ispace「HAKUTO-R」ミッション2、アジア民間初の月面着陸は成功に至らず

RESILIENCEランダー

月面資源開発に取り組む宇宙スタートアップ企業ispaceは6月6日(金)、「RESILIENCE(レジリエンス)」ランダー(月着陸船)の月面着陸を試みたが、通信が途絶え、失敗したと発表した。2023年4月のミッション1に続く2度目の着陸挑戦も、惜しくも成功には至らなかった。

ispaceは6月6日(金)午前4時17分(日本時間)、月面探査プログラム「HAKUTO-R」のMission2 “SMBC x HAKUTO-R VENTURE MOON”(ミッション2)による月面着陸に再挑戦した。RESILIENCEランダーは、1月に打ち上げられ、約半年かけて月へ向かい航行し、アジアの民間企業初の月面着陸を目指していた。

同日、東京都内で行われていたMission2 “SMBC x HAKUTO-R VENTURE MOON”着陸応援会では、深夜にもかかわらず、ispace社員やパートナー企業の関係者など約500人が来場。月面に向けて降下中の月着陸船から送られてくる高度や速度のデータがスクリーンに表示されると、多くの人々が固唾(かたず)を飲んで着陸の瞬間を見守った。

都内で開催されたMission 2 “SMBC x HAKUTO-R VENTURE MOON“ 着陸応援会の様子
都内で開催されたMission2 “SMBC x HAKUTO-R VENTURE” 着陸応援会の様子

しかし、着陸予定時刻を過ぎたあと「通信が確立できていない」という情報が伝えられると、会場は緊迫した雰囲気となった。RESILIENCEランダーは、高度約100 キロメートルから降下し、約20 キロメートルで予定通り主エンジンの噴射により減速を開始、着陸船がほぼ垂直になったことも確認されたが、高度192メートルというテレメトリーデータ(遠隔測定法によるデータ)を最後に通信途絶。袴田武史 ispace代表取締役CEO & Founderは、月面への「ハードランディング」の可能性が高いとし、同日午前の記者会見にて「月面着陸は達成が困難であり、ミッションの終了を判断いたしました」と発表した。

Mission 2 “SMBC x HAKUTO-R VENTURE MOON“ 着陸応援会に展示されたRESILIENCEランダー
Mission2 “SMBC x HAKUTO-R VENTURE MOON”着陸応援会に展示されたRESILIENCEランダー

6月24日(火)、ispaceはミッション2の軟着陸未達について、技術的要因に関する解析結果を発表。月着陸船が挑んだ月面着陸の失敗について、高度を測定するレーザーレンジファインダー(※)のハードウェア異常が原因だったとした。

※レーザーにより目標物との距離を計測する装置。ランダーから月面までの高度を測定するために利用。

 

6月24日(火)ispaceによる ミッション 2 軟着陸未達に関する技術要因分析報告の記者会見の様子
6月24日(火)ispaceによる ミッション 2 軟着陸未達に関する技術要因分析報告の記者会見の様子

ispaceは6月の月面着陸の挑戦に向けて、電車内広告、モックアップ展示、YouTube広告、TVer広告なども展開。そこでは、ミッション1で月面着陸に失敗したものの、そこで歩みを止めることはなかったこと、失敗を恐れずに、困難を乗り越え、ミッション2に向けて再挑戦を続けてきたこと、挑戦を貫く強い信念と月面着陸に懸ける覚悟を示してきた。

羽田空港第1ターミナルに、期間限定で月着陸船のモックアップを展示
羽田空港第1ターミナルに、期間限定でランダ―のモックアップを展示
東京メトロ電車内(ドア横)にポスター展示
東京メトロ電車内(ドア横)にポスター展示
着陸前日、朝日新聞朝刊に掲載された広告
着陸前日、朝日新聞朝刊に掲載された広告

今回のミッション2における月面着陸への挑戦は、惜しくも成功には至らなかった。しかし、ispaceの挑戦は、民間企業による月面輸送という、これまで国家主導で進められてきた宇宙開発の流れに一石を投じる試みであり、今回の挑戦においても、膨大なデータと貴重な経験が蓄積されたことに疑いの余地はない。

月に向かうRESILIENCEランダーから撮影されたアースライズ(月に昇る地球)
月に向かうRESILIENCEランダーから撮影されたアースライズ(月に昇る地球)

袴田氏は、「ispaceは失敗を単なる技術的な失敗で終わらせず、決してここで立ち止まらず、関係者の皆様からの信頼を取り戻せるよう、常に挑戦者として、次のミッションに向けて再び歩み始めます。“Never Quit the Lunar Quest”」と述べた。

ispaceは、2027年以降にミッション3およびミッション4打ち上げの計画も発表しており、これまで以上に多くの貨物を積載できる着陸船を用いることで、月の裏側・南極付近への輸送や月面探査によるデータ提供を目指していく。

これからもispaceは、高頻度で顧客の荷物を月へ輸送、そして要望に応じて月面のデータを取得するなどの取り組みを行い、月と地球に広がるエコシステムの構築に向けた挑戦を続けていく。

ispaceの挑戦は、終わらない。
 

HAKUTO-Rサイト:https://ispace-inc.com/jpn/m2

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サントリーHD、男性社員の育休取得率100%、業務面で意外な効果…カギは仕事と育児の両立計画書

●この記事のポイント
・サントリーHDが2024年、男性社員の育休取得率100%を達成
・取得の5カ月前から本人と上長が「仕事と育児の両立計画書」作成
・会社が早期に従業員の子どもの誕生を把握することで、計画的にコミュニケーションを取り、適切な時期の育休取得を促す

 大手酒類飲料メーカー・サントリーホールディングス(HD)が2024年、男性社員の育休取得率100%を達成したことが注目されている。社会的に男性の育休取得を推奨する動きが広まるなか、現実的にはなかなか取得が進まない企業も多い。なぜ、サントリーHDは男性社員の取得率100%を実現できたのか。また、その取り組みを通じて生まれた、職場における業務面での意外な効果とは何か。同社への取材からは、取得の5カ月前から本人と上長が「仕事と育児の両立計画書」を作成したり、「子の誕生予定申請」という制度を導入したりと、同社が全社的かつ“本気で”取り組んでいる様子が垣間見えた。

●目次

子の誕生予定申請フローの導入

 男性社員の育休取得率100%を目標に据えた背景・理由について、同社の人材戦略本部 DEI推進部 課長の秋山憲太氏はいう。

「サントリーでは性別にかかわらず一人ひとりがいきいきと活躍できる組織を目指し、皆が子育てをしながら働き続けることができる職場環境作りに取り組んできました。さらなるインクルーシブな風土を醸成すべく、ダイバーシティ経営推進に向けた大きな柱の一つとして『男性育休』を掲げ、『男性育休取得率100%』の早期達成を目標に活動を強化してきました。男性の育児参画をいっそう促し、育児の初期ステージから協力し合う体制を構築することは、女性の活躍推進、そしてインクルーシブな風土醸成にもつながっていくものと考えています」

 100%を達成するために、どのような工夫をしたのか。また、カギとなった取り組みは何か。

「具体的には以下があげられます。

1.子の誕生予定申請フローの導入
 ―24年3月より運用開始
 ―会社が早期に従業員の子どもの誕生を把握することで、計画的にコミュニケーションを取り、適切な時期の育休取得を促す。

2.仕事と育児の両立計画書
 ―業務によって育休取得期限を迎えてしまうことがないよう、 育休取得対象となる社員が計画書を作成し、それをもとに上司と会話(将来、両立にどう向き合いたいかについての考えも記入)。
 ―業務引継ぎなどを経てスムーズに育休に入れるよう、早期(育休取得5カ月前)から育休取得までを計画化。

3.ウェルカム・ベビー・ケア・リーブ
 ―男女ともに育休の一部を有給化する制度。
 ―育休開始から最初の連続5日間は給与が100%支払われる(有給扱いとなる)。

4.ウェルカムベビーセミナー
 ―第一子が誕生した際には参加を必須化しているセミナー。
 ―対象となる社員の所属長も含めて実施し、過去に育休を取得した男性社員の事例を共有している。
  その他、育児に関する情報提供、心理カウンセラーからの講話。

5.シッターサービスの費用補助
 ―保育園の入園が困難な際、子どもの病気や緊急時等に利用可能
 ―乳幼児や児童の保育、保育所への送迎にも利用可能

 特に、事前に『子の誕生予定申請』を行い、所属長と『仕事と育児の両立計画書』を用いた面談をすることを必須とし、育休取得の時期や仕事において必要なサポート、今後の働き方などを話し合うことがスムーズな育休取得や業務の引継ぎにつながっています」(秋山氏)

 男性社員の育児取得率向上の取り組みのなかで、課題やハードルとなった点は何かあったのか。

「会社としては下記の2つの課題があると考えていました。1つ目は会社が社員の子どもの誕生をどれだけ早期に把握できるかということです。把握が遅れることで会社から社員へ情報提供やコミュニケーションが遅くなり、結果的に取得が後ろ倒しになったり、取得の期限を迎えてしまったりすることがありました。また、二つ目は組織単位で、育休を取る意識をどれだけ高められるかということでした。これらの課題を解決するため、上記のような取り組みを行いました」(秋山氏)

アジリティの強いチーム・会社づくりのきっかけに

 男性社員の育休取得率の上昇によって、社員の働き方やビジネス面、業務面において意外な正の効果も生じているという。

「男性育休取得者自身が、次世代の対象者が出た際に取得を周囲に推奨するケースも出てきており、取得に向けた追い風になっています。また、男性育休取得への施策などにより、取得する人だけでなく、上司やチームリーダーなど会社全体として、『育休を当たり前にする』という意識に変わってきています。

 男性育休を取得した社員の事例としては、育休を取得する際に引継書を作成したことで、自身の業務の棚卸しができるとともに、今後異動があった際にそのまま使用できるものとなりました。チームのメンバーが一定期間休暇を取ることは、育児休暇以外でもあり得ることです。『子の誕生予定申請』や『仕事と育児の両立計画書』などの施策で早めに対話をしながら、業務を属人化させず『チーム』で取り組むようにすることで、メンバーが休暇を取ったとしても大きな問題が生じない、アジリティの強いチーム・会社づくりのきっかけになることができると考えています」(秋山氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

メンタルヘルスと向き合うはじめの一歩~社内ピアグループでの活動紹介~

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電通では、自社グループ内のメンタルヘルスの不調経験者やサポーター、大学などで心理学を学ぶ社員が自発的に集まり、2021年に有志の「電通メンタルヘルスラボ」がスタートしました。

本連載では、私たち電通メンタルヘルスラボのメンバーがラボ活動を通して学んだメンタルヘルスを取り巻く状況と、社内での取り組みについてご紹介しています。

第一回の記事はこちら:
今、身の回りで起きているメンタルヘルスの潮流とERGの取り組み


今回は、電通メンタルヘルスラボがどのようにして設立されたのか――。そのきっかけや背景を振り返りながら、運営する上で大切にしているキーワードやポイントをラボメンバーの竹本奈央がお伝えします。また、不調経験者と一緒に取り組む「メンタルヘルスカフェ」を深掘りし、実際の取り組みの様子についてもご紹介します。

<目次>
電通メンタルヘルスラボが生まれた背景ときっかけ

ラボのメンバーは皆、自身や周囲の不調経験者。運営する上で心がけていることは?

参加者それぞれが自らと向き合う時間「メンタルヘルスカフェ」

専門家から見る、「メンタルヘルスカフェ」の役割と効果

電通メンタルヘルスラボのこれから



 

電通メンタルヘルスラボが生まれた背景ときっかけ

うつ病に代表される気分障害などを含む精神疾患は、2013年度から、癌、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病と並ぶ5つの重要疾患のひとつとなり、2023年、その患者数は、603万人で糖尿病(552万人)を超えました。
また、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合は、事業規模に比例して年々増加し、2023年、300人以上の事業所で74.1%、1,000人以上の事業所では91.2%に上っています。(厚労省「労働安全衛生調査」2023年)

電通メンタルヘルスラボは、2021年初頭、代表の渡邊はるかの「メンタル不調による制約があっても、自分らしく働ける社会をつくりたい」という思いがきっかけとなり、始まりました。

渡邊も、うつによる長期休職経験があります。会社の制度のおかげで、約2年にわたる療養後に復職しましたが、当時つらかったのは、うつによる不調だけではなかったと言います。
それは、周囲への申し訳なさに加え、

「メンタル不調=ダメな人だとレッテルを貼られるのでは」
「一度休職したらキャリアが閉ざされるのでは」

という不安感や、周囲から置いてきぼりにされたような孤独感でした。当時から電通には、メンタルケアに関する制度や相談窓口はありましたが、さまざまなネガティブな感情から、周囲に相談することが難しかったそうです。

復職して6年経った頃、渡邊は「社内で、同じような不調経験をした人と話せる場」や「不調経験があっても働き続けている人の話を聞く機会」があれば必要以上に苦しまず、自分にとっても周囲にとってもちょうどよいバランスで働くヒントになるのではないかと、社内有志と共にラボの立ち上げに向けて動きはじめました。

専門家による知識の共有ではなく、メンタルヘルスに関する当事者目線でのコミュニティづくりや情報発信を目指したアプローチは、今でこそERG※1と定義されますが、当時、まだ珍しい試みでした。

※1 ERG=従業員リソースグループ、社員による自発的なコミュニティ活動。Employee Resource Groupのこと。


時には、渡邊が自ら出向いて同じ思いを持っている人に活動の参加を依頼することもあったそう。

その中の一人が、当時CXクリエーティブセンターのマネージングディレクターだった並河進(現 電通 CXクリエイティブセンター センター長/エグゼクティブクリエイティブディレクター/主席AIマスター/dentsu Japan グロースオフィサー)です。

並河自身も、メンタル不調で仕事から離れていた経験があり、さらに渡邊と同じ思いを抱えていることを、ラボ初期メンバーの一人が聞いていたことから、本人に活動への参加を依頼しに行きました。

当時のことを思い出して渡邊はこう話します。

「並河さんへの提案はとても緊張しましたが、開口一番、『ぜひやりましょう!これはやりたいと思ってたんです』とおっしゃったんです。すごくうれしかったし、並河さんが同じ方向を向いてくれて、安心感と心強さがありました」

渡邊は、センシティブな領域に誠実に取り組むため、業務と並行して通信大学やゼミで臨床心理学やカウンセリングを学び、知識を深めていきました。

社内の健康推進部門や産業保健スタッフのほか、大学やゼミでお世話になった医学博士・臨床心理士の沢哲司先生、心理学を学ぶ過程で知り合った心療内科医の鈴木裕介先生にも、たくさんのアドバイスをいただきながら、2021年4月、メンタルヘルスラボは社の公認ラボとなりました。

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メンタルヘルスラボのイベントで自身のメンタル不調体験を語る渡邊

ラボのメンバーは皆、自身や周囲の不調経験者。運営する上で心がけていることは?
 

「他でもない自分自身が、メンタル不調への偏見にとらわれ、自分を否定していた」と語る渡邊は、ラボの活動を通じて、メンタルヘルスについて話しやすい空気をまず作りたいと考え、セミナーや研修、メンタルヘルスカフェの開催などさまざまな取り組みを行っています。

活動5年目に入る電通メンタルヘルスラボは、現在10人ほどのメンバーで運営しています。参加のきっかけ、バックグラウンドはそれぞれですが、どのメンバーも、自身や周囲の不調経験から、メンタルヘルスに興味や課題意識を持った仲間たちです。

私、竹本は、ラボの存在はラボ主催のセミナーで知っていましたが、「まさか自分が不調になるなんて」と、自分自身の不調をしばらく受け入れられず、仕事上最小限の人にしか打ち明けていませんでした。

そんな中で意を決して参加したメンタルヘルスカフェで、「不調は克服するものではなく付き合っていくもの」と客観的に捉え、自身の経験や糧の一つにしながら前に進んでいるある参加者の姿を目の当たりにしたのです。あの人のように私も自分自身を受け入れられたら――、不調を経験しても働くということに、ほんの少し光が見えたような気がしました。

さらに、私も(計らずも)不調を経験した一人として、どうしても感じてしまう同僚への申し訳なさやレッテルへの不安感を分かち合ったり、他の人のリカバリーの役に立ちたい、この経験からタダでは起きまい、そう考えるようになり、ラボのドアをノックしました。

コミュニティづくりやモチベーションの観点からラボに関心を持ち参画しているメンバーもいます。

あるメンバーは、自身の経験から、「入社・異動・出向といった変化や挑戦にはメンタル不調はつきもので、誰でもなりうる」という考えから、現在、広告業界専門の産業カウンセラーとして活動中です。また別のメンバーは、ラボ活動を通してダイバーシティにも範囲を広げ、特例子会社で活動を始めました。

どのメンバーにも共通しているのは、自分自身の目線で自身と社会課題としてのメンタルヘルスに向き合い、積極的に知識を深めていることです。所属部署での活動のほかにも、大学に通ったり、産業カウンセラーやキャリアコンサルタントなどの資格取得、各種検定受験にも取り組んだりしています。

さらに、ラボが当初から目指す、当事者によるメンタルウェルネスのきっかけづくりに関して、以下のポイントやキーワードを日々心がけながら、活動を積み重ねています。

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参加者それぞれが自らと向き合う時間「メンタルヘルスカフェ」

そんなラボが、2カ月に1回、昼休みに開催しているのが「メンタルヘルスカフェ」です。2022年以来オンラインで定期開催し、25年3月に20回目を迎えました。

同じ文化を共有する自社グループ内で、似た経験を持つ人同士が話すピアグループをつくったら、社員にとって心のよりどころになり、不調のケアやメンタルフィットネス※2の実践となるのでは、と考えたことが出発点です。

※2  メンタルフィットネス=心の健康を保ち、ストレスに対処するための方法や習慣


立ち上げにあたっては、医学博士・臨床心理士・医学博士の沢哲司先生に監修していただきました。また、当時すでにグループ内でピアグループとして確立されていた、がんサバイバー向けの「ラベンダーカフェ」を主催する高田愛さんに相談しながら、方針を固めていきました。

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イラスト:渡邊はるか

カフェへの参加はその都度事前申込制で、通常業務において予定を共有している他の方にはわからないオンライン会議システムを使っています。

参加人数の上限は設けていませんが、毎回さまざまな部署や会社から10人程度が集まって、自身の経験や感情と向き合い、共有しています。

実施にあたっては、毎回、沢先生の立ち会いのほか、社の公式窓口紹介など専門家との連動や、秘密保持をはじめとするグランドルールも設けています。

心理的安全性担保と、参加できる健康レベルの目安として、カメラONの顔出しをルールとしていますが、発言したいと思った時にしたい人がする、自主性に任せた進行をしています。そのため、考え込んだり、話そうかためらったりする「沈黙」の時間もしばしば発生します。

私たちは業務で日々、問題解決型の思考を求められる機会が多いため、初めての参加者を中心に、最初は沈黙に慣れず戸惑い、違和感を抱く方もいるようです。ラボのメンバーも、同じでした。

しかし、カフェは問題解決のためのミーティングではなく、「参加者それぞれが自らと向き合う時間」です。沢先生からも「沈黙こそ価値のある時間」というお話をいただき、今では沈黙の時間も意味のあるものとして受け止められるようになりました。

試行錯誤を重ね、テーマは「メンタル不調を経験して気づいたこと」で定着していますが、その回のメンバーや、季節ごとの傾向、社会的なニュースがアップデートされるので、毎回全く違った様相の1時間になります。

そのたびに、不調の原因も症状も、それを経ての思いも、今抱える葛藤も、それぞれで、ひとくくりにはできないと実感します。これこそが、効率化重視の社会で、メンタルヘルスが「捉えがたいもの」「対応し難いもの」と敬遠される要因なのではないでしょうか。だからこそ、自分を含め、「当事者と個別に向き合う時間」の必要性を感じており、メンタルヘルスカフェがその時間の一部となれればと考えています。

専門家から見る、「メンタルヘルスカフェ」の役割と効果

監修の沢先生は、メンタルヘルスカフェの取り組みや役割について、以下のように解説しています。

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医学博士・心理士/公認心理師 沢哲司先生

「時代が進み、技術が発展しても、メンタルヘルスの問題は依然として人間にとって重要な課題であり続けています。また、生き方について考え続けることは、人類の歴史の中で常に行われてきました。
しかし、その答えが見つかるどころか、むしろ、複雑化する一方です。

立ち止まると気づけることですが、誰でもがもうかる方法がないように、メンタルヘルスにおいても、画一的な答えや解決策を求めるのではなく、一人ひとりが自分の心と向き合うことが大切です。

メンタルヘルスラボのような場が電通に5年近く存在し、社員が利用できること自体が大きな成果だと感じています。

社内文化の中で個々が立ち止まり、自己理解や課題の正体を深める機会を提供しているという点で非常に価値のあるものだといえるでしょう」

運営に携わるラボメンバーとしては、このようなコメントをいただけて、とてもホッとしています。また、これまで約1000人の社員が参加したラボ主催のイベントに寄せられた多くのあたたかい声にも、とても励まされています。

近年は、電通グループが発表した「Diversity, Equity & Inclusion Report 2023」の健康とウェルネス領域で、dentsu Japanの「メンタルヘルスラボ」がリストに入り、社内のERG活動の代表として紹介されました。

少しずつ、メンタルヘルスについて考える機会が当事者以外にも広がり、メンタルヘルスに向けられる視線に変化がうまれ、一人ひとりがメンタルヘルスについて考えたり話したりしやすい時代の空気が醸成されてきた、と言えるかもしれません。

業務においては、即効性があり定量的でインパクトがある効果や成果を求めてしまいがちですが、ラボ活動においては、まずは安心できる安全な場づくりを続け、一人ひとりの声に耳を傾けることをこれからも大事にしていきます。

電通メンタルヘルスラボのこれから
 

ラボのメンバーは、自身の体験に加えて、カフェで参加者の不調体験を追体験することで、n=1の理解を深めています。さらに、前述の通り、メンバーそれぞれが、自身とメンタルヘルス領域の課題を見つめ、メンバー同士切磋琢磨しています。

ラボ全体としては、不定期ですが、専門家の先生と勉強会を開催したり、メンバーのグループチャットではほぼ毎日、何らかのメンタルヘルスにまつわる情報交換や企画を画策したりしています。

「メンタル不調による制約があっても、自分らしく働ける社会」を、一日でも早く、現実にできるように――。
目まぐるしい毎日の中でも、電通メンタルヘルスラボは、少し立ち止まって考えることができる場を作り続けます。

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沢先生とそのゼミ生にお越しいただいて開催した勉強会の様子

当記事では、メンタルヘルスラボの成り立ちと、ラボが運営する当事者が自分自身と向き合う場所「メンタルヘルスカフェ」についてご紹介しました。

次回連載最終回では、ラボが最難関課題として取り組んでいる、不調の当事者「以外」へのかかわり方についてお話しします。

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300万回プレイ達成!α世代に効く「プル型」のマーケティング施策って?

左から電通グループ 小田岳史氏、電通 高橋ゆり氏、ambr 添田光彰氏
左から電通グループ 小田岳史氏、電通 高橋ゆり氏、ambr 添田光彰氏

一般に、新規コンテンツのプロモーションは難しいもの。中でも、ファミリー向けコンテンツで、若年層(子ども)へのアプローチに苦労しているプロモーション担当者も多いでしょう。

そんな中、無料ゲームを用いたプロモーションが若年層に大ヒットし、累計300万回プレイを達成した施策が、「野生の島のロズ:ロズの動物探しアドベンチャー」です。

本施策は、ドリームワークス・アニメーション制作の映画「野生の島のロズ」のプロモーションの一環として実施。世界最大の没入型プラットフォーム「Roblox」上で、主人公のロズを操作する無料ゲームとして公開されました。

いかにしてRobloxユーザーを引きつけ、ロズというキャラクターへの“愛着”を獲得したのか?プロモーション施策をリードした電通グループの小田岳史氏と、映画「野生の島のロズ」のプロモーションを担当した電通の高橋ゆり氏、ゲーム開発を担当したambr(アンバー)の添田光彰氏が振り返ります。

<目次>
「能動的な体験」で、ロボットの主人公・ロズへの愛着を生む

スピード感あるアップデートが、Robloxでのヒットのカギ

国内外への発信力を生かし、長く愛されるファンダムを築いていきたい

「能動的な体験」で、ロボットの主人公・ロズへの愛着を生む

電通グループ 小田岳史氏
電通グループ 小田岳史氏

──まず、Robloxでの映画プロモーション施策のコンセプトについて教えてください。どのような経緯でプロジェクトが始まったのでしょうか。

小田:私は電通グループで、投資や出資も含んだ国内外のパートナーとのアライアンス構築と、共同での事業/ソリューションへの落とし込みを担っています。今回活用した没入型プラットフォーム・Roblox、そしてゲーム開発を担った日本のスタートアップ企業ambrとの協業も、その一環です。

Robloxは世界各国でα世代やZ世代の若年層から絶大な人気を集めるプラットフォームで、数多くの企業やブランドがゲームやアイテムを配信するなどの形で参入しています。

関連記事:α世代も夢中!約8000万人が毎日遊ぶ“没入型ソーシャルプラットフォーム”の衝撃
 

そして今回、高橋さんのエンターテインメントビジネス・センター(EBC)から新しいプロモーション手法の相談を受けた「野生の島のロズ」(以降「ロズ」)は、ファミリー層、特に子ども向けの映画だったため、これはRobloxと相性が良いなと感じたのです。

高橋:本作のメインターゲットの一つである子どもにリーチできるメディアは、限られます。その点Robloxは、α世代と呼ばれる若年層のユーザーが圧倒的に多いプラットフォームなので、私も「ロズ」のプロモーションにはぴったりだと思いました。

また、本作は児童書が原作で、映画化はこれが初めてです。そこで、まずはユーザーに、ロボットの主人公・ロズや、物語を知ってもらう必要がありました。その点、バーチャル空間(※1)でロズのアバターを通した能動的な体験をユーザーに提供できれば、キャラクターに親しみを感じてもらえるのではという期待がありました。

※1 バーチャル空間=Robloxにおける、ユーザーや企業が制作した独自の世界のこと。多くのバーチャル空間はゲームとして提供される。英語版では「Experience」という名称。
 

小田:「ロズ」は米国でもRobloxを用いたプロモーションを実施しており、既にRoblox用のロズのアバターがつくられていました。日本でのプロモーションでもこのアバターを利用しながら「プレーヤーがロズになって動物を探す」という映画のコンセプトにも合ったゲームをつくることにしました。

このゲーム設計からフィールドデザインまでを手がけたのが、添田さんをはじめとするambrの開発チームです。提供できる素材がロズのアバターと一部BGMのみという中、ほぼゼロからゲーム開発をしていただきました。

添田:私は普段ambrで、CG制作をメインに担当しています。今回はディレクターを担当し、プレーヤーのキャラクターやフィールドのデザインを行いました。当社とパートナー企業合わせて5人の少人数チームで、約2カ月の制作期間でゲームを完成させました。

小田:ambrは、東京ゲームショウのバーチャル会場の制作/運営などのプロジェクトに加えて、自社プロダクトとして国内外で100万以上のユーザーを集めるアバター集中支援アプリ「gogh(ゴッホ)」も手がけています。そうしたIPも含んだコンテンツづくりの経験や企業文化が、Robloxでのバーチャル空間(ゲーム)制作にもふんだんに生きていると感じています。

──ゲーム開発というと、もっと長い期間をかけて大人数で行っているイメージがありましたが、少人数のチームで、しかもわずか2カ月で開発されたのですね。CGアニメーション映画のゲーム化という点で意識したことはありますか。

小田:まずはambrの制作チームにも映画を観てもらい、ゲームにどう落とし込むかを話し合いました。作品について全く知らない人たちに向けてのプロモーションなので、あえて映画の情報量を多く詰め込みすぎないようにしたのもポイントです。

開発中画面

添田:Robloxでのゲーム開発には、プレーヤーの肌感覚を理解する必要があります。せっかくRobloxを活用しても、 あからさまに「大人が宣伝色を押し出したコンテンツ」は、プレーヤーから「ゲームを分かっていない」と言われてしまいます。

当社では、Robloxユーザーの感覚を理解するために、毎週社員みんなでRobloxのプレイ会をやっていて、「ここが面白かった」「じゃあ次のゲームに組み込んでみよう」といった感じでユーザー感覚を養い、リリース後のゲームも改善を繰り返しています。

小田:今、添田さんがおっしゃったようなRobloxのユーザー特性を踏まえ、ゲームデザインについては、「Robloxユーザーにとっての面白さ」を一番のベースにしつつ、映画の魅力も知ってもらう、ちょうどその中間を担うようなゲームを狙いました。

そこで、Robloxの人気ゲームジャンルの1つであるFind系ゲーム(マップ上のアイテムやキャラクターを探して集めるゲーム)に、「ロズが野生の島で動物と出会う」という映画のテーマを落とし込むことにしたのです。

添田:Robloxでは、みんなが好きな「いつもの定番」ジャンルがいくつかあります。そして、斬新さやオリジナリティよりも、「いつもの定番」が好まれる傾向が強くあります。Find系はその一つですね。今回はプレーヤーがロズの姿になって、マップ上にいる20匹の動物を順番に見つけていくというシンプルな構成にしました。

──遊びの面ではどんな特徴がありますか?

添田:プレーヤーは、動物を見つけるごとに、その動物と関係する新しい「スキル」を手に入れていきます。最初は2本足で歩行とジャンプしかできないロズが、例えば鹿を見つけたら4本足で速く走れるようになったり、カニを見つけたら爪先立ちで岩壁を登れるようになったりするんです(笑)。

高橋:この「ロズのアバターが島を走り回って動物たちを探していく」過程が、まさに映画におけるロズが野生の動物たちの仲間として受け入れられていく物語と重なっているんですよね。実際に映画の中でも動物たちを探すシーンがありましたし、映画のテーマである「多様性」や「共存」という要素にも通じるゲームになっていました。

結果として、プレーヤー体験の中でロズというキャラクターに愛着を覚え、さらに作品のテーマにも触れられるという、期待以上のアウトプットになったと思います。

スピード感あるアップデートが、Robloxでのヒットのカギ

ambr 添田光彰氏
ambr 添田光彰氏

──映画の公開2週間前にゲームをリリースしてから、順調にプレーヤーを獲得していき、映画公開後すぐに目標プレイ数だった10万人を超えたそうですね。

添田:Robloxは、プレーヤーの滞在時間や流入・離脱ポイント、再訪率などの分析機能が充実しています。開発側はその反応を見てアップデートを繰り返し、プレイ数を伸ばしていけるのが特徴です。

滞在時間や再訪率が伸びると、ホーム画面のレコメンデーション(おすすめ)にも表示される可能性が上がるので、さらなる流入も見込めます。今回はレコメンデーションにうまく載ることができたのが、成功の要因の一つでした。

小田:他のUGC(※2)コンテンツプラットフォームなどと同じく、Robloxにはユーザーが楽しんでいる優れたコンテンツを発見し、さらに多くのユーザーにレコメンドするアルゴリズムが備わっています。添田さんのお話にあったように、開発者向けの分析機能が優秀なので、改善によるプレーヤーの行動の変化を数字で分析し、PDCAを回せるのも面白いポイントです。

※2 UGC=User Generated Contents、ユーザー生成コンテンツ。Robloxはクリエイターエコノミーに力を入れており、バーチャル空間(ゲーム)やアバター、販売されているアイテムの大半は、ユーザーが作成したもの。


添田:今回もリリース当初、20%のプレーヤーが1匹目の動物を見つけるまでに離脱していることが分かったので、「プレイ開始後すぐに見つかる場所」に1匹目の動物を配置し直したら、プレイの継続率がぐっと上がりました。

小田:それからは、動物の数を20匹から50匹に増やすなど、短いサイクルでアップデートを繰り返していきました。結果として、リリース後約3週間で20万回プレイを突破。その後レコメンデーションによる流入が一気に増えて、最終的に7月14日時点で300万回プレイを達成しました。プレイ回数は300万回ですが、レコメンデーションでユーザーの画面にサムネイルが表示されたインプレッション数は、6700万回以上に及びます。

流入
 
──プレーヤーの分析をしながら、どんどんアップデートしていくことで、アルゴリズムを味方に付ける方法で伸ばしていったんですね。

添田:最初のFindを改善してから、どんどんプレイ回数が伸びていきましたね。また、ゲームの難易度は、 “Robloxネイティブ”である社員のお子さんに遊んでもらったりして、調節していきました。あとはRobloxでは「小さな成功体験」をたくさん積ませることが重要なので、動物が見つかったときの「おめでとう」の仕掛けなども工夫しました。

小田:結局、広告からの流入はわずかで、最終的には、ホーム画面およびフレンドのレコメンデーションからの自然流入が9割近くを占めました。最後に行ったアップデートでは、2回に分けてアバターアイテムを500個ずつ配布したのですが、1時間半で配布終了になるほど、ユーザーが盛り上がってくれましたね。

3月時点でいったんアップデートは終えたのですが、その後もアップデートを続けたらどこまで伸びていただろうと妄想してしまうくらい、いい結果が得られました。

──目標の30倍ものプレイ回数を獲得できたポイントはどこにありますか?

小田:今回の成功は、添田さんたちが日々スピード感をもって分析と改善のサイクルを回してくれたことが大きく、重厚長大な開発チームだと難しかったと思います。ユーザーからの反応を踏まえた改善を重ねることが必要なRobloxでは、小さく始めてブラッシュアップしながら効果を伸ばしていくのも、いいものづくりにつながるのではないでしょうか。

高橋:予算については、映画のプロモーションにおけるRobloxの影響力が未知数な中での試験的な施策だったこともあり、莫大な予算はかけられませんでした。小規模にもかかわらず予定していた以上の結果を出したことで、特に若年層向けのRobloxでの施策の効果をしっかり証明することができました。

また、成功のポイントとして、「野生の島のロズ」には原作となる児童書はあったものの映画としては新しいIPだったからこそ、アメリカ本国(権利者であるユニバーサル・ピクチャーズ)も、IP活用方法については寛容だったことも挙げられます。比較的自由度高くゲームの世界観に落とし込めたので、それが成功要因になったのかなと思います。

私は本国との連絡を密に取りながらゲームの監修をしたのですが、今回はRobloxユーザーに楽しんでもらうことを優先し、Robloxの仕様や好まれるゲーム性などを大事にしながら、映画の世界観を落とし込むことができました。

──自由度高くというのは、具体的にはどんなことでしょうか?

添田:例えばFind系ゲームの定番として、空中に足場があってどんどんジャンプして登っていったりできるんですが、映画はリアルな野生の島なので、もちろんそんな足場はありません。でもRobloxユーザーにはそういう遊ぶためのギミックが期待されているので、ゲーム内にはそうした要素も盛り込みました。

ロズ
高橋:作品によって条件が異なりますが、今回の日本での成功を踏まえて、Robloxとのコラボレーションの形はいろいろ考えられそうです。

国内外への発信力を生かし、長く愛されるファンダムを築いていきたい

電通 高橋ゆり氏
電通 高橋ゆり氏

──今回の施策を通して、改めて感じたRobloxでプロモーション施策を行う利点は何ですか。

小田:Robloxを用いた施策の特徴はいくつかありますが、まずはコミュニケーションが特に難しいα世代のターゲット層にリーチできること。それも、ユーザーの能動アクションを引き出す「プル型」の施策がしやすいことが挙げられます。

広告の中には「プッシュ型」で、ユーザーからすぐにスキップされてしまうようなものもあると思います。しかし本施策では、平均プレイ時間7.4分というエンゲージメントを獲得しました。Robloxのレコメンデーションで表示されたバーチャル空間に来てくれるユーザーは、自分の意思で能動的にIPやブランドと触れ合ってくれるため、結果として自然とエンゲージメントが高くなるのです。

もちろんその前提として良いゲームをつくることが不可欠ですが、このようなエンゲージメントを得られるメディアは他にそうないと思います。

エンゲージメント

──Robloxは開発者向けの分析機能が充実しているということですが、今回ユーザーの属性などはどんな傾向がありましたか。

小田:まず特徴的だったのは、全体の39.1%が「9歳未満」のプレイで、全世代で最大であったことです。当初の想定通り、ターゲットの子どもに楽しんでもらえていたというのが一つ。また、日本向けの施策だったにもかかわらず、オーガニックに世界中のプレーヤーに楽しんでもらえたということも挙げられます。

年齢分布
 
添田:Robloxは自動翻訳機能に力を入れていて、ゲームなどのUGCを公開すると自動的に多言語に翻訳されます。そのため、低コストで全世界のユーザーにフラットにアプローチできるのが大きな利点ですね。

小田:今回も、あくまでも映画の日本公開に合わせた国内向けのプロモーションだったものの、アメリカからのプレーヤーが最も多く、最終的に約180か国以上からプレーヤーが集まりました。

つまり、Robloxは日本のIPを海外に発信していくのにも有効な施策であると感じています。日本のコンテンツやIPを全世界に波及させるという点で、グローバルネットワークを持つ電通のポテンシャルを発揮できる余地が大いにあると思います。

──映画のプロモーション施策としては、今後Robloxはどのように活用できそうですか。あるいは今回課題に感じたことがあれば、教えてください。

高橋:今回の施策が実際、映画への送客につながったのかの効果測定はできていないので、その点は課題として残りました。例えば海外の他映画作品のプロモーションとしては、Roblox内に映画のバーチャル空間をつくったうえで、バーチャル空間内に映画チケットの購入動線を置いて販売促進に成功したアメリカの事例もあります。若年層が大半を占めるプラットフォームで商品の購入を促す取り組みを日本で実現するのはだいぶハードルが高いですが、このようなことが日本でもできるようになれば、今回できなかった効果測定ができるようになるかもしれません。

一方で個人的には、Robloxは購買促進というよりも「ファンを形成するプラットフォーム」として捉えられるといいのかなと思っています。プロモーション期間に限った単発のものだけでなく、長期的にアップデートを続けて、能動的に映画の世界に触れ続けてもらい、ファンの愛着を育てるようなコンテンツを発信するのに向いていると思いますし、そうした形をつくることが理想ですね。

添田:既存のIPをRobloxに持ち込むケースは多いですが、逆にRobloxの中の独自コンテンツがIP化していくケースも多いんですよね。既存IPであっても、Robloxでヒットすれば、その要素をRoblox外に波及させていくのも面白そうです。今回に限らず、ambrではRobloxユーザーに受け入れられるためのノウハウが蓄積されているので、今後もいろんなIPでゲーム開発をしていきたいです。

小田:今回の若年層向けの施策では、Robloxを活用し、そのカルチャーに向き合うことで1つの成功事例をつくることができたと思います。IPホルダーの方々のコンテンツをグローバルに届けていく上で、Robloxを用いた施策は大きな可能性を秘めていると感じています。

一方で、コミュニティのカルチャーや話法に向き合うことは、Robloxに限らず重要です。IPやブランドを届ける際には、そのコミュニティやユーザーに向き合って届けたいコンテンツとの接着点をデザインすることで、着実にヒットを生むことができるはず。ユーザー体験に向き合いながら、今後もIPホルダーの皆さまと一緒に、Robloxなどのプラットフォームを活用して、コンテンツのファンダムを育てていける存在になれたらと思います。

「野生の島のロズ」はAmazonプライム・ビデオ、U-NEXT、Apple TV+、Huluほかにて配信中!
 

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【アジア進出インタビュー】第581回〔アジア全般〕「潜在需要、非常に大きい」アイリスオーヤマの佐々木雅人食品事業部長

 アイリスオーヤマ(仙台市)は食品事業拡大の一環として、2022年にアジア向けにパックご飯と飲料水の輸出を開始した。24年7月には佐賀県の鳥栖工場がアジア圏全体への輸出拠点として稼働し、パックご飯などを生産している。アジア圏への食品事業進出の背景や今後の展開について、佐々木雅人食品事業部長=写真=に聞いた。

 ―アジアに進出した理由は。
 日本で食品事業が好調ということもあり、3年ほど前からアジア現地で販売したいという声が上がっていた。22年末に本格的に輸出に取り組んでいこうとかじを切った。

 ―進出する上での課題と解決策は。
 販売店がなかなか見つからず、お客さまの開拓に半年から1年ぐらいかかった。輸入商材の公開、展示会が各国で年1回から年2回ある。去年からそうした海外展示会に積極的に出展するようになり、そこで新しいお客さまにコンタクトする形でパックご飯を食べてもらったり、炭酸水を飲んでもらったりしている。

 地道ではあるが、新しいチャンネルを開拓し、ようやく動きが出てきた。今年もそういった活動を継続して行い、日本で食べても海外で食べてもおいしい、同じ味が体験できるような試食会を組んでいきたい。最初はあまり反響はなかったが、少しずつリピートという形で手に取ってもらえるようになった。手応えを感じている。

 ―アジアのポテンシャルをどうみる。
 非常に潜在需要は大きいと考えている。訪日客も非常に多い地域で、日本食も人気が高い。それをチャンスと捉え、進出先を増やしていきたいという思いでいる。数字としても日本の農産物の輸出は、香港や台湾も含めたアジア圏全体では米国と同規模か、それ以上というデータもある。ポテンシャルは感じており、営業を強化している段階だ。香港には現地法人がまだないが、市場規模は非常に大きいので、飲料を皮切りにパックご飯など増やしていけたらと考えている。

 ―中国本土は。
 中国の食品事業は、今年から本格的に展開できるようになればと考えている。東京電力福島第1原発の処理水問題で輸出ができず、例えば山梨産のコメを精米して輸出することもできなかった。佐賀県の鳥栖工場が稼働し、輸出態勢は整っている。まだ認証は取れていないが、今年からできるように調整をかけている。

 ―中国市場に今後注力していくのか。
 そうできたらありがたいが、現地でコメを作っているところが多く、販売価格の面でも日本との差が大きい国になる。この価格差がクリアできたら、チャンスは非常に大きいと思っている。

 日本の10倍以上の人口を抱える非常に大きな国なので、気に入ってもらえれば大きな輸出になる。小売店とはまだ交渉していないが、どうしても価格といった面で難しい。このため、台湾、香港にもう少し頻繁に営業を仕掛けた方が、アジア圏全体で見れば売り上げが増える可能性が高い。(聞き手=仙台支社・清水実乃里)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/07/14-06:00)

JR東日本、鉄道運行に生成AI導入、障害時の復旧時間を50%短縮…推定原因や対処法を提案

●この記事のポイント
・JR東日本、障害時に生成AIを活用して復旧にかかる時間を短縮化する復旧支援システムを導入
・復旧までの時間短縮に加えて指令所の業務負担削減や、より正確な復旧指示を実現
・鉄道の運行管理・保守を担う東京圏輸送管理システムにAIを導入する実証実験を開始

 JR東日本が、障害時に生成AIを活用して復旧にかかる時間を短縮化する復旧支援システムを導入した。生成AIが障害の原因や対処法を提案する。復旧までの時間短縮に加えて指令所の業務負担削減や、より正確な復旧指示を実現する。このほか、9月には、鉄道の運行管理・保守を担う東京圏輸送管理システムにAIを導入する実証実験を開始する予定。自律的に事故からの復旧対策を考える「AIエージェント」も開発する。すでにJR西日本が鉄道車両の保守メンテナンスにAIを導入しているように、鉄道運行の領域でもAIの活用が進むが、JR東日本は何を目指しているのか。同社に取材した。

●目次

推定原因・対応方針・復旧見込時刻を生成AIが解析、表示

 生成AIを活用した復旧支援システムを導入するに至った背景について、JR東日本は次のように説明する。

「鉄道の信号通信設備は多種多様な機器があり、広範囲に点在しています。故障が発生した場合、どこの機器が故障したかすぐにはわからず、社員が複数の複数箇所に分かれて一つひとつの機器や部品など原因を調査しているため、復旧まで時間がかかることがあります。

 これを改善するために、2023年の3月から故障発生時、過去の事例などから最適な手順の調査・復旧を支援するシステムを首都圏の在来線の信号設備の一部で導入していましたが、このシステムは復旧支援に有効であるものの『機械学習を用いたAI』を活用しており、対象とする設備の範囲を拡大したり、新たな事例を登録することはすぐにはできず、メーカーに依頼したうえで多くの再学習作業をさせる必要があるという課題がありました。

 上記のような課題意識があるなか、急速に生成AIが進歩し、AIに対する学習行為を行わずとも設備範囲が限定されず事例登録も容易になったことで上記の課題を解決できる見込みとなったことから、復旧支援システムに生成AIを活用することにしました」

 具体的には、どのようなシステムなのか。

「現地社員と指令員の無線通話を解析し、自動でトラブルに関しどのような問題が発生したかを時系列に従って記録を行います。その記録を元に、信号通信設備故障の『推定原因』『対応方針』『復旧見込時刻』を生成AIが解析、表示して、社員が適切な手順で復旧作業を実施できるよう、指令員の支援を行うシステムです。指令とトラブルが起こった作業現場との無線でのやりとりを基に、原因の推定や、復旧見込時間の提示までを一気通貫で生成AIが全てアドバイスしてくれるものです」

専門家頼みの「業務の属人化」を脱却

 このシステムの導入により、故障発生時の早期復旧が見込めるといった効果があるという。

「効果としては以下の3点を想定しています。

(1)信号通信設備故障発生時の早期復旧
 最適な手順での作業により、故障から復旧までの時間短縮が見込まれます。原因特定の難しい複雑な事象において、復旧までの時間を従来の約50%に短縮できることを見込んでいます。

(2)お客さまへのタイムリーな情報提供
 提示された『復旧見込時刻』を基に指令員が判断することで、運転見合わせ時の『運転再開見込時刻』をお客さまへ早期に提供することが可能になります。

(3)社員の知識と経験依存からの脱却
 現在は、復旧にあたる社員には専門知識と経験を活用して状況を把握し、適切な判断をする能力を求めています。信号通信設備は現地にあわせた多種多様な設備を配備しているため、とくに指令においてはすべての地域のすべての設備に対する専門知識と経験を持つ社員を育成することが課題です。そこで、この知識と経験が必要な部分を生成AIがサポートすることで、基本的な知識と経験があれば判断できる状態に近づけていくことを見込んでいます」

 JR東日本は、鉄道の運行管理・保守にAIを導入する実証実験を9月に開始する予定だ。

「ATOSトラブル発生時に監視端末に表示される警報を生成AIに読み込ませ、故障の原因と思われる装置を提案させます。この手法と、マニュアルやノウハウなどを基にした現状の故障原因の調査手法とを比較し、どの程度の時間短縮や省力化が可能か、効果測定を行います」

 同社はこの実証実験により、故障原因の調査時間が短縮されることでトラブルの早期復旧ができるようになり、輸送のさらなる安定性向上に寄与することを目指している。

「故障原因の調査の省力化により、専門家頼みの『業務の属人化』を脱却するとともに、生み出された時間を活用して、新しい事業の開発や地域活性化、お客さまサービスの充実など、社員が人ならではの創造的な役割に注力できるようになることを目指しています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

広告は、人と社会の役に立つ。「ヨメテル」の事例を通して感じた「BORDERLESS CREATIVE」の可能性

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーが情報発信する連載が「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

今回ご紹介するのは、2024年7月19日に発足した、クリエイティブ領域に特化したDEIコンサルティングチーム「BORDERLESS CREATIVE(ボーダーレス クリエイティブ)」です。

どのようなチームで、どのようなクリエイティブを世に送り出しているのか。同チームのメンバーであるクリエイティブディレクターの阿部広太郎氏に話を聞きました。

阿部氏

【阿部広太郎氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
クリエイティブディレクター
電通入社後、人事局に配属。クリエイティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとしての活動を開始。現在、CXクリエイティブ・センター所属。自らの仕事を「言葉の企画」と定義し、広告クリエイティブの力を拡張しながら領域を超えて巻き込み、つながり、助け合う対話型クリエイティブを実践する。著書に「待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め」(弘文堂)、「コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術」(ダイヤモンド社)、「それ、勝手な決めつけかもよ? だれかの正解にしばられない『解釈』の練習」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ」(ダイヤモンド社)。

DEI視点で世の中の課題を解決する「BORDERLESS CREATIVE」

月刊CX:「BORDERLESS CREATIVE」とは、どのようなチームなのかを教えてください。

BORDERLESS CREATIVE ロゴ

阿部:「BORDERLESS CREATIVE」は、クリエイティブ領域に特化したDEIコンサルティングチームです。同じくCXCCに所属する橋口幸生CD(クリエイティブディレクター)と立ち上げました。DEIとは「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」の頭文字を取ったもので、近年クリエイティブにおける重要なテーマとなっています。

海外ではDEI視点のコンサルティングを行う会社が注目されつつありますが、国内ではそのような企業や団体がまだまだ少ない状況です。本チームでは、DEI領域の知見が豊富にあるクリエイターと、当事者・専門家が連携し、広告企画や新規事業開発など課題発見から企画制作までワンストップで担っています。さまざまなDEIテーマのクリエイティブ業務に携わり、数多くの広告賞を受賞してきた実績があります。

ポーラ動画画像
阿部氏が携わった、目の見えない方の優れた手指の感覚を生かしたメークレッスン。ポーラ「鏡を使わないメークレッスン」
※画像をクリックすると、動画を見られます

月刊CX:チームを立ち上げた理由を詳しく教えてください。

阿部:これからのクリエイティブにDEI視点は欠かせないものだと考えています。

世の中にはだれかのコンプレックスを刺激してしまうものや、人の心を傷つけてしまう広告があり、いわゆる“炎上”しているコンテンツもしばしば目にします。企業側が意図していなかったメッセージが広がってしまうケースもあり、それは企業にとっても受け取り手にとっても幸せなことじゃないと思います。

社会的にポジティブなメッセージを広げていくためには、ただNG表現に気をつけるのではなく、専門的な視点に基づいた企画づくりこそが重要だと考えています。そのために企画や制作における進め方を「BORDERLESS CREATIVE METHOD」としてまとめています。

月刊CX:「BORDERLESS CREATIVE METHOD」とは何か具体的に教えてください。

阿部:全体の進行やつくり方です。これまでのクリエイティブの現場では、「クライアント」と「広告会社」の間で無意識のうちに引かれていた境界線があったと思います。提案する側と、提案を受けて判断する側といったようなイメージで、意見がぶつかり合い強い葛藤が生まれる……なんてケースもあったかもしれません。

しかし、クライアントも広告会社も、同じゴールに進んでいく仲間ですよね。そのために企業のブランド担当者と、当事者・専門家、広告をつくる私たちで三角形をつくり、それぞれのノウハウを生かしながらより良いコンテンツをつくるための枠組みが「BORDERLESS CREATIVE METHOD」なんです。

BORDERLESS CREATIVE METHOD

阿部:もしかしたら、「それができるのは理想だけど実際やるのは難しくて……」と思われた方もいるかもしれません。しかし、これをやってみると本当に共創が生まれますし、新たな景色が見えるようになると考えています。

また、宣伝会議とタッグを組んで、「BORDERLESS CREATIVE SCHOOL」というDEIクリエイティブを体系的に学ぶ講座も立ち上げました。こちらは企業のブランド担当者やプランナーなど多くの方に受講していただきました。

相手の声が読める電話「ヨメテル」とは

月刊CX:阿部さんが担当されている事例についても教えていただけますか。

阿部:私が「BORDERLESS CREATIVE」の発足前から携わっている「相手の声が読める電話『ヨメテル』」の話をさせてください。こちらは、法律に基づいた公共インフラとしてのサービスで、2025年1月23日からサービスの提供が始まりました。私たちのチームでは、ネーミングやロゴデザイン、コミュニケーション開発などに携わりました。

ヨメテル動画
相手の声が読める電話「ヨメテル」30秒CM
※画像をクリックすると、動画を見られます

月刊CX:サービス内容の詳細を教えてください。

阿部:サービス内容の詳細としては、ヨメテルは、電話で相手先の声が聞こえにくいことがある人(以下、きこえにくい人)へのサービスとして、通話相手の声を文字にする電話アプリです。24時間・365日、双方向での利用ができます。通話相手の声を文字にすることで、電話でのコミュニケーションをスムーズにする、法律に基づいた公共インフラとしてのサービスです。

現在、日本には加齢も含めると聞こえにくさのある人が約1400万人以上いると推定されます。国民全体の約10%が、何かしらの原因で聞こえにくさを感じているのです。

これまでにも、法律に基づいた公共インフラとして、聴覚や発話に困難がある人ときこえる人との会話を通訳オペレータが「手話」または「文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時双方向につながることができる「電話リレーサービス」がありました。

一方、「ヨメテル」は「電話で相手先の声が聞こえない/聞こえにくいことがある」と感じていて、自分の声で相手に伝えたい人が登録利用の対象です。きこえにくい人が普段どのような悩みを抱えているのか、どのように伝えていけば良いかを考え抜いて制作しました。

月刊CX:リリース後に何か反響などはありましたか。

阿部:はい。サービス提供開始後、ご利用いただいた方から「電話で友達が話すときに聞き返すことなく同じタイミングで笑い合えたのがうれしかった」という感想や、中途失聴者の方から「電話する喜びを思い出した」という感想をいただきました。その感想を聞いた時は、本当にうれしかったです。これから「ヨメテル」を必要とする人に、さらに届いていってほしいと思っています。

月刊CX:「ヨメテル」のコミュニケーションをつくる上で、気をつけていたことはありますか?

阿部:「ヨメテル」のユーザーとなる当事者の方たちと「広報戦略会議」を立ち上げて、本サービスのコンセプトや「きこえにくい座談会」のトークテーマについてなど、多様な角度から何度も対話を重ねながら企画を進めました。

その上で、特に注目したのが、通話の冒頭に流れる「自動音声ガイダンス」です。「電話リレーサービスのヨメテルです。あなたの声を文字にして、相手に表示します。はっきりとお話しください」というガイダンスをはじめて聞いて切ってしまうケースがあるとわかりました。そのため「ヨメテル」の認知を高めることも大切なミッションにしています。

交通広告
交通広告

やさしい世の中にしていくために、対話を繰り返していく

月刊CX:「ヨメテル」を通して、阿部さんが得た気づきを教えてください。

阿部:「きこえにくい人」にお話を伺って改めて感じたのは、実際のきこえにくさは人によって本当に全然違うものなんですよね。加齢できこえにくくなる方もいれば、高い声がきこえにくい、低い声がきこえにくいなど、“難聴”といっても、その症状は人によって異なります。

当事者の方にじっくりお話を聞くことで、電話で相手の声を聞くときに耳にスマホをぐっと押し当てることや、数字はメールでやり取りするように意識しているということなど、わかったことがたくさんありました。取材をすることで、より多くの方に寄り添えるコンテンツが生み出せるのだと実感しています。

また、キャッチフレーズを書く私たちの仕事は、人の想いをキャッチすることなんだと思います。私自身、人の想いをキャッチできる人間でありたいとより一層感じましたし、今後も対話を繰り返しながらいいクリエイティブを生み出す人でありたいと思っています。

月刊CX:最後に、阿部さんが今後挑戦したいことがあれば教えてください。

阿部:今は仲間を増やすことが非常に大事だと考えています。DEIの領域が広がってきている中で、企業でも積極的にDEIに取り組んでいこうと旗を掲げてくれる方がいると、ここからさらに人が人を想うやさしい世の中になっていくと信じています。

広告や広告クリエイティブは、人や社会の役に立てると信じていますし、一瞬ではなく、ずっと心に残る何かをつくれるはずだと本気で思っています。広告クリエイティブが広告だけではなく、社会の役に立てることを実現し続けていきたいです。

そして、ゆっくりでも確実に、社会を変えていくような「やさしい衝撃」をつくり続けたいです。人の意識を変え、行動を促し、最終的には社会をより良い方向へと導いていく。一つ一つのプロジェクトが、未来への種まきとなり、やがて大きな変化を生み出す。そのような可能性を信じて、これからも情熱を持って仕事をしていきたいです。


(編集後記)

今回は、2024年7月19日に発足した、クリエイティブ領域特化型のDEIコンサルティングチーム「BORDERLESS CREATIVE(ボーダーレス クリエイティブ)」と、そのチームメンバーが担当した「ヨメテル」についてお話を伺いました。

より良いクリエイティブをつくっていくためには、DEIの視点は不可欠。そうした中で見えない境界線(ボーダー)をいかに探して、対話して寄り添っていくのか、が肝心なのだと思いました。

今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

月刊CXロゴ
月刊CX編集部
電通CXCC 木幡 小池 大谷 奥村 古杉 イー 齋藤 小田 高草木 金坂
・dentsu JapanのDEIサイトはこちら
https://www.japan.dentsu.com/jp/deandi/
X(Twitter)

【Findings】

makeato

20年くらい前だろうか、池田晶子さんの「14歳からの哲学」を読んだ。「正しい」ということはすべての人間に共通で(おそらく、どの事象が正しい・正しくないかではなく、正しいという言葉の概念が共通、という趣旨)、人間は正しいと思っていること“しか”できない、といったことが書かれていた気がする。14歳はだいぶ過ぎていたけど、なかなかな衝撃を受けたことだけははっきりと覚えている。

プレゼンや、複数の人に向けた発表、それから講義なんかを前にした時の話。頭、思考を動かして、なんとなく自分として腑に落ちるところまできてみる。そこにあるのは、自分としての「一応の正解」ということになる。それをよりどころに手と目を動かし、原稿やスライドをつくる。一応の正解に到着したはずなのに、それとピッタリ一致するものができたためしがない。頭、思考が甘かったのか。手と目の再現力の限界なのか。とにかく必ずズレたものが出来上がる。

「更新版・一応の正解」をもとに、今度は一人リハーサルをする。またもやしっくりこない。声や呼吸の限界なのか、机上(パソコン上)と現実(しゃべる身体)のズレなのか、はたまた声に出すことで頭、思考が活性化するのか、とにかく必ず更新版の再更新が必要になる。

これを前向きに捉えると、気づきの連続、納得感の更新ということなので、手間だけど事前準備の所作としてこの三段階目までを何周か必ず行うことにしている。そしてここまでは、言ってしまえば自分の問題、内部完結できることなので、更新というのはまあちょっとした気づき、といったところ。

そしていざ本番。相手がいて、しゃべる。大人数か少数かはさておき、提示する。(自分としての)「正解」にもかかわらず、経験上、やる前からわかってしまっているのだが、想定とピッタリと一致した着地、になったためしがない。だいたいにおいて想定外の反応。想定内だけれど、見過ごしてしまうような微弱な反応なんてことも。この(自分としての)正解の儚さたるや、「正解」でグルーピングするのもおこがましかった、と毎度思い知らされる。「正しい」に正直に生きているはずなんだけどなぁ。

が、悲観しているわけではない。自分の外側に出す価値、というのも毎度思い知ることができる。出かけて行った先でこそ気づきを獲得できる、という夢のある話。獲得のプロセスで、はずかしめを受けたり下手すると怒られたり。髭も剃らずに一人ぼーっとする週末の午前中みたいな弛緩はないけれど、得られるものが大きいからまあ仕方ない。

フェリス女学院大学

毎年、フェリス女学院大学で講義をする機会がある。テーマは「アートとビジネス」。僕に登壇を依頼している先生は美術館に勤務しているので、僕よりもよっぽどアートビジネスのど真ん中を担っているはずだが、先生の意図は、アート周辺も含めたビジネスの多様さや、アート思考といったことも含め一般のビジネスパーソンにおけるアートとの関わり方や意義などを学生に見せてほしい、というもの。

学生の、このテーマへの関心の高さなのか、電通も含めた業界への好奇心なのか、それとも僕という外部の人間に対するサービス精神なのか、とにかく毎年学生はきちんと反応を示してくれる。しかも、かなり味わい深い反応。普段は大学生と直接やり取りする機会がないので、自分とは違う視点の価値、裏を返すと同質化というのはリスクなんだと肌で感じる、そんな大きな気づきの場になる。

今年の講義は、アートを通じた「業務の拡張」「教養の拡張」「視野の拡張」という3部構成。今回のコラムは、その簡易レポートにしてみた。

フェリス女学院大学

学生に伝えることを念頭に置いて「業務の拡張」と言った時、真っ先に製作委員会や実行委員会のことが思い浮かんだ。電通は広告制作にせよマーケティング支援にせよ、BtoB企業として事業会社たるクライアントの業務支援をするのが基本。ではあるものの、主にコンテンツ系において、電通が中核の1社というポジションになることもある。

そこで、まずは「ブルーピリオド展」でクリエイティブディレクターを担っていた宮下良介さんに相談の一報を入れた。キービジュアルの画像ファイルが添えられて、31分後に返信がきた。は、早い。ありがたい。次に、「Immersive Museum」のプロデューサーである野口貴大さんにも相談の一報を入れてみた。5分後に、大丈夫ですと返信がきた。は、早い。早過ぎる。なんとありがたいことだろう。しかも、大学生が相手ならこの実施風景がよいと思いますよと、こちらも画像ファイルが添えられていた。

余談だが、まあまあ長い社会人生活の中で、電通に限らず世の中には即レスの人がいつの時代にも一定数いることを知った。きっとこの人たちは、ものすごい高回転で仕事をしているのだろう。100%尊敬してしまうが、どうか体にだけはお気をつけて、と思ったりもする。

フェリス女学院大学
©山口つばさ/講談社/ブルーピリオド展製作委員会

「ブルーピリオドはよく読んでいます。展覧会になることでアートがさらにビジネスにつながるんだなと思いました」「ブルーピリオドはアニメを見ていましたが、展示会や実写化を知らなかったので驚きました」といった気づきを伝える学生もいた。

フェリス女学院大学
©ImmersiveMuseum

「イマーシブミュージアムに以前訪れたことがあります。私はそれまで美術館しか訪れたことがありませんでしたが、映像や音楽を通してアート体験することができ、新鮮でした」「電通が関わっていることを初めて知り、華やかでとても興味がわきました」といった感想も。

そして業務の拡張の観点で、僕が直近で携わった仕事も紹介。製作委員会、実行委員会とは異なるスキームの説明をした。

フェリス女学院大学

アートとは直接関係のないとある大規模イベントで協賛企業の1社を担当しており、そこでのアクティベーションを提案、実施を担った。企業のアクティベーション、つまり企業としてのマーケティング・コミュニケーション活動の一環である。中核にあるのはアート活動ではなく企業活動。そこにアートを持ち込む。接続させる。そこでのアートは、いわゆるコミッションワーク(アーティストによる受注制作)ということになる。イベント参加者にとってみれば、眼前に現れた巨大な造形がコミッションワークかどうかなど当然意識することもなく、しかし純粋に楽しみ、イベントは盛況だった。

米澤柊さん
参加アーティストの一人、米澤柊さんの制作模様

アーティストが作品を通じて放つパワーを、こういった形で企業活動に摩擦少なめで接続させるのはわるくないと思った。企業がアートと対面することに慣れていく、その一つの形になると感じた。

フェリス女学院大学
米国スミソニアン協会国立アジア美術館 日本美術主任学芸員のフランク・フェルテンズ博士
米国スミソニアン協会国立アジア美術館 日本美術主任学芸員のフランク・フェルテンズ博士

次のセクションは「教養の拡張」。僕の友人で、アメリカの美術館で学芸員をしているフランク・フェルテンズさんのことを引用しつつ、海外の人と接する時、Nice to meet you.だけだと寂しいですよね、という問いかけからスタートした。

それを踏まえて、横浜美術館のリニューアルオープン記念展とそこで展示されている片岡球子さんの作品を紹介。講義に先立ち、横浜美術館の館長と担当学芸員によるギャラリートークに参加し予習しておいた。片岡球子さんは横浜で小学校の先生をやりながら絵を描き続けていたこと、30代の時にこの絵が院展で入選したのを皮切りに入選し続けて、80代で文化勲章も受章していること。ギャラリートークの受け売り状態で、そんな背景情報なんかもからめつつ、フェリスも横浜の学校ということで、トークの取っ掛かりとして片岡球子さんのことは扱いやすいのでは?と学生に提案してみた。そして、かかりつけのお医者さんや、お気に入りのカフェのように、

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と畳みかけてみた。今回の講義で最も反響が大きかった。地元ネタは強い、ということか。いやぁ、予習しておいてよかった。

実際、外交でなくても、また企業のエグゼクティブ層でなくても、自国の文化を話すシーンはビジネスパーソンにおいても確実に増えており、アートの知識や実体験はいわばリアルな教養。日本には美術館や博物館が6000施設近くあるらしい。6000サンプルもあれば予習し放題だ。

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そして本筋から離れ、僕が13歳の時に作った版画なんかも見てもらった。中学生の作品ということで、まあこんなもんだよね、という苦笑いはありつつ、僕は作家になれる人生ではなかったものの、ちょっとずつユニークに教養を身に付けることで、こうして大学生の前に立つかけがえのない機会に恵まれた。ささやかで、でもリアルな、1サンプルの提示が実現したと言えなくもない。

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最後は、マーケティングの世界の住人として一番大事だと思っている「視野の拡張」。アートを通じた僕にとっての大きな気づきの事例として、アーティゾン美術館での毛利悠子さんの展覧会のことを紹介。(こちらのコラム後半で触れた内容を参照のこと

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それ以外にも、ジェンダーのことについて、アートが促す気づきを提示しつつ、2025年度の電通の新入社員の男女比はどの程度でしょうかクイズ、なんかも出したりした。

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正解は、148人のうち女性77人ということで、過半数。僕が入社した時の、女性の新入社員は1割くらいだった状況と比較すると、明らかに母集団そのものが変化している。数字というのは生々しい。さらに、僕の所属長は、今も一つ前の時も女性であること。ビジネスの現場で「Diversity, Equity & Inclusion(DEI)」の観点が標準装備されつつあること。DEIのキモとして、

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そんなことを伝えてみた。「盲点が減るという言葉が非常に印象的だった。常日頃から頭に入れておきたいと思う言葉だった」「思っていたよりも時代とともに価値観がアップデートしていて驚きです」といった感想から推察するに、講義の内容が彼女たちにとってもある意味想定外だった、ということか。外に出かけて行って伝えるって、やっぱり大事だなぁとあらためて思い知る。

最後に、学生からの感想をいくつか掲載するが、筆跡含めた彼女たちのリアルに対し、「全部正解」と伝えたい。

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画像制作:岩下 智

セブン-イレブンの目の前に低価格&小型店「まいばすけっと」が出店攻勢?コンビニの脅威に

●この記事のポイント
・まいばすけっと、コンビニほどの広さの小規模スーパーで、商品の価格帯がコンビニより数割ほど低い
・年間100店のペースで出店攻勢をかけていることもあり、コンビニの目と鼻の先で営業するケースも
・DX導入を進めることでレジを無人化、セントラルキッチン方式導入など徹底した店舗運営コスト低減

 コンビニエンスストアほどの広さの小規模スーパーで、商品の価格帯がコンビニより数割ほど低く、かつコンビニより品揃えが豊富な「まいばすけっと」。ここ数年は首都圏を中心に年間100店のペースで出店攻勢をかけていることもあり、コンビニの目と鼻の先、もしくは隣で営業するケースも増えており、7月8日付日本経済新聞記事によれば、コンビニ最大手・セブン-イレブンにとって最大の脅威になりつつあるという。例えば「まいばすけっと」では、イオンのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」のレトルトカレーを88円(税抜き)で買うことができる。業界関係者は「近くにあるセブンとの競争に負けて撤退したコンビニの跡地に、まいばすけっとが出店し、回り回ってセブン店舗の売上が落ちるという皮肉な現象が生じている」と指摘する。「まいばすけっと」の強さの秘密に迫る。

●目次

商品の価格を上げなくても運営できる体制を確立

 イオンが主に首都圏で展開する「まいばすけっと」の店舗数は1200超であり、2030年度までに2500店舗、将来的には5000店舗にまで増やす計画を持っている。ちなみにコンビニ業界3位のローソンの店舗数は約1万4000店。「まいばすけっと」の売上のうちイオンのPB「トップバリュ」商品が占める割合は20%に上るのも特徴であり、生鮮食品や弁当・総菜類、日用品など、扱う商品カテゴリは一般的なスーパーと変わらない。

「DX導入を進めることでレジを無人化したり、スーパーでみられるバックヤードやコンビニでみられる調理コーナーを設置せずにセントラルキッチン方式を導入することにより、徹底した店舗運営コストの低減を図ることで、低価格を実現している」(小売りチェーン関係者)

「まいばすけっと」の強さの理由について、流通アナリストの中井彰人氏はいう。

「生鮮食品は集中センターで処理した後、店舗に届けて陳列するだけの形態にすることで、店舗内で加工をする人を不要にしました。徹底してコストダウンしたスーパーとして成立するようになっています。ITで管理された密集した店舗網で短時間での配送によって鮮度を落とさないことに成功したということです。

 価格についていえば、コンビニどころか一般のスーパーやディスカウントストアなどよりも安くなりつつあります。スーパーでもすごい勢いで値上がりしている一方、イオンのトップバリュはそもそもナショナルブランドの商品より安い上に、価格据え置きの路線を取っているため、相対的に『まいばすけっと』の価格の低さが際立つようになっています。以前からローコスト運営のためにさまざまな実験的な取り組みをしてきたわけですが、スーパーなのに数人の店員で運営して、会計もセルフレジなので極めてローコストで運営できています。それによって商品の価格を上げなくても運営できる体制を確立し、かつ店舗数が増えて規模が大きくなったことで『規模の経済』が働いて、チェーン全体としてのコスト率が低いスーパーとして成立し始めています。

 スーパーは集客のために頻繁に陳列棚に変化を加えていますが、『まいばすけっと』は効率化を優先させて品揃えを絞り込んでいます。以前であれば消費者は店の品揃えの豊富さをかなり重視していましたが、長きにわたり実質賃金が減少を続けて家計が苦しくなった結果、とにかく安いものを追い求める人の割合が増えたというのも、『まいばすけっと』にとっては追い風です」

PBの売上比率をさらに引き上げ

 では、「まいばすけっと」はセブンを脅かす存在になるのか。

「これまでは日本で最も人口が集中している東京23区、川崎、横浜あたりに1000店舗ぐらいを密集させて、物流の効率を上げてきました。現在では少しずつ外に広げようとしています。神奈川でいうと座間、東京であれば立川、国立など、鉄道線沿いではあるものの、少しずつ外に広げていっています。関西にも首都圏と似たようなエリアはありますし、コンビニなどの跡地を狙えばかなり用地は確保できるはずです。

 全国的に見てもマーケットはまだありますが、人口密度が低くなると売上が減ってしまう可能性があるので、『まいばすけっと』が今、実験しているのは、全体の効率をいかに上げるのかという点です。コストダウンをさらに進め、PB比率をさらに上げた店をつくろうとしています。PBは、価格は低いものの粗利率は3割近くあるとみられ、売上が下がったとしても利益率が高い分、採算が取りやすくなります。PBの売上比率を5割くらいに引き上げた店舗を実験的に出したという報道も出ています。

 近い将来、コンビニを脅かす存在になってくるでしょう。『まいばすけっと』の店舗はセブン-レブンのすぐ近くにあることが多いですが、これはセブンとの競争に負けたコンビニ店舗が撤退した跡地に『まいばすけっと』が出店するケースがこれまでは多かったということだと考えられます。居抜きだとちょうどいいサイズの箱なので、そのままサッと入れるということで、狙って入っているのでしょう。

 実質賃金の低下や物価の高騰で消費者の懐が厳しくなり、割高なコンビニで買い物をすることを躊躇(ちゅうちょ)する人は確実に増えています。そうしたなかで『同じような商品を比べると、コンビニより全然安いから、まいばすけっとに行こう』となる人が増えるのは当然です。イオンもミニストップというコンビニを展開していますが、店舗数は極めて少なく、バッティングしにくいので、あまり気にすることなく“コンビニキラー”のような動きをできるのもイオンの強みでしょう」(中井氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト)

路線価4年連続上昇=平均2.7%、インバウンド影響―下落県も減少・国税庁

 国税庁は1日、相続税や贈与税の算定基準となる2025年分の土地の路線価(1月1日時点)を公表した。住宅地や商業地など標準宅地の評価基準額は全国平均で前年比2.7%プラスとなり、4年連続で上昇した。

 現在の評価基準額の計算方式が導入された10年以降で、上昇率は最大となった。背景には、住宅やホテル、インバウンド(訪日客)向けリゾート需要の高まりがあるという。

 都道府県別では35都道府県で上昇した。東京が上昇率8.1%と最も高く、沖縄が6.3%で続いた。都心部でのオフィスの空室率低下や店舗、ホテル需要の拡大が影響したとみられる。

 変動率が横ばいだった県はなく、下落したのは新潟や岐阜など12県で、前年より4県減った。下落率も7県で縮小した。

 都道府県庁所在地の最高路線価の変動を見ると、上昇が35(前年37)で、横ばい11(同9)、下落1(同1)。上昇率が最も高かったのはさいたま市の11.9%で、千葉市の11.2%が続いた。ターミナル駅の大宮、千葉両駅のロータリー付近で、周辺の再開発などが影響しているとみられる。

 路線価の最高額は東京・銀座の鳩居堂前で、1平方メートル当たり4808万円。40年連続トップで前年比8.7%上昇し、過去最高を更新した。1万円札1枚当たりの面積で、約58万5000円となる。

 路線価は午前0時を評価時点とするため、昨年1月1日の夕方に発生した能登半島地震の影響は、今年分で初めて反映された。大きな被害を受けた石川県輪島市の朝市通りは前年比16.7%マイナス、同七尾市の七尾港線通りでも前年比4.1%マイナスと大幅な下落となった。 

◇路線価の対前年増減率
       25年分  24年分  23年分
北海道     2.4   5.2   6.8
青 森     0.5   0.0 ▲ 0.3
岩 手     0.2   0.6   0.1
宮 城     4.4   5.1   4.4
秋 田     1.1   0.9   0.2
山 形     0.5   0.3   0.2
福 島     1.2   0.9   0.4
茨 城     1.0   0.7   0.4
栃 木     0.1 ▲ 0.2 ▲ 0.1
群 馬   ▲ 0.1 ▲ 0.5 ▲ 0.7
埼 玉     2.1   2.1   1.6
千 葉     4.3   4.0   2.4
東 京     8.1   5.3   3.2
神奈川     4.4   3.6   2.0
新 潟   ▲ 0.6 ▲ 0.5 ▲ 0.6
富 山   ▲ 0.4 ▲ 0.7 ▲ 0.1
石 川     0.7   1.4   1.1
福 井   ▲ 0.1 ▲ 0.5 ▲ 1.0
山 梨   ▲ 0.4 ▲ 0.2 ▲ 0.6
長 野     0.6   0.4   0.0
岐 阜   ▲ 0.1 ▲ 0.2 ▲ 0.5
静 岡     0.2   0.0 ▲ 0.3
愛 知     2.8   3.2   2.6
三 重     0.4   0.1 ▲ 0.4
滋 賀     0.5   0.2   0.0
京 都     3.7   2.4   1.3
大 阪     4.4   3.1   1.4
兵 庫     2.0   1.2   0.5
奈 良   ▲ 1.0 ▲ 0.2 ▲ 0.2
和歌山   ▲ 0.7 ▲ 1.0 ▲ 1.2
鳥 取     0.2 ▲ 0.2 ▲ 0.3
島 根     0.1 ▲ 0.1 ▲ 0.2
岡 山     1.9   1.7   1.3
広 島     2.3   2.4   1.4
山 口     0.8   0.6   0.4
徳 島   ▲ 0.4 ▲ 0.4 ▲ 0.7
香 川   ▲ 0.1 ▲ 0.3 ▲ 0.6
愛 媛   ▲ 0.5 ▲ 0.8 ▲ 0.9
高 知   ▲ 0.2 ▲ 0.1 ▲ 0.3
福 岡     6.0   5.8   4.5
佐 賀     3.3   2.7   1.9
長 崎     1.1   0.8   0.6
熊 本     2.8   2.7   2.3
大 分     1.7   1.8   0.7
宮 崎     0.4   0.1 ▲ 0.2
鹿児島     0.1 ▲ 0.7 ▲ 0.2
沖 縄     6.3   5.6   3.6
全 国     2.7   2.3   1.5
※平均値、単位は%、▲はマイナス
(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/07/01-11:13)