とまどいの社会学もどかしさの経営学 #04

社会はいま「とまどい」の中にある。そうした「とまどい」の下、経営はかつてない「もどかしさ」を抱えている。先行きは、不透明で、不確実なことだらけ。得体の知れない不安が広がっている。

杉浦先生

不安にかられると、人も企業も社会も、ついつい思考を停止してしまう。「考えるほどに、不安はつのる。ならばいっそ、考えるのをやめてしまおう」。そうした意識が、ビジネスを停滞させ、失速させているのではないだろうか。本コラムでは「とまどい」や「もどかしさ」の正体を解き明かすことで、「不確実な時代のビジネスのあり方」について、考察を深めていきたいと思う。


そもそも、「分からない」とはなにか?

前回は、多くのひとがその本質を理解していない「マネジメント」と「リーダーシップ」についてお話ししました。今回は、人はなぜ物事の本質を理解できないのか、そもそも「分からない」というどういうことなのか、ということについて考えてみたいと思います。

多くの人は「分からない」ということを本質が、分かっていません。なぜ、分からないのだろう?その理由に、思いを馳せていないからです。

「分からない」理由には、大きく二つあります。一つは、複雑だから。もう一つは、不確実だから。こう整理しただけで、もうお分かりでしょう?複雑さを解消するには、マネジメントすればいいんです。不確実さに向き合うためには、強いリーダーシップが必要なんです。

書影
『不確実な世界を賢明に進む「今、ここ」の人生の運び方 幸運学』杉浦正和著
企業の幹部候補生が数多く通うという「早稲田大学ビジネススクール」の教授が「運」の正体について解き明かす。運の良い人と悪い人は何が違うのか?自分でコントロールできる運と、コントロールできない運をどう扱うか?開運財布を買うよりも、冷凍餃子をおいしく焼けるほうが幸運に恵まれる?「運の教科書」で、人生を賢く強化。日経BP

マネジメントとは、「ちゃんと」するということです。リーダーシップとは、「もっと」に向き合うということです。企業にとって、ビジネスにとって、このバランスこそが大事で、どちらが欠けていても、それは「破滅」や「死」へ向かっていることになります。

「ちゃんとする」ことだけを考えていては、緩やかな死へと向かいます。「もっと」だけを考えていては、カオス(混乱)が起こり、無茶苦茶な死が訪れます。私はこの二つのバランスのことを「デリケートバランス」と呼んでいるのですが、そのバランス感覚に基づいて「ちゃんと」「もっと」を実践できている企業が、どれだけあるでしょうか?

「Life」という英単語には、人生/生活/生命の三つの意味があります。新型コロナウイルスに翻弄されている現在の状況は、「生活」と「生命」の間で社会全体が揺らいでいる、ということだと思います。どちらを優先すべきか、ということではありません。生活を優先するあまり、生命を失っては元も子もありませんし、生命を優先するあまり、ライフラインを絶ってしまっては、これまた意味がありません。

大事なことは、バランスなんです。社会全体が、正しいバランス感覚を維持し、共有することなのです。パニックを防ぐには、それしかありません。ビジネスの世界でも、まったく同じことが言えるのではないでしょうか?

極限するならば、日本人はビジネスというものが分かっていない

さあ、いよいよ最終回へ向けてのラストスパートです。多くの日本人が考える「仕事」とは、ビジネスではなく、インダストリーのことなんです。インダストリー=産業/勤勉ということですから、「まじめに、産業を盛り立てること」=「仕事をすること」だと思い込んでいるんですね。対してビジネスとは、「投資をして、リターンをあげること」なんです。

そんなことは、スタートアップ企業の社長がやることだ、と思っていませんか?そうではないんです。人生の貴重な時間や、ご自身の能力を、最大限に、かつ効率よく活用する。その対価として、給料が得られる。それが、ビジネスというもの。そのビジネスを、より楽しく、豊かなものにしていくために人間関係を構築する。よりよい方法を考える。クリエイティビティーを発揮する。これは、あらゆる職業に共通することだと思います。

一言で言うならば、働く前に、体を動かす前に、まずは考えましょう。ということです。考えるとは、なにか。整理することです。整理した上で、単純な算数で状況を把握し、望ましい未来をイメージすることなのです。

幸福の図

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ビジネスの意味が、変わり始めた。映画監督・河瀬直美氏の見解とは?

河瀬監督の作品や日常には、一貫して「生きる」というテーマがあるように思う。生きるとは、自然体であるということ。生きるとは、普遍的な価値を慈しむこと。めでること。生きるとは、刹那の喜びと、重ねた歳月の重みをリスペクトするということ。その思いを、広く世の中と、そして世界の人と共有するために
映像と、真摯に向き合う。作品を通して、人と深くつながりたいと願う。

そうした彼女のスタンスは、ビジネスの世界にも通じるものがあるはずだ。「見えないものこそを、大切に撮りたい」と、彼女は言う。自分でも見過ごしがちな微かな感情の揺らぎであったり、なにげない日常の中にある、素朴な喜びや深い哀しみであったり。その先に祖母が遺した「この世界は、美しい」という言葉の意味を読み解く何かがあると信じているからだ。

毎月の新月と満月の日に、彼女は決まって今は亡き祖母の墓前に赴く。月の満ち欠けのハザマで、彼女は「生きること」と向き合い続けている。10月23日に公開予定の最新作「朝が来る」に続いて、2021年の東京2020オリンピック競技大会の公式映画の監督も務める 河瀬監督に「この時代を生きることの意味」を、シリーズで尋ねてみたい。


あらためて、貨幣の価値とは?

映画監督というと、ひたすら自己と向き合って、表現を突き詰める、みたいなイメージがあるのかもしれませんが、私の場合、むしろ真逆です。

もちろん、そうした作業も必要なのですが、基本姿勢としては「それは、チームを幸せにするか?」「それは、ビジネスとして成立しているのか?」そして「それは、社会を、世界を幸せにできるのか?」ということなんです。

©2020「朝が来る」Film Partners
©2020「朝が来る」Film Partners

人間は、単体では弱い。裸の状態で、ライオンの前に立たされたら確実にやっつけられてしまう。でも人は、炎を手にいれた。槍を手にいれた。貨幣を手に入れた。そのおかげでライオンさえも御するだけの力を手にいれることができた。

システムを維持していくには「思想」こそが大事

もちろんその先には、環境破壊であったり、さまざまな問題があるわけですが、ポイントは「人間は、システムをつくれる動物である」ということだと思うんです。例えばお金ですが、お札やコインってそれ自体、暖もとれないし、食べられもしないですよね。貨幣経済というシステムがあるから、価値が生まれる。そして、ここからが大事なことなんですが、「システムを成立させ、維持していく上で必要なのは、思想だ」ということ。

システムや制度をつくると、人はひとまずホッとしちゃうんです。でも、待てよ。なんのためのシステムだっけ?みたいなことに、なんとなく世界中が気づき始めているような気がするんです。人が心からホッとしたり、ああ、人生っていいな、と思えるのはシステムがあるからではない。だれもがイライラしたり、ストレスを抱えているようなシステムになんか、なんの意味もないと思うんです。

自身がディレクターを務める「なら国際映画祭」では次世代の育成に力を入れる。写真は8月に奈良で開催された、ユース映画ワークショップにて。
自身がディレクターを務める「なら国際映画祭」では次世代の育成に力を入れる。写真は8月に奈良で開催された、ユース映画ワークショップにて

システムを維持していくためには、「思想」こそが大事

私はクリエイターですが、いつもビジネスのことを考えている。それは、お金もうけをしたいとか、そんなことじゃない。私の愛する仲間を、世の中の人を、どうしたら幸せにできるのだろう?そんなこれまでにないシステムを、つくれないものだろうか?ということを、常に考え続けているということです。

もちろん、簡単に答えになんかたどり着けませんが、「なんのために、私は生きているのだろう?」という思想を深めていくことから、表現も生まれるし、新たなビジネスも生まれていくのではないか、と私は思っています。


河瀬直美氏のインスタグラムは、こちら
月満ち欠けに合わせ、新月→上弦→満月→下弦の日の朝8時より新作映画「朝が来る」のオンライントークを配信中。

最新作「朝が来る」公式HPは、こちら

なら国際映画祭2020特設サイトは、こちら

道は、「真ん中」を歩け。

「アルムナイ」という取り組み(制度)を、ご存じだろうか?元々は、「卒業生/同窓生/校友」を意味する言葉で転じて、「企業のOBやOGの集まり」を意味するようになった。海外では、一度、企業を離れたアルムナイを、貴重な人的資源して有効活用することが、ごく普通に行われている。本連載では、そうした「アルムナイ」をこれからの事業戦略の核たる制度として捉えていく潮流を通じ、「キャリアデザイン」というものの本質に、迫っていきたい。


走り続ける。その先に、未来がある

「3年から5年、一緒にどっぷりと仕事をしてみないか?」というのが、新たな教職員を採用するときの僕のキメぜりふです。1995年に電通に入社。中部支社で主にメディアの部署で元々やりたかったスポーツビジネスを担当。退社後は筑波大学大学院でコーチングを学び、2005年に静岡聖光学院に再就職しました。監督として弱小ラグビー部を全国大会(花園)に導いた後、経営戦略担当として教頭、副校長を経て19年から校長をしています。

星野氏近影

口説き文句の意図が「終身雇用」「年功序列」といった古い仕組みへのアンチテーゼであるように思われるかもしれませんが、必ずしもそればかりではありません。

学校に勤務して16年になりましたが、振り返ってみると3〜5年程度で自分が置かれている立場や求められていることが変化していくように感じています。また、私が飽きやすい性格だからかもしれませんが、監督時代など熱血モードの時でさえ、そのエネルギーは3〜5年程度でさまざまな意味で変化していくようにも思います。だからこそ、冒頭のような言葉で優秀な人材を常に探しています。「3〜5年で、さようなら」ということではなく、「3〜5年経過したら、状況もモチベーションも環境に対する欲求も変化しているだろうから、そのときになったら考えましょう」という意味です。

電通と教員、まったく違う環境に思えますが、結局は「人と人」。仕事の根幹にあるものに大きな違いはありません。最初の頃はクラス担任やラグビー部監督として「自分がやりたかったこと、没頭できることを生徒と共に一生懸命やるぞ!」から始まり、学年主任や総監督になり「今の組織メンバーの中だと自分がやるしかない」、校長になれば「メンバーのことをできる限り支援していこう。そのためには自分の殻を破り、リーダーとしてメンバーにとって必要とされる存在になろう」と振り返ってみたら道になっていた感じで、決して戦略的に思うがまま今日に至っているわけではありません。

道のビジュアル

「迷うこと」と「やってみること」は違う

本稿のタイトルを「道は、真ん中を歩け」とさせてもらいましたが、それは「本道を歩め」ということではないんです。日々、がむしゃらに、かつ葛藤しながら歩み続けています。振り返ってみたら道になっているわけですが、人生はたった一度。何本もの選択肢を選んできているわけですが、つないでみたら一本道。結局、その道の真ん中を歩いてきていると思います。

星野氏率いるラグビーチーム

未来には何本もの選択肢があってもその都度、選べるのは一つ。選ぶときはさまざまな視点や観点から悩み抜きます。さまざまな検証は、成功の確率を少しだけ上げることはできても、成功を約束するものにはならない。結局、選んだ後はその選んだ道が正しかったと思えるよう、頑張っていくしかない。自戒の念を込めて、大学受験や就職活動で悩む学生に同様の話をします。

プロデュースとマネジメントの違いとは?

あるときまではプロデュースという言葉を多用していました。著書でも「教育や指導育成にプロデューサー感覚を持ち込んだ教師」というキャラクターを強みにしていました。しかし、今の教育界で求められているもののひとつに「解なき問いへ挑戦し続けられる人材」の育成があります。

プロデュースというと「プロデューサーである私のイメージする枠の中での仕掛け」ということになり、上から目線的な見え方にどうしてもなってしまいます。特に年上の部下に対してプロデュースという言葉は、どうにもこうにもふさわしくないのでは、とも感じるようになりプロデュースという言葉はあまり使わないようになりました。

最近ではマネジメントという言葉を使うことが多くなりました。メンバーの持つ可能性の把握。そして、そういった場をいかに創出する手助けができるか。そんなことを心がけています。また、学校長の言葉でよく耳にする「学校の存続のために……」という考えだとどうにもこうにも窮屈に感じる自分がいました。今は、「組織の継続が困難になった時に、待ってましたとばかりにさまざまな業種から引く手あまたの先生たち」というビジョンに切り替えてから、気持ちも前向きになりましたし、見える景色も、メンバーの見え方も変わってきました。私にとって、プロデューサー感覚もマネジメントの観点も、電通時代に培った最高の財産です。

電通時代。若き日の星野氏
電通時代。若き日の星野氏

「enjoy」の本当の意味とは?

ラグビーの世界でも海外のコーチングの影響を受け、「エンジョイしよう!」という言葉が流行った時期がありました。他のスポーツでも欧米型の「褒める」が流行し、日本の指導者が慣れないオーバーアクションで子どもたちを褒める姿が多くなる時期がありました。現在では、スポーツ界にも心理学などの知見が入り、「褒めるとおだてるの違い」が認識されるようになりました。また、「褒めるより、承認すること」の方が大切であることも理解され始めています。

冒頭の「エンジョイ」も「ただただ、楽しく」という解釈がされがちでした。しかし、本場のラガーマンのエンジョイは「苦しいトレーニングをクリアした後の充実感」という意味や「試合で苦しい状況になったとき、そのハイレベルな状況に充実感を能動的に感じる」という意味のものでした。「エンジョイ=楽、楽しい」ではなく、「エンジョイ=充実」、これは仕事や生き方の価値観にも大きな意味がある言葉ではないかと感じています。生徒が壁に当たっているとき、そして越えたとき、「充実してるか?」「これが充実だよ!」そんな声がけをするようにしています。

試合後のインタビュー風景
試合後のインタビュー風景

アルムナイとは、出会いを生む装置だと思う

電通時代に上司や先輩からよく言われた言葉に「仁義切ったか? 筋を通したか?」というものがあります。「星野、この案件は○○さんに仁義切ったか!」など。当時は、なんだこの会社、古くさいなーと思っていたのですが、この言葉、よくよく考えてみると実に深いんですね。立場とか組織対組織のドライなやりとりにプラスさせた要素。結局は人と人。感情面にもしっかり寄り添うことの大切さは、教員という立場になっても生かされているように感じます。

アルムナイの取り組みは、そんな「人と人」をつなぐ最高の機会であると感じています。しかも、電通という共通認識があるため、お互いを分かり合うための時間が大幅に短縮できる。アルムナイでの会合を機会に国際交流の推進事業や教育を切り口にした地域活性化といった複数のプロジェクトが実際に始動しています。教育村にとどまっていては、見えてこなかった世界を見せてもらっています。

今後は、現役の電通人とも関わらせていただきたいですね。学校の先生だけど、DNAは電通です。きっと、教育関係者とゼロから仕事するより、さまざまな面でワープしたり、コラボできると思います。ぜひぜひ、連絡いただけたらと思います。今回は貴重な機会を頂きまして、ありがとうございました。


電通キャリア・デザイン局大門氏と、電通OB酒井章氏(クリエイティブ・ジャーニー代表)によるアルムラボでの対談記事は、こちら

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