ベンチャー企業支援拡大へ=融資など1000億円目標―りそな銀社長

 りそな銀行の岩永省一社長は4日までにインタビューに応じ、ベンチャー企業向け支援を拡大させる方針を明らかにした。新株予約権と融資を組み合わせた「ベンチャーデット」などの実行額を、2029年3月までに累計1000億円まで引き上げる。岩永氏は「日本経済はベンチャー企業なしには成長できない」と強調した。

 ベンチャーデットは、新興企業の将来性を評価し、あらかじめ定めた価格で株式を取得できる新株予約権を付けてもらうなどして融資する手法。企業にとっては株式の希薄化を抑えられるため、新株を発行して資金調達するより経営の自由度を保ちやすい点が特長だ。

 りそな銀は今年7月末までに計約57億円のベンチャーデットを実行している。現在は創業直後の企業への融資が中心だが、今後は新規株式公開(IPO)などを見据える成熟期企業への支援にも力を入れ、ベンチャー企業を支援するファンドへの出資も積極化する。

 岩永氏は「企業の成長に伴走し、段階的に資金供給を大きくしていく。将来的には銀行取引にもつながってほしい」と話した。

(記事提供元=時事通信社)
(2025/09/04-18:04)

デジタル身分証「次世代の当たり前」は誰が作る?「GAFAも狙う」データ主権をめぐる熾烈な戦い

●この記事のポイント
・デジタル証明の新しい国際標準「DID/VC」が、従来の信頼モデルを変えつつある。不要な個人情報を渡さずに、必要な事実だけを証明できるのが特徴。
・この技術で、個人データは企業やサービスに紐づかず、データそのものが信頼される時代になる。EUは2026年までの基盤整備を義務化するなど、世界で普及が加速している。
・Receptは、このDID/VC技術の基盤を提供。自治体との連携や海外展開も視野に入れ、「技術インフラ」として社会実装を支えている。

 いま世界的に、「データを誰が持ち、誰が信頼を担保するのか」という根源的な問いが突きつけられている。

 アップルのウォレットにマイナンバーカードを格納できるようになったことは、その象徴的な出来事だろう。その裏側には、DID(分散型ID)やVC(Verifiable Credentials)という国際的に普及が進む新しいデジタル証明の仕組みがある。

 この技術に特化し、事業者向けの発行・検証基盤とユーザー向けウォレットアプリを提供しているのが、スタートアップの株式会社Recept(リセプト)だ。

 従来の中央集権型の証明モデルに比べ、セキュリティやプライバシーの扱い方が大きく変わるこの技術を、どのように社会実装しようとしているのか。Recept代表取締役の中瀬将健氏に、経営者にとっても示唆の多い話を伺った。

●目次

デジタル証明の「次の当たり前」

 Receptが提供するのは、一見するとインフラ的な技術だ。SIer(システムインテグレータ)や大手企業がまだ内製できていないDID/VC技術をパッケージ化し、APIやSDKとして利用できるようにしている。公共案件や新規事業で「DID/VCを使いたい」という要件が出てきたとき、Receptの基盤を活用すれば短期間で安全なサービスを立ち上げられる。

 その強みを理解するには、従来の電子証明の仕組みとの違いを押さえておく必要がある。たとえば飲酒時の年齢確認を考えてみよう。

 従来は免許証やマイナンバーカードを提示するが、その際には氏名や住所、顔写真など不要な個人情報まで一緒に開示してしまう。これに対してVCでは「20歳以上である」という事実だけを証明できる。不要なデータを開示しない──これがGDPR(EU一般データ保護規則)に象徴される欧州のプライバシー規制とも親和性が高く、国際標準化が急速に進む背景となっている。

信頼を「サービス」から「データ」へ

 さらに大きな転換は、「信頼の担い手」が変わるという点だ。従来は「あるサービスがデータを保持しているから、その人を信頼できる」というモデルだった。しかしReceptが扱うVCでは、ユーザーが持つ証明書そのものに「改ざん防止」「発行元の正当性」を示す仕組みが組み込まれている。

 つまり「データがあるサービスに紐づいているから信頼できる」のではなく、「データ自体が信頼できる」世界になる。これはプラットフォーマーに個人データを独占されることへの懸念が強い欧州で特に歓迎され、EUは2026年までに加盟国全てがVC基盤を整備することを義務化している。

ウォレットの安全性をどう担保するか

 もちろん、ユーザーが証明書を持ち歩く以上、秘密鍵管理やアプリの安全性は死活的なテーマだ。

 Receptではスマホのセキュア領域に鍵を格納し、平文のままデータを保存しない。アプリ自体も難読化や暗号化を徹底し、逆コンパイルからの脆弱性悪用を防ぐ。クラウドに鍵を置く方式を取る事業者もあるが、同社は「基本は端末内で完結させる」設計思想を貫いている。

 このあたりは一見すると当たり前のようだが、攻撃や漏洩の多くは「基本の徹底不足」から生まれる。最先端の技術であっても、アプリケーション設計の地道な積み重ねが不可欠だ。

自治体との共創──データ活用の“次の一歩”を支える

 Receptは自治体との連携にも力を入れている。来年度予算に組み込まれる実証実験も控えているが、背景には行政が抱えるデータ活用の課題がある。

 マイナンバーカードから得られる基本情報は本人確認には有効だが、新しいサービス創出には不十分な場合が多い。自治体が保有する多様なデータを組み合わせ、市民向けサービスや地域マーケティングに活用するには、安全に連携するための仕組みが必要だ。

 そこでDID/VCが役に立つ。市民が自らのデータを管理し、必要なときにだけ必要な情報を開示できる。自治体にとっても「持ちすぎないこと」が逆に安心材料となる。課題は法制度よりも、むしろ「サービス設計」にあるという。新技術を既存システムに組み込むにはコストと手間がかかる。その投資に見合うメリットをどう示すか、自治体職員や市民にどう理解してもらうか。ここはスタートアップの伴走力が問われる領域だ。

ビジネスモデル──インフラからエコシステムへ

 Receptが見据えるのは「自社サービスの拡大」ではなく、「基盤を通じて他社サービスが立ち上がること」だ。

 同社が提供するAPIやSDKを使って取引先が作るサービスが増え、ユーザーがそのウォレットで複数の証明書を管理できるようになって初めてエコシステムが回り出す。つまり、Recept自身がプラットフォーマーになることを狙っているわけではない。日本でDID/VCを最も実用的に扱える技術提供者であり続けることが、同社の立ち位置だ。エンタープライズにとっては「内製していない先端技術をパッケージで導入できる」ことが大きなメリットだ。

 一方で自治体や市民にとっての価値提供は、まだ設計段階の議論が多い。ここをどう具体化できるかが、Receptの成長の次の焦点になるだろう。

普及に必要なのは「制度の後押し」

 技術の優位性があっても、市場が動くには制度的な後押しが欠かせない。たとえば金融業界では「犯罪収益移転防止法」に基づき、口座開設時の本人確認方式が法で定められている。海外ではすでにデジタル証明によるKYC(本人確認)が認められ、VCが活用されているが、日本ではまだ限定的だ。

 国内でもメガバンク主導のコンソーシアムが普及に向けて取り組んでいるが、成果はこれからだ。

 もし法制度で「VCを本人確認方式の一つとして認める」動きが出れば、市場は一気に拡大するだろう。

マイナンバーカードとの関係、そして海外展開

 日本ではマイナンバーカードという強力なインフラがある。本人確認のユースケースではVCと競合関係になる部分もあるが、国際展開を考えると話は別だ。

 教育分野では、単位の国際互換をVCで実現する取り組みが進んでいる。留学した学生の履修データを、国境を越えて信頼できる形で証明できるようになる。こうしたグローバルユースケースでは、国内に閉じたマイナンバーでは対応できない。ReceptもEUとの相互接続を視野に入れ、すでに実証実験を始めている。

 Receptの取り組みから得られる学びは、単なる技術論にとどまらない。

・信頼の構造転換
従来は「組織にデータを預ける」ことで成り立っていた信頼を、「データそのものが信頼できる」構造に変える。この発想は、業界を問わずサービス設計の前提を揺さぶる。

・サービス設計の壁
新技術を導入する際、制度よりも「既存システムに組み込むコスト」と「メリットの見せ方」が最大の障壁となる。スタートアップはそこに伴走力を発揮できるかどうかが鍵になる。

・制度と市場の連動
技術の普及は、規制や標準化の後押しによって大きく加速する。技術だけでなく、政策環境をどう読み解くかが経営戦略の重要な一部になる。

「Receptはプラットフォーマーになろうとしているわけではない。DID/VCという領域で、日本で最も実用的な技術提供者でありたい」

 中瀬氏の言葉は、スタートアップとしての潔さを示す。見えにくいインフラ領域であっても、その上に立つユースケースが広がれば、やがて誰もが当たり前に使う存在になる。信頼を「サービス」ではなく「データ」そのものに委ねる世界。その基盤を支える企業として、Receptの挑戦は始まったばかりだ。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

取引するほどお得に!? 還元率2倍!STIC Cashbackの期間限定ボーナス増量キャンペーンを徹底解説

 FXやCFD取引を続けていると、「スプレッドや手数料で思ったより利益が減ってしまう…」と感じる方も多いのではないでしょうか。そんな悩みを解決するのが、キャッシュバックサービスです。中でも注目されているのが、革新的な仕組みを提供するSTIC Cashback。通常の取引で得られるキャッシュバックに加えて、さらに特典を上乗せできる期間限定キャンペーンが開催中です。本記事では、2025年9月1日から実施されている「More cashback, more bonus!」プロモーションの詳細や、fx キャッシュバックで効率的に稼ぐ方法をわかりやすく紹介していきます。

STIC Cashbackとは?

 STIC Cashbackは、STICPAYが提供する革新的なキャッシュバックサービスで、世界中のFXおよびCFDトレーダーに利用されています。提携ブローカーで取引を行うだけで、取引量に応じたキャッシュバックが毎週自動的に還元される仕組みです。単なるコスト削減にとどまらず、取引すればするほどリターンが増えるため、多くのトレーダーが利益を得やすいということで注目しています。

「More cashback, more bonus!」プロモーション概要

 プロモーション期間は、2025年9月1日~2025年9月27日の限定です。 プロモーションに参加することで、より多くのボーナスとキャッシュバックを獲得することができますよ。

参加方法
プロモーションへの参加は簡単で、手順は以下の通りです:
 ●  STIC Cashbackにログイン、または新規登録
 ●  提供された紹介リンク経由でブローカー口座を登録
 ●  提携ブローカーを通じて取引
 ●  キャッシュバック+ボーナスを獲得
※キャッシュバック率はブローカーによって異なるため、公式サイトで必ずご確認ください。

ボーナス内容
 ここではボーナス内容を紹介していきます。レベルごとに対象額の10%をボーナスとして獲得できますよ!

 さらに、キャッシュバックを獲得したユーザーの中から抽選で5名に1000ドルを進呈してくれます! 獲得額が増えるほど当選確率も上昇します。

プロモーションの注意点

 プロモーションに参加する前に、以下の条件を必ず確認しておきましょう。ルールを理解しておくことで、安心して取引しながらキャッシュバックとボーナスを受け取ることができます。

どんな方におすすめ?

 デイトレードやスキャルピングを頻繁に行う方におすすめです。小さな取引でも少しずつ積み重ねることで大きなキャッシュバックを受け取ることができますし、 fx キャッシュバック 稼ぐ効率を最大化したい方は、通常のキャッシュバックに加えてボーナスも獲得できるため、ダブルでお得に楽しめます。

 また、高額取引を行う上級者は、レベル3以上を達成することで最大1,000ドルのボーナスに加え、抽選でさらに1,000ドルを獲得するチャンスがあります。

まとめ

 STIC Cashbackの「More cashback, more bonus!」キャンペーンは、通常のキャッシュバックに加えてボーナスを獲得できる、まさにfxプロモーションの大本命といえる内容です。取引量に応じて還元が増える仕組みは、日々のトレードを行うだけで実質的な報酬アップにつながります。

 特に、2025年9月1日~27日までの限定開催という点は見逃せません。これを機にSTIC Cashbackに登録し、取引コストを抑えつつfx キャッシュバック+ボーナスで稼ぐ仕組みを取り入れてみてはいかがでしょうか。

※本稿はPRです

STICカードは世界中で使える!?特徴やメリットを徹底解説!

 海外旅行や出張、または国際的に活動するデジタルノマドにとって、利便性の高い決済手段は欠かせません。従来はクレジットカードや銀行送金が主流でしたが、高額な手数料や為替コスト、利用スピードの遅さが課題となってきました。そんな中、グローバルeウォレット「STICPAY」が提供する STICカード が注目を集めています。

 本記事では、STICカードの魅力や日本ユーザーにとってのメリット、そして事前登録キャンペーンの情報に焦点を当て、わかりやすく解説していきます。

STIC Cardとは?

 STIC Card(STICカード)は、グローバルeウォレット「STICPAY」が発行するプリペイドカード 国際版です。STICPAYウォレットに入っている資金をチャージして使える仕組みで、オンライン・オフライン問わず、世界中で簡単に決済を行うことができます。さらに200以上の国と地域に設置されたATMから現地通貨を引き出すことができ、グローバルなショッピングから日常の支払いまで幅広く対応します。

 さらに、Google Pay、Apple Pay、Samsung Payといったモバイル決済サービスにも対応しており、物理カードを持たずともスマートフォンだけで決済が完了するため、よりスマートなキャッシュレス生活を実現できます。

 STICカードは多通貨対応で、海外旅行や出張、国際的なオンラインショッピングでもスムーズに利用可能です。今後さらに利便性の高い新機能の追加も予定されており、利用者に嬉しい特典やキャンペーンが続々登場する見込みです。

事前登録キャンペーンでお得にスタート

 現在、STICカードは 事前登録キャンペーン中です。キャンペーン期間中は発行手数料が無料となり、先着順で数量限定の特典を受けられます。オンラインショッピングでも、海外での現金引き出しでも活躍するSTICカードですが、この事前登録キャンペーンを活用することで、より早く手に入れ、世界でのキャッシュレスライフをスタートできますよ!数量限定の限定特典なので是非お見逃しなく!

日本ユーザー向けのメリット
日本の利用者にとって、STICカードは旅行やリモートワーク、国際送金における利便性が特に魅力です。従来の銀行カードやクレジットカードに比べ、スピードやコスト面で優れています。

●利便性:アジアや欧米など海外でのショッピング、現地ATM引き出しも低コスト

●スピード:取引は即時または同日処理、家族や取引先への送金もスムーズ

●安心性:高度なセキュリティ対策で、不正利用リスクを抑制

●柔軟性:Google Pay、Apple Pay、Samsung Pay対応でカードレス決済が可能

 STICカードは、24時間365日いつでもメール(stic_card@sticpay.com)や公式サイトからサポートが受けられます。さらに、暗号化技術やAIによる監視システム、AML規制に準拠したセキュリティ環境が構築されているため、日本の利用者も安心して利用できます。

 特に海外で活動する日本のデジタルノマドやリモートワーカーにとって、スマホ一つで世界中の支払いを完結できるのは大きな魅力です。 実際のSTICPAY レビューにおいても、「国際送金が速く低コスト」「Google Payとの連携が便利」といった評価が多く、日本ユーザーからの満足度は高い水準を維持しています。

STICカードの事前登録

 STICカードを利用するには、まずSTICPAYのアカウントの作成が必須です。アカウントを開設しておくことで、入金や送金、カード発行の申請など、すべての機能をスムーズに利用できるようになります。登録は完全オンラインで、数分あれば完了するため、初めての方でも安心です。

1.公式サイトにアクセスし「会員登録」をクリック
トップページ右上の「会員登録」ボタンを押して登録画面に進みます。

2.必要事項を入力
以下の情報をフォームに入力します。

○メールアドレス

○氏名(First Name/Last Name)

○生年月日(Birthday)

○パスワード(8~16文字、英大文字・英小文字・数字を含む必要あり)

○国籍(Nationality)

○基軸通貨(Currency)

○利用目的(Purpose/Industry)

3.利用規約・ポリシーへの同意
利用規約(Terms and Conditions)、プライバシーポリシー、AML(マネーロンダリング防止)ポリシーへの同意にチェックを入れ、署名フォームにサインして次へ進みます。

4.SMS認証を実施
次に、SMS認証が行われます。携帯電話番号を入力してコードを受け取り、入力することで本人確認を行います。

5.登録完了のメッセージ表示と確認メール
認証が成功すると登録したメールアドレス宛に確認メールが届きます。

6.本人確認(KYC/確認書類提出)
本格的に利用するには、住所証明・本人確認書類(パスポートや公共料金の請求書等)のアップロードが必要です。

登録時のポイントと注意点

 STICPAYアカウントの登録は非常にシンプルで、フォーム入力から認証までおよそ3分で完了するとされています。ただし、いくつか注意すべき点があります。まず、利用対象は18歳以上に限られているため、年齢条件を満たしていない場合は登録できません。また、サイト自体は日本語を含む複数言語に対応していますが、入力フォームは英語で記入する必要があるため、誤入力しないよう注意が必要です。さらに、登録時に選択する基軸通貨(例:USD)は、今後のチャージや取引の利便性に大きく影響するため、慎重に選ぶことをおすすめします。

まとめ 

 STIC Card 日本だけでなく世界中で使える利便性に加え、低手数料で柔軟に活用できることから、旅行や海外出張、デジタルノマドのライフスタイルにもぴったりだと思います。STICPAYウォレットと連携し、電子決済・支払い方法の幅を広げる強力なプリペイドカードです。

 現在、発行手数料が無料になるキャンペーンが実施されているため、早めの申込みがおすすめです。世界で自由に支払える一枚を、この機会に手に入れてみてはいかがでしょうか。

※本稿はPR記事です

現代の広告に必要不可欠な「DEI視点」とは?学生と共に考える広告表現のこれから

2025年7月8日、電通の関西オフィスにて、関西大学社会学部メディア専攻の守如子ゼミ・山本高史ゼミの学生32人(教授含め計34人)を招いたDEIセミナー&ワークショップを実施しました。

講師はdentsu DEI innovationsに所属するクリエイティブディレクター増山 晶氏。増山氏はDEI領域におけるソリューション開発の実績が多く、LGBTQ+やジェンダーをはじめクライアントとのプロジェクト以外にも教育コンテンツの開発、研修・セミナーなどの講師を数多く務めています。

プログラムは二部制で第一部ではDEIの基礎知識・広告事例について講義。第二部では実際にその内容が話題となった広告を取り上げ、第一部で学んだDEI視点をもとに広告をアップデートするアイデアディスカッションを実施しました。本記事では、同講義の内容やアイデアディスカッションの様子をダイジェストでお伝えします。

講師の電通 増山 晶氏
講師の電通 増山 晶氏

覚えておきたい、DEIの基礎知識

増山氏はまず、DEIの基礎知識としてダイバーシティ(Diversity/多様性)、エクイティ(Equity/公平)、インクルージョン(Inclusion/包摂)それぞれの意味を解説しました。

ダイバーシティとは、「人種、宗教、性別、性の在り方、年齢、障害の有無など、さまざまな組み合わせのたった一人の存在であること」です。エクイティとは、「一人一人がパフォーマンスを発揮できるよう、個々に必要なサポートをすることで社会構造のバランスが取れていない部分を補う」こと。インクルージョンは、「多様な人がお互いを尊重し価値観や個性を認め合い、共存していくこと」を意味します。

増山氏は各言葉の意味を簡潔に表現し、最後に「DEIとは、一人一人に普通があり、合理的配慮をし、誰も排除しない」ということだとまとめました。

講義中の様子

DEIの4つの領域とは?

次に増山氏は、dentsu DEI innovationsがサポートする4つのDEI領域を解説。「障害」「ジェンダー」「多文化」「ジェネレーション」について課題を含め説明しました。

「障害」については、障害を個人の問題として捉えるのではなく、社会の仕組みや環境によって生み出されるものと考える「障害の社会モデル」に触れました。

「ジェンダー」に関する説明では、性の在り方を考えるには「性的指向(Sexual Orientation)「性自認(Gender Identity)」「出生時に割り当てられた性」「性表現」という4つの物差しがあることを説明。そのうち、「性的指向」「性自認」の2つを合わせて頭文字から「SOGI」と言い、国際社会での“すべての人の性の在り方を人権として尊重する”呼び方であると話しました。

「多文化」については、フードダイバーシティや「やさしい日本語」について言及。「ジェネレーション」に関しては、少子超高齢社会の日本におけるウェルビーイングや、ヤングケアラー問題などについて説明し、最後に「DEIの領域のさまざまな組み合わせの中に社会や企業の課題が存在している」と語りました。

増山氏


DEIと向き合う広告事例

トピックは「広告とDEI」へ。女性の美の基準と性差分析、ジェンダー、家族、LGBTQ+の広告事例を紹介します。ここではルッキズム問題について、2020年に起こったコンプレックス広告に異議を唱える署名運動や、ボディポジティブなど、あるがままの魅力を共有する社会潮流に言及しました。講義の間、学生たちは真剣な表情で話に耳を傾け、熱心にメモを取る様子が印象的でした。

最後に画面に映されたのは、2023年に大きな反響を呼んだセイバンの「ランドセル選びドキュメンタリー」。子どもとDEIにまつわるさまざまな課題を自然に表現したとして、こども家庭庁の参照事例にも選定されているこの作品を学生と共に視聴し、講義パートは終了しました。

セイバン【セイバン公式】ランドセル選びドキュメンタリー篇 ※ 画像をクリックすると動画をご覧いただけます。

DEIの視点で広告をアップデートする

続いては、学生主体のワークショップ。学生たちには、実際の広告を一つ選び、その広告を、ダイバーシティを踏まえた広告に更新するという事前課題が出されていました。ワークショップでは6つのグループに分かれ各自の事前課題に加えて第一部のDEI講義内容を意識しながら意見交換。積極的に議論が交わされていました。その後、グループごとに代表的な事例について、DEIの視点からどのように表現やメッセージの可能性が広がるかをディスカッション。多様な受け手に配慮した、よりインクルーシブな表現にするためのアップデート案を発表しました。

ディスカッションの様子
Aグループが取り上げたのは、介護に関する広告。現状の広告について、介護の担い手を女性とする描写が、無意識の性別役割分業のイメージを強めてしまう可能性があるのではないかと、ジェンダーの視点から考察。また、親の介護は子(特に娘)がするもの、という固定観念が、子の選択の自由を狭めてしまう可能性にも着目し、親視点から子視点へのコピーの転換を提案しました。

増山氏は、ケア労働の視点、ジェンダーの問題、家族の問題など複合的な課題が含まれている。自分ゴトに昇華してコピーを変更した点がよく考えられていて素晴らしいとコメント。


Bグループは、ネットに掲載された化粧品広告を取り上げました。家事や育児を女性が担うものという前提で描かれている点や、「女性は常に美しくあるべき」というメッセージとして受け取られかねない点を、多様性の観点から議論。美に関心を持つことだけを肯定するような表現は、インクルージョン(包摂)の視点から見ると、多様な価値観を持つ人々を排除してしまう可能性もあるとし、「私を整える習慣」といった、自分らしさを尊重する視点を取り入れた表現を提案しました。

発表に対して増山氏は、「ご指摘の通り一部の女性に疎外感を与える可能性に加え、忙しくてもきれいでいるべきといった決めつけがあった」とコメント。ブランドの通常の広告とネット広告とのギャップの理由についても考える余地があると話しました。


Cグループは、生理に関するプロジェクト広告を取り上げました。生理の困難に病気が隠れている可能性もあるのに対して、広告が持つ前向きなメッセージが、ともすれば「生理のつらさは我慢すべき」「常にポジティブでいなければならない」という意図しない受け取られ方をする可能性を検討しました。該当の表現を見直し、無理をしない選択肢も肯定するコピーへのアップデートを提案しました。 

増山氏は、「私たち」と一くくりにしていることにも言及。生理はもともと一人一人違うものであるという、この広告が本来言いたかったことまでくんだ改善策になっているのが素晴らしいとコメントしました。


Dグループは、ルッキズムに関する広告をピックアップ。ルッキズムに反対する意図とは裏腹に、コンプレックスを刺激したり、美しくなりたいと願う人の気持ちまで否定的に捉えられたりする可能性について議論しました。多くの人が目にする場での広告という特性も踏まえ、表現方法によっては意図せず容姿への関心を喚起してしまうリスクもあるとし、ポスターのビジュアルを多様性を重視したものに変更。「あなたしかない魅力をありのままに」という方向性のコピーを提案しました。 

増山氏は、「誰もがそれぞれの魅力がある、ありのままのかわいさを大切に、と伝える手法やメディア選定などをよく検証できている」とコメントしました。


Eグループは、採用広告を取り上げます。コピーの表現が意図せずルッキズム的に受け取られる可能性や、ポスターのモデルが女性のみである点が多様な人材を求めるメッセージと合致しているか、という観点から議論しました。一方で、この広告でエントリー数が大幅に増えた事実や、ボディーコピーまで読めば意図は伝わることに触れ、広告表現の難しさについても言及。多様なモデルを起用し、「あなたらしさ」を強調するコピーへのアップデート案を提示しました。

増山氏は、「確かに、キャッチコピーだけでは誤解を招く可能性は否定できない。キャッチコピーではっとさせたうえで、ボディーコピーもセットで読んでもらう工夫が大切だろう。実際にサイトでは多様な人が出ているが、ポスターだけではそれもなかなか伝わらないのも事実。今回の発表で誤解される要素があることに私も改めて気づかされた」とコメントしました。
 

Fグループは、ムダ毛処理の広告を選びました。「女子にモテるため」という目的設定や、「エチケット」という言葉が、特定の価値観を押し付けるように感じられる可能性があると分析。自分自身の意思を尊重する「なりたい自分にスッキリ変身」といった、自分軸のコピーを提案しました。

増山氏は、シスヘテロ(生まれた時に割り当てられた性と自認する性が一致するシスジェンダーであり、かつ異性愛者であるヘテロセクシュアルの人)の恋愛をベースにしているという決めつけもあることに言及。男性は女性に受けるためにこうすべき、という「べき論」がジェンダー課題のいろんな分野にあると話しました。


最後に、山本教授も発表を行いました。自殺防止に関わる広告を取り上げます。自殺者は女性よりも男性が多い(※)という実際のデータとは異なり、女性をモデルとして描くことで、制作者の主観的なイメージが反映されている可能性を提起。また、駅という公共の場で二次元コードを読み込むという行為のハードルの高さにも触れ、このメッセージを本当に届けたい人に届けるためのメディア選定や表現方法について、別の可能性があるのではないかと投げかけました。 

※参考:厚生労働省自殺対策推進室警察庁生活安全局生活安全企画課「令和6年中における自殺の状況」 


増山氏は、「今回この広告を知って考えさせられた。メディアとして駅貼りポスター以外にもウェブサイトやモバイルサイトも検討できるのでは」と話します。他にも、男女一人ずつにする、違う年代の人も加えるなどキャストも検討の余地があると述べました。

ディスカッションの様子


学生たちは理解を深め、電通社員は新たな視点に気付かされる場に

終了後に行ったアンケートでは、プログラムの内容について100%が満足(とても満足+満足)と回答。またセミナー開催前は、DEIについて多くの学生が、「そもそもよく分かっていない・関心はあるが自信がない」と回答していましたが、終了後は「視野が広がり理解が深まった・関心が深まった」が大多数を占め、劇的な変化があったことが読み取れました。

学生からは「多様性や公平、包摂など理解しているつもりでも実際は本当の意味で自分自身が理解できていないことに気付いた」「DEIという言葉について調べてはいたが、一つ一つの意味やその関係についてしっかり知ることができて、すごく理解が深まった。また、言葉の理解が深まったことで実際の事例についてより広い視点から問題点や改善方法を考えることができてとてもおもしろかった」などの声が寄せられました。

守教授は講義後大学内でも一人一人にリポートを書いてもらうなどの事後展開を考えているとのこと。山本教授は、講義後の振り返り会で、「DEIのようなことは表現に携わる者からすると、一見厄介なものに思えるかもしれない。しかしその知識によってこれまで気がつかなかった思考や表現のフィールドが広がる」という話を学生たちにされたそうです。

守如子教授とディスカッション
守如子教授とディスカッション
山本高史教授
山本高史教授も課題発表に参加してくださった

熱心な学生たちの新鮮な視点や意見は、参加した講師や電通社員にとっても新たな気付きがたくさんあり、学生・電通の双方にとって学びのある有意義な時間となりました。

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高齢世代の負担が増加?金融所得に応じて医療・介護保険の保険料が変動、政府が検討

●この記事のポイント
・政府が、医療保険や介護保険などの社会保険料の負担額に、金融所得を反映させることを検討
・比較的高額な金融資産を持つ高齢世代から広く社会保険料を徴収していく方針か
・厚労省「年齢にかかわらず負担能力に応じて負担していただくことを目指す」

 政府が、医療保険や介護保険などの社会保険料の負担額に、金融所得を反映させることを検討している。金融所得に応じて負担する社会保険料が変わることになる。現在、社会保険料は給与や年金などの額に応じて決まっており、金融所得については確定申告をしなければ社会保険料に反映されないため、以前から不公平が生じていると指摘されている。

 一世帯あたりの金融資産は現役世代より高齢世代のほうが高く、日本の金融資産は高齢世代の保有比率が高いため、「比較的高額な金融資産を持つ高齢世代から広く社会保険料を徴収していくのが狙いではないか」(霞が関官僚)との見方もある。もっとも、導入には法改正が必要などハードルも高い。具体的にはどのような制度が検討されているのか、また、導入される場合、時期はいつ頃になるのか。厚生労働省への取材を交えて追ってみたい。

●目次

厚労省「負担能力がある方には負担をしていただくという観点」

 現在検討されている制度は、具体的にどのような内容なのか。また、現行制度からどのような点が変更されるのか。厚生労働省は次のように説明する。

「金融所得というのは、株式や債権譲渡、配当金などですが、確定申告を行うかどうかは本人が選択できます。つまり確定申告をするか、しないのかによって、医療保険や介護保険の負担額が変わってくるので、これでは不公平だという問題があります。その不公平を是正できないかというのが、今検討している背景です。不公平の是正というのに加えて、社会保障制度自体を持続させていくためにも、年齢にかかわらず負担能力に応じて負担していただくことを目指すことが必要だと考えております」

 制度が導入された場合に、国民負担が増加する可能性はあるのか。

「その部分に関しましては、具体的な予算の検討はまだ行っていないので、お答えができません。高齢者層の医療・介護の保険料の負担増が目的なのかという点につきましては、負担増が目的ではなく、繰り返しになりますが、あくまでも負担能力がある方には負担をしていただくという観点になります」(厚労省)

 同制度の導入に向けては課題もあるという。

「どのように一人ひとりの金融所得を把握していくのかという問題があります。考えられる方法の一つとしては、法定調書を活用するという方法も想定されますが、その場合においても、証券口座とマイナンバーの紐付けが欠かせませんので、大きな課題だと考えています」(厚労省)

 法定調査とは、金融機関が国税庁に提出する、口座保有者の配当・利子の支払いなどに関する資料。現在の法律では金融機関が自治体に提出することは想定されておらず、法改正が必要となる。また、保険料負担者が複数の金融機関を利用している場合、各金融機関における支払い額を合算する「名寄せ」が必要になる。厚労省が「証券口座とマイナンバーの紐付けが必要」というのは、このためだ。

新たな仕組みが必要に

 金融資産は高齢世代の保有比率が高く、「金融資産をより多く持つ」高齢世代から、保険料を多く徴収していくことが目的ではないかという見方もある。

「高齢者の方々からより多く徴収するというよりは、応能負担ということです」(厚労省)

 今後の導入時期としては、どのような予定なのか。

「令和5年12月に閣議決定された改革工程のなかで、2028年度までに検討する取り組みの中の一つとして書かれておりますが、実施自体については検討とはなっていませんので、実際に導入される場合も、28年度以降ということになります。また、実際に導入するとなった場合には法改正も必要になります。社会保険側にも法定調書を出してもらうという仕組みも必要になりますので、それをどの法律に規定するのかも含めて、新たな仕組みが必要になると考えております」(厚労省)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

核融合発電、開発を加速=日本企業12社出資で会見―米新興CEO

 核融合発電技術の開発で先行する米新興企業コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS、マサチューセッツ州)は3日、東京都内で記者会見を開いた。登壇したボブ・マムガード最高経営責任者(CEO)は、三菱商事など日本企業12社から出資を受けたことを説明。「あらゆる分野の技術を集める必要がある」と述べ、開発を加速する考えを示した。

 核融合発電は、原子核同士が結合することで生まれる膨大なエネルギーを活用する。発電過程で二酸化炭素(CO2)を出さず、次世代エネルギーとして注目されている。マムガードCEOは、核融合発電の供給網に日本企業も含まれると明らかにした上で、「日本は長期的にこの分野のリーダーになると思っている。日本に核融合の発電所をつくることになれば手伝いたい」と語った。

 CFS社はマサチューセッツ工科大発のスタートアップ(新興企業)で、2018年設立。30年代前半の商業用発電所の運転開始を目指している。今回、国内12社や海外企業から総額8億6300万ドル(約1280億円)の資金を調達した。

(記事提供元=時事通信社)

(2025/09/03-17:18)

ヤクルト1000ブーム沈静化でも安泰?ヤクルト、高収益&グローバル企業の強さの秘密

●この記事のポイント
・一時は入手困難といわれるほどの高い人気でブームとなった「ヤクルト1000」が踊り場を迎えている
・ヤクルト、売上高営業利益率10%超、売上高・営業利益のうち海外事業が約半分を占める
・アメリカを含む米州での本数増、価格改定効果で増収増益となり、国内飲料・食品セグメントの減収減益をカバー

 2021年に全国発売された乳酸菌飲料「ヤクルト1000」シリーズ。店頭専用商品の「Y1000」と宅配専用商品の「Yakult1000」から成り、一時は入手困難といわれるほどの高い人気でブームとなったが、昨年頃からはメディアなどで“ブーム終焉”というマイナスの表現を使われることも目立つようになった。販売数量ベースでは、確かに踊り場を迎えている状態といえるかもしれない。店頭専用商品の2024年度の販売本数は105万本で、計画の130万本には達しなかったものの、23年度の102万本からは微増。

 一方、宅配品の24年度の販売本数は196万本で、23年度の216万本から約1割減となっている。製造・販売元のヤクルトの業績は悪くはない。25年3月期の売上高は前期比0.7%減の4996億円で横ばい、営業利益は同12%減の553億円だが、売上高営業利益率は10%超を維持している。

 注目すべきは海外売上高比率の高さだ。売上高、営業利益のうち海外事業が約半分を占めており、グローバル企業としての顔も持つ。ブームが落ち着いたとされるヤクルト1000の事業について、同社はどのように拡大させていく計画なのか。また、今年で創業から90周年を迎える老舗企業である同社は、どのような成長戦略を描いているのか。同社に取材した。

●目次

宅配・直販チャネルの垣根を超えた全社的な施策を実施

 日本人であれば誰もが知る「ヤクルト」シリーズを製造・販売するヤクルトは、現在では清涼飲料や健康食品、麺類なども手掛ける大手食品メーカーであり、化粧品やペット商品なども商品ラインナップに揃えている。そんな同社をめぐり昨年頃からいわれているのが、「ヤクルト1000」の失速だ。とはいえ、年間で販売本数約300万本という数字からはヒット商品という表現がふさわしい。24年度は販売計画を下回った要因、今後の販売拡大に向けた戦略について、同社は次のようにいう。

「前年度の販売計画を下回った要因としては、新規顧客獲得が計画どおりに進まなかったからです。宅配の『Yakult1000』に関しては、2025年1月に『Yakult1000 糖質オフ』を全国発売しましたが、ヤクルトレディによる新商品紹介活動が既存顧客中心となったことから、結果として『Yakult1000』からのスイッチに留まり、Yakult1000類全体での増客が図れませんでした。25年度については、離反防止を目的とした顧客の定着化に加え、新規顧客獲得に向けた活動にも注力し、全体的な顧客数の増加を図ります。

 続いて、店頭の『Y1000』に関しては、前年度は、継続飲用を目的として6本パックの配荷を強化したことで客単価アップを図れた一方、単品の購入率が減少し、販売計画に対して本数は微減となりました。25年度については、4月から『Y1000Y 糖質オフ』を導入し、日経POS新商品ランキングにおいても飲料カテゴリーで1位となっています。引き続き、相手先販促への協賛などを行うことで配荷拡大を進めていきます。

 ヤクルト1000シリーズ全体としては、25年度がヤクルト創業90周年にあたる節目の年であるため、宅配・直販チャネルの垣根を超えた全社的な施策を実施し、ヤクルト1000シリーズ全体での売上拡大に取り組みます。ヤクルト1000シリーズの販売目標としては、330万本(Yakult1000類210万本、Y1000類120万本)です」

海外事業が好調

 業績としては25年3月期の国内飲料・食品セグメントは減収減益となったものの、会社全体では売上高は前年度から横ばいで、営業利益率は10%以上と高収益を維持している。その要因は何か。

「海外事業の実績が要因としてあげられます。米州での本数増、価格改定効果に各地域での為替の円安が加わり増収、増益となり、国内飲料・食品セグメントの減収減益をカバーしています。

 海外の売上高としては、米州地域では、メキシコ、アメリカが前期に引き続き堅調に販売本数を伸ばし、本数全体では2.6%増となりました。さらに各国での価格改定効果に加え、為替のプラス影響も26億円あり、96億円増収の918億円となりました。アジア・オセアニア地域では、ベトナムが約20%増と1日当たり100万本を超えても順調に販売本数を伸ばしているものの、主要国の中国、インドネシアでの本数減少が影響し、アジア全体の本数は5%減少しました。しかし、為替のプラス影響が72億円あり、15億円増収の1348億円となりました。ヨーロッパは販売本数を7.6%伸ばし17億円の増収となり、海外全体では129億円増収の2387億円となりました。

 営業利益について、米州地域では、販売本数増と値上げによる粗利増により経費増を吸収し、そこに為替のプラス影響10億円が加わり、40億円増益の257億円となりました。アジア・オセアニア地域は、販売本数減少の影響があったものの、中国での人件費減等の経費減や為替のプラス影響もあり、10億円増益の107億円となりました。ヨーロッパは売上増により4億円の増益となり、海外全体では55億円増益の367億円となりました」

「乳酸菌 シロタ株」の普及に努める

 前述のとおりヤクルトは海外事業の売上比率が高いが、どのように海外事業を拡大させてきたのか。そして、海外事業の今後のさらなる成長に向けて、どのような戦略を描いているのか。

「弊社の海外事業は1964年に台湾から始まり、現在では39の国・地域で『ヤクルト』を販売しています。弊社の海外事業は『ヤクルト』に含まれる『乳酸菌 シロタ株』の飲用価値を、確実にその国・地域の人々に理解してもらうことを主眼に展開してきました。今後は、既進出先の国・地域のなかで科学的エビデンスを積み重ね、引き続き、『乳酸菌 シロタ株』の普及に努めると同時に、それぞれの国・地域のお客さまニーズに合わせた商品・サービスを提供することで、健康づくりに貢献します。まだまだ多くの国・地域が進出先として残されていますので、それらの国・地域に進出することで事業拡大のドライバーとしていきます」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

サステナブルな商品を“選びたくなる”経済学を活用した仕掛けとは? ―サステナビリティ×プライシング②―

電通が2025年6月に行った消費者アンケートでは、「物価高で環境に配慮する余裕がない」という消費者意識が根強く見られました。

「サステナビリティに配慮された商品は高価格でも買いたいという意識はあるが、実際の行動には移されない」「同じ商品・同じ価格の場合、サステナビリティ配慮よりも、自分にベネフィットがあることが記載されている方が選ばれやすい」ということを複数の学術論文が示しています。

そこで今回は、経済学の見地から「高価格帯のサステナビリティ配慮商品を“選びたくなる”よう仕掛ける方法」というテーマで、大阪大学経済学部の安田洋祐教授にインタビュー。電通サステナビリティコンサルティング室の遠山若菜がお話をお伺いしました。

(左から)大阪大学経済学部 安田洋祐教授、電通 遠山若菜
(左から)大阪大学経済学部 安田洋祐教授、電通 遠山若菜
<目次>
サステナビリティ配慮商品は、“サステナブル”ではない?

値上げをチャンスに変える心理戦――おとり効果で選ばれる価格設定

「意味がない」から、意味がある?――シグナリング効果で企業価値を高める

正直な「支払い意欲」を引き出す――BDMメカニズムで需要を推計する

サステナビリティ配慮商品は、“サステナブルではない”?

遠山:最近、米や野菜などの値上げに直面し、「フェアな価格とは何か?」への意識が高まっているように感じます。サステナブルな商品は一般的に価格が高く、そこに環境や社会への配慮といった背景があると理解しつつも、実際には手に取りにくくなっています。サステナブルな商品がより選ばれるために、プライシング(価格設定)の面でどのような工夫が可能なのでしょうか。

安田:まず「フェアな価格」についてですが、経済学の観点では、価格はそもそも需要と供給によって決まるものと捉えます。市場に対して外部から価格を調整しようとする介入は、短期的には効果があるように見えても、中長期的にサステナブルではありません。少し意地悪な言い方をすると、「売れないサステナビリティ配慮商品はそもそもサステナブルではない」のです。

遠山:地球環境や社会にとって良いものでも、事業の持続性がないから、ですね。

安田:経済的なインセンティブの仕組みをきちんと設計し、それに乗せる形で事業を展開していくことが重要です。そうすることで、生活者にとっても自然な選択肢として受け入れられる可能性が高まるのではないでしょうか。また、同じ商品やサービスでも、どう伝えるかによって消費者の「支払い意欲(Willingness to Pay)」は大きく変わります。

遠山:なるほど……今日は「自然な選択肢」として受け入れられる可能性を高める、経済学の知見をいただけるとうれしいです!

値上げをチャンスに変える心理戦──おとり効果で選ばれる価格設計

遠山:事業の観点では、既存商品やサービスをサステナビリティ配慮商品に置き換えていくには、まだ慎重にならざるを得ない部分があるのが現実です。特に、すでに市場に出ている商品がある中での切り替えや、昨今の原材料高騰による価格改定など、複数の要因が重なる中で、どのような打ち手があるのか——。これは多くの企業が直面している課題ではないでしょうか。

安田:値上げが避けられない現状を踏まえると、むしろ今こそ「サステナビリティ」を付加価値として価格に組み込むチャンスではないでしょうか。経済行動の心理学で知られる「おとり効果(decoy effect)」を活用することで、消費者の選択を後押しすることも可能です。

遠山:おとり効果……。具体例を教えてください。

安田:例えば、新聞や雑誌などで紙媒体とオンライン版の両方を提供しているケースを考えてみましょう。紙だけの価格、オンラインだけの価格、そして紙+オンラインのセット価格があるとします。たとえば、オンラインだけの価格が3000円で、紙+オンラインのセット価格が5000円だとしましょう。このとき、多くの消費者はどちらを選ぶか迷うかもしれません。価格と価値にトレードオフがあり、どちらの方がより魅力的かをすぐには判断できないからです。

ここで仮に、紙だけの価格を、セット価格と同じ5000円に設定したらどうなるでしょうか。この場合には、紙+オンラインの方が紙だけよりも明らかにお得なので、消費者は二つの選択肢から迷わずにセットを選びます。すると、面白いことに、オンラインだけと比較しても、紙+オンラインが相対的に魅力的に見え、結果的により選ばれやすくなるのです。あくまでわかりやすくお伝えするための仮想の話ですが、価格の提示方法によって消費者の選択が変わることは想像いただけると思います。

この考え方は、サステナブルな商品にも応用できます。たとえば、サステナビリティの要素が入った新商品がサステナビリティ要素のない既存商品よりも20%高い価格で売られていても、多くの人はなかなか手を伸ばしてくれないでしょう。どんなに価値が高くても、価格の違いが目立ってしまうからです。ところが、既存商品の価格も20%値上げしたらどうなるでしょうか。消費者は「どうせ同じ値段なら、より価値のあるサステナビリティに配慮した商品を選ぼう」と判断する可能性が高いです。つまり、価格の相対性と付加価値の見せ方次第で、サステナブルな選択を促すことができるのです。

安田氏
遠山:たしかに、通常の商品とサステナブル要素が加わった高価格の商品が並んでいれば、多くの人は価格の安い方を選びたくなりますが、価格が同じであれば「せっかくならサステナブルな方を選ぼう」という気持ちが自然と働きますよね。

安田:同じ商品がただ値上がりしていくよりは、自ら「サステナビリティ商品を選んだ」と感じる方が納得できるのではないでしょうか。

遠山:「サステナビリティ」と聞くと特殊で構えてしまう印象を持たれがちですが、サステナビリティをいったん「数ある商品オプションの一つ」と、ライトに捉え直すことでバイアスを外した捉え方ができますね。自社の商品・サービス群の中で「おとり効果」を活用する方法もありますし、値上げの際も、「ただ値上げしているだけの他社」と差別化できるよう、サステナブルな要素を加味した商品やサービスにすることは、自社ブランドを選んでもらう理由として強い説得力を持ちそうです。

「意味がない」から、意味がある?──シグナリング効果で企業価値を高める

対談崇敬

遠山:買う側の心理では「商品が特別にサステナブルだから買いたい」というより、「サステナビリティに注力する企業だから安心・信頼できる」という感覚だと思います。サステナビリティはコーポレートブランディングの発信あってこそ、事業部が安心して取り組めるのではないかなと。

安田:そうですね。もし仮にサステナビリティへの取り組みが、企業の利益に直接的な効果を全くもたらさなかったとしても、それでも情報発信に投資する意義はあるかもしれません。理由は、「企業がサステナビリティに投資している」という事実は、投資家や就職希望者に対してポジティブなシグナルとして受け取られる可能性があるからです。これは経済学でいう「シグナリング理論」に基づく考え方です。

遠山:シグナリング理論とは、どんなシグナルが出るのでしょうか?

安田:例えばテレビCMを出している企業は就職活動で人気が出ることが多いです。CMにお金がかかることは一般的に知られているので、「CMを出すくらいだから、きっとあの企業は余裕があってもうかっているのだろう」という隠れたシグナルが人々に送られているわけです。そういう余裕があるところで働きたいなとか、消費者の場合には、広告にお金を出すほど商品に自信があるメーカーの方が安心できそう、といった理由で選びやすくなります。

遠山:「サステナビリティに力を入れている企業」も、直接の商品ベネフィットとは別のシグナルが出ているのでしょうか。

安田:逆説的ですが、「サステナビリティは短期的な利益を生まないからこそ価値がある」と捉えることもできるかもしれません。もし、サステナビリティを訴求しても「その商品が売れるわけではない」なら、そこにあるシグナルは「役に立たないことにあえて取り組める余裕のある企業」あるいは、「他社が慎重な中でスピード感を持ってサステナビリティに投資できるアジリティの高い企業」となり、いずれも将来性のある企業として評価される可能性があります。先行して訴求する場合は大きな価値があるように思います。

遠山:先行して取り組む企業が見ている景色と、二番手・三番手として後から追随する企業が見る景色は、時間とともに差が開いていきますよね。どのタイミングでサステナビリティ訴求にかじを切るかは、企業にとって非常に悩ましいです。しかし、「サステナビリティは売り上げに役立たないからこそ、価値がある」というのは、とても面白い観点です。サステナビリティのコスト増分を回収しなきゃ!ではなく、先行してサステナビリティへの注力を見せて「将来性がある企業」というシグナルを出し、株価や就職意向の期待を高めることにつなげる。そういう形での投資回収は確かにあり得ますね。

正直な「支払い意欲」を引き出す――BDMメカニズムで需要を推計する

安田氏

遠山:最後に、冒頭でお話しされていた「支払い意欲」を引き出す価格設定プロセスについて、お伺いできますか?

安田:経済学にBDMメカニズム(Becker-DeGroot-Marschak mechanism)という、商品に対する個人の支払い意欲を測定する手法があります。ある人が商品に対してどれくらいの価値を置くかを、正直に申告するように動機づけるメカニズムです。このBDMメカニズムを活かして、「支払い意欲」を客観的に測って、「需要の推計」を事前に行うことで、価格戦略や販売戦略の精度を高めるサービスを、昨年エコノミクスデザイン社でローンチしました。

遠山:具体的にはどのような手法・プロセスで価格を設定していくのでしょうか?

安田:BDMメカニズムとは、1996年にノーベル経済学賞を受賞したヴィックリー(Vickrey)のオークション理論に基づき、消費者の「本音の支払い意欲」を引き出す価格調査の手法です。調査は疑似的なオークション形式で行われるため、「BDMオークション」とも呼ばれます。参加者が提示した金額(入札価格)が、メカニズム側が選んだ擬似的な価格(擬似価格)を上回っていたときに、後者(疑似価格)の金額で商品を買えるというものです。入札価格が疑似価格を下回っていた場合には、商品は得られません。メカニズムが定めるこの金額は参加者には伏せられており、ランダムに選ばれる場合が多いです。

この仕組みの肝は、参加者が疑似的なオークションに勝って商品を購入する際に、「自分が提示した価格」をそのまま払うのではなく、自分が直接コントロールできない疑似価格を支払う、という点です。この特徴によって、参加者は自分の商品に対する価値を正直に申告するのが最適になる、という性質が保証されます。つまり、オークションで「高い価格を最初から言うと損をしそうだから安めに言っておこう」、あるいは「どうしても欲しい商品だから高めに言ってみよう」といった心理的なバイアスを排除し、参加者から“本当に支払ってもいいと思える正直な価格”をうまく引き出せるのです。

遠山:BDMは調査参加者が正直に支払える価格をつけた方が損をしない仕組みですね。この調査は、商品発売前に行うのでしょうか。

安田:基本的にはそうですね。すでに発売され定価や価格相場がわかっている商品だと、それらが価格の基準になってしまうので、本音の価値を聞き出すのが難しいのです。

遠山:実際の調査でも、調査参加者は「買う」のですか?また、調査の方法も、同じ商品でも売られている場所にも影響を受けることも踏まえて設計されているのでしょうか。

安田:実際の調査でも買っていただきます。身銭を切って商品を獲得できる可能性があるからこそ、消費者から本音を聞き出せるので。調査では、値付け前にどういう説明やプレテストを行うか、商品をどういった場所や環境に置くか、補完的なアンケート調査で何を尋ねるかといった、BDMメカニズム以外のさまざまな点についても詳細にデザインします。

遠山:商品を手に取りたくなる工夫には表現も重要ですが、複数の表現パターンに対して、事前に支払い意思額も比較・分析することで、より適切な価格設定が可能になりそうですね。「サステナビリティはもうからないからやれない」と踏み出せないでいる企業の方々も、この金額でこの売り方なら買ってもらえるという納得感のあるデータを提示できれば、上層部の承認を得やすくなるのではないかと思います。

安田:まさに「需要の推計」が目的なので、そういった目的でBDMメカニズムを使っていただけるとうれしいです。

遠山:本日はお忙しい中、経済学の見地からさまざまな刺激になるお話をありがとうございました。

安田氏、当山氏

今回のインタビューでは、売り上げにつながらない“サステナビリティ商品”をどう魅力的に価格設定できるか、サステナビリティのプライシングをテーマに幅広くお話を伺いました。

おとり効果、シグナリング理論、BDMメカニズムなど、経済学の学知が、今の生活者との向き合い方を変える可能性を感じました。また、「サステナブルかどうか」という枠を超えて、意思決定のメカニズムに働きかける、心理学的アプローチを取り入れた購買行動の設計が、サステナブルな選択を自然と促す仕組みづくりに重要だと感じました。(遠山)

 
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スタートアップ投資で小売・流通を変革、新機軸の独立系VC

●この記事のポイント
・New Commerce Venturesは2022年設立の小売・流通特化型VCで、設立から3年弱で30社に投資してきた。従来の効率化では限界が見える業界に対し、スタートアップと事業会社を結び、サプライチェーン全体の課題解決を図る点が特徴。
・投資後は協業を形にする支援に強みを持ち、OpenFactoryとGMOメイクショップの連携事例などを生み出してきた。「入口の資金調達の歪み」や「出口の多様性不足」に課題を感じつつ、AIやロボティクスを先取りし業界を変えるスタートアップを育成する構想を描く。今年は2号ファンド組成も視野に、業界変革のハブを目指している。

 人材不足、物流コストの上昇、低い利益率。小売・流通業は数多くの課題を抱え、従来の効率化だけでは限界が見え始めている。そこに挑むのが、New Commerce Ventures。2022年に設立されたこの独立系VC(ベンチャーキャピタル)は、スタートアップと事業会社を結ぶことで、新しい産業の仕組みを描こうとしている。

 今回は同社代表パートナーの松山馨太氏と同・大久保洸平氏にインタビューし、そのチャレンジの経緯と活動の詳細、思い描く未来を聞いた。

●目次

小売・流通に特化した新機軸の独立系VC

 2022年8月に設立されたNew Commerce Venturesは、小売・流通領域に特化した国内でも珍しいベンチャーキャピタルである。設立から3年弱で、すでに30社へ投資しており、そのスピードが際立つ。

 投資するスタートアップは「コマース」という言葉が想起させるEコマースにとどまらない。スーパーやコンビニエンスストア、百貨店、さらには家電量販店や専門店に至るまで、小売業全般の課題解決に挑むリテールテック、物流、飲食やサービス業にまで投資対象を広げる。つまり、モノやサービスの生産から消費者に届くまでのサプライチェーン全体を射程に入れているのだ。

 出資先の事例として、食品流通業界のマーチャンダイジング業務のDXソリューションを提供するスタートアップ、デリズマートを挙げよう。原材料高騰や消費者の節約志向に直面する小売業界に対し、同社はPBの商品企画から製造までを一気通貫して担い、すでに複数の店舗でヒット商品を生み出した。創業者の上村友一氏は高級レストランを運営するひらまつでシェフを務めていた人物だ。「どの食卓にも一級品が食べられる日常を届ける」という理念のもと、日本の食卓に新しい選択肢を根付かせようとしている。その挑戦を、New Commerce Venturesは高く評価し支援している。

 創業者の一人である代表パートナーの松山馨太氏はこう話す。

「小売・流通を支援するスタートアップに投資するだけでなく、事業会社とつなげることで両者が成長できるエコシステムを生み出したい。そのエコシステムの役割を担いたいのです」

VCの同僚から共同創業者へ

 松山氏ともう一人の創業者・大久保洸平氏は、New Commerce Venturesの共同代表である。二人はYJキャピタル(現Z Venture Capital)の出身で、4年間同じ職場で過ごした。日々の業務を通じて築いた信頼関係が、独立の土台となった。

「それまでも会社帰りに一緒に飲んで帰るような仲でした。2021年末、飲みながらキャリアの話をしているうちに、二人のキャリアの合致点が見えてきて、“独立”という選択肢が急に現実味を帯びたんです」と大久保氏は振り返る。その後わずか数か月で退職を決意し、資金調達へと動き出した。

 松山氏には、さらにもう一つの背景がある。YJキャピタルに入る前、起業に挑戦した経験を持つのだ。しかし事業は思うように軌道に乗らず、悔しい結果に終わった。入社当初は「3年後には起業する」と心に決めており、同僚の中でも優秀だった大久保氏に、起業アイデアを持ち込み、議論を重ねることも少なくなかった。

「地域の課題を解決したいと考え起業したが、VCをやってみて思ったのは、優秀な起業家が世の中にたくさんいて、同じような課題を解決している。だったら自分が一つの事業を立ち上げるよりも、そうした起業家を支援して、事業会社とつなぎ、生活者に届けるほうが圧倒的に大きなインパクトを生み出せると思ったんです」

 この経験が松山氏の視座を大きく変えた。起業家として「自分の事業を成功させる」ことから、投資家として「数多くの起業家を支援する」ことへ。その失敗こそが、いまのVCとしての姿勢を形づくったのだ。

「特化」に見いだしたVCとしての勝ち筋

 2022年の春、二人は退社し独立。当初、最大の課題は資金集めだった。Exit実績のないなかで、LP(ファンドに資金を提供する投資家)からの信頼を得る必要があったからだ。

「我々は大きなIPO(株式新規上場)やM&A(合併・買収)のトラックレコード(実績)を持っていませんでした。その中で選ばれる理由をどうつくるか。そこで、これまで存在しなかった『小売・流通領域特化型』ファンドにするという差別化が勝ち筋だと考えました」と、大久保氏は語る。

 設立からわずか4カ月で事業会社を中心にLP出資を取り付け、2022年8月のファーストクローズに至った。LPにはEC関連企業や決済企業、さらにはメディアやアパレルなど幅広いtoCビジネス企業が名を連ねる。スタートアップと接点を持ちたいという思惑は強く、「この領域のスタートアップに網羅的に会える」という強みを訴求している。

 投資先の7割はシードステージで、出資額は3000万〜5000万円程度。残り3割はミドル・レイター案件に投資する。基準は「製造から消費者に届くまでのサプライチェーン上の課題解決をしている会社」であることだ。

 松山氏は、経営者を見る際のポイントをこう説明する。

「シードステージの場合、やはり経営者を重視します。ポイントは3つ。誰よりもその分野に詳しいこと。PDCAをスピーディーに回せる行動力。そして逆算思考です。実現したいという想いが強いからどんどん詳しくなるし、詳しいからこそ選ばれる理由や勝ち筋を見つけられる。そしてそのアイデアを高速で検証する行動力があるか。さらに高いゴールを設定し、そこに至る逆算のステップを描けるか。この3つが揃っているかを見ています」

 たとえば、ソーシャルコマースを展開するBoomeeは、代表の沼田佳莞氏の行動力と吸収力が際立つという。松山氏は「アパレルに対する知識ゼロから高速でヒアリングや検証を繰り返し、短期間で製造から販売まで解像度高く設計している。その姿勢は投資家として惹かれるポイントです」と話す。

 一方、大久保氏は経営者に対して「10年間一緒にやりたいか」という基準を挙げる。

「失敗しても応援できる相手か、10年間ともに過ごしたいと思えるか。ファンドは10年続くので、その感覚は大事です」。

協業を「形」にする投資後支援

 New Commerce Venturesの真骨頂は、投資後の支援にある。単なる資金提供ではなく、スタートアップと事業会社を結びつけ、協業を「形」にすることを重視してきた。

 その代表例が、OpenFactoryの事例だ。LPの一つであるECサイトシステムを提供するGMOメイクショップと、一点モノの商品をオンデマンドで作るAPIを提供するスタートアップ・OpenFactoryを引き合わせた。結果として協業が始まり、GMOメイクショップを利用する小規模事業者でも、大手と同じようにオリジナル商品の製造販売を可能にした。その後、両社は資本業務提携にまで発展している。

 こうしたエピソードは、New Commerce Venturesが「オープンイノベーション」という言葉を単なるスローガンに終わらせないことを示している。大久保氏は強調する。

「紹介して終わりではなく、協業にまで持っていくことを意識しています。それが我々の差別化の源泉なんです」

「入口」と「出口」、それぞれの課題

 松山氏は、まず「入口」にあたる資金調達段階への危機感を語る。

「シードのバリュエーション(企業価値評価)が高止まりしていて、その後の成長で苦しむ企業が増えている。VC間の競争が要因になっている部分もあり、本当に良いことなのか疑問です」

 有望なスタートアップを奪い合う結果、企業価値が実態以上に膨らむ。調達直後は華やかでも、次のラウンドで成長が追いつかず、資金繰りに苦しむ企業も少なくない。松山氏が懸念するのは、こうした「入口の歪み」が成長力をむしばむ点だ。

 一方で、「出口(Exit)」にも課題があると大久保氏は指摘する。

「VCビジネス自体の持続可能性を高めるにはExitの多様化が不可欠。M&Aや大企業のケイパビリティ強化が進まなければなりません」

 資金の循環が滞れば、エコシステムは育たない。いずれ投資先はExitを迎える。その際、IPOだけでなくM&Aのアレンジを担うことも、New Commerce Venturesが果たすべき役割だという。

「海外の領域特化ファンドでは、事業会社とのネットワークが厚いほど、スタートアップが『相談したい』と集まってくるという循環ができています。つながりの中で統合し、大きくなっていく。僕らもそうした存在になりたいと考えています」(松山氏)

 実際、同社はスタートアップと事業会社を結ぶオフラインイベントやカンファレンスを定期的に開催し、共同事業の創出を後押ししている。さらに大久保氏は業界団体へも積極的に関与し、ネットワークを広げている。そこから事業会社を巻き込んだExitが生まれる可能性も視野に入れている。

小売業のビジネスモデルを変える存在に

 そんな同社が今後、積極化していきたいのは、AI領域とロボティクス領域だ。大久保氏は言う。

「AIの進展で、生活者の意思決定のプロセスそのものが変わっていきます。従来は人が検索したり比較したりしていた部分をAIが担うようになれば、小売・流通のビジネスモデルは根底から変わります。また、労働力不足が起きてくるなかで、省人化のためのロボティクスの導入も求められます。その変化を先取りして業界を支えるスタートアップを増やしたいと考えています」

 その動きはすでに始まっている。コンピュータービジョンを活用した省人店舗システムを開発するスタートアップ・VisionAIや、AIによってEC運営を効率化するSync8への出資も、その文脈に沿ったものである。

 二人はさらに先の未来も明確に思い描いている。小売・流通の現場にある課題を解決するスタートアップが次々と生まれ、事業会社との協業を通じて産業全体が活性化していく社会である。

 小売業は従来から利益率の低い構造に縛られてきた。人材不足や物流コストの上昇といった課題も重なり、従来型の効率化だけでは限界がある。だからこそ、新しい技術や異業種との協業を取り込み、消費行動の変化をプラスに転じる必要がある。

 New Commerce Venturesは、その変化を共につくるスタートアップを増やし、業界の構造変革を後押ししていこうとしている。今年は2号ファンドの組成にも挑戦する予定だ。同社は、小売領域のスタートアップ、事業会社、VCを結ぶハブとして、産業の変革を滑らかに支える存在になっていくのかもしれない。

(寄稿=相馬留美/ジャーナリスト)