとして開催したイベントです。BXCC内にオープンイノベーションでスタートアップをサポートしていくプロジェクトがあり、昨年、国内の企業が自社事業を世界に発信していくためのイベントを開催しました。そこに深井さんにご参加いただいた際、お話を聞いて、互いに興味を持ったのです。

深井:それが2024年の10月頃だったので、翌年2月のミラノ・ウニカに向けてマテリアルブランディングができるとすごく助かる状況でした。プロジェクトの本格始動は12月頃、年末年始を挟んで1月中に終わらせるという非常にタイトなスケジュールではありましたが、短期で集中的に進められたらとお願いしました。

──当初からマテリアルブランディングに焦点を合わせたプロジェクトだったのでしょうか?

庄野:はい。当時深井さんも素材事業の構想はお持ちでしたが、カポックジャパンの基幹事業はあくまでもファッションブランドでした。その中で、われわれとしては素材自体に強い価値を感じ、カポックがより多くの企業で扱われるようになれば、さらに持続可能な世界が広がっていくのではないかと可能性を感じていました。

そこで、「素材」のブランディングを通して価値を伝え、カポックを扱うプレーヤーを増やす。その大元に、先行して独自の加工技術等を生み出していたカポックジャパンがいるという構造をつくれるといいのではないかと考え、マテリアルブランディングの提案をしました。

現代は“サステナブル疲れ?”ゼブラ企業が抱える課題とは

KAPOK#1_深井さんソロカット

──カポック自体をブランディングすることで市場を拡大できれば、ゼブラ企業としても、サステナビリティなどの社会性と事業性のバランスを取りやすくなりそうです。その両立にあたり、深井さんが今感じられている課題があれば、お聞かせください。

深井:カポックノットを立ち上げた2019年頃は、「サステナブル」や「SDGs」といった言葉がバズワード的に広がり始め、世の中のメインストリームになっていく気配が醸成されていました。しかし現在は、社会的に“サステナブル疲れ”の雰囲気が若干出てきていると感じます。

環境に良い素材の製品は価格が上がりがちです。以前はそれでも「サステナブルで良いものだから」という理由で選んでくださる方がいましたが、サステナブルの考え方が浸透し、ある種スタンダードになった今は、その理由だけで生活者が購入を続けるのが難しくなってきているように思います。企業側も事業を行う上でサステナブルを考えることは前提という風潮の中、他の付加価値や魅力を提示できないと選ばれなくなっているのです。

カポックも保温性などの機能面で価値提案をしていますが、価格帯はダウンよりは安価なものの、すごく手に取りやすい価格ではありません。僕らとしては、当時社会的価値と機能的価値を掛け合わせて訴求できれば選ばれていくだろうとの考えでアパレル製品を作り、当初は狙いどおり即完売したものの、その後は思ったよりも伸びていない状況です。

マテリアル事業を始める前から、アパレル製品における社会性×機能的価値というブランディングはうまくいっています。事業性のみを第一義としないゼブラ企業としては、このまま“健やかな成長”を目指す道もありました。しかし、そこで課題となるのが、カポックを栽培する人々の事業継続性です。

カポックの農園の方に、売れたらさらに木を植えたいと話したところ、ならば実が成る50年の間は買い続けてくれと言われました。カポックの製品を作る企業が多くない現状では、基本的にわれわれだけで発注量を増やし続けなくてはならない。「健やかな成長」と言いながら発注量がそのままでは、彼らの生活も守れなくなってしまいます。

そこで、素材自体を販売し、当社以外でも使い道をつくる構想を立てました。当初描いていた形とは異なりますが、事業として一定の規模にスケールさせることはやはり大切。カポックという素材自体を販売する「マテリアル事業」をスケールさせることで、社会性と事業性をうまく両立しようという、いい意味の変化が起きたんです。

庄野:今のお話は、ゼブラ企業全体の課題だと思います。サステナブルに関わる製品は、どうしても「いいもの」で終わる傾向にあり、最初は売れてもなかなか定着しない。いかに定着させられるか、共感されて買い続けてもらえるかが、重要で難しいところだと思います。サステナブルが当たり前になっていく中で、機能や本質的な価値がちゃんと伝わり、プロダクトとして定着させられるか。この点は今回のプロジェクトにおいて強く意識しました。

──今回のプロジェクトは成果報酬型のビジネスパートナーとして進められているそうですが、その理由も今の「サステナブルであるためには、ビジネスとしてスケールさせなくてはならない」というお話と関係しているのでしょうか?

庄野:はい。カポックジャパンが成長することは、BXCCが提供できた価値の結果にもなりますし、それだけ本気になって考えられるということで、成果報酬型という形を提案しました。クリエイティブの力で、社会的な価値あるゼブラ企業のグロースを支援させていただくことは、われわれのチャレンジでもあります。

深井:成果報酬型という形でなければ、当社が電通とご一緒するのは難しかったので、とてもありがたかったです。また社内的にも、電通のような大きな企業のクリエイターとしっかり取り組む経験はなかなかありません。電通のプロジェクトの進行の仕方や考え方を目の前で見る経験をさせてもらえたことも、非常に良かったと感じています。

機能、社会性、ストーリー。消費者の心を動かすすべての“スイッチ”のバランスを考え抜いた「ブランド価値抽出セッション」

KAPOK#1_長谷川さんソロカット

──プロジェクトで行われた週1回の「ブランド価値抽出セッション」では、どのようなことを話し合い、実際のクリエイティブに反映されましたか?

庄野:セッションを通して、カポックという素材が持つ価値と、カポックジャパンが有する価値の両方を洗い出し、整理しながらアウトプットを作り上げていきました。今回の場合、特に企業自体よりも、カポックという素材の価値を強く訴求していけると良いと考えました。

現状では、まだ「カポック」という言葉自体が、世間に認知されていない状況です。そこで、「NEO DOWN KAPOK」のキーワードが生まれました。ダウンという言葉をあえて引き合いに出すことで、カポックが何なのかを分かりやすく見せるような意図です。また、海外への販売を念頭に「ジャパンクオリティを訴求できると良い」という議論もあり、日本的な要素をロゴにも反映していくことになりました。

三宅:カポックを知らない人に訴求する際、カポックの実の形を伝えた方がいいのか。あるいは素材の形状として「わた」を思わせるデザインがいいのかなどを悩みました。素材ブランドとしてのネーミングにおいても、機能をフックにするのか、新しさなのか、そうした点が議論のポイントでしたね。

その中でベンチマークにしたのは、例えば「ゴアテックス」のような、何かは分からないけれど聞いたことあるし、なんか良さそうな印象を抱くような素材の見せ方です。また、そもそもミラノ・ウニカに出品する際のロゴなので、“ジャパンクオリティ”で新しい素材を生み出していることを起点に検討しました。海外視点で見た時にこの素材を「日本から」持ってきたことを伝えたい。深井さんとも何度も議論を繰り返した結果、もこもこした日の丸のような形が採用されました。

KAPOK#1_ロゴ
日の丸のようなイメージも取り入れられたロゴ。

長谷川:これは素材に限らない話だと思うのですが、生活者が新しいモノやブランドを選ぶ時には、その人の心を動かすいろんな「スイッチ」があると思います。価格、機能、環境配慮などの社会性はもちろん、ブランドイメージや、ブランドの持つ物語で選ばれることも。その見せ方は0か100かではないと思っていて、どれか一つの「スイッチ」だけ選んで、用意しておくという考えではありませんでした。

機能、ストーリー、社会性、その他消費者の背中を押す全ての「スイッチ」をどうチューニングしてバランスよく見せていけるかを、入念にディスカッションして、まずは2月のミラノ・ウニカでテストタイプとして出すコピーとビジュアルを決めました。そうした進め方が非常に難しくもあり、楽しい部分でしたね。

深井:今のお話は僕自身がずっと悩んでいるところです。社会性だけに振り切るのならブランド名自体を「脱羽毛」や「セーブ・ザ・ダック」のようにする手もありますが、それだけが言いたいわけではない。では機能はというと、ハイスペックなダウンと比べたら確実に上とまでは言えない。かといってストーリーだけで選んでほしいわけでもありません。何か一つに定めた方が販促担当は推しやすいと分かっていながらも、全てのバランスがちょうどいいことをお伝えしたかったんです。

長谷川:具体的には、キャッチコピーの目立つ部分に一番言いたいことを入れつつ、ビジュアルやボディコピーで、他の要素を少しずつまぶしていくことを意識しました。セッションの中で上がった訴求ポイントを全分解して、優先順位をつけ、何をキャッチコピーにするか、何をボディコピーにまぶしていくかの組み合わせを考える。そのバランスを緻密に設計することで、KAPOK JAPANの魅力が全て伝わるような、“左脳的”なコピーライティングだったと感じています。

KAPOK#_ステートメントなど

イタリアでは想定を超える50社との商談が実現。ヨーロッパ市場におけるビジネスの足掛かりに

KAPOK#1_三宅さんソロカット

──ミラノ・ウニカへの出展で、どんな成果が得られましたか。

深井:ブースでの関連企業のコンタクト数では、約30社の目標に対して50社近く商談ができ、期待を大きく上回りました。具体的なサンプル提供や、商談のテーブルに付いた上で、今も関係を継続している企業が10社程度あります。

ただし、アパレルの場合、こうしたイベントには、おおよそ1年から1年半先の企画を見越して参加する企業がほとんどです。現地ですぐオーダーがあるわけではないので、売り上げ面の成果につながるのはまだまだ先の話になります。2025年7月のミラノ・ウニカにも出展するので、ここでビジネスにつなげていく予定です。

とはいえ、これまでネットワークを持てなかったヨーロッパの企業と直接話せて、最初の扉を開けたのは大きな進歩です。電通のサポートを得て、ヨーロッパ市場に飛び込んで良かったと感じています。

──今後の取り組みや展開について教えてください。

深井:7月のミラノ・ウニカ以外に、実は10月3日(金)~7日(火)に2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で展示することが決まりました。「未来航路-20XX年を目指す中小企業の挑戦の旅-」という体験型展示企画で僕らが取り組んでいる、「2030年のダウンのスタンダードを作る」というコンセプトの、「植物由来100%ダウン」を展示してほしいとお話があったんです。

また、カポックの市場が伸びたとき、ダウンに代わる素材としての使用量は増えたとしてもその「種」は今、副産物としてあまり使いようがない状況です。そこで、実はその種から抽出した油を燃料として使えば新しい経済圏をつくれるかもしれないといったプロジェクトを進めています。最終的にはカポックを丸ごと捨てるところなく使う、いわば“サーキュラーインパクトモデル”のようなものをつくっていきたい。アパレル企業が本気で考えた結果、サステナブル素材を使うだけではなく、種から新たなバイオ燃料を作るといった分野にも飛躍していけたら、すごく面白いと考えています。

カポックを軸に事業セグメントがさらに広がっていく可能性は大きくあります。その拡大やブランディング時には、また全然違う脳が必要になってくるので、引き続き電通のクリエイターと一緒に組めたら非常にいい形になると期待しています。

三宅:メインコピーの「NEO DOWN KAPOK」を作ったとき、今後この素材が綿やウール、カシミヤのように誰もが知ってるものになれたらいいねと話していました。そうなったとき、1つのアパレルブランドのロゴマークが浮かぶのではなく、もっと大きな規模の、「このマークさえついていれば高度な品質が保証されている」と認識してもらえるような話にしていきたいと考えています。

僕らとしても、1つのアパレル商品をブランディングしてロゴを作っている感覚ではなく、世界を変える新たなものに携わっている感覚で仕事ができたので、とても夢がありました。ぜひ次の機会でもお互いの発想と力をぶつけ合いながら、グロースしていきたいですね。

長谷川:私も今回はコピーライターとしてミラノ・ウニカ用のブランドコンセプト、ステートメントを固めましたが、次はより多くの人にカポック自体と、カポックジャパンという会社の魅力を広く発信し、ビジネスにもつながるようなクリエイティブやPRのサポートをしたいです。

庄野:今回のアウトプットは、まだ本当に1歩目を踏み出すためのもの。あくまでミラノ・ウニカという展示会で、海外企業に対してカポックという素材を打ち出すためのクリエイティブでした。

サステナビリティの受け止め方を含め、世の中は変化していきますし、カポックジャパンも成長していく。その中で、BXCCには事業の構造デザインや、事業自体のアイデアをクリエイターとして価値提供していけるメンバーが多くいます。ご支援できる領域はまだたくさんあるので、今後もぜひ伴走を続けながら、カポックジャパンの事業グロースに貢献していきたいと思います。

KAPOK#1_集合カット

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インドの大手システム開発会社が日本市場に攻勢をかけても、オフショア開発は広がりにくい根本的要因

●この記事のポイント
・TCSやインフォシスをはじめとするインドの大手システム開発会社が、日本市場での売上拡大に向けて攻勢を仕掛けている
・日本企業にとってはオフショア開発によるコストメリットが薄まった
・日本企業は権限を持ったCIOが不在のため最終決定権がボードにないことも多く、海外企業からするとコミュニケーションコストが高い

 タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)やインフォシスをはじめとするインドの大手システム開発会社が、日本市場での売上拡大に向けて攻勢を仕掛けているようだ。6月10日付「日経クロステック」記事によれば、TCSはインド国内に日本の顧客企業向け開発拠点を設置し、約5000人のエンジニアが常駐しているという。かつて日本のシステム開発の現場では、インド企業へのオフショア開発委託が盛んだった時期もあるが、「現在では、そこまで多いという状況ではない」(専門家)という。日本のIT業界は今、深刻な人手不足といわれるが、優秀といわれ低コストのインド人エンジニアを数多く抱えるインド企業が攻勢を強めてくれば、SIerやSES会社をはじめとする日本のシステム開発会社は大きな影響を受けることになるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

オフショア開発の現状

 現在、日本のシステム開発の現場においてインド人エンジニアと一緒に作業するケースは多いのか。企業のシステム企画・支援を手掛ける株式会社AnityA代表の中野仁氏はいう。

「オフショア開発の利用状況は領域によって異なってきますが、私が携わることが多いコーポレートIT、社内向けシステム開発に関しては、大規模なプロジェクトでベトナム人エンジニアの方などが参画しているケースはあるものの、そんなに多くはないという印象です。日本でオフショア開発が盛んだったのは、円高だった2000~2010年代頃であり、中国から始まってインド、ベトナムに移行してきたというイメージです。現在は円安になったのに加えてアジア諸国の賃金が上昇し、日本企業にとってはオフショア開発によるコストメリットが薄まったという側面があると思います。

 インドのシステム開発会社が日本市場におけるシェア拡大に力を入れている背景には、米国企業の動きが影響しているのかもしれません。米国の大手テック企業がAI導入による開発効率の向上などもあり大量に人員を削減しており、その一環としてオフショア開発の委託量も減らし、インド企業がこれまで大口の発注者であった米国企業から発注量を大きく減らされ、余剰人員をどこかに投入する必要があるということで、日本市場に目をつけている可能性があります」

 では、以前よりは平均の人員単価が高くなったとはいえ日本人エンジニアよりは割安なコストで発注することができ、かつ優秀とされるインド人エンジニアを抱えるインドのIT企業が日本市場に攻勢をかけてきた場合、日本のSIerをはじめとするシステム開発会社やSES会社が打撃を受ける可能性はあるのか。

「前提として、円安やアジア諸国のインフレの影響で、日本企業からしてみると、オフショア開発を委託するコストメリットがあまりなく、これからインドやベトナムの企業に目立つほど積極的に発注していくのかといわれれば、そこまで大きな動機がないという印象です。オフショア開発の需要が一気に高まるという状況は考えにくい気もします。AIの普及と性能向上で言語の壁は低くなりつつありますが、要件定義や成果物のクオリティの問題はコミュニケーションギャップが要因として大きく、日本の発注者が提示した仕様通りの成果物が上がってこないということは多いです。もっとも、委託先に問題があることばかりではなく、日本企業側の要件定義能力やプロジェクト管理能力が低いことが原因であることも少なくありません」

海外企業が日本企業と取引する上でのハードル

 日本企業特有の傾向も、オフショア開発へのハードルを高めているという。

「海外企業からしてみると、日本企業と付き合うのは面倒くさいという側面があります。日本企業はシステムに関してなかなか意思決定できなかったり、権限を持ったCIOが不在のため最終決定権がボードになかったり、すり合わせ文化が根強かったりするので、取引する海外企業からすると、コミュニケーションコストが高いんです。システムに対するいい意味での割り切りのなさが目立ち、おもてなしを求めてしまうような面があるので、要件定義の部分が非常に面倒くさく、付き合っていくのは難易度が高いといえます。これはシステム以前の問題なので、外国の優秀なエンジニアであれば対処できるという話でもありません。

『どういう目的で何をいつまでに作るのか』をきちんと決められて、オーナーシップを持ってプロジェクトマネジメントできる海外の企業があれば、開発を委託したいと考える日本企業も増えてくるかもしれませんが、そのような海外の委託先企業が数多く存在していれば、日本のSIer業界やコンサル業界がここまで大きな存在にはなっていないいでしょう。あとは、すでに入っているかもしれませんが、大手コンサル会社の下請けとしてインドのシステム開発企業が多く入っていくというかたちはあり得るかもしれません。

 では、日本のSIerやSES会社をはじめとするシステム開発会社が非常に有利かといわれれば、そうは言いきれない部分もあります。海外企業と異なり日本のシステム開発会社は、発注先から無理を言われても、なんとか対応してしまう傾向もあるので、そういう点で選ばれやすいという面はあるかもしれません」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中野仁/AnityA代表)