トウカイテイオーでの制覇から「30年」無念の降板で失われた東京優駿(G1)との縁!? ダノンザキッドの安田隆行調教師がジョッキー時代に味わった苦い思い出

 30日、東京競馬場で行われる日本ダービー(G1)は、ダノンザキッドの出走取り消しで17頭立て。7年ぶりのフルゲート割れが確定した。

 これにより、同馬への騎乗を予定していた川田将雅騎手はヨーホーレイクに乗り替わり。ダノンザキッドを管理する安田隆行厩舎にとって、初の日本ダービー挑戦はお預けとなった。

 安田隆調教師といえば、元JRAジョッキー。ホースマンの憧れでもある日本ダービー制覇も成し遂げている。

 1972年に騎手免許を取得し、梶厩舎からデビューした安田隆騎手。初年度は中央競馬関西放送記者クラブ賞(関西新人賞)を受賞し、順調な滑り出しかと思われた。

 しかし、翌年3月には阪神競馬の障害競走騎乗中に落馬。脳挫傷を負って意識不明の重体になり、半年の休養を余儀なくされる。

 復帰後は低迷が続き、転機が訪れたのは1980年。京都競馬場の改装工事により小倉競馬場での騎乗が増えたこの歳、前年の25勝を大きく上回る44勝を挙げたのだ。

 小倉開催での活躍が目立ち始め、「小倉の安田」などと称されるようになった安田隆騎手。安定した成績を残す一方、G1レースのない小倉を中心としたためビッグレースとは無縁の騎手となった。

 そんな安田隆騎手を、一躍ダービージョッキーへと押し上げたのがトウカイテイオーだ。

 父は皇帝といわれた7冠馬シンボリルドルフ。皇帝になぞらえ「帝王」と名付けられた同馬は5戦無敗で皐月賞(G1)を制し、日本ダービーでも単勝1.6倍の断然人気に推される。

 レースは20頭立てのフルゲート。大外20番枠からの出走となったトウカイテイオーは、好スタートから外目7番手を追走した。

 終始楽な手応えで外々を回したトウカイテイオーは、最後の直線でも余裕十分の走り。右鞭が入ると左にヨレはしたが、一気に他馬を突き放し2着レオダーバンに3馬身差をつけて圧勝している。

 しかし、トウカイテイオーはレース後に骨折が判明。その後は、シンボリルドルフの主戦を務めた岡部幸雄騎手に乗り替わりとなり、無敗で牡馬クラシック二冠を達成した安田隆騎手は無念の降板となった。

 JRA-VANホームページのインタビュー『私の競馬はちょっと新しい』で、この乗り替わりについて「ジョッキーとして甘いところもあって、もう少ししっかりしたのを乗せないといけないな、という形で岡部さんに替わったということだと思います。勝負師としては仕方ないですね」と語った安田隆調教師。その後は調教師として大成功を収めロードカナロアなど多くの馬をG1に送り出したが、日本ダービーへ管理馬を出走させたことは未だにない。

 ジョッキーとして勝利した1991年の日本ダービーから早30年。ダノンザキッドでの出走を逃した安田隆調教師の挑戦は、まだまだこれからも続きそうだ。

(文=北野なるはや)

<著者プロフィール>
 某競走馬育成牧場で働いた後、様々なジャンルの仕事で競馬関連会社を転々とする。その後、好きが高じて趣味でプログラミングを学習。馬券には一切のロマンを挟まないデータ派であるが、POG(ペーパーオーナーゲーム)では馬体派という奇妙な一面も持つ。

『めざまし8』視聴率で露呈した『スッキリ』との差…フジテレビの誤算と谷原章介の問題点

 22年の歴史に幕を下ろした『とくダネ!』(フジテレビ系)から『めざまし8』に変わって2カ月。御年73歳の小倉智昭から、次の10年、20年を見据えて48歳の谷原章介に司会が交代したわけだが、視聴率的にはどのような変化が見られたのだろうか?

女性層の視聴率で『スッキリ』に完敗

「たとえば『とくダネ!』が終了する1カ月前、3月1日のオンエアを世代別、そして“役割”別に見てみます。平均世帯視聴率は6.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)、個人視聴率は3.0%となっています。その中でF3(女性50歳以上)は5.1%、また“役割”の項目で見ると『主婦』は4.6%と、決して高くはないものの、それほど悲観的になることもない数字です。

 一方で、裏番組の『スッキリ』(日本テレビ系)と比べて『とくダネ!』が負け込んでいたのが、F1(女性20~34歳)、F2(女性35~49歳)でした。同じく3月1日の『スッキリ』のF1の視聴率が4.2%であるのに対し、『とくダネ!』のF1は1.4%と、2.8ポイントの差をつけられています。続いて、F2でも『スッキリ』が7.7%であるのに対し、『とくダネ!』は4.0%と、3.7ポイントも離されています。今回の谷原の起用は、『スッキリ』が独占していたF1、F2層の取り込みを狙った施策でした」(テレビ局関係者)

 では、谷原に変わった後の『めざまし8』はどうなったのだろうか?

「1カ月前の数字ですが、4月15日の視聴率は世帯5.3%、個人2.8%でした。そして、肝心のF1はというと1.3%、F2は4.0%、F3は4.7%。さらに『主婦』の項目では4.5%でした。つまり、『めざまし8』の視聴者層は『とくダネ!』のそれと、なんら変わらないことがわかったのです。率直に言えば、番組の顔を小倉から谷原に変えたところで、そう簡単に新たな視聴者は振り向かないということでしょう」(同)

 夜の時間帯は「何かおもしろい番組がやってないか」と頻繁にチャンネルを変えると言われているが、情報番組が並ぶ朝はよほど嫌いなコメンテーターなどがいない限り、なかなか視聴傾向が変わらないという証左だろう。

「さらに悲しいのが、『めざましテレビ』(第2部)では約8%あったF2の視聴率が、『めざまし8』が始まった後は半分以下になるという現実です。これは『とくダネ!』時代も起きていた流出ですが、この傾向は『めざまし8』でも変わっていないようです」(同)

『めざまし』ブランドの無駄遣い?

 さらに、『めざまし8』の誤算はタイトルと内容の差にもあるという。

「『めざまし8』というタイトルの意図について、プレスリリースでは『めざましテレビ』でストレートに扱ったニュースを深く解説する“大人のめざまし”を標榜する、と発表されていました。

 つまり、同時間帯の民放1位に君臨する『めざまし』ブランドを最大限に活用するという触れ込みだったので、かなり脅威を感じていたのですが、実際は『めざまし』の総合司会を務めていた永島優美アナを起用しただけで、テーマソングやテロップのロゴ、エンターテインメントコーナーの新設など、ほかの部分は『とくダネ!』のプチリニューアルを図っただけでした」(同)

 また、『めざまし8』の問題点はほかにもあるようだ。

「『めざまし8』は『とくダネ!』とほぼ同じスタッフがつくっているので、そもそもの構造的な欠陥はありますが、出演者のバランスも悪い。まず“総合解説”という役割です。月・木は弁護士の橋下徹氏、火曜日は国際政治学者の三浦瑠麗氏、といったメンバーが担当しています。これは『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)でいうところの玉川徹氏、または『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系)での読売テレビ報道局解説委員長・高岡達之氏をイメージしているのでしょうが、別に“コメンテーター”という肩書きでもいいわけです。

 しかも、『めざまし8』には、この“総合解説”のほかに日替わりのスペシャルキャスターもいます。ちなみに、水曜日は3時のヒロイン(ただし、大半の時間は福田麻貴のみ)という謎のキャスティングですが……。また、“コメンテーター”の役割を担う人もいれば、フリップボードを読み上げて進行していく“情報キャスター”(フジテレビアナウンサーが担当)もいます。さらに、時には感染症の専門家や政治ジャーナリストもいるのです。つまり、スタジオには司会の谷原と永島アナを含めて、最大7人も8人もいることになる。いわば、船頭が多すぎるのです」(同)

 キャスターに抜擢された谷原は好感度が高く、スマートでダンディーな見た目も視聴者受けが良さそうだが……。

「“紀州のドン・ファン”と称された和歌山県の資産家・野崎幸助さんの殺害容疑で元妻が逮捕されたニュースの際は、あごに手をやりながらボードの前を歩くなど、まるで刑事か探偵のように振る舞っていました。また、最近では体調不良で活動休止中の江頭2:50にエールを贈る意味で、彼のモノマネをすることが多いのですが、悪く言えば若干、嘘くさい(笑)。数々の発言も、声が良すぎるせいなのか、どうも胸に響いてこないのです。まぁ『モーニングショー』でも『スッキリ』でも、ましてや『ラヴィット!』(TBS系)でもない視聴者が消去法で見ているということでしょう。いずれにしても、積極視聴されている番組ではないと思われます」(同)

石田純一もキャスター挑戦の過去

 さて、俳優からワイドショーや情報番組の司会者に定着したタレントといえば関口宏や坂上忍がいるが、一方で“失敗例”もあるという。

「名脇役として知られる前田吟は2002年4月、現在の『モーニングショー』の枠で放送されていた『スーパーモーニング』の司会に大抜擢されました。誠実で温厚な人柄が評価されて、キャスターに初挑戦。局側も『見る方に安心感を与えるキャラ』として期待を寄せていたのですが、平均世帯視聴率は同時間帯のワイドショーで最下位の4%台と低迷、わずか半年で交代させられています。

 また、石田純一も1997年3月末から『スーパーJチャンネル』(テレビ朝日系)で初めて報道キャスターに挑戦しましたが、女優・長谷川理恵との不倫騒動や元妻・松原千明との別居などのスキャンダルが響き、視聴率は5%と低迷。彼も、わずか1年で降板しています。ちなみに、この『スーパーJチャンネル』のキャスターは月~木が石田で、金曜日は田代まさしでした。このキャスティングは、今となってはテレビ史に残る特記事項でしょう」(同)

 いずれにしても、『めざまし8』が『スッキリ』に完全勝利するのはいつになるのだろうか?

(文=編集部)

東京優駿(G1)で「天国と地獄」を味わった2頭の明暗!? 武豊のダービー初勝利を阻んだフサイチコンコルド、「単勝1.6倍」でウオッカの引き立て役になった悲劇

 30日、東京競馬場では競馬の祭典・日本ダービー(G1)が開催される。3歳世代の頂点を決める大一番は、1年で最も盛り上がりを見せるお祭りといってもいいだろう。

 皐月賞(G1)を無敗で制したエフフォーリアと若武者・横山武史騎手のフレッシュなコンビの無敗二冠達成には大きな注目が集まっている。同騎手は戦後では最年少となる22歳5ヶ月9日でのダービージョッキーを目指す。

 天才の名を欲しいままにしたあの武豊騎手でさえ、初騎乗の際には「何もできずに終わった」と後に述懐したほどのプレッシャーに襲われたというダービーの舞台。以降も善戦はしたものの、2着が最高着順。待望のダービー初勝利を挙げたのは、10度目の正直で手にした1998年スペシャルウィークまで待たなければならなかった。

 そんな武豊騎手が最もダービー制覇に近づいた瞬間は、ダンスインザダークで挑んだ96年。若き天才の悲願を阻止したのは、史上2番目の若さとなる24歳でダービージョッキーの栄誉を掴んだ藤田伸二騎手(当時)と「和製ラムタラ」の異名を持つフサイチコンコルドのコンビ。武豊騎手とのコンビで1番人気に支持されたダンスインザダークに対し、無敗とはいえキャリア2戦のフサイチコンコルドは7番人気と大きな開きがあった。

 だが、パートナーの力に自信を持つ武豊騎手が、好位からの横綱相撲で押し切りを狙ったところを、これを徹底マークしていたフサイチコンコルドが外から強襲。2頭の叩き合いはクビ差でフサイチコンコルドに軍配が上がった。再び2頭が相見えた秋の菊花賞(G1)はダンスインザムードが快勝したものの、同馬でダービーを勝てなかったことは武豊騎手にとっても誤算だったに違いない。

 7番人気の伏兵ながらダービーで大金星を挙げたフサイチコンコルドに対し、単勝1.6倍の圧倒的1番人気で7着に敗れたのがフサイチホウオーだ。

 同馬はデビューから4連勝で挑んだ皐月賞を3着。無敗が途切れたとはいえ、前残りの展開で脚を余しての敗戦だった。多くのファンが、ここまで3戦3勝と得意にする東京コースに替わるダービーなら巻き返しは容易と考えたのも無理はなかった。

 しかし、レースを制したのは3番人気のウオッカ。牝馬によるダービー制覇は1943年のクリフジ以来、64年ぶりの快挙だった。フサイチホウオーは中団からの競馬を進めたが、最後の直線で伸びを欠き、ウオッカから遅れること1秒の7着でゴールする。

 断然人気を裏切り、まるで引き立て役のようになってしまったフサイチホウオーは、この敗戦を機にそれまでの活躍が嘘だったかのような凡走を繰り返すようになる。巻き返しを期した秋の神戸新聞杯(G2)を1番人気で12着と敗れると、その後は掲示板すら載れない惨敗を繰り返してターフを去った。

 同じフサイチの冠名を持つ2頭にとって、まさに天国と地獄ともいえる明暗を分かつダービーだったといえるだろう。

 エフフォーリアとサトノレイナスが対決するダービー。

 今年はどのようなドラマが待っているのだろうか。

(文=黒井零)

<著者プロフィール>
 1993年有馬記念トウカイテイオー奇跡の復活に感動し、競馬にハマってはや30年近く。主な活動はSNSでのデータ分析と競馬に関する情報の発信。専門はWIN5で2011年の初回から皆勤で攻略に挑んでいる。得意としているのは独自の予想理論で穴馬を狙い撃つスタイル。危険な人気馬探しに余念がない著者が目指すのはWIN5長者。

ネット証券、繁栄を謳歌…楽天証券は口座数で野村を逆転、SBIは営業収益で大和を凌駕

 歴史的な株高を背景にインターネット証券会社の業績が好調だ。大手5社の2021年3月期決算は全社が増収増益となった。新型コロナウイルスによる株式相場の乱高下を背景に、個人投資家の取引が活発になったことが背景にある。今後、各社が進める手数料無料化で収益力に差が出ることになろう。

【ネット証券5社の21年3月期決算】( )内は前期比増減率

社名       純営業収益        最終利益

SBI証券     1491億円(31.5%)        461億円(64.8%)

楽天証券      752億円(33.2%)         95億円(35.3%)

マネックス証券   288億円(16.9%)         26億円(61.8%)

松井証券      286億円(28.3%)        102億円(67.6%)

auカブコム証券  164億円(5.4%)          15億円(1.5%)

(注:SBIとマネックスは国際会計基準。楽天は12月期決算なので20年4月~21年3月の数字を使用)

 最大手のSBI証券は売上高にあたる純営業収益、最終利益とも過去最高を更新した。傘下のSBI証券の業績が好調なことから、SBIホールディングス(HD/国際会計基準)の純営業収益は前期比47%増の5411億円、純利益は2.1倍の810億円に急伸した。対面営業最大手の野村ホールディングス(HD)の純営業収益1兆4019億円(前期比8.9%増)には及ばないが、業界2位の大和証券グループ(G)本社の4667億円(同9.5%増)を凌駕する。

 子会社SBIソーシャルレンディングが虚偽や誤解を生じさせる情報を基に投資家から資金を集めていた問題で、未償還元本相当額をSBIHDが肩代わりして返還した。21年3月期連結決算で145億円の損失を計上したにもかかわらず純利益は倍増した。SBI証券や楽天証券の純営業収益の伸び率が30%を超えたのに対し、対面営業の野村HDや大和G本社は1ケタ台の伸びにとどまった。

 ネット取引が大半を占める個人投資家の売買が増え、純営業収益の3~6割を占める手数料収入が大きく伸び、業績を牽引した。マネックス証券(単独ベース)、松井証券も純営業収益は2ケタ増となった。

 とはいっても、株式などの手数料の無料化の影響で各社の収益力に差が出た。auカブコム証券は増収増益を確保したが、伸び率で見劣りする。19年12月から信用取引の手数料が撤廃になった。

楽天証券の口座数が楽天ポイントを武器に急増

 コロナ禍をものともせずに口座数が増えた。なかでも楽天証券はグループのさまざまな商品やサービスの購入に付与される楽天ポイントを武器に、9カ月で100万口座を新たに獲得した。20年12月末の口座数は508万だったが、21年1~3月中に野村證券の532万口座を抜き、3月末に572万口座となった。3月の新規口座開設数は25万529と過去最高だったという。

 新たに口座を開いた顧客の多くは若年層で、30代以下が68%。投資初心者が75%を占め、女性が48%に達した。ビジネスモデルは変わりつつある。新規口座のうち46%が楽天グループからの流入だった。また、新規口座開設者の多くが長期の資産運用を目的としている。投信積み立てを行う顧客は110万人を超えており、前年の2倍に拡大。月間投信積立額は350億円を突破した。

 首位のSBI証券の口座数は3月末で681万口座だ。SBI証券とは、まだ100万口座以上の差があるが、SBIはグループのSBIネオモバイル証券とSBIネオトレード証券の口座数も加味して公表している。一部の顧客は重複しているため、“真水(まみず)”の口座数は681万より少ないとみられている。

 顧客からの預かり資産の伸び率はSBI証券が49.3%増だったのに対し、楽天証券は76.2%増。楽天証券の預かり資産11兆6400億円は、マネックス、松井、auカブコムの3社の合計額を上回った。

SBIがとどめの一撃

 SBI証券は競合他社を引き離すため4月20日、25歳以下を対象に国内現物株の手数料の無料化を打ち出した。現物取引の手数料無料化は大手ネット証券では初めて。22年をめどに手数料の完全無料化を目指す方針だ。

 ネット証券の主要顧客は、手数料が少しでも安い会社に口座を開く傾向が強い。国内の「手数料ゼロ化」の動きは、今回で三度目となる。auカブコム証券が19年12月、信用取引の手数料を撤廃した。同証券はこのときの施策が影響して収益が伸び悩んだ。20年10月にSBI証券が一日の売買代金100万円までの顧客の手数料を無料にした際には楽天証券が、ただちに同様の措置を取った。そして今回、SBI証券が25歳以下を対象に国内現物株の手数料の無料化を打ち出すと、すぐに松井証券と岡三オンライン証券が追随した。楽天証券やマネックス証券、auカブコム証券は対応を保留した。

 今回の手数料ゼロの恩恵を受けるのは、一日に頻繁に売買を繰り返すデイトレーダーで25歳以下への恩恵はあまりない、との見方もある。

SBIソーシャルレンディングに業務停止命令、SBIは同業務から撤退を決める

 SBIソーシャルレンディング(SL)に対し、金融庁が5月中にも金融商品取引法に基づき業務停止命令を出す方針だ。SBISLの内部管理体制がずさんで、多数の投資家に損失を与えたことを重くみた。

 太陽光発電関連会社の工事案件にSBISLは380億円を融資したが、129億円が目的外の用途に使われた。SBISLは、ひとりの担当者にほぼ任せきりで工事の進捗状態をきちんと確認していなかった。SBIHDは金融庁の許可を得て、投資家に未償還の元本を返す。5月24日、SBIHDはソーシャルレンディング業務から撤退すると発表した。SBISLはすべてのファンドを償還し、自主廃業する。

(文=編集部)

engawa Serendipity dayレポート#02

engawaウェビナータイトル

Serendipity(セレンディピティ)という言葉をご存知だろうか?「偶然の出会いをきっかけに、予想外の価値を発見し、幸運をつかみ取る能力」を表すこの言葉が今、ビジネス界で注目を集めている。スリランカの寓話から生まれたとされるSerendipityの正体とは、何なのか? 2021年4月15日に開催されたウェビナー「engawa Serendipity day」に、そのヒントを探ってみよう。大いなる発見と幸福な出会いが、きっとそこにはあるはずだ。

(文責と分析:ウェブ電通報編集部)


3回連載となる本稿#02では、ウェビナー第二部で披露された京都大学経営管理大学院客員教授/オムロン イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長・竹林一(たけばやしはじめ)氏による「事業共創づくりに必要なこととは?」というテーマでの講演を取り上げる。

Serendipity(セレンディピティ)の核となるのが「共創」。いまさらながらの注釈ではあるが、「競争」ではなく「共創」。その仕組みを竹林氏は、独特とも言える軽妙な口調で解説してくれた。ウェブ電通報では、およそ一時間に渡って行われた竹林氏の講演の醍醐味を「関西」「京都」という切り口で、再編集してみた。これもまた、Serendipity(セレンディピティ)に迫るための一つの挑戦だと、ご理解いただきたい。
 

ウェビナーの収録が行われた京都engawaの外観。モダンでありながらも京都の街並みにマッチする佇まいだ。
ウェビナーの収録が行われた京都engawaの外観。モダンでありながらも京都の街並みにマッチする佇まいだ。



 

人は、空気を吸うために生きとるんやない

竹林氏が紹介してくれたこの言葉は、オムロン創業者・立石一真氏の言葉だ。人は空気がなければ生きてはいけない。企業にとってそれは、利益にあたる。でも、カネを稼ぐことはあくまで生きていくための手段に過ぎず、目的はその先にある、というのだ。「三方得」の近江商人の発想ではないが、このあたりに関西人独特の知恵が読み取れる。

竹林一(たけばやしはじめ)氏
竹林一(たけばやしはじめ)氏

一例を挙げるならば、竹林氏は、駅員さんに切符を渡して通り過ぎるだけの存在だった「駅」というものを、新たに「街の入り口」と定義づけた。それによって「駅を起点とした、安心・安全かつ快適な街づくり」が始まる。さまざまな企業が、ワクワクするコンセプトに集う。「共創」のカラクリは、まさにそこに見てとれる。

竹林氏によれば「風が吹けば、桶屋が儲かる」のビジネスモデルづくりが大切なのだという。まずは、ワクワクする風を吹かすこと、そこに人が集まってそれぞれが自分なりのビジネスを考える。別の例えで言うならば、現代版の「楽市楽座」構想、ということだ。

ポイントとなるのは、起承転結の「承」

竹林氏の講演の中で、とりわけハッとされられたのは、「8割×8割は、0.64にしかならない」という指摘だ。人を多く集めさえすれば、大きなプロジェクトを具現化できる、というのは妄想だ。プロジェクトは、それに関わる人の能力の「掛け算」がもたらすもの。つまり、個々の人間が「0.8」程度の力を注いだプロジェクトは、結果としてとんでもなくしょぼいものにしかならない、というのだ。

プロジェクトは「起承転結」のそれぞれの部分の担う人間によって、成り立つ。「起」や「転結」を担う人間がやるべきことは、比較的イメージしやすい。「起」の人よるひらめきを、「転結」を担う人が事業として育てていく。ポイントは「承」を担う人の存在なのだ、と竹林氏は指摘する。「承」を担う人は、「起」のひらめきのアイデアをイメージしやすいワクワクしたワードに置き換え、コミュニティ構想に仕立てる。そこに「転結」を担う人間が集まってくる。

竹林氏はそれを「秘密結社型のマーケティング」と表現する。「will」をもったクローズドなチーム(秘密結社)だけが、オープンビジネスを可能にする。上下関係など要らない。注目すべきは「横の結束」である、と。そして、横の結束が生まれると、物事は勝手にころころといい方向へ転がっていく。「willの連鎖さえあれば、広告への投資などいらないんですわ」竹林氏によるこの指摘は、広告会社に勤める、それも東京の人間にとって、実に痛いところをつかれた、といった感じだ。エフェクチュエーションという難しいマーケティングワードも、「わらしべ長者を科学する」という視点で考えれば、とても腹落ちする。ところで、「わらしべ長者」って、どんな話だったかな?

知恵の掛け算が、「わらしべ長者」を生む

改めて「わらしべ長者」のストーリーを思い出していただきたい。1本のわらに虻(あぶ)を結び付けて遊んでいたところ、そのわらしべをみかん3個と交換してくれないか、と、ぐずる赤ん坊を抱いた女性から頼まれる。そのみかんが、布になり、馬に化け、ついには田んぼを手に入れるというストーリーだ。

ポイントは「出会い」にある、と竹林氏は指摘する。「100年続くベンチャーが生まれ育つ都研究会」を京都大学経営管理大学院の寄附講座の中で立ち上げた竹林氏。その拠点として京都という街を選んだのは、偶然の思いつきではない。「竹林一」という名前を「たけばやしー」と読み、「しーさん」と慕ってくれる人がいる街。そうした出会いから、しーさんが言うところの「年中夢求」という気持ちが生まれ、イノベーションが起きていく。「まさに、五山に囲まれた京都ならではの、わらしべです」

1時間を超える講義の内容を、今回もあえてぎゅっと要約してみた。「わらしべ長者」と言われると、「たまたまの偶然が重なって、ふと気づけば大金持ちになっていた」みたいな印象をお持ちの方も多いと思うが、Serendipity(セレンディピティ)をつかむためのヒントは、まさにそこにあるのだと思う。


【関連リンク】

Abies Ventures 会社ホームページは、こちら

長野草太氏:Abies Ventures取締役パートナー。「世界を変えるメガディープテックスタートアップを日本から創出する」ために、製品単体ではなく、システム&サービスの全体設計による「統合型のインテグレーション」を提案する。
長野草太氏:Abies Ventures取締役パートナー。「世界を変えるメガディープテックスタートアップを日本から創出する」ために、製品単体ではなく、システム&サービスの全体設計による「統合型のインテグレーション」を提案する。

FUND X・京都BACビジネスクリエーター・奥田涼氏紹介のサービスサイトは、こちら

奥田涼氏:「FUND X」というソリューションで、オープンイノベーションによる企業改革を提案する。
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Plug and Play Japan、会社ホームページは、こちら

ヴィンセント フィリップ氏:Plug and Play Japan代表取締役社長 「小さな失敗を、早くすること」が、イノベーションの速度を生む。独特の切り口で、スタートアップの本質に迫る。
ヴィンセント フィリップ氏:Plug and Play Japan代表取締役社長 「小さな失敗を、早くすること」が、イノベーションの速度を生む。独特の切り口で、スタートアップの本質に迫る。
本連載は、「engawa Serendipity day」と題されたウェビナーの内容を、主催者の一人である田中浩章氏(京都BAC)の監修のもと、ウェブ電通報独自の視点で編集したものです。

ヘルスケア市場活性化のヒント満載!?20代男性の「ゼロ→プラス」な健康意識

ヘルスケア領域の新潮流を専門家との対談でひもとく本企画。「予防医療」をテーマにした第1回に続き、今回フォーカスするのは、「20代男性のヘルスケア意識」。健康は年をとるにつれて気にかけるようになるものだと思いがちですが、「ウェルネス1万人調査」の結果を見ると、近年は20代男性のヘルスケアに対するポジティブな意識・行動が目立っています。

その背景には、どんな外的影響や価値観の変化があるのでしょうか?そして、20代男性の健康意識・行動から浮かび上がる、新たなヘルスケア潮流とは?

健康医療ジャーナリストの西沢邦浩氏をゲストに迎え、電通ヘルスケアチームの瀧澤菜穂氏が話を聞きました。

※ウェルネス1万人調査とは:生活者の健康意識と行動からヘルスケアインサイトを把握し、生活者視点で見た市場ニーズ/トレンドを明らかにすることを目的とした大規模定量調査。2007年に開始し、20~60代男女1万人を対象に毎年実施。


西沢氏と瀧澤氏

20代男性に顕著な、「健康アクティブ層」と「健康無関心層」の二極化

瀧澤:「ウェルネス1万人調査2020」では、健康意識・行動項目をもとにクラスター分析を行っています。7つのクラスターに分類したうち、健康意識・行動が最も多岐にわたる「健康アクティブ層」は20代男性全体の26.5%に及び、全性年代の健康アクティブ層(16.9%)に比べて約10%も高い構成比となっています。

一方で、健康を全く気にしない「健康無関心層」も29.7%と、全性年代の構成比15.8%に比べて約14%も高く、二極化が顕著に表れています。西沢さんはこの調査結果についてどう思われますか? 

西沢:20代男性の健康意識・行動がここまではっきりと二極化していることは非常に興味深い傾向だと思う半面、危機感も覚えました 。

健康クラスター構成図

瀧澤:具体的な意識項目で目立ったものだと、「常に健康を意識した生活を送っている」「栄養素や食品・運動など健康に関する知識は人並み以上だと思う」という項目に20代男性の30%以上が「あてはまる」と答えていて30~50代男性よりも高い割合です。行動項目では、「トクホ商品を定期的に摂取している」と答える割合は、20代男性で25%と、他の性年代と比べて最も高いスコアであることも明らかになりました。

20代男性のポジティブな健康意識
20代男性の健康行動

西沢:トクホ商品は生活習慣病や更年期に伴う不調が気になる世代がメインターゲットのはずなのに、利用実態にはギャップがあるかもしれないということですね。

瀧澤:一般的に20代男性は医学的には健康な人の方が多いことを考えると、「マイナス(病気/不調)→ゼロ(治す)」ではなく「ゼロ→プラス(より心地よい状態)」の健康意識が生まれているといえるのではないでしょうか。二極化しているとはいえ、20代男性に健康に関心が高い人が一定割合いることについて、西沢さんはどのようにお考えでしょうか?

西沢:20代男性が自分たちの親をどう捉えているかが、一つの手がかりになりそうです。彼らの親世代、特に50~60代前後の男性には若いうちから健康に気を遣ってきたという人はさほど多くないのではないかと思います。さらに、バブルが崩壊したあとの出口が見えない低成長時代を手探りで進んできた人たちです。そして今、老後に不安感を持って高齢期に近づきつつある。そのような親の姿を間近で見てきた子どもが、「自分の身は自分で守らねばならない」と危機感を抱くのは当然の流れだと思います。

瀧澤:確かにお酒の飲み方や喫煙など、親世代が良しとしていた生活習慣や価値観が、子世代には逆に捉えられている事例も目立ちますよね。

西沢:もう一つの側面として、デジタルネイティブ世代以降のコミュニティー形成も関係しているのではないかと思います。20代の人たちはバーチャルを介して複数のコミュニティーに所属することが当たり前で、それぞれの場所で自分をどう見せるか、どのように表現するかを自然に意識しています。

また、コミュニティーの性質も変化しています。例えば、私たち50~60代前後の世代が若い頃はギラギラしたコミュニティーが多かったのに対し、彼らのコミュニティーの多くはジェンダーフリーでフラットな価値観が推奨され、心地よい関係性が求められます。その中の一要素として、清潔感やヘルシーさも重視されているのではないでしょうか。

雑誌の「モテ男の条件」といった気恥ずかしい特集を読み漁っていた親世代の価値観とは全く異なりますよね(笑)。ちょっと前に流行った、草食系という言葉がありますが、若い人に「好きな食べ物は何?」と聞くと、奇をてらうでもなく真面目に「サラダが好き」と答える人も少なくありません。

瀧澤:サラダ好きな男性はもはやマイナーではないですよね。パワーサラダという進化も見られますし、いまや男女問わず受け入れられています。

西沢:20代男性の健康意識が高まっていることは非常に素晴らしい傾向だと思いますが、正反対の無関心層が30%近くもいることが気がかりです。

瀧澤:そうですよね。無関心層の深掘りはつい後回しにしがちでしたが、彼らのインサイトにもこの市場の新しい在り方に関する重要なヒントが隠されている気がします。

西沢:バーチャルを介してコミュニティーを広げていく人がいる一方で、心地よい関係性を築けなくて孤立してしまう人もいます。リアルな接点が制限されるコロナ禍では、なおさらですよね。こうした関係性の多寡も健康意識の二極化につながっているのかもしれません。

若者の健康と切り離せない「美容意識」も新フェーズへ!?

瀧澤:コミュニティーの中での自分の見せ方という視点が出ましたが、20代男性の美容意識もここ数年で上昇しています。

20代男性の美容意識

西沢:基礎化粧品の使用にとどまらず、ファンデーションで上手に肌荒れを隠す人や、永久脱毛をする男性も増えてきました。お父さん世代をターゲットにした加齢臭用コスメを買っているのは、体臭に敏感な若者が多いという話を聞いたこともあります。裏まではとっていませんが(笑)。

瀧澤:清潔感や美しさという点で、男性向け・女性向けという区別をする必要がない場面も増えるかもしれません。例えば、スキンケア商品において、肌の性質が男女で異なるので、その点での区別が必要な場合はあると思いますが、少なくとも男性に使ってほしいという目的で「男性向けスキンケアブランド」と掲げる必要性が薄まってくるのでは、と思います。ニュートラルなブランドイメージの商品は、自然に男女ともに使われていきそうです。

西沢:かつての韓流ブームで中性的な美貌を持つ男性が圧倒的人気を得たときは驚きもありましたが、いまや「きれいな男子」は韓国やアジアだけにとどまらず、グローバル規模で支持されています。

瀧澤:そのような変化に伴ってメンズコスメ市場はまだ伸びる傾向にありますし、そのニーズも現在進行形で細分化しています。

西沢:男性のメイクに対する抵抗も今後ますます薄れていくかもしれません。いまの20代は自分の写真を当たり前のように美しく加工します。そう考えると、リアルな身体をバーチャルの“盛れている好きな自分”に近づけるための健康・美容にもニーズがありそうですね。

ヘルスケア市場の牽引役を期待したい!20代男性の健康行動が及ぼす影響

瀧澤:20代男性の健康・美容意識に刺激されて、同年代の女性や40代以上の男女の健康・美容意識が鼓舞される可能性もありそうです。

西沢:非常に面白い流れだと思います。20代男性を起点に女性の意識も変わり、もしかすると彼らの親世代の男性の意識すらも変革できるかもしれません。これまでに20代男性がヘルスケア市場で主役になったことはありませんから、もし彼らが市場の牽引役になったら、これは業界にとっての革命かも。

瀧澤:若い人たちが率先して健康に気を遣うことで、例えば生活習慣病にかかる人を減らせたら、日本の医療費への負荷を下げることにも貢献できますよね。

西沢:生活習慣病は発症してから治すのは至難の業ですから、まだ症状の出ていない若い頃から気をつけることが本質的に必要なんですよね。

老化に関しても、健康に気を遣う人とそうでない人で老化のペースに大きな差異が生じることが海外の研究で明らかになっています。最も生物学的な老化度が低い10人と、最も老化度が高い10人の45歳時の顔写真を合成して比較している研究があるんですが、びっくりするほど見た目が違いますし、ほかの老化指標や体内年齢にも大きな差があるんです。

他の研究では、3000種類近い血液中のタンパク質を分析した結果、肉体的な老化は一定の速度ではなく変則的に進むことがわかり、老化スピードが34歳と60歳、78歳の3つのポイントで速くなるとしています。そう考えると、30代に健康管理をサボると、大きなツケがたまる可能性があるのです。

参考文献:
Nat Aging. 2021 Mar;1(3):295-308
Nat Med. 2019 Dec;25(12):1843-1850.


瀧澤:とても面白い研究結果です。「見た目」にも言及したこのような科学的な情報であれば、20代でもスムーズに自分ゴト化でき行動変容につながると思います。そして、それは若年層だけでなくヘルスケア市場全体を変えることにつながりそうですよね。

西沢:はい、健康意識が高い20代男性はいわば“宝物”です。彼らが健康市場のリーダーになれば、日本は大きく変わると本気で思います。

瀧澤:20代男性に特徴的に表れ始めた若年層の健康意識・行動のポジティブな傾向をしっかり捉え、他の世代へのアプローチにも活かしていきたいです。

最後に、ヘルスケア領域で西沢さんが注目しているトピックがあれば教えていただけますか?

西沢:老化に伴う疾患の発症を抑制する方法が細胞レベルから解明されつつあることですかね。中でも今、ホットなのがNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)という成分です。老化抑制、糖尿病改善、アルツハイマー予防、卵巣機能向上などの効果が期待されるとして研究が進められており、健康関連業界向け専門紙でも2021年上半期の人気素材予想で第2位に入るほど注目を集めています。

アメリカや中国ではすでにNMNサプリメントがセレブや高所得層の間で流行し、日本でも若手の経営者層などに支持が広まりつつあります。含有成分や販売方法が怪しい製品も増えているのですが、品質が高いサプリは月額3〜5万円ほどかかります。健康維持のためのサプリに毎月5万円も投資する若手が増えているのは、「ゼロ→プラス」のヘルスケアの可能性を象徴する事例かもしれません。

瀧澤:今後どのように浸透していくのかが気になります。本日はありがとうございました!


【第2回の対談を終えて】
20代男性の「ゼロ→プラス」な健康意識に着目した背景には、科学的な正しさ、真面目な発想だけに凝り固まらないよう、生活者の自由でアクティブで、ヘルスケア領域であっても時に非論理的な動きもする「気持ち」の側面ももっと汲み取るきっかけにしたいと考えたからです。この層のインサイトを深掘りすることで、20代男性自体をターゲットとしたビジネスの可能性に加え、他のターゲットや市場全体にとってもヒントとなる要素を探っていきたいと思っています。

今回取り上げた若い世代は、オンライン健康相談やパーソナライズされたヘルスケア商品などの次世代ヘルスケアビジネスにも親和性の高いターゲットです。そんな視点も交えながら、次回は「パーソナルヘルスデータ活用によるビジネスの展望」について対談します。

【調査概要】
調査名:「第14回ウェルネス1万人調査2020」
実施時期:2020年11月
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国20~60代の男女(10000サンプル) 
※性年代、地域構成比を人口構成比(8区分)に合わせて回収
調査会社:電通マクロミルインサイト


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健康食品などの安全性情報を伝える「食品ハザードピクト」、無償提供します。

(この記事は、電通ダイバーシティ・ラボが運営するウェブマガジン「cococolor」(ココカラー)に掲載されたコンテンツを編集してお届けします)
食品ハザードピクト電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)の「見やすさプロジェクト」は、国立健康・栄養研究所と共同で「食品ハザードピクト」を開発しました。

最近は食品のパッケージに「食物アレルギーピクト」を表示して、アレルギーのある方により安心していただける商品も増えてきています。同じように、「安全性情報」は消費者にとって、とても重要な情報です。
「食品ハザードピクト」は、多様な消費者に「食品の安全性情報を円滑に伝える」という目的で、ユニバーサルデザインの見地からデザインしており、広く一般に普及させるために無償提供しています。

「健康にかかわる重要な情報に対してピクトグラムの目印をつけることで、今後、健康被害に遭う人を一人でも減らしたい」。そんな思いから作られたこのピクトグラム。
DDLでユニバーサルデザイン関連案件に長く取り組み、今回のピクトグラムのデザインで中心的な役割を担った植田憲二と田代浩史から、本件の意義を紹介します!

重要な「安全性情報」こそ、伝わりやすいひと工夫を

サプリメントや栄養補助食品といったいわゆる健康食品は、日々の暮らしの中に定着しています。

しかし、原材料や成分によって中には体調に異変が出てしまう人もいますので、使用に当たっては事前の情報確認が重要です。

それにもかかわらず、「商品メリット」を伝える情報と比べると、注意の呼びかけとなる「摂取上の注意」等に関しては記載できるスペースが小さく見過ごされがちです。

また、公共機関や自治体、専門研究所などのサイトで詳細を丁寧に伝えていても、情報の見やすさの問題もあって、生活者が注意すべきポイントをすぐに見つけられません。

■医療関係者や栄養、健康に関する専門家には、「ピクトの表示」で消費者に重要な安全情報が認知されやすいようにしていただけるように。

■健康食品メーカーにも自社サイトでの商品説明をする場合などに、このピクトを利用して消費者に必要な情報が見つけやすいようにしていただけるように。

こうした思いを込めて、「食品ハザードピクト」を開発しました。
「食物アレルギーピクト」だけでなく、「食品ハザードピクト」を併用して見つけやすい注意喚起がされることを、心から願います。
 


7つの安全性情報に対応したデザインになっています
 
 

食品ハザードピクトの例と説明
食品ハザードピクトの使用イメージ例 食品ハザードピクトの使用イメージ例 食品ハザードピクトの使用イメージ例

ユニバーサルデザインとしての制作プロセス

ピクトの制作に当たっては、高齢者や視力の弱い方などにも見やすいように、多様性を考えてデザインしました。

まず開発段階で、中立的な消費者団体や一般のボランティアと意見交換会を行いました。消費者の意見をデザインに取り入れることは、いわゆる「人間中心設計」のアプローチで、ユニバーサルデザインにとって大切なプロセスです。

食品ハザードピクトの制作プロセス

色彩については内閣府が取り決めた防災情報の警戒レベルのカラーも参考に、注意喚起の重要度に合わせて、紫・赤・橙色の配色にしました。またカラーユニバーサルデザインを考慮して、彩度も若干調整しています。

大きさに関しては、スマホなどの画面で表示された時の視認性を検証して、7ミリ角で使用できるように図形や線の太さなどにも配慮しています。

食品ハザードピクトの色覚タイプシミュレーション、ユニバーサルデザイン

国立健康・栄養研究所の種村さんからメッセージ

※最後に、ピクトを共同開発した国立健康開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所の種村菜奈枝さんに、開発構想についてコメントをいただきました!

 

みなさん、こんにちは。この「食品ハザードピクト」の開発構想から制作コンセプト、そして有用性の検証を担当しました国立健康・栄養研究所の種村菜奈枝です。

近年、ハザードコミュニケーション推進の一助として、単に文字情報だけではなく、ピクトグラムといった絵文字を活用した科学コミュニケーションが着目されています。日本の食品安全分野において、ピクトグラムの開発やその検証は、「食品アレルギー表示」での検討例はありますが、その他についてはまだ数少ないのが現状です。

そこで、サプリメントやいわゆる健康食品を含めた食品の安全性情報が、「一番読んでほしい方に、必要な情報が届くように」という思いで、食品ハザードピクトを開発しました。われわれの検討では、このピクトグラムは情報を見つけやすく、また注意事項の3種類のピクトグラムでは、文字入りを使用することで、利用可能性があることが分かっています。

活用例は、サイト下でご紹介したページで公開しています。ぜひ使ってみてください。

国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所 種村 菜奈枝
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所  種村 菜奈枝 【最終学歴】千葉大学 医学薬学府 先端医学薬学専攻(医学領域)卒業,博士(医学)取得 【職歴】京都大学、千葉大学、慶應義塾大学を経て、2020年8月より現職 【社会活動】スーパーサイエンスハイスクール(SSH)クロスカリキュラムにおける助言・指導 【主な受賞歴】2004年8月 大阪大学 課外研究奨励賞(総長賞)/ 2019年3月 慶應義塾大学 薬学部長賞(研究) 【専門分野】レギュラトリーサイエンス、臨床試験管理学

ピクトグラムのデータ使用について

「食品ハザードピクト」は健康情報発信者が消費者に食品の安全性情報を円滑に伝えることを目的として作られたピクトグラムです。使用要綱を確認の上、自由にお使いください。

次のサイトよりデザインデータと使用要綱が無料ダウンロードできます。

食品を対象とした効果的なリスクコミュニケーション推進のための補助ツール
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
種村 菜奈枝
https://researchmap.jp/7000025167/research_blogs
 ●「食品ハザードピクト」の使用に関する要綱 
 ● 利用ガイドライン
 ●「食品ハザードピクト」(JPG)
 ●「食品ハザードピクト」(PNG)

関連リンク
厚生労働省ホームページ
食品の安全確保推進研究事業(厚生労働科学研究)

お問い合わせ 
https://dentsu-diversity.jp/contact/

電通報Twitter営業中

テレワーク・在宅勤務でも“まったくストレスを感じない”人は、何が違うのか?

続々と報告されるストレスへの誤解

 リモート環境での働き方も1年を経過し、ストレスが蓄積してきている人も多いに違いない。特にこれからの時期は、自律神経に変調を来しやすく、「五月病」といわれるような症状も出やすい時期なので、注意が必要だ。今回および次回は、ストレスとの付き合い方について述べていきたい。

 リモートであっても、リアルであっても、職場におけるネガティブな感情のもとになっている最たるものは、「ストレス」であることは間違いない。仕事上、ストレスはつきものである。仕事の責任、納期、品質、人間関係、さらにはトラブル。増えることこそあれ、減るようにはとうてい思えない。

 それらから受ける日々のストレスは、健康を害し、精神状態を圧迫し、寿命を縮めていると大半の人は考えている。また、仕事上、生産性を低下させ、創造性の発揮を妨げているともいわれる。それゆえ、なんとかストレスを減らしたいと皆思っている。米ハーバード公衆衛生大学院が2014年に行った調査でも、およそ85%の米国人が「ストレスは、健康や家庭生活、仕事に悪影響を与える」と考えていることがわかった。

 しかし、一方では、厳しく困難な仕事を続けながらも、落ち込むこともなければ、心身を害することもなく、日々活き活きと働いている人もいる。同じ状況の中で、同じ仕事をしていても、ストレスを感じる人と、ストレスを感じない人とがいるのであろうか。ストレスは平等に降りかかるとすれば、災いしているのは、ストレスそのものではないのだろうか。

 米エール大学の研究によると、「ストレスを害だと思っている人」は、「ストレスがポジティブな力になり得ると思っている人」よりも、気分が落ち込む傾向があることが明らかになっている。「ストレスを害だと思っている人」は同時に、腰痛や頭痛のようなストレスからくる健康問題を、他の人より多く抱えているという。

 また別の研究では、「ストレスは健康に害を与える」と信じている場合に、「ストレスを多く感じること」が、心臓病にかかったり、死亡したりするリスクにつながっていることがわかっている。つまり、「ストレスを多く感じること」と「ストレスは体に害だと考えること」、この2つの組み合わせによって、心身の問題を引き起こしているといえるのだ。

 これとは対照的に、「ストレスを多く感じながらも、ストレスにはなんらかのメリットがあると思っている人」、例えば、ストレスが集中力を高めるのに役立つとか、ストレスの多い状況を経験することで自分を強くすることができると思っている人は、より健康的で、幸せで、仕事でもいい結果を収めているという。 

 ストレスがありながらも、それを苦とはせず、活き活きと働いている人は、ストレスを害だと思ってはおらず、むしろストレスには多くのメリットがあると思っているということになる。結局、ストレスそのものが問題なのではなく、その捉え方こそが問題なのだ。ストレスは100%悪いものであって、減らすべきものという思い込みこそが、ストレスの悪影響を引き出している。脳神経科学の分野でも、「やりたいと思っていることから受けるストレス」は人の生産性を高めるということがわかっている。

 ストレスについての研究を長年行ってきている健康心理学者のケリー・マクゴニカル氏は、書籍のなかで同様の点について述べている。マクゴニカル氏自身、当初は大半の意見と同様に、ストレスは害であると考えていたが、ある研究結果をきっかけにストレスに対する考え方を変えたのだという。

 その研究結果というのは、1998年に米国で、3万人の成人を対象に行われた調査だった。「この1年間でどれくらいのストレスを感じましたか?」「ストレスは健康に悪いと思いますか?」。この2つの質問をして、8年後に3万人のうち誰が亡くなったかを調査したのだ。その結果、強度のストレスがある場合には、死亡リスクが43%も高まっていたことがわかった。ただし、死亡リスクが高まったのは、強度のストレスを受けていた人のなかでも、「ストレスは健康に悪い」と考えていた人たちだけだったのだ。

 強度のストレスを受けていた人のなかでも、「ストレスは健康に悪い」と思っていなかった人たちには、死亡リスクの上昇は見られなかった。それどころか、そう考えるグループは、調査をした人たちのなかで最も死亡リスクが低かったのだ。ストレスがほとんどない人たちよりも死亡リスクが低かったという。

 この結果によって、マクゴニカル氏は、「ストレスがあったとしても、それを穏やかな心で受けとめることができれば、心身の健康は阻害されないばかりか、むしろ改善される。困難に直面したらストレスを感じるのが自然だと考えて受け入れる人は、ストレスと戦おうとする人よりも、再起力があって長生きする」と考え方を改めたのだという。

ストレスの良い面

 実際に、ストレスには悪い面ばかりでなく、良い面もあることがわかっている。複数の研究によれば、ストレスは気⼒を⾼め、明晰さを増し、状況をより正確に把握できるようにする。障害を克服する過程で⾃信を強める効果もある。

 これは最も⻑く持続する、最も望ましい種類の⾃信だという。つまり、ストレスは悪者であると同時に、どうやら善いものでもあるようなのだ。命の危険にさらされた時など、極度の緊張と共に、大きなストレスが掛かる。しかし、これは命を守るための準備として必要なものに違いない。

 ⼈間は、他の動物と同様、ストレス要因に対して本能的な⾝体反応を⽰すと、ニューロリーダーシップ・インスティテュートのシニアサイエンティストのハイディ・グラント氏は説明する。交感神経(闘争・逃避反応)が活発になり、副交感神経(安静と消化)が抑制され、アドレナリンとコルチゾールが分泌される。こうしたことが起きるのは何のためかといえば、⾝体に「活」を⼊れるためだ。覚醒レベルと集中⼒を⾼め、⾏く⼿を阻む障害に対処するために、⾁体的・⼼理的な準備を整えるのである。

 これらの作用により、仕事上も集中力が増し、問題に的確に対処したり、生産性を高めたりといった優れた効果を発揮することにつながるのだ。ストレスの影響を判断するための最も重要な要素は、「ストレスに対する意識の持ち⽅」であるようだ。ストレスの「量」は驚くほど役に⽴たない情報だという。

 心理学者のクラムらの研究では、ある国際⾦融機関の400名近い従業員を対象として、ストレスに対する意識を調べた。研究者たちは、ストレスに対して異なる捉え方をする2つのグループに分けた。「ストレスはマイナスの影響をもたらすので回避すべきだ」などの⾔葉に賛同した「ストレスは衰弱要因」と考えるグループ。「ストレスを経験することは学びと成⻑につながる」などの⾔葉に賛同した⼈々は、「ストレスは向上要因」と考えるグループ。

 その結果、「ストレスは向上要因」と考える⼈々は、「ストレスは衰弱要因」のグループと⽐べて、より健康で、⼈⽣への満⾜度が⾼く、仕事のパフォーマンスでも優れていたのである。このタイプは、コルチゾールの分泌レベルが「最適」になりやすいことも明らかになった。ストレス要因に対するコルチゾールの分泌は、多すぎても少なすぎても⽣理的に悪影響となりうる。これらの結果から、研究者らは、「ストレスがあなたを打ちのめすのは、あなたがそうと思い込んでいるからに他ならない」と結論づけている。

 以上のように、通常私たちは、ストレスは完全に悪者であると決めつけているが、実際にはさまざまなメリットも存在し、必要なものでもあるのだ。ストレスは害であるという思い込みこそが、心身を害しているようだ。ストレスは必要なものだと逆の捉え方をすればメリットが享受できる。であるならば、ストレスを感じがちな時こそ、その良い面に目を向けるべきではないだろうか。

(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

●相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。

中学受験・算数、苦手な立体図形の「切断」問題、スタートは家庭内での対話が重要?

その2「切断」

 前回に引き続き、今回も「立体図形」を扱っていきたいと思います。前回は“展開図”をテーマにしましたが、今回は“切断”がテーマです。前回の記事の中で“見取り図”を描写してもらったエピソードがありましたが、この“切断”においても必ずといっていいほど以下のようなエピソードが出てきます。

“切断”とは何か?等、全く伝えることなしに描いてもらうと、多くの子供たちが以下のような線を描きます。

 前回の“見取り図”でも感じたことですが、ここでも実際の“モノ”を見たり扱ったりといったことが少なかったんだろうなあと感じます。中には何も伝えることなしに正解の“切り口”を描ける子もいましたが、聞いてみると、

「家でお手伝いした時に“豆腐”を切ってみたよ!」

「“発泡スチロール”の立方体が売っていたから、それを切ってみたことある!」

といった返事が返ってきました(今は便利な“モノ”が売っていますね)。

 やはり実際に見たり扱ったりすることは大事なんだなあと感じる反面、“想像”だけでは厳しいものがありますね。そもそも“切断”することが何であるか実際に“切り離す”場面を見たことがないのであればなおさらです。まずは“見る”“扱う”という前提があった上で、ここでも“手順・方法”を学んでほしいと思います。

【手順1】同一平面上の2点を結ぶ

 上の面(面ABCD)におけるPとQは“同一平面上の2点”にあたるので一直線に結びます。“切り口”とは立体の表面上における線を結んだものなので、PとR, QとRは立方体の表面上の線ではないため結んではいけませんね(“串”を貫通させたようなものです)。

【手順2】向かい合った(平行な)面に平行線を引く

 平行な2つの平面をもう一つの平面で切ると、2つの面には平行な切り口の線がつきますね(以下のようなイメージ)。

 上の面(面ABCD)と下の面(面EFGH)が向かい合った(平行な)面ですから、PQと平行になるようにRから平行線を引くと以下のようになります。

【手順3】線を延長して、新たな交点をつくる

 一つの平面で切断するということは、その面を拡張した時にぶつかった交点も一つの平面上にあるということですね。以下のように線(RS)を延長してみましょう。

 RSを延長してできた交点TはPと、交点UはQと同一平面上の2点となりましたね。よって【手順1】に戻って以下のように結びます。

 さらに立方体の辺上にできた交点VとRが、交点WとSが同一平面上の2点となりましたので、【手順1】のとおり結びます。

 上の図のように“切り口”の線はしっかり立方体の表面上に引かれていなければいけません(そもそも“切断”できませんね)。ここでは“切り口”の形は正六角形となりました。

“想像”だけで“意味・理屈”をつかむことなく感覚で行うのではなく、しっかり“手順・方法”を利用することはこの“切断”においても大切ですね。また是非実際の“モノ”を用意して、本当にそのようになっているのか確認してほしいと思います。


 次は以下のような“積み木の切断”です。

 まずは大きな立方体の“切り口”となる線を引いてみます。【手順1】を利用して以下のような線が引けますね。

 大きな立方体における“切り口”は判明しましたが、内側にも積み重なっている小さい立方体がどれだけ切られているかはわかりにくいですね。内部はこんな状態かなと以下のような線を引いてみても確信がもてません。

 そこで以下のように段ごとに“スライス”してみましょう。

 1段目ではABが切断の入り口とすると、アイが出口となりますね。「○」のついた7個の小さい立方体が切られたことになります。2段目はアイが入り口、ウエが出口となり、5個の小さい立方体が切られています。3段目、4段目は以下のとおりです。

“切り口”の形だけではなく、段ごとに“スライス”することによって内部の状況を把握することができました。

“切り口の手順”も“スライス”も“モノ”が手元にない状態で想像だけに頼らない便利な“手順・方法”です。今では定番となっている“手順・方法”ですが、この基本は様々な応用問題に活かすことができます(“多段階切断”“積み木のくり抜き”等)。いずれ実際の「入試問題」をご紹介する中でも扱っていくことになると思います。

 ここまで2回にわたって「立体図形」を扱ってきました。共通して言えることは、最初のスタートはやはり実際の“モノ”を見たり扱ったりすることが大切であることです。以前の記事の中でも“生活”“対話”の中で自然と身につく数的感覚の話を記しましたが、こういった図形においても是非ご一緒に見たり扱ったりしてあげてください。その後問題に取り組んだ際には、“意味・理屈”をしっかりつかんだ上で“手順・方法”を利用してほしいと思います。

(文=内田実人/中学受験指導スタジオキャンパス)

貧困なる日本芸能界…佐藤健、神木隆之介の独立…二階堂ふみ、宮崎あおいの社内独立の背景

 どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。

【前々回】【前回】の本連載では、日本の芸能界で売れっ子となった役者さんが、その自分の売れ方に見合った適切な収入を得てウハウハな生活を送るには、純粋な役者業だけではとてもわりに合わず、ギャラのよいCM仕事をせざるを得ない、しかしそのためには品行方正なプライベートを送らねばならず、そのためにこそ日本の「大手芸能プロ」の存在意義がある。だからこそ、大手芸能プロを辞めてしまうと、なかなかそれまで通りの活動をしてそれに見合った収入を得ていくのは難しくなっていく……なんてお話をしました。

 さて、こうした日本のこれに対し、欧米……特にハリウッドをトップにピラミッド構造を成すアメリカの芸能界は、まったく様相が異なります。

 アメリカでは、ハリウッド映画やケーブルテレビの人気ドラマの主役をはるような世界的な知名度を誇る役者は、基本的に「役者」です。彼ら彼女らが自国のCMに出ることは絶対にない……とまではいいませんが極めてレアなことであって、CMに出るのは基本的に“モデルさん”レベルの方々です。日本でも、タレントの知名度頼りではなく雰囲気重視のCMなどで、名もない役者さん、モデルさんが“イメージモデル”的に出演している例も多いですが、あれに近いイメージですね。要はアメリカでは、売れっ子役者が有名企業のCMにバンバン出ている……なんていう状況はあり得ないことなんです。

 それはなぜか?

【前々回】【前回】の記事を読んでくださった賢明なる読者のみなさんなら、おわかりいただけますよね。そう、売れっ子になりさえすれば、役者だけで十分すぎるほど“稼げる”からです。

 その理由としてまず挙げられるのは、「市場規模が巨大だ」ということでしょう。なんてったってハリウッド映画をはじめアメリカのエンタメ産業は世界市場が相手。せいぜい東アジア圏で一部の“日本好き”に愛好されている以外は基本的には国内市場が相手の日本の映画・ドラマ業界とは、市場のデカさが違いますよね。

「ハリウッド映画はアメリカのヘゲモニーを世界中に広めるための“先遣隊”の役割を果たしている」……なんていい方も大まじめにされるくらいですから、「世界中でいかにビジネスを展開し、マネタイズするか」ということに関して、ハリウッド映画は長い歴史を有しています。そんな業界のなかでトップをはるレベルの役者さんですから、そりゃあギャランティもいいよね、ということです。

 それからもちろん、エンタメ業界の人々がきちんとリスペクトされている……という歴史的・文化的背景も大きいでしょうね。このコロナ禍においても、休業要請や補償金の問題に関して、日本政府によるエンタメ業界の軽視がしばしば問題視されていますが、日本ではどうしても「芸能の人々はしょせん“河原の者”」といったような蔑視の視線が、どこかにまだ残っている気がします。

 対して欧米におけるエンタメ業界は、「人々をエンカレッジ、エンターテインしてくれる尊敬すべき人々」という認識が強いといいますから、「その分、そこで働く人々には対価もきちんと支払おうよ」という意識が一般的で、だからこそギャランティがいい、ということはあるでしょうね。何度もいいますが、それは“売れっ子ならば”ですよ。売れてない役者が貧乏なのは、洋の東西を問わずどこでも同じです(笑)。

アメリカで100年近い歴史を持つ「俳優の労働組合」が、役者の権利と収入を保証してきたという事実

 それから、米俳優界において役者さんが受け取るギャランティが高額なことの、よりリアリスティックな要因として、実はアメリカの俳優業界は「労働組合がきわめて強い力を持っているから」という点が挙げられると思います。

 アメリカには、88年の歴史を持つ「全米俳優組合」(SAG-AFTRA)という組織があって、組合員数は約16万人にも上ります。もともとは1933年に設立された「全米映画俳優組合」(SAG/スクリーン・アクターズ・ギルド)という組織だったのですが、2012年に「米国テレビ・ラジオ芸能人組合」と合併し、現在の形になりました。

 そもそもが大手の映画制作会社からの搾取に対して俳優の権利を守るために設立された組織なので、組合員である俳優が役者仕事をする場合には、制作会社側との間でギャラや労働時間、移動手段、違反時の罰金などを細かく定めた労働協約を結ぶことが義務づけられており、きちんとしたギャランティが支払われることがルールとして確立されているわけです。組合員の出演作品がDVD化やネット配信された場合には二次利用料が入り続けますし、年金や医療保険もあるという充実ぶりなんですね。

 米Forbes誌による「世界で最も稼ぐ俳優ランキング」の2020年度版で1位に輝いたドウェイン・ジョンソンの年収は、なんと約93億円だとか。彼は2019年公開の大ヒット映画『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』で、約21億円のギャラを得たともいわれています。

 ちなみにトランプ前米大統領は、映画やリアリティーショーなどに出演していたこともあって、長らくこの組合員で、2019年には年金として約7万8000ドル(約840万円)が支払われたそうです。トランプ氏はさまざまな問題発言などが規約違反にあたるとして今年、組合から除名処分されてしまいましたが、それでも年金は支払われるというのですから驚きですよね。

 というわけで、上に述べたようなさまざまな背景によってアメリカでは、売れっ子にはセレブ生活が送れるほどの高額収入(あるいは売れっ子でなくてもある程度の金額)が保証されており、ゆえに売れっ子役者がわざわざプライベートを犠牲にしてまで広告仕事をやる必要などない(それとは別に、アメリカは契約&訴訟社会なので、広告仕事をやる際のリスクに関して、日本とは大きく感覚が違うということもあるように思います。向こうの感覚だと、「企業のイメージを背負うなんてそんなリスキーなことできないよ」ということなのでしょう)。

 ゆえに、売れっ子役者が所属プロダクションに対し「プライベートを管理してもらう」とか「マスコミから守ってもらう」という感覚はなくて、もしそれを必要とするならば自身の身内や関係者をプライベート・マネージャーとして雇ったり、メディアコントロールに長けたPRのプロを雇うのが普通です。というか大物になればなるほど、むしろちょっとしたゴシップは“売名のためにも大歓迎”くらいの勢いですよね(笑)。

 だからアメリカでは、役者はドライな関係の“エージェント”にビジネス上の窓口的な役割だけを担ってもらえればよい、ということになるわけです。いやー、なんだか日米芸能界の構造比較を壮大に展開してしまいましたね……(笑)。

佐藤健、神木隆之介らの“独立戦法”、二階堂ふみ、宮崎あおいらの“社内独立”という戦法

 こうした彼我の違いに業を煮やしたのでしょう、数年前にトライストーン・エンタテイメント所属の小栗旬くんが「日本でも役者の労働組合を作ろう」と立ち上がり、俳優仲間に呼びかけたりメディアのインタビューに答えたりしていたこともありましたよね。

 しかし本稿でこれまで見てきた通り、日米のこうした違いは、歴史的・文化的、そして構造的な背景があって生じているものなので、「日本の役者の組合をつくる」といったって、なかなかハードルが高い。事実、最近は小栗くんもそうした主張を声高にすることはなくなってしまいましたよね。

 で、ここで、【前々編】の冒頭で述べた、佐藤健くんや神木隆之介くんによる、大手芸能プロ・アミューズからの独立の話に帰ってくるんです。いやー長かった(笑)。

 日本の芸能界のこうした構造的事情を理解している大手有名プロ所属の役者さんが、それでも「もっと自分の好きなことを、自由にやってみたい」と考えたときに、さてどうするか。揉めて辞めたり、安易にフリーになるのは、売れっ子時代の収入を維持するという観点から見れば危険だ……ということは、これまでの説明でご理解いただけましたよね? では、そうならないためのクレバーなやり方は? そう、「それまで所属していた大手プロのデキるマネージャーさんと一緒に、円満に独立する」という方法です。これがまさに、佐藤健くんや神木隆之介くんが採った手法なんですね。彼らは、デビュー当初からの彼らを知るアミューズの敏腕マネージャーとして知られた(辞める直前には役員でした)千葉伸大さんとともに独立したんです。独立後の社名は、「株式会社Co-LaVo」というらしいですね。

 大手芸能プロで敏腕で鳴らした人の人的ネットワークをフル活用し、しかも円満退社することによって前所属プロとの関係も良好だから地上波テレビや大手配給の映画から排除されることもない、しかも組織としては小規模な個人事務所程度の規模になるから、自分のやりたいことも以前以上に自由にできるようになる。

 こうすれば、地上波の連ドラなどにはこれまで通り出演し続けて知名度を落とさず、敏腕マネージャー(独立後は“敏腕社長”になるわけですが)のコネクションで新規の仕事や広告仕事もきちんと取ってこれる。だから収入も落ちない。にもかかわらず、以前よりは自由に仕事ができる。これが、日本の芸能界において日本の役者さんがとり得る、最もクレバーな大手芸能プロからの独立方法だと思います。

 実際、昔からみんなそうやってきたんですよ。ジャニーズ事務所だってもともとは渡辺プロダクションの系列から始まった会社ですし、スターダストプロモーションの代表・細野義朗さんだってもとは長良プロダクションにいた方。そもそも佐藤健くんや神木隆之介くんが今回退社したアミューズの創業者の大里洋吉さんだって、もともとは渡辺プロダクションにいた方ですからね。日本の大手・中堅の芸能プロは、そうやって“枝分かれ”して始まった会社ばっかり。そういうところもまた、“ヤクザな業界”と揶揄されるゆえんではあるのでしょうが……。

 ちなみに、「大手芸能プロからの独立」とまではいかなくても、「社内で事実上の独立状態を勝ち取る」という手法もあります。大手芸能プロの“威光”は保持しつつ、ある程度自由な仕事選びという“裁量権”は確保する……というやり方ですね。

 ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)所属の二階堂ふみちゃんは事実上そういう立ち位置らしいですし、数年前にちょっとしたお家騒動で宮崎あおいちゃん、多部未華子ちゃん、松岡茉優ちゃんがヒラタオフィスから移籍した“系列事務所”ヒラタインターナショナルは事実上、ヒラタオフィスからの独立事務所的な意味合いが強いといいます。旧所属プロのメンツをつぶさないため、一応“系列事務所”という形を採っているわけですね。うーん、やはり芸能界ってヤクザな業界だ……(笑)。

『全裸監督』や『今際の国のアリス』はまだ、日本の芸能界を変えるほどのビッグヒットにはなっていない

 さてさて、ドラマといえば地上波テレビというイメージがまだまだ強い日本ですが、最近ではNetflixで、山田孝之くんが主演した『全裸監督』、山﨑賢人くん・土屋太鳳ちゃんのW主演で話題となった『今際の国のアリス』などがヒットし、地上波テレビ以外のフィールドでも良質なドラマが作られるようになってきました。

 例えば今後そうした作品がもっと増えていき、海外展開も成功させうまくビッグビジネスにつながるような結果を残し、そしてその結果、役者さん方がお芝居のギャラだけで十分な高収入を得られる環境が日本の芸能界においても生み出されていけば……。

 そうなれば、日本の役者さんが、プライベートに制約が出てくるような広告仕事をあえてする必要などなくなり、結果として売れっ子役者さんは大手芸能プロからどんどん独立していき、日本の芸能界のシステムが大変革してアメリカ型の“エージェント方式”に移行していく……なんてこともあり得るかもしれません。

 ただ、実際のところ、国内外で誰もが知っているような規模で大ヒットを記録した日本のオリジナル配信作品は、今のところまだない……といっても過言ではないでしょう。となれば現状はやはり、売れっ子役者さんの主戦場は地上波テレビのドラマや大手配給会社が手がける大作映画だけ、という状況に大きな変化はないでしょう。

 ということはやはり、ブレイクを果たした役者さんがその活躍に見合った収入を手にしたいと考えた場合、CM仕事はやらざるを得ない。その結果として役者さんは大手芸能プロに在籍し続けるほうがラク……という状況は、まだしばらくは変わらないと思いますね。

(構成=田口るい)

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●芸能吉之助(げいのう・きちのすけ)
弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める、30代後半の芸能マネージャー。趣味は食べ歩きで、出没エリアは四谷・荒木町。座右の銘は「転がる石には苔が生えぬ」。