カテゴリー: 未分類
【中学英語でOK】「dangerous」じゃキツすぎる? ネイティブが好む“物騒”のやわらかい言い方 – 中学英語でペラペラになる! 英語の言い換え図鑑
「やりたいことがない」のは「欠点」じゃなかった――人生が一変する新しい考え方 – 「やりたいこと」はなくてもいい。
仕事ができる人の共通点。三流は「毎日少しずつ」、二流は「コツコツ続ける」、では一流は? – とっぱらう
総合商社もこぞって出資、「夢の技術」核融合発電が実用化目前?京都フュージョニアリングに聞く
●この記事のポイント
・燃料供給が止まれば反応が止まるため安全性は高い核融合発電への注目度が高まっている
・核融合発電の燃料である重水素とトリチウムは海水由来で無尽蔵に抽出可能
・アメリカは2040年代の商業化を目指し、中国も実験施設の建設を進めている
核分裂反応を用いた原子力発電と違って燃料供給が止まれば核融合反応が止まるため、安全性が高いとされる核融合発電への注目度が高まっている。日本の大手総合商社もこぞって投資をするなどして、事業化に期待が高まっている。脱炭素は社会的に最重要テーマであり、二酸化炭素(CO2)を排出しない原発はしばしば有効な手段として挙げられるが、福島第一原発事故の処理のメドが立たない日本で、将来的に原発比率が高まることは考えにくい。
そして、日本は原発のためにウランを海外から輸入しているのに対し、核融合発電の資源である重水素とトリチウムは海水由来で無尽蔵に抽出可能だ。安全性を確保しながら原発と同じように膨大なエネルギーを得られる核融合発電は、まさに夢の技術である。資源小国の日本は2030年代の発電実証を目指し、今夏に国家戦略を改定する。
そこで今回は日本初の核融合ベンチャー・京都フュージョニアリングに、核融合技術開発はどのようなステージまで進んでいるのか、そして、事業として成立する見通しについて話を聞いた。
●目次
核融合は太陽で起きている現象であることから、核融合炉は「地上の太陽」とも呼ばれる。未来の恒久的なエネルギーとして期待されるのが核融合発電(フュージョンエネルギー)だ。
原子力発電(原発)は燃料のウランに中性子をぶつけ、“核分裂”するときのエネルギーを使うのに対し、核融合発電は、重水素と三重水素(トリチウム)をぶつけて“融合”するときに出るエネルギーを利用する。
国際プロジェクトITER、運用前に国家間競争へ
核融合反応の原理自体は確立されており、実験レベルではエネルギーを取り出すことに成功している。しかし、持続的に核融合反応を起こし、商用レベルの発電に利用できるエネルギーを取り出すことはまだできていない。
現在、国際協力プロジェクトであるITER(国際熱核融合実験炉)をはじめ、世界中でさまざまな研究機関や企業が実用化に向けた研究開発を進めている。
ITERは2007年に国際機関が設立され、日本や欧米、中ロなど7つの国と地域が参画、フランスに実験炉が建設されている。これまで2025年の稼働開始を目標としてきたが、34年まで9年遅れると発表された。35年にも本格運用する予定で、その後の発電ができる原型炉は日本では50年頃に建設予定だったが、現在は前倒しが検討されている。
核融合スタートアップである京都フュージョニアリングの執行役員経営企画本部長、中原大輔氏は「日本はITERプロジェクトにおいて最大の貢献国の1つ」と語る。ITERプロジェクトに関連したBA(ブロードアプローチ)活動として、核融合反応を長時間持続させるために、欧州と07年から共同開発してきた超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」でにおいて、それを支える主要機器などで、日本は技術的に存在感を示してきた。「JT-60SA」は量子科学技術研究開発機構の那珂研究所で2023年10月に稼働した世界最大級の実験装置である。
ITERはあくまで実験炉であり、計画が順調に進めば原型炉(実際に発電ができるかテストするための炉)や商業炉へと続くが、建設までにはコストの他に技術的課題も山積している。そして何より、ITERが実現する手前で世界のプレーヤーが自国開発に舵を切ってきた。
「ITERに必要な機器については既に開発が終了しており、その知財は参加している各国が共通で持っている。機器開発でここまで進化したので次のフェーズに行ってもいいのではないかということで、アメリカやイギリス、中国などは、自国でこの事業を推進している。つまり、むしろここから先は民間及び産業の力を使って進めたほうがいいという考えだ」(中原本部長)
核融合というエネルギー分野でも、国と国との競争が本格化してきた。
日本でも実証プロジェクト開始
昨年11月、日本でも民間主導で核融合発電の実証プロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」が始動した。国内外の多数の研究者や企業が参画しており、京都フュージョニアリングがリーダーとして立ち上げ、現在は新会社のStarlight Engine社が推進している。「核融合反応から熱を取り出し発電」という核融合エネルギーの早期実用化の鍵となる発電実証を、政府が掲げる2030年代に行うことを目指す。成功すれば世界初だ。
核融合発電を実現するには、大まかに言って「核融合反応を起こす」工程と、その下流にある「熱をエネルギーとして取り出す」工程の2つが必要だ。プラズマを発生させて核融合反応を起こすことだけでなく、エネルギー変換や燃料の増殖分離など複数の技術が必須であり、それらが整わなければいわゆる発電はできない。ITERや海外のプロジェクトの大半は「核融合反応を起こす」工程の研究開発に注力している。
ITERや「JT-60SA」などで採用しているのは「トカマク型」と呼ばれる方式の核融合炉だが、真空容器には東芝、トロイダル磁場コイルには三菱重工や古河電気工業ほか、中心ソレノイドコイルには三菱電機や日鉄エンジニアリングほか、というように多数の日本企業が関わっている。
京都フュージョニアリングが創業以来力を入れてきたのは「熱をエネルギーとして取り出す」工程で、その理由は核融合発電の産業としての広がりを考えているからだ。実際、プラズマ加熱装置であるジャイロトロンシステムを開発し、イギリスの核融合実験装置にも採用されている。
「核融合反応自体はすでに起こせているが、それを安定して効率よく持続させるようITERや各国の機関で研究している。また、トリチウムに関わる燃料システムのようにエンジニアリング技術としてとても重要な領域があり、その部分を当社では取り組んでいる」(中原本部長)
核融合発電には超伝導コイルの技術が不可欠だが、リニアモーターカーを数十年にわたって開発してきた日本は、真空容器製造技術と併せて技術的に優位な立場にある。
事実上は民間の技術開発競争、日本の勝算は
アメリカは40年代の商業化を目指し、中国も実験施設の建設を進めている。日本は国際競争に勝てるのか。あと何年で自宅のコンセントから「核融合で作られた電気」が使えるようになるのか。中原本部長に率直な疑問をぶつけたところ、「商用炉にはもう少し時間がかかるというのが正直なところ」と返ってきた。
「京都フュージョニアリングの立ち位置では、商用炉への展開を早めるために各社が取り組んでいないプラズマ”以外”の領域の開発を加速している。プラズマのところは“速いスピードで実現するプレイヤーと組んで実現したい”と考えている。
一方で、FASTはこのプラズマと京都フュージョニアリングの領域をつなげるプロジェクトでもある。京都フュージョニアリングが技術開発に取り組む熱の取り出しから発電につなげるプロセスを組み合わせば、それが発電実証としては最速になるだろう。これが当社の考えるシナリオで、結果として2040年代にいわゆる商用炉まで持っていくことを目指したい。実現すれば、日本に産業を呼び込むことができ、国益にも貢献できると考えている」
気になる中国の追撃
先月、中国が開発を進めている核融合実験装置「全超伝導トカマク型核融合エネルギー実験装置(EAST)」が、1億度の高温プラズマを1000秒間維持することに成功し、これまでの世界記録を更新したとのニュースが話題になった。EASTはITERの補完的な実験装置として、プラズマ制御技術や加熱方法、材料耐性の検証などを担当しており、将来的な商業用核融合炉につながる次世代実証核融合炉「CFEDR(China Fusion Engineering DEMO Reactor)」の開発にも直接つながると見られている。太陽光発電のときの苦い記憶があるだけに、多くの国にとって中国の存在は脅威に映る。
「基本的には、ITERが世界最先端の技術。中国の技術は進んでいるが、これはITERでの知見を活用したもの。中国は『BEST』という計画を発表しており、2027年にも新しいプラントができると発表している。ただ、中国の計画はサプライチェーンを含めて構築するという形になっているので、プラントを作るお金と意思があるところにサプライチェーンは全部寄っていく。日本が何もしなければ、核融合産業も中国やアメリカのものになる」
昨年3月、核融合エネルギーの産業化を目指す「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会」(J-Fusion)が設立された。同協議会は、これまでのような学術としての核融合研究ではなく、それを実際に社会に活用するための取り組みを推進する。
中国は国家予算で取り組み、アメリカには巨大な資金調達マーケットがある。日本は確かな技術力で調達するしかない。
(文=横山渉/ジャーナリスト)
電通社員で1.47倍の効果を実証!パフォーマンスを最大化する“攻め”のメンタルケアとは?

本連載では、スタートアップ企業の起業家、経営者、投資家、CMOなどが、会社や事業の成長過程で直面した課題をどのように乗り越えたのか、スタートアップ支援を行っている電通社員との対談形式でお届けします。
今回のゲストは、AIとコーチがサポートする企業向けメンタルケアプラットフォーム「BOOST」を展開する、Boost Health代表取締役CEOの芳賀彩花氏。ベンチャークライアントモデル推進の一環として、電通のスタートアップ支援組織であるスタートアップグロースパートナーズ(SGP)内でBOOSTを導入した経緯と成果、今後の展望について、電通の高井俊輔と語り合いました。
高い成果を出す人とそうでない人の違いは、ストレス対処スキルにあった!?
高井:まずは、Boost Healthがどのような会社なのか、改めてご紹介いただけますか?
芳賀:私たちは2022年創業のスタートアップ企業です。「働くココロを前向きに。会社のパフォーマンスを上向きに。」をミッションに掲げ、企業で働く社員の方々がより健康になるだけでなく、高いパフォーマンスを発揮して企業の成長につながるように支援することを目指しています。
高井:起業の経緯についてもお話しいただけますか?
芳賀:前職はコンサルファームでして、メンタルヘルスの分野と直接的な関係はありませんでした。ただ、コンサルの現場では常に高いパフォーマンスを求められ、短期間で成果を出さなければいけないプレッシャーがあります。その中で、前向きに取り組んで成果を出す人と、そうでない人の違いが何なのかをずっと考えていたんです。最初は「地頭の良さ」が決定的な差なのかと思っていましたが、次第にそうではなく、ストレスへの対処法やコンディションの整え方が、大きな差を生んでいることに気づきました。

高井:なるほど。確かに成果を出している人ほど、自己流でも何らかのメンタルケアをしている印象はありますね。
芳賀:そうなんです。一方で、企業側のサポートは研修やOJTくらいで、ストレスへの具体的な対処法やセルフケアのスキルは、あまり体系的に教えられているところは多くありません。それは企業にとっても本人にとっても損失です。たまたま良い上司に恵まれたから、たまたま環境が良かったから、ではなく、再現性のある形で社員を支援できるソリューションをつくりたいと考えました。

高井:その原点には、東京大学で研究されていたテーマも関係しているんですよね?
芳賀:はい。学生時代は社会心理学を専攻し、組織の中で人がどう行動するのかを研究していました。ただ、当時はそれをビジネスに生かす道があまり見つからなかったので、まずはコンサルの世界に入りました。でもやはり、自分の興味は常に「人が前向きに働くにはどうしたらいいか」にあったんです。コンサル業務でも戦略を立案するだけでなく、それを現場の社員の方々が前向きに実践できるようになるにはどうすれば良いのかをずっと考えていました。
高井:最近では、ようやく日本でも社員のエンゲージメントやウェルビーイングが注目されるようになってきましたよね。
芳賀:本当にそう思います。欧米に比べて、日本企業は人への投資が非常に少ないといわれています。すでに欧米では教育やメンタルケアにかなりの予算をかけているのに対し、日本はまだこれからという段階です。とはいえ、少子高齢化が進む中で健康に長く働き続けてもらうための支援は、どの企業にとっても必要不可欠なものになります。だからこそ今が、私たちのようなソリューションを提供するにはちょうど良いタイミングだと感じています。
高井:そのようなミッションの実現に向けて、御社が提供している「BOOST」はどのようなソリューションでしょうか?

芳賀:当社の「BOOST」は、コーチングによる伴走支援と、認知行動療法をベースにしたAIツールを組み合わせたハイブリッド型のソリューションです。社員が抱えるストレスや不安を「具体的な課題」として言語化し、そこに対してどんな思考・行動の選択肢があるかを提案します。漠然とした悩みを見える化し、自ら前向きな行動を取れるようになる。そうしたストレス対処の力を育てていく仕組みです。
高井:認知行動療法とテクノロジーを組み合わせることで、より実践的でカジュアルに使える形にしているんですね。
芳賀:そうですね。認知行動療法はもともと、うつや適応障害といった臨床の場で用いられてきた手法ですが、近年は、元気な人がより前向きに働くためにも使えると注目されています。仕事をしていると大小さまざまなストレスがありますが、それにどう対処するかで受ける影響は大きく変わってきます。そこで、「受け止め方」や「対処の仕方」を変えることによって、ストレスに上手く付き合うのが認知行動療法です。BOOSTは、その考え方をベースに、ツールを通じて日常的に実践してもらえるように設計しています。

不調にならないだけではなく、120%の状態に引き上げたい
高井:SGPは電通の中でも比較的新しい部署で、これまでのセオリーやマニュアルのようなものに沿ったやり方が通用しない場面が多く、新しいチャレンジを日々重ねています。前例のない状況に向き合う中で、常に高いパフォーマンスを発揮するためには当然ながらプレッシャーを感じることもあります。そんな中で、私たちはSGPにおけるDEIプロジェクトの一環として、またベンチャークライアントモデルの実践として、BOOSTの活用を検討しました。多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まるチームなので、孤立を生まずに、レジリエンスを高め、前向きに働ける環境づくりが必要だと考えたのがきっかけです。
芳賀:当時、電通さんの中で新しい働き方やレジリエンスを重視する方向性が強まっていたタイミングでしたよね。BOOSTも単なる不調予防ではなく、企業の成長や社員の挑戦を支えるソリューションなので、その流れと非常に親和性があると感じていました。
高井:そうですね。いわゆるメンタルヘルス系のサービスというと、どうしても“守り”の側面が強調されがちです。でも、私たちが目指していたのは、メンタル向上によって成果を最大化すること。だからこそ、不調にならないだけではなく、パフォーマンスを高めるためのストレス対処力や、ストレスを跳ね返すレジリエンスの強化という視点に共感したんです。BOOSTの考え方は、不調予防にとどまらず、元気な人をさらに120%の状態に引き上げていくもの。そこがSGPの文化にもフィットしていました。
芳賀:企業が社員の健康に関心を持つのは当たり前になりつつありますが、そこからさらに「もっと成果を出してもらうためにどうサポートするか」という考え方は、まだまだ日本には十分に浸透していません。その点で、SGPをはじめとする電通さんが“攻め”の観点で人のパフォーマンスを高めていこうとされているのが印象的でした。
高井:極端な例かもしれませんが、私はBOOSTのソリューション内容を聞いたとき、大谷翔平選手のことを思い浮かべていました。あれだけのトップアスリートでも、フィジカル面だけでなくメンタル面も含めた優秀なコーチやサポート体制があってこそ、あの成果があるわけです。ビジネスの世界でも同じように、日々のコンディショニングや内面的なケアを大切にするべきだと。そんな考え方を体現しているのがBOOSTですよね。
芳賀:そうですね、アスリートにメンタルコーチがいるように、ビジネスパーソンにもそうした存在が必要だと感じています。
高井:実は、Boost Healthさんと出会ったときに“ビビッと”きた理由の一つは、提供しているソリューションの内容もさることながら、芳賀さんご自身の人となりでした。明るくて前向きで、すごくこのソリューションに“似合う”方だなと。心理的なケアや自己理解を深めるようなプロダクトって、人間味がすごく出るものですし、だからこそ誰がやっているかがとても大事になる。
芳賀:恐縮です(笑)。

高井:ベンチャーキャピタルの方々と話すときにも「その人がやるからこそ意味があるサービスかどうか」という視点が非常に重視されます。芳賀さんの場合、コンサル時代のご経験や社会心理学のバックグラウンド、そしてお母さまが心療内科医という家庭環境など、すべてがこの事業と深くつながっていると感じました。そういう積み重ねがあってこそ、スタートアップ企業が直面するさまざまな“ハードシングス”を乗り越えていけるのだと思います。
芳賀:本当にありがたいお言葉です。私自身も、過去の経験を通じて「人がより前向きに働くには何が必要か」を突き詰めて考えてきました。BOOSTはその答えの一つとして、企業や社会に貢献していきたいと思っています。
コンディションスコア47%向上が示す、確かな手応え
芳賀:SGPの中でBOOSTのプログラムを導入していただき、異動直後など環境変化によってプレッシャーやストレスを感じやすい方を対象に13人の方にご参加いただきました。内容としては、ツールと人によるコーチングを組み合わせたプログラムで、面談を通じて「こうなりたい」「これが課題」といったテーマを明確にし、毎週、次のアクションを設定していくというプロセスを繰り返していきました。
高井:忙しい中でも多くのメンバーが積極的に取り組んでくれて、普段の業務の中ではなかなか口に出しにくいことも率直に話せる場になっていたと思います。実際にプログラムの満足度は92%と非常に高い評価を得ています。
芳賀:BOOSTは参加者自身が「受けて良かった」と感じることを最優先にしていますが、同時に企業側にとっても成果が数字で見えることが重要です。今回、参加者の「コンディションスコア」は平均で47%向上し、特にストレスが懸念された参加者のスコアが顕著に改善されました。また、ストレス対処スキルも向上し、ストレス対処スキルが高い人ほど、エンゲージメント・生産性が高いことも明らかになりました。

高井:面白かったのは、ストレス対処スキルのパターンが人によってまったく違うということです。BOOSTのツールではストレス対処スキルを「情報収集」「気晴らし」「肯定的解釈」など6つの軸で可視化できるのですが、自分がどこに偏りがあるのかがよく分かる。たとえば私は「前向きな諦め」がすごく弱かったんです。確かに言われてみれば、昔から諦めることに少しネガティブな印象を抱くタイプだったと思うのですが、「どうにもならないことを手放すのも一つのスキル」とコーチからアドバイスいただいて、その視点は自分の中になかったと気づくことができました。
芳賀:素晴らしい気づきですよね。高井さん、BOOSTの講師になっていただけそうですね(笑)。
高井:いえいえ(笑)。でも本当に、「回避する」ってネガティブじゃなくて、時には最善の選択なんですよね。積極的に計画を立てる、情報を集める、ポジティブに解釈する——そういう対処法だけでは、乗り越えられない場面もあるんだなと。そうした際に回避したり切り替えて別の選択肢に目を向けるといった選択肢も、実はすごく重要だというのが勉強になりました。
芳賀:もちろん、人生はゲームのようにはいきませんがRPGに例えると分かりやすいかもしれません。草むらでモンスターが出てきたとき、プレイヤーは「戦う」「逃げる」「道具を使う」など選べますよね。自分の残りのHP(ヒットポイント)や相手の強さによって、取るべき対処は変わります。働く上での困難やチャレンジに直面したときも毎回同じ手を使うのではなく、その場に応じた最適な方法を選ぶ。それを一人一人が自ら実践できるようにするのが、BOOSTの狙いなんです。

高井:それがまさに、今回の13人にとっても大きな気づきだったと思います。もちろん、プライバシー保護の観点から特定の個人がどのような結果だったかは私も分からないのですが、匿名で集計されたレポートや感想を見ていると、パフォーマンスの向上や、不安の乗り越え方に関する気づきが多数ありました。
たとえば、仕事の中でうまく乗り越えられなかったポイントに対して、第三者からの視点が加わることで「この対処方法で良いんだ」と思えたという声。あるいは、AIからのアドバイスが意外と効果的だったという声もありました。
芳賀:それはよく聞きますね。AIだからこそ言える、聞けるという感覚。人に話すと気を遣ってしまうけれど、AIなら率直に向き合える。自分が入力したことに対して、一般論としてのアドバイスが返ってくることで、妙に納得できるというのはありますね。
高井:そうなんです。「相手にこう思われるかも」などと、余計なことを考えずに対話できますし、AIの返答にも余計なフィルターがかかっていません。結果として「確かにそうかもしれない」と腑に落ちる。そうした体験を通じて、自分の思考のクセに気づけたり、行動の選択肢が広がったりする。それが、BOOSTを導入して得られた大きな価値の一つだと思います。
ベンチャークライアントモデルでの強い成功体験が、提案の説得力に
高井:今回の取り組みはベンチャークライアントモデルの実践という側面もありましたが、その視点でいうと「自分たちで実践して成果を得られた」という事実を持てたことは非常に大きいと思っています。今後電通のクライアントにも、BOOSTをご提案していきたいと思っています。やはり、自社が当事者として導入・活用した上で納得できる結果が出たことは、クライアントに提案する際にも最も説得力のある材料になります。
ベンチャークライアントモデルは本当に難しいと思っていて、必ずしも成果が出るとは限らないですし、曖昧なまま終わってしまうケースも少なくありません。でも今回に関しては、目に見える形で成果を得られた稀有な例だと感じています。
芳賀:本当にありがたいことです。まずは高井さんのように、BOOSTを信頼して伴走してくださる方と出会えたことが、大きな成功要因だったと感じています。そして、これまでの実績を振り返ってみても、電通さんとの取り組みを通じて得られた成果はかなり高い数値となっています。もともと優秀な方が多い中で、より高い成果を出そうとすると、それだけプレッシャーも強くなる。そのような環境にいる方々だからこそ、BOOSTのようなコーチングや支援を必要としていたのだと思います。
また、私たちのようなソリューションは日本ではまだ新しいため、興味はあっても様子見の企業が多いのが現状です。そうした中で、電通さんのような企業がBOOSTを活用し、明確な成果を出したという事実は、非常に大きなメッセージになります。

高井:BOOSTを単にテストして終わりではなく成功体験につなげられたのは、導入のプロセスにも要因があったと思っています。ベンチャークライアントモデルをうまく機能させるには、ソリューションが優れていることは大前提として、それだけでなく組織内でいかにコンセンサスを取り、丁寧に段階を踏んで進められるかがカギになります。
たとえば、今回はAIを活用したソリューションでもあるので、AI活用に関する社内のルールやガイドラインへの対応も不可欠でした。人事部門や関連部門にもきちんと説明し、理解してもらえるようにコミュニケーションを重ねる。そうした一つ一つの対応が重要になります。
芳賀:本当にその通りですね。どれだけソリューションが良くても、それだけでは大企業には導入していただけないというのを強く感じています。関係する一つ一つの部署に納得してもらいながら、段階を踏んで進めていく必要があります。
高井:そのようなプロセスの構築や合意形成も含めた成功体験を、クライアント企業への導入を支援する際にも役立てていきたいと思っています。

成長とケアの両立を、日本のスタンダードに
高井:今回の取り組みで得られた成果をもとに、BOOSTの導入を社内でもさらに広げていこうという動きが進んでいます。すでに別部署やキャリア採用の方のオンボーディング支援への応用も検討中で、具体的な計画も始まっています。今年度もSGP内で新たにプログラムを実施する予定ですし、取り組みを聞いて声をかけてくれるメンバーも増えていて、チームとしてもワクワクしています。
今後はより上位のマネジメント層、たとえば局長レイヤーや役員クラスにも参加してもらう計画を進めており、トップ層にもBOOSTの価値を実感してもらえることを期待しています。
芳賀:私たちとしても、BOOSTを日本企業の新しいスタンダードにしていきたいという思いがあります。これまでの日本の働き方は、前時代的なハードワークを良しとしていた“攻め”の時代から、働き方改革やウェルビーイングによる“守り”のフェーズに移行してきました。でも今、求められているのは、その中間——心身の健康をケアしながらも成長を後押しするような、バランスの取れた支援の形だと感じています。
そういった意味でも、電通さんのような「高いパフォーマンスと心身のケアの両立」を目指す企業と一緒に、新しい風を起こしていけることに、私たちは強い意義を感じています。
高井:BOOSTは、私自身がずっと使い続けたいと思えるソリューションなんです。実はBOOSTのコーチに「仕事をする上で高井さんが大切にしているポリシーが、今の自分を縛っているのかもしれません」と言われたことがあって。自分では信念だと思っていたことが、実は柔軟な思考を妨げていたという気づきがありました。このようにプログラムを通じて、明らかに自分の状態が良くなったという実感があるからこそ、人にもおすすめしたいと心から思っています。
芳賀:それこそ、スタートアップ企業や新規事業に取り組む部署との相性も良いですよね。人手が足りない中で、マネジメントが行き届かない場面もありますし、BOOSTがフォローしきれない部分を支える“影の伴走者”になれるのではないかと思っています。
高井:そうですね。誰かが疲弊する前にAIやコーチがアラートを出してくれる。あるいは本人が自力で立ち直る力を養える。そんな仕組みがあると、組織全体のレジリエンスが格段に高まるはずです。
芳賀:SGPの皆さんとの取り組みは、私たちにとって大きな一歩になりました。新しい価値を提案するスタートアップにとって、最初の導入実績を積み上げることは容易ではありませんが、そんな中でファーストペンギンとして飛び込んでくださり、実際の現場での手応えや丁寧なフィードバックをいただけたことは、BOOSTの価値をさらに磨く上でも本当に大きな前進の機会でした。社内調整も含めて真摯に伴走していただいたことに、心から感謝しています。
高井:ありがとうございます。私たちとしてもBOOSTという新しい選択肢を社内に届けられたことをうれしく思いますし、これからもワンチームで一緒にソリューションをより良くしていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします!
25万人 が熱狂した「体験」。誰一人置いていかない「CLAMP展」のつくりかた
展覧会は「鑑賞」から「体験」へ。
漫画やアニメに代表されるコンテンツファンは、「鑑賞」だけでなく「体験」を求める傾向にあり、展覧会のあり方も大きく変化しています。
そうした中、電通と電通ライブは「コンテンツの新しい体験の場」という視点で展覧会をプロデュースする「dentsu Exhibition Value Design」の提供を開始しました。
「dentsu Exhibition Value Design」広報リリース
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2025/0207-010840.html
本連載では、両社が手掛けた新しい形の展覧会をご紹介していきます。今回取り上げるのは、「カードキャプターさくら展」(2018年)と「CLAMP展」(2024年)です。
東京・大阪で開催した「カードキャプターさくら展」は、東京展だけで総入場者数約14万人を記録。さらに同作の作者CLAMP(くらんぷ※)の全作品を取り扱った「CLAMP展」は国立新美術館で展開し、72日間で約25万人を動員しました。
多くの来場者を惹きつけた「展覧会」という名の“体験”は、どのように生み出されたのか。
講談社でCLAMP作品の2次利用を統括する松浦希氏をゲストに招き、2展のプロデューサーを務めた電通の関俊作氏、空間デザインを担当した南木隆助氏に、舞台裏をお聞きしました。
※CLAMPとは
いがらし寒月、大川七瀬、猫井、もこなの女性4名で構成される創作集団。1989年「聖伝-RG VEDA-」で商業誌デビュー。以降、少女漫画、少年漫画、青年漫画と多彩なジャンルにわたり多くのヒット作を世に放つ。主な作品に「東京BABYLON」「X -エックス-」「魔法騎士レイアース」「カードキャプターさくら」「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」など。
「カードキャプターさくら展」に見る、展覧会初動時の2つのポイント
──皆さまの自己紹介をお願いします。
関:電通に入社以来20年以上、出版社と関わる仕事をしてきました。現在は、展覧会事業を幹事として計画するなど、投資も含めた出版社の課題解決を中心に手掛けています。展覧会事業ではプロデューサーとして、企画立ち上げ時は社内外のチーミング、会場確保、収支設計などを。企画推進時は各所全体調整役や、製作委員会のとりまとめを行っています。
南木:私はアーキテクトとして、店舗や展示などの「場を作る」仕事を中心に担当しています。「カードキャプターさくら展」「CLAMP展」は、電通のクリエイティブディレクターである中野良一から声をかけてもらい、空間デザインの担当として参加しました。私自身CLAMPさんの作品には子ども時代から親しんでいましたので、とても嬉しかったです。
松浦:講談社で作品のグッズやタイアップ、イベントなどのライツアウトを行うライツMD部とIPビジネス部を兼務しています。なので基本は漫画やアニメのグッズやコラボ・タイアップのライセンス業務を行っています。
ただ、CLAMP先生の作品に関しては少し特殊で、「CLAMPルーム」という編集部横断の組織が編成されていまして、私はルームメンバーとして、グッズに限らずイベント・アニメ・実写・舞台など、講談社で出版されているすべてのCLAMP作品の2次利用に関するプランニングを統括してプロデュースしています。
──2018年に開催された「カードキャプターさくら展」(以降「さくら展」)立ち上げの経緯を教えてください。
関:まず前段として、2014年に上野の森美術館で、講談社さんのコンテンツである「進撃の巨人展」を開催したんです。その際に当時の「カードキャプターさくら」ライツ担当の方から、同作を展覧会で盛り上げてほしいとご相談いただき、2015年には稟議書提出や会場確保等に動き出しました。
展覧会を開催する際、初動のポイントは2つあります。一つは、展覧会を通して達成したい「目的とコンセプト」を決めること。ビジネスとしての成功は目指しつつ、それとは別に「何を成し得たいのか」を明確にすることが大切です。今回もまずは講談社さんとの議論を通して「目的」を掘り下げてから、クリエイティブ側がどんな展示で見せていくかを、チーミングを含めて考えていきました。
もう1つのポイントが「会場」です。大型の展覧会の場合、会場を押さえるには開催時期の3年半くらい前から動かないと、枠が埋まってしまう。さくら展の時は、開催時期がまだ確定されていない段階から、森アーツセンターギャラリーをはじめとしていくつかの会場候補と、条件などの相談を始めました。
原画にたどり着くまでの導線も大事に。「親子でも楽しめる体験型展覧会」への挑戦
──さくら展の「目的とコンセプト」とはどのようなものでしたか?
関:「カードキャプターさくら」は1996年から始まった長い歴史のある作品ですが、展覧会を開催した2018年はちょうど新シリーズの連載をしているところだったので、講談社さんには、このタイミングで実施する展覧会の意味合いをどこに置くのか考えましょうと話しました。
その結果、初期からのファンは、子どもがいれば展覧会に連れてこられるくらいの年齢になっているはずなので、その層へのアプローチを目指したい。参加型のイベントにして、親子でも楽しめる体験をつくりたいとの話が出てきました。
この相談をした当時、まだ展覧会というと、学術的な雰囲気で原画をしっかり見せるイベントに捉えられがちでしたが、もう少しエンタメ性を強くして、みんながハードルを感じずに楽しめる「体験型」の展示を目指すことにしたのです。
──「親子でも楽しめる体験型」の展覧会は、それまであまりなかったと思います。クリエイティブチームとしては、このコンセプトをどう意識しましたか?
南木:CLAMP作品は世界観がとにかく素晴らしく、本展では原画もお借りできることが決まっていました。生の原画に力があるのは大前提ですので、クリエイティブ側としては原画を見るまでの体験の導線や、楽しめる要素をどう入れ込むかを大事にしようと話していました。
具体的には、「カードキャプターさくら」やCLAMP作品の社会的な意味づけを感じられる導線を設けたり、映像を見てもらったり、「花(フラワー)の部屋」という、来場者が花の形のシールを壁に貼って、自ら展示に「足せる体験」ができる要素を加えたんです。
そうした流れを構築することで、熱量の高いファンはもちろん、初めて見る方でも、同伴されたご家族でも楽しめる構成を目指しました。
苦心した「体験」の設計。指針としたのは「ファンにさくらをどう思ってほしいか」
──松浦さんが電通からの提案を聞いた際の、率直な感想をお聞かせください。
松浦:ご提案いただいた展示方法やアプローチが「カードキャプターさくら」の展覧会としてベストなのか、また家族連れや往年のファンの方、新連載の読者など、それぞれ求めるものが違うであろう来場者の方々にどう刺さるのか、正直想像がつかない部分がありました。というのも、企画当時は漫画作品の原画展というもの自体が少なく、「良かった展示」の事例やイメージがあまりにもなかったんです。
最終的に「魔法にかけられた美術館」というテーマを据えたことで、各ブースの展示・体験の形が具体化されていきましたが、関係者みんながイメージを共有できるテーマの設定が難しくもあり、重要でした。
──当時は珍しかった「体験」重視の展示だけに、事前にイメージするのは困難だったのですね。
松浦:例えば南木さんのお話にも出た「花の部屋」は、来場者が花のシールを壁にどんどん貼っていくことで、部屋自体の様子が変わるというコンセプトです。ただ当初は、日常生活で私と同じくらいの大人世代がシールを貼る体験はあまりないため、企画書の文字で見ただけでは、貼って楽しいのかが想像できなくて。「そのスペースがあるなら原画を飾った方がいいのでは?」と最初は反対したりもしましたね。

南木:提案するわれわれの側も、「本当に想定通りにシールを貼ってもらえるのか」というのはかなり大きな挑戦でした。リアリティをどう共有できるかがとても重要だと思っていましたので、さくら展では紙の企画書だけでなくて、模型なども作ってご提案をしていました。それでも「花の部屋」だけは、模型でも伝えるのが難しかったです(笑)。
松浦:私の主務であるグッズ開発では、大体の場合、色校正など実物のサンプルを確認することができ、全体像を把握できます。ところが展示となると、例えば壁のサンプルも10cm四方くらいでしか見られない。
さくら展では作中のさくらの衣装を実際にリアルクローズとして制作したのですが、生地のサンプルも5センチ四方くらいの小さいサイズです。手元の小さなサイズの紙や布では良い色だと思えても、実物大になったらやっぱり濃すぎたりするのでは……など、想像だけでさまざまなことを判断するのは非常に難しかったです。
衣装にしろ空間演出にしろ、「漫画の中にしかないもの」を実際に作るのは大変です。とにかく試行錯誤を繰り返しましたね。最終的には、「さくらをどう見せたいのか」「ファンの方に来てもらった時、どう思ってほしいのか」が作り手側でしっかりイメージできているなら大丈夫だと信じて、進めました。
──実際に完成した展示物を見た時の印象はいかがでしたか?
松浦:衣装を展示した「包囲(シージュ)の部屋」については、企画書上で見ていた以上に実物の作り込みが素晴らしく、「クリエイティブチームはここまでのものを想像していたのか!」と良い意味で裏切られました。先生の原画がない空間が、果たして「もつ」のか不安だったのですが、杞憂(きゆう)に終わりました。特に大変だった衣装もとてもかわいくできていて、先生方にも「非常によかった」と言っていただけました。
「花の部屋」についても、来場者が貼り付けたシールでハートなどの図形が現れてきて、日々見える光景が違ってくる様子を見た時には、とても感動しました。全く想像できていなかった光景だったので、私の想像が浅かったと思いました(笑)。絵ではない形で「魅せる」ことができるのも展覧会の魅力だと分かり、私自身も「体験」というものの重要性・可能性を非常に感じました。電通さんに相談してよかったです。
さくら展からCLAMP展へ。“総合展”の難しさを打破する「コアにもライトにも届く」テーマ

──さくら展から約6年後の2024年7月、今度はCLAMPの全作品を取り扱った「CLAMP展」が国立新美術館で開催されました。こちらの経緯をお聞かせください。
松浦:大阪でのさくら展が終了した時に、担当編集と私とCLAMP先生4人の計6人で打ち上げをしたのですが、その際に「またこうした展覧会をしたいね」という話になりました。さくら展がすごく良かったというお言葉はとても嬉しかったですし、もちろんまたやれたらいいなとは思ったのですが、似たような展覧会を再度開催するだけでは工夫がないなと思ったので、その場で思わず「CLAMP展はどうですか?」と言ってしまって。
言ってしまった以上は動かなくては!とすぐ関さんにご連絡したら、「CLAMP展はなかなか難しいですね」とクールな返事をいただいたのをすごく覚えています(笑)。
関:そこは純粋にビジネスサイドのお話で(笑)、イベントの世界では、総花的な“総合展”は、集客が難しいとよくいわれるんです。例えば雑誌単位の展覧会よりも、作品単体の方が人が来るというのは、私自身の経験則でもありました。作家単位のファンは、作品単位のファンよりもコアなイメージがあるので、簡単ではないと思ったんです。
それでも松浦さんの熱意を受け、私自身もさくら展の経験を基にさらなるアップデートをして、新しいチャレンジをしたい気持ちがありました。「おそらく前回と同じチームでなくてはできないし、同じチームでやりたい」と言ってくださったことがうれしくて、難しいと言いつつも断る選択肢はありませんでしたね。
──CLAMP展では、作家展でよく見られる時系列の展示ではなく、「COLOR」「LOVE」「ADVENTURE」「MAGIC」「PHRASE」と、「C」「L」「A」「M」「P」を頭文字にした5つ+2のテーマで部屋を区切り、多彩な作品を並べて見せているのが魅力的でした。こちらはどのように決まったのでしょうか?
松浦:最初は年代ごとに分けて展示する案もありました。けれど「CLAMP展」となると、全作品を読んでいる方も、一部しか読んだことがない方も来場されます。後者の方が来たときに、「自分が見たかった作品の展示は少なかったな。物足りないな」と思われてしまうのは避けたい。一方で、「CLAMP展」と作家の看板を掲げた以上、作品を絞るのも違う。結果、電通さんには「コアもライトも満足できる展示にしてほしい」という無理難題を投げかけました。そのためか、この5つのテーマに至るまでがかなり長かったですね。
南木:何案あったか分からないぐらいでしたね。半年以上をかけて資料を読み込んだり意見交換をしたりして、最終的に中野が5つのテーマで展示を区切っていく案を出しました。
松浦:本展の開催にあたっては「コアなファンも、この展覧会でCLAMP作品を知った人も、誰一人置いていかない体験にしたい」「展覧会の後に『読み直したい・知らない作品を読みたい』と思わせたい」という2つの強い希望がありました。難しいテーマでありながらも、そこに向かって全員が考え、ディスカッションを重ねた結果、素晴らしいアイデアが生まれたと思っています。
「原画の力」を信じてつくりあげた、アートとエンタメの融合

──国立新美術館(以降、新美と記載)での開催という点にも、ハードルがあったのではないでしょうか?
関:新美は非常に広く、天井も通常の倍以上高かったので、元々計画していた予算感だと展示がチープに見えてしまいかねない課題がありました。それに国立美術館との共催ということで、予算に厳密な上限がある中、そう思われないための工夫をいかにうまくやるかがとてもチャレンジングでしたね。
南木:全体的には、CLAMPさんの作家性と世の中にもたらした面白さをどう伝えるべきか、といった視点を大事にして展示構成を考えました。広い空間をどうしたらうまく使えるか勉強するために、CLAMP展への参加が決まって以降の新美の展覧会は、全て見に行きました(笑)。また、学芸員さんにもお話を聞きながら勉強しました。
当初は、さくら展のようにもっと体験的な企画がいいのではという意見もあったのですが、新美だからこそできる展示をと思った時に、「原画の力」を前面に打ち出す方向に振り切れました。私自身もさくら展では「原画の持つパワーをもっと生かせたのではないか」という課題を感じていたのです。
結果的に、その判断は間違っていませんでしたね。CLAMPさんからご提供いただいた描き下ろしの一枚を見た時に、「すごい、これを最後に出せるなら、いける!」と思えました。

松浦:とはいえ、描き下ろしを展示した最後の部屋のデザインについては、最後まで難航しましたよね。最終図面では、原画の横にある白いカーテンに展示原画を拡大し出力したタペストリーが飾られていたんです。ところが、いざ設置のタイミングで南木さんと中野さんから「タペストリーはいらないのでは?」と言われて。工夫を凝らした展示を抜けたら、最後は原画1点だけという潔い展示になり、とても印象的になりました。

南木:今回は最終的に腹をくくって「足さない」ことを決めた。それが非常に良い展示になり、良かったです。
松浦:今回、プロジェクトを通して、電通さんの「馬力」も感じました。中野さん・南木さんはじめ、クリエイティブチームの皆さんは、全CLAMP作品を読破して作品を読み解き、分かりやすく言語化・視覚化して、展覧会をブランディングしてくださりました。この途方もない作業を、限られた日程の中、高いクオリティでつくりあげる力に本当に驚きました。企画のテーマ設定はもちろん、キービジュアル、空間デザイン、原画の配置に至るまでこだわり抜く姿勢が素晴らしかったです。
──「さくら展」「CLAMP展」共に、来場者数もさることながら、Twitter(現X)で何度もトレンド入りするなど、ファンの満足度がかなり高かったように思います。ファンが喜ぶ体験設計ができたポイントは?
関:こうしたクリエイティブチームの組成時には、対象者や作品のファンであるメンバーを入れているのですが、一方であまり詳しくない「ニュートラル」な人間も必ずアサインしています。両方のタイプがいてこそ、ニッチにもライトになりすぎないチームになる。幅広い層にいい展示だと思ってもらうには、そのバランスが大事です。
例えば、ファンの方々の2次創作的に喜ばれるようなシチュエーションを展示で出すと、「こういうことは公式ではやってほしくない」と言われることがあります。ファンにしてみると、想像の余地も残しておいてほしい部分もあるはず。公式から押し付けることがないよう、ラインを守ることが大事だなと。この線引きは難しいのですが、ニュートラルに見られる人が意見を言ってくれて、良いバランスを保てました。
松浦:この展覧会に関わることでCLAMP作品を初めて履修したメンバーも、昔からのファンだというメンバーも同等に意見を言い合える、良い雰囲気作りができていましたよね。例えば新美の学芸員さんからは「アートとして見たときに、押しの絵ばかりだと疲れてしまうから、途中に抜きの絵も必要」といった美術視点のご意見をいただきました。結果として、全体的なコントロールと個々の熱意がうまくマッチした空間になったと思います。
鉄壁の転売対策と“品切れなし”を目指し、日々改善を続けた物販
──展覧会をビジネスとして成功させる要素の一つに、物販があると思います。CLAMP展では幅広い種類、膨大な数のグッズを展開し、転売対策もかなり徹底して、来場したファンに届けられていましたよね。
松浦:展覧会での体験を、唯一「形」として持ち帰ることができるのが、グッズですよね。さくら展の時、実は2日目で結構品切れ状態になってしまったことが、担当者として大きな反省点でした。展覧会のグッズはその時しか買えないからたくさん購入いただける一方、売れ残ったときは全て在庫になるので、制作側のリスクがかなり高いんです。とはいえ、根拠を数値化してメーカーさんを説得し十分な量を確保するのが私の仕事ですので、この点については、説得できなかった私の力量不足に尽きると思います。
さくら展の時とほぼ同じメーカーさんにグッズ開発をお願いしたのですが、メーカーさんもさくら展の品切れを反省されていました。そこで、全員が反省を生かして、今回はしっかりファンの方に届けましょうと、一丸となりました。
関:こうしたグッズは、各メーカーの商品が似通ってしまいがちです。CLAMP展では、使用する作品・アート(イラスト)をバランスよく分けながら、グッズの種類も含めて全体的なポートフォリオを組んでいた。これは相当大変な作業なので、松浦さんたちの熱意を感じました。
松浦:23作品全部を扱ってほしいという条件や、商品化のルールを細かく設定し、歴代のエンタメ展覧会で出された倍の量を作るくらいの計画を立てました。私たちライセンス側が決めていたのは、「来た人全員を取りこぼさない」こと。自分が欲しい作品のグッズがなかった……となるのは絶対避けつつ、品切れを起こさない数を用意することにも気を配りました。
物販窓口のムービックさんとは、公式サイトでのグッズ発表後にアクセス数を分析して、たくさんクリックされた熱量の高い商品は、開幕前の時点で追加生産の指示を各メーカーさんに出しました。おかげで会期途中の追加投入もかなりできましたね。
関:それと同時に、大量買いをされる熱量の高いお客さんの対応をどうするか、私自身の知見を含めて、守ってもらえるルールと告知方法、運営方法を考えました。
できるだけ多くの方にご満足いただくために、「ランダム以外の商品は1種類につき1つまで」などの個数設定や、「ショップ滞在の制限時間を設ける」「待っているときに整理券を引き換える」といったお待たせしない工夫など、細かな対応を、直前ギリギリまで検討して整えました。この点は、臨機応変に対応してくれた運営担当の力も大きかったと思います。
松浦:転売対策は、SNS上の声や現場で起こっていることを毎日キャッチアップして、関さんと連絡を取りながら日々改善していました。対応の早さは、ムービックさんと運営担当の方々、電通さんにとても助けられた部分です。
また、製作委員会で都度合意を取ると時間がかかるので、CLAMP展では大方針は製作委員会全員で策定しつつも現場の日々の判断は関さんと私に一任いただき、即断即決で動ける体制をつくりましたね。
デジタル全盛の時代にこそ、リアルな「場」が体験価値を生み出す武器になる
──「体験×コンテンツ」という取り組みにおいて、今後の目標を教えてください。
松浦:海外にも展覧会ビジネスを広げたいです。日本で開催したままの内容ではなくても、世界に届けられたらなと。CLAMP展を開催し、改めて海外のお客さまの多さを認識しました。CLAMPさんの作品は性別・年齢を問わず、さらに国も越えてとても愛されていると、改めて実感しました。
今、出版社として、作品のファンからの「体験」へのニーズは強く感じます。イベントに限らず、出版以外の取り組みを、電通さんと一緒にチャレンジしていきたいですね。
南木:私はミュージアム(博物館)にすごく興味があります。できればCLAMPさんのような作家の、常設のミュージアムが作れるといいなと。新たな空間モデルの設計を含め、そこに行けば対象の方の作家性や、素晴らしさに触れられるような「場」を作っていきたいです。
関:僕は2つの目標を持っています。1つは南木が言ったような常設の施設で、作品やコンテンツを入れ替えながら、自分でブランディングしてキュレーションしていける場を作りたい。講談社さんのようなコンテンツホルダー含め、作品に関わる方々から喜んでもらえる場を持てたらと思います。
もう1つは、そうしたビジネスを北米・ヨーロッパに広げることです。僕が手がけてきた展覧会だけでも、アジアであれば巡回できるルートとパートナー、実績がたまっています。それを北米・ヨーロッパにまで広げ、展示会ができる現場を作れたらいいなと。こうした海外展開は、グローバル企業である電通の強みでもあります。アジアに限っても、原作原画の展覧会で巡回できている例は、ほとんどありませんから。
コンテンツの配信やオンライン上の展開が広がる中で、リアルな「場」があることは、作品に体験価値としてのプラスを生み出す武器になります。今後も展覧会の強みを追求してきたいですね。
