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金融庁が地銀100行を一斉検証…「金利が上がれば銀行は儲かる」通説の誤算
●この記事のポイント
日銀が政策金利を31年ぶり1.00%に引き上げるなか、金融庁が地銀・第二地銀約100行を対象にALM(資産負債管理)の一斉検証を開始。2025年3月期は97行中約4割の38行で預金残高が減少し、ネット銀行との預金争奪戦と国債含み損が経営を圧迫。個人・中小企業が取るべき分散対策を解説する。
日本銀行は6月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%から1.00%に引き上げた。1995年以来、実に31年ぶりの水準である。市場では年内から2027年にかけてさらなる利上げが予想されており、日本は名実ともに「金利のある世界」へと回帰しつつある。
一般には「金利が上がれば銀行の収益は改善する」と理解されている。実際、多くの地方銀行では2024年度、貸出金利の緩やかな上昇によって本業のもうけを示すコア業務純益が改善した。
しかし、この構図は長続きしない可能性がある。金融庁は2026年7月、全国の地方銀行・第二地方銀行、合わせておよそ100行を対象に、金利上昇に耐えられる経営体力があるかどうかを検証する異例の一斉調査に乗り出した。銀行経営の根幹である「ALM(資産・負債の総合管理)」について全行を横断的に調べるのは異例だとされ、8月以降は対象行を絞った本格的なヒアリングに入る見通しだ。
なぜ「追い風」のはずの金利上昇局面で、当局がここまで神経を尖らせるのか。その背景には、銀行収益の根幹である「利ざや」構造の脆さがある。
●目次
- 利ざやの綱引き――上げやすい預金金利、上げにくい貸出金利
- ネット銀行との預金争奪戦、そして国債含み損のダブルパンチ
- 金融庁が警戒する「スマホ時代の取り付け騒ぎ」
- 貸し渋り・貸し剥がしという「もう一つのリスク」
- 個人・中小企業経営者が今からできる備え
- 金利のある世界は「淘汰と選別」の時代でもある
利ざやの綱引き――上げやすい預金金利、上げにくい貸出金利
銀行の収益は基本的に、貸出金利から預金金利(調達コスト)を差し引いた「利ざや」で決まる。金利上昇局面では、他行やネット銀行に預金が流出するのを防ぐため、預金金利は横並びで上がりやすい。一方、貸出金利は取引先ごとの交渉で決まるため、地元の中小企業から「これ以上金利を上げられては事業が立ち行かない」と抵抗を受け、引き上げが遅れがちになる。日本総合研究所の分析でも、地銀は固定金利貸出の比率が相対的に高く、金利上昇の反映に時間を要するため、預貸利ざやが縮小しやすい構造にあると指摘されている。
実際、一部の報道では、地銀の貸出金は前年同期比4%台で伸びる一方、預金の増加率はそれを大きく下回る水準にとどまっているとの指摘もある。預金という「稼ぐ力の原資」を十分に確保できなければ、金利上昇の恩恵を享受しきれないというねじれが生じているわけだ。
ネット銀行との預金争奪戦、そして国債含み損のダブルパンチ
このねじれに追い打ちをかけているのが、店舗を持たず全国から預金を集められるネット銀行や一部の第二地銀による高金利競争だ。週刊文春オンラインの報道によれば、2025年3月期決算では地銀61行・第二地銀36行の合計97行のうち、約4割にあたる38行で預金残高が前年度比マイナスとなった。相続などに伴う資金が地方から都市部の大手銀行へ流出する動きも、地銀からの資金流出に拍車をかけているとされる。
さらに、多くの地銀は超低金利時代に大量の国債を保有してきた経緯があり、金利上昇は保有債券の価格下落(含み損拡大)にも直結する。収益機会であるはずの金利上昇が、調達面(預金流出)と運用面(債券含み損)の双方から経営体力を削る要因にもなり得るという、一見矛盾した状況が生まれている。
金融庁が警戒する「スマホ時代の取り付け騒ぎ」
金融庁がここまで踏み込んだ背景には、2023年に経営破綻した米シリコンバレーバンク(SVB)の教訓があるとみられる。SVBは債券含み損の表面化をきっかけに、SNSでの情報拡散とネットバンキングによって短期間で大量の預金が流出し、経営破綻に至った。今年7月に金融庁長官に就任した伊藤豊氏も、資金流出によって短期間で経営が行き詰まるリスクを強く意識していると報じられている。
金融庁は今月、地銀・信用金庫向けの監督指針改正案も公表した。人口減少や金利上昇の影響を踏まえて将来的な経営の健全性を検証し、必要な自己資本比率を下回る可能性が高い場合には資本増強を求める業務改善命令を発出できる仕組みを明記する内容だ。特定の経営難行だけでなく、地域金融システム全体が連鎖的に不安定化するリスクを未然に防ぐ狙いがうかがえる。
貸し渋り・貸し剥がしという「もう一つのリスク」
金融アナリストの川﨑一幸氏は、次のように指摘する。
「預金という調達資金が細れば、銀行は自己資本比率や流動性規制を維持するために、貸出のボリュームを圧縮せざるを得なくなる局面が出てくる。地域の中小企業にとっては、新規融資が受けにくくなったり、既存融資の見直しを迫られたりする可能性を念頭に置いておく必要がある」
もっとも、これは全ての地銀に等しく当てはまる話ではない。経営基盤が堅固で、地域企業との関係性を武器に貸出金利の適正な引き上げを進められる銀行と、預金争奪戦で後手に回る銀行との間で、今後は明暗が分かれていく可能性が高い。実際、金融庁関係者からは「金利の上昇は競争につながり、勝者と敗者が現れる」との見方も伝えられている。
個人・中小企業経営者が今からできる備え
不安をあおる必要はないが、金利のある世界への移行が地域金融の構造を変えつつあるのは事実であり、個人・事業者双方に一定の備えは有効だろう。
個人の場合:預金保険制度(ペイオフ)による保護は、原則として1金融機関あたり元本1000万円とその利息までである。取引先を一つの地銀に集中させている場合は、複数の金融機関への分散を改めて検討する価値がある。また、金利の高さだけでなく、経営の健全性や情報開示の状況にも目を向けたい。
中小企業経営者の場合:メインバンクを一行に依存する体制は、そのメインバンクの調達環境が悪化した際に自社の資金繰りへ直接影響しかねない。政府系金融機関やメガバンクとの複数取引、コミットメントライン(融資枠)の確保など、資金調達チャネルを分散しておくことがリスク管理として重要になる。
金利のある世界は「淘汰と選別」の時代でもある
金利のある世界への回帰は、日本経済にとって長期的にはデフレ脱却の象徴であり、歓迎すべき変化である。ただし、それは同時に、預金と貸出の両面で経営規律が問われる「選別の時代」の始まりでもある。金融庁による全地銀100行の一斉検証は、特定の銀行を狙い撃ちするものというよりも、金利上昇という新しい環境に地域金融システム全体が耐えうるかを見極める、いわば「健康診断」に近い取り組みだと理解するのが実態に近いだろう。
今後も金融庁のヒアリング結果や各行の対応、日銀の追加利上げの動向を注視していく必要がある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト)