POLA×「美的」の成功実績から見る、「Instagramマガジンパッケージ」の効果

POLAと雑誌「美的」(小学館)は、出版社のコンテンツ力とSNS拡散力を備えた新しいInstagram広告商品「Instagramマガジンパッケージ」を活用し、大きなブランドリフト効果を実証しました。この広告商品は電通デジタルと電通が Facebook Japanと提携・開発した独自の商品です。POLA×「美的」の活用事例をもとに「Instagramマガジンパッケージ」の特長と効果的な活用方法について、担当者3人に聞きました。

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(左から)電通 平林真果氏、電通デジタル 藤井七南氏、電通デジタル 土屋美空氏
※この記事は「KNOWLEDGE CHARGE」の記事を編集したものです。
出版社の制作力とSNSの拡散力を兼ね備えた 今注目の「Instagramマガジンパッケージ」とは  
POLA×『美的』の活用実績から見る 「Instagramマガジンパッケージ」を効果的に活用する3つのポイントとは

 

出版社の制作力とSNSの拡散力を兼ね備えた「Instagramマガジンパッケージ」

──まずは「Instagramマガジンパッケージ」の概要について教えてください。

土屋:「Instagramマガジンパッケージ」とは、電通デジタルのソーシャルプラットフォーム部と電通の出版ビジネス・プロデュース局が2023年に立ち上げた横断組織「ソーシャルコンテンツプランニングユニット(SCPU)」が開発した広告商品です。Facebook Japanと提携し、実現しました。

「Instagramマガジンパッケージ」は、出版社のコンテンツ制作力や編集力を生かして作られた高品質なクリエイティブを広告に活用する商品で、Instagramのカルーセルフォーマットを使用して制作します。カルーセルフォーマットでは、1投稿につき最大10枚の画像を投稿できますが、画像を左右にスワイプする動作を雑誌閲覧に見立てて、「マガジン」と名づけました。そこに運用型広告もセットにしてパッケージ化しています。

「Instagramマガジンパッケージ」では、出版社が制作したクリエイティブを出版社のInstagramアカウントから「タイアップ投稿」として投稿します。その後、そのクリエイティブをクライアント企業のInstagramアカウントから「パートナーシップ広告」として配信します。これにより、1つのクリエイティブを使って出版社アカウントのフォロワーに加え、ターゲティングした幅広いユーザーに向けて広告をブーストすることができます。

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土屋美空(電通デジタル プラットフォーム部門 ソーシャルプラットフォーム部 Metaグループ)

平林:「Instagramマガジンパッケージ」は運用が一番のポイントです。課題に応じた媒体選定などの与件整理は電通の出版ビジネス・プロデュース局が担当します。クリエイティブ・コンテンツの内容は出版社の編集部に考えていただき、広告配信・運用に関しては電通デジタルが最適なプランニングを検討・提案する、という役割分担になっています。

購買意向が2倍以上!POLA×「美的」の活用実績

──POLAが「Instagramマガジンパッケージ」を活用した背景を教えてください。

平林:POLAは、以前から「美的」に出稿しているクライアント企業です。今回は「美的」の本誌とウェブにタイアップ記事を実施する予定でしたが、「せっかくなら、SNSでリーチを広げたい」というご要望があったので、「Instagramマガジンパッケージ」を提案しました。

──実施した施策の内容はどのようなものだったのでしょうか?

平林:まずは「美的」のInstagramアカウントで「タイアップ広告」を投稿し、その投稿をPOLAの「パートナーシップ広告」として運用するという流れで進めました。

広告のクリエイティブは、「美的」本誌に掲載したタイアップ記事をInstagram用に作り替えたものをベースにしました。さらに、追加で「美的」編集部が運営する「美的クラブ」という読者コミュニティのメンバーにアンケートつきのサンプリングを実施し、その結果も反映させた内容になっています。また、「美的クラブ」のユーザー投稿も併せて紹介することで、立体的な商品紹介になるように制作しました。

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「美的」が制作した、本誌のタイアップ広告をもとにした広告クリエイティブ
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「美的」の読者コミュニティ「美的クラブ」メンバーのアンケートも掲載

効果検証を行った結果、非接触者に比べ、純広告と「Instagramマガジンパッケージ」の「パートナーシップ広告」の両方に接触した人の購入意向が非接触者の2倍以上(+21.0pt.) と、非常に高い効果を得ることができました。

データクリーンルームを使い、詳細なブランドリフト効果の検証を実施

──効果検証はどのような形で行いましたか?

平林:Metaのデータクリーンルーム※であるMeta Advanced Analytics(MetaAA)を活用し、効果検証を行いました。今回の施策の目的は、広告接触者の購入意向を向上させることと、態度変容の詳細を知ることでした。MetaAAでは、Instagramの運用データとブランド認知などのアスキング調査データをマッチングさせることで、リフトの詳細を確認することができます。今回のデータ分析では同時期に実施していたPOLAのInstagramで行った通常広告(純広告)と比較し、

  • 「Instagramマガジンパッケージ」の「パートナーシップ広告」だけに接触した人
  • 純広告だけに接触した人
  • 両方に接触した人
  • どちらにも接触していない人

の4つの条件でどのくらいリフトが出ているかを確認しました。

※データクリーンルームとは、個人情報を特定せずに企業がデータ統合や分析を行える分析環境。これを活用することで、生活者の許諾を得たうえで、メディアへの接触、オフラインでの来店・購買などのデータをひもづけることができ、リアルな効果検証が可能になる。


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効果検証分析の結果、純広告と「Instagramマガジンパッケージ」の「パートナーシップ広告」の両方に接触した人において、認知、理解、購入の幅広いフェーズで15~20ポイント増という、極めて高い効果が見られました。企業視点・第三者視点両者からのアプローチが効果的と考えられ、今後は、他のクライアント企業にもこの組み合わせの配信をおすすめしていきたいと思っています。

藤井:リフトの有無を知りたい程度であれば、BLS(ブランドリフトサーベイ)でもいいのではないかと思われるかもしれません。BLSと比較するとMetaAAで実施するアスキング調査は、BLSで実施するような定型化された設問だけでなく、非常に柔軟に設問設計ができるため、設計次第ではユーザーのアフィニティ(好意)をはじめとした、より詳細な項目を調査できる点が強みです。また、広告への接触/非接触/重複接触といった複数の条件での効果検証ができるのもMetaAAの特長です。今回の事例はまさにMetaAAの特性を生かした調査結果だと言えます。

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藤井七南(電通デジタル プラットフォーム部門 ソーシャルプラットフォーム部 Metaグループ)

「Instagramマガジンパッケージ」の4つの特長

──今回の事例を踏まえて、「Instagramマガジンパッケージ」の特長を教えてください。

平林:1つ目は、出版社の企画制作力を生かしたクリエイティブ制作が可能という点です。出版社はユーザーの深いインサイトを把握しており、心を捉えるクリエイティブを制作する能力が卓越しています。本座組には2025年1月現在、約70のメディアが参画しており、豊富なバリエーションから与件・ターゲットに最適なメディアをプランニングできることも大きな強みです。また、今回は「美的」の読者コミュニティ「美的クラブ」を活用しました。出版社はこういった広告制作において有効なリソースを豊富に所有しています。これらを活用できる点は大きなメリットです。

2つ目は、その出版社の企画制作力を生かしたクリエイティブを、出版社アカウントから発信できることです。それにより、信頼できる第三者推奨感を醸成できます。通常、広告とはクライアント企業自身の視点から配信するものですが、この「Instagramマガジンパッケージ」では、出版社という第三者の視点からの広告配信を行います。今回の事例も、「美的」のような“その道のプロ”が、第三者的なポジションで発信することで、情報の信頼感を高められ、ユーザーの意識・態度変容を促すことにもつながったと考えます。

3つ目は、SNS完結型であること。今回も商品をさまざまな角度から紹介しました。カルーセル投稿なので画像内にある程度情報量を盛り込むことができ、Instagramの投稿内だけで認知から理解まで効率よく促すことができます。

最後は、われわれSCPUが運用を行う点です。SCPUが運用を行うことで、細かい運用調整を実施しつつ良質なコンテンツを適切なターゲット層にリーチし、広告効果の最大化を図れます。さらに、先ほどお話ししたようなMetaAAを使った効果検証はもちろん、電通グループが開発したその他のソリューションと掛け合わせた運用も行うことができます。これにより、通常のタイアップ広告では難しい、より深い分析や詳細なターゲティングでの広告配信を実施することができます。

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平林真果(電通 出版ビジネス・プロデュース局)

──「Instagramマガジンパッケージ」が取り入れている「パートナーシップ広告」について、改めて教えてください。

藤井:「パートナーシップ広告」とは、クリエイターが制作したオーガニック投稿を、企業やブランドが自社の広告として配信できる、Instagram広告の配信方法です。配信された投稿には「パートナーシップ広告」というラベルが付記されます。企業やブランドにとっては、自社アカウントフォロワー以外のユーザーにもアプローチでき、広くリーチを獲得できるメリットがあります。また、投稿の広告感が薄いため、広告を忌避するユーザー層へのアピール力が高いところも魅力です。

「パートナーシップ広告」を活用すると、通常広告を運用している企業アカウントにおいて、運用のPDCAをしっかり回すことができるのも、大きな強みだと思います。

電通グループの強みを掛け合わせ、クライアント企業と出版社を強力にサポート

──「Instagramマガジンパッケージ」の今後の展望をお聞かせください。

平林:出版社には、これまでの長い歴史で培ってきた雑誌制作・編集のノウハウとリソースがたくさんありますが、まだまだSNSで生かしきれていないように思います。そこをしっかりマネタイズできる体制を作って出版社に還元しつつ、専属モデル、読者コミュニティ、有識者や有名店とのコネクションなど、出版社が持つリソースを活用して、オリジナルコンテンツを作っていける体制を組織したいと思っています。そして、質の高いコンテンツ作りにとどまらず、それを最適なターゲットに届け、PDCAを回し続けることができる「Instagramマガジンパッケージ」のような取り組みを通して、出版社が作るクリエイティブの価値と効果を多くのクライアント企業に伝えていきたいと思います。

藤井:出版社の強みであるコンテンツ制作力と、われわれの強みであるデジタルマーケティング施策を考える力を組み合わせて、商品開発を進めます。個人的には、各出版社が抱えるコミュニティやリソースを活用した動画制作に取り組みたいです。また、企業やブランドの訴求を端的に、分かりやすくライティングするのが出版社の強みの一つだと思うので、活字を生かした媒体との商品開発もおもしろそうだと考えています。また、現在「Instagramマガジンパッケージ」は同じ座組で「Xマガジンパッケージ」も展開しています。今後は、他媒体でもこの商品を展開していく予定です。

土屋:「Instagramマガジンパッケージ」のさらなる拡販はもちろんですが、やはり現在のショート動画のトレンドにはしっかり対応したいです。Metaの調査では、縦型ショート動画である「リール」の利用割合が50%以上という結果も出ており、Metaとしても注力している領域です。出版社にも縦型ショート動画制作に強い媒体がありますので、ぜひ取り組みたいと思っています。(※2025年3月に縦型動画版の「SNSビデオマガジン」リリース済み)また、「Instagramマガジンパッケージ」とMetaAAは、どちらも電通グループの強みです。この2つを掛け合わせて活用していただくことで、 SNSのトレンドを捉えながら、電通グループの強みを最大限に生かした施策が実施できると考えています。クライアント企業には今回の事例のように、最適なデジタル施策の実施・検証の仕組みを提供していきます。同時に、出版社のマネタイズを強力にプッシュしていきたいと思っています。

今回の案件は、電通の出版ビジネス・プロデュース局と密接に連携しながら取り組んできました。この関係性を大事にしながら、今後も一緒に新しい挑戦をしていきたいです。

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ベインキャピタル、1500億円で買収したADKHDを750億円で売却→それでも利益?LBO活用か

●この記事のポイント
・大手韓国ゲーム会社・クラフトン、ADKホールディングスを買収すると発表
・過去にADKHDを1500億円で買収したベインキャピタルが750億円で売却
・ベイン、仮に自己資金500億円程度で買っていたとすれば、今回の売却で利益を得た可能性

「PUBG: BATTLEGROUNDS」「inZOI」などの人気タイトルを持つ大手韓国ゲーム会社・クラフトンは、日本の大手広告会社・ADKホールディングス(HD)を買収すると発表した。ADKHDは国内広告業界3位に位置にする。今回の買収額は750億円。ADKHDの株式を保有する米投資ファンド・ベインキャピタルの関連ファンドから、クラフトンが750億円で株式を取得して同ファンドの筆頭株主になるが、ベインは今後もADKHDへの出資を継続して経営支援を行う。注目されているのが、ベインキャピタルは2017年にADKHD(当時の社名はアサツーディ・ケイ)にTOB(株式公開買い付け)を仕掛け、18年に約1500億円で買収を完了させていた点だ。一見するとベインには売却によって損失が発生したように見えるが、「ベインは今回の売却によって利益を得た可能性がある」(専門家)という。どのようなカラクリなのか。専門家への取材をもとに追ってみたい。

●目次

ベインキャピタルはADKHDに引き続き資本参加

 2007年創業のクラフトンは韓国ゲーム業界2位(2024年/売上高ベース)の大手で成長が続いており、営業利益ベースでは韓国ゲーム業界首位のネクソンを上回っているとの情報もある。昨年には「Hi-Fi RUSH」「PsychoBreak」で知られる日本のゲーム開発会社・Tango Gameworksの事業を継承した。

 08年の買収により現在、ADKHDの株式を保有する会社の筆頭株主はベインキャピタルの関連ファンドだが、今回、その筆頭株主がクラフトンに異動する。実質的にはクラフトンはベインキャピタルの関連ファンドから750億円でADKHDの株式を取得する。今後もベインキャピタルは出資を継続し、引き続きADKHDの経営支援を行うという。前述のとおりベインキャピタルは過去に1500億円でADKHDを買収していることから、数字だけをみると「高く買って安く売る」かたちで損失が発生しているようにもみえる。

 ゴールドマン・サックス証券、ドイツ証券などの大手金融機関でプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任し、現在もトレーダーとして活動する志摩力男氏はいう。

「ADKとベインの公式発表では、クラフトンはADKに資本参加して協業していくと説明されています。具体的には、ADKの株式を保有する株式会社BCJ-31の筆頭株主が、ベインの関連ファンドからクラフトンに異動するということであり、ベインは今後もADKの経営に関与していくと説明しているので、ベインが保有しているADK株の100%を売却するわけではないとみられます。よって、現段階で最終的にベインが損失を出すのか利益を得るのかは分からないといえます」

LBOと大きな宝箱

 数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。

「ベインは2017~18年に約1600億円かけてADKを買収しましたが、LBO(レバレッジド・バイアウト:借入金を活用した買収)で約1047億円を調達し、自己資金で567億円を出していたもようです。買収後は非上場化されてデータが開示されないのでわかりませんが、非上場化の直前までは毎期20-30億円程度は最終利益が出ていたようです。

 買収後には事業再編やリストラなどを行い、社員が3500人ほどから2400人ほどになっているようですので、平均年収700万円とすると、単純計算で固定費が80億円近く削減されたことになります。不採算事業を切り離したのですから、利益が上がっている可能性は高いです。仮に年50億円上がったとすると、最終利益70-80億円の水準を2017年から8年続けて計約600億円の現金を生み出したと概算で試算できます。そこからLBOの借金を返します。ベインのためにADKが借金を背負わされて返すという理不尽な構図ですが、仕方ないです。私がADKの社員ならば、ばかばかしくてすぐ辞めますが……。

 それでも1050億円は返せませんね。ですが、大きな宝箱があったようです。2017年の有価証券報告書によりますと、ADKは国内外の上場株を768億円(2017年12月当時の時価)保有していました。ロンドンの大手広告代理店の株式を637億円、ほか63銘柄で130億円です。残念ながらロンドンの広告代理店の株価は下がっているようですが、2017年末の日経平均株価は2万2800円ほどで、24年末は3万9900円ですので、ほかの銘柄はADK買収後に上がった可能性が高いです。これらを適当なタイミングで売却していれば、800~1000億円くらいにはなったのではないでしょうか。

 ベインキャピタルは買収当時、LBOによる借り入れを3年程度で返済しようとしていたようにも読み取れますので、もともとこの原資を返済に充てることを想定していたのかもしれません」

 ベインは今回の株式売却で一定の利益を得た可能性があるという。

「ADKの社員が頑張って利益を出し続けるなか、ベインはLBOで調達した1050億円を有価証券の現金化と毎年の利益で予定通り返済し、もし仮に自己資金567億円で買った株を750億円で売却したのだとすれば、ベインは200億円ほど儲けた可能性があるでしょう。ADKの社員が汗水たらして稼いだお金で買い貯めていた上場株を、ベインはうまく使ったといえるかもしれません」(中沢氏)

クラフトンがADKHDを買収する目的

 では、クラフトンがADKHDを買収する目的は何なのか。また、ADKHDが買収を受け入れる目的は何なのか。

「クラフトンがADKHDを買収する目的は、あくまで推察ですが、ADKが保有するアニメのIPや企画制作力、日本のアニメ業界に広くリーチできる機会が魅力に映ったのではないでしょうか。

 一方、ADKの株を持っているのはベインなので、今回の買収についてはADK側が受け入れる意思を持つのかどうかは関係ありません。中小企業のM&Aであれば買収後にキーマンが全員辞めたりすれば大変なので、買い手も売り手も慎重になって確認しながら動きますが、ここまでの大企業になると組織で動いていますので『ADKの従業員から反発されたらどうしよう』といったことは考慮されません。広告代理店という事業は人が全てなので、海外企業が買収してPMIをきちんとやっていくのは相当大変だと思います。もっとも、それは買い手側の課題であって、ベインがADK株を売却を判断する上では関係ありません」(中沢氏)

ADKHDにも海外ビジネス拡大のメリット

 ADKHDの主な事業は広告・マーケティング事業だが、アニメ・コンテンツ事業にも強みを持つ。『ドラえもん」『クレヨンしんちゃん」『プリキュア」『遊戯王』シリーズなど数多くのアニメ制作委員会に参加しており、アニメの制作・マーケティングのノウハウを持つ。また、多くのIPを活用する権利を持つとみられる。クラフトンがADKHDを買収する目的は何か。

「クラフトンとしては、自社ゲームタイトルを日本でアニメ化や映画化して展開するというよりは、日本のアニメなどさまざまなIPをゲームに活用することによって海外展開を進めていきたいという戦略だとみられる。ADKHDがすでに権利を持っているIPはすぐに使えるだろうし、その他のADKHDが直接的に権利を持っていないIPも、日本の大手広告代理店であるADKHDが窓口となって権利保有者である各企業と交渉してくれれば“話がスムーズに進む”と期待できる。加えて、ADKHDのノウハウやコンテンツ企業との接点を活かして、クラフトンは自社のIPに加えて日本のIPを活かしたアニメ・コンテンツの制作とその海外展開を進めることも可能になってくる」

 一方、ADKHDは1月に米国企業(STAGWELL)と海外事業に関する協業を発表するなど海外展開に力を入れており、アジアをはじめ海外でもシェアを拡大させつつあるクラフトンを通じて、ビジネスを拡大させることが期待できるので、大きなメリットがあると予想される」(大手ゲーム会社関係者)

 ADKHDは今回の発表に際し、「グローバルIP企業であるKRAFTONという戦略的パートナーを得たことにより、中期経営計画の中心に置くファングロース戦略の取り組みを加速させてまいります。ADKグループの広告・マーケティング事業や、特徴であるアニメ・コンテンツ事業と、KRAFTONの有するグローバルIPやネットワーク、テクノロジーおよび資金力等を活かし、お互いのユニークネスを最大限活用した持続的成長が期待できると考えています」としている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表、志摩力男/トレーダー)

中国人海外旅行の現在地 回復する市場と旅行ニーズの変化

データから読み解く訪日中国人旅行者のリアル

訪日中国人旅行者に対するインバウンドマーケティングでの成功をつかむには、彼らが日常的に接するメディアやプラットフォームを深く理解し、的確に活用することが不可欠です。

本連載では、電通が提携関係にある中国最大手のオンライン旅行代理店「Ctrip(シートリップ)」や大手SNS「小紅書(シャオホンシュー、英語名“rednote”)」など、中国人が旅行時に利用する主要オンラインプラットフォームからの提供データ、さらには、電通が独自に実施したオンライン調査データや電通中国が保有する独自のデータをフル活用して、インサイトを深堀りし、訪日中国人旅行者の実像に迫ります。

第1回は、2024年の中国人の海外旅行に関する動向を中国政府などの公開データなどから振り返ります。中国における海外旅行者の規模や主な旅行先、デモグラフィック特性を中心に据えて、中国の旅行者は、どのようなことを求めて、どのような時期に海外旅行に行くのか、などといった、日本が旅行先として選ばれるにあたっての基礎的な情報を整理します。

 

コロナ禍後の中国人海外旅行市場は急速に回復

2023年の中国人海外旅行者数は8700万人を超え、コロナ前の19年と比べて60%まで回復しました。

中国観光研究院「中国アウトバウンド観光発展報告書(2023-2024年)」
中国観光研究院「中国アウトバウンド観光発展報告書(2023-2024年)」

さらに、24年上期には6071万人に達し、前年同期比50.4%増加し、19年の74.7%まで回復しています。また、その旅行消費額は1240億ドル(約19兆円)と、中国経済の懸念に関する報道がある一方で、中国人の海外旅行熱には再び力強い勢いが見られます。

Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」

日本政府観光局(JNTO)の発表によると、24年上期の中国からの訪日客数は約307.2万人となっていますので、中国人海外旅行者のうち約5%が日本を訪問していると推定されます。また、24年の訪日旅行消費額が約8兆円でしたが、中国人海外旅行者の消費金額は上期だけで19兆円でしたので、その潜在的な消費力を感じ取っていただけると思います。


コロナ禍後の中国人の海外旅行ニーズの変化:旅行の質をより重視

23年以降、海外旅行の需要は継続して拡大しており、国際定期便の回復、中国政府の政策や利便性の向上によって、海外旅行の回復ペースが加速しています。

訪問先の上位10カ国・地域は、香港・日本・マカオ・韓国・台湾・イギリス・フランス・ドイツの順となっており、コロナ禍前と同じように、中国から近い東アジア地域への旅行は人気が高い状態です。

新しい傾向としては、中国政府が主導する「一帯一路」構想による国際交流と協力もあり、トルコ・アラブ首長国連邦(UAE)・エジプトなどの国々への旅行も増加してきており、中国人の海外旅行の旅行先の選択肢は多様化してきています。

出典:中国観光研究院「中国海外旅行観光発展報告書(2023-2024年)」
出典:中国観光研究院「中国海外旅行観光発展報告書(2023-2024年)」

また、中国人海外旅行者の旅行に対するニーズは常に変化しており、その消費習慣も変化しています。中国人海外旅行者は今、「旅行の質をより重視」し、「体験重視のオリジナルでカスタマイズされた旅行」を望み、「個性的で質が高く、体験に重きを置いたサービス」に出費を惜しまなくなってきています。

旅行ニーズの変化の例

海外旅行をする世代のボリュームゾーンの変化:中国人海外旅行者の半数以上が若い世代に

中国人海外旅行者は若い世代が中心層になりつつあります。1990年代と2000年代以降生まれ(20代から30代)が中国人海外旅行者全体の半数以上を占めるようになってきており、若者の海外旅行意欲は他の年齢層よりかなり高くなってきています。

出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」
出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」

中高年の親は、自分たちの子どもに海外旅行の計画を委ねるようにもなってきています。24年上期の調査では、その割合は42.8%に達し、1年前の27.3%から急激に増加しています。若年層が海外旅行先や、訪問先での行動の意思決定に与える影響はますます大きくなっているといえます。

出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」
出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」


重要な意思決定のデジタルチャネル:「SNS」「オンライン旅行サイト」「検索サイト」

海外旅行のインスピレーションを得るデジタルチャネルとして最も影響力のあるものは「SNS」です。続いて、Ctripなどの「オンライン旅行代理店プラットフォーム(OTA)」、「検索サイト」となります。

「SNS」で利用される主要プラットフォームは「抖音(Douyin、中国版TikTok)」、「小紅書(rednote)」と「微信(WeChat)」であり、これら3つのプラットフォームの利用率が5割を超えています。

こうしたSNSチャネルでの公式アカウントやKOL(Key Opinion Leader、インフルエンサーのこと)を通した情報発信と広告プロモーションの連携は重要な施策となっています。

出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」
出典:Fastdata「2024年中国アウトバウンド観光産業発展動向報告書」

中国人海外旅行のタイミング:「夏休み」が最もピークとなる時期

中国国家移民管理局の統計によると、「夏休み期間(7月〜8月)」が出入国の一番大きなピークシーズンとなっています。「国慶節(10月)」「春節(1〜2月)」「労働節(5月)」の連休がそれに続きます。春節や国慶節という大型連休が、訪日中国人旅行者のプロモーションのタイミングとして注目されがちですが、家族での海外旅行を考えると夏休みが最も適切なタイミングであり、この夏休みの期間前・期間中のプロモーション活動は無視できないといえます。そういった意味では、連休に向けた短期的な施策だけではなく、中長期的な施策を織り交ぜたプロモーション設計が重要になっています。

出典:中国出入国管理局「统计数据」
出典:中国国家移民管理局「统计数据」
 
参照データ:
・    《中国出境旅游发展报告(2023-2024)》在线发布 - www.cottm.cn
・    2024年中国出境游行业发展趋势报告_澎湃号·湃客_澎湃新闻-The Paper
・    统计数据_国家移民管理局
 

次回は、Ctripからの提供データや電通が独自に実施した訪日中国人オンライン調査を踏まえた、訪日中国人旅行者の旅行目的や購買傾向、消費パターンなど、ビジネスに活用できる重要なポイントを明らかにします。


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まだ間に合う!中国インバウンド&越境EC入門

 

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マイクロソフトやグーグル、なぜ「岩石の風化でCO2削減」の新技術に注目?

●この記事のポイント
・地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)排出量を削減し、気候変動を抑制するために世界中で推進されているカーボンニュートラルの動き。
・そんななか、空気中のCO2を吸着する技術として「岩石風化促進」がにわかに脚光を浴びている。マイクロソフトやGoogleも、この技術を持つ企業と提携して炭素除去クレジットを購入するなど多額の資金提供を行っている。

 地球温暖化対策が世界の喫緊の課題となる中、大気中の二酸化炭素(CO2)を能動的に除去する「ネガティブエミッション技術」への期待が高まっている。その一つとして、岩石の自然な風化プロセスを人工的に加速させ、CO2を固定化する「岩石風化促進(Enhanced Rock Weathering: ERW)」技術が注目を集めている。この技術は、そのポテンシャルの高さから、カーボンニュートラル達成に向けて野心的な目標を掲げるGoogleやMicrosoftといったグローバル企業からも、CO2除去量の購入という形で具体的な投資対象として熱い視線が注がれている。

 この分野の研究を牽引し、国の大型プロジェクトも率いる早稲田大学 理工学術院教授の中垣隆雄氏に、岩石風化促進技術の基本的な仕組みから、他のCO2回収・除去技術との違い、そして社会実装に向けた課題と展望まで、詳しく話を伺った。

目次

岩石風化促進とは?―自然の力を借りたCO2除去のメカニズム

――まず、岩石風化促進技術の基本的な仕組みと、他のCO2回収・除去技術(CDR: Carbon Dioxide Removal)との違いについてご説明いただけますでしょうか。

中垣教授:私たちが取り組んでいるのは、CDR、別称ネガティブエミッション技術の一つです。CDRは大きく二つに分類できます。一つは、森林やブルーカーボン(海洋生態系によるCO2吸収)など、植物の光合成を利用して大気中のCO2を取り込み、貯留する方法です。これを何らかの方法で加速させようというアプローチです。

 もう一つは化学反応を利用する方法で、これには「自発的に反応が起こるもの」と「外部からエネルギーを加える必要があるもの」の2種類があります。後者の代表例が「DAC(Direct Air Capture:直接空気回収)」です。DACはCO2を選択的に回収できますが、吸収材からCO2を分離して再利用する際にエネルギーを必要とします。回収したCO2は地下貯留などによって隔離する必要があり、「DACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)」とも呼ばれます。

 一方、岩石風化促進は、化学反応を利用しつつも、自発的に反応が起こり、CO2を安定的に固定化する点が大きな特徴です。CO2は、例えば水素と結合させて合成メタンなどの燃料に戻すことも考えられますが、CO2自体が燃料の燃焼後の物質であるため、燃料に戻すには投入したエネルギー以上の便益を得ることは難しく、多大なエネルギーが必要です。化学的にはギブズエネルギーという指標があり、CO2のギブズエネルギーは-394kJ/mol程度ですが、燃料はよりプラスの値になります。マイナスからプラスへ移行させるには外部エネルギーが不可欠です。

 ギブズエネルギーとは、「ある化学反応が自然に進むかどうかを決めるエネルギーの指標」です。簡単に言うと、ギブズエネルギーの変化(ΔG)がマイナスなら、その反応は外からエネルギーを加えなくても勝手に進みます。逆に、ΔGがプラスなら、反応を進めるには追加のエネルギーが必要になります。例えば、水が氷に変わるのは気温が低いと自然に起こります(ΔGがマイナス)。しかし、水を100℃以上で蒸発させるには熱を加える必要があります(ΔGがプラス)。この指標を使えば、「この化学反応が自発的に進むか?」を予測できるので、電池や燃料の開発、環境技術など様々な分野で活用されています。

 しかし、岩石風化促進では、CO2を炭酸塩(マグネシウムやカルシウムの炭酸塩、またはそれらを含むケイ酸塩やアルミナ酸化物など)として固定化します。この反応で生成される炭酸塩のギブズエネルギーは-1000kJ/mol以上と、CO2よりもさらに低い値になります。ギブズエネルギーがよりマイナス(低い)方向へ進む反応は自発的に起こるため、外部からエネルギーを投入する必要がないのです。これが岩石風化促進の最大の利点であり、DACとの根本的な違いです。

DACと岩石風化促進とのコスト面、実用面での比較

 DACはCO2を選択的に回収できる技術だが、吸収材の再生やCO2の分離・貯留に大量のエネルギーを必要とするため、コストが高くなりがち。一方、岩石風化促進は自然の化学反応を利用するため、エネルギー消費が少なく、比較的低コストで実施可能。

 DACはすでに商用化されているものの、コストが高く、拡張には大規模な設備投資が必要。一方、岩石風化促進はまだ実証試験段階だが、広範囲に適用できる可能性があり、長期的なCO₂固定化が期待されている。

結論:
・DACは高精度なCO₂回収が可能だが、コストが高く、エネルギー消費が大きい。
・岩石風化促進は低コストで長期的なCO2固定化が可能だが、適用には土地や鉱物資源が必要。
・どちらもカーボンネガティブの実現に貢献するが、用途やコストに応じて使い分けが必要。

岩石を砕き、撒く―その効果と持続性、そして課題

――岩石を粉砕して農地などに散布するという方法が中心的かと思いますが、そのCO2固定化効果はどのくらいの期間持続するのでしょうか。また、粉砕や散布に伴うエネルギー消費やCO2排出についてはどのように評価されていますか?

中垣教授:例えば1トンの岩石があったとします。この岩石が持つCO2固定化ポテンシャルは、岩石の種類によって異なり、数百年から数千年、数万年かけて自重の半分程度のCO2を固定化できるものもあります。これが究極的に蓄えられる量です。しかし、それでは2050年のカーボンニュートラル目標には間に合わないため、反応を早める必要があります。そのために、岩石を細かく粉砕して表面積を拡大することで反応を早めるのです。

 現在、私たちが日本で進めようとしているのは、砕石事業者から出る「ダスト」と呼ばれる削りカス(産業廃棄物)を利用する方法です。このダストをさらに細かく粉砕する際にはエネルギーが必要となり、CO2も排出されます。また、ダストを発生場所から農地などの散布場所へトラックで運搬する際にもCO2が排出されます。そのため、北海道の岩石を沖縄で使うといったことはせず、地産地消を基本とし、輸送に伴うCO2排出を最小限に抑えることを考えています。

 最終的なCO2固定化量は、これらのプロセスで排出したCO2量を差し引いて評価します(ライフサイクルアセスメント:LCA)。例えば、三菱重工業と早稲田大学が共同で進めているプロジェクトでは、特定の岩石(かんらん岩や蛇紋岩など)を用い、1年間でCO2を固定化する研究を行っています。時間をかければさらに多くのCO2を固定化できますが、実用化のためにはより短期間での効果が求められます。

――コストについてはどのようにお考えでしょうか?

中垣教授:現在、世界で最も安価にCO2を回収できると言われているのは、大規模な森林再生で、1トンあたり10ドル程度です。岩石風化促進も、将来的にはこれに近いコスト、あるいはそれ以下を目指せる可能性があります。特に、砕石ダストのような未利用資源を活用することで、原料コストを大幅に抑えられる可能性があります。

 重要なのは、CO2固定化量だけでなく、その「永続性(Durability)」です。樹木は何十年、何百年で枯れてCO2を再放出する可能性がありますが、岩石風化によって固定化された炭酸塩は、地質学的な時間スケールで安定的にCO2を貯留します。この永続性の価値をどのように評価するかが、今後の課題の一つです。

 また、農地に岩石粉末を散布することで、土壌改良効果や作物の収量増加といった副次的な便益(co-benefit)も期待できます。これらを経済価値として評価できれば、実質的なCO2固定化コストをさらに下げることができるでしょう。

なぜマイクロソフトやGoogleは岩石風化促進に注目するのか?

 MicrosoftやGoogleのような巨大テック企業は、自社の事業活動に伴うCO2排出量を実質ゼロにするだけでなく、過去の排出量も含めて大気中から除去するという野心的な目標(カーボンネガティブ)を掲げている。その達成のためには、大量かつ永続的なCO2除去を可能にする技術が不可欠だ。

 岩石風化促進技術は、以下の点で彼らのニーズに応える可能性を秘めている。

1.高い永続性(Durability): 岩石によって固定化されたCO2は、数百年から数千年という地質学的スケールで安定的に貯留されるため、森林再生など他の自然ベースの解決策と比較して再放出のリスクが低いと評価されている。

2.スケーラビリティの可能性: 原料となるケイ酸塩岩などは地球上に豊富に存在し、農地や鉱山跡地などを活用することで、理論上はギガトン規模のCO2除去ポテンシャルがあるとされている。

3.コスト効率への期待: 特に未利用の岩石資源(砕石ダストなど)を活用したり、土壌改良といった共同便益を考慮したりすることで、将来的に他のCDR技術と比較してコスト競争力を持つ可能性がある。

4.共同便益(Co-benefits): 農地への適用による土壌のpH調整、必須ミネラルの供給による作物収量の向上、海洋アルカリ化による海洋酸性化の緩和といった、CO2除去以外の環境・社会への貢献も期待されている。

 これらの理由から、MicrosoftはFrontier Fundなどを通じて岩石風化促進技術を持つスタートアップからCO2除去量を購入しており、Googleも同様の動きを見せている。彼らの投資は、技術開発を加速させるとともに、カーボンクレジット市場における岩石風化促進技術の信頼性を高める効果も期待される。

社会実装への道筋―NEDOプロジェクトと産学連携

――日本国内での具体的な社会実装のイメージや、現在進められている研究プロジェクトについて教えてください。NEDOの「ムーンショット型研究開発事業」でも、先生がプロジェクトマネージャーを務める「岩石風化ポテンシャルを最大限に引き出すCO2固定システムの開発」が採択されていますね。

中垣教授:はい、NEDOのムーンショット目標4「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」の一環として、私たちのプロジェクト「岩石風化ポテンシャルを最大限に引き出すCO2固定システムの開発」が2023年度から本格的に始動しました。このプロジェクトでは、2050年にCO2純排出量1ギガトン/年の削減ポテンシャルを持つ岩石風化促進技術の確立を目指しています。

 具体的には、以下の3つの主要な研究開発テーマに取り組んでいます。

1.岩石風化促進メカニズムの解明と最適化: 様々な種類の岩石(特に国内で豊富に存在する玄武岩やかんらん岩など)について、風化速度を最大化するための最適な粒度、散布環境(土壌の種類、水分量、温度など)を明らかにします。

2.CO2固定量の高精度評価技術(MRV)の開発: 岩石風化によって実際にどれだけのCO2が大気中から除去・固定されたのかを科学的根拠に基づいて正確に測定・報告・検証する手法を確立します。これはカーボンクレジット市場での取引や政策的な評価において不可欠です。衛星データやAIを活用した広域評価技術の開発も進めています。

3.社会実装モデルの構築とLCA/TEA評価: 日本国内の具体的な候補地(農地、森林、休廃止鉱山など)を選定し、実証試験を通じて技術的な課題を克服するとともに、経済性(TEA: 技術経済性評価)や環境影響(LCA: ライフサイクルアセスメント)を総合的に評価し、持続可能な社会実装モデルを構築します。

 このプロジェクトには、早稲田大学を中心に、産業技術総合研究所(産総研)、北海道大学、九州大学、電力中央研究所といった国内の主要な研究機関や大学が参画し、企業とも連携しながらオールジャパン体制で研究開発を進めています。

 産総研とは、以前から岩石風化促進技術のLCAやTEAを行うための評価ツール開発で協力しています。このツールを用いることで、異なる種類の岩石や散布場所、適用方法におけるCO2固定化量やコストを計画段階で予測できるようになります。

 日本国内での具体的な適用先としては、農地への散布が有望です。土壌改良効果も期待できるため、農業との連携が鍵となります。特に日本では水田が有力な候補地とされており、国内の水田の10%に岩石風化促進を適用した場合、年間300万トン以上のCO2削減効果が見込めると試算されています(日経クロステック記事より)。その他、休廃止鉱山の活用(酸性排水の中和処理とCO2固定化の同時実現)や、ハウス内に設置したトレイに粉砕した岩石を載せてCO2固定を促す「気固接触方式」なども研究されています。

――社会実装に向けて、最大の課題は何でしょうか?

中垣教授:やはり「測定・報告・検証(MRV)」の確立です。固定化されたCO2の一部は地下水などによって移動する可能性があり、最終的にどれだけのCO2が大気中から除去されたのかを正確に把握し、検証可能な形で報告する手法を確立する必要があります。MRVが確立されなければ、カーボンクレジットとしての価値も認められにくく、企業も参入しづらくなります。

 現在、世界中でMRV手法の開発競争が激化しており、私たちもNEDOプロジェクトなどを通じて、高精度な測定技術やモデリング手法の開発に注力しています。

未来展望―地球の自然治癒力を、人間の手で

――岩石風化促進技術が将来的に普及した先に、どのような未来像を描いていらっしゃいますか?

中垣教授:岩石風化促進技術は、地球が本来持っているCO2吸収能力、いわば「地球の自然治癒力」を人間の手で少しだけ加速させる技術だと考えています。この技術が広く普及すれば、農業や鉱業といった既存産業と連携しながら、持続可能な形で大気中のCO2濃度を低減していく道筋が見えてくるはずです。

 もちろん、この技術だけで気候変動問題の全てが解決するわけではありません。省エネルギー化や再生可能エネルギーへの転換といった排出削減努力(ミティゲーション)が大前提です。その上で、どうしても排出されてしまうCO2や、過去に排出されたCO2を除去する手段として、岩石風化促進技術が重要な役割を担える可能性があります。

 将来的には、様々なネガティブエミッション技術が適材適所で活用され、ポートフォリオとして地球全体のカーボンバランスを最適化していくことになるでしょう。その中で、岩石風化促進技術が、コスト効率と永続性に優れた選択肢の一つとして、世界のカーボンニュートラル達成に貢献できる未来を目指して、研究開発を進めていきたいと考えています。

――ありがとうございました。

(構成=BUSINESS JOURNAL編集部)

たった6分で運命が変わる?IVS LAUNCHPAD優勝者が語る、”共感”が未来を創る瞬間

●この記事のポイント
・国内最大級のスタートアップカンファレンスであるIVSは、スタートアップ関係者のみならず、投資家などからも大きな注目を浴びる。特にピッチイベントのLAUNCHPADは大きな夢がある。
・昨年の優勝者であるRENATUS ROBOTICSの安藤奨馬氏は、自身と会社に大きな変化をもたらした。

「起業とは、生き方のひとつである」

 そう語るのは、スタートアップピッチイベント「IVS LAUNCHPAD(ローンチパッド)」で昨年優勝を果たした、RENATUS ROBOTICS株式会社COO(最高執行責任者)であり、TRUST SMITH & CAPITAL代表でもある安藤奨馬氏だ。

 IVS LAUNCHPADは、毎年全国から300社以上のスタートアップが応募する国内最大級のピッチコンテストだ。そこを勝ち抜くには、ただ「良いサービス・良いプロダクト」を持っているだけでは勝てない。課題設定、ストーリーテリング、演出、そして何より“共感”を生む力が問われる。

 ピッチとは、数字を語るだけの場ではない。6分間という制限のなかで、世界をどう変えるのか、そのビジョンをいかに“物語”として提示できるか。安藤氏はその6分間で、観客と審査員の心をつかみ、そして自身の人生を変えた。

目次

京都大学からスタートアップの世界へ——「技術」と「事業」の接点を探して

 安藤氏のキャリアは、京都大学在学中に始まった。学生時代から複数の事業を立ち上げ、それらを売却(M&A)したり、先輩に引き継いだりと、実践的なビジネス経験を積んできた。

「当時は、起業というより、面白そうなことをどんどんやってみようという気持ちでした」

 大学卒業後、一度は就職の道を選ぶも、すぐに辞めてスタートアップの世界へ。本格的に活動を始めたのは、AIやロボット技術で知られる「TRUST SMITH」にジョインしたときだ。

 創業3カ月目の同社に飛び込んだ安藤氏は、文字通りゼロからの事業創造に携わった。AIアルゴリズムからロボット開発、PoC(概念実証)の立ち上げなど、多岐にわたる業務を経験。やがて、物流領域の現場で“解決すべきリアルな課題”と出会い、そこから誕生したのが、RENATUS ROBOTICSである。

「物流の完全無人化確定未来」——6分間のピッチに込めたビジョン

 安藤氏がIVS LAUNCHPADに登壇したのは2023年。約300社の応募のなかから本戦に選ばれ、6分間のピッチで優勝を掴み取った。

 彼がステージで掲げたのは、「物流の完全無人化確定未来」というメッセージ。この言葉は一見インパクト狙いに思えるが、裏には戦略がある。

 約300社の応募の中から本戦に選ばれた 彼は、ステージに上がる直前、何を考えていたのか。彼がステージで掲げたのは、「物流の完全無人化確定未来」という、一見すると大胆すぎるメッセージ。安藤氏は、いかにして観客と審査員の心を掴んだのか。その「6分間」の舞台裏には、緻密な戦略と、人を惹きつける”物語”の力が隠されていた 。

「“確定未来”という表現には、我々の狙う市場は必ず拡大する、という確信を込めました。未来予想ではなく、“必然”としての市場成長を投資家に伝えたかった」

 ピッチとは、プロダクトや収益モデルを説明するだけの時間ではない。聴衆の記憶に残るストーリーを描き、共感を呼ぶ“演出”が必要だ。

「僕の場合、ステージ全部を使って動いたり、発声やテンポにも気を配ったりしました。観客に“楽しんでもらう”ことを意識して、まるで短編映画のようにピッチを構成したんです」

 ピッチを“ショートムービー”と捉えるこの姿勢は、従来の起業家像とは一線を画している。そこにあるのは、数字とテクノロジーだけでなく、“人の心を動かす”という演劇的な要素だ。

ストーリーが共感を生み、共感が未来をつくる

「事業に可能性があるというのは大前提。そのうえで、共感を得られるピッチになっているかが重要です」

 安藤氏が繰り返し語ったのは、「共感」というキーワードだ。起業家は、社会や市場の課題を見つけ、解決するプロダクトをつくる。しかし、それだけでは投資家もユーザーも動かない。だからこそ、ストーリーが必要だ。

「僕自身、過去のLAUNCHPADのピッチもたくさん見ました。特に印象に残っているのは、2022年優勝のPETOKOTOさん。ペットの健康をテーマにした感情的なストーリー展開と、プロダクトのデモが非常にうまく噛み合っていました」

 観客の心に火を灯すピッチは、必ずしも数字の裏付けが強いだけではない。むしろ、課題と向き合い、社会をどう変えたいのかという“想い”が、言葉に宿るかどうかが鍵を握る。

 LAUNCHPAD優勝後、安藤氏とRENATUS ROBOTICSには、いくつもの変化が訪れた。なかでも大きかったのが、社内の空気だ。

「“優勝した会社”という事実が、エンジニアたちの意識を変えました。この会社でなら、未来がある。そう思ってもらえることが、モチベーションに直結しています」

 外部の変化も顕著だ。採用活動では応募者の質が高まり、資金調達では「すぐにラウンドが決まった」という。

「もちろん、ピッチで優勝したからといって売上が上がるわけではない。事業の本質的成長とは別の話です。ただ、注目度が上がることで、信頼が得やすくなったのは確かです」

「人生が変わる出会いがある」——IVSという場の力

 安藤氏は今、投資家としても複数のスタートアップに関わっている。その立場から見ても、IVSは「人生の分岐点」と言える場所だという。

「IVSでは、たくさんの出会いが生まれます。共同創業者と出会う人もいれば、10年続く投資家と出会う人もいる。採用につながることもあるし、自分の考えていた事業の方向性が大きく変わることもある」

 特に期待しているのは、「Startup Market 300」という出展型の企画だという。安藤氏自身の投資先も複数出展予定で、「そこでどんな化学反応が起こるか楽しみ」と語る。

 今年のIVSでは、従来のメインステージに加えて、「AI」「エンターテインメント」「ディープテック」「グローバル」「ジャパン」「シード」「グロース」という7つのテーマに分けたテーマゾーンの設置など、より多様な取り組みが展開されている。出会いが生まれやすい設計も随所に盛り込まれており、「スタートアップの交差点」としての進化を感じさせる。

「起業家が不幸になるようなEXIT(出口戦略)は見たくない」

 投資家としての顔も持つ安藤氏だが、その投資姿勢は極めて起業家目線に立っている。契約条件や資本政策においても、“共に歩む姿勢”を大事にしている。

「起業家は、お客さんや市場と向き合うことに集中すべき。投資家の顔色をうかがって動くべきではない。だからこそ、僕自身が正直に向き合うし、寄り添う姿勢を持ち続けています」

 スタートアップは孤独な戦いになりやすい。だからこそ、「一緒に戦ってくれる投資家」の存在が重要になる。

「冷戦みたいな関係では、何も育たない。お互いに悪いことも率直に言えるような関係性が理想ですね」

 最後に、これから起業を考える人や、IVSに参加を検討している人に向けて、こうアドバイスを送る。

「起業っていうのは、あくまで人生の中の選択肢の一つです。数字を追うとか、評価されるとか、そういうことにばかり目がいくと苦しくなる。でも、自分自身を幸せにするための手段だと思えば、のびのびと取り組める。IVSに関しては、まずは“行ってみる”ことが大事。仮説を持って参加すれば、必ず何かを持ち帰れる3日間になるはずです」

 IVS LAUNCHPADとは、6分で世界を動かす舞台だ。だが、その裏には、何年にも及ぶ準備や試行錯誤、社会課題への真摯な向き合いがある。登壇者の一言ひとことに、彼らの人生とビジョンが詰まっている。

 安藤奨馬氏が体現したのは、ただの「ピッチ勝者」ではない。“事業”と“表現”を統合し、社会に問いを投げかける、新しい起業家の姿だ。

 IVS2025のLAUNCHPADには、また新たな挑戦者たちが集う。次に6分で人生を変えるのは、あなたかもしれない。

(文=UNICORN JPOURNAL編集部)

大規模排出源、宇宙から特定=温室ガス削減対策に活用―観測衛星

 H2Aロケットに搭載される温室効果ガスの観測衛星「GOSAT―GW」は、地上では全容把握が難しい大規模な排出源を宇宙から特定する能力を備える。国立環境研究所(国環研)の谷本浩志・地球システム領域長は「発電所や工場からの排出を直接捉えることができ、温室ガス削減対策に役立つ」と期待を寄せる。

 今回の衛星は、人工衛星「いぶき」の1、2号機に続く3号機に当たる。温室ガスの約9割を占める二酸化炭素(CO2)とメタンの濃度を測定するだけでなく、化石燃料を燃やす際に生じる二酸化窒素も同時に観測することができる。これまで国単位が限界だった排出量の把握も都市単位で可能になる。

 得られた高精度の観測データは国環研が解析し、国内外に無償で提供する。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、締約国に2年ごとに温室ガス排出量を報告する義務を課しており、政府は各国にデータの活用を促していく考えだ。谷本氏は「CO2の削減が待ったなしという状況で日本が先駆けて(衛星を)打ち上げることには非常に大きな意義がある」と強調する。

 11月にはブラジルで国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)が開かれる予定。政府は、技術的、資金的な制約がある途上国の排出量推計を支援しており、会議の場などを通じて、衛星データを用いた算定手法の国際標準化も目指す。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/06/26-14:43)

ストレスで「甘いもの」「お酒」が止まらないのはなぜ?食欲を暴走させるヤバいホルモンとは【管理栄養士が解説】 – ストレスフリーな食事健康術 岡田明子

梅雨前線が日本列島に停滞し、気圧の変化が激しくジメジメした気候の6月。心身ともに疲れやすくなったり、不調を訴えたりする人が増えます。そこで今回は、この時期に起こりやすい疲れを“癒やす”食事について、注意すべきことをお伝えします。