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フジテレビ営業赤字33億円改善…広告93%回復と「脱・放送」戦略の真価

●この記事のポイント
フジ・メディア・ホールディングスが2026年3月期の連結業績予想を上方修正し、営業赤字は従来105億円から72億円へと33億円改善した。背景には、2025年の不祥事後に進めたガバナンス改革と制作費の聖域なき見直しがある。今年1月の地上波広告取引社数は前年同月比93%まで回復し、スポンサー離れからの急反転が鮮明だ。さらに、TVerやFODを軸とした配信連動型のIP収益モデル、2026年サッカーW杯放映権を起点とするデジタル展開など、「脱・放送」戦略が加速。

 かつて「視聴率三冠王」として時代を象徴したフジテレビ。その看板は長らく色あせ、近年は「不動産頼み」「テレビ離れの象徴」とまで言われてきた。だが2026年、同社を巡る風向きが変わりつつある。

 フジ・メディア・ホールディングス(HD)が発表した2026年3月期の連結業績予想の上方修正は、その象徴だ。営業損益は72億円の赤字見込みと依然マイナス圏ではあるが、従来予想の105億円の赤字から33億円も改善。市場関係者の間では「想定以上の立て直し」との声が広がっている。

 その原動力は何か。キーワードは「広告の急回復」と「聖域なき構造改革」、そして「脱・放送」だ。不祥事という逆風を、結果的に組織改革のレバレッジ(梃子)に変えた点にこそ、今回の転換の本質がある。

●目次

「1月93%回復」が意味するもの…スポンサーはなぜ戻ったか

 2025年、フジテレビはガバナンスを巡る不祥事に直面し、スポンサー離れが加速。広告収入は急減し、業界内では「構造的低迷が決定的になった」との見方も少なくなかった。

 しかし、今年1月の地上波広告取引社数は前年同月比93%にまで回復。広告代理店幹部はこう語る。

「スポンサーが最も恐れるのは“説明不能なリスク”です。不祥事後の経営陣刷新とコンプライアンス強化、そして制作費の透明化が進んだことで、『リスク管理可能な局』という評価に変わりつつあります」

 重要なのは「視聴率が劇的に上がった」から広告出稿が戻ったのではない点だ。広告主が評価したのは、ガバナンス体制の可視化とコスト構造改革、つまり企業としての健全性である。戦略コンサルタント・高野輝氏は次のように指摘する。

「地上波広告市場は縮小傾向にありますが、完全に消えるわけではありません。問題は“誰に出すか”。リスクを抱えた局より、再生途上でも改革を明示できる局に広告は戻る。フジの回復はその典型例です」

 年内に取引社数100%回復の可能性も視野に入るなか、広告主との関係性は量より質へと再設計されつつある。

不祥事が突破口に…「昭和型テレビ局」の解体

 テレビ局における制作費や人件費の削減は、既得権益との衝突を伴う。とりわけ長寿番組やスターシステムに支えられた編成は「聖域」となりがちだ。だが今回の危機は、その聖域を一気に崩した。

 社内関係者によれば、「これまでのやり方では立ち行かない」という共通認識が、制作フローや外注構造の抜本的見直しを後押ししたという。制作費は単なる削減ではなく、「投資対効果」の徹底評価へと移行。放送単体で採算を取るモデルから、配信・二次利用を前提とした設計へと標準化が進む。

 TVerや自社配信サービスFODとの同時展開を前提に企画が立ち上がり、放送後の海外販売やIP展開まで含めた収益設計が行われる。

「日本のテレビ局は長らく“放送出し切り型”でした。今回の改革は、IP企業への転換を本気で進めるもの。制作費削減は目的ではなく、IP回収モデルへの構造転換が本丸です」(同)

 つまり、コスト削減は「筋肉質化」の一環であり、単なる守りではない。

W杯放映権に見る「攻めの投資」

 守り一辺倒ではない。2026年サッカーW杯の放映権獲得は、その象徴だ。

 放映権ビジネスは従来、「視聴率勝負」の消耗戦だった。しかし現在は、地上波を巨大なプロモーション装置と位置づけ、そこからデジタル広告、見逃し配信、有料コンテンツ、関連IP販売へと多層展開する戦略へと変貌している。

「W杯は単なるイベントではなく、トラフィックの爆発装置。地上波で認知を最大化し、配信でデータを取得し、IPで長期収益化する。テレビ局がプラットフォーム企業に近づくための試金石です」(同)

 放送事業で“種をまき”、デジタルで“刈り取る”。この循環モデルが機能すれば、放映権は赤字覚悟の象徴ではなく、戦略投資となる。

「不動産依存」からの脱却は本物か

 フジ・メディアHDの安定収益源は長年、不動産事業だった。お台場を中心とした不動産収益が、メディア事業の赤字を補完する構図が続いてきた。

 だが、メディア事業の収益改善が進めば、ポートフォリオは変わる。

「これまでのフジは“テレビ局を抱える不動産会社”と揶揄されてきました。メディア事業が改善すれば、企業価値評価の軸が変わる。IPやデジタル収益が持続的に伸びれば、バリュエーションは再評価される可能性がある」(同)

 もちろん、不動産の安定性は依然重要だ。しかし、メディアが再び成長エンジンになれば、グループ全体のリスク分散はより健全化する。

若年層の「テレビ離れ」という壁

 ただし、構造課題は消えていない。総務省の統計でも若年層のテレビ視聴時間は減少傾向にある。広告市場もデジタルシフトが加速する。

 ここで問われるのは「テレビをどう定義するか」だ。

「テレビというハードウェアは衰退しても、映像コンテンツ需要は減っていません。問題は配信基盤とデータ活用。IP企業へ転換できるかどうかが分水嶺です」(同)

 フジテレビの挑戦は、テレビ局の再生モデルそのものを問う実験でもある。

「解体的新生」は本物か

 不祥事は企業にとって致命傷になり得る。だが、組織の硬直を壊す触媒にもなる。

 今回の業績改善は、黒字化達成そのものよりも、構造改革が実行段階に入ったことを示す点に価値がある。広告93%回復は象徴であり、真の勝算はIP再設計とデジタル循環モデルの確立にある。

 とはいえ、楽観は禁物だ。放送市場の縮小は不可逆的であり、デジタル競争は熾烈だ。だが、不祥事を経て「放送を守る」のではなく、「放送を再定義する」方向へ舵を切った点は評価できる。

 フジテレビは今、テレビ局という枠を超え、「コンテンツ・プラットフォーム企業」への転換を賭けた勝負に出ている。

 2026年3月期の黒字転換が実現するか否かは一里塚に過ぎない。本当の試金石は、数年後、メディア事業がグループの価値を牽引できるかどうかだ。

 どん底を見た組織は強い、といわれる。フジテレビの“解体的新生”が一過性の反動か、それともテレビ業界再編の号砲となるのか。答えは、IPとデジタルの成長曲線が描く未来に委ねられている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)

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中国依存の電池市場に風穴を開けるか…1.3兆円市場ナトリウム電池と日本勢の勝算

●この記事のポイント
リチウムやコバルトなど重要鉱物のサプライチェーンを中国が握る中、日本の電池産業が次の一手として注目するのが「ナトリウムイオン電池(SIB)」だ。富士経済は2045年に市場規模1.3兆円と予測。アルミ箔を用いることで材料コストを3~4割削減でき、マイナス40度でも動作する安全性の高さが強みとなる。CATLやBYDが量産・全固体化を急ぐ一方、エレコムはモバイル分野、日本電気硝子は全固体ナトリウム電池で極限環境市場を狙う。資源依存からの脱却とGX戦略の中核を担う次世代電池の行方を分析する。

 電池覇権をめぐる戦いが、新たな局面に入った。

 EV(電気自動車)と再エネの普及を背景に、世界の電池需要は爆発的に拡大している。しかし、その根幹を支えるリチウム、コバルト、ニッケルといった重要鉱物のサプライチェーンは、中国が精製・加工段階で大きな影響力を持つ構造が続く。資源価格の高騰や地政学リスクが顕在化すれば、日本の自動車・電機産業は一瞬にして「電池の首輪」を締め上げられかねない。

 こうした構造的リスクに対する“第四の切り札”として急浮上しているのが、ナトリウムイオン電池(Sodium-Ion Battery:SIB)だ。富士経済の予測では、2045年に世界市場は約1.3兆円規模へ拡大する可能性があるという。リチウムに代わり、海水や岩塩などから豊富に得られるナトリウムを用いるこの技術は、日本にとって「資源制約」を突破する戦略兵器になり得るのか。

●目次

「食塩」が電池になる日:低コストと安全性の衝撃

 ナトリウムイオン電池の最大の強みは、原材料の入手容易性とコスト競争力にある。

 リチウムイオン電池では、負極の集電体に高価な銅箔が用いられる。一方、ナトリウムイオン電池ではアルミニウム箔が使用可能とされ、材料コストを3~4割削減できるとの試算もある。ナトリウム自体も地殻中に豊富に存在し、価格変動リスクが相対的に低い。

 性能面でも見逃せない利点がある。

 極寒耐性:マイナス40度環境でも動作可能とされ、寒冷地でのEV性能低下を抑制。
 高い安全性:作動電圧が比較的低く、熱暴走リスクが小さい。輸送時に低電圧状態にできる設計も可能とされる。

 エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏は次のように指摘する。

「エネルギー密度では依然としてリチウムイオン電池が優位ですが、ナトリウムは“コストと安全性”で優れます。街乗り用EVや定置型蓄電池といった用途では、すでに十分な実用圏内に入っています」

 これまで課題とされてきたエネルギー密度も、正極材料や電解液の改良により着実に向上している。用途特化型の電池として、実装フェーズに入りつつある。

中国勢の猛追:CATLとBYDの全方位戦略

 だが、この分野でも中国勢の動きは速い。

 世界最大の車載電池メーカーCATL(寧徳時代)は、ナトリウムイオン電池の量産体制を構築し、既存のリン酸鉄リチウム(LFP)電池に匹敵する性能を目指すと発表している。安全基準対応を迅速に進め、量産・実装を加速させる姿勢は明確だ。

 さらにBYDは、ナトリウム電池を低価格EV向けに活用する戦略を打ち出している。加えて「全固体×ナトリウム」という次世代技術の研究も進めており、コストと性能の両立を狙う。

 経済産業省関係者は語る。

「中国は“資源確保→量産→価格破壊”のモデルを確立している。ナトリウム電池でも同じ構図が再現される可能性がある」

 つまり、ナトリウムが“脱中国”の象徴になるとは限らない。量産力で先行されれば、再び主導権を握られる懸念もある。

日本勢の戦略:安全と極限性能で勝負

 それでも、日本企業は独自の勝ち筋を模索している。

エレコム:消費者向け「安全」の訴求

 周辺機器大手エレコムは、ナトリウムイオン電池を搭載したモバイルバッテリーを発売。発火リスクの低減を前面に打ち出し、リチウム電池事故への不安を抱く消費者に新たな選択肢を提示した。佐伯氏はこう評価する。

「小型機器での実装成功は、技術の信頼性を市場に示す重要な一歩です。消費者分野での実績はBtoB展開にも波及します」

日本電気硝子:極限環境を制する

 一方、日本電気硝子は結晶化ガラス技術を応用したオール結晶ガラス全固体ナトリウム電池のサンプル出荷を開始。マイナス40度からプラス200度という過酷環境での動作を想定する。

 これは宇宙用途、医療機器、データセンターなど「安全性と耐熱性が絶対条件」の市場を視野に入れる戦略だ。

「日本は量では中国に劣るが、極限環境や高信頼性分野では依然として世界的競争力を持つ。ナトリウム電池は“隙間市場”から主流へ拡張する可能性がある」(佐伯氏)

「リチウム依存」からの卒業は可能か

 ナトリウムイオン電池が戦略的に重要なのは、資源制約の緩和にある。

 リチウムイオン電池の既存製造ラインの一部は、ナトリウム電池への転用が可能とされる。エコシステムが確立されれば、原材料の調達リスクを大幅に低減し、国内製造比率を高める道が開ける。

 経産省が推進する蓄電池産業戦略でも、サプライチェーンの多元化は重要課題だ。GX(グリーントランスフォーメーション)投資が加速する中、定置型蓄電池市場の拡大は確実視される。ここにナトリウム電池が本格参入すれば、日本の再エネ政策とも強く連動する。

 ただし課題もある。エネルギー密度のさらなる向上、長期耐久性、量産コスト削減など、商用拡大には技術的ハードルが残る。

ナトリウムは“補完”か“主役”か

 現時点で、ナトリウムイオン電池がリチウムイオン電池を全面的に置き換える可能性は高くない。だが、用途別最適化が進めば、EVの低価格帯モデル、再エネ用定置電池、寒冷地用途、さらには高耐熱分野で主役級に躍り出る余地は十分にある。

 全固体電池、水素、ペロブスカイト。日本が強みを持つ次世代技術群に、ナトリウムという選択肢が加わることで、電池産業のポートフォリオは厚みを増す。

 資源を持たざる国が、技術で構造的弱点を克服できるか。「電池の首輪」を断ち切る挑戦は、まだ始まったばかりだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

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