JRA 低迷する「ハマの大魔神」に久々の期待馬が登場!? 驚異のキレ味にC.デムーロが「重賞レベル」断言、ヴィクトリアマイル(G1)母子制覇も夢じゃない?

 5日、中京競馬場の8Rに行われた4歳上2勝クラスは、2番人気のディヴィーナ(牝4歳、栗東・友道康夫厩舎)が好位4番手から差し切り勝ち。単勝1.3倍の1番人気ジャスティンカフェとの競り合いを制し、前走から連勝を飾った。

「能力は重賞レベル。楽しみ」

 鞍上のC.デムーロ騎手がそう回顧した通り、まさにこれから一線級へ羽ばたいていく。そんなイメージが思い浮かぶレースだった。

 大外テーオーアマゾンのロケットスタートで幕を開けた、10頭立ての芝のマイル戦。ディヴィーナもまずまずのスタートを切ると、断然人気のライバルジャスティンカフェをマークする形で競馬を進める。

 手応え十分な状態で最後の直線を迎えると、坂の始めで先頭に踊り出て後は独壇場。唯一ジャスティンカフェが追撃するも、差は縮まらないまま、1馬身半差の快勝を収めた。

「前走からマイル戦を使っていますが、この距離が合うのでしょうか。ジャスティンカフェを寄せ付けない完勝でした。同コースで勝ち時計1分35秒3は平凡でしたが、ペースが遅かったため仕方ないでしょう。

ラスト300m過ぎに先頭に立っていますが、ラスト2ハロンのレースラップが『10.7-11.2』であることから、中京の急坂で10秒台半ばの脚を出していることになります。これならC.デムーロ騎手が重賞級と称しているのも頷けますね」(競馬誌ライター)

 そんな将来有望な4歳馬を所有しているのが、元プロ野球選手の佐々木主浩氏だ。佐々木氏は現役時代「大魔神」の愛称で親しまれた抑え投手で、引退後は野球解説・評論の傍らで馬主になった。

 すると、第二の才能に目覚めたのか。頭数は決して多くないものの、所有馬のヴィルシーナ・シュヴァルグランらが次々にG1を制するなど、新人馬主としては異例の活躍を見せた。これは、佐々木氏が無類の「相馬眼」を持っていたということだろうか。

 しかし近年の所有馬の活躍は、ブラヴァスが20年の新潟記念(G3)勝利した程度に留まっているように、一時期ほどの勢いは見られない。昨年は頼みの綱のブラヴァスが未勝利に終わる不振や所有馬の相次ぐ故障に見舞われて、自身の成績は12戦2勝。収得賞金の約2359万円は馬主デビュー年の07年に次ぐ2番目に低い数字だった。

 そんな苦しい状況のなかで、覚醒したのが自身に初のG1勝ちをプレゼントしてくれたヴィルシーナ産駒のディヴィーナだ。3歳5月デビューと順調さを欠くこともあったが、無事に3勝クラスまで到達。C.デムーロ騎手の見立てが現実となれば、久々の重賞勝ちも夢ではないかもしれない。

「今回のレースは道中で行きたがるシーンも見られたので、もしかしたら距離はもう少し短くてもいいかもしれません。ただ、能力はお母さん譲りですね。

出世は遅れましたが、父は晩成タイプのモーリスのため、このまま連勝を続けるようならヴィクトリアマイル(G1)に出走も視野に入りそうです。そうなると、母子制覇というロマンも期待できそうですね」(同)

 2着に敗れたが、昨年末にシュヴァルグランの全弟のイヴィステラがデビューするなど、復調の兆しが見えつつある佐々木氏。果たして再びG1の口取り撮影に、かつて対戦打者を恐怖のどん底に突き落とした「大魔神」の姿が現れるだろうか。

(文=坂井豊吉)

<著者プロフィール>
全ての公営ギャンブルを嗜むも競馬が1番好きな編集部所属ライター。競馬好きが転じて学生時代は郊外の乗馬クラブでアルバイト経験も。しかし、乗馬技術は一向に上がらず、お客さんの方が乗れてることもしばしば……

今年、個人消費が大幅回復か…カギはコロナ経口薬・GoTo・指定感染症の見直し

個人消費の回復に期待

 2022年の景気を占う上では、新型コロナウイルス経口薬の普及が大きなカギを握るだろう。特に、移動や接触を伴うビジネスにおける需要効果は大きいと思われる。なぜなら、コロナショックの影響で日本のサービス消費とインバウンド消費を含むサービス輸出は、2020年7-9月時点で、コロナショック前の2019年10-12期対比で年額換算してそれぞれ▲17.0兆円、▲4.1兆円減っているからである。

 ただ、2020年にはGoToキャンペーンによる下支えなどもあり、2020年10-12月期のサービス消費はコロナショック前の2019年10-12月期対比で年額換算▲12.2兆円まで一旦持ち直した実績がある。このため、仮にこのまま感染が落ち着いて2022年にGoTo2.0が実施されたり新型コロナ経口薬が実用化されたりすれば、日銀の試算では20兆円以上ともされる強制貯蓄の存在もあり、コロナショック以降に年額17兆円落ち込んだ国内のサービス関連消費の大幅な回復が期待できそうだ。

 加えて、現在第二類となっている新型コロナの指定感染症の見直しが実施されれば、新型インフルエンザ並みに保健所を通さずに開業医でも検査から治療までが可能になることが予想され、病床確保も容易になり行動制限発出のリスクも下がること等から、さらなる個人消費の盛り上がりが発生することが期待される。特にイベントに関しては、年明けに北京冬季五輪、夏にサッカーワールドカップが控えていることから、こうしたスポーツイベントに関連した特需が発生することが期待される。

 ただ、逆に経口薬の普及や指定感染症の見直しが遅れれば、個人消費は引き続きサービス関連消費を中心に停滞を余儀なくされる可能性もあるだろう。

リスクは日米中の政治

 今年の日本経済を占う上では、キシダノミクスの行方も大きなカギを握っているだろう。昨年秋に発足した岸田政権は、アベノミクスの継承とともに、新しい資本主義の実現を旗印に、成長と分配の好循環も打ち出した。しかし、分配政策は所得移転を促す政策であるため、需要の持ち直しが不十分ななかで強行すると、痛みを伴う可能性もあるだろう。

 特に夏の参院選で岸田政権の安定が維持されれば、しばらく国政選挙がないため、コロナショックで大幅に拡大した金融・財政政策にも緊縮圧力がかかる可能性がある。そもそもコロナショック以前でも日本経済は正常化していなかった。このため、経済が正常化する前に金融・財政政策が拙速に出口に向かうことにより、経済が正常化に向かうチャンスを逸すれば、日本経済が失われた40年に突入するリスクもあるだろう。

 また、22年夏に2人の日銀審議委員、23年春に日銀執行部に任期が訪れることからすれば、岸田政権が人選するこれらの日銀人事次第では、マーケットに日銀が金融緩和に消極的だった頃に先祖返りするリスクが意識される可能性もあるだろう。

 このため、参院選後の税制改正や日銀人事の状況次第で岸田政権の経済政策が緊縮に傾くことになれば、市場環境の悪化を通じて日本経済に悪影響を及ぼすリスクもある。日本株の売買は6割以上が外国人投資家であるため、特に金融政策がアベノミクスに近いほど外国人投資家が日本株を保有しやすくなり、逆に距離を置くと解釈されれば手放されやすくなる。そうなれば、日本経済も困難を強いられることになるかもしれない。

 海外では、バイデン政権の経済政策に対する不確実性も大きく影響を及ぼすだろう。なかでも最大の注目は、11月に控える米中間選挙である。ここで仮にバイデン氏率いる民主党が敗北して議会にねじれが生じることになれば、米国の政治が停滞する懸念が強まることになる。

 また、2021年のインフレ動向や急速な賃金上昇が予想以上に長引き、インフレ期待のじり高が続くと、FRBがより強力な金融政策の出口に向かうリスクもある。この実現可能性が高まれば、市場関係者は積極的なポジションを取りにくくなり、株安等を通じて米国経済に悪影響を及ぼす可能性がある。逆に、見通しどおりにインフレ圧力が年明け以降改善されるようなことになれば、米国経済にとってはポジティブだろう。

 中国経済もリスクだろう。21年後半の中国経済は電力危機や不動産セクターの落ち込みで急減速したため、エネルギー不足の緩和と不動産規制の微調整に動いている。しかし、電力不足は需要が高まる冬場に再燃する可能性があるため、冬季五輪に向けて大規模な工場の操業停止等の対応をしてくれば、中国経済に悪影響が及ぶ可能性もあるだろう。

 さらに、資源価格の高騰もリスクだろう。特に近年は、脱炭素化の傾向が強まっているため、世界の石油開発会社も化石燃料開発を抑制する傾向を強めている。しかし、代替エネルギー投資拡大により、石油開発に十分な投資が行われなくなるようなことになれば、70年代のオイルショックのように、世界経済が大きく混乱することになり、日本経済への悪影響も無視できないことになるだろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

●永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。

 

今年、個人消費が大幅回復か…カギはコロナ経口薬・GoTo・指定感染症の見直し

個人消費の回復に期待

 2022年の景気を占う上では、新型コロナウイルス経口薬の普及が大きなカギを握るだろう。特に、移動や接触を伴うビジネスにおける需要効果は大きいと思われる。なぜなら、コロナショックの影響で日本のサービス消費とインバウンド消費を含むサービス輸出は、2020年7-9月時点で、コロナショック前の2019年10-12期対比で年額換算してそれぞれ▲17.0兆円、▲4.1兆円減っているからである。

 ただ、2020年にはGoToキャンペーンによる下支えなどもあり、2020年10-12月期のサービス消費はコロナショック前の2019年10-12月期対比で年額換算▲12.2兆円まで一旦持ち直した実績がある。このため、仮にこのまま感染が落ち着いて2022年にGoTo2.0が実施されたり新型コロナ経口薬が実用化されたりすれば、日銀の試算では20兆円以上ともされる強制貯蓄の存在もあり、コロナショック以降に年額17兆円落ち込んだ国内のサービス関連消費の大幅な回復が期待できそうだ。

 加えて、現在第二類となっている新型コロナの指定感染症の見直しが実施されれば、新型インフルエンザ並みに保健所を通さずに開業医でも検査から治療までが可能になることが予想され、病床確保も容易になり行動制限発出のリスクも下がること等から、さらなる個人消費の盛り上がりが発生することが期待される。特にイベントに関しては、年明けに北京冬季五輪、夏にサッカーワールドカップが控えていることから、こうしたスポーツイベントに関連した特需が発生することが期待される。

 ただ、逆に経口薬の普及や指定感染症の見直しが遅れれば、個人消費は引き続きサービス関連消費を中心に停滞を余儀なくされる可能性もあるだろう。

リスクは日米中の政治

 今年の日本経済を占う上では、キシダノミクスの行方も大きなカギを握っているだろう。昨年秋に発足した岸田政権は、アベノミクスの継承とともに、新しい資本主義の実現を旗印に、成長と分配の好循環も打ち出した。しかし、分配政策は所得移転を促す政策であるため、需要の持ち直しが不十分ななかで強行すると、痛みを伴う可能性もあるだろう。

 特に夏の参院選で岸田政権の安定が維持されれば、しばらく国政選挙がないため、コロナショックで大幅に拡大した金融・財政政策にも緊縮圧力がかかる可能性がある。そもそもコロナショック以前でも日本経済は正常化していなかった。このため、経済が正常化する前に金融・財政政策が拙速に出口に向かうことにより、経済が正常化に向かうチャンスを逸すれば、日本経済が失われた40年に突入するリスクもあるだろう。

 また、22年夏に2人の日銀審議委員、23年春に日銀執行部に任期が訪れることからすれば、岸田政権が人選するこれらの日銀人事次第では、マーケットに日銀が金融緩和に消極的だった頃に先祖返りするリスクが意識される可能性もあるだろう。

 このため、参院選後の税制改正や日銀人事の状況次第で岸田政権の経済政策が緊縮に傾くことになれば、市場環境の悪化を通じて日本経済に悪影響を及ぼすリスクもある。日本株の売買は6割以上が外国人投資家であるため、特に金融政策がアベノミクスに近いほど外国人投資家が日本株を保有しやすくなり、逆に距離を置くと解釈されれば手放されやすくなる。そうなれば、日本経済も困難を強いられることになるかもしれない。

 海外では、バイデン政権の経済政策に対する不確実性も大きく影響を及ぼすだろう。なかでも最大の注目は、11月に控える米中間選挙である。ここで仮にバイデン氏率いる民主党が敗北して議会にねじれが生じることになれば、米国の政治が停滞する懸念が強まることになる。

 また、2021年のインフレ動向や急速な賃金上昇が予想以上に長引き、インフレ期待のじり高が続くと、FRBがより強力な金融政策の出口に向かうリスクもある。この実現可能性が高まれば、市場関係者は積極的なポジションを取りにくくなり、株安等を通じて米国経済に悪影響を及ぼす可能性がある。逆に、見通しどおりにインフレ圧力が年明け以降改善されるようなことになれば、米国経済にとってはポジティブだろう。

 中国経済もリスクだろう。21年後半の中国経済は電力危機や不動産セクターの落ち込みで急減速したため、エネルギー不足の緩和と不動産規制の微調整に動いている。しかし、電力不足は需要が高まる冬場に再燃する可能性があるため、冬季五輪に向けて大規模な工場の操業停止等の対応をしてくれば、中国経済に悪影響が及ぶ可能性もあるだろう。

 さらに、資源価格の高騰もリスクだろう。特に近年は、脱炭素化の傾向が強まっているため、世界の石油開発会社も化石燃料開発を抑制する傾向を強めている。しかし、代替エネルギー投資拡大により、石油開発に十分な投資が行われなくなるようなことになれば、70年代のオイルショックのように、世界経済が大きく混乱することになり、日本経済への悪影響も無視できないことになるだろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

●永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。

 

JRA武豊ドウデュースに「厄介」なライバル登場、皐月賞(G1)と同じ舞台で中山巧者が反撃の狼煙

 2022年の中央競馬開幕を告げた年始の開催。東西金杯が行われた5日は、約1週間ぶりの競馬を待ちわびたファンにとっても、楽しみにしていた日だっただろう。

 そんな中、今年のクラシックでも楽しみな1頭が、中山5R(3歳・1勝クラス)で勝利を挙げたアスクビクターモア(牡3、美浦・田村康仁厩舎)である。

 9頭立てと少頭数だったレースで、単勝オッズ1.9倍の断然人気に支持されたアスクビクターモア。手薄なメンバー構成だったとはいえ、これまで戦ってきた相手関係を考えると当然だったかもしれない。

 逃げたマイネルアルザスの刻んだラップは、1000m通過が62秒8と超スロー。外目の4番手から追走したアスクビクターモアは、押さえ切れない手応えで追走する。手応えが良過ぎたせいか、3~4コーナーでは2番手まで進出。鞍上の田辺裕信騎手が、徐々に促しながら先頭を窺った。

 最後の直線に入り、M.デムーロ騎手のレヴァンジルが抜け出しを図ったものの、外から追い上げるアスクビクターモアとの手応えの差は歴然。ムチを入れて懸命に追われているライバルを尻目に、ノーステッキで交わしてゴールした。

 着差こそわずかクビでも、何度やり直したところで2頭の力差は埋まらなかったと感じられる強さだった。

「本来なら折り合ったまま行きたかったのですが、ペースが遅く、勝つことを考えると動かざるを得ませんでした。最後の着差はわずかでしたが、ステッキを使わずにしのげる余裕がありました。これから楽しみな馬です」

 レース後に田辺騎手が残したコメントからも、アスクビクターモアに対する期待の大きさが伝わってくる。

 それもそのはず。これで4戦2勝とした同馬だが、3着に敗れた6月東京のデビュー戦でワンツーフィニッシュした相手は、ジオグリフとアサヒという骨っぽい相手。前者は札幌2歳S(G3)を楽勝し、朝日杯FS(G1)で2番人気に支持された実力馬であり、後者は世代最強の呼び声高いイクイノックス相手に東京スポーツ杯2歳S(G2)で2着に入った馬でもあった。

 そこへきて0秒1差の3着に敗れた前走のアイビーS(L)の勝ち馬は、武豊騎手に念願の朝日杯FS勝利をプレゼントしたドウデュースだったのだから価値がある。

「絶対に負けられないレースでした。これで、大きなところを狙う権利を得た」と、田村康師がホッと胸を撫で下ろしたのも分かる話だ。

 小回りでトリッキーといわれる中山コースも、未勝利戦に続いて2戦2勝と相性の良さを証明済み。そして今回制したレースは、皐月賞(G1)が行われる中山芝2000mと同じ舞台。本番の予行演習としても、ここで結果を残せたことは大きな収穫となりそうだ。

(文=高城陽)

<著者プロフィール>
 大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

JRA武豊ドウデュースに「厄介」なライバル登場、皐月賞(G1)と同じ舞台で中山巧者が反撃の狼煙

 2022年の中央競馬開幕を告げた年始の開催。東西金杯が行われた5日は、約1週間ぶりの競馬を待ちわびたファンにとっても、楽しみにしていた日だっただろう。

 そんな中、今年のクラシックでも楽しみな1頭が、中山5R(3歳・1勝クラス)で勝利を挙げたアスクビクターモア(牡3、美浦・田村康仁厩舎)である。

 9頭立てと少頭数だったレースで、単勝オッズ1.9倍の断然人気に支持されたアスクビクターモア。手薄なメンバー構成だったとはいえ、これまで戦ってきた相手関係を考えると当然だったかもしれない。

 逃げたマイネルアルザスの刻んだラップは、1000m通過が62秒8と超スロー。外目の4番手から追走したアスクビクターモアは、押さえ切れない手応えで追走する。手応えが良過ぎたせいか、3~4コーナーでは2番手まで進出。鞍上の田辺裕信騎手が、徐々に促しながら先頭を窺った。

 最後の直線に入り、M.デムーロ騎手のレヴァンジルが抜け出しを図ったものの、外から追い上げるアスクビクターモアとの手応えの差は歴然。ムチを入れて懸命に追われているライバルを尻目に、ノーステッキで交わしてゴールした。

 着差こそわずかクビでも、何度やり直したところで2頭の力差は埋まらなかったと感じられる強さだった。

「本来なら折り合ったまま行きたかったのですが、ペースが遅く、勝つことを考えると動かざるを得ませんでした。最後の着差はわずかでしたが、ステッキを使わずにしのげる余裕がありました。これから楽しみな馬です」

 レース後に田辺騎手が残したコメントからも、アスクビクターモアに対する期待の大きさが伝わってくる。

 それもそのはず。これで4戦2勝とした同馬だが、3着に敗れた6月東京のデビュー戦でワンツーフィニッシュした相手は、ジオグリフとアサヒという骨っぽい相手。前者は札幌2歳S(G3)を楽勝し、朝日杯FS(G1)で2番人気に支持された実力馬であり、後者は世代最強の呼び声高いイクイノックス相手に東京スポーツ杯2歳S(G2)で2着に入った馬でもあった。

 そこへきて0秒1差の3着に敗れた前走のアイビーS(L)の勝ち馬は、武豊騎手に念願の朝日杯FS勝利をプレゼントしたドウデュースだったのだから価値がある。

「絶対に負けられないレースでした。これで、大きなところを狙う権利を得た」と、田村康師がホッと胸を撫で下ろしたのも分かる話だ。

 小回りでトリッキーといわれる中山コースも、未勝利戦に続いて2戦2勝と相性の良さを証明済み。そして今回制したレースは、皐月賞(G1)が行われる中山芝2000mと同じ舞台。本番の予行演習としても、ここで結果を残せたことは大きな収穫となりそうだ。

(文=高城陽)

<著者プロフィール>
 大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

「攻めの売却」がイノベーションをもたらす!M&A起点で考える4つの成長戦略

今や「M&A」は、あらゆる企業の経営課題をダイナミックに解決する“究極のソリューション”です。

本連載では、この時代においてM&Aが企業や社会に何をもたらすのか、その本質的な価値を分かりやすくひもときます。

今回は、日本M&Aセンターと電通(※)の具体的な取り組みを中心に、企業の成長戦略に直結するM&Aの活用方法を紹介します。日本M&Aセンター業界再編部の田島聡士氏をゲストに迎え、電通の片山俊大がお話を伺いました。

※日本M&Aセンターと電通は2019年に業務提携。両社で企業のM&A仲介を推進しています。

 

<目次>
①中小企業の成長戦略~ビジョン実現のための「攻めの売却」~
②メディア企業のBX/DX戦略~ドラスティックな変革を後押しするM&A~
③大企業のブランドポートフォリオ再構築~「選択と集中」のM&A~
④スタートアップのイグジット戦略~IPOに代わるゴールとしてのM&A~

 

日本M&Aセンター田島氏、電通片山氏

①中小企業の成長戦略~ビジョン実現のための「攻めの売却」~

  

片山:日本M&Aセンターと電通は2019年から業務提携し、すでに何十社もの相談を受けております。大企業、中小企業、スタートアップまで、あらゆる業界のM&Aをサポートしていますが、今日は田島さんと共に、

  • 中小企業の成長戦略
  • メディア企業のBX/DX戦略
  • 大企業のブランドポートフォリオ再構築
  • スタートアップのイグジット戦略

の4つの切り口で、M&Aの“経営戦略への活かし方”をお話ししたいと思います。

はじめに「中小企業の成長戦略」で取り上げたいのが、電通の地方支社経由でご相談を受け、東京の会社に中核事業の譲渡を行ったクライアントの事例です。

田島:そのクライアントは、創業以来ずっと製造業を営んでいた企業なのですが、「最近立ち上げたロボット事業が軌道に乗り始めており、将来性を見据えてその新規事業に集中投資していきたい」というご相談でした。そこで、既存事業の売却による資金調達を提案し、東京の会社への事業譲渡を電通と一緒に支援し、成約いたしました。

片山:よく誤解されがちなのですが、「創業時から続けてきた中核事業を売却した」と聞くと、「よっぽど困り果てていたのかな?」と思う方もいるかもしれません。でも実態は真逆で、本件は“攻めの経営”を行うための打ち手としてM&Aを活用した、典型的な事例でした。ロボット事業へのBX(ビジネストランスフォーメーション)を実現し、現在もさらなる成長を目指して、引き続き電通も伴走しています。

田島:このクライアントは、「ロボット事業で未来をつくるんだ」という明確なビジョンをお持ちでした。このように、決して消極的な理由ではなく、「経営の志やビジョンを実現するための手段」として、M&Aを選択する経営者が増えてきています。

片山:同感です。ところで、コロナ禍を成長のチャンスと捉え、変革しようと前向きに取り組んでいる企業も多いと思うのですが、現実問題として、コロナ禍で売り上げや収益が落ちている企業だと、今のタイミングでM&Aを行うことは難しいのでしょうか?

田島:決してそんなことはありません。もちろん、直近の財務諸表も大事ですが、それだけで企業価値が決まるものではありません。例えば「経営者の人物像」「これまでの売上拡大のペース」「販路の数」「事業エリアやターゲット」「社会性やマーケットの将来性」など、複合的な視点から対象企業を見つめることで、企業価値を高められる可能性は十分にあります。大切なのは、将来的にM&Aを行う可能性があるならば、その“最高のタイミング”がいつ来ても逃さないように、早めから準備を進めておくことです。

片山:平時からM&Aを「経営のオプション」として持っておくことが重要なんですね。

②メディア企業のBX/DX戦略~ドラスティックな変革を後押しするM&A~

片山:続いてのテーマは、「メディア企業のBX/DX戦略」です。今、「テレビ」「ラジオ」「新聞」「雑誌」「印刷会社」「制作会社」などのメディア領域では、ものすごい勢いで業界再編が進んでいます。変化のスピードが早いデジタルメディアはもちろん、いわゆる4マスと呼ばれる従来型メディアでも、デジタル化は絶対に避けて通れない喫緊の課題です。

そんな中、従来型メディアは「スポーツ」「エンターテインメント」「映画」など膨大なコンテンツを保持しており、これらのコンテンツを活用したBX/DX戦略も増えてきていますよね。

田島:当社が支援した事例で、テレビ放送事業者の中京テレビと、デジタルコンテンツの企画制作を手掛けるアクアリングのM&Aがあります。

「デジタル領域への事業展開」を模索していた中京テレビ。「デジタルの枠にとどまらないコミュニケーションデザインで社会に貢献したい」と考えていたアクアリング。お互いが持つ、この強いビジョンが両社を結び付け、アクアリングが中京テレビのグループに加わることで、中京テレビグループのコンテンツ制作・配信のデジタル化をさらに強化していくことが可能となりました。

片山:この事例は、電通にとっても非常に身近に感じられる事例です。電通は、広告はもちろん、コンテンツプロデュースやイベントプロデュースなど、さまざまな形でメディア企業と一緒に事業を手掛けてきました。そんな長年のリレーションシップを通じて、メディア企業と経営レベルの課題を共有している場合も少なくありません。

そうした企業にドラスティックな変革が求められるとき、「M&A」を戦略の一つとして提案できることが、企業の成長支援につながります。今の時代、メディア企業に限りませんが、「M&Aなくしてドラスティックな変革は実現できない」とすら思っています。

③大企業のブランドポートフォリオ再構築~「選択と集中」のM&A~

片山:3つ目のテーマは、「大企業のブランドポートフォリオ再構築」です。近年、大企業が事業戦略の転換に伴い、自社の事業・ブランドを売却するケースが増えています。こういった「事業ポートフォリオの組み替え」にM&Aを活用するケースについて教えてください。

田島:とても有効な活用方法ですよね。長年にわたって多角的に事業を展開してきた企業が、「現在の注力事業との親和性が低い事業を切り離し、シナジー効果の見込める事業を買収すること」で自社の事業ポートフォリオを再構築する。それによって業績を回復させるだけでなく、企業価値も高めていける可能性があります。

実際に、直近5年間で数多くの企業買収と、小規模事業も含めたノンコア事業の売却を行い、着実に業績を伸ばしている企業事例もあります。こうした「選択と集中」のM&Aは、今後も加速していくのではないかと思います。

片山:電通も、複数の事業ポートフォリオ/ブランドポートフォリオを持つクライアントから、経営戦略のご相談を受ける機会は昔から多々ありました。また最近では、IRや、SDGs/ESG投資といった経営戦略のサポートも行っております。

そこまでビジネスの深い部分に携わっていたにもかかわらず、もっともドラスティックな変革をもたらす「M&A」というオプションは持っていなかったんです。ここに日本M&Aセンターという強力なパートナーが加わることで、より本質的なクライアントのグロース支援を実現できると期待しています。

田島:ありがとうございます。先ほども触れましたが、M&Aは財務的な視点だけでなく、「マーケットからの評価」や「生活者から見たブランドイメージ」なども重要です。マーケティングやブランディングでは日本トップクラスの知見と実績を誇る電通と組むことで、私たちもM&Aというツールの価値を拡張していけると、ワクワクしています。

④スタートアップのイグジット戦略~IPOに代わるゴールとしてのM&A~

片山:最後に、「スタートアップのイグジット戦略」です。電通はスタートアップの成長支援にも注力しています。日本のスタートアップはIPO(株式上場)を目指しているケースが多かったと思いますが、アメリカではM&Aによるイグジットも起業家としてのゴールとして浸透していますし、日本でも近年そうした動きが活発化してきていますよね。

田島:はい、その通りですね。ここ数年で日本の大企業がスタートアップに投資する動きが非常に増えています。特に、新規事業立ち上げの際に、その領域に特化したスタートアップを買収することで、革新的なサービスを素早く世の中に生み出す手法が大企業の間でトレンド化しています。

片山:スタートアップの側にとっても、IPOのハードルが年々高くなっていますし、上場したあとも自力で走り続けなければならない過酷な環境がある中で、「上場ではないゴール」を設定する気運が高まっています。この状況を整理すると、大企業は「スタートアップの人材や技術、スピード感」を獲得し、スタートアップは「大企業のサプライチェーンや営業力や信頼性」を獲得できる。双方に大きなメリットがあります。

田島:片山さんのおっしゃるとおりで、そもそも上場がゴールではなく、そこからさらに事業をどうスケールさせていけるのか?が重要です。そんな中でIPOの審査も厳しくなるにつれて、片山さんが挙げてくださったような「IPOにはないM&Aの魅力」に光が当たりつつあります。

単に資金調達という目的だけでなく、人材採用やブランド力などの面で大手企業の経営資源を使ったり、経営手法を取り入れたりすることが可能になります。こうした大きな流れは、今後も加速していくのではないでしょうか。

片山:同感です。ここまで、さまざまな業界、さまざまな規模の企業がM&Aを有効活用できることをお伝えしてきました。そうした多くのM&Aを手掛ける田島さんから、日本企業に伝えたいことはありますか。

田島:「攻めの売却」や「ポートフォリオ再構築」の有効性は、多くの経営者が理解してくださっていると思うのですが、どうしても「事業撤退/事業の切り離し=経営の失敗」というイメージがまだ日本では根強いのか、決断を先延ばしにしてしまう経営者も少なくありません。しかし、これだけ変化スピードが速い時代です。かつて日本が右肩上がりに成長していた時代とは異なり、どんな企業も変化しなければ成長し続けられない時代になりました。「先延ばし」や「現状維持」を続けていたら、どんどんマーケットから取り残されてしまいます。

片山:まさしく、改革の「先延ばし」「現状維持」が積み重なった結果、日本という国はイノベーションが起きにくい世の中になってしまっていると感じます。M&Aは変革そのものであり、新陳代謝であり、雇用の維持にもつながる。そして何よりも、より良い世の中をつくるためのイノベーションを起こす手段になり得るということを、日本企業に伝えていきたいですね。

田島:M&Aは、あくまでも会社の未来やビジョン実現のためにあるもの。ビジネスをどう進化させていくのかをフラットに考えていただき、その上でM&Aという戦略が選択肢に入るのであれば、ぜひ前向きに準備していただきたいと思います。

片山:クライアントやパートナー企業はもちろん、社会経済全体を持続的に発展させていくキーファクターがM&Aであると、私も信じています。日本M&Aセンターと電通が組むことで、M&Aの有効性をもっと多くの企業に知ってもらい、「イノベーティブな日本」を一緒につくっていきたいですね。本日はありがとうございました!

 

twitter

「攻めの売却」がイノベーションをもたらす!M&A起点で考える4つの成長戦略

今や「M&A」は、あらゆる企業の経営課題をダイナミックに解決する“究極のソリューション”です。

本連載では、この時代においてM&Aが企業や社会に何をもたらすのか、その本質的な価値を分かりやすくひもときます。

今回は、日本M&Aセンターと電通(※)の具体的な取り組みを中心に、企業の成長戦略に直結するM&Aの活用方法を紹介します。日本M&Aセンター業界再編部の田島聡士氏をゲストに迎え、電通の片山俊大がお話を伺いました。

※日本M&Aセンターと電通は2019年に業務提携。両社で企業のM&A仲介を推進しています。

 

<目次>
①中小企業の成長戦略~ビジョン実現のための「攻めの売却」~
②メディア企業のBX/DX戦略~ドラスティックな変革を後押しするM&A~
③大企業のブランドポートフォリオ再構築~「選択と集中」のM&A~
④スタートアップのイグジット戦略~IPOに代わるゴールとしてのM&A~

 

日本M&Aセンター田島氏、電通片山氏

①中小企業の成長戦略~ビジョン実現のための「攻めの売却」~

  

片山:日本M&Aセンターと電通は2019年から業務提携し、すでに何十社もの相談を受けております。大企業、中小企業、スタートアップまで、あらゆる業界のM&Aをサポートしていますが、今日は田島さんと共に、

  • 中小企業の成長戦略
  • メディア企業のBX/DX戦略
  • 大企業のブランドポートフォリオ再構築
  • スタートアップのイグジット戦略

の4つの切り口で、M&Aの“経営戦略への活かし方”をお話ししたいと思います。

はじめに「中小企業の成長戦略」で取り上げたいのが、電通の地方支社経由でご相談を受け、東京の会社に中核事業の譲渡を行ったクライアントの事例です。

田島:そのクライアントは、創業以来ずっと製造業を営んでいた企業なのですが、「最近立ち上げたロボット事業が軌道に乗り始めており、将来性を見据えてその新規事業に集中投資していきたい」というご相談でした。そこで、既存事業の売却による資金調達を提案し、東京の会社への事業譲渡を電通と一緒に支援し、成約いたしました。

片山:よく誤解されがちなのですが、「創業時から続けてきた中核事業を売却した」と聞くと、「よっぽど困り果てていたのかな?」と思う方もいるかもしれません。でも実態は真逆で、本件は“攻めの経営”を行うための打ち手としてM&Aを活用した、典型的な事例でした。ロボット事業へのBX(ビジネストランスフォーメーション)を実現し、現在もさらなる成長を目指して、引き続き電通も伴走しています。

田島:このクライアントは、「ロボット事業で未来をつくるんだ」という明確なビジョンをお持ちでした。このように、決して消極的な理由ではなく、「経営の志やビジョンを実現するための手段」として、M&Aを選択する経営者が増えてきています。

片山:同感です。ところで、コロナ禍を成長のチャンスと捉え、変革しようと前向きに取り組んでいる企業も多いと思うのですが、現実問題として、コロナ禍で売り上げや収益が落ちている企業だと、今のタイミングでM&Aを行うことは難しいのでしょうか?

田島:決してそんなことはありません。もちろん、直近の財務諸表も大事ですが、それだけで企業価値が決まるものではありません。例えば「経営者の人物像」「これまでの売上拡大のペース」「販路の数」「事業エリアやターゲット」「社会性やマーケットの将来性」など、複合的な視点から対象企業を見つめることで、企業価値を高められる可能性は十分にあります。大切なのは、将来的にM&Aを行う可能性があるならば、その“最高のタイミング”がいつ来ても逃さないように、早めから準備を進めておくことです。

片山:平時からM&Aを「経営のオプション」として持っておくことが重要なんですね。

②メディア企業のBX/DX戦略~ドラスティックな変革を後押しするM&A~

片山:続いてのテーマは、「メディア企業のBX/DX戦略」です。今、「テレビ」「ラジオ」「新聞」「雑誌」「印刷会社」「制作会社」などのメディア領域では、ものすごい勢いで業界再編が進んでいます。変化のスピードが早いデジタルメディアはもちろん、いわゆる4マスと呼ばれる従来型メディアでも、デジタル化は絶対に避けて通れない喫緊の課題です。

そんな中、従来型メディアは「スポーツ」「エンターテインメント」「映画」など膨大なコンテンツを保持しており、これらのコンテンツを活用したBX/DX戦略も増えてきていますよね。

田島:当社が支援した事例で、テレビ放送事業者の中京テレビと、デジタルコンテンツの企画制作を手掛けるアクアリングのM&Aがあります。

「デジタル領域への事業展開」を模索していた中京テレビ。「デジタルの枠にとどまらないコミュニケーションデザインで社会に貢献したい」と考えていたアクアリング。お互いが持つ、この強いビジョンが両社を結び付け、アクアリングが中京テレビのグループに加わることで、中京テレビグループのコンテンツ制作・配信のデジタル化をさらに強化していくことが可能となりました。

片山:この事例は、電通にとっても非常に身近に感じられる事例です。電通は、広告はもちろん、コンテンツプロデュースやイベントプロデュースなど、さまざまな形でメディア企業と一緒に事業を手掛けてきました。そんな長年のリレーションシップを通じて、メディア企業と経営レベルの課題を共有している場合も少なくありません。

そうした企業にドラスティックな変革が求められるとき、「M&A」を戦略の一つとして提案できることが、企業の成長支援につながります。今の時代、メディア企業に限りませんが、「M&Aなくしてドラスティックな変革は実現できない」とすら思っています。

③大企業のブランドポートフォリオ再構築~「選択と集中」のM&A~

片山:3つ目のテーマは、「大企業のブランドポートフォリオ再構築」です。近年、大企業が事業戦略の転換に伴い、自社の事業・ブランドを売却するケースが増えています。こういった「事業ポートフォリオの組み替え」にM&Aを活用するケースについて教えてください。

田島:とても有効な活用方法ですよね。長年にわたって多角的に事業を展開してきた企業が、「現在の注力事業との親和性が低い事業を切り離し、シナジー効果の見込める事業を買収すること」で自社の事業ポートフォリオを再構築する。それによって業績を回復させるだけでなく、企業価値も高めていける可能性があります。

実際に、直近5年間で数多くの企業買収と、小規模事業も含めたノンコア事業の売却を行い、着実に業績を伸ばしている企業事例もあります。こうした「選択と集中」のM&Aは、今後も加速していくのではないかと思います。

片山:電通も、複数の事業ポートフォリオ/ブランドポートフォリオを持つクライアントから、経営戦略のご相談を受ける機会は昔から多々ありました。また最近では、IRや、SDGs/ESG投資といった経営戦略のサポートも行っております。

そこまでビジネスの深い部分に携わっていたにもかかわらず、もっともドラスティックな変革をもたらす「M&A」というオプションは持っていなかったんです。ここに日本M&Aセンターという強力なパートナーが加わることで、より本質的なクライアントのグロース支援を実現できると期待しています。

田島:ありがとうございます。先ほども触れましたが、M&Aは財務的な視点だけでなく、「マーケットからの評価」や「生活者から見たブランドイメージ」なども重要です。マーケティングやブランディングでは日本トップクラスの知見と実績を誇る電通と組むことで、私たちもM&Aというツールの価値を拡張していけると、ワクワクしています。

④スタートアップのイグジット戦略~IPOに代わるゴールとしてのM&A~

片山:最後に、「スタートアップのイグジット戦略」です。電通はスタートアップの成長支援にも注力しています。日本のスタートアップはIPO(株式上場)を目指しているケースが多かったと思いますが、アメリカではM&Aによるイグジットも起業家としてのゴールとして浸透していますし、日本でも近年そうした動きが活発化してきていますよね。

田島:はい、その通りですね。ここ数年で日本の大企業がスタートアップに投資する動きが非常に増えています。特に、新規事業立ち上げの際に、その領域に特化したスタートアップを買収することで、革新的なサービスを素早く世の中に生み出す手法が大企業の間でトレンド化しています。

片山:スタートアップの側にとっても、IPOのハードルが年々高くなっていますし、上場したあとも自力で走り続けなければならない過酷な環境がある中で、「上場ではないゴール」を設定する気運が高まっています。この状況を整理すると、大企業は「スタートアップの人材や技術、スピード感」を獲得し、スタートアップは「大企業のサプライチェーンや営業力や信頼性」を獲得できる。双方に大きなメリットがあります。

田島:片山さんのおっしゃるとおりで、そもそも上場がゴールではなく、そこからさらに事業をどうスケールさせていけるのか?が重要です。そんな中でIPOの審査も厳しくなるにつれて、片山さんが挙げてくださったような「IPOにはないM&Aの魅力」に光が当たりつつあります。

単に資金調達という目的だけでなく、人材採用やブランド力などの面で大手企業の経営資源を使ったり、経営手法を取り入れたりすることが可能になります。こうした大きな流れは、今後も加速していくのではないでしょうか。

片山:同感です。ここまで、さまざまな業界、さまざまな規模の企業がM&Aを有効活用できることをお伝えしてきました。そうした多くのM&Aを手掛ける田島さんから、日本企業に伝えたいことはありますか。

田島:「攻めの売却」や「ポートフォリオ再構築」の有効性は、多くの経営者が理解してくださっていると思うのですが、どうしても「事業撤退/事業の切り離し=経営の失敗」というイメージがまだ日本では根強いのか、決断を先延ばしにしてしまう経営者も少なくありません。しかし、これだけ変化スピードが速い時代です。かつて日本が右肩上がりに成長していた時代とは異なり、どんな企業も変化しなければ成長し続けられない時代になりました。「先延ばし」や「現状維持」を続けていたら、どんどんマーケットから取り残されてしまいます。

片山:まさしく、改革の「先延ばし」「現状維持」が積み重なった結果、日本という国はイノベーションが起きにくい世の中になってしまっていると感じます。M&Aは変革そのものであり、新陳代謝であり、雇用の維持にもつながる。そして何よりも、より良い世の中をつくるためのイノベーションを起こす手段になり得るということを、日本企業に伝えていきたいですね。

田島:M&Aは、あくまでも会社の未来やビジョン実現のためにあるもの。ビジネスをどう進化させていくのかをフラットに考えていただき、その上でM&Aという戦略が選択肢に入るのであれば、ぜひ前向きに準備していただきたいと思います。

片山:クライアントやパートナー企業はもちろん、社会経済全体を持続的に発展させていくキーファクターがM&Aであると、私も信じています。日本M&Aセンターと電通が組むことで、M&Aの有効性をもっと多くの企業に知ってもらい、「イノベーティブな日本」を一緒につくっていきたいですね。本日はありがとうございました!

 

twitter

「攻めの売却」がイノベーションをもたらす!M&A起点で考える4つの成長戦略

今や「M&A」は、あらゆる企業の経営課題をダイナミックに解決する“究極のソリューション”です。

本連載では、この時代においてM&Aが企業や社会に何をもたらすのか、その本質的な価値を分かりやすくひもときます。

今回は、日本M&Aセンターと電通(※)の具体的な取り組みを中心に、企業の成長戦略に直結するM&Aの活用方法を紹介します。日本M&Aセンター業界再編部の田島聡士氏をゲストに迎え、電通の片山俊大がお話を伺いました。

※日本M&Aセンターと電通は2019年に業務提携。両社で企業のM&A仲介を推進しています。

 

<目次>
①中小企業の成長戦略~ビジョン実現のための「攻めの売却」~
②メディア企業のBX/DX戦略~ドラスティックな変革を後押しするM&A~
③大企業のブランドポートフォリオ再構築~「選択と集中」のM&A~
④スタートアップのイグジット戦略~IPOに代わるゴールとしてのM&A~

 

日本M&Aセンター田島氏、電通片山氏

①中小企業の成長戦略~ビジョン実現のための「攻めの売却」~

  

片山:日本M&Aセンターと電通は2019年から業務提携し、すでに何十社もの相談を受けております。大企業、中小企業、スタートアップまで、あらゆる業界のM&Aをサポートしていますが、今日は田島さんと共に、

  • 中小企業の成長戦略
  • メディア企業のBX/DX戦略
  • 大企業のブランドポートフォリオ再構築
  • スタートアップのイグジット戦略

の4つの切り口で、M&Aの“経営戦略への活かし方”をお話ししたいと思います。

はじめに「中小企業の成長戦略」で取り上げたいのが、電通の地方支社経由でご相談を受け、東京の会社に中核事業の譲渡を行ったクライアントの事例です。

田島:そのクライアントは、創業以来ずっと製造業を営んでいた企業なのですが、「最近立ち上げたロボット事業が軌道に乗り始めており、将来性を見据えてその新規事業に集中投資していきたい」というご相談でした。そこで、既存事業の売却による資金調達を提案し、東京の会社への事業譲渡を電通と一緒に支援し、成約いたしました。

片山:よく誤解されがちなのですが、「創業時から続けてきた中核事業を売却した」と聞くと、「よっぽど困り果てていたのかな?」と思う方もいるかもしれません。でも実態は真逆で、本件は“攻めの経営”を行うための打ち手としてM&Aを活用した、典型的な事例でした。ロボット事業へのBX(ビジネストランスフォーメーション)を実現し、現在もさらなる成長を目指して、引き続き電通も伴走しています。

田島:このクライアントは、「ロボット事業で未来をつくるんだ」という明確なビジョンをお持ちでした。このように、決して消極的な理由ではなく、「経営の志やビジョンを実現するための手段」として、M&Aを選択する経営者が増えてきています。

片山:同感です。ところで、コロナ禍を成長のチャンスと捉え、変革しようと前向きに取り組んでいる企業も多いと思うのですが、現実問題として、コロナ禍で売り上げや収益が落ちている企業だと、今のタイミングでM&Aを行うことは難しいのでしょうか?

田島:決してそんなことはありません。もちろん、直近の財務諸表も大事ですが、それだけで企業価値が決まるものではありません。例えば「経営者の人物像」「これまでの売上拡大のペース」「販路の数」「事業エリアやターゲット」「社会性やマーケットの将来性」など、複合的な視点から対象企業を見つめることで、企業価値を高められる可能性は十分にあります。大切なのは、将来的にM&Aを行う可能性があるならば、その“最高のタイミング”がいつ来ても逃さないように、早めから準備を進めておくことです。

片山:平時からM&Aを「経営のオプション」として持っておくことが重要なんですね。

②メディア企業のBX/DX戦略~ドラスティックな変革を後押しするM&A~

片山:続いてのテーマは、「メディア企業のBX/DX戦略」です。今、「テレビ」「ラジオ」「新聞」「雑誌」「印刷会社」「制作会社」などのメディア領域では、ものすごい勢いで業界再編が進んでいます。変化のスピードが早いデジタルメディアはもちろん、いわゆる4マスと呼ばれる従来型メディアでも、デジタル化は絶対に避けて通れない喫緊の課題です。

そんな中、従来型メディアは「スポーツ」「エンターテインメント」「映画」など膨大なコンテンツを保持しており、これらのコンテンツを活用したBX/DX戦略も増えてきていますよね。

田島:当社が支援した事例で、テレビ放送事業者の中京テレビと、デジタルコンテンツの企画制作を手掛けるアクアリングのM&Aがあります。

「デジタル領域への事業展開」を模索していた中京テレビ。「デジタルの枠にとどまらないコミュニケーションデザインで社会に貢献したい」と考えていたアクアリング。お互いが持つ、この強いビジョンが両社を結び付け、アクアリングが中京テレビのグループに加わることで、中京テレビグループのコンテンツ制作・配信のデジタル化をさらに強化していくことが可能となりました。

片山:この事例は、電通にとっても非常に身近に感じられる事例です。電通は、広告はもちろん、コンテンツプロデュースやイベントプロデュースなど、さまざまな形でメディア企業と一緒に事業を手掛けてきました。そんな長年のリレーションシップを通じて、メディア企業と経営レベルの課題を共有している場合も少なくありません。

そうした企業にドラスティックな変革が求められるとき、「M&A」を戦略の一つとして提案できることが、企業の成長支援につながります。今の時代、メディア企業に限りませんが、「M&Aなくしてドラスティックな変革は実現できない」とすら思っています。

③大企業のブランドポートフォリオ再構築~「選択と集中」のM&A~

片山:3つ目のテーマは、「大企業のブランドポートフォリオ再構築」です。近年、大企業が事業戦略の転換に伴い、自社の事業・ブランドを売却するケースが増えています。こういった「事業ポートフォリオの組み替え」にM&Aを活用するケースについて教えてください。

田島:とても有効な活用方法ですよね。長年にわたって多角的に事業を展開してきた企業が、「現在の注力事業との親和性が低い事業を切り離し、シナジー効果の見込める事業を買収すること」で自社の事業ポートフォリオを再構築する。それによって業績を回復させるだけでなく、企業価値も高めていける可能性があります。

実際に、直近5年間で数多くの企業買収と、小規模事業も含めたノンコア事業の売却を行い、着実に業績を伸ばしている企業事例もあります。こうした「選択と集中」のM&Aは、今後も加速していくのではないかと思います。

片山:電通も、複数の事業ポートフォリオ/ブランドポートフォリオを持つクライアントから、経営戦略のご相談を受ける機会は昔から多々ありました。また最近では、IRや、SDGs/ESG投資といった経営戦略のサポートも行っております。

そこまでビジネスの深い部分に携わっていたにもかかわらず、もっともドラスティックな変革をもたらす「M&A」というオプションは持っていなかったんです。ここに日本M&Aセンターという強力なパートナーが加わることで、より本質的なクライアントのグロース支援を実現できると期待しています。

田島:ありがとうございます。先ほども触れましたが、M&Aは財務的な視点だけでなく、「マーケットからの評価」や「生活者から見たブランドイメージ」なども重要です。マーケティングやブランディングでは日本トップクラスの知見と実績を誇る電通と組むことで、私たちもM&Aというツールの価値を拡張していけると、ワクワクしています。

④スタートアップのイグジット戦略~IPOに代わるゴールとしてのM&A~

片山:最後に、「スタートアップのイグジット戦略」です。電通はスタートアップの成長支援にも注力しています。日本のスタートアップはIPO(株式上場)を目指しているケースが多かったと思いますが、アメリカではM&Aによるイグジットも起業家としてのゴールとして浸透していますし、日本でも近年そうした動きが活発化してきていますよね。

田島:はい、その通りですね。ここ数年で日本の大企業がスタートアップに投資する動きが非常に増えています。特に、新規事業立ち上げの際に、その領域に特化したスタートアップを買収することで、革新的なサービスを素早く世の中に生み出す手法が大企業の間でトレンド化しています。

片山:スタートアップの側にとっても、IPOのハードルが年々高くなっていますし、上場したあとも自力で走り続けなければならない過酷な環境がある中で、「上場ではないゴール」を設定する気運が高まっています。この状況を整理すると、大企業は「スタートアップの人材や技術、スピード感」を獲得し、スタートアップは「大企業のサプライチェーンや営業力や信頼性」を獲得できる。双方に大きなメリットがあります。

田島:片山さんのおっしゃるとおりで、そもそも上場がゴールではなく、そこからさらに事業をどうスケールさせていけるのか?が重要です。そんな中でIPOの審査も厳しくなるにつれて、片山さんが挙げてくださったような「IPOにはないM&Aの魅力」に光が当たりつつあります。

単に資金調達という目的だけでなく、人材採用やブランド力などの面で大手企業の経営資源を使ったり、経営手法を取り入れたりすることが可能になります。こうした大きな流れは、今後も加速していくのではないでしょうか。

片山:同感です。ここまで、さまざまな業界、さまざまな規模の企業がM&Aを有効活用できることをお伝えしてきました。そうした多くのM&Aを手掛ける田島さんから、日本企業に伝えたいことはありますか。

田島:「攻めの売却」や「ポートフォリオ再構築」の有効性は、多くの経営者が理解してくださっていると思うのですが、どうしても「事業撤退/事業の切り離し=経営の失敗」というイメージがまだ日本では根強いのか、決断を先延ばしにしてしまう経営者も少なくありません。しかし、これだけ変化スピードが速い時代です。かつて日本が右肩上がりに成長していた時代とは異なり、どんな企業も変化しなければ成長し続けられない時代になりました。「先延ばし」や「現状維持」を続けていたら、どんどんマーケットから取り残されてしまいます。

片山:まさしく、改革の「先延ばし」「現状維持」が積み重なった結果、日本という国はイノベーションが起きにくい世の中になってしまっていると感じます。M&Aは変革そのものであり、新陳代謝であり、雇用の維持にもつながる。そして何よりも、より良い世の中をつくるためのイノベーションを起こす手段になり得るということを、日本企業に伝えていきたいですね。

田島:M&Aは、あくまでも会社の未来やビジョン実現のためにあるもの。ビジネスをどう進化させていくのかをフラットに考えていただき、その上でM&Aという戦略が選択肢に入るのであれば、ぜひ前向きに準備していただきたいと思います。

片山:クライアントやパートナー企業はもちろん、社会経済全体を持続的に発展させていくキーファクターがM&Aであると、私も信じています。日本M&Aセンターと電通が組むことで、M&Aの有効性をもっと多くの企業に知ってもらい、「イノベーティブな日本」を一緒につくっていきたいですね。本日はありがとうございました!

 

twitter

マツダ、SUV市場への殴り込み戦略…CX-5の大胆変更に透ける、期待度の高さ

 日本全国にとどまらず、世界各地でSUV(スポーツ用多目的車)が隆盛なのは明らか。となれば、豊富なラインナップを揃える主要メーカーのほとんどが、売れ筋のSUVをカタログに揃えるのも道理だ。

 たとえば、国内最高級ブランドであるレクサスにおける最多量販モデルは「RX」だという。大きなボディをユラユラと走らせる。お世辞にも安価とはいえない高級なモデルが次々と売れていく。続いて人気なのは「NX」。メーカーによって事情はさまざまとはいうものの、SUVが儲け頭であることに違いはない。おのずとSUVの開発に力を入れることになる。当然、マツダも同じ戦略だ。

 今回、マツダは主力モデルであるSUVに大きくメスを入れた。その年ごとに最新の技術を盛り込む戦略を推し進めているマツダは2021年末、「CX-5」の年次改良モデルを発表。販売戦略的に鮮度を保つためのカンフル剤とはいうものの、マイナーチェンジの域を超えた大胆な変更が僕を驚かせたのである。

 デザイン的な意匠変更はささやかなものだ。フロントライト周りが切れ長な印象になり、マツダのデザイン的思想としている「引き算の美学」を進めた。慌ただしいキャラクターラインを減らすことで、塊感を演出。筆遊びではなく、鍛造の美学ともいえるデザインになった。だが、それは先代を横に並べて見比べて初めてわかる程度の変更である。

 ただし、マイナーチェンジとしては異例なことに、ボディ剛性にも手を加えた。設計し、開発し、その図面を基に工場のラインに流す大量生産技術において、ボディに手を加えるのは生半可な努力ではない。それをやってのけたのだから、マツダのCX-5への期待度の高さが想像できるというものだ。

 シートの取り付け剛性にも手を加えている。特に不具合があったわけではないシートなどに細工をする姿勢を見ても、本当にマツダは実直なメーカーだと思う。つまり、印象をガラリと変える細工をせずに、人目につかない裏の部分に力を込めたのである。

マツダ、CX-5の販売戦略とは

 

 販売戦略的にいえば、この手法はすぐにCX-5の販売をブレイクさせる効果にはならないだろう。だが、乗ってみればそれは明らかで、走りの質感の高さを意識できる。乗らず嫌いの人に訴求する効果は薄くても、仮に一度でもステアリングを握ってもらえれば虜にできる、そんな手法なのだ。謹厳実直なマツダらしい。

 ただ、マツダとしては珍しく、ライフスタイルの提案をした。CX-5に高品質で都会的なイメージを与えてきた「エクスクルーシブモード」に加え、ドライバーの気持ちの昂りを期待したアクティブな「スポーツアピアランス」と、都会と自然を行き来するに相応わしい「フィールドジャーニー」を設定したのである。

 特に印象的なのは、アクティブなアウトドアシーンを色濃く演出した「フィールド・ジャーニー」の躍動感である。車輪が浮いてしまうような荒地での踏破性を高める細工がなされている。道なき道を突き進むほどタフなモデルではないが、野山を求めてドライブする姿が想像しやすい。洗練度が強いCX-5で泥遊びをすることなど、これまでは想像できなかった。つまり、CX-5で新たな扉を開こうとしたのだ。

 うがった見方をすれば、SUVがセダンの市場を奪おうとしているだけではなく、市場が多様化してきていることの表れだ。リソースが限られているマツダが、人気のCX-5の個性を分散させようというわけである。

 群雄割拠のSUV市場に乗り込んだCX-5への期待度は高い。

(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

マツダ、SUV市場への殴り込み戦略…CX-5の大胆変更に透ける、期待度の高さ

 日本全国にとどまらず、世界各地でSUV(スポーツ用多目的車)が隆盛なのは明らか。となれば、豊富なラインナップを揃える主要メーカーのほとんどが、売れ筋のSUVをカタログに揃えるのも道理だ。

 たとえば、国内最高級ブランドであるレクサスにおける最多量販モデルは「RX」だという。大きなボディをユラユラと走らせる。お世辞にも安価とはいえない高級なモデルが次々と売れていく。続いて人気なのは「NX」。メーカーによって事情はさまざまとはいうものの、SUVが儲け頭であることに違いはない。おのずとSUVの開発に力を入れることになる。当然、マツダも同じ戦略だ。

 今回、マツダは主力モデルであるSUVに大きくメスを入れた。その年ごとに最新の技術を盛り込む戦略を推し進めているマツダは2021年末、「CX-5」の年次改良モデルを発表。販売戦略的に鮮度を保つためのカンフル剤とはいうものの、マイナーチェンジの域を超えた大胆な変更が僕を驚かせたのである。

 デザイン的な意匠変更はささやかなものだ。フロントライト周りが切れ長な印象になり、マツダのデザイン的思想としている「引き算の美学」を進めた。慌ただしいキャラクターラインを減らすことで、塊感を演出。筆遊びではなく、鍛造の美学ともいえるデザインになった。だが、それは先代を横に並べて見比べて初めてわかる程度の変更である。

 ただし、マイナーチェンジとしては異例なことに、ボディ剛性にも手を加えた。設計し、開発し、その図面を基に工場のラインに流す大量生産技術において、ボディに手を加えるのは生半可な努力ではない。それをやってのけたのだから、マツダのCX-5への期待度の高さが想像できるというものだ。

 シートの取り付け剛性にも手を加えている。特に不具合があったわけではないシートなどに細工をする姿勢を見ても、本当にマツダは実直なメーカーだと思う。つまり、印象をガラリと変える細工をせずに、人目につかない裏の部分に力を込めたのである。

マツダ、CX-5の販売戦略とは

 

 販売戦略的にいえば、この手法はすぐにCX-5の販売をブレイクさせる効果にはならないだろう。だが、乗ってみればそれは明らかで、走りの質感の高さを意識できる。乗らず嫌いの人に訴求する効果は薄くても、仮に一度でもステアリングを握ってもらえれば虜にできる、そんな手法なのだ。謹厳実直なマツダらしい。

 ただ、マツダとしては珍しく、ライフスタイルの提案をした。CX-5に高品質で都会的なイメージを与えてきた「エクスクルーシブモード」に加え、ドライバーの気持ちの昂りを期待したアクティブな「スポーツアピアランス」と、都会と自然を行き来するに相応わしい「フィールドジャーニー」を設定したのである。

 特に印象的なのは、アクティブなアウトドアシーンを色濃く演出した「フィールド・ジャーニー」の躍動感である。車輪が浮いてしまうような荒地での踏破性を高める細工がなされている。道なき道を突き進むほどタフなモデルではないが、野山を求めてドライブする姿が想像しやすい。洗練度が強いCX-5で泥遊びをすることなど、これまでは想像できなかった。つまり、CX-5で新たな扉を開こうとしたのだ。

 うがった見方をすれば、SUVがセダンの市場を奪おうとしているだけではなく、市場が多様化してきていることの表れだ。リソースが限られているマツダが、人気のCX-5の個性を分散させようというわけである。

 群雄割拠のSUV市場に乗り込んだCX-5への期待度は高い。

(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。