大腸がん手術に成功した51歳男性、給湯室の裏で「女性社員のヒソヒソ話」を聞いてヤケになった理由〈再配信〉 – ニュースな本

大腸がんの手術を終え、職場復帰を果たした51歳男性を待っていたのは、さらなる苦難の日々だった。そんな彼が絶望の淵で「がん哲学外来」と出会ったことで、ついに、がんよりもつらい「孤独」を癒やす光を見つけた。本稿は、樋野興夫『もしも突然、がんを告知されたとしたら。』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。

再エネの弱点を補完する蓄電池、裏側で起きる工場革命…見落とされてきた化成工程

●この記事のポイント
・再エネ主力化の成否を握る蓄電池。その製造でボトルネックとなる「化成(後工程)」に特化し、ファクテムが日本の競争力回復を狙う。
・中国のギガファクトリー経験を武器に、充放電検査装置を核としたワンストップ提案で後工程を統合。工程短縮と品質評価を支える。
・電池を「生き物」と捉え、検査データを寿命予測やリユースに活用。2028年の直流スマート工場構想で省エネ化も描く。

 2050年のカーボンニュートラル実現に向け、日本のエネルギー戦略は大きな転換点にある。再生可能エネルギーの導入量が増えるほど、発電量は天候に左右されやすくなり、電力の“揺らぎ”が課題として浮かび上がる。

 この揺らぎを吸収し、電力を「使える形」に整える存在として、蓄電池の重要性は年々高まっている。

 一方で、蓄電池は「作れば終わり」ではない。性能、寿命、安全性――それらを決めるのは材料や設計だけではなく、製造工程の精度や管理、そして完成後の評価・データの扱い方にまで及ぶ。とりわけ現場で長く“重たい工程”とされてきたのが、後工程の中核である「化成(かせい)」だ。

 このニッチだが極めて重要な領域に、設備メーカーとして切り込み、さらに工場全体の姿まで描こうとしている企業がある。北九州市に本社を置く株式会社ファクテムだ。代表取締役の川越健二氏は、中国で巨大な電池産業が立ち上がっていく過程を現場で見てきたエンジニア。レッドオーシャンとされる電池産業で、同社はどこに勝機を見出したのか――。インタビューから、その戦略の輪郭を紐解く。

●目次

「工場のシステムそのものを作る」社名に込めた覚悟

 ファクテムという社名は、「Factory System」の頭と後ろをつないで作った造語だという。川越氏は創業時をこう振り返る。

「もともとは特定の業界に絞らず、工場の自動化設備全般、いわゆるファクトリー・オートメーションを極める会社として、2015年に立ち上げました」

 設立から約10年。現在、同社の事業の中心は車載用リチウムイオン電池の製造設備、特に「充放電検査装置」にある。インタビューでは「国内屈指のシェアをうかがう」との手応えも語られた。

「現在の事業の9割以上は、EVやハイブリッド車向けのバッテリー製造設備です。北米のEV投資は政策の影響で一時的な停滞が見られる局面もありますが、ハイブリッド車向けや、AIの普及に伴うデータセンター用途の蓄電池需要が伸びています。用途が広がるほど、検査や評価の重要性は増していきます」

 ここで注意したいのは、電池市場の“勝ち負け”が、セルメーカー(電池メーカー)の規模だけで決まりにくくなっている点だ。用途が多様化するほど「品質を揃える」「劣化を読める」「安全を担保する」といった運用側の要請が強まる。つまり、後工程やデータの価値が相対的に上がる。ファクテムの狙いは、まさにここにある。

中国での「敗北」が教えた、伸びる領域の見極め方

 川越氏のキャリアは、電池産業の激動期と重なる。大学卒業後、自動車部品メーカーを経て、北九州のバッテリー製造設備メーカーに転職。そこで「充放電検査装置」という分野に出会った。2010年から上海に駐在し、中国のEV・バッテリーメーカー向けに全自動設備の構築に携わった。

「2010年から15年の5年間で、中国の地場企業が製造ノウハウを一気に吸収していきました。外資の助けがなくても回るレベルまで、驚くほどのスピードで到達した」

 中国市場で起きたのは、単なるコスト競争ではない。設備を入れ、回し、改善する――そのサイクルを高速で回すことで、ノウハウが“内製化”されていく。結果として、外部ベンダーの立ち位置が変わる。川越氏が語る「敗北」とは、価格面というより、産業の学習速度で置いていかれる感覚に近い。

 その経験を経て川越氏は帰国し、ファクテムを設立した。「もう一度、日本の電池業界が活性化すればいい」。中国でギガファクトリー構築に関与した経験を、今度は日本の現場に転用する。勝てる場所はどこか――その問いへの回答が、次に語られる「化成工程」だった。

誰もが敬遠した「化成工程」を、独壇場に変える

 電池の製造は大きく、①電極を作る「極板工程」、②電池の形に組む「組み立て工程」、③電気を流して活性化させ性能を確認する「化成工程(後工程)」に分かれる。

 このうち化成工程は、完成した電池を何度も充放電させ、性能を“育て”ながら検査する。化学反応を伴うため時間がかかり、完成までに数日から1週間程度を要する場合もあると言われる。装置も大型化しがちで、電池メーカーにとっては設備投資負担が重く、工場のスループット(生産能力)を左右しやすい。要するに「コスト・時間・スペース」をまとめて要求する、厄介だが不可欠な工程だ。

 川越氏は、メーカー側の心理をこう説明する。

「電池メーカーさんが最もリソースを割きたいのは、性能に直結する前工程です。化成以降は、ある意味で『できてしまった電池』の評価。優先順位が低くなりがちで、アウトソーシングしたいという潜在ニーズがありました。化成工程に係る担当は全体数の4%程度というケースもある」

 ここに、ファクテムの勝機がある。化成工程には、充放電検査だけでなく、測定、判定、搬送、温調、安全設計など、多数の周辺装置が絡む。メーカーが個別発注すると、仕様調整・責任分界・データ統合が複雑化しやすい。

 そこで同社は、複数装置をまとめて提案し、納入し、運用まで含めて面倒を見る「ワンストップ体制」を打ち出した。

「中国の巨大プロジェクトで全自動ラインを構築してきた人材がいます。元電池メーカーで開発や管理職をしていたメンバーも合流している。単に言われた通りの機械を作るのではなく、電池の特性を理解した上で工程そのものに提案できる。これが選ばれる理由だと思っています」

 ここで重要なのは、同社が“装置単体の性能”だけを語っていない点だ。後工程は工程が長く、装置が増え、データも散らばる。だからこそ「統合設計」と「運用の設計」が価値になる。設備メーカーが一段上に出るには、ここが境目になる。

「電池は生き物」だからこそ、データが資産になる

 川越氏は電池を「生き物」と表現する。化学反応を伴う以上、同じ条件で作ったつもりでも、個体差や環境差は避けられない。だからこそ後工程で得られるデータは、単なる検査結果ではなく、電池の「健康診断書」になり得る。

「これまではデータを送るだけでしたが、今後は前工程の製造データと照らし合わせて、不良の原因を特定したり、寿命を予測したりする取り組みを、お客さんと始めています」

 この話は、電池が“使われる場所”の多様化と相性がいい。電池は車、家庭、産業、データセンターなど用途ごとに求められる安全基準や運用条件が異なる。性能のばらつきをどう扱うか、寿命をどう見立てるかは、製造現場のデータ設計が握る。

 さらに、データはリユース(再利用)市場にも接続する。車載用として役目を終えた電池を、家庭用・産業用の蓄電池として使う構想は以前から語られてきたが、安全性・品質担保は簡単ではない。

 ここで「新品として出荷された時点の履歴が残っている」ことの価値が増す。後工程データは、電池の“来歴”を証明する材料になり得るからだ。

 設備を売るだけでなく、データを“使える形”に整え、次の市場まで見据える。ファクテムの戦略が、単なるエンジニアリングメーカーではなく、インフラ企業的な色合いを帯びてくる理由がここにある。

「やりたいなら、やってみよう」──成長企業の組織づくり

 急成長局面の企業にとって、技術や市場以上に難しいのが組織だ。川越氏はスタートアップらしい柔軟さを語る。

「大手にいた技術者の中には、組織の論理に縛られてやりたいことができなかった人も多い。ファクテムでは『面白そうだからやってみたい』という声があれば、基本的に『いい、やってみよう』と即決します。モチベーションこそが最高の技術を生みますから」

 一方で、製造業に共通する課題も避けて通れない。熟練工の暗黙知を、どう若手に伝えるか。川越氏は「同じ苦労をさせるわけにはいかない」と話す。

 ここは同社にとっての“試験問題”でもある。後工程の価値が上がるほど、現場力の差は競争力になる。その現場力を、再現可能な仕組みにできるかどうか――。ファクテムが掲げる「工場のシステムそのものを作る」が本物かどうかは、この点にもかかっている。

福岡に現れる「未来の工場」──直流スマートファクトリー構想

 ファクテムが描く未来像は、設備メーカーの枠を超えつつある。福岡県北九州市の本社工場で、同社が提唱する「直流スマートファクトリー」を実証実験中である。

「太陽光パネルが発電する電気は直流で、電池に貯める電気も直流です。工場では一度交流に変えて使い、必要に応じてまた直流に戻す。そこでロスが生まれる。ならば、工場全体を直流で動かせばいい。工場そのものを巨大な蓄電システムに変えられます」

 この構想が示すのは、蓄電池が“製品”に留まらず、“工場の設計思想”を変える可能性だ。エネルギーを作り、貯め、使い、制御する――。それを工場単位で最適化できれば、再エネ比率が高まるほど価値が出る。

 もちろん、実証にはハードルもある。工場内の機器・安全基準・既存インフラとの接続など、直流化は理想論だけでは進まない。加えて、投資回収の見通し(どれだけロスが減り、どれだけコストが下がるか)を示す必要もある。

 それでも、電池と電力マネジメントを“同じ地平”で扱える企業が、国内で多いわけではない。設備メーカーとしての延長線上にありながら、エネルギーインフラ側へ踏み込む。ここにファクテムの野心がある。

ディープテック起業家への示唆

 蓄電池という領域は、たしかに資本力勝負に見える。セルメーカー同士の競争だけを見れば、規模の経済が支配しやすいからだ。

 だが川越氏は、戦う場所を「化成工程」という特定プロセスに絞り、さらに「データと知見の統合」で価値を上げる道を選んだ。つまり、勝負の土俵そのものをずらした。

 最後に川越氏は、「勝てる領域の見極め方」をこう語った。

「従来のユーザーとメーカーの関係を超えて、パートナーとしてパッケージを販売していく。そこまでいければ、スタートアップでも十分な存在感を示せます」

 製造業の強みは、ベテランの知見と現場の改善力にある。一方で、弱点はその知見が“属人化”しやすいことだ。ファクテムが掲げるのは、その知見を工程設計とデータで包み込み、再現可能な仕組みに変える挑戦でもある。

 日本のモノづくりが再び世界で存在感を示すとしたら、こうした「後工程」「データ」「統合設計」という、これまで主役になりにくかった領域にこそ、次の答えがあるのかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

取材協力:株式会社ファクテム
福岡県北九州市に本社を置く。二次電池(リチウムイオン電池等)の製造設備、特に充放電検査装置の企画・設計・製造を手掛ける。中国での大規模ラインビルド経験を持つエンジニア集団を擁し、日本の蓄電池産業のDXに取り組む。

訪問介護、終わりの始まり?倒産が過去最多、報酬減と人材流出で「介護難民」連鎖

●この記事のポイント
・訪問介護の倒産が過去最多となり、在宅ケアの土台が崩れ始めた。報酬減と人材流出が重なり、地域で「介護難民」が連鎖する。
・訪問介護は需要増でも収益が成立しにくい公定価格ビジネスだ。最大手の非公開化は、制度依存モデルの限界を示すメッセージでもある。
・解決策はDXによる生産性向上と報酬設計の再検討に尽きる。在宅介護を社会インフラとして維持できるかが分水嶺となる。

 日本の介護保険制度を根底から揺るがす危機が進行している。東京商工リサーチの調査によれば、2024年の介護事業者の倒産件数は172件と過去最多を記録した。とりわけ深刻なのが訪問介護で、倒産全体の約半数を占める80件超に達した。

 倒産した事業所の大半が、従業員10人未満の小規模事業者で、負債額1億円未満の零細が中心だった点は見逃せない。地域で高齢者の生活を支えてきた「最後の手」が、経営体力の限界で次々と途切れている。

 訪問介護の崩壊は、単に介護事業者の倒産が増えたという話ではない。医療に例えれば、入院治療(施設)より前段階の「在宅ケア」という一次医療が弱体化する現象だ。一次医療が崩れれば、社会全体の医療・介護コストは最終的に跳ね上がる。いま起きているのは、社会保障の“コスト構造の土台”が沈む現象である。

「訪問介護は“コスト削減の手段”ではなく、“医療・施設費の急増を防ぐインフラ”だ。在宅が維持できなければ特養や病院への集中が起き、結果的に公費負担は増える。いまの倒産増は、制度が節約に見えて将来負担を増やす方向へ振れているサインだ」(社会保障の専門家で社会福祉士の高山健氏)

●目次

最大手・セントケアHDの「上場廃止」が意味する強烈なメッセージ

 こうしたなかで業界に衝撃を与えたのが、訪問介護最大手の一角、セントケア・ホールディング(HD)の上場廃止だ。2025年11月、MBO(経営陣買収)により非公開化へ踏み切った。

 ここで注意すべきは、「上場廃止=撤退」と短絡的に決めつけるのは正確ではない点である。非公開化は必ずしも事業放棄ではなく、株式市場の短期圧力から距離を取り、再投資・再設計を優先する意思表示でもある。

 とはいえ、訪問介護という公定価格ビジネスにおいて、上場企業が中長期で成長戦略を描く難度が極端に上がったのは事実だ。背景には大きく3つの構造がある。

(1)短期利益と公共性の矛盾
 介護報酬は3年に1度の改定で収益構造が変わる。制度改定は政策目的に左右され、企業努力だけでは回避できない。四半期ごとに数字を求められる資本市場の論理と、公共性の高い事業運営はしばしば衝突する。

(2)先行投資の必要性
 人手不足を補うためのICT、記録業務の自動化、配車最適化、教育コスト――。これらは一過性の費用ではなく継続投資を要する。しかし、訪問介護は“値上げ”ができない。つまり投資原資が枯渇しやすい。

(3)市場の圧力からの脱却
 収益性が揺れる業界で、株主は合理的に「選択と集中」を求める。だが訪問介護は、採算が薄くても維持しなければ地域の生活が崩れる“インフラ事業”だ。上場企業である限り、その矛盾を抱え続ける。

「MBOは“逃げ”ではない。公定価格・人材依存・投資負担が重い業態では、短期評価から距離を置き、5〜10年単位でDXや人材施策を回す方が合理的だ。セントケアの非公開化は、訪問介護がもはや“上場で伸ばす産業”ではなく、“インフラの再設計が必要な産業”であることを示した」(金融アナリストの川﨑一幸氏)

「2%の報酬減」という致命傷と、他業種との賃金格差

 ではなぜ、需要が増える一方で経営が成立しないのか。要因は大きく2つある。

 1つは2024年の介護報酬改定だ。国は「全体ではプラス改定」と説明したが、訪問介護の基本報酬は2%以上引き下げられた。厚労省は「訪問介護の利益率が相対的に高い」とするデータを根拠にしたが、現場は強く反発した。

 訪問介護は「移動」という特殊コストを抱える。移動時間は報酬が発生しないうえ、車両維持費・ガソリン代・渋滞・天候などの変動も大きい。数字上の利益率が高く見える局面があっても、それは一部の都市部や効率運営が可能な事業所に偏る可能性がある。

 もう1つは、全産業的な賃上げ競争だ。物流、外食、小売、コールセンターなどが賃上げを加速する一方で、訪問介護は公定価格の上限に縛られ、賃上げ余力が乏しい。

「マクドナルドのアルバイトのほうが時給が高く、精神的・肉体的負荷も少ない。これでは若い人が来るはずがない」(都内事業所経営者)

 厚労省の調査でも、事業所廃止の最大理由として「人員不足・高齢化」が繰り返し挙げられている。担い手であるヘルパーの高齢化が進み、若年層の参入が細っている状況では、訪問介護は「需要はあるのに供給できない」状態へ向かう。

「訪問介護は労働集約産業で、賃金が上がらない限り供給は回復しない。問題は“需要の不足”ではなく“賃金が市場均衡に届かない制度設計”だ。公定価格がある業界では、人材不足が慢性化しやすい」(高山氏)

地方で始まる「介護難民」の連鎖…家族に突きつけられる過酷な現実

 この危機は、企業の業績問題を超え、すでに社会問題化している。例えば長野県高山村では2024年秋、村内唯一の訪問介護事業所が休止に追い込まれ、約40人の高齢者が突然日常支援を失ったと報じられた。

 訪問介護が途切れると、生活はどう崩れるのか。起きる現象は連鎖的だ。

(1)施設への集中
 在宅が不可能になった高齢者が特養や老健に流れ込む。しかし施設側も人手不足で受け入れが限界に近い。

(2)介護離職の増加
 プロの介護が来ないなら家族が埋めるしかない。結果として、就労継続が困難になり、介護離職が増える。これは世帯収入を直撃し、消費の減退や企業の人材流出につながる。

(3)孤独死・老老介護の破綻
 定期的な見守りがなくなることで異常の発見が遅れる。転倒・脱水・服薬ミスといった“避けられた事故”が増え、最悪の事態につながる。

「在宅介護が崩れると、医療現場にも跳ね返る。訪問介護は生活を支えるだけでなく、体調悪化の兆候を拾う“早期警戒装置”でもある。介護の断絶は救急搬送の増加として出てくる」(同)

解決への道筋:ビジネスの「効率」か、国の「覚悟」か

 もはや“志”や“ボランティア精神”で持続できる段階ではない。必要なのは、構造的に「人手不足でも回る仕組み」か、「賃金を上げられる財源」だ。道筋は大きく2つに整理できる。

1)徹底的なDXと集約化――移動という「死に時間」を削る

訪問介護の最大の非効率は「移動」だ。移動時間は報酬が発生しない。ここを最適化できれば、同じ人数で提供できる訪問回数が増える。

・AI自動配車・ルート最適化
 サービス提供責任者が数時間かけていたシフト作成をAIが短時間で組めれば、訪問件数を1〜2件増やせる可能性がある。

・記録業務の自動化・データ連携
 介護記録、ケアマネ連携、請求作業の負担は想像以上に重い。ここが減れば現場の疲弊が和らぐ。
 ただしDXには初期投資が必要で、小規模事業所ほど導入が難しい。結果として「DXできる事業者だけが生き残る」格差が広がるリスクもある。

「現場はDXを望んでいるが、投資余力がない。補助金だけでは足りず、導入後に運用を回せる人材がいない。だから本質は“IT導入”というより“業務設計の再構築”だ」(同)

2)基本報酬の再設計――“賃金が上がらない制度”を直す

 訪問介護が持続不能な最大要因は、賃金を上げたくても上げられない制度にある。2024年の基本報酬引き下げが象徴したように、政策判断一つで収益が削られる業態で、人材確保は成立しにくい。

 つまり、訪問介護を社会インフラとして維持するなら、国は「基本報酬」を現実的水準に再設計し、移動コスト・地域特性を織り込む必要がある。これは実質的に、社会保険料や公費の負担増と表裏一体だ。

「絶望」を「希望」に変える処方箋はあるか?介護DXと制度の再定義

 訪問介護の窮地は、一企業の努力で埋められる範囲を超えている。ただし、打開の芽も出てきた。鍵は「時間の創出」と「制度運用の柔軟化」である。

(1)AIで移動時間を削る:介護の生産性を上げる唯一の道
 訪問介護の“非稼働時間”を減らせれば、同じ人員でも提供量を増やせる。AI配車、ルート設計、記録自動化はその核となる。

(2)オランダ発「ビュートゾルフ」モデルの示唆
 オランダの訪問介護組織「ビュートゾルフ」は、少人数の自律型チームで運営し、過剰な管理コストを削った。日本でも、管理の軽量化と現場裁量の拡大によって定着率を改善する動きがある。

「介護は“管理で回す産業”ではなく、“現場が回るように設計する産業”だ。自律型チームは理想論に見えるが、むしろ人材不足下では現実解になり得る」(同)

(3)国の緊急手当:処遇改善加算の拡充
 国は処遇改善を拡充してきたが、現場からは「手続きが複雑で事務負担が重い」という声も根強い。賃上げを実現する制度が、現場を疲弊させては本末転倒だ。

(4)混合介護(保険外併用)の解禁は「禁断の果実」か
 持続性を高める案として浮上するのが混合介護だ。保険内サービスに加え、保険外で生活支援を上乗せし収益を確保する。

 ただし、これは「介護格差」を生む危険も孕む。経済力のある高齢者は手厚いケアを受けられる一方、困窮層は最低限の支援しか得られない社会になり得る。政策の設計次第で、社会の分断を加速させる可能性がある。

セントケアHDが狙う「未来のインフラ」

 セントケアHDの非公開化は、訪問介護を“福祉”の枠だけで語る時代が終わったことを示す。短期利益を追う株式市場から距離を置き、AI投資や業務再設計、現場の働き方改革を進め、「生活支援プラットフォーム」へ転換する――。もしその構想が本物なら、訪問介護は衰退産業ではなく、社会の持続性を担う次世代インフラになり得る。

 訪問介護の崩壊は、日本が「福祉の国」として生き残れるか、それとも「介護弱者が棄てられる国」になるかの分水嶺だ。在宅介護は、尊厳を守る最後の砦である。その砦を維持するのは、現場の献身ではなく、制度と投資の覚悟にほかならない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

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